(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024134613
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】油分分解剤
(51)【国際特許分類】
C12N 1/16 20060101AFI20240927BHJP
C02F 3/34 20230101ALI20240927BHJP
【FI】
C12N1/16 G
C02F3/34 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023044886
(22)【出願日】2023-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149076
【弁理士】
【氏名又は名称】梅田 慎介
(74)【代理人】
【識別番号】100119183
【弁理士】
【氏名又は名称】松任谷 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100173185
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 裕
(74)【代理人】
【識別番号】100162503
【弁理士】
【氏名又は名称】今野 智介
(74)【代理人】
【識別番号】100144794
【弁理士】
【氏名又は名称】大木 信人
(72)【発明者】
【氏名】中島 永二
【テーマコード(参考)】
4B065
4D040
【Fターム(参考)】
4B065AA72X
4B065AC20
4B065CA55
4D040DD03
4D040DD24
(57)【要約】
【課題】
微生物を用いた新規な油分分解剤、とくに低pHで優れた油分分解能を有する微生物を用いた油分分解剤、及び前記油分分解剤を利用した排水処理方法を提供すること。
【解決手段】
Pseudozyma属に属する微生物を含む油分分解剤、及び油分を含む排水に、前記油分分解剤を接触させる工程を含む、排水の処理方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Pseudozyma属に属する微生物を含む、油分分解剤。
【請求項2】
pH5~7の条件で、1%(w/v)の油分を24時間で70質量%以上低減させる、請求項1に記載の油分分解剤。
【請求項3】
Pseudozyma属に属する微生物が、Pseudozyma antarctica、Pseudozyma aphidis、又はPseudozyma hubeiensisに属する微生物である、請求項1に記載の油分分解剤。
【請求項4】
Pseudozyma属に属する微生物が、
1)Pseudozyma antarctica T34株、NRL-A株、NRL-B株、及びRO114株;
2)Pseudozyma aphidis KDR7株、116-2株、及び6-9株;ならびに、
3)Pseudozyma hubeiensis NCM11株、
からなる群より選ばれる1又は2以上である、請求項1に記載の油分分解剤。
【請求項5】
排水処理用の油分分解剤である、請求項1~4のいずれか1項に記載の油分分解剤。
【請求項6】
油分を含む排水に、請求項1~4のいずれか1項に記載の油分分解剤を接触させる工程を含む、排水の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物を含む油分分解剤、及びこれを利用した排水処理に関する。
【背景技術】
【0002】
油分を含む排水は、そのまま排出されると水質汚濁の原因となるため、排出する前に分解して排水を浄化する必要がある。排水処理には、通常活性汚泥法や散水ろ床法等の微生物を用いた方法が適用される。しかし、従来の活性汚泥は、有機物質は分解できるが油分分解率は十分ではなく、とくに低pHでの油分分解率が低い。そのため、排水中の多量の油分が活性汚泥中の微生物の活性を阻害し、排水処理の機能低下につながるという問題がある。
【0003】
油分(油脂)を分解できる微生物も報告されており、これらを利用した油分分解や排水処理も提案されている。公知の油分分解能を有する微生物には、Pseudomonas属微生物(特許文献1及び2)、Cupriavidus属微生物(特許文献3)、Candida属微生物(特許文献4)が含まれるが、油分分解活性を有するPseudozyma属の微生物は知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-208460号公報
【特許文献2】特開2020-25477号公報
【特許文献3】特開2020-162520号公報
【特許文献4】特開2022-124353号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、微生物を用いた新規な油分分解剤、とくに低pHで優れた油分分解能を有する微生物を用いた油分分解剤、及び前記油分分解剤を利用した排水処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明者は、酵母Pseudozyma antarcticaが、油分分解能を有することを見出した。そして、他の複数のPseudozyma属の微生物も、同様に油分分解能を有することを確認した。これらの微生物は、いずれも低pH条件下でも油分分解活性を有し、それゆえ酸性に偏った排水中でも油分を分解することができる。
【0007】
本発明は上記知見に基づくものであり、以下の[1]~[6]を提供する。
[1]Pseudozyma属に属する微生物を含む、油分分解剤。
[2]pH5~7の条件で、1%(w/v)の油分を24時間で70質量%以上低減させる、[1]に記載の油分分解剤。
[3]Pseudozyma属に属する微生物が、Pseudozyma antarctica、Pseudozyma aphidis、又はPseudozyma hubeiensisに属する微生物である、[1]又は[2]に記載の油分分解剤。
[4]Pseudozyma属に属する微生物が、
1)Pseudozyma antarctica T34株、NRL-A株、NRL-B株、及びRO114株;
2)Pseudozyma aphidis KDR7株、116-2株、及び6-9株;ならびに、
3)Pseudozyma hubeiensis NCM11株、
からなる群より選ばれる1又は2以上である、[1]~[3]のいずれかに記載の油分分解剤。
[5]排水処理用の油分分解剤である、[1]~[4]のいずれかに記載の油分分解剤。
[6]油分を含む排水に、[1]~[4]のいずれかに記載の油分分解剤を接触させる工程を含む、排水の処理方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の油分分解剤は低pHの排水中の油分を効率的に分解することができる。本発明の油分分解剤に含まれるPseudozyma属に属する微生物は、油分を分解しながら菌体増殖のための栄養源とすることができる(資化できる)ため、油分を含む排水の排水処理に有用である。
【0009】
また、Pseudozyma属の微生物には、生分解性プラスチック分解酵素(PaE)等の有用酵素を産生する微生物(例えば、Pseudozyma antarctica)もあるが、PaEは分泌生産されるため、プラスチック分解に使用後の菌体は無傷で残る。本発明の油分分解剤は、そのような使用後の微生物の再利用としても有用である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
1.油分分解剤
本発明の油分分解剤は、Pseudozyma属に属する微生物を活性成分(有効成分)として含む。
【0011】
Pseudozyma属に属する微生物としては、例えば、Pseudozyma antarctica、Pseudozyma aphidis、Pseudozyma hubeiensis、Pseudozyma japonica、Pseudozyma thailandica、Pseudozyma rugulosa、Pseudozyma prolifica、Pseudozyma graminicola、Pseudozyma fusiformata、Pseudozyma brasiliensis、Pseudozyma flocculosa、Pseudozyma pruni、Pseudozyma churashimaensis、Pseudozyma crassa、Pseudozyma parantactica、Pseudozyma tsukubaensisを挙げることができる。
好ましくは、Pseudozyma属に属する微生物は、Pseudozyma antarctica、Pseudozyma aphidis、Pseudozyma hubeiensisである。微生物は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0012】
Pseudozyma antarcticaとしては、例えば、T34株、NRL-A株、NRL-B株、RO114株、Moe No.1株、Moe No.2株、Moe No.3株、Moe No.4株、Moe No.5株、Moe No.6株、HRY3-1株、HRY3-2株、HRY4-2株、HRY5-1株、HRY5-2株、HRY7-1株、HRY7-2株、HRY9-1株、HRY10-1株、マコモyeast1株、JCM10317株、GB-2株、GB-4(0)株、MTCC2706株、BCRC33871株、CBS6678株を挙げることができる。
好ましくは、Pseudozyma antarcticaは、T34株、NRL-A株、NRL-B株、又はRO114株である。
【0013】
Pseudozyma aphidisとしては、例えば、KDR7株、116-2株、6-9株、PFS037株、HRY2-2株、HRY9-2株、HRY11-2株、TW73-141株、1-8株、L12株、CNm2012株、NCPF8483株、DSM14930株、DSM70725株を挙げることができる。
好ましくは、Pseudozyma aphidisは、KDR7株、116-2株、又は6-9株である。
【0014】
Pseudozyma hubeiensisとしては、例えば、NCM11株、SY62株、KM-59株、IPM1-10株、NBRC105055株、Y10BS025株、HB85A株、31-B株、TS18株を挙げることができる。
好ましくは、Pseudozyma hubeiensisはNCM11株である。
【0015】
本発明の油分分解剤は、液体(懸濁液)でも、固体でもよい。油分分解剤を液体として使用する場合、微生物を所望の濃度になるまで培養した後、そのまま若しくは保存剤、安定化剤等の添加剤を添加したものを油分分解剤として使用することができる。また、微生物を所望の濃度になるまで培養した後、必要に応じて、分離、洗浄、精製、濃縮等を行ったもの、若しくは、それを更に緩衝液等を含む水溶液中に懸濁したものも油分分解剤として使用することができる。
【0016】
油分分解剤を固体として使用する場合、微生物を所望の濃度になるまで培養した後、必要に応じてトレハロース、グルタミン酸ナトリウム、スキムミルク等を凍結乾燥保護剤として添加し、凍結乾燥を行う。この凍結乾燥を行った菌体をそのまま、若しくは種々の添加剤等と混合したものを、油分分解剤として使用することができる。
【0017】
前記微生物は、例えば、ATCC(American Type Culture Collection)やNBRC(NITE Biological Resource Center)で市販されている微生物や、NAROジーンバンクに登録・提供されている微生物を使用することもできるし、土壌中や排水中等から採取した微生物を使用することもできる。また、前記微生物は野生型の微生物を使用することもできるし、遺伝子改変した微生物を使用することもできる。
【0018】
本発明の油分分解剤の対象となる「油分」は有機性油状物質を意味し、油脂及び鉱物油を含み、油脂が好ましい。
【0019】
「油脂」とは、グリセリンと、1~3個の脂肪酸とがエステル結合したグリセリドを含む物質ならびに脂肪酸を指し、油脂の主要成分であるトリグリセリド(トリアシルグリセロール)のほか、ジグリセリド(ジアシルグリセロール)及びモノグリセリド(モノアシルグリセロール)を含んでいてもよい。また、前記油脂には、動植物性の油脂(動物油、植物油、魚油)のほか、動植物油由来のグリセリド以外の成分(例えば、植物ステロール、レシチン、抗酸化成分、色素成分)が含まれてもよい。
【0020】
前記油脂としては、例えば、オリーブ油、キャノーラ油、ココナッツ油、ごま油、米油、米ぬか油、サフラワー油、大豆油、トウモロコシ油、ナタネ油、パーム油、パーム核油、ひまわり油、綿実油、やし油、落花生油、牛脂、ラード(豚脂)、鶏油、魚油、鯨油、バター、マーガリン、ファットスプレッド、ショートニング等の食用油脂;およびアマニ油、ジャトロファ油、トール油、ハマナ油、ひまし油、ホホバ油等の工業用油脂;が挙げられ、好ましくはグリーストラップが設置されることが多いレストラン等で頻繁に排出される食用油脂である。
【0021】
脂肪酸としては、特に限定されるものではないが、例えば、酪酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、デカン酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、ペンタデカン酸、ペンタデカン酸、パルミチン酸、ヘプタデカン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸等の飽和脂肪酸;デセン酸、ミリストレイン酸、ペンタデセン酸、パルミトレイン酸、ヘプタデセン酸、オレイン酸、イコセン酸、ドコセン酸、テトラコセン酸、ヘキサデカジエン酸、ヘキサデカトリエン酸、ヘキサデカテトラエン酸、リノール酸、α-リノレン酸、γ-リノレン酸、オクタデカテトラエン酸、イコサジエン酸、イコサトリエン酸、イコサテトラエン酸、アラキドン酸、イコサペンタエン酸、ヘンイコサペンタエン酸、ドコサジエン酸、ドコサテトラエン酸、ドコサペンタエン酸、ドコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸等の不飽和脂肪酸;が挙げられる。脂肪酸は、食用または工業用油脂が分解されて生じたものであってもよい。
【0022】
実施形態の微生物は、特に、油脂を構成する成分のうち95質量%以上がグリセリドである油脂を効率よく分解することができる。
【0023】
「鉱物油」とは、原油を精製して得られる炭化水素類のことをいい、例えば、炭素数4~10の炭化水素類(例えば、ガソリン)、炭素数9~15の炭化水素類(例えば、灯油)、炭素数10~20の炭化水素類(例えば、軽油)、炭素数17以上の炭化水素類(例えば、重油)、及び、炭素数15~50の炭化水素類(例えば、潤滑油(例えば、シェラテラスオイル、エンジンオイル))が挙げられる。
【0024】
ガソリンは、芳香族炭化水素類を多く含んでおり、灯油、軽油及び重油は、脂肪族炭化水素類を多く含んでいる。実施形態の微生物は、特に、炭素数が22~36の脂肪族炭化水素類が多く含まれている鉱物油を効率よく分解することができる。
【0025】
本発明の油分分解剤は、低pH条件においても優れた油分分解能(とくに油脂分解能)を発揮する。低pH条件とは、例えばpH7以下、好ましくはpH5~7を意味する。
【0026】
本発明の油分分解剤は、pH5~7の条件で、1%(w/v)の油分(好ましくは、油脂)を24時間で少なくとも60質量%、好ましくは65質量%以上、より好ましくは70質量%以上低減する。
【0027】
本発明の油分分解剤は、排水処理に好適に使用することができる。とくに油分を含む排水処理に適している。本発明の油分分解剤を用いた排水処理方法については、次項で詳細に説明する。
【0028】
本発明の油分分解剤に含まれるPseudozyma属の微生物は、油分に加えて、糖類、多糖類、アルコール類、アミノ酸類、有機酸類、核酸類も分解可能であり、したがって、本発明の油分分解剤はこれらの成分を含む排水処理にも好適に使用することができる。
【0029】
前記糖類としては、例えば、グルコース、フラクトース、スクロース、マルトース、イソマルトース、トレハロース、ガラクトース、キシロース、セロビオース、ラムノース、マンノース、アラビノース、リボース、デオキシリボースが挙げられる。
【0030】
多糖類としては、例えば、セルロース、ペクチン、アルギン酸、キサンタンガム、デキストランが挙げられる。
【0031】
前記アルコール類としては、例えば、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブチルアルコール、イソブチルアルコール、ベンジルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセロールが挙げられる。
【0032】
前記アミノ酸類としては、例えば、バリン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、リジン、フェニルアラニン、トリプトファン、スレオニン、ヒスチジン、アルギニン、グリシン、アラニン、セリン、チロシン、システイン、アスパラギン、グルタミン、プロリン、アスパラギン酸、グルタミン酸、シスチン、テアニン、シトルリン、オルニチンが挙げられる。
【0033】
前記有機酸類としては、例えば、酢酸、クエン酸、マレイン酸、マロン酸、フマル酸、乳酸、イソ酪酸、プロピオン酸、ピルビン酸が挙げられる。
前記核酸類としては、例えば、デオキシリボ核酸、リボ核酸が挙げられる。
【0034】
本発明において、処理の対象となる排水は、油分を含む排水である。前記排水は、油分を含んでいればその由来は限定されない。上記のとおり、排水は、油分に加えて、糖類、多糖類、アルコール類、アミノ酸類、有機酸類、核酸類を含んでいてもよい。
排水は酸成分を多く含むために酸性に偏っている場合があり、活性汚泥等を使用した従来の方法では、あらかじめpH6~8程度に調整する前処理が必要であった。本発明の油分分解剤は低pH(酸性側)でも油分分解能を有するため、そのような前処理の必要がない。
【0035】
2.排水の処理方法
本発明は、油分を含む排水に、上記した本発明の油分分解剤を接触させる工程を含む、排水の処理方法も提供する。排水と油分分解剤を接触させる方法は特に限定されず、排水中に油分分解剤を添加してもよいし、油分分解剤に排水を添加してもよい。
【0036】
本発明の油分分解剤による排水処理は、連続反応であってもバッチ式の反応であってもよく、排水の量や種類に応じて当業者が適宜選択することができる。
【0037】
本発明の油分分解剤の添加量は限定されず、処理に供する排水の量や質等に応じて適宜設定することができる。また、本発明の油分分解剤は反応開始時に一度に添加してもよいし、複数回添加してもよい。
【0038】
本発明の油分分解剤を複数回添加する場合、一定のペースで追加してもよいし、排水の処理速度等を観察しながら、適宜添加してもよい。
【0039】
本発明の油分分解剤による処理時間(微生物と廃水とを接触させている時間)は特に限定されず、例えば、分解対象となる化合物が検出限界以下になるまで処理を続けることができる。
【0040】
本発明の油分分解剤による処理を行う際の排水の温度は、本発明の油分分解剤による処理を効率良く行うことができれば限定されない。例えば、25~60℃、好ましくは25~50℃、より好ましくは30~45℃、さらに好ましくは30~40℃、特に好ましくは30~35℃である。
【0041】
処理に供する排水のpHは、本発明の油分分解剤による処理を効率良く行うことができるように適宜設定することができる。本発明の油分分解剤は低pH(酸性側)でも油分分解能を有するため、排水が酸性に偏っている場合でもpH調整等の前処理なしに使用することができる。
【0042】
膜分離装置の使用
本発明の排水処理方法では、膜分離法を用いることも可能である。膜分離法とは、分離膜を用いて微生物(油分分解剤)によって処理された排水を分離する方法を意味する。その中でも、本発明の好ましい態様の一つとして、膜分離活性汚泥法(MBR:Membrane Bio Reactor)が挙げられる。
MBRは、活性汚泥法の一種で、処理された水と活性汚泥との分離を、精密濾過膜(MF膜)又は限外濾過膜(UF膜)を使って行う方法である。本発明の油分分解剤で排水を処理することで、排水中の油分が分解され、活性汚泥の能力低下を抑制し、効率の良い排水処理が可能になる。
【0043】
本発明では、膜分離装置は、油分分解剤により排水の処理を行う槽内に存在させることもできるし、油分分解剤により排水の処理を行う槽とは別の槽に設けて、当該別の槽に処理水を導き、膜分離を行うことも可能である。当該別の槽は複数設けることもできる。膜分離装置の存在下に油分分解剤の処理を行うことにより、本発明の油分分解剤による反応効率を向上させることができる。その結果、排水処理に要する油分分解剤の量の削減や、処理(反応)時間の短縮が可能になる。
【0044】
本発明で使用する膜分離装置の種類やサイズは特に限定されず、排水処理設備の大きさや排水量等に応じて適宜選択することができる。
【0045】
膜分離装置で使用する分離膜の種類としては、精密濾過膜(MF膜)又は限外濾過膜(UF膜)が好ましい。
【0046】
分離膜の形状としては、中空糸膜、平膜、管状膜、袋状膜等が挙げられる。これらのうち、容積ベースで比較した場合に膜面積の高度集積が可能であることから、中空糸膜が好ましい。
【0047】
分離膜の材質としては、有機材料(セルロース、酢酸セルロース、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン、芳香族ポリアミド、ポリスルフォン、ポリビニルアルコール、ポリメチルメタクリレート、ポリフッ化ビニリデン、ポリ4フッ化エチレン、ポリアクリロニトリル、ポリカーボネート、ポリテトラフルオロエチレン等)、金属(ステンレス等)、無機材料(セラミック等)が挙げられる。分離膜の材質は、排水の性状等に応じて適宜選択される。
【0048】
分離膜の孔径は、処理の目的に応じて適宜選択すればよい。MBRにおいては、分離膜の孔径は、通常0.001~3μmが好ましい。孔径が0.001μm未満では、膜の抵抗が大きくなりやすい。孔径が3μmを超えると、汚泥を完全に分離することができないため、処理水(透過水)の水質が悪化するおそれがある。分離膜の孔径は、精密濾過膜の範囲とされる0.04~1.0μmがより好ましい。
【0049】
本発明では、膜分離装置は市販の分離膜を使用して作製してもよいし、市販の膜分離装置を利用してもよい。例えば、三菱ケミカル社製の中空糸膜SADF(商標名「ステラポアーSADFTM」)を用いたモジュール、三菱ケミカル社製の膜分離活性汚泥法のための装置DiaFellowTM AMを使用することができる。また、本発明の排水処理方法において、膜分離装置は排水処理設備内に1つ配備されてもよいし複数配備されてもよい。
【0050】
膜分離装置を使用する際の曝気量は特には限定されず、排水の量、排水の質、使用する微生物の種類等に応じて適宜選択することができる。
【0051】
一次処理
本発明の排水処理方法では、排水を油分分解剤で処理する前に、排水から固形物を除去する処理(以下、「一次処理」と称する)を行ってもよい。大きなゴミ等を網や柵で取り除くスクリーン、砂を沈めて除去する沈砂池、泥等を沈めて除去する最初沈殿池を用いた処理等を挙げることができる。
【0052】
二次処理
上記一次処理後、本発明の油分分解剤や活性汚泥等の微生物により排水中の有機物や油分を除去する処理(以下、「二次処理」と称する)を行うことができる。
【0053】
三次処理
油分分解剤や活性汚泥等の微生物で処理しきれなかった化合物が存在する場合、当該化合物を除去するために、二次処理の後に、更なる処理(以下、「三次処理」と称する)を行うこともできる。三次処理を組み合わせて用いることにより、排水の水質を高め、CODCr値(化学的酸素要求量)を更に低減することができる。
【0054】
三次処理の種類は特に限定されず、排水の種類や二次処理により処理ができなかった化合物の種類等に応じ適宜選択することができる。例えば、活性炭処理、フェントン触媒処理、多環芳香族分解酵素処理を挙げることができる。
【0055】
活性炭処理
活性炭は微生物で処理しきれなかった化合物を吸着することにより、排水から除去することができる。使用する活性炭としては、石油ピッチ、石炭、コークス等の鉱物系原料、木材、ヤシ殻等の果実殻等の植物系原料を炭化(熱処理)し、あるいは熱処理に加えて賦活化を行って得られたものが好ましく、市販の液相用の活性炭を使用することができる。
【0056】
活性炭による処理の方法は特に限定されず、例えば、カラム等の筒状物の内部に活性炭を充填し、そこ(活性炭吸着塔)に処理に供する排水を通す(通水する)ことにより、行うことができる。前記活性炭吸着塔への通水の空間速度SVは特には限定されない。例えば、排水に含まれる成分の活性炭への吸着しやすさや吸着量、また、所望する処理後の水質要求、放流水基準値等に応じて、適宜SVを決定することができる。例えば、活性炭への吸着がしにくい(吸着量が少ない)場合、または、排水の水質要求が厳しい場合はSVを小さくして、被処理水(排水)と活性炭との接触時間を長くすればよい。
【0057】
フェントン触媒処理
過酸化水素を第一鉄イオン(鉄触媒)と反応させ、ヒドロキシラジカルを発生させる反応をフェントン反応という。ヒドロキシラジカルは強力な酸化力を持ち、その酸化力を利用して、有害物質や難分解性の汚染物質の分解や殺菌等を行うことができる。フェントン触媒とは、このフェントン反応で使用される鉄触媒である。フェントン触媒は、微生物で処理しきれなかった化合物をヒドロキシラジカルによる分解することにより、排水から除去することができる。
【0058】
フェントン触媒である鉄触媒は、水に溶解して第一鉄イオンを発生させるものであれば特に限定されない。例えば、第一鉄塩又は第一鉄の酸化物が好ましい。その中でも、排水基準で管理する必要がなく、溶解性に優れることから、硫酸鉄または塩化鉄がより好ましい。
【0059】
フェントン触媒による処理の方法は、目的とする化合物を分解できる限り特に限定されない。例えば、必要に応じて処理対象となる排水を撹拌しながら、当該排水中に鉄試薬を添加し、その後過酸化水素を添加し、反応させる。鉄試薬の添加量、過酸化水素の添加量、両者を添加した後の反応時間等は、処理対象である排水に含まれる化合物の種類や排水の量等に応じて適宜選択することができる。
【0060】
多環芳香族分解酵素処理
多環芳香族分解酵素は、微生物で処理しきれなかった難分解性の多環芳香族を分解して、排水から除去することができる。使用する多環芳香族分解酵素の種類は特に限定されないが、過酸化水素の存在下で、フミン等の難分解性の多環芳香族の酸化や重合を触媒する活性を有するものが好ましい。こうした多環芳香族分解酵素としては、例えば、ペルオキシダーゼ、ラッカーゼが挙げられる。
【0061】
ペルオキシダーゼとしては、アブラナ科セイヨウワサビ(Armorica rusticana)由来のペルオキシダーゼが好適に用いられる。また、ラッカーゼとしては、Trametes versicolor、Rhus vernicifera、Agaricus bisporus、又はAspergillus sp.等由来のラッカーゼが好適に用いられる。
【0062】
多環芳香族分解酵素による処理方法は限定されず、処理の対象となる排水中に酵素を添加してもよく、当該酵素を担体に固定して使用してもよい。排水への多環芳香族分解酵素の添加量は、排水の種類や量に応じて適宜設定され、例えば、0.1~300ppm、好ましくは0.5~200ppm、より好ましくは1~100ppmとすることができる。多環芳香族分解酵素による処理時間も特には限定されず、排水の量や質、使用する酵素の種類や質等に応じて適宜設定される。
【実施例0063】
以下、実施例により本発明について具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0064】
試験例1:1質量%油分存在下での油分除去能の検証
Pseudozyma antarctica T34株、NRL-A株、NRL-B株、RO114株、Pseudozyma aphidis KDR7株、116-2株、6-9株、Pseudozyma hubeiensis NCM11株について、以下の方法で油分分解能を評価した。
【0065】
また、比較例として、Pseudozyma属とは異なる微生物株(Saccharomyces cerevisiae S228C株、Candida albicans ATCC10231株、Bacillus subtilis ATCC6633株)、微生物製剤A(商品名「BioRemove3200」/ノボザイムズ社製)、微生物製剤B(商品名「ビーエヌクリーン」/明治フードマテリア社製)及び活性汚泥(化学工場排水処理設備由来)について、以下の方法で油分分解能を評価した。
【0066】
Soybean-Casein Digest(SCD)培地(和光純薬工業社製)を前培養培地として、活性汚泥以外の前記微生物及び微生物製剤のそれぞれを適量接種し、30℃にて150rpm、24時間前培養を行った。続いて、乾燥重量法により前培養液及び活性汚泥の菌体濃度を計測した。
【0067】
続いて、以下の方法で作製された油分分解能評価用液体培地(100mL)に、終菌体濃度が300mg/Lとなるように、それぞれの前培養液および活性汚泥を添加し、30℃、150rpmで24時間振盪培養した。
【0068】
(油分分解能評価用液体培地の作製方法)
終濃度が0.1%(w/v)コーンスティープリカー、0.05%(w/v)尿素、0.52%(w/v)K2HPO4、0.27%(w/v)KH2PO4となるように純水に溶解した。上記培地を500mLバッフル付き三角フラスコに100mLずつ分注した。
【0069】
各フラスコに菜種油を1.0gずつ添加後、高圧蒸気滅菌(121℃、15分)したものを油分分解能評価用液体培地とした。培養終了後、培養液に残留する油分成分を定量した。
【0070】
油分成分の定量方法は、JIS K0102の方法に従って、ノルマルヘキサン抽出物量として定量を行った。
【0071】
また、コントロールとして、微生物、微生物製剤または活性汚泥を接種しなかったこと以外は、前記と同条件でノルマルヘキサン抽出物量を測定した。
【0072】
式(1)によりそれぞれの油分分解率を求めた。
油分分解率(%)={添加した油分量(g)-残存した油分量(g)}/添加した油分量(g)×100 …式(1)
【0073】
得られた結果を表1に示す。表1のとおり、Pseudozyma属に属する微生物には、高い油分分解処理能が認められた。
【0074】
【0075】
試験例2:1質量%油分存在下での油分除去能の検証(温度)
Pseudozyma antarctica T34株について、試験時の温度を20~35℃に変更した点以外は、試験例1と同様の方法で油分分解能を評価した。
【0076】
得られた結果を表2に示す。この結果から、Pseudozyma属に属する微生物は、幅広い温度域にて高い油分分解処理能が認められた。
【0077】
【0078】
試験例3:1質量%油分存在下での油分除去能の検証(pH)
Pseudozyma antarctica T34株について、油分分解能評価用液体培地のpHを5~10に変更した点以外は、試験例1と同様の方法で油分分解能を評価した。
【0079】
得られた結果を表3に示す。この結果から、Pseudozyma属に属する微生物は、幅広いpH域にて高い油分分解処理能が認められた。
【0080】
【0081】
試験例4:1質量%油分存在下での油分除去能の検証(油種)
Pseudozyma antarctica T34株について、油分分解能評価用液体培地の油種をパーム油、大豆油、ゴマ油、オリーブ油、豚脂、牛脂、魚油、食品工場廃油に変更した点以外は、試験例1と同様の方法で油分分解能を評価した。
【0082】
得られた結果を表4に示す。この結果から、Pseudozyma属に属する微生物は、幅広い油種に対して高い油分分解処理能が認められた。
【0083】