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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024134644
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】光ファイバ
(51)【国際特許分類】
   G02B 6/02 20060101AFI20240927BHJP
   G02B 6/036 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
G02B6/02 401
G02B6/036
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023044942
(22)【出願日】2023-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】土田 幸寛
(72)【発明者】
【氏名】仙北 拓也
【テーマコード(参考)】
2H250
【Fターム(参考)】
2H250AB05
2H250AB10
2H250AB15
2H250AB18
2H250AD02
2H250AD14
2H250AD32
2H250AE63
2H250AH11
2H250AH27
2H250BA32
2H250BB07
2H250BB14
2H250BB19
2H250BB33
2H250BC02
(57)【要約】
【課題】伝送損失が低減されながら光学特性の柔軟な設計が可能な光ファイバを提供すること。
【解決手段】光ファイバは、石英系ガラスからなり、センタコアを有するコア部と、前記コア部の最大屈折率よりも低い屈折率の石英系ガラスからなり、前記コア部の外周を取り囲むクラッド部と、を備え、前記センタコアは、フッ素、アルカリ金属元素、塩素、およびゲルマニウムを含み、前記ゲルマニウムは、前記センタコアの径方向の位置によってゲルマニウム濃度が異なるように分布している。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
石英系ガラスからなり、センタコアを有するコア部と、
前記コア部の最大屈折率よりも低い屈折率の石英系ガラスからなり、前記コア部の外周を取り囲むクラッド部と、
を備え、
前記センタコアは、フッ素、アルカリ金属元素、塩素、およびゲルマニウムを含み、
前記ゲルマニウムは、前記センタコアの径方向の位置によってゲルマニウム濃度が異なるように分布している
光ファイバ。
【請求項2】
前記センタコアにおいて、フッ素濃度は500ppm以上10000ppm以下であり、アルカリ金属濃度は10ppm以上1000ppm以下であり、塩素濃度は15000ppm以下であり、前記ゲルマニウム濃度は5000ppm以下である
請求項1に記載の光ファイバ。
【請求項3】
前記センタコアにおいて、径方向のコア中心における前記ゲルマニウム濃度よりも、外周部における前記ゲルマニウム濃度の方が高い
請求項1に記載の光ファイバ。
【請求項4】
前記センタコアにおいて、中心から径方向への距離をrとし、距離rにおける前記ゲルマニウム濃度をf(r)し、f(r)の最小値をminf(r)とし、前記センタコアのコア半径をaとすると、以下の式(1)が成立する
請求項1に記載の光ファイバ。
【数1】
【請求項5】
以下の式(2)が成立する
請求項4に記載の光ファイバ。
【数2】
【請求項6】
前記センタコアにおいて純石英ガラスに対する比屈折率差Δ1が最大値Δ1maxとなる径方向の位置には、ゲルマニウムが含まれている
請求項1に記載の光ファイバ。
【請求項7】
波長1550nmにおける伝送損失が0.164dB/km以下である
請求項1に記載の光ファイバ。
【請求項8】
波長1550nmにおける伝送損失が0.160dB/km以下である
請求項1に記載の光ファイバ。
【請求項9】
前記センタコアにおいてゲルマニウム濃度が2500ppm以下であり、
波長1550nmにおける伝送損失が0.154dB/km以下である
請求項1に記載の光ファイバ。
【請求項10】
波長1310nmにおけるモードフィールド径が9.2μm以上9.5μm以下である
請求項1に記載の光ファイバ。
【請求項11】
ステップ型またはW型の屈折率プロファイルを有する
請求項1に記載の光ファイバ。
【請求項12】
前記ゲルマニウムは、前記フッ素、前記アルカリ金属元素、および前記塩素によって定まる屈折プロファイルに応じて、前記屈折率プロファイルを形成するように分布している
請求項11に記載の光ファイバ。
【請求項13】
前記コア部は前記センタコアであり、前記センタコアにおいて純石英ガラスに対する比屈折率差Δ1が0%以上0.15%以下であり、前記クラッド部において純石英ガラスに対する比屈折率差Δcladが-0.3%以上-0.15%以下であり、前記センタコアのコア径を2aとすると、2aが8.0μm以上13.0μm以下である
請求項1に記載の光ファイバ。
【請求項14】
前記コア部は、前記センタコアと、前記センタコアの外周を取り囲むように形成され、屈折率がクラッド部の屈折率よりも小さいディプレスト層とで構成されており、
前記センタコアにおいて純石英ガラスに対する比屈折率差Δ1が0%以上0.20%以下であり、前記クラッド部において純石英ガラスに対する比屈折率差Δcladが-0.2%以下であり、前記センタコアのコア径を2aとすると、2aが9.0μm以上14.0μm以下であり、前記ディプレスト層の外径を2bとすると、b/aが1.2以上4.0以下である
請求項1に記載の光ファイバ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバに関する。
【背景技術】
【0002】
長距離伝送用途の光ファイバには、波長分散特性、カットオフ波長、モードフィールド径、曲げ損失など、様々な光学特性が求められている。このような光ファイバとして、たとえば、コア部にゲルマニウムが添加された光ファイバが開示されている(特許文献1)。この光ファイバでは、所望の光学特性を満たすように屈折プロファイルが設計されている。
【0003】
一方、伝送損失の低減のために、カリウムなどのアルカリ金属元素、フッ素、および塩素をコア部に添加した光ファイバが開示されている(特許文献2)。このような光ファイバは、長距離伝送用途に対して非常に有効である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014-142613号公報
【特許文献2】特表2007-504080号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の光ファイバでは、コア部にアルカリ金属元素が添加されておらず、伝送損失の低減の点では改善の余地がある。また、特許文献2の光ファイバでは、アルカリ金属元素、フッ素、および塩素だけでは柔軟な屈折プロファイルの制御ひいては柔軟な光学特性の制御が困難であるので、光学特性の設計の点では改善の余地がある。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、その目的は、伝送損失が低減されながら光学特性の柔軟な設計が可能な光ファイバを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の一態様は、石英系ガラスからなり、センタコアを有するコア部と、前記コア部の最大屈折率よりも低い屈折率の石英系ガラスからなり、前記コア部の外周を取り囲むクラッド部と、を備え、前記センタコアは、フッ素、アルカリ金属元素、塩素、およびゲルマニウムを含み、前記ゲルマニウムは、前記センタコアの径方向の位置によってゲルマニウム濃度が異なるように分布している光ファイバである。
【0008】
前記センタコアにおいて、フッ素濃度は500ppm以上10000ppm以下であり、アルカリ金属濃度は10ppm以上1000ppm以下であり、塩素濃度は15000ppm以下であり、前記ゲルマニウム濃度は5000ppm以下でもよい。
【0009】
前記センタコアにおいて、径方向のコア中心における前記ゲルマニウム濃度よりも、外周部における前記ゲルマニウム濃度の方が高くてもよい。
【0010】
前記センタコアにおいて、中心から径方向への距離をrとし、距離rにおける前記ゲルマニウム濃度をf(r)し、f(r)の最小値をminf(r)とし、前記センタコアのコア半径をaとすると、以下の式(1)が成立してもよい。
【数1】
【0011】
以下の式(2)が成立してもよい。
【数2】
【0012】
前記センタコアにおいて純石英ガラスに対する比屈折率差Δ1が最大値Δ1maxとなる径方向の位置には、ゲルマニウムが含まれていてもよい。
【0013】
前記光ファイバは、波長1550nmにおける伝送損失が0.164dB/km以下でもよい。
【0014】
前記光ファイバは、波長1550nmにおける伝送損失が0.160dB/km以下でもよい。
【0015】
前記光ファイバは、前記センタコアにおいてゲルマニウム濃度が2500ppm以下であり、波長1550nmにおける伝送損失が0.154dB/km以下でもよい。
【0016】
前記光ファイバは、波長1310nmにおけるモードフィールド径が9.2μm以上9.5μm以下でもよい。
【0017】
前記光ファイバは、ステップ型またはW型の屈折率プロファイルを有してもよい。
【0018】
前記ゲルマニウムは、前記フッ素、前記アルカリ金属元素、および前記塩素によって定まる屈折プロファイルに応じて、前記屈折率プロファイルを形成するように分布してもよい。
【0019】
前記コア部は前記センタコアであり、前記センタコアにおいて純石英ガラスに対する比屈折率差Δ1が0%以上0.15%以下であり、前記クラッド部において純石英ガラスに対する比屈折率差Δcladが-0.3%以上-0.15%以下であり、前記センタコアのコア径を2aとすると、2aが8.0μm以上13.0μm以下でもよい。
【0020】
前記コア部は、前記センタコアと、前記センタコアの外周を取り囲むように形成され、屈折率がクラッド部の屈折率よりも小さいディプレスト層とで構成されており、前記センタコアにおいて純石英ガラスに対する比屈折率差Δ1が0%以上0.20%以下であり、前記クラッド部において純石英ガラスに対する比屈折率差Δcladが-0.2%以下であり、前記センタコアのコア径を2aとすると、2aが9.0μm以上14.0μm以下であり、前記ディプレスト層の外径を2bとすると、b/aが1.2以上4.0以下でもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、伝送損失が低減されながら光学特性の柔軟な設計が可能な光ファイバを実現できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、実施形態に係る光ファイバの長手方向に垂直な面における模式的な断面図である。
図2図2は、実施形態に係る光ファイバの屈折率プロファイルの模式図である。
図3図3は、実施形態に係る光ファイバの屈折率プロファイルと添加物濃度の分布との関係の一例を示す模式図である。
図4図4は、センタコアの屈折率プロファイルの他の例の模式図である。
図5図5は、屈折率プロファイルさらに他の例の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、図面を参照しながら、本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態により本発明が限定されるものではない。また、各図面において、同一または対応する構成要素には適宜同一の符号を付している。また、本明細書においては、カットオフ波長または実効カットオフ波長とは、国際通信連合(ITU)のITU-T G.650.1で定義するケーブルカットオフ波長(λcc)をいう。また、その他、本明細書で特に定義しない用語についてはG.650.1およびG.650.2における定義、測定方法に従うものとする。
【0024】
(実施形態)
図1は、実施形態に係る光ファイバの長手方向に垂直な面における模式的な断面図である。光ファイバ1は、石英系ガラスからなり、コア部1aと、コア部1aの最大屈折率よりも低い屈折率を有しコア部1aの外周を取り囲むクラッド部1bとを備える。なお、光ファイバ1におけるコア部1aとクラッド部1bとを備える部分は、光ファイバにおいてガラスからなる部分であり、ガラス光ファイバと記載する場合がある。また、光ファイバ1は、クラッド部1bの外周を取り囲む被覆層1cを備える。被覆層1cは、クラッド部1bの外周を取り囲むプライマリ層1caと、プライマリ層1caの外周を取り囲むセカンダリ層1cbとを有する。被覆層1cを備える光ファイバは、光ファイバ心線と記載する場合がある。
【0025】
コア部1aは、センタコア1aaと、センタコア1aaの外周を取り囲むように形成されており、屈折率がクラッド部1bの屈折率よりも小さいディプレスト層1abとで構成されている。
【0026】
光ファイバ1は、たとえば図2に示すような屈折率プロファイルを有する。図2は、光ファイバ1のコア部1aの中心(コア中心)から径方向における屈折率プロファイルを示している。なお、屈折率プロファイルは、純石英ガラスに対する比屈折率差で示している。ここで、純石英ガラスとは、屈折率を変化させるドーパントを実質的に含まず、波長1550nmにおける屈折率が約1.444である、きわめて高純度の石英ガラスである。
【0027】
光ファイバ1の屈折率プロファイルは、いわゆるW型の屈折率プロファイルである。図2において、プロファイルP11がコア部1aの屈折率プロファイルを示し、プロファイルP12がクラッド部1bの屈折率プロファイルを示す。コア部1aにおいてセンタコア1aaはコア半径がaであり、直径(コア径)が2aである。ディプレスト層1abは、内径が2aで外径が2bである。センタコア1aaは、コア部1aのなかで平均の屈折率が最大である部分である。純石英ガラスの屈折率に対するセンタコア1aaの最大比屈折率差はΔ1である。純石英ガラスの屈折率に対するディプレスト層1abの平均屈折率の比屈折率差はΔ2である。また、純石英ガラスの屈折率に対するクラッド部1bの平均屈折率の比屈折率差はΔcladである。
【0028】
ここで、コア部1aのセンタコア1aaの屈折率プロファイルは、幾何学的に理想的な形状のステップ型である場合だけでなく、頂部の形状が平坦ではなく製造特性により凹凸が形成されたり、頂部から裾を引くような形状となっていたりする場合がある。この場合、製造設計上のコア部1aのコア径2aの範囲内における、屈折率プロファイルの頂部で略平坦である領域の屈折率が、Δ1を決定する指標となる。なお、略平坦である領域が複数個所に分かれていると思われる場合や、あるいは連続的な変化が起こっていて略平坦である領域の定義が難しい場合も、隣の層に向かって急激に屈折率が変化する部分以外のコア部1aの少なくともいずれかの部分が所定のΔ1の範囲に入っていて、最大値と最小値とのΔの差が、或る値±30%以内であれば、所望に近い特性を出すことが可能であることを確認しており、特に問題はない。
【0029】
また、ディプレスト層1abおよびクラッド部1bの平均屈折率とは、屈折率プロファイルの径方向における屈折率の平均値である。
【0030】
光ファイバ1の構成材料について説明する。コア部1aのセンタコア1aaは、フッ素(F)、アルカリ金属元素、塩素(Cl)、およびゲルマニウム(Ge)を含む石英ガラスからなる。アルカリ金属元素は、たとえばカリウム(K)やナトリウム(Na)である。ゲルマニウムは石英ガラスの屈折率を上昇させるドーパントである。塩素およびアルカリ金属元素は石英ガラスの屈折率を上昇させるとともに、粘性を低下させるドーパントである。フッ素は石英ガラスの屈折率を低下させるドーパントである。なお、これらのドーパントは化合物としてドープされていてもよい。
【0031】
ディプレスト層1abは、少なくともフッ素を含む石英ガラスからなる。クラッド部1bは、少なくともフッ素を含む石英ガラスからなる。
【0032】
図2に示すような屈折率プロファイルでは、純石英ガラスの屈折率レベルは、センタコアの屈折率の最大値と最小値との間に存在する。このような屈折率プロファイルを実現するには、石英ガラスの屈折率を純石英ガラスの屈折率よりも上昇させる場合はゲルマニウムドープを行い、石英ガラスの屈折率を純石英ガラスの屈折率よりも低下させる場合はフッ素ドープを行うことで屈折率プロファイルを形成できるように、各ドーパントの分布が調整されている。
【0033】
プライマリ層1caおよびセカンダリ層1cbは、樹脂からなる。この樹脂は、たとえば、紫外線硬化樹脂である。紫外線硬化樹脂は、たとえば、オリゴマー、希釈モノマー、光重合開始剤、シランカップリング剤、増感剤、滑剤等、各種の樹脂材料と添加剤とを配合したものである。オリゴマーとしては、ポリエーテル系ウレタンアクリレート、エポキシアクリレート、ポリエステルアクリレート、シリコーンアクリレート等、従来公知の材料を用いることができる。希釈モノマーとしては、単官能モノマー、多官能モノマー等、従来公知の材料を用いることができる。また、添加剤は、上記したものに限定されず、紫外線硬化樹脂等に対して使用される従来公知の添加剤等を広く用いることができる。
【0034】
センタコア1aaに含まれるドーパントについてより具体的に説明する。図3は、実施形態に係る光ファイバの屈折率プロファイルと添加物濃度の分布との関係の一例を示す模式図である。図3において、線L11はセンタコア1aaの屈折プロファイルを示し、線L12はディプレスト層1abの屈折プロファイルを示し、線L13はクラッド部1bの屈折率プロファイルを示す。また、線L2はゲルマニウム濃度を示し、線L3はフッ素濃度を示し、線L4はアルカリ金属濃度を示し、線L5は塩素濃度を示す。ただし、図3では、クラッド部1bの平均屈折率を基準として、屈折プロファイルを示している。
【0035】
図3に示すように、ゲルマニウムは、センタコア1aaの径方向の位置によってゲルマニウム濃度が異なるように分布している。また、センタコア1aaにおいて、径方向のコア中心におけるゲルマニウム濃度よりも、外周部における前記ゲルマニウム濃度の方が高い。また、センタコア1aaにおいて比屈折率差Δ1が最大値Δ1maxとなる径方向の位置(矢印Aで示す位置)には、ゲルマニウムが含まれている。
【0036】
ゲルマニウムは、塩素やアルカリ金属元素よりも、ドープ濃度に対する屈折率の変化量が大きい。そのため、ゲルマニウムを、センタコア1aaの径方向の位置によってゲルマニウム濃度が異なるように分布させることで、センタコア1aaの屈折率プロファイルを制御し易い。その結果、光ファイバ1の光学特性の設計が容易になる。たとえば、ゲルマニウムは、フッ素、アルカリ金属元素、および塩素によって定まる屈折プロファイルに応じて、所望の屈折率プロファイルを形成するように分布させてもよい。
【0037】
また、センタコア1aaにおいて、径方向のコア中心におけるゲルマニウム濃度よりも、外周部におけるゲルマニウム濃度の方を高くすることによって、コア中心におけるレイリー散乱をさらに少なくできるとともに、たとえばケーブルカットオフ波長をITU-T G.652規格である1260nm以下としつつゼロ分散波長をG.652規格の短波長側である1302nm-1312nmの範囲に制御しやすい。コア中心では、光ファイバ1の伝搬モードのうち基本モードで伝搬する光の強度が高いので、コア中心でレイリー散乱を少なくすることは伝送損失の低減のために有効である。このように、光ファイバ1では伝送損失の低減と光学特性の柔軟な設計とが実現される。
【0038】
この場合、センタコア1aaにおいて、中心から径方向への距離をrとし、距離rにおけるゲルマニウム濃度をf(r)し、f(r)の最小値をminf(r)とし、センタコア1aaのコア半径をaとすると、以下の式(1)が成立することが好ましい。式(1)が成立する場合は、径方向のコア中心におけるゲルマニウム濃度よりも、外周部におけるゲルマニウム濃度の方を高くする上で好適である。
【数3】
【0039】
さらに、式(2)が成立すれば、径方向のコア中心におけるゲルマニウム濃度よりも、外周部におけるゲルマニウム濃度の方を高くする上でより好適である。
【数4】
【0040】
また、センタコア1aaにおいて比屈折率差Δ1が最大値Δ1maxとなる径方向の位置(図3において矢印Aで示す位置)にゲルマニウムが含まれているので、Δ1maxの値をゲルマニウム濃度で調整できる。上述したように、ゲルマニウムは濃度に対する屈折率の変化量が大きいので、より少ない濃度で所望のΔ1maxを実現できる。
【0041】
なお、センタコア1aaにおいて、たとえば、フッ素濃度は500ppm以上10000ppm以下であり、アルカリ金属濃度は10ppm以上1000ppm以下であり、塩素濃度は500ppm以上15000ppm以下であり、ゲルマニウム濃度は500ppm以上5000ppm以下である。このような濃度であれば、アルカリ金属および塩素によるセンタコア1aaの粘性の低下による低伝送損失化と、ゲルマニウム濃度が比較的低濃度であることによる低伝送損失化との両方の効果が得られるので、光ファイバ1の低損失の点で好ましい。これらの効果により、たとえば、光ファイバ1は波長1550nmにおける伝送損失が0.164dB/km以下となり、好ましくは0.160dB/km以下となる。特に、波長1550nmにおける伝送損失を0.164dB/km以下とするには、式(1)や式(2)が成立していることが好ましい。さらには、センタコア1aaにおいてゲルマニウム濃度が2500ppm以下であれば、光ファイバ1は波長1550nmにおける伝送損失を0.154dB/km以下としやすい。
【0042】
また、光ファイバ1は、たとえば、波長1310nmにおけるモードフィールド径が9.2μm以上9.5μm以下であることが好ましい。これにより、光ファイバ1では、G.652B規格のうち比較的モードフィールド径が大きい範囲を実現することができる。
【0043】
光ファイバ1の好ましい構造パラメータの数値は、たとえば、Δ1が0%以上0.20%以下であり、Δcladが-0.2%以下であり、2aが9.0μm以上14.0μm以下であり、b/aが1.2以上4.0以下である。これらの構造パラメータの数値であれば、たとえば、ITU-T G.652.D規格相当、またはITU-T G.654.E規格相当の光ファイバを製造性良く実現できる。特に、ケーブルカットオフ波長をITU-T G.652規格である1260nm以下としつつ、モードフィールド径を9.2μm以上9.5μm以下のように比較的大きくしつつ、伝送損失を0.164dB/km以下とするには、0.25%≦|Δ1―Δclad|≦0.28%かつ10μm≦2a≦12μmとするのが好適である。
【0044】
以上のように構成された光ファイバ1では、伝送損失が低減されながら光学特性の柔軟な設計が可能である。
【0045】
(センタコアの屈折率プロファイルの他の例)
実施形態に係る光ファイバにおいて、センタコアの屈折率プロファイルは図2に示すものに限られない。図4は、センタコアの屈折率プロファイルの他の例の模式図である。なお、図4において、破線は純石英ガラスの屈折率のレベルを示している。
【0046】
図4(a)は、図2、3と同様に、径方向のコア中心におけるゲルマニウム濃度よりも、外周部におけるゲルマニウム濃度の方が高い屈折率プロファイルである。以下、図2、3の屈折率プロファイルをパターンAの屈折率プロファイルと記載し、図4(a)の屈折率プロファイルをパターンBの屈折率プロファイルと記載する場合がある。パターンBによれば、パターンAと同様に、コア中心におけるレイリー散乱をさらに小さくして伝送損失をさらに低減できるとともに、たとえばケーブルカットオフ波長をITU-T G.652規格である1260nm以下としつつゼロ分散波長をG.652規格の短波長側である1302nm-1312nmの範囲に制御しやすい。
【0047】
図4(b)は、パターンA、Bとは異なり、径方向のコア中心におけるゲルマニウム濃度よりも、外周部におけるゲルマニウム濃度の方が低い屈折率プロファイル(パターンCと記載する場合がある)である。パターンCによれば、たとえばケーブルカットオフ波長をITU-T G.652規格である1260nm以下としつつゼロ分散波長をG.652規格の長波長側である1312nm-1322nmの範囲に制御しやすい。
【0048】
図4(c)は、パターンA、Bと同様に、径方向のコア中心におけるゲルマニウム濃度よりも、外周部におけるゲルマニウム濃度の方が高い屈折率プロファイル(パターンDと記載する場合がある)である。パターンDによれば、パターンA、Bと同様に、コア中心におけるレイリー散乱をさらに少なくして伝送損失をさらに低減できるとともに、たとえばケーブルカットオフ波長をITU-T G.652規格である1260nm以下としつつゼロ分散波長をG.652規格の短波長側である1302nm-1312nmの範囲に制御しやすい。
【0049】
図4(d)は、パターンCと同様に、径方向のコア中心におけるゲルマニウム濃度よりも、外周部におけるゲルマニウム濃度の方が低い屈折率プロファイル(パターンEと記載する場合がある)である。パターンDによれば、たとえばケーブルカットオフ波長をITU-T G.652規格である1260nm以下としつつゼロ分散波長をG.652規格の長波長側である1312nm-1322nmの範囲に制御しやすい。
【0050】
図4(e)は、パターンA、B、Dと同様に、径方向のコア中心におけるゲルマニウム濃度よりも、外周部におけるゲルマニウム濃度の方が高い屈折率プロファイル(パターンFと記載する場合がある)である。パターンFによれば、パターンA、B、Dと同様に、コア中心におけるレイリー散乱をさらに少なくして伝送損失をさらに低減できるとともに、たとえばケーブルカットオフ波長をITU-T G.652規格である1260nm以下としつつゼロ分散波長をG.652規格の短波長側である1302nm-1312nmの範囲に制御しやすい。
【0051】
実施形態に係る光ファイバでは、センタコアが、フッ素、アルカリ金属元素、塩素、およびゲルマニウムを含み、ゲルマニウムが、センタコアの径方向の位置によってゲルマニウム濃度が異なるように分布しているので、パターンA~Fのような様々の屈折率プロファイルを実現可能である。そのため、実施形態に係る光ファイバでは、伝送損失が低減されながら、光学特性の柔軟な設計が可能である。
【0052】
実施形態に係る光ファイバは、たとえば以下の工程で製造できる。
まず、公知のVAD(Vapor Axial Deposition)装置において、四塩化ケイ素(SiCl)ガス、四塩化ゲルマニウム(GeCl)ガス、フッ化ケイ素(SiF)ガス、水素ガス、酸素ガス、および不活性ガスを用いて、シリカスートを作製する。
【0053】
このとき、四塩化ゲルマニウム(SiCl)を供給するバーナの位置や角度、および四塩化ゲルマニウムの流量を調整することによって、径方向におけるゲルマニウム濃度の分布を調整することができる。
【0054】
たとえば、パターンAの屈折率プロファイルを実現する場合には、シリカスートの中心軸付近の作製の際は四塩化ゲルマニウムを流さずに、後に穿孔される径よりも大きな径になるところから四塩化ゲルマニウムを流し始め、その後徐々に四塩化ゲルマニウムの流量を増やし、その後或る流量値で一定時間四塩化ゲルマニウムを流し、その後四塩化ゲルマニウムの供給を止める。
【0055】
たとえば、パターンBの屈折率プロファイルを実現する場合には、シリカスートの中心軸付近の作製の際は四塩化ゲルマニウムを流さずに、後に穿孔される径よりも大きな径になるところから四塩化ゲルマニウムを流し始め、その後徐々に流量を増やし、或る流量値になったところで四塩化ゲルマニウムの供給を止める。
【0056】
たとえば、パターンCの屈折率プロファイルを実現する場合には、シリカスートの中心軸付近の作製の際は四塩化ゲルマニウムを流さずに、後に穿孔される径よりも大きな径になるところから四塩化ゲルマニウムを流し始め、その後徐々に四塩化ゲルマニウムの流量を減らし、その後四塩化ゲルマニウムの供給を止める。
【0057】
たとえば、パターンDの屈折率プロファイルを実現する場合には、シリカスートの中心軸付近の作製の際は四塩化ゲルマニウムを流さずに、後に穿孔される径よりも大きな径になるところから四塩化ゲルマニウムを徐々に流量が増加するように流し始め、その後コア部の外周に相当する位置で流量が最大になるようにし、その後四塩化ゲルマニウムの供給を止める。
【0058】
たとえば、パターンEの屈折率プロファイルを実現する場合には、シリカスートの中心軸付近の作製の際は四塩化ゲルマニウムを流さずに、後に穿孔される径よりも大きな径になるところから四塩化ゲルマニウムを所定量だけ流し始め、その後コア部の外周に相当する位置で流量が最小になるように流量を減少させ、その後四塩化ゲルマニウムの供給を止める。
【0059】
たとえば、パターンFの屈折率プロファイルを実現する場合には、シリカスートの中心軸付近の作製の際は四塩化ゲルマニウムを流さずに、後に穿孔される径よりも大きな径になるところから四塩化ゲルマニウムを所定量だけ流し始め、その後コア部の外周に相当する位置で流量が最大になるように流量をステップ的に増加し、その後四塩化ゲルマニウムの供給を止める。
【0060】
その後、シリカスートを焼結ガラス化してシリカガラス母材を作製する。なお、焼結ガラス化時に、ヘリウムガスと塩素ガスとを流すことで、塩素をドープする。ここで、焼結ガラス化時に流す塩素系ガスは、塩素ガスに限られず、たとえば四塩化ケイ素ガスでもよい。
【0061】
その後、作製したシリカガラス母材の中心部に穿孔法にて孔を形成し、チューブとする。つづいて、チューブの内表面にKを堆積させる。Kの堆積は以下のようなエアロゾル法によって行うことができる。まず、塩化カリウム(KCl)原料を電気炉で融点以上に昇温して溶融・蒸発させた後、冷却ガスによってエアロゾル粒子を生成し、アルゴンキャリアガスにて塩素添加チューブの孔内に輸送し、これによりKを堆積させる。
【0062】
その後、真空下でチューブの該表面に酸水素火炎を当ててコラップス処理をすることで、中心部にKがドープされたシリカガラス母材を得る。
【0063】
なお、上記方法では気相でKをドープしているが、ドープ方法はこれに限られない。たとえば、シリカスートを形成した後、緻密化が起こらない程度の温度範囲で仮焼結を行い、つづいて液浸法等でKをドープしてもよい。また、上記方法では、Kを含む材料としてKの塩化物を用いたが、これに限らず、他の化合物、たとえば硝酸化物、ヨウ化物,臭化物等を用いてもよい。
【0064】
以上のように得た母材に、OVD(Outside Vapor Deposition)法を用いて、フッ素がドープされたシリカスートを形成する。このシリカス-トはディプレスト層となるシリカスートである。OVD法では、たとえば、四塩化ケイ素(SiCl)ガス、四塩化フッ素(SiF)ガス、水素ガス、酸素ガス、および不活性ガスを用いる。なお、このシリカスートの形成初期時に、四塩化ゲルマニウム(GeCl)ガスも用い、シリカガラス母材の外周にゲルマニウム添加領域を形成し調整してもよい。このように形成したシリカスートをガラス化してディプレスト層とすることで光ファイバ母材が得られる。上記工程では、センタコアで含有される各種ドーパントの濃度は、フッ素濃度が500ppm以上10000ppm以下、アルカリ金属濃度が10ppm以上1000ppm以下、塩素濃度が15000ppm以下、ゲルマニウム濃度が5000ppm以下になるように各ガスの流量を調整する。
【0065】
なお、上記のOVD法の代わりに、Fがドープされたジャケット管を被着して酸水素火炎にて一体化するジャケット処理を複数回行ない、光ファイバ母材を得てもよい。また、ジャケット処理の間に、酸水素火炎による母材の延伸処理も適宜行ってもよい。
【0066】
その後、完成した光ファイバ母材を線引きして光ファイバとする。
【0067】
なお、上記実施の形態に係る光ファイバ1の屈折率プロファイルはW型であるが、屈折率プロファイルがこれに限られず、たとえばステップ型でもよい。
【0068】
図5は、ステップ型の屈折率プロファイルを示している。図5において、プロファイルP21がコア部1aの屈折率プロファイルを示し、プロファイルP22がクラッド部1bの屈折率プロファイルを示す。図5の場合、センタコアはコア部1a全体に対応する。
【0069】
なお、上記実施形態により本発明が限定されるものではない。上述した各構成要素を適宜組み合わせて構成したものも本発明に含まれる。また、さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。よって、本発明のより広範な態様は、上記の実施形態に限定されるものではなく、様々な変更が可能である。
【符号の説明】
【0070】
1 :光ファイバ
1a :コア部
1aa :センタコア
1ab ディプレスト層
1b :クラッド部
1c :被覆層
1ca :プライマリ層
1cb :セカンダリ層
A :矢印
図1
図2
図3
図4
図5