(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024134690
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】絶縁被覆電線及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01B 7/02 20060101AFI20240927BHJP
H01B 13/16 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
H01B7/02 A
H01B13/16 B
H01B13/16 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023045018
(22)【出願日】2023-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】弁理士法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】寺木 直人
(72)【発明者】
【氏名】岸 雅通
(72)【発明者】
【氏名】樫村 誠一
(72)【発明者】
【氏名】末永 和史
(72)【発明者】
【氏名】菅沼 かなこ
【テーマコード(参考)】
5G309
5G325
【Fターム(参考)】
5G309MA02
5G309MA18
5G325KA01
5G325KB01
5G325KC02
(57)【要約】
【課題】滑り性が高く、かつ絶縁被覆層の強度が高い絶縁被覆電線、及びその製造方法を提供する。
【解決手段】金属導体2の外周を絶縁被覆層3で被覆してなる絶縁被覆電線1において、絶縁被覆層3は、フッ素系微粒子を滑剤として有する滑剤層32を最外層に有し、滑剤層32の内層にフッ素系微粒子を含むエナメル絶縁層31を有する。これにより、エナメル絶縁層31のフッ素系微粒子と滑剤層32のフッ素系微粒子とが接合し、エナメル絶縁層31への滑剤層32の高い密着性が得られる。絶縁被覆電線1の製造方法は、滑剤層32を形成する工程として、フッ素系微粒子を液状の分散媒に分散させた分散液502をエナメル絶縁層31の外周に付着させて乾燥及び焼成させる工程を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属導体の外周を絶縁被覆層で被覆してなる絶縁被覆電線であって、
前記絶縁被覆層は、フッ素系微粒子を滑剤として有する滑剤層を最外層に有し、前記滑剤層の内層にフッ素系微粒子を含むエナメル絶縁層を有する、
絶縁被覆電線。
【請求項2】
前記滑剤層の前記フッ素系微粒子と前記エナメル絶縁層の前記フッ素系微粒子とが同種のものである、
請求項1に記載の絶縁被覆電線。
【請求項3】
前記滑剤層及び前記エナメル絶縁層の前記フッ素系微粒子は、ポリテトラフルオロエチレンの微粒子、又はパーフルオロアルコキシアルカンの微粒子である、
請求項2に記載の絶縁被覆電線。
【請求項4】
前記エナメル絶縁層における前記フッ素系微粒子の割合が0.5wt%以上60.0wt%以下である、
請求項3に記載の絶縁被覆電線。
【請求項5】
前記エナメル絶縁層の前記フッ素系微粒子がポリテトラフルオロエチレンの微粒子であり、
前記滑剤層は、前記フッ素系微粒子としてのポリテトラフルオロエチレンの微粒子に加え、パーフルオロアルコキシアルカンの微粒子を含む、
請求項1乃至4の何れか1項に記載の絶縁被覆電線。
【請求項6】
前記滑剤層におけるパーフルオロアルコキシアルカンの微粒子の割合が0.5wt%以上5.0wt%以下である、
請求項5に記載の絶縁被覆電線。
【請求項7】
前記金属導体の外径が10μm以上50μm以下であり、
前記絶縁被覆層の厚さが3μm以上10μm以下であり、
前記滑剤層の厚さが1μm以上8μm以下であり、
前記エナメル絶縁層の厚さが1μm以上8μm以下である、
請求項1に記載の絶縁被覆電線。
【請求項8】
糸状の絶縁線を備え、
前記絶縁線の外周に前記金属導体が被覆されている、
請求項1に記載の絶縁被覆電線。
【請求項9】
前記金属導体は、銅、銀、及びアルミニウムの少なくとも何れかを含む合金又は単一金属からなる、
請求項1又は8に記載の絶縁被覆電線。
【請求項10】
前記金属導体は、銅、銀、及びアルミニウムの少なくとも何れかを含む合金又は単一金属の表面にめっきが施されている、
請求項1又は8に記載の絶縁被覆電線。
【請求項11】
請求項1に記載の絶縁被覆電線の製造方法であって、
前記滑剤層を形成する工程として、前記フッ素系微粒子を液状の分散媒に分散させた分散液をエナメル絶縁層の外周に付着させて乾燥及び焼成させる工程を有する、
絶縁被覆電線の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属導体の外周を絶縁被覆層で被覆してなる絶縁被覆電線、及び絶縁被覆電線の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、導線上にエナメル被覆層を形成してなるエナメル線には、自己潤滑性が高められたものがある。本出願人は、このような自己潤滑性エナメル線として、特許文献1、2に記載のものを提案している。
【0003】
特許文献1に記載の自己潤滑性エナメル線は、導線上に設けられたエナメル皮膜層の外層に、ポリアミド樹脂にワックスとシランカップリングとを配合して成る潤滑層が設けられている。特許文献2に記載の自己潤滑性エナメル線は、導線上に設けられたポリエステルイミドエナメル皮膜層の外層に、3~4μmの厚さとなるようにポリアミドイミド樹脂塗料が塗布及び焼き付けされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002-358835号公報
【特許文献2】特開平10-77446号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
エナメル線の用途によっては、より高い滑り性が求められる場合がある。例えば、複数のエナメル線が細径のチューブ内に収容されて繰り返し屈曲される場合である。また、滑り性を高めるために、エナメル線の最外層に固体潤滑性の高い層を形成する場合には、この層が容易に剥離してしまわないように、層の密着強度が高いことも必要である。なお、ここで滑り性とは、線材が他の物体とが接触しているとき、他の物体に対して滑りやすい性質をいう。
【0006】
本発明は、滑り性が高く、かつ絶縁被覆層の強度が高い絶縁被覆電線、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決することを目的として、金属導体の外周を絶縁被覆層で被覆してなる絶縁被覆電線であって、前記絶縁被覆層は、フッ素系微粒子を滑剤として有する滑剤層を最外層に有し、前記滑剤層の内層にフッ素系微粒子を含むエナメル絶縁層を有する、絶縁被覆電線を提供する。
【0008】
また、本発明は、上記の絶縁被覆電線の製造方法であって、前記滑剤層を形成する工程として、前記フッ素系微粒子を液状の分散媒に分散させた分散液をエナメル絶縁層の外周に付着させて乾燥及び焼成させる工程を有する、絶縁被覆電線の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、滑り性が高く、かつ絶縁被覆層の強度が高い絶縁被覆電線、及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】第1の実施の形態に係る絶縁被覆電線の断面図である。
【
図2】エナメル絶縁層と滑剤層との密着性を説明するために示す説明図である。
【
図3】絶縁被覆電線を製造するための製造装置の構成例を示す模式図である。
【
図4】エナメル絶縁層形成工程を銅板に対して施してエナメル絶縁層を形成した絶縁被覆銅板の表面の画像である。
【
図5】第1の実施の形態に係る複数の絶縁被覆電線を有するカテーテルチューブの断面図である。
【
図6】第2の実施の形態に係る絶縁被覆電線の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[第1の実施の形態]
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る絶縁被覆電線の断面図である。この絶縁被覆電線1は、線状の金属導体2と、金属導体2の外周を被覆する絶縁被覆層3とを有している。絶縁被覆層3は、電気絶縁性を有している。
【0012】
金属導体2は、導電性が高い金属元素である銅、銀、及びアルミニウムの少なくとも何れかを含む合金、又は銅、銀、及びアルミニウムの何れかの単一金属からなる。また、これらの合金又は単一金属からなる芯材の表面に、例えば錫などの金属のめっきを施しためっき線、あるいは芯材の表面に異種金属を圧延して接合したクラッド線を、金属導体2としてもよい。本実施の形態では、金属導体2の断面が円形であり、その導体径である外径D2が10μm以上50μm以下である。
【0013】
絶縁被覆層3は、エナメル絶縁層31及び滑剤層32からなる二層構造であり、エナメル絶縁層31が金属導体2の直上に形成され、エナメル絶縁層31の直上に滑剤層32が形成されている。滑剤層32は、絶縁被覆層3の最外層であり、エナメル絶縁層31が滑剤層32の内層にあたる。絶縁被覆層3の全体の厚さT3は、3μm以上10μm以下である。エナメル絶縁層31の厚さT31及び滑剤層32の厚さT32は、それぞれ1μm以上8μm以下である。なお、これらの厚さT3,T31,T32は、各層の厚さを複数箇所(例えば、4か所)で測定して平均した平均厚さである。各層の厚さは、例えば絶縁被覆電線1の長手方向に垂直な断面のSEM画像(例えば、倍率1000倍)により測定することができる。
【0014】
滑剤層32は、フッ素系微粒子を滑剤として有しており、この滑剤により絶縁被覆電線1の外表面1aが低摩擦係数化されて絶縁被覆電線1の滑り性が高められている。また、エナメル絶縁層31にも、滑剤層32と同種のフッ素系微粒子が含まれている。滑剤層32は、主成分がフッ素系樹脂であり、体積当たりのフッ素系樹脂の含有量がエナメル絶縁層31よりも多い。なお、滑剤層32がフッ素系樹脂のみからなるものあってもよい。
【0015】
エナメル絶縁層31及び滑剤層32のフッ素系微粒子は、例えば乳化重合法や粉砕法によって製造することができる。フッ素系微粒子の平均粒径は、例えば1.0μm以下である。フッ素系微粒子の平均粒径は、0.2μm以上0.5μm以下であることが特に好ましい。フッ素系微粒子の平均粒径は、マイクロトラック社製の粒子径分布測定装置(MT3000II)を用いてレーザ回折法によって求めた粒度分布における積算値50%での粒径である。なお、フッ素系微粒子は、架橋されていてもよく架橋されていなくてもよい。
【0016】
エナメル絶縁層31及び滑剤層32のフッ素系微粒子としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の微粒子、又はパーフルオロアルコキシアルカン(PFA)の微粒子を好適に用いることができる。滑剤層32のフッ素系微粒子がポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の微粒子である場合、エナメル絶縁層31にもポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の微粒子が含まれる。また、滑剤層32のフッ素系微粒子がパーフルオロアルコキシアルカン(PFA)の微粒子である場合、エナメル絶縁層31にもパーフルオロアルコキシアルカン(PFA)の微粒子が含まれる。
【0017】
この構成により、エナメル絶縁層31のフッ素系微粒子と滑剤層32のフッ素系微粒子が強固に接合して滑剤層32のエナメル絶縁層31への密着強度が強くなる。そして、絶縁被覆電線1が周辺の部材と擦れあっても、滑剤層32がエナメル絶縁層31から剥離してしまうことが抑止される。
【0018】
エナメル絶縁層31におけるフッ素系微粒子の割合は、0.5wt%以上60.0wt%以下である。この割合が0.5wt%未満であると、滑剤層32との密着強度を高める効果が必ずしも十分ではなく、60.0wt%を超えると、エナメル絶縁層31のフッ素系微粒子が脱落しやすくなるためである。また、エナメル絶縁層31の接着力を向上させつつ耐電圧の低下を防ぎ、十分な耐電圧を確保する観点からは、エナメル絶縁層31におけるフッ素の含有量が、1.0wt%以上20wt%以下であることが好ましい。なお、エナメル絶縁層31におけるフッ素系微粒子の割合は、例えばエネルギー分散型蛍光X線分析装置(EDX)により測定することができる。EDXで検出されるフッ素の含有量は、例えば0.5wt%以上45.6wt%以下である。
【0019】
図2は、エナメル絶縁層31と滑剤層32との密着性を説明するために、エナメル絶縁層31と滑剤層32との境界部を拡大して示す説明図である。ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の微粒子やパーフルオロアルコキシアルカン(PFA)の微粒子は、実際には大きさや形状が様々な不定形状であるが、
図2では、エナメル絶縁層31のフッ素系微粒子310、及び滑剤層32のフッ素系微粒子320を、それぞれ円形として模式的に示している。
【0020】
エナメル絶縁層31は、例えばポリイミド等のベースポリマー材料からなるベース部311に多数のフッ素系微粒子310が分散混合されており、このうち一部のフッ素系微粒子310がエナメル絶縁層31の外表面31aに露出している。外表面31aに露出したフッ素系微粒子310は、その一部分がベース部311に埋まった状態である。ベース部311は、イミド系樹脂からなるワニスを焼付処理して形成されている。
【0021】
滑剤層32は、フッ素系微粒子320がエナメル絶縁層31の外表面31aに露出したフッ素系微粒子310に結合して形成されている。エナメル絶縁層31は、金属導体2と滑剤層32との間に介在し、絶縁被覆層3の強度を高めるプライマとして機能する。
【0022】
図3は、金属導体2の外周に絶縁被覆層3を形成して絶縁被覆電線1を製造するための製造装置4の構成例を示す模式図である。製造装置4は、送り出しリール401から送り出される金属導体2にエナメル絶縁層31及び滑剤層32を順次形成し、巻き取りリール402に絶縁被覆電線1を巻き取るように構成されている。
図4では、送り出しリール401から巻き取りリール402に至る金属導体2の移動方向を複数の矢印で示している。
図4の上下は、鉛直方向の上下に対応している。
【0023】
製造装置4は、第1乃至第8のガイドローラ411~418と、第1及び第2のタンク421,422と、第1及び第2の電気炉431,432とを有している。第1のタンク421には、液状のワニスにフッ素系微粒子が混合された混合ワニス501が貯留されている。第2のガイドローラ412及び第3のガイドローラ413は、第1のタンク421内に配置されている。
【0024】
第2のタンク422には、分散質としてのフッ素系微粒子を液状の分散媒に分散させた分散液502が貯留されている。分散液502の分散媒としては、水系のものを好適に用いることができる。第6のガイドローラ416及び第7のガイドローラ417は、第2のタンク422内に配置されている。
【0025】
第1のガイドローラ411は、第2のガイドローラ412の上方に配置されており、送り出しリール401から送り出された金属導体2が第1のガイドローラ411を経て第1のタンク421内に進入し、混合ワニス501に浸漬される。この際、金属導体2の外周に混合ワニス501が付着する。第4のガイドローラ414は、第3のガイドローラ413の上方に配置されており、第3のガイドローラ413と第4のガイドローラ414との間に第1の電気炉431が配置されている。
【0026】
第5のガイドローラ415は、第6のガイドローラ416の上方で第4のガイドローラ414の側方に配置されている。第8のガイドローラ418は、第7のガイドローラ417の上方に配置され、第7のガイドローラ417と第8のガイドローラ418との間に第2の電気炉432が配置されている。
【0027】
金属導体2に付着した混合ワニス501は、第1の電気炉431によって加熱されて焼成され、エナメル絶縁層31が形成される。エナメル絶縁層31の焼成温度は、ベース部311が架橋される温度であり、例えば320℃である。以下、エナメル絶縁層31が形成された状態の金属導体2を、エナメル金属導体線10という。
【0028】
エナメル金属導体線10は、第4のガイドローラ414及び第5のガイドローラ415にガイドされて第2のタンク422に向かい、第6のガイドローラ416及び第7のガイドローラ417にガイドされて分散液502に浸漬される。エナメル金属導体線10に付着した分散液502は、第2の電気炉432によって乾燥及び焼成される。この際、エナメル絶縁層31の表面に露出したフッ素系微粒子に分散液502のフッ素系微粒子が溶融接合して滑剤層32が形成される。滑剤層32の焼成温度は、第1の電気炉431によるエナメル絶縁層31の焼成温度よりも高く、例えば480℃である。滑剤層32が形成された絶縁被覆電線1は、第8のガイドローラ418にガイドされて巻き取りリール402に巻き取られる。
【0029】
このように、絶縁被覆電線1の製造方法は、金属導体2に混合ワニス501を付着させて焼成し、エナメル絶縁層31を形成するエナメル絶縁層形成工程と、分散液502をエナメル絶縁層31の外周に付着させて乾燥及び焼成させ、滑剤層32を形成する滑剤層形成工程とを有している。なお、1回のエナメル絶縁層形成工程で形成されるエナメル絶縁層31の厚さが十分でない場合には、エナメル絶縁層形成工程を複数回行ってエナメル金属導体線10を製造してもよい。また、1回の滑剤層形成工程で形成される滑剤層32の厚さが十分でない場合には、滑剤層形成工程を複数回行って絶縁被覆電線1を製造してもよい。
【0030】
図4は、上記と同様のエナメル絶縁層形成工程を銅板に対して施してエナメル絶縁層31を形成したエナメル被覆銅板の表面のSEM-EDS(エネルギー分散型X線分析)画像である。ここでは、エナメル絶縁層31におけるフッ素系微粒子(ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の微粒子)の割合を概ね40wt%としている。
図4では、エナメル絶縁層31の表面においてフッ素が分布している部分が淡色で示されている。
【0031】
このようにして形成されたエナメル絶縁層31の上に、上記と同様の方法により滑剤層32を形成し、指で軽くこすってみたところ、滑剤層32がより剥がれ難いことを確認した。
【0032】
図5は、本実施の形態に係る複数の絶縁被覆電線1を用いたカテーテルチューブ100の断面図である。カテーテルチューブ100は、複数の絶縁被覆電線1をシース101によって被覆して構成されており、その先端部を含む長手方向の一部分が人体内に挿入される。複数の絶縁被覆電線1のそれぞれは、電気信号を伝送し、あるいは人体内に挿入される電子部品に動作電源を供給する。
【0033】
このようなカテーテルチューブ100は、低侵襲性を高めて被検者の負担を軽減するために、細径であることが望ましい。また、カテーテルチューブ100は、複数箇所で屈曲されながら人体内に挿入されるため、カテーテルチューブ100内で絶縁被覆電線1同士が擦れ合っても絶縁被覆層3が摩擦によって摩耗等しないことが重要である。
【0034】
本実施の形態に係る絶縁被覆電線1を用いたカテーテルチューブ100は、このような要請に応えることが可能である。また、絶縁被覆電線1では、例えば長期の使用によって仮に滑剤層32の一部が剥がれた場合であっても、その内層にエナメル絶縁層31が存在しているので、絶縁被覆電線1同士の短絡を防ぐことができる。
【0035】
また、カテーテルチューブ100の端末処理の作業性を向上するためには、複数の絶縁被覆電線1を色分けすることが望ましい。この色分けは、エナメル絶縁層31及び滑剤層32の少なくとも何れかに顔料を含有させることにより実現可能である。この顔料としては、滑剤層32の焼結時の熱の影響を受けて劣化しないように、有機顔料よりも無機顔料とすることが好ましい。滑剤層32は半透明であるため、エナメル絶縁層31のみに無機顔料を含有させた場合でも、作業時に滑剤層32の外部からエナメル絶縁層31の色を認識することが可能である。また、エナメル絶縁層31のみに無機顔料を含有させることにより、滑剤層32の滑り性を維持しながらも絶縁被覆電線1を色分けすることが可能となる。無機顔料としては、例えば酸化チタン、酸化鉄、酸化亜鉛を好適に用いることができる。
【0036】
(第1の実施の形態の作用及び効果)
以上説明した第1の実施の形態によれば、最外層である滑剤層32が滑剤としてフッ素系微粒子を有しているため、高い滑り性が得られる。また、
図2を参照して説明したように、エナメル絶縁層31のフッ素系微粒子310と滑剤層32のフッ素系微粒子320が接合することにより、エナメル絶縁層31への滑剤層32の高い密着性が得られる。つまり、本実施の形態によれば、滑り性が高く、かつ絶縁被覆層3の強度が高い絶縁被覆電線1が得られる。
【0037】
ここで、一般に、導体径が例えば50μm以下の極細の金属導体線に対しては、その外周にポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素樹脂を溶融押出にすることが困難であり、また、このような極細の金属導体線の外周に厚いエナメル層を形成した上で、その外周にフッ素樹脂を溶融押出にする場合には、電線径が太くなってしまうが、本実施の形態によれば、エナメル絶縁層31と滑剤層32との組み合わせによって絶縁被覆層3を形成することにより、細径で高い固体潤滑性を有し、かつ絶縁被覆層3の強度が高い絶縁被覆電線1を得ることができる。
【0038】
[第1の実施の形態の変形例]
エナメル絶縁層31に含まれるフッ素系微粒子をポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の微粒子とする場合、上記のように滑剤層32のフッ素系微粒子をポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の微粒子とすることにより滑剤層32の密着強度を高めることができるが、この滑剤層32に、少量(ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の微粒子よりも少ない量)のパーフルオロアルコキシアルカン(PFA)の微粒子を含ませてもよい。
【0039】
パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)は、熱による融着性が高く、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)の微粒子を滑剤層32に含有させることにより、滑剤層32のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の微粒子同士が強固に結び付けられ、滑剤層32の一部が例えば摩擦によって剥がれて薄くなってしまうことや、滑剤層32に微細なピンホールができてしまうことを抑制できる。
【0040】
滑剤層32におけるパーフルオロアルコキシアルカン(PFA)の微粒子の割合は、具体的には0.5wt%以上5.0wt%以下であるとよい。0.5wt%未満ではパーフルオロアルコキシアルカン(PFA)の微粒子を含有させることによる効果が得られにくくなるためである。滑剤層32におけるパーフルオロアルコキシアルカン(PFA)の微粒子の割合の上限値は、特に制限は無いが、例えば5.0wt%以下としてもよい。
【0041】
この変形例によれば、高い滑り性を保ちながら、絶縁被覆層3の強度をさらに高めることが可能となる。なお、このような滑剤層32は、滑剤層形成工程で用いる分散液502の分散質として、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の微粒子に加えてパーフルオロアルコキシアルカン(PFA)の微粒子を含めることにより形成することができる。
【0042】
[第2の実施の形態]
図6は、本発明の第2の実施の形態に係る絶縁被覆電線1Aの断面図である。この絶縁被覆電線1Aは、中心部に絶縁体からなる糸状の絶縁線20を備え、この絶縁線20の外周に金属導体2が被覆された構成が、第1の実施の形態に係る絶縁被覆電線1と異なる。絶縁被覆電線1Aのその他の構成や材質、金属導体2の外径D
2、ならびに絶縁被覆層3の厚さT
3、エナメル絶縁層31の厚さT
31、及び滑剤層32の厚さT
32は、第1の実施の形態と同様である。金属導体2の外径D
2は、例えば、10μm~50μmとすることが好ましい。
【0043】
絶縁線20としては、例えばポリエステル系合成繊維や、ナイロン糸を含むポリアミド系合成繊維等のフッ素樹脂の焼結温度に耐えられる樹脂繊維を用いることができる。金属導体2は、絶縁線20へのめっきによって形成されている。この場合、めっき厚さT20は、例えば0.2μm以上5.0μm以下とすることができる。めっき厚さT20が0.2μmよりも小さいと、十分な導電率が確保できず、まためっき層の強度が小さく罅割れしやすく、導通不良の原因となる。また、めっき厚さT20が5.0μmよりも大きいめっきの形成は困難であると共に、仮にめっき厚さを5.0μmよりも大きくした場合にはめっき層が硬くなって罅割れしやすく、導通不良の原因となる。
【0044】
この第2の実施の形態によっても、第1の実施の形態と同様に、滑り性が高く、かつ絶縁被覆層3の強度が高い絶縁被覆電線1Aが得られる。また、外径D2が50μm以下の金属導体2を伸線加工によって形成する場合に比較して、製造コストを低減することが可能となる。
【0045】
(実施の形態のまとめ)
次に、以上説明した実施の形態から把握される技術思想について、実施の形態における符号等を援用して記載する。ただし、以下の記載における各符号は、特許請求の範囲における構成要素を実施の形態に具体的に示した部材等に限定するものではない。
【0046】
[1]金属導体(2)の外周を絶縁被覆層(3)で被覆してなる絶縁被覆電線(1,1A)であって、前記絶縁被覆層(3)は、フッ素系微粒子(320)を滑剤として有する滑剤層(32)を最外層に有し、前記滑剤層(32)の内層にフッ素系微粒子(310)を含むエナメル絶縁層(31)を有する、絶縁被覆電線(1,1A)。
【0047】
[2]前記滑剤層(32)の前記フッ素系微粒子(320)と前記エナメル絶縁層(31)の前記フッ素系微粒子(310)とが同種のものである、上記[1]に記載の絶縁被覆電線(1,1A)。
【0048】
[3]前記滑剤層(32)及び前記エナメル絶縁層(31)の前記フッ素系微粒子(320,310)は、ポリテトラフルオロエチレンの微粒子、又はパーフルオロアルコキシアルカンの微粒子である、上記[2]に記載の絶縁被覆電線(1,1A)。
【0049】
[4]前記エナメル絶縁層(31)における前記フッ素系微粒子(310)の割合が0.5wt%以上60.0wt%以下である、上記[3]に記載の絶縁被覆電線(1,1A)。
【0050】
[5]前記エナメル絶縁層(31)の前記フッ素系微粒子(310)がポリテトラフルオロエチレンの微粒子であり、前記滑剤層(32)は、前記フッ素系微粒子(320)としてのポリテトラフルオロエチレンの微粒子に加え、パーフルオロアルコキシアルカンの微粒子を含む、上記[1]乃至[4]の何れかに記載の絶縁被覆電線(1,1A)。
【0051】
[6]前記滑剤層(32)におけるパーフルオロアルコキシアルカンの微粒子(320)の割合が0.5wt%以上5.0wt%以下である、上記[5]に記載の絶縁被覆電線(1,1A)。
【0052】
[7]前記金属導体(2)の外径(D2)が10μm以上50μm以下であり、前記絶縁被覆層(3)の厚さ(T3)が3μm以上10μm以下であり、前記滑剤層(32)の厚さ(T32)が1μm以上8μm以下であり、前記エナメル絶縁層(31)の厚さ(T31)が1μm以上8μm以下である、上記[1]に記載の絶縁被覆電線(1,1A)。
【0053】
[8]糸状の絶縁線(20)を備え、前記絶縁線(20)の外周に前記金属導体(2)が被覆されている、上記[1]に記載の絶縁被覆電線(1A)。
【0054】
[9]前記金属導体(2)は、銅、銀、及びアルミニウムの少なくとも何れかを含む合金又は単一金属からなる、上記[1]又は[8]に記載の絶縁被覆電線(1,1A)。
【0055】
[10]前記金属導体(2)は、銅、銀、及びアルミニウムの少なくとも何れかを含む合金又は単一金属の表面にめっきが施されている、上記[1]又は[8]に記載の絶縁被覆電線(1,1A)。
【0056】
[11]上記[1]に記載の絶縁被覆電線(1,1A)の製造方法であって、前記滑剤層(32)を形成する工程として、前記フッ素系微粒子(320)を液状の分散媒に分散させた分散液(502)をエナメル絶縁層(31)の外周に付着させて乾燥及び焼成させる工程を有する、絶縁被覆電線(1,1A)の製造方法。
【0057】
以上、本発明の第1及び第2の実施の形態ならびに変形例を説明したが、これらの記載は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、第1及び第2の実施の形態ならびに変形例の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。例えば、第1の実施の形態では、複数の絶縁被覆電線1をカテーテルチューブ100に用いた場合について説明したが、絶縁被覆電線1や絶縁被覆電線1Aの用途はこれに限らない。
【符号の説明】
【0058】
1,1A…絶縁被覆電線 2…金属導体
3…絶縁被覆層 31…エナメル絶縁層
32…滑剤層 310,320…フッ素系微粒子
501…混合ワニス 502…分散液