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特開2024-134757電極、電気化学素子、デバイス、移動体、電極の製造方法及び電気化学素子の製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024134757
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】電極、電気化学素子、デバイス、移動体、電極の製造方法及び電気化学素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/02 20060101AFI20240927BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20240927BHJP
   H01M 4/04 20060101ALI20240927BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20240927BHJP
   H01G 11/26 20130101ALI20240927BHJP
   H01G 11/86 20130101ALI20240927BHJP
【FI】
H01M4/02 Z
H01M4/13
H01M4/04 Z
H01M4/139
H01G11/26
H01G11/86
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023045106
(22)【出願日】2023-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(72)【発明者】
【氏名】齋賀 拓也
(72)【発明者】
【氏名】大村 知也
(72)【発明者】
【氏名】綾 大
(72)【発明者】
【氏名】白石 尚輝
(72)【発明者】
【氏名】今野 剛彰
(72)【発明者】
【氏名】草柳 嶺秀
(72)【発明者】
【氏名】萩原 弘規
(72)【発明者】
【氏名】阿部 奈緒人
【テーマコード(参考)】
5E078
5H050
【Fターム(参考)】
5E078AA06
5E078AA11
5E078AB02
5E078AB06
5E078BA06
5E078BA27
5E078BA44
5E078BA53
5E078BB33
5E078CA06
5E078CA08
5E078DA03
5E078DA06
5H050AA01
5H050AA15
5H050BA01
5H050BA08
5H050BA15
5H050BA17
5H050CA07
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB01
5H050CB02
5H050CB03
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB09
5H050CB11
5H050CB12
5H050DA19
5H050EA12
5H050EA14
5H050FA04
5H050FA10
5H050GA20
5H050GA22
5H050HA04
5H050HA05
5H050HA07
(57)【要約】
【課題】電極合材層表面の絶縁層形成により安全性を保持しつつ、電極平面方向の通液性に優れる電極の提供。
【解決手段】電極基体と、前記電極基体上に設けられた電極合材層と、前記電極合材層上に設けられた絶縁層と、を有する電極であって、前記絶縁層が、前記電極合材層を被覆する絶縁部と、前記電極の平面方向において連通し、かつ2方向以上に分岐する流路を有する流路部と、を有し、前記絶縁部による前記電極合材層の被覆率が90%以上である。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極基体と、
前記電極基体上に設けられた電極合材層と、
前記電極合材層上に設けられた絶縁層と、を有する電極であって、
前記絶縁層が、
前記電極合材層を被覆する絶縁部と、
前記電極の平面方向において連通し、かつ2方向以上に分岐する流路を有する流路部と、を有し、
前記絶縁部による前記電極合材層の被覆率が90%以上であることを特徴とする電極。
【請求項2】
前記流路部が、前記電極合材層の露出面を有する請求項1に記載の電極。
【請求項3】
前記流路部における前記電極合材層上に設けられた第2の絶縁部を有し、前記第2の絶縁部の厚みが前記絶縁部の厚みより小さい請求項1に記載の電極。
【請求項4】
正極である請求項1から2のいずれかに記載の電極。
【請求項5】
前記流路が、前記絶縁層における電解液注入側の側面から前記側面と対向する他の側面に連通する請求項1から2のいずれかに記載の電極。
【請求項6】
前記絶縁層における対向する1対の側面に連通する前記流路の最短経路が直線である請求項1から2のいずれかに記載の電極。
【請求項7】
前記流路の幅が、0.1mm以上2.0mm以下である請求項1から2のいずれかに記載の電極。
【請求項8】
前記絶縁部の平均厚みが、1μm以上30μm以下である請求項1から2のいずれかに記載の電極。
【請求項9】
前記絶縁部が、絶縁性粒子を含み、
前記絶縁性粒子の平均一次粒子径が500nm以下である請求項1から2のいずれかに記載の電極。
【請求項10】
前記絶縁部が、無機酸化物粒子を含み、
前記無機酸化物粒子が、アルミニウム、ケイ素、及びジルコニウムの少なくともいずれかを含む請求項1から2のいずれかに記載の電極。
【請求項11】
請求項1から2のいずれかに記載の電極を有することを特徴とする電気化学素子。
【請求項12】
請求項11に記載の電気化学素子を有することを特徴とするデバイス。
【請求項13】
請求項11に記載の電気化学素子を有することを特徴とする移動体。
【請求項14】
電極基体上に電極合材層が設けられた基材における前記電極合材層上に、絶縁材料を含む液体組成物を付与して絶縁部と流路部とを有する絶縁層を形成する絶縁層形成工程、を含む電極の製造方法であって、
前記絶縁部が、前記電極合材層を被覆し、前記絶縁部による前記電極合材層の被覆率が90%以上であり、
前記流路部が、前記電極の平面方向において連通し、かつ2方向以上に分岐する流路を有することを特徴とする電極の製造方法。
【請求項15】
請求項14に記載の電極の製造方法により電極を製造する電極製造工程と、
前記電極を用いて電気化学素子を製造する素子化工程と、を含むことを特徴とする電気化学素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極、電気化学素子、デバイス、移動体、電極の製造方法及び電気化学素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気化学素子の高出力化、高容量化に伴い、蓄えられたエネルギーが起こす安全上の問題が課題となっている。リチウムイオン電池などの蓄電素子に用いられる正極と負極からなる各電極においては、金属箔などの電極基体上に電極合材層が形成され、そして正極と負極の接触を防ぐため正極-負極間にリチウムイオン透過性のセパレータが設けられている。
【0003】
このようなセパレータとしては、主に、熱可塑性樹脂からなるフィルムセパレータが使用されている。しかしながら、フィルムセパレータは、耐熱性が低く、正極-負極間の短絡が生じた際に発生する熱により、フィルムセパレータが収縮又は溶融して短絡箇所が拡大しやすいという問題がある。
そこで、内部ショートの発生を抑制でき、薄くても取り扱いが容易となり、内部抵抗の低減に有効な電気二重層キャパシタセパレータとして、電気絶縁性をもつセラミックス粉末粒子が電解液に耐性のあるバインダで結合されており、且つ、電気二重層キャパシタの正極および/または負極の表面に一体的に接合されており、厚み方向に連通する多孔性である電気二重層キャパシタセパレータが開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、電極合材層表面の絶縁層形成により安全性を保持しつつ、電極平面方向の通液性に優れる電極を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するための手段としての本発明の電極は、電極基体と、前記電極基体上に設けられた電極合材層と、前記電極合材層上に設けられた絶縁層と、を有する電極であって、前記絶縁層が、前記電極合材層を被覆する絶縁部と、前記電極の平面方向において連通し、かつ2方向以上に分岐する流路を有する流路部と、を有し、前記絶縁部による前記電極合材層の被覆率が90%以上である。
【発明の効果】
【0006】
本発明によると、電極合材層表面の絶縁層形成により安全性を保持しつつ、電極平面方向の通液性に優れる電極を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、本実施形態の電極の一例を示す概略断面図である。
図2図2は、本実施形態の電極の他の例を示す概略断面図である。
図3A図3Aは、本実施形態の電極における絶縁層の2方向分岐の流路パターンの一例を示す模式図である。
図3B図3Bは、本実施形態の電極における絶縁層の3方向分岐の流路パターンの一例を示す模式図である。
図3C図3Cは、本実施形態の電極における絶縁層の流路パターンの他の例を示す模式図である。
図4A図4Aは、本実施形態の電極における絶縁層の流路パターンの一例を示す模式図である。
図4B図4Bは、本実施形態の電極における絶縁層の流路パターンの他の例を示す模式図である。
図4C図4Cは、本実施形態の電極における絶縁層の流路パターンの他の例を示す模式図である。
図4D図4Dは、本実施形態の電極における絶縁層の流路パターンの他の例を示す模式図である。
図4E図4Eは、本実施形態の電極における絶縁層の流路パターンの他の例を示す模式図である。
図4F図4Fは、本実施形態の電極における絶縁層の流路パターンの他の例を示す模式図である。
図4G図4Gは、本実施形態の電極における絶縁層の流路パターンの他の例を示す模式図である。
図4H図4Hは、本実施形態の電極における絶縁層の流路パターンの他の例を示す模式図である。
図5A図5Aは、本実施形態の電極における絶縁層の流路パターンの他の例を示す模式図である。
図5B図5Bは、本実施形態の電極における絶縁層の流路パターンの他の例を示す模式図である。
図5C図5Cは、本実施形態の電極における絶縁層の流路パターンの他の例を示す模式図である。
図5D図5Dは、本実施形態の電極における絶縁層の流路パターンの他の例を示す模式図である。
図5E図5Eは、本実施形態の電極における絶縁層の流路パターンの他の例を示す模式図である。
図5F図5Fは、本実施形態の電極における絶縁層の流路パターンの他の例を示す模式図である。
図5G図5Gは、本実施形態の電極における絶縁層の流路パターンの他の例を示す模式図である。
図5H図5Hは、本実施形態の電極における絶縁層の流路パターンの他の例を示す模式図である。
図5I図5Iは、本実施形態の電極における絶縁層の流路パターンの他の例を示す模式図である。
図6A図6Aは、比較例1の電極における絶縁層の流路パターンを示す模式図である。
図6B図6Bは、比較例2の電極における絶縁層の流路パターンを示す模式図である。
図6C図6Cは、比較例3の電極における絶縁層の流路パターンを示す模式図である。
図6D図6Dは、比較例4の電極における絶縁層の流路パターンを示す模式図である。
図6E図6Eは、比較例5の電極における絶縁層の流路パターンを示す模式図である。
図6F図6Fは、比較例6の電極における絶縁層の流路パターンを示す模式図である。
図7図7は、本実施形態の電極の製造方法の一例を示す模式図である。
図8図8は、本実施形態の電極の製造装置の他の一例を示す模式図である。
図9図9は、本実施形態の電極の製造方法の一例を示す模式図である。
図10図10は、液体吐出装置の変形例の一例を示す模式図である。
図11図11は、本実施形態の電極の製造方法の一例を示す模式図である。
図12図12は、液体吐出装置の変形例の一例を示す模式図である。
図13図13は、本実施形態の電気化学素子の一例を示す断面図である。
図14図14は、本実施形態の移動体の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
(電極)
本発明の電極は、電極基体と、前記電極基体上に設けられた電極合材層と、前記電極合材層上に設けられた絶縁層と、を有する電極であって、前記絶縁層が、前記電極合材層を被覆する絶縁部と、前記電極の平面方向において連通し、かつ2方向以上に分岐する流路を有する流路部と、を有し、前記絶縁部による前記電極合材層の被覆率が90%以上である。
【0009】
本発明の電極は、本発明者らが、以下の従来技術における問題点を見出したことに基づく発明である。
すなわち、正極-負極間の短絡を防ぐためには、電極合材層の表面をすべて絶縁層で被覆することが望ましいが、従来技術の電気二重層キャパシタセパレータでは、電極合材層の表面に絶縁層が形成されると、電極合材層-フィルムセパレータ間にあった隙間に絶縁性の粒子が充填されるため、電池化の際に、絶縁性の粒子が充填された分だけ電解液の量が減少する。特に、多重積層して隙間を減らした電極では、電池の組み立て時に電極平面方向の電解液の通液性が悪化し、電解液が行き渡らない部分が生じたり、気泡が閉じ込められたりすることによりイオン透過が妨げられるという問題がある。これら電解液の通液性の悪化によって生産性が低下するだけでなく、電池性能が低下してしまうという問題がある。
【0010】
<絶縁層>
前記絶縁層は、前記電極合材層を被覆する絶縁部と、前記電極の平面方向において連通し、かつ2方向以上に分岐する流路を有する流路部と、を有し、前記絶縁部による前記電極合材層の被覆率が90%以上である。
前記絶縁部が前記電極合材層の表面の90%以上を被覆する(被覆率が90%以上である)ことにより、正極-負極間の短絡の発生を抑制することができる。絶縁層の流路部は、電解液の通り道として電極の平面方向に連通しており、流路部が絶縁層にパターン形成されることで、電極合材層-セパレータ間に電解液が効率よく浸透可能となる。また、流路が2方向以上の分岐を有することで、流路が閉塞した場合であっても電解液が迂回して浸透可能となるため、流路の閉塞が生じやすいような細い流路部であっても優れた通液性を発揮することができる。
【0011】
ここで、図1の概略断面図に示すように、電極10は、電極基体1と、電極基体1上に電極合材層2と、電極合材層2上に絶縁層3と、を有する。絶縁層3は、電極合材層2を被覆する絶縁部3aと、電極10の平面方向において連通し、かつ2方向以上に分岐する流路(又は空隙)を有する流路部3bと、を有する。絶縁部3aによる電極合材層2の被覆率は、90%以上である。
一実施形態において、図1に示すように、流路部3bは、電極合材層2の露出面を有する。また、別の実施形態において、図2に示すように、流路部3bは、流路部3bにおける電極合材層2上に第2の絶縁部3cを有し、第2の絶縁部3cの厚みが絶縁部3aの厚みより小さい態様である。
【0012】
図3Aの概略平面図に示すように、絶縁層3は、電極合材層2を被覆する絶縁部3aと、電極10の平面方向において連通し、かつ2方向に分岐する流路(又は空隙)を有する流路部3bと、を有する。また、図3Bに示すように、絶縁層3が、3方向に分岐する流路を有する流路部3bを有してもよい。
図3Cに示す、2方向の分岐、3方向の分岐、4方向の分岐、又は5方向の分岐を有する流路は、いずれも実施形態の「2方向以上に分岐する流路」の一例である。
なお、図3Cに示す、流路閉塞(連通なし)又は分岐なしの流路は、本実施形態の「2方向以上に分岐する流路」には該当しないが、本実施形態の電極は、本発明の効果を妨げない限り、このような流路を有していてもよい。
【0013】
絶縁部及び流路部から形成されるパターンとしては、図4A~Hに示すパターン、図5A~Iに示すパターンなどが好適に挙げられる。
ここで、図4~6は、絶縁層が形成された電極の一部を上面から模式的に示した上面図であり、図4~6において、白色部分は絶縁部を示し、黒色部分は流路部(又は電極合材層の露出面)を示す。
具体的には、三角形(図4A)、ひし形(図4B)、ハニカム(図4C)、鱗片(図4D)、丸と直線のコンビネーション(図4E)、縦はしご状(図4F)、横はしご状(図4G)、横レンガ(又は横長の長方形、図4H)、麻の葉形状(図5A)、七宝形状(図5B)、ヘリンボーン形状(図5C)、分銅繋ぎ形状(図5D)、レンガ積み形状(又は縦長の長方形、図5E)、籠目形状(図5F)、モロッカン形状(図5G)、三崩し形状(図5H)、桧垣形状(図5I)などの形状を組み合わせたパターンが好適に挙げられる。
【0014】
一方、図6A~Fに示すパターンは、後述する実施例における比較例1~6において用いたパターンであり、いずれも本実施形態の電極における絶縁層を満たさない態様である。
具体的には、絶縁層なし/未塗工の態様(図6A)、絶縁層全塗工により流路部を有しない態様(図6B)、分岐を有しないジグザグ形状の流路を有する態様(図6C)、ランダムな海島形状の絶縁部であり連通する流路を有しない態様(図6D)、格子状の絶縁部であり連通する流路を有しない態様(図6E)、及び市松模様状の絶縁部であり連通する流路を有しない態様(図6F)である。
【0015】
絶縁層は、特に制限はなく目的に応じて、正極及び負極の一方に設けられていてもよく、また、正極及び負極の両方に設けられていてもよい。
また、一実施形態において、電極が正極であることが好ましい。すなわち、絶縁層が正極に設けられることが好ましい。正極が正極に接触した例えばポリオレフィンなどからなる樹脂フィルムセパレータを有する場合、電池の充電により樹脂フィルムセパレータが徐々に炭化するため、樹脂フィルムセパレータから徐々に電荷が漏れ出し、電池性能の劣化に繋がる。絶縁層が正極に設けられた場合、この樹脂フィルムセパレータの炭化を防ぐ点で好ましい。
また、一実施形態において、電極が負極であることが好ましい。すなわち、絶縁層が負極に設けられることが好ましい。大きさの異なる正極と負極とを積層する場合、電極の外周端部(エッジ部)には特に強い圧力がかかるため、電池内部で短絡が発生して発火などの危険性がある。負極の大きさが正極よりも大きい場合であり、絶縁層を負極に設けた場合、内部短絡による熱の発生を穏やかにし、安全性が向上する点で好ましい。
【0016】
<<絶縁部>>
絶縁部は、絶縁層に形成されたパターンのうち、絶縁体で電極合材層表面を被覆した塗膜であり、電極積層方向の断面から観察した絶縁層の厚み方向に対して、後述する流路部よりも厚みが大きい部分を指す。
【0017】
[絶縁部の形状]
絶縁層における絶縁部の形状は、電極全体に均一に電解液を通液する観点から、同じ形状の絶縁部同士が流路部を介して離間して、繰り返し配置されるパターンであることが好ましい。また、電極の大きさや電解液の流入口を多く確保する目的などに合わせて、2つ以上の形状の組み合わせからなる絶縁部同士が流路部を介して離間して、繰り返し配置されるパターンを有していてもよい。
また、絶縁部における端部eは、積層した際の圧力を分散する点から、丸みを帯びた形状であることが好ましい。絶縁部の角部が鋭利な場合、圧力で端部eに負荷がかかって破損したときに隣接する流路部を閉塞する恐れがある。
【0018】
[被覆率]
絶縁層は、電極合材層の対向電極側の表面を被覆しており、その被覆率(電極合材層の被覆割合)は合計90%以上である。絶縁層が電極合材層表面の90%以上を被覆することで、短絡の発生を防ぐ優れた効果が発揮される。また電極合材層とセパレータが直に接触することを減らすことが出来るため、特に樹脂フィルムセパレータの酸化劣化を抑制し、フロート特性が向上する。被覆率は92%以上がより好ましく、95%以上がさらに好ましい。
【0019】
前記被覆率は、絶縁層の表面を光学顕微鏡や走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、明度や色相に基づく解析画像で算出することができる。なお、画像解析としては、電極合材層上の絶縁層による被覆部分と非被覆部分とが区別できる手法乃至条件であればよく、特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができる。
その他の手法としては、例えば、フーリエ変換顕微赤外分光(顕微FT-IR)を用いた成分マッピング手法やエネルギー分散型X線分光法(EDS)による元素分析を用いた解析を用いてもよい。
【0020】
[絶縁部の平均厚み]
前記絶縁部の平均厚みは、電極における断面観察画像から測定することができる。
2液型エポキシ樹脂(埋込用エポキシ樹脂53型、株式会社三啓製)を混合後に真空脱泡した液に、絶縁層を形成した電極(試験片)を5mm角に切り出したものを含浸した。エポキシ樹脂が浸透した電極を平滑なポリテトラフルオロエチレン板で挟み、40℃の恒温槽で12時間硬化させる。エポキシ樹脂が硬化した後、電極をガラス板上にマスキングテープで固定し、断面を観察する絶縁層と逆側の面に76カミソリ(日新EM株式会社製)の刃を垂直に押し当てて切断する。更に、切断した試料の断面にクロスセクションポリッシャー(SM-09010、日本電子株式会社製)を用い、加速電圧5.0kV、ビーム電流120μA、加工時間180分間の条件で仕上げ加工を行う。
走査型電子顕微鏡(SEM)(Merlin、カールツァイス株式会社製)を用いて、TLD、反射電子組成像、倍率2500倍、WD5.0mm、加速電圧2.0kV、視野幅50.8μmの条件で断面を撮影する。
撮影した画像をTIFF画像にて出力し、画像編集ソフトウェアGIMP 2.10.32(GNU GPL)を用い、画像の明度差で絶縁部の面積を算出し、その面積を膜厚と垂直方向の画素数で除することにより厚みを算出する。視野範囲を変えた画像3枚の算出結果の平均値を測定値とする。
【0021】
絶縁部の平均厚みとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1μm以上が好ましく、また、30μm以下が好ましい。
平均厚みの下限値は、安全性と流路部の通液性が向上する点で、1μm以上が好ましく、2μm以上がより好ましく、4μm以上が更に好ましい。
平均厚みの上限値としては、正極と負極の間隔が小さくなるためイオンの移動が容易になり、充電効率が向上することで副反応を抑制してフロート特性が向上する点で、30μm以下が好ましく、20μm以下がより好ましく、10μm以下が更に好ましい。
【0022】
絶縁部は、正極と負極を隔離し、かつ正極と負極との間のイオン伝導性を確保する多孔質構造体であり、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、絶縁性粒子とバインダとを含む組成物から形成される多孔質構造体であってもよく(第1の実施形態)、重合性化合物と液体とを含む液体組成物が重合してなる多孔質樹脂であってもよい(第2の実施形態)。
【0023】
[第1の実施形態:絶縁性粒子を含む絶縁部]
絶縁部が、絶縁性粒子とバインダとを含む組成物から形成される多孔質構造体である場合、多孔質構造体は、複数の絶縁性粒子同士がバインダによって結着することで骨格を形成した多孔質構造を有することが好ましい。
【0024】
-絶縁性粒子-
絶縁性粒子としては、電気的に絶縁性の高い粒子であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、無機酸化物粒子、樹脂粒子などが挙げられる。
これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、絶縁性粒子の耐熱性、及び電気化学素子の安全性の観点から無機酸化物粒子が好ましい。
【0025】
--無機酸化物粒子--
無機酸化物粒子としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、工業的に合成又は粉砕加工された粒子、セラミックス粒子、鉱物資源由来の粒子などが挙げられる。
無機酸化物粒子としては、例えば、酸化アルミニウム、二酸化チタン、チタン酸バリウム、二酸化ジルコニウム、酸化ニッケル、酸化マンガン、二酸化バナジウム、二酸化ケイ素、コージェライト、ステアタイト、フォルステライト、ムライト、ゼオライトなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、電気抵抗の大きさや安定性の観点から、高純度の合成品が好ましく、アルミニウム、ケイ素、及びジルコニウムの少なくともいずれかを含むことがより好ましく、特に高純度の酸化アルミニウム(α-アルミナ)が更に好ましい。
【0026】
酸化アルミニウムの市販品としては、例えば、高純度アルミナ AKPシリーズ AKP-15、AKP-20、AKP-30、AKP-50、AKP-53、AKP-700、AKP-3000、AKP-G07、AKP-G15等(以上、いずれも住友化学株式会社製);α-アルミナ スミコランダムTMシリーズ スミコランダムTMAA-03、AA-04、AA-05、AA-07、AA-1.5等(以上、いずれも住友化学株式会社製);アルミナ LSシリーズ LS-235、LS-235C、LS-711、LS-711C、LS-500、LS-250等(以上、いずれも日本軽金属株式会社製);板状アルミナ粉体 セラフシリーズ SERATH00610、SERATH02025等(以上、いずれもキンセイマテック株式会社製);高純度アルミナ タイミクロン(TM)シリーズ TM-DA、TM-DAR、TM-5D等(以上、いずれも大明化学工業株式会社製);などが挙げられる。
【0027】
二酸化ケイ素の市販品としては、例えば、フュームドシリカ AEROSILTMシリーズ 50、90G、130、200、200V、200CF、200FAD、300、300CF、R972、R976、W7520等(以上、いずれも日本アエロジル株式会社製);シリカ球状微粒子 シーホスターTMKEシリーズ E10、E30、W10、W30、W50、P10、P30、P50等(以上、いずれも株式会社日本触媒製);SYLOJETTMシリーズ(GRACE DAVISON社製);スノーテックスTMシリーズ(日産化学株式会社製);などが挙げられる。
【0028】
酸化ジルコニウム化合物の市販品としては、例えば、ジルコニア粉末 トレセラムTMシリーズ 3YI-R、3YLB等(以上、いずれも東レ株式会社製)、ジルコニアナノ粒子 ジルコスターTMシリーズ ZP-153、HR-101等(以上、いずれも株式会社日本触媒製);などが挙げられる。
【0029】
--樹脂粒子--
前記樹脂粒子としては、熱硬化性樹脂、耐熱性や耐薬品性の比較的高い熱可塑性樹脂などが好適に挙げられ、例えば、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、シリコン-アクリル樹脂などが挙げられる。
【0030】
樹脂粒子の市販品としては、例えば、メラミン樹脂とシリカからなる複合球状粒子 オプトビーズTMシリーズ 500S、2000M等(以上、いずれも日産化学株式会社製);メラミン/ベンゾグアナミン樹脂微粒子 エポスターTMシリーズ SS、S、FS、S6、S12等(以上、いずれも株式会社日本触媒製);などが挙げられる。
【0031】
<一次粒子径>
前記絶縁性粒子の一次粒子径は、絶縁性粒子の一次粒子(単体)の平均直径を意味する。絶縁性粒子が球形以外の粒子の場合、そのアスペクト比に関わらず粒子の直径の最も長い部分(最長径)を一次粒子径とする。
絶縁性粒子の平均一次粒子径としては、500nm以下が好ましい。
前記絶縁性粒子の平均一次粒子径が、500nm以下であると、流路部のパターン形成が精密になるため通液性が向上する。加えて、電極が正極である場合、絶縁部の厚みが均一になるためフロート特性が向上する点で有利である。
また、絶縁性粒子の粒子径が均一で粗大粒子を含まず、絶縁層が一次粒子径1μm以下の絶縁性粒子のみを含むことが好ましい。
前記平均一次粒子径は、具体的には、絶縁部の表面に対して、もしくは絶縁部の平均厚み測定と同様に電極を加工した断面に対して、走査型電子顕微鏡(Merlin、カールツァイス株式会社製)を用いて、画像を取得し、一次粒子の直径又は最長径の計測値の平均から算出することができる。
【0032】
-バインダ-
前記バインダとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、アクリル樹脂、スチレンブタジエンゴム樹脂、ポリフッ化ビニリデン、ポリビニルピロリドンなどが挙げられる。
【0033】
-分散剤-
絶縁性粒子とバインダとを含む絶縁部形成用の組成物は、絶縁性粒子を溶媒中に均一に分散させるために、更に分散剤を含んでもよい。
前記分散剤としては、例えば、界面活性剤や吸着基を有する高分子化合物などが挙げられる。
分散剤の市販品としては、例えば、フッ素系界面活性剤 メガファックTMシリーズ F173、F444、F470等(以上、いずれもDIC株式会社製);高分子型分散剤マリアリムTMシリーズ AAB-0851、AFB-1521、AKM-0531、AWS-0851、HKM-50A、SC-0708A、SC-0505K、SC-1015F等(以上、いずれも日油株式会社製);湿潤分散剤 ディスパーTMシリーズ DISPERBYK-103、DISPERBYK-2000(BYK-Chemie社製);などが挙げられる。
【0034】
絶縁層形成用の組成物の製造方法としては、特に限定されないが、絶縁性粒子が溶媒中に均一に分散されていることが好ましい。例えば、絶縁性粒子を溶媒A中に加え、分散機を使用して分散液を得た後、得られた分散液にバインダや任意に分散剤などを溶解させた溶媒Bを加えて希釈することにより、製造することができる。溶媒Aと溶媒Bは同じ溶媒を用いてもよく、異なるものを用いてもよい。
【0035】
分散液の製造方法として、例えば、溶媒、絶縁性粒子、任意に分散剤などを予備攪拌した後、分散機にて行う方法などが挙げられる。
分散機としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ホモミキサー、ホモジナイザー、超音波分散機、ボールミル、ビーズミル、キャビテーションミルなどが挙げられる。
【0036】
[第2の実施形態:多孔質樹脂]
絶縁部は、重合性化合物と液体とを含む液体組成物が重合してなる多孔質樹脂であってもよい。
重合化合物、液体の詳細、及び多孔質樹脂の製造方法については、後述する本発明の電極の製造方法において説明する。
【0037】
絶縁部としての多孔質樹脂は、特に限定されないが、液体や気体の良好な浸透性を確保する観点から、樹脂の硬化物の三次元分岐網目構造を骨格として有し、多孔質樹脂中の複数の孔が連続して連結している共連続構造(モノリス構造とも称する)を有することが好ましい。すなわち、多孔質樹脂は多数の孔を有しており、一つの孔がその周囲の他の孔と連結した連通性を有して三次元的に広がっていることが好ましい。孔同士が連通することで、液体や気体の浸み込みが十分に起き、物質分離や反応場といった機能を効率的に発現することができる。ここで、「共連続構造」とは、2種以上の物質乃至相が、それぞれ連続構造を有し、界面を形成しない構造を意味し、本実施形態においては、樹脂相と空孔相とが共に三次元分岐網目連続相となっている構造を意味する。
このような構造は、例えば、液体組成物を重合誘起相分離法によって重合することにより形成することができる。
【0038】
共連続構造を有し、空孔が連通していることを確認する方法としては、例えば、多孔質絶縁層の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)等により画像観察し、空孔同士の繋がりが連続していることを確認する方法が挙げられる。また、空孔が連通していることで得られる物性の一つとして透気度が挙げられる。
【0039】
[透気度]
多孔質樹脂の透気度は、1,000秒/100mL以下が好ましく、500秒/100mL以下がより好ましく、300秒/100mL以下が更に好ましい。
前記透気度は、JIS P8117に準拠して測定される透気度であり、例えば、ガーレー式デンソメーター(株式会社東洋精機製作所製)等を用いて測定することができる。
一例として、透気度が1,000秒/100mL以下であることをもって空孔が連通していると判断してもよい。
【0040】
前記多孔質樹脂が有する孔の断面形状としては、略円形状、略楕円形状、略多角形状等の様々な形状及び様々な大きさであって構わない。ここで、孔の大きさとは、断面形状における最も長い部分の長さを指すものとする。孔の大きさは、走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影した断面写真から求めることができる。
【0041】
前記多孔質樹脂の有する孔の大きさとしては、特に限定はなく、目的に応じて適宜選択できるが、液体や気体の浸透性の観点から、0.01μm以上10μm以下が好ましい。空孔の大きさが0.1μm以上10μm以下であることで、多孔質構造体において液体や気体の浸み込みが十分に起き、物質分離や反応場といった機能を効率的に発現させることができる。また、多孔質樹脂を蓄電素子の絶縁層として用いる場合、空孔の大きさが10μm以下であることで、蓄電素子の内部で発生するリチウムデンドライドによる正極と負極の間の短絡を防止することができ、安全性が向上する。
多孔質樹脂の有する孔の大きさ及び空隙率をこれらの範囲にする方法としては、特に限定されないが、例えば、液体組成物中における重合性化合物の含有量を上記の範囲に調整する方法、液体組成物中におけるポロジェンの含有量を上記の範囲に調整する方法、及び活性エネルギー線の照射条件を調整する方法などが挙げられる。
【0042】
<<流路部>>
流路部は、電極の平面方向において連通し、かつ2方向以上に分岐する流路を有する。
ここで、流路とは、絶縁層に形成されたパターンのうち、絶縁部に比べ通液性が高く、電解液の通り道となる部分であり、空隙部分を意味する。
一態様として、流路部が、前記電極合材層の露出面を有してもよく、別の態様として、流路部における電極合材層上に設けられた第2の絶縁部を有し、第2の絶縁部の厚みが絶縁部の厚みより小さい態様であってもよい。言い換えると、流路部は、絶縁部が形成されていない空隙部分(絶縁部の塗膜が非塗工部分)であってもよく、第2の絶縁部の塗工量が少ない凹部分、即ち、厚み方向において絶縁部より厚みが小さい部分であってもよい。
また、第2の絶縁部の材料は、前記絶縁部の材料と同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0043】
上述の通り、流路部は、電極の平面方向において連通し、かつ2方向以上に分岐する流路を有する。流路は、その経路上に2方向以上に分岐する分岐(分岐路)を有し、例えば、図3A~Cに示すような、2方向以上の分岐の1種又は複数の組み合わせが繰り返し配置される形状の流路を有する。
流路部は、Z方向(厚み方向)から視たときに略直線及び/又は略曲線とすることで、前述のように絶縁部による被覆率を90%以上とすることが可能となる。
【0044】
「流路部が電極の平面方向において連通する」とは、電極端部における絶縁層の1の側面から、前記絶縁層の他の側面まで、平面方向(電極積層方向)に流路を形成する空隙部分が連通することを意味する。「他の側面」としては、前記「1の側面」に対して、対向する側面であってもよく、隣り合う側面であってもよく、対向する側面及び隣り合う側面の複数の側面であってもよい。
また、例えば絶縁層が円形に形成されている場合は、円周上の所定の1点から、前記所定の1点とは異なる別の円周上の1点まで、平面方向(電極積層方向)に流路を形成する空隙部分が連通することを意味する。
【0045】
これらの中でも、流路部は、電極を電気化学素子化する際に行われる電解液の注入工程において、絶縁層における電解液注入側の側面から前記側面と対向する他の側面に連通することが好ましい。すなわち、電極端部の電解液の流入側から流出側まで平面方向(電極積層方向)に連通していることが好ましい。
例えば、長方形の電極を積層した積層型の電気化学素子の場合、電極端部の絶縁層における電解液注入側の側面から前記側面と対向する他の側面に流路部が連通していると、積層された電極内部に電解液が行き渡りやすく、電解液の通液性が向上する。また、帯状の電極を巻回した巻回型の電気化学素子の場合、巻回と直角方向に連通している、すなわち、絶縁層における電解液注入側の側面から前記側面と対向する他の側面に流路部が連通していると、積層型の電気化学素子の場合と同様に、電解液の通液性が向上する。
【0046】
前記絶縁層における対向する1対の側面に連通する前記流路の最短経路としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、短いことが好ましく、直線であることがより好ましい。
前記最短経路の長さとしては、前記絶縁層における対向する1対の側面の距離に対し、2倍以下が好ましく、1.75倍以下がより好ましく、1.5倍以下が更に好ましく、1.2倍以下が特に好ましく、前記距離と同じであること、すなわち、流路が1対の側面の最短距離を直線的に連通する直線であることが最も好ましい。
【0047】
流路部は、電極の平面方向において連通する流路において、1の流路(例えば、電解液の流入方向)とは別に2方向以上の分岐路を1つ以上有する。
流路が2方向以上の分岐を有することで、流路が閉塞した場合であっても、電解液が迂回して浸透可能となる。このような2方向以上に分岐する流路が絶縁層にパターン形成されることで、電極合材層及び絶縁層の間に電解液が均一に行き渡り、優れた電極平面方向の電解液の通液性を発揮する。したがって、活物質の脱落や絶縁部を構成する材料の脱落などにより、流路が閉塞した場合であっても、良好な通液性を奏することができる。
【0048】
分岐の数としては、2方向以上であり、3方向以上がより好ましい。3方向以上とすることにより、前述のように良好な通液性を奏することができることに加え、例えば、電極形成又は電気化学素子の製造において行われるプレス工程の際に絶縁部にかかる力を複数方向に分散させることができ、強度の高い電極とすることができる。
また、1の流路から分岐した2方向以上の分岐路は、当該分岐点以外の点で再び合流するよう形成されていることが好ましい。このような構成とすることにより、流路が閉塞した場合であっても、電極全体に電解液が均一に行き渡り、優れた電極平面方向の電解液の通液性を発揮することができる。
【0049】
流路部の出現頻度としては、電極の大きさやパターン形状によって適宜選択可能であるが、電解液の通液方向(電解液注入側と電解液流出側を結ぶ方向)の最短経路10mmあたり、1つ以上の分岐点が出現することが好ましく、2つ以上がより好ましく、3つ以上が更に好ましい。
絶縁部による被覆率が90%以上の範囲内であれば、流路部の出現頻度が多いほど電解液が行き渡りやすいため通液性が向上する。
【0050】
流路部の幅としては、均一であることが好ましく、0.1mm以上2.0mm以下の幅が好ましく、0.2mm以上1.5mm以下がより好ましく、0.3mm以上1.0mm以下が更に好ましい。
前記流路部の幅が0.1mm以上であると、流路の閉塞が発生しにくくなるため通液性が向上し、2.0mm以下であると、活物質の露出が減るため絶縁性が向上する。
また、流路の幅は、絶縁部の最大長の50%以下であることが好ましい。絶縁部の最大長の半分より大きくなると、絶縁部における電極合材層の被覆率を稼ぐことが困難となる。ここで、「絶縁部の最大長」とは、流路により囲まれた絶縁部の1つの形状パターンについて、平面視したときの2次元形状の最大長を意味する。
【0051】
また、流路部の態様としては、流路部における電極合材層上に設けられた第2の絶縁部を有し、第2の絶縁部の厚みが絶縁部の厚みより小さい態様であってもよく、絶縁層に流路部を設ける際、絶縁部と流路部に膜厚差をつける形で流路部のパターンを形成してもよい。
流路部が第2の絶縁部を有することにより、フロート特性が向上する。第2の絶縁部の材料は、前記絶縁部の材料と同じであってもよく、異なっていてもよい。
第2の絶縁部の平均厚みとしては、絶縁部の平均厚みより小さく、絶縁部の平均厚みに対し、2μm以上20μm以下小さいことが好ましい。絶縁部の平均厚みに対する第2の絶縁部の平均厚みの差が、2μm以上であると、流路部に空間が確保されるため電解液の通液性が向上し、20μm以下であると、正極と負極の間隔が小さくなるためイオンの移動が容易になり電池特性が向上する。
【0052】
流路(空隙)の断面形状としては、流路の長手方向と垂直な平面上の断面における流路の形状として、長方形、上部が開いた台形、上部が開いた扇形が好ましい。これらの形状では、電極合材層に接する絶縁部の面積が大きくなり、例えば、電極形成又は電気化学素子の製造において行われるプレス工程の際に、絶縁部の破損を防ぐことができ、したがって、破損した絶縁部が流路を塞ぐことを防ぐことができる。
【0053】
流路部が第2の絶縁部を有する場合、流路部における第2の絶縁部の多孔質構造の骨格密度と、絶縁部の多孔質構造の骨格密度との差としては、20%以下が好ましく、15%以下がより好ましく、10%以下がさらに好ましい。前記差が20%以下であると、電気化学素子にした際に流路部のリチウムイオン透過性が損なわれることなく、電池特性が向上する。
前記第2の絶縁部乃至絶縁部の多孔質構造の骨格密度は、具体的には、走査型電子顕微鏡Merlin、カールツァイス株式会社製)を用いて、絶縁層の断面観察と画像解析により求めることができる。絶縁部の平均厚みと同様の方法で絶縁層の断面を撮影し、撮影した画像をTIFF画像にて出力し、画像編集ソフトウェアGIMP 2.10.32(GNU GPL)を用い、樹脂骨格部分と空隙部分の画像の明暗から絶縁層の骨格部分の割合を骨格密度として算出する。
なお、GIMPの操作画面において絶縁層が厚み方向にすべて含まれるように範囲を選択して明度でヒストグラム化し、例えば256階調における明度を70(しきい値)に設定して、骨格に該当する明度の画素数の割合をパーセントで算出する。同様に視野範囲を変えた画像5枚の算出結果の平均値を骨格密度の測定値とする。
【0054】
<電極(第1の電極、第2の電極)>
前記電極は、電極基体と、電極合材層と、絶縁層と、を有する。
負極と正極とを総称して「電極」と称し、負極用電極基体(負極基体)と正極用電極基体(正極基体)とを総称して「電極基体」と称し、負極合材層と正極合材層とを総称して「電極合材層」と称する。
また、第1の電極が負極であった場合は第2の電極は正極を指し、第1の電極が正極であった場合は第2の電極は負極を指す。
【0055】
<電極基体>
前記電極基体としては、平面性及び導電性を有する基体であれば特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができる。
電極基体の形状としては、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができるが、板状又は箔状であると表面と裏面の両方に電極活物質を塗布して電極化するだけでなく、複数の電極を積層して電池容量を増加させることができるため好ましい。
電極基体表面は導電性の観点から金属類が好ましく、例えば、ニッケル、アルミニウム、銅、チタン等の金属類;これらの金属類をエッチングして微細な穴を開けたエッチド箔や、リチウムイオンキャパシターに用いられる穴あき電極基体などが挙げられる。また、上記に加えてガラスやプラスチック等の平面基体上に、導体や半導体薄膜を形成したものや、導電性電極膜を薄く蒸着したものを用いることができる。
【0056】
<電極合材層>
電極合材層は、活物質を含み、更に必要に応じて、バインダ、導電助剤、分散剤、分散媒、非水電解液、固体電解質、ゲル電解質などのその他の成分を含んでもよい。
【0057】
-活物質-
前記活物質としては、正極活物質又は負極活物質を用いることができる。なお、正極活物質又は負極活物質は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0058】
前記正極活物質としては、アルカリ金属イオンを可逆的に吸蔵及び放出できる材料であれば特に制限はないが、アルカリ金属含有遷移金属化合物を用いることができる。
前記アルカリ金属含有遷移金属化合物としては、例えば、コバルト、マンガン、ニッケル、クロム、鉄及びバナジウムからなる群より選択される1種以上の元素とリチウムとを含む複合酸化物等のリチウム含有遷移金属化合物が挙げられる。
前記リチウム含有遷移金属化合物としては、例えば、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウムなどが挙げられる。
前記アルカリ金属含有遷移金属化合物としては、結晶構造中にXO4四面体(X=P,S,As,Mo,W,Si等)を有するポリアニオン系化合物も用いることができる。これらの中でも、サイクル特性の点で、リン酸鉄リチウム、リン酸バナジウムリチウム等のリチウム含有遷移金属リン酸化合物が好ましく、リチウム拡散係数、出力特性の点で、リン酸バナジウムリチウムが特に好ましい。
なお、ポリアニオン系化合物は、電子伝導性の点で、炭素材料等の導電助剤により表面が被覆されて複合化されていることが好ましい。
【0059】
ナトリウム含有遷移金属化合物としては、例えば、NaMO型の酸化物、亜クロム酸ナトリウム(NaCrO)、鉄酸ナトリウム(NaFeO)、ニッケル酸ナトリウム(NaNiO)、コバルト酸ナトリウム(NaCoO)、マンガン酸ナトリウム(NaMnO)、又はバナジウム酸ナトリウム(NaVO)などが挙げられる。Mの一部はMとNa以外の金属元素、例えば、Cr、Ni、Fe、Co、Mn、V、Ti、及びAlよりなる群から選択される少なくとも一種で置換されていてもよい。
また、ナトリウム含有金属酸化物として、NaPOF、NaVPOF、NaCoPO、NaNiPO、NaMnPO、NaMn1.5Ni0.5、又はNa(PO等を用いることもできる。
【0060】
負極活物質は、Liイオン又はNaイオン等のアルカリ金属イオンと合金化する金属を、吸蔵及び脱離できる材料を用いることができる。このような材料としては、遷移金属とLiとの複合酸化物、金属酸化物、合金系材料、又は遷移金属硫化物等の無機化合物、炭素材料、有機化合物、Li金属、及びNa金属などが挙げられる。
【0061】
複合酸化物としては、LiMnO、LiMn、チタン酸リチウム(LiTi12、LiTi)、マンガンチタン酸リチウム(LiMg1/2Ti3/2)、コバルトチタン酸リチウム(LiCo1/2Ti3/2)、亜鉛チタン酸リチウム(LiZn1/2Ti3/2)、鉄チタン酸リチウム(LiFeTiO)、クロムチタン酸リチウム(LiCrTiO)、ストロンチウムチタン酸リチウム(LiSrTi14)、又はバリウムチタン酸リチウム(LiBaTi14)等が挙げられる。
【0062】
ナトリウム複合酸化物としては、チタン酸ナトリウムが挙げられ、例えばNaTi又はNaTi12等が挙げられる。チタン酸ナトリウムのTi又はNaの一部を他元素で置換してもよい。そのような元素として、例えば、Ni、Co、Mn、Fe、Al、及びCrよりなる群から選択される少なくとも一種が挙げられる。
【0063】
金属酸化物としては、TiO、NbTiO、WO、MoO、MnO、V、SiO、SiO、又はSnO等が挙げられる。
【0064】
合金系材料として、Al、Si、Sn、Ge、Pb、As、又はSb等が挙げられる。遷移金属硫化物としては、FeS、又はTiS等が挙げられる。炭素材料として、黒鉛、難黒鉛化炭素、又は易黒鉛化炭素等が挙げられる。無機化合物には、上記の複合酸化物の遷移金属を異種元素で置換した化合物を用いてもよい。
【0065】
-バインダ-
バインダは、正極材料同士若しくは負極材料同士の結着、又は、正極材料若しくは負極材料と電気伝導層との結着が、分散剤又は電解質材料で十分でない場合に加えることで、結着力を確保することができる。バインダは、結着力を付与できれば特に制限はないが、インクジェットの吐出性の観点から粘度の上昇しない化合物がよい。バインダは、モノマー化合物を付与後に高分子化させるか、又は高分子粒子を用いる方法がある。また、液体組成物の粘度を上昇させない材料としては、分散媒に分散することが可能な高分子化合物等を用いることができる。
また、分散媒に溶解することが可能な高分子化合物を用いる場合は、高分子化合物が分散媒に溶解している液体組成物が、液体吐出ヘッドから吐出することが可能な粘度であればよい。
【0066】
モノマー化合物を用いる例としては、重合可能部位を持つ化合物と重合開始剤又は触媒を含み、重合可能部位を持つ化合物とが溶解している分散液を塗布した後に、加熱する方法;非電離放射線、電離放射線、若しくは赤外線を照射する方法などが挙げられる。
重合可能部位を持つ化合物において、重合部位は分子内に一つでもよく、多官能でもよい。なお、多官能の重合性化合物とは、重合性基を2個以上有する化合物を意味する。多官能の重合性化合物は、加熱、又は、非電離放射線、電離放射線、若しくは赤外線の照射によって重合することが可能であれば、特に制限はない。
多官能の重合性化合物としては、例えば、アクリレート樹脂、メタアクリレート樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル、エポキシ樹脂、オキセタン樹脂、ビニルエーテル、又はエン-チオール反応を活用した樹脂等が挙げられる。これらの中でも、生産性の観点から、アクリレート樹脂、メタアクリレート樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、又はビニルエステル樹脂が好ましい。
【0067】
高分子粒子を構成する材料としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン、アクリル樹脂、ポリアミド化合物、ポリイミド化合物、ポリアミドイミド、エチレン-プロピレン-ブタジエンゴム(EPBR)、スチレン-ブタジエン共重合体、ニトリルブタジエンゴム(HNBR)、イソプレンゴム、ポリイソブテン、ポリエチレングリコール(PEO)、ポリメチルメタクリル酸(PMMA)、ポリエチレンビニルアセテート(PEVA)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリウレタン、ナイロン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエチレンテフタレート、ポリブチレンテフタレートなどが挙げられる。
【0068】
高分子化合物としては、例えば、ポリアミド化合物、ポリイミド化合物、ポリアミドイミド、エチレン-プロピレン-ブタジエンゴム(EPBR)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、ニトリルブタジエンゴム(NBR)、イソプレンゴム、ポリイソブテン、ポリエチレングリコール(PEO)、ポリメチルメタクリル酸(PMMA)、ポリエチレンビニルアセテート(PEVA)などが挙げられる。
【0069】
活物質に対するバインダの質量比は、10%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましい。活物質に対するバインダの質量比が10%以下であると、吐出性を損なうことなく、電極形成時の結着力が向上する。
【0070】
-導電助剤-
導電助剤は、予め活物質と複合化してもよいし、分散液を調製するときに添加してもよい。
導電助剤としては、例えば、ファーネス法、アセチレン法、又はガス化法等により形成された導電性カーボンブラックの他、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ、グラフェン、又は黒鉛粒子等の炭素材料を用いることができる。
炭素材料以外の導電助剤としては、例えば、アルミニウム等の金属粒子、又は金属繊維を用いることができる。
活物質に対する導電助剤の質量比は、10質量%以下が好ましく、8質量%以下がより好ましい。活物質に対する導電助剤の質量比が10%以下であると、分散液の安定性が向上する。
【0071】
-分散剤-
分散剤としては、分散媒中の活物質、高分子粒子、又は導電助剤の分散性を向上させることが可能であれば、特に制限はないが、例えば、ポリカルボン酸系、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合系、ポリエチレングリコール、ポリカルボン酸部分アルキルエステル系、ポリエーテル系、ポリアルキレンポリアミン系等の高分子型;アルキルスルホン酸系、四級アンモニウム系、高級アルコールアルキレンオキサイド系、多価アルコールエステル系、アルキルポリアミン系等の界面活性剤型;ポリリン酸塩系等の無機型;などが挙げられる。
【0072】
(電極の製造方法、及び電極の製造装置)
本発明の電極の製造方法は、電極基体上に電極合材層が設けられた基材における前記電極合材層上に、絶縁材料を含む液体組成物を付与して絶縁部と流路部とを有する絶縁層を形成する絶縁層形成工程を含む。
前記絶縁部が、前記電極合材層を被覆し、前記絶縁部による前記電極合材層の被覆率が90%以上であり、前記流路部が、前記電極の平面方向において連通し、かつ2方向以上に分岐する流路を有する。
本発明の電極の製造装置は、絶縁材料を含む液体組成物が収容された収容容器と、電極基体上に電極合材層が設けられた基材における前記電極合材層上に、絶縁材料を含む液体組成物を付与して絶縁部と流路部とを有する絶縁層を形成する絶縁層形成手段を有する。
本発明の電極の製造方法は、絶縁層形成工程を含み、電極合材層形成工程を含むことが好ましく、更に必要に応じて、その他の工程を有する。
本発明の電極の製造装置は、絶縁層形成手段を有し、電極合材層形成手段を有することが好ましく、更に必要に応じて、その他の手段を有する。
【0073】
<収容容器>
前記収容容器は、絶縁材料を含む液体組成物と、容器とを含み、前記容器に前記液体組成物が収容された収容容器である。
容器としては、例えば、ガラス瓶、プラスチック容器、プラスチックボトル、ステンレスボトル、一斗缶、ドラム缶などが挙げられる。
【0074】
<電極合材層形成工程、及び電極合材層形成手段>
電極合材層形成工程は、電極基体上に電極合材層を形成する工程であり、電極合材層形成手段により好適に実施できる。
電極合材層形成手段は、電極基体上に電極合材層を形成する手段である。
前記電極合材層は、電極合材層形成用の液体組成物を用い、電極基体上に電極合材層用の液体組成物を付与することにより形成することができる。
【0075】
-電極合材層形成用の液体組成物-
前記液体組成物は、活物質、及び分散媒を含有し、更に必要に応じて、導電助剤、分散剤などのその他の成分を含有する。
これらの成分については、本発明の電極の電極合材層において説明した事項を適宜選択することができる。
【0076】
前記液体組成物の塗布方法として、例えば、コンマコータ方式、ダイコーター方式、カーテンコート方式、スプレーコート方式、液体吐出方式(インクジェット方式、IJ方式)等を目的に応じて用いることができる。
【0077】
前記液体組成物塗布した後、溶媒を乾燥させるために加熱処理を設けてもよい。
加熱を行う方法としては、特に制限はないが、例えば、抵抗加熱ヒーター、赤外線ヒーター、ファンヒーター等で塗工面を加熱する方法、ホットプレート、ドラムヒーターなど塗工面の裏側から乾燥させる方法が挙げられる。塗工面を均一に加熱乾燥する観点から、塗工面を非接触で乾燥可能な抵抗加熱ヒーター、赤外線ヒーター、ファンヒーターが好ましい。これらの加熱機構は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0078】
加熱温度としては、特に制限はないが、電極基体や電極合材層の活物質を保護する観点から、70℃以上150℃以下であることが好ましい。
【0079】
負極合材層の平均厚みとしては、10μm~450μmが好ましく、20μm~100μmがより好ましい。負極合材層の平均厚みが10μm以上であると、電気化学素子のエネルギー密度が向上し、450μm以下であると、電気化学素子の負荷特性が向上する。
【0080】
正極合材層の平均厚みとしては、10μm~300μmが好ましく、40μm~150μmがより好ましい。正極合材層の平均厚みが20μm以上であると、電気化学素子のエネルギー密度が向上し、300μm以下であると、電気化学素子の負荷特性が向上する。
【0081】
正極基体及び/または負極基体の両面に、電極合材層及び絶縁層が形成されていてもよい。なお、電極素子の充放電容量を増やすために電極を多重積層もしくは電極を巻回して重ねてもよい。正極や負極の積層数には特に制限はなく、必要に応じて増やすことができる。
【0082】
<絶縁層形成工程、及び絶縁層形成手段>
前記絶縁層形成工程は、電極基体上に電極合材層が設けられた基材における前記電極合材層上に、絶縁材料を含む液体組成物を付与して絶縁部と流路部とを有する絶縁層を形成する工程であり、絶縁層形成手段により好適に実施できる。
前記絶縁層形成手段は、電極基体上に電極合材層が設けられた基材における前記電極合材層上に、絶縁材料を含む液体組成物を付与して絶縁部と流路部とを有する絶縁層を形成する手段である。
前記絶縁部が、前記電極合材層を被覆し、前記絶縁部による前記電極合材層の被覆率が90%以上であり、前記流路部が、前記電極の平面方向において連通し、かつ2方向以上に分岐する流路を有する。
【0083】
前記液体組成物としては、前記電極における絶縁部において説明したように、絶縁性粒子とバインダとを含む組成物であってもよく、重合性化合物と液体とを含む液体組成物であってもよく、いずれも好適に適用することができる。
ここで、絶縁性粒子、及び重合性化合物が重合してなる多孔質樹脂が、それぞれ絶縁材料として機能する。
【0084】
[第1の実施形態:絶縁性粒子とバインダとを含む液体組成物]
前記液体組成物が、絶縁性粒子とバインダとを含む場合には、絶縁層の形成方法としては、例えば、絶縁性粒子とバインダとを含む組成物を、電極合材層上に付与した後、乾燥させる方法などが挙げられる。
【0085】
前記液体組成物を付与する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、インクジェット方式、スクリーンプリント方式、グラビア印刷方式、オフセット印刷方式などが挙げられる。これらの中でも、電極合材層に非接触かつオンデマンドで高密度な塗工パターンを形成可能であり、塗布量による膜厚の調節が容易である点でインクジェット方式が好ましい。
【0086】
絶縁層用の液体組成物を付与した後、溶媒を乾燥させるために加熱処理を設けてもよい。 加熱する方法としては、特に制限はないが、電極合材層形成工程において説明した加熱する方法と同様の方法を適宜選択することができる。
【0087】
加熱温度としては、特に制限はないが、70℃以上150℃以下が好ましい。加熱温度が70℃以上であると、絶縁層の加熱により強度が増加するため好ましく、150℃以下であると、絶縁層表面の突沸由来の気泡を防ぐことができるため好ましい。
【0088】
[第2の実施形態:重合性化合物と液体とを含む液体組成物]
前記液体組成物が、重合性化合物と液体とを含む場合には、後述の通り、付与工程、重合工程を含む多孔質樹脂の製造方法により、絶縁層及び絶縁部としての多孔質樹脂を形成することができる。
【0089】
多孔質樹脂の製造方法としては、重合性化合物と液体とを含む液体組成物を付与する付与工程と、付与された液体組成物層を重合させて多孔質樹脂を形成する重合工程と、を含み、更に必要に応じて、重合工程後に、多孔質樹脂から液体を除去する除去工程などのその他の工程を有してもよい。
【0090】
-付与工程-
付与工程は、電極合材層上に液体組成物を付与する工程である。付与された液体組成物は、電極合材層上に液体組成物の液膜である液体組成物層を形成することが好ましい。
【0091】
前記付与工程としては、液体組成物を付与できるものであれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイアーバーコート法、ディップコート法、スリットコート法、キャピラリーコート法、スプレーコート法、ノズルコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、反転印刷法、インクジェット印刷法等の各種印刷方法に応じた任意の印刷装置を用いることができる。これらの中でも、インクジェット印刷法が好ましい。これによって必要となる箇所に対して精度よく樹脂層を形成することできる。
【0092】
-液体組成物-
液体組成物は、多孔質樹脂を形成するための液体組成物であって、重合性化合物、及び液体を含み、更に必要に応じて、重合開始剤などのその他の成分を含む。
液体組成物を攪拌しながら測定した波長550nmにおける光透過率が、30%以上であり、前記液体組成物を重合して作製したヘイズ測定用素子におけるヘイズ値の上昇率が、1.0%以上であることが好ましい。
液体組成物は、重合により樹脂を骨格とする多孔質樹脂を形成する。
ここで、「液体組成物が多孔質樹脂を形成する」とは、液体組成物中において多孔質樹脂が形成される場合だけでなく、液体組成物中において多孔質樹脂の前駆体(例えば、多孔質樹脂の骨格部)が形成され、その後の工程(例えば、加熱工程等)で多孔質樹脂が形成される場合等も含む意味である。
【0093】
--重合性化合物--
前記重合性化合物は、重合することにより樹脂を形成し、液体組成物の組成及び特徴により多孔質樹脂を形成する。
前記重合性化合物は、重合することにより重合物(樹脂)を形成する限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜公知の重合性化合物を選択することができるが、少なくとも1つのラジカル重合性官能基を有することが好ましい。
【0094】
前記重合性化合物としては、例えば、1官能、2官能、又は3官能以上のラジカル重合性モノマー、ラジカル重合性オリゴマー等のラジカル重合性化合物;重合性官能基以外の官能基を更に有する機能性モノマー、機能性オリゴマーなどが好適に挙げられる。これらの中でも、2官能以上のラジカル重合性化合物が好ましい。
前記重合性化合物の重合性基としては、(メタ)アクリロイル基、及びビニル基の少なくともいずれかが好ましく、(メタ)アクリロイル基がより好ましい。
前記重合性化合物が、エネルギー照射によって重合可能であることが好ましく、熱又は光により重合可能であることがより好ましい。
【0095】
重合性化合物により形成される樹脂は、活性エネルギー線の付与(例えば、光の照射や加熱)等で形成される網目状の構造体を有する樹脂であることが好ましく、例えば、アクリレート樹脂、メタアクリレート樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、オキセタン樹脂、ビニルエーテル樹脂、エン-チオール反応により形成される樹脂などが好適に挙げられる。
これらの中でも、反応性の高いラジカル重合を利用して構造体を形成することが容易な点から、(メタ)アクリロイル基を有する重合性化合物により形成される樹脂であるアクリレート樹脂、メタアクリレート樹脂、ウレタンアクリレート樹脂がより好ましく、また、生産性の観点から、ビニル基を有する重合性化合物により形成される樹脂であるビニルエステル樹脂がより好ましい。
これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。2種以上を併用する場合、重合性化合の組み合わせとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、柔軟性付与のため、ウレタンアクリレート樹脂を主成分として他の樹脂を混合することが好ましい。なお、アクリロイル基及びメタクリロイル基の少なくともいずれかを有する重合性化合物を、(メタ)アクリロイル基を有する重合性化合物と称する。
【0096】
前記活性エネルギー線としては、液体組成物中の重合性化合物の重合反応を進める上で必要なエネルギーを付与できるものであれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択でき、例えば、紫外線、電子線、α線、β線、γ線、X線などが挙げられる。これらの中でも紫外線が好ましい。特に高エネルギーな光源を使用する場合には、重合開始剤を使用しなくても重合反応を進めることができる。
【0097】
前記1官能のラジカル重合性化合物としては、例えば、2-(2-エトキシエトキシ)エチルアクリレート、メトキシポリエチレングリコールモノアクリレート、メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート、フェノキシポリエチレングリコールアクリレート、2-アクリロイルオキシエチルサクシネート、2-エチルヘキシルアクリレート、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、2-エチルヘキシルカルビトールアクリレート、3-メトキシブチルアクリレート、ベンジルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、イソアミルアクリレート、イソブチルアクリレート、メトキシトリエチレングリコールアクリレート、フェノキシテトラエチレングリコールアクリレート、セチルアクリレート、イソステアリルアクリレート、ステアリルアクリレート、スチレンモノマーなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0098】
前記2官能のラジカル重合性化合物としては、例えば、1,3-ブタンジオールジアクリレート、1,4-ブタンジオールジアクリレート、1,4-ブタンジオールジメタクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、EO変性ビスフェノールAジアクリレート、EO変性ビスフェノールFジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、トリシクロデカンジメタノールジアクリレートなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0099】
前記3官能以上のラジカル重合性化合物としては、例えば、トリメチロールプロパントリアクリレート(TMPTA)、トリメチロールプロパントリメタクリレート、EO変性トリメチロールプロパントリアクリレート、PO変性トリメチロールプロパントリアクリレート、カプロラクトン変性トリメチロールプロパントリアクリレート、HPA変性トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート(PETTA)、グリセロールトリアクリレート、ECH変性グリセロールトリアクリレート、EO変性グリセロールトリアクリレート、PO変性グリセロールトリアクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPHA)、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジペンタエリスリトールヒドロキシペンタアクリレート、アルキル変性ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、アルキル変性ジペンタエリスリトールテトラアクリレート、アルキル変性ジペンタエリスリトールトリアクリレート、ジメチロールプロパンテトラアクリレート(DTMPTA)、ペンタエリスリトールエトキシテトラアクリレート、EO変性リン酸トリアクリレート、2,2,5,5-テトラヒドロキシメチルシクロペンタノンテトラアクリレートなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0100】
前記重合性化合物の含有量は、液体組成物の総量に対して、5.0質量%以上70.0質量%以下が好ましく、10.0質量%以上50.0質量%以下がより好ましく、20.0質量%以上40.0質量%以下が更に好ましい。
前記含有量が70.0質量%以下である場合、得られる多孔質体の空孔の大きさが数nm以下と小さくなりすぎず、多孔質体が適切な空隙率を有し、液体や気体の浸透が起きにくくなる傾向を抑制することができるので好ましい。また、前記含有量が5.0質量%以上である場合、樹脂の三次元的な網目構造が十分に形成されて多孔質構造が十分に得られ、得られる多孔質構造の強度も向上する傾向が見られるため好ましい。
【0101】
--液体--
前記液体は、ポロジェンを含み、更に必要に応じて、ポロジェン以外のその他の液体を含む。
前記ポロジェンは、重合性化合物と相溶する液体であって、かつ、液体組成物中において重合性化合物が重合していく過程で重合物(樹脂)と相溶しなくなる(相分離を生じる)液体である。液体組成物中にポロジェンが含まれることで、重合性化合物が重合した場合に、多孔質樹脂を形成する。また、光又は熱によってラジカル又は酸を発生する化合物(後述する重合開始剤)を溶解可能であることが好ましい。
液体乃至ポロジェンは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
なお、本実施形態において、液体は重合性を有さない。
【0102】
ポロジェンの1種単独としての沸点又は2種以上を併用した場合の沸点としては、常圧において、50℃以上250℃以下が好ましく、70℃以上200℃以下がより好ましく、120℃以上190℃以下が更に好ましい。沸点が50℃以上であることにより、室温付近におけるポロジェンの気化が抑制されて液体組成物の取扱が容易になり、液体組成物中におけるポロジェンの含有量の制御が容易になる。また、沸点が250℃以下であることにより、重合後のポロジェンを除去する工程における時間が短縮され、多孔質樹脂の生産性が向上する。また、多孔質樹脂の内部に残存するポロジェンの量を抑制することができるので、多孔質樹脂を物質間の分離を行う物質分離層や反応場としての反応層などの機能層として利用する場合に、品質が向上する。
【0103】
ポロジェンとしては、例えば、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル等のエチレングリコール類;γブチロラクトン、炭酸プロピレン等のエステル類;N,N-ジメチルアセトアミド等のアミド類;などを挙げることができる。また、テトラデカン酸メチル、デカン酸メチル、ミリスチン酸メチル、テトラデカン等の比較的分子量の大きな液体も挙げることができる。また、アセトン、2-エチルヘキサノール、1-ブロモナフタレン等の液体も挙げることができる。
【0104】
なお、上記の例示された液体であれば常にポロジェンに該当するわけではない。
ポロジェンとは、上記の通り、重合性化合物と相溶する液体であって、かつ液体組成物中において重合性化合物が重合していく過程で生じる重合物(樹脂)と相溶しなくなる(相分離を生じる)液体である。言い換えると、ある液体がポロジェンに該当するか否かは、重合性化合物及び重合物(重合性化合物が重合することにより形成される樹脂)との関係で決まる。
また、液体組成物は、重合性化合物との間で上記の特定の関係を有するポロジェンを少なくとも1種類含有していればよいため、液体組成物作製時の材料選択の幅が広がり、液体組成物の設計が容易になる。液体組成物作製時の材料選択の幅が広がることで、多孔質構造の形成以外の観点で液体組成物に求められる特性がある場合に、対応の幅が広がる。例えば、液体組成物をインクジェット方式で吐出する場合、多孔質形成以外の観点として、吐出安定性等を有する液体組成物であることが求められるが、材料選択の幅が広いため、液体組成物の設計が容易になる。
【0105】
前記液体乃至ポロジェンの含有量としては、液体組成物全量に対して、30.0質量%以上95.0質量%以下が好ましく、50.0質量%以上90.0質量%以下がより好ましく、60.0質量%以上80.0質量%以下が更に好ましい。
前記液体乃至ポロジェンの含有量が30.0質量%以上である場合、得られる多孔質体の空孔の大きさが数nm以下と小さくなりすぎず、多孔質体が適切な空隙率を有し、液体や気体の浸透が起きにくくなる傾向を抑制することができるので好ましい。また、前記液体乃至ポロジェンの含有量が95.0質量%以下である場合、樹脂の三次元的な網目構造が十分に形成されて多孔質構造が十分に得られ、得られる多孔質構造の強度も向上する傾向が見られるため好ましい。
【0106】
液体組成物中における重合性化合物の含有量とポロジェンの含有量の質量比(重合性化合物:ポロジェン)は、1.0:0.4~1.0:19.0が好ましく、1.0:1.0~1.0:9.0がより好ましく、1.0:1.5~1.0:4.0が更に好ましい。
【0107】
--その他の成分--
---重合開始剤---
前記液体組成物は、重合開始剤などのその他の成分を含んでもよい。
前記重合開始剤は、光や熱等のエネルギーによって、ラジカルやカチオンなどの活性種を生成し、重合性化合物の重合を開始させることが可能な材料である。重合開始剤としては、例えば、公知のラジカル重合開始剤、カチオン重合開始剤、塩基発生剤などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、光ラジカル重合開始剤が好ましい。
【0108】
光ラジカル重合開始剤としては、特に制限はなく、公知の光ラジカル発生剤を目的に応じて適宜選択することができ、例えば、商品名イルガキュアやダロキュアで知られるミヒラーケトンやベンゾフェノンのような光ラジカル重合開始剤、アセトフェノン誘導体などが挙げられる。
具体的な化合物としては、例えば、α-ヒドロキシ-アセトフェノン、α-アミノアセトフェノン、4-アロイル-1,3-ジオキソラン、ベンジルケタール、2,2-ジエトキシアセトフェノン、p-ジメチルアミノアセトフェン、p-ジメチルアミノプロピオフェノン、ベンゾフェノン、2-クロロベンゾフェノン、pp’-ジクロロベンゾフェン、pp’-ビスジエチルアミノベンゾフェノン、ミヒラーケトン、ベンジル、ベンゾイン、ベンジルジメチルケタール、テトラメチルチウラムモノサルファイド、チオキサントン、2-クロロチオキサントン、2-メチルチオキサントン、アゾビスイソブチロニトリル、ベンゾインパーオキサイド、ジ-tert-ブチルパーオキサイド、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-1-オン、1-(4-イソプロピルフェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン、メチルベンゾイルフォーメート、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾインn-ブチルエーテル、ベンゾインn-プロピル、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタノン-1、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン、ビス(η5-2,4-シクロペンタジエン-1-イル)-ビス(2,6-ジフルオロ-3-(1H-ピロール-1-イル)-フェニル)チタニウム、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド、2-メチル-1[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モリフォリノプロパン-1-オン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン(ダロキュア1173)、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチル-ペンチルフォスフィンオキサイド、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オンモノアシルホスフィンオキシド、ビスアシルホスフィンオキシド;チタノセン、フルオレセン、アントラキノン、チオキサントン;キサントン、ロフィンダイマー、トリハロメチル化合物;ジハロメチル化合物、活性エステル化合物、有機ホウ素化合物などが挙げられる。
【0109】
更に、ビスアジド化合物のような光架橋型ラジカル発生剤を同時に含有させても構わない。また、熱のみで重合させる場合は、通常のラジカル発生剤であるazobisisobutyronitrile(AIBN)等の熱重合開始剤を使用することができる。
【0110】
重合開始剤の含有量としては、十分な硬化速度が得られる点で、重合性化合物の総質量を100.0質量%とした場合に、0.05質量%以上10.0質量%以下が好ましく、0.5質量%以上5.0質量%以下がより好ましい。
【0111】
液体組成物は、液体組成物中に分散物を含まない非分散系組成物であっても、液体組成物中に分散物を含む分散系組成物であってもよいが、非分散系組成物であることが好ましい。
【0112】
[重合誘起相分離]
多孔質樹脂は、重合誘起相分離により形成される。重合誘起相分離は、重合性化合物とポロジェンは相溶するが、重合性化合物が重合していく過程で生じる重合物(樹脂)とポロジェンは相溶しない(相分離を生じる)状態を表す。相分離により多孔質体を得る方法は他にも存在するが、重合誘起相分離の方法を用いることで、網目構造を有する多孔質体を形成できるために、薬品や熱に対する耐性の高い多孔質体が期待できる。また、他の方法と比較して、プロセス時間が短く、表面修飾が容易といったメリットも挙げられる。
【0113】
次に、重合性化合物を含む液体組成物による、重合誘起相分離を用いた多孔質樹脂の形成プロセスについて説明する。重合性化合物は、光照射等により重合反応を生じて樹脂を形成する。このプロセスの間、成長中の樹脂におけるポロジェンに対する溶解度が減少し、樹脂とポロジェンの間における相分離が生じる。最終的に、樹脂は、ポロジェン等が孔を満たし、樹脂骨格による共連続構造を有する多孔質構造を形成する。これを乾燥すると、ポロジェン等は除去され、三次元網目構造の共連続構造を有する多孔質樹脂が残る。そのため、適切な空隙率を有する多孔質樹脂を形成するため、ポロジェンと重合性化合物との相溶性、及びポロジェンと重合性化合物が重合することにより形成される樹脂との相溶性が検討される。
【0114】
[光透過率]
前記液体組成物を攪拌しながら測定した波長550nmにおける光透過率は、30%以上である。
ポロジェンと重合性化合物との相溶性は、前記光透過率により判断することができる。
前記光透過率が30%以上である場合を、液体がポロジェンを含み、重合性化合物とポロジェンとが相溶の状態、30%未満である場合を、重合性化合物と液体とが非相溶の状態であると判断する。
【0115】
前記光透過率は、具体的には以下の方法により測定することができる。
まず、液体組成物を石英セルに注入し、攪拌子を用いて300rpmで攪拌させながら、以下の条件により、液体組成物の波長550nmにおける光(可視光)の透過率を測定する。
・石英セル:スクリューキャップ付き特殊ミクロセル(商品番号:42016、株式会社ミトリカ製)
・透過率測定装置:Ocean Optics社製USB4000
・攪拌速度:300rpm
・測定波長:550nm
・リファレンス:石英セル内が空気の状態で、波長550nmにおける光の透過率を測定して取得する(透過率:100%)
【0116】
[ヘイズ値の上昇率]
前記液体組成物を重合して作製したヘイズ測定用素子におけるヘイズ値の上昇率が、1.0%以上である。
ポロジェンと重合性化合物が重合することにより形成される樹脂との相溶性は、前記ヘイズ値の上昇率により判断することができる。
前記ヘイズ値の上昇率が1.0%以上である場合を、液体がポロジェンを含み、樹脂とポロジェンとが非相溶の状態、1.0%未満である場合を、樹脂と液体とが相溶の状態であると判断する。
ヘイズ測定用素子におけるヘイズ値は、重合性化合物が重合することにより形成される樹脂とポロジェンとの相溶性が低いほど高くなり、相溶性が高いほど低くなる。また、ヘイズ値が高いほど重合性化合物が重合することにより形成される樹脂が多孔質構造を形成しやすくなることを示す。
【0117】
前記ヘイズ値の上昇率は、具体的には、前記液体組成物を重合して作製した平均厚み100μmのヘイズ測定用素子の重合前後におけるヘイズ値の上昇率であり、以下の方法により測定することができる。
-ヘイズ測定用素子の作製-
まず、無アルカリガラス基板上に、スピンコートによりギャップ剤としての樹脂微粒子を基板上に均一分散させる。続いて、ギャップ剤を塗布した基板を、ギャップ剤を塗布していない無アルカリガラス基板と、ギャップ剤を塗布した面を挟むようにして互いに貼り合わせる。次に、液体組成物を、貼り合わせた基板間に毛細管現象を利用して充填し、「UV照射前ヘイズ測定用素子」を作製する。続いて、UV照射前ヘイズ測定用素子にUV照射して液体組成物を硬化させる。最後に基板の周囲を封止剤で封止することで「ヘイズ測定用素子」を作製する。ギャップ剤のサイズ(平均粒子径100μm)がヘイズ測定用素子の平均厚みに相当する。作製時の諸条件を以下に示す。
・無アルカリガラス基板:日本電気硝子株式会社製、40mm、t=0.7mm、OA-10G
・ギャップ剤:積水化学工業株式会社製、樹脂微粒子ミクロパールGS-L100、平均粒子径100μm
・スピンコート条件:分散液滴下量150μL、回転数1000rpm、回転時間30s
・充填した液体組成物量:160μL
・UV照射条件:光源としてUV-LEDを使用、光源波長365nm、照射強度30mW/cm、照射時間20s
・封止剤:TB3035B(Three Bond社製)
【0118】
-ヘイズ値(曇り度)の測定-
次に、作製したUV照射前ヘイズ測定用素子とヘイズ測定用素子を用いてヘイズ値(曇り度)を測定する。UV照射前ヘイズ測定用素子における測定値をリファレンス(ヘイズ値0)とし、ヘイズ測定用素子における測定値(ヘイズ値)のUV照射前ヘイズ測定用素子における測定値に対する上昇率を算出する。
なお、測定に用いる装置を以下に示す。
・ヘイズ測定装置:Haze meter NDH5000 日本電色工業株式会社製
【0119】
[液体組成物の製造方法]
液体組成物の製造方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、重合開始剤を重合性化合物に溶解させる工程、ポロジェンや他の成分を更に溶解させる工程、及び均一な溶液とするために攪拌する工程などを経て作製することが好ましい。
【0120】
[液体組成物の粘度]
液体組成物の粘度は、液体組成物を付与する際の作業性の観点から25℃において、1.0mPa・s以上150.0mPa・s以下が好ましく、1.0mPa・s以上30.0mPa・s以下がより好ましく、1.0mPa・s以上25.0mPa・s以下が特に好ましい。 液体組成物の粘度が1.0mPa・s以上30.0mPa・s以下であることにより、液体組成物をインクジェット方式に適用する場合においても、良好な吐出性が得られる。
ここで、粘度は、例えば、粘度計(装置名:RE-550L、東機産業株式会社製)などを使用して測定することができる。
【0121】
-重合工程-
前記重合工程は、液体組成物層を重合させて多孔質樹脂を形成する工程である。
重合する方法としては、重合性化合物の重合反応を進める上で必要なエネルギーを付与できるものであれば、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができ、例えば、紫外線、電子線、α線、β線、γ線、X線、赤外線等の光照射;加熱などが挙げられる。
【0122】
-除去工程-
除去工程は、重合工程後に、多孔質樹脂から液体を除去する工程である。
液体を除去する方法としては特に限定されず、例えば、加熱することにより多孔質樹脂から液体を除去する方法が挙げられる。このとき、減圧下で加熱することで液体の除去がより促進され、多孔質樹脂中における液体の残存を抑制できるので好ましい。
【0123】
<その他の工程>
前記電極の製造方法におけるその他の工程としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、打ち抜き加工等により所望の大きさに電極を裁断する裁断工程などが挙げられる。
【0124】
[基材に液体組成物を直接的に付与することで絶縁層を形成する実施形態]
図7は、本実施形態の電極の製造方法を実現するための電極の製造装置の一例を示す模式図である。
図7の電極の製造装置500は、上記した液体組成物を用いて絶縁層を製造する装置である。電極の製造装置500は、印刷基材34上に、液体組成物を付与して液体組成物層を形成する付与処理を実施する印刷部100と、必要に応じて加熱部200とを備える。電極の製造装置500は、印刷基材34を搬送する搬送部35を備え、搬送部35は、印刷部100、必要に応じて加熱部200の順に印刷基材34をあらかじめ設定された速度で搬送する。
印刷基材4は、電極基体上に設けられた電極合材層である。
【0125】
-印刷部100-
印刷部10は、印刷基材34上に絶縁層を形成するための液体組成物を付与する付与工程を実現する付与手段であるインクジェット印刷法に応じた任意の印刷装置31aと、液体組成物を収容する収容容器31bと、収容容器31bに貯留された液体組成物を印刷装置31aに供給する供給チューブ31cを備える。
収容容器31bは液体組成物37を収容し、印刷部100は、印刷装置31aから液体組成物37を吐出して、印刷基材34上に液体組成物37を付与して液体組成物層を薄膜状に形成する。なお、収容容器31bは、電極の製造装置と一体化した構成であってもよいが、電極の製造装置から取り外し可能な構成であってもよい。また、電極の製造装置と一体化した収容容器や電極の製造装置から取り外し可能な収容容器に添加するために用いられる容器であってもよい。
収容容器31bや供給チューブ31cは、液体組成物7を安定して貯蔵および供給できるものであれば任意に選択可能である。
【0126】
-加熱部200-
加熱部200は、図7に示すように、加熱装置33aを有し、印刷部100により形成した液体組成物層を加熱装置33aにより加熱して、残存する液体を乾燥させて除去する液体除去工程を行う。これにより絶縁層を形成することができる。加熱部200は、液体除去を減圧下で実施してもよい。
加熱装置33aは、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、基板加熱、IRヒーター、温風ヒーターなどが挙げられ、これらを組み合わせてもよい。
また、加熱温度や時間に関しては、液体組成物層に含まれる液体の沸点や形成膜厚に応じて適宜選択可能である。
【0127】
図8は、本実施形態の電極の製造方法を実現するための電極の製造装置(液体吐出装置)の他の一例を示す模式図である。
液体吐出装置300’は、ポンプ3101と、バルブ311、312を制御することにより、液体組成物が液体吐出ヘッド306、タンク307、チューブ308を循環することが可能である。
また、液体吐出装置300’は、外部タンク313が設けられており、タンク307内の液体組成物が減少した際に、ポンプ3101と、バルブ311、312、314を制御することにより、外部タンク313からタンク307に液体組成物を供給することも可能である。
前記電極の製造装置を用いると、吐出対象物の狙ったところに液体組成物を吐出することができる。
【0128】
本実施形態の電極の製造方法の一例を図9に示す。
基材上に多孔質樹脂が設けられた電極210の製造方法は、液体吐出装置300’を用いて、基材211上に、液体組成物12Aを、順次吐出する工程を含む。
まず、細長状の基材211を準備する。そして、基材211を筒状の芯に巻き付け、多孔質樹脂212を形成する側が、図9中、上側になるように、送り出しローラ304と巻き取りローラ305にセットする。ここで、送り出しローラ304と巻き取りローラ305は、反時計回りに回転し、基材211は、図9中、右から左の方向に搬送される。そして、送り出しローラ304と巻き取りローラ305の間の基材211の上方に設置されている液体吐出ヘッド306から、図8と同様にして、液体組成物12Aの液滴を、順次搬送される基材211上に吐出する。
【0129】
なお、液体吐出ヘッド306は、基材211の搬送方向に対して、略平行な方向又は略垂直な方向に、複数個設置されていてもよい。次に、液体組成物12Aの液滴が吐出された基材211は、送り出しローラ304と巻き取りローラ305によって、加熱機構309に搬送される。その結果、多孔質樹脂212が形成され、基材上に多孔質樹脂が設けられた電極210が得られる。その後、高分子電解質が設けられた電極210は、打ち抜き加工等により、所望の大きさに切断される。
【0130】
加熱機構309は、基材211の上下の何れか一方に設置されてもよいし、複数個設置されていてもよい。
加熱機構309としては、液体組成物12Aに直接接触しなければ、特に制限はなく、例えば、抵抗加熱ヒーター、赤外線ヒーター、ファンヒーター等が挙げられる。なお、加熱機構309は、複数個設置されていてもよい。また、重合のための紫外線による硬化装置が設置されていてもよい。
【0131】
また、基材211に吐出された液体組成物12Aは加熱されることが好ましく、加熱する際には、ステージにより加熱してもよいし、ステージ以外の加熱機構により加熱してもよい。加熱機構は、電極基体11の上下の何れか一方に設置されてもよいし、複数個設置されていてもよい。
加熱温度は特に制限はない。加熱により液体組成物12Aが乾燥して絶縁層が形成される。
【0132】
また、図10のように、タンク307は、タンク307A、307Bに接続されたタンク313A、313Bからインクを供給してもよく、液体吐出ヘッド306は、複数のヘッド306A、306Bを有してもよい。
【0133】
[基材に液体組成物を間接的に付与することで電極を形成する実施形態]
図11~12は、本実施形態の電極の製造装置としての、付与手段としてインクジェット方式、及び転写方式を採用した印刷部の一例を示す構成図であり、図6は、ドラム状の中間転写体を用いた印刷部、図7は、無端ベルト状の中間転写体を用いた印刷部を示す構成図である。
図11に示した印刷部400’は、中間転写体4001を介して基材に液体組成物層乃至絶縁層を転写することで基材上に絶縁層を形成する、インクジェットプリンタである。
【0134】
印刷部400’は、インクジェット部420、転写ドラム4000、前処理ユニット4002、吸収ユニット4003、加熱ユニット4004および清掃ユニット4005を備える。
インクジェット部420は、複数のヘッド401を保持したヘッドモジュール422を備える。ヘッド401は、転写ドラム4000に支持された中間転写体4001に液体組成物を吐出し、中間転写体4001上に液体組成物層を形成する。各ヘッド401は、ラインヘッドであり、使用可能な最大サイズの基材の記録領域の幅をカバーする範囲にノズルが配列されている。ヘッド401は、その下面に、ノズルが形成されたノズル面を有しており、ノズル面は、微小間隙を介して中間転写体4001の表面と対向している。本実施形態の場合、中間転写体4001は円軌道上を循環移動する構成であるため、複数のヘッド401は、放射状に配置される。
【0135】
転写ドラム4000は、圧胴621と対向し、転写ニップ部を形成する。前処理ユニット4002は、ヘッド401による液体組成物の吐出前に、例えば、中間転写体4001上に、液体組成物の粘度を高めるための反応液を付与する。吸収ユニット4003は、転写前に、中間転写体4001上の液体組成物層から液体成分を吸収する。加熱ユニット4004は、転写前に、中間転写体4001上のインク層を加熱する。液体組成物層を加熱することで、乾燥させて、絶縁層を形成する。また、有機溶媒が除去され、基材への転写性が向上する。清掃ユニット4005は、転写後に中間転写体4001上を清掃し、中間転写体4001上に残留したインクやごみ等の異物を除去する。
圧胴621の外周面は、中間転写体4001に圧接しており、圧胴621と中間転写体4001との転写ニップ部を基材が通過するときに、中間転写体4001上の液体組成物層乃至絶縁層が基材に転写される。なお、圧胴621は、その外周面に基材の先端部を保持するグリップ機構を少なくとも1つ備えた構成としてもよい。
【0136】
図12に示した印刷部400’’は、中間転写ベルト4006を介して基材に液体組成物層乃至絶縁層を転写することで基材上に絶縁層を形成する、インクジェットプリンタである。
印刷部400’’は、インクジェット部420に設けた複数のヘッド401から液体組成物の液滴を吐出して、中間転写ベルト4006の外周表面上に液体組成物層を形成する。中間転写ベルト4006に形成された液体組成物層は、加熱ユニット4007によって加熱され、乾燥することで絶縁層を形成し、中間転写ベルト4006上で膜化する。
【0137】
中間転写ベルト4006が転写ローラ622と対向する転写ニップ部において、中間転写ベルト4006上の膜化した絶縁層は基材に転写される。転写後の中間転写ベルト4006の表面は、清掃ローラ4008によって清掃される。
中間転写ベルト4006は、駆動ローラ4009a、対向ローラ4009b、複数(本例では4つ)の形状維持ローラ4009c、4009d、4009e、4009f、および複数(本例では4つ)の支持ローラ4009gに架け渡され、図中矢印方向に移動する。ヘッド401に対向して設けられる支持ローラ4009gは、ヘッド401からインク滴が吐出される際の中間転写ベルト4006の引張状態を維持する。
【0138】
(電気化学素子)
本発明の電気化学素子は、上記した本発明の電極を有し、電解質(「電解液」とも称する)、セパレータ、及び外装を有することが好ましい。
前記電気化学素子は、正極と、負極と、電解質と、セパレータと、外装と、を有することができる。前記電気化学素子は、正極、及び負極の少なくとも1つとして本発明の電極を用いたものである。
【0139】
<電解質>
電解質としては、電解質水溶液又は非水電解質を使用することができる。
【0140】
-電解質水溶液-
電解質水溶液とは、電解質塩が水に溶解している水溶液である。電解質塩としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化アンモニウム、塩化亜鉛、酢酸亜鉛、臭化亜鉛、ヨウ化亜鉛、酒石酸亜鉛、過塩化亜鉛等を使用することができる。
【0141】
-非水電解質-
非水電解質としては、非水電解液を使用することができる。
【0142】
--非水電解液--
非水電解液とは、電解質塩が非水溶媒に溶解している電解液である。
【0143】
--非水溶媒--
非水溶媒としては、特に制限はなく、例えば、非プロトン性有機溶媒を用いることが好ましい。非プロトン性有機溶媒としては、鎖状カーボネート、環状カーボネート等のカーボネート系有機溶媒を用いることができる。これらの中でも、電解質塩の溶解力が高い点から、鎖状カーボネートが好ましい。また、非プロトン性有機溶媒は、粘度が低いことが好ましい。
【0144】
鎖状カーボネートとしては、例えば、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、メチルエチルカーボネート(EMC)などが挙げられる。
【0145】
非水溶媒中の鎖状カーボネートの含有量は、50質量%以上であることが好ましい。非水溶媒中の鎖状カーボネートの含有量が50質量%以上であると、鎖状カーボネート以外の非水溶媒で比誘電率が高い環状物質(例えば、環状カーボネート、環状エステル)であっても、環状物質の含有量が少なくなる。このため、2M以上の高濃度の非水電解液を作製しても、非水電解液の粘度が低くなり、非水電解液の電極へのしみ込みやイオン拡散が良好となる。
【0146】
環状カーボネートとしては、例えば、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ブチレンカーボネート(BC)、ビニレンカーボネート(VC)等が挙げられる。
【0147】
なお、カーボネート系有機溶媒以外の非水溶媒としては、例えば、環状エステル、鎖状エステル等のエステル系有機溶媒、環状エーテル、鎖状エーテル等のエーテル系有機溶媒などを用いることができる。
【0148】
環状エステルとしては、例えば、γ-ブチロラクトン(γBL)、2-メチル-γ-ブチロラクトン、アセチル-γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン等が挙げられる。鎖状エステルとしては、例えば、プロピオン酸アルキルエステル、マロン酸ジアルキルエステル、酢酸アルキルエステル(例えば、酢酸メチル(MA)、酢酸エチル)、ギ酸アルキルエステル(例えば、ギ酸メチル(MF)、ギ酸エチル)などが挙げられる。
【0149】
環状エーテルとしては、例えば、テトラヒドロフラン、アルキルテトラヒドロフラン、アルコキシテトラヒドロフラン、ジアルコキシテトラヒドロフラン、1,3-ジオキソラン、アルキル-1,3-ジオキソラン、1,4-ジオキソランなどが挙げられる。
【0150】
鎖状エーテルとしては、例えば、1,2-ジメトシキエタン(DME)、ジエチルエーテル、エチレングリコールジアルキルエーテル、ジエチレングリコールジアルキルエーテル、トリエチレングリコールジアルキルエーテル、テトラエチレングリコールジアルキルエーテルなどが挙げられる。
【0151】
-電解質塩-
電解質塩としては、イオン伝導性が高く、非水溶媒に溶解することが可能であれば、特に制限はない。
【0152】
電解質塩は、ハロゲン原子を含むことが好ましい。電解質塩を構成するカチオンとしては、例えば、リチウムイオンなどが挙げられる。電解質塩を構成するアニオンとしては、例えば、BF 、PF 、AsF 、CFSO 、(CFSO、(CSOなどが挙げられる。
【0153】
リチウム塩としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)、ホウフッ化リチウム(LiBF)、六フッ化ヒ素リチウム(LiAsF)、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiCFSO)、リチウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(LiN(CFSO)、リチウムビス(ペンタフルオロエチルスルホニル)イミド(LiN(CSO)などが挙げられる。これらの中でも、イオン伝導性の点から、LiPFが好ましく、安定性の点から、LiBFが好ましい。
【0154】
なお、電解質塩は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0155】
非水電解液中の電解質塩の濃度は、目的に応じて適宜選択することができるが、非水系電気化学素子がスイング型である場合、1mol/L~2mol/Lであることが好ましく、非水系電気化学素子がリザーブ型である場合、2mol/L~4mol/Lであることが好ましい。
【0156】
<セパレータ>
セパレータは、正極と負極の短絡を防ぐために電極の間に設けられる。
【0157】
セパレータとしては、特に限定はなく、イオン透過性を有する空隙を備えたシートやフィルムから目的に応じて適宜選択することができ、例えば、クラフト紙、ビニロン混抄紙、合成パルプ混抄紙等の紙;セロハン、ポリエチレングラフト膜、ポリプロピレンメルトブロー不織布等のポリオレフィン不織布;ポリアミド不織布、ガラス繊維不織布、マイクロポア膜などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
セパレータは、単層構造であってもよく、複合構造であってもよい。
【0158】
セパレータの大きさは、正極と負極の短絡を防ぎ、電気化学素子に使用することが可能であれば制限はなく、必要に応じて電極間以外に、電極の周囲などを被覆していてもよい。
【0159】
<外装>
外装は、電極と、電解質と、セパレータまたは固体電解質またはゲル電解質とを封止することができれば特に制限はなく、目的に応じて公知の外装を適宜選択することができる。
【0160】
電気化学素子は、例えば、正極と、負極とを、セパレータを介して重ね合わせ、これを必要に応じて電池形状に応じて巻く、折るなどして電池容器に入れ、電池容器に電解液を注入して封口することにより製造することができる。
【0161】
電気化学素子の形状としては、特に制限はなく、例えば、ラミネートタイプ、シート電極及びセパレータをスパイラル状にしたシリンダタイプ、ペレット電極及びセパレータを組み合わせたインサイドアウト構造のシリンダタイプ、ペレット電極及びセパレータを積層したコインタイプなどが挙げられる。
【0162】
図13に、本実施形態に関する電気化学素子の一例を示す。
電気化学素子60は、液系の電気化学素子であり、電極素子40に、電解質水溶液又は非水電解質を注入することにより電解質層51が形成されており、外装52により封止されている。電気化学素子60において、引き出し線41及び42は、外装52の外部に引き出されている。
【0163】
電極素子40は、負極15と正極25が、セパレータ30を介して、積層されている。ここで、正極25は、負極15の両側に積層されている。また、負極基体11には、引き出し線41が接続されており、正極基体21には、引き出し線42が接続されている。
固体電気化学素子である場合はセパレータ30を固体電解質またはゲル電解質に置き換えればよい。
【0164】
負極15は、負極基体11の両面に、負極合材層12が形成され、それぞれの負極合材層12上に絶縁層13が形成されている。
正極25は、正極基体21の両面に、正極合材層22が形成されている。
図示しないが、正極合材層22上に絶縁層が形成された態様であってもよい。
なお、電極素子40の負極15と正極25の積層数は、特に制限は無い。また、電極素子40の負極15の個数と正極25の個数は、同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0165】
(デバイス)
本発明のデバイスは、上記した本発明の電極を有し、更に必要に応じてその他の部材を有する。
前記デバイスとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、車両等の移動体;スマートフォン、ノートパソコン、ペン入力パソコン、モバイルパソコン、電子ブックプレーヤー、携帯電話、携帯ファックス、携帯コピー、携帯プリンター、ヘッドホンステレオ、ビデオムービー、液晶テレビ、ハンディークリーナー、ポータブルCD、ミニディスク、トランシーバー、電子手帳、電卓、メモリーカード、携帯テープレコーダー、ラジオ、バックアップ電源、モーター、照明器具、玩具、ゲーム機器、時計、ストロボ、カメラ等の電気機器などが挙げられる。これらの中でも、車両、電気機器が特に好ましい。
前記移動体としては、例えば、普通自動車、大型特殊自動車、小型特殊自動車、トラック、大型自動二輪車、普通自動二輪車などが挙げられる。
【0166】
[移動体]
図13に、本発明の電気化学素子である全固体電池を搭載した移動体の一例を示す。移動体70は、例えば電気自動車である。移動体70はモーター71と、電気化学素子72と、移動手段の一例としての車輪73を備える。電気化学素子72は、上述した本発明の電気化学素子である。電気化学素子72は、モーター71に電力を供給することでモーター71を駆動する。駆動されたモーター71は、車輪73を駆動させることができ、その結果、移動体70は移動することができる。
以上の構成によれば、正極と負極との短絡を防止するとともに、電池特性に優れる電気化学素子からの電力により駆動するので、安全かつ効率よく移動体を移動させることができる。
移動体70は電気自動車に限られず、PHEVやHEV、又はディーゼルエンジンと電気化学素子とを併用して走行可能な機関車やバイクであってもよい。又、移動体は、電気化学素子のみ、又はエンジンと電気化学素子とを併用して走行可能な、工場等で使用される搬送用ロボットであってもよい。また、移動体は、その物体全体が移動せず、一部のみが移動するもの、例えば、工場の製造ラインに配される、電気化学素子のみ、又はエンジンと電気化学素子とを併用してアーム等が動作可能な組立ロボットであってもよい。
【0167】
(電気化学素子の製造方法、及び電気化学素子の製造装置)
本発明の電気化学素子の製造方法は、上述した本発明の電極積層体の製造方法により電極積層体を製造する電極製造工程と、前記電極積層体を用いて電気化学素子を製造する素子化工程と、を含み、必要に応じて、更にその他の工程を含む。
本発明の電気化学素子の製造装置は、上述した本発明の電極積層体の製造装置により電極積層体を製造する電極製造部と、前記電極積層体を用いて電気化学素子を製造する素子化部と、を有し、必要に応じて、更にその他の手段を有する。
【0168】
<電極製造工程、及び電極製造部>
前記電極製造工程は、上記した本発明の電極積層体の製造方法において説明した、絶縁層形成工程を含み、更に必要に応じて、電極合材層形成工程、電極加工工程などのその他の手段を有する。
前記電極製造部は、上記した本発明の電極積層体の製造装置において説明した、絶縁層形成手段を有し、更に必要に応じて、電極合材層形成手段、電極加工手段などのその他の手段を有する。
前記電極製造工程、及び前記電極製造部により、電極基体と、前記電極基体上に設けられた電極合材層と、前記電極合材層上に設けられた絶縁層と、を有する電極を製造することができる。
【0169】
<素子化工程、及び素子化部>
前記素子化工程は、前記電極積層体を用いて電気化学素子を製造する工程である。
前記素子化部は、前記電極積層体を用いて電気化学素子を製造する手段である。
電極積層体を用いて電気化学素子を製造する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜公知の電気化学素子の製造方法を選択することができ、例えば、対向電極の設置、巻回又は積層、容器への収容の少なくともいずれかを行い蓄電素子とする方法が挙げられる。
なお、素子化工程としては、素子化の全行程を備える必要はなく、素子化の一部の工程を含むものであってもよい。
【0170】
<電極加工工程、及び電極加工部>
電極加工部は、付与部よりも下流において、樹脂層が形成された電極を加工する手段である。電極加工部は、裁断、折り畳み、及び貼り合わせの少なくとも1つを実施してもよい。積層電極加工部は、例えば、樹脂層が形成された積層電極を裁断し、積層電極の積層体を作製することができる。電極加工部は、樹脂層が形成された積層電極を巻回又は積層することができる。
電極加工部は、例えば、電極加工装置を有し、多孔質樹脂層が形成された積層電極の裁断やつづら折り、積層や巻回を目的の電池形態に応じて実施する。
電極加工部によって行われる電極加工工程は、例えば、付与工程よりも下流において、樹脂層が形成された積層電極を加工する工程である。電極加工工程は、裁断工程、折り畳み工程、及び貼り合わせ工程の少なくとも1つを含んでもよい。
【実施例0171】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。なお、「部」及び「%」は、特に断らない限り、質量基準である「質量部」及び「質量%」をそれぞれ示す。
【0172】
(実施例1)
<負極の作製>
2本ロールダイレクトコート方式のコンマコータを用いて負極基体としての銅箔(厚み:20μm)の両面に、負極活物質50部(SCMGTM-XR-s、株式会社レゾナック製)、水45部、及びポリフッ化ビニリデン5部(Solef 5130、ソルベイ株式会社製)を混錬して得た負極合材層用スラリーを塗布した後、乾燥させて、負極合材層を形成した。その後、エアーハイドロ式10tロールプレス装置を使用して直径250mmのローラで負極合材層に10,000kgの荷重を加え、片面厚み:50μm(総厚み120μm)の負極を作製した。
【0173】
<正極の作製>
2本ロールダイレクトコート方式のコンマコータを用いて正極基体としてのアルミニウム箔(厚み:20μm)の両面に、正極活物質50部(ニッケル酸リチウム503H、JFEミネラル株式会社製)、N-メチルピロリドン45部、及びポリフッ化ビニリデン5部(Solef 5130、ソルベイ株式会社製)を混錬して得た正極合材層用スラリーを塗布した後、乾燥させて、正極合材層を形成した。その後、エアーハイドロ式10tロールプレス装置を使用して、直径250mmのローラで正極合材層に10,000kgの荷重を加え、片面厚み:50μm(総厚み120μm)の正極を作製した。
【0174】
<絶縁層用液体組成物の調製>
ガラス容器に乳酸エチル38.8部、高分子型分散剤(マリアリムTMSC-0708A、日油株式会社製)0.8部からなる混合液を攪拌しながら、アルミナ粉末(スミコランダムTMAA-03、住友化学株式会社製)40部を加えた。十分に攪拌した後、ジルコニアビーズ(粒径:5mm、YTZTMシリーズ、東ソー株式会社製)80部を加え、ボールミル(IKA ROLLER 10、IKA株式会社製)にて72時間の分散処理を行い、アルミナ分散液を得た。
別のガラス容器にポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール(エパンTM740、第一工業製薬株式会社製)0.4部、乳酸エチル10部、ヘキシレングリコール10.5部を加えてベース液とした。得られたベース液を攪拌しながら、アルミナ分散液を少量ずつ投入、十分に攪拌した後に孔径5μmのメンブレンフィルターにて粗大粒子を除去し、絶縁層用液体組成物を得た。
【0175】
走査型電子顕微鏡(Merlin、カールツァイス株式会社製)を用いて、使用するアルミナ粉末、及び樹脂粒子の平均一次粒子径を計測した結果は、下記の通りであった。
・スミコランダムTMAA-03(住友化学株式会社製):240nm
・スミコランダムTMAA-07(住友化学株式会社製):600nm
・エポスターTMS6(株式会社日本触媒製) :400nm
【0176】
<絶縁層の形成、及び電極の作製>
液体吐出装置(EV2500、株式会社リコー製)及び液体吐出ヘッド(MH5421F、株式会社リコー製)を用いて、絶縁層用液体組成物を正極の一方の電極合材層上に吐出し、図4Aの絶縁層のパターンを形成した。
絶縁層のパターンは、図の形状を拡大縮小し、流路幅を調節して目的の被覆率となるようにした。なお、流路部は未塗工とした。
絶縁層用液体組成物を塗布した正極を120℃の温風で5分間加熱乾燥し、絶縁層を形成した。逆の面、すなわち、正極の他方の電極合材層上にも同様の条件で絶縁層を形成した。さらに、正極を150℃の真空オーブンで12時間加熱乾燥し、実施例1の電極として絶縁層を設けた正極を得た。
得られた実施例1の電極において、絶縁部による電極合材層の被覆率は92%、正極の両面に形成された各絶縁層の平均厚みは5μm、流路の幅は0.5mmであった。
【0177】
<リチウムイオン二次電池の作製>
正極を縦47mm×横27mm(引き出し線除く)、負極を縦50mm×横30mm(引き出し線除く)の大きさにそれぞれ切り出した。正極の引き出し線と負極の引き出し線が重ならない状態で、厚み16μmのポリエチレン製セパレータ(SETELATMシリーズ F20BHE、東レ株式会社製、縦53mm×横33mm)を介して、3個の正極と4個の負極を交互に積層し、積層電極素子を得た。
【0178】
次に、アルミニウム外装のラミネートシート間に、得られた積層電極素子を挟んだ後、幅50mm程度の開口部を残してラミネーターで周囲を封止し、袋状の外装を形成した。
非水電解液としてエチレンカーボネート:ジメチルカーボネート:エチルメチルカーボネート (1:1:1、体積比)混合溶媒に、電解質塩としてヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)を1.5mol/Lとなるよう溶解させた電解液を使用した。電解液を上部の開口部から外装のラミネートシート内に注入した後、開口部部分を脱気シーラーで封止した。このとき、電解液は初めに外装の下部に充填され、次いで、脱気により電解液が開口部側に吸引されて通液するため、下部側(開口部の対辺側)が絶縁層における電解液注入側となり、上部側(開口部側)が電解液流出側となる。このように積層電極素子に電解液を通液して封止して実施例1の電気化学素子としてのリチウムイオン二次電池を得た。
【0179】
<評価>
得られた実施例1の電極の通液性、並びに電気化学素子の安全性、及びフロート特性について、以下の手順により、評価した。結果を表1に示した。
【0180】
<<電極の通液性評価>>
絶縁層を形成した電極(正極)を2枚のスライドガラス板に挟み、圧力をかけた状態でスライドガラス板の長辺をポリイミドテープで封止した。内径50mmのステンレスシャーレに溶媒を1g入れ、電極を挟んだスライドガラス板の短辺の一方を垂直に溶媒に含浸した。試験用の溶媒には、電気化学素子の電解液に用いたエチレンカーボネート:ジメチルカーボネート:エチルメチルカーボネート (1:1:1、体積比)混合溶媒を使用した。溶媒に含浸した瞬間を0秒として、60秒後に溶媒が絶縁層に浸透した部分の中央の高さ計測した。測定は3回行い、その平均値を浸透高さとして算出し、以下の基準で通液性を評価した。評価はAが最も優れた結果を示し、Cまでを許容範囲とした。
-評価基準-
A:浸透高さが12mm以上
B:浸透高さが10mm以上12mm未満
C:浸透高さが8mm以上10mm未満
D:浸透高さが8mm未満
【0181】
<<電気化学素子の安全性評価>>
[初期容量測定]
電気化学素子の正極引き出し線と負極引き出し線とを、充放電試験装置(北斗電工株式会社製)に接続し、最大電圧4.2V、電流レート0.2C、5時間で定電流定電圧充電し、充電完了後、40℃の恒温槽で5日間静置した。その後、電流レート0.2Cで2.5Vまで定電流放電させた。その後、最大電圧4.2V、電流レート0.2C、5時間で定電流定電圧充電し、10分間の休止を挟んで、電流レート0.2Cで2.5Vまで定電流放電させた。このときの放電容量を初期容量とした。
【0182】
[安全性評価]
絶縁層を形成した電池を有する電気化学素子の安全性を評価するため、釘刺し試験を行った。初期容量を測定した電気化学素子(非水電解液蓄電素子)の正極引き出し線と負極引き出し線とを、充放電試験装置に接続し、最大電圧4.2V、電流レート1C、3時間で定電流定電圧充電し、充電深度を100%(満充電)とした。次いで、電極が積層されている方向と水平に、直径4.5mmの鉄釘を刺して貫通させ、意図的に短絡させた状態で、非水電解液蓄電素子の様子を観察し、以下の基準で安全性を評価した。評価はAが優れた結果を示し、Aまでを許容範囲とした。
-評価基準-
A:釘差しによる電気化学素子の発火なし
D:釘差しにより電気化学素子の発火あり
【0183】
<<電気化学素子のフロート特性評価>>
セパレータの酸化劣化に起因する漏れ電流を、フロート特性にて評価した。初期容量を測定した電気化学素子(非水電解液蓄電素子)の正極引き出し線と負極引き出し線とを、充放電試験装置に接続し、60℃環境下の恒温槽の中で最大電圧4.2V、電流レート0.2C、5時間で充電し、満充電の状態とした。そして10分間の休止を挟んで、電流レート0.2Cで充電し続けた。その際に流れる電流を計測し、積算電気容量が規定値である50mAhに達するまでの時間を計測し、以下の基準でフロート特性を評価した。評価はAが最も優れた結果を示し、Cまでを許容範囲とした。
-評価基準-
A:規定値に達するまでの時間が200時間以上
B:規定値に達するまでの時間が175時間以上200時間未満
C:規定値に達するまでの時間が150時間以上175時間未満
D:規定値に達するまでの時間が150時間未満
【0184】
(実施例2~5)
実施例1において、絶縁部の塗工パターンを表1の組み合わせに置き換えた以外は、実施例1と同様にして実施例2~5の電極、及び電気化学素子を作製し、評価を行った。結果を表1に示した。
【0185】
(実施例6)
実施例1において、流路幅を固定して画像を縮小することで絶縁部の被覆率を90%とした以外は、実施例1と同様にして実施例6の電極、及び電気化学素子を作製し、評価を行った。結果を表1に示した。
【0186】
(実施例7~9)
実施例1において、絶縁部の塗工パターンを表1の組み合わせに置き換えた以外は、実施例1と同様にして実施例7~9の電極、及び電気化学素子を作製し、評価を行った。結果を表1に示した。
【0187】
(実施例10~15)
実施例1において、絶縁部の塗工パターン、及び被覆率を変更せずに、流路部の幅を表1の大きさとなるよう縮尺を調整した以外は、実施例1と同様にして実施例10~15の電極、及び電気化学素子を作製し、評価を行った。結果を表1に示した。
【0188】
(実施例16)
実施例1において絶縁層用液体組成物に使用するアルミナ粉末をスミコランダムTMAA-07(住友化学株式会社製)に置き換えた以外は、実施例1と同様にして実施例16の電極、及び電気化学素子を作製し、評価を行った。結果を表1に示した。
【0189】
(実施例17~20)
実施例1において、絶縁部が表1の膜厚となるようにインクジェットの塗布量を調節し、パターン塗工を実施した以外は、実施例1と同様にして実施例17~20の電極、及び電気化学素子を作製し、評価を行った。結果を表1に示した。
【0190】
(実施例21)
実施例1において絶縁層用液体組成物に使用するアルミナ粉末を樹脂粒子(エポスターTMS6、株式会社日本触媒製)に置き換えた以外は、実施例1と同様にして実施例21の電極、及び電気化学素子を作製し、評価を行った。結果を表1に示した。
【0191】
(実施例22~26)
実施例1において、絶縁層を形成する工程を、以下の通り、2回に分けて2層の絶縁層を形成する工程に変更した以外は、実施例1と同様にして実施例21の電極、及び電気化学素子を作製し、評価を行った。結果を表1に示した。
絶縁層用液体組成物を正極の一方の電極合材層上に吐出し、被覆率100%、平均厚み1μmとなるように1層目の絶縁層を形成した。
次いで、1層目の絶縁層上に、1層目と2層目の絶縁層の厚みの合計が表1に示す絶縁部の厚みとなるようにインクジェットの塗布量を調節し、絶縁層用液体組成物のパターン塗工を実施して2層目の絶縁層を形成した。パターン塗工で1層目の絶縁層上に2層目の絶縁部を形成した部分(厚い部分)は、図2における絶縁部3aに相当し、1層目の絶縁層のみを形成し、2層目の絶縁部を形成しなかった部分は、図2における第2の絶縁部3cに相当する。
【0192】
(比較例1~3)
実施例1において、絶縁部の塗工パターンを表2の組み合わせに置き換えた以外は、実施例1と同様にして比較例1~3の電極、及び電気化学素子を作製し、評価を行った。結果を表2に示した。
【0193】
(比較例4)
実施例1において、絶縁部の塗工において誤差拡散法によってランダムな形状の海島構造となる未塗工部を設けた以外は、実施例1と同様にして比較例4の電極、及び電気化学素子を作製し、評価を行った。結果を表2に示した。
なお、図6Dに示す海島構造は、海部が絶縁部であり、島部が絶縁部未塗工部分(電極基体露出部)であり、絶縁層が連通する流路を有しない態様に相当する。
【0194】
(比較例5~6)
実施例1において、絶縁部の塗工パターンを表2の組み合わせに置き換えた以外は、実施例1と同様にして比較例5~6の電極、及び電気化学素子を作製し、評価を行った。結果を表2に示した。
【0195】
(比較例7)
実施例1において、流路幅を固定して画像を縮小することで絶縁部の被覆率を80%とした以外は、実施例1と同様にして比較例7の電極、及び電気化学素子を作製し、評価を行った。結果を表2に示した。
【0196】
【表1】
【0197】
【表2】
【0198】
本発明の態様としては、例えば、以下のとおりである。
<1> 電極基体と、
前記電極基体上に設けられた電極合材層と、
前記電極合材層上に設けられた絶縁層と、を有する電極であって、
前記絶縁層が、
前記電極合材層を被覆する絶縁部と、
前記電極の平面方向において連通し、かつ2方向以上に分岐する流路を有する流路部と、を有し、
前記絶縁部による前記電極合材層の被覆率が90%以上であることを特徴とする電極である。
<2> 前記流路部が、前記電極合材層の露出面を有する前記<1>に記載の電極である。
<3> 前記流路部における前記電極合材層上に設けられた第2の絶縁部を有し、前記第2の絶縁部の厚みが前記絶縁部の厚みより小さい前記<1>に記載の電極である。
<4> 正極である前記<1>から<3>のいずれかに記載の電極である。
<5> 前記流路が、前記絶縁層における電解液注入側の側面から前記側面と対向する他の側面に連通する前記<1>から<4>のいずれかに記載の電極である。
<6> 前記絶縁層における対向する1対の側面に連通する前記流路の最短経路が直線である前記<1>から<5>のいずれかに記載の電極である。
<7> 前記流路の幅が、0.1mm以上2.0mm以下である前記<1>から<6>のいずれかに記載の電極。
<8> 前記絶縁部の平均厚みが、1μm以上30μm以下である前記<1>から<7>のいずれかに記載の電極である。
<9> 前記絶縁部が、絶縁性粒子を含み、
前記絶縁性粒子の平均一次粒子径が500nm以下である前記<1>から<8>のいずれかに記載の電極である。
<10> 前記絶縁部が、無機酸化物粒子を含み、
前記無機酸化物粒子が、アルミニウム、ケイ素、及びジルコニウムの少なくともいずれかを含む前記<1>から<9>のいずれかに記載の電極である。
<11> 前記<1>から<10>のいずれかに記載の電極を有することを特徴とする電気化学素子である。
<12> 前記<11>に記載の電気化学素子を有することを特徴とするデバイスである。
<13> 前記<11>に記載の電気化学素子を有することを特徴とする移動体である。
<14> 電極基体上に電極合材層が設けられた基材における前記電極合材層上に、絶縁材料を含む液体組成物を付与して絶縁部と流路部とを有する絶縁層を形成する絶縁層形成工程、を含む電極の製造方法であって、
前記絶縁部が、前記電極合材層を被覆し、前記絶縁部による前記電極合材層の被覆率が90%以上であり、
前記流路部が、前記電極の平面方向において連通し、かつ2方向以上に分岐する流路を有することを特徴とする電極の製造方法である。
<15> 前記<14>に記載の電極の製造方法により電極を製造する電極製造工程と、
前記電極を用いて電気化学素子を製造する素子化工程と、を含むことを特徴とする電気化学素子の製造方法である。
【0199】
前記<1>から<10>のいずれかに記載の電極、前記<11>に記載の電気化学素子、前記<12>に記載のデバイス、前記<13>に記載の移動体、前記<14>に記載の電極の製造方法、及び前記<15>に記載の電気化学素子の製造方法によると、従来における諸問題を解決し、本発明の目的を達成することができる。
【符号の説明】
【0200】
1:電極基体
2:電極合材層
3:絶縁層
3a:絶縁部
3b:流路部
3c:第2の絶縁部
10:電極
11:負極基体
12:負極合材層
13:絶縁層
15:電極(負極)
21:正極基体
22:正極合材層
25:電極(正極)
30:セパレータ
40:電極素子
60:電気化学素子
70:移動体
100:印刷部
200:加熱部
500:電極の製造装置
【先行技術文献】
【特許文献】
【0201】
【特許文献1】特開2000-277386号公報
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図4A
図4B
図4C
図4D
図4E
図4F
図4G
図4H
図5A
図5B
図5C
図5D
図5E
図5F
図5G
図5H
図5I
図6A
図6B
図6C
図6D
図6E
図6F
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14