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特開2024-134768ポリエチレン樹脂およびそれよりなる高純度薬品用容器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024134768
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】ポリエチレン樹脂およびそれよりなる高純度薬品用容器
(51)【国際特許分類】
   C08F 10/02 20060101AFI20240927BHJP
   B65D 77/00 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
C08F10/02
B65D77/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023045122
(22)【出願日】2023-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】石原 広崇
(72)【発明者】
【氏名】山野 直樹
【テーマコード(参考)】
3E067
4J100
【Fターム(参考)】
3E067AA03
3E067AB96
3E067AC01
3E067BA02A
3E067BB15A
3E067BB25A
3E067CA04
3E067CA12
3E067CA16
3E067FA01
3E067FC01
3E067GD01
4J100AA02P
4J100AA03Q
4J100AA04Q
4J100AA09Q
4J100AA15Q
4J100AA16Q
4J100AA17Q
4J100AA19Q
4J100AA21Q
4J100CA01
4J100CA04
4J100DA01
4J100DA04
4J100DA11
4J100DA14
4J100DA15
4J100DA42
4J100DA43
4J100DA47
4J100FA08
4J100FA09
4J100FA10
4J100FA19
4J100FA28
4J100FA30
4J100FA34
4J100FA35
4J100JA58
(57)【要約】
【課題】 ポリエチレン樹脂を高純度薬品容器、特に20L以下の高純度薬品容器として使用した場合に、該樹脂の溶出物や劣化物等の汚染物質の溶出を極力抑え、耐薬品性および表面平滑性に優れたポリエチレン樹脂及びそれよりなる高純度薬品容器用容器の提供を目的とする。
【解決手段】 MFRが20~40g/10分、密度が0.960~0.970g/cmであるエチレン系重合体と、HLMFRが0.10~10g/10分、密度が0.920~0.940g/cmであるエチレン系重合体の2成分を含み、該2成分の重量比が40:60~60:40であり、特定の性状を有する高純度薬品容器用ポリエチレン樹脂。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
190℃、2.16kg荷重のメルトフローレート(MFR)が20~40g/10分、密度(JIS K6922―1)が0.960~0.970g/cmであるエチレン系重合体と、190℃、21.6kg荷重のメルトフローレート(HLMFR)が0.10~10g/10分、密度が0.920~0.940g/cmであるエチレン系重合体の2成分を含み、該2成分の重量比が40:60~60:40であり、以下の(1)~(9)の性状を有するポリエチレン樹脂。
(1)密度が0.945~0.955g/cm
(2)190℃、21.6kg荷重のHLMFRが21~80g/10分
(3)190℃、2.16kg荷重のMFRが0.5~1.5g/10分
(4)ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィ(GPC)により求められる重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)が5.0~7.9
(5)GPCを用いて得られる分子量分布曲線において、分子量1000以下の成分が0.30重量%以下
(6)含有金属量がポリエチレン樹脂に対して15PPM以下
(7)耐環境応力亀裂(ESCR)が100時間以上
【請求項2】
添加剤を含まない、請求項1に記載のポリエチレン樹脂。
【請求項3】
請求項1または2に記載のポリエチレン樹脂からなる高純度薬品容器。
【請求項4】
容器内面の展開面積比が1.10以下である、請求項3に記載の高純度薬品用容器。
【請求項5】
容器内面の表面粗さRzが10μm以下である、請求項3に記載の高純度薬品用容器。
【請求項6】
容器内面のグロスが40%以上である、請求項3に記載の高純度薬品用容器。
【請求項7】
未洗浄容器に超純水を充填し、40℃×35日間静置保管後の内容液容器から溶出する0.1μm以上の微粒子数が10個/mL以下である、請求項3に記載の高純度薬品用容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエチレン樹脂およびそれよりなる高純度薬品用容器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電子工業分野の著しい発達に伴って、高純度薬品の需要が高まっている。高純度薬品は、例えば、大規模化、集積化されたLSI等の電子回路の製造に不可欠の薬品として使用されている。具体的には、ウエハー洗浄・エッチング用、配線・絶縁膜エッチング用、治具洗浄用、現像液、レジスト希釈液、レジスト剥離液、乾燥用等の用途として、硫酸、塩酸、硝酸、フッ化水素酸、フッ化アンモニウム、過酸化水素水、イソプロピルアルコール、キシレン、TMAH(テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド)、メタノール、酢酸、リン酸、アンモニア水、PGMEA(酢酸プロピレングリコールメチルエーテル)、DMSO(ジメチルスルホキシド)、NMP(N-メチル-2-ピロリドン)等が用いられている。これらの高純度薬品の18L容器、4L容器、1L容器などの20L以下の容器材料としては、主にフッ素系樹脂やポリエチレン樹脂が用いられている。半導体回路の集積度の向上とともに、これらの薬品中の不純物や微粒子に対する低減化の要求が一層厳しくなっており、この厳しい要求を満足させるために、これらの薬品を充填する容器に対するクリーン性の要求も年々高まっている。
【0003】
この問題を解決するための方法として、特定のテトラフルオロエチレン系共重合体を用いる方法がある。ただしテトラフルオロエチレン系共重合体は高価という課題がある。(特許文献1参照)
また、ポリエチレン樹脂の炭化水素系溶媒抽出量や低分子成分の含有量を抑え、酸化防止剤、中和剤並びに耐光剤の添加量を極力制限した容器の提案があるが、ポリエチレン樹脂に残存する触媒成分による灰分の影響に対する改良が不十分であり、薬品に溶出する金属不純物濃度に対する対策が未完成である。また、微粒子のレベルが0.2μm以上と十分でない(特許文献2、3参照)。
【0004】
また、密度が0.940~0.970g/cm、温度190℃、21.6kg荷重のメルトフローレートが2~50g/10分、ゲルパーミッーション・クロマトグラフィー(GPC)より求められる重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)が8~15、ポリエチレン樹脂に含有されている灰分量が50PPM以下であることを特徴とする高純度薬品容器用ポリエチレン及び高純度薬品容器が提案されているが、ポリエチレン樹脂に残存する触媒成分による灰分の影響に対する改良が不十分であり、薬品に溶出する金属不純物濃度に対する対策が未完成である(特許文献4参照)。
【0005】
さらには、密度が0.940~0.970g/cm、温度190℃、21.6kg荷重のメルトフローレートが2~8.5g/10分、ゲルパーミッーション・クロマトグラフィー(GPC)より求められる重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)が8~15、GPCを用いて得られる分子量分布曲線において、分子量1000以下の成分が0.30重量%以下、ESCRが130時間以上である性状を有する超高純度薬品容器用ポリエチレン樹脂及び高純度薬品容器が提案されているが、小型容器とした場合に表面平滑性が不十分であった(特許文献5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】WO00/17057号公報
【特許文献2】特開平7-62161号公報
【特許文献3】特開平7-257540号公報
【特許文献4】特開平11-80257号公報
【特許文献5】特許第6705157号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、ポリエチレン樹脂であって、該ポリエチレン樹脂を高純度薬品容器として使用した場合に、該樹脂の溶出物や劣化物等の汚染物質の溶出を極力抑え、耐薬品性および表面平滑性に優れるポリエチレン樹脂及びそれよりなる高純度薬品容器の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、密度、メルトフローレート、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)により求められる分子量等の特性、金属の含有量、ESCR等が特定の性状を有するポリエチレンを使用することにより、ポリエチレン由来の微粒子や重合触媒成分由来の金属不純物が少なく、耐薬品性および表面平滑性に優れた高純度薬品容器が得られることを見出し、本発明を開発するに至った。
【0009】
即ち、本発明の各態様は以下に示す[1]~[7]である。
[1]温度190℃、荷重2.16kgのメルトフローレート(MFR)が20~40g/10分、密度(JIS K6922-1)が0.960~0.970g/cmであるエチレン系重合体と、温度190℃、荷重21.6kgのメルトフローレート(HLMFR)が0.10~10g/10分、密度が0.920~0.940g/cmであるエチレン系重合体の2成分を含み、該2成分の重量比が40:60~60:40であり、以下の(1)~(7)の性状を有するポリエチレン樹脂。
(1)密度が0.945~0.955g/cm
(2)温度190℃、荷重21.6kgにおけるHLMFRが21~80g/10分
(3)温度190℃、荷重2.16kgにおけるMFRが0.5~1.5g/10分
(4)ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィ(GPC)により求められる重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)が5.0~7.9
(5)GPCを用いて得られる分子量分布曲線において、分子量1000以下の成分が0.30重量%以下
(6)含有金属量がポリエチレン樹脂に対して15PPM以下
(7)耐環境応力亀裂(ESCR)が100時間以上
[2] 添加剤を含まない、上記[1]に記載の高純度薬品容器用ポリエチレン樹脂。
[3] 上記[1]又は[2]に記載のポリエチレン樹脂からなる高純度薬品容器。
[4] 容器内面の展開面積比が1.10以下である、上記[3]に記載のポリエチレン樹脂からなる高純度薬品容器。
[5] 容器内表面の最大粗さRzが10μm以下である、上記[3]または[4]に記載のポリエチレン樹脂からなる高純度薬品容器。
[6] 容器内面のグロスが40%以上である、上記[3]~[5]のいずれかに記載の高純度薬品用容器。
[7] 未洗浄容器に超純水を充填し、40℃×35日間静置保管後の容器から溶出する0.1μm以上の微粒子数が10個/mL以下である、上記[3]~[6]のいずれかに記載の高純度薬品用容器。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様である高純度薬品容器用ポリエチレン樹脂を使用した場合、該ポリエチレン樹脂由来の微粒子や重合触媒成分由来の金属不純物が少なく、耐薬品性および表面平滑性に優れた高純度薬品容器を成形することができる。また、特に20L以下の小型容器に適し、充填された薬品に対して微粒子成分の溶出量が少なく、長期保管後も微粒子の溶出量が少ない高純度薬品容器を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一態様である高純度薬品用ポリエチレン樹脂は、190℃、2.16kg荷重のメルトフローレート(MFR)が20~40g/10分、密度(JIS K6922―1)が0.960~0.970g/cmであるエチレン系重合体と、190℃、21.6kg荷重のメルトフローレート(HLMFR)が0.10~10g/10分、密度が0.920~0.940g/cmであるエチレン系重合体の2成分を含み、該2成分の重量比が40:60~60:40であり、以下の(1)~(7)の性状を有する。
(1)密度が0.945~0.955g/cm
(2)190℃、21.6kg荷重のHLMFRが21~80g/10分
(3)190℃、2.16kg荷重のMFRが0.5~1.5g/10分
(4)ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィ(GPC)により求められる重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)が5.0~7.9
(5)GPCを用いて得られる分子量分布曲線において、分子量1000以下の成分が0.30重量%以下
(6)含有金属量がポリエチレン樹脂に対して15PPM以下
(7)耐環境応力亀裂(ESCR)が100時間以上
高純度薬品用ポリエチレン樹脂は、チーグラー系触媒又はメタロセン系触媒等の高活性触媒により製造できる。例えばチタン、ジルコニウム等の遷移金属化合物、マグネシウム化合物及び有機アルミニウム化合物からなる高活性チーグラー系触媒を重合用触媒として用い、エチレンもしくは、エチレンと炭素数3~20のα-オレフィンを所望の密度となる割合にして共重合することにより、好適に製造することができる。
【0012】
触媒は、特許第3319051号に記載の触媒を挙げることができる。
【0013】
炭素数3~20のα-オレフィンとしては、プロピレン、1-ブテン、4-メチル-1ペンテン、3-メチル-1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、1-ウンデセン、1-ドデセン、1-トリデセン、1-テトラデセン、1-ペンタデセン、1-ヘキサデセン、1-ヘプタデセン、1-オクタデセン、1-ノナデセン、1-エイコセンなどを挙げることができる。
【0014】
該ポリエチレン樹脂の製造における重合方法は、薬品に溶出する金属不純物濃度を低く抑え、また、微粒子の発生の原因となる低分子重合体の樹脂への取り込みを制限するため、炭素数が6以上かつ10以下の重合溶媒、例えば、ノルマルヘキサン、ノルマルヘプタン等を用いるスラリー重合であり、MFRが20~40g/10分、密度が0.960~0.970g/cmである低分子量エチレン系重合体と、HLMFRが0.1~10g/10分、密度が0.920~0.940g/cmである高分子量エチレン系重合体の2成分からなり、該2成分の重量比が40:60~60:40である。低分子量成分および高分子量成分の2成分は、例えば二段重合法で製造できる。
【0015】
また、該ポリエチレン樹脂は以下に示すように密度、HLMFR、MFR、分子量分布(Mw/Mn)、分子量1000以下の成分、含有金属量およびESCRを特定するものである。
【0016】
すなわち、該ポリエチレン樹脂の密度(JIS K6922-1)は0.945~0.955g/cmであり、好ましくは0.948~0.952g/cmである。0.945g/cm未満では容器内の薬品への溶出ポリマー成分が増加し、微粒子の発生原因となる。また、密度が0.955g/cmを超えると容器のESCRが低下する。
【0017】
該ポリエチレン樹脂のHLMFR(JIS K6922-1)は21~80g/10分であり、好ましくは30~60g/10分である。21g/10分未満では容器の表面肌が悪化する。また、80g/10分を超えるとドローダウンが大きくなり成形性が悪くなる。
【0018】
該ポリエチレン樹脂のMFR(JIS K6922-1)は0.5~1.5g/10分であり、好ましくは0.7~1.2g/10分である。0.5g/10分未満では容器の表面肌が悪化する。また、1.5g/10分を超えるとドローダウンが大きくなり成形性が悪くなる。
【0019】
該ポリエチレン樹脂のGPCにより求められるMwとMnの比Mw/Mnは5.0~7.9であり、好ましくは6.0~7.9である。該Mw/Mnが5.0未満では分子量分布が狭く容器の表面肌が悪化し、また、容器のESCRも低下する。該Mw/Mnが7.9を超えると、分子量分布が拡大して低分子量成分が増加し、容器の微粒子が増加する。
【0020】
該ポリエチレン樹脂のGPCを用いて得られる分子量分布曲線において、分子量1000以下の成分は0.30重量%以下である。分子量1000以下の成分が0.30重量%を超えると、低分子量成分が増加し、容器から溶出する微粒子数が増加する。
【0021】
該ポリエチレン樹脂の含有金属量はポリエチレン樹脂に対して15PPM以下である。含有金属量が15PPM以下であれば、高純度薬品への金属溶出量が少ないため、薬品中の金属不純物濃度を抑制することができる。含有金属量は、全樹脂に対する金属分の割合を重量PPMで示すものである。含有金属量は樹脂を灰化したのちにアルカリ溶融して得られるもので、Mg、Al、Ti等の残存物である。
【0022】
該ポリエチレン樹脂のESCRは100時間以上である。ESCRが100時間未満では、例えば界面活性剤等を充填し、6か月以上放置した場合、容器が環境応力亀裂により破損する場合がある。
【0023】
さらに、該ポリエチレン樹脂は、酸化防止剤、耐光安定剤、及び中和剤等の全ての添加剤が無添加であることが好ましい。ここで、中和剤とはステアリン酸カルシウムやステアリン酸亜鉛に代表される脂肪酸金属塩とハイドロタルサイト類であって、何れも薬品中に溶出して金属汚染物質となるものであり、無添加であることが好ましい。
【0024】
該ポリエチレン樹脂はダイレクトブロー成形、射出成形、および射出ブロー成形等により容器状に成形することにより高純度薬品容器とすることが可能である。特に、クリーンルーム内に設置したダイレクトブロー成形機を使用し、フィルターで微粒子を取り除いたエアーをブローエアーに用いたブロー成形方法はクリーンな容器を製造するのに好ましい。該樹脂を用いて得られた高純度薬品容器の形状は特定しないが、内容物のバリア性や容器の強度を補強するために、該樹脂を内層に使用し、該樹脂以外のポリエチレン樹脂、エチレン-ビニルアルコール共重合体、ポリビニルアルコール樹脂、およびポリアミド樹脂等を中間層に使用したり、該樹脂以外のポリエチレン樹脂およびFRP等を外層にして補強した容器であってもかまわない。
【0025】
該ポリエチレン樹脂を用いて成形した容器内面の展開面積比は1.10以下であることが好ましい。展開面積比が1.10を超える場合、内容液との接液面積が増加し、該ポリエチレン樹脂由来の微粒子増加の原因となる。ここで展開面積比は面積に対する表面積の比(表面積/面積)のことである。
【0026】
該樹脂を用いて得られた高純度薬品容器内表面の最大粗さRzは10μm以下であることが好ましい。Rzが10μmを超える場合、成形品とした際に外観の劣るものとなる。さらには薬品中の気泡が肌荒れ箇所に留まり、微粒子として検出されるため、微粒子数増加の原因となる。Rzは、基準長さにおける粗さ曲線の中で、最も高い山の高さと最も深い谷の深さの和を求め、表わしたものである。
【0027】
該樹脂を用いて得られた高純度薬品容器内面のグロスは40%以上であることが好ましい。グロスが40%以上であれば、光沢感があり、表面平滑性に優れるため、薬品の消泡性に優れ、検出される微粒子数を少なくすることができる。
【0028】
さらに、該ポリエチレン樹脂を用いて成形した未洗浄容器に超純水を充填し、容器から溶出する0.1μm以上の微粒子数は、40℃×35日保管後にて10個/mL以下であることが好ましい。0.1μm以上の微粒子数が10個/mL以下であれば、小型容器の場合のLSIの微細化に対応できる。
【0029】
該ポリエチレン樹脂を用いて得られる高純度薬品容器としては、内面積が5000cm以下の小型容器に好適に用いられ、例えば、内容量が10mL~20Lなどの容器が挙げられる。
【実施例0030】
以下、本発明について実施例により説明するが、これら実施例に限定されるものではない。なお、実施例、比較例で使用する試験方法は、以下の通りである。
【0031】
(1)密度
JIS K6922-1に準拠して密度勾配管法で測定した。
【0032】
(2)HLMFR
JIS K6922-1に準拠して、190℃、荷重21.6kgで測定した。
【0033】
(3)MFR
JIS K6922-1に準拠して、190℃、荷重2.16kgで測定した。
【0034】
(4)Mw/Mn
東ソー製HLC-8321GPC/HT(カラム:東ソー製TSKgel guardcolumnHHRおよびTSKgelGMHHR-H)を使用し、溶離液として1,2,4-トリクロロベンゼンを用いてGPCによって測定した。分子量の検量線は、分子量既知のポリスチレン試料を用いて校正した。
【0035】
(5)分子量1000以下の成分
GPC測定により得られた分子量分布曲線から1000以下の成分の積分量の割合を算出した。
【0036】
(6)含有金属量
ポリエチレン樹脂を灰化したのちにアルカリ溶融を行い、溶液化したものを測定溶液とし、Optima 8300を使用して、ICP-AES測定により、試料中の含有金属量を測定した。
【0037】
(7)耐環境応力亀裂(ESCR)
JIS K6922-2に準拠し、試験片を温度50℃のノニオン系海面活性剤(10wt%水溶液)に浸漬させ、試験片が50%の確率で割れる時間(F50値)を測定した。
【0038】
(8)ブロー成形
50mmΦの押出スクリューを有するダイレクトブロー成形機MSE-50E/54M-A((株)タハラ製)を用いて、シリンダー温度190~200℃、スクリュー回転数10~18回転でダイス先端よりパリソンを連続押出し、平均肉厚1mm、内容積800mL(内面積=560cm)または500mL(内面積=420cm)の容器を成形した。
【0039】
(9)容器内面の展開面積比
ポリエチレン樹脂をブロー成形することで得られた内容積800mLまた500mLの容器を使用した。容器胴部内面の表面積と面積を形状測定レーザマイクロスコープ((株)キーエンス製、VK-X200)を使用して測定し、展開面積比(表面積/面積)を算出した。
【0040】
(10)容器内面の最大粗さRz
容器胴部内表面の最大粗さRz値を形状測定レーザマイクロスコープ((株)キーエンス製、VK-X200)を使用して測定した。
【0041】
(11)容器内面のグロス
入射角60°における容器胴部内面のグロスを変角光沢計(NIPPON DENSYOKU製、300A)を使用して測定した。
【0042】
(12)微粒子数
23℃のクリーンルーム内にて未洗浄容器に超純水を内容積の80%充填し、蓋をして15回振とうし、設定温度40℃のクリーンオーブン(ヤマト科学(株)製、DE411)内にて35日間静置保管後、充填水中の0.1μm以上の微粒子数を微粒子カウンター(リオン(株)製、コントローラー:KE-40B1、パーティクルセンサー:KS-42A)で測定した。水中の微粒子数は個/mLで示す。
【0043】
実施例1
〈固体触媒成分の調製〉
撹拌装置を備えた3Lガラスフラスコに、金属マグネシウム粉末30.0g(1.23moL)およびチタンテトラブトキシド168.0g(0.494moL)を入れ、ヨウ素1.5gを溶解したn-ブタノール192g(2.59moL)を90℃で2時間かけて加え、さらに発生する水素ガスを排除しながら窒素シール下で140℃で2時間撹拌した。これを110℃とした後に、テトラエトキシシラン26g(0.125moL)とテトラメトキシシラン19g(0.125moL)を加え、さらに140℃で2時間撹拌した。次いで、ヘキサン2.1リットルを加えて、均一溶液を得た。
【0044】
この均一溶液を撹拌装置を備えた10Lのステンレス製オートクレーブに入れ、オートクレーブの内温を45℃に保ちジエチルアルミニウムクロライド1.0moLとi-ブチルアルミニウムジクロライド0.5moLを含むヘキサン溶液800mLを1時間かけて加え、さらに60℃で1時間撹拌し粒子を生成させた。再び45℃とした後、50%ヘキサン溶液1.04kg(3.35moL)を2時間かけて加えた。すべてを加えた後、60℃で1時間撹拌を行い固体触媒成分を得た。得られた固体触媒成分はヘキサンを用いて残存する未反応物および副生成物を除去した後、ヘキサンスラリーとしてポリエチレン樹脂の製造に用いた。
【0045】
〈ポリエチレンAの製造〉
内容積370Lの連続式重合器の第1段目に脱水精製したヘキサンを110L/時間、有機アルミニウム化合物としてトリブチルアルミニウムを110mmoL、固体触媒成分を0.4g/時間、エチレンを25.4kg/時間、水素を対エチレン濃度比0.45moL/moLとなるようにそれぞれを供給しながら、温度85℃、全圧30kg/cm、平均滞留時間3.4時間の条件下で連続的に第1段目のエチレン重合(低分子量成分)を行った。低分子量成分のMFRは35g/10分、密度は0.968g/cmであった。
【0046】
第1段目の重合体を含むヘキサンスラリーは、フラッシュタンクにて未反応の水素およびエチレンを除去した後、内容積545Lの第2段目重合器に導入した。この重合器に追加のヘキサンを45L/時間供給しながら、エチレンを21.5kg/時間、1-ブテンを1.9kg/時間、水素を対エチレン濃度比0.016moL/moLとなるようにそれぞれを供給しながら、温度80℃、全圧20kPa/cm、平均滞留時間3.3時間の条件下でエチレン重合(高分子量成分)を行った。高分子量成分のHLMFRは2.2g/10分、密度は0.930g/cmであった。第2段目重合器から排出物はフラッシュタンクにて、未反応の水素、エチレン、1-ブテンを除去し、50L/時間のヘキサンにて洗浄した後、乾燥工程を経てエチレン系共重合体の混合物パウダーを得た。低分子量成分の割合は55重量%、高分子量成分の割合は45重量%とした。上記の製造プロセスで2段重合したパウダーを添加剤無添加によりペレット化し、ポリエチレンAを得た。物性測定結果を表1に示す。
【0047】
ポリエチレンAを使用し、800mL容器を成形し、得られた容器を用いて上記した容器内面の評価および微粒子測定を行った。結果を表1に示す。
【0048】
実施例2
実施例1と同じポリエチレンAを使用し、500mL容器を成形し、得られた容器を用いて上記した容器内面の評価および微粒子測定を行った。結果を表1に示す。
【0049】
実施例3
〈ポリエチレンBの製造〉
第1段目重合器の水素を対エチレン濃度比0.40moL/moL、第2段目重合器の1-ブテンを2.5kg/時間、水素を対エチレン濃度比0.020moL/moLとして供給した以外は、実施例1と同様に、ヘキサン中でエチレンとブテン-1を共重合して、二段重合法により重合パウダーを得た。第1段目重合器の低分子量成分のMFRは27g/10分、密度は0.967g/cm、第2段目重合器の高分子量成分のHLMFRは3.2g/10分、密度は0.928g/cmであった。2段重合したパウダーを添加剤無添加によりペレット化し、ポリエチレンBを得た。物性測定結果を表1に示す。
【0050】
ポリエチレンBを使用し、800mL容器を成形し、得られた容器を用いて上記した容器内面の評価および微粒子測定を行った。結果を表1に示す。
【0051】
比較例1
〈ポリエチレンCの製造〉
第1段目重合器の水素を対エチレン濃度比0.25moL/moL、第2段目重合器の水素を対エチレン濃度比0.050moL/moLとして供給した以外は、実施例1と同様に、ヘキサン中でエチレンとブテン-1を共重合して、二段重合法により重合パウダーを得た。
【0052】
第1段目重合器の低分子量成分のMFRは18g/10分、密度は0.967g/cm、第2段目重合器の高分子量成分のHLMFRは8.5g/10分、密度は0.932g/cmであった。2段重合したパウダーを添加剤無添加によりペレット化し、ポリエチレンCを得た。物性測定結果を表1に示す。
【0053】
ポリエチレンCを使用し、800mL容器を成形し、得られた容器を用いて上記した容器内面の評価および微粒子測定を行った。結果を表1に示す。
比較例2
〈ポリエチレンDの製造〉
第1段目重合器の水素を対エチレン濃度比0.70moL/moL、第2段目重合器の水素を対エチレン濃度比0.010moL/moLとして供給した以外は、実施例1と同様に、ヘキサン中でエチレンとブテン-1を共重合して、二段重合法により重合パウダーを得た。
【0054】
第1段目重合器の低分子量成分のMFRは50g/10分、密度は0.969g/cm、第2段目重合器の高分子量成分のHLMFRは1.4g/10分、密度は0.927g/cmであった。2段重合したパウダーを添加剤無添加によりペレット化し、ポリエチレンDを得た。物性測定結果を表1に示す。
【0055】
ポリエチレンDを使用し、800mL容器を成形し、得られた容器を用いて上記した容器内面の評価および微粒子測定を行った。結果を表1に示す。
【0056】
比較例3
比較例2と同じポリエチレンDを使用し、500mL容器を成形し、得られた容器を用いて上記した容器内面の評価および微粒子測定を行った。結果を表1に示す。
【0057】
比較例4
ポリエチレンEとして、下記市販の高密度ポリエチレンを使用した。
【0058】
東ソー(株)製、(商品名)ニポロンハード 8022(MFR=0.35g/10分、密度=0.958g/cm、添加剤無添加)
ポリエチレンEを使用し、800mL容器を成形し、上記した容器内面の評価および微粒子数測定を行った。樹脂の物性と容器の評価結果を表1に示す。
【0059】
比較例5
ポリエチレンFとして、下記市販の高密度ポリエチレンを使用した。
【0060】
東ソー(株)製、(商品名)ニポロンハード 5110(MFR=0.9g/10分、密度=0.961g/cm、添加剤有)
ポリエチレンFを使用し、800mL容器を成形し、上記した容器内面の評価および微粒子数測定を行った。樹脂の物性と容器の評価結果を表1に示す。
【0061】
比較例6
ポリエチレンGとして、下記市販高密度ポリエチレンを使用した。
【0062】
東ソー(株)製、(商品名)ニポロンハード 8D01A(MFR=0.05g/10分、密度=0.957g/cm、添加剤無添加)
ポリエチレンGを使用し、800mL容器を成形し、上記した容器内面の評価および微粒子数測定を行った。樹脂の物性と容器の評価結果を表1に示す。
【0063】
【表1】
【手続補正書】
【提出日】2023-12-15
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
190℃、2.16kg荷重のメルトフローレート(MFR)が20~40g/10分
、密度(JIS K6922―1)が0.960~0.970g/cmであるエチレン
系重合体と、190℃、21.6kg荷重のメルトフローレート(HLMFR)が0.1
0~10g/10分、密度が0.920~0.940g/cmであるエチレン系重合体
の2成分を含み、該2成分の重量比が40:60~60:40であり、以下の(1)~(
9)の性状を有するポリエチレン樹脂。
(1)密度が0.945~0.955g/cm
(2)190℃、21.6kg荷重のHLMFRが21~80g/10分
(3)190℃、2.16kg荷重のMFRが0.5~1.5g/10分
(4)ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィ(GPC)により求められる重量平均
分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)が5.0~7.9
(5)GPCを用いて得られる分子量分布曲線において、分子量1000以下の成分が0
.30重量%以下
(6)含有金属量がポリエチレン樹脂に対して15PPM以下
(7)耐環境応力亀裂(ESCR)が100時間以上
【請求項2】
添加剤を含まない、請求項1に記載のポリエチレン樹脂。
【請求項3】
請求項1または2に記載のポリエチレン樹脂からなる高純度薬品容器。