(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024134788
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】ピッキング装置および自動培養システム
(51)【国際特許分類】
C12M 1/26 20060101AFI20240927BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20240927BHJP
C12M 3/00 20060101ALI20240927BHJP
C12M 1/38 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
C12M1/26
C12M1/00 A
C12M3/00 A
C12M1/38 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023045150
(22)【出願日】2023-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】腰塚 慎之介
(72)【発明者】
【氏名】豊島 伸朗
(72)【発明者】
【氏名】北澤 智文
【テーマコード(参考)】
4B029
【Fターム(参考)】
4B029AA07
4B029AA09
4B029BB01
4B029CC02
4B029FA15
4B029HA04
4B029HA09
(57)【要約】
【課題】一般的な精度のピペットチップを用いた場合でも、精密なチューニングを行うことなく対象となる細胞を吸引できるピッキング装置を提供する。
【解決手段】培養面を有する培養容器を保持するステージと、先端にピペットチップが設けられたヘッド部と、ヘッド部を培養面の面方向および法線方向に駆動可能な駆動部と、ピペットチップの先端から負圧吸引を行う吸引部と、駆動部によるヘッド部の駆動および吸引部による負圧吸引の駆動を制御する駆動制御装置と、を備える。駆動制御装置は、ピペットチップを法線方向に沿わせるとともに、ピペットチップの先端面を培養面と対向させた状態で、培養面を撮像した結果に基づき設定された吸引領域を、面方向に移動させながら吸引させる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
培養面を有する培養容器を保持するステージと、
先端にピペットチップが設けられたヘッド部と、
前記ヘッド部を前記培養面の面方向および法線方向に駆動可能な駆動部と、
前記ピペットチップの先端から負圧吸引を行う吸引部と、
前記駆動部による前記ヘッド部の駆動および前記吸引部による負圧吸引の駆動を制御する駆動制御装置と、
を備え、
前記駆動制御装置は、前記ピペットチップを前記法線方向に沿わせるとともに、前記ピペットチップの先端面を前記培養面と対向させた状態で、前記培養面を撮像した結果に基づき設定された吸引領域を、前記面方向に移動させながら吸引させる、ピッキング装置。
【請求項2】
前記ヘッド部と前記ステージの少なくとも一方は、前記駆動部と前記ステージが前記法線方向に相対移動したときに、接触した前記ピペットチップの先端と前記培養容器の前記法線方向の相対位置関係を保持する位置保持部を有する、
請求項1に記載のピッキング装置。
【請求項3】
前記ヘッド部は、
前記ピペットチップの基端側に接合された接合部と、
前記接合部を前記法線方向に移動可能に支持するとともに、前記培養面に向かう前記法線方向の一方側から前記接合部に係止可能な係止部を有するホルダと、
前記接合部を前記法線方向の一方側に付勢して前記係止部に係止させるとともに、前記接合部に対する負荷に応じて前記法線方向の他方側へ弾性変形可能な付勢部と、
を有し、
前記位置保持部は、前記係止部および前記付勢部を含む、
請求項2に記載のピッキング装置。
【請求項4】
前記駆動制御装置は、前記法線方向に延びる軸線を中心とする周方向に前記ピペットチップを移動させながら吸引させる、
請求項1から3のいずれか一項に記載のピッキング装置。
【請求項5】
前記ピペットチップは、前記吸引部を形成する吸引経路を有し、前記吸引経路の閉鎖状態を維持して動作可能である、
請求項1から3のいずれか一項に記載のピッキング装置。
【請求項6】
前記駆動部は、複数のリンクが多関節で連結されたアーム部を有する、
請求項1から3のいずれか一項に記載のピッキング装置。
【請求項7】
前記培養容器を傾けて前記培養面を水平面に対して傾斜させるチルト部を有する、
請求項1から3のいずれか一項に記載のピッキング装置。
【請求項8】
前記駆動制御装置は、前記水平面に対する傾斜による変化に応じて算出された前記吸引領域の位置情報に基づいて、前記ピペットチップを前記面方向に移動させながら吸引させる、
請求項7に記載のピッキング装置。
【請求項9】
前記吸引領域は、前記培養面を撮像した結果で求められた吸引対象を含むとともに、前記吸引対象よりも広い範囲である、
請求項1から3のいずれか一項に記載のピッキング装置。
【請求項10】
請求項1から3のいずれか一項に記載のピッキング装置と、
前記培養容器で培養が行われる培養部、前記培養面を撮像する撮像装置、インキュベータおよび培地交換装置を有する自動培養装置と、
を備える、自動培養システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピッキング装置および自動培養システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
細胞の維持培養においては、培養している元の細胞から変化した細胞がしばしば発生、混入する。そこで、その変化を撮影画像から検知し、ディスポーザブルチップの装着された吸引機構を用いて狙いの細胞を吸引し、除去するという技術が既に存在し知られている。
【0003】
特許文献1には、培養容器内の細胞をピックアップする目的で、ピペットチップを鉛直方向に対して傾けた斜めに配置して、培養容器に対して接触させながら吸引するという構成が開示されている。
【0004】
しかし、従来の技術では、大きさが十数μmの細胞に対し、ピペットチップを細胞の位置に移動させた後に細胞を吸引するというアプローチが採られている。このアプローチを採る場合には、移動ステージの駆動およびピペットチップの駆動を高精度化する、もしくは個体差に合わせて精密なチューニングや位置調整などを行う必要がある。
【0005】
また、駆動精度を向上させたとしても、一般に市販されているピペットチップにおける長さ等の寸法は、吸引時に必要な部品精度を有していないため、吸引対象となる細胞を高精度に吸引できないという問題が生じる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、一般的な精度のピペットチップを用いた場合でも精密なチューニングを行うことなく、対象となる細胞を吸引できるピッキング装置および自動培養システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、培養面を有する培養容器を保持するステージと、先端にピペットチップが設けられたヘッド部と、前記ヘッド部を前記培養面の面方向および法線方向に駆動可能な駆動部と、前記ピペットチップの先端から負圧吸引を行う吸引部と、前記駆動部による前記ヘッド部の駆動および前記吸引部による負圧吸引の駆動を制御する駆動制御装置と、を備え、前記駆動制御装置は、前記ピペットチップを前記法線方向に沿わせるとともに、前記ピペットチップの先端面を前記培養面と対向させた状態で、前記培養面を撮像した結果に基づき設定された吸引領域を、前記面方向に移動させながら吸引させる、ピッキング装置である。
【発明の効果】
【0008】
本発明では、一般的な精度のピペットチップを用いた場合でも、精密なチューニングを行うことなく対象となる細胞を吸引できるピッキング装置および自動培養システムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明に係るピッキング装置20および自動培養システム1の第1実施形態を示す概略構成図である。
【
図2】第1実施形態のピッキング装置20におけるヘッド部30の縦断面図である。
【
図3】ピペットチップ31の先端が培養面2Aに接したヘッド部30の縦断面図である。
【
図4】ピペットチップ31の先端と培養面2Aを拡大した断面図である。
【
図6】ピッキング装置20を用いて細胞を吸引した結果を示す図である。
【
図7】ピペットチップ31を周方向に走査移動させずに細胞を吸引した結果を示す図である。
【
図8】
図5に示したシーケンスに従って画像処理から指定の細胞の吸引まで実施した結果を示す図である。
【
図9】本発明に係るピッキング装置20および自動培養システム1の第2実施形態を示す概略構成図である。
【
図10】本発明に係るピッキング装置20および自動培養システム1の第2実施形態を示す概略構成図である。
【
図11】ステージ70が位置保持部を有する構成のピッキング装置20の変形例を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明のピッキング装置および自動培養システムの実施の形態を、
図1から
図11を参照して説明する。
なお、以下の実施形態は、本発明の一態様を示すものであり、この発明を限定するものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で任意に変更可能である。また、以下の図面においては、各構成をわかりやすくするために、実際の構造と各構造における縮尺や数等を異ならせている。
【0011】
図1は、本発明に係るピッキング装置20および自動培養システム1を示す概略構成図である。自動培養システム1は、培養容器2を用い培養面2Aにおいて細胞の培養を自動的に行うとともに、培養中の細胞のうち特定の細胞をピックアップする。自動培養システム1は、自動培養装置10と、ピッキング装置20と、移載部3と、を備えている。
【0012】
自動培養装置10は、培養部11と、撮像装置12と、培地交換装置13と、インキュベータ14と、情報処理装置15と、筐体16と、を有している。培養部11、撮像装置12、培地交換装置13およびインキュベータ14は、筐体16の内部に収容されている。
【0013】
培養部11は、培養容器2を保持する。培養部11は、培養面2Aが水平面と平行となる姿勢で培養容器2を保持する。培地交換装置13は、培養部11に保持された培養容器2に対して、細胞培養のための培地交換を自動で行う。インキュベータ14は、細胞を培養するために筐体16の内部の温度を一定に保持する。インキュベータ14は、さらに筐体16の内部の湿度および二酸化炭素濃度を一定に保持してもよい。
【0014】
撮像装置12は、培養部11に保持された培養容器2における培養面2Aを撮像する。撮像装置12は、培養面2Aにおける培養細胞の画像を撮影する。撮像装置12で撮影された培養細胞の画像は、撮影画像としての位置情報をもって情報処理装置15に出力される。
【0015】
情報処理装置15は、撮像装置12から出力された撮影画像を画像処理、もしくはAI等の技術を用い各細胞、各コロニーの中心位置あるいは重心位置を検出し、撮影画像内の各細胞、各コロニーの位置座標を算出する。情報処理装置15は、撮影画像の位置情報と画像内の各細胞、各コロニーの位置座標に基づき、培養細胞の各細胞、各コロニー毎の位置座標を算出する。この際、情報処理装置15は、各細胞や各コロニーの大きさも併せて算出する。情報処理装置15は、算出した培養細胞における各細胞、各コロニー毎の位置座標と大きさをピッキング装置20における後述する駆動制御装置60に出力して情報転送する。
【0016】
情報処理装置15から駆動制御装置60への情報転送としては、有線接続による情報転送の他に、Wi-fi(登録商標)やBluetooth(登録商標)等の無線接続による情報転送であってもよい。また、外部通信回線に設けられたクラウドを介して情報を処理、蓄積、転送することも可能である。
【0017】
[ピッキング装置20の第1実施形態]
ピッキング装置20は、培養容器2における培養面2Aで培養中の細胞のうち特定の細胞をピックアップ可能である。第1実施形態のピッキング装置20は、基台21と、ヘッド部30と、駆動部40と、吸引部50と、駆動制御装置60と、ステージ70と、キャビネット80と、を備えている。
【0018】
培養容器2、基台21、ヘッド部30、駆動部40およびステージ70は、キャビネット80の内部に収容されている。キャビネット80の内部に収容することによって、コンタミネーションの拡散を防止できる。また、キャビネット80と同等環境の装置、筐体内に組み込むことも可能である。
【0019】
ステージ70は、保持面71を有している。保持面71は水平面と平行である。保持面71は、培養容器2および基台21を保持する。保持面71の保持された培養容器2の2Aは、水平面と平行である。
【0020】
図2は、ヘッド部30の縦断面図である。
図2においては、ヘッド部30とステージ70が対向する方向を上下方向と呼ぶ。本実施形態の上下方向は、ステージ70に保持された培養容器2における培養面2Aの法線方向である。本実施形態の水平方向は、培養面2Aの面方向である。ヘッド部30が配置される側を上側と呼び、ステージ70が配置される側を下側と呼ぶ。下側は、法線方向の一方側に対応する。上側は、法線方向の他方側に対応する。なお、上下方向、上側、および下側とは、単に各部の配置関係等を説明するための名称であり、実際の配置関係等は、これらの名称で示される配置関係等以外の配置関係等であってもよい。
【0021】
図2に示すように、ヘッド部30は、ピペットチップ31と、接合部32と、ホルダ33と、付勢部35と、押さえ部材36と、を有する。ピペットチップ31は、ヘッド部30における下側の先端に設けられている。ピペットチップ31は、下側に先細る形状の円筒状である。ピペットチップ31は、先端に開口部31aが形成され長手方向である上下方向に延びて貫通する吸引経路31bを内部に有している。ピペットチップ31は、上側の基端側の端部に嵌合突部31cを有している。
【0022】
接合部32は、ピペットチップ31の上側に同軸で配置される軸状である。接合部32は、嵌合部32aと、保持部32bと、係止突部32cと、保持部32dと、配管接続部32eと、吸引経路32fと、を有する。
【0023】
嵌合部32aは、接合部32においてピペットチップ31と対向する下側の端部に設けられる。嵌合部32aは、ピペットチップ31の上側における吸引経路31bの内周面に嵌め合わされる。保持部32bは、嵌合部32aよりも上側に位置する。保持部32bは、ホルダ33に上下方向に移動可能に保持される。係止突部32cは、保持部32bの上側に位置する。係止突部32cは、保持部32bおよび保持部32dよりも大きい直径で形成されている。保持部32dは、押さえ部材36を上下方向に貫通する。保持部32dは、押さえ部材36に上下方向に移動可能に保持されている。配管接続部32eは、保持部32dの上側に位置する。配管接続部32eは、接合部32における上端に位置する。配管接続部32eには、吸引配管55が接続される。吸引経路32fは、接合部32を上下方向に貫通する貫通孔で形成されている。吸引経路32fの下端は、ピペットチップ31の吸引経路31bと連通している。吸引経路32fの上端は、吸引配管52の内部と連通している。
【0024】
ホルダ33は、突部33aと、凹部33bと、係止部33cと、を有する。突部33aは、下側に突出する円筒状である。突部33aは、保持孔33dと、凹部33eと、を有する。保持孔33dは、突部33aを上下方向に貫通する。保持孔33dは、接合部32における保持部32bを上下方向に移動可能に支持する。凹部33eは、突部33aにおける下側の端面から上側に窪んで形成されている。凹部33eには、ピペットチップ31の嵌合突部31cが下側から嵌まって上下方向に移動可能に保持される。
【0025】
凹部33bは、ホルダ33の上面から下側に窪んで形成されている。凹部33bは、断面が円形である。凹部33bの底面は、接合部32における係止突部32cに下側から係止する係止部33fである。押さえ部材36は、ホルダ33の上面に固定されている。押さえ部材36は、凹部33bを上側から覆っている。押さえ部材36は、上下方向に貫通する接合部32における保持部32dを上下方向に移動可能に保持している。
【0026】
付勢部35は、ホルダ33の凹部33bに配置されている。付勢部35は、上下方向に延びる弾性部材である。付勢部35は、上下方向に圧縮された状態で配置された弾性部材である。付勢部35は、一例として、圧縮ばねである。付勢部35は、上端が押さえ部材36に下側から係合している。付勢部35は、下端が接合部32における係止突部32cに上側から係合している。上端が押さえ部材36に係合する付勢部35は、係止突部32cを介して接合部32を培養面2Aに向かう法線方向の一方側である下側に付勢することによって、接合部32をホルダ33における係止部33fに係止させる。付勢部35によって下側に付勢された接合部32は、係止突部32cがホルダ33における係止部33fに上側から係止することで、ピペットチップ31が突部33aから最も下側に突出した状態が保持される。
【0027】
図3は、ピペットチップ31の先端が培養面2Aに接したヘッド部30の縦断面図である。
図3においては、ピペットチップ31の先端が培養面2Aに接した後に、駆動部40の駆動によって、さらにホルダ33が下側に移動した状態が示されている。
【0028】
図3に示すように、ヘッド部30が下側に移動したときに、ピペットチップ31の先端が培養容器2における培養面2Aに接することで、ピペットチップ31および接合部32の下側への移動が規制される。一方、ホルダ33の下側への移動は継続されるため、ピペットチップ31および接合部32には、矢印で示すように、培養面2Aから上側への負荷が加わる。
【0029】
付勢部35は、ピペットチップ31および接合部32に加わる負荷に応じて上側に弾性変形する。付勢部35が上側に弾性変形することにより、ピペットチップ31および接合部32は、ホルダ33に対して相対的に上側に移動し、係止突部32cは係止部33fから離れる。ホルダ33に対して相対的に上側に移動したピペットチップ31および接合部32は、ピペットチップ31の先端が培養面2Aに接した状態で付勢部35によって下側に付勢される。
【0030】
従って、ホルダ33が駆動部40とともに、ステージ70に対して下側に相対移動したときに、ピペットチップ31に過度な負荷が加わることなく、ピペットチップ31の先端と培養面2Aとの上下方向の相対位置関係が保持される。また、
図3に示した状態からホルダ33が駆動部40とともに、ステージ70に対して上側に相対移動したときには、付勢部35の付勢力でピペットチップ31および接合部32がホルダ33に対して下側に相対移動することで、ピペットチップ31の先端と培養面2Aとの上下方向の相対位置関係が保持される。すなわち、ヘッド部30における係止部33fおよび付勢部35は、駆動部40とステージ70が上下方向に相対移動したときに、接触したピペットチップ31の先端と培養容器2の上下方向の相対位置関係を保持する位置保持部34を構成する。
【0031】
駆動部40は、基台21とヘッド部30を連結する。駆動部40は、ヘッド部30を培養面2Aの面方向および法線方向に駆動可能である。駆動部40は、複数のリンク41、42が多関節で連結されたアーム部43を有する。アーム部43は、一例として、2つのリンク41、42と、図示しない3つのジョイントを備え、回転運動を組み合わせた6軸で基台21に対してヘッド部30を、水平方向と鉛直方向を合わせた3次元方向に動作して目的の座標に駆動可能である。駆動部40の駆動は、駆動制御装置60によって制御される。
【0032】
駆動部40としては、上記アーム部43の他に、X-Yステージなどの水平方向に直動する構成であってもよく、構成の一部をステージ70に配置し、同様の機能を持たせることも可能である。
【0033】
吸引部50は、ピペットチップ31における先端の開口部31aから負圧吸引を行う。吸引部50は、吸引ポンプ51と、吸引配管52と、を有する。吸引ポンプ51は、作動により、吸引配管52、吸引経路32fおよび吸引経路31bを介して開口部31aから負圧吸引を行う。吸引ポンプ51としては、ダイアフラムポンプ、シリンジポンプ、ペリスタポンプなど、種類は問わない、ただし、容量が決まっているシリンジポンプなど用いる際は、予め動作させると吸引前に容量がいっぱいになってしまうため、ピペットチップ31が培養容器2の培養面2Aに接触する前後での動作開始が好ましい。吸引ポンプ51の駆動は、駆動制御装置60によって制御される。
【0034】
駆動制御装置60は、駆動部40および吸引部50の駆動を制御する。駆動制御装置60には、撮像装置12から出力された撮影画像に基づき算出された培養細胞における各細胞、各コロニー毎の位置座標と大きさが情報処理装置15から入力する。
【0035】
移載部3は、自動培養装置10における培養部11とピッキング装置20におけるステージ70との間で培養容器2を搬送して移載する。自動培養装置10における培養部11で培養面2Aに細胞が培養された培養容器2は、移載部3によってステージ70に移載される。移載部3を設けることによって、自動培養装置10とピッキング装置20の間で培養容器2を自動共有可能にすることが可能となり、人の手が入ることなくプログラムされたスケジュール通りに細胞除去作業が可能となる。
【0036】
図4は、
図3におけるピペットチップ31の先端と培養面2Aを拡大した断面図である。
図4に示すように、培養面2Aにおける所定の位置にピペットチップ31を鉛直方向に沿わせるとともに、ピペットチップ31の先端面を培養面2Aに対向させた状態でつき当てて細胞を吸引する。ピペットチップ31の先端面を培養面2Aにつき当てるとは、ピペットチップ31の先端面が培養面2Aに直接接触する場合の他に、ピペットチップ31の先端面と培養面2Aとの間に培地または細胞が介在する場合も含むものとする。ピペットチップ31の先端が培養面2Aに接するまたは接触するとは、ピペットチップ31の先端と培養面2Aとの間に培地または細胞が介在する場合も含むものとする。
【0037】
ピペットチップ31の先端面を培養面2Aにつき当てたとき、ピペットチップ31の先端と培養面2Aとの対向部Vの幅が広い場合は、対向部Vにおける細胞の流速が大きくなり吸引が容易になる。一方、対向部Vの幅が狭い場合は、対向部Vにおける細胞の流速が充分ではなく吸引が困難になる。また、細胞が培養面2Aにおいてピペットチップ31の中央に位置して開口部31aと対向する場合も吸引が困難である。
【0038】
本実施形態では、
図4に矢印で示すように、ピペットチップ31を培養面2Aに接触させたまま水平方向に移動させる。これにより、培養容器2との対向部Vにおける流速で細胞を剥がしながら吸引することができる。
【0039】
具体的には、駆動制御装置60は、情報処理装置15から入力する培養細胞における各細胞、各コロニー毎の位置座標と大きさに基づいて培養面2Aに設定された吸引領域を、培養面2Aにピペットチップ31を接触させたまま水平方向に移動させて吸引させる。
【0040】
本実施形態において駆動制御装置60は、上下方向に延びる軸線を中心とする周方向にピペットチップ31を移動させながら吸引領域における細胞を吸引させる。ピペットチップ31の水平方向の移動としては、上記周方向の移動の他に、水平方向に沿った第1方向の往復移動の間に、第1方向と直交する第2方向への直線移動を介在させて、吸引領域における細胞を順次吸引させてもよい。
【0041】
図5は、細胞吸引の動作を示すシーケンス図である。
図5に示される細胞吸引の動作は、自動培養装置10において培地を用いて細胞が培養された培養面2Aを撮像装置12で撮像された培養容器2が、移載部3によって自動培養装置10における培養部11からステージ70に予め移載されているものとする。
【0042】
また、本実施形態における細胞吸引は、例えば未分化細胞の分化培養において、分化細胞と未分化細胞を分別するために、未分化の異常細胞群をピックアップする例を用いて説明する。ピッキング装置20を用いた細胞吸引は、分化細胞と未分化細胞の分別の他に、複数の細胞が融合してできた融合細胞であるハイブリドーマの製造において、狙ったハイブリドーマをピックアップする際等に用いることができる。
【0043】
図5に示すように、駆動制御装置60が細胞吸引の動作を開始すると(ステップS0)、情報処理装置15は撮像装置12から出力された撮影画像を読み込み、画像処理の結果から所望の細胞ではない異常細胞群を検出するとともに、撮影画像内における吸引対象となる各異常細胞群の位置座標(例えば、中心位置Xp、Yp)と大きさを算出する(ステップS1)。情報処理装置15は、算出した撮影画像内における各異常細胞群の位置座標に基づき、駆動部40の座標系における吸引対象となる各異常細胞群の位置座標(例えば、中心位置Xr、Yr)と大きさを算出する(ステップS2)。
【0044】
情報処理装置15は、さらに、異常細胞群の総数(n)と各異常細胞群の位置座標を中心として周方向に移動する際の吸引半径(s)を設定する(ステップS3)。情報処理装置15は、ステップS3において、駆動部40の駆動精度、移載部3による培養容器2のステージ70への移載精度およびピペットチップ31の先端幅、肉厚等の精度に関する吸引誤差を吸収するために、培養面2Aを撮像した結果で求められた吸引対象の大きさを含むとともに吸引対象よりも広い範囲を吸引領域として設定し、当該吸引領域を吸引可能な吸引半径(s)を設定する。
【0045】
また、情報処理装置15は、ピペットチップ31が1回の周方向の移動で吸引できる面積に対して吸引領域の面積が大きい場合には、値が異なる複数の吸引半径(s、s2…)を設定する。または、情報処理装置15は、ピペットチップ31が周方向に移動するにつれて異常細胞群の位置座標を中心とする径方向に漸次離れる渦巻き状に周方向に走査移動する経路を設定してもよい。複数の吸引半径を設定する際には、各回における吸引誤差を吸収するために、各回の吸引範囲の一部が重なる吸引半径とすることが好ましい。情報処理装置15は、算出した駆動部40の座標系における吸引領域の位置座標、総数(n)および吸引半径(s)あるいは吸引半径(s、s2…)、渦巻き状の移動経路を駆動制御装置60にする。
【0046】
駆動制御装置60は、情報処理装置15から情報転送されると、駆動部40の動作を開始する(ステップS4)。駆動制御装置60は、駆動部40を駆動してヘッド部30を移動させて、まずピペットチップ31をスタンバイ位置まで移動させる(ステップS5)。スタンバイ位置は、ピペットチップ31が培養面2Aよりも上側の位置であり、さらに培養容器2の上端よりも上側であることがピペットチップ31を水平方向に移動させたときの培養容器2との緩衝を抑制する観点から好ましい。
【0047】
その後に駆動制御装置60は、吸引ポンプ51を作動させるとともに、吸引対象となる1番目の異常細胞群を選択してr値=1として計数する(ステップS6)。駆動制御装置60は、計数したr値が異常細胞群の総数(n)以下であるかを判断し(ステップS7)、総数(n)以下の場合は、次の吸引対象となる異常細胞群を選択して現在のr値に1を加算する(ステップS8)。
【0048】
続いて、駆動制御装置60は、駆動部40を駆動してヘッド部30を移動させ、そのときのr値となる異常細胞群の吸引領域にピペットチップ31を移動させる。移動させる吸引領域におけるピペットチップ31の中心位置は、異常細胞群の位置座標(Xr、Yr)である。この後、駆動制御装置60は、駆動部40を駆動してヘッド部30を下側に移動させ、ピペットチップ31の先端を培養面2Aに接触させる。
【0049】
ピペットチップ31の先端における上下方向の位置をピペットチップ31の設計値に基づいてヘッド部30を下側に移動させた場合、ピペットチップ31の長さが設計値よりも短いとピペットチップ31の先端が培養面2Aに接触しない可能性がある。そのため、ヘッド部30を下側に移動させる距離は、ピペットチップ31の長さが設計値である場合の距離よりも長いことが好ましい。ヘッド部30を下側に移動させる距離が、移動前のピペットチップ31の先端と培養面2Aとの距離よりも長い場合でも、付勢部35が上側に弾性変形することにより、ピペットチップ31がヘッド部30に対して上側に相対移動するため、ピペットチップ31の先端および培養面2Aに過度な負荷が加わることを抑制しつつ、ピペットチップ31の先端と培養面2Aとの接触状態を保持できる。
【0050】
ピペットチップ31の先端が培養面2Aに接触した後に、駆動制御装置60は、駆動部40を駆動しヘッド部30を介してピペットチップ31を、異常細胞群の位置座標(Xr、Yr)から吸引半径(s)の距離だけ離れた位置に水平移動させた後に、位置座標(Xr、Yr)を中心として吸引半径(s)で周方向に走査移動させながら異常細胞群を吸引させる(ステップS9)。
【0051】
ピペットチップ31が1回の周方向の移動で吸引できる面積に対して吸引領域の面積が大きい場合、情報処理装置15は、吸引半径(s)で周方向の走査移動が完了した後に、引き続いてピペットチップ31を吸引半径(s2)で周方向に走査移動させて細胞を吸引させる。あるいは、ピペットチップ31が1回の周方向の移動で吸引できる面積に対して吸引領域の面積が大きい場合、情報処理装置15は、ピペットチップ31を渦巻き状の移動経路で周方向に走査移動させて細胞を吸引させる。
【0052】
ピペットチップ31が位置座標(Xr、Yr)を中心として周方向に走査移動すると、駆動制御装置60は、ピペットチップ31を異常細胞群の位置座標(Xr、Yr)に移動させて細胞吸引が完了する。r値=1である異常細胞群の吸引が完了すると、駆動制御装置60は、駆動部40を駆動しヘッド部30を介してピペットチップ31をスタンバイ位置まで移動させる(ステップS10)。
【0053】
ピペットチップ31がスタンバイ位置まで移動すると、ステップS7に戻り、現在のr値が異常細胞群の総数(n)以下であるかを判断し、総数(n)以下の場合は、異常細胞群の総数(n)が完了するまでステップS8において次の吸引対象となる異常細胞群を選択して現在のr値に1を加算し、ステップS9において次の吸引対象となる異常細胞群の吸引領域を上記と同様に、ピペットチップ31の先端を培養面2Aに接触させた状態で異常細胞群の位置座標を中心として吸引半径(s)で周方向に走査移動させながら異常細胞群を吸引させる。
【0054】
一方、ステップS7において、現在のr値が異常細胞群の総数(n)を超えた場合、駆動制御装置60は、駆動部40を駆動しピペットチップ31を初期位置に戻らせる(ステップS11)とともに、吸引ポンプ51を停止させて細胞吸引の動作を完了させる(ステップS12)。
【0055】
なお、上述した吸引動作の前後にピペットチップ31の着脱動作を自動で行わせる手順を追加してもよい。この手順を追加することにより、作業者がピペットチップ31を交換する手間を省くことができる。
【0056】
図6は、ピッキング装置20を用いて細胞を吸引した結果の画像を示す図である。
図6においては、培養細胞が全面的に広がって形成されている状態で白枠で囲っている範囲にピペットチップ31が培養面2Aに接触しながら走査して細胞を吸引した後の画像が示されている。
図6に示す細胞吸引におけるシーケンスは、吸引半径(s)=0.6mmでピペットチップ31を周方向に走査移動させた。
【0057】
図7は、ピッキング装置20においてピペットチップ31を周方向に走査移動させず、培養面2Aに接触しない状態で細胞を吸引した結果の画像を示す図である。
図7においては、破線で示される円形の範囲の細胞を吸引した。
【0058】
図7に示すように、ピペットチップ31を周方向に走査移動させない場合は、
図4に示した対向部Vにおいては細胞が吸引されたが、中心部分では充分に細胞が吸引されていない。これに対してピペットチップ31を周方向に走査移動させた場合は、
図6に示すように、中心部分も含めて吸引されたことを確認できた。
【0059】
次に、
図5に示したシーケンスに従って画像処理から指定の細胞の吸引まで実施した結果を
図8に示す。
図8においては、iPS細胞を培養し、コロニーが形成された段階で撮像装置12にて培養細胞を撮影した。その後、情報処理装置15にてコロニーの画像内位置座標を算出し、撮影画像の位置情報と合わせて駆動部40の座標系に変換し、指定の細胞を吸引した。指定した細胞は白丸で囲んだ部分であり、
図8中の「Before」では存在した細胞が吸引後の「After」では存在が確認できないことから撮影画像から駆動部40の位置座標への変換、指定の細胞群の吸引が可能であることが確認された。
【0060】
以上説明したように、本実施形態のピッキング装置20および自動培養システム1においては、培養面2Aを撮像した結果に基づき設定された吸引領域を、ピペットチップ31の先端面を培養面2Aと対向させた状態で水平方向に移動しながら吸引するため、一般的な精度のピペットチップ31を用いた場合でも、精密なチューニングを行うことなく対象となる細胞を吸引できる。
【0061】
また、本実施形態のピッキング装置20および自動培養システム1においては、培養面2Aを撮像した結果で求められた吸引対象を含むとともに、吸引対象よりも広い範囲の吸引領域を水平方向に移動して吸引するため、駆動部40によるピペットチップ31の水平方向の位置誤差およびピペットチップ31の幅方向の位置誤差を吸収して、吸引対象となる細胞を効果的に吸引することができる。
【0062】
また、本実施形態のピッキング装置20および自動培養システム1においては、
駆動部40がステージ70に対して上下方向に相対移動したときに、接触したピペットチップ31の先端と培養容器2の上下方向の相対位置関係を保持する位置保持部34を有するため、ピペットチップ31の長さがばらついたとしても培養容器2との過干渉は発生せず、一定の圧力で接触したまま細胞を吸引することができる。
【0063】
[ピッキング装置20の第2実施形態]
続いて、ピッキング装置20の第2実施形態について、
図9から
図10を参照して説明する。これらの図において、
図1から
図8に示す第1実施形態の構成要素と同一の要素については同一符号を付し、その説明を省略する。
【0064】
図9および
図10は、ピッキング装置20および自動培養システム1の第2実施形態を示す概略構成図である。
図8および
図9においては、自動培養装置10の図示を簡略化し、移載部3の図示を省略している。
【0065】
図9に示すように、第2実施形態のピッキング装置20は、チルト部90を有している。チルト部90は、支持台91に支持されている。支持台91には、基台21が支持されている。チルト部90および支持台91は、キャビネット80の内部に収容されている。
【0066】
チルト部90は、支持台92と、サーボモータ93と、ステージ70と、を有する。支持台92は、支持台91に支持されている。ステージ70は、支持台92に回転可能に支持されている。ステージ70は、サーボモータ93の駆動により支持台92に対して回転し、
図10に示すように、水平面に対して角度θで傾くことが可能である。チルト部90は、サーボモータ93の駆動によりステージ70に保持された培養容器2を傾けて、培養面2Aを水平面に対して傾斜させることが可能である。サーボモータ93の駆動は、駆動制御装置60によって制御される。
【0067】
情報処理装置15は、上述した細胞吸引の動作を示すシーケンスにおけるステップS2において、算出した撮影画像内における各異常細胞群の位置座標と、大きさと、吸引半径(s)と、水平面に対する培養面2Aの角度θの傾斜による変化とに応じて、駆動部40の座標系における吸引対象となる各異常細胞群の位置座標(例えば、中心位置Xr、Yr)およびピペットチップ31の先端が辿る走査移送経路を算出して駆動制御装置60に情報転送する。他の構成は、上記第1実施形態と同様である。
【0068】
本実施形態の駆動制御装置60は、上述した細胞吸引の動作を示すシーケンスにおけるステップS9において、サーボモータ93を駆動してステージ70を角度θまで回転させる。これにより、培養容器2が傾き、培養面2Aは水平面に対して角度θで傾斜する。
【0069】
駆動制御装置60は、培養面2Aが水平面に対して傾斜すると、駆動部40を駆動させてピペットチップ31を培養面2Aの法線方向に沿って傾けるとともに、情報処理装置15から転送された情報に基づき、ピペットチップ31の先端を培養面2Aにおける異常細胞群の位置座標に接触させる。続いて、駆動制御装置60は、情報処理装置15から転送された走査移送経路を辿るようにピペットチップ31の先端を培養面2Aの面方向に走査移動させながら異常細胞群の細胞を吸引させる。
【0070】
本実施形態では、ピペットチップ31による細胞吸引の際に培養面2Aが水平面に対して角度θで傾斜しているため、培養容器2内の培地は自重により傾斜方向の下側に移動している。そのため、ピペットチップ31は、培地の吸引を低減した状態で細胞を吸引することができる。この後の細胞吸引の動作は、上記シーケンスに沿って実行される。
【0071】
本実施形態のピッキング装置20および自動培養システム1においては、上記第1実施形態と同様の作用・効果が得られることに加えて、細胞吸引時に吸引してしまう培地の量を低減でき、コスト低減に寄与できる。
【0072】
以上、添付図面を参照しながら本発明に係る好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。上述した例において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0073】
例えば、上記実施形態では、位置保持部34をヘッド部30に設ける構成を例示したが、この構成に限定されない。ステージ70が位置保持部を有する構成やヘッド部30およびステージ70の双方が位置保持部を有する構成であってもよい。
【0074】
図11は、ステージ70が位置保持部を有する構成のピッキング装置20の変形例を示す縦断面図である。
図11に示すように、ピペットチップ31はヘッド部30に対して上下方向に移動せずに固定されている。ステージ70は、ガイド面72と、係止突部73と、を有する。ガイド面72は、ステージ70における左右方向の両側に上下方向に延びて設けられている。係止突部73は、ガイド面72の下側に位置し、左右方向に突出する。ステージ70は、支持台94の上側に隙間をあけて配置されている。
【0075】
支持台94は、左右方向の両側にガイド部材95を有する。ガイド部材95は、ステージ70に対して左右方向の外側にそれぞれ配置されている。ガイド部材95は、上下方向に延びる第1部分95Aと、第1部分95Aの上端からステージ70に向けて延びる第2部分95Bとを有する。第2部分95Bにおけるガイド面72と対向する端面は、ガイド面72と接してステージ70の上下方向の移動をガイドする。第2部分95Bの下面は、ステージ70における係止突部73に上側から係止する係止部96である。
【0076】
ステージ70と支持台94との間の隙間には、付勢部97が配置されている。付勢部97は、左右方向の両側に配置されている。付勢部97は、上下方向に延びる弾性部材である。付勢部97は、上下方向に圧縮された状態で配置された弾性部材である。
付勢部97は、一例として、圧縮ばねである。付勢部97は、上端がステージ70に下側から係合している。付勢部97は、下端が支持台94に上側から係合している。下端が支持台94に係合する付勢部35は、下端が支持台94をピペットチップ31に向かう上側に付勢することによって、係止突部73をガイド部材95における係止部96に係止させる。付勢部97によって上側に付勢されたステージ70は、係止突部73がガイド部材95における係止部96に下側から係止することで、ガイド部材95から上側に突出した状態が保持される。
【0077】
ヘッド部30が下側に移動したときに、ピペットチップ31の先端が培養容器2における培養面2Aに接することで、ステージ70には、矢印で示すように、培養面2Aから下側への負荷が加わる。付勢部97は、ステージ70に加わる負荷に応じて下側に弾性変形する。付勢部97が下側に弾性変形することにより、ステージ70は、ガイド面72が第2部分95Bにガイドされて支持台94およびガイド部材95に対して相対的に下側に移動し、係止突部73は係止部96から離れる。支持台94およびガイド部材95に対して相対的に下側に移動したステージ70は、ピペットチップ31の先端が培養面2Aに接した状態で付勢部97によって上側に付勢される。
【0078】
従って、ホルダ33が駆動部40とともに下側に相対移動したときに、ピペットチップ31に過度な負荷が加わることなく、ピペットチップ31の先端と培養面2Aとの上下方向の相対位置関係が保持される。また、ステージ70が支持台94およびガイド部材95に対して下側に移動した状態からホルダ33がピペットチップ31とともに、ステージ70に対して上側に相対移動したときには、付勢部97の付勢力でステージ70が支持台94およびガイド部材95に対して上側に相対移動することで、ピペットチップ31の先端と培養面2Aとの上下方向の相対位置関係が保持される。以上のように、ガイド部材95における係止部96および付勢部97は、駆動部40とステージ70が上下方向に相対移動したときに、接触したピペットチップ31の先端と培養容器2の上下方向の相対位置関係を保持する位置保持部34を構成することになる。
【0079】
また、上記構成を有するピッキング装置20においては、ピペットチップ31が吸引経路31bの閉鎖状態を維持して動作可能な構成を採ることが好ましい。ピペットチップ31が吸引経路31bの閉鎖状態を維持して動作可能な構成を採った場合には、吸引した細胞を別の培養容器で培養したり、例えば、未分化状態の細胞を用いて生体に対する影響等を検査することが可能になる。吸引経路31bの閉鎖状態を維持する構成としては、例えば、吸引した細胞を捕捉可能なフィルターを吸引経路31bに設置することが挙げられる。
【0080】
本発明は下記の態様を含む。
[1]培養面を有する培養容器を保持するステージと、先端にピペットチップが設けられたヘッド部と、前記ヘッド部を前記培養面の面方向および法線方向に駆動可能な駆動部と、前記ピペットチップの先端から負圧吸引を行う吸引部と、前記駆動部による前記ヘッド部の駆動および前記吸引部による負圧吸引の駆動を制御する駆動制御装置と、を備え、前記駆動制御装置は、前記ピペットチップを前記法線方向に沿わせるとともに、前記ピペットチップの先端面を前記培養面と対向させた状態で、前記培養面を撮像した結果に基づき設定された吸引領域を、前記面方向に移動させながら吸引させる、ピッキング装置。
[2]前記ヘッド部と前記ステージの少なくとも一方は、前記駆動部と前記ステージが前記法線方向に相対移動したときに、接触した前記ピペットチップの先端と前記培養容器の前記法線方向の相対位置関係を保持する位置保持部を有する、前記[1]に記載のピッキング装置。
[3]前記ヘッド部は、前記ピペットチップの基端側に接合された接合部と、前記接合部を前記法線方向に移動可能に支持するとともに、前記培養面に向かう前記法線方向の一方側から前記接合部に係止可能な係止部を有するホルダと、前記接合部を前記法線方向の一方側に付勢して前記係止部に係止させるとともに、前記接合部に対する負荷に応じて前記法線方向の他方側へ弾性変形可能な付勢部と、を有し、前記位置保持部は、前記係止部および前記付勢部を含む、前記[2]に記載のピッキング装置。
[4]前記駆動制御装置は、前記法線方向に延びる軸線を中心とする周方向に前記ピペットチップを移動させながら吸引させる、前記[1]から前記[3]のいずれか一項に記載のピッキング装置。
[5]前記ピペットチップは、前記吸引部を形成する吸引経路を有し、前記吸引経路の閉鎖状態を維持して動作可能である、前記[1]から前記[3]のいずれか一項に記載のピッキング装置。
[6]前記駆動部は、複数のリンクが多関節で連結されたアーム部を有する、前記[1]から前記[3]のいずれか一項に記載のピッキング装置。
[7]前記培養容器を傾けて前記培養面を水平面に対して傾斜させるチルト部を有する、前記[1]から前記[3]のいずれか一項に記載のピッキング装置。
[8]前記駆動制御装置は、前記水平面に対する傾斜による変化に応じて算出された前記吸引領域の位置情報に基づいて、前記ピペットチップを前記面方向に移動させながら吸引させる、前記[7]に記載のピッキング装置。
[9]前記吸引領域は、前記培養面を撮像した結果で求められた吸引対象を含むとともに、前記吸引対象よりも広い範囲である、前記[1]から前記[3]のいずれか一項に記載のピッキング装置。
[10]前記[1]から前記[3]のいずれか一項に記載のピッキング装置と、前記培養容器で培養が行われる培養部、前記培養面を撮像する撮像装置、インキュベータおよび培地交換装置を有する自動培養装置と、を備える、自動培養システム。
【符号の説明】
【0081】
1 自動培養システム
2 培養容器
2A 培養面
10 自動培養装置
12 撮像装置
13 培地交換装置
14 インキュベータ
20 ピッキング装置
30 ヘッド部
31 ピペットチップ
31b 吸引経路
32 接合部
33 ホルダ
33f 係止部
34 位置保持部
35 付勢部
40 駆動部
50 吸引部
60 駆動制御装置
70 ステージ
【先行技術文献】
【特許文献】
【0082】