(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024134867
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】エマルジョン用樹脂組成物、エマルジョン組成物及びコーティング剤
(51)【国際特許分類】
C08L 67/02 20060101AFI20240927BHJP
C08L 29/04 20060101ALI20240927BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20240927BHJP
C08J 3/05 20060101ALI20240927BHJP
C09D 5/02 20060101ALI20240927BHJP
C09D 167/02 20060101ALI20240927BHJP
C09D 129/04 20060101ALI20240927BHJP
A61K 8/85 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
C08L67/02
C08L29/04 D
C08J5/18 CEX
C08J3/05 CFD
C09D5/02
C09D167/02
C09D129/04
A61K8/85
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023045291
(22)【出願日】2023-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079382
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 征彦
(74)【代理人】
【識別番号】100123928
【弁理士】
【氏名又は名称】井▲崎▼ 愛佳
(74)【代理人】
【識別番号】100136308
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100207295
【弁理士】
【氏名又は名称】寺尾 茂泰
(72)【発明者】
【氏名】福田 純己
(72)【発明者】
【氏名】万代 修作
【テーマコード(参考)】
4C083
4F070
4F071
4J002
4J038
【Fターム(参考)】
4C083AD091
4C083AD092
4C083AD111
4C083AD112
4C083CC01
4F070AA26
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4F070AB09
4F070AB11
4F070AB13
4F070AC12
4F070AE28
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4F070CA03
4F070CB02
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4F071AA29
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4F071AB17
4F071AE19
4F071AF15
4F071AG28
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4F071BA04
4F071BB02
4F071BC01
4J002BE022
4J002CF031
4J002FD020
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4J002GB00
4J002GH00
4J002GJ01
4J002HA07
4J038CE022
4J038DD081
4J038MA08
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4J038MA14
4J038NA11
4J038NA24
4J038NA27
4J038PC08
4J038PC10
(57)【要約】
【課題】
造膜性に優れると共に、造膜後の引張強度にも優れるエマルジョン組成物等を提供する。
【解決手段】
脂肪族多価アルコール単位と脂肪族多価カルボン酸単位を主たる構成単位として有する脂肪族ポリエステル系樹脂(A)を含むエマルジョン用樹脂組成物であって、前記脂肪族ポリエステル系樹脂(A)の含水率が200~10,000ppmである、エマルジョン用樹脂組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪族多価アルコール単位と脂肪族多価カルボン酸単位を主たる構成単位として有する脂肪族ポリエステル系樹脂(A)を含むエマルジョン用樹脂組成物であって、前記脂肪族ポリエステル系樹脂(A)の含水率が200~10,000ppmである、エマルジョン用樹脂組成物。
【請求項2】
前記脂肪族ポリエステル系樹脂(A)の190℃、2.16kgにおけるメルトフローレートが、10~80g/10分である、請求項1記載のエマルジョン用樹脂組成物。
【請求項3】
更に、ポリビニルアルコール系樹脂(B1)を含む、請求項1又は2記載のエマルジョン用樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1又は2記載のエマルジョン用樹脂組成物を含有する、エマルジョン組成物。
【請求項5】
分散粒子径が10μm以下である、請求項4に記載のエマルジョン組成物。
【請求項6】
請求項1又は2記載のエマルジョン用樹脂組成物を含有するコーティング剤。
【請求項7】
被コーティング物が紙基材である、請求項6記載のコーティング剤。
【請求項8】
被コーティング物がプラスチック基材である、請求項6記載のコーティング剤。
【請求項9】
請求項1又は2記載のエマルジョン用樹脂組成物を用いてなる成形体。
【請求項10】
請求項1又は2記載のエマルジョン用樹脂組成物を用いてなるフィルム。
【請求項11】
請求項1又は2記載のエマルジョン用樹脂組成物を含有する化粧料。
【請求項12】
請求項1又は2記載のエマルジョン用樹脂組成物を含有する農業用組成物。
【請求項13】
請求項1又は2記載のエマルジョン用樹脂組成物を含有する塗料。
【請求項14】
請求項1又は2記載のエマルジョン用樹脂組成物を含有するインク。
【請求項15】
請求項1又は2記載のエマルジョン用樹脂組成物を含有する粘着剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生分解性樹脂を含有するエマルジョン用樹脂組成物に関する。詳細には、脂肪族ポリエステル系樹脂を含有するエマルジョン用樹脂組成物、エマルジョン組成物及びコーティング剤等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境負担の軽減要請を背景に、各種の生分解性樹脂に関する研究開発が進んでいる。なかでも、脱有機溶剤化を促進する観点から、生分解性樹脂を含有するエマルジョン用樹脂組成物が注目されている。
【0003】
例えば、生分解性に優れるエマルジョン用樹脂組成物として、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート等の脂肪族ポリエステル系樹脂を、ポリビニルアルコール等の分散剤を用いて乳化したエマルジョン組成物が提案されており、接着剤、塗料、コーティング剤等の様々な用途への展開が期待されている(例えば、特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004-204038号公報
【特許文献2】特開2004-238579号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来の脂肪族ポリエステル系樹脂を含むエマルジョン組成物では、造膜後の引張強度が不十分な場合があり、その用途等が制限される場合もあるため、更なる改善が求められている。
また、引張強度の改善を図りつつ、更に、重要な要求特性の一つである造膜性にも優れるエマルジョン組成物に関する研究開発は未だ十分に進展していない。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、前記課題に鑑みなされたものであり、造膜性に優れると共に、造膜後の引張強度にも優れるエマルジョン組成物等を提供することを目的とする。
【0007】
本発明者等は、かかる事情に鑑み鋭意研究を重ねた結果、特定の脂肪族ポリエステル系樹脂における含水率を特定微量に制御することにより、造膜性に優れると共に、造膜後の引張強度にも優れるエマルジョン組成物等を提供できることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
本発明は、以下の[1]~[15]を提供する。
[1]
脂肪族多価アルコール単位と脂肪族多価カルボン酸単位を主たる構成単位として有する脂肪族ポリエステル系樹脂(A)を含むエマルジョン用樹脂組成物であって、前記脂肪族ポリエステル系樹脂(A)の含水率が200~10,000ppmである、エマルジョン用樹脂組成物。
[2]
前記脂肪族ポリエステル系樹脂(A)の190℃、2.16kgにおけるメルトフローレートが、10~80g/10分である、[1]記載のエマルジョン用樹脂組成物。
[3]
更に、ポリビニルアルコール系樹脂(B1)を含む、[1]又は[2]記載のエマルジョン用樹脂組成物。
[4]
[1]~[3]のいずれかに記載のエマルジョン用樹脂組成物を含有する、エマルジョン組成物。
[5]
分散粒子径が10μm以下である、[4]記載のエマルジョン組成物。
[6]
[1]~[3]のいずれかに記載のエマルジョン用樹脂組成物を含有するコーティング剤。
[7]
被コーティング物が紙基材である、[6]記載のコーティング剤。
[8]
被コーティング物がプラスチック基材である、[6]記載のコーティング剤。
[9]
[1]~[3]のいずれかに記載のエマルジョン用樹脂組成物を用いてなる成形体。
[10]
[1]~[3]のいずれかに記載のエマルジョン用樹脂組成物を用いてなるフィルム。
[11]
[1]~[3]のいずれかに記載のエマルジョン用樹脂組成物を含有する化粧料。
[12]
[1]~[3]のいずれかに記載のエマルジョン用樹脂組成物を含有する農業用組成物。
[13]
[1]~[3]のいずれかに記載のエマルジョン用樹脂組成物を含有する塗料。
[14]
[1]~[3]のいずれかに記載のエマルジョン用樹脂組成物を含有するインク。
[15]
[1]~[3]のいずれかに記載のエマルジョン用樹脂組成物を含有する粘着剤。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、造膜性に優れると共に、造膜後の引張強度にも優れるエマルジョン組成物等を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施形態に限定されない。
【0011】
なお、本明細書において、「X~Y」(X,Yは任意の数字)と表現する場合、特にことわらない限り「X以上Y以下」の意と共に、「好ましくはXより大きい」又は「好ましくはYより小さい」の意も包含する。
また、「X以上」(Xは任意の数字)又は「Y以下」(Yは任意の数字)と表現した場合、「Xより大きいことが好ましい」又は「Y未満であることが好ましい」旨の意図も包含する。
更に、「X及び/又はY(X,Yは任意の構成)」とは、X及びYの少なくとも一方を意味し、Xのみ、Yのみ、X及びY、の3通りを意味する。
【0012】
本発明の実施形態の一例に係るエマルジョン用樹脂組成物(以下、「本エマルジョン用樹脂組成物」という場合がある)は、脂肪族多価アルコール単位と脂肪族多価カルボン酸単位を主たる構成単位として有し、含水率が200~10,000ppmである脂肪族ポリエステル系樹脂(A)を含むことを特徴とする。前記含水率を前記範囲内にすることにより、造膜性に優れると共に、造膜後の引張強度にも優れるエマルジョン組成物等を提供することができる。
【0013】
本エマルジョン用樹脂組成物の実施形態の一例としては、例えば、(A)成分、ポリビニルアルコール系樹脂(B1)等の分散剤(B)、及び水等の分散媒(C)を含む水系のエマルジョン用樹脂組成物が好適である。
また、本発明の実施形態の一例としては、本エマルジョン用樹脂組成物を含有するエマルジョン組成物(以下、「本エマルジョン組成物」という場合がある)が好適である。
本エマルジョン組成物は本エマルジョン用樹脂組成物を用いて得られるものであり、具体的には、本エマルジョン用樹脂組成物を用いた転相乳化法等の公知の製造方法によって得られるものである。
以下、本エマルジョン用樹脂組成物及び本エマルジョン組成物について詳しく説明する。
【0014】
〔(A)成分〕
(A)成分は、脂肪族多価アルコール単位と脂肪族多価カルボン酸単位を主たる構成単位として有する脂肪族ポリエステル系樹脂であって、その含水率が200~10,000ppmであることが重要である。
前記含水率が前記範囲を上回ると、造膜後の引張強度が低下する傾向がある。他方、前記含水率が前記範囲を下回ると、造膜後の引張強度が低下する傾向があると共に、エマルジョン組成物の最低造膜温度(MFT)が高くなり、造膜性に劣る傾向がある。
【0015】
(A)成分の含水率は、造膜性と引張強度を両立させる観点から、250~9,000ppmが好ましく、より好ましくは300~8,500ppm、更により好ましくは320~8,000ppmである。
また、(A)成分の含水率は、造膜性と引張強度を両立させると共に、造膜性を特に高める観点からは、1,800~9,000ppmが好ましく、より好ましくは2,000~8,500ppm、更により好ましくは2,400~8,000ppmである。
また、(A)成分の含水率は、造膜性と引張強度を両立させると共に、前記の引張強度を特に高める観点からは、250~7,000ppmが好ましく、より好ましくは300~5,000ppm、更により好ましくは320~3,000ppmであり、特に好ましくは330~2,500ppmである。
【0016】
(A)成分の含水率は、例えば、恒温恒湿機や乾燥機等の公知の処理方法等を用い、温度や時間を適宜設定することよって、前記範囲に調整することができる。
なお、(A)成分の含水率は、ポリマー用水分計を用いて測定することができ、詳細には、後述する実施例に記載の方法によって測定できる。
【0017】
本発明において、脂肪族多価アルコール単位と脂肪族多価カルボン酸単位を主たる構成単位として有し、含水率が200~10,000ppmである脂肪族ポリエステル系樹脂(A)を含むことによって、造膜性に優れると共に、前記の引張強度にも優れるエマルジョン組成物等を提供することができる原理は必ずしも定かではないが、本発明者等は、エマルジョン化前にあらかじめ特定微量を含水しておくことで脂肪族ポリエステル系樹脂が親水化し、エマルジョン化時に投入する水との親和性が向上したため、或いは、特定微量を含水することにより脂肪族ポリエステル系樹脂の可塑性が向上したためと推察している。
【0018】
(A)成分のメルトフローレート(MFR)は、前記の引張強度と造膜性を両立させる観点から、190℃、2.16kgで測定した場合、10g/10分以上であることが好ましく、より好ましくは23g/10分以上、更により好ましくは25g/10分以上である。また、80g/10分以下であることが好ましく、より好ましくは70g/10分以下、更により好ましくは60g/10分以下、更に好ましくは50g/10分以下であり、特に好ましくは30g/10分以下である。
【0019】
(A)成分としては、例えば、下記式(1)で表される脂肪族多価アルコール単位及び下記式(2)で表される脂肪族多価カルボン酸単位を主たる構成単位として有し、含水率が200~10,000ppmの脂肪族ポリエステル系樹脂が挙げられる。
【0020】
-O-R11-O- (1)
[式(1)中、R11は、2価の鎖状脂肪族炭化水素基を示し、共重合されている場合には1種に限定されない。]
【0021】
-OC-R21-CO- (2)
[式(2)中、R21は、2価の鎖状脂肪族炭化水素基を示し、共重合されている場合には1種に限定されない。]
【0022】
なお、前記「単位」とは、脂肪族ポリエステル系樹脂の製造に用いた単量体成分に由来して脂肪族ポリエステル系樹脂中に含まれる構成単位を意味し、「主たる構成単位」とは、対象とする単量体成分に由来する構成単位を、(A)成分の全構成単位中に50モル%以上含むことを意味する。この対象とする単量体に由来する構成単位の含有量は、好ましくは60モル%以上、より好ましくは70モル%以上、更に好ましくは80~100モル%である。例えば、脂肪族多価アルコールと脂肪族多価カルボン酸成分とを、脂肪族ポリエステル系樹脂の重合反応に用いる全単量体成分中に50モル%以上、好ましくは60モル%以上、より好ましくは70モル%以上、更に好ましくは80~100モル%含む原料を重合反応して製造されたものであることが好ましい。
【0023】
式(1)の多価アルコール単位を与える脂肪族多価アルコールとしては、特に限定されないが、例えば、炭素数2~10の脂肪族多価アルコールが好ましく、より好ましくは炭素数4~6の脂肪族多価アルコールである。具体的には、例えば、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール等が挙げられる。なかでも、1,4-ブタンジオールが好ましい。前記脂肪族多価アルコールは、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0024】
式(2)の脂肪族多価カルボン酸単位を与える脂肪族多価カルボン酸成分は、脂肪族多価カルボン酸或いはそのアルキルエステル等の脂肪族多価カルボン酸誘導体であり、その脂肪族多価カルボン酸としては、特に限定されないが、例えば、炭素数2~40の脂肪族多価カルボン酸が好ましく、より好ましくは炭素数4~10の脂肪族多価カルボン酸である。具体的には、例えば、コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカン二酸等が挙げられる。なかでも、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸が好ましく、コハク酸とアジピン酸がより好ましい。前記の脂肪族多価カルボン酸成分は、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0025】
脂肪族多価アルコール単位と脂肪族多価カルボン酸単位を主たる構成単位として有する脂肪族ポリエステル系樹脂の具体例としては、例えば、1,4-ブタンジオールとコハク酸を含む脂肪族ポリエステル系樹脂、1,4-ブタンジオール、アジピン酸、及びコハク酸を含む脂肪族ポリエステル系樹脂等が挙げられる。より具体的には、本発明の効果を顕著に奏する観点から、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート等が好適な例として挙げられる。これらのなかでも、ポリブチレンサクシネートアジペートが好ましい。
【0026】
脂肪族多価カルボン酸がコハク酸である場合、(A)成分の全多価カルボン酸単位中のコハク酸由来の構成単位の割合は、通常50~100モル%、好ましくは80~100モル%、より好ましくは90~100モル%である。
【0027】
また、脂肪族多価カルボン酸がコハク酸とアジピン酸である場合、(A)成分の全多価カルボン酸単位中のコハク酸由来の構成単位の割合は、通常50~95モル%、好ましくは60~93モル%、より好ましくは70~90モル%であり、全多価カルボン酸単位中のアジピン酸由来の構成単位の割合は、通常5~50モル%、好ましくは7~40モル%、より好ましくは10~30モル%である。
【0028】
また、(A)成分は、以下の物性を有するものが好ましい。
【0029】
(A)成分の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは10,000以上、より好ましくは20,000以上、更に好ましくは50,000以上であり、また、好ましくは1,000,000以下、より好ましくは500,000以下、更に好ましくは400,000以下である。
なお、前記重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、ポリスチレンを標準物質として測定した値である。
【0030】
(A)成分の融点は、好ましくは70℃以上、より好ましくは75℃以上であり、また、好ましくは250℃以下、より好ましくは200℃以下、特に好ましくは150℃以下である。融点が複数存在する場合には、少なくとも1つの融点が前記範囲内にあることが好ましい。
【0031】
本エマルジョン樹脂組成物において、(A)成分は、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。例えば、多価アルコール単位や多価カルボン酸単位の異なる脂肪族ポリエステル系樹脂の2種以上を混合して用いてもよい。
【0032】
(A)成分の含有量は、特に制限されないが、エマルジョン組成物全量に対して、15質量%以上が好ましく、より好ましくは20質量%以上、更により好ましくは30質量%以上である。また、70質量%以下が好ましく、より好ましくは65質量%以下、更により好ましくは60質量%以下である。
【0033】
〔(B)分散剤〕
本エマルジョン用樹脂組成物に用いることができる分散剤(B)としては、通常用いられる公知一般の分散剤を用いることができる。例えば、水溶性高分子、各種の界面活性剤等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0034】
水溶性高分子としては、以下に制限されないが、例えば、ポリビニルアルコール系樹脂(以下、「PVA系樹脂」)、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシブチルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、アミノメチルヒドロキシプロピルセルロース、アミノエチルヒドロキシプロピルセルロース等のセルロース誘導体類、デンプン、トラガント、ペクチン、グルー、アルギン酸又はその塩、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸又はその塩、ポリメタアクリル酸又はその塩、ポリアクリルアミド、ポリメタアクリルアミド、酢酸ビニルとマレイン酸、無水マレイン酸、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸、クロトン酸等の不飽和酸との共重合体、スチレンと前記不飽和酸との共重合体、ビニルエーテルと前記不飽和酸との共重合体及び前記共重合体の塩類等が挙げられる。
界面活性剤としては、例えば、ノニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、アニオン界面活性剤等が挙げられる。具体的には、以下に制限されないが、例えば、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルノニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸エステルモノエタノールアミン塩、ポリオキシエチレンラウリルアミノエーテル、ポリオキシエチレンステアリルアミノエーテル等のポリオキシエチレンアルキルアミノエーテル等が挙げられる。
これらのなかでも、本発明の効果を顕著に奏する観点から、PVA系樹脂(B1)が好適に用いられる。
【0035】
[PVA系樹脂(B1)]
本エマルジョン用樹脂組成物で用いることができるPVA系樹脂(B1)としては、未変性PVA樹脂、変性PVA系樹脂が挙げられる。
【0036】
未変性PVA樹脂は、ビニルエステル系化合物を重合して得られるビニルエステル系重合体をケン化することにより製造することができる。
【0037】
かかるビニルエステル系化合物としては、例えば、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、トリフルオロ酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリル酸ビニル、バーサティック酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル等が挙げられるが、酢酸ビニルが好ましい。前記ビニルエステル系化合物は単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0038】
変性PVA系樹脂は、前記ビニルエステル系化合物と、ビニルエステル系化合物と共重合可能な不飽和単量体とを共重合させた後、ケン化することにより製造することができる。
【0039】
前記ビニルエステル系化合物と共重合可能な不飽和単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン、イソブチレン、α-オクテン、α-ドデセン、α-オクタデセン等のオレフィン類、3-ブテン-1-オール、4-ペンテン-1-オール、5-ヘキセン-1-オール等のヒドロキシ基含有α-オレフィン類及びそのアシル化物等の誘導体;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、ウンデシレン酸等の不飽和酸類、その塩、モノエステル、あるいはジアルキルエステル;ジアセトンアクリルアミド、アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド類;エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸等のオレフィンスルホン酸類あるいはその塩等が挙げられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0040】
また、変性PVA系樹脂として、側鎖に一級水酸基を有するもので、例えば、側鎖の一級水酸基の数が、通常1~5個、好ましくは1~2個、特に好ましくは1個であるものが挙げられる。更には、変性PVA系樹脂として、一級水酸基以外にも二級水酸基を有することが好ましい。かかる変性PVA系樹脂としては、例えば、側鎖にヒドロキシアルキル基を有するPVA系樹脂、側鎖に1,2-ジオール構造単位を有するPVA系樹脂等が挙げられる。
【0041】
PVA系樹脂(B1)の平均ケン化度は、70モル%以上であることが好ましく、より好ましくは75~99モル%、更により好ましくは78~95モル%、特に好ましくは82~90モル%である。かかる平均ケン化度が小さすぎると、エマルジョン用樹脂組成物を用いて得られるフィルムの耐水性が低下する傾向がある。
【0042】
特に、PVA系樹脂(B1)として、未変性PVA樹脂を用いる場合には、その平均ケン化度は、75モル%以上であることが好ましく、より好ましくは78~95モル%、更により好ましくは82~90モル%である。かかる平均ケン化度が小さすぎると、エマルジョン用樹脂組成物を用いて得られるフィルムの耐水性が低下する傾向がある。
【0043】
また、PVA系樹脂(B1)として、変性PVA系樹脂を用いる場合には、その平均ケン化度は、72モル%以上であることが好ましく、より好ましくは75~99モル%、更により好ましくは80~95モル%である。かかる平均ケン化度が小さすぎると、エマルジョン用樹脂組成物を用いて得られるフィルムの耐水性が低下する傾向がある。
【0044】
前記の平均ケン化度は、JIS K 6726 3.5に準拠して測定される。
【0045】
また、PVA系樹脂(B1)の20℃における4質量%水溶液粘度は10~70mPa・sであることが好ましく、より好ましくは13~45mPa・s、更により好ましくは17~40mPa・sである。かかる粘度が小さすぎると、エマルジョン組成物の安定性が低下する傾向がある。
【0046】
PVA系樹脂(B1)として、未変性PVA樹脂を用いる場合には、未変性PVA樹脂の20℃における4質量%水溶液粘度は、5~50mPa・sであることが好ましく、より好ましくは13~45mPa・s、更により好ましくは17~40mPa・sである。かかる粘度が小さすぎると、エマルジョン組成物の安定性が低下する傾向がある。
【0047】
また、PVA系樹脂(B1)として、変性PVA系樹脂を用いる場合には、変性PVA系樹脂の20℃における4質量%水溶液粘度は、5~50mPa・sであることが好ましく、より好ましくは13~40mPa・s、更により好ましくは17~30mPa・sである。かかる粘度が小さすぎると、エマルジョン組成物の安定性が低下する傾向がある。
【0048】
前記4質量%水溶液粘度は、JIS K 6726 3.11.2に準じて測定される。
【0049】
PVA系樹脂(B1)の平均重合度としては、50~5,000であることが好ましく、より好ましくは150~4,000であり、更により好ましくは300~3,000である。
なお、平均重合度は、JIS K 6726に記載の平均重合度の算出方法にしたがって求めることができる。
【0050】
本エマルジョン用樹脂組成物において、前記PVA系樹脂(B1)はそれぞれ単独で用いることができ、また未変性PVA樹脂同士を併用すること、変性PVA系樹脂同士を併用すること、未変性PVA樹脂と変性PVA系樹脂を併用すること、更に、平均ケン化度、粘度、変性種、変性量等が異なる2種以上を併用すること等もできる。
【0051】
(A)成分に対する(B)成分の質量比(B/A)は、特に制限されないが、本発明の効果を顕著に奏する観点から、例えば、0.002~0.4であり、0.01~0.3が好ましく、より好ましくは0.02~0.24、更により好ましくは0.06~0.2である。
【0052】
また、(B)成分の含有量は、特に制限されないが、エマルジョン組成物全量に対して、0.1質量%以上が好ましく、より好ましくは0.5質量%以上、更により好ましくは1質量%以上、特に好ましくは3質量%以上である。また、20質量%以下が好ましく、より好ましくは15質量%以下、更により好ましくは12質量%以下、特に好ましくは10質量%以下である。かかる範囲を外れると、エマルジョン組成物の安定性が低下する傾向がある。
【0053】
〔(C)分散媒〕
本エマルジョン用樹脂組成物で用いることができる分散媒(C)は、通常、エマルジョン組成物の安定性に影響を与えない物質・濃度範囲においては、水溶性成分ならば特に限定されず、それらを含む水溶液であればよく、水のみ、多糖類水溶液、セルロース(CNF)水溶液等が挙げられ、少量ならば水溶性の有機溶媒を併用してもよい。有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、アセトン等が挙げられる。これらのなかでも分散媒としては水が最も好ましい。
【0054】
(A)成分に対する(C)成分の質量比(C/A)は、特に制限されないが、本発明の効果を顕著に奏する観点から、例えば、0.5~1.6であり、0.7~1.4が好ましく、より好ましくは0.8~1.2である。
【0055】
(C)成分の含有量は、特に制限されないが、エマルジョン組成物全量に対して、25質量%以上が好ましく、より好ましくは35質量%以上、更により好ましくは40質量%以上である。また、80質量%以下が好ましく、より好ましくは70質量%以下、更により好ましくは60質量%以下である。
【0056】
また、水と有機溶媒を併用した分散媒とする場合、当該分散媒全量に対する水の含有割合は60質量%以上が好ましく、より好ましくは70質量%以上、更により好ましくは90質量%以上である。これらのなかでも、水のみを分散媒とするのが最も好ましい。
【0057】
〔その他の成分〕
本エマルジョン用樹脂組成物には、前記各成分以外に、その他の成分を含まないことが好ましいが、その他の成分として、エマルジョン用樹脂組成物に常用されている成分を、本発明の効果を損なわない範囲(例えば、エマルジョン組成物全量に対して10質量%以下)であれば、従来から、一般的に樹脂組成物に常用されている成分を含んでいても差し支えない。かかる成分としては、特に制限されないが、例えば、前記ポリエステル系樹脂(A)以外のポリエステル系樹脂、可塑剤、防腐剤、防カビ剤、抗菌剤、熱可塑性樹脂、各種安定剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、防錆剤、硬化剤、充填剤等が挙げられる。
【0058】
(ポリエステル系樹脂(A)以外のポリエステル系樹脂)
前記ポリエステル系樹脂(A)以外のポリエステル系樹脂としては、例えば、脂肪族オキシカルボン酸単位を主たる構成単位として有する脂肪族ポリエステル系樹脂が挙げられる。脂肪族オキシカルボン酸単位を与える脂肪族オキシカルボン酸成分の具体例としては、例えば、乳酸、グリコール酸、2-ヒドロキシ-n-酪酸、3-ヒドロキシ酪酸、4-ヒドロキシ酪酸、2-ヒドロキシカプロン酸、6-ヒドロキシカプロン酸、2-ヒドロキシ-3,3-ジメチル酪酸、2-ヒドロキシ-3-メチル酪酸、2-ヒドロキシイソカプロン酸、3-ヒドロキシ吉草酸、リンゴ酸、クエン酸等、又はこれらの低級アルキルエステル若しくは分子内エステル等が挙げられる。また、ε-カプロラクトン等のラクトン化合物も本発明において脂肪族オキシカルボン酸に包含される。これらに光学異性体が存在する場合には、D体、L体又はラセミ体のいずれでもよく、形態としては固体、液体又は水溶液であってもよい。これらのなかでも、乳酸、グリコール酸、3-ヒドロキシ酪酸、4-ヒドロキシ酪酸、6-ヒドロキシカプロン酸、3-ヒドロキシ吉草酸が好ましい。これら脂肪族オキシカルボン酸は、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0059】
前記脂肪族オキシカルボン酸単位を主たる構成単位として有する脂肪族ポリエステル系樹脂の具体例としては、例えば、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ3-ヒドロキシブチレート、ポリ4-ヒドロキシブチレート、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシバレエート)、ポリカプロラクトン等が挙げられる。
【0060】
ポリ乳酸に含まれる乳酸の構成としては、例えば、モル比で、D-乳酸:L-乳酸=100:0~85:15、又は、0:100~15:85である。また、D-乳酸とL-乳酸との構成割合が異なった他のポリ乳酸をブレンドすることも可能である。
【0061】
更には、ポリ乳酸は、前述のポリ乳酸と、他のオキシカルボン酸との共重合体であってもよく、また少量の鎖延長剤に由来する単位を含んでいてもよい。他のオキシカルボン酸としては、乳酸の光学異性体(L-乳酸に対してはD-乳酸、D-乳酸に対してはL-乳酸)、グリコール酸、3-ヒドロキシ酪酸、4-ヒドロキシ酪酸、2-ヒドロキシ-n-酪酸、2-ヒドロキシ-3,3-ジメチル酪酸、2-ヒドロキシ-3-メチル酪酸、2-メチル乳酸、2-ヒドロキシカプロン酸等の2官能脂肪族オキシカルボン酸類、及びカプロラクトン、ブチロラクトン、バレロラクトン等のラクトン類が挙げられる。このような他のオキシカルボン酸に由来する単位は、ポリ乳酸の全構成単位中15モル%未満で使用することができる。
【0062】
また、前記ポリエステル系樹脂(A)以外のポリエステル系樹脂としては、例えば、脂肪族多価アルコール単位、脂肪族多価カルボン酸単位、及び芳香族多価カルボン酸単位を主たる構成単位として有する脂肪族-芳香族ポリエステル系樹脂が挙げられる。
脂肪族多価アルコール単位、脂肪族多価カルボン酸単位、及び芳香族多価カルボン酸単位を主たる構成単位として有する脂肪族芳香族ポリエステル系樹脂は、例えば、前記式(1)で表される脂肪族多価アルコール単位、前記式(2)で表される脂肪族多価カルボン酸単位、及び、下記式(3)で表される芳香族多価カルボン酸単位を主たる構成単位とするものである。更に、前述のオキシカルボン酸単位を有していてもよい。
【0063】
-OC-R31-CO- (3)
[式(3)中、R31は2価の芳香族炭化水素基を示し、共重合されている場合には1種に限定されない。]
【0064】
式(1)の多価アルコール単位を与える脂肪族多価アルコール及び式(2)の脂肪族多価カルボン酸単位を与える脂肪族多価カルボン酸成分については、前記(A)成分の説明で例示したものと同様である。
【0065】
式(3)の芳香族多価カルボン酸単位を与える芳香族多価カルボン酸成分としては、特に限定されないが、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸等が挙げられる。これらは酸無水物であってもよい。また、芳香族多価カルボン酸の誘導体として、これらの芳香族多価カルボン酸の低級アルキルエステル等が挙げられる。
【0066】
脂肪族-芳香族ポリエステル系樹脂の具体例としては、ポリブチレンアジペートテレフタレート又はポリブチレンサクシネートテレフタレート等のポリブチレンアルキレートテレフタレートが挙げられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0067】
(可塑剤)
前記可塑剤としては、例えば、分子内にエステル結合を有するエステル系可塑剤が挙げられる。例えば、アジピン酸エステル系可塑剤、セバシン酸エステル系可塑剤、アゼライン酸エステル系可塑剤等の脂肪族二塩基酸エステル系可塑剤、フタル酸エステル系可塑剤、リン酸エステル系可塑剤、クエン酸エステル系可塑剤、グリコール酸エステル系可塑剤、トリメリット酸エステル系可塑剤、リシノール酸エステル系可塑剤、安息香酸エステル系可塑剤、酢酸エステル系可塑剤等が挙げられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0068】
〔エマルジョン用樹脂組成物及びエマルジョン組成物の製造方法〕
本エマルジョン用樹脂組成物及び本エマルジョン組成物の製造方法は、例えば、脂肪族多価アルコール単位と脂肪族多価カルボン酸単位を主たる構成単位として有する脂肪族ポリエステル系樹脂の含水率を200~10,000ppmの範囲に調整する調湿工程を含むことが好ましい。
かかる調湿工程としては、公知の恒温恒湿機や公知の乾燥機を用いることができる。例えば、恒温恒湿機における温度や時間は適宜調整することができるが、例えば、60~80℃、1~6時間の範囲で調整することが好ましい。
前記製造方法は、前記調湿工程の後工程においては、例えば、得られた(A)成分と、(B)分散剤及び(C)分散媒とを混合する転相乳化工程を含む。
【0069】
具体的には、例えば、前記により得られた(A)成分又は(A)成分及び他の成分を含有する組成物を、加熱条件下において溶融混練する工程と、溶融混練された前記(A)成分又は前記組成物に対して、(B)分散剤、及び(C)分散媒とを添加して混合する転相乳化工程により製造される。加熱温度は、通常、40~250℃、好ましくは60~200℃、より好ましくは60~160℃、更により好ましくは80~150℃で行う。加熱時間は、通常、10~1,800秒間、好ましくは10~600秒間、より好ましくは20~300秒間である。
【0070】
前記溶融混練する工程に用いる混練機としては、例えば、押出機、ホモジナイザー(高圧)、ロールミル、ニーダー、インクロール、バンバリーミキサー等が挙げられる。これらのなかでも、生産性の観点から、押出機が好ましく、二軸押出機等のように二本以上のスクリューを有する多軸押出機が特に好ましい。
【0071】
押出機を用いて製造する場合は、例えば、(A)成分を押出機のホッパー又は、別系統の供給口より連続的に供給して加熱条件下において溶融混練し、PVA系樹脂(B1)等の(B)分散剤及び水等の(C)分散媒を押出機に設けられた他の供給口より添加し、混錬分散して転相乳化した後、ダイから連続的に押出すことにより、本エマルジョン組成物を得ることができる。
【0072】
また、例えば、(A)成分を、押出機等を用いて加熱条件下において溶融混練して得られたペレットを用い、本エマルジョン組成物を得ることもできる。具体的には、(A)成分からなるペレットを押出機のホッパーより連続的に供給して加熱条件下において溶融混練し、PVA系樹脂(B1)等の(B)分散剤及び水等の(C)分散媒を同押出機に設けられた他の供給口より添加し、混練分散して転相乳化した後、ダイから連続的に押出すことにより、本エマルジョン組成物を得ることができる。
【0073】
〔エマルジョン用樹脂組成物及びエマルジョン組成物〕
前記のように、(A)成分、PVA系樹脂(B1)等の(B)分散剤、及び水等の(C)から得られた本エマルジョン用樹脂組成物は、水系のエマルジョン用樹脂組成物である。本発明の好ましい実施形態としては、かかる水系のエマルジョン用樹脂組成物から得られる水系のエマルジョン組成物である。水系のエマルジョン組成物とは、粒子状物質が水系溶媒中で分散してエマルジョン化したものであり、具体的には、分散質が実質的に溶解しない若しくは分散質の溶解度が著しく低い水及び/又は有機溶媒等の水性液体を分散媒(即ち、連続相)とするエマルジョン系である。本エマルジョン組成物においては、(A)成分が分散質であり、これらが水系溶媒中に分散した水系のエマルジョン組成物である。
【0074】
本エマルジョン組成物における分散質の分散粒子径は、安定性の観点から、10μm以下であり、5μm以下が好ましく、より好ましくは2.5μm以下、更により好ましく3μm以下である。また、下限値は通常0.01μm程度である。
なお、当該分散粒子径は、体積基準で積算粒子径分布の値が50%に相当するメジアン径(d50)であり、例えば、レーザー回折粒子径測定装置(例えば、品番LA-950V2、堀場製作所社製)で測定することができる。
【0075】
本エマルジョン組成物における最低造膜温度(MFT)は、造膜性の観点から、0~60℃の範囲内であることが好ましく、より好ましくは3~50℃、更により好ましくは5~40℃である。
なお、最低造膜温度(MFT)は、JIS K 6828 5.11に準拠して、測定することができる。
【0076】
本エマルジョン組成物から得られるフィルム等は、引張強度に優れるものである。具体的には、例えば、後記実施例に記載の方法により測定される引張強度(MPa)が、6MPa以上であり、好ましくは7~20MPa、更により好ましくは8~15MPaである。
【0077】
本エマルジョン用樹脂組成物は、更に生分解性を向上させる観点から、(B)分散剤として生分解性を有する成分を用いるのが好ましく、なかでも、(B)分散剤としてPVA系樹脂(B1)を用いることがより好ましい。
【0078】
〔用途〕
本エマルジョン用樹脂組成物又は本エマルジョン組成物は、以下に制限されないが、公知の成形方法により得られる成形体(フィルム等)の形態として用いることができる。
また、本エマルジョン用樹脂組成物又は本エマルジョン組成物は、例えば、接着剤、粘着剤、これらの改質剤、コーティング剤、ヒートシール剤、塗料、塗料用プライマー、インク、バインダー等として、紙、フィルム、シート、構造材料、建築材料、自動車部品、電気・電子製品、包装材料、衣料、医薬品、化粧料(シャンプー、リンス、乳液、ローション、香水等)、農業用組成物(農薬乳剤等)、健康食品、食品等に使用することができる。なかでも、本エマルジョン用樹脂組成物又は本エマルジョン組成物を含有する化粧料、農業用組成物、塗料、インク、又は接着剤が好適である。
また、本エマルジョン用樹脂組成物又は本エマルジョン組成物は、被コーティング物(コーティングの対象物)のコーティング剤として好適に用いられる。
【0079】
本エマルジョン用樹脂組成物によりコーティングされる被コーティング物は、特に制限されないが、例えば、紙基材が好ましく、当該紙基材としては、感熱記録紙、離型紙、剥離紙、インクジェット紙、カーボン紙、ノンカーボン紙、紙コップ用原紙、耐油紙、マニラボール、白ボール、ライナー等の板紙、一般上質紙、中質紙、グラビア用紙等の印刷用紙、上・中・下級紙、新聞用紙等が挙げられる。例えば、紙基材からなる層と、前記紙基材にコーティングされてなるエマルジョン用樹脂組成物又は本エマルジョン組成物からなる層とを含む積層体も好適である。
【0080】
また、被コーティング物は、プラスチック基材であることが好ましく、当該プラスチック基材としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリプロピレン(PP)樹脂〔二軸延伸ポリプロピレン(OPP)、無軸延伸ポリプロピレン(CPP)〕、ナイロン樹脂、各種生分解性樹脂、ポリエチレン(PE)樹脂〔低密度ポリエチレン(LDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)〕等が挙げられる。例えば、プラスチック基材からなる層と、前記プラスチック基材にコーティングされてなるエマルジョン用樹脂組成物からなる層とを含む積層体も好適である。
【0081】
本エマルジョン用樹脂組成物又は本エマルジョン組成物を用いたコーティング方法としては、特に制限されないが、例えば、ロールコーティング法、ディップコーティング法、バーコーティング法、ノズルコーティング法、ダイコーティング法、スプレーコーティング法、スピンコーティング法、カーテンコーティング法、フローコーティング法等が挙げられる。
【実施例0082】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。なお、例中、「部」、「%」とあるのは、質量基準を意味する。
【0083】
まず、以下の成分を用意した。
<(A)成分>
・ポリブチレンサクシネートアジペート(PBSA)
〔PTT MCC Biochem社製の「BiOPBS(FD72PM)」、メルトフローレート(MFR)22g/10分(190℃、2.16kg)、融点86℃〕
【0084】
<(B)成分>
・PVA系樹脂
〔未変性PVA樹脂、平均重合度1,700、ケン化度87~89%、20℃における4質量%粘度20.5~24.5mPa・s〕
【0085】
[実施例1]
ポリブチレンサクシネートアジペート(PBSA)を、恒温恒湿機(ナガノサイエンス社製、LH-21-11M)を用いて、23℃、80%RHにて1時間調湿し、含水率を353ppmに調整した。
調整後のPBSAを二軸押出機〔KZW15TW-60MG、テクノベル社製、L/D=60〕のホッパーより連続的に供給し、同押出機に設けられた供給口より分散剤としてPVA系樹脂、及び分散媒として水を連続的に供給しながら、加熱温度(シリンダー温度)90~105℃、加熱時間180秒間の条件下にて連続的に押出し(スクリュー回転数:300rpm)、質量比(PBSA/PVA系樹脂/水)が「50/5/45」のエマルジョン組成物を得た。
【0086】
[実施例2]
ポリブチレンサクシネートアジペート(PBSA)を、恒温恒湿機(ナガノサイエンス社製、LH-21-11M)を用いて、23℃、80%RHにて4時間調湿し、含水率を1352ppmに調整した以外は、実施例1と同様にして、エマルジョン組成物を得た。
【0087】
[実施例3]
ポリブチレンサクシネートアジペート(PBSA)を、恒温恒湿機(ナガノサイエンス社製、LH-21-11M)を用いて、23℃、80%RHにて8時間調湿し、含水率を2782ppmに調整した以外は、実施例1と同様にして、エマルジョン組成物を得た。
【0088】
[実施例4]
ポリブチレンサクシネートアジペート(PBSA)を、恒温恒湿機(ナガノサイエンス社製、LH-21-11M)を用いて、60℃、80%RHにて8時間調湿し、含水率を7911ppmに調整した以外は、実施例1と同様にして、エマルジョン組成物を得た。
【0089】
[比較例1]
恒温恒湿機による調湿を行わなかった以外は、実施例1と同様にして、エマルジョン組成物を得た。
【0090】
[比較例2]
ポリブチレンサクシネートアジペート(PBSA)を、恒温恒湿機(ナガノサイエンス社製、LH-21-11M)を用いて、60℃、80%RHにて12時間調湿し、含水率を10241ppmに調整した以外は、実施例1と同様にして、エマルジョン組成物を得た。
【0091】
[含水率の測定方法]
ポリブチレンサクシネートアジペート(PBSA)約10gを、水分測定用サンプリング容器に精秤したのち、サンプリング容器上の試薬トレイにカルシウムハイドライドを投入し、この試料を高精度ポリマー用水分計装置(ブラベンダー社製、「AQUATRAC 3E」)に入れ、80℃の加熱真空下、揮発した水分を、高精度ポリマー用水分計装置(ブラベンダー社製、「AQUATRAC 3E」)の無水となっている滴定槽で捕集した。高精度ポリマー用水分計装置にて水分量の測定を行い、含水率を求めた。その結果を表1に示す。
【0092】
[メルトフローレート(MFR)の測定試験]
ポリブチレンサクシネートアジペート(PBSA)について、JIS K7210に準拠して、温度190℃、荷重2.16kgにおけるメルトフローレート(MFR)を測定した。その結果を表1に示す。なお、実施例1~4、比較例2については、調湿後のPBSAのメルトフローレートを示す。
【0093】
[最低造膜温度(MFT)の測定試験]
実施例及び比較例に係るエマルジョン組成物の最低造膜温度(MFT)を、JIS K 6828 5.11に準拠し、造膜温度測定装置(ヨシミツ精機社製、造膜温度測定装置)を用いて測定した。具体的には、各エマルション組成物を0.1mmのアプリケーターで試験板上に塗工して乾燥させたとき、透明な被膜が形成された境界の温度を測定した。その結果を表1に示す。
【0094】
[引張強度の測定試験]
JIS K7161に準拠して、引張強度を測定した。具体的には、まず、実施例及び比較例に係るエマルジョン組成物をテフロン(登録商標)シート上に塗工し、105℃で5分間加熱することにより、試験用フィルムを作製した。得られた試験用フィルムの引張強度(MPa)を、引張試験機〔島津製作所製、オートグラフAG-IS〕により、下記試験条件に従い測定した。その結果を表1に示す。
〔試験条件〕
試験速度100mm/分
標線間距離15mm
つかみ具間距離150mm
【0095】
[分散粒子径の測定試験]
実施例及び比較例に係るエマルジョン組成物の分散粒子径(メジアン径)を、レーザー回折粒子径測定装置〔堀場製作所社製、LA-950V2〕にて測定した。その結果を表1に示す
【0096】
【0097】
表1に示すとおり、含水率が本発明に規定する範囲内のポリブチレンサクシネートアジペート(PBSA)を用いたエマルジョン組成物である実施例1~4は、最低造膜温度(MFT)が低く、造膜性に優れると共に、造膜後の引張強度にも優れるものであった。
他方、含水率が本発明に規定する範囲を下回るポリブチレンサクシネートアジペート(PBSA)を用いたエマルジョン組成物である比較例1は、実施例に比して、最低造膜温度(MFT)が高く、造膜性に劣るものであり、造膜後の引張強度においても劣るものであった。
また、含水率が本発明に規定する範囲を上回るポリブチレンサクシネートアジペート(PBSA)を用いたエマルジョン組成物である比較例2は、実施例に比して、造膜後の引張強度が大きく劣るものであった。
【0098】
以上により、本発明によれば、造膜性に優れると共に、造膜後の引張強度にも優れるエマルジョン組成物等を提供できることが確認された。
本発明のエマルジョン用樹脂組成物及びエマルジョン組成物は、特に、各種のコーティング剤として有用であり、例えば、紙基材のコーティング剤、プラスチック基材のコーティング剤等として有用である。