(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024134882
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】窒化物半導体構造、発光素子、光源装置及び窒化物半導体構造の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 33/32 20100101AFI20240927BHJP
H01S 5/343 20060101ALI20240927BHJP
H01S 5/183 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
H01L33/32
H01S5/343 610
H01S5/183
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023045313
(22)【出願日】2023-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(72)【発明者】
【氏名】川島 毅士
【テーマコード(参考)】
5F173
5F241
【Fターム(参考)】
5F173AC03
5F173AC14
5F173AC35
5F173AP05
5F173AP33
5F173AP62
5F173AR24
5F173AR26
5F241AA24
5F241CA05
5F241CA40
5F241CA57
5F241CA65
5F241CA73
5F241CA74
5F241CB03
(57)【要約】
【課題】安定した特性を得ることができる窒化物半導体構造、発光素子、光源装置及び窒化物半導体構造の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】開示の技術の一態様によれば、窒化物半導体構造は、Mgを不純物として含む窒化物半導体層を有し、前記窒化物半導体層は、第1の領域と、前記窒化物半導体層に平行な面内で前記第1の領域を取り囲む第2の領域と、を有し、前記第2の領域のIn組成は、前記第1の領域のIn組成よりも小さく、前記第2の領域の水素原子濃度は、前記第1の領域の水素原子濃度より2倍以上高いことを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Mgを不純物として含む窒化物半導体層を有し、
前記窒化物半導体層は、
第1の領域と、
前記窒化物半導体層に平行な面内で前記第1の領域を取り囲む第2の領域と、
を有し、
前記第2の領域のIn組成は、前記第1の領域のIn組成よりも小さく、
前記第2の領域の水素原子濃度は、前記第1の領域の水素原子濃度より2倍以上高いことを特徴とする窒化物半導体構造。
【請求項2】
前記第2の領域のMgの不活性化率が、0.5以上であることを特徴とする請求項1に記載の窒化物半導体構造。
【請求項3】
前記第1の領域は、Mgを不純物として含む、AlInNまたはAlGaInNからなることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の窒化物半導体構造。
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載の窒化物半導体構造を有し、
前記窒化物半導体構造は、活性層をさらに有することを特徴とする発光素子。
【請求項5】
前記窒化物半導体構造は、前記活性層が発した光を共振させる共振器構造を有することを特徴とする請求項4に記載の発光素子。
【請求項6】
請求項5に記載の発光素子を有することを特徴とする光源装置。
【請求項7】
Mgを不純物として含む窒化物半導体層を形成する工程と、
不活性ガス雰囲気で熱処理することで、前記窒化物半導体層のMgを活性化する第1の熱処理工程と、
前記窒化物半導体層に水素原子を取り込ませることで、前記窒化物半導体層に、第1の領域と、前記窒化物半導体層に平行な面内で前記第1の領域を取り囲み、電流の通過を阻止する第2の領域と、を形成する水素浸透処理工程と、
を有し、
前記水素浸透処理工程は、前記第1の熱処理工程の後に行われ、
前記第2の領域のIn組成は、前記第1の領域のIn組成より小さく、
前記第2の領域の水素原子濃度は、前記第1の領域の水素原子濃度より2倍以上高いことを特徴とする窒化物半導体構造の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化物半導体構造、発光素子、光源装置及び窒化物半導体構造の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
端面発光レーザや面発光レーザでは、効率的に光を増幅するために、電流を狭い領域に絞り反転分布を起こし、そこに光を閉じ込めて増幅させる。例えば、ウェハ表面側のp型半導体層内の電流を流さない領域にn型の半導体層を埋め込むことで、電流狭窄構造を作製する。
【0003】
特許文献1には、AlInNなどのInを含む窒化物半導体層を、水素を含む雰囲気下で熱処理することで、窒化物半導体層から部分的にInを蒸発させて、電流狭窄構造を作製する窒化物半導体構造が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の方法では、窒化物半導体層のIn組成の面内分布を形成し、面内にバンドギャップの異なる領域を設ける。特許文献1に開示の窒化物半導体構造は、バンドギャップの大きい領域で電流が流れにくくする電流狭窄構造を備える。しかしながら、単に、異なるバンドギャップの領域が分布するのみでは、電流狭窄が不十分となる可能性がある。そのため、この電流狭窄構造を含む窒化物半導体層を面発光レーザに用いると、閾値の増加等の特性の低下が懸念される。
【0005】
本発明は、安定した特性を得ることができる窒化物半導体構造、発光素子、光源装置及び窒化物半導体構造の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
開示の技術の一態様によれば、窒化物半導体構造は、Mgを不純物として含む窒化物半導体層を有し、前記窒化物半導体層は、第1の領域と、前記窒化物半導体層に平行な面内で前記第1の領域を取り囲む第2の領域と、を有し、前記第2の領域のIn組成は、前記第1の領域のIn組成よりも小さく、前記第2の領域の水素原子濃度は、前記第1の領域の水素原子濃度より2倍以上高いことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
開示の技術によれば、安定した特性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】第1の実施形態に係る窒化物半導体構造を示す断面図である。
【
図2A】第1の実施形態に係る窒化物半導体構造の製造方法を示す断面図(その1)である。
【
図2B】第1の実施形態に係る窒化物半導体構造の製造方法を示す断面図(その2)である。
【
図2C】第1の実施形態に係る窒化物半導体構造の製造方法を示す断面図(その3)である。
【
図2D】第1の実施形態に係る窒化物半導体構造の製造方法を示す断面図(その4)である。
【
図3】第2の実施形態に係る窒化物半導体構造を示す断面図である。
【
図4A】第2の実施形態に係る窒化物半導体構造の製造方法を示す断面図(その1)である。
【
図4B】第2の実施形態に係る窒化物半導体構造の製造方法を示す断面図(その2)である。
【
図4C】第2の実施形態に係る窒化物半導体構造の製造方法を示す断面図(その3)である。
【
図5A】第1の実施形態に係る窒化物半導体構造の製造方法で、電流狭窄層内の水素原子濃度の分布とIn組成の分布を別々に作る製造方法を示す断面図(その1)である。
【
図5B】第1の実施形態に係る窒化物半導体構造の製造方法で、電流狭窄層内の水素原子濃度の分布とIn組成の分布を別々に作る製造方法を示す断面図(その2)である。
【
図5C】第1の実施形態に係る窒化物半導体構造の製造方法で、電流狭窄層内の水素原子濃度の分布とIn組成の分布を別々に作る製造方法を示す断面図(その3)である。
【
図5D】第1の実施形態に係る窒化物半導体構造の製造方法で、電流狭窄層内の水素原子濃度の分布とIn組成の分布を別々に作る製造方法を示す断面図(その4)である。
【
図6】第3の実施形態に係る発光ダイオードを示す断面図である。
【
図7A】第3の実施形態に係る発光ダイオードの製造方法を示す断面図(その1)である。
【
図7B】第3の実施形態に係る発光ダイオードの製造方法を示す断面図(その2)である。
【
図7C】第3の実施形態に係る発光ダイオードの製造方法を示す断面図(その3)である。
【
図7D】第3の実施形態に係る発光ダイオードの製造方法を示す断面図(その4)である。
【
図8】第4の実施形態に係る面発光レーザを示す断面図である。
【
図9A】第4の実施形態に係る面発光レーザの製造方法を示す断面図(その1)である。
【
図9B】第4の実施形態に係る面発光レーザの製造方法を示す断面図(その2)である。
【
図9C】第4の実施形態に係る面発光レーザの製造方法を示す断面図(その3)である。
【
図9D】第4の実施形態に係る面発光レーザの製造方法を示す断面図(その4)である。
【
図10】第5の実施形態に係る面発光レーザを示す断面図である。
【
図11A】第5の実施形態に係る面発光レーザの製造方法を示す断面図(その1)である。
【
図11B】第5の実施形態に係る面発光レーザの製造方法を示す断面図(その2)である。
【
図11C】第5の実施形態に係る面発光レーザの製造方法を示す断面図(その3)である。
【
図11D】第5の実施形態に係る面発光レーザの製造方法を示す断面図(その4)である。
【
図12】第6の実施形態に係る投影装置のレイアウトを示す図である。
【
図13】第7の実施形態に係る投光装置のレイアウトを示す図である。
【
図14】第8の実施形態に係る投影装置のレイアウトを示す図である。
【
図15】第9の実施形態に係るヘッドマウントディスプレイの構成例の斜視図である。
【
図16】第9の実施形態に係るヘッドマウントディスプレイの構成例の断面図である。
【
図17】第10の実施形態に係るバイオメトリック認証装置の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の実施形態について添付の図面を参照しながら説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省くことがある。以下の説明では、基板から見て窒化物半導体層が位置する側を上方とする。但し、窒化物半導体構造等は天地逆の状態で用いることができ、任意の角度で配置することもできる。
【0010】
(第1の実施形態)
先ず、第1の実施形態について説明する。第1の実施形態は、窒化物半導体構造に関する。
図1は、第1の実施形態に係る窒化物半導体構造を示す断面図である。
【0011】
図1に示すように、第1の実施形態に係る窒化物半導体構造100は、n型半導体層104と、n型半導体層104上の活性層102と、活性層102上のp型半導体層105とを有する。p型半導体層105を組成する材料の例として、AlInN、InGaN、AlGaInN等の窒化物半導体が挙げられる。
【0012】
p型半導体層105は、活性層102上の下部半導体層105aと、下部半導体層105a上の電流狭窄層101と、電流狭窄層101上の上部半導体層105bとを有する。下部半導体層105a、電流狭窄層101、及び上部半導体層105bは、いずれも、Mg(マグネシウム)を不純物として含む。
【0013】
電流狭窄層101は、In(インジウム)を含む層で、第1の領域101aと、電流狭窄層101に平行な面内で第1の領域101aを取り囲む第2の領域101bとを有する。第2の領域101bのIn(インジウム)組成は、第1の領域101aのIn組成よりも小さい。さらに、第2の領域101bの水素原子濃度は、第1の領域101aの水素原子濃度より高い。
【0014】
窒化物半導体構造100は、例えば基板103上に形成されている。基板103としては、例えばその上に窒化物半導体層を積層できる基板が用いられる。基板103として、例えば、GaN基板及びAlN基板等の窒化物半導体基板を用いることができる。基板103として、例えば、異種基板上に窒化物半導体層を成膜したGaNテンプレートを用いることもできる。異種基板としては、例えば、サファイア基板、Si基板、GaAs基板、SiC基板等を用いることができる。
【0015】
窒化物半導体構造100では、上述のように、第2の領域101bのIn組成が第1の領域101aのIn組成よりも小さい。このため、第2の領域101bのバンドギャップが第1の領域101aのバンドギャップよりも大きい。さらに、第2の領域101bに含まれる水素原子濃度は、第1の領域101aに含まれる水素原子濃度より高い。電流狭窄層101に含まれるMgは、水素原子と結合して不活性化する。第2の領域101bは、第1の領域101aより水素原子濃度が高いため、不活性化しているMgの濃度が高い。そのため、第2の領域101bの電気抵抗は、第1の領域101aの電気抵抗より高い。従って、電流狭窄層101の内部では、バンドギャップが大きく、かつ、電気抵抗の高い第2の領域101bにより電流が阻止され、電流は第1の領域101aを選択的に流れる。第2の領域101bの水素原子濃度は、第1の領域101aの水素原子濃度より2倍以上高いことが好ましい。
【0016】
第1の領域101a及び第2の領域101bのそれぞれの水素原子濃度をMg濃度で割った値を、Mgの不活性化率と定義する。第1の領域101aのMgの不活性化率を0.5未満、より好ましくは、0.3未満にすると、第1の領域101aにおいて、活性化しているMgが多く含まれ、電気抵抗が低下する。また、第2の領域101bの不活性化率を0.5以上、より好ましくは、0.9以上にすると、第2の領域101bにおいて、活性化しているMgが少なくなり、電気抵抗が増加する。従って、電流は、第2の領域101bでより効果的に阻止され、第1の領域101aにより効果的に流れる。
【0017】
第1の領域101aと第2の領域101bとでIn組成を異ならせることで、バンドギャップの差による電流狭窄だけでなく、電流狭窄層101の面内に、屈折率差による光閉じ込め効果も生じる。一般的に、In組成が高いほど窒化物半導体の屈折率が高い。このため、第1の領域101aのIn組成を、第2の領域101bのIn組成より高くすることで、第1の領域101aの屈折率は、第2の領域101bの屈折率よりも高くなる。従って、活性層102が発した光を、電流狭窄層101に平行な面内、つまり基板103に平行な面内で閉じ込めやすい。光閉じ込め効果の観点から、電流狭窄層101はAlを含むことが好ましい。第1の領域101aと第2の領域101bとの間の屈折率の差を大きくしやすいからである。そして、優れた光閉じ込め効果は、端面発光レーザ及び面発光レーザに極めて好適である。
【0018】
n型半導体層104は、例えばSi、Ge等の不純物がドーピングされた窒化物半導体層である。n型半導体層104として、例えばn-GaN層又はn-AlGaN層等を用いることができる。p型半導体層105は、Mgが不純物としてドーピングされた窒化物半導体層である。p型半導体層105として、例えばp-GaN層又はp-AlGaN層等を用いることができる。
【0019】
活性層102は、例えば、n型半導体層104又はp型半導体層105から注入されたキャリアを閉じ込めて発光する。活性層102として、例えば、高い発光効率を得るために、InGaN層とGaN層とを交互に積層した多重量子井戸層、又は互いに組成の異なる2種のInGaN層を交互に積層した多重量子井戸層を用いることが好ましい。
【0020】
電流狭窄層101の厚さは限定されないが、10nm以上であることが好ましい。これは、第2の領域101bでの、ホールのトンネルを抑制するためである。電流狭窄層101が厚すぎると、他の窒化物半導体層との間の格子定数差によって結晶欠陥が生じやすくなる。このため、電流狭窄層101の厚さは、好ましくは臨界膜厚以下である。
【0021】
電流狭窄層101は、p型半導体層105内に設けられるが、p型半導体層105内の位置については、窒化物半導体構造100の製造過程で、Inの蒸発に支障がなければ、p型半導体層105の最下部である活性層102と接する位置に配置されてもよいし、p型半導体層105の最上部に配置されてもよい。
【0022】
次に、第1の実施形態に係る窒化物半導体構造100の製造方法について説明する。
図2A~
図2Dは、第1の実施形態に係る窒化物半導体構造100の製造方法を示す断面図である。この製造方法では、基板103上に、窒化物半導体構造100に含まれる窒化物半導体層をエピタキシャル成長させる。エピタキシャル成長の方法としては、有機金属化合物気相成長(metal organic chemical vapor deposition:MOCVD)法、分子ビーム成長法(molecular beam epitaxy:MBE)法、プラズマ堆積(plasma chemical vapor deposition:PCVD)法、ハイドライド気相成長(hydride vapor phase epitaxy:HVPE)法等が挙げられる。以下では、MOCVD法を用いる場合を例に説明する。
【0023】
先ず、
図2Aに示すように、基板103上に、n型半導体層104と、活性層102と、下部半導体層105aと、中間半導体層101xと、上部半導体層105bと、を形成する。中間半導体層101xはInを含み、第1の領域101aと同一の組成を有する。下部半導体層105a、中間半導体層101x、及び上部半導体層105bには、Mgが不純物としてドーピングされている。MOCVD法では、アンモニア(NH
3)の水素原子が、Mgとともに取り込まれ、Mg-H結合を作る。これにより、Mgが不活性化する。このため、下部半導体層105a、中間半導体層101x、及び上部半導体層105bは、電気抵抗の高い状態となる。
【0024】
次に、下部半導体層105a、中間半導体層101x、及び上部半導体層105bのそれぞれを活性化処理するための第1の熱処理を行う。水素原子を含まない雰囲気下で熱処理することで、下部半導体層105a、中間半導体層101x、及び上部半導体層105b内のMgと結合している水素原子が離脱して、Mgが、アクセプタとして活性化する。これにより、下部半導体層105a、中間半導体層101x、及び上部半導体層105bは、p型の電気伝導体として機能する。
【0025】
次いで、
図2Bに示すように、上部半導体層105b上に、第1の領域101aを形成する予定の領域を覆う保護マスク106を形成する。保護マスク106は水素を遮断できればよく、保護マスク106としては、例えば酸化シリコン膜(SiO
2膜)、窒化シリコン膜(SiN膜)等を用いることができる。
【0026】
その後、第2の熱処理を行う。第2の熱処理は、水素を含む雰囲気中で500℃以上の温度で行う。この熱処理により、保護マスク106と重なっていない中間半導体層101xからInが蒸発し、さらに、保護マスク106と重なっていない中間半導体層101xへ水素原子が浸透し、Mgが不活性化する。この結果、
図2Cに示すように、In組成が中間半導体層101xのIn組成よりも低く、かつ、Mgの不活性化率の高い第2の領域101bが形成される。中間半導体層101xの残部はIn組成が中間半導体層101xのIn組成から変化していない第1の領域101aとなる。このようにして、第1の領域101aと第2の領域101bとを有する電流狭窄層101が形成される。さらに、第2の領域101bの下方に位置する下部半導体層105aや、第2の領域101bの上方に位置する上部半導体層105bにも、水素原子が浸透し、それぞれの層に含まれるMgが不活性化する。なお、中間半導体層101x、下部半導体層105a、上部半導体層105b等の窒化物半導体層に、水素原子を取り込ませる工程は、「水素浸透処理工程」の一例である。
【0027】
この第2の熱処理には、例えば、n型半導体層104、活性層102、下部半導体層105a、中間半導体層101x、及び上部半導体層105bの形成に使用したMOCVD装置等の成膜装置を用いることができる。熱処理装置等を用いてもよい。
【0028】
続いて、
図2Dに示すように、保護マスク106を除去する。
【0029】
このようにして、第1の実施形態に係る窒化物半導体構造100を製造することができる。
【0030】
この方法によれば、中間半導体層101xに、In組成の差に基づく、面内のバンドギャップの分布と、水素原子濃度の分布が形成される。換言すれば、中間半導体層101xの面内に、Mgの不活性化率の違いに起因する電気抵抗分布が形成される。また、下部半導体層105aと上部半導体層105bの面内においても、Mgの不活性化率の違いに起因する電気抵抗分布が生じ、非常に安定した電流狭窄構造の特性を得ることができる。さらに、In組成の分布によって、面内に屈折率差が生じ、活性層102で発生した光を閉じ込めることができる。
【0031】
なお、中間半導体層101xを、p型半導体層105内に配置した構造で説明したが、上部半導体層105bが厚すぎる場合、本実施形態の製造方法では、第1の熱処理のMgの活性化処理による水素原子の脱離や、第2の熱処理による水素原子の浸透はあまり問題にならないが、第2の熱処理でInが蒸発しにくくなる。従って、上部半導体層105bの膜厚は100nm以下が好ましい。より好ましくは50nm以下であり、さらに好ましくは10nm以下である。
【0032】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態について説明する。第2の実施形態は、窒化物半導体構造に関する。
図3は、第2の実施形態に係る窒化物半導体構造を示す断面図である。
【0033】
図3に示すように、第2の実施形態に係る窒化物半導体構造200は、n型半導体層104、活性層102、p型半導体層105、トンネル接合層107、上部n型半導体層108を備える。p型半導体層105は、Mgを不純物として含む窒化物半導体層として電流狭窄層101を備える。上部n型半導体層108とトンネル接合層107と、p型半導体層105と、電流狭窄層101と、活性層102と、n型半導体層104の一部とがエッチングされて、メサ構造211が形成されている。
【0034】
メサ構造211の平面形状は特に限定されない。例えば、窒化物半導体構造200が端面発光レーザに用いられる場合、メサ構造211はストライプ状に形成される。例えば、窒化物半導体構造200が面発光レーザに用いられる場合、メサ構造211は円形状又は矩形状に形成される。
【0035】
次に、第2の実施形態に係る窒化物半導体構造200の製造方法について説明する。
図4A~
図4Cは、第2の実施形態に係る窒化物半導体構造200の製造方法を示す断面図である。この製造方法では、基板103上に、窒化物半導体構造200に含まれる窒化物半導体層をエピタキシャル成長させる。
【0036】
先ず、
図4Aに示すように、基板103上に、n型半導体層104と、活性層102と、下部半導体層105aと、中間半導体層101xと、上部半導体層105bと、トンネル接合層107と、上部n型半導体層108と、を形成する。トンネル接合層107は、高濃度の不純物をドーピングしたp型半導体とn型半導体の2層構造からなり、基板側がp型半導体、表面側がn型半導体である。
【0037】
次いで、
図4Bに示すように、リソグラフィー及びドライエッチングにより、上部n型半導体層108と、トンネル接合層107と、下部半導体層105aと、中間半導体層101xと、上部半導体層105bと、中間半導体層101xと、活性層102と、n型半導体層104の一部とを除去することにより、メサ構造211を形成する。
【0038】
その後、第1の熱処理によって、下部半導体層105a、中間半導体層101x、及び上部半導体層105bの活性化処理を行う。p型窒化物半導体層の上部にn型窒化物半導体層を形成すると、活性化処理時に、p型窒化物半導体層中のMgと結合している水素原子がn型窒化物半導体層を通り抜けにくくなることが知られている。そこで、メサ構造211を形成して、メサ構造211の側壁から水素原子を脱離させる。
【0039】
次に、第2の熱処理として、水素を含む雰囲気中で500℃以上の温度で熱処理を行う。この熱処理により、メサ構造211の側壁から水素原子が浸透することで、中間半導体層101xのInが側壁から蒸発し、p型半導体層105も側壁側から不活性化されていく。この結果、
図4Cに示すように、In組成が中間半導体層101xのIn組成よりも低く、Mgの不活性化率が高い第2の領域101bが形成される。中間半導体層101xの残部は、In組成が中間半導体層101xのIn組成から変化していない第1の領域101aとなる。このようにして、第1の領域101aと第2の領域101bとを有する電流狭窄層101が形成される。
【0040】
このようにして、第2の実施形態に係る窒化物半導体構造200を製造することができる。
【0041】
この方法によれば、中間半導体層101xにIn組成の差に基づく面内のバンドギャップの分布と、水素原子濃度の分布が形成される。換言すると、中間半導体層101xの面内に、Mgの不活性化率の違いに起因する電気抵抗分布が形成される。また、下部半導体層105aと上部半導体層105bそれぞれの面内でのMgの不活性化率の違いに起因する電気抵抗分布が生じ、非常に安定した電流狭窄構造の特性を得ることがきる。さらに、In組成の分布によって面内で屈折率差が生じ、活性層102で発生した光を閉じ込めることができる。
【0042】
なお、メサ構造211は、少なくともp型半導体層105の側壁が露出される程度に形成すればよい。
【0043】
また、第1の領域101aと第2の領域101bとの間でIn組成が急峻かつ不連続に変化している必要はなく、第1の領域101aと第2の領域101bとの間にIn組成が連続的に変化する領域が存在していてもよい。
【0044】
第1及び第2の実施形態において、第2の熱処理の雰囲気は、水素ガスのみの雰囲気でもよく、水素ガスと窒素ガス等の不活性ガスとの混合ガスの雰囲気でもよい。不活性ガスの割合に応じて、Inの蒸発速度を制御することができる。また、第2の熱処理の雰囲気が、水素ガスの他にアンモニアを含む雰囲気でもよい。熱処理中に窒化物半導体層内の窒素が脱離して、露出している面が荒れることがあるが、雰囲気がアンモニアを含んでいる場合、窒素の脱離を抑制して露出している面を平坦に保持しやすい。また、アンモニアも、水素原子を含むため、Mgを不活性化することができる。
【0045】
第2の熱処理の熱処理温度はInが蒸発し得る温度であれば限定されず、例えば上述のように500℃以上である。熱処理温度は、電流狭窄層となる中間半導体層101xを良好な結晶性で成膜できる温度をT(℃)としたとき、好ましくはT-200(℃)以上であり、より好ましくはT-100(℃)以上である。その一方で、熱処理温度は、好ましくは中間半導体層101xが分解する温度以下である。例えば、中間半導体層101xがInGaN層の場合、1100℃~1200℃の温度域でGaが蒸発し始める。このため、熱処理温度が1200℃超では、電流狭窄層101が形成される前に中間半導体層101xが分解してしまう。従って、中間半導体層101xがInGaN層の場合、熱処理温度は、好ましくは1200℃以下であり、より好ましくは1100℃である。例えば、中間半導体層101xがAlInN層又はAlGaInN層の場合、中間半導体層101xに含まれるAlによって、中間半導体層101xの熱分解が抑えられ、熱処理温度を1400℃まで高めることができる。なお、温度Tは中間半導体層101xのIn組成に依存し、In組成が低いほど温度Tが高くなる傾向がある。
【0046】
第1の熱処理によるMgの活性化と第2の熱処理によるInの蒸発の工程順を入れ替え、さらに水素原子を浸透させる工程を別途導入してもよい。これにより、第1の領域101aと第2の領域101bの間に、In組成が第1の領域101aより低く、水素原子濃度が第2の領域101bより低い第3の領域、又はIn組成が第2の領域101bより高く、水素原子濃度が第1の領域101aより高い第3の領域を形成して、面内の電気抵抗分布と屈折率分布を別々に制御することができる。
【0047】
例えば、
図1の窒化物半導体構造100を作製後、Mgの活性化処理のための第1の熱処理を実施せずに、保護マスク106を上部半導体層105b上に形成し、第2の熱処理を実施してInを蒸発させると、
図5Aに示すように、中間半導体層101xの保護マスク106を形成していない領域からInが蒸発し、中間半導体層101xに第1の領域101aと第2の領域101bのIn組成の面内分布が形成させるが、p型半導体層105内の、Mgと結合している水素原子濃度の分布は変化しない。
【0048】
一方で、第1の熱処理を実施すると、
図5Bに示すように、p型半導体層105内の水素原子が脱離して面内全体における水素原子濃度が減少する。次に、保護マスク106を新たにp型半導体層105の表面に形成して水素原子を浸透させ、面内の水素原子濃度の分布を形成する。例えば、
図5Cのように、保護マスク106の幅を小さくして、中間半導体層101xのより中央まで水素原子を浸透させると、第1の領域101aと第2の領域101bの間に、In組成が第2の領域101bより高く、水素原子濃度が第1の領域101aより高い第3の領域101cが形成される。このとき、水素雰囲気下での熱処理を行うと、第3の領域101cのInが蒸発してしまうため、例えばプロトン注入等で水素原子の浸透を行う。
【0049】
別の形態として、
図5Dに示すように、保護マスク106の幅を第1の領域101aより大きく形成すると、第1の領域101aと第2の領域101bの間に、In組成が第1の領域101aより低く、水素原子濃度が第2の領域101bより低い第3の領域101cが形成される。この例では、保護マスク106で第3の領域101cが保護されて水素原子の浸透によるInの蒸発が生じないため、プロトン注入以外に水素雰囲気下での熱処理を行うことができる。
【0050】
第2の実施形態の窒化物半導体構造200においても、メサ構造を形成後に、第1の熱処理によるMgの活性化と第2の熱処理によるInの蒸発の工程順を入れ替え、水素を浸透させる工程を別途導入することで、同様に面内の電気抵抗分布と屈折率分布を別々に制御することができる。
【0051】
以上のように、Mgの不活性化による電気抵抗分布と、In組成の違いによる屈折率分布を面内に別々に形成して任意の特性を得ることができる。
【0052】
(第3の実施形態)
次に、第3の実施形態について説明する。第3の実施形態は、窒化物半導体構造を備えた発光ダイオードに関する。発光ダイオードは発光素子の一例である。
図6は、第3の実施形態に係る発光ダイオードを示す断面図である。
【0053】
図6に示すように、第3の実施形態に係る発光ダイオード350は、サファイア基板302と、サファイア基板302上の発光ダイオード(light emitting diode:LED)構造300と、を有する。LED構造300は、n-GaN層303と、多重量子井戸層304と、p-Al
0.20Ga
0.80N層305と、p-GaN層306aと、電流狭窄層301と、p-GaN層306bと、p
++-GaN層307とを有する。p-GaN層306aは、下部半導体層の一例であり、p-GaN層306bは、上部半導体層の一例であり、電流狭窄層301は、Mgを不純物として含む窒化物半導体層の一例である。LED構造300は窒化物半導体構造の一例である。
【0054】
n-GaN層303はサファイア基板302上に形成されている。n-GaN層303の厚さは、例えば5μmである。
【0055】
多重量子井戸層304はn-GaN層303上に形成されている。多重量子井戸層304は、例えば、厚さが2.5nmのIn0.15Ga0.85N層と厚さが7.5nmのGaN層とが交互に5周期積層された構造を有する。多重量子井戸層304は活性層の一例である。
【0056】
p-Al0.20Ga0.80N層305は多重量子井戸層304上に形成されている。p-Al0.20Ga0.80N層305の厚さは、例えば20nmである。
【0057】
p-GaN層306aはp-Al0.20Ga0.80N層305上に形成されている。p-GaN層306aの厚さは、例えば50nmである。
【0058】
電流狭窄層301はp-GaN層306a上に形成されている。電流狭窄層301の厚さは、例えば50nmである。電流狭窄層301は、p-Al0.70In0.30N層301aと、電流狭窄層301に平行な面内でp-Al0.70In0.30N層301aを取り囲むp-AlN層301bとを有する。このように、p-AlN層301bのIn組成は、p-Al0.70In0.30N層301aのIn組成よりも小さい。p-Al0.70In0.30N層301aは第1の領域の一例であり、p-AlN層301bは第2の領域の一例である。
【0059】
p-GaN層306bは電流狭窄層301上に形成されている。p-GaN層306bの厚さは、例えば50nmである。
【0060】
p++-GaN層307はp-GaN層306b上に形成されている。p++-GaN層307の厚さは、例えば5nmである。p++-GaN層307には、アクセプタとしてMgが1×1020cm-3の濃度でドーピングされている。
【0061】
p++-GaN層307と、p-GaN層306bと、電流狭窄層301と、p-GaN層306aと、p-Al0.20Ga0.80N層305と、多重量子井戸層304と、n-GaN層303の一部とに素子分離溝312が形成されている。
【0062】
p++-GaN層307の表面にp側電極309が形成されている。n-GaN層303の素子分離溝312から露出した部分の表面にn側電極310が形成されている。p側電極309は、例えば、p++-GaN層307側から順に積層されたNi膜とAu膜とを有する。n側電極310は、例えば、n-GaN層303側から順に積層されたTi膜とAl膜とを有する。
【0063】
発光ダイオード350では、上述のように、電流狭窄層301がp-Al0.70In0.30N層301aとp-AlN層301bとを有する。p-Al0.70In0.30N層301aのバンドギャップは3.59eVであり、p-AlN層301bのバンドギャップは6.2eVである。このように、p-AlN層301bのバンドギャップは、p-Al0.70In0.30N層301aのバンドギャップよりも1.0eV以上大きい。従って、p-AlN層301bと、p-Al0.70In0.30N層301a、p-GaN層306a及びp-GaN層306bとの間に大きなバンドオフセットが形成される。
【0064】
さらに、後述する製造方法により、p-AlN層301bと、p-GaN層306aとp-GaN層306bの面内のうち、p-AlN層301bが形成されている領域の水素原子濃度は、p-Al0.70In0.30N層301aと、p-GaN層306aとp-GaN層306bの面内のうち、p-Al0.70In0.30N層301aが形成されている領域の水素原子濃度より高い。このため、電流狭窄層301の内部では、電流はp-Al0.70In0.30N層301aを選択的に流れる。
【0065】
次に、第3の実施形態に係る発光ダイオード350の製造方法について説明する。
図7A~
図7Dは、第3の実施形態に係る発光ダイオード350の製造方法を示す断面図である。この製造方法では、サファイア基板302上に、LED構造300に含まれる窒化物半導体層をエピタキシャル成長させる。
【0066】
先ず、MOCVD装置を用いて、
図7Aに示すように、サファイア基板302上に、n-GaN層303と、多重量子井戸層304と、p-Al
0.20Ga
0.80N層305と、p-GaN層306aと、p-Al
0.70In
0.30N層301xとを順次形成する。n-GaN層303の形成前に、サファイア基板302上に、例えば厚さがバッファ層20nmのGaNバッファ層(図示せず)を形成してもよい。
【0067】
p-Al
0.20Ga
0.80N層305、p-GaN層306a、p-Al
0.70In
0.30N層301x、p-GaN層306b、p
++-GaN層307(以下まとめた場合p型層と記載する)の層内のMgを、p
++-GaN層307では1×10
20cm
-3でドーピングし、それ以外の層では2×10
19cm
-3でドーピングする。p型層内には、MOCVD装置の成膜で使用するアンモニアガス由来の水素原子がp型層内のMgと同じ濃度で取り込まれ不活性化している(不活性化率1.0)。そのため、第1の熱処理として、
図7Aに示す構造体を熱処理装置に入れ、窒素雰囲気中で900℃の温度で熱処理をする。例えば、熱処理の時間を10分間とする。熱処理温度や時間、雰囲気ガスによるが、この熱処理により、p型層から水素原子が7割脱離(不活性化率0.30)して、p型伝導を示すようになる。
【0068】
次いで、
図7Aに示す構造体をMOCVD装置から取り出し、
図7Bに示すように、p
++-GaN層307上に、p-Al
0.70In
0.30N層301aを形成する予定の領域を覆う保護マスクとして、例えば厚さが100nmのSiO
2膜308を形成する。SiO
2膜308は、例えばフォトリソグラフィーにより形成することができる。
【0069】
その後、
図7Bに示す構造体を熱処理装置に入れ、第2の熱処理として、水素雰囲気中で800℃の温度で熱処理を行う。熱処理の時間は、例えば10分間とする。この熱処理により、サファイア基板302の表面側から、SiO
2膜308で保護していない領域に水素原子が浸透し、p-Al
0.70In
0.30N層301xのSiO
2膜308で保護していない部分からInが蒸発する。この結果、
図7Cに示すように、p-Al
0.70In
0.30N層301xのSiO
2膜308で保護していない領域が、p-AlN層301bに変化する。p-Al
0.70In
0.30N層301xの残部は、In組成がp-Al
0.70In
0.30N層301xのIn組成から変化していないp-Al
0.70In
0.30N層301aとなる。このようにして、p-Al
0.70In
0.30N層301aとp-AlN層301bとを有する電流狭窄層301が形成される。さらに、SiO
2膜308を形成していない領域のp型層内のMgと同じ濃度の水素原子が取り込まれ、Mgが不活性化する。これにより、p型層内に電気抵抗分布が形成される。
【0070】
続いて、
図7Cに示す構造体を熱処理装置から取り出し、
図7Dに示すように、SiO
2膜308を除去する。SiO
2膜308は、例えばバッファードフッ酸を用いて除去することができる。
【0071】
その後、
図7Dに示すように、p
++-GaN層307と、p-GaN層306bと、電流狭窄層301と、p-GaN層306aと、p-Al
0.20Ga
0.80N層305と、多重量子井戸層304と、n-GaN層303の一部と、に素子分離溝312を形成する。
【0072】
素子分離溝312は、例えばリソグラフィー及びドライエッチングにより形成することができる。次いで、p++-GaN層307の表面にp側電極309を形成し、n-GaN層303の素子分離溝312から露出した部分の表面にn側電極310を形成する。p側電極309の形成では、例えば、p++-GaN層307側から順にNi膜とAu膜とを積層する。n側電極310の形成では、例えば、n-GaN層303側から順にTi膜とAl膜とを積層する。
【0073】
このようにして、第3の実施形態に係る発光ダイオード350を製造することができる。
【0074】
この方法によれば、p-Al0.70In0.30N層301xに、In組成の差による面内のバンドギャップの分布と、水素原子濃度の分布が形成される。換言すると、Mgの不活性化率の違いによる電気抵抗分布が形成される。さらに、p-GaN306aとp-GaN306bの面内でのMgの不活性化率の違いによる電気抵抗分布が生じ、非常に安定した電流狭窄構造の特性を得ることがきる。
【0075】
(第4の実施形態)
次に、第4の実施形態について説明する。第4の実施形態は、窒化物半導体構造を備えた面発光レーザに関する。面発光レーザは発光素子の一例である。
図8は、第4の実施形態に係る面発光レーザを示す断面図である。
【0076】
図8に示すように、第4の実施形態に係る面発光レーザ450は、n-GaN基板402と、n-GaN基板402上のレーザ構造400と、を有する。レーザ構造400は、下部多層膜反射鏡403と、n-GaN層404と、多重量子井戸層405と、p-Al
0.20Ga
0.80N層406と、p-GaN層407と、電流狭窄層401と、p
++-GaN層408とを有する。p-GaN層407は下部半導体層の一例であり、p
++-GaN層408は上部半導体層の一例であり、電流狭窄層401は、Mgを不純物として含む窒化物半導体層の一例である。レーザ構造400は窒化物半導体構造の一例である。
【0077】
下部多層膜反射鏡403は、n-GaN基板402上に形成されている。下部多層膜反射鏡403は、高屈折率層と低屈折率層とが交互に46周期積層された構造を有する。高屈折率層は、例えば厚さが50nmのIn0.05Ga0.95N層である。低屈折率層は、例えば、厚さが6nmの3層のGaN層の間に、厚さが6nmの2層のAlN層が挿入された多層構造を有する。
【0078】
n-GaN層404は、下部多層膜反射鏡403上に形成されている。n-GaN層404の厚さは、例えば1.1μmである。
【0079】
多重量子井戸層405は、n-GaN層404上に形成されている。多重量子井戸層405は、例えば、厚さが4nmのIn0.10Ga0.90N層と厚さが6nmのGaN層とが交互に5周期積層された構造を有する。多重量子井戸層405は活性層の一例である。
【0080】
p-Al0.20Ga0.80N層406は、多重量子井戸層405上に形成されている。p-Al0.20Ga0.80N層406の厚さは、例えば20nmである。
【0081】
p-GaN層407は、p-Al0.20Ga0.80N層406上に形成されている。p-GaN層407の厚さは、例えば75nmである。p-GaN層407には、アクセプタとしてMgが2×1019cm-3の濃度でドーピングされている。
【0082】
電流狭窄層401は、p-GaN層407上に形成されている。電流狭窄層401の厚さは、例えば35nmである。電流狭窄層401は、p-Al0.70In0.30N層401aと、電流狭窄層401に平行な面内でp-Al0.70In0.30N層401aを取り囲むp-Al0.90In0.10N層401bとを有する。このように、p-Al0.90In0.10N層401bのIn組成は、p-Al0.70In0.30N層401aのIn組成よりも小さい。p-Al0.70In0.30N層401aは、第1の領域の一例であり、p-Al0.90In0.10N層401bは、第2の領域の一例である。
【0083】
p++-GaN層408は、電流狭窄層401上に形成されている。p++-GaN層408の厚さは、例えば10nmである。p++-GaN層408には、アクセプタとしてMgが1×1020cm-3の濃度でドーピングされている。
【0084】
レーザ構造400では、p++-GaN層408と、電流狭窄層401と、p-GaN層407と、p-Al0.20Ga0.80N層406と、多重量子井戸層405と、n-GaN層404の一部とがエッチングされて、メサ構造409が形成されている。
【0085】
メサ構造409の表面及び側面と、n-GaN層404の表面とを覆うように、パッシベーション膜としてSiN膜410が形成されている。SiN膜410には、p++-GaN層408の表面の一部を露出する開口部410aと、n-GaN層404の表面の一部を露出する開口部410bとが形成されている。例えば、平面視でp-Al0.70In0.30N層401aは、開口部410aの内側に位置する。
【0086】
p++-GaN層408の表面に、開口部410aを通じてSiN膜410上にせりあがるようにして酸化インジウムスズ(ITO)膜411が形成されている。メサ構造409の上方でSiN膜410及びITO膜411上に、平面形状がリング状の上部電極412が形成されている。上部電極412の内側では、ITO膜411上に、誘電体の分布ブラッグ反射鏡(Distributed Bragg Reflector:DBR)414が形成されている。n-GaN層404の表面に、開口部410bを通じてSiN膜410上にせりあがるようにして下部電極413が形成されている。
【0087】
上部電極412は、例えば、SiN膜410及びITO膜411側から順に積層されたTi膜とAu膜とを有する。下部電極413は、例えば、n-GaN層404側から順に積層されたTi膜とAl膜とを有する。DBR414は、例えば酸化タンタル膜(Ta2O5膜)及びSiO2膜を含む。下部多層膜反射鏡403とDBR414が共振器構造に含まれる。
【0088】
面発光レーザ450では、上述のように、電流狭窄層401がp-Al0.70In0.30N層401aとp-Al0.90In0.10N層401bとを有する。p-Al0.70In0.30N層401aのバンドギャップは3.59eVであり、p-Al0.90In0.10N層401bのバンドギャップは5.24eVである。
【0089】
また、電流狭窄層401を間に挟むp-GaN層407及びp++-GaN層408のバンドギャップは、3.4eVである。このように、p-Al0.90In0.10N層401bのバンドギャップは、その周囲に存在する、p-Al0.70In0.30N層401a、p-GaN層407、p++-GaN層408のいずれのバンドギャップよりも1.0eV以上大きい。従って、p-Al0.90In0.10N層401bと、p-Al0.70In0.30N層401a、p-GaN層407、p++-GaN層408との間に大きなバンドオフセットが形成される。
【0090】
さらに、後述する製造方法により、p-Al0.90In0.10N層401bと、p-Al0.70In0.30N層401aとp-GaN層407、p++-GaN層408の面内のうち、p-Al0.90In0.10N層401bが形成されている領域の水素原子濃度は、p-Al0.70In0.30N層401aと、p-GaN層407とp++-GaN層408の面内のうち、p-Al0.70In0.30N層401aが形成されている領域の水素原子濃度より高い。
【0091】
このため、電流狭窄層401の内部では、p-Al0.90In0.10N層401bにより電流が阻止され、電流はp-Al0.70In0.30N層401aを選択的に流れる。
【0092】
また、p-Al0.90In0.10N層401bの屈折率がp-Al0.70In0.30N層401aの屈折率よりも低いため、基板面内方向での光閉じ込め効果を得ることができる。
【0093】
次に、第4の実施形態に係る面発光レーザ450の製造方法について説明する。
図9A~
図9Dは、第4の実施形態に係る面発光レーザ450の製造方法を示す断面図である。この製造方法では、n-GaN基板402上に、レーザ構造400に含まれる窒化物半導体層をエピタキシャル成長させる。
【0094】
先ず、MOCVD装置を用いて、
図9Aに示すように、n-GaN基板402上に、下部多層膜反射鏡403と、n-GaN層404と、多重量子井戸層405と、p-Al
0.20Ga
0.80N層406と、p-GaN層407と、p-Al
0.70In
0.30N層401xと、p
++-GaN層408とを順次形成する。
【0095】
p-Al0.20Ga0.80N層406、p-GaN層407、p-Al0.70In0.30N層401x、p++-GaN層408(以下まとめた場合p型層と記載する)の層内のMgを、p++-GaN層408では1×1020cm-3でドーピングし、それ以外の層では2×1019cm-3でドーピングする。
【0096】
p型層内には、MOCVD装置の成膜で使用するアンモニアガス由来の水素原子が、p型層内のMgと同じ濃度で取り込まれ不活性化している(不活性化率1.0)。そのため、第1の熱処理として、
図9Aに示す構造体を熱処理装置に入れ、酸素雰囲気中で600℃の温度で熱処理をする。熱処理時間は、例えば10分間とする。熱処理温度や時間、雰囲気ガスによるが、この熱処理により、p型層から水素原子が9割脱離(不活性化率0.10)してp型伝導を示すようになる。
【0097】
次いで、
図9Aに示す構造体をMOCVD装置から取り出し、
図9Bに示すように、p-
++GaN層408上に、p-Al
0.70In
0.30N層401aを形成する予定の領域を覆う保護マスクとして、例えば直径が10μmで、厚さが100nmのSiO
2膜415を形成する。SiO
2膜415は、例えばフォトリソグラフィーにより形成することができる。
【0098】
その後、
図9Bに示す構造体をMOCVD装置に入れ、水素及びアンモニアの混合ガス雰囲気中で800℃の温度で熱処理を行う。熱処理の時間は、例えば30分間とする。この熱処理により、p-Al
0.70In
0.30N層401xのSiO
2膜415から露出している部分に水素原子が浸透すると共に、この部分からInが蒸発する。
【0099】
この結果、
図9Cに示すように、p-Al
0.70In
0.30N層401xのSiO
2膜415から露出している部分が、p-Al
0.90In
0.10N層401bに変化する。p-Al
0.70In
0.30N層401xの残部はIn組成がp-Al
0.70In
0.30N層401xのIn組成から変化していないp-Al
0.70In
0.30N層401aとなる。このようにして、p-Al
0.70In
0.30N層401aとp-Al
0.90In
0.10N層401bとを有する電流狭窄層401が形成される。さらに、SiO
2膜415を形成していない領域のp型層のMgと同じ濃度の水素が、SiO
2膜415を形成していない領域のp型層に取り込まれMgが不活性化することで、p型層内に抵抗分布が形成される。
【0100】
続いて、
図9Cに示す構造体をMOCVD装置から取り出し、SiO
2膜415を除去する。SiO
2膜415は、例えばバッファードフッ酸を用いて除去することができる。次いで、その後、リソグラフィー及びドライエッチングにより、p
++-GaN層408と、電流狭窄層401と、p-GaN層407と、p-Al
0.20Ga
0.80N層406と、多重量子井戸層405と、n-GaN層404の一部とを除去することにより、素子分離のためにメサ構造409を形成する。
【0101】
その後、
図9Dに示すように、p
++-GaN層408の表面に、開口部410aを通じてSiN膜410上にせりあがるようにしてITO膜411を形成し、メサ構造409の上方でSiN膜410及びITO膜411上に、平面形状がリング状の上部電極412を形成する。また、n-GaN層404の表面に、開口部410bを通じてSiN膜410上にせりあがるようにして下部電極413を形成する。上部電極412の形成では、例えば、SiN膜410及びITO膜411側から順にTi膜とAu膜とを積層する。下部電極413の形成では、例えば、n-GaN層404側から順にTi膜とAl膜とを積層する。続いて、上部電極412の内側において、ITO膜411上にDBR414を形成する。
【0102】
このようにして、第4の実施形態に係る面発光レーザ450を製造することができる。この方法によれば、p-Al0.70In0.30N層401xにIn組成の差による面内のバンドギャップの分布と、水素原子濃度の分布が形成される。換言すれば、Mgの不活性化率の違いによる電気抵抗分布が形成される。また、p-GaN407aとp++-GaN408のそれぞれの面内でのMgの不活性化率の違いに起因する電気抵抗分布が生じ、非常に安定した電流狭窄構造の特性を得ることがきる。さらに、電流狭窄層401の面内で屈折率分布が形成されるため、面内方向の光の閉じ込めが強くなり、特性の良い面発光レーザが得られる。
【0103】
(第5の実施形態)
次に、第5の実施形態について説明する。第5の実施形態は、窒化物半導体構造を備えた面発光レーザに関する。面発光レーザは発光素子の一例である。
図10は、第5の実施形態に係る面発光レーザを示す断面図である。
【0104】
図10に示すように、第5の実施形態に係る面発光レーザ550は、n-GaN基板502と、n-GaN基板502上のレーザ構造500と、を有する。レーザ構造500は、下部多層膜反射鏡503と、n-GaN層504と、多重量子井戸層505と、p-AlGaN層506と、p-GaN層507と、電流狭窄層501と、n
++-GaN層508と、n-GaN層509とを有する。電流狭窄層501と、n
++-GaN層508とでトンネル接合が形成されている。p-GaN層507は、p型半導体層の一例であり、電流狭窄層501は、Mgを不純物として含む窒化物半導体層の一例である。レーザ構造500は窒化物半導体構造の一例である。
【0105】
下部多層膜反射鏡503は、n-GaN基板502上に形成されている。下部多層膜反射鏡503は、高屈折率層と低屈折率層とが交互に46周期積層された構造を有する。高屈折率層は、例えば厚さが50nmのIn0.05Ga0.95N層である。低屈折率層は、例えば、厚さが6nmの3層のGaN層の間に、厚さが6nmの2層のAlN層が挿入された多層構造を有する。
【0106】
n-GaN層504は、下部多層膜反射鏡503上に形成されている。n-GaN層504の厚さは、例えば1.1μmである。
【0107】
多重量子井戸層505は、n-GaN層504上に形成されている。多重量子井戸層505は、例えば、厚さが4nmのIn0.10Ga0.90N層と厚さが6nmのGaN層とが交互に5周期積層された構造を有する。多重量子井戸層505は活性層の一例である。
【0108】
p-AlGaN層506は、多重量子井戸層505上に形成されている。p-AlGaN層506の厚さは、例えば20nmである。
【0109】
p-GaN層507は、p-AlGaN層506上に形成されている。p-GaN層507の厚さは、例えば100nmである。
【0110】
電流狭窄層501は、p-GaN層507上に形成されている。電流狭窄層501の厚さは、例えば10nmである。電流狭窄層501は、p++-Al0.70In0.30N層501aと、電流狭窄層501に平行な面内でp++-Al0.70In0.30N層501aを取り囲むp++-Al0.90In0.10N層501bとを有する。
【0111】
このように、p++-Al0.90In0.10N層501bのIn組成は、p++-Al0.70In0.30N層501aのIn組成よりも小さい。p++-Al0.70In0.30N層501aは、第1の領域の一例であり、p++-Al0.90In0.10N層501bは、第2の領域の一例である。p++-Al0.70In0.30N層501a及びp++-Al0.90In0.10N層501bには、アクセプタとしてMgが1×1020cm-3の濃度でドーピングされている。
【0112】
n++-GaN層508は、電流狭窄層501上に形成されている。n++-GaN層508の厚さは、例えば10nmである。n++-GaN層508には、ドナーとしてSiが3×1020cm-3の濃度でドーピングされている。
【0113】
Mgをハイドーピングした電流狭窄層501とSiをハイドーピングしたn-GaN層508でトンネル接合が形成されている。n-GaN層509はn++-GaN層508上に形成されている。n-GaN層509の厚さは、例えば440nmである。
【0114】
レーザ構造500では、n-GaN層509と、n++-GaN層508と、電流狭窄層501と、p-GaN層507と、p-AlGaN層506と、多重量子井戸層505と、n-GaN層504の一部とがエッチングされて、例えば平面形状が円形状のメサ構造510が形成されている。
【0115】
メサ構造510の表面及び側面と、n-GaN層504の表面とを覆うようにパッシベーション膜としてSiN膜511が形成されている。SiN膜511には、n-GaN層508の表面の一部を露出する開口部511aと、n-GaN層504の表面の一部を露出する開口部511bとが形成されている。例えば、平面視でp++-Al0.70In0.30N層501aは開口部511aの内側に位置する。
【0116】
開口部511a中心部分を除いたn-GaN層509の表面に、開口部511aを通じてSiN膜511上にせりあがるようにしてリング状の上部電極512が形成されている。上部電極512の内側では、n-GaN層509上に、誘電体のDBR514が形成されている。n-GaN層504の表面に、開口部511bを通じてSiN膜511上にせりあがるようにして下部電極513が形成されている。上部電極512と下部電極513は、例えば、n-GaN層504側、n-GaN層509側から順に積層されたTi膜とAl膜とを有する。DBR514は、例えば酸化タンタル膜(Ta2O5膜)及びSiO2膜を含む。下部多層膜反射鏡503とDBR514が共振器構造に含まれる。
【0117】
面発光レーザ550では、上述のように、電流狭窄層501がp++-Al0.70In0.30N層501aとp++-Al0.90In0.10N層501bとを有する。p++-Al0.70In0.30N層501aのバンドギャップは3.59eVであり、p++-Al0.90In0.10N層501bのバンドギャップは5.24eVである。また、電流狭窄層501を間に挟むp-GaN層507及びn++-GaN層508のバンドギャップは、3.4eVである。このように、p++-Al0.90In0.10N層501bのバンドギャップは、その周囲に存在する、p++-Al0.70In0.30N層501a、p-GaN層507、n++-GaN層508のいずれのバンドギャップよりも1.0eV以上大きい。従って、p++-Al0.90In0.10N層501bと、p++-Al0.70In0.30N層501a、p-GaN層507、n++-GaN層508との間に大きなバンドオフセットが形成される。
【0118】
さらに、後述する製造方法により、p++-Al0.90In0.10N層501bと、p++-Al0.70In0.30N層501aとp-GaN層507の面内のうち、p++-Al0.90In0.10N層501bが形成されている領域の水素原子濃度は、p++-Al0.70In0.30N層501aと、p-GaN層507の面内のうち、p++-Al0.70In0.30N層501aが形成されている領域の水素原子濃度より高い。
【0119】
このため、電流狭窄層501の内部では、電流は、p++-Al0.90In0.10N層501bにより阻止され、p++-Al0.70In0.30N層501aを選択的に流れる。また、p++-Al0.90In0.10N層501bの屈折率が、p++-Al0.70In0.30N層501aの屈折率よりも低いため、面内方向での光閉じ込め効果を得ることができる。
【0120】
次に、第5の実施形態に係る面発光レーザ550の製造方法について説明する。
図11A~
図11Dは、第5の実施形態に係る面発光レーザ550の製造方法を示す断面図である。この製造方法では、n-GaN基板502上に、レーザ構造500に含まれる窒化物半導体層をエピタキシャル成長させる。
【0121】
先ず、MOCVD装置を用いて、
図11Aに示すように、n-GaN基板502上に、下部多層膜反射鏡503と、n-GaN層504と、多重量子井戸層505と、p-AlGaN層506と、p-GaN層507と、p
++-Al
0.70In
0.30N層501xと、n
++-GaN層508と、n-GaN層509とを順次形成する。
【0122】
次いで、
図11Aに示す構造体をMOCVD装置から取り出し、
図11Bに示すように、リソグラフィー及びドライエッチングにより、n-GaN層509と、n
++-GaN層508と、p
++-Al
0.70In
0.30N層501xと、p-GaN層507と、p-AlGaN層506と、多重量子井戸層505と、n-GaN層504の一部とを除去することにより、メサ構造510を形成する。
【0123】
その後、
図11Bに示す構造体に対し、第1の熱処理として、酸素雰囲気中で800℃の温度で熱処理を行う。熱処理の時間は、例えば30分とする。この熱処理により、p-AlGaN層506と、p-GaN層507と、p
++-Al
0.70In
0.30N層501x内でMgと結合していた水素原子の9割(不活性化率0.10)がメサ構造510の側壁から脱離してMgが活性化し、p型伝導を示すようになる。
【0124】
次に、
図11Bに示す構造体をMOCVD装置に入れ、水素及びアンモニアの混合ガス雰囲気中で800℃の温度で熱処理を行う。熱処理の時間は、例えば30分間とする。この熱処理により、メサ構造510の側壁からp
++-Al
0.70In
0.30N層501xへ水素原子が浸透すると共に、この部分からInが蒸発する。この結果、
図11Cに示すように、p
++-Al
0.70In
0.30N層501xの側壁側がp
++-Al
0.90In
0.10N層501bに変化する。p
++-Al
0.70In
0.30N層501xの残部は、p
++-Al
0.70In
0.30N層501xのIn組成から変化していないp
++-Al
0.70In
0.30N層501aとなる。このようにして、p
++-Al
0.70In
0.30N層501aとp
++-Al
0.90In
0.10N層501bとを有する電流狭窄層501が形成される。
【0125】
p++-Al0.90In0.10N層501bが形成される範囲は、例えば側壁から10μm程度以内の範囲である。さらに、p-AlGaN層506と、p-GaN層507も側壁から水素原子が浸透し不活性化されていく。側壁側のp型層内のMgと同じ濃度の水素原子が取り込まれ(不活性化率1.0)てMgが不活性化することで、p型層内に電気抵抗分布が形成される。
【0126】
続いて、
図11Dに示すように、メサ構造510の表面及び側面と、n-GaN層504の表面とを覆うようにSiN膜511を形成する。次いで、SiN膜511に、n-GaN層509の表面の一部を露出する開口部511aと、n-GaN層504の表面の一部を露出する開口部511bとを形成する。
【0127】
その後、開口部511aの中央を除いてn-GaN層509の表面に、SiN膜511上にせりあがるようにしてリング状の上部電極512を形成する。また、n-GaN層504の表面に、開口部511bを通じてSiN膜511上にせりあがるようにして下部電極513を形成する。上部電極512と下部電極513の形成では、例えば、n-GaN層504側、n-GaN層509側から順にTi膜とAl膜とを積層する。続いて、上部電極512の内側にDBR514を形成する。
【0128】
このようにして、第5の実施形態に係る面発光レーザ550を製造することができる。電流狭窄層の組成、導電型及び不純物濃度は、これら実施形態のものに限定されない。また、電流狭窄層を備えた窒化物半導体構造の用途は光学素子に限定されず、電流狭窄層を備えた窒化物半導体構造を他の電子デバイスに用いることもできる。
【0129】
(第6の実施形態)
次に、第6の実施形態について説明する。第6の実施形態は、レーザを走査して画像を描画する投影装置に関する。投影装置は光源装置の一例である。
図12は、第6の実施形態に係る投影装置のレイアウトを示す図である。
【0130】
第6の実施形態に係る投影装置1000は、光源1001及び光走査部1002を備えている。光源1001は、例えば、第4の実施形態に係る面発光レーザ450、第5の実施形態に係る面発光レーザ550を1又は2以上備えている。面発光レーザ450又は面発光レーザ550が1つの場合、投影装置1000は、単色の画像を対象物1003に投影する。複数の面発光レーザ450、面発光レーザ550を備える場合、投影装置1000は、各面発光レーザの光軸を同軸上に揃えて出射面から出射し、面発光レーザ毎に発振波長を変えることで、複数の色の画像を対象物1003に投影できる。
【0131】
光走査部1002は、光源1001から出射されたレーザ光を走査し対象物1003へ投影するための素子を含む。このような素子として、2軸方向に可動するMEMS(micro electro mechanical systems)ミラーや1軸方向に可動するMEMSミラーを2個組み合わせた素子等を用いることができる。光走査部1002は、光源1001から出射されたレーザ光の進行方向を調整する光学素子の一例である。
【0132】
画像の生成の際には、光走査部1002の走査に合わせて、レーザ光の強度を変調して対象物1003上にレーザ光を照射する。このようにして、対象物1003上に直接画像を生成することができる。
【0133】
光源1001に単一又は少数の面発光レーザを用いる場合、μWオーダーから数mW程度のレーザ光を出力し、微小な領域に画像を描画することができる。このような投影装置1000は、例えば、網膜ディスプレイとして用いることができる。
【0134】
光源1001に多数の面発光レーザをアレイ化した2次元アレイ光源を用いる場合、mWオーダーからkWオーダーのレーザ光を出力し、大面積な領域に画像を描画することができる。このような投影装置は、例えば、プロジェクターとして用いることができる。
【0135】
(第7の実施形態)
次に、第7の実施形態について説明する。第7の実施形態は、投光装置に関する。投光装置は光源装置の一例である。
図13は、第7の実施形態に係る投光装置のレイアウトを示す図である。
【0136】
第7の実施形態に係る投光装置1100は、光源1101、蛍光部材1102及び投光部材1103を備えている。光源1101としては、例えば、複数の第4の実施形態に係る面発光レーザ450、第5の実施形態に係る面発光レーザ550をアレイ化した2次元アレイ光源が用いられ、光源1101から出射された光で蛍光部材1102を励起させる。光源1101から出射された光と、蛍光部材1102が励起されて放射された光とを投光部材1103で2次元状に拡げて投光する。
図13には、投光部材1103の例として、反射鏡を図示してある。
【0137】
蛍光部材1102としては、例えば、光源1101から出射される光が青色光の場合、黄色光を発する蛍光部材が用いられ、光源1101から出射される光が紫外光の場合、白色光を発する蛍光部材が用いられる。蛍光部材1102は、光源1101から出射されたレーザ光の波長を調整する光学素子の一例である。また、投光部材1103は、光源1101から出射され、蛍光部材1102により波長が調整されたレーザ光の進行方向を調整する光学素子の一例である。
【0138】
光源1101は、例えば面内に数千個~数万個の面発光レーザを2次元アレイ状に並べた2次元アレイ光源であり、複数の面発光レーザ群を個別に駆動できるよう電極が接続されている。面発光レーザ群は複数の面発光レーザを有してもよく、単一の面発光レーザを有してもよい。
【0139】
電圧を印加する面発光レーザ群を選択することで、1つの光源1101で、任意の場所や空間に投光することができる。 例えば、投光装置1100を車載用のヘッドライトモジュールとして使う場合、配光可変型前照灯として使うことができる。
【0140】
(第8の実施形態)
次に、第8の実施形態について説明する。第8の実施形態は、投影装置に関する。投影装置は光源装置の一例である。
図14は、第8の実施形態に係る投影装置のレイアウトを示す図である。
【0141】
第8の実施形態に係る投影装置1200は、光源1201及び投影光学部1202を備えている。光源1201は、複数の第4の実施形態に係る面発光レーザ450、第5の実施形態に係る面発光レーザ550をアレイ化した2次元アレイ光源を備える。
【0142】
投影光学部1202は、少なくとも、蛍光部材1203、フィルター1204及び画像生成素子1205を備え、必要に応じて、投影レンズ1206等のレンズやミラー等を更に備えてもよい。
【0143】
蛍光部材1203は、光源1201から投影光学部1202へ入射した光の一部によって励起されることで、白色光を作り出す。蛍光部材1203としては、例えば、光源1201から出射される光が青色光の場合、黄色光を発する蛍光部材が用いられ、光源1201から出射される光が紫外光の場合、白色光を発する蛍光部材が用いられる。
【0144】
フィルター1204は、白色光から色を分離するフィルターであり、可動部も備えている。フィルター1204としては、例えば赤色、青色、緑色の光を透過させるカラーホイール等が用いられる。
【0145】
画像生成素子1205は、フィルター1204を透過した光から画像を生成する素子である。画像生成素子1205としては、例えば、2次元アレイ状に微細なミラーを備えたMEMSデバイスや、反射型液晶素子等が用いられる。
【0146】
投影レンズ1206は、画像生成素子1205により生成された画像を所望の倍率に拡大し対象物へ投影する。投影光学部1202は、光源1201から出射されたレーザ光の波長及び進行方向等を調整する光学素子の一例である。
【0147】
本実施形態では、投影光学部1202にフィルター1204が含まれているが、フィルター1204の代わりに、プリズムやダイクロイックミラーが用いられてもよい。プリズムやダイクロイックミラーが用いられる場合、光を例えば赤色、緑色、青色に分離し、3つの画像生成素子で各色の画像を生成し、最後にプリズム等で合成する構成等にすることができる。
【0148】
(第9の実施形態)
次に、第9の実施形態に係るヘッドマウントディスプレイを、
図15及び
図16を参照して説明する。
図15は、本実施形態に係るヘッドマウントディスプレイ60の構成の一例を説明する斜視図である。また
図16はヘッドマウントディスプレイ60の構成の一例を説明する断面図である。
【0149】
ヘッドマウントディスプレイ60は、人間の頭部に装着可能な頭部装着型の表示装置の一例であり、例えば眼鏡に類する形状とすることができる。なお、ヘッドマウントディスプレイ(Head Mount Display)を以降ではHMDと省略して表記する。
【0150】
図15において、HMD60は、左右に1組ずつ略対称に設けられたフロント60a及びテンプル60bにより構成されている。フロント60aは、例えば、導光板61により構成することができ、光学系や制御装置等は、テンプル60bに内蔵することができる。
【0151】
図16は、HMD60の構成を部分的に示している。なお、
図15では、左眼用の構成を例示しているが、HMD60は右眼用としても同様の構成を備えている。
【0152】
HMD60は、制御装置11と、光源ユニット930と、光量調整部907と、反射面14を有する可動装置13と、導光板61と、ハーフミラー62とを備えている。HMD60は表示装置の一例である。
【0153】
光源ユニット930は、赤色レーザ光源、緑色レーザ光源及び青色レーザ光源と、複数のコリメートレンズと、複数のダイクロイックミラーとを、光学ハウジングによってユニット化したものである。光源ユニット930において、赤色レーザ光源、緑色レーザ光源及び青色レーザ光源からの三色のレーザ光は、合成部となるダイクロイックミラーで合成される。光源ユニット930からは、合成された平行光が発せられる。光源ユニット930は光源装置の一例である。
【0154】
各レーザ光源は、例えば、第4の実施形態や第5の実施形態に係る面発光レーザ450,550を1又は2以上備え、レーザ光を照射する。なお、第4の実施形態と第5の実施形態では、発振波長が特定されているが、半導体層の材料及び光学的厚さを選択することで発振波長を変更することができる。
【0155】
光源ユニット930からの光は、光量調整部907により光量調整された後、可動装置13に入射する。可動装置13は、制御装置11からの信号に基づき、反射面14をXY方向に可動し、光源ユニット930からの光を二次元走査する。可動装置13の駆動制御は、赤色レーザ光源、緑色レーザ光源及び青色レーザ光源の発光タイミングに同期して行われる。
【0156】
可動装置13による走査光は、導光板61に入射する。導光板61は、走査光を内壁面で反射させながらハーフミラー62に導光する。導光板61は、走査光の波長に対して透過性を有する樹脂等により形成されている。
【0157】
ハーフミラー62は、導光板61からの光をHMD60の背面側に反射し、HMD60の装着者63の眼の方向に出射する。ハーフミラー62は、例えば、自由曲面形状を有している。走査光による画像は、ハーフミラー62での反射により、装着者63の網膜に結像する。或いは、ハーフミラー62での反射と眼球における水晶体のレンズ効果とにより、装着者63の網膜に結像する。また、ハーフミラー62での反射により、画像は空間歪が補正される。装着者63は、XY方向に走査される光で形成される画像を視認することができる。
【0158】
ハーフミラー62が用いられているため、装着者63には、外界からの光による像と走査光による画像が重畳して視認される。ハーフミラー62に代えてミラーを設けることで、外界からの光をなくし、走査光による画像のみを視認できる構成にしてもよい。
【0159】
本実施形態では、光源に端面発光レーザを用いた場合と比べて、NDフィルター等の部品点数が減り消費電力も少ない小型で軽量なHMDが実現できる。
【0160】
(第10の実施形態)
次に、第10の実施形態に係る人の瞳孔応答を利用したバイオメトリック認証装置を、
図17を参照して説明する。
図17は、本実施形態に係るバイオメトリック認証装置の構成の一例を説明する図である。バイオメトリック認証装置20は、光源21と、光走査部22と、第1の光学素子23と、第2の光学素子24と、撮像素子25と、制御装置27とを備える。光源21は、例えば、第4の実施形態や第5の実施形態に係る面発光レーザ450,550を1又は2以上備え、光源21から出射された光は、光走査部22に入射する。光走査部22は、制御装置27からの信号に基づき、反射面を可動し、光源21からの光を走査する。光走査部22による走査光は、第1の光学素子23と第2の光学素子24を経て瞳26へ照射される。瞳26へ照射した光の強度で瞳孔の大きさを制御して、虹彩情報を撮像素子25で取得する。そして、制御装置27が撮像素子25の出力に基づき、人(生体)の瞳26の情報を取得する。バイオメトリック認証装置20は生体情報取得装置の一例であり、光源21は光源装置の一例であり、撮像素子25は受光装置の一例であり、制御装置27は情報取得部の一例である。
【0161】
例えば、第1の光学素子23は光走査部22で走査された光を第2の光学素子24へ導波させる導波路であり、第2の光学素子24は、第1の光学素子23から出射された光を瞳26へ経路を変えるためのミラーである。本実施形態では二つの光学素子に分けて記載したが、走査された光を瞳26へ出射する光学素子であれば他の手法を用いることもできる。
【0162】
光源21は複数の素子を備えることができ、例えば、赤、青、緑、赤外の4波長のレーザが同軸上に出射されるように実装されたモジュールである。青や緑の波長は、瞳孔反応が他の波長より敏感であるため、瞳孔より狭めて精細な虹彩情報を得ることができる。また、多波長を用いることで、虹彩の波長ごとの生体情報が得られ認証精度がより高くなる。
【0163】
例えば、第4の実施形態や第5の実施形態に係る面発光レーザ450,550を用いることで、高精度なバイオメトリック認証装置20が実現できる。
【0164】
以上、好ましい実施の形態等について詳説したが、上述した実施の形態等に制限されることはなく、特許請求の範囲に記載された範囲を逸脱することなく、上述した実施の形態等に種々の変形及び置換を加えることができる。
【0165】
本発明の態様は、例えば、以下のとおりである。
<1> Mgを不純物として含む窒化物半導体層を有し、
前記窒化物半導体層は、
第1の領域と、
前記窒化物半導体層に平行な面内で前記第1の領域を取り囲む第2の領域と、
を有し、
前記第2の領域のIn組成は、前記第1の領域のIn組成よりも小さく、
前記第2の領域の水素原子濃度は、前記第1の領域の水素原子濃度より2倍以上高いことを特徴とする窒化物半導体構造。
<2> 前記第2の領域のMgの不活性化率が、0.5以上であることを特徴とする前記<1>に記載の窒化物半導体構造。
<3> 前記第1の領域は、Mgを不純物として含む、AlInNまたはAlGaInNからなることを特徴とする前記<1>又は前記<2>に記載の記載窒化物半導体構造。
<4> 前記<1>~前記<3>のいずれか1つに記載の窒化物半導体構造を有し、
前記窒化物半導体構造は、活性層をさらに有することを特徴とする発光素子。
<5> 前記窒化物半導体構造は、前記活性層が発した光を共振させる共振器構造を有することを特徴とする前記<4>に記載の発光素子。
<6> 前記<4>又は前記<5>に記載の発光素子を有することを特徴とする光源装置。
<7> Mgを不純物として含む窒化物半導体層を形成する工程と、
不活性ガス雰囲気で熱処理することで、前記窒化物半導体層のMgを活性化する第1の熱処理工程と、
前記窒化物半導体層に水素原子を取り込ませることで、前記窒化物半導体層に、第1の領域と、前記窒化物半導体層に平行な面内で前記第1の領域を取り囲み、電流の通過を阻止する第2の領域と、を形成する水素浸透処理工程と、
を有し、
前記水素浸透処理工程は、前記第1の熱処理工程の後に行われ、
前記第2の領域のIn組成は、前記第1の領域のIn組成より小さく、
前記第2の領域の水素原子濃度は、前記第1の領域の水素原子濃度より2倍以上高いことを特徴とする窒化物半導体構造の製造方法。
【符号の説明】
【0166】
100、200 窒化物半導体構造
101、201、301、401、501 電流狭窄層
101a 第1の領域
101b 第2の領域
300 LED構造
350 発光ダイオード
301a p-Al0.70In0.30N層
301b p-AlN層
401a p-Al0.70In0.30N層
401b p-Al0.90In0.10N層
400、500 レーザ構造
450、550 面発光レーザ
501a p++-Al0.70In0.30N層
501b p++-Al0.90In0.10N層
1000、1200 投影装置
1001、1101、1201 光源
1002 光走査部
1003 対象物
1100 投光装置
1102、1203 蛍光部材
1103 投光部材
1202 投影光学部
1204 フィルター
1205 画像生成素子
1206 投影レンズ
60 ヘッドマウントディスプレイ
930 光源ユニット
20 バイオメトリック認証装置
21 光源
【先行技術文献】
【特許文献】
【0167】