(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024134890
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】Cu基合金粉末及びこのCu基合金粉末を用いた成形体
(51)【国際特許分類】
C22C 9/00 20060101AFI20240927BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20240927BHJP
B22F 10/28 20210101ALI20240927BHJP
B33Y 70/00 20200101ALI20240927BHJP
B33Y 80/00 20150101ALI20240927BHJP
B22F 10/34 20210101ALN20240927BHJP
【FI】
C22C9/00
B22F1/00 L
B22F10/28
B33Y70/00
B33Y80/00
B22F10/34
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023045321
(22)【出願日】2023-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000180070
【氏名又は名称】山陽特殊製鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100134131
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 知理
(74)【代理人】
【識別番号】100185258
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 宏理
(72)【発明者】
【氏名】森口 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】池田 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】澤田 俊之
【テーマコード(参考)】
4K018
【Fターム(参考)】
4K018AA03
4K018BA02
4K018KA63
(57)【要約】
【課題】急速溶融急冷凝固を伴うプロセスに適するCu基合金粉末であって、かつ、導電性に優れた造形物が得られるCu基合金粉末を提供すること。
【解決手段】質量%でZrを0.1~3.0%含み、残部がCuおよび不可避的不純物であるCu基合金粉末であって、不可避的不純物のうち、元素Al、Fe、Ni、Mnの合計が0.05%以下であるCu基合金粉末である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%でZrを0.1~3.0%含み、残部がCuおよび不可避的不純物であるCu基合金粉末であって、
不可避的不純物のうち、元素Al、Fe、Ni、Mnの合計が0.05%以下であるCu基合金粉末。
【請求項2】
質量%でZrを0.1~3.0%、Agを0.05~3.00%含み、残部がCuおよび不可避的不純物であるCu基合金粉末であって、
不可避的不純物のうち、元素Al、Fe、Ni、Mnの合計が0.05%以下であるCu基合金粉末。
【請求項3】
質量%でZrを0.1~3.0%含み、残部がCuおよび不可避的不純物であるCu基合金粉末であって、
不可避的不純物のうち、元素Al、Fe、Ni、Mnの合計が0.05%以下であるCu基合金粉末を用いた成形体。
【請求項4】
質量%でZrを0.1~3.0%、Agを0.05~3.00%含み、残部がCuおよび不可避的不純物であるCu基合金粉末であって、
不可避的不純物のうち、元素Al、Fe、Ni、Mnの合計が0.05%以下であるCu基合金粉末を用いた成形体。
【請求項5】
請求項1又は2に記載のCu基合金粉末からなる三次元積層造形用粉末。
【請求項6】
請求項1又は2に記載のCu基合金粉末で積層造形された三次元積層造形物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三次元積層造形法、溶射法、レーザーコーティング法、肉盛法等の、急速溶融急冷凝固を伴うプロセスに適したCu基合金粉末及びこのCu基合金粉末を用いた成形体に関する。とりわけ三次元積層造形法に好適なCu基合金粉末からなる三次元積層造形用粉末及び三次元積層造形体に関する。
【背景技術】
【0002】
金属からなる造形物の製作に、3Dプリンターが使用されはじめている。この3Dプリンターとは、積層造形法によって造形物が製作するものであり、金属積層造形法の代表的な方式にはパウダーベッド方式(粉末床溶融結合方式)やメタルデポジション方式(指向性エネルギー堆積方式)などがある。パウダーベッド方式では、レーザービームまたは電子ビームの照射によって、敷き詰められた粉末のうち照射された部位が溶融し凝固する。この溶融と凝固により、粉末粒子同士が結合する。レーザービーム等の照射は、金属粉末の一部に選択的になされ、照射がなされなかった部分は溶融せず、照射がなされた部分のみにおいて結合層が形成される。
【0003】
形成された結合層の上に、さらに新しい金属粉末が敷き詰められ、それらの金属粉末にレーザービームまたは電子ビームの照射が行われる。すると、ビームの照射により、金属粒子が溶融、凝固し、新たな結合層が形成される。また、新たな結合層は、既存の結合層とも結合される。
【0004】
こうして敷き詰めた金属粉末の所望の位置上にビームを照射して溶融・凝固させる工程を順次繰り返していくことによって、結合層の集合体が徐々に成長していく。この成長により、三次元形状を有する造形体を得ることができる。このように積層造形法を用いると、従来の金型成形などでは製造が困難であったような複雑な形状の造形物であっても容易に得ることができる。
【0005】
ところで、高周波誘導加熱装置、モーター冷却用ヒートシンク等に使用される合金には、優れた電気伝導度や熱伝導性が要請される。このような用途には、Cu基合金が適している。
【0006】
これまでに、Cuと、Zrを5~8at%を含む粉末を放電プラズマで焼結させた銅合金で、CuとCu-Zr化合物とを含み、Cuと前記Cu-Zr化合物との2相が、共晶相を含むことなく、断面視したときに大きさ10μm以下の結晶が分散したモザイク状の組織を有する、銅合金が提案されている(特許文献1参照)。
【0007】
また、質量%で、Cr:1.1~20%、Zr:0~0.2%、残部がCuおよび不可避的不純物からなる銅合金粉末が提案されている(特許文献2参照)。
【0008】
本願出願人は、質量%で、選択的成分M(V、Fe、Zr、Nb、Hf及びTaのいずれか1種以上):0.1~5.0%、残部がCu及び不可避的不純物からなるCu基合金からなり、平均粒子径D50(μm)と上記粉末のタップ密度TD(Mg/m3)との比(D50/TD)が、0.2×10-5・m4/Mg~20×10-5・m4/MgであるCu基合金粉末を提案している(特許文献3)。この提案におけるZrの含有率は、0.1~2.0%である。
【0009】
また、本願出願人は、質量%で、選択的成分M(Cr、Fe、Ni、Zr及びNbのいずれか1種以上):0.1~10.0%、Si:0.20%以下、P:0.10%以下、S:0.10%以下、不可避的不純物を含むCu基合金からなり、平均粒子径D50(μm)と上記粉末のタップ密度TD(Mg/m3)との比(D50/TD)が、0.2×10-5・m4/Mg~20×10-5・m4/Mgであり、その球形度が0.80~0.95以下であるCu基合金粉末を提案している(特許文献4参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際公開第2014/069318号
【特許文献2】特開2019-44260号公報
【特許文献3】特開2019-210497号公報
【特許文献4】特開2021-17639号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
積層造形法では、金属材料が急速に溶融され、かつ急冷されて凝固する。このような急速溶融急冷凝固を伴うプロセスに用いられる粉末としては、従来のCu基合金は不向きであり、従来のCu基合金粉末を用いても、高密度な造形物は得られにくかった。あた、溶射法、レーザーコーティング法、肉盛法等の、他の急速溶融急冷凝固プロセスにおいても、従来のCu基合金は好適とはいえず、むしろ不向きである。
【0012】
純Cuのレーザー反射率は、Fe基合金、Ni基合金、Co基合金等のレーザー反射率と比較すると、反射率が高い。そこで、急速溶融急冷凝固を伴うプロセスに純Cuの粉末を用いるときには、Cuの高いレーザー反射率に起因して、多くの熱が大気へ放出されることとなる。他方で、粉末が溶融するための十分な熱が、この粉末自体に付与されないこととなる。熱が不足すると、粒子同士の結合の不良が招来される。そして、熱の不足によって、この粉末から得た造形物の内部には、未溶融の粒子が残存することも起こる。このように純Cu粉末から得られる造形物の相対密度は低くなりやすい。
【0013】
他方で、エネルギー密度が高いレーザーを純Cu粉末に照射すれば、未溶融の粒子の残存自体は抑制することができる。もっとも、エネルギー密度が高いレーザーを用いると、溶融金属の突沸を招来することとなる。突沸は、造形物の内部に空隙が生ずる原因となるので、エネルギー密度を安易に高めることはできない。
【0014】
そこで、積層造形法などの急速溶融急冷凝固プロセスに用いられるCu基合金において、レーザー反射率を抑制するために、合金元素が添加されている。しかしながら、添加された合金元素がCuに固溶することで、今度は導電性が著しく低下することとなる。
【0015】
そこで、本発明の目的は、急速溶融急冷凝固を伴うプロセスに適するCu基合金粉末であって、かつ、導電性に優れた造形物が得られるCu基合金粉末を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
発明者らは、鋭意検討の結果、まずレーザー反射率を抑制するために、CuにZrを添加することとした。Zrは平衡状態図上のCuへの固溶限は小さい。ところが、粉末がアトマイズ法のような急冷凝固を伴うプロセスで製造されるときには、ZrはCuに過飽和に固溶することとなる。そして、この過飽和固溶体ではレーザー反射率が抑制されることから、得られたCu基合金粉末が急速溶融急冷凝固を伴うプロセスに供されても、熱が大気へ放出されにくい。
【0017】
もっとも、レーザー反射率の抑制するために添加されるZrは、同時にCu基合金の導電性を低下させてしまう。そこで、導電性を向上させるために、導電性を悪化させる不純物を低減することが有用と考え、出発材料に含まれる不純物の混入を制御することとした。もっとも、出発材料の制御だけでは足らないことが判明した。不純物は、出発材料以外にも、粉末の製造の際に、粉末製造設備および原料の溶融に用いられるるつぼからも混入するからである。そこで、出発材料の高純度化に加えて、坩堝の材質の変更や出湯温度の低下によって製造時に不純物元素が混入することをも抑制することとした。
【0018】
さらに導電性を向上させるために、Agを添加することとした。もっとも、Ag添加の効果が有意に発揮されるためには、不純物としてAl、Fe、Ni、Mnが含まれていないことが望ましく、これら成分が不純物として含まれていると、導電性の向上が十分とはならないことが判明した。そこでAgの添加に際しては、Cu基合金から不純物をなお一層取り除くことが有用であって、不純物をコントロールしたうえでAgを添加すると、より導電性が向上することを見出した。
【0019】
本発明の課題を解決するための第1の手段は、質量%でZrを0.1~3.0%含み、かつ残部がCuおよび不可避的不純物であるCu基合金粉末であって、さらに不可避的不純物のうちAl、Fe、Ni、Mnが合計で0.05%以下であるCu基合金粉末である。
【0020】
さらに、このCu基合金粉末は、質量%でZrを0.2~2.0%を含んでいることが好ましい。
【0021】
その第2の手段は、質量%でZrを0.1~3.0%、Agを0.05~3.00%含み、かつ残部がCuおよび不可避的不純物であるCu基合金粉末であって、さらに不可避的不純物のうちAl、Fe、Ni、Mnが合計で0.05%以下であるCu基合金粉末である。
【0022】
さらに、このCu基合金粉末は、質量%でZrを0.2~2.0%、Agを0.05~2.00%を含んでいることが好ましい。
【0023】
その第3の手段は、質量%でZrを0.1~3.0%含み、かつ残部がCuおよび不可避的不純物であるCu基合金粉末であって、さらに不可避的不純物のうちAl、Fe、Ni、Mnが合計で0.05%以下であるCu基合金粉末を用いた成形体である。
【0024】
さらに、Zrを質量%で0.2~2.0%を含んでいるCu基合金粉末を用いた成形体であることが好ましい。
【0025】
その第4の手段は、質量%でZrを0.1~3.0%、Agを0.05~3.00%含み、かつ残部がCuおよび不可避的不純物であるCu基合金粉末であって、さらに不可避的不純物のうちAl、Fe、Ni、Mnが合計で0.05%以下であるCu基合金粉末を用いた成形体である。
【0026】
さらに、Zrを質量%で0.2~2.0%、Agを0.05~2.00%を含んでいるCu基合金粉末を用いた成形体であることが好ましい。
【0027】
その第5の手段は、第1又は第2の手段に記載のCu基合金粉末からなる三次元積層造形用粉末である。レーザーなどのビームを粉末に照射することで急速溶融急冷凝固させる工程を繰り返しながら三次元的に積層造形させていくための、三次元積層造形用粉末である。
【0028】
その第6の手段は、第1又は第2の手段に記載のCu基合金粉末で積層造形された三次元積層造形物である。
すなわち、第1又は第2の手段の合金粉末からなる三次元積層造形用粉末をレーザーなどのビームを粉末に照射することで急速溶融急冷凝固させる工程を順次繰り返しながら三次元的に積層造形することで形成した、三次元積層造形物である。
【発明の効果】
【0029】
本発明のZrを含有するCu基合金粉末はAl、Fe、Ni、Mnなどの不純物を制御して低減させているので、急速溶融急冷凝固を伴う造形で得られた成形体は80%IACS以上の優れた導電率を呈する。さらにZrを含有するCu基合金粉末にAgを少量添加し、Al、Fe、Ni、Mnなどの不純物を制御して低減させることで、85%IACS以上のさらに優れた導電率を示す。本発明に係るZrを含有するCu基合金粉末は、急速溶融急速凝固によってZrが過飽和に固溶しているので、よりレーザー反射率が低減されやすいものとなっている。過飽和固溶体であるCu基合金粉末ではレーザー反射率が抑制されることから、得られたCu基合金粉末が急速溶融急冷凝固を伴うプロセスに供されても、熱が大気へ放出されにくいので、未溶融の粒子が残存しづらく、またエネルギー密度の高いレーザーを用いる必要がないので突沸により内部に空隙が生じることが避けられる。そこで本発明のCu基合金を急速溶融急速凝固を伴うプロセスを用いたときには、Cu基合金粉末からなる成形体を適切に造形することができ、相対密度も低くなりにくい成形体を得ることができる。また、これらのCu基合金粉末は反射率が低く三次元造形用粉末として積層造形したものは相対密度が高く、導電性にも優れた三次元積層造形物となる。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明に係るCu基合金粉末は、多数の粒子の集合である。この粒子の材質は、Cu基合金であって、質量%でZrを0.1~3.0%含み、残部がCuおよび不可避的不純物からなる。さらに、Agを0.05~3.00%含むCu基合金とすることもできる。そして、これらのCu基合金粉末は、不可避的不純物のうちAl、Fe、Ni、Mnの合計が0.05%以下であることを特徴としている。まず、実施の形態の説明に先立ち、Cu基合金粉末の添加成分及び不可避不純物の各成分を規定する理由について説明する。以下の成分に関する説明における%は、いずれも質量%のことである。
【0031】
[Zr:0.1~3.0%]
Zrは、平衡状態図におけるCuへの固溶限は小さい成分である。もっとも、Cu基合金粉末がアトマイズ法のような急速溶融急冷凝固を伴う方法で製造されるときには、添加sっるZrはCuに過飽和に固溶することとなる。こうしたZrの過飽和固溶体を含むCu基合金粉末は、レーザー反射率が抑制されている。他方で、Cu基合金粉末が急速溶融急冷凝固を伴うプロセスに供されたときも、その熱は大気へ放出されにくい。そこで、このプロセスにおいて、Zrを含有しているCu基合金粉末に対しては、エネルギー密度が過剰に高いレーザーの照射は不要となる。そこで、過剰なレーザーの照射に伴う溶融金属の突沸が抑制される。突沸が抑制されることから、Zrを適量含有しているCu基合金粉末を用いて積層造形などで造形体を得る場合には、相対密度が大きく、内部の空隙が少ない造形物を得ることができる。
【0032】
Cu基合金粉末中におけるZrの含有率が0.1%以上であると、この粉末を用いた造形体の相対密度が大きくなり、内部の空隙が少ない造形物を得ることができる。この観点からZrは0.2%以上がより好ましい。他方、Zrの含有率3.0%を超えると、導電性の低下が大きくなり過ぎる。この観点からは、Zrは2.0%以下がより好ましい。そこで、Cu基合金粉末中におけるZrは0.1~3.0%とする。好ましくは、Zrは、0.2~2.0質量%である。
【0033】
[Ag:0.05~3.00%]
Agは、Cuよりも導電性に優れた元素であるため、Cuに固溶しても、Cu基合金の電気伝導及び熱伝導が阻害されにくい元素である。CuとZr化合物の2相になる本造形体において、Agが添加されると、導電率を低下するAl、Fe、Ni、MnのCuへの固溶を抑制し、Zr化合物に濃縮させることとなる。こうした効果は、0.05質量%以上の添加から有意に得られる。もっとも、このとき、Al、Fe、Ni、MnがZr化合物に濃縮される量には上限があるため、これらの不純物自体を低減することなしにAgを添加しても、その効果は十分に得られることはなく、同様の効果は得られない。Agの添加量が3.00%を超えると、AgのCuへの固溶によって導電性が低下することとなり、Agを添加する効果が減殺されてしまう。この観点からは、Agは2.00%以下がより好ましい。そこで、Cu基合金中にAgを添加する場合は0.05~3.00%とする。好ましくはAgは0.05~00%である。
【0034】
[Al、Fe、Ni、Mn:合計で0.05%以下]
Cu基合金粉末における不可避不純物のうち、Al、Fe、Ni、MnはCuに固溶し、Cu基合金の電気伝導及び熱伝導を阻害する。そこでAl、Fe、Ni、Mnの合計量を低減することは、導電性の向上に有用である。この観点から、Al、Fe、Ni、Mnの合計の含有率は0.05%以下とする。なお、Al、Fe、Ni、Mnは、出発材料に含まれる不純物として混入するほか、粉末の製造の際にも、粉末製造設備および原料の溶融に用いられるるつぼから混入する。そこで、出発材料の高純度化に加えて、るつぼの材質の選択を適切にしたり、出湯温度を低下させることによって、粉末製造におけるこれら不純物元素の混入を低減することができる。
【0035】
[粉末の製造方法]
粉末の製造方法として、水アトマイズ法、単ロール急冷法、双ロール急冷法、ガスアトマイズ法、ディスクアトマイズ法及び遠心アトマイズ法が例示される。好ましい製造方法は、ガスアトマイズ法及びディスクアトマイズ法である。そこで、以下ではガスアトマイズ法を例にCu基合金粉末を得る方法を例に説明する。
【0036】
以下、実施例によって本発明の効果が明らかにするが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるべきではないことを付言する。
【0037】
[粉末の製造]
Cu基合金粉末は、ガスアトマイズ法にて作製した。真空中にて、所定の坩堝で、所定の組成を有する原料を高周波誘導加熱で加熱し、溶解した。次に坩堝下にある直径が5mmのノズルから、所定の出湯温度で溶湯を落下させた。この溶湯に、アルゴンガス又は窒素ガスを噴霧し、Cu基合金粉末を得た。各粉末の製造に使用した坩堝、出湯温度、得られたCu基合金粉末の成分組成を下記の表1に示す。表中の成分組成はいずれも質量%である。Cu基合金粉末中のZr、Agの成分は、添加元素であり、出発原料の成分組成とほぼ一致している。また出発原料のCuとして、No.1~No.15では不純物の極めて少ない高純度のCu、No.16~No.20では一般純度のCuを使用した。
【0038】
【0039】
[成形]
このCu基合金粉末を原料として、3次元積層造形装置(EOS社製EOS-M290)による積層造形法を実施し、造形体を得た。
【0040】
[電気伝導度の測定]
積層造形法で造形体の試験片(3×2×60mm)を作製し、日本産業規格(JIS)C2525に準拠した4端子法で、電気抵抗値(Ω)を測定した。測定には、アルバック理工社製の「TER-2000RH型」を用いた。測定条件は、以下の通りである。
温度:25℃
電流:4A
電圧測定端子間距離:40mm
下記数式に基づき、電気抵抗率ρ(Ωm)を算出した。
ρ=R/L×S
この数式において、Rは試験片の電気抵抗値(Ω)であり、Lは電圧測定端子間距離(m)であり、Sは試験片の料断面積(m2)である。電気伝導度(S/m)は、電気抵抗率ρの逆数から算出した。また、5.9×107(S/m)を100%IACSとして、各試験片の電気伝導度(%IACS)を算出した。測定の結果を、表1に示す。
【0041】
[No.1~No.5:CuーZr粉末]
本発明例No.1~No.3は、不純物であるAl、Fe、Ni、Mnを主原料に含まない坩堝(黒鉛、ジルコニア、マグネシア)をそれぞれ使用したCuーZr粉末である。好適な坩堝により、不純物の混入が抑制され、造形物の導電性が82%IACS以上の値を示した。
比較例No.4はアルミナの坩堝を使用し、かつ出湯温度を本発明例No.1~No.3と同じ温度である1400℃としたCuーZr粉末である。得られた粉末では不純物の含有量が増大し、導電性が悪化した。
本発明例No.5は、アルミナの坩堝を使用し、かつ出湯温度を1400℃から1350℃に低下させて得たCuーZr粉末である。出湯温度の低下により、不純物の混入は抑制され、造形物の導電性が83%IACS以上の値を示した。
【0042】
[No.6~No.10:Cu‐Zr‐Ag粉末]
本発明例No.6~No.8は、不純物であるAl、Fe、Ni、Mnを主原料に含まない坩堝(黒鉛、ジルコニア、マグネシア)をそれぞれ使用したCu‐Zr‐Ag粉末である。好適な坩堝により、不純物の混入が抑制され、さらにAgの添加によって、不純物のCuへの固溶が抑えられたことで、造形物の導電性が87%IACS以上の値を示した。
比較例No.9はアルミナの坩堝を使用し、かつ出湯温度を本発明例No.6~No.8と同じ温度である1420℃としたCu‐Zr‐Ag粉末である。得られた粉末では不純物の含有量が増大し、Ag添加による不純物のCuへの固溶抑制効果が十分に得られず、導電性が悪化した。
本発明例No.10は、アルミナの坩堝を使用し、かつ出湯温度を1420℃から1320℃に低下させて得たCu‐Zr‐Ag粉末である。出湯温度の低下により、不純物の混入は抑制され、さらにAgの添加によって、不純物のCuへの固溶が抑えられたことで、造形物の導電性が88%IACS以上の値を示した。
【0043】
[No.11~No.15:CuーZrーAg粉末]
本発明例No.11~No.13は、不純物であるAl、Fe、Ni、Mnを主原料に含まない坩堝(黒鉛、ジルコニア、マグネシア)をそれぞれ使用したCuーZrーAg粉末である。好適な坩堝により、不純物の混入が抑制され、さらにAgの添加によって、不純物のCuへの固溶が抑えられたことで、造形物の導電性が86%IACS以上の値を示した。
比較例No.14はアルミナの坩堝を使用し、かつ出湯温度を本発明例No.11~No.13と同じ温度である1450℃としたCuーZrーAg粉末である。得られた粉末では不純物の含有量が増大し、Ag添加による不純物のCuへの固溶抑制効果が十分に得られず、導電性が悪化した。
本発明例No.15は、アルミナの坩堝を使用し、かつ出湯温度を1450℃から1350℃に低下させて得たCuーZrーAg粉末である。出湯温度の低下により、不純物の混入は抑制され、さらにAgの添加によって、不純物のCuへの固溶が抑えられたことで、造形物の導電性が88%IACS以上の値を示した。
【0044】
[No.16~No.20:一般純度のCuを使用]
比較例No.16~No.20は、一般純度のCuを出発材料として、不純物であるAl、Fe、Ni、Mnを主原料に含まない坩堝(ジルコニア)を使用したCuーZrーAg粉末である。坩堝からの不純物の混入は抑止されているが、Cu内の不純物の影響によって、得られたCu基合金粉末は、発明例に比して不純物の含有量が増大してしまったことから、Ag添加による不純物のCuへの固溶抑制効果が十分に得られず、導電性が悪化した。
【0045】
(反射率について)
銅合金粉末の反射率について、Ybファイバーレーザーの波長1064nmに対する反射率を確認した。波長1064nmのYbファイバーレーザーに対する純Cu粉末の反射率は76%である。これに対して、実施例、比較例のいずれも、Zrが0.5~0.6%の粉末ではレーザー光を約65%反射とやや改善した。Zrが1.9~2.1%の粉末では約45%の反射率となり、効率的な入熱がしやすくなっている。
【0046】
(相対密度について)
純Cu粉末による造形体の相対密度は88%であった。これに対して、本発明のZrが0.5~0.6%含有されたCu基合金粉末による造形体は、相対密度が97~99%であった。また、本発明のZrが1.9~2.1%のCu基合金粉末による造形体では相対密度は99%以上となった。
【0047】
(導電性について)
表1に示されるように、本発明例のCu基合金粉末は、出発材料および粉末製造過程での不純物の混入を制御しているので、Zrを含有する本発明のCu基合金粉末から得られた造形体は導電性に優れたものとなった。また、本発明のCu基合金粉末は、Zrに加えてさらにAgが添加されている場合には、不純物によってその効果が減殺されることがなく、Zrのみの場合よりもさらに優れた導電性が得られることが確認された。一般的なアルミナの坩堝ではなく、高価なジルコニアなどの坩堝を用いることで不純物の混入を低減しうること、また坩堝からの出湯温度を下げることで不純物の溶融を低減することによっても、導電性の低下が抑制できるCu基合金粉末が得られることが確認された。
他方で、比較例は、出発材料もしくは粉末製造過程において不純物が制御されておらず、出発材料のみならず坩堝などからも製造段階で不純物が混入している。そこで、Cu基合金粉末中のCuに不純物成分が固溶してしまい、導電性に劣ることとなっている。高純度のCuを用いている場合も、坩堝の影響によって、不純物が混入し、所望の導電性が得られていない。また、比較例では、Cuに過剰に不純物が混入してしまっている場合には、Agの添加の効果が減殺され、十分な効果が得られていないものとなった。
【0048】
以上のように、本発明の特定の不純物を制御したZr含有のCu基合金粉末を積層造形などの急速溶融急速凝固のプロセスに適用すると、得られた造形体は、優れた特性を示すことが確認された。さらに、特定の不純物を制御したZr及びAgを含有するCu基合金粉末を積層造形などの急速溶融急速凝固のプロセスに適用すると、得られた造形体はより優れた特性示すことが確認された。