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特開2024-134907可食性フィルム、可食性フィルムで包装された食品および可食性フィルムの物性向上剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024134907
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】可食性フィルム、可食性フィルムで包装された食品および可食性フィルムの物性向上剤
(51)【国際特許分類】
   A23L 5/00 20160101AFI20240927BHJP
【FI】
A23L5/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023045348
(22)【出願日】2023-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】302042678
【氏名又は名称】株式会社J-オイルミルズ
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100128761
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 恭子
(72)【発明者】
【氏名】橋本 和紀
【テーマコード(参考)】
4B035
【Fターム(参考)】
4B035LC03
4B035LC05
4B035LC16
4B035LE06
4B035LG17
4B035LG21
4B035LK04
4B035LK08
4B035LP21
4B035LP24
(57)【要約】      (修正有)
【課題】食品包装資材、食品シート、可食印刷シート、担体および容器等の様々な用途に利用可能な可食性フィルムを提供する。また、可食性フィルムで包装された食品、および可食性フィルムの物性向上剤を提供する。
【解決手段】エンドウ澱粉を含む澱粉および可塑剤を含有する、可食性フィルム。前記澱粉に占めるエンドウ澱粉の含有量が10質量%以上であることが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンドウ澱粉を含む澱粉および可塑剤を含有する、可食性フィルム。
【請求項2】
前記澱粉に占めるエンドウ澱粉の含有量が10質量%以上である、請求項1に記載の可食性フィルム。
【請求項3】
前記澱粉が、コーンスターチ、タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉、ハイアミロースコーンスターチおよびこれらの加工澱粉、ならびに加工エンドウ澱粉からなる群より選ばれる1種または2種以上をさらに含む、請求項1に記載の可食性フィルム。
【請求項4】
前記澱粉がコーンスターチを含む、請求項3に記載の可食性フィルム。
【請求項5】
前記澱粉に占めるエンドウ澱粉の含有量が20質量%以上100質量%以下である、請求項1に記載の可食性フィルム。
【請求項6】
前記澱粉に占めるエンドウ澱粉の含有量が10質量%以上90質量%以下であり、コーンスターチの含有量が10質量%以上90質量%以下である、請求項1に記載の可食性フィルム。
【請求項7】
前記可塑剤が、グリセリン、糖アルコール、単糖類、二糖類およびオリゴ糖類からなる群から選ばれる1種または2種以上である、請求項1に記載の可食性フィルム。
【請求項8】
前記可食性フィルムに占める澱粉の含有量が50質量%以上80質量%以下であり、前記可塑剤の含有量が20質量%以上50質量%以下である、請求項1に記載の可食性フィルム。
【請求項9】
前記可食性フィルムが耐熱性を有する、請求項1に記載の可食性フィルム。
【請求項10】
前記可食性フィルムが耐水性を有する、請求項1に記載の可食性フィルム。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか一項に記載の可食性フィルムを含む、食品包装資材、食品シート、可食印刷シート、担体および容器からなる群より選ばれる物品。
【請求項12】
請求項1から10のいずれか一項に記載の可食性フィルムで包装された食品。
【請求項13】
加熱調理食品である、請求項12に記載の食品。
【請求項14】
エンドウ澱粉を有効成分として含む、強度、耐熱性および耐水性からなる群より選ばれる1または2以上の物性を向上させる、可食性フィルムの物性向上剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可食性フィルム、可食性フィルムで包装された食品および可食性フィルムの物性向上剤等に関する。
【背景技術】
【0002】
可食性フィルムは、澱粉、プルラン、寒天およびゼラチン等の被膜性食品素材をベースとした、口腔内で溶解し食することができるフィルムであり、従来、食品や医薬品等の包装材や担体として利用されてきた。
近年、地球環境への配慮からプラスチックごみの削減が求められており、可食性フィルムは、脱プラスチック素材として注目され、様々な用途への利用が検討されている。
特許文献1には、ヒドロキシプロピル化ハイアミローストウモロコシ澱粉およびヒドロキシプロピル化タピオカ澱粉酸化物等を含む加工澱粉混合物と、ゲル化剤および可塑剤とを配合した可食性フィルムが記載されている。
特許文献2には、水溶性高分子から形成されるフィルムにγ-ポリグルタミン酸ナトリウムを配合した可溶性フィルムが記載されている。
特許文献3には、アルギン酸塩、タピオカ澱粉およびグアーガム等を含む食品コーティング用組成物が記載されており、ソーセージ等の肉製品のケーシング材として使用できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005-306960号公報
【特許文献2】特開2007-91696号公報
【特許文献3】特表2017-526349号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
食品包装資材、担体および容器等の様々な用途に利用可能な可食性フィルムを提供できることが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以下に示す可食性フィルム、前記可食性フィルムで包装された食品、および可食性フィルムの物性向上剤等を提供する。
[1]エンドウ澱粉を含む澱粉および可塑剤を含有する、可食性フィルム。
[2]前記澱粉に占めるエンドウ澱粉の含有量が10質量%以上である、前記[1]に記載の可食性フィルム。
[3]前記澱粉が、コーンスターチ、タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉、ハイアミロースコーンスターチおよびこれらの加工澱粉、ならびに加工エンドウ澱粉からなる群より選ばれる1種または2種以上をさらに含む、前記[1]に記載の可食性フィルム。
[4]前記澱粉がコーンスターチを含む、前記[3]に記載の可食性フィルム。
[5]前記澱粉に占めるエンドウ澱粉の含有量が20量%以上100質量%以下である、前記[1]に記載の可食性フィルム。
[6]前記澱粉に占めるエンドウ澱粉の含有量が10質量%以上90質量%以下であり、コーンスターチの含有量が10質量%以上90質量%以下である、前記[1]に記載の可食性フィルム。
[7]前記可塑剤が、グリセリン、糖アルコール、単糖類、二糖類およびオリゴ糖類からなる群から選ばれる1種または2種以上である、前記[1]に記載の可食性フィルム。
[8]前記可食性フィルムに占める澱粉の含有量が50質量%以上80質量%以下であり、前記可塑剤の含有量が20質量%以上50質量%以下である、前記[1]に記載の可食性フィルム。
[9]前記可食性フィルムが耐熱性を有する、前記[1]に記載の可食性フィルム。
[10]前記可食性フィルムが耐水性を有する、前記[1]に記載の可食性フィルム。
[11]前記[1]から[10]のいずれか一項に記載の可食性フィルムを含む、食品包装資材、食品シート、可食印刷シート、担体および容器からなる群より選ばれる物品。
[12]前記[1]から[10]のいずれか一項に記載の可食性フィルムで包装された食品。
[13]加熱調理食品である、前記[12]に記載の食品。
[14]エンドウ澱粉を有効成分として含む、強度、耐熱性および耐水性からなる群より選ばれる1または2以上の物性を向上させる、可食性フィルムの物性向上剤。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、新規な可食性フィルムを提供することができる。本発明の可食性フィルムは、強度、耐熱性および耐水性からよりなる群より選ばれる1または2以上の物性に優れており、食品包装資材、担体および容器等の様々な用途に利用可能である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明の実施形態について具体的に説明する。
【0008】
本発明の可食性フィルムは、エンドウ澱粉を含む澱粉および可塑剤を含有することを特徴とする。
【0009】
本発明に用いる「エンドウ澱粉」は、エンドウの子実に含まれる生澱粉を意味し、エンドウ澱粉を化学的、物理的または酵素的に加工処理した加工エンドウ澱粉とは区別される。
エンドウ(Pisum sativum L.)は、マメ科エンドウ属の植物であり、例えば、青エンドウ、赤エンドウ、シロエンドウ等が知られている。本実施形態に用いるエンドウ澱粉の原料となるエンドウの種類はいずれであってもよく、特に限定されない。
【0010】
エンドウ澱粉は、エンドウを原料として用い、常法に従って製造したものであればよく、その製造方法等は特に限定されない。一般的には、原料となるエンドウの子実を脱皮、製粉、浸漬した後、水を用いた洗浄と遠心分離などすることにより、タンパク質、塩類、水溶性多糖類、食物繊維等を除去することでエンドウ澱粉が得られる。本実施形態に用いるエンドウ澱粉としては、取り扱いが容易であることから、所定の水分含有量(約16質量%以下)になるまで乾燥させて粉末状にしたものが好ましい。
【0011】
好ましい実施形態によれば、本発明の可食性フィルムは、澱粉素材としてエンドウ澱粉を含有することにより、強度、耐熱性および耐水性からなる群より選ばれる1または2以上の機能物性をフィルムに付与することができる。また、さらに好ましい実施形態によれば、エンドウ澱粉を含有することにより、透明性が高いフィルムを形成することが出来、水等へ長時間浸けた際にもフィルムが透明性を維持する為、可食性フィルムの用途が限定されないといった利点がある。また、エンドウ澱粉を含有することにより、豆類特有の臭いが殆どないフィルムを形成することが出来、食品の色および風味を損なわないといった利点がある。
【0012】
本発明の可食性フィルムに用いるエンドウ澱粉以外の澱粉としては、可食性フィルムの機能物性を著しく損なわないものであれば特に限定されないが、被膜性を有するものが好ましい。例えば、コーンスターチ、タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉、ヒヨコマメ澱粉およびハイアミロースコーンスターチなどの未加工澱粉、およびこれらの加工澱粉、ならびに加工エンドウ澱粉からなる群より選ばれる1種または2種以上が好ましく挙げられる。中でも、フィルムの伸展性を付与できることから、コーンスターチ、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉およびこれらの加工澱粉、加工エンドウ澱粉が好ましく、コーンスターチおよび加工エンドウ澱粉が特に好ましい。
【0013】
加工澱粉としては、前記未加工澱粉に、化学的、物理的または酵素的に加工処理した加工澱粉が挙げられる。化学的処理としては、例えば、酸処理、アルカリ処理、酸化処理、エステル化処理(例えばアセチル化等)、エーテル化処理(例えばヒドロキシプロピル化等)、架橋処理等が挙げられる。また、物理的処理としては、例えば、油脂加工処理、加熱処理、α化処理、湿熱処理、ボールミル処理、微粉砕処理等が挙げられる。このような処理は、1種の処理が単独で施されていてもよく、また2種以上の処理が組み合わされて施されていてもよい。これらの中でも、加工澱粉としては、酸処理澱粉、リン酸架橋澱粉、酸化澱粉、エーテル化澱粉、エーテル化リン酸架橋澱粉、アセチル化リン酸架橋澱粉およびアセチル化アジピン酸架橋澱粉が好ましく、中でも、酸処理澱粉、リン酸架橋澱粉がより好ましい。
【0014】
本発明の可食性フィルムに占める澱粉の含有量は、25質量%以上が好ましく、より好ましくは30質量%以上、さらに好ましくは40質量%以上、特に好ましくは45質量%以上である。
【0015】
本発明の可食性フィルムに用いられる澱粉に占めるエンドウ澱粉の含有量は10質量%以上が好ましく、より好ましくは20質量%以上、さらに好ましくは30質量%以上、特に好ましくは40質量%以上である。また、例えば50質量%以上、60質量%以上、または70質量%以上であってもよい。前記澱粉に占めるエンドウ澱粉の含有量は100質量%であってもよく、95質量%以下、90質量%以下、または85質量%以下であってもよい。
【0016】
本発明の一実施形態では、前記澱粉に占めるエンドウ澱粉の含有量が10質量%以上90質量%以下であり、コーンスターチの含有量が10質量%以上90質量%以下であることが好ましい。
耐水性付与の場合、前記澱粉に占めるエンドウ澱粉の含有量は10質量%以上であり、コーンスターチの含有量は90質量%以下であることが好ましい。また、エンドウ澱粉の含有量が20質量%以上であり、コーンスターチの含有量は80質量%以下であることが好ましく、エンドウ澱粉の含有量が50質量%以上であり、コーンスターチの含有量は50質量%以下であることがさらに好ましい。
また、耐熱性付与の場合、前記澱粉に占めるエンドウ澱粉の含有量は15質量%以上90質量%以下であり、コーンスターチの含有量は10質量%以上80質量%以下であることが好ましい。また、エンドウ澱粉の含有量が20質量%以上であり、コーンスターチの含有量は80質量%以下であることが好ましく、エンドウ澱粉の含有量が50質量%以上であり、コーンスターチの含有量は50質量%以下であることがさらに好ましい。
【0017】
本発明の可食性フィルムは可塑剤を含有する。フィルム原料として、澱粉に加えて可塑剤を含有することにより、フィルムに伸展性を付与することができる。
可塑剤としては、食用に供されるものであれば特に限定されないが、グリセリン、糖アルコール、単糖類、二糖類およびオリゴ糖類からなる群から選ばれる1種または2種以上が好ましく挙げられる。
糖アルコールの例としては、ソルビトール、キシリトール、マルチトール、エリスリトール、マンニトール、パラチニット、ラクチトール、直鎖オリゴ糖アルコール、分岐オリゴ糖アルコール、高糖化還元水飴、還元麦芽糖水飴、還元水飴等を挙げることができる
単糖類の例としては、ブドウ糖(グルコース)、果糖(フルクトース)、ガラクトース等が挙げられる。
二糖類の例としては、ショ糖、麦芽糖(マルトース)、乳糖等が挙げられる。
オリゴ糖類の例としては、水飴、液状デキストリン、マルトオリゴ糖、イソマルトオリゴ糖、フラクトオリゴ糖、キシロオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、イヌロオリゴ糖、ラフィノース、メレジトース、アカルボース、スタキオース等が挙げられる。
糖アルコール、単糖類、二糖類、およびオリゴ糖類の1種以上を固形分の主成分として含む液糖、はちみつおよび糖アルコール製剤等の食品素材、乳酸ナトリウム、トリアセチン等も可塑剤として用いることができる。
【0018】
本発明の可食性フィルムに占める可塑剤の含有量は15質量%以上であることが好ましく、より好ましくは20質量%以上、さらに好ましくは30質量%以上であり、また、75質量%以下であることが好ましく、より好ましくは70質量%以下、さらに好ましくは60質量%以下である。可塑剤の含有量は、使用する澱粉および可塑剤の種類に応じて適宜決定すればよい。
【0019】
本発明の可食性フィルムは、澱粉および可塑剤の他、必要に応じて、可食性フィルムの機能物性を著しく損なわない範囲で、前記澱粉および可塑剤以外の他の成分を含有していてもよい。
他の成分としては、例えば、寒天、プルラン、グアーガム、ローカストビーンガム、タラガム、カシアガム、タマリンドガムおよびアラビアガム等の被膜性食品素材、乳化剤、油脂成分、酸化防止剤、シリコーン、着色剤、pH調整剤、調味料、抗菌成分等が挙げられる。
乳化剤としては、例えば、グリセリン脂肪酸エステル、シュガーエステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、レシチン等が挙げられる。
油脂成分としては、例えば、菜種油、コーン油、大豆油、パームオレイン、ゴマ油、落花生油、紅花油、ひまわり油、綿実油、ゴマ油、ぶどう種子油、マカデミアナッツ油、ヘーゼルナッツ油、胡桃油、カボチャ種子油、椿油、茶実油、オリーブ油、米ぬか油、小麦胚芽油、パーム油、パーム核油、ヤシ油、カカオ脂、あまに油、えごま油、しそ油等の植物性油脂;牛脂、豚脂、鶏油、乳脂、魚油等の動物性油脂;中鎖脂肪酸トリグリセリド等の合成油脂等が挙げられる。また、これらに分別、水素添加、エステル交換等を施した加工油脂を用いてもよい。
他の成分は、1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0020】
本発明の可食性フィルムは、例えば、次のようにして製造することができる。
まず、澱粉、可塑剤および任意成分を含む原料組成物に水を添加し、必要に応じて加熱撹拌しながら糊液を調製する。添加順序は特に限定されない。例えば、可塑剤を、あらかじめ水に溶解させ水溶液にして、他の原料と混合してもよい。
【0021】
水の添加量は、均質な糊液を調製できる量であればよく、特に限定されないが、作業性の観点から、澱粉に対する質量比で1倍以上50倍以下であることが好ましく、より好ましくは1倍以上35倍以下、さらに好ましくは1倍以上20倍以下、特に好ましくは2倍以上10倍以下である。ここで、均質な糊液とは、澱粉粒子が残らず、またダマを形成することなく液中に分散している状態をいう。均質な糊液を調製できたことは、例えば、粘度測定の際に最高粘度が発現していることや粘度測定のグラフが小刻みに上下に大きく変動していないなどによって確認することができる。
【0022】
加熱温度は、均質な糊液の調製を促し、可食性フィルムの機能物性を著しく損なわない範囲であればよく、特に限定されないが、作業効率の観点から、60℃以上150℃以下が好ましく、より好ましくは70℃以上150℃以下、さらに好ましくは80℃以上150℃以下、特に好ましくは85℃以上150℃以下である。ただし、澱粉素材として、ハイアミロースコーンスターチなどのアミロース含量が極端に高い澱粉を用いる場合、均質な糊液の調製には、100℃以上の加熱または希薄状態での加熱が必要になる。当業者は、澱粉素材に応じて適宜加熱温度を調整するなどして均質な糊液を調製することができる。
処理時間は、作業効率、澱粉の損傷の観点から、高い温度での処理であれば1秒以上300秒以下が好ましく、低い温度での処理であれば60秒以上3600秒以下が好ましい。
装置を使用して糊液を調製してもよい。例えば、回転式糊化特性測定装置(RVA)、反応釜、混錬機、エクストルーダー等の装置を使用することができる。
【0023】
糊液の最高粘度は、高過ぎると撹拌能力が低下し、均一な糊液の作製が困難である。また、均一な糊液を作製後、支持体上または型内に流延する際に、適切な温度に冷却した場合に糊液の粘度が高過ぎると、一般的なフィルムを製造する際に使用されるコーターで薄膜に伸ばすことが難しく、粘度が低過ぎても表面張力などの影響で薄膜にする事は困難である。このため、冷却時(例えば、約80℃)の糊液の粘度は、使用する機械や方式によっても異なるが、1cp以上50000cp以下程度が好ましく、多くの場合には5000cp以下程度が適当であると考えられる。
【0024】
得られた糊液を、支持体上に流延し、所定の水分含有量になるまで乾燥させて、本発明の可食性フィルムを製造することができる。乾燥機を用いて糊液を乾燥させてもよい。例えば40℃以上200℃以下、好ましくは40℃以上190℃以下、より好ましくは40℃以上180℃以下に設定した乾燥機に支持体ごと挿入して糊液を乾燥させて可食性フィルムを製造することができる。また、ドラムドライなどの加熱面にコーター等で均一に塗布し、高温で乾燥させることもできる。
【0025】
可食性フィルムに占める水分含有量は、可食性フィルムの用途等によって異なり、特に限定されないが、水分活性の点から、通常20質量%以下が好ましく、より好ましくは15質量%以下、さらに好ましくは12.5質量%以下、特に好ましくは10質量%以下である。
【0026】
支持体の素材は、特に限定されないが、金属、プラスチック、フッ素樹脂、シリコーンゴム等が挙げられる。可食性フィルムの離型性の観点から、フッ素樹脂、シリコーンゴムまたはこれらの表面加工処理が施された素材を用いることが好ましい。また、支持体上に型を配置してもよい。型の中に糊液を流し入れ、乾燥させることで、所定の厚みまたは形状を有する可食性フィルムを製造することができる。
【0027】
処理時間は、作業効率、澱粉の低分子化抑制の観点から、6時間以下が好ましく、より好ましくは3時間以下、さらに好ましくは1時間以下である。
【0028】
可食性フィルムの厚さは、用途等に応じて適宜決定すればよい。
例えば、食品包装資材として用いる場合は、1μm以上1000μm以下が好ましく、より好ましくは5μm以上500μm以下、さらに好ましくは5μm以上300μm以下である。また、食品担体として用いる場合は、1μm以上1000μm以下が好ましく、より好ましくは5μm以上500μm以下、さらに好ましくは5μm以上300μm以下である。また、食品容器として用いる場合は、1μm以上1000μm以下が好ましく、より好ましくは5μm以上500μm以下、さらに好ましくは5μm以上300μm以下である。食品シートまたは可食印刷シートとして用いる場合は、1μm以上1000μm以下が好ましく、より好ましくは5μm以上500μm以下、さらに好ましくは5μm以上300μm以下である。当業者は、用途等に応じて可食性フィルムの厚さを適宜調整することができる。
【0029】
本発明の可食性フィルムは、食品包装資材、食品シート、可食印刷シート、担体、容器等の様々な用途に利用可能である。したがって、本発明は、一実施態様として、上記可食性フィルムを含む、食品包装資材、食品シート、可食印刷シート、担体および容器からなる群より選ばれる物品を包含する。
食品包装資材としては、菓子および医薬品等の包装フィルム、袋材、畜肉および水産加工品(例えばソーセージ、かまぼこ等)のケーシング材等が挙げられる。
食品シートとしては、仕切り材(例えばバラン等)、クッキングシート(例えば肉まんの敷紙等)、抗菌シート等が挙げられる。
可食印刷シートとしては、食品装飾用シート、等が挙げられる。
担体としては、口中清涼フィルム、経口フィルム製剤等が挙げられる。
容器としては、弁当や折詰等に用いられる小分けカップ等が挙げられる。
【0030】
好ましい実施形態によれば、本発明の可食性フィルムは、澱粉素材としてエンドウ澱粉を含有することにより、強度、耐熱性および耐水性からなる群より選ばれる1または2以上の機能物性をフィルムに付与することができる。
例えば、本発明の可食性フィルムは、強度が高く、破れにくいため、フィルムの強度が要求される用途に好適に用いることができる。
また、本発明の可食性フィルムは、乾熱調理、マイクロ波加熱調理または過熱水蒸気調理等の加熱調理に供しても、フィルムが溶解しにくい。このため、本発明の可食性フィルムは、加熱調理食品に好適に用いることができる。例えば、ソーセージ等の畜肉加工品、かまぼこ等の水産加工品のケーシング材等の食品包装資材、肉まんの敷紙等のクッキングシート、その他の加熱調理食品に好適に用いることができる。本発明の可食性フィルムは、加熱調理により水分が発生してもフィルムが溶解しにくい。したがって、本発明は、一実施態様として、上記可食性フィルムで包装された食品を包含する。前記食品としては上記可食性フィルムで包装できるものであれば特に限定されないが、加熱調理食品が好ましい。
また、本発明の可食性フィルムは、水に一定時間接触させてもフィルムが溶解しにくいため、水分を含む食品にも好適に用いることができる。例えば、弁当や折詰等に用いられる仕切り材や小分けカップ、水分を含む食品に貼付される可食印刷シート等に好適に用いることができる。
また、好ましい実施形態によれば、本発明の可食性フィルムは、エンドウ澱粉を用いることにより、食品の色および風味を損なわないため、用途が限定されず、様々な用途に用いることができる。また、本発明の可食性フィルムは、水分によりべたつきにくく、取り扱いも容易である。
【0031】
本発明は、他の実施態様として、エンドウ澱粉を有効成分として含む、強度、耐熱性および耐水性からなる群より選ばれる1または2以上の物性を向上させる可食性フィルムの物性向上剤を提供する。エンドウ澱粉を有効成分として用いることにより、可食性フィルムの強度、耐熱性および耐水性からなる群より選ばれる1または2以上を向上させることができる。
本発明の物性向上剤の使用量は、可食性フィルムに用いられる澱粉に占めるエンドウ澱粉の含有量が10質量%以上となる量であることが好ましく、より好ましくは20質量%以上、さらに好ましくは30質量%以上、特に好ましくは40質量%以上である。また、例えば50質量%以上、60質量%以上、または70質量%以上であってもよい。前記澱粉に占めるエンドウ澱粉の含有量は100質量%であってもよく、95質量%以下、90質量%以下、または85質量%以下であってもよい。
【実施例0032】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら制限されない。なお、特に言及しない限り「%」は質量基準である。
【0033】
[1]可食性フィルムの製造
表1AまたはBに記載の処方で糊液を調製し、乾燥させて可食性フィルムを製造した。
【表1】
【0034】
まず、New Port Scientific社製「RVA」(Rapid Visco Analyzer)を用い、以下の手順で糊液を調製し、粘度(RVU)を測定した。なお、「RVA」は、プログラムされた温度と攪拌子の回転数における粘度を連続して測定できる装置である。粘度はRVA unit(「RVU」と表記する)という単位で示され、SI単位系の粘度の単位であるパスカル・秒(Pa.s)の値を0.012で除した値とほぼ等しいとされる。
【0035】
1.専用のアルミニウム容器に澱粉と水、可塑剤とを混合し、生成物の乾物換算質量濃度が所定の濃度になる様にスラリーを調製した。上記アルミニウム容器に専用のパドルを入れ、RVAにセットした。
【0036】
2.表2に示したスケジュールで原料組成物を加熱撹拌し、糊液を調製した。澱粉素材としてハイアミロースコーンスターチを用いた実施例12は、高温スケジュールに従い糊液を調製した。その他の実施例および比較例は、通常スケジュールに従い糊液を調製した。
【表2】
【0037】
通常スケジュールの場合は95℃まで加熱した時(0:01:00~0:10:10)の糊液の最高粘度(CP)、高温スケジュールの場合は120℃まで加熱した時(0:01:00~0:06:50)の糊液の最高粘度(CP)を読み取った。また、それぞれの場合について、80℃まで冷却した時の糊液の粘度(CP)を読み取った。
【0038】
得られた糊液をシリコーン型(2cm×5cm×0.5mm)に流し入れ、乾燥機(東京理化器械株式会社製「WPO-400」)を用い、50℃で、120分間乾燥させ、可食性フィルム(2cm×5cm×100~300μm)を得た。得られた可食性フィルムに占める水分含量は10質量%以下であった。
【0039】
原料澱粉は以下のものを使用した。
・エンドウ澱粉:Puris社製
・コーンスターチ:J-オイルミルズ社製「コーンスターチ」
・酸処理エンドウ澱粉:J-オイルミルズ社製(平均分子量:約32万)
・リン酸架橋タピオカ澱粉:J-オイルミルズ社製「TP-4W」
・エーテル化エンドウ澱粉:J-オイルミルズ社製
・ハイアミロースコーンスターチ:J-オイルミルズ社製「HS-7」
・エーテル化リン酸架橋エンドウ澱粉:J-オイルミルズ社製
・酸化タピオカ澱粉:J-オイルミルズ社製「SP-2」
・馬鈴薯澱粉:J-オイルミルズ社製「BP-200」
【0040】
〔酸処理エンドウ澱粉の調製〕
40質量%のエンドウ澱粉の水分散液320質量部に6質量%塩酸を80質量部添加し、40℃で2時間攪拌することで酸処理を行った。酸処理後、pHが5になるように消石灰を用いて中和した後、洗浄、乾燥をおこない、酸処理エンドウ澱粉を得た。
<平均分子量の測定方法>
平均分子量の測定は、東ソー社製HPLCユニットを使用しておこなった(ポンプDP-8020、RI検出器RS-8021、脱気装置SD-8022)。
(1)試料を粉砕し、JIS-Z8801-1規格における目開き0.15mm以下に調製した。この試料を移動相に1mg/mLとなるように懸濁し、懸濁液を100℃3分間加熱して完全に溶解した。0.45μmろ過フィルター(ADVANTEC社製、DISMIC-25HP PTFE 0.45μm)を用いてろ過を行い、ろ液を分析試料とした。
(2)以下の分析条件で分子量を測定した。
・カラム:TSKgel α-M(7.8mm内径、30cm)(東ソー社製)2本
・流速:0.5mL/min
・移動相:5mM NaNO3含有90%(v/v)ジメチルスルホキシド溶液
・カラム温度:40℃
・分析量:0.2mL
(3)検出器データを、ソフトウェア(マルチステーションGPC-8020modelIIデータ収集ver5.70)東ソー社製にて収集し、平均分子量を計算した。
検量線には、分子量既知のプルラン(昭和電工社製、Shodex Standard P-82)を使用した。
【0041】
〔エーテル化エンドウ澱粉の調製〕
35質量%のエンドウ澱粉の水分散液285質量部に硫酸ナトリウムを25質量部添加し、3%水酸化ナトリウム水溶液でpH11.5に調整し、30℃に調温した。pH11.5を維持しながら、プロピレンオキサイドを13.9質量部添加して、24時間反応を行った。反応終了後、中和して、洗浄、乾燥をおこない、エーテル化エンドウ澱粉を得た。
【0042】
〔エーテル化リン酸架橋エンドウ澱粉の調製〕
32質量%のエンドウ澱粉の水分散液313質量部に硫酸ナトリウムを25質量部添加し、3%水酸化ナトリウム水溶液でpH11.5に調整し、30℃に調温した。pH11.5を維持しながら、プロピレンオキサイドを13.9質量部添加して、24時間反応を行った。エーテル化反応終了後、オキシ塩化リンを0.01質量部添加し、30℃90分間架橋反応を行った。反応終了後。中和して、洗浄、乾燥をおこない、エーテル化リン酸架橋エンドウ澱粉を得た。
【0043】
[2]可食性フィルムの物性評価
前記[1]で得られた可食性フィルムの耐水性、耐熱性および強度を以下の方法で評価した。
【0044】
(1)耐水性
50mLチューブに20mLの水と、可食性フィルム(2cm×5cm×100~300μm)1枚を入れ、振とう培養器(37℃、180rpm)で保存した。保存開始から5分、15分、30分、60分、90分および120分後のフィルムの状態を観察し、以下の評価基準で評価した。結果を表3AおよびBに示す。
<評価基準>
5 シート状を保持した
4 シート断片が3個未満
3 シート断片が3個または4個
2 シート断片が5個以上10個未満
1 シート断片が10個以上20個未満
0 粉々であり、シート断片を確認できない
【0045】
(2)耐熱性
50mLチューブに20mLの水と、可食性フィルム(2cm×5cm×100~300μm)1枚を入れ、振とう培養器(90℃、180rpm)で保存した。保存開始から5分、10分、および15分後のフィルムの状態を観察し、以下の評価基準で評価した。結果を表3AおよびBに示す。
<評価基準>
5 シート状を保持した
4 シート断片が3個未満
3 シート断片が3個または4個
2 シート断片が5個以上10個未満
1 シート断片が10個以上20個未満
0 粉々であり、シート断片を確認できない
【0046】
(3)フィルム強度
テクスチャ―アナライザー(英弘精機株式会社製「TA.XTplus」)の引張試験にて、シートの最大応力を測定した。測定条件は、上下の治具間が20mmからスタートし、0.1mm/秒で引張、最大応力(max force)をフィルム強度とした。最大応力が100g以上であると、可食性フィルムとして十分な強度を有しているといえる。
【0047】
結果を表3AおよびBに示す。表中、各例におけるフィルム製造時の糊液粘度も併記した。なお、表中、「-」は測定しなかったことを意味する。
【表3】
【0048】
[3]可食性フィルムで包装された食品の例
(i)かまぼこ
すり身300gをフードプロセッサーで細かくし、さらに食塩18gを加えてミキシングした。氷(クラッシュ)237gを加え、卵白18g、砂糖12g、だしの素3g、グルタミン酸ナトリウム6g、でん粉15gを加えて、ミキシングした(すり身温を11度以下に保ち、ミキシング合計時間が4分以内になる様に行った。)。調製したすり身を袋に詰めて、脱気し、実施例1の可食性フィルム(8cm×16cm×100~300μm)1枚で包み、直径約2.5cmの円筒状に成形した。これを蒸し、焼き、茹での各加熱条件で加熱調理し、3名の専門パネリストの総評により耐熱性および食感を評価した。結果を表4に示す。
【0049】
【表4】
【0050】
(ii)植物性ソーセージ
プランコネクトP-1(J-オイルミルズ社製)16.2gとキャノーラ油37.8g、ビーツ色素0.6gを加えてケンミキサー(愛工舎製作所製)で攪拌した。冷水125.4gを攪拌しながら加え、2分間攪拌し、エマルションとした。
粒状植物性たん白138gを加水226.8gで水戻し、グラニュー糖9g、ホワイトペッパー1.2g、ナツメグ0.6g、食塩7.2g、ブドウ糖3.6g、グルタミン酸ナトリウム3g、カラメル0.6g、PBファット(J-オイルミルズ社製)30g、エマルション180gを加えてケンミキサーで混ぜ合わせて、中具を作製した。
実施例1の可食性フィルム(8cm×16cm×100~300μm)1枚の両端を水で濡らし直径約2.5cmの円筒状にし、重なった部分を乾燥し、ケーシングを作製した。
作製したケーシングの端を紐で閉め、中具を充填し、端を紐で縛った。
フィルム同士の接続部は水で濡らし乾燥することで容易に結着した。これを加熱調理し、3名の専門パネリストの総評により耐熱性および食感を評価した。結果を表5に示す。
【0051】
【表5】
【0052】
以上に示したとおり、本発明の可食性フィルムは、エンドウ澱粉を有効成分として用いることにより、強度、耐熱性および耐水性からなる群より選ばれる1または2以上の機能物性に優れている。また、フィルムは水で濡らし乾燥する事で、変形や接着が可能であり、フィルムの2次加工適正も高いことが考えられた。多くの化成品のフィルムや容器は、同一原料から異なる作り方から作られている為、可食性容器等の場合においても、直接金型等で可食性容器を作ることも十分に考えられる。本発明の可食性フィルムは、食品包装資材、食品シート、可食印刷シート、担体および容器等の様々な用途へ利用可能である。当業者は、用途に応じて適切な加工方法を選択することができる。