(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024134911
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】窒素製造方法及び窒素製造装置
(51)【国際特許分類】
F25J 3/04 20060101AFI20240927BHJP
【FI】
F25J3/04 103
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023045355
(22)【出願日】2023-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】320011650
【氏名又は名称】大陽日酸株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100128358
【弁理士】
【氏名又は名称】木戸 良彦
(74)【代理人】
【識別番号】100086210
【弁理士】
【氏名又は名称】木戸 一彦
(72)【発明者】
【氏名】入澤 真
【テーマコード(参考)】
4D047
【Fターム(参考)】
4D047AA08
4D047AB02
4D047BA03
4D047BB09
4D047CA03
4D047CA04
4D047CA16
4D047CA17
4D047DA05
(57)【要約】
【課題】原料空気の圧力が比較的高い場合において、より効率的に運転できる窒素製造装置を提供する。
【解決手段】この窒素製造装置は、原料空気を第1窒素ガスと第1酸素富化液化流体とに分離する第1精留塔1と、第1窒素ガスと減圧した第1酸素富化液化流体とを間接熱交換させて第1窒素ガスから第1液化窒素を得ると同時に第1酸素富化液化流体から第1酸素富化気液混相流体を得る第1凝縮器2と、第1酸素富化気液混相流体を断熱膨張させて寒冷を発生させる膨張タービン6と、断熱膨張後の第1酸素富化気液混相流体を第2窒素ガスと第2酸素富化液化流体とに分離する第2精留塔3と、第2窒素ガスと減圧した第2酸素富化液化流体とを間接熱交換させて第2窒素ガスから第2液化窒素を得ると同時に第2酸素富化液化流体から第2酸素富化ガス流体を得る第2凝縮器4と、を備えている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料空気を深冷液化分離して製品窒素を採取する窒素製造方法において、
圧縮、精製、冷却した原料空気を低温蒸留して第1窒素ガスと第1酸素富化液化流体とに分離する第1分離工程と、
前記第1窒素ガスと減圧した前記第1酸素富化液化流体とを間接熱交換させて第1窒素ガスを凝縮液化して第1液化窒素を得ると同時に第1酸素富化液化流体を蒸発ガス化して第1酸素富化気液混相流体を得る第1間接熱交換工程と、
前記第1酸素富化気液混相流体を低温蒸留して第2窒素ガスと第2酸素富化液化流体とに精留分離する第2分離工程と、
前記第2窒素ガスと減圧した前記第2酸素富化液化流体とを間接熱交換させて第2窒素ガスを凝縮液化して第2液化窒素を得ると同時に第2酸素富化液化流体を蒸発ガス化して第2酸素富化ガス流体を得る第2間接熱交換工程と、
前記第1窒素ガスの一部を熱回収後に第1製品窒素ガスとして導出する第1製品回収工程と、を含むことを特徴とする窒素製造方法。
【請求項2】
前記第2液化窒素の一部を加圧して前記第1分離工程に導入する第2液化窒素加圧工程を含むことを特徴とする請求項1記載の窒素製造方法。
【請求項3】
前記第1酸素富化気液混相流体の液の質量分率が10%以上であることを特徴とする請求項2記載の窒素製造方法。
【請求項4】
前記第2窒素ガスの一部を熱回収後に第2製品窒素ガスとして導出する第2製品回収工程を含むことを特徴とする請求項1記載の窒素製造方法。
【請求項5】
前記第1酸素富化気液混相流体の液の質量分率が1%以上であることを特徴とする請求項4記載の窒素製造方法。
【請求項6】
少なくとも前記第1液化窒素の一部又は前記第2液化窒素の一部を、製品液化窒素として導出する製品液化窒素導出工程を含むことを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載の窒素製造方法。
【請求項7】
原料空気を深冷液化分離して製品窒素を採取する窒素製造装置において、
圧縮、精製、冷却された原料空気を低温蒸留して塔上部の第1窒素ガスと塔底部の第1酸素富化液化流体とに分離する第1精留塔と、
前記第1窒素ガスと減圧した前記第1酸素富化液化流体とを間接熱交換させて第1窒素ガスを凝縮液化して第1液化窒素を得ると同時に第1酸素富化液化流体を蒸発ガス化して第1酸素富化気液混相流体を得る第1凝縮器と、
前記第1酸素富化気液混相流体を低温蒸留して塔上部の第2窒素ガスと塔底部の第2酸素富化液化流体とに精留分離する第2精留塔と、
前記第2窒素ガスと減圧した前記第2酸素富化液化流体とを間接熱交換させて第2窒素ガスを凝縮液化して第2液化窒素を得ると同時に第2酸素富化液化流体を蒸発ガス化して第2酸素富化ガス流体を得る第2凝縮器と、
前記第1窒素ガスの一部を熱回収後に第1製品窒素ガスとして導出する第1製品回収経路と、を備えていることを特徴とする窒素製造装置。
【請求項8】
前記第2液化窒素の一部を加圧して前記第1精留塔に導入する液化窒素ポンプを備えていることを特徴とする請求項7記載の窒素製造装置。
【請求項9】
前記第1酸素富化気液混相流体の液の質量分率が10%以上であることを特徴とする請求項8記載の窒素製造装置。
【請求項10】
前記第2窒素ガスの一部を熱回収後に第2製品窒素ガスとして導出する第2製品回収経路を備えていることを特徴とする請求項7記載の窒素製造装置。
【請求項11】
前記第1酸素富化気液混相流体の液の質量分率が1%以上であることを特徴とする請求項10記載の窒素製造装置。
【請求項12】
少なくとも前記第1液化窒素の一部又は前記第2液化窒素の一部を、製品液化窒素として導出する製品液化窒素導出経路を備えていることを特徴とする請求項7~11のいずれか一項に記載の窒素製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒素製造方法及び窒素製造装置に関し、詳しくは、深冷液化分離法により原料空気を分離精製して製品窒素(製品窒素ガス・製品液化窒素)を採取する方法及び装置であって、特に、製品収率の高い方法及び装置において、従来よりも低い空気圧力で運転することが可能な窒素製造方法及び窒素製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、深冷液化分離法により原料空気を分離精製して製品窒素を採取する方法としては、一つの精留塔を用いて原料空気を製品窒素と酸素が濃縮した廃ガスとに分離させる方法が広く用いられている。一方で、製品収率や動力原単位を改善するためにさまざまな窒素製造のプロセス(以降「プロセス」と記載する。)が提案されている(例えば、特許文献1~特許文献5)。特許文献1~特許文献5で提案されているプロセスでは、二つの精留塔を用い、一つの精留塔を用いた窒素製造方法では廃棄されていた第1精留塔の廃ガスを第2精留塔の原料として更に製品窒素を製造することで、製品収率や動力原単位を大幅に改善することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3738213号公報
【特許文献2】特許第4515225号公報
【特許文献3】特許第4841591号公報
【特許文献4】特開平5-71870号公報
【特許文献5】特許第4451438号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1~特許文献4で提案されているプロセスでは、その性質上、装置運転圧力の下限が存在するため、それより低い圧力の製品窒素が必要な場合には製品窒素を減圧せざるを得ず、エネルギーの損失が生じるという問題がある。このことを以下に詳述する。
【0005】
図4は、特許文献1の
図1で開示されている窒素製造装置に相当する系統図である。この窒素製造装置のプロセスでは、主熱交換器7から排出された廃ガス(J)は、原料空気(A)を精製する精製器14の再生に使用され大気へ排出される。よって、その上流の第2酸素富化ガス流体(H)の圧力は、少なくとも大気へ排出されるまでの経路46,32の圧力損失分だけ大気圧より高くなる。
【0006】
減圧弁11bで減圧した第2酸素富化液化流体(N)を蒸発気化させて第2酸素富化ガス流体(H)を得るために、第2凝縮器4で熱交換する第2窒素ガス(E)の凝縮液化温度を減圧後の第2酸素富化液化流体(N)の温度より高くする必要があり、これにより、第2窒素ガス(E)の圧力は、第2酸素富化ガス流体(H)の圧力より高くなる。
【0007】
次に、第2窒素ガス(E)の発生源である第2精留塔3と、その上流の第1酸素富化ガス流体(D)の圧力の下限は、経路の圧力損失分だけ第2窒素ガスの圧力より高くなる。
【0008】
そして、上述と同じ関係が第1酸素富化ガス流体(D)、第1凝縮器2、第1窒素ガス(B)、第1精留塔1、原料空気(A)にも当てはまるため、原料空気(A)の圧力に原理的な下限が存在することとなる。
【0009】
図5は、特許文献2の
図1で開示されている窒素製造装置に相当する系統図である。このプロセスでは、廃ガス(J)と第2酸素富化ガス流体(H)の圧力差を利用して寒冷を発生する膨張タービン6が設けられるため、第2酸素富化ガス流体(H)の圧力は特許文献1で開示されているプロセスより高くなる。膨張タービン6の圧力差が加わるものの、大気へ排出される廃ガス(J)を起点として原料空気(A)の圧力の下限が原理的に決まる関係は、特許文献1で開示されているプロセスと同じである。
【0010】
また、特許文献3の
図2で開示されている窒素製造装置は、膨張タービン(特許文献3の
図2の符号72)の位置が特許文献1で開示されている窒素製造装置と異なるものの、廃ガスを起点として原料空気圧力の下限が決まる関係は、やはり特許文献1で開示されているプロセスと同じである。
【0011】
また、特許文献4で開示されているプロセスは、第二の精留塔から得られる窒素の導出方法が特許文献1~3で開示されているプロセスとは異なる。すなわち、特許文献1~3で開示されているプロセスでは、いずれも第2精留塔から窒素をガスで取り出すのに対し、特許文献4の
図1で開示されている窒素製造装置によるプロセスでは、第2精留塔(特許文献4の
図1の符号200)から窒素を液体(特許文献4の
図1の符号27)で取出し、液化窒素ポンプ(特許文献4の
図1の符号60)を経て第1精留塔(特許文献4の
図1の符号100)に導入する。このような違いはあるものの、特許文献1~3で開示されているプロセスと同じ理由で、原料空気の圧力に下限が存在する。
【0012】
このように特許文献1~4で開示されているプロセスにおいては、それぞれの特徴に応じて値は異なるものの、装置運転圧力の下限が存在するため、必要な製品窒素圧力が下限で製造できる圧力よりも低い場合は減圧せざるを得ず、エネルギーの損失が生じるという課題がある。
【0013】
図6は、特許文献5の
図5で開示されている窒素製造装置に相当する系統図である。このプロセスでは、装置運転圧力の下限を特許文献1で開示されているプロセスより低くすることが可能であるが、その代償として後述するように気液分離器や第3凝縮器等の機器数が特許文献1で開示されている窒素製造装置より増えて装置価格が上昇する。
【0014】
すなわち、特許文献1で開示されているプロセスでは第1凝縮器2において第1酸素富化液化流体(L)の全量を蒸発気化して第1酸素富化ガス流体(D)を得るのに対し、特許文献5のプロセスでいうと、第1酸素富化液化流体(L)は減圧後に第1凝縮器2において一部のみがガス化して第1酸素富化気液混相流体(D)となる。この第1酸素富化液化流体(D)は混合物なので、一定の圧力下では蒸発が進むに従い温度が上昇するため、気液混相状態における温度は完全に蒸発した状態の温度より低い。したがって、第1凝縮器2において蒸発気化する第1酸素富化液化流体(L)の圧力が同じなら、その温度は完全に蒸発するよりも一部蒸発して気液混相状態となる場合の方が低いので、それと熱交換する第1窒素ガス(B)の凝縮液化温度も低くできる。よって、特許文献5で開示されているプロセスによれば、凝縮液化温度が下がる分だけ第1窒素ガス(B)の圧力を低くできる。
【0015】
特許文献5で開示されている窒素製造装置は、このように圧力の下限を特許文献1で開示されている窒素製造装置より低くできる特徴を備えるものの、第1酸素富化気液混相流体(D)を第2原料空気(O)と第2酸素富化液化流体(Q)とに分離する気液分離器9や、第2酸素富化液化流体(Q)を蒸発ガス化する第3凝縮器10が必要となり、装置価格が上昇する。
【0016】
また特許文献1~5のプロセスは、いずれも第2精留塔の原料がガスであり(特許文献1の
図1の経路60、特許文献2の
図1の経路40、特許文献3の
図2の経路40および経路73、特許文献4の
図1の経路20、特許文献5の
図1の経路34)、第2精留塔及び第2凝縮器の熱損失を補うために、第1精留塔から液を供給し寒冷補給する別の経路を備える必要がある(特許文献1の
図1の経路55、特許文献2の
図1の経路47、特許文献3の
図2の経路47、特許文献4の
図1の経路8及び経路21、特許文献5の
図1の経路57)。
【0017】
そこで本発明は、従来と同等以下の消費動力で、従来よりも低い圧力での運転を可能とし、かつ機器の数を増やすことなく、さらに流体の経路の数を削減した窒素製造方法及び窒素製造装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記目的を達成するため、本発明の窒素製造方法は、原料空気を深冷液化分離して製品窒素を採取する窒素製造方法において、圧縮、精製、冷却した原料空気を低温蒸留して第1窒素ガスと第1酸素富化液化流体とに分離する第1分離工程と、前記第1窒素ガスと減圧した前記第1酸素富化液化流体とを間接熱交換させて第1窒素ガスを凝縮液化して第1液化窒素を得ると同時に第1酸素富化液化流体を蒸発ガス化して第1酸素富化気液混相流体を得る第1間接熱交換工程と、前記第1酸素富化気液混相流体を低温蒸留して第2窒素ガスと第2酸素富化液化流体とに精留分離する第2分離工程と、前記第2窒素ガスと減圧した前記第2酸素富化液化流体とを間接熱交換させて第2窒素ガスを凝縮液化して第2液化窒素を得ると同時に第2酸素富化液化流体を蒸発ガス化して第2酸素富化ガス流体を得る第2間接熱交換工程と、前記第1窒素ガスの一部を熱回収後に第1製品窒素ガスとして導出する第1製品回収工程と、を含むことを特徴としている。
【0019】
また、本発明の窒素製造方法は、前記第2液化窒素の一部を加圧して前記第1分離工程に導入する第2液化窒素加圧工程を含むことを特徴とし、前記第1酸素富化気液混相流体の液の質量分率が10%以上であると好ましい。
【0020】
また、本発明の窒素製造方法は、前記第2窒素ガスの一部を熱回収後に第2製品窒素ガスとして導出する第2製品回収工程を含むことを特徴とし、前記第1酸素富化気液混相流体の液の質量分率が1%以上であると好ましい。
【0021】
また、本発明の窒素製造方法は、少なくとも前記第1液化窒素の一部又は前記第2液化窒素の一部を、製品液化窒素として導出する製品液化窒素導出工程を含むことを特徴としている。
【0022】
本発明の窒素製造装置は、原料空気を深冷液化分離して製品窒素を採取する窒素製造装置において、圧縮、精製、冷却された原料空気を低温蒸留して塔上部の第1窒素ガスと塔底部の第1酸素富化液化流体とに分離する第1精留塔と、前記第1窒素ガスと減圧した前記第1酸素富化液化流体とを間接熱交換させて第1窒素ガスを凝縮液化して第1液化窒素を得ると同時に第1酸素富化液化流体を蒸発ガス化して第1酸素富化気液混相流体を得る第1凝縮器と、前記第1酸素富化気液混相流体を低温蒸留して塔上部の第2窒素ガスと塔底部の第2酸素富化液化流体とに精留分離する第2精留塔と、前記第2窒素ガスと減圧した前記第2酸素富化液化流体とを間接熱交換させて第2窒素ガスを凝縮液化して第2液化窒素を得ると同時に第2酸素富化液化流体を蒸発ガス化して第2酸素富化ガス流体を得る第2凝縮器と、前記第1窒素ガスの一部を熱回収後に第1製品窒素ガスとして導出する第1製品回収経路と、を備えていることを特徴としている。
【0023】
また、本発明の窒素製造装置は、前記第2液化窒素の一部を加圧して前記第1精留塔に導入する液化窒素ポンプを備えていることを特徴とし、前記第1酸素富化気液混相流体の液の質量分率が10%以上であると好ましい。
【0024】
また、本発明の窒素製造装置は、前記第2窒素ガスの一部を熱回収後に第2製品窒素ガスとして導出する第2製品回収経路を備えていることを特徴とし、前記第1酸素富化気液混相流体の液の質量分率が1%以上であると好ましい。
【0025】
また、本発明の窒素製造装置は、少なくとも前記第1液化窒素の一部又は前記第2液化窒素の一部を、製品液化窒素として導出する製品液化窒素導出経路を備えていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、従来と同等以下の消費動力で、従来よりも低い圧力での運転を可能とし、かつ機器の数を増やすことなく、更に流体の経路の数を削減可能な窒素製造方法及び窒素製造装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明の窒素製造方法を適用した窒素製造装置の第1形態例を示す系統図である。
【
図2】本発明の窒素製造方法を適用した窒素製造装置の第2形態例を示す系統図である。
【
図3】本発明の窒素製造方法を適用した窒素製造装置の第3形態例を示す系統図である。
【
図4】従来の窒素製造装置の一例を示す系統図である。
【
図5】従来の窒素製造装置の一例を示す系統図である。
【
図6】従来の窒素製造装置の一例を示す系統図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
図1は、本発明の窒素製造方法を適用した窒素製造装置の第1形態例を示す系統図である。なお、以下の説明において、前記
図4-6に記載した窒素製造装置の構成要素と同一の構成要素で、同一の機能を有するものには同一符号を付して詳細な説明は省略する。
【0029】
まず、この窒素製造装置100は、精留塔を2塔備えた二塔型の構成であって、フィルター12を経て原料空気圧縮機13で圧縮され、精製器14で水分や二酸化炭素等の不純物が除去されて精製された後に、保冷外槽15内の主熱交換器7で冷却された原料空気(A)を深冷液化分離して製品窒素を採取する窒素製造装置である。この窒素製造装置100は、圧縮、精製、冷却された原料空気(A)を低温蒸留して塔上部の第1窒素ガス(B)と塔底部の第1酸素富化液化流体(L)とに分離する第1精留塔1と、第1窒素ガス(B)と減圧した第1酸素富化液化流体(L)とを間接熱交換させて第1窒素ガス(B)を凝縮液化して第1液化窒素(M)を得ると同時に第1酸素富化液化流体(L)を蒸発ガス化して液の質量分率が10%以上の第1酸素富化気液混相流体(D)を得る第1凝縮器2と、第1酸素富化気液混相流体(D)を低温蒸留して塔上部の第2窒素ガス(E)と塔底部の第2酸素富化液化流体(N)とに精留分離する第2精留塔3と、第2窒素ガス(E)と減圧した第2酸素富化液化流体(N)とを間接熱交換させて第2窒素ガス(E)を凝縮液化して第2液化窒素(F)を得ると同時に第2酸素富化液化流体(N)を蒸発ガス化して第2酸素富化ガス流体(H)を得る第2凝縮器4と、第1窒素ガス(B)の一部を主熱交換器7で熱回収後に第1製品窒素ガス(C)として導出する第1製品回収経路31と、第2液化窒素(F)の一部を加圧して第1精留塔1に導入する液化窒素ポンプ5と、第2精留塔3に導入され気液分離された第1酸素富化気液混相流体(D)のガス相の一部を主熱交換器7で熱回収後に断熱膨張させる膨張タービン6と、加圧された第2液化窒素(F)の一部を製品液化窒素(P)として導出する製品液化窒素導出経路50と、第1製品窒素ガス(C)と製品液化窒素(P)を除いた残りの流体を合流させて主熱交換器7で熱回収後に廃ガスとして導出する廃ガス導出経路32と、を備えている。
【0030】
第1精留塔1では、圧縮、精製、冷却後の原料空気(A)は、主熱交換器7から原料空気流入経路33を通って塔下部に導入され、深冷液化分離法による低温蒸留により、塔上部の第1窒素ガス(B)と塔底部の第1酸素富化液化流体(L)とに分離される。塔上部から経路34に抜き出された第1窒素ガス(B)は、一部が主熱交換器7で原料空気(A)と熱交換し、熱回収された後に第1製品回収経路31から第1製品窒素ガス(C)として導出される。また、残部の第1窒素ガス(B)は、経路35を通って第1凝縮器2に導入される。
【0031】
第1精留塔1の下部から抜き出されて減圧弁11aで所定圧力に減圧された第1酸素富化液化流体(L)は、経路36から第1凝縮器2へ導入され、第1窒素ガス(B)と間接熱交換を行い、第1窒素ガス(B)が凝縮液化して第1液化窒素(M)になると同時に、第1酸素富化液化流体(L)が部分的に蒸発ガス化して液の質量分率が10%以上の第1酸素富化気液混相流体(D)となる。第1液化窒素(M)は、経路37を通って第1精留塔1の上部に導入されて還流液となる。
【0032】
一方、第1凝縮器2から導出した第1酸素富化気液混相流体(D)は、経路38を通って第2精留塔3に導入される。その導入位置より上部の経路39から導出されたガスは、ごく一部が経路装置運転の調節代として分岐され、大部分は主熱交換器7に導入され、中間温度まで昇温して抜き出され、膨張タービン流体(I)として膨張タービン6に流入して断熱膨張することにより、装置の運転に必要な寒冷を発生した後、経路46を通る第2酸素富化ガス流体(H)と上述の分岐したガスに合流する。
【0033】
第2精留塔3の下部に導入された第1酸素富化気液混相流体(D)は、ガス相が低温蒸留により塔上部の第2窒素ガス(E)と塔底部の第2酸素富化液化流体(N)とに分離され、液相が第2精留塔3と第2凝縮器4の熱損失を補う。
【0034】
塔上部から抜き出された第2窒素ガス(E)は、経路40を通って第2凝縮器4に導入される。
【0035】
第2精留塔3の下部から抜き出されて減圧弁11bで所定圧力に減圧された第2酸素富化液化流体(N)は、経路41から第2凝縮器4へ導入され、第2窒素ガス(E)と間接熱交換を行い、第2窒素ガス(E)が凝縮液化して第2液化窒素(F)になると同時に、第2酸素富化液化流体(N)が蒸発ガス化して第2酸素富化ガス流体(H)となる。
【0036】
第2液化窒素(F)の一部は、経路42を通って第2精留塔3の上部に導入されて還流液となり、残部は経路43を通り液化窒素ポンプ5で加圧され、その一部が製品液化窒素(P)として製品液化窒素導出経路50を通って導出された後、残部は経路45を通って第1精留塔1の上部に導入され、第1液化窒素(M)と共に還流液となる。
【0037】
一方、第2凝縮器4から導出した第2酸素富化ガス流体(H)は、経路46を通って、前述のとおり膨張タービン6を出たガスおよび調節代のガスと合流し、主熱交換器7で原料空気(A)と熱交換を行って熱回収された後、廃ガス(J)として廃ガス導出経路32から導出される。
【0038】
このように形成した精留塔を2塔備えたプロセスにおいては、第1凝縮器2において第1酸素富化液化流体(L)が部分的に蒸発ガス化して第1酸素富化気液混相流体(D)となるため、その温度は同じ圧力で全量が蒸発ガス化して第1酸素富化ガス流体となる場合よりも低くなり、それに伴い第1窒素ガス(B)の凝縮液化温度も低くできるので、第1精留塔1ひいては原料空気(A)の圧力を下げられる。また、特許文献5にあるような第1酸素富化気液混相流体(D)を気液分離する気液分離器や、液相を蒸発気化させる凝縮器を追加する必要が無い。さらに、第2精留塔3と第2凝縮器4の熱損失を補う液は、第1酸素富化気液混相流体(D)としてガスと同一の経路38で第2精留塔3に導入されるため、特許文献1~5のように液を供給する別の経路を備える必要がなく、経路の数を削減できる。
【0039】
図2は、本発明の窒素製造方法を適用した窒素製造装置の第2形態例を示す系統図である。第1形態例の窒素製造装置100では、膨張タービン6に流入するガスが第2精留塔3から経路39を通って導出されるのに対し、第2形態例の窒素製造装置200では第2凝縮器4から導出された第2酸素富化ガス流体(H)の一部が経路47を通って膨張タービン6に流入する。
【0040】
第2形態例のように形成したプロセスであっても、精留塔と凝縮器の機能および従来と比べて得られる効果は第1形態例と同じである。
【0041】
図3は、本発明の窒素製造方法を適用した窒素製造装置の第3形態例を示す系統図である。第1形態例の窒素製造装置100では、膨張タービン6に流入する膨張タービン流体(I)としてのガスが第2精留塔3から経路39を通って導出されるのに対し、第3形態例の窒素製造装置300では原料空気(A)の一部が主熱交換器7で中間温度まで冷却されて抜出され、膨張タービン流体(I)として膨張タービン6に流入し、断熱膨張することにより、装置の運転に必要な寒冷を発生した後、経路48を通って第2精留塔3に導入される。
【0042】
第3形態例のように形成したプロセスであっても、精留塔と凝縮器の機能および従来と比べて得られる効果は第1形態例と同じである。
【0043】
なお、第1形態例~第3形態例のいずれにおいても、第2液化窒素(F)の一部を製品液化窒素(P)として導出しているが、第1液化窒素(M)の一部を製品液化窒素として導出してもよい。
【0044】
なお、第1形態例~第3形態例のいずれにおいても、第2精留塔3の塔頂部から導出された第2窒素ガス(E)が全て経路40を通って第2凝縮器4に導入されていたが、
図4~
図6に示すような従来例のように、第2窒素ガス(E)の一部は経路40を通って第2凝縮器4に導入され、残部は第2製品回収経路49を通って第2製品窒素ガス(G)として取り出すようにしてもよい。
【0045】
また、上述のように、第2窒素ガス(E)を部分的に取出して第2製品窒素ガス(G)とする場合には、第2精留塔3の熱損失は比較的少ないので、熱損失を補うための液の量も少なく、第1酸素富化気液混相流体(D)の液の質量分率は概ね1%となる。一方、第1形態例~第3形態例のように、第2液化窒素(F)を部分的に取出して液化窒素ポンプ5へ送る場合は、第2精留塔3の熱損失は大きいので、第1酸素富化気液混相流体(D)の液の質量分率は少なくとも10%以上であり、条件によっては後述する実施例のように20%を超える。
【実施例0046】
(実施例1)
図1に示した構成の窒素製造装置100を実施例1として、また
図4に示した特許文献1で開示されている構成を持つ窒素製造装置を比較例1として、両者についてシミュレーションを行った結果を表1に示す。
【0047】
【0048】
表1中で、各部の流量は比較例1における原料空気の流量を100とした相対値で示し、圧力(MPa)は絶対圧力を示し、液化率は各部の液量を質量分率で示している。この2つのシミュレーションでは、同じ流量、圧力及び純度(酸素濃度)の製品窒素ガスを製造し、製品液化窒素は製造しない。また発明の効果を明示するために、廃ガスの圧力を同じとし、経路の圧力損失および凝縮器の温度差を同じとしたときに、原料空気の圧力に違いが出ることを表している。
【0049】
すなわち、比較例1では、原料空気量100で製品窒素ガス量60(第1製品窒素ガスと第2製品窒素ガスの合計)を製造し、廃ガスの圧力0.12MPaにおいて原料空気の圧力が0.86MPaとなる。対する実施例1では、原料空気量107で製品窒素ガス量60(第1製品窒素ガス)を製造し、廃ガスの圧力0.12MPaにおいて原料空気の圧力が0.78MPaとなる。
【0050】
より詳細に見ると、第2凝縮器4において全量が蒸発気化した第2酸素富化ガス流体の圧力が0.15MPaのとき、第2凝縮器4において同じ温度差で第2酸素富化ガス流体と熱交換する第2窒素ガスの圧力は、比較例1で0.43MPa、実施例1で0.41MPaとなる。第2酸素富化ガス流体の圧力、液化率と第2凝縮器の温度差が同じにもかかわらず第2窒素ガスの圧力が異なるのは、第2酸素富化ガス流体の組成が異なるためである。
【0051】
つまり、実施例1の収率(製品窒素ガス量と原料空気量の割合)は比較例1より低いので、第2酸素富化ガス流体の酸素濃度が低くなり、同じ圧力における蒸発気化温度が低くなる結果、第2窒素ガスの凝縮液化温度ひいては圧力が低くなるためである。
【0052】
次に第1凝縮器2を見ると、実施例1と比較例1とで冷流体(第1酸素富化気液混相流体と第1酸素富化ガス流体)の液化率が異なることに加えて、上述のとおり第2凝縮器4においても第2窒素ガスの圧力に違いが出るため、第1凝縮器2における温度差と経路の圧力損失が同じでも、第1窒素ガスの圧力ひいては原料空気の圧力は実施例1の方が低くなる。
【0053】
このように、実施例1は比較例1と同じ数の機器で、より低い圧力の製品窒素ガスを製造できる。
【0054】
次に、この状態における消費動力を表2に示す。表2中の各機器の消費動力は、比較例1の消費動力の合計を100とした相対値で表している。
【0055】
【0056】
実施例1は、比較例1に比べて空気量は増えるものの原料空気の圧力が大幅に低くなるため、原料空気を供給する原料空気圧縮機13の動力は微増に留まる。さらに、比較例1で第2製品窒素ガスを圧縮する窒素圧縮機8の動力に比べて、実施例1で第2精留塔3において製造される窒素を第1精留塔1に送る液化窒素ポンプ5の動力は大幅に小さいので、合計の消費動力は実施例1の方が小さくなる。つまり、0.74MPaの製品窒素ガスが必要な場合、実施例1はそのままの圧力で供給できるのに対して、比較例1は原料空気の圧力を下げられないので、0.82MPaの製品窒素ガスを減圧して供給せざるを得ず、消費動力の観点から実施例1が効率的である。
【0057】
また、プロセスの違いにより、比較例1では寒冷補給流体(K)を供給する経路が必要となるのに対し、実施例1ではそれが不要なので経路の数を削減できる。
【0058】
(実施例2)
図2に示した構成の窒素製造装置200を実施例2として、また
図5に示した特許文献2で開示されている構成を持つ窒素製造装置を比較例2として、両者についてシミュレーションを行った結果を表3に示す。
【0059】
【0060】
表3中で、各部の流量は比較例2における原料空気の流量を100とした相対値で示し、圧力(MPa)は絶対圧力を示し、液化率は各部の液量を質量分率で示している。
【0061】
この状態における消費動力を表4に示す。表4中の各機器の消費動力は、比較例2の消費動力の合計を100とした相対値で表している。
【0062】
【0063】
製品窒素ガス、廃ガスの圧力、経路の圧力損失および凝縮器の温度差の設定は、実施例2および比較例2で同じとしている。この2つのシミュレーションは、いずれも膨張タービン流体の供給源が第2酸素富化ガス流体である。膨張タービン6は、同じ量の寒冷を発生させる場合、入口の圧力が低いほど必要な流量が増えるので、どちらの計算も、第2酸素富化ガス流体のほぼ全量が膨張タービン流体となるまで第2酸素富化ガス流体の圧力を下げているため、この状態が2つのプロセスの下限の圧力となる。その他の比較は表1における説明と同じである。表4に示す消費動力の比較と合わせ、実施例2も従来よりも低い圧力で窒素ガスを製造できることが分かる。
【0064】
(実施例3)
図3に示した構成の窒素製造装置300を実施例3として、また
図6に示した特許文献5で開示されている構成を持つ窒素製造装置を比較例3として、両者についてシミュレーションを行った結果を表5に示す。
【0065】
【0066】
表5中の流量は比較例3における原料空気量を100とした相対値で、圧力と液化率の説明は表1および表3と同じである。また、製品窒素ガス、廃ガスの圧力、経路の圧力損失および凝縮器の温度差の設定は、実施例3および比較例3で同じとしている。なお
図6では、
図3と同一の構成要素で、同一の機能を有するものは同一符号と名称で示しているので、一部の名称が特許文献5に示された名称と異なる。
【0067】
この状態における消費動力を表6に示す。表6中の各機器の消費動力は、比較例3の消費動力の合計を100とした相対値で表している。
【0068】
【0069】
比較例3のプロセスは、比較例1(特許文献1)より低い圧力の窒素を製造できることを特徴とする一方で、気液分離器9や第3凝縮器10といった機器が追加される。対する実施例3は、実施例1および実施例2で述べたのと同じ効果により、機器を追加することなく比較例3より低い圧力の窒素を製造できる。また、2つのプロセスの消費動力は表6に示すとおり同等となる。
1…第1精留塔、2…第1凝縮器、3…第2精留塔、4…第2凝縮器、5…液化窒素ポンプ、6…膨張タービン、7…主熱交換器、8…窒素圧縮機、9…気液分離器、10…第3凝縮器、11a,b…減圧弁、12…フィルター、13…原料空気圧縮機、14…精製器、15…保冷外槽、31…第1製品回収経路、32…廃ガス導出経路、33…原料空気流入経路、34~48…経路、49…第2製品回収経路、50…製品液化窒素導出経路、100,200,300…窒素製造装置