(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024135030
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】樹脂フィルム、回路基板材料、回路基板、電子機器
(51)【国際特許分類】
C08L 71/08 20060101AFI20240927BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20240927BHJP
H05K 1/03 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
C08L71/08
C08K3/013
H05K1/03 610H
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023045521
(22)【出願日】2023-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100119666
【弁理士】
【氏名又は名称】平澤 賢一
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 星冴
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002CH091
4J002DE146
4J002DE186
4J002DE236
4J002DF016
4J002DJ006
4J002DJ016
4J002DJ036
4J002DJ046
4J002DJ056
4J002DL006
4J002FA006
4J002FD016
4J002GM00
4J002GQ01
(57)【要約】
【課題】低温での積層を可能とし、熱膨張が小さく、熱による寸法安定性に優れる熱可塑性樹脂フィルムを提供すること。
【解決手段】ポリエーテルケトンケトン(A)と、無機充填材(B)を含む樹脂フィルムであって、樹脂フィルム中の前記無機充填材(B)の長軸方向の50%長さ(メディアン径)が0.25μm以上1.0μm以下であり、短軸方向の50%長さ(メディアン径)が0.03μm以上0.25μm以下である、樹脂フィルムである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエーテルケトンケトン(A)と、無機充填材(B)を含む樹脂フィルムであって、
樹脂フィルム中の前記無機充填材(B)の長軸方向の50%長さ(メディアン径)が0.25μm以上1.0μm以下であり、短軸方向の50%長さ(メディアン径)が0.03μm以上0.25μm以下である、樹脂フィルム。
【請求項2】
樹脂フィルム中の無機充填剤(B)のアスペクト比が5以上10以下である、請求項1に記載の樹脂フィルム。
【請求項3】
前記無機充填材(B)の長軸方向の90%長さが1μm以上5μm以下であり、短軸方向の90%長さが0.01μm以上0.5μm以下である、請求項1に記載の樹脂フィルム。
【請求項4】
前記ポリエーテルケトンケトン(A)が、下記構造式(1)で表される繰り返し単位(a-1)及び/又は下記構造式(2)で表される繰り返し単位(a-2)を有する、請求項1に記載の樹脂フィルム。
【化1】
【化2】
【請求項5】
前記繰り返し単位(a-1)と繰り返し単位(a-2)の含有割合が(a-1):(a-2)=55:45~75:25(mol%)である、請求項4に記載の樹脂フィルム。
【請求項6】
ガラス転移温度が150℃以上170℃以下である、請求項1に記載の樹脂フィルム。
【請求項7】
前記無機充填材(B)が合成マイカである、請求項1に記載の樹脂フィルム。
【請求項8】
ポリエーテルケトンケトン(A)100質量部に対して、無機充填材(B)が10質量部以上45質量部未満である、請求項1に記載の樹脂フィルム
【請求項9】
相対結晶化度が90%以下である、請求項1に記載の樹脂フィルム。
【請求項10】
線膨張係数が50ppm/℃以下である、請求項1に記載の樹脂フィルム。
【請求項11】
回路基板に使用する、請求項1に記載の樹脂フィルム。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか1項に記載の樹脂フィルムと導体とが積層してなる構成を有する、回路基板材料。
【請求項13】
請求項12に記載の回路基板材料を備えた、回路基板。
【請求項14】
請求項13に記載の回路基板を備えた、電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂フィルム、回路基板材料、回路基板、電子機器に関するものである
【背景技術】
【0002】
回路基板用絶縁材には、その製造工程上、はんだ耐熱性が要求される。例えばポリエーテルケトン樹脂やポリイミド樹脂等の耐熱性熱可塑性樹脂を、プリント配線基板用絶縁材として使用することができれば、高温での電気的特性にも優れ、高温雰囲気下での回路の信頼性を得ることが期待できる。
しかしながら、これら耐熱性熱可塑性樹脂は、成形加工温度が高いため、銅箔に貼り合わせる際や多層基板化する際に、エポキシ樹脂等の接着剤を使用したり、260℃以上の溶融状態で高温熱プレス成形する必要があり、昇温・降温に時間がかかるなどの問題があった。さらには、結晶性樹脂の場合、融点近傍の温度まで加熱しないと接着性が得られず、融点を超えると一転して樹脂が流れ出し、流動変形してしまうという問題もあった。
【0003】
ところで、スーパーエンジニアリングプラスチックとして知られるポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂は、高機能を発揮する熱可塑性樹脂であり、耐熱性、高温特性、耐加水分解性、機械的強度、難燃性、耐薬品性、電気的特性等に優れるという特性に鑑み、電気・電子分野のリジッドまたはフレキシブル基板、半導体パッケージ基板等の電子基板の製造に利用されている。
この種の電子基板は、例えばポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムに銅箔が接着して積層された二層または三層構造の銅張積層板(FCCL)を用いて製造され、銅箔が回路パターンとして機能する(特許文献1、2参照)。ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムを用いて多層基板を作製する場合は、融点(例えば、343℃)以上の温度(例えば、360℃)に加熱され、ポリエーテルエーテルケトン樹脂が溶けた状態で基材と接着される。
【0004】
従来における多層基板は、以上のようにポリエーテルエーテルケトン樹脂が溶けた状態で接着されるため、導体のパターンが歪んだり、ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムと銅箔との線膨張係数の差異により基板が反る問題が生じる。
そこで、特許文献3では、無機フィラー含有のポリアリーレンエーテルケトン樹脂層の少なくとも片面に、融点がポリアリーレンエーテルケトン樹脂層の融点よりも5℃以上低いポリアリーレンエーテルケトン樹脂含有の樹脂接着層を積層し、この樹脂接着層に金属層を積層したことを特徴とする積層体が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2015-536555号公報
【特許文献2】特表2009-545878号公報
【特許文献3】特開2022-148547号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献3で提案される積層体は、樹脂接着層を設けることで、ポリアリーレンエーテルケトン樹脂層に金属層が低融点の樹脂接着層を介して間接的に積層されるので、ポリアリーレンエーテルケトン樹脂が溶けた状態で金属層に直接接着されることが少ない。したがって、ポリアリーレンエーテルケトン樹脂層が溶けない温度で金属層を積層することにより、寸法特性が悪化することを防止し、金属層が剥離するのを防止することができる、とされている。
しかしながら、ポリアリーレンエーテルケトン自体の積層温度は依然として高く、例えば200℃といった低温で積層することは困難である。また、回路基板に使用される絶縁材料の誘電率や誘電正接が高いと、高周波信号が流れた際に伝送損失が高くなり、通信動作に支障が生じる。
そこで、本発明の課題は、低温での積層を可能とし、熱膨張が小さく、低誘電特性に優れる熱可塑性樹脂フィルムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記実状に鑑み、鋭意検討した結果、ポリエーテルケトンケトンと特定の粒子径を有する無機充填材を含有する樹脂フィルムを用いることにより、上記課題が解決されることを見いだし、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、以下の[1]~[14]を提供するものである。
【0008】
[1]ポリエーテルケトンケトン(A)と、無機充填材(B)を含む樹脂フィルムであって、樹脂フィルム中の前記無機充填材(B)の長軸方向の50%長さ(メディアン径)が0.25μm以上1.0μm以下であり、短軸方向の50%長さ(メディアン径)が0.03μm以上0.25μm以下である、樹脂フィルム。
[2]樹脂フィルム中の無機充填剤(B)のアスペクト比が5以上10以下である、上記[1]に記載の樹脂フィルム。
[3]前記無機充填材(B)の長軸方向の90%長さが1μm以上5μm以下であり、短軸方向の90%長さが0.01μm以上0.5μm以下である、上記[1]又は[2]に記載の樹脂フィルム。
[4]前記ポリエーテルケトンケトン(A)が、下記構造式(1)で表される繰り返し単位(a-1)及び/又は下記構造式(2)で表される繰り返し単位(a-2)を有する、上記[1]~[3]のいずれかに記載の樹脂フィルム。
【化1】
【化2】
[5]前記繰り返し単位(a-1)と繰り返し単位(a-2)の含有割合が(a-1):(a-2)=55:45~75:25(mol%)である、上記[4]に記載の樹脂フィルム。
[6]ガラス転移温度が150℃以上170℃以下である、上記[1]~[5]のいずれかに記載の樹脂フィルム。
[7]前記無機充填材(B)が合成マイカである、上記[1]~[6]のいずれかに記載の樹脂フィルム。
[8]ポリエーテルケトンケトン(A)100質量部に対して、無機充填材(B)が10質量部以上45質量部未満である、上記[1]~[7]のいずれかに記載の樹脂フィルム。
[9]相対結晶化度が90%以下である、上記[1]~[8]のいずれかに記載の樹脂フィルム。
[10]
線膨張係数が50ppm/℃以下である、上記[1]~[9]のいずれかに記載の樹脂フィルム。
[11]回路基板に使用する、上記[1]~[10]のいずれかに記載の樹脂フィルム。
[12]上記[1]~[11]のいずれかに記載の樹脂フィルムと導体とが積層してなる構成を有する、回路基板材料。
[13]上記[12]に記載の回路基板材料を備えた、回路基板。
[14]上記[13]に記載の回路基板を備えた、電子機器。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、低温での積層を可能とし、熱膨張が小さく、熱による寸法安定性に優れる熱可塑性樹脂フィルムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態の一例について詳細に説明する。ただし、本発明は次に説明する実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。
【0011】
[樹脂フィルム]
本発明の樹脂フィルム(以下、「本樹脂フィルム」と称することがある。)は、ポリエーテルケトンケトン(A)と、無機充填材(B)を含む。以下、各構成要件について、詳細に説明する。
【0012】
<ポリエーテルケトンケトン>
本発明の樹脂フィルムは、(A)成分として、ポリエーテルケトンケトン(以下、「PEKK」と記載することがある。)を含む。PEKKは、高い引張弾性率を有し、かつ、成形加工性の観点から好適な結晶融解熱量を有する熱可塑性樹脂である。
PEKKは、下記構造式(1)で表される繰り返し単位(a-1)及び下記構造式(2)で表される繰り返し単位(a-2)を有することが好ましい。すなわち、2種の繰り返し単位を有することが好ましい。繰り返し単位(a-1)及び(a-2)は、いずれも、1つのエーテル基及び2つのケトン基を有している。
【0013】
【0014】
【0015】
PEKK中の繰り返し単位(a-1)と(a-2)の含有割合((a-1):(a-2)(mol%))は、特に限定されないが、55:45~75:25であることが好ましい。(a-1)のモル比率が55%以上であると、ガラス転移温度(Tg)は低下せず、優れた耐熱性を維持することができる。一方、(a-1)のモル比率が75%以下であると、結晶化速度が遅くなり、十分な基材間の熱融着性や密着性が得られる。以上の観点から、(a-1):(a-2)は、58:42~73:27の範囲がより好ましく、60:40~70:30の範囲がさらに好ましい。
上記のような構造からなるPEEKは、1種単独で用いても、2種以上を併用し、繰り返し単位(a-1)と(a-2)の含有割合を上記割合にしてもよい。
ここで、PEKK中の繰り返し単位(a-1)と(a-2)のモル含有割合は例えば、NMRを用いて測定することができる。
【0016】
繰り返し単位(a-1)と(a-2)の合計数(重合度)は、機械特性の確保の観点から、10~100であることが好ましく、より好ましくは20~50である。
【0017】
PEKKのTgは、150℃以上であることが好ましく、より好ましくは153℃以上、さらに好ましくは155℃以上である。Tgが150℃以上であれば、十分な耐熱性を有するフィルムが得られる。
一方、Tgの上限は、特に限定されないが、低温での成形加工性の観点から、200℃以下であることが好ましく、より好ましくは190℃以下であり、さらに好ましくは180℃以下であり、特に好ましくは170℃以下である。
【0018】
また、PEKKの結晶融解熱量(ΔHm)は、60J/g以下であることが好ましく、より好ましくは50J/g以下、さらに好ましくは40J/g以下である。ΔHmが60J/g以下であれば、成形加工時に結晶化による収縮を抑制できる。一方、ΔHmの上限は、10J/g以上であることが好ましく、より好ましくは15J/g以上、さらに好ましくは20J/g以上である。ΔHmが10J/g以上であれば、結晶化によるはんだ耐熱性を付与できる。
【0019】
なお、本発明におけるTg及びΔHmはそれぞれ、JIS K 7121:2012及びJIS K 7122:2012に準じて、示差走査熱量計を用いて、温度範囲25~400℃、加熱速度10℃/分で昇温させた際に検出されたDSC(Differential scanning calorimetry)曲線から求められる。
【0020】
PEKKは、公知の製法により製造することができる(例えば、特開昭61-195122号公報、特開昭62-129313号公報等参照)。
また、市販品を用いることもできる。例えば、アルケマ社製「KEPSTAN」シリーズや山東凱盛新材料社製「Kstone」シリーズ、Solvay社製「NovaSpire」が挙げられる。
【0021】
<無機充填材>
本発明の樹脂フィルムは、(B)成分として、無機充填材を含む。無機充填材としては、後述する物性を有するものであれば、特に限定されず、種々のものが挙げられる。具体的には、例えば、マイカ(雲母)クレー、ガラス、シリカ、窒化アルミニウム、窒化珪素、ベーマイト、タルク、セリサイト、イライト、カオリナイト、モンモリロナイト、バーミキュライト、スメクタイト、アルミナ、チタン酸マグネシウムカリウム、チタン酸リチウムカリウム等のチタン酸塩、炭酸カルシウムなどの無機物からなる鱗片状、板状又は薄片状(偏平形状)の粉体を挙げることができる。また、ガラス繊維やアラミド繊維、炭素繊維、チタン酸カリウム繊維などを挙げることもできる。
この中でも、マイカ、シリカ、ガラス、タルク、カオリン、炭酸カルシウムなどの粒子が好ましく、フッ素を含有するフッ素含有無機充填材が好ましい。その中でも、誘電特性を改善できる点で、フッ素を含有するマイカ(フッ素雲母)、その中でも特にフッ素金雲母が好ましい。
【0022】
マイカは、フィロケイ酸鉱物雲母族に属する板状結晶であり、天然マイカ(白雲母、黒雲母、金雲母等)と、人工的に製造される合成マイカの2種類に分類される。
特に、合成マイカとしては、高温での使用を可能とするために、通常天然に存在するマイカの水酸基(OH)をフッ素(F)に置き換えた合成マイカが知られている。
合成マイカの合成法には、水熱合成法、固相合成法、溶融法等が知られており、いかなる方法により製造したものであってもよいが、水酸基が100%フッ素に置換される溶融法により合成されるのが好ましい。
合成マイカ粒子の中でも、加熱寸法安定性及び耐水性の観点から、非膨潤性の合成マイカが特に好ましい。
非膨潤性の合成マイカとしては、例えばフッ素金雲母(K2Mg6Al2(Si6O20)F4)、カリウム四ケイ素雲母(K2Mg5(Si8O20)F4)、カリウムテニオライト(K2Mg4Li2(Si8O20)F4)などを挙げることができ、中でも誘電正接をより低減できるフッ素金雲母が特に好ましい。
合成マイカとしては、トピー工業製「PDM」シリーズや片倉コープアグリ製「MK」シリーズ、日本光研工業製「NK」、「NS」シリーズなどが挙げられる。
【0023】
(長軸径)
本樹脂フィルム中の無機充填材(B)の長軸方向の50%長さ(メディアン径)は、0.25μm以上1.0μm以下であることが好ましい。長軸方向の50%長さが0.25μm以上であると、低誘電正接化、低線形膨張化の点で有利である。以上の観点から、長軸方向のメディアン径は0.3μm以上であることが好ましく、0.35μm以上であることがより好ましく、0.4μm以上であることがさらに好ましい。
一方、長軸方向の50%長さが1.0μm以下であると、力学特性の点で有利である。以上の観点から、長軸方向のメディアン径は0.9μm以下であることが好ましく、0.85μm以下であることがより好ましく、0.8μm以下であることがさらに好ましい。
また、樹脂フィルム中の無機充填材(B)の長軸方向の90%長さ(以下、「d90(L)」と記載することがある。)は、1μm以上5μm下であることが好ましい。この範囲であると、樹脂フィルムの製膜性や外観が良好であり、フィルムの線膨張係数低減効果が期待できる。
以上の観点から、本樹脂フィルム中の充填材(B)のd90(L)は、1.5μm以上4.5μm以下であるのがより好ましく、2μm以上4μm以下であるのがさらに好ましい。
【0024】
(短軸径)
本樹脂フィルム中の無機充填材(B)の短軸方向の50%長さ(メディアン径)は、0.03μm以上0.25μm以下であることが好ましい。短軸方向の50%長さが0.03μm以上であると、フィラーの分散性の点で有利である。以上の観点から、短軸方向のメディアン径は0.04μm以上であることが好ましく、0.05μm以上であることがより好ましく、0.06μm以上であることがさらに好ましい。
一方、短軸方向の50%長さが0.25μm以下であると、低線形膨張化の点で有利である。以上の観点から、短軸方向のメディアン径は0.24μm以下であることが好ましく、0.23μm以下であることがより好ましく、0.22μm以下であることがさらに好ましい。
また、樹脂フィルム中の無機充填材(B)の短軸方向の90%長さ(以下、「d90(S)」と記載することがある。)は、0.01μm以上0.5μm下であることが好ましい。樹脂フィルム中の無機充填材(B)のd90(S)がこの範囲であると、樹脂フィルムの製膜性や外観が良好であり、フィルムの線膨張係数低減効果が期待できる。かかる観点から、本樹脂フィルム中の充填材(B)のd90(S)は、0.05μm以上0.45μm以下であるのがより好ましく、0.1μm以上0.4μm以下であるのがさらに好ましい。
【0025】
(アスペクト比)
本樹脂フィルム中の充填材(B)のアスペクト比(=長軸径/短軸径)は、5以上10以下であることが好ましい。アスペクト比がこの範囲であると、本樹脂フィルム中で凝集しにくく製膜しやすくなり、フィルムの線膨張係数の低減が期待できる。
以上の観点から、樹脂フィルム中の充填材(B)のアスペクト比は、6以上10以下であることがより好ましく、7以上10以下であることがさらに好ましい。
【0026】
なお、上記無機充填材(B)の長軸方向の50%長さ、短軸方向の50%長さ、長軸方向の90%長さ、短軸方向の90%長さ、及びアスペクト比は、樹脂フィルム中での値である。樹脂フィルムを形成するための樹脂組成物中の無機充填材(B)に対する値ではない。無機充填材(B)は、樹脂組成物から樹脂フィルムを形成する過程で一部粉砕されるためである。また、樹脂フィルム中での上記無機充填材(B)の物性が得られるように、樹脂フィルムを形成するための樹脂組成物中の無機充填材(B)に対して、粉砕等を行ってもよい。
また、本樹脂フィルム中の充填材(B)の長軸方向の50%長さ、短軸方向の50%長さ、長軸方向の90%長さ、短軸方向の90%長さ、及びアスペクト比は、実施例に示された方法で測定するものである。
【0027】
(無機充填材単体の粒子径)
本樹脂フィルムに配合前の無機充填材(B)の粒子径は特に制限はないが、90%平均粒径は1μm以上100μm未満であるのが好ましく、2μm以上80μm未満であるのがより好ましく、3μm以上60μm未満であるのがさらに好ましく、5μm以上50μm未満であるのが特に好ましい。この範囲であれば、フィルム中の無機充填材の粒子径を上記の範囲に収めることができる。
なお、無機充填材単体の粒子径は、水を分散媒として、中性界面活性剤を分散剤として用いたレーザー回折式粒度分布計により測定することができる。
【0028】
(含有割合)
本樹脂フィルムは、PEKK(A)と充無機填材(B)とを、PEKK(A)100質量部に対して無機充填材(B)を20質量部以上含有するのが好ましい。
このような含有割合であれば、フィルムの製膜性や外観が良好であり、フィルムの線膨張係数低減効果が期待できる。
このような観点から、PEKK(A)100質量部に対して無機充填材(B)を22質量部以上含有するのがより好ましく、24質量部以上含有するのがさらに好ましい。
また、上限は、特に限定するものではないが、製膜性の観点からPEKK(A)100質量部に対して無機充填材(B)を50質量部以下、含有するのが好ましく、40質量部以下、含有するのがより好ましい。
【0029】
(その他の成分)
PEKK(A)は、本発明の効果を損なわない範囲で他の共重合可能な単量体とのランダム共重合体、交互共重合体、ブロック共重合体、あるいは変性体も使用することができる。
また、本樹脂フィルムは、上記した成分以外に、必要に応じて、その他の樹脂や充填材、各種添加剤、例えば、熱安定剤、紫外線吸収剤、光安定剤、核剤、着色剤、滑剤、難燃剤等を適宜配合してもよい。例えば、PEKK(A)の結晶化速度を調整するためにPEKK(A)と相溶する樹脂を配合してもよい。具体的には、ポリエーテルイミド樹脂はPEKK(A)と相溶するため、使用することができる。配合量としてはPEKK(A)100質量%に対し、40質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましく、20質量%以下であることがさらに好ましい。上記範囲内にあることで、フィルムのTgを低く保ちながら、PEKK(A)の結晶化速度を調整することができる。また、下限は、特に限定するものではないが、例えば1質量%以上である。
【0030】
<樹脂フィルムの物性>
(フィルム厚み)
本樹脂フィルムの厚みは、電気・電子機器用の回路基板材料として用いる場合、10μm以上300μm以下であるのが好ましく、その中でも20μm以上200μm以下、その中でも30μm以上100μm以下であるのがさらに好ましい。
また、本樹脂フィルムは、流れ方向(MD)とその直交方向(TD)における物性の異方性ができるだけ少なくなるように製膜することが好ましい。
【0031】
(ガラス転移温度(Tg))
本樹脂フィルムのガラス転移温度(Tg)は、150℃以上170℃以下であることが好ましい。Tgが150℃以上であると、樹脂フィルムの耐熱性が十分となる。一方、Tgが170℃以下であると、低温での樹脂フィルムの加工が容易となり、例えば、回路基板の絶縁フィルムとして用いる場合に、200℃といった低温での回路基板の埋め込みが容易である。
以上の観点から、本樹脂フィルムのTgは、155℃以上165℃以下であることがさらに好ましい。
【0032】
(誘電正接)
誘電正接とは、絶縁体内部での電気エネルギー損失の指標であり、充電される電流と損失する電流の比から求められる値である。理想的な絶縁体では、電気エネルギー損失がゼロであるため、誘電正接の値が小さいことが絶縁体に望まれる。
高周波回路基板では、電力吸収することにより、信号の伝送損失がおこり熱に変化する。誘電正接は、信号伝送の品質に影響し、従って、誘電正接が大きければ大きいほど、吸収が大きく、信号損失が大きくなり、反対に誘電正接が低ければ低いほど、信号の損失が少なくなる。
本樹脂フィルムの周波数10GHz、温度23℃、相対湿度50%における誘電正接は、高周波回路基板用途の観点から、0.004以下であることが好ましく、0.0038以下であることがより好ましく、0.0035以下であることがさらに好ましい。この範囲にすることにより、誘電損失が小さく、回路基板の電気信号の伝達効率、高速化が得られる。誘電正接の下限は、特に限定するものではないが、通常0.001以上である。
【0033】
(比誘電率)
周波数を高くすることの一つの目的は、信号を早く伝達すること、すなわち、高周波回路においては信号の速度を高めることである。
比誘電率が低ければ低いほど、信号速度は速くなり、光速に近づくことになる。従って比誘電率の低い材料であることが適切である。
かかる観点から、本樹脂フィルムの周波数10GHz、温度23℃、相対湿度50%における比誘電率は3.5以下であることが好ましく、3.4以下であることがさらに好ましく、3.3以下であることがさらに好ましい。この範囲にすることにより、誘電損失が小さく、回路基板の電気信号の伝達効率、高速化が得られる。比誘電率の下限は、特に限定するものではないが、通常2.0以上である。
【0034】
なお、比誘電率及び誘電正接は、下記実施例に示された方法で測定するものである。
【0035】
(吸水率)
吸水性すなわち吸水率は、比誘電率および誘電損失に影響する。
本樹脂フィルムは、その吸水率が低くなることで、基板の銅箔からの剥離が防止されやすくなる。また、耐マイグレーション性が高まり短絡の発生を防止しやすくなる。
よって、本樹脂フィルムの吸水率は1%以下であることが好ましく、中でも0.8%以下、その中でも0.6%以下であるのがさらに好ましい。吸水率の下限は、特に限定するものではないが、通常0.1以上である。
なお、吸水率は下記実施例で示すように、本樹脂フィルムから試験片を作成し、その試験片を水に23℃で24時間浸漬した際の浸漬前後の質量変化から測定するものである。
【0036】
(線膨張係数)
本樹脂フィルムは、銅箔などの基板に積層することを想定すると、熱と冷間の変化の不一致により、銅箔の剥離を引き起こす可能性があるため、本樹脂フィルムの線膨張係数を低くして、銅の線膨張係数にできるだけ近づけるのが好ましい。
かかる観点から、本樹脂フィルムは、MD及びTDのいずれの方向においても、線膨張係数が50ppm/℃以下であるのが好ましく、中でも40ppm/℃以下、その中でも35ppm/℃以下であるのがさらに好ましい。なお、銅箔の線膨張係数が約20ppm/℃であることから、下限は15ppm/℃以上であることが想定される。
なお、線膨張係数は、下記実施例に示された方法で測定するものである。
【0037】
(相対結晶化度)
本発明の樹脂フィルムは、相対結晶化度が90%以下であることが好ましい。相対結晶化度が90%以下であると、樹脂フィルムの加工性が担保され、回路の埋め込み等が容易になる。以上の観点から、本樹脂フィルムの相対結晶化度は50%以下がより好ましく、30%以下がさらに好ましく、20%以下が特に好ましい。
本樹脂フィルムの相対結晶化度の下限値については、特に制限はないが、通常0%以上である。
なお、相対結晶化度は、以下の式で算出することができる。
相対結晶化度(%)={(|ΔHm|-|ΔHc|)/ΔHm}×100
ここで、ΔHcは結晶化熱量であり、ΔHmは結晶融解熱量である。
【0038】
<本樹脂フィルムの製造方法>
本樹脂フィルムは、例えば、PEKK(A)、無機充填材(B)などの材料を溶融混練し、急冷製膜することにより製造することができる。
この際、製膜方法としては、例えば、インフレーション成形法、Tダイを用いる押出しキャスト成形法、カレンダー成形法などを挙げることができる。中でも、フィルム製膜性や安定生産性等の観点からTダイを用いる押出しキャスト成形法が好ましい。また、プレス成形により成膜してもよい。
【0039】
Tダイを用いる押出しキャスト成形法での成形温度は、組成物の流動特性や製膜性等によって適宜調整されるが、概ね融点以上、430℃以下である。また、成形体の厚みは、特に制限されるものではないが、通常10μm~800μm程度である。
溶融混練には、一般的に使用される単軸押出機、二軸押出機、ニーダーやミキサーなどが使用でき、特に制限されるものではない。
押出機やミキサーの回転数は使用するスクリューの形状やサイズによって異なるが、無機充填材(B)を分散させる観点から10rpm以上であることが好ましく、15rpm以上であることが特に好ましい。また回転数の上限は特に制限はないが、無機充填材(B)の粉砕抑制やせん断発熱による樹脂の分解抑制の観点から100rpm未満であることが好ましい。
【0040】
先述したように、本発明の樹脂フィルムは相対結晶化度が90%以下であることが好ましい。Tダイを用いる押出キャスト法の場合、Tダイから押し出されたフィルムを急冷することで、相対結晶化度の低いフィルムを得ることができる。
【0041】
溶融した材料を冷却してフィルム形状とする際の冷却条件を調整する方法としては、例えば、冷却機としてキャストロールを用い、押し出された溶融樹脂をキャストロールに接触させることにより行うことができる。
【0042】
プレス成形の場合、例えば、二枚の金属板間に溶融混錬した材料を流し込み、温度330℃以上380℃以下、圧力2MPa以上10MPa以下、成形時間10秒以上60秒以下の条件でプレス成形し、その後200℃以下まで水冷で急冷することにより成膜することができる。
【0043】
<回路基板材料>
本発明の実施形態の一例に係る回路基板材料は、上述した本樹脂フィルムと、導体とが積層してなる構成のものである。例えば、当該導体から回路を形成して、回路基板を構成することができる。
【0044】
前記導体として、銅箔を挙げることができる。
当該銅箔は、回路基板においてはエッチングなどにより所定の形状にパターニングされ、配線などを構成することができる。
銅箔の厚みは、例えば1μm以上80μm以下であるのが好ましく、3μm以上50μm以下であるのがより好ましく、5μm以上30μm以下であるのがさらに好ましい。
銅箔は、一般的には接着層を介さずベースフィルムに直接貼り合わされてもよく、また、接着層を介してもよい。接着層としては、特に限定されないが、ポリイミド系樹脂接着剤、エポキシ系樹脂接着剤、アクリル系樹脂接着剤、フェノール系樹脂接着剤などを挙げることができる。これらの中ではポリイミド系樹脂接着剤、エポキシ系樹脂接着剤が好ましい。
【0045】
また、銅箔にシランカップリング剤などの表面処理剤により表面処理をして、銅箔はその表面処理剤を介してベースフィルムに貼り合わされてもよいし、銅箔は、表面処理剤や接着層を介さずにベースフィルムに直接貼り合わされてもよい。
【0046】
本樹脂フィルムは、ベースフィルム及びカバーフィルムのいずれかを構成することが好ましい。
ベースフィルムは、回路基板の基材となるものであり、ベースフィルム上に銅箔が設けられるとよい。
カバーフィルムは、カバーレイフィルムと呼ばれることがあり、ベースフィルム上に設けられた銅箔などを被覆して保護するためのフィルムである。カバーフィルムは、回路基板の基材となるベースフィルムやリジット基板などの銅箔が設けられた面に貼り合わされて使用される。
カバーフィルムは、一般的にベースフィルムやリジット基板などの基材に接着層を介して貼り合わされる。この接着層に使用される接着剤は上記のものを使用することができる。また、接着層は適宜省略されてもよく、その場合、カバーフィルムは、シランカップリング剤などの表面処理剤により表面処理された銅箔に接着されてもよく、また、接着層や表面処理剤を介さずに銅箔に直接接着されてもよい。
【0047】
銅箔は、一般的に基材上にパターニングされ部分的に設けられるが、基材の銅箔が設けられない部分において、カバーフィルムは基材に直接接着されてもよいし、接着層を介して基材に貼り合わされてもよい。
【0048】
<回路基板>
本発明の実施形態の一例に係る回路基板は、上述した回路基板材料を備えたものである。
回路基板は、高周波回路基板を含むものであり、用途の具体例としては、FPC(Flexible printed circuits)やFCCL(Flexible Cupper Clad Laminate)などを挙げることができる。
本発明では、上記の通り、本樹脂フィルムなどの成形体は、誘電特性などの各種性能がバランスよく良好になり、吸水性も低くなる。そのため、回路基板に必要とされる要求特性を満足し、回路基板に好適に用いられる。特に、本発明では、上記したFPCやFCCLなどに特に好適である。
【0049】
<電子機器>
本発明の実施形態の一例に係る電子機器は、上述した回路基板を備えたものである。
当該電子機器としては、例えば携帯電話、スマートフォン(モバイルフォン)、電子手帳、デジタルスチルカメラ、ビデオカメラなどの携帯電子機器、電子ペーパー、テレビ、DVDプレーヤー、各種オーディオ機器、カーナビゲーション装置、インストルメントパネルなどの車載用表示器、電卓、プリンター、スキャナー、複写機、冷蔵庫、洗濯機などを挙げることができる。
【0050】
<語句の説明>
本発明においては、「フィルム」とも称する場合でも「シート」を含むものとし、「シート」とも称する場合でも「フィルム」を含むものとする。
また、画像表示パネル、保護パネル等のように「パネル」と表現する場合、板体、シート及びフィルムを包含するものである。
本発明において、「X~Y」(X,Yは任意の数字)と記載した場合、特にことわらない限り「X以上Y以下」の意と共に、「好ましくはXより大きい」或いは「好ましくはYより小さい」の意も包含するものである。
また、「X以上」(Xは任意の数字)と記載した場合、特にことわらない限り「好ましくはXより大きい」の意を包含し、「Y以下」(Yは任意の数字)と記載した場合、特にことわらない限り「好ましくはYより小さい」の意も包含するものである。
【実施例0051】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例および比較例における評価方法は下記のとおりである。
【0052】
[評価方法]
(1)無機充填材の長軸方向及び短軸方向の長さ
無機充填材の長軸方向の長さ及び短軸方向の長さは、得られたフィルム(サンプル)の幅方向の厚み断面を電子顕微鏡により観察し、無機充填材100個を抽出して各無機充填材の最大径を長軸径として測定した。長軸径が小さい粒子側からの累計頻度50%に相当する値及び90%に相当する値を、それぞれ50%長軸長さ、90%長軸長さとした。
また、無機充填材の最大径と直交方向の径を短軸径として測定し、短軸径が小さい粒子側からの累計頻度50%に相当する値及び90%に相当する値を、それぞれ50%短軸長さ、90%短軸長さとした。
【0053】
(2)樹脂フィルム中の無機充填材のアスペクト比
無機充填材のアスペクト比(=長軸径/短軸径)は、得られたフィルム(サンプル)の幅方向の厚み断面を電子顕微鏡により観察し、無機充填材100個を抽出して各無機充填材の最大径を長軸径、最大径と直交方向を短軸径として測定してアスペクト比(=長軸径/短軸径)を算出し、アスペクト比が小さい粒子側からの累計頻度90%に相当する値を90%平均アスペクト比とした。
また、無機充填材が鱗片状を呈する場合、各充填材の径、すなわち長軸径を粒径とした際の粒径の平均値を、各充填材の厚みの平均値で割った値とした。
【0054】
(3)ガラス転移温度(Tg)、融点(Tm)、結晶化温度(Tc)及び相対結晶化度
原料ペレットおよびフィルムを、JIS K7121:2012に準拠して、示差走査熱量計Pyris1 DSC(パーキンエルマー社製)を用いて、温度範囲25~380℃、加熱速度10℃/分で示差走査熱量計Pyris1 DSC(パーキンエルマー社製)を用い、再昇温過程において検出されたDSC曲線の変曲点からガラス転移温度を、吸熱ピークトップ温度から融点を、発熱ピークトップ温度から結晶化温度(Tc)を求めた。
なお、フィルムの相対結晶化度については、以下の式で算出した。
相対結晶化度(%)={(|ΔHm|-|ΔHc|)/ΔHm}×100
ここで、ΔHcは結晶化熱量であり、ΔHmは結晶融解熱量である。
【0055】
(4)比誘電率
得られたフィルム(サンプル)について、JIS C2565:1992に準拠して、
空洞共振器法を用いて、温度23℃、湿度50%RH、周波数10GHzの条件で測定し
た。
【0056】
(5)誘電正接
得られたフィルム(サンプル)について、JIS C2565:1992に準拠して、
空洞共振器法を用いて、温度23℃、湿度50%RH、周波数10GHzの条件で測定し
た。
本実施例では、誘電正接が0.004未満を〇、0.004以上を×と評価した。
【0057】
(6)線膨張係数
得られたフィルム(サンプル)を4mm×10mmのサイズとし、熱機械分析(TMA)装置(日立ハイテクサイエンス社製、型式:TMA/SS7100)にて、1mNの荷重を加えながら一定の昇温速度(5℃/min)で30℃から150℃の温度範囲で、MD又はTDの方向に引張り試験を行い、温度に対するフィルムの伸び量から線膨張係数(CTE)を測定した。
本実施例では、MD/TDでの平均CTEが30ppm/℃未満を〇、30ppm以上で40ppm/℃未満を△、40ppm/℃を超えるものを×と評価した。
【0058】
(7)200℃積層評価
得られたフィルム(サンプル)を100mm×100mmのサイズとして5枚重ね合わせたのち、2枚の金属板間に挟み込み、温度=200℃、圧力=3MPa、時間=20分の条件で熱プレスすることで積層板を得た。得られた積層板をプレッシャークッカー試験機を用い、温度=121℃、圧力=2atm、湿度=100%RH、時間=2時間の条件で吸湿させた。その後、240℃のはんだ浴に20秒浸漬させ、変形を評価した。
本実施例では、はんだ浴浸漬後変形がなかったものを〇、フィルム間に膨れが生じたり、剥がれたものや、フィルムが結晶化しておらず変形したものを×と評価した。
【0059】
<原料>
[ポリエーテルケトンケトン樹脂(A)]
(A)-1:KEPSTAN7002(Arkema社製、(a-1):(a-2)=70:30(mol%)、Tg=158℃、Tm=331℃)
(A)-2:KEPSTAN6002(Arkema社製、(a-1):(a-2)=60:40(mol%)、Tg=153℃、Tm=306℃)
なお、ここでTgはガラス転移温度、Tmは融点を示す。
【0060】
[無機充填材(B)]
(B)-1:フッ素金雲母(トピー工業製PDM-5L(偏平形状)、レーザー回折式粒度分布測定装置において、小粒径側からの累積個数50%のときの粒径(D50)が6.4μm)
(B)-2:カリウム四ケイ素雲母(コープケミカル製MK―100(偏平形状)、レーザー回折式粒度分布測定装置において、小粒径側からの累積個数50%のときの粒径(D50)が5.1μm)
(B)-3:溶融シリカ(Denka製GT130MC(球形状)、レーザー回折式粒度分布測定装置において、小粒径側からの累積個数50%のときの粒径(D50)が0.6μm)
【0061】
[その他樹脂(C)]
(C)-1:ポリエーテルエーテルケトン VESTAKEEP 3300G (ダイセル・エボニック社製、Tg=143℃、Tm=338℃)
(C)-2:ポリエーテルイミド Ultem 1000-1000(Sabic製、Tg:212℃、Tm=なし)
【0062】
(実施例1)
(A)-1、(B)-1を、表1に示すように混合した混合組成物を、Tダイを備えたΦ40mm同方向単軸押出機を用いて360℃で混練した後、Tダイより押出し、次いで約150℃のキャスティングロールにて冷却し、厚み50μmのフィルム(サンプル)を作製した。
フィルム中の無機充填材(B)-1の50%長軸長さ、50%短軸長さはそれぞれ、0.5μm、0.1μmであり、90%長軸長さ、90%短軸長さはそれぞれ、2.9μm、0.2μmであり、平均アスペクト比は9であった。また、フィルムの相対結晶化度は2%であった。
【0063】
(実施例2~4)
(A)-1、(A)-2、(B)-1及び(C)-2の混合質量比を、表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様の方法で、フィルム(サンプル)を作製した。
いずれのフィルム中の無機充填材(B)-1の50%長軸長さ、50%短軸長さはそれぞれ、0.5μm、0.1μmであり、90%長軸長さ、90%短軸長さはそれぞれ、2.9μm、0.2μmであり、平均アスペクト比は9であった。また、フィルムの相対結晶化度については、実施例2のフィルムは1%、実施例3のフィルムは1%、実施例4のフィルムは1%であった。
【0064】
(実施例5)
(A)-1、(B)-1を、表1に示すように混合した混合組成物を東洋精機社製のプラストグラフミキサーに供給し、温度=360℃、回転数=60rpmで5分溶融混練し、樹脂組成物を得た。この樹脂組成物を2枚の金属板間に挟み込み、温度=360℃、圧力=3MPa、成形時間=30秒の条件でプレス成形し、その後150℃以下まで水冷で急冷することで、厚さ200μmにフィルム化した樹脂フィルム(サンプル)を作製した。
樹脂フィルム中の無機充填材(B)-1の50%長軸長さ、50%短軸長さはそれぞれ、0.7μm、0.2μmであり、90%長軸長さ、90%短軸長さはそれぞれ、4.2μm、0.4μmであり、平均アスペクト比は8であった。また、フィルムの相対結晶化度は0%であった。
【0065】
(比較例1及び2)
(B)-1、(C)-1及び(C)-2の混合質量比を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様の方法で、フィルム(サンプル)を作製した。
いずれのフィルム中の無機充填材(B)-1の50%長軸長さ、50%短軸長さはそれぞれ、0.5μm、0.1μmであり、90%長軸長さ、90%短軸長さはそれぞれ、2.9μm、0.2μmであり、平均アスペクト比は9であった。また、フィルムの相対結晶化度は、比較例1、比較例2それぞれ1%、100%であった。
【0066】
(比較例3)
(A)-1、(A)-2及び(B)-2の混合質量比を表1に示すように変更した以外は、実施例5と同様の方法で、フィルム(サンプル)を作製した。
フィルム中の無機充填材(B)-2の50%長軸長さ、50%短軸長さはそれぞれ、1.1μm、0.2μmであり、90%長軸長さ、90%短軸長さはそれぞれ、3.3μm、0.7μmであり、平均アスペクト比は5であった。また、フィルムの相対結晶化度は0%であった。
【0067】
(比較例4)
(A)-1、(A)-2及び(B)-3の混合質量比を表1に示すように変更した以外は、実施例5と同様の方法で、フィルム(サンプル)を作製した。
フィルム中の無機充填材(B)-3の50%長軸長さ、50%短軸長さはそれぞれ、0.2μm、0.2μmであり、90%長軸長さ、90%短軸長さはそれぞれ、0.8μm、0.8μmであり、平均アスペクト比は1であった。また、フィルムの相対結晶化度は0%であった。
【0068】
(比較例5)
(A)-1及び(A)-2の混合質量比を、表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様の方法で、フィルム(サンプル)を作製した。また、フィルムの相対結晶化度は2%であった。
【0069】
【0070】
上記の表1の実施例1~5の結果より、フッ素を含有した特定の径の無機充填材を配合したPEKK樹脂を用いることで、200℃で軟化して積層でき、低誘電正接化ならびに低線形膨張化を両立できることが示された。
【0071】
一方で、比較例1、2のようにPEEKとPEIブレンド品や結晶性を有さないPEI単体の場合、Tgが高くなり、200℃では積層することができなかった。
比較例3、4のように本発明で規定する径から外れた無機充填材を用いた場合、線膨張係数の低減効果が不十分であった。
比較例5のように無機充填材を含まない場合、誘電正接の値が高くなり、線膨張係数の値が高くなった。
本発明によれば、低温での積層が可能であり、熱特性に優れる熱可塑性樹脂フィルムを提供することができる。例えば、回路基板等の絶縁フィルムとして用いた場合には、低温で積層できることから、本発明の樹脂フィルムが回路基板の形状に追随して埋めることができ、絶縁フィルムとしての高い機能性を発揮することができる。
したがって、本発明に係る技術は、工業的価値の高い技術である。