(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024135069
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】荒引線の製造方法及び製造装置、並びに鋳造装置
(51)【国際特許分類】
B22D 11/06 20060101AFI20240927BHJP
B22D 11/00 20060101ALN20240927BHJP
【FI】
B22D11/06 320Z
B22D11/06 320F
B22D11/00 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023045579
(22)【出願日】2023-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】前川 裕宣
(72)【発明者】
【氏名】木村 仁志
(72)【発明者】
【氏名】荒川 悟史
【テーマコード(参考)】
4E004
【Fターム(参考)】
4E004DA07
4E004NC07
4E004SB02
4E004SB03
(57)【要約】
【課題】品質の高い荒引線を製造可能とする。
【解決手段】一実施形態に係る製造装置1は、鋳造装置3と圧延装置4とを含む。鋳造装置3は、外周に溝が設けられた金型ホイール20と、金型ホイール20の外周面22の一部に接触しながら周回するベルト30と、ベルト30と当該ベルト30によって塞がれた前記溝とによって形成される鋳造空間に溶湯を供給する供給部10と、ベルト30の表面に離型剤を塗布する塗布部62と、周回するベルト30の前記表面に堆積している前記離型剤に押し付けられる研磨部材72を含む研磨部70と、を備える。そして、研磨部70に含まれる研磨部材72は、前記溝の幅以上であり、かつ、ベルト30の幅未満の幅を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶湯を固化させて棒状の鋳造材を連続的に製造する鋳造工程と、前記鋳造材を連続的に圧延する圧延工程と、を含む荒引線の製造方法であって、
前記鋳造工程は、
外周に溝が設けられた金型ホイールと、前記金型ホイールの外周面の一部に接触しながら周回するベルトと、によって形成される鋳造空間に前記溶湯を供給する供給工程と、
前記ベルトの表面に離型剤を塗布する塗布工程と、
前記ベルトの前記表面に堆積している前記離型剤を研磨する研磨工程と、を含み、
前記研磨工程では、周回する前記ベルトの前記表面に堆積している前記離型剤に、前記溝の幅以上であり、かつ、前記ベルトの幅未満の幅を有する研磨部材を回転させながら押し付ける、
荒引線の製造方法。
【請求項2】
前記研磨部材が繊維部材である、
請求項1に記載の荒引線の製造方法。
【請求項3】
前記研磨部材が研磨剤を含有している、
請求項2に記載の荒引線の製造方法。
【請求項4】
前記研磨工程では、前記研磨部材の回転が停止しない範囲内における最大の押圧力で、前記研磨部材を前記離型剤に押し付ける、
請求項1に記載の荒引線の製造方法。
【請求項5】
溶湯を固化させて棒状の鋳造材を連続的に製造する鋳造装置と、前記鋳造装置から送り出される前記鋳造材を連続的に圧延する圧延装置と、を含む荒引線の製造装置であって、
前記鋳造装置は、
外周に溝が設けられた金型ホイールと、
前記金型ホイールの外周面の一部に接触しながら周回するベルトと、
前記ベルトと前記ベルトによって塞がれた前記溝とによって形成される鋳造空間に前記溶湯を供給する供給部と、
前記ベルトの表面に離型剤を塗布する塗布部と、
周回する前記ベルトの前記表面に堆積している前記離型剤を研磨する研磨部と、を備え、
前記研磨部は、研磨部材と、前記研磨部材を前記ベルトの前記表面に堆積している前記離型剤に押し付ける押付機構と、を含み、
前記研磨部材は、前記溝の幅以上であり、かつ、前記ベルトの幅未満の幅を有する、
荒引線の製造装置。
【請求項6】
前記研磨部材が繊維部材である、
請求項5に記載の荒引線の製造装置。
【請求項7】
前記研磨部材が研磨剤を含有している、
請求項6に記載の荒引線の製造装置。
【請求項8】
外周に溝が設けられた金型ホイールと、
前記金型ホイールの外周面の一部に接触しながら周回するベルトと、
前記ベルトと前記ベルトによって塞がれた前記溝とによって形成される鋳造空間に溶湯を供給する供給部と、
前記ベルトの表面に離型剤を塗布する塗布部と、
周回する前記ベルトの前記表面に堆積している前記離型剤を研磨する研磨部と、を備え、
前記研磨部は、研磨部材と、前記研磨部材を前記ベルトの前記表面に堆積している前記離型剤に押し付ける押付機構と、を含み、
前記研磨部材は、前記溝の幅以上であり、かつ、前記ベルトの幅未満の幅を有する、
鋳造装置。
【請求項9】
前記研磨部材が繊維部材である、
請求項8に記載の鋳造装置。
【請求項10】
前記研磨部材が研磨剤を含有している、
請求項9に記載の鋳造装置。
【請求項11】
前記ベルトに張力を与えるテンションホイールをさらに備え、
前記研磨部の前記研磨部材は、前記ベルトが前記テンションホイールを通過する際に前記ベルトの前記表面に堆積している前記離型剤に押し付けられる、
請求項8に記載の鋳造装置。
【請求項12】
前記押付機構は、前記研磨部材を前記ベルトの前記表面に近接する方向と前記ベルトの前記表面から離間する方向とに移動可能な空圧アクチュエータを備え、
前記空圧アクチュエータに供給される圧縮空気の圧力を増減させることにより、前記研磨部材を前記離型剤に押し付ける力を調節することができる、
請求項8に記載の鋳造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荒引線を製造するための方法や装置に関する。
【背景技術】
【0002】
荒引線の製造方法の1つとして、連続鋳造圧延法が知られている。この方法には、同時並行的に行われる鋳造工程と圧延工程とが含まれる。鋳造工程は、溶融させた金属材料(溶湯)を固化させて(凝固させて)、角棒状の鋳造材を製造する工程である。鋳造工程で作られる鋳造材は“鋳造バー”と呼ばれることもある。圧延工程は、鋳造材を押し潰しながら延ばして、丸棒状の圧延材を製造する工程である。
【0003】
上記のような連続鋳造圧延法によって荒引線を製造する製造装置は、鋳造工程を行う鋳造装置と、圧延工程を行う圧延装置と、を少なくとも含んでいる。鋳造装置は、例えば、外周に溝が設けられたホイールと、ホイールの外周面の一部に接触しながら周回するベルトと、を有している。ベルトは、ホイールに設けられている溝の一部を一時的に塞ぎ、ホイールの周囲に鋳造空間(金型/鋳型)を形成する。鋳造空間に供給された溶湯は、当該鋳造空間内で冷却されて固化(凝固)し、角棒状の鋳造材になる(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような鋳造装置では、ベルトに塗布された離型剤がベルトの表面に焼付くことがあった。そこで従来は、作業員が手作業でベルトの表面を研磨して焼付いた離型剤を除去していた。
【0006】
しかし、ベルトの表面を手作業で均一に研磨することは困難であり、研磨ムラが発生したり、ベルトの表面に傷が発生したりすることを完全に回避することはできなかった。ベルトの表面に研磨ムラや傷があると、鋳造材の組織が変化し、圧延材や荒引線の表面に欠陥が現れることがある。つまり、製造される荒引線の品質が低下することがある。
【0007】
本発明の目的は、品質の高い荒引線を製造可能とすることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一実施形態に係る荒引線の製造方法は、溶湯を固化させて棒状の鋳造材を連続的に製造する鋳造工程と、前記鋳造材を連続的に圧延する圧延工程と、を含む。前記鋳造工程には、外周に溝が設けられた金型ホイールと前記金型ホイールの外周面の一部に接触しながら周回するベルトとによって形成される鋳造空間に前記溶湯を供給する供給工程と、前記ベルトの表面に離型剤を塗布する塗布工程と、前記ベルトの前記表面に堆積している前記離型剤を研磨する研磨工程と、が含まれる。前記研磨工程では、周回する前記ベルトの前記表面に堆積している前記離型剤に、前記溝の幅以上であり、かつ、前記ベルトの幅未満の幅を有する研磨部材を回転させながら押し付ける。
【0009】
一実施形態に係る荒引線の製造装置は、溶湯を固化させて棒状の鋳造材を連続的に製造する鋳造装置と、前記鋳造装置から送り出される前記鋳造材を連続的に圧延する圧延装置と、を含む。前記鋳造装置は、外周に溝が設けられた金型ホイールと、前記金型ホイールの外周面の一部に接触しながら周回するベルトと、前記ベルトと前記ベルトによって塞がれた前記溝とによって形成される鋳造空間に前記溶湯を供給する供給部と、前記ベルトの表面に離型剤を塗布する塗布部と、周回する前記ベルトの前記表面に堆積している前記離型剤を研磨する研磨部と、を備える。前記研磨部は、研磨部材と、前記研磨部材を前記ベルトの前記表面に堆積している前記離型剤に押し付ける押付機構と、を含む。前記研磨部材は、前記溝の幅以上であり、かつ、前記ベルトの幅未満の幅を有する。
【0010】
一実施形態に係る鋳造装置は、金型ホイールの外周に設けられている溝を塞いで鋳造空間を形成するベルトの表面に堆積している離型剤を研磨する研磨部を備える。前記研磨部は、研磨部材と、前記研磨部材を前記離型剤に押し付ける押付機構と、を含む。前記研磨部材は、前記溝の幅以上であり、かつ、前記ベルトの幅未満の幅を有する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、品質の高い荒引線を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図2A】金型ホイール及びベルトの部分拡大断面図である。
【
図2B】金型ホイール及びベルトの部分拡大断面図である。
【
図3】研磨部材が待機位置にあるときの研磨部の側面図である。
【
図4】研磨部材が待機位置にあるときの研磨部の正面図である。
【
図5】研磨部材が作動位置にあるときの研磨部の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態の一例について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、実施形態を説明するために参照する全ての図面において、同一又は実質的に同一の構成や要素には同一の符号を用いる。また、一度説明した構成や要素については、原則として繰り返しの説明は行わない。
【0014】
(荒引線の製造装置)
図1は、本実施形態に係る荒引線の製造装置1の概略図である。荒引線の製造装置1は、溶解炉2,鋳造装置3,圧延装置4及び巻取装置5から構成されている。なお、以下の説明では、“荒引線の製造装置1”を“製造装置1”と略称する場合がある。
【0015】
溶解炉2は、銅などの金属材料を加熱して溶湯を作る。溶解炉2は、炉本体と、炉本体の下方や周囲に配置されたガスバーナーとを備えている。炉本体に投入された金属材料は、ガスバーナーの熱によって融点以上の温度に加熱され、溶融する。
【0016】
溶解炉2で作られた溶湯は、鋳造装置3に供給される。鋳造装置3は、ベルトホイール式の連続鋳造装置である。鋳造装置3は、溶解炉2から供給される溶湯を冷却・固化(凝固)させて棒状(角棒状)の鋳造材7を連続的に製造する。
【0017】
鋳造装置3によって製造された鋳造材7は、圧延装置4に供給される(送り込まれる)。圧延装置4は、ローラ式の連続圧延装置である。圧延装置4は、送り込まれた鋳造材7を熱間圧延して、棒状(丸棒状)の圧延材8を連続的に製造する。例えば、圧延装置4は、外径が8.0mm~23.0mmの丸棒状の圧延材8を連続的に製造する。
【0018】
圧延装置4から送り出された圧延材8には、所定の処理や加工が施される。例えば、酸洗浄や還元洗浄などの表面浄化処理が圧延材8に対して施される。所定の処理や加工が施された圧延材8は、荒引線9として巻取装置5に引き取られる。巻取装置5は、引き取った荒引線9をらせん状に巻く。巻取装置5は“コイラー”と呼ばれることもある。
【0019】
なお、溶解炉2の上流に予熱炉が配置される場合もある。また、溶解炉2と鋳造装置3との間に保持炉が配置される場合もある。
【0020】
(鋳造装置)
鋳造装置3は、タンディッシュ11,注湯ノズル12,金型ホイール20,ベルト30,ガイドローラ40,テンションホイール50,塗布部60及び研磨部70を備えている。
【0021】
(タンディッシュ及び注湯ノズル)
タンディッシュ11は、溶解炉2から供給される溶湯を貯留する。注湯ノズル12は、タンディッシュ11に接続されており、タンディッシュ11に貯留されている溶湯を金型ホイール20の周囲に吐出する。
【0022】
注湯ノズル12は、耐火材によって形成されている。注湯ノズル12は、例えば、酸化ケイ素,炭化ケイ素または窒化ケイ素によって形成されている。なお、注湯ノズル12の先端(吐出口)には、溶湯の供給量(吐出量)を調節するための流量制御ピンが設けられている。
【0023】
(金型ホイール及びベルト)
図2A,
図2Bは、金型ホイール20及びベルト30の部分拡大断面図である。
図1に示されるように、金型ホイール20は、円筒形状または円盤形状を有する。また、
図2Aに示されるように、金型ホイール20の外周には、溝21が全周に亘って設けられている。
【0024】
図1に示されるように、ベルト30は無端ベルトである。ベルト30は、ステンレス鋼(SUS/Steel Special Use Stainless)によって形成されており、回転する金型ホイール20の外周面22の一部に接触しながら周回する。
図2Aに示されるように、ベルト30が金型ホイール20の外周面22に接触すると、金型ホイール20の周囲に鋳造空間23が形成される。より特定的には、ベルト30は、金型ホイール20の外周面22の一部に接触し、溝21の周方向一部を塞ぎながら周回する。この結果、ベルト30と当該ベルト30によって塞がれた溝21の一部とによって、金型ホイール20の周囲に鋳造空間23が形成される。別の見方をすると、金型ホイール20とベルト30との間に金型(鋳型)が形成される。
【0025】
上記のとおり、ベルト30は、金型ホイール20の溝21を塞ぐ蓋としての役割を有する。よって、ベルト30は、溝21の幅以上の幅を有している。より特定的には、
図2Aに示されている溝21の幅W1は90mmであり、ベルト30の幅W2は152mmである。なお、ベルト30の幅W2は、金型ホイール20の厚みと同一または略同一である。
【0026】
図1に示されるように、ベルト30は、複数のガイドローラ40及びテンションホイール50に掛け回されている。ベルト30は、主にテンションホイール50によって張力を与えられ、金型ホイール20の外周面22の一部に圧接しながら周回する。
【0027】
なお、
図2Bに示されるように、注湯ノズル12(
図1)から吐出される溶湯6は、上記のようして形成される鋳造空間23に供給される。つまり、
図1に示されているタンディッシュ11及び注湯ノズル12は、
図2Aに示されている鋳造空間23に溶湯6を供給する供給部10を構成している。
【0028】
金型ホイール20及びベルト30は、冷却水などによって冷却されている。したがって、これらによって形成される鋳造空間23に供給された溶湯6は、冷却され、固化(凝固)する。この結果、鋳造空間23と実質的に同一の断面形状を有する鋳造材7が連続的に製造される。本実施形態では、断面が矩形または略矩形の鋳造材7が連続的に製造される。
【0029】
(塗布部)
既述のとおり、鋳造装置3は塗布部60を備えている。より特定的には、鋳造装置3は、
図1に示される2つの塗布部61,62を備えている。塗布部61は、金型ホイール20の周囲であって、ベルト30が金型ホイール20と接触しない領域に配置されている。塗布部61は、
図2Aに示されている金型ホイール20の溝21の表面21aに、
図2Bに示されている離型剤Aを塗布する。
【0030】
再び
図1を参照する。塗布部62は、ベルト30の走行方向で隣接する2つのガイドローラ40の間の領域に配置されている。塗布部62は、
図2Aに示されているベルト30の表面30aに、
図2Bに示されている離型剤Aを塗布する。
【0031】
図2Aに示されるように、離型剤Aが塗布されるベルト30の表面30aは、金型ホイール20の外周面22に接触するベルト30の一面である。別の見方をすると、ベルト30の表面30aは、金型ホイール20の溝21と対向し、溝21を覆うベルト30の一面である。
【0032】
つまり、塗布部61,62は、溶湯6が接する金型(鋳型)の内面に離型剤Aを塗布する。より特定的には、塗布部61は、金型(鋳型)の内面の一部である溝21の表面21aに離型剤Aを塗布し、塗布部62は、金型(鋳型)の内面の他の一部であるベルト30の表面30aに離型剤Aを塗布する。塗布部61,62によって塗布される離型剤Aは、例えば、アセチレンガスを不完全燃焼させることによって発生させた煤状黒鉛(スート)である。
【0033】
(研磨部)
金型(鋳型)の内面に塗布された離型剤Aの大部分は、溶湯6に含まれる酸素と反応して消費される。しかし、離型剤Aの一部は、溝21の表面21aやベルト30の表面30aに残留する。特に、溶湯6に含まれる酸素の濃度が低いと、離型剤Aの残留量が増加する。
【0034】
この結果、鋳造装置3の稼働時間が長くなるに連れて、ベルト30の表面30aに離型剤Aが焼付いて堆積する。ベルト30の表面30aに焼付いて堆積した離型剤Aは、溶湯6の冷却を阻害する熱抵抗となる。さらに、ベルト30の表面30aに離型剤Aが焼付いて堆積していると、溶湯6の凝固速度が不均一になる。このような凝固速度の不均一は、荒引線9の品質を低下させる一因となる。
【0035】
そこで、
図1に示されている研磨部70は、ベルト30の表面30aに焼付いて堆積している離型剤Aを研磨して除去する。
図3は、研磨部材72が待機位置にあるときの研磨部70の側面図であり、
図4は、研磨部材72が待機位置にあるときの研磨部70の正面図である。
図5は、研磨部材72が作動位置にあるときの研磨部70の側面図である。
【0036】
(ベース)
研磨部70は、ベース71,研磨部材72及び押付機構73を備えている。ベース71は、フレーム74によってスライド可能に支持されている。より特定的には、ベース71は、フレーム74の上に載置されている。さらに、フレーム74の載置面には、テンションホイール50の回転軸方向に延びるガイド溝74aが設けられている。ベース71は、ガイド溝74aに沿ってフレーム74上をスライドする。
【0037】
つまり、ベース71は、テンションホイール50の回転軸方向にスライド可能である。そして、ベース71がテンションホイール50の回転軸方向一方側にスライドすると、研磨部材72がテンションホイール50に近接する。より特定的には、研磨部材72が待機位置から作動位置(テンションホイール50の上方であって、ベルト30の表面30aを研磨するために作動する位置)までスライドする。また、ベース71がテンションホイール50の回転軸方向他方側にスライドすると、研磨部材72がテンションホイール50から離間する。より特定的には、研磨部材72が作動位置から待機位置(テンションホイール50の側方に退避した位置)までスライドする。
【0038】
研磨部材72が作動位置と待機位置との間を移動可能に構成されていることにより、ベルト30を交換する等のメンテナンス作業が行いやすい。例えば、テンションホイール50にベルト30を脱着する作業などを行うときに、ベルト30と研磨部材72とが接触することを防止することができ、ベルト30を脱着する作業が行いやすい。また、研磨部70やベルト30に対してメンテナンス作業を行うときの安全性も高めることができる。
【0039】
以下の説明では、
図4に示されているベース71がテンションホイール50及びベルト30に近接する方向を“右”とし、ベース71がテンションホイール50及びベルト30から離間する方向を“左”とする。つまり、ベース71は、フレーム74上で左右にスライドする。
【0040】
なお、本実施形態のベース71は、不図示の空圧アクチュエータによって左右にスライドされるが、ベース71が手動で左右にスライドされる実施形態もある。
【0041】
(研磨部材)
研磨部材72は、フレーム74から突出しているベース71の先端部に、回動可能に吊り下げられている。より特定的には、ベース71の先端部の下面に、保持部材75がテンションホイール50の回転軸に並行な軸に対して回転可能に取り付けられている。保持部材75は、互いに直交する方向に延びる連結部76と保持部77とを備えている。より特定的には、保持部材75は、ベース71がスライドする方向に直交する方向に延びる連結部76と、ベース71がスライドする方向に平行な方向に延びる保持部77と、を備えている。
【0042】
連結部76の長手方向一端(基端)は、連結ロッド78を介してベース71の先端部に回転可能に接続されている。保持部77は、連結部76の長手方向他端(先端)に設けられ、連結部76の長手方向と直交する方向に延びている。別の見方をすると、保持部77は、連結部76の先端から左右に延びている。
【0043】
保持部材75が回転可能であることにより、作動位置においてベルト30の表面30aを研磨するときに、研磨部材72をベルト30の表面30aに接触させることができ、また、ベルト30の表面30aの研磨が終了したときに、研磨部材72をベルト30の表面30aから離間させることができる。ベルト30の表面30aからの離間距離は、
図3に示すように、研磨部材72の表面(表面30aに接触する表面)が後述するテンションホイール50のフランジ部51よりも高い位置になるように設定するとよい。これにより、研磨部材72を作動位置にスライド移動させることができ、また、ベルト30の表面30aに対して研磨が行われているかどうかを目視でも確認することができる。
【0044】
研磨部材72は、研磨剤を含有する繊維部材である。より特定的には、研磨部材72は、セラミック粒子を含有する不織布ローラである。もっとも、研磨部材72に含有される研磨剤はセラミック粒子に限られない。例えば、研磨剤はアルミナ粒子でもよい。
【0045】
研磨部材72は、保持部77の右端に配置され、回転可能に保持されている。よって、研磨部材72は、作動位置と待機位置との間を、保持部材75と一体的に左右にスライドする。また、研磨部材72は、不図示のエアモータによって回転駆動される。
【0046】
なお、
図4に示されるように、テンションホイール50は、一対のフランジ部51を備えている。一対のフランジ部51の対向間隔はベルト30の幅W2よりも僅かに広く、ベルト30は対向するフランジ部51の間を通過する。つまり、ベルト30は、一対のフランジ部51によって幅方向への移動が規制された状態でテンションホイール50を通過する。
【0047】
(押付機構)
押付機構73は、研磨部材72を移動可能な空圧アクチュエータ80を備えている。空圧アクチュエータ80は、エアシリンダ81及びシリンダロッド82から構成されている。エアシリンダ81の上部は、ベース71の先端部から上方に向かって突出している取付部83に回転可能に取り付けられている。シリンダロッド82は、エアシリンダ81に供給される圧縮空気の圧力により、エアシリンダ81に対して伸縮する。より特定的には、シリンダロッド82は、エアシリンダ81に供給される圧縮空気の圧力によって、エアシリンダ81から押し出され、または、エアシリンダ81に引き込まれる。
【0048】
シリンダロッド82の先端は、保持部材75に連結されている。より特定的には、シリンダロッド82の先端は、連結具84を介して保持部材75の連結部76の上面に連結されている。
【0049】
この結果、保持部材75は、空圧アクチュエータ80によって回転駆動される。より特定的には、保持部材75は、連結ロッド78を回転軸として回転駆動される。別の見方をすると、保持部材75は、空圧アクチュエータ80によって上げ下げされる。そして、保持部材75が上下動すると、保持部材75によって保持されている研磨部材72も上下動する。
【0050】
例えば、シリンダロッド82が伸びると、保持部材75及び研磨部材72が降下してテンションホイール50に近接する。一方、シリンダロッド82が縮むと、保持部材75及び研磨部材72が上昇してテンションホイール50から離間する。
【0051】
(研磨部の動作)
既述のとおり、空圧アクチュエータ80及び保持部材75が取り付けられているベース71は、左右にスライドする。また、研磨部材72は、保持部材75と一体的に左右にスライドする。さらに、研磨部材72は、保持部材75と一体的に上下動する。
【0052】
別の見方をすると、保持部材75及び研磨部材72は、ベルト30が掛け回されているテンションホイール50に近接する方向とテンションホイール50から離間する方向とに直動可能である。また、保持部材75及び研磨部材72は、ベルト30が掛け回されているテンションホイール50に近接する方向とテンションホイール50から離間する方向とに回動可能である。
【0053】
例えば、
図3,
図4に示されているベース71を右側にスライドさせると、テンションホイール50の上方に研磨部材72が移動する。次いで、空圧アクチュエータ80のシリンダロッド82を伸ばすと、
図5に示されるように、研磨部材72がテンションホイール50に近接する。その後、シリンダロッド82をさらに伸ばすと、テンションホイール50に掛け回されているベルト30の表面30aに焼付いて堆積している離型剤A(
図4)に研磨部材72が押し付けられ、離型剤Aが研磨される。
【0054】
ここで、空圧アクチュエータ80のエアシリンダ81に供給する圧縮空気の圧力を上げると、研磨部材72を離型剤Aに押し付ける力が強まる。一方、空圧アクチュエータ80のエアシリンダ81に供給する圧縮空気の圧力を下げると、研磨部材72を離型剤Aに押し付ける力が弱まる。つまり、エアシリンダ81に供給する圧縮空気の圧力を増減させることにより、研磨部材72を離型剤Aに押し付ける力を調節することができる。別の見方をすると、エアシリンダ81に供給する圧縮空気の圧力を増減させることにより、離型剤Aの研磨量を調節することができる。
【0055】
上記のように、研磨部材72は、テンションホイール50上でベルト30の表面30aに焼付いて堆積している離型剤Aに接触する。別の見方をすると、研磨部材72は、ベルト30がテンションホイール50を通過する際に、当該ベルト30の表面30aに焼付いて堆積している離型剤Aに接触して離型剤Aを研磨する。したがって、
図4に示されてる研磨部材72の幅W3は、対向する一対のフランジ部51の間に進入可能な幅であることが求められる。
【0056】
さらに、離型剤Aを均一に研磨するためには、研磨部材72を離型剤Aの全面に接触させる必要がある。したがって、研磨部材72の幅W3は、ベルト30の表面30aに焼付いて堆積している離型剤Aの幅W4と同一か、それよりも広いことが求められる。
【0057】
ここで、
図4に示されている離型剤Aは、
図2Bに示されている鋳造空間23に供給された溶湯6の熱でベルト30の表面30aに焼付いたものである。したがって、
図4に示されている離型剤Aの幅W4は、
図2Aに示されている金型ホイール20の溝21の幅W1と一致する(W4=W1)。少なくとも、離型剤Aの幅W4は、溝21の幅W1よりも狭い。
【0058】
上記のような要求や状況を踏まえ、
図4に示されている研磨部材72の幅W3は、金型ホイール20の溝21の幅W1以上であり、かつ、ベルト30の幅W2未満とされている(W1≦W3<W2)。別の見方をすると、研磨部材72の幅W3は、離型剤Aの幅W4以上であり、かつ、ベルト30の幅W2未満とされている(W4≦W3<W2)。
【0059】
より特定的には、
図4に示されている研磨部材72の幅W3は、90mm~140mmである。なお、既述のとおり、金型ホイール20の溝21の幅W1は90mmであり、ベルト30の幅W2は152mmである。金型ホイール20の溝21の幅W1、ベルト30の幅W2は、W1≦W3<W2を満たす範囲内で変更が可能である。
【0060】
上記条件を満たす幅W3を有する研磨部材72をベルト30の表面30aに堆積している離型剤Aに適度な力で押し付けることにより、ベルト30の表面30aを傷付けることなく、離型剤Aを均一に研磨することができる。
【0061】
(荒引線の製造方法)
次に、
図1に示されている製造装置1を用いて荒引線9を製造する方法の一例について説明する。
図6に示されるように、本実施形態に係る荒引線の製造方法は、鋳造工程,圧延工程及び巻取工程を少なくとも含んでいる。なお、以下の説明では、“荒引線の製造方法”を“製造方法”と略称する場合がある。
【0062】
図6に示されている鋳造工程は、主に
図1に示されている鋳造装置3によって行われる。同様に、圧延工程は主に圧延装置4によって行われ、巻取工程は主に巻取装置5によって行われる。
【0063】
もっとも、圧延工程及び巻取工程の内容は、公知の同種工程と同一または実質的に同一である。また、圧延工程を行う圧延装置4や巻取工程を行う巻取装置5の動作は、既に説明したとおりである。
【0064】
そこで、圧延工程及び巻取工程についての説明は省略し、鋳造工程についてのみ説明する。
図6に示されるように、鋳造工程は、塗布工程,供給工程及び研磨工程を少なくとも含んでいる。
【0065】
(塗布工程)
塗布工程では、金型ホイール20の溝21の表面21aやベルト30の表面30aに離型剤Aが塗布される。より特定的には、塗布部61によって溝21の表面21aに離型剤Aが塗布され、塗布部62によってベルト30の表面30aに離型剤Aが塗布される。離型剤Aとしては、例えば煤状黒鉛(スート)が用いられる。
【0066】
(供給工程)
供給工程では、溶解炉2で作られた溶湯6が供給部10を介して鋳造空間23に供給される。例えば、銅を溶融させた銅溶湯が供給部10を介して鋳造空間23に供給される。なお、供給部10がタンディッシュ11及び注湯ノズル12によって構成されていることは既述のとおりである。また、鋳造空間23が金型ホイール20と、金型ホイール20に接触しながら周回するベルト30とによって形成されることも既述のとおりである。
【0067】
(研磨工程)
研磨工程では、ベルト30の表面30aに焼付いて堆積している離型剤Aが研磨される。より特定的には、ベルト30の表面30aにおいて離型剤Aの焼付きが発生したときに、研磨部材72が待機位置から作動位置に移動され、研磨部材72がベルト30の表面30aに焼付いて堆積している離型剤Aに押し付けられる。なお、研磨工程がテンションホイール50上で行われることは既述のとおりである。
【0068】
なお、研磨工程の後、離型剤Aが除去されたベルト30の表面30aは、高圧洗浄水によって洗浄される。
【0069】
研磨工程では、ベルト30を1周させる。つまり、研磨部材72をベルト30の全周に接触させる。別の見方をすると、本実施形態に係る製造装置1では、ベルト30を2周以上させなくとも、離型剤Aを必要十分に研磨することができる。もっとも、研磨工程でベルト30を2周以上させることが排除されるものではない。
【0070】
(押圧力の調整)
研磨工程では、研磨部材72を離型剤Aに押し付ける力(押圧力)が必要に応じて調節される。押圧力の調節は、空圧アクチュエータ80に供給する圧縮空気の圧力を増減させることによって実現される。より特定的には、圧縮空気の供給源(例えば、エアコンプレッサ)とエアシリンダ81とを繋ぐ流路上に設けられているバルブを操作して、エアシリンダ81に供給される圧縮空気の圧力を調節する。例えば、研磨部材72の回転が停止しない範囲内で最大の押圧力が得られるように、エアシリンダ81に供給される圧縮空気の圧力を調節する。
【0071】
なお、必要とする押圧力が得られるようにエアシリンダ81に供給される圧縮空気の圧力を調節した結果、研磨部材72の回転が停止してしまう場合もある。この場合、研磨部材72の回転駆動源であるエアモータに供給される圧縮空気の圧力を増大させる。つまり、研磨部材72の回転トルクを増大させる。
【0072】
供給工程と塗布工程とは同時並行的に連続して行われる。一方、研磨工程は、定期的に、または必要に応じて行われる。研磨工程は、例えば、ベルト30の表面30aにおける離型剤Aの堆積状況に応じて行われる。また、研磨工程は、例えば、荒引線9の表面における傷の有無や程度に応じて行われる。離型剤Aの堆積状況は、例えば、目視や膜厚計によって確認する。荒引線9の表面における傷の有無や程度は、例えば、探傷器によって確認する。
【0073】
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。例えば、研磨部70に複数の研磨部材72が設けられる実施形態もある。より特定的には、ベルト30の幅方向に沿って並ぶ複数の研磨部材72が研磨部70に設けられる実施形態もある。この場合、それぞれの研磨部材72の位置をベルト30の走行方向で互いに異ならせてもよい。また、それぞれの研磨部材72を離型剤Aに押し付ける力(押圧力)を個別に調節可能としてもよい。なお、研磨部70に複数の研磨部材72が設けられる実施形態では、各研磨部材72の幅の合計が
図4に示されている幅W3に相当する。
【0074】
溝21の幅W1,ベルト30の幅W2及び研磨部材72の幅W3は、適宜に変更することができる。また、離型剤Aの幅W4は、溝21の幅W1の変更に応じて変化する。
【0075】
ベルト30は、スチールベルトに置換することができる。例えば、ベルト30は、冷間圧延鋼板(SPCC/Steel Plate Cold Commercial)によって形成された他のベルトに置換することができる。
【0076】
もっとも、SUSベルトは、スチールベルトに比べて、ヒートショックによる伸びが発生しにくいというメリットがある反面、研磨傷が付きやすいというデメリットがある。よって、ベルトを傷付けることなく離型剤を均一に研磨することができる本発明は、SUSベルトを備える鋳造装置やそれを用いた荒引線の製造装置または製造方法に適用した場合に特に有用である。
【符号の説明】
【0077】
1…製造装置、2…溶解炉、3…鋳造装置、4…圧延装置、5…巻取装置、6…溶湯、7…鋳造材、8…圧延材、9…荒引線、10…供給部、11…タンディッシュ、12…注湯ノズル、20…金型ホイール、21…溝、21a…表面、22…外周面、23…鋳造空間、30…ベルト、30a…表面、40…ガイドローラ、50…テンションホイール、51…フランジ部、60,61,62…塗布部、70…研磨部、71…ベース、72…研磨部材、73…押付機構、74…フレーム、74a…ガイド溝、75…保持部材、76…連結部、77…保持部、78…連結ロッド、80…空圧アクチュエータ、81…エアシリンダ、82…シリンダロッド、83…取付部、84…連結具、A…離型剤、W1,W2,W3,W4…幅