(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024135081
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】炭化水素樹脂エマルションおよび粘接着剤組成物
(51)【国際特許分類】
C08F 236/04 20060101AFI20240927BHJP
C08L 9/00 20060101ALI20240927BHJP
C09J 109/04 20060101ALI20240927BHJP
C09J 11/08 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
C08F236/04
C08L9/00
C09J109/04
C09J11/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023045594
(22)【出願日】2023-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】弁理士法人とこしえ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】丸山 祥史
【テーマコード(参考)】
4J002
4J040
4J100
【Fターム(参考)】
4J002AC021
4J002GJ01
4J002HA07
4J040CA011
4J040DA132
4J040DK002
4J040JA03
4J040JB09
4J040KA26
4J040LA01
4J040LA02
4J100AA04S
4J100AA06R
4J100AA08T
4J100AR04Q
4J100AR17T
4J100AR22T
4J100AS04P
4J100CA03
4J100DA01
4J100DA04
4J100DA23
4J100DA29
4J100DA39
4J100DA44
4J100FA03
4J100FA19
4J100FA28
4J100JA03
(57)【要約】 (修正有)
【課題】接着性能に優れた粘接着剤組成物を与えることのできる炭化水素樹脂エマルションを提供すること。
【解決手段】脂肪族単量体単位、または脂肪族単量体単位および芳香族単量体単位を含む炭化水素樹脂のエマルションであって、前記炭化水素樹脂は、数平均分子量(Mn)が300~3000の範囲内であり、重量平均分子量(Mw)が500~6500の範囲内であり、Z平均分子量が1000~20000の範囲内であり、数平均分子量に対する重量平均分子量の比(Mw/Mn)が1.0~4.0の範囲内であり、重量平均分子量に対するZ平均分子量の比(Mz/Mw)が1.0~4.0の範囲内であり、分子量500以下である重合体の含有割合が3~50質量%であり、軟化点が50℃以上であり、酸価が0-20mgKOH/gであり、メチルシクロヘキサン混合アニリン点が60℃以上である、炭化水素樹脂エマルションを提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪族単量体単位、または脂肪族単量体単位および芳香族単量体単位を含む炭化水素樹脂のエマルションであって、
前記炭化水素樹脂は、
数平均分子量(Mn)が300~3000の範囲内であり、
重量平均分子量(Mw)が500~6500の範囲内であり、
Z平均分子量が1000~20000の範囲内であり、
数平均分子量に対する重量平均分子量の比(Mw/Mn)が1.0~4.0の範囲内であり、
重量平均分子量に対するZ平均分子量の比(Mz/Mw)が1.0~4.0の範囲内であり、
分子量500以下である重合体の含有割合が3~50質量%であり、
軟化点が50℃以上であり、
酸価が0~20mgKOH/gであり、
メチルシクロヘキサン混合アニリン点が60℃以上である、
炭化水素樹脂エマルション。
【請求項2】
前記炭化水素樹脂は、
1,3-ペンタジエン単量体単位25~70質量%、
炭素数4~6の脂環式モノオレフィン単量体単位1~50質量%、
炭素数4~8の非環式モノオレフィン単量体単位0~50質量%、
脂環式ジオレフィン単量体単位0~10質量%、および
芳香族モノオレフィン単量体単位0~15質量%を含む、
請求項1に記載の炭化水素樹脂エマルション。
【請求項3】
固形分濃度が30~60質量%である請求項1に記載の炭化水素樹脂エマルション。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載の炭化水素樹脂エマルションと、ジエン系ゴムとを含む粘接着剤組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化水素樹脂エマルション、および該炭化水素樹脂エマルションを含有する粘接着剤組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
モノオレフィン性不飽和炭化水素や鎖状共役ジオレフィンなどの脂肪族単量体や、必要に応じて、芳香族単量体を共重合することにより得られる炭化水素樹脂や石油系樹脂が知られており、このような炭化水素樹脂や石油系樹脂は、たとえば、粘接着剤組成物を形成するための粘着付与樹脂などとして用いられている。
【0003】
たとえば、特許文献1では、軟化点80~160℃の石油系樹脂のみを、無溶剤下で、全乳化剤成分の80重量%以上が高分子量乳化剤である乳化剤により、1~2.8MPaの加圧下で水中に分散させて得られる粘着付与樹脂エマルションが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方で、特許文献1に開示の粘着付与樹脂エマルションを用いた場合には、接着性能が必ずしも十分ではないという課題があった。
【0006】
本発明は、このような実状に鑑みてなされたものであり、接着性能に優れた粘接着剤組成物を与えることのできる炭化水素樹脂エマルションを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記目的を達成すべく検討を行ったところ、数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、Z平均分子量(Mz)、数平均分子量に対する重量平均分子量の比(Mw/Mn)、重量平均分子量に対するZ平均分子量の比(Mz/Mw)、分子量500以下である重合体の含有割合、軟化点、酸価、およびメチルシクロヘキサン混合アニリン点が特定の範囲にある炭化水素樹脂のエマルションによれば、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明によれば、以下の発明が提供される。
【0009】
[1]脂肪族単量体単位、または脂肪族単量体単位および芳香族単量体単位を含む炭化水素樹脂のエマルションであって、
前記炭化水素樹脂は、
数平均分子量(Mn)が300~3000の範囲内であり、
重量平均分子量(Mw)が500~6500の範囲内であり、
Z平均分子量が1000~20000の範囲内であり、
数平均分子量に対する重量平均分子量の比(Mw/Mn)が1.0~4.0の範囲内であり、
重量平均分子量に対するZ平均分子量の比(Mz/Mw)が1.0~4.0の範囲内であり、
分子量500以下である重合体の含有割合が3~50質量%であり、
軟化点が50℃以上であり、
酸価が0~20mgKOH/gであり、
メチルシクロヘキサン混合アニリン点が60℃以上である、
炭化水素樹脂エマルション。
【0010】
[2]前記炭化水素樹脂は、
1,3-ペンタジエン単量体単位25~70質量%、
炭素数4~6の脂環式モノオレフィン単量体単位1~50質量%、
炭素数4~8の非環式モノオレフィン単量体単位0~50質量%、
脂環式ジオレフィン単量体単位0~10質量%、および
芳香族モノオレフィン単量体単位0~15質量%を含む、
[1]に記載の炭化水素樹脂エマルション。
【0011】
[3]固形分濃度が30~60質量%である[1]または[2]に記載の炭化水素樹脂エマルション。
【0012】
[4][1]~[3]のいずれかに記載の炭化水素樹脂エマルションと、ジエン系ゴムとを含む粘接着剤組成物。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、接着性能に優れた粘接着剤組成物を与えることのできる炭化水素樹脂エマルションを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<炭化水素樹脂エマルション>
本発明の炭化水素樹脂エマルションは、脂肪族単量体単位、または脂肪族単量体単位および芳香族単量体単位を含む炭化水素樹脂のエマルションであって、
前記炭化水素樹脂が、
数平均分子量(Mn)が300~3000の範囲内であり、
重量平均分子量(Mw)が500~6500の範囲内であり、
Z平均分子量が1000~20000の範囲内であり、
数平均分子量に対する重量平均分子量の比(Mw/Mn)が1.0~4.0の範囲内であり、
重量平均分子量に対するZ平均分子量の比(Mz/Mw)が1.0~4.0の範囲内であり、
分子量500以下である重合体の含有割合が3~50質量%であり、
軟化点が50℃以上であり、
酸価が0~20mgKOH/gであり、
メチルシクロヘキサン混合アニリン点が60℃以上であるものである。
【0015】
(炭化水素樹脂)
本発明で用いる炭化水素樹脂は、少なくとも脂肪族単量体単位を含有するものであればよく、脂肪族単量体単位に加えて、芳香族単量体単位を含むものであってもよい。
【0016】
まず、本発明で用いる炭化水素樹脂に含まれる脂肪族単量体単位について説明する。
脂肪族単量体単位を形成するための脂肪族単量体としては、芳香環を含まず、不飽和炭化水素を少なくとも含むものであればよく、このような脂肪族単量体としては、たとえば、1,3-ペンタジエン、炭素数4~6の脂環式モノオレフィン単量体、イソプレン、炭素数4~8の非環式モノオレフィン単量体、脂環式ジオレフィン単量体等を挙げることができる。また、本発明においては、これらの脂肪族単量体が含まれる混合物を、炭化水素樹脂を製造する際の重合反応系に添加してもよい。この際、混合物に含まれる脂肪族単量体は、炭化水素樹脂を構成する単量体単位の成分として用いられる。なお、混合物に含まれる脂肪族単量体以外の付加重合性成分も炭化水素樹脂の単量体単位の構成成分として用い、非付加重合性成分は重合時の溶媒として用いるようにすることもできる。このような脂肪族単量体が含まれる混合物としては、たとえば、脂肪族単量体として1,3-ペンタジエン、シクロペンテン、イソブチレンなどを含むC5留分を好適に用いることができる。
【0017】
炭化水素樹脂は、脂肪族単量体単位として、1,3-ペンタジエン単量体単位、炭素数4~6の脂環式モノオレフィン単量体単位を含むことが好ましく、これらに加えて、炭素数4~8の非環式モノオレフィン単量体単位や、脂環式ジオレフィン単量体単位をさらに含んでもよい。
【0018】
炭化水素樹脂中における、1,3-ペンタジエン単量体単位の含有量は、特に限定されないが、好ましくは25~70質量%であり、より好ましくは30~65質量%、さらに好ましくは35~62質量%、特に好ましくは41~58質量%である。1,3-ペンタジエン単量体単位の含有量を上記範囲とすることにより、粘接着剤組成物とした場合に、接着性能により優れたものとすることができる。なお、1,3-ペンタジエンにおけるシス/トランス異性体比は任意の比でよく、特に限定されない。
【0019】
炭素数4~6の脂環式モノオレフィン単量体単位を形成する炭素数4~6の脂環式モノオレフィンは、その分子構造中にエチレン性不飽和結合を1つと非芳香族性の環構造とを有する炭素数が4~6の炭化水素化合物である。炭素数4~6の脂環式モノオレフィンの具体例としては、シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘキセン、メチルシクロブテン、メチルシクロペンテンなどが挙げられる。
【0020】
炭化水素樹脂中における、炭素数4~6の脂環式モノオレフィン単量体単位の含有量は、特に限定されないが、好ましくは1~50質量%であり、より好ましくは10~45質量%、さらに好ましくは15~40質量%、さらにより好ましくは20~36質量%、特に好ましくは25~32質量%である。炭素数4~6の脂環式モノオレフィン単量体単位の含有量を上記範囲とすることにより、粘接着剤組成物とした場合に、接着性能により優れたものとすることができる。
【0021】
なお、炭素数4~6の脂環式モノオレフィンとしては、これに該当する各化合物の割合は任意の割合でよく、特に限定されないが、少なくともシクロペンテンが含まれていることが好ましく、炭素数4~6の脂環式モノオレフィン中にシクロペンテンの占める割合が50質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることがさらに好ましく、100質量%であることが特に好ましい。
【0022】
炭素数4~8の非環式モノオレフィン単量体単位を形成する炭素数4~8の非環式モノオレフィンは、その分子構造中にエチレン性不飽和結合1つを有し、環構造を有さない炭素数が4~8の鎖状炭化水素化合物である。炭素数4~8の非環式モノオレフィンの具体例としては、1-ブテン、2-ブテン、イソブチレン(2-メチルプロペン)などのブテン類;1-ペンテン、2-ペンテン、2-メチル-1-ブテン、3-メチル-1-ブテン、2-メチル-2-ブテンなどのペンテン類;1-ヘキセン、2-ヘキセン、2-メチル-1-ペンテンなどのヘキセン類;1-ヘプテン、2-ヘプテン、2-メチル-1-ヘキセンなどのヘプテン類;1-オクテン、2-オクテン、2-メチル-1-ヘプテン、ジイソブチレン(2,4,4-トリメチル-1-ペンテンおよび2,4,4-トリメチル-1-ペンテン)などのオクテン類;などを挙げることができる。
【0023】
炭化水素樹脂中における、炭素数4~8の非環式モノオレフィン単量体単位の含有量は、特に限定されないが、好ましくは0~50質量%であり、より好ましくは5~40質量%、さらに好ましくは10~30質量%、特に好ましくは13~20質量%である。炭素数4~8の非環式モノオレフィン単量体単位の含有量を上記範囲とすることにより、粘接着剤組成物とした場合に、接着性能により優れたものとすることができる。
【0024】
なお、炭素数4~8の非環式モノオレフィンとしては、これに該当する各化合物(異性体を含む)の割合は任意の割合でよく、特に限定されないが、少なくとも2-メチル-2-ブテン、イソブチレン、およびジイソブチレンからなる群から選択される少なくとも1種が含まれることが好ましく、炭素数4~8の非環式モノオレフィン中に2-メチル-2-ブテン、イソブチレン、およびジイソブチレンの合計量が占める割合が50質量%以上であることがより好ましい。
【0025】
脂環式ジオレフィン単量体単位を形成する脂環式ジオレフィンは、その分子構造中に、2つ以上のエチレン性不飽和結合と非芳香族性の環構造とを有する炭化水素化合物である。脂環式ジオレフィンの具体例としては、シクロペンタジエン、ジシクロペンタジエンなどのシクロペンタジエンの多量体、メチルシクロペンタジエン、メチルシクロペンタジエンの多量体などが挙げられる。
【0026】
炭化水素樹脂中における、脂環式ジオレフィン単量体単位の含有量は、特に限定されないが、好ましくは0~10質量%であり、より好ましくは0.05~6質量%、さらに好ましくは0.1~4質量%、特に好ましくは0.15~2質量%である。脂環式ジオレフィン単量体単位の含有量を上記範囲とすることにより、粘接着剤組成物とした場合に、接着性能により優れたものとすることができる。
【0027】
また、本発明の製炭化水素樹脂は、1,3-ペンタジエン単量体単位、炭素数4~6の脂環式モノオレフィン単量体単位、イソプレン単量体単位、炭素数4~8の非環式モノオレフィン単量体単位、および脂環式ジオレフィン単量体単位以外の、その他の単量体単位を含んでいてもよい。
【0028】
このようなその他の単量体単位を形成するその他の単量体は、1,3-ペンタジエンなどと付加共重合され得る付加重合性を有する化合物であれば、特に限定されない。このようなその他の単量体としては、たとえば、1,3-ブタジエン、1,2-ブタジエン、1,3-ヘキサジエン、1,4-ペンタジエンなどの1,3-ペンタジエンおよびイソプレン以外の炭素数4~6の不飽和炭化水素;シクロヘプテンなどの炭素数7以上の脂環式モノオレフィン;エチレン、プロピレン、ノネンなどの炭素数4~8以外の非環式モノオレフィン;等が挙げられる。
【0029】
炭化水素樹脂中における、その他の単量体単位の含有量は、通常、0質量%~30質量%の範囲であり、好ましくは0~25質量%、より好ましくは0~20質量%である。
【0030】
炭化水素樹脂中における、脂肪族単量体単位の炭化水素樹脂中の含有量は、特に限定されないが、好ましくは50質量%以上であり、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上、特に好ましくは90質量%以上である。
【0031】
本発明で用いる炭化水素樹脂は、脂肪族単量体単位に加えて、芳香族単量体単位を含むものであってもよい。芳香族単量体単位を形成するための芳香族単量体としては、芳香環を有し、脂肪族単量体と共重合することができるものであればよく、たとえば、芳香族モノオレフィン単量体が挙げられる。また、本発明においては、芳香族モノオレフィン単量体などの芳香族単量体が含まれる混合物を、炭化水素樹脂を製造する際の重合反応系に添加してもよい。この際、混合物に含まれる芳香族単量体は、炭化水素樹脂を構成する単量体単位の成分として用いられる。なお、混合物に含まれる芳香族単量体以外の付加重合性成分も炭化水素樹脂の単量体単位の構成成分として用い、非付加重合性成分は重合時の溶媒として用いるようにすることもできる。このような芳香族単量体が含まれる混合物としては、たとえば、芳香族単量体としてスチレン化合物、インデン化合物などを含むC9留分を好適に用いることができる。
【0032】
芳香族モノオレフィン単量体は、その分子構造中にエチレン性不飽和結合1つを有する芳香族化合物である。芳香族モノオレフィンの具体例としては、スチレン、α-メチルスチレン、β-メチルスチレン、ビニルトルエンなどのスチレン化合物;インデン、1-メチルインデンなどのインデン化合物;クマロンなどが挙げられる。
【0033】
炭化水素樹脂中における、芳香族モノオレフィン単量体単位の含有量は、特に限定されないが、好ましくは0~15質量%であり、より好ましくは0~13質量%、さらに好ましくは0~11質量%、特に好ましくは0~10質量%である。芳香族モノオレフィン単量体単位の含有量を上記範囲とすることにより、粘接着剤組成物とした場合に、接着性能により優れたものとすることができる。
【0034】
本発明で用いる炭化水素樹脂の数平均分子量(Mn)は、300~3000の範囲であり、好ましくは500~2800の範囲、より好ましくは900~2600の範囲、さらに好ましくは1100~2500の範囲である。また、本発明で用いる炭化水素樹脂の重量平均分子量(Mw)は、500~6500の範囲であり、好ましくは1000~5000の範囲、より好ましくは1800~4500の範囲、さらに好ましくは2200~4100の範囲である。また、本発明で用いる炭化水素樹脂のZ平均分子量(Mz)は、1000~20000の範囲であり、好ましくは2000~16000の範囲、より好ましくは3000~12000の範囲、さらに好ましくは4000~9500の範囲である。
【0035】
本発明で用いる炭化水素樹脂の数平均分子量に対する重量平均分子量の比(Mw/Mn)は、1.0~4.0の範囲であり、好ましくは1.3~3.0の範囲、より好ましくは1.6~2.6の範囲、さらに好ましくは1.8~2.3の範囲である。また、本発明で用いる炭化水素樹脂の重量平均分子量に対するZ平均分子量の比(Mz/Mw)は、1.0~4.0の範囲であり、好ましくは1.3~3.0の範囲であり、より好ましくは1.5~2.7の範囲、さらに好ましくは1.7~2.4の範囲である。
【0036】
炭化水素樹脂の数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、Z平均分子量(Mz)、数平均分子量に対する重量平均分子量の比(Mw/Mn)および重量平均分子量に対するZ平均分子量の比(Mz/Mw)を上記範囲とすることにより粘接着剤組成物とした場合に、ベースポリマーとの相溶性を高めることができ、これにより、粘着性能に優れたものとすることができる。
【0037】
炭化水素樹脂の数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、Z平均分子量(Mz)、数平均分子量に対する重量平均分子量の比(Mw/Mn)および重量平均分子量に対するZ平均分子量の比(Mz/Mw)は、テトラヒドロフランを展開溶媒として用い、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー測定による、ポリスチレン換算の値として求めることができる。
【0038】
また、本発明においては、炭化水素樹脂の数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、Z平均分子量(Mz)、数平均分子量に対する重量平均分子量の比(Mw/Mn)および重量平均分子量に対するZ平均分子量の比(Mz/Mw)を上記範囲とすることに加え、分子量500以下である重合体の含有割合を3~50質量%とすることで、粘接着剤組成物とした場合における粘着性能に優れたもの(より具体的には、剥離接着力、ループタック力および保持力にバランスよく優れたもの)とすることができるものである。分子量500以下である重合体の含有割合が少なすぎると、ループタック力に劣るものとなってしまい、分子量500以下である重合体の含有割合が大きすぎると、剥離接着力および保持力に劣るものとなってしまう。分子量500以下である重合体の含有割合は、好ましくは4~25質量%、より好ましくは7~15質量%、さらに好ましくは8.5~12質量%である。なお、分子量500以下である重合体の含有割合は、たとえば、炭化水素樹脂中に含まれる、炭素数4~8の非環式モノオレフィン単量体単位中に占める、2-メチル-2-ブテン、イソブチレン、およびジイソブチレンに由来の単位の量や、芳香族モノオレフィン単量体単位の量を調整することにより、制御することができる。なお、分子量500以下である重合体の含有割合は、テトラヒドロフランを展開溶媒として用い、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー測定による、ポリスチレン換算の値として求めることができる。
【0039】
また、本発明で用いる炭化水素樹脂の軟化点は、50℃以上であり、好ましくは70~150℃の範囲、より80~120℃の範囲、さらに好ましくは90~110℃の範囲である。軟化点を上記範囲とすることにより、軟化点を上記範囲とすることにより、粘接着剤組成物用途に用いた場合に、ベースポリマーとの相溶性を高めることができ、これにより、粘着性能を高めることができる。炭化水素樹脂の軟化点は、JIS K6863に準拠して測定することができる。
【0040】
本発明で用いる炭化水素樹脂の酸価は、0~20mgKOH/gであり、好ましくは0~15mgKOH/gであり、より好ましくは0~12mgKOH/gである。酸価が高すぎると、ベースポリマーとの相溶性が低下し、粘着性能が低下してしまう。炭化水素樹脂の酸価は、たとえば、酸変性反応の有無や、酸変性反応による酸変性基の量により調整することができる。なお、炭化水素樹脂の酸価は、たとえば、JIS K0070に準拠して測定することができる。
【0041】
本発明で用いる炭化水素樹脂のメチルシクロヘキサン混合アニリン点は、60℃以上であり、好ましくは65℃以上であり、より好ましくは70℃以上であり、さらに好ましくは83℃以上である。メチルシクロヘキサン混合アニリン点の上限は、特に限定されないが、好ましくは120℃以下である。メチルシクロヘキサン混合アニリン点が低すぎると、ベースポリマーとの相溶性が低下し、粘着性能が低下してしまう。なお、メチルシクロヘキサン混合アニリン点は、たとえば、芳香族単量体単位の含有割合を調整する方法や、炭化水素樹脂の酸価を調整する方法などにより制御することができる。炭化水素樹脂のメチルシクロヘキサン混合アニリン点は、たとえば、JIS K2256に準拠して測定することができる。
【0042】
(炭化水素樹脂の製造方法)
本発明で用いる炭化水素樹脂を製造する方法としては、特に限定されないが、炭化水素樹脂を構成するための単量体混合物を、付加重合する方法が挙げられ、たとえば、フリーデルクラフツ型のカチオン重合触媒を用いた付加重合による方法が好適に挙げられる。
【0043】
フリーデルクラフツ型のカチオン重合触媒としては、特に限定されないが、アルミニウム、鉄、タンタル、ジルコニウム、スズ、ベリリウム、ホウ素、アンチモン、ガリウム、ビスマス、モリブデンなどのハロゲン化物を挙げることができるが、これらのなかでも、塩化アルミニウム(AlCl3)や臭化アルミニウム(AlBr3)などのハロゲン化アルミニウムが好適である。フリーデルクラフツ型のカチオン重合触媒の使用量は、重合に使用する単量体混合物100質量部に対し、好ましくは、0.05~10質量部、より好ましくは0.1~5質量部、さらに好ましくは0.5~2.5質量部、特に好ましくは0.8~2.0質量部である。
【0044】
また、重合に際しては、触媒活性をより高めることができるという点より、フリーデルクラフツ型のカチオン重合触媒に加えて、ハロゲン化炭化水素を併用してもよい。
【0045】
ハロゲン化炭化水素の具体例としては、t-ブチルクロライド、t-ブチルブロマイド、2-クロロ-2-メチルブタン、トリフェニルメチルクロライドなどの3級炭素原子にハロゲン原子が結合したハロゲン化炭化水素;ベンジルクロライド、ベンジルブロマイド、(1-クロロエチル)ベンゼン、アリルクロライド、3-クロロ-1-プロピン、3-クロロ-1-ブテン、3-クロロ-1-ブチン、ケイ皮クロライドなどの炭素-炭素不飽和結合に隣接する炭素原子にハロゲン原子が結合したハロゲン化炭化水素;などが挙げられる。これらのなかでも、触媒活性と取り扱い性とのバランスに優れるという観点より、t-ブチルクロライド、ベンジルクロライドが好ましい。ハロゲン化炭化水素は、1種単独で用いてもよいし、あるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。ハロゲン化炭化水素の使用量は、フリーデルクラフツ型のカチオン重合触媒に対するモル比で、好ましくは0.05~50の範囲、より好ましくは0.1~10の範囲である。
【0046】
また、重合反応をより良好に制御する観点からは、重合反応系に揮発性溶媒を添加して、重合反応を行うことが好ましい。揮発性溶媒の種類は、重合反応を阻害しないものであれば特に制限はないが、飽和脂肪族炭化水素または芳香族炭化水素が好適である。飽和脂肪族炭化水素としては、たとえば、n-ペンタン、n-ヘキサン、2-メチルペンタン、3-メチルペンタン、n-ヘプタン、2-メチルヘキサン、3-メチルヘキサン、3-エチルペンタン、2,2-ジメチルペンタン、2,3-ジメチルペンタン、2,4-ジメチルペンタン、3,3-ジメチルペンタン、2,2,3-トリメチルブタン、2,2,4-トリメチルペンタンなどの炭素数5~10の鎖状飽和脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタンなどの炭素数5~10の環状飽和脂肪族炭化水素;などが挙げられる。芳香族炭化水素としては、たとえば、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの炭素数6~10の芳香族炭化水素;などが挙げられる。揮発性溶媒は、1種単独で用いてもよいし、あるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。揮発性溶媒の使用量は、特に限定されないが、重合に使用する単量体混合物100質量部に対して、好ましくは10~1,000質量部、より好ましくは25~500質量部である。
【0047】
重合反応を行うに当たり、単量体混合物や重合触媒のそれぞれの成分を重合反応器に添加する順序は特に限定されず、任意の順で添加すればよいが、重合反応を良好に制御するという観点や、分子量500以下である重合体の含有割合を制御するという観点より、揮発性溶媒中に、重合触媒を予め添加し、混合することで、重合触媒を揮発性溶媒中に分散させた状態とし、ここに、単量体混合物を重合反応器に添加して、重合反応を開始する方法が好ましい。
【0048】
揮発性溶媒中に、重合触媒を予め添加し、混合する際には、揮発性溶媒中において重合触媒の凝集等が部分的に残存するような状態となるような条件とすることが好ましく、混合温度は、好ましくは45~85℃であり、より好ましくは55~80℃であり、混合時間は、好ましくは10秒~4分、より好ましくは30秒~3分である。
【0049】
重合反応を行う際の重合温度は、特に限定されないが、好ましくは50~90℃、より好ましくは55~85℃、さらに好ましくは55~80℃である。また、重合反応時間は、適宜選択すればよいが、通常10分~12時間、好ましくは30分~6時間である。
【0050】
重合反応は、所望の重合転化率が得られた時点で、メタノール、水酸化ナトリウム水溶液、アンモニア水溶液などの重合停止剤を重合反応系に添加することにより停止することにより、炭化水素樹脂を含む重合体溶液を得ることができる。
【0051】
重合後には、重合停止剤を添加して、重合触媒を不活性化した際に生成する、溶媒に不溶な触媒残渣を、濾過などにより除去してもよい。
【0052】
また、重合後には、水蒸気蒸留などにより、炭化水素樹脂を含む重合体溶液から、溶媒、未反応の単量体、低分子量のオリゴマー成分等の揮発性有機化合物成分を、除去することが好ましい。
【0053】
なお、得られた炭化水素樹脂について、必要に応じて、エチレン性不飽和カルボン酸を付加反応させて、酸性基を導入してもよい。
【0054】
エチレン性不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸などのエチレン不飽和モノカルボン酸;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸などのエチレン性不飽和多価カルボン酸;無水マレイン酸、無水イタコン酸などのエチレン性不飽和多価カルボン酸無水物;マレイン酸モノメチル、フマル酸モノエチルなどのエチレン性不飽和多価カルボン酸の部分エステル;などが挙げられる。なかでも、エチレン性不飽和多価カルボン酸およびエチレン性不飽和多価カルボン酸無水物が好ましく、エチレン性不飽和多価カルボン酸無水物がより好ましく、無水マレイン酸が特に好ましく使用できる。
【0055】
エチレン性不飽和カルボン酸の使用量は、最終的に得られる炭化水素樹脂の酸価に応じて選択すればよいが、変性反応前の炭化水素樹脂100質量部に対して、好ましくは0.01~10質量部、より好ましくは0.05~5質量部の範囲である。
【0056】
エチレン性不飽和カルボン酸を付加反応させる条件は、通常、50~300℃、好ましくは200~270℃で、好ましくは5分間~20時間、より好ましくは10分間~3時間である。なお、付加反応の際に、必要に応じて、希釈剤、ゲル化防止剤、反応促進剤などを添加することもできる。
【0057】
また、得られた炭化水素樹脂について、必要に応じて、炭化水素樹脂中の炭素-炭素二重結合を水素化する水素化反応を行うことで、水素化物としてもよい。すなわち、炭化水素樹脂水素化物としてもよい。
炭化水素樹脂の水素化は、水素化触媒の存在下において、炭化水素樹脂を水素と接触させることにより行うことができる。
【0058】
水素化触媒としては、特に限定されないが、ニッケル触媒が好ましい。特に、反応性が高いという観点より、担体としての担持無機化合物に、金属としてのニッケルを担持してなる化合物を主成分として含む触媒が好ましい。担体としての担持無機化合物の具体例としては、シリカ、アルミナ、ボリア、シリカ-アルミナ、珪藻土、白土、粘土、マグネシア、マグネシア-シリカ(シリカ-酸化マグネシウム)、チタニア、ジルコニアなどが挙げられ、これらのなかでも、反応性の観点より、マグネシア-シリカが好ましい。
【0059】
(炭化水素樹脂エマルション)
本発明の炭化水素樹脂エマルションは、上記した炭化水素樹脂のエマルションであり、より具体的には、上記した炭化水素樹脂を水性媒体中に乳化したものである。
【0060】
水性媒体としては、通常、水が用いられるが、エタノール、エチレングリコール、グリセリンなどの水溶性有機溶剤の水溶液を用いることもできる。水性媒体の使用量は、炭化水素樹脂100質量部に対して、好ましくは50~200質量部、より好ましくは60~150質量部である。
【0061】
乳化の方法としては、特に限定されず、たとえば、(1)水性媒体中、炭化水素樹脂の軟化点未満の温度で、炭化水素樹脂を湿式分散する方法、(2)水性媒体中、炭化水素樹脂が流動化する程度の温度まで加温した状態で、炭化水素樹脂を乳化する方法、(3)水性媒体中、炭化水素樹脂の有機溶剤溶液を乳化する方法、(4)流動化する程度の温度まで加温した炭化水素樹脂に、攪拌しながら、水性媒体を添加して、転相乳化する方法、(5)炭化水素樹脂の有機溶剤溶液に、攪拌しながら、水性媒体を添加して、転相乳化する方法などが挙げられる。なかでも、炭化水素樹脂エマルション中の炭化水素樹脂粒子の体積平均粒子径を好ましい範囲に調節し易い点で、(3)または(5)の方法が好ましく採用できる。なお、有機溶剤を用いた場合は、乳化後のエマルションから、有機溶剤を留去することが好ましい。
【0062】
炭化水素樹脂を乳化させる方式は、(a)高圧衝撃式(たとえば、ゴーリンホモジナイザー:ゴーリン社製を使用)、(b)回転子-固定子方式(たとえば、エバラマイルダー:荏原製作所製を使用)、(c)内部剪断(液-液剪断)方式(たとえば、クレアミックス、エムテクニック社製を使用)、(d)静止管方式(たとえば、スタティックミキサーを使用)、(e)錨型攪拌方式、(f)ラインミル方式、(g)振動式、(h)膜乳化式、(i)遠心薄膜接触式などが挙げられる。これらのなかでも、炭化水素樹脂エマルション中の炭化水素樹脂粒子の体積平均粒子径を好ましい範囲に調節し易い点で、(a)、(b)または(c)の方式が好ましく、(a)の方式が特に好ましく採用できる。
【0063】
炭化水素樹脂を溶解させる有機溶剤としては、炭化水素樹脂を溶解し得るものであればよく、特に限定されないが、たとえば、ベンゼン、トルエンなどの芳香族炭化水素;ペンタン、ヘキサン、ヘプタンなどの脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサンなどの脂環式炭化水素;などが挙げられる。乳化工程での安全性や有機溶剤の留去のし易さを考慮すると、沸点が30~120℃の有機溶剤が好ましく使用できる。有機溶剤溶液の濃度は、好ましくは10~90質量%、より好ましくは50~80質量%である。
【0064】
乳化するにあたり、炭化水素樹脂エマルション中の炭化水素樹脂粒子の体積平均粒子径を好ましい範囲に調節し易く、得られた炭化水素樹脂エマルションの貯蔵安定性に優れる点で、乳化剤を用いることが好ましい。乳化剤としては、特に限定されないが、たとえば、α-オレフィンスルホン化物、アルキルサルフェート、アルキルフェニルサルフェート、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルサルフェート、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルのスルホコハク酸のハーフエステル塩、ロジン石鹸等のアニオン性乳化剤;ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル等のノニオン性乳化剤;が挙げられる。乳化剤の使用量は、炭化水素樹脂100質量部に対して、好ましくは1~10質量部、より好ましくは1~5重量部である。
【0065】
炭化水素樹脂エマルション中の炭化水素樹脂粒子の体積平均粒子径は、好ましくは0.1~1μm、より好ましくは0.2~0.6μmである。体積平均粒子径を上記範囲にすることにより、粘着剤組成物とした場合に、粘着物性のバランスにより優れたものとすることができる。
【0066】
炭化水素樹脂エマルションの固形分濃度は、30~60質量%であることが好ましく、より好ましくは40~60質量%である。
【0067】
炭化水素樹脂エマルションには、さらに必要に応じて、消泡剤、増粘剤、充填剤、酸化防止剤、防腐剤、抗菌剤などの配合剤を添加することができる。
【0068】
<粘接着剤組成物>
本発明の粘接着剤組成物は、上記した本発明の炭化水素樹脂エマルションと、ジエン系ゴムとを含む。
【0069】
ジエン系ゴムとしては、特に限定されないが、ジエン単量体単位の含有割合が50質量%以上、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上であるものが挙げられる。ジエン系ゴムの具体例としては、たとえば、特開2015-189873号公報に記載のジエン系ゴムを挙げることができ、具体的には、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレン-ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、エチレン-プロピレン-ジエンターポリマー(EPDM)等を挙げることができ、なかでも、天然ゴムが好適である。ジエン系ゴムは、1種単独で用いてもよいし、あるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0070】
また、ジエン系ゴムとしては、本発明の炭化水素樹脂エマルションと良好に混合させるという観点より、ジエン系ゴムエマルションの状態で用いることが好ましい。特に、本発明においては、炭化水素樹脂をエマルションの状態とするため、ジエン系ゴムエマルションと良好に混合することができ、これにより、炭化水素樹脂と、ジエン系ゴムとを含有する粘接着剤組成物を、エマルションの状態にて好適に得ることができるものである。すなわち、エマルションの状態で用いられることの多いジエン系ゴムに対して、良好かつ簡便に混合するこができるものである。加えて、ジエン系ゴムエマルションとして、天然ゴムのエマルションを使用することで、石油由来の原料の使用量を低減することができる。
【0071】
ジエン系ゴムエマルションの固形分濃度は、30~60質量%であることが好ましく、より好ましくは40~60質量%である。
【0072】
本発明の粘接着剤組成物中における、炭化水素樹脂と、ジエン系ゴムとの含有割合は、炭化水素樹脂:ジエン系ゴムの質量比率で、好ましくは30:70~70:30、より好ましくは35:65~65:35、さらに好ましくは40:60~60:40である。
【0073】
本発明の粘接着剤組成物には、必要に応じて、可塑剤、ワックス、紫外線吸収剤、消泡剤、増粘剤、充填剤、酸化防止剤、防腐剤、抗菌剤、耐水化剤、造膜助剤などの配合剤を添加することができる。また、本発明の効果を本質的に阻害しない範囲で、従来公知の粘着付与樹脂からなるエマルションを添加することもできる。
【0074】
本発明の粘接着剤組成物は、上記した本発明の炭化水素樹脂を粘着付与樹脂として含有しているため、接着性能に優れたものであり、特に、剥離接着力、ループタック力および保持力にバランスよく優れたものである。したがって、本発明の粘接着剤組成物は、このような特性を活かし、種々の部材の接着に適用するホットメルト粘接着剤として使用することが可能であり、しかも、省エネルギーで、生産性よく、保持力の高い接着を行うことができるものである。本発明の粘接着剤組成物は、たとえば、各種の粘着テープやラベルの粘着剤として好適に使用される。具体的には、粘着テープやラベルを構成するシート状の基材上に、本発明の粘接着剤組成物からなる粘着剤層を形成することで、基材と、本発明の粘接着剤組成物からなる粘着剤層とからなる、粘着テープやラベルとして好適に使用される。
【実施例0075】
以下に、実施例および比較例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。なお、「部」および「%」は、特に断りのない限り質量基準である。
本実施例および比較例において行った試験方法は以下のとおりである。
【0076】
〔炭化水素樹脂の数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、Z平均分子量(Mz)、分子量分布(Mw/Mn、Mz/Mw)、分子量500以下である重合体の含有割合〕
炭化水素樹脂エマルション中に含まれる炭化水素樹脂について、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー分析し、標準ポリスチレン換算値の数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、およびZ平均分子量(Mz)を求め、また、これらの結果に基づき、分子量分布(Mw/Mn、Mz/Mw)を求めた。また、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー分析により、分子量500以下である重合体の含有割合も求めた。なお、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー分析は、測定装置として、東ソー社製「HLC-8320GPC」を使用し、カラムは東ソー社製「TSKgel SuperMultiporeHZ」を3本連結したものを用い、テトラヒドロフランを溶媒として、40℃、1.0mL/minの流量で測定した。
【0077】
〔炭化水素樹脂の軟化点〕
炭化水素樹脂の軟化点を、JIS K6863に従い測定した。
【0078】
〔炭化水素樹脂の酸価〕
炭化水素樹脂の酸価を、JIS K0070に従い測定した。
【0079】
〔炭化水素樹脂のメチルシクロヘキサン混合アニリン点〕
炭化水素樹脂のメチルシクロヘキサン混合アニリン点を、JIS K2256に従い測定した。
【0080】
〔炭化水素樹脂エマルションの体積平均粒子径〕
炭化水素樹脂エマルションの体積平均粒子径を、光散乱粒子径測定器(LS-230:ベックマンコールター社製)を用いて測定した。
【0081】
〔粘接着剤組成物の色調〕
得られた粘接着剤組成物の色調を、目視により観察した。
【0082】
〔粘接着剤組成物の剥離接着力〕
得られた粘接着剤組成物を、25μmのPETフィルムに厚み20~30μmとなるように塗布し、乾燥することで、塗布シートを得た。次いで、この塗布シートを裁断して試験片を得た。このようにして得られた試験片を用いて、PSTC-101(米国粘着テープ委員会による180°剥離接着試験)に準じて、被着体としてステンレス鋼板を使用して、引張速度300mm/min、温度23℃で測定することにより、常温での剥離接着力(N/10mm)を評価した。値が大きいものほど、剥離接着力に優れる。
【0083】
〔粘接着剤組成物のループタック〕
上記と同様にして得られた試験片を用いて、PSTC-16(米国粘着テープ委員会によるループタック試験)に準じて、被着体としてステンレス鋼板を使用し、試験速度が300mm/分、接着部が25×25mm、温度23℃にて測定することにより、常温(23℃)でのループタック(N/25mm)を評価した。値が大きいものほど、ループタック力(初期接着力)に優れる。
【0084】
〔粘接着剤組成物の保持力〕
上記と同様にして得られた試験片を用いて、PSTC-107 Procedure A(米国粘着テープ委員会による保持力試験法)に準じ、被着体としてステンレス鋼板を使用して、接着部10×25mm、負荷1000±5g、温度50℃にて、剥がれるまでの時間(分)を測定することにより、保持力を評価した。値が大きいものほど、保持力に優れる。
【0085】
〔実施例1〕
(炭化水素樹脂の製造)
重合反応器に、炭化水素溶媒としてのシクロペンタン39.2部を仕込み、65℃に昇温した後、重合触媒としての塩化アルミニウム1.2部を添加し、温度(65℃)を維持した状態のまま、2分間混合することで、シクロペンタン中に、塩化アルミニウムを、一部凝集が残存するような状態で分散させた。次いで、2分間の混合を終了した後、ここに、1,3-ペンタジエン56.7部、シクロペンテン27.7部、イソブチレン11.4部、1-ブテン3.0部、2-メチル-2-ブテン0.6部、C4-C6不飽和炭化水素0.3部、ジシクロペンタジエン0.2部、シクロペンタジエン0.1部、およびC4-C6飽和炭化水素9.0部からなる混合物と、t-ブチルクロライド0.5部とを、それぞれ、別のラインを通して、60分間に亘り温度(65℃)を維持して、重合反応器に連続的に添加しながら重合を行った。その後、水酸化ナトリウム水溶液を重合反応器に添加して、重合反応を停止した。なお、重合反応時の重合反応器中の成分の種類および量を表1にまとめて示した。
【0086】
そして、重合停止により生成した沈殿物をろ過により除去することで、炭化水素樹脂および未反応単量体等を含む重合体溶液を得た。次いで、重合体溶液を蒸留釜に仕込み、窒素雰囲気下で加熱し、重合溶媒と未反応単量体を除去し、炭化水素樹脂とした。なお、未反応単量体の量は極少量であったため、得られた炭化水素樹脂を構成する単量体組成は、重合に使用した単量体組成とほぼ同様であると判断できる(後述する実施例2~4、比較例1~3においても同様。)。そして、得られた炭化水素樹脂について、上記方法にしたがって、数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、Z平均分子量(Mz)、分子量分布(Mw/Mn、Mz/Mw)、分子量500以下である重合体の含有割合、軟化点、酸価、およびメチルシクロヘキサン混合アニリン点の測定を行った。結果を表1に示す。
【0087】
(炭化水素樹脂エマルションの製造)
上記にて得られた炭化水素樹脂100部をトルエン70部に溶解した溶液に、アニオン性乳化剤(ロジン石鹸)3部を水140部に溶解した水溶液を加え、80℃にてホモジナイザーを用いて1500rpmで1時間、乳化した。さらに、得られた乳化物を、ゴーリンホモジナイザーを用いて、90℃で10分間乳化して、均一な粒子径の乳化物を得た。
【0088】
次いで、減圧蒸留により、乳化物中のトルエンを除去した後、150メッシュのステンレス金網で濾過し、次いで500メッシュのステンレス金網を用いて濾過して、固形分濃度が50%の炭化水素樹脂エマルションを得た。得られた炭化水素樹脂エマルションの体積平均粒子径を表1に示す。
【0089】
(粘接着剤組成物の製造)
上記にて得られた炭化水素樹脂エマルションと、天然ゴムのエマルション(固形分濃度55%)とを、炭化水素樹脂の固形分:天然ゴムの固形分=100:100(質量比)で混合することで、粘接着剤組成物(固形分濃度52.4%)を得た。
【0090】
そして、得られた粘接着剤組成物を用いて、色調、剥離接着力、ループタック、および保持力の測定を行った。結果を表2に示す。
【0091】
〔実施例2~4〕
(炭化水素樹脂の製造)
重合反応器に添加する成分の種類および量、重合触媒としての塩化アルミニウムを混合する際の混合温度および混合時間、ならびに、重合温度を下記表1に示すとおりにそれぞれ変更し、t-ブチルクロライドの別のラインからの供給を行わなかったこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2~4の炭化水素樹脂をそれぞれ得た。
なお、実施例4においては、実施例1と同様の操作を行い、炭化水素樹脂を得た後、溶融状態の炭化水素樹脂98.4部に対して、無水マレイン酸1.6部添加して、230℃で1時間付加反応させた後、酸化防止剤として2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール0.3部を添加し、混合することで、酸変性基を導入した。
また、表1中に示すC9留分としては、ビニルトルエンなどのスチレン化合物や、インデン化合物などの芳香族モノオレフィン単量体を含むものを使用した(比較例2においても同様。)。
【0092】
(炭化水素樹脂エマルションおよび粘接着剤組成物の製造)
そして、得られた炭化水素樹脂を用いて、実施例1と同様にして、炭化水素樹脂エマルションおよび粘接着剤組成物を得て、実施例1と同様に測定を行った。結果を表2に示す。
【0093】
〔比較例1~3〕
(炭化水素樹脂の製造)
重合反応器に添加する成分の種類および量、重合触媒としての塩化アルミニウムを混合する際の混合温度および混合時間、ならびに、重合温度を下記表1に示すとおりにそれぞれ変更したこと以外は、実施例1と同様にして、比較例1~3の炭化水素樹脂をそれぞれ得た。
なお、比較例3においては、実施例1と同様の操作を行い、炭化水素樹脂を得た後、溶融状態の炭化水素樹脂96.5部に対して、無水マレイン酸3.5部添加して、230℃で1時間付加反応させた後、酸化防止剤として2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール0.3部を添加し、混合することで、酸変性基を導入した。
また、比較例2,3においては、t-ブチルクロライドの別のラインからの供給を行わなかった。
【0094】
(炭化水素樹脂エマルションおよび粘接着剤組成物の製造)
そして、得られた炭化水素樹脂を用いて、実施例1と同様にして、炭化水素樹脂エマルションおよび粘接着剤組成物を得て、実施例1と同様に測定を行った。結果を表2に示す。
【0095】
【0096】
【0097】
表1、表2に示す実施例1~4、比較例1~3の結果より、数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、Z平均分子量(Mz)、数平均分子量に対する重量平均分子量の比(Mw/Mn)、重量平均分子量に対するZ平均分子量の比(Mz/Mw)、分子量500以下である重合体の含有割合、軟化点、酸価およびメチルシクロヘキサン混合アニリン点が、本発明所定の範囲にある炭化水素樹脂のエマルションを用いて得られる粘接着剤組成物は、剥離接着力、ループタック力および保持力にバランスよく優れ、接着性能に優れるものであった。