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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024135089
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】評価方法および評価装置
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/24 20060101AFI20240927BHJP
【FI】
C23C14/24 U
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023045604
(22)【出願日】2023-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】591065413
【氏名又は名称】キヤノントッキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】纐纈 直行
【テーマコード(参考)】
4K029
【Fターム(参考)】
4K029AA24
4K029BA62
4K029BD01
4K029CA01
4K029DA03
4K029HA01
(57)【要約】
【課題】フォトルミネッセンス法により有機ELディスプレイの成膜装置における成膜の良否を効率的に精度よく判定する。
【解決手段】複数の成膜領域に対応する複数の開口を有するマスクを介して基板上に成膜された複数の有機膜に対してフォトルミネッセンス法を用いて得られた画像データに基づいて、複数の成膜領域からなる成膜パターンにおける複数の有機膜の成膜に関する評価を行う評価工程を有し、評価工程においては、画像データの輝度に基づいて数値化された情報に基づいて、成膜パターンにおける複数の有機膜の成膜の良否を判定する評価方法を用いる。
【選択図】図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の成膜領域に対応する複数の開口を有するマスクを介して基板上に成膜された複数の有機膜に対してフォトルミネッセンス法を用いて得られた画像データに基づいて、前記複数の成膜領域からなる成膜パターンにおける前記複数の有機膜の成膜に関する評価を行う評価工程を有し、
前記評価工程においては、前記画像データの輝度に基づいて数値化された情報に基づいて、前記成膜パターンにおける前記複数の有機膜の成膜の良否を判定する
ことを特徴とする評価方法。
【請求項2】
前記評価工程においては、前記輝度に基づいて、成膜の際の前記基板と前記マスクの距離を算出する
ことを特徴とする請求項1に記載の評価方法。
【請求項3】
前記評価工程においては、前記開口のサイズにより規定される前記成膜領域のサイズの設計値と、前記画像データの輝度に基づいて算出される前記有機膜の実際のサイズを比較することにより、前記基板と前記マスクの距離を算出する
ことを特徴とする請求項2に記載の評価方法。
【請求項4】
前記評価工程においては、前記輝度に基づいて、成膜後の前記基板の面積に占める前記複数の有機膜の面積の割合を示す成膜面積率を算出する
ことを特徴とする請求項1に記載の評価方法。
【請求項5】
前記評価工程においては、テーブルまたは数式を用いて、前記成膜面積率から、成膜の際の前記基板と前記マスクの距離を取得する
ことを特徴とする請求項4に記載の評価方法。
【請求項6】
前記評価工程においては、前記基板を区分した複数の領域ごとに、前記有機膜の成膜の良否を判定する
ことを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の評価方法。
【請求項7】
前記評価工程においては、前記画像データにおいて所定以上の輝度が得られた部分において前記有機膜が成膜されたと判定する
ことを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の評価方法。
【請求項8】
複数の成膜領域に対応する複数の開口を有するマスクを介して複数の有機膜が成膜された基板に紫外光を照射する照射部と、
前記紫外光を照射された前記基板から放出される励起光を受光して画像データを取得する撮像部と、
前記画像データを解析して、前記複数の成膜領域からなる成膜パターンにおける前記複数の有機膜の成膜に関する評価を行う評価部と、
を備え、
前記評価部は、前記画像データの輝度に基づいて数値化された情報に基づいて、前記成膜パターンにおける前記複数の有機膜の成膜の良否を判定する
ことを特徴とする評価装置。
【請求項9】
複数の成膜領域に対応する複数の開口を有するマスクと、
前記マスクを介して基板に成膜材料を放出して複数の有機膜を成膜する成膜源と、
前記基板に紫外光を照射する照射部と、
前記紫外光を照射された前記基板から放出される励起光を受光して画像データを取得す
る撮像部と、
前記画像データを解析して、前記複数の成膜領域からなる成膜パターンにおける前記複数の有機膜の成膜に関する評価を行う評価部と、
を備え、
前記評価部は、前記画像データの輝度に基づいて数値化された情報に基づいて、前記成膜パターンにおける前記複数の有機膜の成膜の良否を判定する
ことを特徴とする成膜装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成膜装置における成膜の評価方法および評価装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、モニタ、テレビ、スマートフォンなどの表示画面として、有機EL表示装置が用いられている。有機EL表示装置に用いられる有機ELディスプレイは、2つの向かい合う金属膜の電極(カソード電極、アノード電極)の間に、発光を起こす有機物による有機膜が形成された構造を持つ。また有機ELディスプレイでフルカラーの表示を実現するために、RGBそれぞれの画素の有機膜層が形成される。このような有機ELディスプレイを形成する際は、成膜装置のチャンバにおいて、蒸発源から蒸着材料を放出して、マスクを介して基板に蒸着させる。そして、色ごとに異なる互いに異なるパターニングによる成膜を行うことにより、フルカラー表示が可能な有機ELディスプレイが製造される。
【0003】
成膜装置において、蒸着された膜のパターニングの精度を判定する評価工程が設けられる。パターニングの精度は成膜パターンの蒸着位置とパターン形状で評価される。評価の結果に基づいて蒸着の良否判定を行い、不良な成膜が行われた場合の改善を図ることにより、良好な成膜が可能となり歩留まりを向上させることができる。
【0004】
特許文献1(特開2005-310636号公報)には、フォトルミネッセンス法を用いた有機膜の検査方法が示されている。特許文献1の方法においては、製造された有機ELディスプレイに対してUV光を照射し、有機膜におけるフォトルミネッセンスにより放出された励起光を検出することにより、有機膜を検査している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005-310636号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1においては、基板上の有機膜に対して、集光レンズによりスポット状にしたUV光を照射し、基板から励起したフォトルミネッセンスをCCDカメラにより検出して画像データを取得している。そして二値化処理を行った画像データにエッジ検出処理を行い、10回の繰り返し精度を求めることで、パターニングの良否を判定している。しかしながら、この方法においては、UV光をスキャンしながら有機膜の画素を一つ一つ観察して結果を確認する必要があるために、特に近年の基板の大型化に伴い検査時間が長くなることが課題となっていた。また、基板から数か所を抽出して評価を行う場合は、不良部分を見逃してしまう場合があった。さらに、成膜不良と判定された場合でも、不良の程度が分からない場合があった。すなわち、フォトルミネッセンス法により有機ELディスプレイの成膜装置における成膜の良否を効率的に精度よく判定することが課題であった。
【0007】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、フォトルミネッセンス法により有機ELディスプレイの成膜装置における成膜の良否を効率的に精度よく判定することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の構成を採用する。すなわち、
複数の成膜領域に対応する複数の開口を有するマスクを介して基板上に成膜された複数の
有機膜に対してフォトルミネッセンス法を用いて得られた画像データに基づいて、前記複数の成膜領域からなる成膜パターンにおける前記複数の有機膜の成膜に関する評価を行う評価工程を有し、
前記評価工程においては、前記画像データの輝度に基づいて数値化された情報に基づいて、前記成膜パターンにおける前記複数の有機膜の成膜の良否を判定する
ことを特徴とする評価方法である。
本発明は、また、以下の構成を採用する。すなわち、
複数の成膜領域に対応する複数の開口を有するマスクを介して複数の有機膜が成膜された基板に紫外光を照射する照射部と、
前記紫外光を照射された前記基板から放出される励起光を受光して画像データを取得する撮像部と、
前記画像データを解析して、前記複数の成膜領域からなる成膜パターンにおける前記複数の有機膜の成膜に関する評価を行う評価部と、
を備え、
前記評価部は、前記画像データの輝度に基づいて数値化された情報に基づいて、前記成膜パターンにおける前記複数の有機膜の成膜の良否を判定する
ことを特徴とする評価装置である。
本発明は、また、以下の構成を採用する。すなわち、
複数の成膜領域に対応する複数の開口を有するマスクと、
前記マスクを介して基板に成膜材料を放出して複数の有機膜を成膜する成膜源と、
前記基板に紫外光を照射する照射部と、
前記紫外光を照射された前記基板から放出される励起光を受光して画像データを取得する撮像部と、
前記画像データを解析して、前記複数の成膜領域からなる成膜パターンにおける前記複数の有機膜の成膜に関する評価を行う評価部と、
を備え、
前記評価部は、前記画像データの輝度に基づいて数値化された情報に基づいて、前記成膜パターンにおける前記複数の有機膜の成膜の良否を判定する
ことを特徴とする成膜装置である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、フォトルミネッセンス法により有機ELディスプレイの成膜装置における成膜の良否を効率的に精度よく判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】成膜装置の構成を示す模式的な平面図
図2】成膜室の内部構成を示す断面図
図3】評価室の内部構成を示す断面図
図4】成膜の評価内容の一例を示す模式図
図5】成膜の評価内容の別の例を示す模式図
図6】画素のサイズ拡大と輪郭ボケの原因を説明する模式断面図
図7】画素のサイズ拡大と輪郭ボケの原因を説明する拡大図
図8】基板-マスク間ギャップと画素サイズ拡大の関係を示す図
図9】基板-マスク間ギャップと成膜面積率の関係を示す図
図10】実施例2における評価方法を示す模式図
図11】電子デバイスの製造方法を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明の実施形態について詳細に説明する。ただし、以下の実施形態は本発明の好ましい構成を例示的に示すものにすぎず、本発明の範囲をそれらの構成に限定されな
い。また、以下の説明における、装置のハードウェア構成およびソフトウェア構成、処理フロー、製造条件、寸法、材質、形状などは、特に特定的な記載がない限りは、本発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0012】
本発明は、基板等の成膜対象物の表面に成膜材料の薄膜を形成する成膜装置に好適である。本発明は、かかる成膜装置により形成された膜を検査する検査方法や検査装置、成膜の良否を評価する評価方法や評価装置として捉えることができる。本発明はまた、成膜装置、検査装置および評価装置の制御方法として捉えられる。本発明はまた、電子デバイスの製造装置やその制御方法、電子デバイスの製造方法としても捉えられる。本発明はまた、制御方法をコンピュータに実行させるプログラムや、当該プログラムを格納した記憶媒体としても捉えられる。記憶媒体は、コンピュータにより読み取り可能な非一時的な記憶媒体であってもよい。
【0013】
本発明における基板の材料としては、ガラス、樹脂、金属、シリコンなど任意のものを利用できる。成膜材料としては、有機材料、無機材料(金属、金属酸化物)などフォトルミネッセンス特性を有する材料に利用できる。本発明は特に有機材料により形成された有機膜の検査および評価に好適である。以下の説明における「基板」とは、基板材料の表面に既に1つ以上の成膜が行われたものを含む。本発明の技術は、典型的には、電子デバイスや光学部材の製造装置に適用される。特に、有機EL素子を備える有機ELディスプレイ、それを用いた有機EL表示装置などの有機電子デバイスに好適である。本発明はまた、薄膜太陽電池、有機CMOSイメージセンサにも利用できる。
【0014】
<実施例1>
(装置構成)
図1は、成膜装置1の構成を模式的に示す平面図である。ここでは、有機ELディスプレイの製造ラインについて説明する。有機ELディスプレイを製造する場合、製造ラインに所定のサイズの基板を搬入し、有機ELや金属層の成膜を行った後、基板のカットなどの後処理工程を実施する。
【0015】
成膜装置1は、中央に配置される搬送室130と、搬送室130の周囲に配置される複数の成膜室110(110a~110d)およびマスクストック室120(120a、120b)を含む。成膜室110は、基板10に対する成膜処理が行われるチャンバを備える。マスクストック室120は使用前後のマスクを収納する。搬送室130内に設置された搬送ロボット140は、基板SやマスクMを搬送室130に搬入および搬出する。搬送ロボット140は、例えば、多関節アームに基板SやマスクMを保持するロボットハンドが取り付けられたロボットである。
【0016】
パス室150は、基板搬送方向において上流側から流れてくる基板Sを搬送室130に搬送する。バッファ室160は、搬送室130での成膜処理が完了した基板Sを下流側の他の成膜クラスタに搬送する。搬送ロボット140は、パス室150から基板Sを受け取ると、複数の成膜室110のうちの一つに搬送する。搬送ロボット140はまた、成膜処理が完了した基板Sを成膜室110から受け取り、バッファ室160に搬送する。
【0017】
図1に示す成膜装置1は、1つの成膜クラスタを構成しており、上流側や下流側に別の成膜クラスタを接続することができる。パス室150のさらに上流側には、基板10の方向を変える旋回室170が設けられる。成膜室110、マスクストック室120、搬送室130、バッファ室160、旋回室170などの各チャンバは、製造過程で高真空状態に維持される。バッファ室160のさらに下流側には、成膜済みの基板Sを評価する評価室180が設けられる。
【0018】
成膜装置1の複数の成膜室110a~110dにおける成膜材料は、同じであってもよく、異なっていてもよい。例えば、成膜室110a~110dそれぞれに異なる成膜材料の成膜源を配置し、基板Sが成膜室110a~110dを順に移動しながら積層構造を形成されるようにしてもよい。各成膜室において、それぞれ異なる色(例えばRGB)の発光を行う有機膜を形成しても良い。また、成膜室110a~110dに同じ成膜材料の成膜源を配置することで、複数の基板Sに並行して成膜を行ってもよい。また、成膜室110aと110cに第1の成膜材料を、成膜室110bと110dに第2の成膜材料を配置しておき、成膜室110aまたは110cで第1の層を成膜したのち、成膜室110bまたは110で第2の層を成膜するように制御してもよい。
【0019】
(成膜室)
図2は、成膜室110の内部構成を示す断面図である。成膜室110では、搬送ロボット140からの基板SやマスクMの受け取り、搬送ロボット140への基板SやマスクMの受け渡し、基板SとマスクMの相対的な位置関係を調整するアライメント、マスクMへの基板Sの固定、成膜などの一連の成膜プロセスが行われる。以下の説明においては、鉛直方向をZ方向とするXYZ直交座標系を用い、Z軸まわりの回転をθで表す。
【0020】
成膜室110は、チャンバ200を有する。チャンバ200の内部は、成膜の間、真空雰囲気、または、窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気に維持される。チャンバ200の内部には、静電チャックC、基板支持部210、マスク台221、蒸発源240(成膜源)が設けられる。
【0021】
マスクMは、基板上に形成される薄膜パターンに対応する成膜パターンを持つ。マスクMが有する複数の開口に対応して、基板上の複数の成膜領域に、複数の有機膜が形成される。マスクMとして例えば、パターンが形成された金属箔の周囲をフレームで支持するメタルマスクを利用できる。マスクMは、マスク台221の上に設置されている。本実施例の構成では、マスク上に基板Sが位置決めされて載置されたのち、成膜が行われる。
【0022】
基板支持部210は、成膜室内部に搬送されてきた基板Sを受け取るための、複数の受け爪状の支持具210aを有する。静電チャックCは、成膜室内部における基板保持手段であり、基板支持部210に支持された基板Sを静電気力により吸着保持する。静電チャックCは、基板Sの、マスクMと接触する面(被成膜面)とは反対側の面に当接する。
【0023】
なお、静電チャックCの内部または上部に、成膜時の基板Sの温度上昇を抑えて有機材料の変質や劣化を防ぐための冷却部材を設けてもよい。また、基板支持部210は、支持具210aに対応する押圧具を有していてもよい。支持具210aと押圧具が基板Sの端部を挟持することで、静電チャックCに加えて基板支持部210でも基板Sを保持できるので、基板Sがより安定する。また、静電チャックCの上部には、マスクMを引きつけるためのマグネットを配置してもよい。また、静電チャックCではなく、押圧具のみによって基板Sを保持してもよい。
【0024】
蒸発源240は、蒸着材料(成膜材料)を収容するルツボ等の容器、ヒータ、シャッタ、駆動機構、蒸発レートモニタなどを含む成膜手段である。なお、成膜源は蒸発源には限られず、スパッタリング装置を用いてもよい。
【0025】
チャンバ200の外側上部には、静電チャックアクチュエータ252、アライメントステージ280が設けられる。静電チャックアクチュエータ252は、シャフト等を介して静電チャックCをZ軸方向に駆動して昇降させる。これにより、基板Sの被成膜面に沿った平面に交差する方向において、基板SとマスクMの相対距離が変化する。静電チャックアクチュエータ252は、モータとボールねじ、モータとリニアガイドなどで構成される
。静電チャックCが基板保持装置だと考えてもよいし、静電チャックCと電源290を合わせて基板保持装置だと考えてもよい。また、制御部270も基板保持装置に含まれると考えてもよい。また、静電チャックアクチュエータ252も基板保持装置に含まれると考えてもよい。
【0026】
静電チャックCが基板支持部210に支持された基板Sを保持する際には、まず静電チャックアクチュエータ252が静電チャックCを下降させ、静電チャックCを基板Sに当接または十分に接近させる。そして、制御部270が電源290を制御して、静電チャックCに埋設された電極に所定の吸着電圧を印加する。これにより静電チャックCにより基板Sが保持される。
【0027】
続いてアライメントの際には、静電チャックアクチュエータ252が静電チャックCをさらに下降させて、基板SをマスクMに接近させる。そして、アライメントステージ280がアライメントを行う。続いて成膜の際には、蒸発源240が成膜材料を放出する。成膜が完了すると、静電チャックアクチュエータ252は静電チャックCを上昇させて、成膜済みの基板Sを搬送ロボットに受け渡す。そして、静電チャックCへの印加電圧を所定の剥離電圧(例えば0V)とすることで、基板の保持を解除する。
【0028】
アライメントステージ280は、基板SをXY方向に移動させ、またθ方向に回転させる、アライメント手段である。アライメントステージ280は、基板Sの被成膜面に沿った平面において、基板SとマスクMの相対位置を調整する、アライメントステージ280は、チャンバ200に接続されて固定されるチャンバ固定部281、XYθ移動を行うためのアクチュエータ部282、静電チャックCと接続される接続部283を備える。
【0029】
アクチュエータ部282は、制御部270から送信される制御信号に従って、基板SをX方向およびY方向に移動させ、θ方向に回転させる。アクチュエータ部282としては、Xアクチュエータ、Yアクチュエータおよびθアクチュエータを積み重ねられたアクチュエータを用いてもよい。また、複数のアクチュエータが協働するUVW方式のアクチュエータを用いてもよい。なお、本実施例では基板Sの位置を調整する構成としたが、基板SとマスクMを相対的に位置合わせできるのであれば、マスクMの位置を調整する構成や、基板SとマスクMの両方を調整する構成でもよい。
【0030】
チャンバ200の外側上部には、光学撮像を行って画像データを生成するカメラ261が設けられている。カメラ261は、チャンバ200に設けられた真空用の封止窓を通して撮像を行う。本実施例では基板Sの四隅に対応する複数のカメラ261が設けられている。それぞれのカメラ261は、撮像範囲に、基板Sの隅部に設けられた基板アライメントマークと、マスクMの隅部に設けられたマスクアライメントマークが含まれるように配置される。
【0031】
アライメント時には、カメラ261は、基板SおよびマスクMを撮像して画像データを制御部270に出力する。制御部270は撮像画像データを解析し、パターンマッチング処理などの手法により、基板アライメントマークとマスクアライメントマークの位置情報を取得する。そして、基板アライメントマークとマスクアライメントマークの位置ずれ量に基づき、基板Sを移動させるXY方向、移動距離、回転角度θを算出する。そして、算出された移動量を、アライメントステージ280の各アクチュエータが備えるステッピングモータやサーボモータ等の駆動量に変換し、制御信号を生成する。なお、低解像だが広視野のラフアライメント用のカメラと、狭視野だが高解像のファインアライメント用のカメラを用いて、二段階アライメントを行ってもよい。
【0032】
制御部270は、不図示の制御線や無線通信を介して成膜装置1の各構成要素との間で
通信を行い、各構成要素からデータを受信したり、各構成要素に信号を送って動作を制御したりする、情報処理装置である。制御部270は、例えば、プロセッサ、メモリ、ストレージ、I/Oなどを有するコンピュータにより構成可能である。この場合、制御部270の機能は、メモリ又はストレージに記憶されたプログラムをプロセッサが実行することにより実現される。コンピュータとしては、汎用のパーソナルコンピュータを用いてもよいし、組込型のコンピュータ又はPLC(programmable logic controller)を用いてもよい。あるいは、制御部270の機能の一部又は全部をASICやFPGAのような回路で構成してもよい。なお、成膜室ごとに制御部270が設けられていてもよいし、1つの制御部270が複数の成膜室を制御してもよい。
【0033】
電源290は、不図示の導電線を介して成膜装置1の各構成要素に電圧を供給することが可能な高圧電源装置である。電源290は、制御部270からの指令に従って印加電圧の極性や大きさを制御する。静電チャックCの電極に対する印加電圧(吸着電圧)の極性や大きさを制御することで、基板Sに対する吸着力を制御することができる。なお、電源290と制御部270を合わせて、成膜装置の電源を構成すると考えてもよい。
【0034】
なお、本発明の適用対象は、上述のようなクラスタ型の成膜装置に限定されない。本発明は、複数のチャンバが真空一貫に連結され、基板キャリアに保持された基板がチャンバ間を移動しながら成膜されるようなインライン型の成膜装置にも適用できる。
【0035】
(評価のための構成と評価内容)
図3は、評価室180の内部構成を示す断面図である。評価室180のチャンバ500には、静電チャックCに保持された状態の基板Sが、被成膜面を下に向けた状態で保持されている。なお静電チャックC以外の基板保持機構を用いても構わない。チャンバ500にはさらに、照射部としてのブラックライト505、撮影部としてのカメラ510が配置されている。かかる構成により、基板Sの被成膜面に紫外光UVを照射し、発生したフォトルミネッセンスPLを受光することができる。ただし基板がガラスのように透光性を有する場合は、被成膜面とは異なる面にブラックライト505やカメラ510を配置することも可能である。チャンバ500内部が真空の場合、ブラックライト505およびカメラ510の仕様によっては、これらの部材を大気ボックス中に設置して使用条件を満たすことも好ましい。評価室180の構成と評価方法については後述する。評価室180に含まれる構成を本発明の評価装置と考えてもよい。また、評価室180に含まれる構成と制御部270を合わせて、本発明の評価方法を実行する評価装置だと考えてもよい。
【0036】
ここで、蒸着による成膜に関する評価について説明する。本発明の評価方法における評価項目は概ね、成膜の位置、大きさ、厚さ等である。
【0037】
図4(a)は成膜後の基板Sを模式的に示した平面図であり、基板上に成膜領域としての複数の画素Pが形成されている。図では便宜上、それぞれ分離された複数の円形の画素Pを示しているが、画素形状はこれに限られない。なお、ここでは評価対象を画素と称しているが、マスクが有する複数の開口の形状に応じてパターニングされる、互いに区分された成膜領域であれば、本発明の評価対象となり得る。
【0038】
図4(a)において、破線で示す設計位置550は、各画素の成膜位置の設計値であり、実線で示す蒸着位置560は、蒸着の結果として各画素が実際に形成された位置を示す。すなわち本図の各画素は設計値よりも紙面右上方向にずれて成膜されている。図4(b)に示すように、成膜位置の評価結果は、設計位置550の中心551と、蒸着位置560の中心561の誤差を表すベクトル570として示される。このような成膜位置の評価方法としては、座標測定器を用いて成膜後の基板Sの画像を取得し、フィルタ処理やエッジ検出などの画像処理を行うことにより、成膜位置のズレ量を定量化することができる。
そして算出されたズレ量をアライメント時のオフセット値に反映するなどの方法で、ズレを修正することができる。
【0039】
また、成膜の大きさや厚さの評価については、成膜パターンのボケの検出が行われる。図5(a)は、成膜された画素の大きさと厚さの評価を説明する図である。左上の画素Paは、設計位置550aと比べて蒸着位置560aのサイズが大きくなっている。中上の画素Pbにおいても設計位置550bと比べて蒸着位置560bのサイズが拡大しているが、拡大の程度は画素Paよりも小さい。右下の画素Pcにおいては、設計位置550cのサイズと蒸着位置560cのサイズが一致している。
【0040】
図5(b)は画素Paを拡大して示した図であり、図5(c)は図5(b)のA-A’線における断面図である。図5(b)に示すように蒸着位置560が設計位置よりも大きい場合は、図5(c)に示すように、画素Pの端部が斜面形状になり、端部に近づくにつれて膜厚が薄くなっていることが多い。このような画素Pは、大きさおよび厚さが設計値と異なっているだけでなく、画素の周辺部の輪郭がボケていると評価される。
【0041】
続いて、上述したような、画素サイズの拡大や、輪郭ボケが発生する理由を説明する。図6は、チャンバ200内において蒸発源240からマスクMを介して基板Sに成膜材料が放出される様子を示す断面図である。本実施例の蒸発源240には、複数のノズル242(242a~242l)が設けられている。このように複数のノズル242を設けることで、基板Sの広い範囲に成膜材料を付着させることができ、膜厚の均質化や成膜時間の短縮が可能になる。例えばノズル242cから、図中右側の破線Bで囲まれた領域に向けて成膜材料が放出される場合、入射角θ1をもって成膜材料が飛翔する。
【0042】
図7は、図6の破線Bの領域の拡大図である。ここで、マスクMは成膜される画素の形状に応じた開口パターンを有している。本実施例のマスクMの断面は、開口に接する部分においてテーパ角θ2を有している。これによりマスクMの断面は、基板に面している側から基板に面していない側に向かうに連れて開口の幅が広がるような斜面形状となっている。このようにすることで、破線Bの領域から比較的遠いノズル(例えばノズル242a~242c)から飛翔する成膜材料を、開口の縁に近い部分まで付着させることができる。
【0043】
しかしながら、基板Sの撓みなどが原因で、アライメント後の基板SとマスクMの密着度が低下することがある。このような場合、成膜される画素のサイズが設計値よりも拡大する現象や、画素の周辺がボケる現象が発生する。図7では、領域Bにおいて基板SとマスクMが完全には密着せず、数μmオーダーの「基板-マスク間ギャップG」が発生している様子を示している。このとき、領域Bから比較的遠いノズル242cから飛翔した成膜材料の軌跡のうち、最も左側のものを矢印242c-1で示し、最も右側のものを矢印242c-2で示す。すなわちノズル242cから飛翔した成膜材料は、矢印242c-1と矢印242c-2の間を通過する。また同様に、領域Bから比較的近いノズル242lから飛翔した成膜材料は、矢印242l-1と矢印242l-2の間を通過する。
【0044】
このとき、矢印242c-1が基板Sと交わる点M2よりも左側には、ノズル242cから直進した成膜材料は付着しない。また矢印242l-1が基板Sと交わる点M1は、成膜材料が付着し得る最も左端の位置である。したがって、点M1から点M2の間の領域においては、点M1から点M2に向かうに連れて、少しずつ成膜材料の堆積量が増えていくことになる。その結果、画素Pは、左側の領域P-1において傾斜を持った形状となる。
【0045】
また、画素Pの右側の領域P-3においては、入射角θ1の浅いノズル(例えばノズル
242c)からの成膜材料が、ギャップGを通過して、マスク開口部の右端よりもさらに右側の点M4まで到達する。その結果、領域P-3において、画素Pのサイズがマスク開口部により規定される設計値よりも大きくなる。また、領域P-3においては、点M4からM3に向かうに連れて成膜材料の堆積量が増えていくことにより、傾斜形状が形成される。このようにして、基板SとマスクMのギャップGの存在により、画素サイズが設計値よりも拡大したり、画素の周縁部(P-1、P-3)における膜厚が中央部(P-2)よりも薄くなる現象や、周辺部での膜厚が薄くなって、ボケて見える現象が発生したりする。
【0046】
また、基板SとマスクMの間にゴミなどを介してしまうことでギャップGの大きさが場所ごとに異なる場合は、図5(a)に示したように、場所ごとに実際の画素サイズが変動する。図8は、ギャップGの大きさと画素サイズの変動との関係を模式的に示すグラフであり、横軸は基板上の座標であり、縦軸は画素の膜厚の相対値である。図8(a)は基板SとマスクMが密着した状態で成膜したときの膜厚分布を示す(ギャップGなし)。また図8(b)はギャップG=10μm、図8(c)はギャップG=20μmのときの膜厚分布である。本模式図に示すように、ギャップGが大きくなるほど、画素の周縁部サイズが拡大するとともに、斜面の角度が緩やかになっていく(ボケの発生範囲が広くなる)ことが分かる。さらに、ボケの発生している領域が円状に生成されている場合は、ギャップの原因がゴミである可能性が高い。基板を変えても同じ場所にボケが発生しているエリアが形成される場合は、マスク上にゴミが存在しているためマスク交換を行うなどの対策を実施できる。
【0047】
このような成膜パターンボケの評価を行うに当たって、従来は、成膜後の基板Sを撮像して得られた画像データに対して、所定の閾値を基準とした二値化処理を行っていた。そして、評価者が二値化画像を目視することにより、ボケの程度を評価(例えば三段階評価)していた。そのため評価結果が評価者の主観に左右されてしまい、定量的な評価が難しかった。さらに、ギャップGの幅が通常より大きい場合など、成膜条件によってはボケが大きく広がってしまい、画像処理が機能せず評価が困難となる場合もあった。
【0048】
(評価方法)
そこで本発明では、以下のような評価方法を採用している。ここで図3に戻り、評価室180の構成と機能を詳述する。評価室180のチャンバ500は、外部からの光の影響を受けないように光学的に遮断された状態となることが可能である。評価室180にはバッファ室160から基板Sが搬入され、載置台515は搬入後の基板Sを安定的に保持する。ブラックライト505は、基板Sに向かって紫外光UVを照射する。カメラ510は、UVの照射を受けた基板Sの有機膜から励起光として放出されるフォトルミネッセンスPLを受光して画像データに変換する。制御部270は、ブラックライト505からの光照射のタイミングや光量などを制御するとともに、受光したカメラ510から出力される信号を受信して保存し、解析する。制御部270は、本発明における評価部に相当する。
【0049】
本実施例では、ブラックライト505からのUVが基板Sの全体に照射され、カメラ510は基板Sの全体を撮像するものとする。しかし、ブラックライト505およびカメラ510を基板Sに対してスキャンするための機械的なスキャン機構を設けてもよい。
【0050】
ここで、ブラックライト505から照射された紫外光UVが有機膜に入射して膜内に侵入すると、フォトルミネッセンスPLが放出される。その際に、紫外光UVの侵入長が数nm程度あれば、フォトルミネッセンスPLを発生させることができる。一般に有機膜の厚さは、領域P-1やP-3のような薄い部分であったとしても、フォトルミネッセンスPLを発生させ得る厚さである数nmよりは厚い。換言すると、画素周縁部のボケた領域であっても、紫外光UVに反応してフォトルミネッセンスPLを発生させる。したがって
、フォトルミネッセンスPLの輝度を数値化した輝度情報は、成膜面積と相関があると考えられる。
【0051】
そこで本実施例では、撮像画像から得られるフォトルミネッセンスPLの輝度に基づいて、成膜面積を算出する。さらに、成膜面積に基づいて基板SとマスクMのギャップGを算出し、ユーザへの通知やアライメント時のパラメータへのフィードバックなどに使用する。
【0052】
具体的には、本実施例の処理は、成膜装置1のバッファ室160から評価室180に成膜済みの基板Sが搬入されたときに開始される。ブラックライト505が所定の強度で紫外光UVを基板Sに照射すると、カメラ510が撮像を行い、画像データを取得する。制御部270は、画像データに対して所定の画像処理を行う。例えば、所定以上のフォトルミネッセンスPLの輝度が得られた部分を成膜位置としてカウントを行い、カウントされた部分の面積が、基板全体の面積に占める割合を算出し、成膜面積率とする。なお、画像処理は所定の閾値を用いた二値化には限られず、グレースケール化等の階調処理を行ってもよい。また、フィルタ処理やエッジ検出処理など、蒸着が行われた領域を判別するのに好適な任意の処理を行って構わない。
【0053】
図9(a)~図9(c)はそれぞれ、マスクMの基板Sからの浮き量(ギャップG)が0μm、10μm、20μmのときの、フォトルミネッセンスPL画像データを模式的に示すものである。画像処理の結果、成膜がされたと判定された部位である蒸着位置560は着色されている。図を比較すると分かるように、蒸着位置560の面積は、図9(a)のように基板SとマスクMが密着している場合(ギャップGがゼロの場合)において最も小さく、ギャップGが大きくなるに連れて面積が大きくなる。
【0054】
図9(d)は、ギャップGを様々に変えた複数の条件下で成膜面積率を算出し、ギャップG(横軸)と成膜面積率(縦軸)の関係をプロットして得られたグラフである。図9(a)~図9(c)はそれぞれ、符号A~符号Cに対応する。制御部270は、かかるグラフを用いることにより、フォトルミネッセンスPL画像データより算出される成膜面積率に基づいて、ギャップGの値を取得することが可能である。制御部270は、取得したギャップGの値をユーザに通知して対応を促してもよいし、ギャップGの値に基づいてアライメント時の制御パラメータを調整し、蒸着の際に基板SとマスクMの密着度を高めるようにしてもよい。制御部270は、このような成膜面積率とギャップGの対応関係を、テーブルまたは数式としてメモリに保持している。
【0055】
上記の構成により、有機ELディスプレイの成膜装置における成膜の良否を、成膜面積率として定量的に算出でき、基板S-マスクM間のギャップGの値として取得することができる。そのため、成膜の良否判定の精度が向上し、良好な成膜を行うための情報を提供することが可能になる。
【0056】
<実施例2>
実施例1では、基板S全体について、フォトルミネッセンスPL画像データの解析により得られた成膜部位の面積を元に成膜面積率を算出し、基板SとマスクMの間のギャップGの値に換算していた。したがって実施例1では、基板S全体の平均的なギャップGを求めてユーザに提示することができた。実施例2では、基板Sにおけるギャップ分布を求めることにより、ユーザにより詳細な情報を提供することができるので、基板SとマスクMの密着度のより細かな調整が可能となる。
【0057】
図10(a)は、本実施例でカメラ510が撮像して得られたフォトルミネッセンスPL画像データを模式的に示すものである。図より、基板Sにおいて、画素サイズが拡大し
ている部分(例えば蒸着位置560h)と、画素サイズが設計値通りの部分(例えば蒸着位置560g)があることが分かる。
【0058】
このような位置ごとの拡大の程度の変異は、場所ごとに基板SとマスクMの密着度が異なり、密着度が低い場所では画素周縁部における成膜ボケが発生して画素サイズが拡大するのに対し、密着度が高い場所では設計値通りの画素サイズとなることに起因する。特に基板Sが大型化するのに伴い、このような差異が生じやすい。また、基板SとマスクMの端部をともに挟持する保持機構を用いる場合、該保持機構から離れるほど密着度が低下しやすい。このような場合、基板上の位置ごとに成膜の精度が異なってしまい歩留まりの低下を招くおそれがあるため、位置ごとのギャップGを把握してアライメント時のパラメータ調整や装置の調整を行う必要がある。
【0059】
そこで本実施例では、図10(b)のように、フォトルミネッセンスPL画像に基づいて基板S上の領域ごとのギャップ分布を算出する。領域の区切り方は任意であり、例えば画素ごとに区切ってもよいし、より細かく区切ってもよい。また、区切られた領域ごとに成膜面積率を算出しても良い。これにより制御部270は、基板S上のどの領域でギャップGが大きくなっているかを把握し、ユーザへの情報提示や、アライメント制御などに利用することができる。
【0060】
<電子デバイスの製造方法>
次に、本実施例に係る成膜装置を用いた電子デバイスの製造方法の一例を説明する。以下、電子デバイスの例として有機EL表示装置の構成を示し、有機EL表示装置の製造方法を例示する。
【0061】
まず、製造する有機EL表示装置について説明する。図11(a)は有機EL表示装置700の全体図、図11(b)は1画素の断面構造を表している。
【0062】
図11(a)に示すように、有機EL表示装置700の表示領域701には、発光素子を複数備える画素702がマトリクス状に複数配置されている。詳細は後で説明するが、発光素子のそれぞれは、一対の電極に挟まれた有機層を備えた構造を有している。なお、ここでいう画素とは、表示領域701において所望の色の表示を可能とする最小単位を指している。本実施例に係る有機EL表示装置の場合、互いに異なる発光を示す第1発光素子702R、第2発光素子702G、第3発光素子702Bの組み合わせにより画素702が構成されている。画素702は、赤色発光素子と緑色発光素子と青色発光素子の組み合わせで構成されることが多いが、黄色発光素子とシアン発光素子と白色発光素子の組み合わせでもよく、少なくとも1色以上であれば特に制限されるものではない。
【0063】
図11(b)は、図11(a)のB-B線における部分断面模式図である。画素702は、複数の発光素子からなり、各発光素子は、基板703上に、第1電極(陽極)704と、正孔輸送層705と、発光層706R、706G、706Bのいずれかと、電子輸送層707と、第2電極(陰極)708と、を有している。これらのうち、正孔輸送層705、発光層706R、706G、706B、電子輸送層707が有機層に当たる。また、本実施例では、発光層706Rは赤色を発する有機EL層、発光層706Gは緑色を発する有機EL層、発光層706Bは青色を発する有機EL層である。発光層706R、706G、706Bは、それぞれ赤色、緑色、青色を発する発光素子(有機EL素子と記述する場合もある)に対応するパターンに形成されている。
【0064】
また、第1電極704は、発光素子毎に分離して形成されている。正孔輸送層705と電子輸送層707と第2電極708は、複数の発光素子702R、702G、702Bで共通に形成されていてもよいし、発光素子毎に形成されていてもよい。なお、第1電極7
04と第2電極708とが異物によってショートするのを防ぐために、第1電極704間に絶縁層709が設けられている。さらに、有機EL層は水分や酸素によって劣化するため、水分や酸素から有機EL素子を保護するための保護層710が設けられている。
【0065】
図11(b)では正孔輸送層705や電子輸送層707は一つの層で示されているが、有機EL表示素子の構造によっては、正孔ブロック層や電子ブロック層を備える複数の層で形成されてもよい。また、第1電極704と正孔輸送層705との間には第1電極704から正孔輸送層705への正孔の注入が円滑に行われるようにすることのできるエネルギーバンド構造を有する正孔注入層を形成することもできる。同様に、第2電極708と電子輸送層707の間にも電子注入層が形成することもできる。
【0066】
次に、有機EL表示装置の製造方法の例について具体的に説明する。
【0067】
まず、有機EL表示装置を駆動するための回路(不図示)及び第1電極704が形成された基板(マザーガラス)703を準備する。
【0068】
第1電極704が形成された基板703の上にアクリル樹脂をスピンコートで形成し、アクリル樹脂をリソグラフィ法により、第1電極704が形成された部分に開口が形成されるようにパターニングし絶縁層709を形成する。この開口部が、発光素子が実際に発光する発光領域に相当する。
【0069】
絶縁層709がパターニングされた基板703を粘着部材が配置された基板キャリアに載置する。粘着部材によって、基板703は保持される。第1の有機材料成膜装置に搬入し、反転後、正孔輸送層705を、表示領域の第1電極704の上に共通する層として成膜する。正孔輸送層705は真空蒸着により成膜される。実際には正孔輸送層705は表示領域701よりも大きなサイズに形成されるため、高精細なマスクは不要である。
【0070】
次に、正孔輸送層705までが形成された基板703を第2の有機材料成膜装置に搬入する。基板とマスクとのアライメントを行い、基板をマスクの上に載置し、基板703の赤色を発する素子を配置する部分に、赤色を発する発光層706Rを成膜する。
【0071】
発光層706Rの成膜と同様に、第3の有機材料成膜装置により緑色を発する発光層706Gを成膜し、さらに第4の有機材料成膜装置により青色を発する発光層706Bを成膜する。発光層706R、706G、706Bの成膜が完了した後、第5の成膜装置により表示領域701の全体に電子輸送層707を成膜する。電子輸送層707は、3色の発光層706R、706G、706Bに共通の層として形成される。
【0072】
電子輸送層707まで形成された基板を金属性蒸着材料成膜装置で移動させて第2電極708を成膜する。
【0073】
その後プラズマCVD装置に移動して保護層710を成膜して、基板703への成膜工程を完了する。反転後、粘着部材を基板703から剥離することで、基板キャリアから基板703を分離する。その後、裁断を経て有機EL表示装置700が完成する。
【0074】
絶縁層709がパターニングされた基板703を成膜装置に搬入してから保護層710の成膜が完了するまでは、水分や酸素を含む雰囲気にさらしてしまうと、有機EL材料からなる発光層が水分や酸素によって劣化してしまうおそれがある。従って、本実施例において、成膜装置間の基板の搬入搬出は、真空雰囲気又は不活性ガス雰囲気の下で行われる。
【符号の説明】
【0075】
1:成膜装置、180:評価室、270:制御部、505:ブラックライト、510:カメラ
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図2
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