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特開2024-135147反射型マスクブランク、反射型マスク、反射型マスクブランクの製造方法、及び反射型マスクの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024135147
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】反射型マスクブランク、反射型マスク、反射型マスクブランクの製造方法、及び反射型マスクの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G03F 1/24 20120101AFI20240927BHJP
   G03F 1/32 20120101ALI20240927BHJP
   G03F 1/54 20120101ALI20240927BHJP
   C23C 14/06 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
G03F1/24
G03F1/32
G03F1/54
C23C14/06 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023045692
(22)【出願日】2023-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】赤木 大二郎
(72)【発明者】
【氏名】岡東 健
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 健一
(72)【発明者】
【氏名】石川 一郎
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 規晋
【テーマコード(参考)】
2H195
4K029
【Fターム(参考)】
2H195CA01
2H195CA07
2H195CA12
2H195CA16
2H195CA23
2H195CA24
4K029AA09
4K029AA24
4K029BA11
4K029BA22
4K029BA35
4K029BA43
4K029BB02
4K029BC07
4K029CA05
4K029CA06
4K029DC03
4K029DC04
4K029DC16
4K029DC34
4K029EA01
(57)【要約】
【課題】光学特性と大気中での安定性に優れた位相シフト膜を提供すること。
【解決手段】反射型マスクブランクは、基板と、EUV光を反射する多層反射膜と、前記多層反射膜を保護する保護膜と、前記EUV光の位相をシフトさせる位相シフト膜と、をこの順で有する。前記位相シフト膜は、Reに加えてTa、Cr、W、Pt、Os、Pd、Rh、Co、Ni、Sn及びAuから選択される少なくとも1つの元素Xを含み且つRuを実質的に含まないRe化合物で形成される層を有する。前記Re化合物は、Reと全てのXとの元素比(Re:X)が15:85~70:30である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、EUV光を反射する多層反射膜と、前記多層反射膜を保護する保護膜と、前記EUV光の位相をシフトさせる位相シフト膜と、をこの順で有する、反射型マスクブランクであって、
前記位相シフト膜は、Reに加えてTa、Cr、W、Pt、Os、Pd、Rh、Co、Ni、Sn及びAuから選択される少なくとも1つの元素Xを含み且つRuを実質的に含まないRe化合物で形成される層を有し、
前記Re化合物は、Reと全てのXとの元素比(Re:X)が15:85~70:30である、反射型マスクブランク。
【請求項2】
前記Re化合物は、ReとXに加えてO、N、B及びCから選択される少なくとも1つの元素を含む、請求項1に記載の反射型マスクブランク。
【請求項3】
前記Re化合物は、屈折率nが0.945以下であり、消衰係数kが0.030以上である、請求項1又は2に記載の反射型マスクブランク。
【請求項4】
前記Re化合物は、XとしてTaを含む、請求項1又は2に記載の反射型マスクブランク。
【請求項5】
前記位相シフト膜の膜厚が20nm~60nmである、請求項1又は2に記載の反射型マスクブランク。
【請求項6】
前記保護膜は、Ru、Rh及びSiから選択される少なくとも1つの元素を含有する、請求項1又は2に記載の反射型マスクブランク。
【請求項7】
前記位相シフト膜を基準として前記保護膜とは反対側に、エッチングマスク膜を有し、
前記エッチングマスク膜は、Al、Hf、Y、Cr、Nb、Ti、Mo、Ta及びSiから選択される少なくとも1つの元素を含有する、請求項1又は2に記載の反射型マスクブランク。
【請求項8】
前記エッチングマスク膜は、さらにO、N及びBから選択される少なくとも1つの元素を含有する、請求項7に記載の反射型マスクブランク。
【請求項9】
請求項1又は2に記載の反射型マスクブランクを備え、
前記位相シフト膜に開口パターンを含む、反射型マスク。
【請求項10】
基板と、EUV光を反射する多層反射膜と、前記多層反射膜を保護する保護膜と、前記EUV光の位相をシフトさせる位相シフト膜と、をこの順で有する、反射型マスクブランクの製造方法であって、
前記基板の上に前記多層反射膜と前記保護膜と前記位相シフト膜をこの順番で成膜することを有し、
前記位相シフト膜は、Reに加えてTa、Cr、W、Pt、Os、Pd、Rh、Co、Ni、Sn及びAuから選択される少なくとも1つの元素Xを含み且つRuを実質的に含まないRe化合物で形成される層を有し、
前記Re化合物は、Reと全てのXとの元素比(Re:X)が15:85~70:30である、反射型マスクブランクの製造方法。
【請求項11】
請求項1又は2に記載の反射型マスクブランクを準備することと、
前記位相シフト膜に開口パターンを形成することと、
を有する、反射型マスクの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、反射型マスクブランク、反射型マスク、反射型マスクブランクの製造方法、及び反射型マスクの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体デバイスの微細化に伴い、極端紫外線(EUV:Extreme Ultra-Violet)を用いた露光技術であるEUVリソグラフィー(EUVL)が開発されている。EUVとは、軟X線及び真空紫外線を含み、具体的には波長が0.2nm~100nm程度の光のことである。現時点では、13.5nm程度の波長のEUVが主に検討されている。
【0003】
EUVLでは、反射型マスクが用いられる。反射型マスクは、ガラス基板などの基板と、EUV光を反射する多層反射膜と、多層反射膜を保護する保護膜と、EUV光の位相をシフトさせる位相シフト膜と、をこの順で有する。位相シフト膜には、開口パターンが形成される。EUVLでは、位相シフト膜の開口パターンを半導体基板などの対象基板に転写する。転写することは、縮小して転写することを含む。
【0004】
特許文献1には、位相シフト膜が第1の層と第2の層を有し、第2の層がRuとReを含む材料からなることが記載されている。RuとReの元素比(Ru:Re)は40:1~9:16である。特許文献2にも、特許文献1と同様に、位相シフト膜がRuとReを含む材料からなることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2019/225737号
【特許文献2】特開2022-24617号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来から、位相シフト膜の材料として、Ruが検討されている。Ruは、小さな屈折率を有しており、位相シフト膜の位相差を確保しつつ位相シフト膜を薄化できる。しかし、Ruは、小さな消衰係数を有しており、EUV光に対する反射率を大きくしてしまう。
【0007】
そこで、位相シフト膜の材料として、Ruの代わりにReを使用することが考えられる。Reは、Rh、Pd、Pt及びIrに比べて加工性に優れており、且つOsとは異なり毒性を有しない。
【0008】
但し、Reのみからなる膜は、大気中で表面荒れを生じ、表面に欠陥を生じてしまう。表面が大気中の酸素によって酸化され、その酸化物が大気中の水と反応する(潮解する)ためと考えられる。例えばReの潮解によってHReOが生じる。
【0009】
本開示の一態様は、光学特性と大気中での安定性に優れた位相シフト膜を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示の一態様に係る反射型マスクブランクは、基板と、EUV光を反射する多層反射膜と、前記多層反射膜を保護する保護膜と、前記EUV光の位相をシフトさせる位相シフト膜と、をこの順で有する。前記位相シフト膜は、Reに加えてTa、Cr、W、Pt、Os、Pd、Rh、Co、Ni、Sn及びAuから選択される少なくとも1つの元素Xを含み且つRuを実質的に含まないRe化合物で形成される層を有する。前記Re化合物は、Reと全てのXとの元素比(Re:X)が15:85~70:30である。
【発明の効果】
【0011】
本開示の一態様によれば、位相シフト膜の材質としてReに加えてTa、Cr、W、Ir、Pt、Os、Pd及びRhから選択される少なくとも1つの元素Xを含み且つRuを実質的に含まないRe化合物を用いることで、光学特性と大気中での安定性に優れた位相シフト膜を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、一実施形態に係る反射型マスクブランクを示す断面図である。
図2図2は、一実施形態に係る反射型マスクを示す断面図である。
図3図3は、図2の反射型マスクで反射されるEUV光の一例を示す断面図である。
図4図4は、一実施形態に係る反射型マスクブランクの製造方法を示すフローチャートである。
図5図5は、一実施形態に係る反射型マスクの製造方法を示すフローチャートである。
図6図6は、各元素の屈折率と消衰係数の一例を示す図である。
図7図7は、Ta含有量ごとにヘーズ値の時間変化の一例を示す図である。
図8図8は、Cr含有量ごとにヘーズ値の時間変化の一例を示す図である。
図9図9(A)は例1のTaRe膜の表面を示すSEM写真であり、図9(B)は例2のTaRe膜の表面を示すSEM写真であり、図9(C)は例3のCrRe膜の表面を示すSEM写真であり、図9(D)は例4のCrRe膜の表面を示すSEM写真である。
図10図10(A)は例5のCrRe膜の表面を示すSEM写真であり、図10(B)は例6のRe膜の表面を示すSEM写真であり、図10(C)は例7のTaRe膜の表面を示すSEM写真であり、図10(D)は例8のCrRe膜の表面を示すSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本開示を実施するための形態について図面を参照して説明する。各図面において同一の又は対応する構成には同一の符号を付し、説明を省略することがある。明細書中、数値範囲を示す「~」は、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含むことを意味する。
【0014】
図1図3において、X軸方向とY軸方向とZ軸方向は互いに直交する方向である。Z軸方向は、基板10の第1主面10aに対して垂直な方向である。X軸方向は、EUV光の入射面(入射光線と反射光線を含む面)に直交する方向である。図3に示すように、入射光線はZ軸負方向に向かうほどY軸正方向に傾斜し、反射光線はZ軸正方向に向かうほどY軸正方向に傾斜する。
【0015】
図1を参照して、一実施形態に係る反射型マスクブランク1について説明する。反射型マスクブランク1は、例えば、基板10と、多層反射膜11と、保護膜12と、位相シフト膜13と、エッチングマスク膜14と、をこの順番で有する。多層反射膜11と、保護膜12と、位相シフト膜13と、エッチングマスク膜14とは、この順番で、基板10の第1主面10aに形成される。なお、反射型マスクブランク1は、少なくとも、基板10と、多層反射膜11と、保護膜12と、位相シフト膜13と、を有していればよい。
【0016】
反射型マスクブランク1は、図1に図示しない機能膜を更に有してもよい。例えば、反射型マスクブランク1は、基板10を基準として、多層反射膜11とは反対側に、導電膜を有してもよい。導電膜は、基板10の第2主面10bに形成される。第2主面10bは、第1主面10aとは反対向きの面である。導電膜は、例えば反射型マスク2を露光装置の静電チャックに吸着するのに用いられる。反射型マスクブランク1は、多層反射膜11と保護膜12の間に、不図示の拡散バリア膜を有してもよい。拡散バリア膜は、保護膜12に含まれる金属元素が多層反射膜11に拡散するのを抑制する。
【0017】
反射型マスクブランク1は、図示しないが、保護膜12と位相シフト膜13の間にバッファ膜を有してもよい。バッファ膜は、位相シフト膜13に開口パターン13aを形成するエッチングガスから、保護膜12を保護する。バッファ膜は、位相シフト膜13よりも緩やかにエッチングされる。バッファ膜は、保護膜12とは異なり、最終的に位相シフト膜13の開口パターン13aと同一の開口パターンを有することになる。
【0018】
次に、図2及び図3を参照して、一実施形態に係る反射型マスク2について説明する。反射型マスク2は、例えば、図1に示す反射型マスクブランク1を用いて作製され、位相シフト膜13に開口パターン13aを含む。なお、図1に示すエッチングマスク膜14は、位相シフト膜13に開口パターン13aを形成した後に除去される。
【0019】
EUVLでは、位相シフト膜13の開口パターン13aを半導体基板などの対象基板に転写する。転写することは、縮小して転写することを含む。以下、基板10、多層反射膜11、保護膜12、位相シフト膜13、及びエッチングマスク膜14について、この順番で説明する。
【0020】
基板10は、例えばガラス基板である。基板10の材質は、TiOを含有する石英ガラスが好ましい。石英ガラスは、一般的なソーダライムガラスに比べて、線膨張係数が小さく、温度変化による寸法変化が小さい。石英ガラスは、SiOを80質量%~95質量%、TiOを4質量%~17質量%含んでよい。TiO含有量が4質量%~17質量%であると、室温付近での線膨張係数が略ゼロであり、室温付近での寸法変化がほとんど生じない。石英ガラスは、SiO及びTiO以外の第三成分又は不純物を含有してもよい。なお、基板10の材質は、β石英固溶体を析出した結晶化ガラス、シリコン、又は金属等であってもよい。
【0021】
基板10は、第1主面10aと、第1主面10aとは反対向きの第2主面10bと、を有する。第1主面10aには、多層反射膜11などが形成される。平面視(Z軸方向視)にて基板10のサイズは、例えば縦152mm、横152mmである。縦寸法及び横寸法は、152mm以上であってもよい。第1主面10aと第2主面10bは、各々の中央に、例えば正方形の品質保証領域を有する。品質保証領域のサイズは、例えば縦142mm、横142mmである。第1主面10aの品質保証領域は、0.15nm以下の二乗平均平方根粗さ(Rq)と、100nm以下の平坦度と、を有することが好ましい。また、第1主面10aの品質保証領域は、位相欠陥を生じさせる欠点を有しないことが好ましい。
【0022】
多層反射膜11は、EUV光を反射する。多層反射膜11は、例えば高屈折率層と低屈折率層とを交互に積層したものである。高屈折率層の材質は例えばシリコン(Si)であり、低屈折率層の材質は例えばモリブデン(Mo)であり、Mo/Si多層反射膜が用いられる。なお、Ru/Si多層反射膜、Mo/Be多層反射膜、Mo化合物/Si化合物多層反射膜、Si/Mo/Ru多層反射膜、Si/Mo/Ru/Mo多層反射膜、Si/Ru/Mo/Ru多層反射膜、Si/Ru/Mo多層反射膜なども、多層反射膜11として使用可能である。
【0023】
多層反射膜11を構成する各層の膜厚及び層の繰り返し単位の数は、各層の材質、及びEUV光に対する反射率に応じて適宜選択できる。多層反射膜11は、Mo/Si多層反射膜である場合、入射角θ(図3参照)が6°であるEUV光に対して60%以上の反射率を達成するには、膜厚2.3±0.1nmのMo層と、膜厚4.5±0.1nmのSi層とを繰り返し単位数が30以上60以下になるように積層すればよい。多層反射膜11は、入射角θが6°であるEUV光に対して60%以上の反射率を有することが好ましい。反射率は、より好ましくは65%以上である。
【0024】
多層反射膜11を構成する各層の成膜方法は、例えば、DCスパッタリング法、マグネトロンスパッタリング法、又はイオンビームスパッタリング法などである。イオンビームスパッタリング法を用いてMo/Si多層反射膜を形成する場合、Mo層とSi層の各々の成膜条件の一例は下記の通りである。
<Si層の成膜条件>
ターゲット:Siターゲット、
スパッタガス:Arガス、
ガス圧:1.3×10-2Pa~2.7×10-2Pa、
イオン加速電圧:300V~1500V、
成膜速度:0.030nm/sec~0.300nm/sec、
Si層の膜厚:4.5±0.1nm、
<Mo層の成膜条件>
ターゲット:Moターゲット、
スパッタガス:Arガス、
ガス圧:1.3×10-2Pa~2.7×10-2Pa、
イオン加速電圧:300V~1500V、
成膜速度:0.030nm/sec~0.300nm/sec、
Mo層の膜厚:2.3±0.1nm、
<Si層とMo層の繰り返し単位>
繰り返し単位数:30~60(好ましくは40~50)。
【0025】
保護膜12は、多層反射膜11と位相シフト膜13の間に形成され、多層反射膜11を保護する。保護膜12は、位相シフト膜13に開口パターン13a(図2参照)を形成するエッチングガスから多層反射膜11を保護する。保護膜12は、エッチングガスに曝されても除去されずに、多層反射膜11の上に残る。
【0026】
エッチングガスは、例えばハロゲン系ガス、酸素系ガス、又はこれらの混合ガスである。ハロゲン系ガスとしては、塩素系ガスと、フッ素系ガスと、が挙げられる。塩素系ガスは、例えばClガス、SiClガス、CHClガス、CClガス、BClガス又はこれらの混合ガスである。フッ素系ガスは、例えばCFガス、CHFガス、SFガス、BFガス、XeFガス又はこれらの混合ガスである。酸素系ガスは、Oガス、Oガス又はこれらの混合ガスである。
【0027】
エッチングガスによる保護膜12のエッチング速度ER2に対する、エッチングガスによる位相シフト膜13のエッチング速度ER1の比(ER1/ER2)を、選択比とも呼ぶ。選択比が大きいほど、位相シフト膜13の加工性が良い。選択比は、好ましくは10以上であり、より好ましくは30以上である。選択比は、好ましくは200以下であり、より好ましくは100以下である。
【0028】
保護膜12は、例えばRu、Rh及びSiから選択される少なくとも1つの元素を含有する。保護膜12は、Rhを含有する場合、Rhのみを有してもよいが、Rh化合物を有してもよい。Rh化合物は、Rhに加えて、Ru、Nb、Mo、Ta、Ir、Pd、Zr、Y及びTiからなる群から選択される少なくとも1つの元素Z1を含有してもよい。
【0029】
Rhに対してRu、Nb、Mo、Zr、Y又はTiを添加することで、屈折率の増大を抑制しつつ、消衰係数を小さくでき、EUV光に対する反射率を向上できる。また、Rhに対してTa、Ir、Pd又はYを添加することで、エッチングガス又は/及び硫酸過水に対する耐久性を向上できる。硫酸過水は、後述するレジスト膜の除去又は反射型マスク2の洗浄などに用いられる。
【0030】
Z1(全てのZ1)とRhの元素比(Z1:Rh)は、好ましくは1:99~1:1である。本明細書において、元素比とは、モル比のことである。比の値(Z1/Rh)が1/99以上であれば、EUV光に対する反射率が良好である。比の値(Z1/Rh)が1以下であれば、保護膜12のエッチングガスに対する耐久性が良好である。Z1とRhの元素比(Z1:Rh)は、より好ましくは3:10~1:1である。
【0031】
Z1がRuである場合、RuとRhの元素比(Ru/Rh)は、好ましくは0.0超1.0未満(0.0<(Ru/Rh)<1.0)であり、より好ましくは0.3超0.5未満(0.3<(Ru/Rh)<0.5)である。元素比(Ru/Rh)が0.0超であれば、EUV光に対する反射率が良好である。元素比(Ru/Rh)が1.0未満であれば、エッチング耐性が良好である。
【0032】
Z1がPdである場合、PdとRhの元素比(Pd/Rh)は、好ましくは0.00超1.0未満(0.00<(Pd/Rh)<1.0)であり、より好ましくは0.01超0.1未満(0.01<(Pd/Rh)<0.1)である。元素比(Pd/Rh)が0.00超であれば、エッチング耐性が良好である。元素比(Pd/Rh)が1.0未満であれば、EUV光に対する反射率が良好である。
【0033】
Rh化合物は、Rhに加えて、N、O、C及びBからなる群から選択される少なくとも1つの元素Z2を含有してもよい。元素Z2は、保護膜12のエッチングガスに対する耐久性を低下させてしまう反面、保護膜12の結晶性を低下させることで保護膜12の平滑性を向上する。元素Z2を含有するRh化合物は、非結晶構造、又は微結晶構造を有する。Rh化合物が非結晶構造、又は微結晶構造を有する場合、Rh化合物のX線回折プロファイルは明瞭なピークを有しない。
【0034】
Rh化合物がRhに加えてZ2を含有する場合、Rhの含有量又はRhとZ1の合計の含有量は40at%~99at%であって且つZ2の合計の含有量は1at%~60at%であることが好ましい。Rh化合物がRhに加えてZ2を含有する場合、Rhの含有量又はRhとZ1の合計の含有量は80at%~99at%であって且つZ2の合計の含有量は1at%~20at%であることがより好ましい。
【0035】
Rh化合物は、Rhを90at%以上含み、Z1とZ2の少なくとも1つを含み、且つ10.0g/cm~14.0g/cmの密度を有する場合、非結晶構造、又は微結晶構造を有する。Rh化合物の密度は、好ましくは11.0g/cm~13.0g/cmである。
【0036】
なお、保護膜12は、Rhを100at%含み、且つ11.0g/cm~12.0g/cmの密度を有する場合、非結晶構造、又は微結晶構造を有する。なお、保護膜12の密度は、X線反射率法を用いて測定する。
【0037】
保護膜12の厚みは、好ましくは1.0nm~4.0nmであり、より好ましくは2.0nm~3.5nmであり、さらに好ましくは2.5nm~3.0nmである。保護膜12の厚みが1.0nm以上であれば、エッチング耐性が良好である。また、保護膜12の厚みが4.0nm以下であれば、EUV光に対する反射率が良好である。
【0038】
保護膜12の密度は、好ましくは10.0g/cm~14.0g/cmである。保護膜12の密度が10.0g/cm以上であれば、エッチング耐性が良い。また、保護膜12の密度が14.0g/cm以下であれば、EUV光に対する反射率の低下を抑制できる。
【0039】
保護膜12の上面、すなわち保護膜12の位相シフト膜13が形成される表面は、二乗平均平方根粗さRqが好ましくは0.20nm以下であり、より好ましくは0.17nm以下である。二乗平均平方根粗さRqが0.20nm以下であれば、保護膜12の上に位相シフト膜13などを平滑に形成できる。また、EUV光の散乱を抑制でき、EUV光に対する反射率を向上できる。二乗平均平方根粗さRqは、好ましくは0.05nm以上である。
【0040】
保護膜12の成膜方法は、例えば、DCスパッタリング法、マグネトロンスパッタリング法、又はイオンビームスパッタリング法などである。DCスパッタリング法を用いてRh膜を形成する場合、成膜条件の一例は下記の通りである。
<Rh膜の成膜条件>
ターゲット:Rhターゲット、
スパッタガス:Arガス、
ガス圧:1.0×10-2Pa~1.0×10Pa、
ターゲットの出力密度:1.0W/cm~8.5W/cm
成膜速度:0.020nm/sec~1.000nm/sec、
膜厚:1nm~10nm。
【0041】
なお、Rh膜を形成する場合、スパッタガスとして、Nガス、又はArガスとNの混合ガスを使用してもよい。スパッタガス中のNガスの体積比(N/(Ar+N))は0.05以上1.0以下である。
【0042】
DCスパッタリング法を用いて、RhO膜を形成する場合、成膜条件の一例は下記の通りである。
<RhO膜の成膜条件>
ターゲット:Rhターゲット、
スパッタガス:Oガス、又はArガスとOの混合ガス、
スパッタガス中のOガスの体積比(O/(Ar+O)):0.05~1.0、
ガス圧:1.0×10-2Pa~1.0×10Pa、
ターゲットの出力密度:1.0W/cm~8.5W/cm
成膜速度:0.020nm/sec~1.000nm/sec、
膜厚:1nm~10nm。
【0043】
DCスパッタリング法を用いて、RhRu膜を形成する場合、成膜条件の一例は下記の通りである。
<RhRu膜の成膜条件>
ターゲット:Rhターゲット及びRuターゲット(又はRhRuターゲット)、
スパッタガス:Arガス、
ガス圧:1.0×10-2Pa~1.0×10Pa、
ターゲットの出力密度:1.0W/cm~8.5W/cm
成膜速度:0.020nm/sec~1.000nm/sec、
膜厚:1nm~10nm。
【0044】
位相シフト膜13は、開口パターン13aが形成される予定の膜である。開口パターン13aは、反射型マスクブランク1の製造工程では形成されずに、反射型マスク2の製造工程で形成される。位相シフト膜13は、図3に示す第1EUV光L1に対して、第2EUV光L2の位相をシフトさせる。
【0045】
第1EUV光L1は、位相シフト膜13を透過することなく開口パターン13aを通過し、多層反射膜11で反射され、再び位相シフト膜13を透過することなく開口パターン13aを通過した光である。第2EUV光L2は、位相シフト膜13に吸収されながら位相シフト膜13を透過し、多層反射膜11で反射され、再び位相シフト膜13に吸収されながら位相シフト膜13を透過した光である。
【0046】
第1EUV光L1と第2EUV光L2の位相差(≧0)は、例えば170°~250°である。第1EUV光L1の位相が、第2EUV光L2の位相よりも、進んでいてもよいし、遅れていてもよい。位相シフト膜13は、第1EUV光L1と第2EUV光L2の干渉を利用して、転写像のコントラストを向上する。転写像は、位相シフト膜13の開口パターン13aを対象基板に転写した像である。
【0047】
EUVLでは、いわゆる射影効果(シャドーイング効果)が生じる。シャドーイング効果とは、EUV光の入射角θが0°ではない(例えば6°である)ことに起因して、開口パターン13aの側壁付近に、側壁によってEUV光を遮る領域が生じ、転写像の位置ずれ又は寸法ずれが生じることをいう。シャドーイング効果を低減するには、開口パターン13aの側壁の高さを低くすることが有効であり、位相シフト膜13の薄化が有効である。
【0048】
位相シフト膜13の膜厚は、シャドーイング効果を低減すべく、例えば60nm以下であり、好ましくは50nm以下である。位相シフト膜13の膜厚は、第1EUV光L1と第2EUV光L2の位相差を確保すべく、好ましくは20nm以上であり、より好ましくは30nm以上である。
【0049】
第1EUV光L1と第2EUV光L2の位相差を確保しつつ、シャドーイング効果を低減すべく位相シフト膜13の膜厚を小さくするには、位相シフト膜13の屈折率nを小さくすることが有効である。そこで、本実施形態の位相シフト膜13は、少なくともReを含むRe化合物で形成される層を有する。位相シフト膜13は、本実施形態では単層であるが、複数層であってもよい。いずれにしろ、位相シフト膜13を構成する少なくとも一層がRe化合物で形成されればよい。
【0050】
図6に示すように、屈折率nの小さい材料としては、Ru、Rh、Pd、Pt、Ir、Os及びReが挙げられる。これらの中でも、Reは、Ruに比べて大きな消衰係数kを有し、Rh、Pd、Pt及びIrに比べて高い選択比(ER1/ER2)を有し、Osとは異なり毒性を有しない。但し、Reのみからなる膜は、大気中で表面荒れを生じ、表面に欠陥を生じてしまう。表面が大気中の酸素によって酸化され、その酸化物が大気中の水と反応する(潮解する)ためと考えられる。例えばReの潮解によってHReOが生じる。
【0051】
本実施形態のRe化合物は、Reに加えてTa、Cr、W、Pt、Os、Pd、Rh、Co、Ni、Sn及びAuから選択される少なくとも1つの元素Xを含み且つRuを実質的に含まない。Re化合物は、Ruを実質的に含まないことで、消衰係数kを大きくでき、EUV光に対する反射率を低下できる。Ruを実質的に含まないとは、Ru含有量が1at%以下であることを意味する。Re化合物は、Xを含むことで、大気中での安定性を向上でき、表面荒れを抑制できる。
【0052】
Reに対してTa、Cr、W、Os又はSnを添加することで、エッチング速度ER1を大きくでき、選択比(ER1/ER2)を大きくでき、加工性を向上できる。Reに対してPt、Pd、Rh、Os又はAuを添加することで、屈折率nを小さくできる。Reに対してPd、Pt、Os、Au、Co、Ni又はSnを添加することで、消衰係数kを大きくできる。Reに対してTa、Cr、Os、Pt、Pd、Rh又はAuを添加することで、硫酸過水に対する耐性を向上できる。
【0053】
Re化合物は、XとしてTa、Cr及びOsの少なくとも1つを含むことが好ましく、Taを含むことがより好ましい。
【0054】
Re化合物は、Reと全てのXとの元素比(Re:X)が15:85~70:30であることが好ましい。Re:Xは、(Re含有量(at%)):(Xの合計含有量(at%))を意味する。比の値(Re/X)が15/85以上であれば、光学特性が良い。比の値(Re/X)が70/30以下であれば、大気中での安定性を向上でき、表面荒れを抑制できる。(Re:X)は、より好ましくは30:70~65:35であり、さらに好ましくは40:60~60:40である。
【0055】
Re化合物は、Reと全てのXの合計含有量が70at%以上100at%以下であることが好ましい。
【0056】
Re化合物は、ReとXに加えてO、N、B及びCから選択される少なくとも1つの元素を含むことが好ましい。Re化合物は、O、N、B又はCを含むことで、結晶化を抑制できる。また、Re化合物は、Nを含むことで、屈折率nを小さくできる。
【0057】
位相シフト膜13は、CuKα線を用いたXRD法で、2θが20°~50°の範囲において最も強度の高いピークの半値全幅FWHMが1.0°以上である。XRD法としては、out of plane法を用いる。半値全幅FWHMが1.0°以上であれば、位相シフト膜13の結晶性が低く、開口パターン13aの側壁のラフネスを小さくできる。半値全幅FWHMは、好ましくは2.0°以上であり、より好ましくは3.0°以上であり、特に好ましくは4.0°以上である。半値全幅FWHMは大きいほど好ましく、明瞭なピークが無いことが好ましい。
【0058】
位相シフト膜13の屈折率nは、例えば0.945以下であり、好ましくは0.940以下、より好ましくは0.935以下である。屈折率nが小さいほど、位相シフト膜13の膜厚を小さくできる。なお、屈折率nは、好ましくは0.910以上である。本明細書において、屈折率は、波長13.5nmの光に対する屈折率である。
【0059】
位相シフト膜13の消衰係数kは、例えば0.030以上であり、好ましくは0.033以上であり、より好ましくは0.035以上である。消衰係数kが大きいほど、EUV光に対する反射率を低減できる。なお、消衰係数kは、好ましくは0.040以下である。本明細書において、消衰係数は、波長13.5nmの光に対する消衰係数である。
【0060】
位相シフト膜13の光学特性(屈折率nと消衰係数k)は、Center for X-Ray Optics, Lawrence Berkeley National Laboratoryのデータベースの値、又は後述する反射率の「入射角の依存性」から算出した値を用いる。
【0061】
EUV光の入射角θと、EUV光に対する反射率Rと、位相シフト膜13の屈折率nと、位相シフト膜13の消衰係数kとは、下記の式(1)を満たす。
R=|(sinθ-((n+ik)-cosθ)1/2)/(sinθ+((n+ik)-cosθ)1/2)|・・・(1)
入射角θと反射率Rの組み合わせを複数測定し、複数の測定データと式(1)との誤差が最小になるように、最小二乗法で屈折率nと消衰係数kを算出する。
【0062】
位相シフト膜13は、硫酸過水によるエッチング速度が0nm/min~0.05nm/minである。硫酸過水は、後述するレジスト膜の除去、又は反射型マスク2の洗浄などに用いられる。位相シフト膜13の硫酸過水によるエッチング速度が0.05nm/min以下であれば、洗浄時に位相シフト膜13の損傷を抑制できる。
【0063】
位相シフト膜13の成膜方法は、例えば、DCスパッタリング法、マグネトロンスパッタリング法、又はイオンビームスパッタリング法などである。スパッタガス中のOガスの含有量で、位相シフト膜13の酸素含有量を制御可能である。また、スパッタガス中のNガスの含有量で、位相シフト膜13の窒素含有量を制御可能である。
【0064】
DCスパッタリング法を用いてTaRe膜を形成する場合、成膜条件の一例は下記の通りである。
<TaRe膜の成膜条件>
ターゲット:Reターゲット及びTaターゲット、
Reターゲットの出力密度:1.0W/cm~8.5W/cm
Taターゲットの出力密度:1.0W/cm~8.5W/cm
スパッタガス:Arガス、
成膜速度:0.020nm/sec~0.060nm/sec、
膜厚:20nm~60nm。
【0065】
DCスパッタリング法を用いてCrRe膜を形成する場合、成膜条件の一例は下記の通りである。
<CrRe膜の成膜条件>
ターゲット:Reターゲット及びCrターゲット、
Reターゲットの出力密度:1.0W/cm~8.5W/cm
Crターゲットの出力密度:1.0W/cm~8.5W/cm
スパッタガス:Arガス、
成膜速度:0.020nm/sec~0.060nm/sec、
膜厚:20nm~60nm。
【0066】
エッチングマスク膜14は、位相シフト膜13を基準として保護膜12とは反対側に形成され、位相シフト膜13に開口パターン13aを形成するのに用いられる。エッチングマスク膜14の上には、不図示のレジスト膜が設けられる。反射型マスク2の製造工程では、先ずレジスト膜に第1開口パターンを形成し、次に第1開口パターンを用いてエッチングマスク膜14に第2開口パターンを形成し、次に第2開口パターンを用いて位相シフト膜13に第3開口パターン13aを形成する。第1開口パターンと第2開口パターンと第3開口パターン13aは、平面視(Z軸方向視)で同一の寸法及び同一の形状を有する。エッチングマスク膜14は、レジスト膜の薄膜化を可能にする。
【0067】
エッチングマスク膜14は、好ましくはAl、Hf、Y、Cr、Nb、Ti、Mo、Ta及びSiから選択される少なくとも1つの元素を含有する。エッチングマスク膜14は、さらにO、N及びBから選択される少なくとも1つの元素を含有してもよい。
【0068】
エッチングマスク膜14の膜厚は、2nm以上30nm以下が好ましく、2nm以上25nm以下がより好ましく、2nm以上10nm以下がさらに好ましい。
【0069】
エッチングマスク膜14の成膜方法は、例えば、DCスパッタリング法、マグネトロンスパッタリング法、又はイオンビームスパッタリング法などである。
【0070】
次に、図4を参照して、一実施形態に係る反射型マスクブランク1の製造方法について説明する。反射型マスクブランク1の製造方法は、例えば、図4に示すステップS101~S105を有する。ステップS101では、基板10を準備する。ステップS102では、基板10の第1主面10aに多層反射膜11を形成する。ステップS103では、多層反射膜11の上に保護膜12を形成する。ステップS104では、保護膜12の上に位相シフト膜13を形成する。ステップS105では、位相シフト膜13の上にエッチングマスク膜14を形成する。
【0071】
なお、反射型マスクブランク1の製造方法は、少なくとも、ステップS101~S104を有していればよい。反射型マスクブランク1の製造方法は、図4に図示しない機能膜を形成するステップを更に有してもよい。
【0072】
次に、図5を参照して、一実施形態に係る反射型マスク2の製造方法について説明する。反射型マスク2の製造方法は、図5に示すステップS201~S204を有する。ステップS201では、反射型マスクブランク1を準備する。ステップS202では、エッチングマスク膜14を加工する。エッチングマスク膜14の上には、不図示のレジスト膜が設けられる。先ずレジスト膜に第1開口パターンを形成し、次に第1開口パターンを用いてエッチングマスク膜14に第2開口パターンを形成する。その後、レジスト膜が除去される。レジスト膜の除去には、例えば硫酸過水が用いられる。ステップS203では、第2開口パターンを用いて位相シフト膜13に第3開口パターン13aを形成する。ステップS203では、エッチングガスを用いて位相シフト膜13をエッチングする。ステップS204では、エッチングマスク膜14を除去する。エッチングマスク膜14の除去には、例えばエッチングガスが用いられる。ステップS204(エッチングマスク膜14の除去)で用いられるエッチングガスは、ステップS203(開口パターン13aの形成)で用いられるエッチングガスと同種であってもよい。なお、反射型マスク2の製造方法は、少なくとも、ステップS201及びS203を有していればよい。
【実施例0073】
以下、実験データについて説明する。例1~例10では、表1に示す化学組成の位相シフト膜をガラス基板の上に成膜した。ガラス基板としては、SiO-TiO系のガラス基板(外形6インチ(152mm)角、厚さが6.3mm)を準備した。このガラス基板は、20℃における熱膨張係数が0.02×10-7/℃であり、ヤング率が67GPaであり、ポアソン比が0.17であり、比剛性は3.07×10/sであった。位相シフト膜は、DCスパッタリング法で成膜した。位相シフト膜の厚さは、20nmであった。例1~例5が実施例であり、例6~例10が比較例である。
【0074】
例1~例10で得られた、位相シフト膜の評価結果を表1に示す。
【0075】
【表1】
位相シフト膜の化学組成は、アルバック・ファイ社製X線光電子分光装置(PHI 5000 VersaProbe)を用いて測定した。位相シフト膜の光学特性(屈折率nと消衰係数k)は、既述の方法で測定した。位相シフト膜の大気暴露による表面荒れは、ヘーズ値で評価した。表面荒れが大きいほど、ヘーズ値が大きい。
【0076】
ヘーズ値は、日本産業規格JIS K7136:2000に準拠して測定し、測定対象の試験板を板厚方向に透過する透過光のうち、前方散乱によって入射光から2.5°以上それた透過光の百分率として求めた。ヘーズ値の測定に用いる光源としては、日本産業規格JIS Z8720:2012に記載のD65光源を用いた。
【0077】
ヘーズ値は、スガ試験株式会社製のヘーズメーターHZ-2を用いて測定し、3回測定した平均値を採用した。表1に、成膜直後に測定したヘーズ値H(0hr)と、室温で24時間大気に曝露した後に測定したヘーズ値H(24hr)と、上昇率(H(24hr)/H(0hr))を示す。
【0078】
図7に、Ta含有量(at%)ごとにヘーズ値の時間変化を示す。図8に、Cr含有量(at%)ごとにヘーズ値の時間変化を示す。図7及び図8において、横軸は室温で大気に曝露した時間を示す。さらに、図9及び図10に、室温で24時間大気に曝露した位相シフト膜の表面のSEM写真を示す。
【0079】
表1、図7図10から明らかなように、Reに対してTa又はCrを添加することで、大気暴露による表面荒れを抑制できることが分かる。特に、元素比(Re:X)が15:85~70:30であれば、つまり、Ta含有量又はCr含有量が30at%~85at%であれば、位相シフト膜を大気に長時間曝露しても、ヘーズ値がほとんど上昇しておらず、表面荒れがほとんど生じなかった。
【0080】
表1に示すように、例9及び例10によれば、Reに対してRuを添加したため、消衰係数kが低く、0.035未満であった。
【0081】
以上、本開示に係る反射型マスクブランク、反射型マスク、反射型マスクブランクの製造方法、及び反射型マスクの製造方法について説明したが、本開示は上記実施形態などに限定されない。特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更、修正、置換、付加、削除、及び組み合わせが可能である。それらについても当然に本開示の技術的範囲に属する。
【符号の説明】
【0082】
1 反射型マスクブランク
2 反射型マスク
10 基板
11 多層反射膜
12 保護膜
13 位相シフト膜
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10