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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024013517
(43)【公開日】2024-02-01
(54)【発明の名称】生体分子検出用化合物
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/414 20060101AFI20240125BHJP
   C07D 411/14 20060101ALI20240125BHJP
   C07D 407/14 20060101ALI20240125BHJP
   G01N 27/00 20060101ALI20240125BHJP
   G01N 27/416 20060101ALN20240125BHJP
【FI】
G01N27/414 301G
C07D411/14
C07D407/14
G01N27/00 J
G01N27/416 351A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022115664
(22)【出願日】2022-07-20
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】509349141
【氏名又は名称】京都府公立大学法人
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】椿 一典
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 済
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 夕起
(72)【発明者】
【氏名】水上 潤二
【テーマコード(参考)】
2G060
4C063
【Fターム(参考)】
2G060AA07
2G060AA15
2G060AD06
2G060DA15
2G060FA07
2G060JA07
2G060KA09
4C063AA03
4C063BB01
4C063CC85
4C063CC87
4C063DD76
4C063DD85
4C063EE10
(57)【要約】
【課題】生体内ポリアミンを高感度に検出できる化合物を提供すること。
【解決手段】生体分子である生体内ポリアミンを認識するホスト部位Zと、基体であるグラフェンに相互作用するアンカー部位Xと、前記ホスト部位Zと前記アンカー部位Xとを連結するリンカー部位Yとからなり、下記一般式(I)で示される、生体分子検出用化合物。
X-Y-Z (I)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体分子である生体内ポリアミンを認識するホスト部位Zと、基体であるグラフェンに相互作用するアンカー部位Xと、前記ホスト部位Zと前記アンカー部位Xとを連結するリンカー部位Yとからなり、下記一般式(I)で示される、生体分子検出用化合物。
X-Y-Z (I)
X:アンカー部位
Y:リンカー部位
Z:ホスト部位
【請求項2】
前記アンカー部位Xは、置換基を有してもよい3縮合環以上の多環芳香族炭化水素に由来する構造を有し、分子量が500~1000である、請求項1に記載の生体分子検出用化合物。
【請求項3】
前記リンカー部位Yは、置換基を有してもよい炭素数1以上の二価脂肪族炭化水素基、置換基を有してもよい炭素数6以上の二価芳香族炭化水素基、置換基を有してもよい炭素数1以上のオキシアルキレン基、置換基を有してもよい炭素数6以上のオキシアリーレン基、置換基を有してもよい炭素数1以上のアミノアルキレン基、置換基を有してもよい炭素数6以上のアミノアリーレン基、置換基を有してもよい炭素数1以上のチオアルキレン基、および置換基を有してもよい炭素数6以上のチオアリーレン基から選ばれる、請求項1に記載の生体分子検出用化合物。
【請求項4】
前記ホスト部位Zの分子量が300~700である、請求項1に記載の生体分子検出用化合物。
【請求項5】
前記ホスト部位Zは、下記式(Z1)~(Z4)のいずれかに示す構造である、請求項1に記載の生体分子検出用化合物。
【化1】
【請求項6】
前記生体内ポリアミンがスペルミンおよびスペルミジンの少なくとも一種である、請求項1に記載の生体分子検出用化合物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の生体分子検出用化合物を備えた、生体分子検出用検査薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体分子検出用化合物に関し、より詳しくは、生体内ポリアミン検出用化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、感染症や癌などの疾患に対して、その早期診断の重要性が増している。一般的に、疾患の診断は、被検者の細胞、血液、唾液、尿、涙などの検体を検査することにより行う。具体的には、例えば、唾液に含まれるポリアミンを用いることにより、特定の癌のリスクを調べる方法などが開発されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-035768号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の唾液中の微量のポリアミン等を調べる方法は、高価な高感度の質量分析装置(LC/MS)を用いて分析するため、検査費用が高額になり、また、測定や結果解析を行うために高い専門性や経験が求められる。そこで、ポリアミン等の微量のマーカー成分を迅速で簡便に調べることができる検査方法の開発が望まれている。また、ポリアミンの総量ではなく、特定のポリアミンの存在や量について選択的に分析する方法の開発が望まれている。
本発明は、生体内ポリアミンを高感度に検出できる化合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上述の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、ポリアミンを認識可能な化合物を用いて、電気的に検出することにより、高感度にポリアミンを検出することが可能になることを見出した。
本発明は下記の生体分子検出用化合物に関する。
〔1〕 生体分子である生体内ポリアミンを認識するホスト部位Zと、基体であるグラフェンに相互作用するアンカー部位Xと、前記ホスト部位Zと前記アンカー部位Xとを連結するリンカー部位Yとからなり、下記一般式(I)で示される、生体分子検出用化合物。
X-Y-Z (I)
X:アンカー部位
Y:リンカー部位
Z:ホスト部位
【発明の効果】
【0006】
本発明の生体分子検出用化合物によれば、検出対象である生体内ポリアミンを基体であるグラフェンに近接させることが可能となり、微量の生体内ポリアミンを高感度に認識できる。かかる生体分子検出用化合物を用いることにより、生体内ポリアミンを高感度に検出できる検査方法、およびそのために使用する検査装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
<生体分子検出用化合物>
本発明の生体分子検出用化合物は、生体分子である生体内ポリアミンを認識するホスト部位Zと、基体であるグラフェンに分子間相互作用するアンカー部位Xと、前記ホスト部位Zと前記アンカー部位Xとを連結するリンカー部位Yとからなり、下記一般式(I)で示される機能性低分子である。
X-Y-Z (I)
X:アンカー部位
Y:リンカー部位
Z:ホスト部位
【0008】
上記構造により、生体内ポリアミンを電気的に検出することにより、高感度にポリアミンを検出することが可能になる。
また、アンカー部位Xとホスト部位Zがリンカー部位Yを介して一体化していることにより、検出対象であるポリアミンを基体であるグラフェンに近接させることができる。これにより、認識分子として従来用いられていたアプタマーに比べて、ホスト部位Zとグラフェンとの距離が短く、その結果、ポリアミン認識時の感度が高いという利点がある。
【0009】
(ホスト部位Z)
ホスト部位Zは、ポリアミンを認識する部位である。
ホスト部位Zの構造としては、クラウンエーテル環構造を有するフェノールフタレイン型骨格を有することが好ましい。かかる構造はポリアミンの分子長に適合するため、ポリアミンとの結合定数が高く、ポリアミンを認識できる。
またホスト部位Zは、グラフェンからの距離を短くすることが好ましい観点から、分子量300~700であることが好ましい。
【0010】
ホスト部位Zは、フェノールフタレイン型骨格を有すれば以下に示す構造に限定されないが、特に下記式(Z1)~(Z4)のいずれかに示す構造であることが好ましい。
【0011】
【化1】
【0012】
(アンカー部位X)
アンカー部位Xは、基体であるグラフェンと相互作用する部位である。
ここで、グラフェンは、極めて高い移動度や比表面積、水中での安定性など特異な性質を有するため、水中に露出した広いグラフェン表面に検出対象である生体分子を直接接触させ、それによるキャリア変調を大きな電流変化として取り出すことが可能となる。よってグラフェンは、高感度バイオセンサーやバイオ分析プラットフォームの材料として有用である。グラフェン電界効果トランジスタ(FET)上に正/負の電荷を持った生体分子が吸着することによる伝達特性の変化を計測し、生体分子を高感度に検出することが可能である。本発明において検出対象である生体内ポリアミンはプラスに帯電している。
【0013】
アンカー部位Xは、グラフェンとの分子間相互作用の観点から、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素、または置換基を有していてもよい3次元脂肪族炭化水素があげられる。なかでも、分子間相互作用を高める観点から、置換基を有してもよい3縮合環以上の多環芳香族炭化水素に由来する構造を有することが好ましい。これにより、分子間相互作用、たとえば疎水結合やπ-π電子相互作用により、機能性分子である生体分子検出用化合物をグラフェンに保持することができる。
【0014】
また、ホスト部位とグラフェン間の距離をできるだけ短くすることで高感度化が図れる観点から、アンカー部位Xは、分子量が500~1500であることが好ましく、500~1000がより好ましい。
【0015】
3縮合環以上の多環芳香族炭化水素としては、ピレン、トリフェニレン、アントラセン、またはターフェニル等のアセン系多環芳香族炭化水素、ナフチルジアミド、尿素誘導体、C60フラーレン誘導体、C70フラーレン誘導体などの球状化合物、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体、サブフタロシアニン誘導体、サブポルフィリン誘導体、炭素クラスター、アダマンタンなどの籠状化合物が挙げられる。なかでも、アンカー部位とリンカー部位との化学結合のしやすさの観点から、アセン系多環芳香族炭化水素がより好ましく、ピレン、アントラセンなどが特に好ましい。
【0016】
3縮合環以上の多環芳香族炭化水素における置換基としては、下記リンカー部位で例示した置換基と同様の例が挙げられる。
【0017】
(リンカー部位Y)
リンカー部位Yは、ホスト部位Zとアンカー部位Xとを連結する役割を担うと共に、生体分子検出用化合物の機能を発揮させるために適切な空間自由回転をもたらせることが好ましい。
かかる観点から、リンカー部位Yとしては、置換基を有してもよい炭素数1以上の二価脂肪族炭化水素基、置換基を有してもよい炭素数6以上の二価芳香族炭化水素基、置換基を有してもよい炭素数1以上のオキシアルキレン基、置換基を有してもよい炭素数6以上のオキシアリーレン基、置換基を有してもよい炭素数1以上のアミノアルキレン基、置換基を有してもよい炭素数6以上のアミノアリーレン基、置換基を有してもよい炭素数1以上のチオアルキレン基、および置換基を有してもよい炭素数6以上のチオアリーレン基から選ばれることが好ましい。かかる基による連結により、ターゲットである生体分子を認識・捕獲しやすい空間配置、または生体分子検出用化合物を反応場とするポリアミンの認識が起こりやすい空間配置とすることが可能になる。
【0018】
炭素数1以上の二価脂肪族炭化水素基としては、炭素数1~10のアルキレン基が好ましい。またアルキレン基は鎖状であることが好ましい。なお、上記炭素数に置換基の炭素数は含まれない。
二価脂肪族炭化水素基における置換基としては、ハロゲン原子、水酸基、ニトロ基、シアノ基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロアリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、ヘテロアリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、ヘテロアリールチオ基、アミノ基、アシル基、アミノアシル基、ウレイド基、スルホンアミド基、カルバモイル基、スルファモイル基、スルファモイルアミノ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、ヘテロアリールオキシカルボニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、ヘテロアリールスルホニル基、イミド基、シリル基。
具体的な置換基例は以下のとおりである。
エチニル基、プロピレニル基などの炭素数2~10のアルケニル基;
アセチレニル基など炭素数2~10のアルキニル基;
フェニル基、ナフチル基などの炭素数6~20のアリール基;
チエニル基、フリル基、ピリジル基などの炭素数3~20のヘテロアリール基;
メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基などの炭素数1~10のアルコキシ基;
フェノキシ基、ナフトキシ基などの炭素数6~10のアリールオキシ基;
ピリジルオキシ基、チエニルオキシ基などの炭素数3~10のヘテロアリールオキシ基;
メチルチオ基、エチルチオ基などの炭素数1~10のアルキルチオ基;
フェニルチオ基、ナフチルチオ基などの炭素数6~10のアリールチオ基;
ピリジルチオ基、チエニルチオ基などの炭素数3~10のヘテロアリールチオ基;
ジメチルアミノ基、ジフェニルアミノ基などの炭素数1~15のアミノ基;
アセチル基、ピバロイル基などの炭素数2~10のアシル基;
アセチルアミノ基、プロピオニルアミノ基などの炭素数2~10のアシルアミノ基;
3-メチルウレイド基などの炭素数2~10のウレイド基;
メタンスルホンアミド基、ベンゼンスルホンアミド基などの炭素数1~10のスルホンアミド基;
ジメチルカルバモイル基、エチルカルバモイル基などの炭素数1~10のカルバモイル基;
エチルスルファモイル基などの炭素数1~10のスルファモイル基;
ジメチルスルファモイルアミノ基などの炭素数1~10のスルファモイルアミノ基;
メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基などの炭素数2~10のアルコキシカルボニル基;
フェノキシカルボニル基、ナフトキシカルボニル基などの炭素数7~12のアリールオキシカルボニル基;
ピリジルオキシカルボニル基などの炭素数6~12のヘテロアリールオキシカルボニル基;
メタンスルホニル基、エタンスルホニル基、トリフルオロメタンスルホニル基などの炭素数1~10のアルキルスルホニル基;
ベンゼンスルホニル基、モノフルオロベンゼンスルホニル基などの炭素数6~12のアリールスルホニル基;
チエニルスルホニル基などの炭素数3~12のヘテロアリールスルホニル基;
フタルイミド基などの炭素数4~12のイミド基;又は、
アルキル基及びアリール基からなる群より選ばれる置換基で3置換されているシリル基:が挙げられる。
【0019】
炭素数6以上の二価芳香族炭化水素基としては、炭素数6~18のアリーレン基が好ましい。アリーレン基は2以上の芳香族環が連結されていてもよい。また置換基としては上記の置換基と同様のものおよびメチル基、エチル基などの炭素数1~15のアルキル基が挙げられる。なお、上記炭素数に置換基の炭素数は含まれない。
【0020】
炭素数1以上のオキシアルキレン基としては、炭素数1~10のオキシアルキレン基が好ましく、炭素数4~8のオキシアルキレン基がさらに好ましい。オキシアルキレン基は鎖状であることが好ましい。オキシアルキレン基中のエーテル性酸素原子数は1~4が好ましい。また置換基としては上記の置換基と同様のものが挙げられる。なお、上記炭素数に置換基の炭素数は含まれない。
【0021】
炭素数6以上のオキシアリーレン基としては、炭素数6~18のオキシアリーレン基が好ましい。オキシアリーレン基は2以上の芳香族環が連結されていてもよい。オキシアリーレン基中のエーテル性酸素原子数は1~4が好ましい。また置換基としては上記の置換基と同様のものおよびメチル基、エチル基などの炭素数1~15のアルキル基が挙げられる。なお、上記炭素数に置換基の炭素数は含まれない。
【0022】
炭素数1以上のアミノアルキレン基としては、炭素数1~10のアミノアルキレン基が好ましい。アミノアルキレン基は鎖状であることが好ましい。アミノアルキレン基中のエーテル性酸素原子数は1~4が好ましい。また置換基としては上記の置換基と同様のものが挙げられる。なお、上記炭素数に置換基の炭素数は含まれない。
【0023】
炭素数6以上のアミノアリーレン基としては、炭素数6~18のアミノアリーレン基が好ましい。アミノアリーレン基は2以上の芳香族環が連結されていてもよい。アミノアリーレン基中のエーテル性酸素原子数は1~4が好ましい。また置換基としては上記の置換基と同様のものおよびメチル基、エチル基などの炭素数1~15のアルキル基が挙げられる。なお、上記炭素数に置換基の炭素数は含まれない。
【0024】
炭素数1以上のチオアルキレン基としては、炭素数1~10のチオアルキレン基が好ましい。チオアルキレン基は鎖状であることが好ましい。チオアルキレン基中のエーテル性酸素原子数は1~4が好ましい。また置換基としては上記の置換基と同様のものが挙げられる。なお、上記炭素数に置換基の炭素数は含まれない。
【0025】
炭素数6以上のチオアリーレン基としては、炭素数6~18のチオアリーレン基が好ましい。チオアリーレン基は2以上の芳香族環が連結されていてもよい。チオアリーレン基中のエーテル性酸素原子数は1~4が好ましい。また置換基としては上記の置換基と同様のものおよびメチル基、エチル基などの炭素数1~15のアルキル基が挙げられる。なお、上記炭素数に置換基の炭素数は含まれない。
【0026】
リンカー部位Yとしては、上記のなかでも、グラフェンとの疎水性相互作用向上の観点、水系溶媒への親和性を高め過ぎない観点、およびリンカー部位に適度な屈曲性を付与でき認識部位の最適な空間的配列を形成する観点から、炭素数1~8のアルキレン基または炭素数1~8オキシアルキレン基がより好ましく、炭素数4~8のアルキレン基または炭素数4~8のオキシアルキレン基が特に好ましい。具体的には下記式に示す構造が挙げられる。
-(CHy0- (y0:1~8、より好ましくは4~8)
-(CHy1-O- (y1:1~8、より好ましくは4~8)
-(CHy2-O-(CHy3-O- (y2:1~7。y3:1~7。y2+y3=2~8、より好ましくは4~8)
なお上記具体例において、アンカー部位Xとホスト部位Zと結合する方向は限定されない。
【0027】
<生体分子検出用化合物の製造方法>
本発明の生体分子検出用化合物は、たとえば、下記スキームに従って製造することができる。
【0028】
【化2】
【0029】
ホスト部位を含む化合物1(フェノールフタレイン誘導体)は、Tetrahedron Letters 48 (2007) 2135-2138等に記載される公知の方法に従って合成できる。
化合物1に対し、化合物2(多環芳香族炭化水素誘導体)を反応させた化合物3を得て、次いで、フェノール性水酸基のマスキングを解除することで、化合物4(生体分子検出用化合物)が得られる。
なお、化合物2は、市販品の1-ピレンブタノールと塩化トシルとを、公知の方法、たとえば、Journal of Polymer Science, Part A: Polymer Chemistry (2007), 46(1), 314-326にしたがって誘導できる。
【0030】
また、ホスト部位Zが、式(Z2)や式(Z4)のようにスルホン構造を有する場合は、化合物1におけるラクトン構造がスルホン構造に置き換わった化合物を用いることで製造できる。かかる化合物も、有機合成化学協会誌 2011 69 266-277等の公知の方法により合成可能である。
【0031】
本発明の生体分子検出用検査薬は、上記本発明の生体分子検出用化合物を含有する。上記の通り、本発明の生体分子検出用化合物は、ホスト部位Zによって生体内ポリアミンを選択的に認識し、アンカー部位Xによってグラフェン素子と相互作用するため、かかる化合物を含有する生体分子検出用検査薬は生体内ポリアミンを高感度で検出できる。
【0032】
<生体分子検出方法>
本発明の生体分子検出用化合物を用いた、生体分子検出方法について以下説明する。
本発明の生体分子検出方法では、検体液に含まれる生体内ポリアミンを検出対象とする。生体内ポリアミンは、被検者の体調や病気への罹患などにより、生体中に存在する種類や量が変化することが知られている。特に、癌細胞のような増殖が活発な細胞においては、その濃度が高くなる場合があることが知られており、癌診断におけるマーカーとしても利用されている。生体内ポリアミンとしては、スペルミン、スペルミジン、プトレスシン等が挙げられる。
【0033】
本発明の生体分子検出用化合物を用いた検出方法によれば、生体分子を高感度に検出できるため、検体液中の生体分子含有量が微量であっても検出可能である。よって、生体分子が唾液や血液等の体液や排泄物中に含まれる場合であっても適用できる。
【0034】
生体分子を検出するにあたり、まず、検体液を準備する。検出対象となる生体分子が、唾液や血液等の体液や、尿等の排泄物中に含まれる場合は、体液や排泄物を含む液体を準備する。
【0035】
つぎに、検体液にパッドを含浸させる。パッドに検体液を所望の液量になるまで滴下してもよいし、検体液で満たした容器にパッドを浸してもよい。パッドを構成する材料としては、検体液を含浸できる材料が好ましく、無機繊維材料および有機繊維材料が好ましい。
【0036】
検体液を含浸させたパッドを、ソース電極、ドレイン電極、ゲート電極を備えたグラフェン素子に静置し、グラフェンと接触させる。
【0037】
次に、ゲート電極に、電圧を好ましくは-5V~5V、さらに好ましくは-1V~2Vの範囲で掃引すると、電荷を有する生体分子の存在によってソース電極ドレイン電極間に電気的変化が生じる。この電気的変化を測定することで検体液中の生体分子量を検出できる。
【0038】
上記方法により、検体液に含まれる生体内ポリアミンを電気的に検出することができる。
本発明の検出方法では、検出部であるグラフェンの表層に検体液を近接させることができるため、検体液の液層を、パッドとグラフェンとの界面近傍の閉鎖空間内にコンパクトに収めることができる。その結果、検体液の液層とグラフェン膜との界面付近に形成される電気二重層内に、ターゲットの生体分子(ポリアミン)が捕獲され、高感度な検出が可能となる。
【0039】
以上のとおり、本発明は下記の生体分子検出用化合物等に関する。
〔1〕生体分子である生体内ポリアミンを認識するホスト部位Zと、基体であるグラフェンに相互作用するアンカー部位Xと、前記ホスト部位Zと前記アンカー部位Xとを連結するリンカー部位Yとからなり、下記一般式(I)で示される、生体分子検出用化合物。
X-Y-Z (I)
X:アンカー部位
Y:リンカー部位
Z:ホスト部位
〔2〕前記アンカー部位Xは、置換基を有してもよい3縮合環以上の多環芳香族炭化水素に由来する構造を有し、分子量が500~1000である、〔1〕に記載の生体分子検出用化合物。
〔3〕前記リンカー部位Yは、置換基を有してもよい炭素数1以上の二価脂肪族炭化水素基、置換基を有してもよい炭素数6以上の二価芳香族炭化水素基、置換基を有してもよい炭素数1以上のオキシアルキレン基、置換基を有してもよい炭素数6以上のオキシアリーレン基、置換基を有してもよい炭素数1以上のアミノアルキレン基、置換基を有してもよい炭素数6以上のアミノアリーレン基、置換基を有してもよい炭素数1以上のチオアルキレン基、および置換基を有してもよい炭素数6以上のチオアリーレン基から選ばれる、〔1〕または〔2〕に記載の生体分子検出用化合物。
〔4〕前記ホスト部位Zの分子量が300~700である、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の生体分子検出用化合物。
〔5〕前記ホスト部位Zは、下記式(Z1)~(Z4)のいずれかに示す構造である、〔1〕~〔4〕のいずれかに生体分子検出用化合物。
【0040】
【化3】
【0041】
〔6〕前記生体内ポリアミンがスペルミンおよびスペルミジンの少なくとも一種である、〔1〕~〔5〕のいずれかに生体分子検出用化合物。
〔7〕〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の生体分子検出用化合物を備えた、生体分子検出用検査薬。
【実施例0042】
以下に、実施例により本発明の実施態様を説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、これらに限定されるものではない。
【0043】
<実施例1:生体分子検出用化合物4の合成>
(合成例1)
【0044】
【化4】
【0045】
化合物1をTetrahedron Letters 48 (2007) 2135-2138に従って合成した。
化合物1(184.3mg,0.217mmol)をDMFに溶解し、炭酸カリウム(44.9mg,0.325mmol)、化合物2(102.1mg,0.238mmol)を加えた。その後60℃まで昇温し、撹拌した。3時間後、水を加えて反応を停止した。酢酸エチルで抽出し、有機層を水、飽和食塩水で洗浄後、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。溶媒を減圧留去し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム:メタノール=15:1)にて精製し、化合物3(238.3mg,0.215mmol,99%)を白色固体として得た。
H-NMR(400MHz,CDCl)δ8.26(d,J=9.1Hz,1H),8.20-7.97(m,7H),7.87(d,J=7.8Hz,1H),7.81(d,J=8.2Hz,1H),7.22-7.17(m,4H),7.04(dd,J=8.5,2.1Hz,1H),6.92(d,J=1.8Hz,1H),6.20-6.11(m,2H),5.48(dd,J=17.4,2.3Hz,2H),5.19(dd,J=10.5,2.3Hz,2H),4.93-4.85(m,8H),4.06-4.04(m,6H),3.62-3.26(m,34H),2.07-2.01(m,4H)
【0046】
(合成例2)
【0047】
【化5】
【0048】
化合物3(200mg,0.181mmol)をメタノールに溶解し、Pd(PPh(4.2mg,0.00361mmol)、炭酸カリウム(74.9mg,0.541mmol)を加えた。その後、室温下で1時間撹拌し、1M塩酸水溶液を加えて反応を停止した。酢酸エチルで抽出し、有機層を水、飽和食塩水で洗浄後、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。溶媒を減圧留去し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム:メタノール=20:1)にて精製し、化合物4(123.2mg,0.118mmol,66%)を白色固体として得た。
H-NMR(400MHz,CDCl)δ8.27(d,J=9.1Hz,1H),8.17-7.97(m,9H)7.88(d,J=7.8Hz,1H),7.77(d,J=8.7Hz,1H),7.02(s,4H),6.98(dd,J=8.7,2.3Hz,1H),6.84(d,J=1.8Hz,1H),4.54(m,8H),4.06(t,J=5.9Hz,2H),3.69-3.60(m,32H),3.43(t,J=7.3Hz,2H),2.09-1.97(m,4H)
【0049】
<実施例2:生体分子検出用化合物7の合成>
(合成例3)
【0050】
【化6】
【0051】
化合物1(200mg,0.235mmol)をDMFに溶解し、炭酸カリウム(48.7mg,0.352mmol)、化合物5(64.8mg,0.259mmol)を加えた。その後室温下で19時間撹拌し、水を加えて反応を停止した。酢酸エチルで抽出し、有機層を水、飽和食塩水で洗浄後、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。溶媒を減圧留去し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム:メタノール=20:1~10:1)にて精製し、化合物6(191.7mg,0.180mmol,77%)を白色固体として得た。
H-NMR(400MHz,CDCl)δ8.30(d,J=9.1Hz,1H),8.24-8.02(m,9H),7.90(d,J=8.7Hz,1H),7.22(s,4H),7.21(s,1H),6.22-6.14(m,2H),5.85(s,2H),5.50(d,J=16.0Hz,2H),5.22(d,J=10.5Hz,2H),4.93(d,J=5.0Hz,4H),4.85(d,J=10.1Hz,4H),4.15-4.02(m,4H),3.60-3.38(m,32H)
【0052】
(合成例4)
【0053】
【化7】
【0054】
化合物6(166.8mg,0.157mmol)をメタノールに溶解し、Pd(PPh(3.6mg,0.00313mmol)、炭酸カリウム(64.9mg,0.470mmol)を加えた。その後、室温下で1時間撹拌し、1M塩酸水溶液を加えて反応を停止した。酢酸エチルで抽出し、有機層を水、飽和食塩水で洗浄後、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。溶媒を減圧留去し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム:メタノール=20:1)にて精製し、化合物7(127.9mg,83%)を白色固体で得た。
H-NMR(400MHz,CDCl)δ8.31(d,J=9.1Hz,1H),8.25-8.03(m,10H),7.85(d,J=8.5Hz,1H),7.23(dd,J=8.5,2.1Hz,1H),7.09(d,J=2.3Hz,1H),7.02(s,4H),5.83(s,2H),4.52(s,8H),3.70-3.65(m,32H).
【0055】
<実施例3:生体分子検出用化合物11の合成>
(合成例5)
【0056】
【化8】
【0057】
化合物8(142.1mg,0.514mmol)をジクロロメタンに溶解し、トリエチルアミン(143μl,1.03mmol)、p-トルエンスルホニルクロリド(147.1mg,0.771mmol)を加えた。その後室温下で15時間撹拌し、水を加えて反応を停止した。酢酸エチルで抽出し、有機層を水、飽和食塩水で洗浄後、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。溶媒を減圧留去し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=4:1)にて精製した。化合物9(179.4mg,81%)を白色固体として得た。
H-NMR(400MHz,CDCl)δ8.28(d,J=9.6Hz,1H),8.22-8.02(m,7H),7.93(d,J=7.8Hz,1H),7.71(d,J=8.2Hz,2H),7.11(d,J=8.2Hz,2H),5.19(s,2H),4.23(t,J=4.8Hz,2H),3.77(t,J=4.6Hz,2H),2.27(s,3H).
【0058】
(合成例6)
【0059】
【化9】
【0060】
化合物1(141.8mg,0.167mmol)をDMFに溶解し、炭酸カリウム(34.5mg,0.250mmol)、化合物9(78.9mg,0.183mmol)を加えた。その後60℃下で23時間撹拌し、水を加えて反応を停止した。酢酸エチルで抽出し、有機層を水、飽和食塩水で洗浄後、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。溶媒を減圧留去し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム:メタノール=20:1)にて精製し、化合物10(153.1mg,0.138mmol,83%)を白色固体として得た。
H-NMR(400MHz,CDCl)δ8.39(d,J=9.1Hz,1H),8.21-8.00(m,8H),7.80(d,J=8.2Hz,1H),7.19(dd,J=8.5,2.5Hz,4H),7.05(dd,J=8.5,2.1Hz,1H),6.95(d,J=1.8Hz,1H),6.20-6.10(m,2H),5.51-5.46(m,2H),5.34(s,2H),5.20(d,J=10.5Hz,2H),4.92-4.82(m,8H),4.23(t,J=4.6Hz,2H),4.05(dd,J=10.3,3.4Hz,4H),3.96(t,J=4.3Hz,2H),3.54-3.33(m,32H).
【0061】
(合成例7)
【0062】
【化10】
【0063】
化合物10(107.7mg,0.0971mmol)をメタノールに溶解し、Pd(PPh(2.2mg,0.00291mmol)、炭酸カリウム(40.3mg,0.291mmol)を加えた。その後、室温下で0.5時間撹拌し、1M塩酸水溶液を加えて反応を停止した。酢酸エチルで抽出し、有機層を水、飽和食塩水で洗浄後、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。溶媒を減圧留去し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム:メタノール=20:1)にて精製し、化合物11(79.6mg,80%)を白色固体として得た。
H-NMR(400MHz,CDCl)δ8.40(d,J=9.1Hz,1H),8.25-8.00(m,10H),7.77(d,J=8.2Hz,1H),7.02(s,4H),7.02-6.98(m,1H),6.90(d,J=1.8Hz,1H),5.35(s,2H),4.57-4.50(m,8H),4.21(t,J=4.6Hz,2H),3.95(t,J=4.6Hz,2H),3.68-3.62(m,32H).
【0064】
<実施例4:生体分子検出用化合物14の合成>
(合成例8)
【0065】
【化11】
【0066】
化合物1(50.0mg,0.0588mmol)をDMFに溶解し、炭酸カリウム(12.2mg,0.0833mmol)、化合物12(67.0mg,0.0646mmol)を加えた。その後室温下で42時間撹拌し、水を加えて反応を停止した。酢酸エチルで抽出し、有機層を水、飽和食塩水で洗浄後、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。溶媒を減圧留去し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム:メタノール=20:1)にて精製し、化合物13(40.1mg,40%)を黒色固体として得た。この化合物13は,このまま次の反応に用いた。
【0067】
(合成例9)
【0068】
【化12】
【0069】
化合物13(40mg,0.0233mmol)をメタノールに溶解し、Pd(PPh(0.5mg,0.000466mmol)、炭酸カリウム(9.7mg,0.0699mmol)を加えた。その後、50℃下で13時間撹拌し、1M塩酸水溶液を加えて反応を停止した。酢酸エチルで抽出し、有機層を水、飽和食塩水で洗浄後、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。溶媒を減圧留去し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム:メタノール=20:1)にて精製し、化合物14(14.1mg,50%)を黒色固体として得た。
H-NMR(400MHz,CDCl)δ8.21(s,2H),7.93(d,J=7.8Hz,2H),7.78(d,J=8.2Hz,1H),7.53(d,J=6.9Hz,2H),7.47(d,J=7.8Hz,1H),7.03(s,4H),7.05-6.96(m,1H),6.84(s,1H),4.57(s,8H),4.08(m,2H),3.68(t,J=5.0Hz,32H),2.95(m,2H),2.33(m,2H),1.25(m,2H).
【0070】
<実施例5:生体分子検出試験>
生体分子検出試験に用いるグラフェン素子を以下の方法により作製した。
まず、285nmの厚さに酸化シリコン膜が付され、さらに、あらかじめ蒸着法で成膜したNi/Au電極(40nm)をフォトリソグラフィ法でパターニングした、シリコン基板を準備した。そのシリコン基板上に、銅箔上にCVD法で合成したグラフェン単層結晶膜を転写した。さらにグラフェン単層結晶膜をフォトリソグラフィ法でパターニングした。なお、ソース電極とドレイン電極のギャップは約10μm、ギャップ部の電極の幅は約20μm、電極の長さは約5mm、ゲート電極との間隔は約1.5mmであった。尚、ソース電極とドレイン電極のギャップを覆うように設けたグラフェン単層結晶膜のサイズは、およそ30μm角であった。
【0071】
次に、グラフェン素子表面を以下の方法により各検出用化合物で修飾した。
実施例1の化合物4、実施例2の化合物7、実施例3の化合物11の、2-メトキシエタノール溶液10mMをそれぞれ調製し(検出用化合物溶液と称す)、グラフェン素子の上に滴下乾燥し修飾した。2-メトキシエタノールで余分な検出用化合物を溶解除去したところ、顕微鏡下でグラフェンエッジにピレンからの発光が観察され、検出用化合物4、検出用化合物7、検出用化合物11のいずれも、グラフェン表面を良好に修飾していることが確認された。ただし、検出用化合物11ではやや修飾量が少ない傾向が見られた。それは、溶媒に検出用化合物11が溶解しやすいことから、余分な検出用化合物11を溶解除去の工程で、一部が溶解除去したものと推測される。
【0072】
ポリアミン溶液として表1~表5に示す各濃度のスペルミン溶液およびスペルミジン溶液を脱イオン水で調製した。次いで、それぞれのポリアミン溶液に浸漬してポリアミンを担持させたガラス繊維パッドを、グラフェン素子の上に置いた。ゲート電極に-1V~+1Vのゲート電位を印加しながら、ソース電極とドレイン電極間に生じる電流を測定し(I-V曲線)、ポリアミンの濃度を変え、グラフェン半導体のI-V曲線のボトム電流となるゲート電圧=Dirac Pointの、ポリアミンを認識することによるシフト量を求めた。結果を表1~表5にそれぞれ示す。
【0073】
【表1】
【0074】
【表2】
【0075】
【表3】
【0076】
【表4】
【0077】
【表5】
【0078】
上記試験では、ポリアミンであるスペルミンまたはスペルミジンの各濃度のDirac Pointシフト量(絶対値)が小さいほど、ポリアミンの濃度変化に対して検出感度が高いと判断される。これに照らすと、合成した3種の検出用化合物のなかでは、検出用化合物4が最も高感度であり、次いで検出用化合物11、検出用化合物7の順であったと言える。
検出用化合物7は、グラフェン表面に修飾されたものの、リンカー部のアルキル鎖が他の化合におけるリンカー部よりも短いために、認識部位の最適な空間的配列が形成されにくく、感応が飽和しやすい傾向が見られたと考えられる。
検出用化合物11は、リンカー部にエーテル性酸素原子を2つ有しており水溶性が高いため、2-メトキシエタノールで余分な検出用化合物を溶解除去した際に溶出しやすく、グラフェン素子に修飾できた化合物11の分子数が減少し、認識可能なポリアミンの量に限りがあり、感応が飽和しやすい傾向が見られたと考えられる。
検出用化合物4は、グラフェン修飾および認識部位の空間的配列が良好であった。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明の生体分子検出用化合物は、唾液や尿等を用いた癌の診断等に適用できると考えられる。即ち、本発明は、最近のパンデミックの広域の流行などを鑑み、大病院外、例えば、クリニックや保健所、学校などにおいて、迅速にその場でスクリーニングすることを可能にする、簡易な検出用検査薬、検出方法、検出用デバイスに適用可能である。