(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024135253
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】付加製造用材料、付加製造方法、及び付加製造装置
(51)【国際特許分類】
B22F 1/00 20220101AFI20240927BHJP
B22F 1/052 20220101ALI20240927BHJP
B22F 10/14 20210101ALI20240927BHJP
B22F 10/34 20210101ALI20240927BHJP
B22F 10/64 20210101ALI20240927BHJP
B33Y 70/00 20200101ALI20240927BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20240927BHJP
B33Y 30/00 20150101ALI20240927BHJP
B33Y 40/20 20200101ALI20240927BHJP
C22C 21/12 20060101ALN20240927BHJP
C22C 21/02 20060101ALN20240927BHJP
【FI】
B22F1/00 N
B22F1/052
B22F10/14
B22F10/34
B22F10/64
B33Y70/00
B33Y10/00
B33Y30/00
B33Y40/20
C22C21/12
C22C21/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023045849
(22)【出願日】2023-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(71)【出願人】
【識別番号】502444733
【氏名又は名称】日軽金アクト株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】399054321
【氏名又は名称】東洋アルミニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(72)【発明者】
【氏名】大谷 直生
(72)【発明者】
【氏名】谷津倉 政仁
(72)【発明者】
【氏名】村上 勇夫
【テーマコード(参考)】
4K018
【Fターム(参考)】
4K018AA14
4K018BA08
4K018BB04
(57)【要約】
【課題】容易に付加製造することができ、密度が高く、かつ保形性に優れる成形体を製造することができる付加製造用材料を提供すること。
【解決手段】少なくとも粉末A及び粉末Bを含有する付加製造用材料であって、前記粉末Aは、合金又は純金属を含有し、前記粉末Bは、前記粉末Aとは別組成の合金を含有し、前記粉末Aの全質量に対する前記粉末Aの液相比率が30質量%以下であり、かつ、前記粉末Bの全質量に対する前記粉末Bの液相比率が70質量%以上となる温度範囲が存在する付加製造用材料である。
【選択図】
図9A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも粉末A及び粉末Bを含有する付加製造用材料であって、
前記粉末Aは、合金又は純金属を含有し、
前記粉末Bは、前記粉末Aとは別組成の合金を含有し、
前記粉末Aの全質量に対する前記粉末Aの液相比率が30質量%以下であり、かつ、前記粉末Bの全質量に対する前記粉末Bの液相比率が70質量%以上となる温度範囲が存在することを特徴とする付加製造用材料。
【請求項2】
前記粉末Aにおける106μm以上の粒径の粉末の割合が10質量%未満であり、かつ、前記粉末Bにおける粒径106μm以上の粒径の粉末の割合が10質量%未満である、請求項1に記載の付加製造用材料。
【請求項3】
前記付加製造用材料の全体積に対する前記粉末Bの体積が10体積%以上である、請求項2に記載の付加製造用材料。
【請求項4】
前記付加製造用材料の全体積に対する前記粉末Bの体積が15体積%以上25体積%以下である、請求項3に記載の付加製造用材料。
【請求項5】
前記粉末Bのメジアン径と比較して、前記粉末Aのメジアン径の方が大きい、請求項1に記載の付加製造用材料。
【請求項6】
前記粉末Aのメジアン径と、前記粉末Bのメジアン径との比[粉末Aのメジアン径:粉末Bのメジアン径]が1:0.3~1:0.7である、請求項5に記載の付加製造用材料。
【請求項7】
前記粉末Aのメジアン径が45μm以上55μm以下であり、かつ前記粉末Bのメジアン径が20μm以上30μm以下である、請求項6に記載の付加製造用材料。
【請求項8】
前記粉末Aのメジアン径と比較して、前記粉末Bのメジアン径の方が大きい、請求項1に記載の付加製造用材料。
【請求項9】
前記粉末A及び前記粉末Bの少なくともいずれかがアルミニウム合金を含有する、請求項1に記載の付加製造用材料。
【請求項10】
前記アルミニウム合金がケイ素、マグネシウム、鉄、及び銅からなる群より選択される少なくとも1種を含有する、請求項9に記載の付加製造用材料。
【請求項11】
前記粉末Bが前記ケイ素を含有する前記アルミニウム合金であり、
前記アルミニウム合金の全質量に対する前記ケイ素の含有量が8質量%以上14質量%以下である、請求項10に記載の付加製造用材料。
【請求項12】
少なくとも粉末A及び粉末Bを含有する請求項1に記載の付加製造用材料を用いて粉末層を形成する粉末層形成工程と、
少なくとも樹脂を含有する樹脂液を前記粉末層に付与し、前記粉末層を固化する粉末層固化工程と、
前記粉末層形成工程と、前記粉末層固化工程とを繰り返し、焼結前駆体を作製する焼結前駆体作製工程と、
前記焼結前駆体中の前記樹脂を脱脂する脱脂工程と、
前記粉末Aの全質量に対する前記粉末Aの液相比率が30質量%以下であり、かつ、前記粉末Bの全質量に対する前記粉末Bの液相比率が70質量%以上となる温度範囲で、前記脱脂した焼結前駆体を焼結する焼結工程と、
を含むことを特徴とする付加製造方法。
【請求項13】
少なくとも粉末A及び粉末Bを含有する請求項1に記載の付加製造用材料を用いて粉末層を形成する粉末層形成手段と、
少なくとも樹脂を含有する樹脂液を前記粉末層に付与し、前記粉末層を固化する粉末層固化手段と、
前記粉末層形成手段と、前記粉末層固化手段とを繰り返し実行し、焼結前駆体を作製する焼結前駆体作製手段と、
前記焼結前駆体中の前記樹脂を脱脂する脱脂手段と、
前記粉末Aの全質量に対する前記粉末Aの液相比率が30質量%以下であり、かつ、前記粉末Bの全質量に対する前記粉末Bの液相比率が70質量%以上となる温度範囲で、前記脱脂した焼結前駆体を焼結する焼結手段と、
を有することを特徴とする付加製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、付加製造用材料、付加製造方法、及び付加製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、金属やセラミックスからなる高精細な三次元造形物を生産する、付加製造技術が注目されている。金属の付加製造は、ステージ上に均一に敷いた金属粉末に対してレーザーあるいは電子ビームを照射し、局所的、選択的に金属粉末を溶融及び凝固させる粉末床溶融法、レーザーあるいは電子ビームの照射位置に直接金属粉末を供給する指向性エネルギー堆積法や粉体層に対してインクジェットで硬化液を吐出して固化させ、焼結前駆体と呼ばれる造形物を作製し、この焼結前駆体を熱処理して、樹脂成分を揮発させた後(「脱脂工程」と称する)、更に昇温して、芯材粉末粒子同士を結着させることで、最終部品である焼結体を製造する(「焼結工程」と称する)バインダージェッティング法(BJT)等がある。
【0003】
金属の付加製造は、新しい製造技術であり、今後の発展が期待されている技術である。特にアルミニウム(Al)は、鉄等に比べて、融点が低く、製造に必要なエネルギーも小さく、付加製造に適している。しかし金属粉末を部分的に溶融、凝固させて成形を行うため、凝固の際に空孔や凝固不良等の欠陥が発生しやすい課題もあった。
【0004】
そこで例えば、空孔や凝固不良等の欠陥を抑制することを目的として、母材となる金属粉末と母材金属粉末より融点の高い金属粉末を混合し、融点の高い金属粉末を凝固核として凝固させることにより成形体の欠陥を抑制することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
溶融させる金属の量が多すぎると成形体の形状が保てず、逆に溶融させる量が少なすぎると酸化膜を十分に破壊できずに、結合不良が発生し、空孔等の欠陥の原因となる。そのため、成形時の金属粉末の温度制御に高精度が求められている。
【0006】
本発明は、容易に付加製造することができ、密度が高く、かつ保形性に優れる成形体を製造することができる付加製造用材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するための手段としての本発明の付加製造用材料は、少なくとも粉末A及び粉末Bを含有する付加製造用材料であって、前記粉末Aは、合金又は純金属を含有し、前記粉末Bは、前記粉末Aとは別組成の合金を含有し、前記粉末Aの全質量に対する前記粉末Aの液相比率が30質量%以下であり、かつ、前記粉末Bの全質量に対する前記粉末Bの液相比率が70質量%以上となる温度範囲が存在することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、容易に付加製造することができ、密度が高く、かつ保形性に優れる成形体を製造することができる付加製造用材料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係るBJT付加製造装置の概略断面図である。
【
図3】
図3は、
図1の付加製造装置の造形部を示す概略断面図である。
【
図5B】
図5Bは、
図1の付加製造装置の供給槽及び造形槽を示す概略斜視図である。
【
図6】
図6は、本発明の一実施形態に係るBJT付加製造装置の制御部を示すブロック図である。
【
図7A】
図7Aは、本発明の一実施形態に係るBJT付加製造装置の造形部での造形動作の流れを示す概略断面図である。
【
図7B】
図7Bは、本発明の一実施形態に係るBJT付加製造装置の造形部での造形動作の流れを示す概略断面図である。
【
図7C】
図7Cは、本発明の一実施形態に係るBJT付加製造装置の造形部での造形動作の流れを示す概略断面図である。
【
図7D】
図7Dは、本発明の一実施形態に係るBJT付加製造装置の造形部での造形動作の流れを示す概略断面図である。
【
図7E】
図7Eは、本発明の一実施形態に係るBJT付加製造装置の造形部での造形動作の流れを示す概略断面図である。
【
図8】
図8は、本発明の一実施形態に係るBJT付加製造方法における脱脂工程及び焼結工程の進行と、本発明の一実施形態に係る付加製造用材料の温度との関係を示すグラフである。縦軸は付加製造用材料の温度(℃)を示し、横軸は時間(h)を示す。
【
図9A】
図9Aは、実施例1の粉末A(純Al)及び粉末B(AlSi12)の、温度に対する液相比率の変化を熱力学計算ソフト(CaTCalc)により計算した結果を示すグラフである。縦軸は液相比率(%)を示し、横軸は温度(℃)を示す。
【
図9B】
図9Bは、比較例2の粉末A(AlSi4)及び粉末B(AlSi5)の、温度に対する液相比率の変化を熱力学計算ソフト(CaTCalc)により計算した結果を示すグラフである。縦軸は液相比率(%)を示し、横軸は温度(℃)を示す。
【
図10A】
図10Aは、実施例1~14及び比較例1~2で造形した焼結前駆体の形状を示す概略斜視図である。
【
図10B】
図10Bは、実施例1~14及び比較例1~2で造形した焼結前駆体の形状を示す概略正面図である。
【
図10C】
図10Cは、実施例1~14及び比較例1~2の焼結体の形状を示す概略正面図であり、焼結体の変形量の評価方法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(付加製造用材料)
本発明の付加製造用材料は、少なくとも粉末A及び粉末Bを含有する付加製造用材料であって、前記粉末Aは、合金又は純金属を含有し、前記粉末Bは、前記粉末Aとは別組成の合金を含有し、前記粉末Aの全質量に対する前記粉末Aの液相比率が30質量%以下であり、かつ、前記粉末Bの全質量に対する前記粉末Bの液相比率が70質量%以上となる温度範囲が存在する。
【0011】
付加製造において、焼結前駆体の焼結の際、溶融させる金属の量が多すぎると焼結体の形状が保てず、逆に溶融量が少なすぎると、固相粒子間に十分な液相が行き渡らず、かつ、特にアルミニウム(Al)の場合には、更に酸化被膜を十分に破壊できず、焼結不良が発生してしまうため、焼結温度の制御には高精度が求められている。
【0012】
金属は、同じ金属であっても、他の元素を添加することにより融点を変化させることができる。具体的には、添加する元素の種類及びその量により、融点を変化させることができる。そこで本発明者らは、添加する元素の種類又は量を変化させた融点の高い金属粉末と、添加する元素の種類又は量を変化させた融点の低い金属粉末とを混合することにより、焼結の際に融点の低い金属粉末のみを溶融させて焼結を行うことができ、高精度な温度制御を行うことなく、焼結不良を発生させずに焼結できることを見出した。なお、同一温度に加熱した際に、融点が高い金属は液相比率が低く、融点が低い金属は液相比率が高くなる。したがって、本発明の付加製造用材料は、容易に付加製造することができ、密度が高く、かつ保形性に優れる成形体を製造することができるものである。
【0013】
なお、本発明は、以下に示す実施形態に限定されるものではなく、他の実施形態、追加、修正、又は削除などの当業者が想到することができる範囲内で変更することができ、いずれの態様においても本発明の作用及び効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。
【0014】
<粉末A>
前記粉末Aは、合金又は純金属を含有する。
本発明において、「純金属」とは単一の金属を意味し、「合金」とは複数の元素を含む金属様の物質を意味する。
【0015】
前記粉末Aとしての前記純金属としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、アルミニウム(Al)、タングステン(W)、チタン(Ti)、モリブデン(Mo)、ニオブ(Nb)、ケイ素(Si)、銅(Cu)、スズ(Sn)、マグネシウム(Mg)、鉄(Fe)、マンガン(Mn)、ニッケル(Ni)、亜鉛(Zn)、クロム(Cr)などが挙げられる。これらの中でも、前記粉末Aとしての前記純金属としては、アルミニウムが好ましい。
【0016】
前記粉末Aとしての前記合金としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、アルミニウム(Al)、タングステン(W)、チタン(Ti)、モリブデン(Mo)、ニオブ(Nb)、ケイ素(Si)、銅(Cu)、スズ(Sn)、マグネシウム(Mg)、鉄(Fe)、マンガン(Mn)、ニッケル(Ni)、亜鉛(Zn)、及びクロム(Cr)からなる群より選択される2種以上の金属からなる合金などが挙げられる。これらの中でも、前記粉末Aとしての前記合金としては、アルミニウム合金が好ましく、ケイ素、マグネシウム、鉄、及び銅からなる群より選択される少なくとも1種を含有するアルミニウム合金がより好ましく、Al-Cu合金、Al-Mn合金、Al-Mg合金、Al-Si合金、Al-Si-Mg合金、Al-Si-Cu合金、Al-Zn-Mg合金、Al-Li合金、Al-Fe合金が更に好ましく、Al-Si合金、Al-Fe合金が特に好ましい。
【0017】
前記粉末Aが前記アルミニウム合金である場合、前記アルミニウム合金の全質量に対する前記アルミニウムの含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記アルミニウム合金の全質量に対して、96質量%以上99質量%以下であることが好ましく、97質量%以上99質量%以下であることがより好ましい。前記粉末Aとしての前記アルミニウム合金の全質量に対する前記アルミニウムの含有量が96質量%以上99質量%以下であると、アルミニウム以外の金属を高含有するアルミニウム合金と比べて、低い液相比率で制御することが容易になり、焼結体の保形性を高めることができる。
【0018】
前記粉末Aが前記アルミニウム合金である場合、前記アルミニウム合金の全質量に対する前記アルミニウム以外の金属の含有量としては、前記粉末Aの全質量に対する前記粉末Aの液相比率が30質量%以下であり、かつ、前記粉末Bの全質量に対する前記粉末Bの液相比率が70質量%以上となる温度範囲が存在する限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0019】
前記粉末Aとしての前記アルミニウム合金がAl-Si合金である場合、Al-Si合金の全質量に対する前記ケイ素の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1質量%以上4質量%以下であることが好ましく、1質量%以上3質量%以下であることがより好ましい。前記粉末AとしてのAl-Si合金の全質量に対する前記ケイ素の含有量が1質量%以上4質量%以下であると、高Si組成のAl-Si合金と比べて、低い液相比率で制御することが容易になり、焼結体の保形性を高めることができる。
【0020】
前記粉末Aとしての前記アルミニウム合金がAl-Fe合金である場合、Al-Fe合金の全質量に対する前記鉄の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1質量%以上3質量%以下であることが好ましく、1質量%以上2質量%以下であることがより好ましい。前記粉末AとしてのAl-Fe合金の全質量に対する前記鉄の含有量が1質量%以上3質量%以下であると、高Fe組成のAl-Fe合金と比べて、低い液相比率で制御することが容易になり、焼結体の保形性を高めることができる。
【0021】
<粉末B>
前記粉末Bは、前記粉末Aとは別組成の合金を含有する。
前記粉末Bとしての前記合金としては、前記粉末Aとは別組成の合金である限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、アルミニウム(Al)、タングステン(W)、チタン(Ti)、モリブデン(Mo)、ニオブ(Nb)、ケイ素(Si)、銅(Cu)、スズ(Sn)、マグネシウム(Mg)、鉄(Fe)、マンガン(Mn)、ニッケル(Ni)、亜鉛(Zn)、及びクロム(Cr)からなる群より選択される2種以上の金属からなる合金などが挙げられる。これらの中でも、前記粉末Bとしての前記合金としては、アルミニウム合金が好ましく、ケイ素、マグネシウム、鉄、及び銅からなる群より選択される少なくとも1種を含有するアルミニウム合金がより好ましく、Al-Cu合金、Al-Mn合金、Al-Mg合金、Al-Si合金、Al-Si-Mg合金、Al-Si-Cu合金、Al-Zn-Mg合金、Al-Li合金、Al-Fe合金が更に好ましく、Al-Si合金、Al-Cu合金、Al-Si-Mg合金が特に好ましい。
【0022】
前記粉末Bが前記アルミニウム合金である場合、前記アルミニウム合金の全質量に対する前記アルミニウムの含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記アルミニウム合金の全質量に対して、86質量%以上92質量%以下であることが好ましく、88質量%以上90質量%以下であることがより好ましい。前記粉末Bとしての前記アルミニウム合金の全質量に対する前記アルミニウムの含有量が86質量%以上92質量%以下であると、より低温で完全溶融するため、焼結体を高密度化させやすい。
【0023】
前記粉末Bが前記アルミニウム合金である場合、前記アルミニウム合金の全質量に対する前記アルミニウム以外の金属の含有量としては、前記粉末Aの全質量に対する前記粉末Aの液相比率が30質量%以下であり、かつ、前記粉末Bの全質量に対する前記粉末Bの液相比率が70質量%以上となる温度範囲が存在する限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0024】
前記粉末Bとしての前記アルミニウム合金がAl-Si合金又はAl-Si-Mg合金である場合、Al-Si合金又はAl-Si-Mg合金の全質量に対する前記ケイ素の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、8質量%以上14質量%以下であることが好ましく、10質量%以上12質量%以下であることがより好ましい。前記粉末BとしてのAl-Si合金又はAl-Si-Mg合金の全質量に対する前記ケイ素の含有量が8質量%以上14質量%以下であると、より低温で完全溶融するため、焼結体を高密度化させやすい。
【0025】
前記アルミニウム合金がAl-Cu合金である場合、Al-Cu合金の全質量に対する前記銅の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、25質量%以上35質量%以下であることが好ましく、30質量%以上33質量%以下であることがより好ましい。前記粉末BとしてのAl-Cu合金の全質量に対する前記銅の含有量が25質量%以上35質量%以下であると、より低温で完全溶融するため、焼結体を高密度化させやすい。
【0026】
前記アルミニウム合金がAl-Si-Mg合金である場合、Al-Si-Mg合金の全質量に対する前記マグネシウムの含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.1質量%以上3質量%以下であることが好ましく、0.2質量%以上1質量%以下であることがより好ましい。前記粉末BとしてのAl-Si-Mg合金の全質量に対する前記マグネシウムの含有量が0.1質量%以上3質量%以下であると、より低温で完全溶融するため、焼結体を高密度化させやすい。更に、マグネシウムを含まない合金と比べて、機械強度が高まる。
【0027】
なお、前記付加製造用材料は、前記粉末A及び前記粉末Bの少なくともいずれかが前記アルミニウム合金を含有する又はアルミニウム合金からなることが、焼結部品の軽量化と熱伝導性の向上の点で好ましい。
【0028】
<<液相比率>>
前記付加製造用材料は、前記粉末Aの全質量に対する前記粉末Aの液相比率が30質量%以下であり、かつ、前記粉末Bの全質量に対する前記粉末Bの液相比率が70質量%以上となる温度範囲が存在する。
【0029】
前記付加製造用材料は、前記粉末Aの全質量に対する前記粉末Aの液相比率が30質量%以下の前記粉末Aと、前記粉末Bの全質量に対する前記粉末Bの液相比率が70質量%以上の前記粉末Bとを混合することにより、焼結の際に、前記粉末Bは溶融を開始しているが、前記粉末Aは殆ど溶融していない状態を、高精度な焼結温度の制御を行わずとも容易に作り出すことができるため、成形不良や焼結不良が発生しにくくなる。このように、前記粉末Aと前記粉末Bは、焼結の際の溶融の状態が異なっていればよいため、前記粉末Aの全質量に対する前記粉末Aの液相比率の下限値としては、特に制限はなく、0質量%であってもよい。同様に、前記粉末Bの全質量に対する前記粉末Bの液相比率の上限値としては、特に制限はなく、100質量%であってもよい。
【0030】
本発明において、前記粉末A及び前記粉末Bの液相比率は、熱力学計算ソフト(CaTCalc、株式会社計算熱力学研究所製)によるシミュレーションにより求めることができる。
具体的には、前記熱力学計算ソフトに、前記付加製造用材料の金属の組成、温度範囲、及び圧力を入力することにより、前記粉末A及び前記粉末Bの液相比率を計算することができる。例えば、金属の組成として、粉末Aに関するパラメーターとして「Al:100質量%」を入力し、粉末Bに関するパラメーターとして「Al:88質量%」及び「Si:12質量%」を入力し、温度範囲として「550℃~700℃」を入力し、圧力として「101,325Pa」を入力した場合、
図9Aのような計算結果を得ることができる。
【0031】
なお、前記シミュレーションを使用せずに前記粉末A及び前記粉末Bの液相比率を求める方法として、半溶融状態の金属を急冷凝固させることで液相部分を固定化し、その断面組織を顕微鏡により観察することで液相比率を算出する方法がある。しかし、この方法は、断面組織を固定化するために非常に速く冷却することが必要となり、精度良く測定することが難しい。更に、断面組織から明確に液相部分を判断できない金属には適用できないことや、目的のデータを取得するのに工数がかかるという欠点がある。他方、前記シミュレーションであれば、どんな金属に対しても、高精度かつ迅速に液相比率を算出できる。したがって、本発明における前記粉末A及び前記粉末Bの液相比率は、前記シミュレーションで求めることが最適である。
【0032】
<<粒径>>
前記粉末Aにおける106μm以上の粒径の粉末の割合としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、10質量%未満であることが好ましい。前記粉末Aにおける106μm以上の粒径の粉末の割合が10質量%未満であると、狭い積層ピッチにて焼結前駆体を造形することが可能となり、焼結体の寸法精度が向上する。更に、大粒径粒子の割合が少ないため、焼結前駆体中の粒子接点数が増加し、焼結体の相対密度が高くなる。このように、前記粉末Aにおける106μm以上の粒径の粉末の割合は少ない程好ましいため、前記粉末Aにおける106μm以上の粒径の粉末の割合の下限値としては、特に制限はなく、0質量%であってもよい。
【0033】
前記粉末Bにおける106μm以上の粒径の粉末の割合としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、10質量%未満であることが好ましい。前記粉末Bにおける106μm以上の粒径の粉末の割合が10質量%未満であると、狭い積層ピッチにて焼結前駆体を造形することが可能となり、焼結体の寸法精度が向上する。更に、大粒径粒子の割合が少ないため、焼結前駆体中の粒子接点数が増加し、焼結体の相対密度が高くなる。このように、前記粉末Bにおける106μm以上の粒径の粉末の割合は少ない程好ましいため、前記粉末Bにおける106μm以上の粒径の粉末の割合の下限値としては、特に制限はなく、0質量%であってもよい。
【0034】
また、前記粉末Aにおける106μm以上の粒径の粉末の割合が10質量%未満であり、かつ、前記粉末Bにおける粒径106μm以上の粒径の粉末の割合が10質量%未満であることがより好ましい。前記粉末A及び前記粉末Bのいずれも、106μm以上の粒径の粉末の割合が10質量%未満であることにより、狭い積層ピッチにて焼結前駆体を造形することが可能となり、焼結体の寸法精度が向上する。更に、大粒径粒子の割合が少ないため、焼結前駆体中の粒子接点数が増加し、焼結体の相対密度が高くなる。
【0035】
前記粉末Aにおける106μm以上の粒径の粉末の割合及び前記粉末Bにおける106μm以上の粒径の粉末の割合は、例えば、篩試験により確認することができる。
【0036】
なお、本発明において、焼結前駆体及び焼結体の「相対密度」は、アルキメデス法により測定した相対密度である。
【0037】
前記粉末Aの粒径としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、メジアン径(d50)が、25μm以上80μm以下が好ましく、35μm以上55μm以下がより好ましく、45μm以上55μm以下が更に好ましい。前記粉末Aのメジアン径が25μm以上であると、リコート時の前記粉末Aの流動性が向上し、焼結前駆体の相対密度を向上させやすくなるという利点がある。また、前記粉末Aのメジアン径が80μm以下であると、狭い積層ピッチで焼結前駆体を造形することが可能となり、焼結体の寸法精度が向上するという利点がある。更に、前記粉末Aのメジアン径が80μm以下であると、焼結前駆体中の粒子接点数が増加し、焼結体の相対密度が高くなる。
【0038】
前記粉末Bの粒径としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、メジアン径(d50)が、20μm以上80μm以下が好ましく、20μm以上50μm以下がより好ましく、20μm以上30μm以下が更に好ましい。前記粉末Bのメジアン径が20μm以上であると、リコート時の前記粉末Bの流動性が向上し、焼結前駆体の相対密度を向上させやすくなるという利点がある。また、前記粉末Bのメジアン径が80μm以下であると、狭い積層ピッチで焼結前駆体を造形することが可能となり、焼結体の寸法精度が向上するという利点がある。更に、前記粉末Bのメジアン径が80μm以下であると、焼結前駆体中の粒子接点数が増加し、焼結体の相対密度が高くなる。
【0039】
前記粉末A及び前記粉末Bのメジアン径(d50)は、例えば、粒子径分布測定装置(例えば、マイクロトラックMT3000IIシリーズ、マイクロトラックベル製)で測定することができる。
【0040】
-第1の態様(粉末Aのメジアン径>粉末Bのメジアン径)-
第1の態様としては、前記粉末Bのメジアン径と比較して、前記粉末Aのメジアン径の方が大きいことが好ましい。前記粉末Bのメジアン径と比較して、前記粉末Aのメジアン径の方が大きいと、前記粉末A同士の間に前記粉末Bが配置し、前記付加製造用材料を焼結した場合、焼結体の相対密度が高くなる。また、液相を発生させる前記粉末Bが均一に配置することで、焼結体の相対密度と焼結体の寸法精度が向上する。
【0041】
前記粉末Aのメジアン径と、前記粉末Bのメジアン径との比[粉末Aのメジアン径:粉末Bのメジアン径]としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1:0.3~1:0.7が好ましい。前記比[粉末Aのメジアン径:粉末Bのメジアン径]が1:0.3~1:0.7であると、前記粉末A同士の間に前記粉末Bが配置し、前記付加製造用材料を焼結した場合、焼結体の相対密度がより高くなる。また、液相を発生させる前記粉末Bが均一に配置することで、焼結体の相対密度と焼結体の寸法精度がより向上する。
【0042】
更に、前記粉末Aのメジアン径が45μm以上55μm以下であり、かつ前記粉末Bのメジアン径が20μm以上30μm以下であることが好ましい。これにより、前記粉末A同士の間に前記粉末Bが配置し、前記付加製造用材料を焼結した場合、焼結体の相対密度が更に高くなる。更に、液相を発生させる前記粉末Bが均一に配置することで、焼結体の相対密度と焼結体の寸法精度が更に向上する。
【0043】
-第2の態様(粉末Aのメジアン径<粉末Bのメジアン径)-
第2の態様としては、前記粉末Aのメジアン径と比較して、前記粉末Bのメジアン径の方が大きいことが好ましい。前記粉末Aのメジアン径と比較して、前記粉末Bのメジアン径の方が大きいと、前記粉末Bの粒子体積に対する酸化皮膜厚が相対的に薄くなるため、前記粉末Bが液相化したときに酸化皮膜が破れやすくなり、前記付加製造用材料を焼結した場合、焼結体の相対密度が高くなる。
【0044】
<<含有量>>
前記付加製造用材料の全体積に対する前記粉末Bの体積としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、5体積%以上が好ましく、10体積%以上がより好ましく、15体積%以上25体積%以下が更に好ましい。前記付加製造用材料の全体積に対する前記粉末Bの体積が、5体積%以上であると、液相を発生させる前記粉末Bの含有割合が高まることで、前記付加製造用材料を焼結した場合、焼結体の相対密度が高くなり、10体積%以上であると、焼結の際に発生する液相がより多くなるため、前記付加製造用材料を焼結した場合、焼結体の相対密度がより高くなり、15体積%以上25体積%以下であると、前記付加製造用材料を焼結した場合、焼結体の相対密度が更に高くなる。また、前記付加製造用材料の全体積に対する前記粉末Bの体積が25体積%以下であることで、焼結の際に発生する液相が多くなりすぎず、焼結体の形状を好適に維持することができる。
【0045】
<その他の成分>
前記その他の成分としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、劣化防止剤、流動化剤、強化剤、難燃剤、可塑剤、熱安定性添加剤、結晶核剤等の添加剤、非結晶性樹脂等のポリマー粒子などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0046】
前記付加製造用材料における前記その他の成分の含有量としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0047】
(付加製造方法及び付加製造装置)
本発明の付加製造方法は、少なくとも粉末A及び粉末Bを含有する本発明の付加製造用材料を用いて粉末層を形成する粉末層形成工程と、少なくとも樹脂を含有する樹脂液を前記粉末層に付与し、前記粉末層を固化する粉末層固化工程と、前記粉末層形成工程と、前記粉末層固化工程とを繰り返し、焼結前駆体を作製する焼結前駆体作製工程と、前記粉末Aの全質量に対する前記粉末Aの液相比率が30質量%以下であり、かつ、前記粉末Bの全質量に対する前記粉末Bの液相比率が70質量%以上となる温度範囲で前記焼結前駆体を焼結する焼結工程と、を含み、更に必要に応じて、その他の工程を含む。
本発明の付加製造方法は、本発明の付加製造装置により好適に行われる。
【0048】
本発明の付加製造装置は、少なくとも粉末A及び粉末Bを含有する本発明の付加製造用材料を用いて粉末層を形成する粉末層形成手段と、少なくとも樹脂を含有する樹脂液を前記粉末層に付与し、前記粉末層を固化する粉末層固化手段と、前記粉末Aの全質量に対する前記粉末Aの液相比率が30質量%以下であり、かつ、前記粉末Bの全質量に対する前記粉末Bの液相比率が70質量%以上となる温度範囲で前記焼結前駆体を焼結する焼結手段と、を有し、更に必要に応じて、その他の手段を有する。
【0049】
以下に、本発明の付加製造方法と併せて、本発明の付加製造装置について説明する。
【0050】
<粉末層形成工程及び粉末層形成手段>
前記粉末層形成工程は、少なくとも粉末A及び粉末Bを含有する本発明の付加製造用材料を用いて粉末層を形成する工程である。
前記粉末層形成手段は、少なくとも粉末A及び粉末Bを含有する本発明の付加製造用材料を用いて粉末層を形成する手段である。
前記粉末層形成工程は、前記粉末層形成手段により好適に行われる。
前記粉末層は支持体上に形成されることが好ましい。
【0051】
-支持体-
前記支持体としては、前記付加製造用材料を載置することができれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記付加製造用材料の載置面を有する台、ベースプレートなどが挙げられる。
【0052】
前記支持体の表面、即ち、前記付加製造用材料を載置する載置面としては、例えば、平滑面であってもよいし、粗面であってもよく、また、平面であってもよいし、曲面であってもよいが、前記付加製造用材料における前記樹脂が溶解した際に、前記樹脂との親和性が低いことが好ましい。
【0053】
前記載置面と、溶解した前記樹脂との親和性が、前記付加製造用材料と、溶解した前記樹脂との親和性よりも低いと、得られた付加製造物を該載置面から取り外すことが容易である点で好ましい。
【0054】
<<粉末層の形成>>
前記付加製造用材料を前記支持体上に配置させる方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、薄層に配置させる方法としては、選択的レーザー焼結方法に用いられる、公知のカウンター回転機構(カウンターローラ)などを用いる方法;前記付加製造用材料をブラシ、ローラ、ブレード等の部材を用いて薄層に拡げる方法;前記付加製造用材料の表面を、押圧部材を用いて押圧して薄層に拡げる方法;公知の粉末積層造形装置を用いる方法などが好適に挙げられる。
【0055】
前記カウンター回転機構(カウンターローラ)、前記ブラシ乃至ブレード、前記押圧部材などを用いて、前記支持体上に前記付加製造用材料を薄層に載置させるには、例えば、以下のようにして行うことができる。
即ち、外枠(「型」、「中空シリンダー」、「筒状構造体」などと称されることもある)内に、前記外枠の内壁に摺動しながら昇降可能に配置された前記支持体上に前記付加製造用材料を、前記カウンター回転機構(カウンターローラ)、前記ブラシ、前記ローラ、前記ブレード、又は前記押圧部材などを用いて載置させる。このとき、前記支持体として、前記外枠内を昇降可能なものを用いる場合には、前記支持体を前記外枠の上端開口部よりも少しだけ下方の位置に配し、即ち、前記粉末層の厚み分だけ下方に位置させておき、前記支持体上に前記付加製造用材料を載置させる。以上により、前記付加製造用材料を前記支持体上に薄層に載置させることができる。
【0056】
<粉末層固化工程及び粉末層固化手段>
前記粉末層固化工程は、少なくとも樹脂を含有する樹脂液(以下、「造形液」と称することがある)を前記粉末層に付与し、前記粉末層を固化する工程である。
前記粉末層固化手段は、少なくとも樹脂を含有する樹脂液を前記粉末層に付与し、前記粉末層を固化する手段である。
前記粉末層固化工程は、前記粉末層固化手段により好適に行われる。
【0057】
前記粉末層固化工程により、前記粉末層に前記樹脂液を付与することで、前記粉末層が固化する。
【0058】
-樹脂液(造形液)-
前記樹脂液としては、少なくとも樹脂を含有する限り、特に制限はなく、目的に応じて、適宜選択することができ、更に必要に応じて、その他の成分を含む。
前記樹脂液は、前記付加製造用材料を焼結する際のバインダーとして使用され、「造形液」とも称する。
【0059】
--樹脂--
前記樹脂としては、特に制限はなく、焼結に使用し得る公知の樹脂の中から適宜選択することができ、例えば、ポリ酢酸ビニル樹脂、部分けん化ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリビニルブチラール樹脂等のビニル系樹脂などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0060】
前記樹脂の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて、適宜選択することができるが、前記樹脂液の全質量に対して、5.0質量%以上であることが好ましく、7.0質量%以上であることがより好ましく、10.0質量%以上であることが更に好ましく、11.0質量%以上であることが特に好ましい。また、前記樹脂の含有量としては、前記樹脂液の全質量に対して、30.0質量%以下であることが好ましく、25.0質量%以下であることがより好ましく、20.0質量%以下であることが更に好ましい。前記樹脂の含有量が5.0質量%以上30.0質量%以下であると、前記樹脂液の粘度がインクジェット方式での吐出に適切な粘度とすることができる。
【0061】
--その他の成分--
前記樹脂液における前記その他の成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、界面活性剤、乾燥防止剤、粘度調整剤、浸透剤、消泡剤、pH調整剤、防腐剤、防黴剤、着色剤(色素、顔料等)、保存剤、安定化剤などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。前記その他の成分としては、従来公知の材料を用いることができる。その他成分の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、合計で前記樹脂液の全質量に対して、10質量%以下であることが好ましい。
【0062】
---溶剤---
前記溶剤としては、例えば、n-オクタン、m-キシレン、ソルベントナフサ、ジイソブチルケトン、3-ヘプタノン、2-オクタノン、アセチルアセトン、酢酸ブチル、酢酸アミル、酢酸n-ヘキシル、酢酸n-オクチル、酪酸エチル、吉草酸エチル、カプリル酸エチル、オクタン酸エチル、アセト酢酸エチル、3-エトキシプロピオン酸エチル、シュウ酸ジエチル、マロン酸ジエチル、コハク酸ジエチル、アジピン酸ジエチル、マレイン酸ビス2-エチルヘキシル、トリアセチン、トリブチリン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジブチルエーテル、1,2-ジメトキシベンゼン、1,4-ジメトキシベンゼン、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、酢酸2-メトキシ-1-メチルエチル、γ-ブチロラクトン、炭酸プロピレン、シクロヘキサノン、及びブチルセロソルブなどが挙げられる。これらは1種類単独で使用してもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0063】
前記溶剤の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて、適宜選択することができるが、前記樹脂液の全質量に対して、60.0質量%以上95.0質量%以下が好ましく、70.0質量%以上95.0質量%以下がより好ましい。前記溶剤の含有量が60.0質量%以上95.0質量%以下であると、前記樹脂の溶解性が向上し、これに伴って前記樹脂液の粘度を低下させることができ、例えば、インクジェット方式で前記樹脂液を適切に吐出することができる。また、前記粉末層固化手段において前記樹脂液が乾燥することが抑制され、吐出安定性に優れた樹脂液を提供できる。
【0064】
<<樹脂液の粉末層への付与>>
前記樹脂液の前記粉末層への付与の方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ディスペンサ方式、スプレー方式、インクジェット方式などが挙げられる。なお、これらの方式を実施するには公知の装置を前記粉末層固化手段として好適に使用することができる。
【0065】
前記ディスペンサ方式は、液滴の定量性に優れるが、塗布面積が狭くなることがある。
前記スプレー方式は、簡便に微細な吐出物を形成でき、塗布面積が広く、塗布性に優れるが、液滴の定量性が悪くなることがあり、スプレー流による付加製造用材料の飛散が発生することがある。
このため、前記樹脂液の前記粉末層への付与の方法としては、前記インクジェット方式が特に好ましい。前記インクジェット方式は、前記スプレー方式に比べ、液滴の定量性が良く、前記ディスペンサ方式に比べ、塗布面積が広くできる利点があり、複雑な立体形状を精度良くかつ効率よく形成し得る点で好ましい。
【0066】
前記インクジェット方式による付与方法である場合、前記粉末層固化手段は、前記インクジェット法により前記樹脂液を前記粉末層に付与可能なノズル、該ノズルを有するインクジェットプリンターなどが挙げられる。
前記ノズルとしては、公知のインクジェットプリンターにおけるノズル(吐出ヘッド)を好適に使用することができる。
前記インクジェットプリンターとしては、例えば、株式会社リコー製のSG7100などが好適に挙げられる。前記インクジェットプリンターは、ヘッド部から一度に滴下できる樹脂液の量が多く、塗布面積が広いため、塗布の高速化を図ることができる点で好ましい。
【0067】
<焼結前駆体作製工程及び焼結前駆体作製手段>
前記焼結前駆体作製工程は、前記粉末層形成工程と、前記粉末層固化工程とを繰り返し、焼結前駆体を作製する工程である。
前記焼結前駆体作製手段は、前記粉末層形成手段と、前記粉末層固化手段とを繰り返し実行し、焼結前駆体を作製する手段である。
前記焼結前駆体作製工程は、前記焼結前駆体作製手段により好適に行われる。
【0068】
前記粉末層形成工程で得られた薄層の焼結前駆体(固化物)上に、上記と同様にして、前記付加製造用材料を薄層に載置させ、前記薄層に載置された該付加製造用材料(粉末層)に対し、前記樹脂液を作用させると、硬化が生じる。このときの硬化は、該薄層に載置された前記付加製造用材料(粉末層)においてのみならず、その下に存在する、先に硬化して得られた前記薄層の焼結前駆体(固化物)との間でも生じる。その結果、前記薄層に載置された前記付加製造用材料(粉末層)の約2層分の厚みを有する固化物(焼結前駆体)が得られる。
【0069】
また、前記付加製造用材料を前記支持体上に薄層に載置させるには、前記公知の粉末積層造形装置を用いて自動的に、かつ簡便に行うこともできる。前記粉末積層造形装置は、一般に、リコーターと、可動式供給槽と、可動式成形槽とを備える。前記リコーターは、前記付加製造用材料を積層する。前記可動式供給槽は、前記付加製造用材料を前記支持体上に供給する。前記可動式成形槽は、前記付加製造用材料を薄層に載置し、積層する。
前記粉末積層造形装置においては、前記可動式供給槽を上昇させるか、前記可動式成形槽を下降させるか、又はその両方によって、常に前記可動式供給槽の表面は前記可動式成形槽の表面よりもわずかに上昇させることができ、前記可動式供給槽側から前記リコーターを用いて前記付加製造用材料を薄層に配置させることができ、該リコーターを繰り返し移動させることにより、薄層の付加製造用材料を積層させることができる。
【0070】
前記付加製造用材料層の厚みとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、一層当たりの平均厚みで、20μm以上200μm未満が好ましく、60μm以上100μm以下がより好ましい。前記付加製造用材料層の平均厚みが20μm以上であると、前記付加製造用材料に前記樹脂液を付与して形成した付加製造用材料層の固化物(焼結前駆体)の強度が充分であり、その後の焼結等の処理乃至取扱い時に型崩れ等の問題が生じることがない。また、前記付加製造用材料層の平均厚みが200μm未満であると、前記付加製造用材料に前記樹脂液を付与して形成した付加製造用材料層による固化物(焼結前駆体)の寸法精度が向上し、また、積層段差が大きくなりすぎず、焼結不良が起こりにくい。
【0071】
前記付加製造用材料層の平均厚みは、前記付加製造装置への入力値により調整することができる。また、前記付加製造用材料層の平均厚みの測定方法としては、特に制限はなく、公知の方法に従って測定することができる。
【0072】
<脱脂工程及び脱脂手段>
前記脱脂工程は、前記焼結前駆体中の前記樹脂を脱脂する工程である。
前記脱脂手段は、前記焼結前駆体中の前記樹脂を脱脂する手段である。
前記脱脂工程は、前記脱脂手段により好適に行われる。
【0073】
前記脱脂工程を行うことにより、前記粉末層固化工程で形成された粉末層の固化物(焼結前駆体)中の樹脂成分が脱脂される。
前記樹脂成分の脱脂は、完全に脱脂されていなくてもよい、即ち、前記焼結前駆体における樹脂成分の残存量が0質量%超であってもよいが、前記焼結前駆体における樹脂成分の残存量が0質量%に近い程、焼結後の焼結体の密度が向上する点で好ましい。
【0074】
前記脱脂手段としては、例えば、公知の脱脂炉などが挙げられる。
【0075】
前記脱脂工程の温度について、
図8を用いて説明する。
図8は、本発明の一実施形態に係る付加製造方法における脱脂工程及び焼結工程の進行と、本発明の一実施形態に係る付加製造用材料の温度との関係を示すグラフである。
前記脱脂工程では、前記樹脂液に含まれる樹脂成分を、該樹脂の熱分解温度より高く、かつ、前記付加製造用材料中の前記粉末Aとしての合金又は純金属、及び前記粉末Bとしての合金の融点、若しくは、固相線温度よりも低い温度で分解させる。用いる樹脂成分によっては、加熱保持する温度を複数設定することも可能である。また、加熱ではなく、前記焼結前駆体を溶媒に浸漬することで、樹脂を抽出する溶媒抽出による脱脂法も適用可能である。
【0076】
<焼結工程及び焼結手段>
前記焼結工程は、前記粉末Aの全質量に対する前記粉末Aの液相比率が30質量%以下であり、かつ、前記粉末Bの全質量に対する前記粉末Bの液相比率が70質量%以上となる温度範囲で、前記脱脂した焼結前駆体を焼結する工程である。
前記焼結手段は、前記粉末Aの全質量に対する前記粉末Aの液相比率が30質量%以下であり、かつ、前記粉末Bの全質量に対する前記粉末Bの液相比率が70質量%以上となる温度範囲で、前記脱脂した焼結前駆体を焼結する手段である。
前記焼結工程は、前記焼結手段により好適に行われる。
【0077】
前記焼結工程を行うことにより、前記粉末層固化工程で形成された粉末層の固化物(焼結前駆体)から、密度が向上し、一体化された金属の焼結体とすることができる。
【0078】
前記焼結手段としては、例えば、公知の焼結炉などが挙げられる。
前記脱脂工程と、前記焼結工程とは、同一の脱脂兼焼結炉を用いて、連続して実施してもよく、脱脂炉と焼結炉とを分け、別々の脱脂炉及び焼結炉にて実施してもよい。
ただし、前記焼結工程において、前記粉末Aの全質量に対する前記粉末Aの液相比率が30質量%以下であり、かつ、前記粉末Bの全質量に対する前記粉末Bの液相比率が70質量%以上となる温度範囲に調整するために、これらの脱脂兼焼結炉、脱脂炉、及び焼結炉は、それぞれ温度調整可能なものであることが必要である。
【0079】
前記焼成工程の温度について、
図8を用いて説明する。
前記焼成工程の温度範囲は、前記粉末Aの全質量に対する前記粉末Aの液相比率が30質量%以下であり、かつ、前記粉末Bの全質量に対する前記粉末Bの液相比率が70質量%以上となる温度範囲である。前記脱脂工程後の前記焼結前駆体を、1℃/時間~200℃/時間で前記温度範囲まで昇温させた後(昇温速度は工程途中で変えることも可能)、1時間~10時間ほど温度保持する。このように前記焼成工程で加熱保持した後、炉内を冷却して、焼成体が得られる。
【0080】
前記脱脂工程及び前記焼成工程を行う雰囲気条件としては、特に制限はなく、目的に応じて、適宜選択することができるが、真空、アルゴン(Ar)、水素(H2)、又は窒素(N2)等の雰囲気条件下で実施することが好ましい。
【0081】
前記焼結工程及び前記焼結手段を実行し、前記粉末Aの全質量に対する前記粉末Aの液相比率が30質量%以下であり、かつ、前記粉末Bの全質量に対する前記粉末Bの液相比率が70質量%以上となる温度範囲で前記焼結前駆体を焼結することにより、得られた付加製造物(焼結体)は、密度が高く、かつ保形性に優れるものとなる。
【0082】
<その他の工程及びその他の手段>
前記その他の工程としては、例えば、乾燥工程、表面保護処理工程、塗装工程などが挙げられる。
前記その他の手段としては、例えば、粉末収容手段、樹脂液収容手段、乾燥手段、表面保護処理手段、塗装手段などが挙げられる。
【0083】
<<粉末収容手段>>
前記粉末収容手段は、前記付加製造用材料を収容する手段である。
前記粉末収容手段の大きさ、形状、材質などについては特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、貯留槽、袋、カートリッジ、タンクなどが挙げられる。
【0084】
<<樹脂液収容手段>>
前記樹脂液収容手段は、前記樹脂液を収容する手段である。
前記樹脂液収容手段の大きさ、形状、材質などについては特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、貯留槽、袋、カートリッジ、タンクなどが挙げられる。
【0085】
<<乾燥工程及び乾燥手段>>
前記乾燥工程は、前記粉末層固化工程において得られた固化物(焼結前駆体)を乾燥させる工程である。前記乾燥工程において、前記固化物中に含まれる水分のみならず、有機物を除去(脱脂)してもよい。
【0086】
前記乾燥手段は、前記粉末層固化工程において得られた固化物(焼結前駆体)を乾燥させる手段である。
前記乾燥手段としては、例えば、公知の乾燥機などが挙げられる。
【0087】
<<表面保護処理工程及び表面保護処理手段>>
前記表面保護処理工程は、前記粉末層固化工程において形成した固化物(焼結前駆体)の表面に保護層を形成等する工程である。この表面保護処理工程を行うことにより、前記固化物(焼結前駆体)を、例えば、そのまま使用等することができる耐久性等を該固化物(焼結前駆体)の表面に与えることができる。
【0088】
前記保護層の具体例としては、耐水性層、耐候性層、耐光性層、断熱性層、光沢層、などが挙げられる。
【0089】
前記表面保護処理手段は、前記粉末層固化工程において形成した固化物(焼結前駆体)の表面に保護層を形成等する手段である。
【0090】
前記表面保護処理手段としては、公知の表面保護処理装置、例えば、スプレー装置、コーティング装置などが挙げられる。
【0091】
<<塗装工程及び塗装手段>>
前記塗装工程は、前記粉末層固化工程において形成した固化物(焼結前駆体)に塗装を行う工程である。前記塗装工程を行うことにより、前記固化物(焼結前駆体)を所望の色に着色させることができる。
【0092】
前記塗装手段は、前記粉末層固化工程において形成した固化物(焼結前駆体)に塗装を行う手段である。
【0093】
前記塗装手段としては、公知の塗装装置、例えば、スプレー、ローラ、刷毛等による塗装装置などが挙げられる。
【0094】
ここで、本発明の付加製造用材料及び該付加製造用材料を用いたBJTの付加製造方法及び付加製造装置の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、BJTは付加製造の方法の一例であり、本願発明における付加製造がBJTに限定されるものではない。
なお、各図面において、同一構成部分には同一符号を付し、重複した説明を省略する場合がある。また、下記構成部材の数、位置、形状等は本実施の形態に限定されず、本発明を実施する上で好ましい数、位置、形状等にすることができる。
【0095】
図1は、本発明の一実施形態に係る付加製造装置の概略断面図である。
図2は、
図1の付加製造装置の概略側面図である。
図3は、
図1の付加製造装置の造形部を示す概略断面図である。
図4は、
図1の付加製造装置の概略斜視図である。
図5Aは、
図1の付加製造装置の粉体槽を示す概略斜視図である。
図5Bは、
図1の付加製造装置の供給槽及び造形槽を示す概略斜視図である。
【0096】
付加製造装置は、粉体造形装置とも呼ばれ、付加製造用材料(少なくとも粉末A及び粉末Bを含有する)が結合された層状造形物である造形層30が形成される造形部1と、造形部1の層状に敷き詰められた粉体層31に造形液(樹脂液)10を吐出して付加製造物を造形する造形ユニット5とを備えている。
【0097】
造形部1は、粉体槽11と、平坦化部材(リコーター)である回転体としての平坦化ローラ12などを備えている。なお、平坦化部材は、回転体に代えて、例えば、板状部材(ブレード)とすることもできる。
【0098】
粉体槽11は、供給槽21と、造形槽22とを有している。供給槽21は、付加製造用材料20を供給する。造形槽22では、造形層30が積層されて付加製造物が造形される。供給槽21の底部は供給ステージ23として鉛直方向(高さ方向)に昇降自在となっている。同様に、造形槽22の底部は造形ステージ24として鉛直方向(高さ方向)に昇降自在となっている。造形ステージ24上に造形層30が積層された付加製造物が造形される。供給ステージ23は、例えば、
図4に示すように、モータ27によって矢印Z方向(高さ方向)に昇降され、造形ステージ24は、同じく、モータ28によって矢印Z方向に昇降される。
【0099】
粉体槽11の周りには、
図5Aに示すように、上面が開放された凹形状である粉体落下口29が設けられている(
図1乃至
図3では省略)。粉体落下口29には、粉体層31を形成するときに平坦化ローラ12によって供給される付加製造用材料20のうちの余剰の付加製造用材料20が落下する。粉体落下口29に落下した余剰の付加製造用材料20は供給槽21に付加製造用材料を供給する後述する粉体供給装置554に戻される。
【0100】
供給槽21上には
図6の粉体供給装置554が配置される。造形の初期動作時や供給槽21の粉体量が減少した場合に、粉体供給装置554を構成するタンク内の付加製造用材料20を供給槽21に供給する。付加製造用材料供給のための粉体搬送方法としては、スクリューを利用したスクリューコンベア方式や、エアーを利用した空気輸送方式などが挙げられる。
【0101】
平坦化ローラ12は、供給槽21の供給ステージ23上に供給された付加製造用材料20を造形槽22に供給し、平坦化部材である平坦化ローラ12によって均して平坦化して、粉体層31を形成する。この平坦化ローラ12は、造形ステージ24のステージ面(付加製造用材料20が積載される面)に沿って、
図4の矢印Y方向に、ステージ面に対して相対的に往復移動可能に配置され、往復移動機構25によって移動される。また、平坦化ローラ12は、モータ26によって回転駆動される。
【0102】
図3に示すように、平坦化ローラ12の周面に接触して、平坦化ローラ12に付着した付加製造用材料20を除去するための粉体除去部材である粉体除去板13が配置されている。粉体除去板13は、平坦化ローラ12の周面に接触した状態で、平坦化ローラ12と共に移動する。また、粉体除去板13は、平坦化ローラ12が平坦化を行うときの回転方向に回転するときにカウンター方向になる状態で配置されている。
【0103】
本実施形態では、造形部1の粉体槽11が供給槽21と造形槽22の2つの槽を有する構成としているが、造形槽22のみとして、造形槽22に粉体供給装置から付加製造用材料を供給して、平坦化手段で平坦化する構成とすることもできる。
【0104】
造形ユニット5は、液体吐出ユニット50を備えている。液体吐出ユニット50は、造形ステージ24上の粉体層31に造形液10を吐出する。造形ユニット5は、ベース部材7上に配置されたガイド部材71に移動可能に保持されたスライダ部72を有し、造形ユニット5全体がX方向と直交するY方向(副走査方向)に往復移動可能である。この造形ユニット5は、後述するY方向走査機構552によって全体がY方向に往復移動される。
【0105】
液体吐出ユニット50は、
図1に示すように、キャリッジ51と、キャリッジ51に搭載された2つ(1つ又は3つ以上でもよい)の液体吐出ヘッド(以下、単に「ヘッド」称することがある)52a及び52bを備えている。液体吐出ユニット50は、ガイド部材54及び55と共に
図2の矢印Z方向に昇降可能に配置され、後述するZ方向昇降機構551によってZ方向に昇降される。
【0106】
2つのヘッド52a及び52b(以下、区別しないときは単に「ヘッド52」と称することがある)は、造形液を吐出する複数のノズルを配列したノズル列がそれぞれ2列配置されている。なお、ヘッド構成はこれに限るものではない。造形液を収容したタンク60がタンク装着部56に装着され、供給チューブなどを介してヘッド52a及び52bに供給される。
【0107】
付加製造装置の制御部の概要について
図6を参照して説明する。
図6は、本発明の一実施形態に係る付加製造装置の制御部を示すブロック図である。
制御部500は、この付加製造装置全体の制御を司るCPU501と、CPU501に本発明に係わる制御を含む付加製造動作の制御を実行させるためのプログラムを含むプログラム及びその他の固定データを格納するROM502と、造形データ等を一時格納するRAM503とを含む主制御部500Aを備えている。また、制御部500は、装置の電源が遮断されている間もデータを保持するための不揮発性メモリ(NVRAM)504を備えている。
【0108】
制御部500は、画像データに対する各種信号処理等を行う画像処理やその他装置全体を制御するための入出力信号を処理するASIC505を備えている。また、制御部500は、外部の造形データ作成装置600から造形データを受信するときに使用するデータ及び信号の送受を行うためのI/F506を備えている。なお、造形データ作成装置600は、最終形態の造形物を各造形層にスライスした造形データを作成する装置であり、パーソナルコンピュータ等の情報処理装置で構成されている。また、制御部500は、各種センサの検知信号を取り込むためのI/O507を備えている。また、制御部500は、液体吐出ユニット50のヘッド52a及び52bを駆動制御するヘッド駆動制御部508を備えている。
【0109】
制御部500は、液体吐出ユニット50のキャリッジ51をX方向(主走査方向)に移動させるX方向走査機構550を構成するモータを駆動するモータ駆動部510と、造形ユニット5をY方向(副走査方向)に移動させるY方向走査機構552を構成するモータを駆動するモータ駆動部512を備えている。制御部500は、液体吐出ユニット50のキャリッジ51をZ方向に移動(昇降)させるZ方向昇降機構551を構成するモータを駆動するモータ駆動部511を備えている。なお、矢印Z方向への昇降は造形ユニット5全体を昇降させる構成とすることもできる。制御部500は、供給ステージ23を昇降させるモータ27を駆動するモータ駆動部513と、造形ステージ24を昇降させるモータ28を駆動するモータ駆動部514を備えている。制御部500は、平坦化ローラ12を移動させる往復移動機構25のモータ553を駆動するモータ駆動部515と、平坦化ローラ12を回転駆動するモータ26を駆動する516を備えている。
【0110】
また、制御部500は、供給槽21に付加製造用材料20を供給する粉体供給装置554を駆動する供給系駆動部517と、液体吐出ユニット50のメンテナンス機構61を駆動するメンテナンス駆動部518を備えている。制御部500のI/O507には、装置の環境条件としての温度及び湿度を検出する温湿度センサ560などの検知信号やその他のセンサ類の検知信号が入力される。制御部500には、この装置に必要な情報の入力及び表示を行うための操作パネル522が接続されている。なお、造形データ作成装置600と付加製造装置(粉体積層造形装置)601によって本発明に係る付加製造装置としての付加製造システムが構成される。
【0111】
次に、造形の流れについて
図7A~
図7Eを参照して説明する。
図7A~
図7Eは本発明の一実施形態に係る付加製造装置の造形部での造形動作の流れを示す概略断面図である。
造形槽22の造形ステージ24上に、1層目の造形層30が形成されている状態から説明する。この造形層30上に次の造形層30を形成するときには、
図7Aに示すように、供給槽21の供給ステージ23をZ1方向に上昇させ、造形槽22の造形ステージ24をZ2方向に下降させる。このとき、造形槽22の上面(粉体層表面)と平坦化ローラ12の下部(下方接線部)との間隔がΔt1となるように造形ステージ24の下降距離を設定する。この間隔Δt1が次に形成する粉体層31の厚さに相当する。間隔Δt1は、20μm以上200μm未満であることが好ましい。
【0112】
次いで、
図7Bに示すように、供給槽21の上面レベルよりも上方に位置する付加製造用材料20を、平坦化ローラ12を順方向(
図7Bにおける矢印方向)に回転しながらY2方向(造形槽22側)に移動することで、付加製造用材料20を造形槽22へと移送供給する。
【0113】
更に、
図7Cに示すように、平坦化ローラ12を造形槽22の造形ステージ24のステージ面と平行に移動させ、
図7Dに示すように、造形ステージ24の造形層30上で所定の厚さΔt1になる粉体層31を形成する(粉末層形成工程)。粉体層31を形成後、平坦化ローラ12は、
図7Dに示すように、Y1方向に移動されて初期位置に戻される。ここで、平坦化ローラ12は、造形槽22及び供給槽21の上面レベルとの距離を一定に保って移動できるようになっている。平坦化ローラ12が、造形槽22及び供給槽21の上面レベルとの距離を一定に保って移動できることで、平坦化ローラ12で付加製造用材料20を造形槽22の上へと搬送させつつ、造形槽22上又は既に形成された造形層30の上に均一厚さΔt1の粉体層31を形成できる。
【0114】
その後、
図7Eに示すように、液体吐出ユニット50のヘッド52から造形液10の液滴を吐出して、次の粉体層31に造形層30を積層形成する(粉末層固化工程)。
なお、造形層30は、例えば、ヘッド52から吐出された造形液10が付加製造用材料20と混合されることで、付加製造用材料20に含まれる接着剤が溶解し、溶解した接着剤同士が結合して付加製造用材料20が結合されることで形成される。
【0115】
次いで、上述した粉体供給及び平坦化による粉体層31を形成する工程(粉末層形成工程)と、ヘッド52による造形液吐出工程(粉末層固化工程)と、を繰り返して新たな造形層30を形成する。このとき、新たな造形層30とその下層の造形層30とは一体化して三次元形状造形物の一部を構成する。
【0116】
(粉末入り容器)
本発明の粉末入り容器は、本発明の付加製造用材料を容器中に充填してなる。
前記容器としては、特に制限はなく、目的に応じて、その形状、構造、大きさ、材質等を適宜選択することができ、例えば、アルミニウムラミネートフィルム、樹脂フィルム等で形成された粉末入り袋、粉末入りカートリッジ、粉末入りタンクなどが挙げられる。
【実施例0117】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。なお、以下の実施例及び比較例において、別段の断りない限り、「部」は「質量部」を示し、「%」は「質量%」を示す。
【0118】
<<粉末のd50の測定方法>>
以下の実施例1~14及び比較例1~2において、粉末A及び粉末Bのメジアン径(d50)は、粒子径分布測定装置(マイクロトラックMT3000IIシリーズ、マイクロトラックベル製)で測定した。結果は、下記表1~表4に示した。
【0119】
<<粉末の106μm以上の粒径の割合の測定方法>>
以下の実施例1~14及び比較例1~2において、粉末A及び粉末Bの106μm以上の粒径の粉末の割合は篩試験により測定した。
篩試験は、ISO 2591-1:1988(試験用ふるい分け-第1部-)で定める方法に基づいて実施した。粉末受器の上に、106μmの目開きの篩(試験用篩、関西金網株式会社製)を重ねた。その篩の上に、試験粉末を入れ、蓋をした。篩を篩分け装置(ロータップ型篩振盪機、株式会社飯田製作所製)に装着し、60Hzの回転数にて10分間、装置を作動させ、篩分けを行った。投入した粉末全体に対する、106μm目開き篩の網上残の粉末の質量割合を、「106μm以上の粒径の粉末の割合」とした。結果は、下記表1~表4に示した。
【0120】
<<粉末A及び粉末Bの温度に対する液相比率の変化>>
以下の実施例1~14及び比較例1~2において、粉末A及び粉末Bの温度に対する液相比率の変化のシミュレーションは、熱力学計算ソフト(CaTCalc、株式会社計算熱力学研究所製)により実施した。
具体的には、前記熱力学計算ソフトに、付加製造用材料の金属の組成、温度範囲、及び圧力を入力し、液相比率を計算した。実施例1における計算では、金属の組成として、粉末Aに関するパラメーターとして「Al:100質量%」を入力し、粉末Bに関するパラメーターとして「Al:88質量%」及び「Si:12質量%」を入力し、温度範囲として「550℃~700℃」を入力し、圧力として「101,325Pa」を入力した。実施例2~13及び比較例1~3では、粉末Aに関するパラメーター及び粉末Bに関するパラメーターを下記表1~4に示す組成に基づくパラメーターに変更したこと以外は、同様にして計算した。結果は、下記表1~表4に示した。
【0121】
<<焼結前駆体及び焼結体の評価>>
以下の実施例1~14及び比較例1~2において、「焼結前駆体の相対密度」、「焼成体の相対密度」、及び「焼成体の変形量」は以下の方法で評価した。結果は、下記表5に示した。
【0122】
-焼結前駆体及び焼結体の相対密度の測定方法-
焼結前駆体及び焼結体の相対密度は、アルキメデス法により測定した。
【0123】
-焼結体の変形量の評価-
図10Aは、実施例1~14及び比較例1~2で造形した焼結前駆体の形状を示す概略斜視図であり、
図10Bは、実施例1~14及び比較例1~2で造形した焼結前駆体の形状を示す概略正面図であり、
図10Cは、実施例1~14及び比較例1~2の焼結体の形状を示す概略正面図であり、焼結体の変形量の評価方法の説明図である。
図10A及び
図10Bに示す、実施例1~14及び比較例1~2で造形した細長いパイプ部101の両端にブロック102が付いた焼結前駆体を焼結すると、パイプ部101が自重により下側にたわんだ。
図10Cに示すように、パイプ部101のたわみ量Δhを、焼結体変形量(mm)の指標とした。
たわみ量Δhは、以下のようにして引いた仮想線Uと仮想線Lとの間の長さをダイヤルゲージ(ID-C125XB、株式会社ミツトヨ製)を用いて測定し、その測定値の絶対値として示した。
(1)造形物の真正面から観察した場合に、片方のブロック部102に接するパイプ部101の最上端101aと、他方のブロック部102に接するパイプ部101の最上端101bとを結んだ仮想線Uの高さを「0mm」とした。
(2)たわみが生じたパイプ部101の最上端であり、仮想線Uとの距離が最大となる点101cを通り、かつ仮想線Uと並行となる線を仮想線Lとした。
【0124】
(実施例1)
<付加製造用材料の製造>
付加製造用材料として、下記粉末A及び粉末Bの混合粉末を使用した。
・ 粉末A:純Al(東洋アルミニウム株式会社製、d50:35μm、106μm以上の粒径の粉末の割合が0.1質量%未満)
・ 粉末B:AlSi12(東洋アルミニウム株式会社製、d50:35μm、106μm以上の粒径の粉末の割合が0.1%質量未満)
なお、「AlSi12」は「Al-12質量%Si合金」を指す。以下、他の合金種も同様な記載法で表記した。
【0125】
粉末A及び粉末Bの混合粉末の全体積に対する、粉末Bの比率が20体積%となるように、粉末A及び粉末Bをビーズミル(DYNO-MILL、株式会社シンマルエンタープライゼス製)に投入し、5分間100rpmにて稼働させ、[付加製造用材料1]を調製した。
【0126】
<造形液の調製>
バインダーとしての部分けん化ポリ酢酸ビニル樹脂(JMR-10LL、日本酢ビ・ポバール株式会社製)88質量%(樹脂固形分ではなく、全量を示す)と、トリエチレングリコールジメチルエーテル12質量%を混合し、80℃で加温しながらマグネチックスターラーを用いて2時間攪拌することで溶解させた。攪拌後、1μmフィルターに通液させ、造形液を調製した。
【0127】
<焼結前駆体の製造>
[付加製造用材料1]を、リコートにより、積層厚み(「積層ピッチ」とも称する)が84μmになるように平坦化した(粉末層形成工程)。次いで、液体吐出ヘッドにより、造形領域に調製した造形液を滴下した(粉末層固化工程)。前記粉末層形成工程及び前記粉末層固化工程を繰り返し、
図10A及び
図10Bに示すように、長さ80mm、直径4mmの細長いパイプ部101の両端に1辺が20mmの立方体のブロック部102が付いたような形状の[焼結前駆体1]を造形した。
【0128】
<焼結体の製造>
その後、[焼結前駆体1]を硬化していない余剰の前記混合粉末(以下、「余剰粉末」と称することがある)に埋めたまま、真空乾燥機(DP610P、ヤマト科学株式会社製)に入れ、減圧雰囲気下(ゲージ圧 -0.1MPa)で100℃にて加熱した。乾燥後の焼結前駆体を、エアーによりブラストすることで、付着していた余剰粉末を除去した。余剰粉末を除去した焼結前駆体を、小型真空焼結炉(DOWAサーモテック株式会社製)に入れ、バインダーが熱分解する温度以上、かつ、AlSi12の共晶温度(577℃)未満の温度で保持することで脱脂した。更に昇温して、577℃<T<660℃の温度範囲内である600℃にて保持することで焼結し、[焼結体1]を形成した。
【0129】
-評価結果-
図9Aは、実施例1の粉末A(純Al)及び粉末B(AlSi12)の、温度に対する液相比率の変化を熱力学計算ソフト(CaTCalc)により計算した結果を示すグラフである。この計算から、粉末A(純Al)の液相比率が30質量%以下、かつ、粉末B(AlSi12)の液相比率が70質量%以上となる温度Tは、577℃<T<660℃の範囲であった。これより、焼結温度を、前記範囲内に設定することで、粉末A(純Al)の大部分は固相の骨格として作用するのに対し、粉末B(AlSi12)は大部分が液相化して、骨格間の空隙を埋めることが分かった。また、[焼結体1]の焼結温度600℃における純Alの液相比率は0質量%であり、[焼結体1]の焼結温度600℃におけるAlSi12の液相比率は100質量%であった。
【0130】
実施例1における焼結前駆体の相対密度は56%であり、焼結体の相対密度は92%であった。焼結体が高密度であったことから、焼結温度において、AlSi12が液相化し、純Al間の空隙を埋め、焼結体を緻密化させる効果が示された。
【0131】
実施例1における焼結体の変形量は0.2mmと小さかった。これより、焼結温度において、AlSi12が液相化する一方で、純Alは固相のまま骨格として作用し、焼結変形を抑制している効果が示された。
【0132】
(比較例1)
実施例1の<付加製造用材料の製造>において、粉末A及び粉末Bの混合粉末を使用したことを、粉末A(純Al、東洋アルミニウム株式会社製、d50:35μm、106μm以上の粒径の粉末の割合が0.1質量%未満)のみを使用したことに変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で[付加製造用材料15]を調製し、この[付加製造用材料15]を用いて[焼結前駆体15]及び[焼結体15]を形成した。
【0133】
-評価結果-
[焼結体15]の相対密度は[焼結前駆体15]の相対密度から変化がなく、焼結が進行しなかった。したがって、付加製造用材料に液相を生成する合金粉末を含まない場合、焼結体は緻密化しないことが示された。
【0134】
焼結が進行しなかったため、焼結体の変形量の評価は行わなかった。
【0135】
(比較例2)
実施例1の<付加製造用材料の製造>において、粉末A及び粉末Bの混合粉末の種類を、以下のものに変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で[付加製造用材料16]を調製し、この[付加製造用材料16]を用いて[焼結前駆体16]及び[焼結体16]を形成した。
・ 粉末A:AlSi4(東洋アルミニウム株式会社製、d50:35μm、106μm以上の粒径の粉末の割合が0.1質量%未満)
・ 粉末B:AlSi5(東洋アルミニウム株式社製、d50:35μm、106μm以上の粒径の粉末の割合が0.1質量%未満)
【0136】
-評価結果-
図9Bは、比較例2の粉末A(AlSi4)及び粉末B(AlSi5)の、温度に対する液相比率の変化を熱力学計算ソフト(CaTCalc)により計算した結果を示すグラフである。この計算から、粉末A(AlSi4)の液相比率が30質量%以下、かつ粉末B(AlSi5)の液相比率が70質量%以上となる温度範囲は存在しなかった。したがって、焼結温度を如何に設定しても、骨格として作用する箇所はなく、造形物全体に液相が生成された。また、[焼結体16]の焼結温度600℃におけるAlSi4の液相比率は35質量%であり、[焼結体16]の焼結温度600℃におけるAlSi5の液相比率は47質量%であった。
【0137】
焼結体の変形量(たわみ量Δh)は0.6mmと大きかった。これより、焼結中に骨格として作用する箇所がないとき、焼結変形が顕著になることが示された。
【0138】
(実施例2)
実施例1の<付加製造用材料の製造>において、粉末A及び粉末Bの混合粉末の種類を、以下のものに変更し、<焼結体の製造>において、焼結温度を600℃から580℃に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で[付加製造用材料2]を調製し、この[付加製造用材料2]を用いて[焼結前駆体2]及び[焼結体2]を形成した。
・ 粉末A:AlSi3(東洋アルミニウム株式会社製、d50:35μm、106μm以上の粒径の粉末の割合が0.1質量%未満)
・ 粉末B:AlSi10(東洋アルミニウム株式会社製、d50:35μm、106μm以上の粒径の粉末の割合が0.1質量%未満)
【0139】
-評価結果-
計算結果より、粉末A(AlSi3)の液相比率が30質量%以下、かつ粉末B(AlSi10)の液相比率が70質量%以上となる温度Tは、577℃<T<610℃の範囲であった。また、[焼結体2]の焼結温度580℃におけるAlSi3の液相比率は14質量%であり、[焼結体2]の焼結温度580℃におけるAlSi10の液相比率は80質量%であった。
【0140】
また、焼結前駆体及び焼結体の評価の結果、実施例1と同様に、密度向上と変形抑制を両立する効果がみられた。
【0141】
(実施例3)
実施例1の<付加製造用材料の製造>において、粉末A及び粉末Bの混合粉末の種類を、以下のものに変更し、<焼結体の製造>において、焼結温度を600℃から590℃に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で[付加製造用材料3]を調製し、この[付加製造用材料3]を用いて[焼結前駆体3]及び[焼結体3]を形成した。
・ 粉末A:AlSi4(東洋アルミニウム株式社製、d50:35μm、106μm以上の粒径の粉末の割合が0.1質量%未満)
・ 粉末B:AlSi8(東洋アルミニウム株式会社製、d50:35μm、106μm以上の粒径の粉末の割合が0.1質量%未満)
【0142】
-評価結果-
計算結果より、粉末A(AlSi4)の液相比率が30質量%以下、かつ粉末B(:AlSi8)の液相比率が70質量%以上となる温度Tは、589℃<T<593℃の範囲であった。また、[焼結体3]の焼結温度590℃におけるAlSi4の液相比率は29質量%であり、[焼結体3]の焼結温度590℃におけるAlSi8の液相比率は71質量%であった。
【0143】
また、焼結前駆体及び焼結体の評価の結果、実施例1と同様に、密度向上と変形抑制を両立する効果がみられた。
【0144】
(実施例4)
実施例1の<付加製造用材料の製造>において、粉末A及び粉末Bの混合粉末の種類を、以下のものに変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で[付加製造用材料3]を調製し、この[付加製造用材料3]を用いて[焼結前駆体3]及び[焼結体3]を形成した。
・ 粉末A:純Al(東洋アルミニウム株式会社製、d50:80μm、106μm以上の粒径の粉末の割合が14.0質量%)
・ 粉末B:AlSi12(東洋アルミニウム株式会社製、d50:80μm、106μm以上の粒径の粉末の割合が14.0質量%)
【0145】
-評価結果-
積層ピッチ84μmよりも大きい粒径の粒子の割合が多く、その大きい粒子が一定の割合で余剰粉受けまでリコートされた。その結果、積層ピッチ中の粉末粒子の量が減り、実施例1と比較して焼結前駆体の相対密度が低下した。それに伴い、実施例1と比較して焼結体の相対密度も低下していた。
【0146】
(実施例5)
実施例1の<付加製造用材料の製造>において、粉末A及び粉末Bの混合粉末の全体積に対する、粉末Bの比率が20体積%となるようにしたことを、粉末A及び粉末Bの混合粉末の全体積に対する、粉末Bの比率が5体積%となるように変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で[付加製造用材料5]を調製し、この[付加製造用材料5]を用いて[焼結前駆体5]及び[焼結体5]を形成した。
【0147】
-評価結果-
粉末A及び粉末Bの混合粉末の全体積に対する、粉末Bの比率を減らすと、実施例1と比較して焼結体の相対密度が低下した。焼結時に液相となる合金粉末の添加比率を増やす方が、緻密化効果が向上することが示された。
【0148】
(実施例6)
実施例1の<付加製造用材料の製造>において、粉末A及び粉末Bの混合粉末の全体積に対する、粉末Bの比率が20体積%となるようにしたことを、粉末A及び粉末Bの混合粉末の全体積に対する、粉末Bの比率が25体積%となるように変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で[付加製造用材料6]を調製し、この[付加製造用材料6]を用いて[焼結前駆体6]及び[焼結体6]を形成した。
【0149】
-評価結果-
粉末A及び粉末Bの混合粉末の全体積に対する、粉末Bの比率を増やすと、実施例1と比較して焼結体の相対密度が向上する効果が認められた。焼結時に液相となる合金粉末の添加比率を増やすことにより、緻密化効果が向上することが示された。
【0150】
(実施例7)
実施例1の<付加製造用材料の製造>において、粉末A及び粉末Bの混合粉末の全体積に対する、粉末Bの比率が20体積%となるようにしたことを、粉末A及び粉末Bの混合粉末の全体積に対する、粉末Bの比率が30体積%となるように変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で[付加製造用材料7]を調製し、この[付加製造用材料7]を用いて[焼結前駆体7]及び[焼結体7]を形成した。
【0151】
-評価結果-
粉末A及び粉末Bの混合粉末の全体積に対する、粉末Bの比率を増やすと、実施例1と比較して焼結体の相対密度が向上する効果が認められた。焼結時に液相となる合金粉末の添加比率を増やすことにより、緻密化効果が向上することが示された。
【0152】
(実施例8)
実施例1の<付加製造用材料の製造>において、粉末A及び粉末Bの混合粉末の種類を、以下のものに変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で[付加製造用材料8]を調製し、この[付加製造用材料8]を用いて[焼結前駆体8]及び[焼結体8]を形成した。
・ 粉末A:純Al(東洋アルミニウム株式会社製、d50:50μm、106μm以上の粒径の粉末の割合が0.1質量%未満)
・ 粉末B:AlSi12(東洋アルミニウム株式会社製、d50:50μm、106μm以上の粒径の粉末の割合が0.1質量%未満)
【0153】
-評価結果-
粉末A及び粉末Bのメジアン径を大きくすることで、付加製造用材料の流動性が向上し、粉体層のパッキング性が高まった。その結果、実施例1と比較して焼結前駆体の相対密度が向上した。
【0154】
(実施例9)
実施例8の<付加製造用材料の製造>において、粉末Bを以下のものに変更したこと以外は、実施例8と同様の方法で[付加製造用材料9]を調製し、この[付加製造用材料9]を用いて[焼結前駆体9]及び[焼結体9]を形成した。
・ 粉末B:AlSi12(東洋アルミニウム株式会社製、d50:25μm、106μm以上の粒径の粉末の割合が0.1質量%未満)
【0155】
-評価結果-
大粒径の純Al粒子間に、小粒径のAlSi12が配置することで、実施例8と比較して焼結前駆体の相対密度が向上した。また、小粒径AlSi12を含有することで粒子接点数が増加し、焼結が促進され、実施例8と比較して焼結体の相対密度が向上した。更に、焼結前駆体の相対密度が向上したことにより、焼結収縮が小さくなり、実施例8と比較して焼結体変形量が低減した。
【0156】
(実施例10)
実施例8の<付加製造用材料の製造>において、粉末Aを以下のものに変更したこと以外は、実施例8と同様の方法で[付加製造用材料10]を調製し、この[付加製造用材料10]を用いて[焼結前駆体10]及び[焼結体10]を形成した。
・ 粉末A:純Al(東洋アルミニウム株式会社製、d50:25μm、106μm以上の粒径の粉末の割合が0.1質量%未満)
【0157】
-評価結果-
大粒径のAlSi12は、粒子体積に対する酸化皮膜厚が相対的に薄く、液相化したときに酸化皮膜が破れやすいために、緻密化に対して優位である。その結果、実施例8と比較して焼結密度が向上した。
【0158】
(実施例11)
実施例1の<付加製造用材料の製造>において、粉末Bを以下のものに変更し、脱脂温度を、バインダーが熱分解する温度以上、かつ、AlSi12の共晶温度(577℃)未満の温度から、バインダーが熱分解する温度以上、AlCu33の共晶温度(548℃)未満の温度に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で[付加製造用材料11]を調製し、この[付加製造用材料11]を用いて[焼結前駆体11]及び[焼結体11]を形成した。
・ 粉末B:AlCu33(東洋アルミニウム株式会社製、d50:35μm、106μm以上の粒径の粉末の割合が0.1質量%未満)
【0159】
-評価結果-
粉末A(純Al)の液相比率が30質量%以下、かつ、粉末B(AlCu33)の液相比率が70質量%以上となる温度範囲は、548℃<T<660℃であった。その結果、実施例1と同様な緻密化効果が確認された。
【0160】
(実施例12)
実施例1の<付加製造用材料の製造>において、粉末Bを以下のものに変更し、脱脂温度を、バインダーが熱分解する温度以上、かつ、AlSi12の共晶温度(577℃)未満の温度から、バインダーが熱分解する温度以上、AlSi10Mg0.4の固相線温度(567℃)未満の温度に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で[付加製造用材料12]を調製し、この[付加製造用材料12]を用いて[焼結前駆体12]及び[焼結体12]を形成した。
・ 粉末B:AlSi10Mg0.4(東洋アルミニウム株式会社製、d50:35μm、106μm以上の粒径の粉末の割合が0.1質量%未満)
【0161】
-評価結果-
粉末A(純Al)の液相比率が30質量%以下、かつ、粉末B(AlSi10Mg0.4)の液相比率が70質量%以上となる温度範囲は、578℃<T<660℃であった。その結果、Mgの酸化皮膜還元作用が発現し、実施例1よりも高密度な焼結体が得られた。
【0162】
(実施例13)
実施例1の<付加製造用材料の製造>において、粉末Aを以下のものに変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で[付加製造用材料13]を調製し、この[付加製造用材料13]を用いて[焼結前駆体13]及び[焼結体13]を形成した。
・ 粉末A:AlFe1(東洋アルミニウム株式会社製、d50:35μm、106μm以上の粒径の粉末の割合が0.1質量%未満)
【0163】
-評価結果-
粉末A(AlFe1)の液相比率が30質量%以下、かつ、粉末B(AlSi12)の液相比率が70質量%以上となる温度Tは、577℃<T<653℃の範囲であった。その結果、実施例1と同様な緻密化効果が確認された。
【0164】
(実施例14)
実施例1の<付加製造用材料の製造>を以下のように変更し[付加製造用材料14]を調製し、この[付加製造用材料14]を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で[焼結前駆体14]及び[焼結体14]を形成した。
【0165】
<付加製造用材料の製造>
付加製造用材料として、下記粉末A、粉末B、及び粉末Cの混合粉末を使用した。
・ 粉末A:純Al(東洋アルミニウム株式会社製、d50:35μm、106μm以上の粒径の粉末の割合が0.1質量%未満)
・ 粉末B:AlSi12(東洋アルミニウム株式会社製、d50:35μm、106μm以上の粒径の粉末の割合が0.1質量%未満)
・ 粉末C:AlSi1Mg0.4(東洋アルミニウム株式会社製、d50:35μm、106μm以上の粒径の粉末の割合が0.1質量%未満)
【0166】
粉末A、粉末B、及び粉末Cの混合粉末の全体積に対する、粉末A、粉末B、及び粉末Cの比率が、粉末A:粉末B:粉末C=40:20:40(体積%)となるように、粉末A、粉末B、及び粉末Cをビーズミル(DYNO-MILL、株式会社シンマルエンタープライゼス製)に投入し、5分間100rpmにて稼働させ、[付加製造用材料14]を調製した。
【0167】
-評価結果-
粉末A(純Al)の液相比率が30質量%以下、かつ、粉末B(AlSi12)の液相比率が70質量%以上となる温度Tは、577℃<T<660℃の範囲であった。その結果、実施例1と同様に緻密化効果が確認された。
【0168】
【0169】
【0170】
【0171】
【0172】
【0173】
本発明の態様としては、例えば、以下のものなどが挙げられる。
<1> 少なくとも粉末A及び粉末Bを含有する付加製造用材料であって、
前記粉末Aは、合金又は純金属を含有し、
前記粉末Bは、前記粉末Aとは別組成の合金を含有し、
前記粉末Aの全質量に対する前記粉末Aの液相比率が30質量%以下であり、かつ、前記粉末Bの全質量に対する前記粉末Bの液相比率が70質量%以上となる温度範囲が存在することを特徴とする付加製造用材料である。
<2> 前記粉末Aにおける106μm以上の粒径の粉末の割合が10質量%未満であり、かつ、前記粉末Bにおける粒径106μm以上の粒径の粉末の割合が10質量%未満である、前記<1>に記載の付加製造用材料である。
<3> 前記付加製造用材料の全体積に対する前記粉末Bの体積が10体積%以上である、前記<2>に記載の付加製造用材料である。
<4> 前記付加製造用材料の全体積に対する前記粉末Bの体積が15体積%以上25体積%以下である、前記<3>に記載の付加製造用材料である。
<5> 前記粉末Bのメジアン径と比較して、前記粉末Aのメジアン径の方が大きい、前記<1>から<3>のいずれかに記載の付加製造用材料である。
<6> 前記粉末Aのメジアン径と、前記粉末Bのメジアン径との比[粉末Aのメジアン径:粉末Bのメジアン径]が1:0.3~1:0.7である、前記<5>に記載の付加製造用材料である。
<7> 前記粉末Aのメジアン径が45μm以上55μm以下であり、かつ前記粉末Bのメジアン径が20μm以上30μm以下である、前記<6>に記載の付加製造用材料である。
<8> 前記粉末Aのメジアン径と比較して、前記粉末Bのメジアン径の方が大きい、前記<1>から<3>のいずれかに記載の付加製造用材料である。
<9> 前記粉末A及び前記粉末Bの少なくともいずれかがアルミニウム合金を含有する、前記<1>から<8>のいずれかに記載の付加製造用材料である。
<10> 前記アルミニウム合金がケイ素、マグネシウム、鉄、及び銅からなる群より選択される少なくとも1種を含有する、前記<9>に記載の付加製造用材料である。
<11> 前記粉末Bが前記ケイ素を含有する前記アルミニウム合金であり、
前記アルミニウム合金の全質量に対する前記ケイ素の含有量が8質量%以上14質量%以下である、前記<10>に記載の付加製造用材料である。
<12> 少なくとも粉末A及び粉末Bを含有する前記<1>から<11>のいずれかに記載の付加製造用材料を用いて粉末層を形成する粉末層形成工程と、
少なくとも樹脂を含有する樹脂液を前記粉末層に付与し、前記粉末層を固化する粉末層固化工程と、
前記粉末層形成工程と、前記粉末層固化工程とを繰り返し、焼結前駆体を作製する焼結前駆体作製工程と、
前記焼結前駆体中の前記樹脂を脱脂する脱脂工程と、
前記粉末Aの全質量に対する前記粉末Aの液相比率が30質量%以下であり、かつ、前記粉末Bの全質量に対する前記粉末Bの液相比率が70質量%以上となる温度範囲で、前記脱脂した焼結前駆体を焼結する焼結工程と、
を含むことを特徴とする付加製造方法である。
<13> 少なくとも粉末A及び粉末Bを含有する前記<1>から<11>のいずれかに記載の付加製造用材料を用いて粉末層を形成する粉末層形成手段と、
少なくとも樹脂を含有する樹脂液を前記粉末層に付与し、前記粉末層を固化する粉末層固化手段と、
前記粉末層形成手段と、前記粉末層固化手段とを繰り返し実行し、焼結前駆体を作製する焼結前駆体作製手段と、
前記焼結前駆体中の前記樹脂を脱脂する脱脂手段と、
前記粉末Aの全質量に対する前記粉末Aの液相比率が30質量%以下であり、かつ、前記粉末Bの全質量に対する前記粉末Bの液相比率が70質量%以上となる温度範囲で、前記脱脂した焼結前駆体を焼結する焼結手段と、
を有することを特徴とする付加製造装置である。
【0174】
前記<1>から<11>のいずれかに記載の付加製造用材料、前記<12>に記載の付加製造方法、及び前記<13>に記載の付加製造装置は、従来における前記諸問題を解決し、前記本発明の目的を達成することができる。