(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024135382
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】再構成方法、再構成プログラム及び生体磁気計測装置
(51)【国際特許分類】
A61B 5/242 20210101AFI20240927BHJP
A61B 5/243 20210101ALI20240927BHJP
A61B 5/245 20210101ALI20240927BHJP
A61B 6/46 20240101ALI20240927BHJP
A61B 5/055 20060101ALI20240927BHJP
A61B 8/14 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
A61B5/242
A61B5/243
A61B5/245
A61B6/00 360B
A61B5/055 380
A61B5/055 390
A61B8/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023046034
(22)【出願日】2023-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(71)【出願人】
【識別番号】504179255
【氏名又は名称】国立大学法人 東京医科歯科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(72)【発明者】
【氏名】渡部 泰士
(72)【発明者】
【氏名】川端 茂▲徳▼
(72)【発明者】
【氏名】横田 隆徳
(72)【発明者】
【氏名】関原 謙介
(72)【発明者】
【氏名】赤座 実穂
(72)【発明者】
【氏名】大谷 泰
【テーマコード(参考)】
4C093
4C096
4C127
4C601
【Fターム(参考)】
4C093AA01
4C093AA22
4C093FF35
4C096AA18
4C096AD14
4C096DC33
4C127AA10
4C127BB05
4C127HH13
4C601EE11
4C601LL33
(57)【要約】
【課題】神経電気活動のモデルを想定してLeadfield行列を作成することで、神経機能評価を簡易に行うことを可能にする。
【解決手段】生体電気活動により発生する生体磁気に基づいて生体内の生体電気活動を再構成する再構成方法であって、生体組織において生体電気活動が伝播する伝播方向上の点を挟んで、前記伝播方向上で対向する2つの電流双極子又は前記伝播方向の垂直方向で対向する少なくとも2つの電流双極子を電流源として設定し、設定した2つの電流双極子が発生する電流の広がりを電流保存則に基づいて計算することでLeadfield行列を生成し、生成したLeadfield行列を用いて生体電気活動を再構成する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体電気活動により発生する生体磁気に基づいて生体内の生体電気活動を再構成する再構成方法であって、
生体組織において生体電気活動が伝播する伝播方向上の点を挟んで、前記伝播方向上で対向する2つの電流双極子又は前記伝播方向の垂直方向で対向する少なくとも2つの電流双極子を電流源として設定し、
設定した2つの電流双極子が発生する電流の広がりを電流保存則に基づいて計算することでLeadfield行列を生成し、
生成したLeadfield行列を用いて生体電気活動を再構成することを特徴とする再構成方法。
【請求項2】
計測部により計測された生体磁気に対応する電流分布を、前記生成したLeadfield行列を用いて生体電気活動に再構成することを特徴とする請求項1に記載の再構成方法。
【請求項3】
前記2つの電流双極子が発生する電流が無限平面を流れるとして前記電流の広がりを計算することで、Leadfield行列を生成することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の再構成方法。
【請求項4】
前記2つの電流双極子の間隔は、前記生体組織の前記伝播方向に対して垂直方向の幅に設定されることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の再構成方法。
【請求項5】
前記伝播方向を、生体の形態情報に基づいて決定することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の再構成方法。
【請求項6】
前記生体の形態情報は、超音波画像、単純X線画像又はMR画像であることを特徴とする請求項4に記載の再構成方法。
【請求項7】
前記生成したLeadfield行列を用いて再構成した前記生体電気活動を示す画像を、前記超音波画像、前記単純X線画像又は前記MR画像に重畳して表示部に表示することを特徴とする請求項6に記載の再構成方法。
【請求項8】
時間の経過とともに変化する前記生体電気活動の時間毎の画像を前記表示部に表示することを特徴とする請求項7に記載の再構成方法。
【請求項9】
前記生成したLeadfield行列を用いて空間フィルター法を用いて生体電気活動を再構成することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の再構成方法。
【請求項10】
生体電気活動により発生する生体磁気に基づいて生体内の生体電気活動を再構成する再構成プログラムであって、
生体組織において生体電気活動が伝播する伝播方向上の点を挟んで、前記伝播方向上で対向する2つの電流双極子又は前記伝播方向の垂直方向で対向する少なくとも2つの電流双極子を電流源として設定する設定処理と、
設定した2つの電流双極子が発生する電流の広がりを電流保存則に基づいて計算することでLeadfield行列を生成する生成処理と、
生成したLeadfield行列を用いて生体電気活動を再構成する再構成処理と、
をコンピュータに実行させることを特徴とする再構成プログラム。
【請求項11】
生体電気活動により発生する生体磁気を計測する計測部と、
生体組織において生体電気活動が伝播する伝播方向上の点を挟んで、前記伝播方向上で対向する2つの電流双極子又は前記伝播方向の垂直方向で対向する少なくとも2つの電流双極子を電流源として設定する設定部と、
設定した2つの電流双極子が発生する電流の広がりを電流保存則に基づいて計算することでLeadfield行列を生成する生成部と、
前記計測部が計測した生体磁気に対応する電流分布を、前記生成部が生成したLeadfield行列を用いて再構成する再構成部と、
前記再構成部により再構成された電流分布に基づいて生体電気活動を再構成する再構成部と、
を有することを特徴とする生体磁気計測装置。
【請求項12】
生体電気活動により発生する生体磁気を計測する計測部と、
生体組織において生体電気活動が伝播する伝播方向上の点を挟んで、前記伝播方向上で対向する2つの電流双極子又は前記伝播方向の垂直方向で対向する、電流源として設定された少なくとも2つの電流双極子が発生する電流の広がりを電流保存則に基づいて計算することで生成されたLeadfield行列が記憶された記憶部と、
前記計測部が計測した生体磁気に対応する電流分布を、前記記憶部に記憶されたLeadfield行列を用いて再構成する再構成部と、
前記再構成部により再構成された電流分布に基づいて生体電気活動を再構成する再構成部と、
を有することを特徴とする生体磁気計測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、再構成方法、再構成プログラム及び生体磁気計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
被検体の磁気の計測データに基づいて、マトリックス状に配置された複数個所で再構成した電流成分と、被検体の形態画像上で指定された神経経路に沿って抽出した複数個所での電流成分とを表示する生体情報表示装置が知られている(例えば、特許文献1、非特許文献1参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
この種の生体情報表示装置を使用して神経機能を評価する場合、評価者は、形態画像に重畳して表示される電流の分布の変化に基づいて、神経経路上を伝播する脱分極点の位置と、脱分極点での電流強度の時間変化とを推測していた。なお、神経活動電流の強度は、脱分極点が障害部位を通過する際に低下することが分かっている。
【0004】
このため、推定された脱分極点の位置が正しくない場合、神経機能を正しく評価することができなかった。換言すれば、電流の分布から脱分極点の位置と脱分極点での電流強度の時間変化とを推定する手法では、神経機能を直感的に評価することが難しく、神経機能を正しく評価するためには習熟を要していた。
【0005】
開示の技術は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、神経軸索の電気活動のモデルを想定してLeadfield行列を作成することで、神経機能を簡易に評価可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記技術的課題を解決するため、本発明の一形態の再構成方法は、生体電気活動により発生する生体磁気に基づいて生体内の生体電気活動を再構成する再構成方法であって、生体組織において生体電気活動が伝播する伝播方向上の点を挟んで、前記伝播方向上で対向する2つの電流双極子又は前記伝播方向の垂直方向で対向する少なくとも2つの電流双極子を電流源として設定し、設定した2つの電流双極子が発生する電流の広がりを電流保存則に基づいて計算することでLeadfield行列を生成し、生成したLeadfield行列を用いて生体電気活動を再構成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
神経電気活動のモデルを想定してLeadfield行列を作成することで、神経機能を簡易に評価可能にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一実施形態に係る生体磁気計測装置の一例を示すブロック図である。
【
図2】神経活動電流のモデルの一例を示す説明図である。
【
図3】生体の形態画像に重畳して表示される仮想電極と生体電流の一例を示す説明図である。
【
図4】
図1の生体磁気計測装置により電流強度及び電流波形を表示する処理の一例を示すフロー図である。
【
図5】
図2に円で示した2つの電流双極子が作る磁気を定式化する場合の電流双極子の位置関係を示す説明図である。
【
図6】Leadfield行列を生成する場合に仮定する電流源(電流双極子)と、電流源から発生する電流分布の例を示す説明図である。
【
図7】シミュレーションにより発生させた磁気を仮想の磁気センサアレイで計測して得られる磁気分布の例を示す説明図である。
【
図8】信号源を再構成するシミュレーションにおいて、電流四極子を仮定してLeadfield行列を生成した場合に得られる等電流分布の例を示す説明図である。
【
図9】電流四極子を仮定して生成したLeadfield行列を使用して、実際に計測した磁気データから電流を再構成した場合の電流強度分布の変化の例を示す説明図である。
【
図10】信号源を再構成するシミュレーションにおいて、電流四極子を仮定せずにLeadfield行列を生成した場合に得られる等電流分布の例を示す説明図である。
【
図11】電流四極子を仮定せずに生成したLeadfield行列を使用して、実際に計測した磁気データから電流を再構成した場合の電流強度分布の変化の例を示す説明図である。
【
図12】
図1のデータ処理装置のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して実施の形態の説明を行う。なお、各図面において、同一構成部分には同一符号を付し、重複した説明を省略する場合がある。
【0010】
図1は、本発明の一実施形態に係る生体磁気計測装置の一例を示すブロック図である。例えば、
図1に示す生体磁気計測装置100は、磁気センサ部10、信号取得部20、データ処理装置30、入力装置80及び表示装置90を有する。
【0011】
磁気センサ部10及び信号取得部20は、計測部の一例である。データ処理装置30は、PC(Personal Computer)やサーバ等のコンピュータである。表示装置90は、単純X線画像、MR画像等の被検体の形態画像と生体信号の電流強度及び電流波形等とを表示可能である。
【0012】
信号取得部20は、FLL(Flux Locked Loop)回路21、アナログ信号処理部22、AD(Analog-to-Digital)変換部23及びFPGA(Field-Programmable Gate Array)24を有する。例えば、磁気センサ部10及び信号取得部20は、磁気を遮蔽するシールドルーム内に設置され、データ処理装置30、入力装置80及び表示装置90は、シールドルーム外に設置される。
【0013】
例えば、磁気センサ部10は、複数のSQUID(Superconducting QUantum Interference Device;超伝導量子干渉素子)磁気センサを含んでいる。なお、磁気センサ部10は、SQUID磁気センサに代えて、MR(Magneto Resistive)センサ又はOPAM(Optically Pumped Atomic Magnetometer)センサ等の他の方式の磁気センサを含んでもよい。
【0014】
磁気センサ部10により計測される生体信号は、生体の骨格筋由来の信号、心筋由来の信号、平滑筋由来の信号、又は神経由来の信号である。骨格筋、心筋、平滑筋及び神経は、生体組織の一例である。例えば、骨格筋は、手掌、前腕、上腕、大腿、下腿等の筋である。例えば、心筋は、心臓を構成する筋肉である。例えば、平滑筋は、胃の収縮や腸の蠕動運動を生み出す筋肉である。例えば、神経由来の信号は、体表から刺激可能な神経から発生する。以下で説明する各実施形態は、SQUID磁気センサにより計測された骨格筋由来、心筋由来、平滑筋由来又は神経由来の生体信号から生成される電流波形について適用可能である。
【0015】
データ処理装置30は、入力制御部40、表示制御部50、動作制御部60及び記憶部70を有する。例えば、動作制御部60の機能の一部は、データ処理装置30に搭載されるCPU(Central Processing Unit)等のプロセッサが実行する生体電気活動の信号源の再構成プログラムがハードウェアと協働して信号源の再構成方法を実施することで実現される。
【0016】
生体磁気計測装置100は、脳磁計(MEG:Magnetoencephalograph)、心磁計(MCG:Magnetocardiograph)又は脊磁計(MSG:Magnetospinograph)などとして使用される。なお、生体磁気計測装置100は、脊髄以外の神経磁気又は筋肉磁気の計測に適用されてもよい。
【0017】
磁気センサ部10は、被検体が発生する磁気を計測し、計測した磁気を電圧として出力する。磁気センサ部10は、例えば、ベッドに横たわる被検体の磁気の計測部位に対向して設置される複数のSQUID磁気センサを有する。FLL回路21は、複数のSQUID磁気センサにより計測された非線形の磁気-電圧特性をそれぞれ線形化することで、ダイナミックレンジを向上させる。
【0018】
アナログ信号処理部22は、FLL回路21から出力される線形化されたアナログ信号を増幅し、増幅したアナログ信号のフィルタ処理等を実施する。AD変換部23は、フィルタ処理されたアナログ信号(磁気信号)をデジタル値に変換する。FPGA24は、AD変換部23によりデジタル化された磁気データのさらなるフィルタ処理や間引き処理等を実施してデータ処理装置30に転送する。
【0019】
データ処理装置30において、入力制御部40は、位置入力部41及び波形領域指定部42を有し、マウスやキーボード等の入力装置80を介してデータ処理装置30の操作者から入力される各種情報の入力処理を実施する。データ処理装置30の操作者は、後述する生体信号の電流波形の評価者でもよい。位置入力部41は、例えば、液晶ディルプレイ等の表示装置90に表示された被検体の形態画像上での仮想電極VE(
図3)の位置を受け付ける。
【0020】
波形領域指定部42は、例えば、入力装置80から受け付けたウィンドウ設定コマンドに基づいて、生体信号の電流波形を表示するウィンドウの座標等を示す情報を波形表示部52に指示する。波形表示部52は、表示装置90の表示画面において、指示された座標で囲まれる領域に生体信号の電流波形等を表示する。
【0021】
表示制御部50は、画像表示部51を有し、表示装置90に単純X線画像、電流波形及びノイズレベル等を表示する制御を実施する。画像表示部51の機能は、
図3等で説明される。なお、入力装置80及び表示装置90は、データ処理装置30に含まれてもよい。また、プリンタ等の出力装置が、データ処理装置30に接続されてもよい。
【0022】
動作制御部60は、電流双極子設定部61を含むLeadfield行列生成部62と、信号源再構成実行部63とを有する。電流双極子設定部61を含むLeadfield行列生成部62と、信号源再構成実行部63の機能は、
図3等で説明される。
【0023】
記憶部70は、例えば、HDD(Hard Disk Drive)等の記憶装置により実現され、生体磁気データ71、形態画像データ72及び各種の解析パラメータ73を記憶する領域を有する。生体磁気データ71は、磁気センサ部10で計測されて信号取得部20で処理された磁気の計測データを含む。形態画像データ72は、図示しないX線撮影装置で撮影された単純X線画像データ、磁気共鳴断層撮影装置で撮影されたMR(Magnetic Resonance)画像データ及び超音波画像の1つまたは複数を含む。以下では、単純X線画像データから生成される被検体のX線形態画像をX線画像と称し、MR画像データから生成される被検体の断面形態画像をMR画像と称する。
【0024】
解析パラメータ73は、信号取得部20に設けられるフィルタ(ハイパスフィルタ、ロウパスフィルタ)の設定値や、各種信号処理を実施する時間範囲、要素数等の生体磁気の計測に必要なパラメータと、生体情報表示方法の実施に必要なパラメータとを含む。また、解析パラメータ73は、Leadfield行列生成部62により生成されたLeadfield行列を含む。
【0025】
図2は、神経活動電流のモデルの一例を示す説明図である。
図2は、図の上下方向に直線状に走行する神経の活動により電流が発生する様子を示しており、図の下側が末梢側であり、図の上側が中枢側である。神経の活動は、生体電気活動の一例である。例えば、末梢神経に電気刺激を与えることで、神経活動電流が神経軸索を下側から上側に向けて伝播する。
【0026】
このとき、図の上側(順方向)に流れる軸索内電流及び図の下側(逆方向)に流れる軸索内電流と、神経軸索外を流れ、脱分極点に帰ってくる電流成分である体積電流とが発生する。図の上側に向けて流れる軸索内電流をリーディング成分と称され、図の下側に向けて流れる軸索内電流をトレイリング成分と称される。
【0027】
図2の脱分極の位置において、神経の幅方向の両側に実線で示す2つ円は、
図4及び
図5で説明するシミュレーション時に仮想的に設定される2つの電流双極子(電流源)を示す。なお、2つの電流双極子は、
図2では、神経活動が伝播する神経軸索方向上の点を挟んで垂直方向で対向する2つの電流双極子が設定される例が示されるが、神経軸索方向上の点を挟んで神経軸索方向上で対向する2つの電流双極子が設定されてもよい。神経軸索方向は、生体電気活動が伝播する伝播方向の一例である。
【0028】
神経機能を詳細に評価するためには、神経軸索に沿って流れる軸索内電流と、体積電流によって神経軸索に垂直に流入する電流とを抽出して、生体電流波形として表示装置90の画面等に視覚的に表示することが好ましい。また、神経軸索の一部に異常がある場合、異常個所での生体電流の伝播が、正常な個所での生体電流の伝播より弱くなる場合がある。このため、神経を伝播する生体電流の強度の時間的な変化を表示装置90の画面等に視覚的に表示することが好ましい。
【0029】
本実施形態において、時間tに置いてセンサアレイで計測される磁場データは式(1)で表現される。
【数1】
以下は簡単のため、単一時間点の場合を考える。
【0030】
空間フィルター法などの信号の線形性を前提とした再構成手法は、信号源の存在する領域をボクセルの集合体として定義し、各ボクセルにおける単位信号源の発生する信号を計算することによりLeadfield行列を生成し、得られたLeadfield行列にもとづいて信号源の分布を算出する。
【0031】
位置rにおけるLeadfield行列は、式(2)のように表現できる。
【数2】
【0032】
l
M(r)は、位置rに単位信号源を置いたとき、M番目のセンサで得られる出力を示す。このとき、計測された磁場データyは、式(3)により表現される。
【数3】
【0033】
ここで、s(r1),...,s(rN)は、位置r1,...,rNにおける電流強度である。換言すれば、計測された磁場データは、各ボクセルに置かれた単位信号源が発生する磁場に各ボクセルの信号源強度をかけ合わせたものを、全て足し合わせたものであるといえる。
【0034】
ここから、再構成手法の一種である空間フィルター法は式(4)により各ボクセルの強度を推定する。
【数4】
ここで、
【数5】
は、推定された各ボクセルの強度を並べたベクトルであり、w(r)は、位置rにおける重み行列である。空間フィルター法は重み行列を種々変更することにより、様々な特性を持つフィルターを構成する。
【0035】
例えば、最小二乗法の考え方に基づいて定義されるMinimum-normフィルターの場合、式(5)となる。
【数6】
【0036】
本実施形態は、上記再構成手続きの中で、特にLeadfield行列の定義に関する。電流双極子設定部61は、例えば、操作者が、表示装置90に表示された形態情報を見ながら指定した神経軸索の軸方向に対し平行または垂直に、各ボクセル点を中心として一定の間隔を空けて対向するよう電流双極子を定義する。
【0037】
ここで、神経軸索の軸方向の対しての垂直とは、
図2における紙面を貫く方向を含めてもよい。換言すれば、神経の軸索に対して垂直に、360°に対向する電流双極子を定義してもよい。
【0038】
Leadfield行列生成部62は、電流双極子設定部61が設定した少なくとも2つの電流双極子が発生する電流の広がりを考慮してセンサアレイで得られる磁場を計算することで、Leadfield行列を生成する処理を行う。Leadfield行列生成部62は、生成したLeadfield行列を解析パラメータ73として記憶部70に記憶させる。Leadfield行列生成部62は、Leadfield行列を生成する生成部の一例である。
【0039】
信号源再構成実行部63は、解析パラメータとして保存されたLeadfield行列を使用して、磁気センサ部10で計測された被検体の磁気データから、各ボクセルにおける信号源強度を再構成する。
【0040】
信号源再構成実行部63は、ボクセル毎の電流の強度に基づいて、画像上で同じ電流強度を有する位置を抽出する。信号源再構成実行部63は、抽出した位置を結ぶ線を電流強度分布線として記憶部70に記憶させ、画像表示部51に指示して、電流強度分布線を形態画像上に重畳表示させる。
【0041】
図4は、
図1の生体磁気計測装置100により電流強度及び電流波形を表示する処理の一例を示すフロー図である。
図4に示す例では、被検体の計測対象部位の形態画像を取得するため、被検体の磁気信号の計測とは別に、ステップS10において、X線撮影装置を使用して被検体のX線画像が取得される。また、ステップS11において、磁気共鳴断層撮影装置を使用して被検体のMR画像データが取得され、ステップS12において、計測対象にするスライス(MR画像)が、MR画像データから抽出される。なお、ステップS11では、MR画像に代えて、CT画像が取得されてもよい。また、ステップS12は、データ処理装置30により実施されてもよい。
【0042】
なお、X線撮影装置をSQUID磁気センサとともにシールドルーム内に設置することで、例えば、被検体をシールドルーム内のベッドに横たわらせた状態でX線撮影と生体磁気の計測との両方を実施することができる。これにより、X線撮影と生体磁気の計測とを別々の場所で実施する場合に比べて、X線画像上での磁気の計測位置を正確に得ることができる。
【0043】
データ処理装置30により実施されるステップS20からステップS29までの処理は、データ処理装置30が実行するデータ処理プログラムに基づいて実施されるデータ処理方法により実現される。また、ステップS21,S22,S23,S24,S25に示す処理は、データ処理プログラム中に含まれる生体電気活動を再構成する再構成プログラムに基づいて実施される、生体電気活動を再構成する再構成方法により実現される。
【0044】
ステップS20において、データ処理装置30を使用して、X線画像とスライスしたMR画像とを重ね合わせて新たな形態画像を生成する処理が実施される。例えば、画像の重ね合わせは、データ処理装置30の操作者が、表示装置90に表示された2つの画像の一方をマウス等の入力装置80を使用して画面上で移動、回転させることで実施される。
【0045】
この場合、入力制御部40が操作者の操作を受け付け、受け付けた操作にしたがって画像表示部51が、表示装置90に表示されている画像を移動又は回転させる。重ね合わせられた画像は、形態画像データ72として記憶部70に記憶される。画像表示部51は、記憶部70に記憶された形態画像データ72が示す形態画像を表示装置90に表示する。
【0046】
なお、X線画像とMR画像とを重ね合わせる処理は、画像認識技術を使用して自動的に実施されてもよい。この際、ディープラーニング等の機械学習の手法が利用されてもよい。画像を自動的に重ね合わせる場合、ステップS20の処理は、例えば、動作制御部60に設けられる図示しない重ね合わせ処理部により実施される。
【0047】
次に、ステップS21において、電流双極子設定部61は、例えば、操作者が、表示装置90に表示された形態画像を見ながら設定した神経の軸方向の定義を受け付ける。次に、ステップS22において、電流双極子設定部61は、受け付けた神経の軸方向の定義で示される形態画像上での神経経路の両側に2つの電流双極子の座標を設定する。
【0048】
次に、ステップS23において、Leadfield行列生成部62は、電流双極子設定部61により設定された2つの電流双極子が発生する電流の広がりを電流保存則に基づいて計算することでLeadfield行列を生成する。Leadfield行列生成部62は、生成したLeadfield行列を解析パラメータ73として記憶部70に記憶させる。
【0049】
一方、ステップS30において、生体磁気計測装置100は、例えば、被検体の末梢神経に与える電気パルス刺激に同期して、SQUID磁気センサにより被検体の生体磁気を計測する。次に、ステップS31において、信号取得部20は、計測した磁気に対応してSQUID磁気センサが出力する電圧に基づいて、デジタルの磁気データを生成し、生成した磁気データを生体磁気データ71として記憶部70に記憶させる。なお、ステップS30、S31は、繰り返し実施される。ここまでにより、被検体の計測対象部位の生体電流の強度と電流波形とを取得する準備が完了する。
【0050】
ステップS23の後、ステップS24において、信号源再構成実行部63は、ステップS23で生成されて記憶部70に記憶されたLeadfield行列を使用して、計測時間毎の磁気データに基づいて電流成分を再構成することで信号源を推定する。信号源再構成実行部63は、再構成により得た電流の向き、強度、座標等を示す電流情報を、形態画像データ72として記憶部70に記憶させる。
【0051】
次に、ステップS25において、信号源再構成実行部63は、画像表示部51に指示して、再構成により得たボクセル毎の電流の向きと強度とを示す矢印を、ステップS20で重ね合わせた画像上に表示させる。また、信号源再構成実行部63は、ボクセル毎の電流の強度に基づいて、画像上で同じ電流強度を有する位置を抽出し、電流強度分布線として画像に重ね合わせて表示させる。信号源再構成実行部63は、電流強度分布線を示す情報を形態画像データ72として記憶部70に記憶させる。これにより、例えば、
図3に示したように、形態画像上と、計測時間毎に再構成した電流の分布(電流の矢印と電流強度分布線)とが、画面上に重ね合わせて表示される。
【0052】
図5は、
図2に円で示した2つの電流双極子(すなわち、4極子)が作る磁気を定式化する場合の電流双極子の位置関係を示す説明図である。
図5に示すように、中心がr'で、距離d離れ、互いに逆方向の2つの電流双極子Qが作る磁気分布を考える。まず、電流源(primary current)である4極子の電流が作る磁気分布のみを考え、その後、体積電流が作る磁気分布も含めて考える。なお、2つの電流双極子が発生する電流強度は、偏りがないものとする。
【0053】
以下の式において、記号Qは、電流双極子の強度ベクトルを示し、記号r'は、2つの電流双極子の中間位置を示す。記号dは、2つの電流双極子間の距離ベクトルを示し、記号rは、センサの位置を示す。記号μ0は、透磁率を示し、記号B(r)は、位置rで得られる磁気を示す。
【0054】
記号Eは、電流双極子の方向の単位ベクトルを示す。記号U(r)は、スカラポテンシャルを示し、記号tは、Z方向無限大から位置rまでの経路(積分経路)を表すパラメータを示す。記号e
zは、
図5のXY平面に対して垂直方向の単位ベクトルを示す。
【0055】
互いに対向する2つの電流双極子Q(4極子)により位置rに作られる磁気B
0(r)は、式(6)で示される。
【数7】
【0056】
式(6)において、a=r-r'とおき、|d|<<|a|としてd//Qに注意して計算すると、式(7)が得られる。
【数8】
【0057】
また、Eを式(7)中のQおよびdの方向の単位ベクトル(E=Q/|Q|=d/|d|)とすると、式(8)が得られる。
【数9】
【0058】
次に、均一な伝導率σの半無限平面G(
図5のXY平面に平行な面)内に上記の逆向きで等価の強度の電流源がある場合に、その電流源に伴う体積電流による磁気も含めて考える。平面に対して垂直成分の電流源とそれに伴う体積電流は周囲に磁気を作らないことが知られており(Sarvas 1987)、Eのz成分は、0(E・e
Z=0)とする。
【0059】
この磁気の無限半平面に対して垂直成分B
Z(r)は、Geselowitzの式を用いると、式(9)となり、無限半平面に対して垂直成分は電流源のみによる磁場の垂直成分と一致する。
【数10】
【0060】
なお、式(9)において、V(r')は、半無限平面表面の電位を表し、σは、半無限平面の伝導率を表し、dSは、半無限平面表面の微小面積を表す。
【数11】
は、半無限平面表面での積分を表す。
【0061】
被検体の体外には電流は存在しないため、∇×B=0が成り立つことから、磁気B(r)は、スカラポテンシャルUを用いて式(10)で表され、その勾配を調べることで平面に対して平行な磁気の成分Bx,Byが分かる。
【数12】
【0062】
式(10)中のスカラポテンシャルU(r)を求めるために、式(11)に示される無限遠から無限平面に垂直方向に沿った積分を考える。
【数13】
【0063】
式(11)に式(12)を代入して、式(13)が得られる。
【数14】
【数15】
【0064】
e
Z・E=0、e
Z×E・e
Z=0なので、a=r-r
0として、式(14)が求まる。
【数16】
【0065】
式(14)の積分部分を式(15)に示すようにMとおく。ここで、a=|a|、b=a・e
Zとした。
【数17】
【0066】
式(15)の右項は、式(16)となる。
【数18】
【0067】
そして、式(14)の積部分をMとおいて式(17)の勾配を求めることで、式(18)に示す目的の磁気を得ることができる。すなわち、互いに対向する電流双極子を電流源とする場合に電流源(primary current)と体積電流とにより発生する磁気を定式化することができる。
【数19】
【数20】
【0068】
上記の計算に、▽a・E=E、▽[(a×E)・e
Z]=E×e
Zを用いた。但し、a=|a|、b=a・e
Zとして、Mは、式(19)であり、▽Mは、式(20)である。
【数21】
【数22】
【0069】
以上の一連の計算により、互いに対向する2つの電流双極子(4極子)が発生する位置rでの磁気を計算することが可能になる。互いに対向する2つの電流双極子を電流源としてLeadfield行列を生成するアイデアは、従来提案されていない。例えば、式(6)、式(8)、式(18)は、本発明者らにより導かれた固有の式である。
【0070】
信号源を表すベクトルS(=|d||Q|E)と磁気分布Bの関係について、a・E及びa×E(なお、E=S/|S|)の項があるために、Sの各成分とBの間に線形関係がない。このため、例えば、S=(1,0,0)における磁気分布とS=(0,1,0)における磁気分布を加算してもS=(1,1,0)における磁気分布とはならない。
【0071】
そこで、形態学的情報などによって単位ベクトルEの方向を指定することで線形性を持たせる。これにより、例えば、空間フィルター法のような信号源の線形性を前提としたアルゴリズムへの応用が可能となる。
【0072】
以上より、互いに対向する2つの電流双極子を電流源として発せられる磁気を計算する上記の式の手続きを用いてLeadfield行列を生成し、生成されたLeadfield行列に基づいて空間フィルター法を用いて計測データから体内の生体活動の強度を再構成することができる。すなわち、時間とともに移動する神経軸索上の電流源に着目して生体活動の強度を再構成できるため、より直接的に生体活動を評価することが可能となる。
【0073】
これに対して、従来手法では、マトリックス状に配置したボクセルでの電流分布を被検体の体内での電流分布として再構成していたため、時間とともに移動する神経軸索上の電流源での電流強度は、位置が固定された複数個所での電流強度の変化に基づいて評価者が推測するしかなかった。
【0074】
図6は、Leadfield行列を生成する場合に仮定する電流源(電流双四極子)と、電流源から発生する電流分布の例を示す説明図である。
図6において、神経軸索内の生体電流の伝播経路は、Y方向で示され、XY平面での電流分布が算出されるとする。2つの電流双極子Qは、神経軸索内の生体電流の伝播経路の幅方向(X方向)の両側に設定され、2つの電流双極子Qの間隔は、伝播経路の幅とほぼ等しく設定される。例えば、2つの電流双極子Qの間隔は、1cm程度以下であることが好ましい。
【0075】
図2と同様に、電流源である電流双極子QからY+方向(順方向)とY-方向(逆方向)とに軸索内電流がそれぞれ流れる。また、電流双極子Qから発生し、神経軸索外を流れる二次電流は、体積電流(内向き電流)として電流双極子Qに帰ってくる。太い矢印及び細い矢印で示す電流で示される電流分布は、信号源を示す。
【0076】
従来手法では、
図1の動作制御部60が実施する生体電流の再構成により、二次電流を含むXY平面上の全ての電流成分が抽出されており、神経機能の評価に有用でない電流成分も表示装置90の画面に表示されていた。このため、神経機能の評価者は、画面に表示される電流成分から神経内を伝播する電流の強度及び時間変化を推測することで、神経機能を評価していた。したがって、従来手法では、神経機能を直感的に評価することが難しく、神経機能を評価するためには習熟を要していた。
【0077】
本発明者等は、以下の条件を設定して、電流四極子を仮定してLeadfield行列を生成した場合と、電流四極子を仮定せずにLeadfield行列を生成した場合(従来手法)とのシミュレーションをそれぞれ行った。ここで、電流双極子を仮定しないとは、体積電流を考慮しないことを示し、電流双極子を仮定するとは、体積電流を考慮することを示す。
【0078】
(条件1)Y方向に走行する十分に細い神経のX方向の5mmの領域が脱分極していることを想定して、神経の軸からX+方向とX-方向とにそれぞれ2.5mmずつ離れた位置に、互いに逆向きで同じ強度(例えば、1Am)の電流双極子(電流源)をそれぞれ設定した。
(条件2)電流源と磁気センサアレイとのZ方向の距離は30mmとした。
(条件3)Sarvas式(無限平面モデル)を用いて電流双極子による磁気と、電流双極子に基づいて発生する体積電流とによる磁気とを発生させ、各磁気センサにより計測される値を計算した。これにより、仮想的に神経軸索活動が発生する磁気データを得ることができる。
(条件4)電流源と同じ平面上に関心領域(ROI:Region of Interest)をボクセル間隔=2.5mmで設定し、(条件3)で得た磁気データに空間フィルター法(UGRENS法)を適用し信号源の推定を行った。
【0079】
図7は、シミュレーションにより発生させた磁気を仮想の磁気センサアレイで計測して得られる磁気分布の例を示す説明図である。
図7のX=0、Y=0は、
図5において2つ電流双極子Qが設定される位置での神経軸索の中心を示している。
【0080】
分布中に示す矢印は、XY方向の磁気の向きを示している。色が比較的薄い領域は、磁気のZ方向への吹き出しを示し、色が比較的濃い領域は、磁気のZ方向からの吸い込みを示している。
【0081】
図8は、信号源を再構成するシミュレーションにおいて、電流四極子を仮定してLeadfield行列を生成した場合に得られる等電流分布の例を示す説明図である。電流分布において、等電流を示す線の間隔が小さいほど、電流の変化が大きいことを示し、等電流を示す多重の円のうち、内側の円ほど電流強度が高いことを示している。
【0082】
電流四極子を仮定してLeadfield行列を生成した場合の等電流分布では、神経活動のうち、体積電流が神経軸索に流れ込む、着目したい主要部の電流の電流強度をはっきりと認識することができる。したがって、時間とともに変化する電流強度と、時間とともに変化する電流強度が強い位置とを観察することで、従来に比べて神経機能を簡易に評価できることが分かる。
【0083】
図9は、電流四極子を仮定して生成したLeadfield行列を使用して、実際に計測した磁気データから電流を再構成した場合の電流強度分布の変化の例を示す説明図である。
図9は、表示装置90の形態画像用の表示ウィンドウに表示される計測時刻毎に変化する電流強度分布の画像を切り出して並べている。実際の形態画像用の表示ウィンドウに表示される電流強度分布の画像は、計測時刻をマウス等で変更することで、表示が切り替えられる。
【0084】
例えば、
図9では、被検体の足首で腓腹神経を電気刺激し、電気刺激により誘発された神経磁気を下腿部で計測し、得られた磁気データを使用して
図1の信号源再構成実行部63により電流成分を再構成した。
【0085】
関心領域ROIは、神経が存在していると想定される曲面を設定した。なお、
図9の形態画像内に表示されている5つの白い円と、円につながる白い線は、体表面の電位を計測するために体表面に貼付された皿電極と信号線である。
【0086】
図9では、1つの強い電流強度が時間とともに神経軸索を移動することを認識できる。したがって、着目したい神経活動がどこにあり、どのように伝播しているのかを画面から直感的に認識することができ、習熟していなくても神経機能を簡易に評価することができる。
【0087】
図10は、信号源を再構成するシミュレーションにおいて、電流四極子を仮定せずにLeadfield行列を生成した場合に得られる等電流分布の例を示す説明図である。
図8と同様に、電流分布において、等電流を示す線の間隔が小さいほど、電流の変化が大きいことを示し、等電流を示す多重の円のうち、内側の円ほど電流強度が高いことを示している。
【0088】
電流四極子を仮定せずにLeadfield行列を生成した場合の等電流分布では、神経軸索のY+方向とY-方向とにそれぞれ流れる電流と、X+方向とX-方向とから神経軸索に流れ込む体積電流とが発生していることを認識できる。しかしながら、着目したい主要部の電流(体積電流が神経軸索に流れ込む電流)の電流強度は、はっきりとは認識することができない。
【0089】
したがって、神経機能の評価者は、画面に表示される電流強度分布から神経軸索内を伝播する電流の強度及び時間変化を推定することで、神経機能を評価しなくてはならない。この結果、神経機能を直感的に評価できず、神経機能を評価するためには習熟を要する。
【0090】
図11は、電流四極子を仮定せずに生成したLeadfield行列を使用して、実際に計測した磁気データから電流を再構成した場合の電流強度分布の変化の例を示す説明図である。
図11においても、
図9と同様に、表示装置90の形態画像用の表示ウィンドウに表示される計測時刻毎に変化する電流強度分布の画像を切り出して並べている。
【0091】
図11では、
図10と同様に、神経軸索のY+方向とY-方向とにそれぞれ流れる電流と、X+方向とX-方向とから神経軸索に流れ込む体積電流とを示す電流強度分布の時間変化を認識することができる。しかしながら、着目したい神経活動がどこにあるのかを直感的に判別することが困難であり、神経機能を評価するためには習熟を要する。
【0092】
図12は、
図1のデータ処理装置30のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。データ処理装置30は、CPU301とROM(Read Only Memory)302とRAM(Random Access Memory)303と外部記憶装置304とを有する。また、データ処理装置30は、入力インタフェース部305と出力インタフェース部306と入出力インタフェース部307と通信インタフェース部308とを有する。例えば、CPU301とROM302とRAM303と外部記憶装置304と入力インタフェース部305と出力インタフェース部306と入出力インタフェース部307と通信インタフェース部308とは、バスBUSを介して相互に接続される。
【0093】
CPU301は、OS及びアプリケーション等の各種プログラムを実行し、データ処理装置30の全体の動作を制御する。ROM302は、各種プログラムをCPU301により実行可能にするための基本プログラムや各種パラメータ等を保持する。RAM303は、CPU301により実行される各種プログラムや、プログラムで使用するデータを記憶する。各種プログラムは、2つの電流双極子を設定する設定処理と、Leadfield行列を生成する生成処理と、Leadfield行列を用いて生体電気活動を再構成する推定処理とを含む推定プログラムと、
図3に示した形態画像を表示する形態画像表示プログラムとを含む。
【0094】
外部記憶装置304は、HDD(Hard Disk Drive)又はSSD(Solid State Drive)等であり、RAM303に展開する各種プログラムを記憶する。各種プログラムには、上述した推定プログラムと形態画像表示プログラムとが含まれてもよい。
【0095】
入力インタフェース部305には、データ処理装置30を操作する操作者等からの入力を受け付けるキーボード、マウスやタブレット等の入力装置80が接続される。出力インタフェース部306には、CPU301が実行する各種プログラムにより生成される表示画面等を表示する表示装置(例えば、
図1の表示装置90)やプリンタ等の出力装置92が接続される。
【0096】
入出力インタフェース部307には、USB(Universal Serial Bus)メモリ等の記録媒体400が接続される。例えば、記録媒体400には、上述した形態画像表示プログラム及び電流波形表示プログラム等の各種プログラムが格納されてもよい。この場合、プログラムは、入出力インタフェース部307を介して記録媒体400からRAM303に転送される。なお、記録媒体400は、CD-ROMやDVD(Digital Versatile Disc:登録商標)等でもよく、この場合、入出力インタフェース部307は、接続する記録媒体400に対応するインタフェースを有する。通信インタフェース部308は、データ処理装置30をネットワーク等に接続する。
【0097】
以上、この実施形態では、形態画像において生体軸索上に2つの電流双極子を電流源として設定してLeadfield行列を生成し、電流成分を再構成することで、神経軸索に流れ込む体積電流(内向き電流)を形態画像に重畳して表示することができる。これにより、評価者は、時間とともに神経軸索を移動する生体電流と、生体電流の強度の変化とを認識することができる。
【0098】
例えば、
図9に示すように、Leadfield行列を用いて再構成した電流強度分布を示す画像は、形態画像に重畳されて表示装置90の表示部に表示される。また、時間の経過とともに変化する生体電流の強度分布の時間毎の画像は、形態画像に重畳して表示部に表示可能である。
【0099】
これにより、評価者は、着目したい神経活動がどこにあり、どのように伝播しているのかを画面から直感的に認識することができ、習熟していなくても神経機能を簡易に評価することができる。すなわち、神経電気活動のモデルを想定してLeadfield行列を作成することで、神経機能を簡易に評価可能にすることができる。
【0100】
また、電流双極子設定部61は、神経経路が写るX線画像、MR画像等の形態画像上で指定された点に基づいて、点を挟んで神経経路上で対向する2つの電流双極子、又は、点を挟んで神経経路の垂直方向で対向する2つの電流双極子を設定する。これにより、形態画像を使用せずに点を設定する場合に比べて、神経軸索に流れ込む体積電流の電流強度の再構成の精度を高くすることができる。
【0101】
本発明の態様は、例えば、以下の通りである。
<1>
生体電気活動により発生する生体磁気に基づいて生体内の生体電気活動を再構成する再構成方法であって、
生体組織において生体電気活動が伝播する伝播方向上の点を挟んで、前記伝播方向上で対向する2つの電流双極子又は前記伝播方向の垂直方向で対向する少なくとも2つの電流双極子を電流源として設定し、
設定した2つの電流双極子が発生する電流の広がりを電流保存則に基づいて計算することでLeadfield行列を生成し、
生成したLeadfield行列を用いて生体電気活動を再構成することを特徴とする再構成方法。
<2>
計測部により計測された生体磁気に対応する電流分布を、前記生成したLeadfield行列を用いて生体電気活動に再構成することを特徴とする<1>に記載の再構成方法。
<3>
前記2つの電流双極子が発生する電流が無限平面を流れるとして前記電流の広がりを計算することで、Leadfield行列を生成することを特徴とする<1>又は<2>に記載の再構成方法。
<4>
前記2つの電流双極子の間隔は、前記生体組織の前記伝播方向に対して垂直方向の幅に設定されることを特徴とする<1>ないし<3>のいずれか1項に記載の再構成方法。
<5>
前記伝播方向を、生体の形態情報に基づいて決定することを特徴とする<1>ないし<4>のいずれか1項に記載の再構成方法。
<6>
前記生体の形態情報は、超音波画像、単純X線画像又はMR画像であることを特徴とする<4>又は<5>に記載の再構成方法。
<7>
前記生成したLeadfield行列を用いて再構成した前記生体電気活動を示す画像を、前記超音波画像、前記単純X線画像又は前記MR画像に重畳して表示部に表示することを特徴とする<6>に記載の再構成方法。
<8>
時間の経過とともに変化する前記生体電気活動の時間毎の画像を前記表示部に表示することを特徴とする<7>に記載の再構成方法。
<9>
前記生成したLeadfield行列を用いて空間フィルター法を用いて生体電気活動を再構成することを特徴とする<1>ないし<8>のいずれか1項に記載の再構成方法。
<10>
生体電気活動により発生する生体磁気に基づいて生体内の生体電気活動を再構成する再構成プログラムであって、
生体組織において生体電気活動が伝播する伝播方向上の点を挟んで、前記伝播方向上で対向する2つの電流双極子又は前記伝播方向の垂直方向で対向する少なくとも2つの電流双極子を電流源として設定する設定処理と、
設定した2つの電流双極子が発生する電流の広がりを電流保存則に基づいて計算することでLeadfield行列を生成する生成処理と、
生成したLeadfield行列を用いて生体電気活動を再構成する再構成処理と、
をコンピュータに実行させることを特徴とする再構成プログラム。
<11>
生体電気活動により発生する生体磁気を計測する計測部と、
生体組織において生体電気活動が伝播する伝播方向上の点を挟んで、前記伝播方向上で対向する2つの電流双極子又は前記伝播方向の垂直方向で対向する少なくとも2つの電流双極子を電流源として設定する設定部と、
設定した2つの電流双極子が発生する電流の広がりを電流保存則に基づいて計算することでLeadfield行列を生成する生成部と、
前記計測部が計測した生体磁気に対応する電流分布を、前記生成部が生成したLeadfield行列を用いて再構成する再構成部と、
前記再構成部により再構成された電流分布に基づいて生体電気活動を再構成する再構成部と、
を有することを特徴とする生体磁気計測装置。
<12>
生体電気活動により発生する生体磁気を計測する計測部と、
生体組織において生体電気活動が伝播する伝播方向上の点を挟んで、前記伝播方向上で対向する2つの電流双極子又は前記伝播方向の垂直方向で対向する、電流源として設定された少なくとも2つの電流双極子が発生する電流の広がりを電流保存則に基づいて計算することで生成されたLeadfield行列が記憶された記憶部と、
前記計測部が計測した生体磁気に対応する電流分布を、前記記憶部に記憶されたLeadfield行列を用いて再構成する再構成部と、
前記再構成部により再構成された電流分布に基づいて生体電気活動を再構成する再構成部と、
を有することを特徴とする生体磁気計測装置。
【0102】
以上、各実施形態に基づき本発明の説明を行ってきたが、上記実施形態に示した要件に本発明が限定されるものではない。これらの点に関しては、本発明の主旨をそこなわない範囲で変更することができ、その応用形態に応じて適切に定めることができる。
【符号の説明】
【0103】
10 磁気センサ部
20 信号取得部
21 FLL回路
22 アナログ信号処理部
23 AD変換部
24 FPGA
30 データ処理装置
40 入力制御部
41 位置入力部
42 波形領域指定部
50 表示制御部
51 画像表示部
60 動作制御部
61 電流双極子設定部
62 Leadfield行列生成部
63 信号源再構成実行部
70 記憶部
71 生体磁気データ
72 形態画像データ
73 解析パラメータ
80 入力装置
90 表示装置
100 生体磁気計測装置
301 CPU
302 ROM
303 RAM
304 外部記憶装置
305 入力インタフェース部
306 出力インタフェース部
307 入出力インタフェース部
308 通信インタフェース部
400 記録媒体
VEc,VEl,VEr 仮想電極
【先行技術文献】
【特許文献】
【0104】
【非特許文献】
【0105】
【非特許文献1】Andrei Irimia et al., Novel functional imaging technique for the brachial plexus based on magnetoneurography", Clinical Neurophysiology, Volume 130, Issue 11, November 2019, Pages 2114-2123