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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024135498
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】レーザー加工装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/082 20140101AFI20240927BHJP
【FI】
B23K26/082
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023046212
(22)【出願日】2023-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000134051
【氏名又は名称】株式会社ディスコ
(74)【代理人】
【識別番号】100075384
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 昂
(74)【代理人】
【識別番号】100172281
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100206553
【弁理士】
【氏名又は名称】笠原 崇廣
(74)【代理人】
【識別番号】100189773
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 英哲
(74)【代理人】
【識別番号】100184055
【弁理士】
【氏名又は名称】岡野 貴之
(74)【代理人】
【識別番号】100185959
【弁理士】
【氏名又は名称】今藤 敏和
(72)【発明者】
【氏名】木村 展之
【テーマコード(参考)】
4E168
【Fターム(参考)】
4E168AD18
4E168CA06
4E168CB04
4E168CB07
4E168CB19
4E168CB22
4E168DA04
4E168DA24
4E168EA05
4E168EA16
4E168HA01
4E168JA12
4E168JA13
4E168JA14
4E168JA15
4E168JA17
(57)【要約】
【課題】レーザービームのポリゴンミラーへの照射位置を監視することが可能なレーザー加工装置を提供する。
【解決手段】被加工物を保持する保持テーブルと、レーザー発振器と、複数の反射面を有し、レーザー発振器から出射したレーザービームを走査するポリゴンミラーと、ポリゴンミラーによって走査されたレーザービームを集光して被加工物に照射する集光器と、複数の反射面のうちレーザービームが照射される被照射面を特定する被照射面特定ユニットと、を備えるレーザー加工装置。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工物を保持する保持テーブルと、
レーザー発振器と、
複数の反射面を有し、該レーザー発振器から出射したレーザービームを走査するポリゴンミラーと、
該ポリゴンミラーによって走査された該レーザービームを集光して該被加工物に照射する集光器と、
複数の該反射面のうち該レーザービームが照射される被照射面を特定する被照射面特定ユニットと、を備えることを特徴とするレーザー加工装置。
【請求項2】
該レーザービームの該被照射面への照射位置を複数の該反射面ごとに調節する位置調節ユニットを更に備えることを特徴とする請求項1に記載のレーザー加工装置。
【請求項3】
該被照射面特定ユニットは、複数の該反射面の中から所定の基準面を検出する基準面検出ユニットを備え、該基準面に基づいて該被照射面を特定することを特徴とする請求項1又は2に記載のレーザー加工装置。
【請求項4】
該基準面検出ユニットは、該反射面に入射する光を照射する光照射ユニットと、該反射面で反射した該光を受光する受光ユニットと、を備え、
該基準面に入射する該光の反射率は、該基準面以外の該反射面に入射する該光の反射率と異なり、
該被照射面特定ユニットは、該受光ユニットの受光量に基づいて該基準面を特定することを特徴とする請求項3に記載のレーザー加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被加工物を加工するレーザー加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
デバイスチップの製造プロセスでは、格子状に配列された複数のストリート(分割予定ライン)によって区画された複数の領域にそれぞれデバイスが形成されたウェーハが用いられる。このウェーハをストリートに沿って分割して個片化することにより、デバイスを備えるデバイスチップが製造される。デバイスチップは、携帯電話、パーソナルコンピュータ等の様々な電子機器に組み込まれる。
【0003】
ウェーハの分割には、環状の切削ブレードで被加工物を切削する切削装置が用いられる。また、近年では、レーザー加工装置を用いたレーザー加工によってウェーハを分割するプロセスの開発も進められている。レーザー加工装置は、被加工物を保持する保持テーブルと、被加工物にレーザービームを照射するレーザー照射ユニットとを備える。レーザー照射ユニットには各種の光学素子(ミラー、レンズ等)によって構成される光学系が内蔵されており、光学系によってレーザービームが被加工物へと導かれる。例えば、被加工物に対して吸収性を有するレーザービームを被加工物に照射することにより、被加工物にアブレーション加工が施され、被加工物が分割される。
【0004】
被加工物にレーザービームを照射すると、レーザービームが照射された領域(被照射領域)で溶融物(デブリ)が発生する。そして、溶融物が被照射領域において再固化することにより(埋め戻り、リキャスト)、効率的なレーザー加工が阻害されることがある。そこで、レーザー照射ユニットの光学系にポリゴンミラーを搭載し、ポリゴンミラーによってレーザービームを高速で多数回走査する手法が提案されている(特許文献1参照)。この手法を用いると、溶融物の再固化を防止しつつ被加工物にレーザー加工を施すことが可能になり、加工効率が向上する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-51536号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
レーザー加工装置が備えるレーザー照射ユニットの光学系に搭載されるポリゴンミラーは、複数の反射面(ミラー面)を有する多角柱状に形成される。そして、高速で回転するポリゴンミラーにレーザービームが照射されると、レーザービームは角度が連続的に変化する反射面で反射して走査される。また、ポリゴンミラーの回転によってレーザービームが複数の反射面に順に入射し、レーザービームの走査が繰り返される。
【0007】
ポリゴンミラーは、理想的には全ての反射面がポリゴンミラーの回転軸と平行になるように、正多角柱状に形成される。しかしながら、実際には、製造プロセス上の誤差等が原因で全ての反射面の角度を完全にポリゴンミラーの回転軸に揃えることは困難であり、ポリゴンミラーの回転軸に対する反射面の角度には僅かなばらつきがある。そのため、レーザービームの反射方向がポリゴンミラーの反射面ごとに変動し、レーザービームが被加工物の意図しない領域に照射されてしまうことがある。
【0008】
ポリゴンミラーの反射面の角度ばらつきに起因するレーザービームの照射位置の変動を抑制する手段としては、レーザービームの反射面への照射位置を反射面ごとに補正する方法が考えられる。しかしながら、レーザー加工装置はレーザー加工中にポリゴンミラーのどの反射面にレーザービームが照射されているかをリアルタイムで監視する処理を行っていないため、レーザービームの照射位置を反射面ごとに調節するような制御を実現することは難しい。
【0009】
本発明は、かかる問題に鑑みてなされたものであり、レーザービームのポリゴンミラーへの照射位置を監視することが可能なレーザー加工装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様によれば、被加工物を保持する保持テーブルと、レーザー発振器と、複数の反射面を有し、該レーザー発振器から出射したレーザービームを走査するポリゴンミラーと、該ポリゴンミラーによって走査された該レーザービームを集光して該被加工物に照射する集光器と、複数の該反射面のうち該レーザービームが照射される被照射面を特定する被照射面特定ユニットと、を備えるレーザー加工装置が提供される。
【0011】
なお、好ましくは、該レーザー加工装置は、該レーザービームの該被照射面への照射位置を複数の該反射面ごとに調節する位置調節ユニットを更に備える。
【0012】
また、好ましくは、該被照射面特定ユニットは、複数の該反射面の中から所定の基準面を検出する基準面検出ユニットを備え、該基準面に基づいて該被照射面を特定する。
【0013】
さらに、好ましくは、該基準面検出ユニットは、該反射面に入射する光を照射する光照射ユニットと、該反射面で反射した該光を受光する受光ユニットと、を備え、該基準面に入射する該光の反射率は、該基準面以外の該反射面に入射する該光の反射率と異なり、該被照射面特定ユニットは、該受光ユニットの受光量に基づいて該基準面を特定する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の一態様に係るレーザー加工装置は、ポリゴンミラーが有する複数の反射面のうちレーザービームが照射される被照射面を特定する被照射面特定ユニットを備える。これにより、レーザー加工装置で被加工物にレーザー加工を施す際に、レーザービームのポリゴンミラーへの照射位置を監視することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】レーザー加工装置を示す斜視図である。
図2】被加工物を示す斜視図である。
図3】レーザー照射ユニットを示す模式図である。
図4】ポリゴンミラーを示す斜視図である。
図5図5(A)はポリゴンミラーの基準面以外の反射面を示す断面図であり、図5(B)はポリゴンミラーの基準面を示す断面図である。
図6図6(A)はポリゴンミラーの基準面以外の反射面に照射される光の反射率を示すグラフであり、図6(B)はポリゴンミラーの基準面に照射される光の反射率を示すグラフである。
図7】レーザービームの照射位置を調節するレーザー加工装置を示す斜視図である。
図8】被加工物の一部を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照して本発明の一態様に係る実施形態を説明する。まず、本実施形態に係るレーザー加工装置の構成例について説明する。図1は、レーザー加工装置2を示す斜視図である。なお、図1において、X軸方向(加工送り方向、第1水平方向、左右方向)とY軸方向(割り出し送り方向、第2水平方向、前後方向)とは、互いに垂直な方向である。また、Z軸方向(上下方向、高さ方向、鉛直方向)は、X軸方向及びY軸方向と垂直な方向である。
【0017】
レーザー加工装置2は、レーザー加工装置2を構成する各構成要素を支持する基台4を備える。基台4の上面は水平面(XY平面)と概ね平行な平坦面であり、基台4の上面上には移動ユニット(移動機構)6が設けられている。移動ユニット6は、Y軸移動ユニット(Y軸移動機構)8と、X軸移動ユニット(X軸移動機構)18とを備える。
【0018】
Y軸移動ユニット8は、基台4の上面上にY軸方向に沿って配置された一対のY軸ガイドレール10を備える。一対のY軸ガイドレール10には、平板状のY軸移動テーブル12がY軸ガイドレール10に沿ってスライド可能に装着されている。
【0019】
Y軸移動テーブル12の裏面(下面)側には、ナット部(不図示)が設けられている。このナット部には、一対のY軸ガイドレール10の間にY軸方向に沿って配置されたY軸ボールねじ14が螺合されている。また、Y軸ボールねじ14の端部にはY軸パルスモータ16が連結されている。Y軸パルスモータ16でY軸ボールねじ14を回転させると、Y軸移動テーブル12がY軸ガイドレール10に沿ってY軸方向に移動する。
【0020】
X軸移動ユニット18は、Y軸移動テーブル12の表面(上面)側にX軸方向に沿って配置された一対のX軸ガイドレール20を備える。一対のX軸ガイドレール20には、平板状のX軸移動テーブル22がX軸ガイドレール20に沿ってスライド可能に装着されている。
【0021】
X軸移動テーブル22の裏面(下面)側には、ナット部(不図示)が設けられている。このナット部には、一対のX軸ガイドレール20の間にX軸方向に沿って配置されたX軸ボールねじ24が螺合されている。また、X軸ボールねじ24の端部にはX軸パルスモータ26が連結されている。X軸パルスモータ26でX軸ボールねじ24を回転させると、X軸移動テーブル22がX軸ガイドレール20に沿ってX軸方向に移動する。
【0022】
移動ユニット6には、保持テーブル(チャックテーブル)28が連結されている。保持テーブル28は、X軸移動テーブル22の表面(上面)上に設置され、レーザー加工装置2によるレーザー加工の対象物である被加工物11を保持する。
【0023】
図2は、被加工物11を示す斜視図である。例えば被加工物11は、単結晶シリコン等の半導体材料でなる円盤状のウェーハであり、互いに概ね平行な表面11a及び裏面11bを備える。被加工物11は、互いに交差するように格子状に配列された複数のストリート(分割予定ライン)13によって、複数の矩形状の領域に区画されている。ストリート13によって区画された複数の領域の表面11a側にはそれぞれ、IC(Integrated Circuit)、LSI(Large Scale Integration)、LED(Light Emitting Diode)、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)デバイス等のデバイス15が形成されている。
【0024】
ただし、被加工物11の種類、材質、形状、構造、大きさ等に制限はない。例えば被加工物11は、シリコン以外の半導体(GaAs、InP、GaN、SiC等)、サファイア、ガラス、セラミックス、樹脂、金属等でなる基板(ウェーハ)であってもよい。また、デバイス15の種類、数、形状、構造、大きさ、配置等にも制限はなく、被加工物11にはデバイス15が形成されていなくてもよい。
【0025】
被加工物11をレーザー加工装置2(図1参照)で加工する際には、被加工物11の取り扱い(搬送、保持等)の便宜のため、被加工物11が環状のフレーム17によって支持される。フレーム17は、SUS(ステンレス鋼)等の金属でなり、フレーム17の中央部にはフレーム17を厚さ方向に貫通する円形の開口17aが設けられている。なお、開口17aの直径は被加工物11の直径よりも大きい。
【0026】
被加工物11及びフレーム17には、円形のシート19が固定される。例えばシート19として、円形に形成されたフィルム状の基材と、基材上に設けられた粘着層(糊層)とを含むテープが用いられる。基材は、ポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタラート等の樹脂でなる。また、粘着層は、エポキシ系、アクリル系、又はゴム系の接着剤等でなる。なお、粘着層は紫外線硬化性樹脂であってもよい。
【0027】
被加工物11をフレーム17の開口17aの内側に配置した状態で、シート19の中央部を被加工物11の裏面11b側に貼付するとともに、シート19の外周部をフレーム17に貼付する。これにより、被加工物11がシート19を介してフレーム17によって支持される。
【0028】
図1に示すように、保持テーブル28の上面は、水平面(XY平面)と概ね平行な平坦面であり、被加工物11を保持する保持面28aを構成している。保持面28aは、保持テーブル28の内部に形成された流路(不図示)、バルブ(不図示)等を介して、エジェクタ等の吸引源(不図示)に接続されている。また、保持テーブル28の周囲には、フレーム17を把持して固定する複数のクランプ30が設けられている。
【0029】
Y軸移動テーブル12をY軸方向に沿って移動させると、保持テーブル28がY軸方向に沿って移動する。また、X軸移動テーブル22をX軸方向に沿って移動させると、保持テーブル28がX軸方向に沿って移動する。さらに、保持テーブル28には、保持テーブル28をZ軸方向と概ね平行な回転軸の周りで回転させるモータ等の回転駆動源(不図示)が連結されている。
【0030】
基台4の後端部(移動ユニット6及び保持テーブル28の後方)には、直方体状の支持構造32が設けられている。支持構造32は、基台4の上面から上方に突出するように形成され、支持構造32の表面(前面)はXZ平面に沿って配置されている。支持構造32には、支持構造32の表面から前方に突出する柱状の支持部材34が接続されている。
【0031】
レーザー加工装置2には、被加工物11にレーザービームを照射するレーザー照射ユニット36が搭載されている。レーザー照射ユニット36は、支持部材34の先端部に装着されたレーザー加工ヘッド38を備える。レーザー加工ヘッド38から保持テーブル28で保持された被加工物11にレーザービームを照射することにより、被加工物11にレーザー加工が施される。
【0032】
支持部材34の先端部には、撮像ユニット(不図示)が設けられていてもよい。撮像ユニットは、CCD(Charged-Coupled Devices)センサ、CMOS(Complementary Metal-Oxide-Semiconductor)センサ等のイメージセンサを備え、保持テーブル28で保持された被加工物11等を撮像する。撮像ユニットの種類に制限はなく、例えば可視光カメラや赤外線カメラが用いられる。撮像ユニットで被加工物11を撮像することによって取得された画像に基づいて、被加工物11とレーザー加工ヘッド38との位置合わせ等が行われる。
【0033】
支持部材34は、支持部材34をZ軸方向に沿って移動させるZ軸移動ユニット(不図示)を介して支持構造32に接続されていてもよい。例えば、支持構造32の前面側にボールねじ式の移動機構がZ軸移動ユニットとして設置される。この場合、Z軸移動ユニットで支持部材34をZ軸方向に沿って移動(昇降)させることにより、レーザー加工ヘッド38から照射されるレーザービームの集光点の高さ位置の調節や、撮像ユニットのピント合わせが行われる。
【0034】
また、レーザー加工装置2は、レーザー加工装置2に関する各種の情報を表示する表示ユニット(表示部、表示装置)40を備える。例えば、表示ユニット40としてタッチパネルが用いられる。この場合、タッチパネルにはレーザー加工装置2に情報を入力するための操作画面が表示され、オペレーターはタッチパネルのタッチ操作によってレーザー加工装置2に情報を入力できる。すなわち、タッチパネルは、レーザー加工装置2に各種の情報を入力するための入力ユニット(入力部、入力装置)としても機能し、ユーザーインターフェースとして用いられる。ただし、入力ユニットは、表示ユニット40とは別途独立して設けられたマウス、キーボード等の入力装置であってもよい。
【0035】
また、レーザー加工装置2は、オペレーターに情報を報知する報知ユニット(報知部、報知装置)42を備える。例えば、報知ユニット42は表示灯(警告灯)であり、表示灯はレーザー加工装置2で異常が発生した際に点灯又は点滅してオペレーターにエラーを通知する。ただし、報知ユニット42の種類に制限はない。例えば報知ユニット42は、音又は音声でオペレーターに情報を通知するスピーカーであってもよい。
【0036】
さらに、レーザー加工装置2は、レーザー加工装置2を制御するコントローラ(制御ユニット、制御部、制御装置)44を備える。コントローラ44は、レーザー加工装置2を構成する各構成要素(移動ユニット6、保持テーブル28、クランプ30、レーザー照射ユニット36、表示ユニット40、報知ユニット42等)に接続されている。コントローラ44は、レーザー加工装置2の各構成要素に制御信号を出力することにより、レーザー加工装置2を稼働させる。
【0037】
例えば、コントローラ44はコンピュータによって構成される。具体的には、コントローラ44は、レーザー加工装置2の稼働に必要な演算等の処理を実行する処理部と、レーザー加工装置2の稼働に用いられる各種の情報(データ、プログラム等)を記憶する記憶部とを備える。処理部は、CPU(Central Processing Unit)等のプロセッサを含んで構成される。また、記憶物は、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等のメモリを含んで構成される。
【0038】
被加工物11を加工する際は、まず、被加工物11が保持テーブル28によって保持される。例えば被加工物11は、表面11a側が上方に露出し、裏面11b側(シート19側)が保持面28aに対面するように、保持テーブル28上に配置される。また、フレーム17が複数のクランプ30によって固定される。この状態で、保持面28aに吸引源の吸引力(負圧)を作用させると、被加工物11がシート19を介して保持テーブル28によって吸引保持される。
【0039】
次に、レーザー加工ヘッド38から被加工物11にレーザービームが照射される。これにより、被加工物11に所定のレーザー加工が施される。レーザービームの照射条件は、被加工物11に施されるレーザー加工の内容に応じて適宜設定される。
【0040】
例えば、レーザービームの照射条件は、被加工物11にアブレーション加工が施されるように設定される。具体的には、レーザービームの波長は、少なくともレーザービームの一部が被加工物11に吸収されるように設定される。すなわち、レーザービームは被加工物11に対して吸収性を有する。また、レーザービームの他の照射条件も、被加工物11に適切なアブレーション加工が施されるように適宜設定される。例えば、被加工物11が単結晶シリコンウェーハである場合には、レーザービームの照射条件は以下のように設定できる。
波長 :355nm
平均出力 :2W
繰り返し周波数:200kHz
加工送り速度 :400mm/s
【0041】
そして、被加工物11のストリート13(図2参照)に沿ってレーザービームを照射してアブレーション加工を施すことにより、被加工物11をストリート13に沿って分割できる。具体的には、まず、保持テーブル28を回転させ、所定のストリート13の長さ方向をX軸方向に合わせる。また、レーザービームの集光位置と所定のストリート13とのY軸方向における位置が一致するように、保持テーブル28のY軸方向における位置を調整する。
【0042】
そして、レーザー加工ヘッド38からレーザービームを照射しつつ、保持テーブル28をX軸方向に沿って移動させる(加工送り)。これにより、保持テーブル28とレーザー加工ヘッド38とがX軸方向に沿って相対的に移動し、レーザービームがストリート13に沿って照射される。その後、同様の手順を繰り返すことにより、全てのストリート13に沿ってレーザービームが照射される。
【0043】
上記のように被加工物11にレーザービームを照射すると、被加工物11のストリート13に沿ってアブレーション加工が施され、被加工物11の表面11aから裏面11bに至るレーザー加工溝がストリート13に沿って形成される。これにより、被加工物11がデバイス15(図2参照)をそれぞれ備える複数のデバイスチップに分割される。なお、1回のレーザービームの照射によって被加工物11を分割することが困難な場合には、各ストリート13に沿ってレーザービームを複数回ずつ照射してもよい。
【0044】
次に、レーザー照射ユニット36の詳細について説明する。図3は、レーザー照射ユニット36を示す模式図である。レーザー照射ユニット36は、被加工物11にレーザービーム50を照射することにより、被加工物11にアブレーション加工等のレーザー加工を施す。
【0045】
レーザー照射ユニット36は、YAGレーザー、YVOレーザー、YLFレーザー等のレーザー発振器52と、レーザー発振器52から出射したパルス発振のレーザービーム50の出力を調整するアッテネーター等の出力調整ユニット54とを備える。また、レーザー照射ユニット36は、レーザービーム50を保持テーブル28で保持された被加工物11へと導く光学系56を備える。光学系56は、複数の光学素子を含んで構成され、レーザービーム50の進行方向、形状、集光位置等を制御する。
【0046】
具体的には、光学系56は、レーザービーム50の照射位置(進行方向)を調節する位置調節ユニット58を備える。位置調節ユニット58は、レーザー発振器52から出射して出力調整ユニット54によって出力が調整されたレーザービーム50の進行方向を変更し、後述のポリゴンミラー64への照射位置を調節する。例えば位置調節ユニット58は、音響光学偏向器(AOD:Acousto-Optic Deflector)、電気光学偏向器(EOD:Electro-Optic Deflector)、ガルバノスキャナ、光MEMS等によって構成される。ただし、レーザービーム50の進行方向を調節可能であれば、位置調節ユニット58の構成に制限はない。
【0047】
また、光学系56は、レーザービーム50を反射させるミラー60,62及びポリゴンミラー64を備える。ミラー60,62としては、例えば誘電体多層膜ミラーが用いられる。位置調節ユニット58から出射したレーザービーム50は、ミラー60,62の反射面で反射して、ポリゴンミラー64に入射する。
【0048】
ポリゴンミラー64は、多角柱状に形成され、ポリゴンミラー64の側面(外周面)はレーザービーム50を反射させる複数の平坦な反射面(ミラー面)66を構成している。反射面66はそれぞれ、隣接する一対の反射面66に接続されており、反射面66同士の接続部分がポリゴンミラー64の頂点を構成している。
【0049】
ポリゴンミラー64には、ポリゴンミラー64を回転させるモータ等の回転駆動源68が連結されている。ポリゴンミラー64の回転軸64a(図4参照)は、ポリゴンミラー64の高さ方向(厚さ方向、Y軸方向)と平行な方向に沿って設定されている。回転駆動源68を駆動させると、ポリゴンミラー64が回転軸64aを中心として回転する。
【0050】
図4は、ポリゴンミラー64を示す斜視図である。例えばポリゴンミラー64は、八角柱状に形成され、8面の反射面66(反射面66a~66h)を備える。ただし、ポリゴンミラー64の形状及び反射面66の面数は、レーザー加工の内容に応じて適宜選択できる。
【0051】
反射面66a~66hのいずれか1面は、レーザービーム50が照射される被照射面66Aに相当する。そして、ポリゴンミラー64の回転によって反射面66a~66hが順に被照射面66Aとなる。また、複数の反射面66の少なくとも1面は、後述の基準面検出ユニット90(図3参照)によって検出される基準面66Bに設定されている。図4では一例として、反射面66aが基準面66Bに設定されている場合を示している。なお、基準面66Bの詳細については後述する。
【0052】
ポリゴンミラー64を回転軸64aの周りで回転させた状態で、レーザービーム50がポリゴンミラー64に照射されると、レーザービーム50が被照射面66Aで反射する。また、ポリゴンミラー64の回転によって被照射面66Aの角度が変化する。これにより、レーザービーム50の反射光の進行方向が連続的に変化し、レーザービーム50が所定の走査領域(分散領域)で走査(分散)される。そして、ポリゴンミラー64が高速で多数回回転すると、被照射面66Aが反射面66a~66hの順で順次切り替わる。これにより、レーザービーム50が走査領域において高速で多数回走査される。
【0053】
また、図3に示すように、光学系56は、レーザービーム50を集光する集光器70を備える。集光器70は、ポリゴンミラー64によって走査されたレーザービーム50を集光して被加工物11に照射するfθレンズ等の集光レンズ72を備える。ポリゴンミラー64の被照射面66Aで反射したレーザービーム50は、集光器70に入射し、集光レンズ72によって所定の位置(被加工物11の表面11a、被加工物11の裏面11b、被加工物11の内部等)で集光される。
【0054】
位置調節ユニット58でレーザービーム50の進行方向を変更することにより、レーザービーム50の被照射面66Aへの照射位置が調節される。これにより、レーザービーム50を被照射面66Aの任意の位置に照射することができる。また、位置調節ユニット58によってレーザービーム50の進行方向をミラー60から逸らすことにより、レーザービーム50の被照射面66Aへの照射が停止される。すなわち、位置調節ユニット58は、レーザービーム50の被照射面66Aへの照射の有無(レーザービーム50のオン・オフ)の切り替えも行うことができる。
【0055】
なお、光学系56は、位置調節ユニット58から出射したレーザービーム50を遮断するビームダンパー74を備えることが好ましい。レーザービーム50の被照射面66Aへの照射を停止する際には、位置調節ユニット58はレーザービーム50がビームダンパー74に入射するようにレーザービーム50の進行方向を調節する。これにより、レーザービーム50の被照射面66Aへの照射が安全に停止される。
【0056】
上記のような各種の光学素子によって、レーザービーム50を被加工物11へ導く光学系56が構成される。ただし、光学系56を構成する光学素子に制限はない。例えば光学系56は、他のミラー及びレンズ、偏光ビームスプリッタ(PBS:Polarizing Beam Splitter)、回折光学素子(DOE:Diffractive Optical Element)、LCOS-SLM(Liquid Crystal On Silicon - Spatial Light Modulator)等の光学素子をさらに備えていてもよい。
【0057】
また、レーザー加工装置2は、ポリゴンミラー64が備える複数の反射面66のうちレーザービーム50が照射される被照射面66Aを特定する被照射面特定ユニット80を備える。被照射面特定ユニット80によって、ポリゴンミラー64のどの反射面66にレーザービーム50が照射されているかがリアルタイムで監視される。
【0058】
例えば被照射面特定ユニット80は、コントローラ44と、レーザー照射ユニット36に搭載された基準面検出ユニット90とによって構成される。基準面検出ユニット90は、ポリゴンミラー64が備える複数の反射面66の中から、予め設定された所定の基準面66Bを検出する。そして、コントローラ44は、基準面検出ユニット90によって検出された基準面66Bに基づいて、レーザービーム50が照射される被照射面66Aを特定する。
【0059】
具体的には、基準面検出ユニット90は、光(検出光)92aを照射する光照射ユニット(光照射部、投光部)92と、光92aを受光する受光ユニット(受光部)94とを備える。光照射ユニット92から照射された光92aがポリゴンミラー64の反射面66に入射し、反射面66で反射した光92aの反射光が受光ユニット94に入射する。そして、光92aの反射光が受光ユニット94で受光され、反射光の強度が検出される。
【0060】
基準面検出ユニット90の構成は、光照射ユニット92から照射された光92aが反射面66で反射して受光ユニット94に受光されるように適宜設定される。例えば基準面検出ユニット90は、偏光ビームスプリッタ96及びレンズ98を備える。
【0061】
偏光ビームスプリッタ96は、光照射ユニット92から照射された光92aをポリゴンミラー64の反射面66に向かって反射させる。また、レンズ98は、偏光ビームスプリッタ96で反射した光92aを絞ってポリゴンミラー64の反射面66に向かって進行させる。レンズ98としては、例えばコリメータレンズが用いられる。そして、ポリゴンミラー64の反射面66で反射した光92aの反射光は、レンズ98及び偏光ビームスプリッタ96を通過して受光ユニット94に入射する。これにより、光92aの反射光が受光ユニット94で受光される。
【0062】
ポリゴンミラー64の反射面66のうち少なくとも1面は、基準面検出ユニット90による検出の対象となる基準面66Bに設定されている。また、基準面66Bは、基準面66Bに入射する光92aの反射率が基準面66B以外の反射面66に入射する光92aの反射率と異なるように構成されている。例えば、基準面66Bに入射する光92aの反射率が基準面66B以外の反射面66に入射する光92aの反射率よりも高くなるように、複数の反射面66それぞれの構造が決定される。
【0063】
図5(A)は、ポリゴンミラー64の基準面66B以外の反射面66を示す断面図である。例えば反射面66は、ポリゴンミラー64の基材100の表面100a上に設けられた反射層(レーザー用反射層)110によって構成される。
【0064】
反射層110は、薄膜の積層体によって構成され、レーザービーム50(図3及び図4参照)に対して反射性を有する。例えば、レーザービーム50の波長が355nmである場合には、波長が355nmの光の反射面66における反射率が高くなるように反射層110の積層構造が設定される。
【0065】
具体的には、ポリゴンミラー64の基材100は、石英等の硬質材料でなり、平坦な表面100aを備える。そして、基材100の表面100a上に、酸化ハフニウム膜(HfO膜)112と酸化シリコン膜(SiO膜)114との積層体でなる反射層110が形成される。
【0066】
反射層110は、厚さ44nmの10層の酸化ハフニウム膜112と、厚さ61nmの9層の酸化シリコン膜114とを含む。そして、最下層及び最上層が酸化ハフニウム膜112となるように、計19層の酸化ハフニウム膜112と酸化シリコン膜114とが交互に積層される。すなわち、反射層110は、複数の酸化シリコン膜114がそれぞれ一対の酸化ハフニウム膜112によって上下から挟まれた構造を有する。
【0067】
図5(B)は、ポリゴンミラー64の基準面66Bを示す断面図である。例えば基準面66Bは、ポリゴンミラー64の基材100の表面100a上に反射層(検出用反射層)120と反射層(レーザー用反射層)110とを順に積層することによって構成される。
【0068】
反射層120は、反射層110と同様に薄膜の積層体によって構成され、光照射ユニット92から照射される光92a(図3参照)に対して反射性を有する。例えば、光92aの波長が650nmである場合には、波長が650nmの光の基準面66Bにおける反射率が高くなるように、反射層120の積層構造が設定される。
【0069】
具体的には、基材100の表面100a上に、酸化ハフニウム膜(HfO膜)122と酸化シリコン膜(SiO膜)124との積層体でなる反射層120が形成される。反射層120は、厚さ111nmの4層の酸化ハフニウム膜122と、厚さ81nmの4層の酸化シリコン膜124とを含む。そして、最下層が酸化ハフニウム膜122、最上層が酸化シリコン膜124となるように、計8層の酸化ハフニウム膜122と酸化シリコン膜124とが交互に積層される。
【0070】
反射層120の最上層の酸化シリコン膜124上には、反射層110が積層される。反射層110は前述の通り構成され、レーザービーム50(図3及び図4参照)に対して反射性を有する。例えば、レーザービーム50の波長が355nmである場合には、10層の酸化ハフニウム膜112と9層の酸化シリコン膜114とが交互に積層された積層体によって反射層110が構成される。
【0071】
図6(A)は、ポリゴンミラー64の基準面66B以外の反射面66に照射される光の反射率を示すグラフである。基準面66B以外の反射面66は、波長355nmの光に対して高い反射率(99.5%)を示す。そのため、波長355nmのレーザービーム50(図3及び図4参照)が基準面66B以外の反射面66に入射すると、レーザービーム50は高い反射率で反射する。これにより、レーザービーム50の反射面66における吸収や透過が抑制され、レーザービーム50が被加工物11に効率よく照射される。
【0072】
図6(B)は、ポリゴンミラー64の基準面66Bに照射される光の反射率を示すグラフである。基準面66Bは、基準面66B以外の反射面66と同様、波長355nmの光に対して高い反射率(99.9%)を示す。そのため、基準面66Bに波長355nmのレーザービーム50が照射された場合にも、レーザービーム50が高い反射率で反射し、レーザービーム50の基準面66Bにおける吸収や透過が抑制される。
【0073】
さらに、基準面66Bは、波長650nmの光に対しても高い反射率(75.6%)を示す。すなわち、波長650nmの光について、基準面66Bにおける反射率は基準面66B以外の反射面66の反射率(14.8%)よりも高い。そのため、光照射ユニット92から照射される波長650nmの光92a(図3参照)が基準面66Bに入射すると、光92aが高い反射率で反射する。これにより、受光ユニット94によって受光される光の光量が増加する。
【0074】
上記のように、光照射ユニット92から照射される光92aの反射率は、基準面66Bとその他の反射面66とで異なる。そのため、光92aが照射された反射面66が基準面66Bであるか否かによって受光ユニット94が受光する反射光の光量が異なり、受光ユニット94の受光量に基づいて反射面66を区別できる。
【0075】
なお、光92aが照射された反射面66を受光ユニット94の受光量に基づいて明確に区別するため、基準面66Bで反射する光92aの反射率と他の反射面66で反射する光92aの反射率との一方は、他方の2倍以上であることが好ましく、3倍以上であることがより好ましい。そして、受光ユニット94は、受光ユニット94の受光量を示す信号(受光量信号)をコントローラ44に出力する。
【0076】
図3に示すレーザー照射ユニット36の各構成要素(レーザー発振器52、出力調整ユニット54、位置調節ユニット58、ポリゴンミラー64の回転駆動源68、光照射ユニット92、受光ユニット94等)は、コントローラ44に接続されている。コントローラ44は、制御信号を出力することによって各構成要素の動作を制御する。
【0077】
被加工物11にレーザービーム50を照射すると、レーザービーム50が照射された領域(被照射領域)で溶融物(デブリ)が発生する。そして、溶融物が被照射領域において再固化すると(埋め戻り、リキャスト)、効率的なレーザー加工が阻害される。しかしながら、高速で回転するポリゴンミラー64にレーザービーム50を照射してレーザービーム50を高速で多数回走査することにより、溶融物の再固化を防止しつつ被加工物11にレーザー加工を施すことが可能になる。
【0078】
なお、理想的には、ポリゴンミラー64は全ての反射面66がポリゴンミラー64の回転軸64a(図4参照)と平行になるように正多角柱状に形成される。しかしながら、実際には、製造プロセス上の誤差等が原因で全ての反射面66の角度を回転軸64aに揃えることが困難であり、ポリゴンミラー64の回転軸64aに対する反射面66の角度には僅かなばらつきがある。
【0079】
例えば図4には、反射面66fがポリゴンミラー64の回転軸64aに対して僅かに傾斜しており、回転軸64aと非平行である場合を図示している。この場合、反射面66fが被照射面66Aとなったタイミングで、レーザービーム50が傾斜している反射面66fで反射する。これにより、レーザービーム50の集光位置が変動し、レーザービーム50が被加工物11の意図しない領域に照射されてしまうおそれがある。
【0080】
そこで、本実施形態においては、ポリゴンミラー64が備える複数の反射面66のうちレーザービーム50が照射される被照射面66Aを被照射面特定ユニット80(図3参照)によって特定する。これにより、レーザー加工中にポリゴンミラー64のどの反射面66にレーザービーム50が照射されるかがリアルタイムで監視され、レーザービーム50の被照射面66Aへの照射位置を反射面66ごとに調節する処理が可能になる。その結果、反射面66の角度ばらつきに起因するレーザービーム50の集光位置の変動が抑制され、レーザービーム50が被加工物11の意図しない領域に照射されることを防止できる。
【0081】
以下、レーザービーム50の照射位置をポリゴンミラー64の反射面66ごとに調節するレーザー加工装置2の動作(レーザービームの照射位置調節方法、被加工物の加工方法)について説明する。図7は、レーザービーム50の照射位置を調節するレーザー加工装置2を示す斜視図である。なお、図7には、コントローラ44の機能的な構成を示すブロックも図示している。また、図7では、レーザー加工装置2の一部の構成要素の図示を省略している。
【0082】
コントローラ44は、ポリゴンミラー64の被照射面66Aを特定する特定部44aと、位置調節ユニット58を制御してレーザービーム50の照射位置を調節する調節部44bとを含む。また、コントローラ44は、特定部44a及び調節部44bにおける処理に用いられる各種の情報(データ、プログラム等)を記憶可能な記憶部(メモリ)44cを含む。
【0083】
レーザー加工装置2で被加工物11を加工する際には、レーザービーム50の照射位置の調節に必要な情報が予めコントローラ44の記憶部44cに記憶される。具体的には、記憶部44cには、ポリゴンミラー64の被照射面66Aの基準面66Bに対する位置関係を示す情報(被照射面情報)と、レーザービーム50の照射位置の反射面66ごとの補正量を示す情報(補正情報)とが記憶される。
【0084】
被照射面情報は、基準面66Bが基準面検出ユニット90によって検出された際に被照射面66Aとなる反射面66を示す。例えば、図7に示すように光学系56が構成される場合、被照射面情報は、基準面66Bよりも3面分ポリゴンミラー64の回転方向前方に位置する反射面66が被照射面66Aであることを示す。より具体的には、反射面66aが基準面66Bに設定されている場合には、被照射面情報は、反射面66fが被照射面66Aであることを示す。
【0085】
補正情報は、レーザービーム50を所望の位置で走査させるために必要なレーザービーム50の照射位置の補正量を、複数の反射面66ごとに示す。例えば補正情報は、ポリゴンミラー64を用いて所定のサンプルを試験的に加工し、その加工結果に基づいてレーザービーム50の照射位置の補正量を設定することによって取得される。
【0086】
具体的には、まず、レーザービーム50をポリゴンミラー64で走査しつつ所定のサンプルに照射し、サンプルを試験的に加工する。そして、本来加工されるべき領域と実際に加工された領域との位置の差が、レーザービーム50が反射面66a~66h(図4参照)に照射された場合ごとに記録される。
【0087】
例えば図4に示すように、反射面66a~66e,66g,66hがポリゴンミラー64の回転軸64aに平行であり、反射面66fが製造プロセス上の誤差等に起因して回転軸64aに対し僅かに傾斜している場合を想定する。この場合、レーザービーム50が反射面66a~66e,66g,66hに照射されている間は、レーザービーム50がサンプルの本来加工されるべき直線状の経路に沿って正常に走査される。しかしながら、レーザービーム50が反射面66fに照射されると、反射面66fの傾斜が原因でレーザービーム50の反射方向が変動し、レーザービーム50がサンプルの本来加工されるべき領域から離れた位置に照射される。
【0088】
図7には、レーザービーム50が本来照射されるべき経路Aと、反射面66の傾斜によって反射方向が変動したレーザービーム50が照射される経路A´とを示している。レーザービーム50が反射面66fに照射されている間は、レーザービーム50が経路A´に沿って照射される。そして、経路Aと経路A´との位置の差(誤差)が記録される。
【0089】
次に、レーザービーム50が照射される位置が本来加工されるべき位置と一致するように、レーザービーム50の被照射面66Aへの照射位置の補正量が反射面66a~66hごとに決定される。このようにして設定された反射面66a~66hごとの補正量が、補正情報として記憶部44cに記憶される。
【0090】
例えば、レーザービーム50が反射面66a~66e,66g,66h(図4参照)に照射される際には、レーザービーム50が照射されるべき位置と実際に照射される位置とが一致する。そのため、レーザービーム50の照射位置の補正は不要となる(補正量=0)。
【0091】
一方、レーザービーム50が反射面66fに照射される際は、レーザービーム50が実際に照射される位置(図7の経路A´)を本来照射されるべき位置(図7の経路A)に一致させるように、レーザービーム50の反射面66fへの照射位置を調節する必要がある。このときのレーザービーム50の反射面66fへの照射位置の変動量が、補正量に相当する。このようにして決定されたレーザービーム50の照射位置の反射面66a~66hごとの補正量が、補正情報として記憶部44cに記憶される。
【0092】
次に、レーザー加工装置2による被加工物11のレーザー加工が実施される。具体的には、まず、コントローラ44から回転駆動源68(図3参照)に制御信号が入力され、ポリゴンミラー64が高速で回転する。ポリゴンミラー64の回転速度に制限はなく、例えば500回転/秒程度に設定される。また、位置調節ユニット58から出射したレーザービーム50が、ミラー60,62で反射してポリゴンミラー64の被照射面66Aに照射される。これにより、レーザービーム50がポリゴンミラー64によって走査される。
【0093】
さらに、基準面検出ユニット90が作動し、ポリゴンミラー64の基準面66Bが検出される。具体的には、光照射ユニット92から照射された光92aが、偏光ビームスプリッタ96及びレンズ98を介してポリゴンミラー64の反射面66に入射し、反射面66で反射する。そして、反射面66に入射する光92aの進行方向と反射面66とが概ね垂直になったタイミングで、光92aの反射光がレンズ98及び偏光ビームスプリッタ96を介して受光ユニット94に到達し、受光ユニット94で受光される。受光ユニット94は、受光した光の光量に対応する電気信号を生成し、コントローラ44の特定部44aに出力する。
【0094】
ここで、前述の通り、光照射ユニット92から照射された光92aが入射している反射面66が基準面66Bであるか否かによって、光92aの反射率が異なり、受光ユニット94の受光量も異なる。そこで、特定部44aは、受光ユニット94から入力された信号(受光量)に基づいて、基準面検出ユニット90によって検出された反射面66が基準面66Bであるか否かを判定する。例えば特定部44aは、受光ユニット94の受光量と、予め記憶部44cに記憶されている所定の基準値とを比較することにより、光92aが入射している反射面66が基準面66Bであるか否かを判定する。
【0095】
基準面検出ユニット90によって検出された反射面66が基準面66Bであると判定されると、特定部44aは記憶部44cに記憶されている被照射面情報を参照し、複数の反射面66のうちレーザービーム50が照射されている被照射面66Aを特定する。そして、特定部44aは、被照射面66Aを示す信号(被照射面信号)を調節部44bに出力する。具体的には、基準面検出ユニット90によって反射面66aが検出されると、特定部44aは被照射面情報を参照して反射面66fが被照射面66Aであると特定し、反射面66fが被照射面66Aである旨を示す被照射面信号を調節部44bに出力する。
【0096】
その後、特定部44aから調節部44bには被照射面信号が逐次的に入力される。例えば特定部44aは、基準面検出ユニット90が基準面66Bを検出してからのポリゴンミラー64の回転角度や経過時間に基づいて、反射面66a~66hのうち被照射面66Aとなっている反射面を示す被照射面信号を、リアルタイムで調節部44bへ連続的に出力する。具体的には、ポリゴンミラー64が45°回転するごとに、特定部44aから調節部44bへ入力される被照射面信号が切り替わる。
【0097】
調節部44bは、記憶部44cに記憶されている補正情報を参照し、被照射面信号が示す反射面66へのレーザービーム50の照射位置の補正量を示す信号(補正信号)を位置調節ユニット58へ逐次的に出力する。例えば、特定部44aから調節部44bに反射面66fが被照射面66Aである旨を示す被照射面信号が入力されると、調節部44bは補正情報を参照し、レーザービーム50の反射面66fへの照射位置の補正量を位置調節ユニット58へ出力する。
【0098】
そして、レーザービーム50が実際に反射面66に照射されるタイミングで、位置調節ユニット58がレーザービーム50の反射面66への照射位置を補正する。これにより、レーザービーム50の被照射面66Aへの照射位置が、複数の反射面66ごとに調節される。その結果、レーザービーム50の走査中においてレーザービーム50の集光位置が補正され、レーザービーム50が本来照射されるべき経路Aに沿って走査される。図7では、照射位置が補正される前のレーザービーム50の経路を破線で示し、照射位置が補正された後のレーザービーム50の経路を実線で示している。
【0099】
上記のように照射位置が調節されたレーザービーム50によって、被加工物11が加工される。例えば、前述の通り被加工物11のストリート13(図2参照)に沿ってレーザービーム50を照射することにより、被加工物11にアブレーション加工が施され、被加工物11がストリート13に沿って分割される。このときレーザービーム50は、回転するポリゴンミラー64の反射面66に照射され、ストリート13に沿って走査される。
【0100】
図8は、被加工物11の一部を示す平面図である。レーザー加工を被加工物11のストリート13に沿って施す場合には、例えばストリート13の幅方向の中央に経路Aが設定される。そして、レーザービーム50の集光位置Pが経路Aに重なるように、レーザービーム50の走査位置が設定される。
【0101】
ただし、ポリゴンミラー64の反射面66に角度ばらつきがあると、レーザービーム50の集光位置Pが経路Aからずれた経路A´上に位置付けられる。この状態でレーザービーム50を走査すると、アブレーション加工が施される位置にずれが生じ、デバイス15の損傷やデバイスチップの寸法のばらつき等の加工不良が生じるおそれがある。
【0102】
しかしながら、図7に示すようにレーザービーム50の被照射面66Aへの照射位置を調節することにより、傾斜した反射面66で反射したレーザービーム50の集光位置Pが経路A´上から経路A上へ補正される。これにより、反射面66の角度にばらつきがあっても、集光位置Pが経路A上に位置付けられた状態を維持したままレーザービーム50を走査できる。その結果、加工精度が向上し、加工不良の発生が抑制される。
【0103】
なお、X軸方向におけるレーザービーム50の照射位置の調節は、レーザービーム50をポリゴンミラー64に照射するタイミングを変更することによっても実現できる。具体的には、レーザービーム50のオン・オフのタイミング、すなわち、図3において位置調節ユニット58から出射したレーザービーム50の照射先をミラー60からビームダンパー74又はビームダンパー74からミラー60に切り替えるタイミングを調節することにより、X軸方向におけるレーザービーム50の照射位置を制御してもよい。
【0104】
上記のレーザービーム50の照射位置の調節は、コントローラ44に記憶されたプログラムを実行することによって実現される。具体的には、記憶部44cには、前述の手順に従ってレーザー照射ユニット36の各構成要素を動作させる制御信号を生成するためのプログラムが記憶される。そして、コントローラ44はプログラムを読み出して実行することにより、レーザービーム50の照射位置の調節を自動で実行する。
【0105】
以上の通り、本実施形態に係るレーザー加工装置2は、ポリゴンミラー64が有する複数の反射面66のうちレーザービーム50が照射される被照射面66Aを特定する被照射面特定ユニット80を備える。これにより、レーザー加工装置2で被加工物11にレーザー加工を施す際に、レーザービーム50のポリゴンミラー64への照射位置を監視することができる。
【0106】
また、本実施形態に係るレーザー加工装置2は、レーザービーム50の被照射面66Aへの照射位置を反射面66ごとに調節する位置調節ユニット58を備える。これにより、反射面66の角度ばらつきに起因するレーザービーム50の集光位置の変動が抑制され、加工不良の発生を防止することができる。
【0107】
なお、上記実施形態では、ポリゴンミラー64の複数の反射面66のうち1面が基準面66Bに設定される場合について説明したが、ポリゴンミラー64の構成はこれに限定されない。例えば、基準面66Bを設定する代わりに、全ての反射面66で光92a(図3及び図7参照)の反射率が異なるように反射面66を構成してもよい。この場合、受光ユニット94の受光量が、光92aが照射される反射面66ごとに異なる。そのため、特定部44aは、受光ユニット94の受光量に基づいて光92aが入射している反射面66aを特定できる。
【0108】
また、ポリゴンミラー64の被照射面66Aを特定する方法にも制限はない。例えば、基準面検出ユニット90でポリゴンミラー64の反射面66を検出する代わりに、ポリゴンミラー64を回転させる回転駆動源68(図3参照)の角度に基づいて被照射面66Aを特定することもできる。
【0109】
具体的には、回転駆動源68には、回転駆動源68の出力軸の回転角度(ポリゴンミラー64の回転角度)を検出するエンコーダ(不図示)が内蔵又は接続されている。また、回転駆動源68の出力軸の回転角度と被照射面66Aとの位置関係を示す情報(被照射面情報)が予め設定され、コントローラ44の記憶部44cに記憶される。
【0110】
回転駆動源68を作動させてポリゴンミラー64を回転させると、回転駆動源68の出力軸の回転角度がエンコーダによって逐次的に測定され、コントローラ44に入力される。そして、コントローラ44は、エンコーダによって測定された角度と被照射面情報とに基づいて、被照射面66Aを特定する。これにより、基準面検出ユニット90を省略しつつポリゴンミラー64の被照射面66Aを特定することが可能になり、レーザー照射ユニット36の構成が簡略化される。
【0111】
その他、上記実施形態に係る構造、方法等は、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施できる。
【符号の説明】
【0112】
11 被加工物
11a 表面
11b 裏面
13 ストリート(分割予定ライン)
15 デバイス
17 フレーム
17a 開口
19 シート
2 レーザー加工装置
4 基台
6 移動ユニット(移動機構)
8 Y軸移動ユニット(Y軸移動機構)
10 Y軸ガイドレール
12 Y軸移動テーブル
14 Y軸ボールねじ
16 Y軸パルスモータ
18 X軸移動ユニット(X軸移動機構)
20 X軸ガイドレール
22 X軸移動テーブル
24 X軸ボールねじ
26 X軸パルスモータ
28 保持テーブル(チャックテーブル)
28a 保持面
30 クランプ
32 支持構造
34 支持部材
36 レーザー照射ユニット
38 レーザー加工ヘッド
40 表示ユニット(表示部、表示装置)
42 報知ユニット(報知部、報知装置)
44 コントローラ(制御ユニット、制御部、制御装置)
44a 特定部
44b 調節部
44c 記憶部(メモリ)
50 レーザービーム
52 レーザー発振器
54 出力調整ユニット
56 光学系
58 位置調節ユニット
60,62 ミラー
64 ポリゴンミラー
64a 回転軸
66,66a~66h 反射面(ミラー面)
66A 被照射面
66B 基準面
68 回転駆動源
70 集光器
72 集光レンズ
74 ビームダンパー
80 被照射面特定ユニット
90 基準面検出ユニット
92 光照射ユニット(光照射部、投光部)
92a 光(検出光)
94 受光ユニット(受光部)
96 偏光ビームスプリッタ
98 レンズ
100 基材
100a 表面
110 反射層(レーザー用反射層)
112 酸化ハフニウム膜(HfO膜)
114 酸化シリコン膜(SiO膜)
120 反射層(検出用反射層)
122 酸化ハフニウム膜(HfO膜)
124 酸化シリコン膜(SiO膜)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8