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特開2024-135517ビニル重合体の製造方法、重合性組成物、及びビニル重合体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024135517
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】ビニル重合体の製造方法、重合性組成物、及びビニル重合体
(51)【国際特許分類】
   C08F 2/38 20060101AFI20240927BHJP
   C08F 20/10 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
C08F2/38
C08F20/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023046241
(22)【出願日】2023-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100142309
【弁理士】
【氏名又は名称】君塚 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】山内 晃
(72)【発明者】
【氏名】茶谷 俊介
【テーマコード(参考)】
4J011
4J100
【Fターム(参考)】
4J011AA05
4J011NA19
4J011NA25
4J011NA28
4J011NB04
4J100AL03Q
4J100AL04R
4J100AL24P
4J100CA05
4J100DA01
4J100DA09
4J100FA03
4J100FA04
4J100FA05
4J100FA19
4J100JA01
4J100JA43
(57)【要約】
【課題】高固形分で重合しても分子量制御が可能なビニル重合体の製造方法であって、高分子量でありながら低粘度であるビニル重合体の製造方法を提供すること。
【解決手段】下記式(1)で表される連鎖移動剤(A)と、前記連鎖移動剤(A)以外の連鎖移動剤(B)と、ビニル単量体(C)と、重合開始剤(D)とを含む重合性組成物を重合に供する工程(i)を備えるビニル重合体の製造方法。
[化1]
式(1)中、R’は、水素原子、ハロゲン原子、-OC(O)R”、-CONH、-CN、-COOR”、又はアリール基であり;Yは、-SR”、ハロゲン原子、-SOR”、-P(O)(OR”)、-SnR”、-SiR”3、又は-OOR”であり;R”は、それぞれ独立に、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、又は複素環基である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される連鎖移動剤(A)と、前記連鎖移動剤(A)以外の連鎖移動剤(B)と、ビニル単量体(C)と、重合開始剤(D)とを含む重合性組成物を重合に供する工程(i)を備えるビニル重合体の製造方法。
【化1】
式(1)中、R’は、水素原子、ハロゲン原子、-OC(O)R”、-CONH、-CN、-COOR”、又はアリール基であり;Yは、-SR”、ハロゲン原子、-SOR”、-P(O)(OR”)、-SnR”、-SiR”3、又は-OOR”であり;R”は、それぞれ独立に、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、又は複素環基である。
【請求項2】
前記連鎖移動剤(B)が、分子内の水素原子が引き抜かれてラジカルを発生する水素移動反応型連鎖移動剤である、請求項1に記載のビニル重合体の製造方法。
【請求項3】
前記水素移動反応型連鎖移動剤が、-OH、-SH、-COH、-NH、-NHR、及び-SOHからなる群から選択される少なくとも1種の基を有し、前記Rは、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、又は複素環基である、請求項2に記載のビニル重合体の製造方法。
【請求項4】
前記工程(i)における前記ビニル単量体(C)の転化率が85%以上である、請求項1に記載のビニル重合体の製造方法。
【請求項5】
前記重合性組成物において、前記連鎖移動剤(A)の含有量が前記ビニル単量体(C)100質量部に対して0.01~10質量部である、請求項1に記載のビニル重合体の製造方法。
【請求項6】
[前記連鎖移動剤(A)の含有量]/[前記連鎖移動剤(B)の含有量]で表される質量比が、0.01~10である、請求項1に記載のビニル重合体の製造方法。
【請求項7】
前記ビニル重合体の重量平均分子量が、2万~70万である、請求項1に記載のビニル重合体の製造方法。
【請求項8】
前記ビニル重合体が分岐構造を有する、請求項1~7のいずれか一項に記載のビニル重合体の製造方法。
【請求項9】
下記式(1)で表される連鎖移動剤(A)と、前記連鎖移動剤(A)以外の連鎖移動剤(B)と、ビニル単量体(C)と、重合開始剤(D)とを含む重合性組成物。
【化2】
式(1)中、R’は、水素原子、ハロゲン原子、-OC(O)R”、-CONH、-CN、-COOR”、又はアリール基であり;Yは、-SR”、ハロゲン原子、-SOR”、-P(O)(OR”)、-SnR”、-SiR”3、又は-OOR”であり;R”は、それぞれ独立に、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、又は複素環基である。
【請求項10】
下記式(1)で表される連鎖移動剤(A)に由来する構造と、前記連鎖移動剤(A)以外の連鎖移動剤(B)に由来する構造とを有するビニル重合体。
【化3】
式(1)中、R’は、水素原子、ハロゲン原子、-OC(O)R”、-CONH、-CN、-COOR”、又はアリール基であり;Yは、-SR”、ハロゲン原子、-SOR”、-P(O)(OR”)、-SnR”、-SiR”3、又は-OOR”であり;R”は、それぞれ独立に、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、又は複素環基である。
【請求項11】
[前記連鎖移動剤(A)に由来する構造の含有量]/[前記連鎖移動剤(B)に由来する構造の含有量]で表される質量比が、0.01~10である、請求項10に記載のビニル重合体。
【請求項12】
前記ビニル重合体の重量平均分子量が、2万~70万である、請求項10に記載のビニル重合体。
【請求項13】
前記ビニル重合体が分岐構造を有する、請求項10~12のいずれか一項に記載のビニル重合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビニル重合体の製造方法、重合性組成物、及びビニル重合体に関する。
【背景技術】
【0002】
ダイシング関連および接着剤などの接着分野、コーティング剤、インクおよび塗料などの塗料分野、ならびにアンダーフィルなどの電子材料分野では、その使用環境に耐え得る材料性能の向上、製造工程の簡素化や省エネ化など、様々な要求に応えるべく、材料、特に高分子材料の開発がなされている。一般的な高分子(鎖状高分子)材料を接着剤や塗料として利用する場合には、該高分子を溶剤に溶解させ、低粘性化して利用されることが多い。これに対して、多分岐型高分子は、同一分子量の鎖状高分子と比較して、低粘度であるため溶剤が不要または少量でよく、塗料や粘着剤用途では、有害な揮発性有機化合物(VOC)の削減に効果を発揮すると期待される。
このような多分岐型高分子の合成法としては、例えば、付加開裂連鎖移動(AFCT)剤を用いる方法(非特許文献1)及びコバルトによる触媒的連鎖移動を用いる方法(特許文献1)が知られている。特許文献1及び非特許文献1に記載された製造方法により得られるビニル重合体は、分岐構造の存在は示唆されているものの、高分子量体の合成は達成されていなかった。
特許文献2及び特許文献3では、AFCT剤の分子構造を適切に設計することにより高分子量で分岐構造をもつビニル重合体を得ることができる製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2000-506189号公報
【特許文献2】特開2015-147923号公報
【特許文献3】特開2022-147513号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Seiya Kobatake,Bunichiro Yamada、“Radical polymerization of a trimer of methyl acrylate as polymerizable α-substituted acrylate”、molecular Chemistry and Physics、1997年9月、第198巻、第9号、p.2825-2837
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献2もしくは特許文献3のビニル重合体の製造方法を用い、VOCを削減するために高固形分で重合した場合に得られるビニル重合体が超高分子量になってしまい、分子量制御が困難であった。また、超高分子量となることにより高粘度となるため取り扱い性に劣るものであった。
【0006】
本発明は、高固形分で重合した場合にも分子量制御と低粘度化が可能なビニル重合体の製造方法であって、高分子量でありながら低粘度であるビニル重合体の製造方法、及び前記製造方法に使用できる重合性組成物を提供することを課題とする。
また本発明は、高分子量でありながら低粘度であるビニル重合体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の構成を有する。
[1] 下記式(1)で表される連鎖移動剤(A)と、前記連鎖移動剤(A)以外の連鎖移動剤(B)と、ビニル単量体(C)と、重合開始剤(D)とを含む重合性組成物を重合に供する工程(i)を備えるビニル重合体の製造方法。
【0008】
【化1】
【0009】
式(1)中、R’は、水素原子、ハロゲン原子、-OC(O)R”、-CONH、-CN、-COOR”、又はアリール基であり;Yは、-SR”、ハロゲン原子、-SOR”、-P(O)(OR”)、-SnR”、-SiR”3、又は-OOR”であり;R”は、それぞれ独立に、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、又は複素環基である。
[2] 前記連鎖移動剤(B)が、分子内の水素原子が引き抜かれてラジカルを発生する水素移動反応型連鎖移動剤である、[1]に記載のビニル重合体の製造方法。
[3] 前記水素移動反応型連鎖移動剤が、-OH、-SH、-COH、-NH、-NHR、及び-SOHからなる群から選択される少なくとも1種の基を有し、前記Rは、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、又は複素環基である、[2]に記載のビニル重合体の製造方法。
[4] 前記工程(i)における前記ビニル単量体(C)の転化率が85%以上である、[1]~[3]のいずれかに記載のビニル重合体の製造方法。
[5] 前記重合性組成物において、前記連鎖移動剤(A)の含有量が前記ビニル単量体(C)100質量部に対して0.01~10質量部である、[1]~[4]のいずれかに記載のビニル重合体の製造方法。
[6] [前記連鎖移動剤(A)の含有量]/[前記連鎖移動剤(B)の含有量]で表される質量比が、0.01~10である、[1]~[5]のいずれかに記載のビニル重合体の製造方法。
[7] 前記ビニル重合体の重量平均分子量が、2万~70万である、[1]~[6]のいずれかに記載のビニル重合体の製造方法。
[8] 前記ビニル重合体が分岐構造を有する、[1]~[7]のいずれか一項に記載のビニル重合体の製造方法。
[9] 下記式(1)で表される連鎖移動剤(A)と、前記連鎖移動剤(A)以外の連鎖移動剤(B)と、ビニル単量体(C)と、重合開始剤(D)とを含む重合性組成物。
【0010】
【化2】
【0011】
式(1)中、R’は、水素原子、ハロゲン原子、-OC(O)R”、-CONH、-CN、-COOR”、又はアリール基であり;Yは、-SR”、ハロゲン原子、-SOR”、-P(O)(OR”)、-SnR”、-SiR”3、又は-OOR”であり;R”は、それぞれ独立に、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、又は複素環基である。
[10] 下記式(1)で表される連鎖移動剤(A)に由来する構造と、前記連鎖移動剤(A)以外の連鎖移動剤(B)に由来する構造とを有するビニル重合体。
【0012】
【化3】
【0013】
式(1)中、R’は、水素原子、ハロゲン原子、-OC(O)R”、-CONH、-CN、-COOR”、又はアリール基であり;Yは、-SR”、ハロゲン原子、-SOR”、-P(O)(OR”)、-SnR”、-SiR”3、又は-OOR”であり;R”は、それぞれ独立に、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、又は複素環基である。
[11] [前記連鎖移動剤(A)に由来する構造の含有量]/[前記連鎖移動剤(B)に由来する構造の含有量]で表される質量比が、0.01~10である、[10]に記載のビニル重合体。
[12] 前記ビニル重合体の重量平均分子量が、2万~70万である、[10]又は[11]に記載のビニル重合体。
[13] 前記ビニル重合体が分岐構造を有する、[10]~[12]のいずれか一項に記載のビニル重合体。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、高固形分で重合した場合にも分子量制御と低粘度化が可能なビニル重合体の製造方法であって、高分子量でありながら低粘度であるビニル重合体の製造方法、及び前記製造方法に使用できる重合性組成物を提供できる。
また本発明は、高分子量でありながら低粘度であるビニル重合体を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明において、「~」で表される数値範囲は「~」の前後の数値をそれぞれ下限値及び上限値として含む数値範囲を意味する。また、「(メタ)アクリル」はアクリル又はメタクリルを意味し、「(メタ)アクリレート」はアクリレート又はメタクリレートを意味し、「(メタ)アクリロ」はアクリロ又はメタクリロを意味する。
【0016】
[ビニル重合体の製造方法]
本発明のビニル重合体の製造方法は、下記工程(i)を含む。
工程(i):下記式(1)で表される連鎖移動剤(A)と、前記連鎖移動剤(A)以外の連鎖移動剤(B)と、ビニル単量体(C)と、重合開始剤(D)と、を含む重合性組成物を重合に供する工程。
【0017】
【化4】
【0018】
式(1)中の各記号の意味は以下のとおりである。
R’は、水素原子、ハロゲン原子、-OC(O)R”、-CONH、-CN、-COOR”又はアリール基である。
Yは、-SR”、ハロゲン原子、-SOR”、-P(O)(OR”)、-SnR”、-SiR”又は-OOR”である。
R’及びYにおいて、R”は、それぞれ独立に、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基又は複素環基である。
以下、工程(i)について詳細に説明する。
【0019】
<工程(i)>
工程(i)では、前記式(1)で表される連鎖移動剤(A)と、前記連鎖移動剤(A)以外の連鎖移動剤(B)と、ビニル単量体(C)と、重合開始剤(D)と、を含む重合性組成物を重合に供する。なお重合性組成物は必要に応じて溶媒及びその他の添加剤を含んでいてもよい。
【0020】
本発明のビニル重合体の製造方法によれば、分岐鎖又はグラフト鎖を有するビニル重合体を、前記工程(i)により製造できる。
なお、本明細書において、マクロモノマーとは、ラジカル重合性基又は付加反応性の官能基を有する重合物を意味する。グラフト共重合体とは、主鎖ポリマー構造に、側鎖ポリマー構造として接続された1種以上のブロックを持つ高分子である。分岐鎖を有する重合体において、主鎖ポリマーと側鎖ポリマーとの構造は、異なってもよいし、同じであってもよい。一方、グラフト鎖を有する重合体において、主鎖ポリマーと側鎖ポリマーとの構造は、モノマー単位の種類(構造)が異なっているか、又は同じモノマー単位であっても組成又は配列分布が異なる。
従来のグラフト共重合体の製造方法は、例えば、末端にラジカル重合性二重結合を有するマクロモノマーを側鎖ポリマー構造として製造した後に、主鎖ポリマーの構成単位となるモノマーとラジカル重合する方法や、反応点を有する主鎖ポリマーと反応点を有するマクロモノマーを予め製造した後、それらを反応させる方法、主鎖ポリマーの製造後に水素引き抜き能を有する開始剤を使用して主鎖ポリマー上にラジカルを発生させ、側鎖ポリマーの構成単位となるモノマーを反応させて側鎖ポリマー構造を製造する方法等が挙げられる。いずれの方法も、2段階以上の重合工程を必要としている。本発明のビニル重合体の製造方法によれば、分岐鎖又はグラフト鎖を有するビニル重合体を、1段階の重合工程のみ、すなわち前記工程(i)のみにより製造できる。
本発明のビニル重合体の製造方法は、さらに2段階目以降の重合工程を備えていてもよい。
【0021】
重合性組成物の重合方法は特に限定されず、例えば、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法等の従来公知の重合方法を用いることができる。
重合反応は、空気存在下で行ってもよいが、ラジカル重合の効率の点から、窒素又はアルゴン等の不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。不活性ガス雰囲気下で行う手法としては公知のものが用いられるが、例えば、不活性ガスを重合性組成物に吹き込む手法、凍結、脱気及び融解を繰り返す手法を用いることができる。
重合温度は、特に限定されないが、重合速度の観点から0~150℃が好ましく、20~120℃がより好ましい。
重合時間は、特に限定されないが、0.5~48時間が好ましく、4~48時間がより好ましい。
【0022】
工程(i)におけるビニル単量体(C)の転化率は、得られるビニル重合体の分子量及び分岐度を向上させる観点から、85%以上が好ましく、90%以上がより好ましく、95%以上がさらに好ましく、98%以上が特に好ましい。
ここで、ビニル単量体(C)の転化率(%)は、核磁気共鳴装置(日本電子社製、ECZ400S、400MHz)を用い、測定溶媒にCDClを用いたH-NMR測定の測定値から求めることができる。具体的には、ビニル単量体(C)の転化率(%)は、残存するビニル単量体(C)に由来するピークの積算値と、生成したビニル重合体に由来するピークの積算値とを用い、残存するビニル単量体(C)量と生成したビニル重合体量の総和に対する、生成したビニル重合体量の比率として算出できる。
【0023】
[重合性組成物]
本発明の重合性組成物は、前記式(1)で表される連鎖移動剤(A)と、前記連鎖移動剤(A)以外の連鎖移動剤(B)と、ビニル単量体(C)と、重合開始剤(D)とを含む。
以下、各成分について詳細に説明する。
【0024】
(連鎖移動剤(A))
連鎖移動剤(A)は、前記式(1)で表される化合物である。
前記式(1)中、R’は水素原子、ハロゲン原子、-OC(O)R”、-CONH、-CN、-COOR”又はアリール基である。
【0025】
R’におけるハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が挙げられる。前記ハロゲン原子としては、塩素原子又は臭素原子が好ましい。R’がハロゲン原子であると、工程(i)において、適度な連鎖移動定数の値を示す。
【0026】
R’におけるアリール基としては、例えば、炭素数6~18のアリール基が挙げられる。前記炭素数6~18のアリール基としては、フェニル基、ベンジル基及びナフチル基が例示される。
前記アリール基は置換基を有していてもよい。
前記置換基としては、例えば、アルキル基、アリール基、カルボキシ基、アルコキシカルボニル基、カルバモイル基、シアノ基、ヒドロキシ基、アミノ基、アミド基、ハロゲン原子、アリル基、エポキシ基、アルコキシ基、及び親水性又はイオン性を示す基が挙げられる。
前記親水性又はイオン性を示す基としては、例えば、カルボキシ基のアルカリ塩、スルホキシ基のアルカリ塩、ポリエチレンオキシド基、ポリプロピレンオキシド基等のポリ(アルキレンオキシド)基及び四級アンモニウム塩基等のカチオン性置換基が挙げられる。
【0027】
前記式(1)中、Yは、-SR”、ハロゲン原子、-SOR”、-P(O)(OR”)、-SnR”、-SiR”又は-OOR”である。
Yにおけるハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が挙げられる。前記ハロゲン原子としては、塩素原子又は臭素原子が好ましい。Yがハロゲン原子であると、工程(i)において、適度な連鎖移動定数の値を示す。
【0028】
R’及びYにおいて、R”は、それぞれ独立に、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基又は複素環基である。
R”におけるアルキル基としては、例えば、炭素数1~20の直鎖又は分岐鎖のアルキル基が挙げられる。前記炭素数1~20の直鎖又は分岐鎖のアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、t-ブチル基、i-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基及びイコシル基が挙げられる。
【0029】
R”におけるシクロアルキル基としては、例えば、炭素数3~20のシクロアルキル基が挙げられる。前記炭素数3~20のシクロアルキル基の具体例としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基及びアダマンチル基が挙げられる。
【0030】
R”におけるアリール基としては、例えば、炭素数6~18のアリール基が挙げられる。前記炭素数6~18のアリール基の具体例としては、フェニル基、ベンジル基及びナフチル基が挙げられる。
【0031】
R”における複素環基としては、例えば、ヘテロ原子として酸素原子、窒素原子又は硫黄原子を含む炭素数5~18の複素環基が挙げられる。前記複素環基の具体例としては、γ-ラクトン基、ε-カプロラクトン基及びモルフォリン基が挙げられる。
【0032】
なお、R”におけるアルキル基、シクロアルキル基、アリール基及び複素環基は、置換基を有していてもよい。
前記置換基としては、例えば、アルキル基、アリール基、カルボキシ基、アルコキシカルボニル基、カルバモイル基、シアノ基、ヒドロキシ基、アミノ基、アミド基、ハロゲン原子、アリル基、エポキシ基、アルコキシ基、及び親水性又はイオン性を示す基が挙げられる。
前記親水性又はイオン性を示す基としては、例えば、カルボキシ基のアルカリ塩、スルホキシ基のアルカリ塩、ポリエチレンオキシド基、ポリプロピレンオキシド基等のポリ(アルキレンオキシド)基及び四級アンモニウム塩基等のカチオン性置換基が挙げられる。
【0033】
R”としては、アルキル基又はシクロアルキル基が好ましく、アルキル基がより好ましく、炭素数1~6の直鎖又は分岐鎖のアルキル基がさらに好ましく、炭素数1~6の直鎖のアルキル基が特に好ましい。
連鎖移動剤(A)としては、炭素数5~10の2-(ハロメチル)アクリル酸エステルが好ましく、炭素数5~10の2-(ブロモメチル)アクリル酸エステルがより好ましく、2-(ブロモメチル)アクリル酸メチル、2-(ブロモメチル)アクリル酸エチル、及び2-(ブロモメチル)アクリル酸プロピルがさらに好ましく、2-(ブロモメチル)アクリル酸エチルが特に好ましい。
これらの連鎖移動剤(A)は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0034】
(連鎖移動剤(B))
連鎖移動剤(B)は、前記連鎖移動剤(A)と異なる分子構造をもつ連鎖移動剤である。
連鎖移動剤(B)としては、ポリマーの成長末端ラジカルが連鎖移動剤分子内の水素原子を引き抜いてラジカルを発生させる連鎖移動剤が好ましく、-OH、-SH、-COH、-NH、-NHR、及び-SOHからなる群から選択される少なくとも1種の基を有し、前記Rは、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、又は複素環基である連鎖移動剤がより好ましい。
連鎖移動剤(B)としては、n-ドデシルメルカプタン等のメルカプト基含有連鎖移動剤;イソプロピルアルコール等の二級水酸基含有連鎖移動剤等が挙げられる。
これらの連鎖移動剤(B)は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0035】
(ビニル単量体(C))
ビニル単量体(C)は、ビニル基を有する単量体であれば特に限定されないが、(メタ)アクリル酸又は(メタ)アクリレート系化合物が好ましい。
【0036】
前記メタアクリレート系化合物としては、例えば、炭素原子数1~30のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエトキシエチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート及びそのアルキルエーテル、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、3-(トリエトキシシリル)プロピル(メタ)アクリレート、並びに2-(ジメチルアミノ)エチル(メタ)アクリレート及びその4級アルキルアンモニウム塩が挙げられる。炭素原子数1~30のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートとしては、炭素原子数1~10の直鎖又は分岐鎖のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートが好ましく、炭素原子数1~10の直鎖又は分岐鎖のアルキル基を有するアルキルアクリレートがさらに好ましく、炭素原子数1~6の直鎖のアルキル基を有するアルキルアクリレート、及び炭素原子数3~10の分岐鎖のアルキル基を有するアルキルアクリレートが特に好ましく、n-ブチルアクリレート、アクリル酸2-エチルヘキシルが最も好ましい。
【0037】
なお、本発明のビニル重合体は、(メタ)アクリル酸及び上述した(メタ)アクリレート系化合物の他に、本発明の効果を損なわない範囲で、ラジカル重合が可能な単量体を少量用いてもよい。
前記ラジカル重合が可能な単量体としては、例えば、α-メチルスチレン、ビニルトルエン及びスチレン等のスチレン系単量体、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル及びイソブチルビニルエーテル等のビニルエーテル系単量体、フマル酸、フマル酸のモノアルキルエステル及びジアルキルエステル、マレイン酸、マレイン酸のモノアルキルエステル及びジアルキルエステル、イタコン酸、イタコン酸のモノアルキルエステル及びジアルキルエステル、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリルアミド、ブタジエン、イソプレン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、酢酸ビニル、ビニルケトン、ビニルピリジン、並びにビニルカルバゾールが挙げられる。
これらのラジカル重合が可能な単量体は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0038】
ビニル単量体(C)は、ビニル単量体(C)の全モル数に対するアクリル酸及びアクリレート系化合物の合計モル数の割合(モル%)が85モル%以上となるように用いることが好ましい。これにより後述するxが85モル%以上であるビニル重合体が得られる。ビニル単量体(C)の全モル数に対するアクリル酸及びアクリレート系化合物の合計モル数の割合(モル%)は、90モル%以上がより好ましく、95モル%以上がさらに好ましい。
【0039】
(重合開始剤(D))
重合開始剤(D)は、特に限定されず、従来公知の化合物を使用できるが、ラジカル重合開始剤が好ましい。
前記ラジカル重合開始剤としては、例えば、アゾ系のラジカル重合開始剤及び過酸化物系のラジカル重合開始剤が挙げられる。
【0040】
前記アゾ系ラジカル重合開始剤の具体例としては、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)及び2,2’-アゾビス(2,4-ジメチル-4-メトキシバレロニトリル)が挙げられる。
前記過酸化物系ラジカル重合開始剤の具体例としては、2,4-ジクロロベンゾイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシピバレート、o-メチルベンゾイルパーオキサイド、ビス-3,5,5-トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、シクロヘキサノンパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド及びジ-t-ブチルパーオキサイドが挙げられる。
前記ラジカル重合開始剤は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0041】
(溶媒)
溶媒は、特に限定されないが、例えば、アルコール系溶媒(メタノール、エタノール等)、芳香族炭化水素系溶媒(トルエン、エチルベンゼン、キシレン、アニソール等)、ケトン系溶媒(アセトン、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン等)及びエステル系溶媒(酢酸ブチル等)が挙げられる。なお、溶媒は1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0042】
(重合性組成物の組成)
重合性組成物における連鎖移動剤(A)の含有量は、特に限定されないが、ビニル単量体(C)の100質量部に対して、0.01~10質量部が好ましく、0.1~5質量部がより好ましく、0.2~3質量部がさらに好ましい。
連鎖移動剤(A)の含有量が上記下限値以上であると、得られるビニル重合体に適切に分岐構造を導入できる。
連鎖移動剤(A)の含有量が上記上限値以下であると、ビニル重合体の有する弾性率、機械強度及び耐久性等の特性を十分に得ることができる。
【0043】
重合性組成物における連鎖移動剤(B)の含有量は、特に限定されないが、ビニル単量体(C)の100質量部に対して、0.001~50質量部が好ましく、0.01~30質量部がより好ましく、0.03~10質量部がより好ましい。
連鎖移動剤(B)がメルカプト基を有する場合、連鎖移動剤(B)の含有量は、ビニル単量体(C)の100質量部に対して、0.001~5質量部が好ましく、0.01~1質量部がより好ましく、0.03~0.1質量部がより好ましい。
連鎖移動剤(B)が二級水酸基を有する場合、連鎖移動剤(B)の含有量は、ビニル単量体(C)の100質量部に対して、0.05~50質量部が好ましく、0.1~30質量部がより好ましく、0.3~10質量部がより好ましい。
連鎖移動剤(B)の含有量が上記下限値以上であると、適切に得られるビニル重合体の分子量を制御できる。
連鎖移動剤(B)の含有量が上記上限値以下であると、ビニル重合体の有する弾性率、機械強度及び耐久性等の特性を十分に得ることができる。
【0044】
重合性組成物における[前記連鎖移動剤(A)の含有量]/[前記連鎖移動剤(B)の含有量]で表される質量比は、0.01~10が好ましく、0.02~8がより好ましい。
前記連鎖移動剤(B)が二級水酸基を有する場合、[前記連鎖移動剤(A)の含有量]/[前記連鎖移動剤(B)の含有量]で表される質量比は、0.01~1が好ましく、0.02~0.8がより好ましい。
前記連鎖移動剤(B)がメルカプト基を有する場合、[前記連鎖移動剤(A)の含有量]/[前記連鎖移動剤(B)の含有量]で表される質量比は、1~10が好ましく、2~8がより好ましい。
【0045】
重合性組成物における重合開始剤(D)の含有量は、特に限定されないが、ビニル単量体(C)の100質量部に対して、0.01~10質量部が好ましく、0.05~5質量部がより好ましく、0.1~1質量部がさらに好ましい。
重合開始剤(D)の含有量が上記範囲内であると、後述する工程(i)において適度な重合速度を得ることができる。
【0046】
重合性組成物における溶媒の含有量は、特に限定されないが、ビニル単量体(C)の100質量部に対して、0~300質量部が好ましく、10~100質量部がより好ましく、20~50質量部がさらに好ましい。
溶媒の含有量が上記範囲内であると、後述する工程(i)において適度な重合速度を得ることができ、かつ、ビニル重合体生成後の溶液粘度が低減され取り扱い性に優れる。
【0047】
(その他の添加剤)
その他の添加剤としては、例えば、顔料、紫外線吸収剤、離型剤、消泡剤、可塑剤、粘度調整剤等が挙げられる。これらの添加剤は公知の化合物を使用することができる。
【0048】
[重合性組成物の製造方法]
本発明の重合性組成物の製造方法は特に限定されず、前記式(1)で表される連鎖移動剤(A)と、前記連鎖移動剤(A)以外の連鎖移動剤(B)と、ビニル単量体(C)と、重合開始剤(D)と、必要に応じて前記溶媒及び前記その他の添加剤とを混合することにより得られる。
【0049】
[ビニル重合体]
本発明のビニル重合体は、前記連鎖移動剤(A)に由来する構造と、前記連鎖移動剤(A)以外の連鎖移動剤(B)に由来する構造とを有する。
[前記連鎖移動剤(A)に由来する構造の含有量]/[前記連鎖移動剤(B)に由来する構造の含有量]で表される質量比は、0.01~10が好ましく、0.02~8がより好ましい。
前記連鎖移動剤(B)が二級水酸基を有する場合、[前記連鎖移動剤(A)に由来する構造の含有量]/[前記連鎖移動剤(B)に由来する構造の含有量]で表される質量比は、0.01~1が好ましく、0.02~0.8がより好ましい。
前記連鎖移動剤(B)がメルカプト基を有する場合、[前記連鎖移動剤(A)に由来する構造の含有量]/[前記連鎖移動剤(B)に由来する構造の含有量]で表される質量比は、1~10が好ましく、2~8がより好ましい。
【0050】
本発明のビニル重合体は、下記式(2)及び(3)で表される構造を有することが好ましい。
【0051】
【化5】
【0052】
式(2)中の各記号の意味は以下のとおりである。
R及びR~Rは、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、又は複素環基である。
Zは、ラジカル重合開始剤由来の基、連鎖移動剤(A)由来の基、又は連鎖移動剤(B)由来の基である。
~Xは、それぞれ独立に、水素原子、メチル基、又は式(3)で表される構造であり、X~Xのうち少なくとも1つは式(3)で表される構造である。
及びXにおいて、nは、2~10,000の自然数である。
【0053】
【化6】
【0054】
式(3)中の各記号の意味は以下のとおりである。
R及びR~Rは、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、又は複素環基であり、Zは、ラジカル重合開始剤由来の基、連鎖移動剤(A)由来の基、又は連鎖移動剤(B)由来の基であり、X~Xは、それぞれ独立に、水素原子、メチル基、又は式(3)で表される構造である。R及びXにおいて、nは、2~10,000の自然数である。
【0055】
式(2)中のR及びR~Rと式(3)中のR~Rとは互いに独立しており、式(2)中のX~Xと式(3)中のX~Xとは互いに独立している。
【0056】
式(2)中のX~Xの少なくとも1つは式(3)で表される構造であることから、本発明のビニル重合体は分岐構造を有する。
【0057】
本発明のビニル重合体が式(2)及び(3)で表される構造を有することは、本発明のビニル重合体のH-NMR測定において、ケミカルシフト値が5.5~5.6ppm及び6.1~6.2ppmであるピークを有し、かつ、13C-NMR測定において、ケミカルシフト値が38~41ppmであるピークを有することから確認できる。
ここで、H-NMR測定におけるケミカルシフト値が5.5~5.6ppm及び6.1~6.2ppmであるピークは、本発明のビニル重合体が式(2)における末端二重結合の存在を意味する。また、13C-NMR測定におけるケミカルシフト値が38~41ppmであるピークは、本発明のビニル重合体が式(3)で表される分岐構造を有することを意味する。
【0058】
本発明のビニル重合体では、式(2)に示すように末端二重結合が導入されていることが好ましい。この末端二重結合は重合性を有し、ビニル単量体と共重合させることにより簡便にグラフトコポリマーを合成することができるため有用である。
【0059】
本発明のビニル重合体は、式(2)及び(3)に示すように、(メタ)アクリル酸又は(メタ)アクリレート系化合物に由来する構成単位を有することが好ましい。
【0060】
なお、本発明のビニル重合体は、本発明の効果を損なわない範囲で、その他の構成単位を少量含んでいてもよい。
前記その他の構成単位は、ラジカル重合が可能な単量体に由来する構成単位であれば特に限定されない。
前記ラジカル重合が可能な単量体としては、例えば、α-メチルスチレン、ビニルトルエン及びスチレン等のスチレン系単量体、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル及びイソブチルビニルエーテル等のビニルエーテル系単量体、フマル酸、フマル酸のモノアルキルエステル及びジアルキルエステル、マレイン酸、マレイン酸のモノアルキルエステル及びジアルキルエステル、イタコン酸、イタコン酸のモノアルキルエステル及びジアルキルエステル、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリルアミド、ブタジエン、イソプレン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、酢酸ビニル、ビニルケトン、ビニルピリジン、並びにビニルカルバゾールが挙げられる。
これらのラジカル重合が可能な単量体は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0061】
本発明のビニル重合体では、式(2)及び(3)において、X~Xに含まれる水素原子及びメチル基の合計モル数に対する水素原子のモル数の割合をxとするとき、xは50モル%以上であり、60モル%以上が好ましく、70モル%以上がより好ましい。
xが50モル%以上であると、本発明のビニル重合体が高分岐度となる。なお、xは、原料であるビニル単量体(C)における、アクリル酸及びアクリレート系化合物の仕込み比により求めた値とする。
【0062】
本発明のビニル重合体の重量平均分子量(Mw)は、特に限定されないが、2万~70万が好ましく、5万~60万がより好ましく、7万~50万がさらに好ましく、10万~40万が特に好ましく、15万~35万が最も好ましい。このようなビニル重合体を原料として用いることにより、弾性率及び機械強度に優れた成形体及び塗膜を得ることができる。
なお、重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で測定した値を標準ポリスチレン換算にて算出した値である。
【0063】
本発明のビニル重合体の溶液粘度は、500~30,000mPa・sが好ましく、800~28,000mPa・sがより好ましく、1,000~25,000mPa・sがさらに好ましい。
本発明のビニル重合体の溶液粘度が上記上限値以下であると、低粘度化を実現できるため、取り扱い性に優れる。本発明のビニル重合体の溶液粘度が上記下限値以上であると、塗膜作成などのプロセス適性が高くなる。
なお、溶液粘度は、実施例に記載の方法で測定することができる。
【実施例0064】
以下では実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明は後述する実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない限り種々の変形が可能である。
【0065】
[原料]
実施例及び比較例で使用した原料の略号を以下に示す。
・連鎖移動剤(A)
EBMA:2-(ブロモメチル)アクリル酸エチル(ケミクレア社製)
・連鎖移動剤(B)
nDM:n-ドデシルメルカプタン(花王社製、製品名:チオカルコール20)
IPA:イソプロピルアルコール(東京化成工業社製)
・ビニル単量体(C)
nBA:n-ブチルアクリレート(三菱ケミカル社製)
EHA:アクリル酸2-エチルヘキシル(三菱ケミカル社製)
・重合開始剤(D)
AIBN:2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)(富士フイルム和光純薬社製)
【0066】
[測定方法及び評価方法]
<ビニル重合体の重量平均分子量>
ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)(東ソー株式会社製 HLC-8320)を用いて測定した。ビニル重合体のテトラヒドロフラン溶液0.2質量%を調整後、東ソー株式会社製カラム(TSKgel SuperHZM-M(内径4.6mm、長さ15cm)、HZM-M(内径4.6mm、長さ15cm)、HZ-2000(内径4.6mm、長さ15cm)、TSKguardcolumn SuperHZ-L(内径4.6mm、長さ3.5cm)が装着された装置に上記の溶液10μLを注入し、流量:0.35mL/分、溶離液:テトラヒドロフラン(安定剤BHT)、カラム温度:40℃の条件で測定し、標準ポリスチレン換算にて重量平均分子量(Mw)を算出した。
【0067】
<ビニル単量体(C)の転化率>
各ビニル単量体(C)の転化率(%)は、核磁気共鳴装置(日本電子社製、ECZ400S、400MHz)を用い、測定溶媒にCDClを用いたH-NMR測定の測定値から求めた。具体的には、残存するビニル単量体(C)に由来するピークの積算値と、生成したビニル単量体(C)に由来するピークの積算値とを用い、残存するビニル単量体(C)量と生成したビニル単量体(C)量の総和に対する、生成したビニル単量体(C)量の比率として算出した。
【0068】
<ビニル重合体溶液の固形分濃度>
各例で得たビニル重合体溶液中のポリマー濃度の測定を行った。溶液の一部をアルミ皿に小分けし重量を測定後、60℃で一晩真空乾燥をし、重量の測定を行った。乾燥前後の重量変化から重合体溶液中の固形分比率を算出した。
【0069】
<ビニル重合体の溶液粘度>
各例で得たビニル重合体溶液の粘度を、E型粘度計(東機産業社製、TV-25)を用いて25.0℃で測定した。得られた値をビニル重合体の溶液粘度とした。
【0070】
[実施例1]
シュレンク管に、連鎖移動剤(A)としてのEBMAを0.25質量部、連鎖移動剤(B)としてのnDMを0.050質量部、ビニル単量体(C)としてのnBAを85質量部、及びEHAを15質量部、重合開始剤(D)としてのAIBNを0.31質量部、溶媒としての酢酸ブチルを33.3質量部、及びスターラーチップを加え、70℃に昇温し、2時間攪拌した。次いで80℃に昇温し、4時間攪拌した。次いで、室温まで冷却後、得られた樹脂組成物を反応容器から回収し、ビニル重合体溶液を得た。ビニル単量体(C)の転化率、および得られたビニル重合体の評価結果を表1に示す。
【0071】
[実施例2~4、比較例1~4]
連鎖移動剤(A)、連鎖移動剤(B)、ビニル単量体(C)、重合開始剤(D)、溶媒の使用量を表1の通り変更した以外は、実施例1と同様の方法により重合性組成物を調製しこれを重合に供することによりビニル重合体溶液を得た。ビニル単量体(C)の転化率、および得られたビニル重合体の各評価結果を表1に示す。
【0072】
【表1】
【0073】
表1に示す通り、実施例1~4では、Mw30万程度のビニル共重合体が得られたことから、分子量を制御できたことが判った。また、得られたビニル共重合体溶液の溶液粘度が25,000mPa・s以下であることから、ビニル重合体が分岐により低粘度化していることがわかった。これらのビニル重合体は粘度が低いため、取り扱い性に優れ、工業的にも好ましいものであった。さらに、これらのビニル重合体は、成形体や塗膜に適用した際、分子量に由来する弾性率や機械強度の制御が可能であり、高分岐度に由来する低い溶融粘度、溶液粘度等の優れた取り扱い性と物性とを両立することができるため、工業的に有用である。
一方比較例1、比較例3、比較例4では、実施例1と同等の分子量を有するビニル共重合体が得られたことから、分子量を制御できたことが判った。しかし、比較例1、比較例3、比較例4では連鎖移動剤(A)を加えていないため、実施例1のビニル共重合体と同等の分子量にも関わらず、分岐していないため溶液粘度が高かった。粘度が高過ぎると、取り扱い性に劣るため、工業的に好ましくない。
比較例2では連鎖移動剤(B)を加えていないため、分子量が実施例に記載の分子量よりもはるかに大きいビニル共重合体が得られたことから、分子量が制御できていないことが判った。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明のビニル重合体の製造方法によれば、高固形分で重合した場合にも分子量制御が可能なビニル重合体の製造方法であって、高分子量でありながら低粘度であるビニル重合体を製造できる。
本発明の重合性組成物によれば、前記ビニル重合体の製造方法に使用することにより分子量を制御しやすく、高分子量でありながら低粘度であるビニル重合体を提供できる。
本発明のビニル重合体は、高分子量かつ低粘度であるため優れた取り扱い性を有し、工業的に有用である。