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特開2024-135558研磨用組成物、研磨方法および半導体基板の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024135558
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】研磨用組成物、研磨方法および半導体基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/304 20060101AFI20240927BHJP
   C09K 3/14 20060101ALI20240927BHJP
   C09G 1/02 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
H01L21/304 622D
C09K3/14 550Z
C09K3/14 550D
C09G1/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023046310
(22)【出願日】2023-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000236702
【氏名又は名称】株式会社フジミインコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】前 僚太
【テーマコード(参考)】
5F057
【Fターム(参考)】
5F057AA16
5F057AA28
5F057BA15
5F057BB15
5F057BB19
5F057CA12
5F057DA03
5F057EA01
5F057EA07
5F057EA17
5F057EA32
(57)【要約】
【課題】窒化ケイ素膜を高速で研磨し、かつ、多結晶シリコン膜の研磨速度を抑えることができる研磨用組成物を提供する。
【解決手段】砥粒と、ポリアルキレンオキシド化合物と、を含み、pHが7未満である研磨用組成物であって、前記砥粒は、前記研磨用組成物中で負のゼータ電位を有し、前記ポリアルキレンオキシド化合物は、式(1)で表される化合物である、研磨用組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
砥粒と、ポリアルキレンオキシド化合物と、を含み、pHが7未満である研磨用組成物であって、
前記砥粒は、前記研磨用組成物中で負のゼータ電位を有し、
前記ポリアルキレンオキシド化合物は、下記式(1):
【化1】

[式(1)において、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、または炭素数1以上20以下のアルキル基を表し;Rは炭素数4のアルキレン基を表し;nは、アルキレンオキシ基(O-R)の平均付加モル数であり、3以上100以下の数を示す。]
で表される、研磨用組成物。
【請求項2】
前記ポリアルキレンオキシド化合物は、ポリテトラメチレンオキシドである、請求項1に記載の研磨用組成物。
【請求項3】
前記ポリアルキレンオキシドの重量平均分子量は、3000未満である、請求項1または2に記載の研磨用組成物。
【請求項4】
前記砥粒は、2質量%以上10質量%以下で含有される、請求項1または2に記載の研磨用組成物。
【請求項5】
前記砥粒の平均二次粒子径が、20nm以上70nm未満である、請求項1または2に記載の研磨用組成物。
【請求項6】
前記砥粒は、アニオン変性コロイダルシリカである、請求項1または2に記載の研磨用組成物。
【請求項7】
pHが、2以上5以下である、請求項1または2に記載の研磨用組成物。
【請求項8】
pH調整剤として有機酸または無機酸をさらに含有する、請求項1または2に記載の研磨用組成物。
【請求項9】
窒化ケイ素および多結晶シリコンを含む研磨対象物を研磨する用途で使用される、請求項1または2に記載の研磨用組成物。
【請求項10】
前記多結晶シリコンの研磨速度に対する前記窒化ケイ素の研磨速度の比(窒化ケイ素の研磨速度/多結晶シリコンの研磨速度)が20以上である、請求項9に記載の研磨用組成物。
【請求項11】
請求項1に記載の研磨用組成物を用いて、窒化ケイ素および多結晶シリコンを含む研磨対象物を研磨する工程を含む、研磨方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨用組成物、研磨方法および半導体基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体基板表面の多層配線化に伴い、デバイスを製造する際に、半導体基板を研磨して平坦化する、いわゆる、化学的機械的研磨(Chemical Mechanical Polishing;CMP)技術が利用されている。
【0003】
当該CMPは、半導体製造における各工程に適用されてきており、その一態様として、例えばトランジスタ作製におけるゲート形成工程への適用が挙げられる。トランジスタ作製の際には、金属、シリコン、酸化ケイ素、多結晶シリコン、窒化ケイ素といった材料を研磨することがあり、生産性を向上させるべく、各材料を高速で研磨する要求が存在する。例えば、化学反応性に乏しい窒化ケイ素を高速度で研磨することの要求が存在している。かような要求に応えるため、例えば、特許文献1には、スルホン酸を固定化したコロイダルシリカを含み、pHが6以下である研磨用組成物により窒化ケイ素が高い研磨速度で研磨できることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012-040671号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者は、CMPの半導体製造における各工程への適用を検討する中で、多結晶シリコン膜の存在下、窒化ケイ素膜を高速で研磨することが製造上好ましい場合があることを知見した。他方、多結晶シリコン膜については、研磨速度を極力低くさせる方が製造上好ましい場合があることを知見した。しかし、窒化ケイ素膜を高速で研磨し、かつ、多結晶シリコン膜の研磨速度を抑えることができる研磨用組成物は未だ存在しない。
【0006】
そこで、本発明は、窒化ケイ素膜を高速で研磨し、かつ、多結晶シリコン膜の研磨速度を抑えることができる研磨用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決すべく、本発明者は鋭意研究を積み重ねた。その結果、砥粒と、ポリアルキレンオキシド化合物と、を含み、pHが7未満である研磨用組成物であって、前記砥粒は、前記研磨用組成物中で負のゼータ電位を有し、前記ポリアルキレンオキシド化合物は、下記式(1):
【0008】
【化1】
【0009】
[式(1)において、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、または炭素数1以上20以下のアルキル基を表し;Rは炭素数4のアルキレン基を表し;nは、アルキレンオキシ基(O-R)の平均付加モル数であり、3以上100以下の数を示す。]
で表される、研磨用組成物により、上記課題が解決することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、窒化ケイ素膜を高速で研磨し、かつ、多結晶シリコン膜の研磨速度を抑えることができる研磨用組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態について、詳細に説明する。ここで示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するために例示するものであって、本発明を限定するものではない。よって、本発明の要旨を逸脱しない範囲で当業者などにより考え得る実施可能な他の形態、使用方法および運用技術などは全て本発明の範囲、要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。本明細書に記載される実施の形態は、任意に組み合わせることにより、他の実施の形態とすることができる。また、本明細書において、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20℃以上25℃以下)/相対湿度40%RH以上60%RH以下の条件で測定する。
【0012】
本発明は、砥粒と、ポリアルキレンオキシド化合物と、を含み、pHが7未満である研磨用組成物であって、前記砥粒は、前記研磨用組成物中で負のゼータ電位を有し、前記ポリアルキレンオキシド化合物は、炭素数4のオキシアルキレン基を繰り返し単位で有する、研磨用組成物である。このような研磨用組成物は、窒化ケイ素膜を高速で研磨し、かつ、多結晶シリコン膜の研磨速度を抑えることができる。本発明者は、本発明によってこのような効果が得られるメカニズムを以下のように推定している。ただし、下記メカニズムはあくまで推測であり、これによって本発明の範囲が限定されることがない。
【0013】
本発明では、研磨対象物は、少なくとも窒化ケイ素膜と多結晶シリコン膜とを含むことが好ましい。本発明の研磨用組成物によれば、研磨対象物のうち、窒化ケイ素膜は高速で研磨し、多結晶シリコン膜は研磨速度を抑制する効果が得られる。pHが7未満である研磨用組成物中において負のゼータ電位を有する砥粒は、窒化ケイ素膜および多結晶シリコン膜に吸着しやすく、これにより研磨時に窒化ケイ素膜および多結晶シリコン膜の表面上に存在する砥粒が増える。しかしながら、多結晶シリコン膜の研磨速度を向上させてしまうと、多結晶シリコン膜の研磨速度に対する窒化ケイ素膜の研磨速度の比(窒化ケイ素膜の研磨速度/多結晶シリコン膜の研磨速度)の比(以下、「窒化ケイ素の研磨選択比」とも称する)が低くなる。本発明の研磨用組成物は、pHが7未満の環境下において、特定のポリアルキレンオキシド化合物を含有することにより、窒化ケイ素膜の研磨速度を向上または維持しつつ、多結晶シリコン膜の研磨速度は抑制することを本発明者は見出した。すなわち、特定のポリアルキレンオキシド化合物は、疎水な化合物であるため、疎水な膜である多結晶シリコン膜に疎水性相互作用により、吸着しやすいのではないかと考えられる。特定のポリアルキレンオキシド化合物が多結晶シリコン膜に吸着し、砥粒と多結晶シリコン膜との接触を低減させ、これにより、多結晶シリコン膜の研磨速度を抑制するものと考えられる。一方、特定のポリアルキレンオキシド化合物は、窒化ケイ素膜は親水な膜であるため吸着しにくい。これにより、本発明の研磨用組成物は、窒化ケイ素膜は高速で研磨し、多結晶シリコン膜は研磨速度を抑制することができるものと考えられる。
【0014】
以上のように、本発明者は、pHが7未満である研磨用組成物中において、負のゼータ電位を有する砥粒と、特定のポリアルキレンオキシド化合物と、を含む研磨用組成物により窒化ケイ素膜は高速で研磨し、多結晶シリコン膜は研磨速度を抑制するという課題が解決されることを見出したのである。
【0015】
なお、上記メカニズムは推測に基づくものであり、本発明は上記メカニズムに何ら限定されるものではない。
【0016】
[研磨対象物]
本発明に係る研磨対象物は、窒化ケイ素(Si)膜と、多結晶シリコン(ポリシリコン)膜と、を含むことが好ましい。すなわち、本発明の好ましい一実施形態に係る研磨用組成物は、窒化ケイ素膜と、多結晶シリコン膜と、を含む研磨対象物を研磨する用途で使用される。
【0017】
本発明の一実施形態によれば、研磨対象物の用途は制限されず、半導体基板、太陽電池の基板、液晶ディスプレイ(LCD)のTFT等が挙げられる。また、それらのテストウェハ、モニターウェハ、搬送チェックウェハ、ダミーウェハ等にも好適である。
【0018】
本発明に係る研磨対象物は、窒化ケイ素膜および多結晶シリコン膜以外に他の材料を含んでいてもよい。他の材料の例としては、酸化ケイ素、炭窒化ケイ素(Si)、ドープト多結晶シリコン(ドープトポリシリコン)、アンドープト非晶質シリコン(アンドープトアモルファスシリコン)、金属、SiGe等が挙げられる。
【0019】
酸化ケイ素を含む膜の例としては、例えば、オルトケイ酸テトラエチルを前駆体として使用して生成されるTEOS(Tetraethyl Orthosilicate)タイプ酸化ケイ素膜(以下、単に「TEOS膜」とも称する)、HDP(High Density Plasma)膜、USG(Undoped Silicate Glass)膜、PSG(Phosphorus Silicate Glass)膜、BPSG(Boron-Phospho Silicate Glass)膜、RTO(Rapid Thermal Oxidation)膜等が挙げられる。
【0020】
金属を含む膜としては、例えば、タングステン(W)膜、窒化チタン(TiN)膜、ルテニウム(Ru)膜、白金(Pt)膜、銀(Ag)膜、金(Au)膜、ハフニウム(Hf)膜、コバルト(Co)膜、パラジウム(Pd)、イリジウム(Ir)、オスミウム(Os)、ニッケル(Ni)膜、銅(Cu)膜、アルミニウム(Al)膜、タンタル(Ta)膜などが挙げられる。
【0021】
さらに、研磨対象物の形状は特に制限されない。本発明の一実施形態において、研磨用組成物は、たとえば、板状や多面体状等の、平面を有する研磨対象物の研磨に好ましく適用され得る。
【0022】
[砥粒]
本発明に係る研磨用組成物は、砥粒を含む。本発明に係る研磨用組成物に含まれる砥粒は、負のゼータ電位を有する。pHが7未満において、砥粒のゼータ電位が0mVまたは正である場合、窒化ケイ素膜の研磨速度が低くなり、結果として窒化ケイ素膜の研磨速度が多結晶シリコン膜の研磨速度に比べて低くなる(窒化ケイ素の研磨選択比が低くなる)。砥粒は、好ましくはアニオン変性シリカ(アニオン性基を有するシリカ)であり、より好ましくはアニオン変性コロイダルシリカ(アニオン性基を有するコロイダルシリカ)である。砥粒は、1種単独でも、または2種以上組み合わせて用いてもよい。また、砥粒は、市販品を用いてもよいし、合成品を用いてもよい。
【0023】
本発明に係る研磨用組成物は、砥粒としてアニオン変性コロイダルシリカを含むことが好ましい。アニオン変性コロイダルシリカは、表面がアニオン性基で修飾されたコロイダルシリカであり、研磨用組成物において、研磨対象物を機械的に研磨する作用を有する。
【0024】
アニオン変性コロイダルシリカとしては、カルボキシ基、スルホン酸基、ホスホン酸基、アルミン酸基等のアニオン性基が表面に固定化されたコロイダルシリカが好ましく挙げられる。このようなアニオン性基を有するコロイダルシリカの製造方法としては、特に制限されず、例えば、末端にアニオン性基を有するシランカップリング剤とコロイダルシリカとを反応させる方法が挙げられる。
【0025】
具体例として、スルホン酸基をコロイダルシリカに固定化するのであれば、例えば、“Sulfonic acid-functionalized silica through quantitative oxidation of thiol groups”,Chem.Commun.246-247(2003)に記載の方法で行うことができる。具体的には、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のチオール基を有するシランカップリング剤をコロイダルシリカにカップリングさせた後に過酸化水素でチオール基を酸化することにより、スルホン酸基が表面に固定化されたコロイダルシリカ(スルホン酸修飾コロイダルシリカ)を得ることができる。
【0026】
カルボキシ基をコロイダルシリカに固定化するのであれば、例えば、“Novel Silane Coupling Agents Containing a Photolabile 2-Nitrobenzyl Ester for Introduction of a Carboxy Group on the Surface of Silica Gel”,Chemistry Letters,3,228-229(2000)に記載の方法で行うことができる。具体的には、光反応性2-ニトロベンジルエステルを含むシランカップリング剤をコロイダルシリカにカップリングさせた後に光照射することにより、カルボキシ基が表面に固定化されたコロイダルシリカ(カルボン酸修飾コロイダルシリカ)を得ることができる。
【0027】
研磨用組成物中の砥粒のゼータ電位の下限は、-65mV以上が好ましく、-60mV以上がより好ましく、-55mV以上がさらに好ましく、-50mV以上が特に好ましく、-45mV以上が最も好ましい。また、研磨用組成物中の砥粒のゼータ電位の上限は、-5mV以下が好ましく、-10mV以下がより好ましく、-15mV以下がさらに好ましく、-20mV以下が特に好ましく、-25mV以下が最も好ましい。すなわち、研磨用組成物中の砥粒のゼータ電位は、-65mV以上-5mV以下が好ましく、-60mV以上-10mV以下がより好ましく、-55mV以上-15mV以下がさらに好ましく、-50mV以上-20mV以下が特に好ましく、-45mV以上-25mV以下が最も好ましい。
【0028】
上記のようなゼータ電位を有する砥粒であれば、窒化ケイ素膜をより高い研磨速度で研磨することができ、窒化ケイ素膜の研磨速度が多結晶シリコン膜の研磨速度に比べてより高くなる(窒化ケイ素の研磨選択比がより高くなる)。
【0029】
砥粒の平均一次粒子径は、1nm以上であることが好ましく、3nm以上であることがより好ましく、5nm以上であることがさらに好ましい。砥粒の平均一次粒子径が大きくなるにつれて、窒化ケイ素膜の研磨速度が向上する。また、砥粒の平均一次粒子径は、100nm以下であることが好ましく、50nm以下であることがより好ましく、30nm以下であることがさらに好ましい。砥粒の平均一次粒子径が小さくなるにつれて、窒化ケイ素膜の研磨速度が多結晶シリコン膜の研磨速度に比べてより高くなる(窒化ケイ素の研磨選択比がより高くなる)。
【0030】
すなわち、砥粒の平均一次粒子径は、1nm以上100nm以下であることが好ましく、3nm以上50nm以下であることがより好ましく、5nm以上30nm以下であることがさらに好ましい。なお、砥粒の平均一次粒子径は、例えば、BET法から算出した砥粒の比表面積(SA)と、砥粒の密度とを基に算出することができる。
【0031】
また、砥粒の平均二次粒子径は、15nm以上であることが好ましく、20nm以上であることがより好ましく、25nm以上であることがさらに好ましい。砥粒の平均二次粒子径が大きくなるにつれて、研磨中の抵抗が小さくなり、窒化ケイ素膜の安定的な研磨が可能になる。また、砥粒の平均二次粒子径は、200nm以下であることが好ましく、150nm以下であることがより好ましく、100nm以下であることがさらに好ましい。砥粒の平均二次粒子径が小さくなるにつれて、砥粒の単位質量当たりの表面積が大きくなり、研磨対象物との接触頻度が向上し、窒化ケイ素膜の研磨速度がより向上する。すなわち、砥粒の平均二次粒子径は、15nm以上200nm以下であることが好ましく、20nm以上150nm以下であることがより好ましく、25nm以上100nm以下であることがさらに好ましい。一実施形態において、砥粒の平均二次粒子径は、20nm以上70nm未満である。なお、砥粒の平均二次粒子径は、例えばレーザー回折散乱法に代表される動的光散乱法により測定することができ、具体的には実施例に記載の方法により測定された値を採用する。
【0032】
砥粒の平均一次粒子径に対する平均二次粒子径の比(平均二次粒子径/平均一次粒子径、以下「平均会合度」とも称する)は、1.2以上であることが好ましく、1.5以上であることがより好ましく、1.8以上であることがさらに好ましく、2.0以上であることが特に好ましく、2.2以上であることが最も好ましい。砥粒の平均会合度が大きくなるにつれて、多結晶シリコン膜の研磨速度がより向上する。また、砥粒の平均会合度は、5.5以下であることが好ましく、5.0以下であることがより好ましく、4.5以下であることがさらに好ましく、4.0以下であることが特に好ましく、3.5以下であることが最も好ましい。砥粒の平均会合度が小さくなるにつれて、窒化ケイ素膜の研磨速度が多結晶シリコン膜の研磨速度に比べてより高くなる(窒化ケイ素の研磨選択比がより高くなる)。すなわち、砥粒の平均会合度は、1.2以上5.5以下であることが好ましく、1.5以上5.0以下であることがより好ましく、1.8以上4.5以下であることがさらに好ましく、2.0以上4.0以下であることが特に好ましく、2.2以上3.5以下であることが最も好ましい。
【0033】
なお、砥粒の平均会合度は、砥粒の平均二次粒子径の値を平均一次粒子径の値で除することにより得られる。
【0034】
研磨用組成物中の砥粒のアスペクト比の上限は、特に制限されないが、3.5以下であることが好ましく、3.0以下であることがより好ましく、2.5以下であることがさらに好ましく、2.0以下であることが特に好ましく、1.5以下であることが最も好ましい。このような範囲であれば、研磨対象物表面の欠陥をより低減することができる。なお、アスペクト比は、走査型電子顕微鏡により砥粒の画像に外接する最小の長方形をとり、その長方形の長辺の長さを同じ長方形の短辺の長さで除することにより得られる値の平均であり、一般的な画像解析ソフトウエアを用いて求めることができる。研磨用組成物中の砥粒のアスペクト比の下限は、特に制限されないが、1.1以上であることが好ましい。
【0035】
砥粒の形状は、特に制限されず、球形状であってもよいし、非球形状であってもよい。非球形状の具体例としては、三角柱や四角柱などの多角柱状、円柱状、円柱の中央部が端部よりも膨らんだ俵状、円盤の中央部が貫通しているドーナツ状、板状、中央部にくびれを有するいわゆる繭型形状、複数の粒子が一体化しているいわゆる会合型球形状、複数の粒子がほぼ一列につながった数珠型形状、表面に複数の突起を有するいわゆる金平糖形状、ラグビーボール形状、ラグビーボール形状よりもさらに細い針型形状等、種々の形状が挙げられ、特に制限されない。
【0036】
砥粒の大きさ(平均一次粒子径、平均二次粒子径、アスペクト比、粒子の形状等)は、砥粒の製造方法の選択等により適切に制御することができる。
【0037】
本明細書において、砥粒のゼータ電位は、実施例に記載の方法によって測定される値を採用する。砥粒のゼータ電位は、砥粒が有するアニオン性基の量、研磨用組成物のpH等により調整することができる。
【0038】
本発明に係る研磨用組成物において、砥粒は、単独でもまたは2種以上混合して用いてもよい。また、砥粒は、市販品を用いてもよいし合成品を用いてもよい。
【0039】
研磨用組成物中の砥粒の含有量(濃度)は、特に制限されないが、研磨用組成物の全質量に対して、0.1質量%以上であることが好ましく、0.2質量%以上であることがより好ましく、0.5質量%以上であることがさらに好ましく、0.5質量%超であることが特に好ましい。また、研磨用組成物中の砥粒の含有量(濃度)の上限は、研磨用組成物の全質量に対して、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、4質量%以下であることがさらに好ましく、4質量%未満であることが特に好ましい。すなわち、研磨用組成物中の砥粒の含有量(濃度)は、研磨用組成物の全質量に対して、0.1質量%以上10質量%以下であることが好ましく、0.2質量%以上5質量%以下であることがより好ましく、0.5質量%以上4質量%以下であることがさらに好ましく、0.5質量%超4質量%未満であることが特に好ましい。一実施形態において、研磨用組成物中の砥粒の含有量(濃度)は、2質量%以上10質量%以下である。
【0040】
砥粒の含有量がこのような範囲であれば、窒化ケイ素膜の研磨速度が多結晶シリコン膜の研磨速度に比べてより高くなる(窒化ケイ素の研磨選択比がより高くなる)。研磨用組成物が2種以上の砥粒を含む場合には、砥粒の含有量は、これらの合計量を意図する。
【0041】
本発明に係る研磨用組成物は、研磨用組成物中で負のゼータ電位を有する砥粒であれば、本発明の効果を阻害しない範囲内において、アニオン変性シリカ以外の他の砥粒をさらに含んでもよい。このような他の砥粒は、無機粒子、有機粒子、および有機無機複合粒子のいずれであってもよい。無機粒子の具体例としては、例えば、未変性のシリカ、アルミナ、セリア、チタニア等の金属酸化物からなる粒子、窒化ケイ素粒子、炭化ケイ素粒子、窒化ホウ素粒子が挙げられる。有機粒子の具体例としては、例えば、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)粒子が挙げられる。
【0042】
[ポリアルキレンオキシド化合物]
本発明に係る研磨用組成物は、下記式(1)で表されるポリアルキレンオキシド化合物を含む。
【0043】
【化2】
【0044】
式(1)において、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、または炭素数1以上20以下のアルキル基を表す。炭素数1以上20以下のアルキル基としては、炭素数1以上20以下の直鎖アルキル基、分岐アルキル基または環状アルキル基のいずれであってもよいが、炭素数1以上20以下の直鎖アルキル基が好ましい。
【0045】
炭素数1以上20以下のアルキル基の具体例としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tet-ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、2-エチルヘキシル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、3,7-ジメチルオクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基(ラウリル基)、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基等が挙げられる。
【0046】
およびRは、窒化ケイ素の研磨速度の観点から、少なくとも一方が水素原子であるのが好ましく、どちらも水素原子であるのが好ましい。
【0047】
式(1)において、Rは炭素数4のアルキレン基を表す。炭素数4のアルキレン基としては、n-ブチレン基(テトラメチレン基、-CHCHCHCH-基)、1-メチルトリメチレン基(-CH(CH)CHCH-基)、2-メチルトリメチレン基(-CHCH(CH)CH-基)、1-エチルエチレン基(-C(C)CH)1,1-ジメチルエチレン基(-C(CHCH-基)、エチルメチルメチレン基(-C(CH)(C)-)、プロピルメチレン基(-C(C)-)、等が挙げられる。これらのうち、n-ブチレン基(-CHCHCHCH-基)、1-メチルトリメチレン基(-CH(CH)CHCH-基)が好ましい。式(1)の化合物は、例えば、Rがn-ブチレン基の場合、「-(O-R-」として、テトラメチレンオキシド鎖を有する化合物であり、Rが1-メチルトリメチレン基の場合、「-(O-R-」として、ポリブチレンオキシド鎖(ポリ1-メチルトリメチレンオキシド鎖)を有する化合物である。
【0048】
式(1)において、nは、アルキレンオキシ基(O-R)の平均付加モル数であり、3以上100以下の数を示す。nは、好ましくは3以上60以下であり、より好ましくは5以上50以下であり、さらに好ましくは5以上30以下であり、特に好ましくは5以上25以下である。nが上記範囲内であれば、窒化ケイ素膜の研磨速度が多結晶シリコン膜の研磨速度に比べてより高くなる(窒化ケイ素の研磨選択比がより高くなる)。
【0049】
式(1)で表されるポリアルキレンオキシド化合物は、重量平均分子量(Mw)が、100以上6000以下であるのが好ましく、150以上5000以下であるのがより好ましく、200以上4000以下であるのがさらに好ましく、250以上3500以下であるのが特に好ましく、300以上3000未満であるのが最も好ましい。一実施形態において、ポリアルキレンオキシド化合物の重量平均分子量は、3000未満である。ポリアルキレンオキシド化合物の重量平均分子量が上記範囲内であれば、窒化ケイ素膜の研磨速度が多結晶シリコン膜の研磨速度に比べてより高くなる(窒化ケイ素の研磨選択比がより高くなる)。ここで、ポリアルキレンオキシド化合物の重量平均分子量は、ポリスチレンを標準物質として使用するゲル浸透クロマトグラフィー(gel permeation chromatography,GPC)により測定される。
【0050】
ポリアルキレンオキシド化合物の具体例としては、ポリテトラメチレンオキシド、ポリブチレンオキシド(ポリ1-メチルトリメチレンオキシド)が挙げられる。これらのうち、ポリアルキレンオキシド化合物としては、窒化ケイ素の研磨選択比の観点から、ポリテトラメチレンオキシドが好ましい。
【0051】
本発明に係る研磨用組成物において、ポリアルキレンオキシド化合物は、単独でもまたは2種以上混合して用いてもよい。また、ポリアルキレンオキシド化合物は、市販品を用いてもよいし合成品を用いてもよい。
【0052】
研磨用組成物中のポリアルキレンオキシド化合物の含有量(濃度)は、特に制限されないが、研磨用組成物の全質量に対して、0.0001質量%以上であることが好ましく、0.0005質量%以上であることがより好ましく、0.001質量%以上であることがさらに好ましく、0.003質量%以上であることが特に好ましく、0.005質量%以上であることが最も好ましい。また、研磨用組成物中のポリアルキレンオキシド化合物の含有量(濃度)の上限は、研磨用組成物の全質量に対して、5質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがより好ましく、0.5質量%以下であることがさらに好ましく、0.2質量%以下であることが特に好ましく、0.1質量%以下であることが最も好ましい。すなわち、ポリアルキレンオキシド化合物の含有量(濃度)は、研磨用組成物の全質量に対して、0.0001質量%以上5質量%以下であることが好ましく、0.0005質量%以上1質量%以下であることがより好ましく、0.001質量%以上0.5質量%以下であることがさらに好ましく、0.003質量%以上0.2質量%以下であることが特に好ましく、0.005質量%以上0.1質量%以下であることが最も好ましい。
【0053】
ポリアルキレンオキシド化合物の含有量(濃度)がこのような範囲であれば、窒化ケイ素膜の研磨速度が、多結晶シリコン膜の研磨速度に比べてより高くなる(窒化ケイ素の研磨選択比がより高くなる)。研磨用組成物が2種以上のポリアルキレンオキシド化合物を含む場合には、ポリアルキレンオキシド化合物の含有量(濃度)は、これらの合計量を意図する。
【0054】
[pHおよびpH調整剤]
本発明に係る研磨用組成物のpHは、7未満である。研磨用組成物のpHが7以上の場合、多結晶シリコン膜の研磨速度が高くなり、窒化ケイ素の研磨選択比が低くなる。一実施形態において、研磨用組成物のpHは、1を超える。よって、一実施形態において、研磨用組成物のpHは、1を超え7未満である。また、研磨用組成物のpHは、好ましくは1.5以上であり、より好ましくは2.0以上であり、さらに好ましくは2.5以上であり、特に好ましくは3.0以上であり、最も好ましくは3.5以上である。研磨用組成物のpHは、好ましくは6.5以下であり、より好ましくは6.0以下であり、さらに好ましくは5.5以下であり、特に好ましくは5.0以下であり、最も好ましくは4.5以下である。すなわち、研磨用組成物のpHは、好ましくは1.5以上6.5以下であり、より好ましくは2.0以上6.0以下であり、さらに好ましくは2.5以上5.5以下であり、特に好ましくは3.0以上5.0以下であり、最も好ましくは3.5以上4.5以下である。一実施形態において、研磨用組成物のpHは、2以上5以下である。研磨用組成物のpHがこのような範囲であれば、多結晶シリコン膜の研磨速度が、窒化ケイ素膜または酸化ケイ素膜の研磨速度に比べてより高くなる(窒化ケイ素の研磨選択比がより高くなる)。
【0055】
本発明の研磨用組成物において、pHを、7未満に調整するためpH調整剤を含んでいてもよい。pH調整剤としては、無機酸、有機酸、アルカリ等がある。これらは1種単独でもまたは2種以上を組み合わせて使ってもよい。
【0056】
pH調整剤として使用できる無機酸の具体例としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、フッ酸、ホウ酸、炭酸、次亜リン酸、亜リン酸およびリン酸が挙げられる。これらのうち、塩酸、硫酸、硝酸またはリン酸が好ましく、硝酸がより好ましい。硝酸をpH調整剤として用いることにより、窒化ケイ素膜に対する研磨選択性を向上することができ、窒化ケイ素膜に対する研磨速度を好適に向上することができる。
【0057】
pH調整剤として使用できる有機酸の具体例としては、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、2-メチル酪酸、n-ヘキサン酸、3,3-ジメチル酪酸、2-エチル酪酸、4-メチルペンタン酸、n-ヘプタン酸、2-メチルヘキサン酸、n-オクタン酸、2-エチルヘキサン酸、安息香酸、グリコール酸、サリチル酸、グリセリン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、マレイン酸、フタル酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、乳酸、ジグリコール酸、2-フランカルボン酸、2,5-フランジカルボン酸、3-フランカルボン酸、2-テトラヒドロフランカルボン酸、メトキシ酢酸、メトキシフェニル酢酸、フェノキシ酢酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、10-カンファースルホン酸およびイセチオン酸等が挙げられる。
【0058】
無機酸または有機酸の代わりにあるいは無機酸または有機酸と組み合わせて、無機酸または有機酸のアルカリ金属塩等の塩をpH調整剤として用いてもよい。弱酸と強塩基、強酸と弱塩基、または弱酸と弱塩基の組み合わせの場合には、pHの緩衝作用を期待することができる。
【0059】
pH調整剤として使用できるアルカリの具体例としては、例えば、アンモニア、第1族元素の水酸化物(例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム)、第2族元素の水酸化物(例えば、水酸化バリウム)、水酸化第四級アンモニウム(例えば、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド)またはその塩等を挙げることができる。塩の例としては、炭酸塩、炭酸水素塩、硫酸塩、酢酸塩等が挙げられる。
【0060】
一実施形態において、本発明に係る研磨用組成物は、有機酸および無機酸から選択される1種以上のpH調整剤をさらに含有する。すなわち、一実施形態において、本発明に係る研磨用組成物は、pH調整剤として有機酸または無機酸をさらに含有する。pH調整剤として有機酸または無機酸を含有することにより、窒化ケイ素膜に対する研磨選択性を向上することができ、窒化ケイ素膜に対する研磨速度を好適に向上することができる。
【0061】
pH調整剤の含有量は、本発明の効果を奏する範囲内で適宜調整することによって選択することができる。なお、研磨用組成物のpHは、例えばpHメータ(例えば、株式会社堀場製作所製pHメータ(型番:LAQUA))により測定することができる。
【0062】
[分散媒]
本発明に係る研磨用組成物は、各成分を分散するための分散媒を含むことが好ましい。分散媒としては、水;メタノール、エタノール、エチレングリコール等のアルコール類;アセトン等のケトン類等や、これらの混合物などが例示できる。これらのうち、分散媒としては水が好ましい。すなわち、本発明の好ましい形態によると、分散媒は水を含む。本発明のより好ましい形態によると、分散媒は実質的に水からなる。なお、上記の「実質的に」とは、本発明の効果が達成され得る限りにおいて、水以外の分散媒が含まれ得ることを意図する。より具体的には、分散媒は、好ましくは90質量%以上100質量%以下の水と0質量%以上10質量%以下の水以外の分散媒とからなり、より好ましくは99質量%以上100質量%以下の水と0質量%以上1質量%以下の水以外の分散媒とからなる。最も好ましくは、分散媒は水である。
【0063】
研磨用組成物に含まれる成分の作用を阻害しないようにするという観点から、分散媒は、不純物をできる限り含有しない水が好ましい。具体的には、イオン交換樹脂にて不純物イオンを除去した後、フィルタを通して異物を除去した純水や超純水、または蒸留水がより好ましい。
【0064】
[その他の成分]
本発明に係る研磨用組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲内において、錯化剤、防腐剤、防カビ剤、酸化剤、式(1)で表されるポリアルキレンオキシド化合物以外の界面活性剤、式(1)で表されるポリアルキレンオキシド化合物以外の水溶性高分子、溶解助剤等の、研磨用組成物に用いられ得る公知の添加剤をさらに含有してもよい。本発明に係る研磨用組成物は、pHが7未満である。このため、研磨用組成物は、防カビ剤を含むことがより好ましい。すなわち、本発明の一実施形態では、研磨用組成物は、砥粒、ポリアルキレンオキシド化合物および分散媒、ならびにpH調整剤、溶解助剤および防カビ剤からなる群より選択される少なくとも1種から実質的に構成される。本発明の一実施形態では、研磨用組成物は、砥粒、ポリアルキレンオキシド化合物および分散媒、ならびにpH調整剤、溶解助剤および防カビ剤からなる群より選択される少なくとも1種から実質的に構成される。ここで、「研磨用組成物が、砥粒、ポリアルキレンオキシド化合物および分散媒、ならびにpH調整剤、溶解助剤および防カビ剤からなる群より選択される少なくとも1種から実質的に構成される」とは、砥粒、ポリアルキレンオキシド化合物、分散媒、pH調整剤、溶解助剤および防カビ剤の合計含有量が、研磨用組成物に対して、99質量%を超える(上限:100質量%)ことを意図する。好ましくは、研磨用組成物は、砥粒、ポリアルキレンオキシド化合物、分散媒、pH調整剤、溶解助剤および防カビ剤からなる群より選択される少なくとも1種から構成される(上記合計含有量=100質量%)。
【0065】
防カビ剤(防腐剤)は、特に制限されず、所望の用途、目的に応じて適切に選択できる。具体的には、1,2-ベンゾイソチアゾール-3(2H)-オン(BIT)、2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンや、5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン等のイソチアゾリン系防腐剤、およびフェノキシエタノール等が挙げられる。
【0066】
溶解助剤とは、水溶性高分子を分散媒(溶媒)に溶解させる際に共存させて、水溶性高分子の溶解性を向上させる物質である。本発明の一実施形態による研磨用組成物は、溶解助剤をさらに含んでもよい。
【0067】
溶解助剤の例としては、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール等のアルコール化合物;ジエチレングリコールジエチルエーテル、2-メトキシエタノール、2-エトキシエタノール、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコール、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジアセトンアルコール、2-メトキシエチルアセテート、2-エトキシエチルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート等のエーテル化合物;アセトン、メチルエチルケトン、アセチルアセトン、シクロヘキサノン等のケトン化合物等が挙げられる。これら溶解助剤は、単独でもまたは2種以上混合しても用いることができる。
【0068】
[研磨方法および半導体基板の製造方法]
本発明に係る研磨用組成物は、例えば、窒化ケイ素と、多結晶シリコンと、を含む研磨対象物の研磨に好適に用いられる。よって、本発明は、本発明に係る研磨用組成物を用いて、窒化ケイ素および多結晶シリコンを含む研磨対象物を研磨することを有する、研磨方法を提供する。また、本発明は、本発明に係る研磨用組成物を用いて、窒化ケイ素および多結晶シリコンを含む半導体基板を研磨することを有する、半導体基板の製造方法を提供する。また、本発明は、窒化ケイ素および多結晶シリコンを含む半導体基板を、本発明に係る研磨方法により研磨する工程を有する、半導体基板の製造方法を提供する。
【0069】
研磨装置としては、研磨対象物を有する基板等を保持するホルダーと回転数を変更可能なモーター等とが取り付けてあり、研磨パッド(研磨布)を貼り付け可能な研磨定盤を有する一般的な研磨装置を使用することができる。
【0070】
研磨パッドとしては、一般的な不織布、ポリウレタン、および多孔質フッ素樹脂等を特に制限なく使用することができる。研磨パッドには、研磨液が溜まるような溝加工が施されていることが好ましい。
【0071】
研磨条件については、例えば、研磨定盤およびキャリアの回転速度は、10rpm(0.17s-1)以上500rpm(8.33s-1)が好ましい。研磨対象物を有する基板にかける圧力(研磨圧力)は、0.5psi(3.4kPa)以上10psi(68.9kPa)が好ましい。
【0072】
研磨パッドに研磨用組成物を供給する方法も特に制限されず、例えば、ポンプ等で連続的に供給する方法が採用される。この供給量に制限はないが、研磨パッドの表面が常に本発明に係る研磨用組成物で覆われていることが好ましい。
【0073】
研磨終了後、基板を流水中で洗浄し、スピンドライヤ等により基板上に付着した水滴を払い落として乾燥させることにより、金属を含む層を有する基板が得られる。
【0074】
本発明に係る研磨用組成物は、一液型であってもよいし、二液型をはじめとする多液型であってもよい。また、本発明に係る研磨用組成物は、研磨用組成物の原液を水などの希釈液を使って、例えば3倍以上(または、例えば5倍以上)に希釈することによって調製されてもよい。
【0075】
[研磨速度の抑制剤]
本発明に係る研磨用組成物は、窒化ケイ素および多結晶シリコンを含む半導体基板を研磨する際に、選択的に窒化ケイ素を研磨し、多結晶シリコンの研磨を抑制する。よって、本発明によれば、下記式(1):
【0076】
【化3】
【0077】
[式(1)において、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、または炭素数1以上20以下のアルキル基を表し;Rは炭素数4のアルキレン基を表し;nは、アルキレンオキシ基(O-R)の平均付加モル数であり、3以上100以下の数を示す。]
で表されるポリアルキレンオキシド化合物を含む、多結晶シリコン膜の研磨速度の抑制剤が提供される。
【0078】
[研磨速度]
本発明に係る研磨用組成物を用いて研磨した場合、窒化ケイ素膜の研磨速度は、好ましくは150Å/min以上5000Å/min以下であり、より好ましくは200Å/min以上2500Å/min以下であり、さらに好ましくは220Å/min以上2000Å/min以下であり、特に好ましくは250Å/min以上1500Å/min以下である。本発明に係る研磨用組成物を用いて研磨した場合、多結晶シリコン膜の研磨速度は、好ましくは100Å/min以下であり、より好ましくは50Å/min以下であり、さらに好ましくは45Å/min以下であり、特に好ましくは40Å/min以下である。窒化ケイ素膜および/または酸化ケイ素膜の研磨速度の下限は、特に制限はないが、実用上、5Å/min以上である。
【0079】
[研磨選択比]
本発明に係る研磨用組成物が窒化ケイ素および多結晶シリコンを含む研磨対象物を研磨する用途で使用された場合、多結晶シリコンの研磨速度に対する窒化ケイ素の研磨速度の比(窒化ケイ素の研磨速度/多結晶シリコンの研磨速度)は、10以上であるのが好ましく、12以上であるのがより好ましく、15以上であるのがさらに好ましく、20以上であるのが特に好ましく、30以上であるのが最も好ましい。
【0080】
本発明の実施形態を詳細に説明したが、これは説明的かつ例示的なものであって限定的ではなく、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によって解釈されるべきであることは明らかである。
【0081】
本発明は、下記態様および形態を包含する。
【0082】
[1]砥粒と、ポリアルキレンオキシド化合物と、を含み、pHが7未満である研磨用組成物であって、前記砥粒は、前記研磨用組成物中で負のゼータ電位を有し、前記ポリアルキレンオキシド化合物は、下記式(1):
【0083】
【化4】
【0084】
[式(1)において、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、または炭素数1以上20以下のアルキル基を表し;Rは炭素数4のアルキレン基を表し;nは、アルキレンオキシ基(O-R)の平均付加モル数であり、3以上100以下の数を示す。]
で表される、研磨用組成物。
【0085】
[2]前記ポリアルキレンオキシド化合物は、ポリテトラメチレンオキシドである、上記[1]に記載の研磨用組成物。
【0086】
[3]前記ポリアルキレンオキシドの重量平均分子量は、3000未満である、上記[1]または[2]に記載の研磨用組成物。
【0087】
[4]前記砥粒は、2質量%以上10質量%以下で含有される、上記[1]~[3]のいずれかに記載の研磨用組成物。
【0088】
[5]前記砥粒の平均二次粒子径が、20nm以上70nm未満である、上記[1]~[4]のいずれかに記載の研磨用組成物。
【0089】
[6]前記砥粒は、アニオン変性コロイダルシリカである、上記[1]~[5]のいずれかに記載の研磨用組成物。
【0090】
[7]pHが、2以上5以下である、上記[1]~[6]のいずれかに記載の研磨用組成物。
【0091】
[8]pH調整剤として有機酸または無機酸をさらに含有する、上記[1]~[7]のいずれかに記載の研磨用組成物。
【0092】
[9]窒化ケイ素および多結晶シリコンを含む研磨対象物を研磨する用途で使用される、上記[1]~[8]のいずれかに記載の研磨用組成物。
【0093】
[10]前記多結晶シリコンの研磨速度に対する前記窒化ケイ素の研磨速度の比(窒化ケイ素ン/多結晶シリコン)が20以上である、上記[9]に記載の研磨用組成物。
【0094】
[11]上記[1]~[10]のいずれかに記載の研磨用組成物を用いて、窒化ケイ素および多結晶シリコンを含む研磨対象物を研磨する工程を含む、研磨方法。
【実施例0095】
本発明を、以下の実施例及び比較例を用いてさらに詳細に説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。なお、特記しない限り、「%」及び「部」は、それぞれ、「質量%」及び「質量部」を意味する。
【0096】
<砥粒の平均一次粒子径>
砥粒の平均一次粒子径は、マイクロメリティックス社製の“Flow Sorb II 2300”を用いて測定されたBET法によるシリカ粒子の比表面積と、砥粒の密度とから算出した。
【0097】
<砥粒の平均二次粒子径>
砥粒の平均二次粒子径は、動的光散乱式粒子径・粒度分布装置 UPA-UTI151(日機装株式会社製)により、体積平均粒子径(体積基準の算術平均径;Mv)として測定した。
【0098】
<砥粒の平均会合度>
砥粒の平均会合度は、砥粒の平均二次粒子径の値を砥粒の平均一次粒子径の値で除することにより算出した。
【0099】
<砥粒のゼータ電位>
研磨用組成物中の砥粒のゼータ電位は、研磨用組成物をマルバーン・パナリティカル社製、Zetasizer Nanoに供し、測定温度25℃の条件下でレーザードップラー法(電気泳動光散乱測定法)にて測定し、得られるデータをSmoluchowskiの式で解析することにより、算出した。
【0100】
<研磨用組成物のpH>
研磨用組成物のpHは、ガラス電極式水素イオン濃度指示計(株式会社堀場製作所製 型番:F-23)を使用し、標準緩衝液(フタル酸塩pH緩衝液pH:4.01(25℃)、中性リン酸塩pH緩衝液pH:6.86(25℃)、炭酸塩pH緩衝液pH:10.01(25℃))を用いて3点校正した後で、ガラス電極を研磨用組成物に入れて、2分以上経過して安定した後の値をpH値とした。
【0101】
<研磨用組成物の電気伝導度>
研磨用組成物の電気伝導度(EC)は、卓上型電気伝導度計(株式会社堀場製作所製、型番:DS-71 LAQUA(登録商標))により測定した。
【0102】
[砥粒の調製]
アニオン変性コロイダルシリカとして、スルホン酸修飾コロイダルシリカ(“Sulfonic acid-functionalized silica through quantitative oxidation of thiol groups”, Chem. Commun. 246-247 (2003)に記載の方法で、砥粒1~3のアニオン変性コロイダルシリカを作製した。なお、スルホン酸修飾には、2種類のコロイダルシリカ(砥粒)を用いた(砥粒1および砥粒2の2種)。下記砥粒3および砥粒4は、砥粒1と同じ砥粒であり、シリカ固形分の総質量に対するシランカップリング剤濃度(MPS修飾量):0.24質量%、0.6質量%、0.96質量%)が異なるものである。
【0103】
・砥粒1:(MPS修飾量0.6質量%)平均一次粒子径:14nm、平均二次粒子径14nm、平均会合度:2.4
・砥粒2:(MPS修飾量0.6質量%)平均一次粒子径:35nm、平均二次粒子径70nm、平均会合度:2.0
・砥粒3:(MPS修飾量0.24質量%)平均一次粒子径:14nm、平均二次粒子径14nm、平均会合度:2.4
・砥粒4:(MPS修飾量0.96質量%)平均一次粒子径:14nm、平均二次粒子径14nm、平均会合度:2.4
[研磨用組成物の調製]
(実施例1)
砥粒として上記で得られた砥粒1(アニオン変性コロイダルシリカ)を最終濃度3質量%となるように、分散媒である純水に室温(25℃)で加えた。さらに、最終濃度0.014mMとなるように防カビ剤として2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン(THE DOW CHEMICAL COMPANY製)を加え混合液を得た。
【0104】
その後、ポリアルキレンオキシド化合物としてポリテトラメチレンオキシド(重量平均分子量:1000、富士フィルム和光純薬株式会社製)を最終濃度0.01質量%となるように加え、pH調整剤として硝酸(HNO)をpH4となるように加え、室温(25℃)で30分攪拌混合し、実施例1の研磨用組成物を調製した。得られた研磨用組成物のpHを測定すると4であり、電気伝導度は1mS/cmであった。
【0105】
得られた研磨用組成物中の砥粒1(アニオン変性コロイダルシリカ)のゼータ電位を、上記の方法に従い測定したところ、-40mVであった。さらに、研磨用組成物中の砥粒1(アニオン変性コロイダルシリカ)の粒子径は、用いた砥粒1(アニオン変性コロイダルシリカ)の粒子径と同様であった。
【0106】
(実施例2~10、比較例1~4)
各成分の種類およびその濃度、並びにpHを下記表1のように変更したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2~10の各研磨用組成物および比較例1~4の各研磨用組成物を調製した。各研磨用組成物の構成を下記表1に示す。実施例3、6、7、9、10および比較例1~4では砥粒1;実施例2では砥粒2;実施例4では砥粒3;実施例5および8では砥粒4;を用いた。また、比較例2および3では、ポリアルキレンオキシド化合物として、ポリエチレングリコール(PEG)を用いた(表1中、「PEG200」および「PEG4000」と表記)。下記表1中の「-」は、その剤を使用しなかったことを表す。なお、各研磨用組成物のpH、各研磨用組成物中の砥粒の粒子径を測定したところ、表1に示す値となった。
【0107】
[評価]
〈研磨用組成物の研磨速度の評価〉
各研磨用組成物を用いて、各研磨対象物の表面を下記の条件で研磨した。研磨対象物としては、以下の(1)、(2)を準備した。
【0108】
(1)窒化ケイ素膜(Si膜):表面に厚さ2000Åの窒化ケイ素膜を形成したシリコンウェーハ(200mm、ブランケットウェーハ)
(2)多結晶シリコン膜(poly-Si膜):表面に厚さ5000Åの多結晶シリコン膜を形成したシリコンウェーハ。
【0109】
(研磨装置および研磨条件)
研磨装置:アプライド・マテリアルズ製200mm用CMP片面研磨装置 Mirra
研磨パッド:ニッタ・ハース株式会社製 硬質ポリウレタンパッド IC1010
研磨圧力:4.0psi(1psi=6894.76Pa)
研磨定盤回転数:47rpm
ヘッド(キャリア)回転数:43rpm
研磨用組成物の供給:掛け流し
研磨用組成物供給量:200mL/分
研磨時間:60秒。
【0110】
(研磨速度の算出)
各研磨対象物について、研磨前後の厚みを光学式膜厚測定器(ASET-f5x:ケーエルエー・テンコール株式会社製)で求めた。膜厚は、光学式膜厚測定器(ASET-f5x:ケーエルエー・テンコール社製)によって求めた。
【0111】
各研磨対象物において、研磨前後の膜厚の差[(研磨前の厚み)-(研磨後の厚み)]を研磨時間で除することにより、それぞれの研磨対象物における研磨速度を算出した。窒化ケイ素膜について、150Å/min以上であれば、実用可能である。窒化ケイ素膜と多結晶シリコン膜との研磨速度比について、窒化ケイ素の研磨速度/多結晶シリコンの研磨速度(表1中、Si/poly-Si)が10以上(好ましくは20以上)であれば、実用可能である。
【0112】
以上の評価結果を表1に併せて示す。表1において、窒化ケイ素膜は「Si」で示し、多結晶シリコン膜は「poly-Si」で示す。
【0113】
【表1】
【0114】
上記表1から明らかなように、実施例の研磨用組成物は、窒化ケイ素膜の研磨速度が高く、かつ、多結晶シリコン膜の研磨速度を抑えることができ、窒化ケイ素膜の研磨速度比が高いものが得られることがわかる。一方、比較例の研磨用組成物は、窒化ケイ素膜の研磨速度が低かったり、多結晶シリコン膜の研磨速度が高すぎたり等により、窒化ケイ素膜の研磨速度比が高いものが得られないことがわかる。
【0115】
よって、本発明に係る研磨用組成物は、窒化ケイ素膜を高速で研磨し、かつ、多結晶シリコン膜の研磨速度を抑えることができることがわかる。
【0116】
なお、上記表1は、窒化ケイ素膜を有する研磨対象物および多結晶シリコン膜を有する研磨対象物を別々に研磨して得られた結果である。しかしながら、窒化ケイ素および多結晶シリコンを有する研磨対象物を研磨した場合であっても、上記表1と同様の研磨速度および研磨速度の研磨選択比(窒化ケイ素の研磨速度/多結晶シリコンの研磨速度)の結果が得られると推測される。