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特開2024-135604フェノキシ樹脂、その製造方法、樹脂組成物及び硬化物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024135604
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】フェノキシ樹脂、その製造方法、樹脂組成物及び硬化物
(51)【国際特許分類】
   C08G 65/40 20060101AFI20240927BHJP
   C08G 59/40 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
C08G65/40
C08G59/40
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023046383
(22)【出願日】2023-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100132230
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 一也
(74)【代理人】
【識別番号】100088203
【弁理士】
【氏名又は名称】佐野 英一
(74)【代理人】
【識別番号】100100192
【弁理士】
【氏名又は名称】原 克己
(74)【代理人】
【識別番号】100198269
【弁理士】
【氏名又は名称】久本 秀治
(74)【代理人】
【識別番号】100226894
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 夏詩子
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 広樹
(72)【発明者】
【氏名】江越 友哉
(72)【発明者】
【氏名】石原 一男
【テーマコード(参考)】
4J005
4J036
【Fターム(参考)】
4J005AA24
4J005BA00
4J005BB01
4J005BB02
4J036AA01
4J036AC01
4J036AE07
4J036DA01
4J036DA02
4J036DC40
4J036DC41
4J036FA01
4J036FB12
4J036GA04
4J036GA23
4J036JA08
(57)【要約】      (修正有)
【課題】2官能エポキシ樹脂と1分子中にフェノール性水酸基及び/又は活性エステル基を官能基として2つ有する2官能化合物とを二段法で反応させる際に、反応が十分に進行し、かつ得られたフェノキシ樹脂が他材料と配合した際の貯蔵安定性に優れるフェノキシ樹脂の製造方法、並びにその製造方法により得られるフェノキシ樹脂、フェノキシ樹脂組成物、及び硬化物を提供する。
【解決手段】2官能エポキシ樹脂と1分子中にフェノール性水酸基及び/又は活性エステル基を官能基として2つ有する2官能化合物とを下記式(1)で表される4級ホスホニウム塩のカルボン酸塩の存在下に反応させるフェノキシ樹脂の製造方法。

【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2官能エポキシ樹脂と、1分子中にフェノール性水酸基及び/又は活性エステル基を官能基として2つ有する2官能化合物とを触媒の存在下で反応させてフェノキシ樹脂を製造する方法であって、該触媒が下記式(1)で表される4級ホスホニウム塩のカルボン酸塩であることを特徴とするフェノキシ樹脂の製造方法。
【化1】
式中、R~Rはそれぞれ独立に、アルキル基、アリール基又はアラルキル基を表し、同一の基であっても異なる基であってもよい。Xはポリカルボン酸から2個のカルボキシ基を除いた構造である。
【請求項2】
Xが、下記式(2a)~(2d)で表される2価の基のいずれかである請求項1に記載のフェノキシ樹脂の製造方法。
【化2】
式中、R~Rはそれぞれ独立に、水素原子、アルキル基、水酸基、アミノ基、カルボキシル基、又はカルボキシアルキル基である。R10はメチレン基又はエチレン基であり、R11~R18はそれぞれ独立に、水素原子、アルキル基、又はカルボキシ基である。R19~R22はそれぞれ独立に、水素原子、アルキル基、水酸基、アミノ基、又はアルコキシ基である。
【請求項3】
2官能エポキシ樹脂1.0モルに対し、2官能化合物を0.95~1.05モル使用する請求項1に記載のフェノキシ樹脂の製造方法。
【請求項4】
4級ホスホニウム塩のカルボン酸塩の使用量が、2官能エポキシ樹脂と2官能化合物の合計量100質量部に対して0.001~5質量部である請求項1に記載のフェノキシ樹脂の製造方法。
【請求項5】
2官能エポキシ樹脂及び/又は2官能化合物の一部又は全部が、リン含有化合物である請求項1に記載のフェノキシ樹脂の製造方法。
【請求項6】
得られるフェノキシ樹脂のリン含有率が1~6質量%である請求項5に記載のフェノキシ樹脂の製造方法。
【請求項7】
得られるフェノキシ樹脂のエポキシ当量が4,000~200,000g/eq.である請求項1に記載のフェノキシ樹脂の製造方法。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の製造方法で得られたことを特徴とするフェノキシ樹脂。
【請求項9】
重量平均分子量が10,000~150,000のフェノキシ樹脂であって、下記式(1)で表される4級ホスホニウム塩のカルボン酸塩を0.001~5質量%含有することを特徴とするフェノキシ樹脂。
【化3】
式中、R~Rはそれぞれ独立に、アルキル基、アリール基又はアラルキル基を表し、同一の基であっても異なる基であってもよい。Xはポリカルボン酸から2個のカルボキシ基を除いた構造である。
【請求項10】
請求項9に記載のフェノキシ樹脂に硬化成分を配合してなる樹脂組成物。
【請求項11】
硬化成分が、エポキシ樹脂、アクリル酸エステル樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂、酸無水物化合物、アミン系化合物、イミダゾール系化合物、アミド系化合物、カチオン重合開始剤、有機ホスフィン類、ポリイソシアネート化合物、及びブロックイソシアネート化合物から選ばれる少なくとも1つである請求項10に記載の樹脂組成物。
【請求項12】
更に充填材が配合されている請求項10に記載の樹脂組成物。
【請求項13】
請求項10~12のいずれか1項に記載の樹脂組成物を硬化してなる硬化物。
【請求項14】
請求項10~12のいずれか1項に記載の樹脂組成物を用いてなる電気・電子回路用積層板。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反応活性に優れ、得られるフェノキシ樹脂が他の成分、特に硬化成分と混合した際の貯蔵安定性に優れるフェノキシ樹脂の製造方法と、この製造方法により得られるフェノキシ樹脂に関する。また、本発明は、このフェノキシ樹脂を用いて得られる樹脂組成物及び硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂は耐熱性、接着性、耐薬品性、耐水性、機械的強度及び電気特性等に優れていることから、塗料、土木、接着、電気材料用途等の分野で広く使用されている。そして種々の方法で高分子量化することで製膜性が付与される。その高分子量化されたエポキシ樹脂は、フェノキシ樹脂と称される。特にビスフェノールA型のフェノキシ樹脂は、主に塗料用ワニスのベース樹脂、フィルム成形用のベース樹脂として、またエポキシ樹脂ワニスに添加して流動性の調整や硬化物としたときの靭性改良、接着性改良の目的に使用される。また、リン原子や臭素原子を骨格中に有するものは、エポキシ樹脂組成物や熱可塑性樹脂に配合される難燃剤として使用されている。
【0003】
フェノキシ樹脂の製造方法としては、一般的に、2官能フェノール化合物にアルカリの存在下、エピハロヒドリンを反応させる「一段法」や、2官能エポキシ樹脂と2官能フェノール化合物を触媒の存在下で反応させる「二段法」等が知られている。二段法は一段法に比べて食塩等の副生成物がほとんど生じないため、合成後に精製することが困難なフェノキシ樹脂の製造に適した方法であることが知られている。非特許文献1には二段法によりフェノキシ樹脂を製造する際の触媒として、オニウム塩系化合物、アルカリ性化合物類等が一般的に使用されることが記載されている。
【0004】
フェノキシ樹脂を前述したような塗料、土木、接着、電気材料等の分野で用いる場合、主にベース樹脂として使用されるため、エポキシ樹脂や硬化剤を始めとする多材料との混合物として使用することが一般的である。本発明者らの詳細な検討によれば、二段法で製造する際に、上記非特許文献1に記載されているようなオニウム塩系化合物、アルカリ性化合物類を触媒として使用したフェノキシ樹脂は、他材料と混合した際の貯蔵安定性が不十分となる場合がある。また、リン系化合物としてトリフェニルホスフィンが触媒として使用されることも非特許文献1に記載されているが、トリフェニルホスフィンは二段法の触媒としては活性が不十分であった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】総説エポキシ樹脂 第1巻 基礎編I エポキシ樹脂技術協会(2003)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、2官能エポキシ樹脂と1分子中にフェノール性水酸基及び/又は活性エステル基を官能基として2つ有する2官能化合物とを二段法で反応させる際に、反応が十分に進行でき、かつ得られたフェノキシ樹脂が他材料との配合した際の貯蔵安定性に優れるフェノキシ樹脂の製造方法を提供することにある。また、この製造方法により得られるフェノキシ樹脂、これを含むフェノキシ樹脂組成物及び硬化物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、2官能エポキシ樹脂と1分子中にフェノール性水酸基及び/又は活性エステル基を官能基として2つ有する2官能化合物を原料として用いてフェノキシ樹脂を得る際に、特定の4級ホスホニウム塩のカルボン酸塩を触媒として使用することにより、上記課題を解決し得ることを見出し、発明の完成に至った。
【0008】
すなわち本発明は、2官能エポキシ樹脂と1分子中にフェノール性水酸基及び/又は活性エステル基を官能基として2つ有する2官能化合物とを触媒の存在下で反応させる重量平均分子量(Mw)が10,000~150,000であるフェノキシ樹脂の製造方法であって、該触媒が下記式(1)で表される4級ホスホニウム塩のカルボン酸塩であることを特徴とするフェノキシ樹脂の製造方法である。
【化1】
式中、R~Rはそれぞれ独立に、アルキル基、アリール基又はアラルキル基を表し、同一の基であっても異なる基であってもよい。Xはポリカルボン酸から2個のカルボキシ基を除いた残基である。
【0009】
上記Xは、下記式(2a)~(2d)で表される2価の基のいずれかであることが好ましい。
【化2】
式中、R~Rはそれぞれ独立に、水素原子、アルキル基、水酸基、アミノ基、カルボキシル基、又はカルボキシアルキル基である。R10はメチレン基又はエチレン基であり、R11~R18はそれぞれ独立に、水素原子、アルキル基、又はカルボキシ基である。R19~R22はそれぞれ独立に、水素原子、アルキル基、水酸基、アミノ基、又はアルコキシ基である。
【0010】
上記2官能エポキシ樹脂1.0モルに対し、上記2官能化合物を0.95~1.05モル使用することが好ましく、上記4級ホスホニウム塩のカルボン酸塩の使用量は、2官能エポキシ樹脂と2官能化合物の合計使用量の0.001~5質量%であることが好ましい。
【0011】
上記2官能エポキシ樹脂の一部又は全部、上記2官能化合物の一部又は全部は、又は両者が分子内にリンを含有するリン含有化合物であることが好ましく、得られるフェノキシ樹脂のリン含有率が1~6質量%であることが好ましい。
得られるフェノキシ樹脂のエポキシ当量は、4,000~200,000g/eq.であることが好ましい。
また、本発明は、上記製造方法で得られたことを特徴とするフェノキシ樹脂である。
【0012】
また、本発明は、Mwが10,000~150,000のフェノキシ樹脂であって、上記式(1)で表される4級ホスホニウム塩のカルボン酸塩を0.001~5質量%含有することを特徴とするフェノキシ樹脂である。
【0013】
また本発明は、上記フェノキシ樹脂に硬化成分を配合してなる樹脂組成物である。
上記硬化成分は、エポキシ樹脂、アクリル酸エステル樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂、酸無水物化合物、アミン系化合物、イミダゾール系化合物、アミド系化合物、カチオン重合開始剤、有機ホスフィン類、ポリイソシアネート化合物、及びブロックイソシアネート化合物から選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。
上記樹脂組成物は更に充填材が配合されていることが好ましい。
【0014】
また本発明は、上記樹脂組成物を硬化してなる硬化物であり、上記樹脂組成物を用いてなる電気・電子回路用積層板である。
【発明の効果】
【0015】
本発明のフェノキシ樹脂の製造方法は、十分な反応速度を有する。また、本発明のフェノキシ樹脂は、比較的エポキシ当量が低く、エポキシ基が多く残存しているのでフェノキシ樹脂自体が硬化に関与することができる。他の成分、特に硬化成分を配合した際の貯蔵安定性にも優れる。また、フェノキシ樹脂を固形化する場合は、反応溶媒回収時にかかる熱履歴によって、不要な重合等が起こる場合があるため、残存触媒の除去や不活性化を行うことが一般的である。しかしながら、本発明の製造方法では、残存触媒によるこのような重合等の反応はほとんど起こらないので、残存触媒を除去する必要がなくコスト的にも有利である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
本発明のフェノキシ樹脂の製造方法は、2官能エポキシ樹脂と1分子中にフェノール性水酸基及び/又は活性エステル基(アシルオキシ基)を官能基として2つ有する化合物を上記式(1)で表される4級ホスホニウム塩のカルボン酸塩(ホスホニウムカチオンとポリカルボン酸のアニオン残基との塩)の存在下で反応させる。
なお、本明細書において、本発明のフェノキシ樹脂の製造方法を「本発明の製造方法」と称することがある。本発明の製造方法で得られたフェノキシ樹脂を本発明のフェノキシ樹脂と称することがある。1分子中にフェノール性水酸基及び/又は活性エステル基(アシルオキシ基)を官能基として2つ有する2官能化合物を単に「2官能化合物」と称することがある。
また、本明細書において、「ポリカルボン酸のアニオン残基」とは、ポリカルボン酸の1個又は2個以上(典型的には1個)のカルボキシル基の水素原子が外れて、1価又は2価以上(典型的には1価)のカルボキシルアニオンとなったものを指すものとする。
【0017】
本発明のフェノキシ樹脂の製造方法で使用する2官能エポキシ樹脂は、分子内に2個のエポキシ基を有するエポキシ樹脂であればよい。2官能エポキシ樹脂としての純度が高ければ、位置異性体やオリゴマーが含まれてもよい。これらの2官能エポキシ樹脂は1種のみでも複数種を組み合わせて使用してもよい。
【0018】
2官能エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールE型エポキシ樹脂、ビスフェノールZ型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、ビスフェノールアセトフェノン型エポキシ樹脂、ビスフェノールトリメチルシクロヘキサン型エポキシ樹脂、ビスフェノールフルオレン型エポキシ樹脂(例えば、ZX-1201(日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製)等)、ビスクレゾールフルオレン型エポキシ樹脂(例えば、OGSOL CG-500(大阪ガスケミカル株式会社製)等)、テトラメチルビスフェノールA型エポキシ樹脂、テトラメチルビスフェノールF型エポキシ樹脂(例えば、YSLV-80XY(日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製)等)、テトラ-t-ブチルビスフェノールA型エポキシ樹脂、テトラメチルビスフェノールS型エポキシ樹脂、ジヒドロキシジフェニルエーテル型エポキシ樹脂、チオジフェノール型エポキシ樹脂、テトラ-t-ブチルビスフェノールA型エポキシ樹脂、テトラブロムビスフェノールA型エポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂や、ビフェノール型エポキシ樹脂、テトラメチルビフェノール型エポキシ樹脂(例えば、YX4000(三菱ケミカル株式会社製)等)、ジメチルビフェノール型エポキシ樹脂、テトラ-t-ブチルビフェノール型エポキシ樹脂等のビフェノール型エポキシ樹脂や、ハイドロキノン型エポキシ樹脂、メチルハイドロキノン型エポキシ樹脂、ジ-t-ブチルハイドロキノン型エポキシ樹脂(例えば、YDC-1312(日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製)等)、レゾルシン型エポキシ樹脂、メチルレゾルシン型エポキシ樹脂、カテコール型エポキシ樹脂等のベンゼンジオール型エポキシ樹脂や、ジヒドロキシアントラセン型エポキシ樹脂、ヒドロアントラハイドロキノン型エポキシ樹脂、ジヒドロキシナフタレン型エポキシ樹脂、ビスナフトールフルオレン型エポキシ樹脂、ジフェニルジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0019】
更に、上記2官能エポキシ樹脂の芳香環に水素を添加した2官能エポキシ樹脂や、アジピン酸、コハク酸、フタル酸、テトラヒドロフタル酸、メチルヘキサヒドロフタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、ビフェニルジカルボン酸、ダイマー酸等の種々のジカルボン酸類と、エピハロヒドリンとから製造されるグリシジルエステル型エポキシ樹脂や、アニリン等のアミン化合物と、エピハロヒドリンとから製造されるグリシジルアミン型エポキシ樹脂や、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル、ポリテトラメチレングリコールジグリシジルエーテル、1,5-ペンタンジオールジグリシジルエーテル、ポリペンタメチレングリコールジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ポリヘキサメチレングリコールジグリシジルエーテル、1,7-ヘプタンジオールジグリシジルエーテル、ポリヘプタメチレングリコールジグリシジルエーテル、1,8-オクタンジオールジグリシジルエーテル、1,10-デカンジオールジグリシジルエーテル、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオールジグリシジルエーテル等の鎖状構造のみからなる(ポリ)アルキレングリコール型エポキシ樹脂や、1,4-シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル等の環状構造を有するアルキレングリコール型エポキシ樹脂や、脂肪族環状エポキシ樹脂や、リン含有2官能エポキシ樹脂(例えば、FX-305(日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製)、ジフェニルホスフィニルハイドロキノンジグリシジルエーテル等)等も挙げられる。
【0020】
フェノキシ樹脂の耐熱性の向上のためには、ジヒドロキシナフタレン型エポキシ樹脂、ビスフェノールフルオレン型エポキシ樹脂、ビスクレゾールフルオレン型エポキシ樹脂、ビスナフトールフルオレン型エポキシ樹脂が好ましく、ビスフェノールフルオレン型エポキシ樹脂、ビスクレゾールフルオレン型エポキシ樹脂、ビスナフトールフルオレン型エポキシ樹脂等のフルオレン環構造を有する2官能エポキシ樹脂がより好ましい。
難燃性付与のためには、テトラブロムビスフェノールAエポキシ樹脂、リン含有2官能エポキシ樹脂が好ましく、リン含有2官能エポキシ樹脂がより好ましい。
【0021】
本発明の製造方法で使用する2官能化合物としては、芳香環に結合した水酸基を2個有するジフェノール化合物(B1)、芳香環に結合したアシルオキシ基を2つ有するジエステル系化合物(B2)、又は芳香環に結合した水酸基とアシルオキシ基を1個ずつ有するモノエステル系化合物(B3)のいずれかであればよい。なお、ジエステル系化合物(B2)とモノエステル系化合物(B3)を区別せずに、「エステル系化合物」と称することがある。2官能化合物としての純度が高ければ、位置異性体については含まれていてもよい。また、これらの2官能化合物は1種のみでも複数種を組み合わせて使用してもよい。なお、アシルオキシ基はR-CO-O-で表され、Rは炭素数1~19の炭化水素基である。炭素数1~19の炭化水素基としては、炭素数1~12のアルキル基、炭素数6~12のアリール基、又は炭素数7~13のアラルキル基が好ましい。
【0022】
炭素数1~12のアルキル基としては、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよく、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、t-ペンチル基、シクロペンチル基、n-ヘキシル基、イソヘキシル基、シクロヘキシル基、n-ヘプチル基、シクロヘプチル基、メチルシクロヘキシル基、n-オクチル基、シクロオクチル基、n-ノニル基、3,3,5-トリメチルシクロヘキシル基、n-デシル基、シクロデシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基、シクロドデシル基等が挙げられる。
炭素数6~12のアリール基としては、例えば、フェニル基、トリル基、エチルフェニル基、キシリル基、n-プロピルフェニル基、イソプロピルフェニル基、メシチル基、ナフチル基、メチルナフチル基等が挙げられる。
【0023】
炭素数7~13のアラルキル基としては、例えば、ベンジル基、メチルベンジル基、ジメチルベンジル基、トリメチルベンジル基、フェネチル基、2-フェニルイソプロピル基、ナフチルメチル基等が挙げられる。
【0024】
アシルオキシ基としては、炭素数1~7の炭化水素基を有するアシルオキシ基が好ましく、アセチルオキシ基、プロパノイルオキシ基、ブタノイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基、メチルベンゾイルオキシ基がより好ましく、アセチルオキシ基、ベンゾイルオキシ基が更に好ましく、アセチルオキシ基が特に好ましい。
【0025】
ジフェノール化合物(B1)としては、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールE、ビスフェノールZ、ビスフェノールS、ビスフェノールAD、ビスフェノールAF、ビスフェノールB、ビスフェノールBP、ビスフェノールC、ビスフェノールG、ビスフェノールM、ビスフェノールP、ビスフェノールPH、ビスフェノールアセトフェノン、ビスフェノールトリメチルシクロヘキサン、ビスフェノールフルオレン、ビスクレゾールフルオレン、テトラメチルビスフェノールA、テトラメチルビスフェノールF、テトラ-t-ブチルビスフェノールA、テトラメチルビスフェノールS、ジヒドロキシジフェニルエーテル、ジヒドロキシジフェニルメタン、ビス(ヒドロキシフェノキシ)ベンゼン、チオジフェノール、ジヒドロキシスチルベン等のビスフェノール化合物や、ビフェノール、テトラメチルビフェノール、ジメチルビフェノール、テトラ-t-ブチルビフェノール等のビフェノール化合物や、ハイドロキノン、メチルハイドロキノン、ジブチルハイドロキノン、レゾルシン、メチルレゾルシン等のベンゼンジオール化合物や、ジヒドロキシアントラセン、ジヒドロキシナフタレン、ジヒドロアントラハイドロキノンや、10-(2,5-ジヒドロキシフェニル)-9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキサイド(DOPO-HQ)、10-(2,7-ジヒドロキシナフチル)-9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキサイド(DOPO-NQ)、10-(1,4-ジヒドロキシ-2-ナフチル)-10H-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキシド、10-(2,5-ジヒドロキシフェニル)-8-ベンジル-9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキシド、10-(2,7-ジヒドロキシ-1-ナフチル)-8-ベンジル-9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキシド、ジフェニルホスフィニルヒドロキノン、ジフェニルホスフィニル-1,4-ジオキシナフタリン、1,4-シクロオクチレンホスフィニル-1,4-フェニルジオール、1,5-シクロオクチレンホスフィニル-1,4-フェニルジオール等のリン含有フェノール化合物等が挙げられる。
【0026】
フェノキシ樹脂の耐熱性向上のためには、ジヒドロキシナフタレン、ビスフェノールフルオレン、ビスクレゾールフルオレンが好ましく、ビスフェノールフルオレン、ビスクレゾールフルオレンがより好ましい。また難燃性を付与する目的で、リン含有フェノール化合物を用いてもよい。
【0027】
ジエステル系化合物(B2)及びモノエステル系化合物(B3)としては、上記ジフェノール化合物(B1)の水酸基がアシルオキシ基(活性エステル)に2個又は1個置換された化合物が挙げられる。ジエステル系化合物(B2)はジフェノール化合物(B1)を有機酸の酸無水物、有機酸のハロゲン化物、又は有機酸等のアシル化剤との縮合反応でアシル化して得られる。モノエステル系化合物(B3)もジフェノール化合物(B1)のアシル化時のアシル化剤のモル比調整することで得られる、モノエステル系化合物(B3)、ジエステル系化合物(B2)、及びジフェノール化合物(B1)の混合物から単離することで得られる。
【0028】
上記アシル化に使用する酸成分としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、ペンタン酸、オクタン酸、カプリル酸、ラウリン酸、ステアリン酸、オレイン酸、安息香酸、t-ブチル安息香酸、ヘキサヒドロ安息香酸、フェノキシ酢酸、アクリル酸、メタクリル酸等の有機酸や、有機酸の酸無水物や、有機酸のハロゲン化物や、有機酸のエステル化物等を使用することができる。
【0029】
有機酸の酸無水物としては、例えば、無水酢酸、安息香酸無水物、フェノキシ酢酸無水物等が挙げられる。
【0030】
有機酸のエステル化物としては、例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、安息香酸メチル、安息香酸エチル等が挙げられる。有機酸のハロゲン化物としては、例えば、酢酸クロリド、安息香酸クロリド、フェノキシ酢酸クロリド等が挙げられる。
【0031】
これらのアシル化剤としては、酢酸クロリド、安息香酸クロリド、フェノキシ酢酸クロリド等の有機酸のハロゲン化物や無水酢酸、安息香酸無水物、フェノキシ酢酸無水物等の酸ハロゲン化物や有機酸の酸無水物が好ましく、エステル化の後水洗が不要で、電材用途で嫌われるハロゲンの混入を避ける意味で、無水酢酸や安息香酸無水物等の酸無水物がより好ましく、無水酢酸が更に好ましい。
【0032】
本発明のフェノキシ樹脂の製造方法において、2官能化合物の使用量は、2官能エポキシ樹脂1.00モルに対して、0.9~1.1モルが好ましく、0.95~1.05モルがより好ましく、0.96~1.00モルが更に好ましく、0.97~0.99モルが特に好ましい。2官能化合物の配合量がこの範囲内であれば、得られるフェノキシ樹脂の分子量が十分伸長するので好ましい。また、反応性の点では末端基にエポキシ基を多く存在することが望ましいため、2官能化合物の配合量は1.00モル未満が好ましい。2官能エポキシ樹脂が過剰であるとエポキシ基末端となりやすく、2官能化合物が過剰であるとフェノール基末端又はアシルオキシ基末端となりやすい。
【0033】
また、耐熱性を付与するためには、2官能エポキシ樹脂の一部又は全部として、フルオレン環構造を有する2官能エポキシ樹脂や、2官能化合物の一部又は全部として、フルオレン環構造を有する2官能フェノール化合物を用いることが好ましい。
【0034】
フルオレン環構造を有する2官能フェノール化合物としては、具体的には、9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-2ーメチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-エチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(3-ヒドロキシ-6-メチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(2-ヒドロキシ-4ーメチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-t-ブチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-2,6-ジメチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒド口キシ-3,5-ジ-t-ブチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-シク口ヘキシルフェニル)フルオレン。9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-フェニルフェニル)フルオレン等の9,9-ビス(ヒドロキシフェニル)フルオレン類や、9,9-ビス(2-ヒドロキシ-6-ナフチル)フルオレン、9,9-ビス(1-ヒドロキシ-5-ナフチル)フルオレン等の9,9-ビス(ヒドロキシナフチル)フルオレン類等が挙げられる。これらのフルオレン環構造含有2官能フェノール化合物を1種類又は2種類以上併用してもよい。
【0035】
フルオレン環構造を有する2官能エポキシ樹脂としては、上記フルオレン環構造を有する2官能フェノール化合物と、5~20倍モルのエピクロルヒドリン等のエピハロヒドリンとを、水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等のアルカリ触媒を用いて反応することで得られるジグリシジル化合物が挙げられる。具体的には、ビスフェノールフルオレン型エポキシ樹脂、ビスクレゾールフルオレン型エポキシ樹脂、ビスナフトールフルオレン型エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0036】
また、難燃性を付与するために、2官能化合物の一部又は全部として、ハロゲンが付加した2官能のハロゲン化フェノール化合物(例えば、テトラブロムビスフェノールA等)や、2官能のリン含有フェノール化合物を用いてもよく、環境面から、2官能のリン含有フェノール化合物が好ましい。
【0037】
2官能のリン含有フェノール化合物としては、例えば、10-(2,5-ジヒドロキシフェニル)-10H-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキシド、10-(2,7-ジヒドロキシ-1-ナフチル)-10H-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキシド、10-(1,4-ジヒドロキシ-2-ナフチル)-10H-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキシド、10-(2,5-ジヒドロキシフェニル)-8-ベンジル-9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキシド、10-(2,7-ジヒドロキシ-1-ナフチル)-8-ベンジル-9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキシド、ジフェニルホスフィニルヒドロキノン、ジフェニルホスフェニル-1,4-ジオキシナフタリン、1,4-シクロオクチレンホスフィニル-1,4-フェニルジオール、1,5-シクロオクチレンホスフィニル-1,4-フェニルジオール等が挙げられる。これらのリン含有フェノール化合物を1種類又は2種類以上併用してもよい。
【0038】
また、難燃性を付与するために、2官能エポキシ樹脂の一部又は全部として、リン含有化合物を使用することが好ましい。
【0039】
2官能エポキシ樹脂としてのリン含有化合物としては、上記リン含有フェノール化合物と、5~20倍モルのエピハロヒドリンとを、アルカリ触媒を用いて反応することで得られるジグリシジル化合物が挙げられる。具体的には上記エポキシ樹脂、FX-305、ジフェニルホスフィニルハイドロキノンジグリシジルエーテル等が挙げられる。
【0040】
2官能のリン含有化合物を使用して得られたフェノキシ樹脂のリン含有率は、使用目的に応じて適宜調整すればよいが、1~6質量%が好ましく、2~5質量%がより好ましく、3~4.5質量%が更に好ましい。
【0041】
本発明のフェノキシ樹脂の製造方法で使用する4級ホスホニウム塩のカルボン酸塩は、2官能エポキシ樹脂と2官能化合物との反応の触媒として作用する。
【0042】
本発明の製造方法において、触媒として使用する4級ホスホニウム塩のカルボン酸塩は、下記式(1)で表される。すなわち、ホスホニウムカチオンとポリカルボン酸のアニオン残基との塩である。
【化3】
【0043】
式(1)において、ホスホニウムカチオンは下記式(1a)で表され、アニオン部は下記式(1b)で表される。
【化4】
【0044】
式(1)及び(1a)において、R~Rは、それぞれ独立に、アルキル基、アリール基又はアラルキル基を表し、同一の基であっても異なる基であってもよい。アルキル基は、直鎖状又は分岐鎖状のいずれでもよく、炭素数1~12が好ましく、炭素数1~4がより好ましく、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、iso-ブチル基、t-ブチル基が挙げられる。アリール基は、炭素数6~10が好ましく、フェニル基、p-トリル基が挙げられ、置換基を有してもよい。アラルキル基は、炭素数7~12が好ましく、ベンジル基が挙げられる。なかでも、エチル基、ブチル基、フェニル基、ベンジル基が好ましく、特にR~Rの全てが、ブチル基、又はフェニル基であることがより好ましい。
【0045】
式(1a)で表されるホスホニウムカチオンとしては、例えば、下記式(4a)~(4f)が挙げられる。
【化5】
【0046】
式(1)及び(1b)で表されるポリカルボン酸のアニオンにおいて、Xはポリカルボン酸から2個のカルボキシ基を除いた構造であり、下記式(2a)~(2d)のいずれかの基が好ましい。
【化6】
【0047】
式(2a)は下記式(3a)で表される脂肪族ポリカルボン酸由来の基であり、式(2b)又は(2c)は下記式(3b)又は(3c)で表される脂環式ポリカルボン酸由来の基であり、式(2d)は下記式(3d)で表される芳香族ポリカルボン酸由来の基である。
【化7】
式中、R~Rは式(2a)のR~Rと同義であり、R10~R14は式(2b)のR10~R14と同義であり、R15~R18は式(2c)のR15~R18と同義であり、R19~R22は式(2d)のR19~R22と同義である。
【0048】
式(1b)で表されるアニオン部は、例えば、式(2a)で例示すると、式(3a)で表される脂肪族ポリカルボン酸のアニオン残基(1価のアニオン残基)を示し、厳密には、複数のカルボキシル基又はカルボキシルアニオンのうち、エチレン鎖を隔てて存在するカルボキシル基及びカルボキシルアニオンがホスホニウムカチオンに配位したアニオン残基である。
【0049】
アニオン残基がホスホニウムカチオンに配位することにより、加熱初期において活性発現までのタイムラグが生じ、加熱初期の低粘性(潜在性)の要因となっていると考えられる。この場合、潜在性と配位力のバランスの観点からエチレン鎖が最適である。
【0050】
このため、式(3a)の好ましい脂肪族ポリカルボン酸としては、R~Rが全て水素原子となるコハク酸、R~Rが水素原子でRが水酸基となるリンゴ酸、R、Rが水素原子であり、Rが水酸基、Rがカルボキシルメチル基で示されるクエン酸及びR、Rが水素原子でR、Rがカルボキシル基となるブタン-1,2,3,4-テトラカルボン酸等が好ましい。また、これらの脂肪族ポリカルボン酸は単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0051】
本発明のフェノキシ樹脂の製造方法で使用する4級ホスホニウム塩のカルボン酸塩は、公知の方法、例えば、特開昭63-190893号公報に記載の方法により容易に製造できる。
【0052】
例えば、テトラ置換ホスホニウムハライドの溶液(溶媒は、水、メタノール等)を、イオン交換することによりテトラ置換ホスホニウムヒドロキシドの溶液(溶媒は、水、メタノール等)とし、該溶液中で、そのテトラ置換ホスホニウムヒドロキシド1モルに対して式(3a)で表される脂肪族ポリカルボン酸を0.5~5モル、より好ましくは0.5~2モル用いて中和することにより塩形成する方法等が挙げられる。
得られた塩を含む反応混合物から、適当な方法、例えば、減圧蒸留等により溶媒を除去して、目的の塩を分離する。なお、上記テトラ置換ホスホニウムヒドロキシドは市販されているものを使用してもよい。
【0053】
また、式(3a)で表される脂肪族ポリカルボン酸は、水和水、結晶水、吸着水等を含んでいてもよく、また、単独で、又は2種類以上を混合して使用することができる。
更に、脂肪族ポリカルボン酸の代わりに、それぞれ、対応する脂肪族ポリカルボン酸無水物を使用してもよい。
【0054】
上記の方法により得られる塩は、通常は、ホスホニウムカチオン1モルと少なくとも1種の脂肪族ポリカルボン酸のアニオン残基1モルとの1:1塩が主成分である。
【0055】
式(1)において、Xが式(2b)又は(2c)である4級ホスホニウム塩のカルボン酸塩は、ポリカルボン酸として式(3b)又は(3c)で表される脂環族ポリカルボン酸を使用することで得られる。更に、式(3b)又は式(3c)で表される脂環族ポリカルボン酸の代わりに、それぞれ、対応する脂環族ポリカルボン酸無水物を使用してもよい。
【0056】
前述と同様の方法で得られる反応生成物中には、1:1塩に加えて、他のタイプの塩(ホスホニウムカチオンと少なくとも1種の脂環族ポリカルボン酸のアニオン残基との塩)が若干混在することもあるが、そのような反応生成物をそのまま使用することもできる。
【0057】
工業的に入手容易な式(3b)で表される脂環族ポリカルボン酸は、通常、式(3b)で表される酸の2種以上を含む混合物であることが多い。従って、式(3b)で表される脂環族ポリカルボン酸の2種以上を含む混合物由来の混合アニオン残基とホスホニウムカチオンとの塩を使用してもよく、この場合でも優れた効果を示す。
【0058】
また、式(1)において、Xが式(2c)である4級ホスホニウム塩のカルボン酸塩に関しては、式(3c)で表される脂環族ポリカルボン酸は実質上単品で工業上入手されることが多い。通常は、1種類の式(3c)で表される脂環族ポリカルボン酸を用いて得られる塩を使用するのが、工業的な入手容易性の観点からは、有利である。従って、式(3c)で表される脂環族ポリカルボン酸を原料とする場合、典型的には、1:1塩である。
【0059】
式(3b)及び式(3c)の脂環族ポリカルボン酸に関しては、次のものが好ましいものとして例示できる。
【0060】
式(3b)において、R10がメチレン基であり、R11~R14は全てが水素原子である脂環族ポリカルボン酸、R10がメチレン基であり、R11~R14の内いずれか1つがメチル基で残り3つが水素原子である脂環族ポリカルボン酸、又はこれらの混合物であるのが好ましい。
【0061】
式(3c)において、R15~R18が全て水素原子である脂環族ポリカルボン酸、R15~R18の内いずれか1つがメチル基で残り3つが水素原子である脂環族ポリカルボン酸、R15~R18のうちの2つ(特に、R16及びR17)がカルボキシル基で残り2つが水素原子である脂環族ポリカルボン酸が好ましく、R15~R18が全て水素原子である脂環族ポリカルボン酸、R15~R18のうちの2つ(特に、R16及びR17)がカルボキシル基で残り2つが水素原子である脂環族ポリカルボン酸がより好ましい。
【0062】
なお、式(3b)及び(3c)で表される脂環族ポリカルボン酸においては、隣接する炭素原子にそれぞれ結合した二つのカルボキシル基がシス配置である異性体と、該二つのカルボキシル基がトランス配置である異性体が存在する。上記シス配置は、該二つのカルボキシル基が結合する二つの炭素原子の間の一重結合に関して、該二つのカルボキシル基が同じ側に存在する場合を指す。また、トランス配置は、該二つのカルボキシル基が結合する二つの炭素原子の間の一重結合に関して、該二つのカルボキシル基のうちの一方が、他方とは異なる側に存在している場合を指す。
【0063】
本発明においては、アニオン残基は、シス配置の脂環族ポリカルボン酸由来のもの及びトランス配置の脂環族ポリカルボン酸由来のものの何れであってもよく、また、両者の混合物であってもよい。原料とする該脂環族ポリカルボン酸がトランス-シス混合物であって、かつ隣接する炭素原子に結合した二つのカルボキシル基が1組である場合、シス配置の脂環族ポリカルボン酸由来のアニオン残基が、80%以上(GC(ガスクロマトグラフィー)分析による面積基準)であるのが好ましい。基本的には、原料脂環族ポリカルボン酸の立体配置は、ホスホニウム塩の形成反応においても保存され、原料脂環族ポリカルボン酸のシス体含有量が、生成するホスホニウムと脂環族ポリカルボン酸アニオン残基との塩のシス体含有量とほぼ同一となるものと考えられる。
【0064】
式(1)において、Xが式(2d)である4級ホスホニウム塩のカルボン酸塩は、ポリカルボン酸として式(3d)で表される芳香族ポリカルボン酸を使用することで得られる。なお、芳香族ポリカルボン酸としては式(3d)で表される芳香族ポリカルボン酸以外の芳香族ポリカルボン酸を使用してもよい。
【0065】
式(3d)で表される化合物としては、例えば、フタル酸、4-メチルフタル酸、4-ヒドロキシフタル酸、4-アミノフタル酸、4-メトキシフタル酸等が挙げられる。
【0066】
ホスホニウムカチオンとフタル酸類のアニオン残基との塩は公知であるか、又は、公知の方法により容易に製造できる。例えば、テトラ置換ホスホニウムハライドとフタル酸類のアルカリ金属塩の溶液を、溶媒中(溶媒は、水、メタノール等)で反応させることにより塩形成する方法等が挙げられる。この場合、テトラ置換ホスホニウムハライドとフタル酸類のアルカリ金属塩をそれぞれ単独もしくは2種類以上を使用して上記塩を形成させてもよい。2種類以上を混合する場合は、2種類以上のテトラ置換ホスホニウムハライド及びフタル酸類のアルカリ金属塩同士を先に混合した後に、ホスホニウムフタル酸塩類を形成させてもよいし、2種類以上のホスホニウムフタル酸塩類を混合してもよい。上記の方法により得られる塩は、通常は、ホスホニウムカチオン1モルとフタル酸類のアニオン残基1モルとの1:1塩が主成分である。アニオン部は、式(3d)で表されるフタル酸類のアニオン残基(1価のアニオン残基)を示し、カルボキシル基及びカルボキシルアニオンは、実際には等価である。
【0067】
Xが式(2d)表される4級ホスホニウム塩のカルボン酸塩としては、例えば、テトラフェニルホスホニウムフタル酸塩、テトラフェニルホスホニウム4-メチルフタル酸塩、テトラフェニルホスホニウム4-ヒドロキシフタル酸塩、テトラフェニルホスホニウム4-アミノフタル酸塩、テトラフェニルホスホニウム4-メトキシフタル酸塩、(4-メチルフェニル)トリフェニルホスホニウムフタル酸塩、(4-メチルフェニル)トリフェニルホスホニウム4-メチルフタル酸塩、(4-メチルフェニル)トリフェニルホスホニウム4-ヒドロキシフタル酸塩、(4-メチルフェニル)トリフェニルホスホニウム4-アミノフタル酸塩、(4-メチルフェニル)トリフェニルホスホニウム4-メトキシフタル酸塩等が挙げられる。
【0068】
本発明のフェノキシ樹脂の製造方法において、4級ホスホニウム塩のカルボン酸塩の使用量は、2官能エポキシ樹脂及び2官能化合物の合計量100質量部に対して、0.001~5質量部が好ましく、0.005~2質量部がより好ましく、0.01~1質量部が更に好ましく、0.01~0.5質量部が特に好ましい。使用する4級ホスホニウム塩のカルボン酸塩の配合量が少ないとフェノキシ樹脂の分子量が十分大きくならない恐れがある。また、配合量が多いと貯蔵安定性が悪化しやすく、反応後に除去する必要性があるので好ましくない。4級ホスホニウム塩のカルボン酸塩の使用量が範囲内であれば、反応時にフェノキシ樹脂の分子量が十分大きくやすく、貯蔵安定性も良好となりやすく、好ましい。また、これらの触媒は、反応開始時に一括して仕込んでもよいし、反応の経時に従って適時分割して仕込んでもよい。
【0069】
4級ホスホニウム塩のカルボン酸塩は、有機溶媒又は水で希釈してから用いることができる。有機溶媒としては、原料を溶解するものであれば、どのようなものでもよい。具体的には、後述する本発明のフェノキシ樹脂の反応時に使用できる有機溶媒と同様のものが挙げられる。
【0070】
2官能エポキシ樹脂と2官能化合物との反応は、常圧、加圧、減圧いずれの条件で行うこともできる。使用する触媒が分解しない程度の温度範囲で行う。反応温度が高すぎると生成するフェノキシ樹脂が劣化する恐れがあり、低すぎると反応が進まずに目的の分子量にならない恐れがある。そのため反応温度は、反応温度は、50~240℃が好ましく、80~230℃がより好ましく、100~220℃が更に好ましく、120~200℃が特に好ましい。反応時間は特に限定されないが、0.5~24時間が好ましく、1~20時間がより好ましく、2~12時間が更に好ましく、3~10時間が特に好ましい。反応時間が好ましい範囲内であれば、生産効率向上の点でも、未反応成分を削減できる点でも好ましい。また、アセトンやメチルエチルケトンのような低沸点溶媒を使用する場合には、オートクレーブを使用する高圧下での反応を行うことで、反応温度を確保することができる。なお、反応熱の除去が必要な場合は、通常、反応熱による使用溶媒の蒸発・凝縮・還流法、間接冷却法、又はこれらの併用により行われる。
【0071】
本発明のフェノキシ樹脂の製造方法においては、反応の際に溶媒を用いてもよい。溶媒としては、原料や反応生成物(フェノキシ樹脂)を溶解し、反応に悪影響のないものであれば、どのようなものでもよいが、通常は有機溶媒である。有機溶媒としては、例えば、芳香族系溶媒、ケトン系溶媒、エステル系溶媒、エーテル系溶媒、アミド系溶媒、グリコールエーテル系溶媒等が挙げられる。これらの溶媒は単独で用いても、2種以上を混合して使用してもよい。使用する溶媒の量は、反応条件に応じて適宜選択することができるが、固形分濃度として35~95質量%が好ましい。また、反応中に高粘性生成物が生じた場合は反応途中で溶媒を更に加えて反応を継続してもよい。
【0072】
芳香族系溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等が挙げられる。
【0073】
ケトン系溶媒としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、2-ヘプタノン、4-ヘプタノン、2-オクタノン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、アセチルアセトン等が挙げられる。
【0074】
エステル系溶媒としては、例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸ベンジル、プロピオン酸エチル、酪酸エチル、酪酸ブチル、バレロラクトン、ブチロラクトン等が挙げられる。エーテル系溶媒としては、例えば、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、t-ブチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン等が挙げられる。
【0075】
アミド系溶媒としては、例えば、ホルムアミド、N-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、アセトアミド、N-メチルアセトアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、2-ピロリドン、N-メチルピロリドン等が挙げられる。
【0076】
グリコールエーテル系溶媒としては、例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールジメチルエーテル等が挙げられる。
【0077】
反応終了後、溶媒は必要に応じて蒸留等により除去することもできるし、更に追加して固形分濃度を調整してもよい。その溶媒としては、フェノキシ樹脂を溶解するものであれば、どのようなものでもよいが、通常は有機溶媒である。有機溶媒としては、上記有機溶媒と同様のものが挙げられる。
【0078】
本発明のフェノキシ樹脂の製造方法においては、反応の際に貯蔵安定性が悪化しない範囲で、4級ホスホニウム塩のカルボン酸塩と共に、その他の触媒を併用してもよい。その他の触媒としては、通常、二段法の触媒として用いられるものであれば特に制限されない。例えば、アルカリ金属化合物、4級ホスホニウム塩のカルボン酸塩以外の有機リン化合物、第3級アミン系化合物、第4級アンモニウム塩、環状アミン系化合物、イミダゾール系化合物等が挙げられる。これらその他の触媒は、1種のみでも2種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、貯蔵安定性の観点からは、樹脂組成物を保管する際等にはその他の触媒を含まないか、4級ホスホニウム塩のカルボン酸塩よりも少量の配合量としておくことが好ましい。
【0079】
アルカリ金属化合物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物や、炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化リチウム、塩化カリウム等のアルカリ金属塩や、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド等のアルカリ金属アルコキシドや、アルカリ金属フェノキシド、水素化ナトリウム、水素化リチウム等のアルカリ金属の水素化物や、酢酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム等の有機酸のアルカリ金属塩等が挙げられる。
【0080】
4級ホスホニウム塩のカルボン酸塩以外の有機リン化合物としては、例えば、テトラメチルホスホニウムブロマイド、テトラメチルホスホニウムアイオダイド、テトラメチルホスホニウムハイドロオキサイド、トリメチルシクロヘキシルホスホニウムクロライド、トリメチルシクロヘキシルホスホニウムブロマイド、トリメチルベンジルホスホニウムクロライド、トリメチルベンジルホスホニウムブロマイド、テトラフェニルホスホニウムブロマイド、トリフェニルメチルホスホニウムブロマイド、トリフェニルメチルホスホニウムアイオダイド、トリフェニルエチルホスホニウムクロライド、トリフェニルエチルホスホニウムブロマイド、トリフェニルエチルホスホニウムアイオダイド、トリフェニルベンジルホスホニウムクロライド、トリフェニルベンジルホスホニウムブロマイド等が挙げられる。なお、上記式(1)で表される4級ホスホニウム塩のカルボン酸塩以外のホスフィン類も、反応生成物であるフェノキシ樹脂に残存する恐れがあるので、これを含まないフェノキシ樹脂を目的とする場合は、その併用は望ましくない。
【0081】
第3級アミン系化合物としては、例えば、トリエチルアミン、トリ-n-プロピルアミン、トリ-n-ブチルアミン、トリエタノールアミン、ベンジルジメチルアミン等が挙げられる。
【0082】
第4級アンモニウム塩としては、例えば、テトラメチルアンモニウムクロライド、テトラメチルアンモニウムブロマイド、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド、トリエチルメチルアンモニウムクロライド、テトラエチルアンモニウムクロライド、テトラエチルアンモニウムブロマイド、テトラエチルアンモニウムアイオダイド、テトラプロピルアンモニウムブロマイド、テトラプロピルアンモニウムハイドロオキサイド、テトラブチルアンモニウムクロライド、テトラブチルアンモニウムブロマイド、テトラブチルアンモニウムアイオダイド、ベンジルトリメチルアンモニウムクロライド、ベンジルトリメチルアンモニウムブロマイド、ベンジルトリメチルアンモニウムハイドロオキサイド、ベンジルトリブチルアンモニウムクロライド、フェニルトリメチルアンモニウムクロライド等が挙げられる。
【0083】
環状アミン系化合物としては、例えば、1,8-ジアザビシクロ(5,4,0)-7-ウンデセン、1,5ジアザビシクロ(4,3,0)-5-ノネン等が挙げられる。
【0084】
イミダゾール系化合物としては、例えば、2-メチルイミダゾール、2-エチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、2-ウンデシルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-メチルイミダゾール等が挙げられる。
【0085】
本発明の製造方法で得られるフェノキシ樹脂の重量平均分子量(Mw)は、10,000~150,000が好ましく、20,000~100,000がより好ましく、25,000~80,000が更に好ましく、30,000~60,000が特に好ましい。Mwが低いものではフィルム製膜性や伸び性が劣り、Mwが高すぎると樹脂の取り扱い性が著しく悪化する。ここで、MwはGPCの測定によって決定され、GPCの測定方法は、実施例に記載の条件に従う。
【0086】
このフェノキシ樹脂のエポキシ当量(g/eq.)は、4,000~200,000が好ましく、5,000~100,000がより好ましく、6,000~50,000が更に好ましく、8,000~30,000が特に好ましい。必ずしも両末端がエポキシ基にはならない場合も包含し、この場合、エポキシ当量が平均分子量を大きくなることもある。エポキシ当量が好ましい範囲内であるとフェノキシ樹脂の分子量が十分大きいことであり、可撓性の観点で好ましい。
【0087】
本発明のフェノキシ樹脂は、本発明の製造方法で得られたフェノキシ樹脂であることが有利である。有利には4級ホスホニウム塩のカルボン酸塩を0.001~5質量%含有する。本発明のフェノキシ樹脂の好ましいMwやエポキシ当量は、本発明の製造方法で得られるフェノキシ樹脂と同様である。
【0088】
本発明のフェノキシ樹脂中の存在する4級ホスホニウム塩のカルボン酸塩は、0.01~2質量%が好ましく、0.05~1質量%がより好ましい。4級ホスホニウム塩のカルボン酸塩が多すぎると、硬化剤と配合したときの貯蔵安定性が悪化する恐れがある。0.001質量%未満とすることは、フェノキシ樹脂の製造における反応又は未反応物等の不純物除去に負荷がかかる。この4級ホスホニウム塩のカルボン酸塩の量は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で定量することができる。なお、測定方法は実施例に記載の条件に従う。
【0089】
本発明のフェノキシ樹脂は、それ自体で可撓性のある熱可塑性樹脂であり単独で用いることもできるが、硬化成分を配合して熱硬化性の樹脂組成物とすることができる。
【0090】
硬化成分は、単独で硬化しうる熱硬化樹脂、フェノキシ樹脂の水酸基やエポキシ基等と反応して硬化しうる樹脂又は硬化剤、硬化剤と共に使用されて硬化する樹脂等が挙げられる。
【0091】
硬化成分としては、例えば、エポキシ樹脂、アクリル酸エステル樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、熱硬化性ポリイミド樹脂、酸無水物化合物、ポリイソシアネート化合物、ブロックイソシアネート化合物、アミン系化合物、イミダゾール系化合物、アミド系化合物、カチオン重合開始剤、有機ホスフィン類等が挙げられる。これらの硬化成分は単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。なお、エポキシ樹脂の場合はエポキシ樹脂用硬化剤を、アクリル酸エステル樹脂の場合はラジカル重合開始剤を併用することが好ましい。
【0092】
硬化成分の配合量は、フェノキシ樹脂/硬化成分(質量比)として、1/99~99/1が好ましく、10/90~90/10がより好ましく、25/75~75/25が更に好ましい。硬化成分を配合することで、更に耐熱性に優れた材料を得ることができる。
【0093】
硬化成分がエポキシ樹脂の場合、従来公知のエポキシ樹脂が使用可能である。なお、エポキシ樹脂とは、少なくとも1個のエポキシ基を有するエポキシ樹脂を指すが、2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂が好ましく、3個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂がより好ましい。具体的には、ポリグリシジルエーテル化合物、ポリグリシジルアミン化合物、ポリグリシジルエステル化合物、脂環式エポキシ樹脂、その他変性エポキシ樹脂等が挙げられる。これらのエポキシ樹脂は単独で使用してもよく、同一系のエポキシ樹脂を2種類以上併用してもよく、また、異なる系のエポキシ樹脂を組み合わせて使用してもよい。
【0094】
ポリグリシジルエーテル化合物としては、例えば、フェノキシ樹脂の原料として使用できる上記2官能エポキシ樹脂や、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、アルキルノボラック型エポキシ樹脂、スチレン化フェノールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールノボラック型エポキシ樹脂、ナフトールノボラック型エポキシ樹脂、β-ナフトールアラルキル型エポキシ樹脂、ナフタレンジオールアラルキル型エポキシ樹脂、α-ナフトールアラルキル型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキルフェノール型エポキシ樹脂、トリヒドロキシフェニルメタン型エポキシ樹脂、テトラヒドロキシフェニルエタン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂等の多官能ノボラック型エポキシ樹脂や、アルキレングリコール型エポキシ樹脂、脂肪族環状エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0095】
ポリグリシジルアミン化合物としては、例えば、ジアミノジフェニルメタン型エポキシ樹脂、メタキシレンジアミン型エポキシ樹脂、1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサン型エポキシ樹脂、イソシアヌレート型エポキシ樹脂、アニリン型エポキシ樹脂、ヒダントイン型エポキシ樹脂、アミノフェノール型エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0096】
ポリグリシジルエステル化合物としては、例えば、ダイマー酸型エポキシ樹脂、ヘキサヒドロフタル酸型エポキシ樹脂、トリメリット酸型エポキシ樹脂等が挙げられる。
脂環式エポキシ樹脂としては、セロキサイド2021(ダイセル化学工業株式会社製)等の脂肪族環状エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0097】
その他変性エポキシ樹脂としては、例えば、ウレタン変性エポキシ樹脂、オキサゾリドン環含有エポキシ樹脂、エポキシ変性ポリブタジエンゴム誘導体、カルボキシル基末端ブタジエンニトリルゴム(CTBN)変性エポキシ樹脂、ポリビニルアレーンポリオキシド(例えば、ジビニルベンゼンジオキシド、トリビニルナフタレントリオキシド等)等が挙げられる。
【0098】
エポキシ樹脂を配合する場合は硬化剤も含むことがよい。硬化剤とは、エポキシ樹脂のエポキシ基間の架橋反応及び/又は鎖長延長反応に寄与する物質のことである。硬化剤の配合量は、エポキシ樹脂100質量部に対して、0.1~100質量部が必要に応じて用いられ、1~80質量部が好ましく、5~60質量部がより好ましく、10~60質量部が更に好ましい。
【0099】
硬化剤としては、特に制限はなく一般的にエポキシ樹脂用硬化剤として知られているものは全て使用できる。耐熱性を高める観点から好ましいものとして、フェノール系硬化剤、アミド系硬化剤及びイミダゾール系化合物が挙げられる。また吸水性を低下する観点からは、好ましいものとして活性エステル系硬化剤が挙げられる。その他に、アミン系硬化剤、酸無水物系硬化剤、有機ホスフィン類、ホスホニウム塩、ベンゾ化合物、テトラフェニルボロン塩、有機酸ジヒドラジド、ハロゲン化ホウ素アミン錯体、ポリメルカプタン系硬化剤、イソシアネート系硬化剤、ブロックイソシアネート系硬化剤等が挙げられる。これらの硬化剤は単独で使用してもよく、同種類を2種類以上併用してもよく、他種類を組み合わせて使用してもよい。
【0100】
フェノール系硬化剤としては、例えば、フェノキシ樹脂の原料として使用できる上記2官能フェノール化合物や、フェノールノボラック、ビスフェノールAノボラック、クレゾールノボラック、キシレノールノボラック、トリスヒドロキシフェニルメタンノボラック、ジシクロペンタジエンフェノール、ナフトールノボラック、スチレン化フェノールノボラック、テルペンフェノール、重質油変性フェノール、フェノールアラルキル、ナフトールアラルキル、ポリヒドロキシスチレン、フルオログリシノール、ピロガロール、t-ブチルピロガロール、ベンゼントリオール、トリヒドロキシナフタレン、トリヒドロキシベンゾフェノン、トリヒドロキシアセトフェノン等の3価以上のフェノール化合物や、上記リン含有フェノール化合物が挙げられる。これらのフェノール化合物にインデン又はスチレンを反応させたものを硬化剤に用いてもよい。フェノール系硬化剤は、エポキシ樹脂中のエポキシ基に対する硬化剤中の活性水酸基のモル比で0.8~1.5の範囲で用いることが好ましい。
【0101】
アミド系硬化剤としては、例えば、ジシアンジアミド及びその誘導体、ポリアミド樹脂等が挙げられる。アミド系硬化剤は、全エポキシ樹脂成分100質量部に対して0.1~25質量部の範囲で用いることが好ましい。
【0102】
イミダゾール系化合物としては、イミダゾール骨格を有する化合物であればよく、特に限定されない。例えば、2-フェニルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾール、1-ベンジル-2-メチルイミダゾール、1-ベンジル-2-フェニルイミダゾール、1-シアノエチル-2-ウンデシルイミダゾール、1-シアノ-2-フェニルイミダゾール、1-シアノエチル-2-ウンデシルイミダゾールトリメリテイト、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾリウムトリメリテイト、2,4-ジアミノ-6-[2’-メチルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-[2’-エチル-4’-メチルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-[2’-メチルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジンイソシアヌル酸付加体、2-フェニルイミダゾールイソシアヌル酸付加体、2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール、2-フェニル-4-メチル-5-ヒドロキシメチルイミダゾール、及びエポキシ樹脂と上記イミダゾール系化合物との付加体等が挙げられる。イミダゾール系化合物は、全エポキシ樹脂成分100質量部に対して0.1~25質量部の範囲で用いることが好ましい。なお、イミダゾール系化合物は触媒能を有するため、一般的には後述する硬化促進剤にも分類される。
【0103】
活性エステル系硬化剤としては、フェノールエステル類、チオフェノールエステル類、N-ヒドロキシアミンエステル類、複素環ヒドロキシ化合物のエステル類等の反応活性の高いエステル基を1分子中に2個以上有する化合物が好ましく、中でも、特許5152445号公報に記載されているような多官能フェノール化合物と芳香族カルボン酸類とを反応させたフェノールエステル類がより好ましい。カルボン酸化合物としては、例えば、安息香酸、酢酸、コハク酸、マレイン酸、イタコン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ピロメリット酸等が挙げられる。フェノール性水酸基を有する芳香族化合物としては、例えば、カテコール、ジヒドロキシナフタレン、ジヒドロキシベンゾフェノン、トリヒドロキシベンゾフェノン、テトラヒドロキシベンゾフェノン、フロログルシン、ベンゼントリオール、ジシクロペンタジエニルジフェノール、フェノールノボラック等が挙げられる。市販品では、エピクロンHPC-8000-65T(DIC株式会社製)等があるがこれらに限定されるものではない。活性エステル系硬化剤は、樹脂組成物中のエポキシ基に対する硬化剤中の活性エステル基のモル比で0.2~2.0の範囲で用いることが好ましい。
【0104】
アミン系硬化剤としては、例えば、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、メタキシレンジアミン、イソホロンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルフォン、ジアミノジフェニルエーテル、ベンジルジメチルアミン、2,4,6-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、ジシアンジアミド、ダイマー酸等の酸類とポリアミン類との縮合物であるポリアミドアミン等のアミン系化合物等が挙げられる。アミン系硬化剤は、樹脂組成物中のエポキシ基に対する硬化剤中の活性水素基のモル比で0.5~1.5の範囲で用いることが好ましい。
【0105】
酸無水物系硬化剤としては、例えば、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、無水ピロメリット酸、無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水メチルナジック酸、無水マレイン酸等が挙げられる。酸無水物系硬化剤は、樹脂組成物中のエポキシ基に対する硬化剤中の酸無水物基のモル比で0.5~1.5の範囲で用いることが好ましい。
【0106】
なお、活性水素基とは、エポキシ基と反応性の活性水素を有する官能基(加水分解等により活性水素を生ずる潜在性活性水素を有する官能基や、同等な硬化作用を示す官能基を含む。)のことであり、具体的には、酸無水物基やカルボキシル基やアミノ基やフェノール性水酸基等が挙げられる。なお、活性水素基に関して、カルボキシル基(-COOH)やフェノール性水酸基(-OH)は1モルと、アミノ基(-NH)は2モルと計算される。また、活性水素基が明確ではない場合は、測定によって活性水素当量を求めることができる。例えば、フェニルグリシジルエーテル等のエポキシ当量が既知のモノエポキシ樹脂と活性水素当量が未知の硬化剤を反応させて、消費したモノエポキシ樹脂の量を測定することによって、使用した硬化剤の活性水素当量を求めることができる。
【0107】
また、エポキシ樹脂を配合する場合は必要に応じて、硬化促進剤を使用することができる。硬化促進剤としては、例えば、イミダゾール系化合物、第3級アミン系化合物、ホスフィン類、金属化合物、アミン錯塩等が挙げられる。これら硬化促進剤は単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0108】
イミダゾール系化合物、第3級アミン系化合物、及びホスフィン類としては、例えば、本発明の製造方法で使用可能な上記触媒と同様のものが挙げられる。
【0109】
金属化合物としては、例えば、オクチル酸スズ等が挙げられる。
【0110】
アミン錯塩としては、例えば、3フッ化ホウ素モノエチルアミン錯体、3フッ化ホウ素ジエチルアミン錯体、3フッ化ホウ素イソプロピルアミン錯体、3フッ化ホウ素クロロフェニルアミン錯体、3フッ化ホウ素ベンジルアミン錯体、3フッ化ホウ素アニリン錯体、又はこれらの混合物等の3フッ化ホウ素錯体類等が挙げられる。
【0111】
硬化促進剤の配合量は、使用目的に応じて適宜選択すればよいが、樹脂組成物中のエポキシ樹脂成分100質量部に対して、0.01~15質量部が必要に応じて使用され、0.01~10質量部が好ましく、0.05~8質量部がより好ましく、0.1~5質量部が更に好ましい。硬化促進剤を使用することにより、硬化温度を下げることや、硬化時間を短縮することができる。
【0112】
硬化成分としてのアクリル酸エステル樹脂をラジカル重合開始剤で硬化させる樹脂組成物には、(メタ)アクリレート系化合物の熱硬化性樹脂組成物や光硬化性樹脂組成物が挙げられる。(メタ)アクリレート系化合物は、粘度調整や硬化成分として用いられる分子中に少なくとも1個以上の(メタ)アクリロイル基を有するアクリレートである。(メタ)アクリレート系化合物の一部は、2個以上の(メタ)アクリロイル基を有することが好ましい。この場合の樹脂組成物は、(メタ)アクリレート系化合物と、熱重合開始剤、光重合開始剤、又はその両方を必須成分とする。
【0113】
これらの(メタ)アクリレート系化合物としては、単官能(メタ)アクリル酸エステル、多官能(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシアクリレート等が挙げられる。これらの(メタ)アクリレート系化合物を単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0114】
単官能(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、イソボルニル(メタ)アクリレート、シクロへキシル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、アクリロイルモルホリン、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、シクロへキサン-1,4-ジメタノールモノ(メタ)アクリレート、テトラヒドロフロフリル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェニルポリエトキシ(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェニルオキシプロピル(メタ)アクリレート、o-フェニルフェノールモノエトキシ(メタ)アクリレート、o-フェニルフェノールポリエトキシ(メタ)アクリレート、p-クミルフェノキシエチル(メタ)アクリレート、イソボニル(メタ)アクリレート、トリブロモフェニルオキシエチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0115】
多官能(メタ)アクリレートとしては、例えば、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-へキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAポリエトキシジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAポリプロポキシジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールFポリエトキシジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリオキシエチル(メタ)アクリレート、トリス(2ーヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ヒドロキシビバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンポリエトキシトリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、シクロヘキサンジメタノールジ(メタ)アクリレート及びジメチロールトリシクロデカンジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0116】
また、ウレタン(メタ)アクリレートは、ポリオール化合物にポリイソシアネート化合物を反応させ、更に(メタ)アクリレートと反応することで得られる。エポキシアクリレートは、エポキシ樹脂と(メタ)アクリレートの反応で得られる。
【0117】
(メタ)アクリレート系化合物の重合開始剤として使用できる化合物としては、加熱や活性エネルギー線光の照射等の手段により、ラジカルを発生させるものであれば特に限定せずに使用することができる。
【0118】
重合開始剤としては、例えば、加熱により硬化させる場合は、アゾビスイソブチロニトリル、過酸化ベンゾイル等のアゾ系、過酸化物系開始剤等の通常のラジカル熱重合に使用できるものはいずれも使用することができる。
【0119】
また、ラジカル重合を光ラジカル重合によって行う場合は、ベンゾイン類、アセトフェノン類、アントラキノン類、チオキサントン類、ケタール類、ベンゾフェノン類、ホスフィンオキサイド類等の通常の光ラジカル重合に使用できるものはいずれも使用することができる。
【0120】
これらの重合光開始剤は、単独で使用してもよく、2種以上の混合物として使用してもよい。更には、光ラジカル重合開始剤に対しては、第3級アミン系化合物、N,N-ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル等の促進剤等と組み合わせて使用してもよい。
【0121】
ポリイソシアネート化合物としては、例えば、トリレンジイソシアネート、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジントリイソシアネート等が挙げられる。更に、これらのポリイソシアネート化合物の3~5量体等や、これらのポリイソシアネート化合物と、アミノ基、水酸基、カルボキシル基、水等の活性水素原子を少なくとも2個有する化合物との反応物等が挙げられる。
【0122】
酸無水物化合物としては、例えば、無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水マレイン酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロフタル酸無水物、無水ピロメリット酸、メチルナジック酸無水物、ドデセニルコハク酸無水物、無水クロレンド酸、ベンゼンテトラカルボン酸無水物、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、エチレンビス(トリメリット酸無水物)、メチルシクロヘキセニルテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。更に、これらの酸無水物化合物と不飽和化合物の縮合物等が挙げられる。
【0123】
また、本発明の樹脂組成物には、粘度調整用として有機溶媒又は反応性希釈剤を使用することができる。これらの有機溶媒又は反応性希釈剤は、単独で使用してもよく、2種類以上を混合してもよい。
【0124】
有機溶媒としては、例えば、本発明の製造方法で使用可能な上記有機溶媒と同様のものが挙げられる。また、その他にも、メタノール、エタノール、1-メトキシ-2-プロパノール、2-エチル-1-ヘキサノール、ベンジルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチルジグリコール、パインオイル等のアルコール類や、ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類や、ヘキサン、シクロヘキサン等のアルカン類等が挙げられる。
【0125】
反応性希釈剤としては、例えば、アリルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、2-エチルヘキシルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、トリルグリシジルエーテル等の単官能グリシジルエーテル類や、レゾルシノールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル等の二官能グリシジルエーテル類や、グリセロールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、トリメチロールエタンポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル等の多官能グリシジルエーテル類や、ネオデカン酸グリシジルエステル等のグリシジルエステル類や、フェニルジグリシジルアミン、トリルジグリシジルアミン等のグリシジルアミン系化合物が挙げられる。
【0126】
これらの有機溶媒又は反応性希釈剤は、不揮発分として90質量%以下で使用することが好ましく、その適正な種類や使用量は用途によって適宜選択される。例えば、プリント配線板用途では、メチルエチルケトン、アセトン、1-メトキシ-2-プロパノール等の沸点が160℃以下の極性溶媒であることが好ましく、その使用量は不揮発分で40~80質量%が好ましい。また、接着フィルム用途では、例えば、ケトン類、酢酸エステル類、カルビトール類、芳香族炭化水素類、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等を使用することが好ましく、その使用量は不揮発分で30~60質量%が好ましい。
【0127】
本発明の樹脂組成物には、得られる硬化物の耐衝撃性等の物性向上を目的に、信頼性を低下させない範囲で、公知の充填材を使用することができる。
【0128】
充填材としては、例えば、溶融シリカ、結晶シリカ、アルミナ、窒化ケイ素、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、ベーマイト、タルク、マイカ、クレー、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化マグネシウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸ジルコニウム、硫酸バリウム、炭素等の充填材や、炭素繊維、ガラス繊維、アルミナ繊維、シリカアルミナ繊維、炭化ケイ素繊維、ポリエステル繊維、セルロース繊維、アラミド繊維、セラミック繊維等の繊維状充填材や、微粒子ゴム等が挙げられる。
【0129】
これらの中でも、硬化物の表面粗化処理に使用される過マンガン酸塩の水溶液等の酸化性化合物により、分解又は」溶解しないものが好ましく、特に溶融シリカや結晶シリカが微細な粒子が得やすいため好ましい。また、充填材の配合量を特に大きくする場合には溶融シリカを使用することが好ましい。溶融シリカは破砕状、球状のいずれでも使用可能であるが、溶融シリカの配合量を高めつつ成形材料の溶融粘度の上昇を抑制するためには、球状のものを主に使用する方がより好ましい。更に球状シリカの配合量を高めるためには、球状シリカの粒度分布を適当に調整することが好ましい。なお、充填材は、シランカップリング剤処理やステアリン酸等の有機酸処理を行ってもよい。一般的に充填材を使用する理由としては、硬化物の耐衝撃性の向上効果や、硬化物の低線膨張性化が挙げられる。
【0130】
難燃助剤として作用し難燃性が向上させる場合は、水酸化アルミニウム、ベーマイト、水酸化マグネシウム等の金属水酸化物が好ましい。熱伝導性を向上させる場合は、アルミナ、窒化ケイ素、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、溶融シリカ、結晶シリカが好ましく、アルミナ、窒化ホウ素、溶融シリカ、結晶シリカがより好ましい。導電ペースト等の用途に使用する場合は、銀粉や銅粉等の導電性充填材を使用することができる。
【0131】
充填材の配合量は、硬化物の低線膨張性化や難燃性を考慮した場合、高い方が好ましい。樹脂組成物中の全固形分に対して、1~98質量%が好ましく、3~90質量%がより好ましく、5~80質量%が更に好ましく、10~60質量%が特に好ましい。配合量が多いと積層板用途として必要な接着性が低下する恐れがあり、更に硬化物が脆く、十分な機械物性を得られなくなる恐れがある。また配合量が少ないと、硬化物の耐衝撃性の向上等、充填材の配合効果がでない恐れがある。
【0132】
また、充填材は、その粒径が大き過ぎると硬化物中にボイドが残留しやすくなり、小さ過ぎると凝集しやすくなり分散性が悪くなる。平均粒子径(D50)は、0.01~5μmが好ましく、0.05~1.5μmがより好ましく、0.1~1μmが更に好ましい。充填材の平均粒子径がこの範囲であれば、樹脂組成物の流動性を良好に保てる。なお、平均粒子径は、粒度分布測定装置により測定することができる。
【0133】
また、本発明の樹脂組成物には、得られる硬化物の難燃性の向上を目的に、信頼性を低下させない範囲で、公知の各種難燃剤を使用することができる。使用できる難燃剤としては、例えば、ハロゲン系難燃剤、リン系難燃剤、窒素系難燃剤、シリコーン系難燃剤、無機系難燃剤、有機金属塩系難燃剤等が挙げられる。環境に対する観点から、ハロゲンを含まない難燃剤が好ましく、特にリン系難燃剤が好ましい。これらの難燃剤は単独で使用してもよく、同一系の難燃剤を2種類以上併用してもよく、また、異なる系の難燃剤を組み合わせて使用してもよい。
【0134】
また、本発明の樹脂組成物には、必要に応じて、特性を損ねない範囲で、その他の添加剤を配合することができる。その他の添加剤としては、例えば、熱可塑性樹脂、カップリング剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、離型剤、消泡剤、乳化剤、揺変性付与剤、平滑剤、ハジキ防止剤、可塑剤、顔料、顔料分散剤等が挙げられる。
【0135】
熱可塑性樹脂としては、例えば、本発明以外のフェノキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、AS樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアセタール樹脂、環状ポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリテトラフロロエチレン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリビニルホルマール樹脂等が挙げられる。相溶性の面からは本発明以外のフェノキシ樹脂が好ましく、低誘電特性面からはポリフェニレンエーテル樹脂や変性ポリフェニレンエーテル樹脂が好ましい。
【0136】
本発明の樹脂組成物には、カップリング剤を配合してもよい。カップリング剤を配合することにより、基材との接着性やマトリックス樹脂と無機フィラーとの接着性を向上させることができる。カップリング剤としては、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤等が挙げられる。これらのカップリング剤は、単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0137】
なお、カップリング剤の配合量は、樹脂組成物中の全固形分に対して0.1~2.0質量%程度とするのが好ましい。カップリング剤の配合量が少な過ぎると、カップリング剤を配合したことによるマトリックス樹脂と無機フィラーとの密着性の向上効果を十分に得ることができない。一方、カップリング剤の配合量が多過ぎると得られる硬化物からカップリング剤がブリードアウトする恐れがある。
【0138】
シランカップリング剤としては、例えば、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシシランカップリング剤や、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-ウレイドプロピルトリエトキシシラン等のアミノシランカップリング剤や、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のメルカプトシランカップリング剤や、p-スチリルトリメトキシシラン、ビニルトリクロルシラン、ビニルトリス(β-メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等のビニルシランカップリング剤や、更に、エポキシ系、アミノ系、ビニル系の高分子タイプのシラン等が挙げられる。
【0139】
チタネートカップリング剤としては、例えば、イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリ(N-アミノエチル・アミノエチル)チタネート、ジイソプロピルビス(ジオクチルホスフェート)チタネート、テトライソプロピルビス(ジオクチルホスファイト)チタネート、テトラオクチルビス(ジトリデシルホスファイト)チタネート、テトラ(2,2-ジアリルオキシメチル-1-ブチル)ビス(ジトリデシル)ホスファイトチタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)オキシアセテートチタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)エチレンチタネート等が挙げられる。
【0140】
また、顔料としては、キナクリドン系、アゾ系、フタロシアニン系等の有機顔料や、酸化チタン、金属箔状顔料、防錆顔料等の無機顔料が挙げられる。紫外線吸収剤としては、ヒンダードアミン系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系等が挙げられる。酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系、リン系、イオウ系、ヒドラジド系等が挙げられる。離型剤としては、ステアリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム等が挙げられる。これらのその他の添加剤の配合量は、樹脂組成物中の全固形分に対して、0.01~20質量%の範囲が好ましい。
【0141】
本発明の樹脂組成物は、上記各成分を均一に混合することにより得られる。フェノキシ樹脂、硬化成分、更に必要により各種添加剤の配合された樹脂組成物は、従来知られている方法と同様の方法で容易に硬化物とすることができる。硬化物としては、積層物、注型物、成型物、接着層、絶縁層、フィルム等の成形硬化物が挙げられる。硬化物を得るための方法としては、公知の樹脂組成物と同様の方法をとることができ、注型、注入、ポッティング、ディッピング、ドリップコーティング、トランスファー成形、圧縮成形等や樹脂シート、樹脂付き銅箔、プリプレグ等の形態とし積層して加熱加圧硬化することで積層板とする等の方法が好適に使用される。樹脂組成物の硬化方法は、樹脂組成物中の配合成分や配合量によっても異なるが、通常、硬化温度は80~300℃で、硬化時間は10~360分間である。この加熱は80~180℃で10~90分間の一次加熱と、120~200℃で60~150分間の二次加熱との二段処理で行うことが好ましい。また、ガラス転移温度(Tg)が二次加熱の温度を超える配合系においては、更に150~280℃で60~120分間の三次加熱を行うことが好ましい。このような二次加熱、三次加熱を行うことで硬化不良を低減することができる。樹脂シート、樹脂付き銅箔、プリプレグ等の樹脂半硬化物を作製する際には、通常、加熱等により形状が保てる程度に樹脂組成物の硬化反応を進行させる。樹脂組成物が溶媒を含んでいる場合には、通常、加熱、減圧、風乾等の手法で大部分の溶媒を除去するが、樹脂半硬化物中に5質量%以下の溶媒を残量させてもよい。
【0142】
本発明のフェノキシ樹脂又は、他の成分、特に硬化成分を配合した本発明の樹脂組成物は、貯蔵安定性に優れる。そのため本発明の樹脂組成物、塗料、電気・電子材料、封止材料、注型材料、炭素繊維強化樹脂や、導電ペースト、接着剤、絶縁材料等の様々な分野に適用可能であり、特に、電気・電子分野における絶縁注型、積層材料、封止材料等として有用である。用途の一例としては、プリント配線基板、フレキシルブル配線基板、キャパシタ等の電気・電子回路用積層板、樹脂付き金属箔、フィルム状接着剤、液状接着剤等の接着剤、半導体封止材料、アンダーフィル材料、3D-LSI用インターチップフィル、回路基板用絶縁材料、絶縁シート、プリプレグ、放熱基板、レジストインキが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【実施例0143】
以下、本発明を実施例及び比較例に基づいてより具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、これらに限定されるものではない。特に断りがない限り「部」は質量部を表し、「%」は質量%を表す。また、各種当量の単位は全て「g/eq.」である。分析方法、測定方法を以下に示す。
【0144】
(1)エポキシ当量:
JIS K7236規格に準拠して測定を行い、単位は「g/eq.」で表した。具体的には、電位差滴定装置を用い、溶媒としてシクロヘキサノンを使用し、臭素化テトラエチルアンモニウム酢酸溶液を加え、0.1mol/L過塩素酸-酢酸溶液を用いた。なお、溶媒希釈品(樹脂ワニス)は、不揮発分から固形分換算値としての数値を算出した。
【0145】
(2)不揮発分(固形分):
JIS K7235規格に準拠して測定した。乾燥温度は200℃で、乾燥時間は60分とした。
【0146】
(3.1)重量平均分子量(Mw):
GPC測定により求めた。具体的には、本体(東ソー株式会社製、HLC-8220GPC)にカラム(東ソー株式会社製、TSKgelG4000HXL、TSKgelG3000HXL、TSKgelG2000HXL)を直列に備えたものを使用し、カラム温度は40℃にした。また、溶離液にはTHFを用い、1mL/分の流速とし、検出器は示差屈折率検出器を用いた。測定試料は固形分で0.05gを10mLのTHFに溶解し、0.45μmのマイクロフィルターでろ過したものを50μL使用した。標準の単分散ポリスチレン(東ソー株式会社製、A-500,A-1000,A-2500,A-5000,F-1,F-2,F-4,F-10,F-20,F-40、F-80、F-128)より求めた検量線より換算して、Mwを求めた。なお、データ処理は、東ソー株式会社製GPC-8020モデルIIバージョン6.00を使用した。なお、リン含有フェノキシ樹脂の場合は、下記(3.2)の測定方法を用いた。
【0147】
(3.2)重量平均分子量(Mw):
GPC測定により求めた。具体的には、本体(東ソー株式会社製、HLC-8320GPC)にカラム(東ソー株式会社製、TSKgelSuperH-H、SuperH2000、SuperHM-H、SuperHM-H)を直列に備えたものを使用し、カラム温度は40℃にした。また、溶離液はDMF(20mM臭化リチウム含有品)を使用し、0.3mL/分の流速とし、検出器は示差屈折率検出器を使用した。測定試料は固形分で0.1gを10mLのDMFに溶解し、0.45μmのマイクロフィルターでろ過したものを20μL使用した。標準ポリエチレンオキシド(東ソー株式会社製、SE-2、SE-5、SE-8、SE-15、SE-30、SE-70、SE-150)より求めた検量線より換算して、Mwを求めた。なお、データ処理は東ソー株式会社製GPC-8020モデルIIバージョン6.00を使用した。
【0148】
(4)ガードナー色数:
JIS K0071-2規格に準拠して測定した。
【0149】
(5)リン含有率:
試料に硫酸、塩酸、過塩素酸を加え、加熱して湿式灰化し、全てのリン原子をオルトリン酸とした。硫酸酸性溶液中でメタバナジン酸塩及びモリブデン酸塩を反応させ、生じたリンバナドモリブデン酸錯体の420nmにおける吸光度を測定し、予め作成した検量線により求めたリン含有率(P/樹脂)を%で表した。なお、溶媒希釈品(樹脂ワニス)は、不揮発分から固形分換算値としての数値を算出した。
【0150】
(6)反応性:
フェノキシ樹脂のMwから以下の基準で評価した。
○:Mwが30,000~150,000の範囲のもの
×:Mwが30,000未満又は150,000を超えたもの
【0151】
(7)貯蔵安定性:
フェノキシ樹脂のMwから以下の基準で評価した。
○:40℃で30日貯蔵後のMw増加量が1000以下のもの
×:40℃で30日貯蔵後のMw増加量が1000以上のもの
【0152】
(8)ガラス転移温度(Tg):
IPC-TM-650 2.4.25.c規格に準拠して測定した。具体的には、示差走査熱量測定の2サイクル目に得られたDSCチャートの補外ガラス転移開始温度(Tig)で表した。示差走査熱量測定装置は、エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製のEXSTAR6000 DSC6200を使用した。測定試料は、樹脂フィルムをパンチングし、積層、アルミニウム製カプセルにパッキングして使用した。測定は、10℃/分の昇温速度で室温から280℃までを2サイクル行った。
【0153】
実施例、比較例の使用する略号を以下の通りである。
【0154】
[2官能エポキシ樹脂]
A1:2,5-ジ-t-ブチルヒドロキノン型エポキシ樹脂(日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製、エポトートYDC-1312、エポキシ当量154、m≒0.05)
【化8】
A2:ビスフェノールA型液状エポキシ樹脂(日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製、エポトートYD-128、エポキシ当量186、m≒0.09)
【化9】
【0155】
[ジエステル系化合物]
B1:4,4-ジアセトキシビフェニル(富士フィルム和光純薬株式会社製、活性エステル当量135)
【化10】
B2:合成例1で得られたリン含有2官能アセチル化化合物(10-(2,5-ジアセトキシフェニル)-9,10-ジヒドロ9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキサイド、リン含有率7.6%、活性当量204)
【化11】
【0156】
[2官能フェノール化合物]
C1:10-(2,5-ジヒドロキシフェニル)-9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキサイド(三光化学株式会社製、HCA-HQ、リン含有率9.5%、水酸基当量162)
【化12】
【0157】
[触媒、硬化促進剤]
D1: テトラ(n-ブチル)ホスホニウム-水素-ヘキサヒドロフタル酸塩(北興化学工業株式会社製、TBP-3S)
【化13】
D2:テトラフェニルホスホニウム-水素-フタル酸塩(北興化学工業株式会社製、TPP-フタル酸)
【化14】
D3:N,N’-ジメチルアミノピリジン(東京化成工業株式会社製)
D4: 2-エチル-4-メチルイミダゾール(四国化成工業株式会社製、キュアゾール2E4MZ)
D5:臭化(n-ブチル)トリフェニルホスホニウム(北興化学工業株式会社製、TPP-BB)
【0158】
[酸無水物]
E1:無水酢酸(富士フィルム和光純薬株式会社製)
【0159】
[溶媒・溶剤]
S1:シクロヘキサノン
S2:メチルエチルケトン(MEK)
【0160】
[硬化剤]
H1:フェノールノボラック樹脂(アイカ工業株式会社製、ショウノールBRG-557、水酸基当量105)
【0161】
合成例1
撹拌装置、温度計、窒素ガス導入装置、冷却管、及び滴下装置を備えたガラス製反応容器に、室温下で、2官能フェノール化合物(C1)を100部、無水酢酸(E1)を127部、ピリジンを48部仕込み、窒素ガスを流し撹拌しながら60℃まで昇温し、2時間反応を行った。その後、150℃、1.3kPa(10torr)の条件で2時間減圧乾燥を行い、リン含有化合物B2を203部得た。
【0162】
実施例1
撹拌装置、温度計、窒素ガス導入装置、冷却管、及び滴下装置を備えたガラス製反応容器に、室温下で、2官能エポキシ樹脂として2,5-ジ-t-ブチルヒドロキノン型エポキシ樹脂(A1)を100部、ジエステル系化合物として4,4-ジアセトキシビフェニル(B1)を85部、反応溶媒としてS1を46部仕込み、窒素ガスを流し撹拌しながら130℃まで昇温し、触媒としてテトラ(n-ブチル)ホスホニウム-水素-ヘキサヒドロフタル酸塩(D1)を0.3部添加した後、145℃まで昇温し、同温度で7時間反応を行った。希釈溶剤としてS1を46部、S2を185部使用して希釈混合して、不揮発分40%のフェノキシ樹脂ワニス(R1)を得た。
得られたフェノキシ樹脂ワニス(R1)のエポキシ当量は10,000であり、Mwは32,000であり、ガードナー色数は4であった。反応性は〇であり、貯蔵安定性は〇であった。その結果を表1に示す。
【0163】
実施例2~3、比較例1~2
表1に示す各原料の仕込み量(部)に従い、実施例1と同様操作を行い、フェノキシ樹脂ワニスを得た。得られたフェノキシ樹脂ワニス(R2~R3及びRH1~RH2)について、実施例1と同様の測定を行い、その測定結果を表1に示す。また、R3については、リン含有率の測定も行い、その測定結果を表1に示す。なお、表中の「モル比」は、ジエステル系化合物に対する2官能エポキシ樹脂のモル比を表す。
【0164】
【表1】
【0165】
表1から、エポキシ基と活性エステル基の反応において、特定の4級ホスホニウム塩のカルボン酸塩は優れた反応性を示し、得られたフェノキシ樹脂は貯蔵安定性に優れることが分かる。また、副反応を抑制し、同じ分子量ではエポキシ基当量を低減することが可能である。加えて、ガードナー色数を低減する効果も得られる。
【0166】
実施例4
実施例1と同様の装置に、室温下で、2官能エポキシ樹脂としてビスフェノールA型液状エポキシ樹脂(A2)を100部、2官能フェノール化合物として10-(2,5-ジヒドロキシフェニル)-9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキサイド(C1)を85部、反応溶媒としてS1を46部仕込み、窒素ガスを流し撹拌しながら150℃まで昇温し、触媒としてテトラ(n-ブチル)ホスホニウム-水素-ヘキサヒドロフタル酸塩(D1)を0.1部添加した後、160℃まで昇温し、同温度で5時間反応を行った。希釈溶剤としてS1を46部、S2を185部使用して希釈混合して、不揮発分40%のフェノキシ樹脂ワニス(R4)を得た。
得られたフェノキシ樹脂ワニス(R4)のエポキシ当量は9,000であり、Mwは45,000であり、ガードナー色数は1であり、リン含有率は4.4%であった。反応性は〇であり、貯蔵安定性は〇であった。その結果を表2に示す。
【0167】
比較例3~4
表2に示す各原料の仕込み量(部)に従い、実施例4と同様操作を行い、フェノキシ樹脂ワニスを得た。触媒D4は、副反応の懸念等を考慮し、仕込み量を調整した。得られたフェノキシ樹脂ワニス(RH3~RH4)について、実施例4と同様の測定を行い、その測定結果を表2に示す。なお、表中の「モル比」は、2官能フェノール化合物に対する2官能エポキシ樹脂のモル比を表す。
【0168】
【表2】
【0169】
表2から、エポキシ基とフェノール性水酸基の反応において、特定の4級ホスホニウム塩のカルボン酸塩は優れた反応性を示し、得られたフェノキシ樹脂は貯蔵安定性に優れることが分かる。また、副反応を抑制し、同じ分子量ではエポキシ当量を低減することも可能である。
【0170】
実施例5、6及び比較例5
実施例1、2及び比較例1で得られたフェノキシ樹脂ワニス(R1、R2、及びRH1)を30部(固形分で12部)、エポキシ樹脂(A1)を2部、硬化剤(H1)を50%MEK溶液で2.5部、及び硬化促進剤(D4)を20%MEK溶液で0.3部を配合して、樹脂組成物を得た。更にこれらを乾燥後の膜厚が150μmとなるよう鉄板に塗布し、乾燥機を用いて150℃、1時間乾燥して、高分子フィルム状の硬化物を得た。Tgを測定した結果を表3に示す。
【0171】
【表3】
【0172】
表3から分かる様に、触媒として特定の4級ホスホニウム塩のカルボン酸塩を使用して得られたフェノキシ樹脂を配合した樹脂組成物は、フェノキシ樹脂ワニス中に残存する4級ホスホニウム塩のカルボン酸塩が比較例で使用した触媒(D3)に比べて副反応を抑制し、更に同じ分子量においてエポキシ当量を低減した効果によって、硬化反応時に寄与する官能基が増加し、耐熱性が向上する。よって、本発明の樹脂組成物からなる硬化物は耐熱性に優れる。
【産業上の利用可能性】
【0173】
本発明の製造方法により得られるフェノキシ樹脂、及びそれを配合した樹脂組成物は、塗料、電気・電子材料、接着剤、炭素繊維強化樹脂(CFRP)等の分野において好適に用いることができる。