(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024135630
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】バイオマス燃料の製造方法、及び、バイオマス燃料の製造装置
(51)【国際特許分類】
C10L 5/44 20060101AFI20240927BHJP
B09B 3/40 20220101ALI20240927BHJP
C10L 1/00 20060101ALI20240927BHJP
B09B 101/85 20220101ALN20240927BHJP
【FI】
C10L5/44 ZAB
B09B3/40
C10L1/00
B09B101:85
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023046415
(22)【出願日】2023-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】521297587
【氏名又は名称】UBE三菱セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【弁理士】
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(74)【代理人】
【識別番号】100212026
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 真生
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 千裕
(72)【発明者】
【氏名】境 徹浩
(72)【発明者】
【氏名】丸屋 英二
(72)【発明者】
【氏名】村上 浩平
【テーマコード(参考)】
4D004
4H013
4H015
【Fターム(参考)】
4D004AA12
4D004AC05
4D004BA03
4D004CA25
4D004CA32
4D004CB04
4D004CB09
4D004CC03
4D004DA03
4D004DA06
4D004DA12
4H013AA02
4H015AA13
4H015AB01
4H015BB03
4H015CB01
(57)【要約】
【課題】木質バイオマスを固体燃料と液体燃料とに適切に分離する。
【解決手段】外部からの熱を利用して加熱を行うロータリーキルンにより木質バイオマスを加熱して、分解ガスと固体燃料とに分解する加熱工程と、前記ロータリーキルンの内部のうちの、前記内部における最高温度の75%以上の温度を有する領域に配置されたガス抜出口を介して、前記加熱工程において生成された分解ガスを前記内部から排出する排出工程と、前記排出工程において前記内部から排出された分解ガスを冷却して、液体燃料を得る冷却工程と、を含むバイオマス燃料の製造方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部からの熱を利用して加熱を行うロータリーキルンにより木質バイオマスを加熱して、分解ガスと固体燃料とに分解する加熱工程と、
前記ロータリーキルンの内部のうちの、前記内部における最高温度の75%以上の温度を有する領域に配置されたガス抜出口を介して、前記加熱工程において生成された分解ガスを前記内部から排出する排出工程と、
前記排出工程において前記内部から排出された分解ガスを冷却して、液体燃料を得る冷却工程と、を含むバイオマス燃料の製造方法。
【請求項2】
前記加熱工程において、酸素濃度が5%以下の低酸素雰囲気下で木質バイオマスが加熱されるように、前記内部に不活性ガスを導入するガス導入工程を更に含み、
前記加熱工程では、前記ロータリーキルンにより400℃~700℃で木質バイオマスが加熱される、請求項1に記載のバイオマス燃料の製造方法。
【請求項3】
タンク内に収容された状態の木質バイオマスの一部を、前記ロータリーキルンの上流側の端部から前記内部に供給する原料供給工程と、
前記タンク内に不活性ガスを導入するガス導入工程と、を更に含む、請求項1に記載のバイオマス燃料の製造方法。
【請求項4】
前記内部のうちの前記ガス抜出口よりも下流に位置する領域を含む下流領域に対して、不活性ガスを導入するガス導入工程を更に含む、請求項1に記載のバイオマス燃料の製造方法。
【請求項5】
前記冷却工程では、水、及び、既に得られた液体燃料の少なくとも一方を含む冷却用の液体を分解ガスに接触させることで、分解ガスが冷却される、請求項1~4のいずれか一項に記載のバイオマス燃料の製造方法。
【請求項6】
前記冷却工程では、冷却空間を有する回収塔において、前記冷却空間に導入された分解ガスが前記冷却用の液体と接触することで、分解ガスが冷却され、
前記冷却空間に導入されるガスの導入量(L/min)に対する、前記冷却空間に供給される前記冷却用の液体の供給量(L/min)の比が、0.6~10である、請求項5に記載のバイオマス燃料の製造方法。
【請求項7】
前記冷却工程では、冷却空間を有する回収塔において、前記冷却空間に導入された分解ガスが前記冷却用の液体と接触することで、分解ガスが冷却され、
前記冷却工程は、前記冷却用の液体に含まれる水の量、及び、前記冷却空間の温度の少なくとも一方を調節することにより、前記回収塔から回収される液体燃料の含水率を5%~50%に調節することを含み、
前記冷却空間の温度は、50℃~100℃である、請求項5に記載のバイオマス燃料の製造方法。
【請求項8】
外部に設けられた加熱部からの熱を利用して木質バイオマスを加熱して、分解ガスと固体燃料とに分解するロータリーキルンと、
前記ロータリーキルンの内部のうちの、前記ロータリーキルンが木質バイオマスを加熱する際に前記内部における最高温度の75%以上の温度を有する領域に配置されたガス抜出口を有し、前記内部に生成された分解ガスを前記内部から排出する抜出配管と、
前記内部から排出された分解ガスを冷却して、液体燃料を生成する回収装置と、を備えるバイオマス燃料の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、バイオマス燃料の製造方法、及び、バイオマス燃料の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化防止又は循環型社会形成の観点から、カーボンニュートラルの考えのもと、バイオマスの活用を拡大する動きが活発化してきている。例えば、木質バイオマスの燃料化方法として、木質バイオマスを急速加熱して急激に熱分解し、熱分解により得られたガスを冷却することで、液体燃料としてオイル分を回収する方法が知られている(例えば、特許文献1~4参照)。木質バイオマスの熱分解後の炭化物は、固体燃料として使用することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2000-510889号公報
【特許文献2】特開2012-236924号公報
【特許文献3】特開2010-116536号公報
【特許文献4】特開2014-190882号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、固体燃料と液体燃料とに適切に分離することが可能なバイオマス燃料の製造方法、及び、バイオマス燃料の製造装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
[1]外部からの熱を利用して加熱を行うロータリーキルンにより木質バイオマスを加熱して、分解ガスと固体燃料とに分解する加熱工程と、前記ロータリーキルンの内部のうちの、前記内部における最高温度の75%以上の温度を有する領域に配置されたガス抜出口を介して、前記加熱工程において生成された分解ガスを前記内部から排出する排出工程と、前記排出工程において前記内部から排出された分解ガスを冷却して、液体燃料を得る冷却工程と、を含むバイオマス燃料の製造方法。
【0006】
[2]前記加熱工程において、酸素濃度が5%以下の低酸素雰囲気下で木質バイオマスが加熱されるように、前記内部に不活性ガスを導入するガス導入工程を更に含み、前記加熱工程では、前記ロータリーキルンにより400℃~700℃で木質バイオマスが加熱される、上記[1]に記載のバイオマス燃料の製造方法。
【0007】
[3]タンク内に収容された状態の木質バイオマスの一部を、前記ロータリーキルンの上流側の端部から前記内部に供給する原料供給工程と、前記タンク内に不活性ガスを導入するガス導入工程と、を更に含む、上記[1]又は[2]に記載のバイオマス燃料の製造方法。
【0008】
[4]前記内部のうちの前記ガス抜出口よりも下流に位置する領域を含む下流領域に対して、不活性ガスを導入するガス導入工程を更に含む、上記[1]~[3]のいずれか1つに記載のバイオマス燃料の製造方法。
【0009】
[5]前記冷却工程では、水、及び、既に得られた液体燃料の少なくとも一方を含む冷却用の液体を分解ガスに接触させることで、分解ガスが冷却される、上記[1]~[4]のいずれか1つに記載のバイオマス燃料の製造方法。
【0010】
[6]前記冷却工程では、冷却空間を有する回収塔において、前記冷却空間に導入された分解ガスが前記冷却用の液体と接触することで、分解ガスが冷却され、前記冷却空間に導入されるガスの導入量(L/min)に対する、前記冷却空間に供給される前記冷却用の液体の供給量(L/min)の比が、0.6~10である、上記[5]に記載のバイオマス燃料の製造方法。
【0011】
[7]前記冷却工程では、冷却空間を有する回収塔において、前記冷却空間に導入された分解ガスが前記冷却用の液体と接触することで、分解ガスが冷却され、前記冷却工程は、前記冷却用の液体に含まれる水の量、及び、前記冷却空間の温度の少なくとも一方を調節することにより、前記回収塔から回収される液体燃料の含水率を5%~50%に調節することを含み、前記冷却空間の温度は、50℃~100℃である、上記[5]又は[6]に記載のバイオマス燃料の製造方法。
【0012】
[8]外部に設けられた加熱部からの熱を利用して木質バイオマスを加熱して、分解ガスと固体燃料とに分解するロータリーキルンと、前記ロータリーキルンの内部のうちの、前記ロータリーキルンが木質バイオマスを加熱する際に前記内部における最高温度の75%以上の温度を有する領域に配置されたガス抜出口を有し、前記内部に生成された分解ガスを前記内部から排出する抜出配管と、前記内部から排出された分解ガスを冷却して、液体燃料を生成する回収装置と、を備えるバイオマス燃料の製造装置。
【発明の効果】
【0013】
本開示によれば、固体燃料と液体燃料とに適切に分離することが可能なバイオマス燃料の製造方法、及び、バイオマス燃料の製造装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、バイオマス燃料の製造装置の一例を示す模式図である。
【
図2】
図2は、外熱式のロータリーキルンの一例を示す模式図である。
【
図3】
図3は、回収装置の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して一実施形態について説明する。説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0016】
[バイオマス燃料の製造装置]
図1には、一実施形態に係るバイオマス燃料の製造装置が模式的に示されている。
図1に示される製造装置1(バイオマス燃料の製造装置)は、木質バイオマスから燃料を製造する装置である。製造装置1は、複数の装置によって構成される製造システム、又は製造設備と称することもできる。本開示では、木質バイオマスの燃料化により得られる固体燃料及び液体燃料を総称して「バイオマス燃料」と称する。すなわち、バイオマス燃料は、固体燃料、液体燃料、又は、固体燃料及び液体燃料の両方を意味する。
【0017】
製造装置1が製造するバイオマス燃料の原料である木質バイオマスは、木チップ及び廃木材の少なくとも一方を粉砕したものであってもよい。
図1では省略されているが、製造装置1は、木チップ等を粉砕するための装置を備えていてもよい。木質バイオマスとしては、例えば、建設系廃木材、林地残材、製材工場の残材、パームヤシ殻、籾殻、稲藁、麦藁、飼料、廃棄紙等又はこれらの破砕物などが挙げられる。木質バイオマスは、建設系廃木材及び林地残材の少なくとも一方の破砕物を含んでいてもよい。
【0018】
製造装置1は、少なくとも、木質バイオマスを加熱して分解ガスと固体燃料とに分解することと、分解ガスを冷却して液体燃料を生成することと、を実行する。製造装置1は、例えば、供給装置10と、加熱分解装置20と、抜出配管50と、回収装置60と、燃焼炉80と、を備える。加熱分解装置20は、外熱式のロータリーキルンを構成し、加熱炉であるロータリーキルン30を有する。
【0019】
供給装置10は、加熱分解装置20(より詳細には、ロータリーキルン30)に対して、処理対象の木質バイオマスを供給する装置である。供給装置10は、例えば、タンク12と、投入口14と、フィーダー16と、ガス導入部18と、を有する。
【0020】
タンク12は、木質バイオマスを収容する。タンク12内には、投入口14を介して木質バイオマスが投入される。例えば、木チップ等を粉砕するための装置から、ベルトコンベヤ等の運搬装置によって、投入口14まで木質バイオマスが運搬される。フィーダー16は、タンク12内の木質バイオマスの一部をロータリーキルン30に供給する。フィーダー16は、例えば、スクリューコンベア等を含む。フィーダー16は、略一定の供給速度(単位時間あたりの供給量)で、ロータリーキルン30の上流側の端部から、ロータリーキルン30の内部に対して木質バイオマスを供給する。
【0021】
本開示では、木質バイオマス、並びに木質バイオマスに由来する中間品及び燃料の製造装置1での流れを基準に、「上流」及び「下流」の用語を使用する。すなわち、製造装置1において、木質バイオマス、バイオマス燃料の中間品、及びバイオマス燃料は、上流から下流に向かって、運ばれるか又は流通する。ロータリーキルン30の上流側の端部が、供給装置10の近くに配置されている。
【0022】
ガス導入部18は、タンク12内及びロータリーキルン30内の少なくとも一方に不活性ガスGiを供給する。ガス導入部18は、例えば、タンク12内に不活性ガスGiを導入するノズル18aと、ロータリーキルン30内に不活性ガスGiを導入するノズル18bと、を含む。例えば、同じガス供給源から、ノズル18a及びノズル18bそれぞれに不活性ガスGiが供給される。不活性ガスGiは、窒素ガスであってもよい。ノズル18a及びノズル18bそれぞれは、ガス導入部18の配管の先端部分で構成されてもよく、これらの先端にはガス導入口がそれぞれ形成されている。
【0023】
ロータリーキルン30内に不活性ガスGiが供給されることで、ロータリーキルン30内が低酸素雰囲気下(非酸化性雰囲気下)となる。ガス導入部18は、ロータリーキルン30内の酸素濃度が5%以下に維持されるように、ロータリーキルン30内に不活性ガスGiを供給してもよい。ガス導入部18のノズル18aからタンク12内に不活性ガスGiが供給されることで、ロータリーキルン30からタンク12への分解ガスの逆流が防止される。
【0024】
加熱分解装置20は、木質バイオマスを加熱して分解する装置である。加熱分解装置20のロータリーキルン30は、円筒状に形成された加熱炉であり、外部からの熱を利用して木質バイオマスを加熱する。ロータリーキルン30は、一方向に延びるように形成されており、その延在方向に沿う軸線まわりに回転可能となるように設置されている。ロータリーキルン30の延在方向は、水平面に対して若干傾斜している。
【0025】
図1において、ロータリーキルン30が延在する方向(上記軸線に沿う方向)が「D1」で示されており、ロータリーキルン30が有する内部空間が「S1」で示されている。ロータリーキルン30は、上流側の端部が、下流側の端部よりも高くなるように、傾斜して設けられている。これにより、ロータリーキルン30の回転に伴って、内部空間S1(ロータリーキルン30の内部)に供給された木質バイオマスが、加熱されながら上流から下流に向かって移動する。
【0026】
加熱分解装置20は、加熱部40を有する。加熱部40は、ロータリーキルン30の外部に配置されており、ロータリーキルン30の外壁(外表面)に熱を加える装置である。すなわち、ロータリーキルン30は、自身の外部に配置された加熱部40からの熱を利用して木質バイオマスを加熱する。加熱部40は、どのような加熱手段を用いてロータリーキルン30の外壁を加熱してもよいが、例えば、高温のガスをロータリーキルン30の外壁に沿って流通させる。
【0027】
加熱部40による加熱領域は、ロータリーキルン30の延在方向を示す方向D1において、ロータリーキルン30の中央部分に位置してもよい。加熱部40による加熱領域とは、加熱部40が、ロータリーキルン30の外壁に対して熱を加えている領域である。方向D1での加熱領域の両端それぞれの位置は、加熱部40に含まれる加熱するための部材の位置によって規定される。加熱部40の加熱領域は、一例では、方向D1において、ロータリーキルン30を均等に3つの区画に分けたときに中央に位置する区画と同程度の範囲に位置している。加熱部40の加熱領域が、ロータリーキルン30の方向D1における両端部それぞれの近傍に配置されないことで、上記両端部において内部空間S1を密閉するための部材が加熱されるのが回避される。
【0028】
ロータリーキルン30及び加熱部40から構成される外熱式ロータリーキルンは、例えば、木質バイオマスを低酸素雰囲気下で400℃~700℃に加熱する。外熱式ロータリーキルンでの加熱により、木質バイオマスが、内部空間S1において、分解ガス(熱分解ガス)と炭化物とに分解される。木質バイオマスが分解されて得られる炭化物は、残渣であるともいえる。製造装置1では、分解ガスが生成された残りの炭化物が、固体燃料として回収される。以上のように、ロータリーキルン30(外熱式ロータリーキルン)は、木質バイオマスを加熱して、分解ガスと固体燃料とに分解する。以下、木質バイオマスに由来する分解ガスを「分解ガスGd」と表記する。
【0029】
抜出配管50は、ロータリーキルン30の内部空間S1に生成された分解ガスGdを、内部空間S1から排出する管である。抜出配管50には、内部空間S1で生成された分解ガスGdを、配管内に抜き出すためのガス抜出口52が形成されている。ガス抜出口52は、例えば、抜出配管50の先端に設けられた開口である。抜出配管50は、ガス抜出口52から抽気された分解ガスGdが回収装置60まで流通して、回収装置60に導入されるように形成されている。
【0030】
抜出配管50は、方向D1に沿って延びるように形成されている。抜出配管50の方向D1における一端は、回収装置60に固定されていてもよい。抜出配管50の方向D1における他端に、ガス抜出口52が形成されている。抜出配管50は、ガス抜出口52を含む大半(50%以上の部分)が内部空間S1に挿入されている状態で、配置されている。抜出配管50は、ロータリーキルン30の下流側の端部の開口、及び後述の排出塔54内の排出空間を通過するように設置されている。抜出配管50は、方向D1に直交する断面において、ロータリーキルン30の中心(軸線の位置)に配置されてもよい。配管内での分解ガスGdの温度低下を抑制する観点から、抜出配管50が保温又は加熱されていてもよい。
【0031】
ガス抜出口52は、内部空間S1のうちの、ロータリーキルン30が木質バイオマスを加熱する際に内部空間S1における最高温度の75%以上の温度を有する領域に配置されている。以下の説明において、内部空間S1における温度は、ロータリーキルン30が木質バイオマスを加熱する際の温度を意味する。方向D1に直交する径方向において、内部空間S1での温度変化は、方向D1での温度変化に比べて小さい。そのため、方向D1での温度分布が考慮されて、内部空間S1における最高温度の75%以上の温度を有する領域が規定されてもよい。
【0032】
一例では、方向D1に直交する径方向の位置が一定であり、方向D1での位置が異なる複数の測定点において温度が測定されたうえで、複数の測定点それぞれの測定値の最大値が内部空間S1における最高温度として算出される。複数の測定点同士の間隔は、1cm~5cm程度であってもよい。方向D1での温度分布では、加熱部40がロータリーキルン30の中央部分に位置するため、上流から順に、最高温度の75%未満の温度域、最高温度の75%以上の温度域、及び最高温度の75%未満の温度域が並んでいる。
【0033】
そして、最高温度の75%以上の値が測定された測定点によって定まる範囲に、ガス抜出口52が配置されている。例えば、測定値の最大値の75%以上の値を有し、方向D1において連続して並ぶ2以上の測定点のうちの、最も上流に位置する測定点と、最も下流に位置する測定点との間の領域に、ガス抜出口52が位置している。ガス抜出口52に最も近い測定点では、最高温度の75%以上の測定値が得られている。
【0034】
図2には、加熱部40による加熱領域とガス抜出口52との相対的な位置関係を説明するための模式図が示されている。
図2では、方向D1が、紙面上の左右方向に一致するように図が描かれており、分かりやすさのために抜出配管50にハッチングが付されている。ガス抜出口52は、ロータリーキルン30の内壁に接触しない状態で、加熱部40による加熱領域に対応する位置に配置されてもよい。
図2では、加熱部40のうちのロータリーキルン30の外壁を加熱する部材が「42」で示されている。部材42が存在する領域が加熱領域に相当する。方向D1において、ガス抜出口52は、加熱部40による加熱領域と重なる位置に配置されている。
【0035】
図2において、「L1」は、方向D1での加熱領域(部材42)の全長を表しており、「L2」は、加熱領域の下流側の一端と、ガス抜出口52との間の方向D1における距離(直線距離)を表している。方向D1において、距離L2は、加熱領域の全長L1の5%以上であってもよい。すなわち、方向D1において、抜出配管50のうちの加熱部40の加熱領域と重なる部分の長さが、加熱領域の全長L1の0.05倍以上であってもよい。距離L2は、内部空間S1から分解ガスGdを効率的に抽気する観点から、加熱領域の全長L1の5%以上、6%以上、又は7%以上であってもよい。距離L2は、内部空間S1から分解ガスGdを効率的に抽気する観点から、加熱領域の全長L1の20%以下、18%以下、又は16%以下であってもよい。距離L2は、例えば、加熱領域の全長L1の5%~20%である。
【0036】
加熱領域の全長L1は、木質バイオマスの未分解の発生を抑制する観点から、60cm以上、70cm以上、又は80cm以上であってもよい。加熱領域の全長L1は、装置の簡素化の観点から、110cm以下、100cm以下、又は90cm以下であってもよい。距離L2は、加熱領域に対応する位置に生成された分解ガスGdを効率的に抜き出す観点から、6cm以上、7cm以上、又は8cm以上であってもよい。距離L2は、加熱領域に対応する位置に生成された分解ガスGdを効率的に抜き出す観点から、18cm以下、16cm以下、又は14cm以下であってもよい。距離L2は、例えば、6cm~18cmである。
【0037】
ロータリーキルン30の内径φ1は、例えば、8cm~12cm程度である。ロータリーキルン30の方向D1での全長は、例えば、150cm~250cm程度である。抜出配管50の内径φ2iは、例えば、1.2cm~1.8cm程度である。抜出配管50の外径φ2oは、例えば、1.8cm~2.5cm程度である。抜出配管50の方向D1での全長は、例えば、80cm~120cm程度である。
【0038】
図1に戻り、加熱分解装置20は、排出塔54と、ガス導入部56と、搬送装置58とを有する。排出塔54は、ロータリーキルン30の下流側の端部に接続されており、内部空間S1に接続された排出空間を形成する。排出塔54は、ロータリーキルン30から排出される固体燃料を受け入れて、下流に位置する装置に向けて、排出口54aから固体燃料を排出する。
【0039】
ガス導入部56は、排出塔54内の排出空間に対して不活性ガスGiを導入する。ガス導入部56から導入される不活性ガスGiは、窒素ガスであってもよい。排出塔54内の排出空間に対して不活性ガスGiが導入されることで、内部空間S1のうちのガス抜出口52よりも下流に位置する領域と排出塔54の排出領域とを含む領域(以下、「下流領域」と称する。)に対して、不活性ガスGiが導入される。下流領域に対して不活性ガスGiが導入されることで、下流領域に分解ガスGdが流れてくることを抑制できる。
【0040】
搬送装置58は、排出塔54の排出口54aから排出された固体燃料を受け入れて、その固体燃料を、製造装置1の外まで搬送する。搬送装置58は、例えば、スクリューコンベア、又はベルトコンベヤである。搬送装置58の搬送(運搬)により、木質バイオマスに由来した固体燃料が、製造装置1から取り出される。
【0041】
回収装置60は、ガス抜出口52を介してロータリーキルン30の内部空間S1から排出された分解ガスGdを冷却して、液体燃料を生成する装置である。
図3には、回収装置60の一例が模式的に示されている。回収装置60は、例えば、回収塔62と、ガス導入部64と、貯留部66と、循環配管68と、スプレーノズル70と、注水ノズル72と、を有する。
【0042】
回収塔62は、分解ガスGdを冷却するための内部空間である冷却空間S2を形成する。ガス導入部64は、抜出配管50に接続されており、冷却空間S2に対して分解ガスGdを導入する。ガス導入部64は、ノズルを含み、そのノズルの先端には、ガス導入口が形成されている。抜出配管50の下流側の端部が、ガス導入部64を形成してもよい。ガス導入部64は、例えば、冷却空間S2の上部において、分解ガスGdを下向きに吐出する。貯留部66は、冷却空間S2の下端に接続されており、冷却空間S2で分解ガスGdが冷却されることで生成された液体燃料を受け入れて、その液体燃料を貯留する。貯留部66には、液体燃料の分離を抑制するために、攪拌部材が設けられてもよい。
【0043】
循環配管68は、貯留部66に貯留されている液体燃料を循環させるための配管である。循環配管68の先端には、スプレーノズル70が形成されている。スプレーノズル70は、内部空間S1の上半分の領域に位置していてもよい。循環配管68には、貯留部66から液体燃料を吸い上げて、スプレーノズル70に送出するためのポンプが設けられている。スプレーノズル70は、循環配管68を介して貯留部66から吸い上げられた液体燃料を、冷却空間S2に噴霧するノズルである。スプレーノズル70は、噴霧した液体燃料が、冷却空間S2に導入された分解ガスGdと接触するように配置及び形成されている。
【0044】
注水ノズル72は、冷却空間S2に対して水を供給する。注水ノズル72の先端には、冷却空間S2に対して水を吐出する注水口が形成されている。注水ノズル72は、スプレーノズル70と同様に水を噴霧してもよい。注水ノズル72は、供給した水が、冷却空間S2に導入された分解ガスGdと接触するように配置及び形成されている。回収装置60では、スプレーノズル70から噴霧される液体燃料、及び注水ノズル72から供給される水が、冷却用の液体として機能する。
【0045】
回収装置60は、既に得られた液体燃料、及び水の少なくとも一方を含む冷却用の液体を分解ガスGdに接触させて、分解ガスGd2を冷却する。上記貯留部66は、冷却用の液体と分解ガスGdとが接触することで得られる液体燃料を貯留する。回収装置60は、装置の運転中において、ある期間では、既に得られた液体燃料のみを分解ガスGdと接触させてもよく、他のある期間では、水のみを分解ガスGdと接触させてもよい。また、回収装置60は、他のある期間において、既に得られた液体燃料及び水の両方を分解ガスGdと接触させてもよい。
【0046】
回収装置60は、装置の運転中の少なくとも一部の期間において、貯留部66内の液体燃料の含水率に応じて、冷却用の液体に含まれる水の量を調節してもよい。言い換えると、回収装置60は、貯留部66内の液体燃料の含水率に応じて、注水ノズル72からの注水量を調節してもよい。注水量の調節には、注水ノズル72からの注水量をゼロとして、注水ノズル72からの注水を停止させることも含まれてもよい。回収装置60は、貯留部66内の液体燃料の含水率を計測するセンサ67を有してもよい。
【0047】
回収装置60は、冷却空間S2の温度を調節可能な温度調節装置69を有してもよい。温度調節装置69は、冷却空間S2の温度を調節可能であれば、どのような装置であってもよい。温度調節装置69は、例えば、循環配管68内の液体燃料の温度、貯留部66内の液体燃料の温度、及び冷却空間S2(回収塔62)自体の温度から成る群から選択される1以上の温度を調節してもよい。回収装置60は、冷却空間S2の温度を計測するセンサ73を有してもよい。回収装置60は、センサ73の計測値が目標値に近づくように温度調節装置69を制御してもよい。回収装置60は、自装置に含まれる1以上の装置又は部材を制御するための制御装置を有してもよい。
【0048】
回収装置60は、抜出配管74と、製品タンク76とを有する。抜出配管74は、循環配管68の途中から、液体燃料を抜き出すための配管である。抜出配管74を通して抜き出された液体燃料は、製品タンク76に供給される。回収装置60は、例えば、貯留部66内の液体燃料の量が所定レベルに達すると、抜出配管74を介して貯留部66から液体燃料を抜き出して、製品タンク76に供給する。製品タンク76に液体燃料が供給されることで、木質バイオマスに由来する液体燃料が製造装置1において得られる。
【0049】
回収装置60には、ガス排出口78が設けられており、冷却空間S2において液化されなかった残ガスG1が、ガス排出口78を介して冷却空間S2の外に排出される。冷却用の液体が分解ガスGdとの接触により蒸発した水分は、残ガスG1に含まれて、ガス排出口78から排出される。
図1に示されるように、残ガスG1は、燃焼炉80に供給されてもよい。
【0050】
燃焼炉80には、補助バーナー82が設けられており、燃焼炉80は、残ガスG1を燃焼することで、加熱用ガスG2を生成する。燃焼炉80で生成された加熱用ガスG2は、加熱部40に供給される。加熱部40は、回収装置60からの残ガスG1に由来する加熱用ガスG2を用いて、ロータリーキルン30の外壁を加熱してもよい。加熱部40は、ロータリーキルン30の外壁の加熱に利用した後の加熱用ガスG2を大気に放出してもよい。
【0051】
[バイオマス燃料の製造方法]
続いて、製造装置1を用いて実行されるバイオマス燃料の製造方法について説明する。バイオマス燃料の製造方法は、木質バイオマスの燃料化方法ということもできる。バイオマス燃料の製造方法は、例えば、原料供給工程と、ガス導入工程と、加熱工程と、排出工程と、冷却工程と、回収工程と、を含む。これらの工程それぞれは、少なくとも部分的に重複した期間において、並行して実行される。
【0052】
<原料供給工程>
原料供給工程は、タンク12内に収容された状態の木質バイオマスの一部を、ロータリーキルン30の上流側の端部から内部空間S1に供給する工程である。原料供給工程が実行される前には、タンク12内に木質バイオマスが運搬されている。原料供給工程では、ロータリーキルン30に対して木質バイオマスが継続して供給される。製造装置1の運転中において、タンク12内に木質バイオマスが補充されてもよい。
【0053】
<ガス導入工程>
ガス導入工程は、内部空間S1の酸素濃度が5%以下の低酸素雰囲気下となるように、内部空間S1に不活性ガスGiを導入する工程である。ガス導入工程では、ガス導入部18のノズル18bによって、ロータリーキルン30の上流側の端部から、内部空間S1に対して不活性ガスGiが導入されてもよい。
【0054】
ガス導入工程は、内部空間S1のうちガス抜出口52よりも下流に位置する領域を含む上述の下流領域に対して、不活性ガスGiを導入することを含む。例えば、ガス導入部56から排出塔54の内部の空間に対して不活性ガスGiが導入されることで、上記下流領域に対して不活性ガスGiが導入される。ガス導入工程は、タンク12内に不活性ガスGiを導入することを含む。例えば、ガス導入部18のノズル18aから、タンク12内に不活性ガスGiが導入される。
【0055】
<加熱工程>
加熱工程は、外部からの熱を利用して加熱を行うロータリーキルン30により木質バイオマスを加熱して、分解ガスと固体燃料とに分解する工程である。加熱工程では、ロータリーキルン30により400℃~700℃で木質バイオマスが加熱されてもよい。内部空間S1において木質バイオマスを加熱する際の最高温度(内部空間S1における最高温度:以下、単に「加熱温度」という。)は、例えば、400℃~700℃である。加熱温度が400℃未満であると、木質バイオマスが充分に分解せず、液体燃料の収率が低下する傾向にある。木質バイオマスの加熱温度が700℃を超えると、木質バイオマスの分解が進み過ぎて、液体燃料及び固体燃料として回収されない成分が増加し、液体燃料及び固体燃料の収率が低下する傾向にある。木質バイオマスの加熱温度は、好ましくは420℃~600℃であり、より好ましくは450℃~530℃である。
【0056】
加熱工程では、分解ガスの燃焼を防ぐ観点から、低酸素雰囲気下で木質バイオマスの加熱が行われる。内部空間S1の体積基準の酸素濃度が、5%以下であってもよい。内部空間S1の体積基準の酸素濃度は、好ましくは3%以下であり、より好ましくは1%以下である。ガス導入工程での不活性ガスGiの導入により、内部空間S1が低酸素雰囲気下に維持される。
【0057】
木質バイオマスの加熱及び分解のために、ロータリーキルン30に代えて、流動床炉又はストーカー炉を用いることも考えられる。しかしながら、流動床炉では、流動化させるために多量のガスを導入し、又は原材料の粒径をシビアに制御する必要があるため、運転コストが高くなる場合がある。また、ストーカー炉では、低酸素雰囲気での制御及び加熱温度の制御が難しい。したがって、本開示の製造方法のようにロータリーキルンを用いることが好ましい。特に、雰囲気と温度制御の観点から、外熱式ロータリーキルンが用いられる。熱源として電気炉、石油、石炭及び天然ガスが用いられてもよく、二酸化炭素削減の観点から、分解ガスGdから液体燃料を回収した後の低沸点の有機成分を含む残ガスG1を燃焼させて熱源とすることが好ましい。
【0058】
<排出工程>
排出工程は、内部空間S1のうち、内部空間S1における最高温度の75%以上の温度を有する領域に配置されたガス抜出口52を介して、加熱工程において生成された分解ガスGdを内部空間S1から排出する工程である。排出工程は、加熱工程において木質バイオマスの加熱が継続されている間に実行される。分解ガスGd中の液体燃料となり得る成分が凝縮して固体燃料に付着すると、固体燃料のハンドリング性が悪化する。固体燃料のハンドリング性が悪化すると、固体燃料が付着しやすい性状を有するようになり、装置内部に固着して閉塞等のトラブルが発生し得る。また、分解ガスGd中の液体燃料成分が凝縮すると、その成分は液体燃料として回収されないので、液体燃料の収率及び品質が低下する。
【0059】
ガス抜出口52を、内部空間S1における最高温度の75%以上の温度を有する領域に配置することで、上記ハンドリング性の悪化を抑制できる。また、液体燃料の収率及び品質の低下を抑制できる。ガス抜出口52を、内部空間S1における最高温度の75%以上の温度を有する領域に配置することは、ガス抜出口52が上記最高温度の75%以上の温度を有することに相当する。分解ガスGd中の一部の成分の固体燃料への付着を防止する観点から、ガス抜出口52の温度は、好ましくは上記最高温度の80%以上であり、より好ましくは上記最高温度の90%以上である。
【0060】
<冷却工程>
冷却工程は、排出工程において内部空間S1から排出された分解ガスGdを冷却して、液体燃料を得る工程である。冷却工程では、水、及び、既に得られた液体燃料の少なくとも一方を含む冷却用の液体を分解ガスGdに接触させることで、分解ガスGdが冷却される。冷却工程では、分解ガスGdの急冷が行われる。分解ガスGdに含まれる液体燃料成分は種々の成分を含む混合物であり、高温の分解ガスGdを急速に冷却することで、液体燃料の各成分を一度に凝縮させ、分離を抑制することができる。
【0061】
冷却工程では、冷却空間S2を有する回収塔62において、冷却空間S2に導入された分解ガスGdが冷却用の液体と接触することで、分解ガスGdが冷却される。ここで、冷却空間S2に導入されるガスの導入量(L/min)に対する、冷却空間S2に供給される冷却用の液体の供給量(L/min)の比を、「液ガス比」と定義する。液体燃料での有機成分の収率を向上させる観点から、液ガス比は、0.6以上であってもよい。液ガス比は、有機成分の収率の観点から、好ましくは0.65以上であり、より好ましくは0.7以上である。
【0062】
液ガス比は、装置の簡素化の観点から、10以下、8以下、6以下、又は4以下であってもよい。液ガス比は、例えば、0.6~10、又は0.7~4である。冷却空間S2に導入されるガスには、分解ガスGdと、分解ガスGd以外のガス(例えば、窒素ガス)とが含まれてもよい。この場合、上記ガスの導入量は、分解ガスGdの導入量と分解ガスGd以外のガスの導入量とを合算して得られる。分解ガスGdの導入量は、液体燃料成分及び水蒸気を除いた標準状態で測定される流量であり、分解ガスGd以外のガスの導入量は、標準状態で測定される流量である。冷却用の液体の供給量は、スプレーノズル70から噴霧される液体燃料の流量と、注水ノズル72から供給される水の流量との合計である。
【0063】
冷却工程での分解ガスGdの冷却温度は、例えば0℃~100℃であり、好ましくは30℃~100℃であり、より好ましくは50℃~100℃であり、更に好ましくは65℃~85℃である。分解ガスGdの冷却温度は、冷却空間S2の温度に相当する。分解ガスGdの冷却温度を、上記のような範囲にすることで、発熱量が高く、高品質の液体燃料を回収することができる。分解ガスGdの冷却温度(冷却空間S2の温度)の調節は、回収装置60の温度調節装置69によって行われる。
【0064】
冷却工程において、貯留部66に貯留されている液体燃料の含水率が調節されてもよい。貯留部66に貯留されている液体燃料の含水率を調節することは、回収塔62から回収される液体燃料の含水率を調節することに相当する。貯留部66に貯留されている液体燃料の含水率(以下、単に「含水率」と表記する。)が、5%~50%に調節されてもよい。液体燃料の発熱量を向上させる観点から、含水率は、40%以下に調節されてもよく、好ましくは30%以下に調節され、より好ましくは16%以下に調節される。一方、含水率が低くなると、液体燃料の粘性が高くなり、スプレーノズル70での閉塞が発生する可能性があり、また、液体燃料のハンドリング性が悪化する。そのため、液体燃料の含水率は、5%以上、6%以上、又は8%以上に調節されてもよい。
【0065】
含水率の調節は、注水ノズル72から冷却空間S2に対して供給される水の供給量を調節することで行われてもよい。含水率の調節は、注水ノズル72からの注水量に代えて、又は加えて、冷却空間S2の温度を調節することにより行われてもよい。冷却工程において回収される液体燃料は、通常、25℃程度の温度を有し、液体状である。そのため、回収される液体燃料は、ハンドリング性に優れる。
【0066】
冷却工程で回収される液体燃料の発熱量は、例えば、12MJ/kg以上であり、好ましくは16MJ/kg以上であり、より好ましくは18MJ/kg以上であり、更に好ましくは19MJ/kg以上である。液体燃料の発熱量は、例えば、30MJ/kg以下である。なお、液体燃料の発熱量は、断熱熱量計(例えば、燃研式デジタル熱量計(小川サンプリング株式会社製、O.S.K200))によって測定される数値を意味する。
【0067】
冷却工程で回収される液体燃料の収率は、例えば、8%以上であり、好ましくは9%以上、より好ましくは10%以上であり、更に好ましくは12%以上である。液体燃料の有機成分収率は、例えば、5%以上であり、好ましくは6%以上であり、より好ましくは8%以上であり、更に好ましくは10%以上である。
【0068】
<回収工程>
回収工程は、加熱工程において生成された炭化物である固体燃料を回収する工程である。回収工程では、ロータリーキルン30の下流側の端部に接続された排出塔54の排出口54aから固体燃料が排出される。排出口54aから排出された後の固体燃料は、散水等によって冷却される。冷却された後の固体燃料は、搬送装置58によって系外に運搬される。
【0069】
固体燃料の発熱量は、例えば、24MJ/kg以上であり、好ましくは26MJ/kg以上であり、より好ましくは27MJ/kg以上であり、更に好ましくは28MJ/kg以上である。固体燃料の発熱量は、例えば、40MJ/kg以下である。固体燃料の収率は、例えば、18%以上であり、好ましくは20%以上であり、より好ましくは22%以上であり、更に好ましくは25%以上である。固体燃料は、用途に応じて粉砕又は造粒されてもよく、石炭と混合してセメントキルン等で使用されてもよい。
【0070】
[実施形態のまとめ]
以上に説明したバイオマス燃料の製造方法は、外部からの熱を利用して加熱を行うロータリーキルン30により木質バイオマスを加熱して、分解ガスGdと固体燃料とに分解する加熱工程と、ロータリーキルン30の内部空間S1のうちの、内部空間S1における最高温度の75%以上の温度を有する領域に配置されたガス抜出口52を介して、加熱工程において生成された分解ガスGdを内部空間S1から排出する排出工程と、排出工程において内部空間S1から排出された分解ガスGdを冷却して、液体燃料を得る冷却工程と、を含む。
【0071】
仮に、抜出配管50のガス抜出口を、内部空間S1における最高温度の75%以上の温度を有する領域以外の領域に配置すると、木質バイオマスの熱分解により生成した分解ガスGdが、抜出配管50を介して十分に回収されない。その結果、装置内で分解ガスGdが滞留及び凝縮して液状となり、木質バイオマスの熱分解後の固体燃料に付着しハンドリング性が悪化していまい、また、固体燃料に付着すると液体燃料として回収されないことから、液体燃料の収率も悪化する問題があった。
【0072】
これに対して、上記製造方法では、内部空間S1における最高温度の75%以上の温度を有する領域に配置されたガス抜出口52を介して、分解ガスGdが、ロータリーキルン30の内部から排出される。そのため、木質バイオマスにより熱分解された直後に、ロータリーキルン30の外に排出され、ロータリーキルン30の内部及びロータリーキルン30の下流の領域において、分解ガスGdが凝縮して、固体燃料に液体燃料成分が付着することが抑制される。従って、上記製造方法では、木質バイオマスを固体燃料と液体燃料とに適切に分離することが可能である。
【0073】
以上に説明したバイオマス燃料の製造方法は、加熱工程において、酸素濃度が5%以下の低酸素雰囲気下で木質バイオマスが加熱されるように、内部空間S1に不活性ガスGiを導入するガス導入工程を更に含んでもよい。加熱工程では、ロータリーキルン30により400℃~700℃で木質バイオマスが加熱されてもよい。この場合、内部空間S1での分解ガスGdの燃焼の発生が生じ難く、収率の低下を抑制することができる。また、ロータリーキルン30は、外部からの熱を利用して木質バイオマスを加熱するため、内部空間S1の酸素濃度を調節するのが容易である。
【0074】
以上に説明したバイオマス燃料の製造方法は、タンク12内に収容された状態の木質バイオマスの一部を、ロータリーキルン30の上流側の端部から内部空間S1に供給する原料供給工程と、タンク12内に不活性ガスGiを導入するガス導入工程と、を更に含んでもよい。この場合、木質バイオマスの熱分解により発生した分解ガスGdが、タンク12内に逆流してしまうのを防止できる。
【0075】
以上に説明したバイオマス燃料の製造方法は、内部空間S1のうちのガス抜出口52よりも下流に位置する領域を含む下流領域に対して、不活性ガスGiを導入するガス導入工程を更に含んでもよい。この場合、木質バイオマスの熱分解により発生した分解ガスGdが、上記下流領域に流れてしまうのを防止できる。その結果、固体燃料に分解ガスGd内の液体燃料成分が付着することが更に抑制される。
【0076】
以上に説明したバイオマス燃料の製造方法において、冷却工程では、水、及び、既に得られた液体燃料の少なくとも一方を含む冷却用の液体を分解ガスGdに接触させることで、分解ガスGdが冷却されてもよい。この場合、良好なハンドリング性を有する液体燃料を得ることができる。
【0077】
以上に説明したバイオマス燃料の製造方法において、冷却工程では、冷却空間S2を有する回収塔62において、冷却空間S2に導入された分解ガスGdが冷却用の液体と接触することで、分解ガスGdが冷却されてもよい。冷却空間S2に導入されるガスの導入量(L/min)に対する、冷却空間S2に供給される冷却用の液体の供給量(L/min)の比である液ガス比が、0.6~10であってもよい。液ガス比を0.6以上とすることで、冷却用の液体と接触することなく冷却空間S2から排出される分解ガスGdの量を減少させることができる。そのため、液体燃料での有機成分の収率を向上させることが可能である。
【0078】
以上に説明したバイオマス燃料の製造方法において、冷却工程では、冷却空間S2を有する回収塔62において、冷却空間S2に導入された分解ガスGdが冷却用の液体と接触することで、分解ガスGdが冷却されてもよい。冷却工程は、冷却用の液体に含まれる水の量、及び、冷却空間S2の温度の少なくとも一方を調節することにより、回収塔62から回収される液体燃料の含水率を5%~50%に調節することを含んでもよい。冷却空間S2の温度は、50℃~100℃であってもよい。この場合、良好なハンドリング性を有する液体燃料を得ることができる。
【0079】
以上に説明した製造装置1は、外部に設けられた加熱部40からの熱を利用して木質バイオマスを加熱して、分解ガスGdと固体燃料とに分解するロータリーキルン30と、ロータリーキルン30の内部空間S1のうちの、ロータリーキルン30が木質バイオマスを加熱する際に内部空間S1における最高温度の75%以上の温度を有する領域に配置されたガス抜出口52を有し、内部空間S1に生成された分解ガスGdを内部空間S1から排出する抜出配管50と、内部空間S1から排出された分解ガスGdを冷却して、液体燃料を生成する回収装置60と、を備える。この製造装置1では、上記バイオマス燃料の製造方法と同様に、木質バイオマスを固体燃料と液体燃料とに適切に分離することが可能である。
【0080】
以上に説明したバイオマス燃料の製造方法、及び製造装置1は、一例であり、適宜変更可能である。以上に説明した種々の例のうちの1つの例において、他の例において説明した事項の少なくとも一部が組み合わされてもよい。
【実施例0081】
以下に、本開示の内容を実施例に基づいて具体的に説明するが、本開示はこれらに限定されるものではない。
【0082】
(実施例1)
バイオマス燃料としての固体燃料及び液体燃料を、上述した製造装置1を用いて製造した。ロータリーキルン30の内径φ1は9.5cmであり、方向D1におけるロータリーキルン30の全長は200cmである。原料である木質バイオマスをロータリーキルン30の内部空間S1に対して供給するスクリューフィーダーを通じて、不活性ガスGiとして窒素ガスを2.0L/minで導入し、内部空間S1の残酸素濃度を1.0%以下に調節した。また、ロータリーキルン30の下流側の端部から、窒素ガスを1.0L/minで導入した。
【0083】
木質バイオマスとして、乾燥させた2mmの粒径のスギチップを、タンク12内に収容した。水平面に対して5°傾斜したロータリーキルン30を回転数8rpmで回転させ、木質バイオマスを2.0g/分の供給速度でスクリューフィーダーを用いてロータリーキルン30に対して供給した。木質バイオマスとしてのスギチップを、内部空間S1のうちの加熱部40による加熱領域で覆われた部分において500℃の温度に加熱し、分解ガスGdを得た。このときの分解ガスGdの発生量は、液体燃料成分及び水蒸気を除いた標準状態で0.43L/minであった。分解ガスGdの発生量は、所定量のスギチップを500℃の温度で加熱した時のガスの発生量を事前に測定し、スギチップの供給速度から計算して求めた。加熱時の内部空間S1における最高温度は500℃であり、ガス抜出口52が位置する領域の温度は、425℃であった。
【0084】
ロータリーキルン30の下流側の端部から、加熱部40による加熱領域の下流側の後半部分まで差し込んだ抜出配管50を通じて、内部空間S1で発生した分解ガスGdをロータリーキルン30から取り出した。分解ガスGdと分離した固体燃料はロータリーキルン30の回転によってキルン出口に移送され、窒素ガスが充填された容器に落下させて冷却し、実施例1の固体燃料を得た。
【0085】
回収装置60において、水、及び回収後に循環させた液体燃料の少なくとも一方を含む冷却用の液体を所定の液ガス比で噴霧させて、分解ガスGdを70℃に冷却することによって、実施例1の液体燃料を得た。このときの噴霧した冷却用の液体の量(供給量)は3.44L/minであり、冷却空間S2に導入されたガスの量は、液体燃料成分及び水蒸気を除いた標準状態で3.43L/minであった。冷却空間S2には、分解ガスGdに加えて、窒素ガスを導入した。分解ガスの導入量は、液体燃料成分及び水蒸気を除いた標準状態で0.43L/minであり、窒素ガスの導入量は標準状態で3.0L/minであった。冷却用の液体の供給量をガスの導入量で除算することで得られる液ガス比は1.0であった。貯留部66内の液体燃料の含水率が所定レベルを下回らないように、注水ノズル72からの注水による含水率の調節を行った。
【0086】
(実施例2~4)
加熱条件は実施例1と同じ条件とし、回収条件の温度及び液ガス比の少なくとも一方を変更して、実施例2~4それぞれの固体燃料及び液体燃料を得た。
【0087】
(実施例5)
液体燃料の回収方法を変更した点以外は、実施例1と同様にして、実施例5の固体燃料及び液体燃料を得た。液体燃料の回収については、実施例1~4と同様に抜出配管50から分解ガスGdを取り出したが、取り出した分解ガスGdを、それぞれが5℃に冷却された0.5Lの5個の冷却瓶を配管で直列につなげた冷却装置に導入し、冷却瓶内で分解ガスGdを冷却して、液体燃料を回収した。
【0088】
(実施例6)
加熱条件において加熱温度を550℃に変更して、実施例5と同じ回収方法を採用した以外は、実施例1と同様にして、実施例6の固体燃料及び液体燃料を得た。なお、実施例6のときの分解ガスGdの発生量は、加熱温度が500℃である場合よりも多くなると予想されるが、500℃の場合と同じあると仮定して、回収装置60での液ガス比を設定した。
【0089】
(比較例1)
ガス抜出口が100℃前後の温度域(加熱部40による加熱領域よりも下流に位置する領域)に配置された配管を通じて、ロータリーキルン30から分解ガスGdを抜き出した点以外は、実施例1と同様にして、比較例1の固体燃料及び液体燃料を得た。
【0090】
(評価)
液体燃料に関しては、燃料全体での収率(%)、有機成分の収率(%)、含水率(%)、発熱量(MJ/kg)、及び性状を評価した。固体燃料に関しては、収率(%)、発熱量(MJ/kg)、及び性状を評価した。評価結果を、以下の表1に示す。液体燃料及び固体燃料の発熱量は、燃研式デジタル熱量計(小川サンプリング株式会社製、O.S.K200)を用いて測定した。また、液体燃料の含水率は、カールフィッシャー水分計を用いて測定した。液体燃料の性状は、透明容器に保存してしばらく静置した後、目視で確認した。
【0091】
【0092】
表1における「加熱条件」の「A」、「B」、及び「C」は、以下の表2に示されており、表1における「回収条件」の「a」、「b」、「c」、「d」、及び「e」は、以下の表3に示されている。実施例3,4では、評価時の装置の都合上、回収装置60において有機成分が十分に濃縮されるまで、液体燃料を継続して循環させていない。そのため、実施例3,4の液体燃料では、液体燃料を循環させる時間に依存しない有機成分の収率及び性状のみを評価対象とした。
【0093】
【0094】
【0095】
上記の表1に示すように、抜出配管のガス抜出口を加熱部40による加熱領域に配置しなかった比較例1では、分解ガスGd中の液体燃料成分が、ロータリーキルン30の内部、及び固体燃料(炭化物)に付着していまい、その結果、固体燃料が装置内に付着及び固化して、液体燃料及び固体燃料を連続的に回収することができなかった。一方、ガス抜出口を加熱領域に配置し、最高温度の75%以上の温度を有する領域にガス抜出口を位置するようにした実施例1~6では、分解ガスGd中の液体燃料成分が固体燃料に付着することが抑制されており、固体燃料及び液体燃料を適切に分離して回収することができた。
【0096】
分解ガスGdを冷却する工程において冷却式(回収条件「e」)で回収を行った実施例5,6では、液体燃料が、含水率が高い成分と含水率が低い成分との2層に分離し、他の実施例と比べると、ハンドリング性が良好ではなかった。また、他の実施例と比べると、含水率が高く、発熱量が低い結果となった。スプレー式で液体燃料を循環させ、冷却温度を70℃~90℃とする実施例1~4では、液体燃料の分離がみられず、25℃であっても液状が維持され、ハンドリング性が良好であった。また、実施例1~4において、固体燃料の表面における液体燃料成分の付着はみられず、ハンドリング性は良好であった。
【0097】
液ガス比が0.6よりも小さい実施例1,2での有機成分の収率に比べて、液ガス比が0.6以上である実施例3,4での有機成分の収率が高かった。液ガス比が小さい場合に、冷却用の液体と接触せずに、残ガスG1の一部として排出される分解ガスGdの量が多くなることに起因して、有機成分の収率が低下すると考えられる。
1…バイオマス燃料の製造装置、10…供給装置、12…タンク、16…フィーダー、18…ガス導入部、30…ロータリーキルン、S1…内部空間、40…加熱部、50…抜出配管、52…ガス抜出口、60…回収装置、62…回収塔、S2…冷却空間、66…貯留部、68…循環配管、69…温度調節装置、70…スプレーノズル、72…注水ノズル、Gd…分解ガス、Gi…不活性ガス。