(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024135637
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】生体情報表示装置、生体磁気計測システム、及び表示制御方法
(51)【国際特許分類】
A61B 5/242 20210101AFI20240927BHJP
【FI】
A61B5/242
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023046422
(22)【出願日】2023-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(71)【出願人】
【識別番号】504179255
【氏名又は名称】国立大学法人 東京医科歯科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(72)【発明者】
【氏名】渡部 泰士
(72)【発明者】
【氏名】川端 茂▲徳▼
(72)【発明者】
【氏名】横田 隆徳
(72)【発明者】
【氏名】大谷 泰
【テーマコード(参考)】
4C127
【Fターム(参考)】
4C127AA10
4C127HH13
4C127HH16
4C127HH21
(57)【要約】
【課題】生体内の電流分布の特定の成分の直感的な把握を可能にする生体情報表示技術を提供する。
【解決手段】生体情報表示装置は、生体内の神経活動を評価する経路を生成する経路生成部と、生体磁場データを解析して前記経路を含む一定領域内の電流分布を算出する解析部と、前記電流分布を前記経路に平行な平行成分と前記経路と垂直な垂直成分とに分離する分離部と、前記電流分布の前記平行成分または前記垂直成分の表示を指定する表示指定部と、前記表示指定部で指定された前記電流分布の前記平行成分と前記垂直成分の少なくとも一方を表示装置に表示する表示制御部と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体内の神経活動を評価する経路を生成する経路生成部と、
生体磁場データを解析して前記経路を含む一定領域の電流分布を算出する解析部と、
前記電流分布を、前記経路に平行な平行成分と、前記経路と垂直な垂直成分とに分離する分離部と、
前記電流分布の前記平行成分または前記垂直成分の表示を指定する表示指定部と、
前記表示指定部で指定された前記電流分布の前記平行成分と前記垂直成分の少なくとも一方を表示装置に表示する表示制御部と、
を備える、生体情報表示装置。
【請求項2】
前記表示制御部は、前記表示指定部に表示切替要求が入力されたときに、前記電流分布の表示する成分を変更する、
請求項1に記載の生体情報表示装置。
【請求項3】
前記表示制御部は、前記電流分布の前記平行成分の表示と、前記垂直成分の表示と、前記平行成分と前記垂直成分の両方を含む全成分の表示との間で表示を切り替える、
請求項2に記載の生体情報表示装置。
【請求項4】
前記表示制御部は、前記電流分布の前記平行成分、前記垂直成分、または全成分を、対応する成分の電流波形と時間軸を合わせて表示する、
請求項3に記載の生体情報表示装置。
【請求項5】
前記表示制御部は、前記平行成分と前記垂直成分を異なるカラーマップを用いて表示する、
請求項1に記載の生体情報表示装置。
【請求項6】
前記表示制御部は、前記電流分布の前記平行成分または前記垂直成分を等電流線図として表示する、
請求項1に記載の生体情報表示装置。
【請求項7】
前記経路生成部は、被験者の形態画像上で指定された線分ないし曲線の位置座標に基づいて、前記神経活動の伝達する方向に沿って前記経路を生成する、
請求項1に記載の生体情報表示装置。
【請求項8】
前記経路生成部は、前記経路が前記形態画像上で曲線として指定された場合に、前記経路を近似した直線を生成し、
前記分離部は、前記電流分布を前記直線に平行な前記平行成分と、前記直線に対して垂直な前記垂直成分とに分離する、
請求項7に記載の生体情報表示装置。
【請求項9】
前記解析部は、前記生体磁場データに基づいて前記電流分布を再構成し、
前記分離部は再構成された前記電流分布から前記平行成分と前記垂直成分を抽出する、
請求項1に記載の生体情報表示装置。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか1項に記載の生体情報表示装置と、
生体磁場を検知する磁気センサと、
前記磁気センサで検知された前記生体磁場から前記生体磁場データを生成して、前記生体情報表示装置に入力する信号生成部と、
を備える生体磁気計測システム。
【請求項11】
情報処理装置において、
生体内の神経活動を評価する経路を生成し、
生体磁場データを解析して電流分布を算出し、
前記電流分布を、前記経路に平行な平行成分と前記経路と垂直な垂直成分とに分離し、
前記電流分布の前記平行成分または前記垂直成分の表示を指定する表示指定に基づいて、前記電流分布の前記平行成分と前記垂直成分の少なくとも一方を表示画面上に表示させる、
表示制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体情報表示装置、生体磁気計測システム、及び表示制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
神経機能を評価するために、電流双極子を想定して推定された生体内の電流分布と電流波形が可視化され、表示される。神経経路に沿って所定の間隔で電流波形の算出点を設定し、算出点ごとに神経経路と平行な方向の電流波形と、神経経路に向かう方向の電流波形を計算する方法が知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
生体信号の計測結果を表示する際の視認性を向上するために、電流分布を構成する各点で電流算出方向を設定して電流波形を算出し、電流波形の時間推移でピーク電流値をもつ箇所を強調表示する方法が提案されている(たとえば、特許文献2参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
神経活動の評価は、一般的に、計測部位に生じる電流の波形を詳細に観察することで行われ、評価者の習熟を要する。電流波形とともに電流の分布が表示される場合であっても、電流分布と電流波形とが直感的に合致しておらず、各計測点での電流波形の詳細な評価が必要である。電流の分布から特定の電流成分の流れを直感的に把握できれば、電流波形に基づく評価に必要とされる習熟度が軽減され、評価効率が向上すると考えられる。
【0005】
本発明は、生体内の電流分布の特定の成分の直感的な把握を可能にする生体情報表示技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態において、生体情報表示装置は、
生体内の神経活動を評価する経路を生成する経路生成部と、
生体磁場データを解析して前記経路を含む一定領域内の電流分布を算出する解析部と、
前記電流分布を、前記経路に平行な平行成分と、前記経路と垂直な垂直成分とに分離する分離部と、
前記電流分布の前記平行成分または前記垂直成分の表示を指定する表示指定部と、
前記表示指定部で指定された前記電流分布の前記平行成分と前記垂直成分の少なくとも一方を表示装置に表示する表示制御部と、
を備える。
【発明の効果】
【0007】
生体内の電流分布の特定の成分を直感的に把握することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施形態の生体情報表示装置を備えた生体磁気計測システムのブロック図である。
【
図2】
図1の情報処理装置のハードウエア構成の一例を示すブロック図である。
【
図4】電流分布の全成分を電流波形とともに示す図である。
【
図5】電流分布のうち経路と垂直な垂直成分を電流波形とともに示す図である。
【
図6】電流分布のうち経路に平行な平行成分を電流波形とともに示す図である。
【
図7】電流分布の全成分の時間推移を示す図である。
【
図8】電流分布の垂直成分の時間推移を電流波形とともに示す図である。
【
図9】電流分布の平行成分の時間推移を電流波形とともに示す図である。
【
図10】電流分布の表示制御の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
神経活動が正常か否かを評価する際に、神経に対して垂直に流入する電流成分の評価が重要である。神経に対して垂直に流入する電流は、刺激により細胞膜に生じた電位変化によって細胞膜内へ透過するイオン電流の大きさを反映したものであり、神経活動の強さ及び発生位置と直接的に関連するからである。神経線維の走行に沿った各部位で、神経線維の走行と垂直な電流成分の波形を計算し、各電流波形の時間推移に基づいて、神経活動の時間的なふるまいが評価される。
【0010】
生体内の各部位での電流波形の時間推移から神経電気活動のふるまいを評価するには、習熟が必要である。実施形態では、電流分布そのものを、神経活動を評価する経路に対して垂直な垂直成分と、経路と平行な平行成分とに分離して表示することで、それぞれの電流成分の振る舞いを可視化する。これにより、対応する成分の電流波形が評価に値するか否かを視覚的かつ直感的に判定することが可能になる。電流波形に基づく神経活動の評価に必要とされる習熟度が軽減され、評価効率の向上に資する。
【0011】
以下、図面を参照して実施形態の生体情報表示技術を説明する。下記で述べる実施形態は、発明の技術思想を具体化するための例示であり、本発明を下記の構成や数値に限定するものではない。添付の図面中、同一の機能を有する構成要素には、同一符号を付して、重複する記載を省略する場合がある。異なる実施形態や構成例の間での部分的な置換または組み合わせは可能である。各図面が示す各部材の大きさ、位置関係等は、発明の理解を容易にするために誇張して描かれている場合がある。
【0012】
<生体磁気計測システムの基本構成>
図1は、実施形態の生体情報表示装置300を備えた生体磁気計測システム100のブロック図である。生体磁気計測システム100は、脳磁計測(MEG:magnetoencephalography)、心磁計測(MCG:magnetocardiography)、脊磁計測(MSG:magnetospinography)等に適用される。生体磁気計測システム100は、磁気センサ10、信号生成部20、情報処理装置30、入力装置80、及び表示装置90を有する。情報処理装置30と、入力装置80と、表示装置90とで、実施形態の生体情報表示装置300が構成される。入力装置80と表示装置90は、情報処理装置30と一体的に構成されていてもよいし、別デバイスとして接続されていてもよい。表示装置90の他に、プリンタ等の出力装置が情報処理装置30に接続されていてもよい。
【0013】
情報処理装置30は、パーソナルコンピュータ(PC)やサーバ等の計算機である。情報処理装置30は、磁気センサ10で検知された生体情報を、信号生成部20を介してデジタルデータとして取得し、デジタルデータに所定の処理を行う。入力装置80は、マウスやキーボード等のユーザインタフェースであり、各種情報や、ユーザからの指示または要求を入力する。生体情報表示装置300のユーザとして、医師、研究者等の専門家が想定されている。表示装置90は、情報処理装置30と一体的に、または別体として構成され、X線画像等の被検体の形態画像、生体内の電流分布、電流波形等を表示する。
【0014】
磁気センサ10は、被検体から発生する磁場を計測し、計測した磁場を電圧として出力する。磁気センサ10は、例えば、複数のSQUID(Superconducting Quantum Interference Device:超伝導量子干渉素子)センサで構成される磁気センサアレイであり、被検体の被計測部位に対向して設置される。複数のSQUIDセンサから出力される電圧信号は、信号生成部20に入力され、デジタル磁場データに変換される。信号生成部20は、SQUIDセンサにより検知された非線形の磁場-電圧特性を線形化し、増幅し、デジタル変換し、必要に応じてフィルタリング処理や間引き処理を施してデジタル磁場データを出力する。信号生成部20から出力されたデジタル磁場データは、情報処理装置30に転送される。
【0015】
磁気センサ10はSQUIDセンサに限定されず、磁気抵抗(MR:Magneto Resistive)センサ、光ポンピング原子磁気センサ(OPAM:Optically Pumped Atomic Magnetometer)、その他の方式の磁気センサであってもよい。磁気センサ10と信号生成部20は、磁気を遮蔽するシールドルーム内に設置され、情報処理装置30、入力装置80、及び表示装置90を含む生体情報表示装置300は、シールドルーム外に設置されてもよい。
【0016】
情報処理装置30は、入力制御部40、表示制御部50、動作制御部60、及び記憶部70を有する。入力制御部40は、位置入力部41と表示指定部42を有し、入力装置80の操作を介してユーザから入力される指示や各種情報の入力処理を実施する。入力装置80は、マウス、キーボード、タブレット端末のタッチパネル等である。表示指定部42は、ユーザの入力に基づいて、電流分布のうち、神経活動を評価する経路と垂直な垂直成分と、経路と平行な平行成分の表示を指定する。
【0017】
表示制御部50は、垂直成分表示部51と平行成分表示部52を有し、表示指定部42指定に基づいて、液晶ディルプレイ等の表示装置90に電流分布の垂直成分、平行成分、またはその両方を表示する。表示制御部50はまた、電流分布の垂直成分、水平成分、またはその両方を電流波形とともに表示する制御や、電流分布の所望の成分をX線画像等の形態画像に重畳する制御を行う。
【0018】
動作制御部60は、経路生成部61と、解析部63と、電流分布成分分離部65とを有する。経路生成部61は、入力装置80を介して形態画像上で指定された経路の位置座標を計算して、神経活動評価のための経路を生成する。一般的には、神経線維に沿った神経伝達経路が、形態画像上で指定される。ユーザによって形態画像上で指定された経路は、位置入力部41によって検出される。経路生成部61は、位置入力部41の検出結果に基づいて、二次元面内での位置座標を計算し、神経活動評価用の経路を、曲線または直線として生成する。指定された線分に沿った曲線の経路を生成してもよいし、指定された線分を直線近似して、評価用の直線経路を生成してもよい。
【0019】
解析部63は、磁気センサ10で検知された被検体の磁場データに基づいて、生体内の3次元空間のボクセルごとに生体磁場の発生源である電流源を推定し、設定された経路を含む一定空間の電流分布を算出する。ボクセルごとの電流源として、電流の向きと強度が推定される。解析部63はまた、3次元の電流分布から、経路を含む一定範囲の二次元面内の電流分布を再構成する。電流分布成分分離部65は、解析部63で算出された2次元面内の電流分布を、刺激が伝達する方向と垂直に経路に向かう垂直成分と、経路と平行に向かう平行成分とに分離する。
【0020】
記憶部70は、生体磁場データ71、形態画像データ72、及び各種の解析パラメータ73を記憶する。生体磁場データ71は、磁気センサ10で検知され信号生成部20で生成された磁場データを含む。形態画像データ72は、X線撮影されたX線画像データ、磁気共鳴断層撮影されたMR画像データ、コンピュータ断層撮影されたCT画像データ等を含む。解析パラメータ73は、信号生成部20で用いられるフィルタ設定値や生体磁場データの生成に必要なパラメータと、生体情報の表示に必要なパラメータとを含む。
【0021】
図2は、
図1の情報処理装置30のハードウエア構成の一例を示すブロック図である。情報処理装置30は、中央演算ユニット(CPU)301、主メモリ302、補助メモリ304、入力インタフェース305、出力インタフェース306、入出力インタフェース307、及び通信インタフェース308を有する。これらのデバイスは、バス303により相互に接続されている。情報処理装置30のうち、生体情報表示装置300の動作を制御する部分は、主として、CPU301と主メモリ302の機能によって実現される。
【0022】
CPU301は、オペレーティングシステム、アプリケーション、その他のプログラムを実行し、情報処理装置30の全体の動作を制御する。主メモリ302は、リードオンリーメモリ(REOM)とランダムアクセスメモリ(RAM)を含む。ROMは、各種プログラムをCPU301により実行可能にするための基本プログラムや各種パラメータ等を保持する。RAM303は、CPU301により実行される各種演算の作業領域として使用され、必要なパラメータやデータを一時的に記憶する。補助メモリ304は、ソリッドステートドライブ(SDD)、ハードディスクドライブ(HDD)等であり、主メモリ302のRAMで展開される各種プログラムを記憶する。各種プログラムには、磁場データから再構成された電流分布の垂直成分と平行成分、及び電流波形を表示装置90に表示させる表示プログラムが含まれてもよい。
【0023】
入力インタフェース305は、ユーザ操作を入力するマウス、キーボード等の入力装置80の他に、マイクやその他の入力装置を情報処理装置30に接続する。出力インタフェース306は、表示装置90の他に、プリンタやその他の出力装置を情報処理装置30に接続する。入出力インタフェース307は、周辺機器や外部記憶媒体等を情報処理装置30に接続する。通信インタフェース308は、情報処理装置30をネットワーク、クラウド等に接続する。
【0024】
図3は、神経活動電流のモデルの一例を示す。このモデルは、紙面の縦または上下方向に直線状に走行する神経線維の活動により電流が発生する様子を示している。図の下側が末梢側であり、図の上側が中枢側である。末梢神経に電気刺激を与えると、刺激された位置の神経が興奮する。興奮は、神経線維の軸索内を下側から上側に向けて伝達される。神経線維の走行に対して垂直方向に向かい合う脱分極の中央で、神経線維の活動電位が最大になっている。
【0025】
神経線維の活動電位が最大となる位置を境に、興奮の伝達方向(順方向)、すなわち図の上側に流れる軸索内電流と、図の下側(逆方向)に流れる軸索内電流とが発生する。軸索外では、電荷の保存則に従って、電荷が体積電流として脱分極点に流入する。
これらの神経活動による電流に起因して、右ねじの法則に従って磁場が発生する。
【0026】
神経機能を詳細に評価するためには、神経軸索に沿って流れる軸索内電流(電流分布の平行成分)と、体積電流によって神経軸索に垂直に流入する電流(電流分布の垂直成分)を分離し、個別の電流分布として表示装置90の画面等に視覚的に表示することが望ましい。垂直成分の電流波形からだけでは、直感的に評価することは難しく、脱分極部に垂直に流入する電流成分の減衰や消失といった振る舞いを視覚的に表示させる方法が求められる。
【0027】
<電流分布の水平成分と垂直成分の表示>
図4は、電流分布の全成分を電流波形とともに示す。
図4の電流分布は、神経活動を評価する経路に対する平行成分と垂直成分とに分離せずに表示されている。電流分布は、等電流線図として被検体の形態画像に重畳されて表示されており、電流値は垂直成分と平行成分のトータルの値である。
【0028】
図4の形態画像は、被検体の右肩のX線画像であり、入力装置80を介して形態画像上で指定された線分に基づいて、画像の右下から左斜め上に向かって神経活動評価用の経路が設定されている。この経路は、索内の刺激伝達方向である神経伝達方向とほぼ一致している。経路生成部61は、生成した経路に沿って、評価位置0から6を一定間隔で設定する。数値が大きくなる方向が刺激の伝達方向である。経路上の黒丸は、神経伝達方向と平行な軸索内電流の評価点、経路の両側のクロスマークは、経路に向かって垂直に向かう垂直成分の評価点である。
【0029】
形態画像に重畳された電流分布とともに、経路と平行な「平行成分」の電流波形と、神経伝達方向の左側から経路に垂直に流れ込む「垂直成分(左)」の電流波形と、神経伝達方向の右側から経路に垂直に流れ込む「垂直成分(右)」の電流波形とが、評価点ごとに表示されている。電流分布の「垂直成分(左)」は、体積電流のうち、形態画像上の経路の左側で脱分極点に垂直に流入する成分に対応する。電流分布の「垂直成分(右)」は、体積電流のうち、形態画像上の経路の右側で脱分極点に垂直に流入する成分に対応する。
【0030】
たとえば、「垂直成分(左)」の電流波形を見ることで、潜時8.4msで評価位置0に神経活動が生じており、評価位置6の方向に向かって刺激が伝達される様子がわかる。これは必ずしも形態画像に重畳された電流分布と一致しておらず、電流分布だけを見ると、経路に沿ったどの位置で神経活動が生じているのか、直感的に判断することが難しい。
【0031】
図5は、電流分布の垂直成分を電流波形とともに示す。電流波形自体は、
図4の「平行成分」、「垂直成分(左)」、「垂直成分(右)」と同じである。電流分布に関して、形態画像に重畳される電流分布から、垂直成分だけが抽出され、表示されている。ユーザが入力装置80により、表示する電流分布成分として「垂直成分」を選択することで、表示指定部42は垂直成分の表示を指定し、電流分布成分分離部65が、垂直成分を抽出する。垂直成分表示部51は、分離された垂直成分を表示装置90に表示させる。
【0032】
図5では、「垂直成分(左)」の電流波形を詳細に観察しなくても、評価位置0に神経活動が発生して脱分極が生じていることが一目でわかる。この電流分布をみることで、「垂直成分」の電流波形が評価に値することが直感的に把握される。
【0033】
図6は、電流分布の平行成分を電流波形とともに示す。電流波形自体は、
図4の「平行成分」、「垂直成分(左)」、「垂直成分(右)」と同じである。電流分布に関して、形態画像に重畳される電流分布から、平行成分だけが抽出され、表示されている。ユーザが入力装置80により、表示する電流分布成分として「平行成分」を選択することで、表示指定部42は平行成分の表示を指定し、電流分布成分分離部65が、平行成分を抽出する。平行成分表示部52は、分離された平行成分を表示装置90に表示させる。
【0034】
平行成分は、軸索内を流れる電流成分であり、神経線維の活動電位の伝達を示す。平行成分だけを取り出すと、「平行成分」の電流波形と、形態画像に重畳された平行成分の電流分布との整合性が一目で確認される。
【0035】
平行成分と垂直成分を、カラーマップを変えて同時に表示させても良い。例えば平行成分はグレースケールで表示させ、垂直成分は異なる色相で表示させることが出来る。
図4、
図5、及び
図6のいずれにおいても、電流分布と電流波形は、その時間軸を合わせて表示されている。各電流波形の縦方向の点線は、潜時「8.400ms」を表しており、刺激を与えてから神経活動が生じている位置と伝達時間を直感的に把握できる。
【0036】
各成分の電流波形は、解析部63によって公知の方法で計算される。たとえば、磁気センサ10で検出され信号生成部20から入力された磁場データに空間フィルタ法などのアルゴリズムを適用して、生体内の3次元空間に設定された平面ないし曲面における電流の分布を再構成する。再構成された電流の分布から、評価位置0から6のそれぞれで、黒丸で示す位置の軸索内電流(平行成分)と、クロスマークで示す位置で軸索に向かって流れる垂直成分を計算する。平行成分と垂直成分の強度を計測の全時間点で計算することで、時間とともに変化する電流波形が得られる。
【0037】
図7は、電流分布の全成分の時間推移を示す。
図4と同様に、斜めに延びる経路が形態画像上に重畳され、一定間隔で評価位置0から6が設定されている。電流分布は等電流線図として表示され、電流の流れが白矢印で示されている。白矢印の長さは電流の強度を示す。潜時8.5ms、9.1ms、9.7msと時間が経過するにつれて、経路に対して垂直に流れ込む体積電流の位置(脱分極点)が、評価位置0と1の間、評価位置3、評価位置5と6の間、に移動する。潜時10.3msと10.9msでは、刺激の伝達方向と逆方向に向かう電流に起因する体積電流の脱分極点への流れ込みが優位に観察される。この時間推移から、神経活動に起因する刺激の伝搬速度を計算することができる。
【0038】
図8は、電流分布の垂直成分の時間推移を電流波形とともに示す。電流分布の垂直成分も、時間の推移とともに、経路に沿って刺激の伝達方向に移動することがわかる。この時間推移から、神経線維に対して垂直に流入する電流成分のふるまいの時間変化を、独立して評価することができる。
【0039】
図9は、電流分布の平行成分の時間推移を電流波形とともに示す。電流分布の水平成分も、時間の推移とともに、経路に沿って刺激の伝達方向に移動する。この時間推移から、軸索内電流のふるまいの時間変化を独立して評価することができる。
【0040】
<電流分布の表示制御>
図10は、電流分布の表示制御の一例を示すフローチャートである。
図10の制御フローは、情報処理装置30によって実行される。前提として、被検体の磁気計測時に、被計測部位がX線撮像されて、形態画像として取得されているものとする。また、入力装置80を介したユーザ操作に基づいて、形態画像上で経路が指定され、経路生成部61によって、神経活動を評価するための経路と評価点が生成されているものとする。
図10の制御フローは、磁気センサ10で生体磁場を測定しながらリアルタイムで行われてもよいし、記憶部に保存された過去の生体磁場データを用いて行われてもよい。
【0041】
図10の表示制御を磁気センサ10による磁場計測と同時に行う場合は、解析部63により、生体磁場データから生体内の電流分布を2次元平面に再構成した電流分布がリアルタイムで算出される。算出された電流分布データは、順次、記憶部70に保存され、使用される。過去の生体磁場データを用いて表示制御する場合は、記憶部70から生体磁場データとともに電流分布データが読み出される。
【0042】
情報処理装置30は、電流分布の表示要求があるか否かを判断し(S11)、表示要求があるまで待機する(S1でNOのループ)。入力装置80から表示要求の入力があれば(S11でYES)、電流分布の表示成分の指定があるか否かを判断する(S12)。電流分布の表示成分の指定がない場合は(S12でNO)、ステップS14に進んで電流分布の全成分を形態画像に重畳して表示する。
【0043】
電流分布の表示成分の指定がある場合は(S12でYES)、生成された経路に対して垂直に流れ込む垂直成分の表示要求か否かを判断する(S13)。垂直成分の表示指定であれば(S13でYES)、電流分布を垂直成分と平行成分に分離し、電流分布の垂直成分を形態画像に重畳して表示する(S15)。垂直成分の表示指定でない場合は(S13でNO)、電流分布を垂直成分と平行成分に分離し、平行成分、すなわち軸索内電流の分布を形態画像に重畳して、表示する(S16)。
【0044】
情報処理装置30は、表示切替要求があるか否かを判断する(S17)。入力装置80から表示切替要求が入力された場合は(S17でYES)、S12に戻って、S12からS17を繰り返す。表示切替要求がない場合は(S17でNO)、表示終了要求が有るか否かを判断し(S19)、表示終了要求があれば(S19でYES)、
図10の表示制御フローを終了する。表示終了要求がない場合は(S19でNO)、S11へ戻って電流分布の表示要求があるまで待機する。ユーザの表示要求に基づいて、電流分布の特定の成分を表示することで、神経活動の評価を補助し、評価の効率を高めることができる。
【0045】
情報処理装置30は、電流分布の表示要求があるときは、デフォルトで電流分布とともに電流波形を表示してもよいし、別途、電流波形の表示要求の有無を判断してもよい。電流波形は、電流分布と同じ画面上の別々のウィンドウに表示されてもよい。
【0046】
電流分布を、神経活動を評価する経路に対して平行成分と垂直成分に分離して、それぞれ個別の分布として表示することで、軸索に垂直に流れ込む体積電流の波形を評価する際に、垂直成分の分布を一目で把握することができる。同様に、軸索内電流の波形を評価する際に、平行成分の分布を一目で把握することができる。
【0047】
以上、特定の実施例に基づいて生体情報表示技術について説明したが、本発明は上述した構成例と手法に限定されない。実施形態の生体情報表示は生体の計測部位を問わない。被験者の肩、腕に限らず、大腿、首、頭部の磁場計測にも適用できる。SQUIDを用いた磁気センサ10による生体磁気計測に限定されず、室温で生体磁気計測が可能な磁気センサから生体磁場データを取得し、電流分布の成分の分離と表示制御を行ってもよい。
【0048】
上記の開示は、以下の構成を含む。
(項1)
生体内の神経活動を評価する経路を生成する経路生成部と、
生体磁場データを解析して前記経路を含む一定領域内の電流分布を算出する解析部と、
前記電流分布を、前記経路に平行な平行成分と、前記経路と垂直な垂直成分とに分離する分離部と、
前記電流分布の前記平行成分または前記垂直成分の表示を指定する表示指定部と、
前記表示指定部で指定された前記電流分布の前記平行成分と前記垂直成分の少なくとも一方を表示装置に表示する表示制御部と、
を備える、生体情報表示装置。
(項2)
前記表示制御部は、前記表示指定部に表示切替要求が入力されたときに、前記電流分布の表示する成分を変更する、
項1に記載の生体情報表示装置。
(項3)
前記表示制御部は、前記電流分布の前記平行成分の表示と、前記垂直成分の表示と、前記平行成分と前記垂直成分の両方を含む全成分の表示との間で表示を切り替える、
項2に記載の生体情報表示装置。
(項4)
前記表示制御部は、前記電流分布の前記平行成分、前記垂直成分、または全成分を、対応する成分の電流波形と時間軸を合わせて表示する、
項3に記載の生体情報表示装置。
(項5)
前記表示制御部は、前記平行成分と前記垂直成分を異なるカラーマップを用いて表示する、
項1から4のいずれかに記載の生体情報表示装置。
(項6)
前記表示制御部は、前記電流分布の前記平行成分または前記垂直成分を等電流線図として表示する、
請求項1から5のいずれかに記載の生体情報表示装置。
(項7)
前記経路生成部は、被験者の形態画像上で指定された線分ないし曲線の位置座標に基づいて、前記神経活動の伝達する方向に沿って前記経路を生成する、項1から6のいずれかに記載の生体情報表示装置。
(項8)
前記経路生成部は、前記経路が前記形態画像上で曲線として指定された場合に、前記経路に近似した直線を生成し、
前記分離部は、前記電流分布を前記直線に平行な前記平行成分と、前記直線に対して垂直な前記垂直成分に分離する、
項7に記載の生体情報表示装置。
(項9)
前記解析部は、前記生体磁場データに基づいて、前記電流分布を再構成し、
前記分離部は再構成された前記電流分布から前記平行成分と前記垂直成分を抽出する、
項1から8のいずれかに記載の生体情報表示装置。
(項10)
項1から9のいずれかに記載の生体情報表示装置と、
生体磁場を検知する磁気センサと、
前記磁気センサで検知された前記生体磁場から前記生体磁場データを生成して、前記生体情報表示装置に入力する信号生成部と、
を備える生体磁気計測システム。
(項11)
情報処理装置において、
生体内の神経活動を評価する経路を生成し、
生体磁場データを解析して、前記経路を含む一定領域内の電流分布を算出し、
前記電流分布を、前記経路に平行な平行成分と前記経路と垂直な垂直成分とに分離し、
前記電流分布の前記平行成分または前記垂直成分の表示を指定する表示指定に基づいて、前記電流分布の前記平行成分と前記垂直成分の少なくとも一方を表示画面上に表示させる、
表示制御方法。
【符号の説明】
【0049】
1 生体磁気計測システム
10 磁気センサ
20 信号生成部
30 情報処理装置
40 入力制御部
41 位置入力部
42 表示指定部
50 表示制御部
51 垂直成分表示部
52 平行成分表示部
60 動作制御部
61 経路生成部
63 解析部
65 電流分布成分分離部
70 記憶部
71 生体磁場データ
72 形態画像データ
73 解析パラメータ
80 入力装置
90 表示装置
100 生体磁気計測システム
300 生体情報表示装置
【先行技術文献】
【特許文献】
【0050】
【特許文献1】特開2021-083479号公報
【特許文献2】特開2021-087756号公報