IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日立金属株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024135704
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】鋼材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C21D 8/00 20060101AFI20240927BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20240927BHJP
   C22C 38/46 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
C21D8/00 B
C22C38/00 301A
C22C38/46
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023046519
(22)【出願日】2023-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(72)【発明者】
【氏名】関 宏友
(72)【発明者】
【氏名】菅原 諒介
(72)【発明者】
【氏名】田中 大介
【テーマコード(参考)】
4K032
【Fターム(参考)】
4K032AA06
4K032AA11
4K032AA12
4K032AA16
4K032AA19
4K032AA24
4K032AA31
4K032AA36
4K032AA37
4K032CA02
4K032CA03
4K032CC00
4K032CD06
4K032CF00
(57)【要約】
【課題 】
直接焼入れを施しても粗粒化や靭性値の低下を抑制することができる鋼材の製造方法を提供する。
【解決手段】 質量%でC:0.50~0.60%、Si:0.10~0.40%、Mn:0.60~1.00%、Cr:0.80~1.40%、Ni:1.30~2.00%、Mo:0.20~0.55%、V:0.05~0.20%、残部:Fe及び不可避的不純物でなる熱間加工用素材を準備する準備工程と、前記熱間加工用素材を開始温度1170~1300℃で熱間加工して、中間熱間加工材を得る第一熱間加工工程と、前記中間熱間加工材を開始温度1000~1150℃で熱間加工して、熱間加工材を得る第二熱間加工工程と、前記熱間加工材を直接焼入れして鋼材を得る直接焼入れ工程を有する、鋼材の製造方法。

【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%でC:0.50~0.60%、Si:0.10~0.40%、Mn:0.60~1.00%、Cr:0.80~1.40%、Ni:1.30~2.00%、Mo:0.20~0.55%、V:0.05~0.20%、残部:Fe及び不可避的不純物でなる熱間加工用素材を準備する準備工程と、
前記熱間加工用素材を熱間加工開始温度1170~1300℃で熱間加工して、中間熱間加工材を得る第一熱間加工工程と、
前記中間熱間加工材を熱間加工開始温度1000~1150℃で熱間加工して、熱間加工材を得る第二熱間加工工程と、
前記熱間加工材を、直接焼入れして鋼材を得る直接焼入れ工程を有する、鋼材の製造方法。
【請求項2】
前記直接焼入れ工程後の鋼材に焼戻しを行う、焼戻し工程をさらに実施する、請求項1に記載の鋼材の製造方法。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼材の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
JISG4404にて規定されるSKT4およびその相当材は、高靭性かつ良好な耐摩耗特性を有した熱間金型用鋼として、鍛造金型などの用途に適用されている。このようなSKT4材のような熱間金型用鋼の熱間加工方法としては、鋼塊に熱間鍛造を施した後、鍛造材を再度加熱し、焼入れ焼戻し処理を行う等の調質処理を施して、所望の機械特性を得る方法が知られている。例えば特許文献1には、鋳塊を1200~1280℃に加熱して熱間鍛造する工程を有する、熱間工具の製造方法が開示されている。
【0003】
一方で上述した製法は熱処理工程が多く高コストであることから、熱処理工程を簡略化して熱処理コストを下げる製法として、熱間鍛造終了後の温度から再加熱を施さずに焼入れを実施する、直接焼入れ工程(ダイレクトクエンチ)も知られている。例えば特許文献2には、SMn443圧延材を1050℃に加熱後、直接焼入れする方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5744300号公報
【特許文献2】特開昭60-77915号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1にも記載されているように直接焼入れは熱処理コストを低下させるために有効な技術であるが、焼入れ冷却時の割れの発生が懸念された。また、焼入れ焼戻し後の製品における靭性が低い場合もあった。
よって本発明の目的は、直接焼入れを施しても焼入れ時割れや焼入れ焼戻し後の製品における靭性の低下を抑制することが可能な、鋼材の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述した課題に鑑みてなされたものである。
すなわち本発明は、
質量%でC:0.0.50~0.60%、Si:0.10~0.40%、Mn:0.60~1.00%、Cr:0.80~1.40%、Ni:1.30~2.00%、Mo:0.20~0.55%、V:0.05~0.20%、残部:Fe及び不可避的不純物でなる熱間加工用素材を準備する準備工程と、前記熱間加工用素材を熱間加工開始温度1170~1300℃で熱間加工して、中間熱間加工材を得る第一熱間加工工程と、前記中間熱間加工材を熱間加工開始温度1000~1150℃で熱間加工して、熱間加工材を得る第二熱間加工工程と、前記熱間加工材を、直接焼入れして鋼材を得る直接焼入れ工程を有する、鋼材の製造方法である。
好ましくは、前記直接焼入れ工程後の鋼材に焼戻しを行う。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、直接焼入れを施しても焼入れ時割れや、焼入れ焼戻し後の製品における靭性の低下を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態について説明する。
<準備工程>
まず本実施形態では、JISG4404にて規定されるSKT4の相当材および改良材組成を有する熱間加工用素材を準備する(準備工程)。具体的には、質量%でC:0.0.50~0.60%、Si:0.10~0.40%、Mn:0.60~1.00%、Cr:0.80~1.40%、Ni:1.30~2.00%、Mo:0.20~0.55%、V:0.05~0.20%、残部:Fe及び不可避的不純物でなる組成を有する熱間加工用素材を準備する。以下に本発明の成分の限定理由について述べる(以下、質量%は単に%と記載する)。
【0009】
C:0.50~0.60%
Cは、一部が基地中に固溶して強度を付与し、一部は炭化物を形成することで耐摩耗性や耐焼付き性を高める、熱間工具鋼に重要な必須元素である。一方で過度の添加は靭性の添加や熱間強度の低下を招くため、Cは0.50~0.60%とする。
【0010】
Si:0.10~0.40%
Siは、製鋼時の脱酸剤であるとともに、素材の被削性を高める元素である。但し、多過ぎるとフェライトの生成をまねくので、本発明では0.10~0.40%とする。
【0011】
Mn:0.60~1.00%
Mnは、焼入性を高め、フェライトの生成を抑制し、適度の焼入れ焼戻し硬さを得る効果がある。また、非金属介在物のMnSとして存在することで、被削性の向上に大きな効果があるが、多過ぎると基地の粘さを上げて被削性を低下させるので0.60~1.00%とする。
【0012】
Cr:0.80~1.40%
Crは、焼入性を高め、また炭化物を形成して、基地の強化や耐摩耗性の向上に効果を有する元素である。そして、焼戻し軟化抵抗および高温強度の向上にも寄与する、本発明の熱間工具鋼に必須の元素である。一方で過度の添加は焼入れ性や高強度特性を低下させるため、含有量は0.80~1.40%とする。
【0013】
Ni:1.30~2.00%
Niは、フェライトの生成を抑制する元素である。また、C、Cr、Mn、Moなどとともに本発明鋼に優れた焼入性を付与し、焼入時の冷却速度が緩やかな場合でもマルテンサイト主体の組織を形成して、靭性の低下を防ぐための効果的元素である。さらに、基地の本質的な靭性も改善する効果も有する。但し、多過ぎると基地の粘さを上げて被削性が低下するため、1.30~2.00%とする。
【0014】
Mo+1/2W:0.20~0.55%
MoおよびWは、焼戻しにより微細炭化物を析出または凝集させて強度を付与し、軟化抵抗を向上させるために単独または複合で添加できる。この際の添加量は、WがMoの約2倍の原子量であることから、(Mo+1/2W)のMo当量で一緒に規定できる(当然、いずれか一方のみの添加としても良いし、双方を共に添加することもできる)。但し、多過ぎると被削性や靭性の低下を招くので、(Mo+1/2W)の値で0.20~0.55%とする。
【0015】
V:0.05~0.20%
Vは炭化物を形成し、基地の強化や耐摩耗性を向上する効果を有する。また、焼戻し軟化抵抗を高めるとともに、結晶粒の粗大化を抑制し、靭性の向上に寄与する。但し、多過ぎると被削性や靭性の低下を招くので 、0.05~0.20%とする。
残部はFe及び不可避的不純物である。
【0016】
本実施形態では上述した組成を有する熱間加工用素材を準備する。この熱間加工用素材は、溶解法によって得られた鋼塊または鋳片とすることができる。また溶解工程で得られた鋼塊は、成分の偏りを持つ為、偏析拡散処理なる高温の均熱処理を施す工程を有してもよい。
【0017】
<第一熱間加工工程>
前記熱間加工用素材を1170~1300℃の熱間加工開始温度に加熱した後、この熱間開始温度で熱間加工をし、中間熱間加工材を得る(第一熱間加工工程)。上述した温度で鍛造や圧延等の熱間加工を施すことがあげられる。第一熱間加工工程では、鋳造工程で得られた鋼塊に圧下を加えることで、本工程で内部欠陥ならびに鋳造組織の破壊を行い、欠陥部の圧着並びに動的再結晶によるオーステナイト粒の微細化を促進させるために、1170~1300℃の加工開始温度で第一熱間加工を行う。ここで本発明における「第一熱間加工」は、熱間自由鍛造、熱間型入鍛造などの鍛造でもよく、熱間圧延でもよい。この第一熱間加工工程では、中間熱間加工材までの圧下量が不足した場合、据込鍛造工程を実施する事で、圧下量を増加させることもできる。また第一熱間加工工程では、熱間加工用素材の加熱を加熱回数は多数かけて製造してもよい。なおこの第一熱間加工工程は、一般的な「分塊工程」に適用することができる。
【0018】
<第二熱間加工工程>
続いて前記第一熱間工程後の中間熱間加工材を、1000~1150℃の熱間加工開始温度で熱間加工して熱間加工材を得る(第二熱間加工工程)。これは、第一熱間加工工程で得られた組織を所定の温度域で熱間加工を行い、組織の微細化を図る事にある。第二熱間加工工程で組織の微細化を図る事で、金型の靭性向上が期待できる。好ましい第二熱間加工開始温度の上限は、1100℃である。第二熱間加工の開始温度が1150℃を超える温度(例えば、第一熱間加工開始温度以上)で熱間加工して後述する直接焼入れを実施した場合、二次再結晶が進行することによる粗大な結晶粒や混粒組織が生成され、鋼材の靭性を低下させる要因となる惧れがある。一方で第二熱間加工の開始温度が1000℃未満の場合、動的再結晶による結晶粒の微細化が起こりにくい傾向にある。
尚、第一熱間加工工程後の中間熱間加工材の温度は、最終的には製品に加工される部分、例えば、中間熱間加工材の内部の温度で管理すべきところ、実際の操業では、第一熱間加工工程を終えたとき(つまり、第二熱間加工工程に移る前)の中間熱間加工材の内部温度は、熱間加工時の復熱等によって、第一熱間加工の加工開始温度を保っているか、または第二熱間加工の加工開始温度の近辺にあることが一般的である。但し、第一熱間加工工程後の中間熱間加工材の内部温度が下がっていた場合には、第二熱間加工工程を実施する前に第二熱間加工工程の温度域で再加熱してもよい。あるいは、第一熱間加工工程終了時の中間熱間加工材の温度が下がっていたとしても、第二熱間加工の加工開始温度範囲内であれば、そのまま再加熱せずに第二熱間加工工程に移行してもよい。
【0019】
そして、本発明においては、第一熱間加工工程後の中間熱間加工材を、続く第二熱間加工工程前に、一旦、冷却することが好ましい。つまり、中間熱間加工材を手入れする工程であり、例えば、第二熱間加工工程を実施する前に素材表面を研削ならびに研磨してもよい。第二熱間加工工程は、より低温での熱間加工を実施する為、延性が低くなり表面に割れが生じて、指定の寸法を製造出来ない可能性がある為、素材表面の研削ならびに研磨を実施してもよい。更に素材表面の研削ならびに研磨は第一熱間加工工程終了後、焼鈍を施した後、実施してもよい。また第二熱間加工工程後の熱間加工材は、A3点以上の材料温度を確保した状態で熱間加工を終了し、後述する直接焼入れ工程に移行することが望ましい。
【0020】
<直接焼入れ工程>
本実施形態では第二熱間加工工程により得られた熱間加工材に対して直接焼入れを行い。鋼材を得る(直接焼入れ工程)。本実施形態では前述した第一、第二熱間加工工程により得られた熱間加工材を冷却し、Ms点もしくはBs点以下まで冷却する事により焼入れ組織を得る工程である。熱間加工材の温度が低すぎると冷却過程でフェライト組織生成し、焼入れ組織が得られない。そのため、好ましい冷却を開始する前の熱間加工材の温度の下限はA3点以上である。そして、冷却の方法は特に限定せず、既存の冷却方法を適用すればよい。
【0021】
上記の直接焼入れ工程に際し、熱間加工材の温度は、最終的に製品に加工される部分、つまり、熱間加工材の内部の温度とすべきである。但し、実際の操業において、熱間加工材の温度はその表面で管理されることが一般的である。そして、熱間加工材の内部温度は、実際の操業前にシミュレーション等を行っておくことで確認が可能であり、熱間加工材の表面温度で管理することができる(このことについては、上述した中間熱間加工材の内部温度も同様である)。
【0022】
また、実際の操業において、第二熱間加工工程を終えたとき(つまり、直接焼入れ工程に移る前)の熱間加工材の内部温度は、熱間加工時の復熱等によって、第二熱間加工工程の開始温度を保っている一方で、熱間加工材の表面温度は、上記の開始温度から下がっているのが一般的である。このような場合、上記の直接焼入れ工程を油冷によって行うことで、水冷と比較して熱間加工材の内外で生じ得る温度差を緩和できるので熱応力による材料割れを抑制でき、また空冷と比較してマルテンサイト変態やベイナイト変態に十分な冷却速度を維持できる点で好ましい。
【実施例0023】
表1に示すSKT4相当合金(A3点:780℃、事前に熱力学計算ソフトでのシミュレーションにより導出)の鋼塊を得た。その後、表2に示す条件にて鍛造による第一熱間加工および第二熱間加工を実施した後、A3点以上の温度から冷媒を油とした直接焼入れを実施して焼戻し工程で同水準の硬さに調質し、本発明例および比較例の鋼材を得た。なお表2には省略しているが、本発明例および比較例の鋼材製造時には、第一熱間加工工程と第二熱間加工工程との間に中間熱間加工材の表面を研削する、研削工程を導入している。また、各鋼材は同じ鍛錬成形比で製造しており、その鍛錬成形比は第一熱間加工工程と第二熱間加工工程とを合わせて6とした。そして第一熱間加工工程の温度は1280℃で統一とし、第二熱間加工工程の温度を表2に示すように種々に振り分けた。
続いて得られた鋼材を同水準の硬さとなるように焼戻した後、鋼材の内部から試験片を採取し、シャルピー衝撃値、硬さ、および結晶粒度番号を測定した。シャルピー衝撃値はJISZ2242に準拠し、2mmUノッチにて評価した。硬さは、ロックウェル硬さ試験機を用いて測定した。結晶粒度番号(G.S.)は、JIS-G-0551に則り、結晶粒度標準図プレートIにて粒度番号を判定した。
測定結果を表2に示す。表2より、狙い硬さにある鋼材の中で本発明例は、いずれも比較例より結晶粒が微細となっており、シャルピー衝撃値の高い靭性に優れる鋼材を得る事ができた。
【0024】
【表1】
【0025】
【表2】