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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024135777
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】がん治療装置
(51)【国際特許分類】
   A61N 2/04 20060101AFI20240927BHJP
【FI】
A61N2/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023046640
(22)【出願日】2023-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(71)【出願人】
【識別番号】505155528
【氏名又は名称】公立大学法人横浜市立大学
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(72)【発明者】
【氏名】岸 和人
(72)【発明者】
【氏名】山口 高司
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 基和
(72)【発明者】
【氏名】梅村 将就
(72)【発明者】
【氏名】石川 義弘
【テーマコード(参考)】
4C106
【Fターム(参考)】
4C106AA05
4C106CC03
4C106EE04
4C106FF12
(57)【要約】
【課題】発熱量を抑制しつつ、抗腫瘍効果を十分に得られる周波数の交番磁界を生体に印加可能にする。
【解決手段】がん治療装置は、生体に印加する交番磁界を発生するコイルを含む磁界発生部と、前記交番磁界の印加により温度が上昇する前記生体の磁界印加部位を冷却する冷却部と、を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体に印加する交番磁界を発生するコイルを含む磁界発生部と、
前記交番磁界の印加により温度が上昇する前記生体の磁界印加部位を冷却する冷却部と、
を有することを特徴とするがん治療装置。
【請求項2】
前記コイルまたは前記磁界印加部位の温度を検出する温度検出部を有し、
前記冷却部は、前記温度検出部が検出した温度に基づいて前記コイルを冷却することで、冷却した前記コイルを介して前記磁界印加部位を冷却すること
を特徴とする請求項1に記載のがん治療装置。
【請求項3】
前記コイルは中空部を有するパイプ形状であり、
前記冷却部は、前記コイルを冷却する流体を前記中空部に供給し、前記温度検出部が検出した温度に基づいて前記流体の温度および流量の一方又は両方を制御すること
を特徴とする請求項2に記載のがん治療装置。
【請求項4】
前記コイルは、横断面が長辺と短辺とを有する矩形状であり、長辺側の2つの外面の一方が前記生体に対向する形状に形成されていること
を特徴とする請求項3に記載のがん治療装置。
【請求項5】
前記コイルは、前記磁界印加部位の形状に沿った巻き形状を有すること
を特徴とする請求項3または請求項4に記載のがん治療装置。
【請求項6】
前記温度検出部は、前記コイル内を流れる前記流体の温度、前記磁界印加部位の温度、または、前記コイルの温度を検出すること
を特徴とする請求項3または請求項4に記載のがん治療装置。
【請求項7】
前記コイルを収納する収納空間と、前記収納空間に空気を流入させる流入穴と、前記収納空間から前記磁界印加部位に向けて空気を流出させる流出穴と、を有するカバ一部材を有し、
前記冷却部は、前記温度検出部が検出した温度に基づいて前記収納空間内に流入する空気の量を制御すること
を特徴とする請求項2に記載のがん治療装置。
【請求項8】
前記冷却部は、前記磁界印加部位に向けて気流を発生させるファンを有し、前記温度検出部が検出した温度に基づいて前記ファンの回転数を制御すること
を特徴とする請求項2に記載のがん治療装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、がん治療装置に関する。
【背景技術】
【0002】
強磁性を示すフェライト粒子を含むセラミックス発熱体を体内の患部の近くに埋入し、コイルから発生する交流磁場内に置くことにより患部を発熱させて加熱治療する温熱療法(ハイパーサーミア)装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
生体の周囲を囲んで配置される磁場発生器から患部組織にがん細胞の増殖抑制効果が得られる周波数帯の交流磁場を印加するがん治療装置が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、100kHz以上の周波数の交流磁場を生体に印加する場合、生体内の誘導電流により熱が発生する。また、磁場の印加対象の生体の部位が大きい場合、コイルの外形寸法(巻き径)が大きくなるため、生体内で発生する誘導電流が大きくなり、発熱量は大きくなる。このため、例えば、頭部又は腹部の周囲にコイルを配置して、頭部又は腹部にある患部を治療する場合、発熱量の制限により、抗腫瘍効果が十分に得られる交流磁場を所定時間、患部に印加することが困難な場合がある。
【0005】
上記の課題に鑑み、本発明は、生体の発熱量を抑制しつつ、抗腫瘍効果を十分に得られる周波数の交番磁界を生体に印加可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記技術的課題を解決するため、本発明の一形態のがん治療装置は、生体に印加する交番磁界を発生するコイルを含む磁界発生部と、前記交番磁界の印加により温度が上昇する前記生体の磁界印加部位を冷却する冷却部と、を有する。
【発明の効果】
【0007】
生体の発熱量を抑制しつつ、抗腫瘍効果を十分に得られる周波数の交番磁界を生体に印加可能にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】第1の実施形態に係るがん治療装置の構成例を示す図である。
図2図1の磁界発生部の概要を示す正面図である。
図3図1の磁界発生部の概要を示す上面図である。
図4図3の磁界発生部のZ1-Z2線に沿う断面図である。
図5】第2の実施形態に係るがん治療装置における磁界発生部の概要を示す図である。
図6】第3の実施形態に係るがん治療装置における磁界発生部の概要を示す図である。
図7】第4の実施形態に係るがん治療装置における磁界発生部の概要を示す図である。
図8】第5の実施形態に係るがん治療装置における磁界発生部の概要を示す図である。
図9】第6の実施形態に係るがん治療装置の構成例を示す図である。
図10図9の磁界発生部の概要を示す断面図である。
図11図9の磁界発生部の概要を示す断面斜視図である。
図12】第7の実施形態に係るがん治療装置の構成例を示す図である。
図13図12の送風装置により患者に気流を送る例を示す図である。
図14】第8の実施形態に係るがん治療装置の概要を示す図である。
図15】第9の実施形態に係るがん治療装置の構成例を示す図である。
図16】第10の実施形態に係るがん治療装置における磁界発生部の概要を示す図である。
図17】第10の実施形態において、冷却部材の別の形態を示す図である。
図18】上述した実施形態のがん治療装置において、患者に印加する交番磁界の波形の例を示す図である。
図19】上述した実施形態のがん治療装置において、患者に印加する交番磁界の強度の時間変化の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して発明を実施するための形態について詳細に説明する。各図面において、同一の構成部分には同一の符号を付し、重複した説明を適宜省略する。以下で参照する図面に記載された構成要素の形状、部品間の大きさ等の比率及び相対的な位置関係等は、一例であり、図面に記載された内容に限定されるものではない。また、説明を明確にするために構成要素等を誇張している場合がある。
【0010】
<第1の実施形態>
図1は、第1の実施形態に係るがん治療装置の構成例を示す図である。図1に示すがん治療装置100は、交番磁界を腫瘍細胞等に印加して交番磁界の印加そのものによってがん細胞の増殖を抑制することが期待される磁気治療用装置である。がん治療装置100は、例えば、ラジオ波等を印加して腫瘍細胞の温度を上げる温熱療法(ハイパーサーミア)装置とは異なる。
【0011】
がん治療装置100は、チラー10と、高周波電源20と、磁界制御部22と、コイル30及びコア40a、40bを含む磁界発生部50とを有する。チラー10、高周波電源20及び磁界制御部22は、患者Pが横たわるベッド70の近くに配置される。患者Pは生体の一例である。チラー10およびコイル30は、冷却部の一例である。
【0012】
チラー10は、冷却用の液体循環装置であり、チラー制御部12、温度センサ14及び分岐栓16を有する。温度センサ14は、温度検出部の一例である。チラー10は、温度センサ14が検出する温度に基づいて、高周波電源20及びコイル30に供給する冷却用の液体の温度を予め設定された適切な温度に調整する。チラー10により循環される流体は、図4に示すように、コイル30の中空部31を流れる。このため、温度センサ14が検出する液体の温度は、コイル30の温度を示している。
【0013】
なお、温度センサ14に加えて、患者Pに貼り付けられる温度センサ、コイル30の近くに配置される温度センサ、又は、患者Pの体温を測定するサーモビューワ(サーモグラフィカメラ)や赤外線温度計が設けられてもよい。そして、チラー10は、温度センサ14が検出する温度だけでなく、患者Pの体温又はコイル30の温度に基づいて、液体の温度を調整してもよい。
【0014】
また、チラー10は、液体の温度の調整とともに、循環させる液体の流量を調整してもよい。また、チラー10は、温度センサ14が検出する温度が所定値を超えた場合、高周波電源20に印加電流を下げる指示を出力してもよい。分岐栓16は、チラー10から出力される液体を分岐してホース60にそれぞれ出力する。ホース60は、チラー10とコイル30との間、及び、チラー10と高周波電源20との間で液体を循環させるために、高周波電源20及びコイル30にそれぞれ接続される。なお、ホース60は柔軟性のないパイプ等であってもかまわない。
【0015】
コイル30の温度は、例えば、温熱療法(ハイパーサーミア)装置による治療での腫瘍細胞の温度(例えば、42℃から43℃)よりも低い温度に調整され、望ましくは交番磁界を印加する患者Pの体温(例えば、35℃から38℃)よりも低い温度に調整される。より望ましくは、コイル30の温度は、がん治療装置100が設置される室温程度(20℃から30℃)となるように制御されるとよい。なお、結露を防止するため、コイル30の温度は、交番磁界の印加時のがん治療装置100の装置環境における露点以上であることが望ましい。
【0016】
交番磁界の印加中のコイル30による患者Pへの影響として、印加電流により室温より高くなったコイル30の熱が患者Pに伝わることによる体温の上昇、及び、コイル30からの交番磁界による患者Pの体内での誘導電流による発熱がある。循環する液体によりコイル30を患者Pの体温より低い温度まで冷却することで、患者Pにおける交番磁界が印加される領域の温度がコイル30の熱により上昇することを抑制できるだけでなく、冷却したコイル30を冷却剤として機能させることができる。患者Pにおける交番磁界が印加される領域の温度の上昇を抑制することで、コイル30により強い電流を印加して患部に印加する交番磁界の強度を高くすることが可能になり、抗腫瘍効果を向上することができ、治療時間を短縮することができる。患者Pにおける交番磁界が印加される領域は、磁界印加部位の一例である。
【0017】
なお、患者Pの体表又はコイル30に設置される温度センサ、あるいはサーモビューワが検知する温度に基づいて、流体の流量及び温度の一方又は両方が調整されてもよい。また、がん治療装置100による治療では、患者Pに交番磁界を印加するため、体内に埋め込まれているステントなどの金属部材の温度が交番磁界により上昇するおそれがある。このため、体内の金属部材を検知する金属探知部ががん治療装置100に設けられることが望ましい。
【0018】
チラー10から高周波電源20及びコイル30に供給する液体は、水に限らず、油または各種水溶液でもよい。また、漏水時の不具合防止のために非導電性のフッ素系有機化合物等の液体を使用することが可能である。さらに、コイル30の発熱が小さい場合、空気などの気体をコイル30に供給してもよい。
【0019】
高周波電源20は、磁界制御部22の制御に基づいて、商用電源等のAC(Alternating Current)電源から供給される電力を100kHzから400kHz程度の高周波電流に変換する。高周波電流は、ケーブル21を介してコイル30に印加され、コイル30に交番磁界を発生させる。なお、コイル30に印加する高周波電流は、200kHzから250kHzの場合に抗腫瘍効果の大きいことが実験で確認されている。
【0020】
磁界制御部22は、高周波電源20が生成する高周波電流の周波数、振幅及び印加時間を制御することで、コイル30から発生する交番磁界の強度を制御する。磁界制御部22が高周波電源20に生成させる高周波電流の周波数、振幅及び印加時間は、患者Pに交番磁界を印加する前に予めプログラムされている。なお、磁界制御部22が高周波電源20に生成させる高周波電流の周波数、振幅及び印加時間は、患者Pの体温の上昇の程度に応じて、患者Pに印加される交番磁界の強度を微調整するように制御されてもよい。
【0021】
図示を省略するが、高周波電源20とコイル30との間に整合回路を配置し、高周波電源20の電流を整合回路を介してコイル30に印加してもよい。この場合、高周波の大電流を効率よく発生させることができる。
【0022】
ベッド70は、患者Pを磁界発生部50側に移動可能にするスライド部71を有し、磁界発生部50の近くに配置される。ベッド70は、磁界発生部50から発生する交番磁界の影響を受けないように、非磁性材料で非導電性の素材が使用されている。スライド部71により患者Pを磁界発生部50に対して移動可能にすることで、患者Pに負担を掛けることなく患者Pの患部とコイル30との位置を調整して適切な交番磁界を患部に印加することができる。
【0023】
図1に示す例では、患者Pは頭部に患部(がん細胞による腫瘍)を有しているため、コイル30は、スライド部71とともに移動される患者Pの頭部を挿入可能な大きさに形成されている。すなわち、コイル30の内径は、患部を有する患者Pの頭部の外形より大きい。
【0024】
なお、磁界発生部50は、頭部以外の患部の位置に対応して配置されてもよい。例えば、患部が腕部または脚部などにある場合、コイル30の内側の空間に患部を入れて治療することが可能である。さらに、コイル30は、交番磁界を印加する患部の形状に合わせた形状(内径)に形成されてもよい。磁界発生部50のコイル30をさまざまな形状にすることで、身体の深い位置に存在する患部にも所定の強度の交番磁界を印加することが可能になる。
【0025】
図2は、図1の磁界発生部50の概要を示す正面図である。図3は、図1の磁界発生部の概要を示す上面図である。図4は、図3の磁界発生部50のZ1-Z2線に沿う断面図である。コイル30は、中空部31を有する導電性のパイプ形状を有しており、横断面が円形状である。
【0026】
ホース60を介してチラー10から供給される液体(送液)は、コイル30の一端の中空部31に供給される。コイル30の中空部31を流れる液体は、コイル30から発生した熱を吸収し、廃液としてホース60を介してチラー10に戻される。
【0027】
コイル30は、高周波での損失が小さい銅などの高伝導部材を使用して形成される。コイル30は、患者Pの磁界印加部位(この例では、頭部)の形状に沿った巻き形状を有する。コイル30を巻き形状にすることで、コイル30と患者Pとの対向面積を増加させることができ、交番磁界が印加される部位の冷却効率を向上することができる。この結果、交番磁界が印加される部位の体温の上昇を抑制することができる。
【0028】
コイル30のターン数は3巻きであるが、2巻きないし5巻き程度のターン数で形成されてもよい。コア40a、40bは、コイル30が発生する磁束を集中させて磁界発生部50の周囲への磁界の漏れを小さくし、他の機器への影響を抑制して装置の小型化を図るために、コイル30の軸長方向の両側にそれぞれ設けられる。そして、コイル30に高周波電流を流すことにより、交番磁界を発生させる。
【0029】
なお、磁界の経路中に配置されるコア40a、40bが多すぎるとコイル30のインダクタンスが高くなりすぎて電源の設計及び選定が困難となる場合がある。このため、図3に示すように、複数のコア40aは、間隔を空けて配置されることが望ましい。複数のコア40bも、間隔を空けて配置されることが望ましい。
【0030】
患者Pの患部のがん細胞に印加される交番磁界の強さは、2mT以上であり、望ましくは10mT以上である。抗腫瘍効果を得るためには、10mT以上の交番磁界を患部に連続して30分以上、毎日もしくは数日おきに印加することが望ましい。がん細胞の増殖の抑制効果は、交番磁界の強さが大きいほど高いことが実験で分かってきている。但し、内径が患部を含む部位の外形より大きいコイル30から患部に強い交番磁界を印加する場合、患者Pにおいて交番磁界の印加領域の温度が正常範囲(例えば、41℃以下)を超えるおそれがある。なお、交番磁界の強さは、いくらでも強くすれば良いというわけではなく、40mTよりも小さく、できれば30mT以下に抑えることが望ましい。
【0031】
しかしながら、上述したように、循環する液体によりコイル30を冷却することで、患者Pにおける交番磁界が印加される領域の温度がコイル30の熱により上昇することを抑制できるだけでなく、冷却したコイル30を冷却剤として機能させることができる。すなわち、患者Pの体温より低く設定されたコイル30を患者Pの磁界印加部位に近接して配置することで、交流磁界の印加による磁界印加部位の温度の上昇を抑制することができる。
【0032】
患者Pにおける交番磁界が印加される領域の温度の上昇を抑制することで、コイル30により強い電流を印加して患部に印加する交番磁界の強度を高くすることが可能になり、抗腫瘍効果を向上することができ、治療時間を短縮することができる。
【0033】
以上、第1の実施形態では、温度センサ14が検出した温度に基づいてコイル30を冷却することで、コイル30を冷却剤として機能させ、患者Pにおける交番磁界が印加される磁界印加部位の温度の上昇を抑制することができる。交番磁界の印加の影響による体温の上昇を抑制することができるため、より強い交番磁界を印加することが可能になり、抗腫瘍効果を向上させることが可能になる。すなわち、生体の発熱量を抑制しつつ、抗腫瘍効果を十分に得られる周波数の交番磁界を生体に印加することが可能になる。
【0034】
コイル30を巻き形状にすることで、コイル30と患者Pとの対向面積を増加させることができ、交番磁界が印加される部位の冷却効率を向上することができる。この結果、交番磁界が印加される部位の体温の上昇を抑制することができる。中空部31を有するパイプ形状のコイル30に流体を供給することで、温度が偏ることなくコイル30を効率的に冷却することができる。
【0035】
<第2の実施形態>
図5は、第2の実施形態に係るがん治療装置における磁界発生部の概要を示す図である。第1の実施形態と同一または同様の構成については、同じ符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0036】
図5に示す磁界発生部50を有するがん治療装置は、図1のコイル30の代わりにコイル30Aを有し、図1の温度センサ14の代わりに温度センサ80が設けられることを除き、図1に示したがん治療装置100と同様の構成と機能とを有する。例えば、患者Pは頭部に患部(がん細胞による腫瘍)を有している。なお、図5では、図2に示したコア40a、40bの記載を省略しているが、例えば、コア40a、40bは、コイル30Aの軸長方向の両側にそれぞれ設けられてもよい。
【0037】
コイル30Aは、横断面が短辺と長辺とを有する矩形状に形成され、中空部31bを有する銅等の導電性の部材により形成されている。コイル30Aは、長辺側の面を内側に向けて巻き回されている、いわゆるフラットワイズ巻きの形状を有する。これにより、患者Pにおいて交番磁界が印加される部位に対向するコイル30Aの対向面積を、横断面が円形状のコイルに比べて増加させることができ、交番磁界が印加される部位の冷却効率を向上することができる。この結果、交番磁界が印加される部位の体温の上昇を抑制することができ、より効果的な治療を行うことができる。
【0038】
例えば、温度センサ80は、コイル30Aからの廃液の出口側に接続されたホース60の内面に取り付けられ、コイル30Aから排出される廃液の温度を検出する。例えば、温度センサ80は、磁界の影響を受けない光プローブセンサ等である。なお、温度センサ80は、コイル30Aの外周部における廃液の出口側に取り付けられてもよい。また、温度センサ80の代わりに、コイル30A又はホース60の温度を非接触で検知する赤外線温度計もしくはサーモビューワ等が設けられてもよい。
【0039】
温度センサ80を廃液の出口側に取り付けることで、送液の入口側に取り付ける場合に比べて、患者Pにおいて交番磁界が印加される部位の温度変化を検出することが可能になる。また、液体の温度をチラー10に設けられる温度センサ14で検出する場合に比べて、コイル30Aの温度を正確に検出することができる。例えば、図1の温度センサ14では、液体の温度がコイル30Aからチラー10に戻るまでに変化するおそれがあり、コイル30Aの実際の温度より高く検出されるおそれがある。
【0040】
なお、温度センサ80は、患者Pにおけるコイル30Aとの対向部に貼り付けられてもよい。温度センサ80が検出する温度は、コイル30の相対的な温度を示し、コイル30Aにより冷却される磁界印加部位の温度を間接的に示す。
【0041】
チラー10は、温度センサ80が検出する温度に基づいて、高周波電源20及びコイル30に供給する液体の温度を予め設定された適切な温度に調整する。さらに、コイル30Aに高周波電流を印加するときの交流抵抗を、横断面が円形状のコイルに比べて低くすることができる。この結果、コイル30Aの発熱を抑制できるため、チラー10の冷却能力を抑えて、消費電力を低減することが可能になる。
【0042】
以上、第2の実施形態においても第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。例えば、温度センサ80が検出した温度に基づいてコイル30Aを冷却することで、コイル30Aを冷却剤として機能させ、患者Pにおける交番磁界が印加される磁界印加部位の温度の上昇を抑制することができる。
【0043】
さらに、第2の実施形態では、患者Pにおいて交番磁界が印加される部位に対向するコイル30Aの対向面積を、横断面が円形状のコイルに比べて増加させることができ、交番磁界が印加される部位の冷却効率を向上することができる。この結果、交番磁界が印加される部位の体温の上昇を効果的に抑制することができる。
【0044】
また、コイル30Aからの廃液の出口側に取り付けられた温度センサ80が検出する温度に基づいて液体の流量等を制御することで、コイル30Aの温度をより正確に検出することができ、患者Pの磁界印加部位の温度の上昇を適切に抑制することができる。
【0045】
<第3の実施形態>
図6は、第3の実施形態に係るがん治療装置における磁界発生部の概要を示す図である。第1の実施形態および第2の実施形態と同一または同様の構成については、同じ符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0046】
図6に示す磁界発生部50を有するがん治療装置は、図5のコイル30Aの代わりにコイル30Bを有することを除き、図1に示したがん治療装置100と同様の構成と機能とを有する。例えば、患者Pは頭部に患部(がん細胞による腫瘍)を有している。なお、図6では、図2に示したコア40a、40bの記載を省略しているが、例えば、コア40a、40bは、コイル30Bの軸長方向の両側にそれぞれ設けられてもよい。
【0047】
コイル30Bは、螺旋形状に巻き回されていることを除き、図5のコイル30Aと同様の形状を有する。すなわち、コイル30Bは、断面が短辺と長辺とを有する矩形状の中空部31bを有する導電性の部材により形成され、長辺側の面を内側に向けて巻き回されている。コイル30Bを螺旋形状に巻き回すことで、例えば、図4に示したように、コイルの一部を曲げなくてもよいため、安価なコイル30Bを簡易に形成することができる。
【0048】
以上、第3の実施形態においても第1の実施形態及び第2の実施形態と同様の効果を得ることができる。さらに、第3の実施形態では、コイル30Bを螺旋形状に巻き回すことで、例えば、図4に示したように、コイルの一部を曲げなくてもよいため、安価なコイル30Bを簡易に形成することができる。
【0049】
<第4の実施形態>
図7は、第4の実施形態に係るがん治療装置における磁界発生部の概要を示す図である。第1の実施形態から第3の実施形態と同一または同様の構成については、同じ符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0050】
図7に示す磁界発生部50を有するがん治療装置は、図5のコイル30Aの代わりにコイル30Cを有することを除き、図1に示したがん治療装置100と同様の構成と機能とを有する。例えば、患者Pは頭部に患部(がん細胞による腫瘍)を有している。なお、図7では、図2に示したコア40a、40bの記載を省略しているが、例えば、コア40a、40bは、コイル30Cの軸長方向の両側にそれぞれ設けられてもよい。
【0051】
この実施形態では、コイル30Cの1巻き毎の導電部の間隔が、図5のコイル30Aの1巻き毎の導電部の間隔よりも大きく設定されている。磁界発生部50のその他の構造は、図5の磁界発生部50の構造と同じである。コイル30Cの導電部の間隔を大きくすることで、高周波電流をコイル30Cに印加する場合に、近接作用による交流抵抗を低減することができる。また、例えば、導電部間の隙間を患者Pの目の位置に合わせることができる。これにより、患者Pの視野を確保することができるため、治療中の患者Pの不安感を低減することができる。
【0052】
以上、第4の実施形態においても上述した実施形態と同様の効果を得ることができる。さらに、第4の実施形態では、コイル30Cの導電部の間隔を大きくすることで、近接作用による交流抵抗を低減することができる。また、コイル30Cの導電部の間隔を大きくすることで、患者Pの視野を確保することができるため、治療中の患者Pの不安感を低減することができる。
【0053】
<第5の実施形態>
図8は、第5の実施形態に係るがん治療装置における磁界発生部の概要を示す図である。第1の実施形態から第4の実施形態と同一または同様の構成については、同じ符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0054】
図8に示す磁界発生部50を有するがん治療装置は、図5のコイル30Aの代わりにコイル30Dを有することを除き、図1に示したがん治療装置100と同様の構成と機能とを有する。例えば、患者Pは頭部に患部(がん細胞による腫瘍)を有している。なお、図8では、図2に示したコア40a、40bの記載を省略しているが、例えば、コア40a、40bは、コイル30Dの外面に沿って設けられてもよい。
【0055】
コイル30Dは、頭部の形状に合わせた半球状の内面形状を有する。コイル30Dは、図5のコイル30Aと同様に、断面が短辺と長辺とを有する矩形状の中空部31bを有する導電性の部材により形成され、長辺側の面を内側に向けて巻き回されている。なお、図5と同様に、コイル30Dに接続されるホース60内において、コイル30Dに近接する位置に温度センサ80が配置され、温度センサ80が検出する温度に基づいてチラー10の動作が制御されてもよい。
【0056】
矩形状の中空部31bを有するコイル30Dの内面形状を、頭部の形状に合わせて半球状にすることで、コイル30Dの長辺側の面と頭部の表面との距離をコイル30Dの導電部の位置によらず小さくすることができる。この結果、図5に示したコイル30Aに比べて、交番磁界が印加される頭部の冷却効率をさらに向上することができる。なお、コイル30Dの内面形状を半球状にすることで、乳がんの治療の効果を高めることが可能になる。
【0057】
以上、第5の実施形態においても上述した実施形態と同様の効果を得ることができる。さらに、第5の実施形態では、矩形状の中空部31bを有するコイル30Dの内面形状を、頭部の形状に合わせて半球状にすることで、コイル30Dの長辺側の面と頭部の表面との距離をコイル30Dの導電部の位置によらず小さくすることができる。この結果、図5に示したコイル30Aに比べて、交番磁界が印加される頭部の冷却効率をさらに向上することができる。
【0058】
<第6の実施形態>
図9は、第6の実施形態に係るがん治療装置の構成例を示す図である。第1の実施形態と同一または同様の構成については、同じ符号を付し、詳細な説明は省略する。図9に示すがん治療装置102は、患者Pを挟んで対向する一対の磁界発生部50Eを有し、例えば、患者Pの腹部にある患部に交番磁界を印加可能にする。各磁界発生部50Eは、円盤形状のコイル30Eと、コイル30Eに対向して配置されるコア40a、40bとを有する。患部を挟んで円盤形状のコイル30Eを対向させることで、患部が体内の深いところに位置する場合にも、患部に強い交番磁界を印加することができる。
【0059】
チラー10は、高周波電源20及び一対のコイル30Eに適切な温度の液体を供給するために、分岐栓16を介して高周波電源20及び一対のコイル30Eにそれぞれ液体を循環させることを除き、図1のチラー10と同じ構成及び機能を有する。高周波電源20は、ケーブル21を介して一対のコイル30Eにそれぞれ接続され、磁界制御部22の制御に基づいて一対のコイル30Eのそれぞれに交流電流を出力する。一対のコイル30Eは、交流電流に応じて交番磁界を発生する。ベッド70及びスライド部71の機能は、図1のベッド70及びスライド部71の機能と同じである。なお、この実施形態では、ベッド70に横たわる患者Pは、腹部が一対の磁界発生部50Eに挟まれる位置までスライド部71とともに移動される。
【0060】
この実施形態では、例えば、温度センサ80は、患者Pの磁界印加部位に貼り付けられる。すなわち、温度センサ80は、患者Pにおけるコイル30Eとの対向部に貼り付けられる。温度センサ80を患者Pに貼り付けることで、患者Pの体温を正確に検出することができる。
【0061】
チラー10は、温度センサ80が検出する温度に基づいて、コイル30に供給する液体の温度を予め設定された適切な温度に調整する。また、チラー10は、温度センサ14が検出する温度に基づいて、高周波電源20に供給する液体の温度を予め設定された適切な温度に調整する。チラー10は、温度センサ80の検出温度に基づいて設定するコイル30E用の液体の温度と、温度センサ14の検出温度に基づいて設定する高周波電源20用の液体の温度とが異なる場合、低い側の温度に液体の温度を調整する。
【0062】
なお、チラー10は、温度センサ80、14が検出する温度に基づいて、コイル30および高周波電源20に供給する液体の温度を予め設定された適切な温度にそれぞれ調整してもよい。この場合、チラー10は、コイル30E用の分岐栓16と、高周波電源20用の分岐栓16とを有し、互いに独立の温度制御を実施する。
【0063】
図10は、図9の磁界発生部50Eの概要を示す断面図である。図11は、図9の磁界発生部50Eの概要を示す断面斜視図である。図10に示す破線の曲線は、コイル30Eから発生する交番磁界の強度分布を示す。各コイル30Eは、いわゆる渦巻き形状を有しており、横断面が短辺と長辺とを有する矩形状に形成され、矩形状の中空部31bを有する導電性の部材により形成されている。一対のコイル30Eは、長辺側の面を互いに対向させている。図示を省略するが、例えば、渦巻き形状のコイル30Eの外周部に液体の流入部が設けられ、渦巻き形状のコイル30Eの中心部に、液体の流出部が設けられる。
【0064】
これにより、患者Pにおいて交番磁界が印加される部位に対向する一対のコイル30Eの対向面積を、横断面が円形状のコイルに比べて増加させることができ、交番磁界が印加される部位の冷却効率を向上することができる。この結果、交番磁界が印加される部位の体温の上昇を抑制することができる。
【0065】
また、各コア40a、40bは、平坦な直方体形状を有しており、一対のコイル30Eの対向面と反対側の長辺側の面に、円盤形状のコイル30Eの放射方向に間隔を置いて配置されている。コイル30Eに近接してコア40a、40bを配置することで、図10に示すように周囲への余分な交番磁界の漏洩を防止して患部に印加される交番磁界を強くすることができる。なお、図示しないが体の側面に配置されたコア40a、40bを磁気的に接続するサイドコアを配置し、閉磁路を形成して漏洩磁界をさらに低減してより強い交番磁界を生体に印加する構成であっても良い。
【0066】
以上、第6の実施形態においても上述した実施形態と同様の効果を得ることができる。さらに、第6の実施形態では、平坦な円盤形状を有し、矩形状の中空部31bをそれぞれ有する一対のコイル30Eが、長辺側の面を互いに対向させて配置される。これにより、一対のコイル30E間に位置する患者Pの体温の上昇を抑制しつつ、患部に交番磁界を印加することができる。また、患者Pを挟んで両側から交番磁界を印加できるため、患部が体内の深いところに位置する場合にも、強い交番磁界を患部に印加することができる。
【0067】
また、温度センサ80を患者Pに貼り付けることで、患者Pの体温を正確に検出することができ、チラー10による液体の温度の制御を、体温の変化に追従して実施することができる。
【0068】
<第7の実施形態>
図12および図13は、第7の実施形態に係るがん治療装置の概要を示す図である。図12に示すがん治療装置104の機能は、図1に示すがん治療装置100の機能と同様である。例えば、がん治療装置104が発生する交番磁界は、図1に示すがん治療装置100が発生する交番磁界と同様である。
【0069】
がん治療装置104は、中空でないリッツ線などの導電部材24を巻回することで構成されたコイル30Fと、コイル30Fを収納する送風装置90とを有する。送風装置90は、コイル30Fの収納部91と、ファン99が配置される送風部92と、収納部91及び送風部92を互いに連結する通風部93とを有する。
【0070】
収納部91は、コイル30Fの形状に合わせた横断面円環形状を有しており、円筒状の内壁に複数の通風孔94を有する。そして、通風部93を介してファン99から収納部91に送られる空気の気流AFは、導電部材24の隙間を通り抜けて、導電部材24を冷却し、通風孔94から排出される。なお、リッツ線によるコイル30Fの発熱量は、図1に示した中空状のコイル30の発熱量より小さいため、気流AFがコイル30Fの熱を吸収する場合にも、気流AFを調整することで、通風孔94から熱風が排出されることはない。
【0071】
例えば、患者Pにおいて患部を有する頭部は、収納部91の円筒状の内壁の内側に位置され、コイル30Fから発生する交番磁界を受ける。通風孔94から排出される気流AFは、頭部に当たって頭部が昇温することを抑制する。なお、ヒートポンプなどにより冷却された空気が送風部92から収納部91に送られてもよい。図12に示すがん治療装置104では、コイル30Fを収納部91に収納し、収納部91を介して患者Pに空気を送ることで、患者Pの昇温を抑制する気流AFを利用してコイル30Fを冷却することができる。
【0072】
以上、第7の実施形態においても上述した実施形態と同様の効果を得ることができる。さらに、第7の実施形態では、コイル30Fを収納部91に収納し、収納部91を介して患者Pに空気を送ることで、患者Pの昇温を抑制する気流AFを利用してコイル30Fを冷却することができる。
【0073】
<第8の実施形態>
図14は、第8の実施形態に係るがん治療装置の構成例を示す図である。第1の実施形態と同一または同様の構成については、同じ符号を付し、詳細な説明は省略する。図14に示すがん治療装置106は、患者Pに貼り付けられた温度センサ80により計測される体温を取得し、取得した体温に基づいてチラー制御部12および磁界制御部22を制御する生体状態検知部82を有する。温度センサ80および生体状態検知部82を除く構成および機能は、図1に示したがん治療装置100の構成および機能と同様である。
【0074】
生体状態検知部82は、温度センサ80から取得した体温を示す温度情報をチラー10に出力する。また、生体状態検知部82は、温度センサ80から取得した体温が予め設定された上限値以上の場合、磁界制御部22に交番磁界の発生を停止させる指示を出力する。なお、上述した各実施形態においても、患者Pの体温が温度センサ80により検出される場合で、体温が予め設定された上限値以上の場合、磁界制御部22に交番磁界の発生を停止させてもよい。これにより、安全ながん治療を実施することができる。
【0075】
チラー10は、温度センサ80が検出する温度に基づいて、コイル30に供給する液体の温度を予め設定された適切な温度に調整する。温度センサ80を患者Pに貼り付けることで、患者Pの体温を正確に検出することができ、チラー10による液体の温度の制御を、体温の変化に追従して実施することができる。
【0076】
以上、第8の実施形態においても上述した実施形態と同様の効果を得ることができる。さらに、第8の実施形態では、温度センサ80から取得した体温が予め設定された上限値以上の場合、磁界制御部22に交番磁界の発生を停止させることで、安全ながん治療を実施することができる。
【0077】
<第9の実施形態>
図15は、第9の実施形態に係るがん治療装置の構成例を示す図である。第1の実施形態および第8の実施形態と同一または同様の構成については、同じ符号を付し、詳細な説明は省略する。図15に示すがん治療装置108は、図14に示すがん治療装置106に、図13と同様の送風装置90が追加されている。また、がん治療装置108は、図14の生体状態検知部82の代わりに、生体状態検知部83を有する。
【0078】
なお、この実施形態のチラー10は、コイル30に接続されておらず、コイル30を冷却する機能を持たない。チラー10は、高周波電源20の冷却のみを実施する。磁界印加部位の冷却およびコイル30の冷却は、送風装置90により実施される。
【0079】
送風装置90は、気流AFが患者Pの磁界印加部位に向く位置に配置される。送風装置90のファン99の回転数は、生体状態検知部83により制御される。送風装置90および生体状態検知部83を除く構成および機能は、図14に示したがん治療装置106の構成および機能と同様である。
【0080】
生体状態検知部83は、温度センサ80から取得した体温を示す温度情報に基づいて、送風装置90のファン99の回転数を制御し、患者Pの磁界印加部位に送る気流AFの量を調整する。例えば、生体状態検知部83は、患者Pの体温が高いほどファン99の回転数を高くする制御を実施する。また、生体状態検知部83は、図14の生体状態検知部82と同様に、温度センサ80から取得した体温が予め設定された上限値以上の場合、磁界制御部22に交番磁界の発生を停止させる指示を出力する。
【0081】
なお、送風装置90は、ヒートポンプなどにより冷却された空気を気流AFとして患者Pの磁界印加部位に送ってもよい。また、送風装置90による気流AFが当たる磁界印加部位に濡れた布などを貼り付けてもよい。磁界印加部位に濡れた布などを貼り付けることで、磁界印加部位の冷却効率を向上することができる。
【0082】
以上、第9の実施形態においても上述した実施形態と同様の効果を得ることができる。さらに、第9の実施形態では、温度センサ80から取得した体温を示す温度情報に基づいて、送風装置90のファン99の回転数を制御することで、患者Pにおける交番磁界が印加される磁界印加部位の温度の上昇を抑制することができる。
【0083】
<第10の実施形態>
図16は、第10の実施形態に係るがん治療装置における磁界発生部の概要を示す図である。上述した実施形態と同一または同様の構成については、同じ符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0084】
図16に示す磁界発生部50を有するがん治療装置は、図2のコイル30と患者Pの頭部との間に複数の冷却部材201が配置されることを除き、図1に示したがん治療装置100と同様の構成と機能とを有する。例えば、患者Pは頭部に患部(がん細胞による腫瘍)を有している。
【0085】
各冷却部材201は、冷却したい磁界印加部位の外形形状に沿った形状を有する。図16では、複数の冷却部材201を図示しない柔軟な部材等で連結して磁界印加部位に巻き付ける形態が示される。例えば、冷却部材201は、冷凍庫で冷凍することで氷点下まで冷やすことができる。なお、冷却部材201は、磁界印加部位の外形形状に合わせてあらかじめ固形化されてもよい。
【0086】
この実施形態では、冷却部材201を患者Pの頭部に接触させて配置することで、磁界印加部位を冷却し、交番磁界により発生する磁界印加部位の昇温を抑制することができる。図16では、交番磁界の印加による磁界印加部位の発熱が発生しにくいように、冷却部材201は、発生する交番磁界の法線を周回する方向に複数に分けられている。これにより、冷却部材201自体の発熱を抑制することで冷却効果を長く維持することができ、治療中の冷却部材201の交換と治療の中断とを避けることができる。
【0087】
なお、冷却部材201は患者Pに直接接触させずに、冷却部材201を弾性を有する氷嚢等の中に入れ、冷却部材201で冷やされた氷嚢中の液体により磁界印加部位を冷却してもよい。氷嚢は、磁界印加部位の形状に沿って変形するため、冷却機能を向上させることができる。また、冷却部材201と患者Pの体表面との間の接触熱抵抗を低減するために、水などの液体を含む吸湿・吸水シートやジェル状の伝熱部材を配置することが望ましい。
【0088】
図17は、第10の実施形態において、冷却部材の別の形態を示す図である。図17に示す冷却部材202は、冷却された液体が流通する中空部202aを有する。例えば、冷却された液体は、図1のチラー10により冷却部材202内に循環させることができる。図17に示す構成では、冷却部材202の温度を比較的高くしても冷却性能を長時間維持することができる。このため、患者Pの過度な冷却を抑制し、長時間の治療を継続して実施することが可能となる。
【0089】
以上、第10の実施形態においても上述した実施形態と同様の効果を得ることができる。さらに、第10の実施形態では、冷却部材201又は冷却部材202を患者Pの磁界印加部位に沿って配置することで、磁界印加部位を冷却し、磁界により発生する磁界印加部位の昇温を抑制することができる。
【0090】
図18は、上述した実施形態のがん治療装置において、患者に印加する交番磁界の波形の例を示す図である。患者の患部に印加する交番磁界の波形は、治療するがん細胞の種類に応じて適宜切り替えることができる。
【0091】
例えば、交番磁界は、例1に示すように、周波数スペクトルが1つの周波数f1のピークを有してもよく、例2、例3に示すように、周波数スペクトルが複数の周波数(この例では、3つの周波数f1、f2、f3)のピークを有してもよい。
【0092】
例1では、交番磁界は、一定の周期で強弱を繰り返す波形になる。例2では、3つの周波数f1、f2、f3を重畳することで、交番磁界は、各周波数f1、f2、f3の単位波形パターンを重ねた複雑な波形にすることができる。例3では、3つの周波数f1、f2、f3を所定時間t1、t2、t3毎に切り替えることで、交番磁界の周波数を切り替えることができる。
【0093】
図19は、上述した実施形態のがん治療装置において、患者Pに印加する交番磁界の強度の時間変化の例を示す図である。患部を治療する場合、交番磁界を治療時間T1中に連続して患部に印加する。この際、治療時間T1の間に最大磁界を印加し続けるのではなく、治療時間T1の初期は、治療時間T1の終了時に比べて印加する交番磁界の強度を低くする。例1に示すように、交番磁界の強度を段階的に高くし、最大値を所定時間維持してもよく、例2に示すように、交番磁界の強度を徐々に高くし、最大値を所定時間維持してもよい。
【0094】
患者Pに交番磁界を印加すると、交番磁界の影響で体温が上昇することが分かっている。一方、交番磁界の印加により体温が上昇していくと、生体は、体温を下げようとして血液の循環量を増加させ、あるいは、発汗量を増加させるなど、放熱を促進する反応を発生する。このとき、放熱量は、瞬時ではなく数分から十数分程度の時間をかけて徐々に増加していく。
【0095】
このため、放熱量が低い交番磁界の印加の初期にいきなり最大の交番磁界を印加する場合、放熱が間に合わず、体温が急激に上昇するおそれがある。図19に示すように、交番磁界の印加の初期には比較的弱い交番磁界を印加し、生体の放熱促進反応が進むのに合わせて、印加する交番磁界の強度を徐々に高くしていくことで、体温の上昇を抑制しつつ、より強い交番磁界を印加することが可能になり、よりよい治療効果を得ることが可能となる。
【0096】
なお、上述したように、抗腫瘍効果は、患部Pに印加する交番磁界の強度が高いほど高いが、誘導電流による発熱で体温が上昇するため、患者Pに印加可能な交番磁界の強度には上限がある。人体は、45℃を超えると短時間でも細胞の不可逆的な生化学反応が起こり、細胞が回復できなくなると言われている。このため、誘導電流による体温の上昇を考慮して、患部Pに印加する交番磁界の強度を設定する必要がある。例えば、交番磁界の印加により上昇する体温の上限は、41℃に設定される。
【0097】
本発明の態様は、例えば、以下の通りである。
<1>
生体に印加する交番磁界を発生するコイルを含む磁界発生部と、
前記交番磁界の印加により温度が上昇する前記生体の磁界印加部位を冷却する冷却部と、
を有することを特徴とするがん治療装置。
<2>
前記コイルまたは前記磁界印加部位の温度を検出する温度検出部を有し、
前記冷却部は、前記温度検出部が検出した温度に基づいて前記コイルを冷却することで、冷却した前記コイルを介して前記磁界印加部位を冷却すること
を特徴とする<1>に記載のがん治療装置。
<3>
前記コイルは中空部を有するパイプ形状であり、
前記冷却部は、前記コイルを冷却する流体を前記中空部に供給し、前記温度検出部が検出した温度に基づいて前記流体の温度および流量の一方又は両方を制御すること
を特徴とする<2>に記載のがん治療装置。
<4>
前記コイルは、横断面が長辺と短辺とを有する矩形状であり、長辺側の2つの外面の一方が前記生体に対向する形状に形成されていること
を特徴とする<3>に記載のがん治療装置。
<5>
前記コイルは、前記磁界印加部位の形状に沿った巻き形状を有すること
を特徴とする<3>または<4>に記載のがん治療装置。
<6>
前記温度検出部は、前記コイル内を流れる前記流体の温度、前記磁界印加部位の温度、または、前記コイルの温度を検出すること
を特徴とする<3>ないし<5>のいずれか1項に記載のがん治療装置。
<7>
前記コイルを収納する収納空間と、前記収納空間に空気を流入させる流入穴と、前記収納空間から前記磁界印加部位に向けて空気を流出させる流出穴と、を有するカバ一部材を有し、
前記冷却部は、前記温度検出部が検出した温度に基づいて前記収納空間内に流入する空気の量を制御すること
を特徴とする<2>に記載のがん治療装置。
<8>
前記冷却部は、前記磁界印加部位に向けて気流を発生させるファンを有し、前記温度検出部が検出した温度に基づいて前記ファンの回転数を制御すること
を特徴とする<2>に記載のがん治療装置。
【0098】
以上、各実施形態に基づき本発明の説明を行ってきたが、上記実施形態に示した要件に本発明が限定されるものではない。これらの点に関しては、本発明の主旨をそこなわない範囲で変更することができ、その応用形態に応じて適切に定めることができる。
【符号の説明】
【0099】
10 チラー
12 チラー制御部
14 温度センサ
16 分岐栓
20 高周波電源
21 ケーブル
22 磁界制御部
24 導電部材
30、30A、30B、30C、30D、30E、30F コイル
31b 中空部
40a、40b コア
50、50E 磁界発生部
60 ホース
70 ベッド
71 スライド部
80 温度センサ
82、83 生体状態検知部
90 送風装置
91 収納部
92 送風部
93 通風部
99 ファン
100、101、102、104、106、108 がん治療装置
AF 気流
201、202 冷却部材
202a 中空部
P 患者
【先行技術文献】
【特許文献】
【0100】
【特許文献1】特開平2-88059号公報
【特許文献2】国際公開第2018/097185号
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19