(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024135788
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】質量分析計及び質量分析システム
(51)【国際特許分類】
H01J 49/04 20060101AFI20240927BHJP
H01J 49/14 20060101ALI20240927BHJP
H01J 49/24 20060101ALI20240927BHJP
H01J 49/42 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
H01J49/04
H01J49/14 700
H01J49/24
H01J49/42 150
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023046655
(22)【出願日】2023-03-23
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-09-03
(71)【出願人】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】110000305
【氏名又は名称】弁理士法人青莪
(72)【発明者】
【氏名】中本 泰我
(72)【発明者】
【氏名】中島 豊昭
(72)【発明者】
【氏名】田中 領太
(72)【発明者】
【氏名】黒川 裕次郎
(72)【発明者】
【氏名】宮下 剛
(57)【要約】
【課題】試験体から導入されるガスの成分を分析する質量分析計をフィラメント交換の作業性がよいものとする。
【解決手段】X軸方向にのびる主管部31と主管部から分岐されてX軸方向に直交するZ軸方向一方にのびる分岐管部32とを有するエンベロープ3を備える。分岐管部に切換バルブ24を介して試験体Vcに接続される。主管部内にX軸方向下流に向けてイオン源4と質量分離部5と検出部6とが順次格納され、主管部の他端に制御ユニット7が連結される。イオン源が、X軸方向一端側に配置されるフィラメント41と、フィラメントのX軸方向下流に位置して熱電子に所定の運動を付与する運動付与室42と、運動付与室のX軸方向下流側に位置してガスをイオン化するイオン化室43とを有する。主管部の一端を開閉自在に閉塞する蓋板31aを更に備え、分岐管部内に、その先端部が主管部内に突出してイオン化室へとのびる内管35が挿設される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空雰囲気の試験体から導入されるガスの成分を分析する質量分析計において、
X軸方向にのびる主管部と、この主管部から分岐されてX軸方向に直交するZ軸方向一方にのびる第1の分岐管部とを有するエンベロープとを備え、第1の分岐管部に切換バルブが介設されて試験体に接続され、
主管部内にその一端側からその他端に向かうX軸方向下流に向けてイオン源と質量分離部と検出部とが順次格納され、主管部の他端に制御ユニットが連結され、
イオン源が、X軸方向一端側に配置されて通電により熱電子を放出するフィラメントと、フィラメントのX軸方向下流に位置してこの放出された熱電子に所定の運動を付与する運動付与室と、この運動付与室のX軸方向下流側に位置して試験体から導入されるガスと熱電子とを衝突させてガスをイオン化するイオン化室とを有し、
フィラメントを臨む主管部の一端を開閉自在に閉塞する蓋板を更に備え、
第1の分岐管部内に、その先端部が主管部内に突出してイオン化室へとのびる内管が挿設されることを特徴とする質量分析計。
【請求項2】
前記フィラメントの両自由端を支持する支持体を備え、この支持体が前記主管部内に設けた台座部に着脱自在に取り付けられることを特徴とする請求項1記載の質量分析計。
【請求項3】
前記支持体は、前記台座部に取り付けられるベース板と、板厚方向に貫通するベース板の貫通孔に挿設されて一端部に前記フィラメントの両自由端が夫々接続される一対の支持ピンとを有し、
前記主管部内にX軸方向にのびる導電管が設けられ、この導電管に各支持ピンの他端部が抜き出し自在に係合するように構成したことを特徴とする請求項2記載の質量分析計。
【請求項4】
請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の質量分析計を備える質量分析システムにおいて、
前記エンベロープに前記質量分離部を臨んでZ軸方向他方にのびる第2の分岐管部が設けられ、前記第1の分岐管部のZ軸方向上方が鉛直方向上方に一致する基準姿勢で当該質量分析計を支持する架台を更に備え、
架台内に第2の分岐管部に接続される真空ポンプと、試験体から切換バルブに通じる第1の分岐管部の部分の圧力及び真空ポンプの背圧側の圧力を夫々測定する真空計とを備え、真空計の圧力指示値に応じて制御ユニットが切換バルブの作動を制御することを特徴とする質量分析システム。
【請求項5】
前記架台が、枠体を直方体形状に組み合せた第1骨組と、前記架台の基準姿勢にてX軸方向他端で且つZ軸方向上側に位置する第1骨組の枠体に立設される、枠体を長方形状に組み合せた第2骨組とを有することを特徴とする請求項4記載の質量分析システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空雰囲気の試験体から導入されるガスの成分を分析する質量分析計及びこの質量分析計を備える質量分析システムに関する。
【背景技術】
【0002】
この種の質量分析計は例えば特許文献1で知られている。このものは、支持板の一方の面に設けられるセンサユニットと支持板の一方の面に連結される制御ユニットとを備え、支持板を介して真空チャンバといった試験体にセンサユニットがその内部に突出する姿勢で取り付けられる。センサユニットは、一端が支持板に取り付けられるストレート管状のエンベロープを有する。エンベロープには、支持体上に設置されるイオンコレクタ(ファラデーカップ)と、イオンコレクタの長手方向前方に配置される四重極部(質量分離部)と、四重極部の長手方向前方に配置されるイオン源とが格納されている。
【0003】
試験体内のガスと熱電子とを衝突させてガスをイオン化するイオン源は、通電により熱電子を放出するフィラメントと、フィラメントのX軸方向後方に位置してこの放出された熱電子を振動させる運動付与室を画成する筒状のグリッドとを備え、試験体へのセンサユニットの取付状態では、フィラメントが試験体内に露出するようにしている。制御ユニットは筐体を備え、筐体には、コンピュータやメモリ等を有する制御部と、フィラメントに直流電流を通電してフィラメントを点灯するフィラメント点灯用の電源と、グリッドに対してフィラメントより高い電位を与えるグリッド用の電源と、ガスの分析結果を表示するディスプレイいった機器とが組み込まれている。
【0004】
また、上記質量分析計に専用の真空ポンプを接続して差動排気を可能とし、試験体内で実施されるプロセスのモニタリングから残留ガス分析(RGA)までを実施できるようにした質量分析システムも従来から知られている。このような質量分析システムでは、床面に設置される架台上に真空ポンプを設置し、真空ポンプの吸引口にT字状の真空配管を接続し、水平方向一方にのびる真空配管の一端に上記質量分析計を接続すると共に、水平方向他方にのびる真空配管の他端に、切換バルブを介して試験体からのガス導入管を接続自在としたものが一般的である。
【0005】
ところで、イオン源で用いられるフィラメントは所謂消耗品であり、試験体内で分析しようとするガスによっては、早期に断線する場合がある。然し、上記質量分析システムにてフィラメントを交換しようとすると、真空配管からの質量分析計の取外しやフィラメント交換後の真空配管への質量分析計の再取付といった作業が必要になり、これでは、フィラメント交換の作業性が著しく悪いという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、以上の点に鑑み、フィラメント交換の作業性のよい構造を持つ質量分析計及びこの質量分析計を備える質量分析システムを提供することをその課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、真空雰囲気の試験体から導入されるガスの成分を分析する本発明の質量分析計は、X軸方向にのびる主管部と、この主管部から分岐されてX軸方向に直交するZ軸方向一方にのびる第1の分岐管部とを有するエンベロープとを備え、第1の分岐管部に切換バルブが介設されて試験体に接続され、主管部内にその一端側からその他端に向かうX軸方向下流に向けてイオン源と質量分離部と検出部とが順次格納され、主管部の他端に制御ユニットが連結され、イオン源が、X軸方向一端側に配置されて通電により熱電子を放出するフィラメントと、フィラメントのX軸方向下流に位置してこの放出された熱電子に所定の運動を付与する運動付与室と、この運動付与室のX軸方向下流側に位置して試験体から導入されるガスと熱電子とを衝突させてガスをイオン化するイオン化室とを有し、フィラメントを臨む主管部の一端を開閉自在に閉塞する蓋板を更に備え、第1の分岐管部内に、その先端部が主管部内に突出してイオン化室へとのびる内管が挿設されることを特徴とする。
【0009】
以上によれば、エンベロープの第1の分岐管部を利用して試験体への接続を可能とすると共に、フィラメントを臨む主管部の一端が蓋板で閉塞される構成を採用したため、フィラメント交換時には蓋板を取り外すだけでフィラメントの交換が可能になる。このため、試験体に対する質量分析計の取外しや再取付を不要にでき、フィラメント交換の作業性を向上させることができる。また、第1の分岐管部内に内管を挿設してその一端をイオン化室まで伸ばしたことで、分析しようとするガスのイオン化室内での濃度を高めることができ、より高精度の質量分析が可能になる。
【0010】
本発明において、フィラメントとしてX軸方向下流に向けて凸状に屈曲させたものを用いる場合、フィラメントの両自由端を支持する支持体を備え、この支持体が主管部内に設けた台座部に着脱自在に取り付けられる構成を採用できる。この場合、前記支持体は、台座部に取り付けられるベース板と、板厚方向に貫通するベース板の貫通孔に挿設されて一端部にフィラメントの両自由端が夫々接続される一対の支持ピンとを有し、前記主管部内にX軸方向にのびる導電管が設けられ、この導電管に各支持ピンの他端部が抜き出し自在に係合する構成を採用することができる。これによれば、フィラメント交換時、台座部に対する支持体の取外しや再取付だけで、フィラメントに触れることなくその交換が可能になる。このとき、支持体がボルト等により台座部に締結されているような場合には、支持体を台座部に再締結するだけで、フィラメントが運動付与室に対する正規位置に位置決めされる。しかも、導電管に各支持ピンを係合させるだけでフィラメントとの配線接続も簡単にできる。その結果、フィラメント交換の作業性をより一層向上させることができる。
【0011】
また、上記課題を解決するために、本発明の質量分析システムは、上記質量分析計を備え、エンベロープに前記質量分離部を臨んでZ軸方向他方にのびる第2の分岐管部が設けられ、前記第1の分岐管部のZ軸方向上方が鉛直方向上方に一致する基準姿勢で当該質量分析計を支持する架台を更に備え、架台内に第2の分岐管部に接続される真空ポンプと、試験体から切換バルブに通じる第1の分岐管部の部分の圧力及び真空ポンプの背圧側の圧力を夫々測定する真空計とを備え、真空計の圧力指示値に応じて制御ユニットが切換バルブの作動を制御することを特徴とする。この場合、前記架台が、枠体を直方体形状に組み合せた第1骨組と、前記架台の基準姿勢にてX軸方向他端で且つZ軸方向上側に位置する第1骨組の枠体に立設される、枠体を長方形状に組み合せた第2骨組とを有する構成を採用することができる。
【0012】
以上によれば、エンベロープに第2の分岐管部を設けて当該第2の分岐管部を介してターボ分子ポンプやその背圧側のロータリーポンプから構成される真空ポンプに接続することで、例えば、第2の分岐管部の直下に真空ポンプ(ターボ分子ポンプ)が位置するように設計すれば、上記従来例のように真空ポンプの吸引口に接続されるT字状の真空配管の一端に質量分析計を接続するものと比較して、質量分析計が水平方向への張り出す長さを短くできるため、質量分析システムの設置面積を小さくすることができる。しかも、架台が第1骨組のみが設置面(床面)に対面する基準姿勢と、第1骨組と第2骨組との双方が設置面(床面)に対面する転倒姿勢との間で姿勢変更でき、このとき、設置面から切換バルブまでの高さ位置を二段階で変更できる。このため、試験体への接続箇所に応じて架台の姿勢を変更して使用できるため、質量分析システムの使い勝手を向上させることができ、有利である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】(a)は、本実施形態の質量分析システムを基準姿勢で示す正面図、(b)は、その転倒姿勢で示す正面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、試験体を所定の真空処理が実施される真空チャンバVcとし、真空雰囲気の真空チャンバVcから導入されるガスの成分を分析する本発明の質量分析計及びこれを備える質量分析システムの実施形態を説明する。以下において、後述の第1の分岐管部32が鉛直方向上方に一致する質量分析システムMSの姿勢を基準姿勢とし、上、下、左、右といった方向を示す用語は、質量分析システムMSを基準姿勢で例えばクリーンルームの床面に設置した状態を示す
図1(a)を基準にする。また、床面内で互いに直交する方向をX軸方向及びY軸方向とし、X軸方向及びY軸方向に直交する鉛直方向をZ軸方向とする。
【0015】
図1(a)及び(b)を参照して、本実施形態の質量分析システムMSは、クリーンルーム等の床面Fl(設置面)に設置される架台1を備える。架台1は、枠体11aを直方体形状に組み合せた第1骨組11を有する。X軸方向右端で且つZ軸方向上側に位置する枠体11aには、枠体12aを長方形状に組み合せた第2骨組12がZ軸方向上方に突出するように連接されている。そして、
図1(a)に示す第1骨組11のみが床面Flに対面する基準姿勢と、
図1(b)に示す第1骨組11と第2骨組12との双方が床面Flに対面する転倒姿勢との間で架台1が姿勢変更できるようにしている。この場合、床面Flに対面する第1骨組11の枠体11aと第2骨組12の枠体12aには、キャスターや支持脚13a,13bが夫々設けられている。
【0016】
第1骨組11の内方空間には真空ポンプ2が設置されている。真空ポンプ2は、例えば枠体11a間に架設した支持板14上に設置されるターボ分子ポンプ21と、その背圧側のロータリーポンプ22とで構成することができる。なお、ターボ分子ポンプ21の背圧側を真空チャンバVcに設けられる真空ポンプ(図示せず)に接続して使用できる場合には、ロータリーポンプ22は省略することができ、この場合にはターボ分子ポンプ21の背圧側にフォアバルブ(図示せず)が設けられる。また、ターボ分子ポンプ21からロータリーポンプ22に通じる接続管23には、ピラニ真空計などの第1真空計Pgが取り付けられている。そして、ターボ分子ポンプ21の直上に位置させて本実施形態の質量分析計MAが設置されている。なお、
図1中、24は、例えば、真空ポンプ2の作動を制御する機器を収容する制御ボックスであり、後述の制御ユニット7に通信自在に接続されている。
【0017】
図2も参照して、質量分析計MAは、X軸方向にのびる主管部31と、質量分析システムMSの基準姿勢にて主管部31から分岐されてZ軸方向上方にのびる第1の分岐管部32と、後述の質量分離部を臨むように主管部31から分岐されてZ軸方向下方にのびる第2の分岐管部33とを有するエンベロープ3とを備える。第1の分岐管部32には、公知の構造を持つ切換バルブ34が介設され、切換バルブ34からのびる第1の分岐管部32のガス導入管部32aが真空チャンバVcの所定位置に接続され、切換バルブ34の開閉操作で真空チャンバVc内のガスを選択的に導入できる。この場合、ガス導入管部32aには電離真空計などの第2真空計Dgが取り付けられている。第1の分岐管部32内にはまた、スリーブ部材32bが螺嵌されている。スリーブ部材32bで保持させて第1の分岐管部32には樹脂製の内管35が内挿され、内管35の下端が、後述のイオン化室43に連通するように円盤状部材43aの側面に接続されている。第2の分岐管部33は、そのZ軸方向直下に位置するターボ分子ポンプ21の吸引口(図示せず)に接続されている。
【0018】
主管部31内には、X軸方向左側からその右端に向かうX軸方向下流(
図1(a)中、左側から右側)に向けてイオン源4と質量分離部5と検出部6とが順次格納され、主管部31の右端には、その内部を閉塞する公知の構造のハーメチックシール71aが取り付けられ、ハーメチックシール71aを介して制御ユニット7が連結されている。また、主管部31内のX軸方向左端の開口面には締結手段としてのボルトB1によって蓋板31aが着脱自在に取り付けられ、主管部31内を開閉自在に閉塞する。なお、特に図示して説明しないが、例えば、蓋板31aの外面には断熱材が設けられ、主管部31の外面などにも適宜断熱材が設けられている。なお、主管部31等の内面にリフレクターや熱反射性の表面構造といった断熱構造を設けておけば、小型化にも寄与できてよい。イオン源4は、X軸方向左端側に配置されて通電により熱電子を放出するフィラメント41と、フィラメント41のX軸方向下流に位置してフィラメント41から放出される熱電子に所定の運動を付与する運動付与室42と、運動付与室42のX軸方向下流側に位置して真空チャンバVcから導入されるガスと熱電子とを衝突させてガスをイオン化するイオン化室43とを有する。
【0019】
イオン化室43は、主管部31内に固定の所定板厚を持つ円盤状部材43aに形成されるザグリ孔で区画されている。円盤状部材43aのX軸方向下流側の面には、イオン化室43と質量分離部5とを連通するザグリ孔より小径の連通孔43bが開設されている。また、X軸方向上流側に位置する比較的大径孔には、リンク状のマグネットの複数個を積層してなるマグネットユニット42aの一端が嵌着され、マグネットユニット42a内の空間が、螺旋状に回転するようにフィラメント41から放出される熱電子に運動を付与する運動付与室42を構成する。また、円盤状部材43aのX軸方向上流側の面には、周方向に間隔を置いて複数本の第1支柱44が立設され、第1支柱44には台座部を構成する台座板45が取り付けられている。この場合、台座板45はマグネットユニット42aの他端を保持する役割も果たす。台座板45のX軸方向上流側の面にもまた、複数本の第2支柱46が立設されている。
【0020】
第2支柱46には、フィラメント41を支持する支持体としてのベース板41aが締結手段としてのボルトB2により着脱自在に取り付けられる。この場合、蓋板31aのX軸方向下流側の面にはザグリ孔31bが形成され、蓋板31aの取付状態では、後述の支持ピン41bの一部がザグリ孔31b内に格納され、蓋板31aを取り外すと、ベース板41aを締結するボルトB2に簡単にアクセスできるように主管部31におけるイオン源4の位置が設定されている。ベース板41aの所定位置には複数個の貫通孔(図示せず)が形成され、各貫通孔には、コ字状に屈曲された支持体としての支持ピン41bのX軸方向にのびる一端部が電気的絶縁させた状態で挿設されている。そして、X軸方向下流側にのびるに一対の支持ピン41bの一端部に、X軸方向下流に向けて凸状に屈曲させたフィラメント41の両自由端が夫々接続されている。フィラメント41としては、例えばイリジウムからなる母材金属の表面をメッキ処理により酸化イットリウムで被覆したものをその中央部にて凸状(V字状)に屈曲させたものが用いられる。なお、フィラメント41の形状はこれに限定されるものではなく、直線状または円弧状など任意の形状ものが利用できる。支持ピン41bのX軸方向にのびる他端部は、主管部31内にその略全長に亘ってのびるように設置される剛性の導電管71bに抜き出し自在に係合するように構成される。特に図示して説明しないが、導電管71bの他端は制御ユニット7からの配線が接続されたハーメチックシール71aの端子(図示せず)に配線接続されている。
【0021】
イオン化室43のX軸方向下流側に、連通孔81を開設した複数枚のフォーカス電極8を介して配置される質量分離部5は、所謂四重極型のものであり、周方向に90度間隔で配置されたX軸方向に長手の4本の円柱状の電極51を備え、主管部31内に固定の各電極51のうち相対するものが電気的に夫々接続されている。質量分離部5のX軸方向下流側に配置される検出部としてのイオンコレクタ6は、質量分離部5の各電極51を通過して到達する所定質量数のガス原子やガス分子のイオンを捕集するファラデーカップで構成される。なお、質量分離部5、検出部6やフォーカス電極8といった質量分析計MAの構成部品としては公知のものを利用できるため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0022】
制御ユニット7は筐体71を備え、筐体71内には、特に図示して説明しないが、コンピュータ、メモリやシーケンサ等を備えた制御部が組み込まれている。制御部は、電源の作動や電流計にて測定されたイオン電流値を処理して例えば図示省略のディスプレイに表示する等の各種制御を統括して行う。また、筐体71内には、フィラメント41に直流電流を通電してフィラメント41を点灯するフィラメント点灯用の電源、電気的に結合された質量分離部5の対をなす電極51間にそれぞれ直流電圧と高周波電圧とを印加するDC+RF電源、イオンコレクタ6に捕集されてアースへと流れるイオン電流値を測定する電流計といった機器が組み込まれ、ハーメチックシール71aの各端子を介して適宜配線接続されている。なお、制御ユニット7としては公知のものを利用できるため、これ以上の説明は省略する。
【0023】
上記質量分析システムMSを用いて真空チャンバVc内のガスを分析する場合、質量分析システムMSを例えば基準姿勢で床面Fl(設置面)に設置した後、ガス導入管部32aを真空チャンバVcに接続する。切換バルブ34を閉とした状態で真空チャンバVcを真空排気すると共に真空ポンプ2を作動させる。この場合、特に図示して説明しないが、接続管23や第2の分岐管部33とターボ分子ポンプ21との間には開閉弁が夫々介設され、先ずは、各開閉弁の閉弁状態でロータリーポンプ22が作動され、ピラニ真空計Pgの圧力指示値が所定値に達すると、ターボ分子ポンプ21が作動される。そして、電子真空計Dgの圧力指示値が所定値になると、ガス分析が実行できる準備状態となる。
【0024】
ガス分析を開始する場合には、制御ユニット7内の電源によりフィラメント41に直流電流を通電してフィラメント41を点灯(赤熱)させ、熱電子を放出させる。フィラメント41から放出される熱電子は、マグネットユニット42aで画成される運動付与室42内で滞在時間が長くなるように螺旋状に回転され、イオン化室43へと到達する。併せて、切換バルブ24が開けられて真空チャンバVc内のガスが第2の分岐管部33内の内管35を介してイオン化室43へと直接導入される。これにより、この導入されたガスがイオン化される。
【0025】
次に、質量分離部5の4本の電極51に制御ユニット7のDC+RF電源によって直流と交流とが重畳した所定電圧が印加される。これにより、質量分離部5の中心電場とフィラメント41に印加される電圧との差によってイオン化室43内でイオン化されたガスのイオンがフォーカス電極8の連通孔81を通って質量分離部5へと引き込まれる。このとき、フォーカス電極8がフィラメント41より低い電位に保持されることで、質量分離部5へ向かうイオンが収束される。そして、質量分離部5中をイオン群が通過するときに、これらが振動しながら通過し、交流電圧や周波数に応じて、一定のイオンのみが安定振動して通過することで、イオンコレクタ6へと到達する。そして、イオンコレクタ6を流れるイオン電流が制御ユニット7に設けた電流計にて測定され、そのときのイオン電流値が制御ユニット7の制御部に出力される。また、上記直流電圧と交流電圧の比を一定に保ちつつ交流電圧を直線的に変化させることでスペクトルがとられ、イオン電流値から真空チャンバVcから導入されるガスの成分が分析される。この場合、特定のガス成分についてイオン電流値から算出した指示値を制御ユニット7に設けられるディスプレイ(図示せず)に表示できる。
【0026】
以上によれば、フィラメント交換時には、ボルトB1を緩めて蓋板31aを取り外すと、主管部31のX軸方向左端の開口面からフィラメント41を支持するベース板41aや支持ピン41bが露出する。そして、ボルトB2を緩めた後、支持ピン41bの他端部を導電管71bから引き抜きながらベース板41aを第2支柱46から取り外すと、使用済みのフィラメント41が主管部31内から簡単に取り除かれる。他方で、新たなフィラメント41を取り付ける場合には、事前に一対の支持ピン41bの一端部にフィラメント41を夫々接続されたものを準備し、ベース板41aを第2支柱46の所定位置に押さえ付け、支持ピン41bの他端部を導電管71bに差し込んだ状態でボルトB2により締結する。このとき、フィラメント41が運動付与室42に対する正規位置に位置決めされる。これにより、真空チャンバVcに対する質量分析計MAの取外しや再取付を不要にしながら、フィラメント41に触れることなくその交換が可能になる。しかも、導電管71bに各支持ピン41bを係合させるだけでフィラメント41との配線接続も簡単にできる。その結果、フィラメント交換の作業性を向上させることができる。これに加えて、正規位置にフィラメント41を容易に再配置できるため、交換前後で質量検出の性能に変化がない。また、第1の分岐管部32内に内管35を挿設してその一端をイオン化室43まで伸ばしたことで、分析しようとするガスのイオン化室43内での濃度を高めることができ、より高精度の質量分析が可能になる。その上、内管35を介してイオン化室43に真空チャンバVcからのガスをイオン化室43に直接導入するため、当該ガスがフィラメント41からの熱影響をほぼ受けずにイオン化でき、有利である。
【0027】
また、以上のように質量分析システムMSを構成したことで、第2の分岐管部33の直下に真空ポンプ2(ターボ分子ポンプ21)が位置することで、上記従来例のように真空ポンプの吸引口に接続されるT字状の真空配管の一端に質量分析計を接続するものと比較して、質量分析計MAが水平方向への張り出す長さを短くできるため、質量分析システムMSの設置面積を小さくすることができる。しかも、架台1が第1骨組11のみが床面Flに対面する基準姿勢と、第1骨組11と第2骨組12との双方が床面Flに対面する転倒姿勢との間で姿勢変更できることで、床面Flから切換バルブ24までの高さ位置を二段階で変更できる。このため、真空チャンバVcの接続箇所の高さ位置に応じて架台1の姿勢を変更して使用できるため、質量分析システムMSの使い勝手を向上させることができ、有利である。
【0028】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の技術思想の範囲を逸脱しない限り、種々の変形が可能である。上記実施形態では、マグネットユニット42aで運動付与室42を画成するものを例に説明したが、これに限定されるものではなく、上記従来例にように筒状にグリッドを用いて運動付与室を構成することもでき、使用するフィラメント41も1本に限られず、2本以上用いることもできる。また、質量分離部5として四重極型のものを例に説明したが、これに限定されるものではなく、イオントラップ型や磁場型といった他の形式のものを利用することができる。更に、上記実施形態では、架台1として、枠体11aを直方体形状に組み合せた第1骨組11と枠体12aを長方形状に組み合せた第2骨組12とで構成したものを例に説明したが、これに限定されるものではなく、その形態は任意に設定することができる。
【符号の説明】
【0029】
MS…質量分析システム、MA…質量分析計、Vc…真空チャンバ(試験体)、1…架台、11…第1骨組、11a…枠体、12…第2骨組、12a…枠体、第1骨組基板(被蒸着物)、2…真空ポンプ、Pg,Dg…真空計、3…エンベロープ、31…主管部、31a…蓋板、32…第1の分岐管部、33…第2の分岐管部、34…切換バルブ、36…内管、4…イオン源、41…フィラメント、41a…ベース板(支持体の構成要素)、41b…支持ピン(支持体の構成要素)、42…運動付与室、43…イオン化室、45…台座板(台座部の構成要素)、46…第2支柱46(台座部の構成要素)、5…質量分離部、6…イオンコレクタ(検出部)、7…制御ユニット、71b…導電管。