(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024135792
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】故障予測装置、故障予測装置付き加工装置、及び、機械学習装置
(51)【国際特許分類】
G01M 13/04 20190101AFI20240927BHJP
H02P 29/024 20160101ALI20240927BHJP
【FI】
G01M13/04
H02P29/024
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023046661
(22)【出願日】2023-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000151494
【氏名又は名称】株式会社東京精密
(74)【代理人】
【識別番号】110003535
【氏名又は名称】スプリング弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】津留 太良
【テーマコード(参考)】
2G024
5H501
【Fターム(参考)】
2G024AC01
2G024AD03
2G024BA22
2G024CA18
2G024FA06
2G024FA11
5H501AA22
5H501DD04
5H501HB16
5H501JJ04
5H501JJ30
5H501LL23
5H501LL53
5H501MM09
(57)【要約】
【課題】 既存の軸受にも簡単に適用できる故障予測装置の提供。
【解決手段】
モータ13からの動力により回転する回転軸の軸受の故障を予測する故障予測装置10であって、モータへの印加電圧を取得する、印加電圧取得部22と、回転軸に生ずる軸電圧の測定値を取得する、軸電圧取得部23と、軸受のインピーダンスを測定するインピーダンス測定部25と、軸受の表面状態を取得する状態値取得部24と、印加電圧、軸電圧、インピーダンス、及び、表面状態を含む取得変数から作成される入力データと、入力データと軸受の電食による故障情報との関係を示す学習済みモデルとを用いて、軸受の電食による故障に関する故障情報を生成する生成部27と、を有する、故障予測装置。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータからの動力により回転する回転軸の軸受の故障を予測する故障予測装置であって、
前記モータへの印加電圧を取得する、印加電圧取得部と、
前記回転軸に生ずる軸電圧の測定値を取得する、軸電圧取得部と、
前記軸受のインピーダンスを測定するインピーダンス測定部と、
前記軸受の表面状態を取得する状態値取得部と、
前記印加電圧、前記軸電圧、前記インピーダンス、及び、前記表面状態を含む取得変数から作成される入力データと、前記入力データと前記軸受の電食による故障情報との関係を示す学習済みモデルとを用いて、前記軸受の前記電食による故障に関する故障情報を生成する生成部と、を有する、故障予測装置。
【請求項2】
前記状態値取得部は、前記軸受内の油膜厚さ、及び、前記軸受の摩耗量の算出のための状態値を取得し、
前記取得変数は、前記状態値から算出された前記油膜厚さ及び前記摩耗量を含む、請求項1に記載の故障予測装置。
【請求項3】
前記取得変数は、更に、前記軸受の使用開始時からの累積摩耗量を含む、請求項2に記載の故障予測装置。
【請求項4】
前記取得変数は、前記軸受内の潤滑油の導電性物質濃度を含み、
前記導電性物質濃度は、前記累積摩耗量と、前記軸受内における潤滑油の量とから計算される、請求項3に記載の故障予測装置。
【請求項5】
前記取得変数は、更に、前記軸受の材質の導電率を含む、請求項4に記載の故障予測装置。
【請求項6】
前記学習済みモデルは、前記入力データに対して、前記故障情報をラベル付けした訓練データセットによる機械学習により生成される、請求項5に記載の故障予測装置。
【請求項7】
請求項1に記載の故障予測装置と、
前記回転軸、及び、前記回転軸に取り付けられた工具とを含むスピンドルと、
前記工具により前記回転軸に対して生ずる加工応力を測定する応力センサと、
前記軸電圧を測定する軸電圧測定装置と、を備える、故障予測装置付き加工装置。
【請求項8】
動力を供給して回転軸を回転させるモータの印加電圧を取得する、印加電圧取得部と、
前記回転軸に生ずる軸電圧を取得する、軸電圧取得部と、
前記回転軸を支持する軸受の表面状態を取得する状態値取得部と、
前記軸受のインピーダンスを測定するインピーダンス測定部と、
前記印加電圧、前記軸電圧、前記インピーダンス、及び、前記表面状態を含む取得変数から作成される入力データと、前記軸受の電食による故障情報とを含む訓練データセットを用いて、前記入力データと前記軸受の故障の発生との関係を機械学習する、学習部と、を備える、機械学習装置。
【請求項9】
モータからの動力により回転する回転軸の軸受の故障を予測する故障予測装置であって、
前記モータへの印加電圧を取得する、印加電圧取得部と、
前記回転軸に生ずる軸電圧の測定値を取得する、軸電圧取得部と、
前記軸受内の油膜厚さ、及び、前記軸受の摩耗量の算出のための状態値を取得する、状態値取得部と、
前記印加電圧、前記軸電圧、並びに前記状態値から算出された前記油膜厚さ及び前記摩耗量を含む取得変数から作成される入力データと、前記入力データと前記軸受の電食による故障情報との関係を示すモデルとを用いて、前記軸受の前記電食による故障に関する故障情報を生成する生成部と、を有する、故障予測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、故障予測装置、故障予測装置付き加工装置、及び、機械学習装置に関する。
【背景技術】
【0002】
パルス幅変調(PWM:Pulse Width Modulation)インバータを用いて、モータ(誘導電動機)を駆動する場合、モータのシャフト(回転軸)とこれを支持する軸受の外輪と内輪との間には、軸電圧と呼ばれる電位差が生ずることが知られる。この軸電圧が、軸受内部の油膜の絶縁破壊電圧に達すると、油膜の絶縁破壊が発生することがある。油膜による絶縁状態と、絶縁破壊による導通状態とが切り替わる際に、蓄積された電荷が一度に電流として流れ、放電が生じ、軸受内部に損傷が生ずる。この現象は、電食と称されている。
【0003】
電食の進行は、モータに不具合を生じさせる。そのため、軸受における電食の発生を抑制するためのシステムが提案されている。このような装置システムとして、特許文献1には、「回転機の運転状態を示す状態値を取得する状態取得部と、三角波のキャリア波を生成する三角波生成部と、鋸波のキャリア波を生成する鋸波生成部と、速度指令を出力する速度指令部と、前記三角波のキャリア波と前記鋸波のキャリア波とを切り替える判断に用いる基準値を記憶する記憶部と、前記三角波のキャリア波又は前記鋸波のキャリア波と前記速度指令とを比較してゲートドライブ信号を生成する比較器と、前記三角波のキャリア波及び前記鋸波のキャリア波のいずれを前記比較器に入力するかを、前記状態値と前記基準値との比較結果に基づいて切り替えるキャリア切替部とを備えたパルス幅変調制御部と、前記ゲートドライブ信号によりスイッチング動作を行い、交流の駆動電力を前記回転機に供給するインバータとを有することを特徴とするパルス幅変調制御装置。」が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されるような、電食対策がなされた軸受を含めた装置システムは、既存の軸受に後付け的に適用することが難しいという問題があった。そこで、本発明は、既存の軸受にも簡単に適用できる故障予測装置の提供を課題とする。また、本発明は、故障予測装置付き加工装置、及び、機械学習装置の提供も課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、以下の構成により上記課題を解決することができることを見出した。
【0007】
[1] モータからの動力により回転する回転軸の軸受の故障を予測する故障予測装置であって、上記モータへの印加電圧を取得する、印加電圧取得部と、上記回転軸に生ずる軸電圧の測定値を取得する、軸電圧取得部と、上記軸受のインピーダンスを測定するインピーダンス測定部と、上記軸受の表面状態を取得する状態値取得部と、上記印加電圧、上記軸電圧、上記インピーダンス、及び、上記表面状態を含む取得変数から作成される入力データと、上記入力データと上記軸受の電食による故障情報との関係を示す学習済みモデルとを用いて、上記軸受の上記電食による故障に関する故障情報を生成する生成部と、を有する、故障予測装置。
[2] 上記状態値取得部は、上記軸受内の油膜厚さ、及び、上記軸受の摩耗量の算出のための状態値を取得し、上記取得変数は、上記状態値から算出された上記油膜厚さ及び上記摩耗量を含む、[1]に記載の故障予測装置。
[3] 上記取得変数は、更に、上記軸受の使用開始時からの累積摩耗量を含む、[2]に記載の故障予測装置。
[4] 上記取得変数は、上記軸受内の潤滑油の導電性物質濃度を含み、 上記導電性物質濃度は、上記累積摩耗量と、上記軸受内における潤滑油の量とから計算される、[3]に記載の故障予測装置。
[5] 上記取得変数は、更に、上記軸受の材質の導電率を含む、[4]に記載の故障予測装置。
[6] 上記学習済みモデルは、上記入力データに対して、上記故障情報をラベル付けした訓練データセットによる機械学習により生成される、[5]に記載の故障予測装置。
[7] [1]に記載の故障予測装置と、上記回転軸、及び、上記回転軸に取り付けられた工具とを含むスピンドルと、上記工具により上記回転軸に対して生ずる加工応力を測定する応力センサと、上記軸電圧を測定する軸電圧測定装置と、を備える、故障予測装置付き加工装置。
[8] 動力を供給して回転軸を回転させるモータの印加電圧を取得する、印加電圧取得部と、上記回転軸に生ずる軸電圧を取得する、軸電圧取得部と、上記回転軸を支持する軸受の表面状態を取得する状態値取得部と、上記軸受のインピーダンスを測定するインピーダンス測定部と、上記印加電圧、上記軸電圧、上記インピーダンス、及び、上記表面状態を含む取得変数から作成される入力データと、上記軸受の電食による故障情報とを含む訓練データセットを用いて、上記入力データと上記軸受の故障の発生との関係を機械学習する、学習部と、を備える、機械学習装置。
[9] モータからの動力により回転する回転軸の軸受の故障を予測する故障予測装置であって、上記モータへの印加電圧を取得する、印加電圧取得部と、上記回転軸に生ずる軸電圧の測定値を取得する、軸電圧取得部と、上記軸受内の油膜厚さ、及び、上記軸受の摩耗量の算出のための状態値を取得する、状態値取得部と、上記印加電圧、上記軸電圧、並びに上記状態値から算出された上記油膜厚さ及び上記摩耗量を含む取得変数から作成される入力データと、上記入力データと上記軸受の電食による故障情報との関係を示すモデルとを用いて、上記軸受の上記電食による故障に関する故障情報を生成する生成部と、を有する、故障予測装置。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、既存の軸受にも簡単に適用できる故障予測装置が提供される。また、本発明によれば、故障予測装置付き加工装置、及び、機械学習装置も提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】故障予測装置の実施例を含む、故障予測装置付き加工装置のハードウェア構成図である。
【
図2】応力センサを備えるスピンドルの断面模式図である。
【
図3】スピンドル(
図2)におけるA部の断面模式図である。
【
図4】スピンドル(
図2)におけるB部の断面模式図である。
【
図6】Z方向における軸方向の応力を検知する応力センサの軸方向永久磁石側を示す斜視図である。
【
図9】機械学習装置を含む、機械学習システムのハードウェア構成図である。
【
図11】機械学習装置を用いた機械学習のフローである。
【
図12】最小油膜厚さの計算のための転がり軸受のモデルである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施形態に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に制限されるものではない。
なお、本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0011】
また、以下に示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化した一例であって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状、構造、及び、配置等を下記の実施形態に特定するものではない。また、図面は模式的なものである。そのため、厚みと平面寸法との関係、比率等は現実のものとは異なる場合があり、また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なることがある。
【0012】
[故障予測装置]
本発明の故障予測装置について、図面を参照しながら説明する。
図1は、故障予測装置の実施例を含む、故障予測装置付き加工装置のハードウェア構成図である。
故障予測装置付き加工装置100は、故障予測装置10と、加工装置2と、軸電圧測定装置3と、インピーダンス測定装置4とを備える。故障予測装置10は、ハードウェアとしては情報処理装置1から構成される。情報処理装置1は、加工装置2、軸電圧測定装置3、及び、インピーダンス測定装置4とデータのやり取りが可能なように有線又は無線で接続される。
【0013】
なお、故障予測装置付き加工装置100では、情報処理装置1が、加工装置2、軸電圧測定装置3、及び、インピーダンス測定装置4のコントローラを兼ねる。しかし、本発明の故障予測装置付き加工装置は上記に限定されず、それぞれ別のコントローラを備えていてもよい。この場合、少なくとも、情報処理装置1と、当該コントローラとの間でデータのやり取りが可能なように構成される。
【0014】
加工装置2は、回転軸と、回転軸の一方端に固定された工具とを備えるスピンドル11と、応力センサ12とを備える。応力センサ12は、回転させた工具によるワークの加工時に、回転軸にかかる加工応力を検知する。また、加工装置2は、スピンドル11の回転軸に動力を与えるモータ13を備える。
【0015】
図2は、応力センサ12を備えるスピンドル11の断面模式図である。スピンドル11は、モータ13からの動力により回転する回転軸40を中心に、その回転軸40を支えるハウジング41とから構成される。
回転軸40の先端部はハウジング41から所定長さ突出し、先端に工具ホルダ42が取り付けられている。工具ホルダ42には、工具52が取り外し可能に保持される。回転軸40は、軸受43、44(ラジアル軸受)によって、適切な予圧をもって中心線に対し垂直な径方向に掛かる荷重が支持されている。
【0016】
回転軸40の軸方向に掛かる荷重は、軸受45(スラスト軸受)で支持されている。回転軸40の他端部はモータ13側であり、高速回転するモータ13と結合されている。
回転軸40には、軸電圧を測定するための軸電圧測定装置3が接続されている。なお、図中では、説明のために、軸電圧測定装置3からの配線の一方が軸受44に接続されているが、実際には、GND線はハウジング41の導通のある部分に取り付ければよい。
【0017】
図2のA部は、XY方向における径方向応力を検知する応力センサ12、B部はZ方向における軸方向の応力を検知する応力センサ12をそれぞれ構成する。
図3はA部の断面模式図、
図4はB部の断面模式図である。A部において、回転軸40の外周は、径方向永久磁石46が複数(
図3では4個)、軸方向を長手方向として円周に等間隔で配置されている。ハウジング41に取り付けられた円環リング41-1は、径方向永久磁石46の外周の周囲に半径方向に所定の隙間を隔てて、かつ径方向永久磁石46と対向して径方向電磁石47が複数(
図3では4個)設置されている。
【0018】
径方向ひずみゲージ48は、円環リング41-1の径方向電磁石47の外周に面した部分に取り付けられている。なお、円環リング41-1はハウジング41の一部として一体化しても良い。また、径方向ひずみゲージ48は、薄い電気絶縁物のベースの上に格子上の抵抗線又はフォトエッチング加工した抵抗箔が形成された径方向ひずみゲージであるが、これに代えて、圧電効果を利用したピエゾ素子による圧電センサ等を用いてもよい。
【0019】
径方向永久磁石46の磁極は、
図3では中心から半径方向に向かってSNと着磁されている。径方向電磁石47は、円環リング41-1に取り付けられ、径方向永久磁石46と対向して中心から半径方向に向かってNSとなるように通電されている。径方向ひずみゲージ48は、径方向電磁石47の取り付けられた位置で、その外周の円環リング41-1に接着して設置されている。
【0020】
径方向ひずみゲージ48は、磁力により円環リング41-1に生ずる応力を検知する。
径方向永久磁石46と径方向電磁石47とは、同じ極性同士により斥力を生ずるため、円環リング41-1に反発力が加わる。これを径方向ひずみゲージ48が検知する。なお、円環リング41-1をハウジング41と一体化した場合は、ハウジング41の一部に加わる応力を検知する。
上記のとおり、径方向永久磁石46、径方向電磁石47、及び、径方向ひずみゲージ48により、XY方向における径方向応力を検知する応力センサ12が構成される。
【0021】
径方向永久磁石46と径方向電磁石47との磁極は反対とすれば(同極同士を対向させれば)よい。また、径方向電磁石47は永久磁石と異なり、磁力を調整可能なので、磁力が強すぎて回転軸40の回転を阻害しないように調整することができる。
【0022】
図4は、Z方向の応力を検知する軸方向永久磁石51-2と軸方向電磁石49-2との配置を示している。B部において、Z方向用の円環状の軸方向永久磁石51-2が、回転軸40に垂直方向を向けて配置されている。軸方向電磁石49-2はそれぞれ、軸方向永久磁石51-2と面対向して複数(
図4では4個)設置されている。軸方向の応力を検知する軸方向ひずみゲージ50-2は、軸方向電磁石49-2のそれぞれハウジング41に取り付けられた円環リング41-2のつば状部の外周に軸方向電磁石49-2と対向して接着して設置されている。
上記のとおり、軸方向電磁石49-2、軸方向ひずみゲージ50-2、及び、軸方向永久磁石51-2により、Z方向における軸方向の応力を検知する応力センサ12が構成される。
なお、上記は、軸方向永久磁石51-1と軸方向電磁石49-1との関係においても同様である。
【0023】
なお、軸方向電磁石49-2の取り付けられる部分は、円環リング41-2と一体化されている。つまり、円環リング41-2をハウジング41の一部とした場合は、ハウジング41につば状部を設ければ良い。
【0024】
図5は、径方向永久磁石46、径方向電磁石47、及び、径方向ひずみゲージ48により構成されるY方向における径方向応力を検知する応力センサ12による応力検知の説明図である。
図5(A)は工具ホルダ42に取り付けられた工具52に矢印のような力が加わったことを示し、
図5(B)は、そのとき、回転軸40が変位した様子を示している。なお、
図5(B)では、回転軸40が目視で認識できるほどに大きく変位したように記載されているが、これは説明のためで、実際の変位は目視で確認できない程度であってよい。
【0025】
回転軸40は、応力が掛かると変位し、それに取り付けられた径方向永久磁石46も
図5(B)に示す如く変位する。そして、変位がない状態でバランスしていた径方向永久磁石46と47との斥力は、変化して円環リング41-1に応力が発生し、径方向ひずみゲージ48によって検知される(これらにより応力センサ12が構成される)。
【0026】
径方向ひずみゲージ48による検知は、ブリッジ回路の二辺にひずみゲージが、他の二辺に固定抵抗が接続される2ゲージ法で行われる。これにより軸方向応力に対応した出力電圧が得られる。回転軸40に掛かる応力の計測は、予め出力電圧と応力の関係を校正しておけばよい。
【0027】
図6は、Z方向における軸方向の応力を検知する応力センサ12の軸方向永久磁石51-1側を示す斜視図である。軸方向電磁石49-1は軸方向永久磁石51-1と面対向して複数(
図6では4個)で円周方向に等分割して設置されている。軸方向ひずみゲージ50-1は、円環リング41-2の外周に、軸方向であるZ方向に抵抗値が変化するように接着されている。軸方向永久磁石51-2側は同様である。軸方向電磁石49-1の磁束Bの向きが矢印のようにZ方向の場合は、軸方向電磁石49-1と軸方向永久磁石51-1との間で斥力が生じる。
【0028】
回転軸40は、Z方向に応力が掛かると変位し、斥力が変化して円環リング41-2の応力が軸方向ひずみゲージ50-1によって検知される。軸方向ひずみゲージ50-1による検知は、ブリッジ回路の一辺にひずみゲージが、他の三辺に固定抵抗が接続される1ゲージ3線法でZ方向の応力に対応した出力電圧により行える。上記スピンドル11及び応力センサ12によれば、応力センサ12が回転軸40の円周方向に配置されているので、応力の方向(力の方向)も3次元で検出できる。
上記のとおり、軸方向電磁石49-1、軸方向ひずみゲージ50-1、及び、軸方向永久磁石51-1により、Z方向における軸方向の応力を検知する応力センサ12が構成される。
【0029】
上記スピンドル11によれば、ワークの加工中に、後述する軸受44(43又は45)の摩耗量の計算に必要な状態値(接触荷重P等)を測定できる。
例えば、電食(放電条件)に影響する因子としては、後述する軸電圧、軸受44(43又は45)のインピーダンス、及び軸受44(43又は45)の表面状態等が挙げられる。軸受44(43又は45)の表面状態は、軸受44(43又は45)の表面の形状、及び/又は粗さに相当する。後述する摩耗量は、この軸受44(43又は45)の表面状態に影響し得る。言い換えると、摩耗量は、表面状態の因子とみなすこともできる。なお、電力(放電条件)に影響する因子としてこれらの因子以外の因子を含んでいてもよい。
【0030】
図1に戻り、軸電圧測定装置3は、主として、回転させた工具52によるワークの研削加工時に回転軸40に生ずる軸電圧を測定する装置である。軸電圧測定装置は、公知のものを使用できる。軸電圧測定装置としては、例えば、回転軸40に対して、電圧計と接続された導電性のブラシを接触させるものが知られている。このような装置としては、例えば、実開平4-124482号公報、及び、特表2022-535341号公報の0040段落、
図10の装置等が採用できる。
【0031】
インピーダンス測定装置4は、回転軸40、軸受43、44、45(その内外輪)、軸受内の転動体、及び、潤滑油を含む全体を電気回路とみなしたときの、当該回路のインピーダンスを測定する装置である。本明細書では、これを、「軸受のインピーダンス」という。
【0032】
潤滑油は、例えば、電気を通し難い性質を有する。この場合、新しい潤滑油が古い潤滑油よりもインピーダンスが高くなり得る。このように潤滑油でのインピーダンスが高ければ、電圧も高電圧になり、軸受で放電が生じ得る。そのため、潤滑油が新しい時ほど、絶縁破壊殿あるが高い傾向にある。高い放電電圧はエネルギーも大きく、放電加工のように軸受の転動面や軌道面を損傷させる。潤滑油に溶融した金属成分や炭化した成分が混じる等して、潤滑油のインピーダンスが低下してくると、放電が生じる電圧も下がってくる。放電が生じる電圧が下がってくると、放電の回数も増えてくる。
【0033】
軸受内の転動体は、潤滑油を介して、軸受43、44、45の内外輪と接触する。従って、外輪~転動体~内輪の直列回路を構成する。更に、転動体が軸受43、44、45内に複数配置される場合、これらは並列回路を構成する。これらにより構成される回路の全体に、電源から交流電圧が印加されることとなる。
【0034】
インピーダンス測定装置4は、この電気回路のインピーダンスを測定する。具体的には、回転軸40と、軸受43、44、45の外輪(又は、ハウジング41の導通部分)とにそれぞれ接続されたLCRメータが使用できる。なお、回転軸40との接続は、軸電圧測定装置3同様、カーボンブラシを取り付けたり、回転軸40にスリップリングを取り付けたりして構成できる。
インピーダンス測定は、LCRメータに所定の周波数の交流電圧を入力することで、これに対応して、回路のインピーダンスを測定できる。
【0035】
回路のインピーダンスは、潤滑油(油膜)の状態、例えば、油膜、油膜の破断率(金属接触割合)、及び、油膜中における導電性物質濃度(後述する軸受の摩耗量に対応)等に関連して変化する。後述するように、インピーダンスを含む取得変数により生成される入力データには、油膜の状態がより反映されやすく、結果としてより正確な故障情報が生成できる。
【0036】
再度、
図1に戻り、情報処理装置1は、プロセッサ5と、メモリ6と、入出力インターフェース7(入出力I/F)と、通信インターフェース8(通信I/F)を有する。情報処理装置1は、典型的にはコンピュータである。
【0037】
プロセッサ5は、例えば、マイクロプロセッサ、プロセッサコア、マルチプロセッサ、ASIC(application-specific integrated circuit)、FPGA(field programmable gate array)、及び、GPGPU(General-purpose computing on graphics processing units)等である。
【0038】
メモリ6は、各種プログラム、及び、データを一時的に、及び/又は、非一時的に記憶する機能を有し、プロセッサの作業エリアを提供する。
メモリ6は、例えば、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、HDD(Hard Disk Drive)、フラッシュメモリ、及び、SSD(Solid State Drive)等である。
【0039】
入出力インターフェース7には、出力デバイス9、及び、図示しない入力デバイス等が接続される。また、加工装置2、軸電圧測定装置3、及び、インピーダンス測定装置4もまた、入出力インターフェース7を介して接続されてもよい。
入出力インターフェース7を介して情報処理装置1と接続される(図示しない)入力デバイスは、情報処理装置1への各種情報入力、及び、指示の入力のためのデバイスである。入力デバイスは、キーボード、マウス、スキャナ、及び、タッチパネル等でよい。
【0040】
また、入出力インターフェース7を介して情報処理装置1と接続される出力デバイス9は、各部ステータス、及び、各種結果等を出力するためのデバイスである。出力デバイス9は、液晶ディスプレイ、及び、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイ等でよい。
また、出力デバイス9は、入力デバイスと一体として構成されていてもよい。この場合、出力デバイス9がタッチパネルディスプレイであって、GUI(Graphical User Interface)を提供する形態が挙げられる。
【0041】
情報処理装置1は、通信インターフェース8を介してインターネット、ワイド・エリア・ネットワーク、及び、ローカル・エリア・ネットワーク等のコンピュータネットワークと接続される。加工装置2、軸電圧測定装置3、及び、インピーダンス測定装置4は、通信インターフェース8を介して、言い換えれば、コンピュータネットワークを介して、情報処理装置1と接続されていてもよい。
また、情報処理装置1は、入力デバイス、及び/又は、出力デバイス9の有無にかかわらず、通信インターフェース8を介して、各種情報の入力データを受け付け、及び/又は、出力データを送信してもよい。
【0042】
次に、各部の機能等について説明する。
図7は、故障予測装置10の機能ブロック図である。故障予測装置10は、制御部20と、記憶部21とから構成される。制御部20は、印加電圧取得部22、軸電圧取得部23、状態値取得部24、インピーダンス測定部25、算出部26、及び、生成部27を備える。また、故障予測装置10は、モータ13、軸電圧測定装置3、応力センサ12、インピーダンス測定装置4、及び、出力デバイス9と接続され、互いにデータの送受信が可能なように構成される。
【0043】
制御部20は、メモリ6に記憶されたプログラムをプロセッサ5が実行することで実現される機能である。制御部20は、故障予測装置10の各部を制御し、その機能を実現させる。
【0044】
印加電圧取得部22は、メモリ6に記憶されたプログラムをプロセッサ5が実行することで実現される機能である。印加電圧取得部22は、加工装置2のモータ13に印加される電圧を取得する。取得される情報は、典型的には電圧の時間変化(経時変化)であることが好ましい。上記に加えて、又は、上記に代えて、電圧の最大値/最小値、平均値、中央値、微分値、二階微分値、及び、積分値等であってもよい。また、時間-電圧波形を画像データとしたものであってもよい。
印加電圧取得部22は、加工装置2のモータ13が駆動している間にわたって、又は、少なくともその一部の時間に、連続的又は間欠的にデータを取得し、その測定値は、後述する取得変数の1つとして記憶部21に記憶される。
【0045】
軸電圧取得部23は、メモリ6に記憶されたプログラムをプロセッサ5が実行することで実現される機能である。軸電圧取得部23は、軸電圧測定装置3を制御して回転軸40の軸電圧の測定値を取得する。取得される情報は、印加電圧取得部22によって取得される情報と同様の形態であってもよいし、異なってもよい。具体的には、電圧の最大値、発生頻度、及び、波形(画像であってもよい)等が挙げられる。取得されたデータは、取得変数の1つとして記憶部21に記憶される。
【0046】
状態値取得部24は、メモリ6に記憶されたプログラムをプロセッサ5が実行することで実現される機能である。状態値取得部24は、応力センサ12を制御したり、外部acpt1からの入力を受け付けたりして、軸受44(43又は45)の表面状態を算出するための状態値、例えば、摩耗量の算出のための状態値を取得する。また、状態値取得部24は、軸受44(43又は45)のインピーダンスに影響を与える因子の一つである、(最小)油膜厚さの計算のための状態値もまた取得する。本明細書における「状態値」には、摩耗量、及び、油膜厚さの計算のための値が含まれ得る。
【0047】
最小油膜厚さは、公知の工学式から容易に計算され得る。公知の計算式としては、例えば、Dowson-Higginsonの式、及び、Hamrock-Dowsonの式、又は、EHL(Elasto-Hydrodynamic Lubrication)理論に基づき、Dowson-Higginsonの式から導出される各種経験式等が挙げられる。EHL理論は、転がり軸受の油膜厚さを解析的に計算するための理論的手法であり、最小油膜厚さを定量的に評価することができる手法として、広く用いられている。
【0048】
例えば、
図12は、最小油膜厚さの計算のための転がり軸受のモデルである。転がり軸受60は、簡単には、転動体61、内輪62、外輪63、及び、潤滑油からなると考えることができる。この内輪62と転動体61、転動体61と外輪63のそれぞれについて、その接触面において、それぞれ最小油膜厚さh
0
12、h
0
13が存在し、これらを計算で求めることができる。
なお、最小油膜厚さとは、転がり軸受内で発生する油膜の最小厚さを意味し、一般に、軸受内での局所的な負荷が最も大きな箇所で発生すると考えられている。
【0049】
転がり軸受では、内輪62と転動体61、転動体61と外輪63の接触面は軸方向に小さいため、油膜厚さは軸方向に一様であると仮定できる。この仮定を用いて、転がり軸受60の内部形状を等価なモデル70、80に変換し、その円71、81と、接触面72、82との間の油膜厚さに単純化して計算できる。
このとき、等価半径R
12、R
13は、それぞれ、
図12中の式(2)、(4)により表される。また、平均周速度はu
12、u
13はそれぞれ、
図12中の式(1)、(3)により表される。
【0050】
このような仮定のもと、EHL理論に基づいてDowson-Higginsonの式から導出される経験式として、最小油膜厚さを求める以下の式が知られている。これを適用して、下記式のhminとして、最小油膜厚さh
0
12、h
0
13をそれぞれ求めることができる。
【数1】
【0051】
ここで、Gは材料パラメータ(表面粗さパラメータ)、Uは速度パラメータ、Wは荷重パラメータであり、Rは等価曲率半径である。各パラメータは、以下の式で表される。
【数2】
【0052】
ここで、aは粘度-圧力係数、E′は等価ヤング率、η
0は粘度を表す。
また、
【数3】
は、平均周速、wは単位幅あたりの荷重を表す。なお、等価ヤング率E′は、以下の式で表される。なお、Eは縦弾性係数、νはポアソン比である。油膜厚さの計算に必要な数値は、外部acpt1から取得されるか、又は、測定される。
【数4】
【0053】
摩耗量は、公知の工学式から容易に計算できる。公知の工学式としては、例えば、Holmの摩耗式が挙げられる。Holmの理論では、摩耗量V(摩耗体積)は、以下の式により定義される。
【数5】
ここで、zは摩擦係数、Pは接触荷重、l(エル)はすべり距離(滑り速度×時間)、Pmは摩擦する2つの面のうち、軟らかい方の押し込み硬さを表す。摩耗量Vの計算に必要な数値としては、外部acpt1からの入力値、及び、応力センサ12の測定値(接触荷重P)が利用される。
【0054】
インピーダンス測定部25は、メモリ6に記憶されたプログラムをプロセッサ5が実行することで実現される機能である。インピーダンス測定部25は、インピーダンス測定装置4を制御して軸受44(43又は45)のインピーダンスの測定値を取得する。インピーダンスは、加工中に取得されてもよいし、測定がより容易である観点で、一形態として、加工開始前に取得されてもよい。
【0055】
算出部26は、メモリ6に記憶されたプログラムをプロセッサ5が実行することで実現される機能である。算出部26は、状態値取得部24により取得された状態値、インピーダンス測定部25により取得されたインピーダンスをもとに、(最小)油膜厚さ、及び、摩耗量を算出する。算出の方法は、すでに説明したとおりである。
生成部27は、メモリ6に記憶されたプログラムをプロセッサ5が実行することで実現される機能である。
生成部27は、学習済みモデルへの入力データを取得変数から生成し、入力データをもとに、軸受の電食による故障に関する故障情報を生成する。
【0056】
取得変数には、
・状態値取得部24により取得された状態値により、算出部26により算出された軸受内部の油膜厚さ、軸受の摩耗量(表面状態)
・インピーダンス測定部25により測定された軸受のインピーダンス
・印加電圧取得部22により取得されたモータ13の印加電圧
・軸電圧取得部23により取得された軸電圧測定装置3の測定値である軸電圧
が含まれる。
【0057】
更に、取得変数は、潤滑油の導電性物質濃度、累積摩耗量、及び、軸受の材質の導電率等を含んでもよい。
累積摩耗量は、軸受の使用開始からの摩耗量を累積して得られる値である。モータ13が駆動している間の摩耗量は上述のとおり、算出部26により計算される。累積摩耗量は、これを使用開始から累積したものである。累積摩耗量は、モータ13の駆動開始前のものが、外部acpt2から入力され、モータ13の駆動中には更新される。累積摩耗量は軸受43、44、45の耐用期間と関係し、これを含む取得変数から生成される入力データによれば、より正確な故障情報が出力できる。
【0058】
潤滑油の導電性物質濃度は、軸受の摩耗により生じた屑がすべて潤滑油中に存在しているとした場合に、軸受け内の潤滑油の単位量当たりの(累積)摩耗量として計算される。導電性物質濃度は、軸電流の流れやすさ(油膜の導電率)に影響し、これを含む取得変数から生成される入力データによれば、より正確な故障情報が出力できる。なお、導電性物質濃度に加えて、取得変数は、軸受の材質に関する情報(特に導電率)を含むことが好ましい。これにより、より正確な故障情報が出力できる。なお、これらのデータは、外部acpt2から入力される。
【0059】
生成部27は、取得変数から入力データを生成する。取得変数から作成される入力データは、取得変数そのものであってもよい。この場合、取得変数に対して特段の処理を行う必要はない。
一方、生成部27は、取得変数を処理して入力データを生成してもよい。処理としては、取得変数に対して行う、低次元化処理(次元削減処理)が挙げられる。
低次元化処理は、元のベクトルの情報をできるだけ損なわないようにしつつ、元のベクトルよりも低次元のベクトルに変化する方法である。低次元化(次元削減)は公知の方法により実施できる。例えば、PCA(主成分分析)、t-SNE(t-distributed Stochastic Neighbor Embedding)、UMAP(Uniform Manifold Approximation and Projection)等の方法が適用できる。取得変数を低次元化して入力データとすることにより、処理速度がより向上する。
【0060】
生成部27は、更に、入力データと軸受の電食による故障情報との関係を示す学習済みモデルを用いて、軸受の電食による故障に関する故障情報を生成する。生成された故障情報は、出力デバイス9に送られ、出力される。
【0061】
上記モデルは、入力データをもとに、軸受の故障情報を推定して出力する学習済みモデルである。この学習済みモデルは、入力データに対して、故障情報をラベル付けした訓練データセット(学習用データセット)による機械学習により生成される。
【0062】
生成部27により生成される故障情報は、軸受の電食による故障に関する情報であれば、内容は特に限定されないが、発生済みの故障の情報、及び/又は、故障発生予測の情報等が挙げられる。一形態として、故障発生を予測する故障発生確率が挙げられる。
【0063】
生成部27は、学習に使用された訓練データセットに含まれるレコードに、与えられた入力データに合致する状態があり、軸受の電食による故障が発生した実績がある場合、故障の発生、及び/又は、故障の発生予測の情報を生成する。一方で、そのような状態の実績がない場合(通常、同一の取得変数が再び得られることはないが)、学習済みモデルによって、軸受の電食による故障発生確率を算出する。
【0064】
学習済みモデルの機械学習に用いられる訓練データセットには、複数のレコード(エントリー)が含まれる。それぞれのレコードには、少なくとも、印加電圧、軸電圧、インピーダンス、油膜厚さ、及び、摩耗量等を含む取得変数から作成される入力データに対して、軸受の電食による故障情報(典型的には、故障の発生の有無)をラベル付けしたデータが含まれる。
【0065】
学習済みモデルは、一形態として印加電圧、軸電圧、インピーダンス、油膜厚さ、及び、摩耗量等を含む取得変数から作成される入力データを説明変数(x)とし、入力データと軸受の電食による故障情報を目的変数(y)とし、これを予測する回帰モデルy=f(x)として生成されることが好ましい。
回帰モデルとしては、例えば線形回帰、リッジ回帰、サポートベクタマシン、ニューラルネットワーク、ランダムフォレスト、及び、これらを組み合わせたものが使用できる。
【0066】
次に、
図8に示された故障予測装置10の動作フローについて説明する。
まず、ステップS11として、モータ13が駆動してスピンドル11の回転軸40が回転し、回転軸40の端部に取り付けられた工具52によるワークの加工が開始される(ステップS11)。
モータ13への電力(交流、パルス幅変調を行ったものでよい)供給に伴い、印加電圧取得部22により、モータ13への印加電圧の取得が開始される(ステップS12)。
併せて、軸電圧取得部23により、軸電圧測定装置3の測定値である軸電圧の取得が開始される。また、インピーダンス測定部25により、軸受けのインピーダンスの測定が開始される。(ステップS13)。なお、インピーダンスの測定は、ワークの加工開始(ステップS11)より前に、別途行われてもよい。
【0067】
更に、状態値取得部24により、応力センサ12の測定値、及び、外部acpt1からの入力値として、他の状態値が取得される(ステップS14)。上記の各ステップ(ステップS11~ステップS14)は同時に実施されることが好ましい。
次に、算出部26により、状態値をもとに油膜厚さ、及び、摩耗量が算出される(ステップS15)。
【0068】
次に、ステップS16として、生成部27によって、他の取得変数が取得される。他の取得変数は、例えば、導電性物質濃度、累積摩耗量、及び、軸受の材質の導電率等が挙げられる。他の取得変数を使用しない場合、ステップS16は省略可能である。
【0069】
次に、ステップS17として、生成部27は、印加電圧、軸電圧、インピーダンス、油膜厚さ、及び、摩耗量等とを含む取得変数に対して必要に応じて次元削減処理を行って入力データを生成する。さらに、これを学習済みモデルに入力して、故障発生確率を算出する(ステップS18)。
故障発生確率は、典型的には、故障が発生した際の入力データとの類似度として定義され得る。ステップS19では、この故障発生確率を、予め定められた閾値と比較し、これを超える場合(ステップS19:YES)、故障情報を生成する(ステップS20)。生成される故障情報は、故障発生確率そのものを含んでもよいし、故障発生のおそれに関するアラーム等であってもよい。
【0070】
一方、故障発生確率が閾値に満たない場合、再度、ステップS12以降の手順(ステップS14~S19)が、ワークの加工が終了するまで繰り返される。この繰り返しを行う間隔が短いほど(一定時間内に多くの繰り返しを行うと)、より緻密な予測が可能であり、繰り返しの間隔が長いほど、データの処理量が少なく、処理時間がより十分にとれる。
【0071】
本発明の故障予測装置は、既存の軸受を含む装置に簡単に適用できる。一般に電食の発生は、モータの不具合が生じて初めて認識されることが多い。このような場合、その修復には時間も手間もかかる上、その間、装置を停止しなければならなかった。一方、本発明の故障予測装置は、モータの稼働中、軸受の状態を常に監視し、故障発生のおそれのある場合は、故障情報(例えば、アラーム)を生成する。そのため、故障の検出が速く、必要な修復も最小限となる。
【0072】
[機械学習装置]
次に、学習済みモデルの機械学習を実施するための機械学習装置について説明する。
図9は、機械学習装置30を含む、機械学習システム200のハードウェア構成図である。機械学習装置30は、プロセッサ5と、メモリ6と、入出力インターフェース7と、通信インターフェース8とを有する情報処理装置1から構成され、ハードウェアについては、故障予測装置10と同様である。
【0073】
機械学習システム200は、機械学習装置30と、コンピュータネットワークNTを介して接続された測定装置付き加工装置31を備える。測定装置付き加工装置31は、コントローラ32と、加工装置2と、軸電圧測定装置3と、インピーダンス測定装置4とを備える。加工装置2は、モータ13、スピンドル11、及び、応力センサ12を備える。測定装置付き加工装置31において、コントローラ32以外のハードウェアは、故障予測装置付き加工装置100の各部と同様であり、説明を省略する。
【0074】
測定装置付き加工装置31は、コントローラ32を備え、加工装置2、軸電圧測定装置3、及び、インピーダンス測定装置4は、いずれもコントローラ32により制御される。機械学習システム200が有する測定装置付き加工装置31は、コントローラ32に制御され、コンピュータネットワークNTを介して、機械学習装置30に接続される。
なお、
図9では、コントローラ32と機械学習装置30とは、コンピュータネットワークNTを介して接続されているが、上記に限定されず、直接接続されてもよい。
【0075】
測定装置付き加工装置31は、コントローラ32を有していなくてもよい。この場合、機械学習装置30がコントローラ32の機能を兼ねてもよい。また、加工装置2、軸電圧測定装置3、及び、インピーダンス測定装置4はそれぞれ別のコントローラにより制御されてもよい。この場合、それぞれのコントローラと、機械学習装置30との間でデータを送受信可能に構成される。
【0076】
機械学習システム200のハードウェアの詳細は、すでに説明した故障予測装置付き加工装置100の各ハードウェアと同様であるので、詳細な説明は省略する。
次に、機械学習装置30の各部の機能について説明する。
図10は、機械学習装置30の機能ブロック図である。
機械学習装置30は、制御部20と、印加電圧取得部22と、軸電圧取得部23と、状態値取得部24と、インピーダンス測定部25と、算出部26と、学習部35と、記憶部21と、を有する。
【0077】
なお、図中には、モータ13、軸電圧測定装置3、インピーダンス測定装置4、及び、応力センサ12が記載されているが、これらは機械学習装置30そのものを構成しない。これらは、コンピュータネットワークNTに接続される、測定装置付き加工装置31側の機能である。すなわち、機械学習装置30は、既存の加工装置等に接続して、データの取得が可能な様に構成されている。
【0078】
制御部20は、メモリ6に記憶されたプログラムをプロセッサ5が実行することで実現される機能である。制御部20は、機械学習装置30の各部を制御し、その機能を実現させる。
【0079】
印加電圧取得部22は、メモリ6に記憶されたプログラムをプロセッサ5が実行することで実現される機能である。印加電圧取得部22は、測定装置付き加工装置31のモータ13に印加される電圧を、コンピュータネットワークNTを介して取得する。
印加電圧取得部22により取得されるデータは、モータ13の電圧の時間変化(経時変化)等であり、上述のとおりである。取得されたデータは、記憶部21に格納され、取得変数の1つとして、入力データの生成に使用される。
【0080】
軸電圧取得部23は、メモリ6に記憶されたプログラムをプロセッサ5が実行することで実現される機能である。軸電圧取得部23は、回転軸40の軸電圧の測定値を取得する。軸電圧取得部23は、測定装置付き加工装置31の軸電圧測定装置3の測定値をコンピュータネットワークNTを介して取得する。
取得された軸電圧は、記憶部21に格納され、取得変数の1つとして、入力データの生成に使用される。
【0081】
状態値取得部24は、メモリ6に記憶されたプログラムをプロセッサ5が実行することで実現される機能である。状態値取得部24は、測定装置付き加工装置31の応力センサ12の測定値、及び、外部acpt1からの他の状態値を取得し、記憶部21に格納する。
【0082】
インピーダンス測定部25は、メモリ6に記憶されたプログラムをプロセッサ5が実行することで実現される機能である。インピーダンス測定部25は、測定装置付き加工装置31のインピーダンス測定装置4の測定値を取得し、記憶部21に格納する。
【0083】
算出部26は、メモリ6に記憶されたプログラムをプロセッサ5が実行することで実現される機能である。算出部26は、記憶部21に記憶された状態値をもとに、(最小)油膜厚さ、及び、摩耗量を算出する。算出の方法は、すでに説明したとおりである。算出された油膜厚さ、及び、摩耗量は、記憶部21に格納され、取得変数の1つとして、入力データの生成に使用される。
【0084】
学習部35は、記憶部21に格納された取得変数から、入力データを生成する。取得変数は、印加電圧、軸電圧、インピーダンス、油膜厚さ、及び、摩耗量以外に、外部acpt2から取得される他の取得変数(導電性物質濃度、累積摩耗量、軸受の材質の導電率、他の表面状態等)を含んでもよい。
学習部35は、上記のようにして生成した入力データと、外部acpt3から取得される、当該入力データに対応した故障情報(ラベル)とを含む訓練データセット36を用いて、機械学習を行う。
【0085】
次に、
図11の機械学習装置30を用いた機械学習のフローについて説明する。ステップS11~ステップS17は、
図7の故障予測装置の動作フローと同様であるため、説明を省略する。
【0086】
次に、ステップS30として、学習部35により、故障情報が取得される。故障情報は、例えば、外部acpt3から、電食による故障の発生情報として提供される。または、軸電圧取得部23により取得された軸電圧の変化等から、予め定めた信号を検知した際に故障の発生と判断し、これを故障情報(故障の発生)としてもよい。故障情報は、入力データのラベルとして使用される。
【0087】
次に、ステップS31として、学習部35により訓練データセットが生成される。訓練データセット36は、入力データとそれに対応する故障情報との組み合わせを複数含む。すなわち、故障情報のラベルの付いた入力データによって訓練データセット36が構成される。
作成された訓練データセット36は、学習部35の機械学習に使用される(ステップS32)。
【0088】
機械学習装置30は、既存の加工装置等に接続すると、運転時に得られるデータから、訓練データセットを生成し、機械学習によって学習済みモデルを生成する。得られた学習済みモデルは、故障予測装置に使用することができる。
【符号の説明】
【0089】
1 情報処理装置、2 加工装置、3 軸電圧測定装置、4 インピーダンス測定装置、5 プロセッサ、6 メモリ、7 入出力インターフェース、8 通信インターフェース、9 出力デバイス、10 故障予測装置、11 スピンドル、12 応力センサ、13 モータ、20 制御部、21 記憶部、22 印加電圧取得部、23 軸電圧取得部、24 状態値取得部、25 インピーダンス測定部、26 算出部、27 生成部、30 機械学習装置、31 加工装置、32 コントローラ、35 学習部、36 訓練データセット、40 回転軸、41 ハウジング、41-1 円環リング、41-2 円環リング、42 工具ホルダ、43 軸受、44 軸受、45 軸受、46 径方向永久磁石、47 径方向電磁石、48 ひずみゲージ、49-1 軸方向電磁石、49-2 軸方向電磁石、50-1 ひずみゲージ、50-2 ひずみゲージ、51-1 軸方向永久磁石、51-2 軸方向永久磁石、52 工具、100 加工装置、200 機械学習システム