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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024135834
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】光制御デバイスおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/295 20060101AFI20240927BHJP
   G02B 6/12 20060101ALI20240927BHJP
   G02B 6/125 20060101ALI20240927BHJP
   G02B 6/13 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
G02F1/295
G02B6/12 363
G02B6/125 301
G02B6/12 371
G02B6/13
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023046717
(22)【出願日】2023-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000004352
【氏名又は名称】日本放送協会
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】難波 正和
(72)【発明者】
【氏名】柴崎 純一
(72)【発明者】
【氏名】宮本 裕司
(72)【発明者】
【氏名】三浦 雅人
(72)【発明者】
【氏名】平野 芳邦
【テーマコード(参考)】
2H147
2K102
【Fターム(参考)】
2H147AB11
2H147AB31
2H147AB36
2H147AC01
2H147BC01
2H147BC03
2H147BC05
2H147BE22
2H147BG04
2H147CD02
2H147CD04
2H147CD11
2H147DA08
2H147DA10
2H147EA02A
2H147EA13C
2H147EA14B
2H147EA19A
2H147EA43A
2H147FA03
2H147FA06
2H147FA09
2H147FC02
2H147FC03
2H147FC08
2H147FD15
2H147FF08
2H147GA10
2K102AA21
2K102BA07
2K102BB04
2K102BB08
2K102BC04
2K102CA20
2K102CA28
2K102DC08
2K102DD01
2K102EA02
2K102EA07
2K102EA12
2K102EA16
2K102EA21
2K102EB01
2K102EB20
(57)【要約】
【課題】導波路を半導体集積回路上に備え配線を容易にした小型な光制御デバイスを提供する。
【解決手段】光制御デバイス1は、複数の駆動回路31にそれぞれ導通した複数の下部電極33を有し半導体集積回路からなる位相制御部駆動回路部30と、位相制御部駆動回路部30の上に搭載された光フェーズドアレイ2とを備え、光フェーズドアレイ2は、複数のSi34導波路8aと、複数のEOポリマー導波路9と、Si34導波路8aの延長線上に設けられたSi34導波路8bと、複数の下部電極33に共通に形成された上部電極35とを有し、EOポリマー導波路9とSi34導波路8a,8bとは高さが異なり、EOポリマー導波路9とSi348a,8bとが平面視において重なる領域を有し、複数の下部電極33は、Si34導波路8aとSi34導波路8bとの間の領域に高さを異ならせてEOポリマー導波路9に沿ってそれぞれ形成されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光フェーズドアレイを駆動する複数の駆動回路が埋め込まれ前記複数の駆動回路にそれぞれ導通した複数の第1電極を有し半導体集積回路からなる位相制御部駆動回路部と、
前記位相制御部駆動回路部の上に搭載された光フェーズドアレイと、を備え、
前記光フェーズドアレイは、
複数の入力側無機導波路を有し入射光を複数チャンネルに分離する光分離部と、
複数チャンネルに分離された光を導波する複数のEOポリマー導波路を有する位相制御部と、
複数の入力側無機導波路の延長線上に複数の出力側無機導波路をそれぞれ有し位相制御された光を導波するマルチ光導波路部と、
前記複数の第1電極のそれぞれに高さを異ならせて平面視において重なるように前記位相制御部の上に形成された共通の第2電極と、を有し、
前記EOポリマー導波路の高さと、前記入力側無機導波路および出力側無機導波路の高さと、は異ならせて、前記EOポリマー導波路と、前記入力側無機導波路および出力側無機導波路と、が平面視において重なる領域を有し、
前記位相制御部駆動回路部において前記複数の第1電極は、前記入力側無機導波路と前記出力側無機導波路との間の領域に、高さを異ならせて前記EOポリマー導波路に沿ってそれぞれ形成されていることを特徴とする光制御デバイス。
【請求項2】
前記入力側無機導波路および出力側無機導波路のコアは、Si34で形成されていることを特徴とする請求項1に記載の光制御デバイス。
【請求項3】
半導体集積回路からなる位相制御部駆動回路部と、光フェーズドアレイと、が一体に形成された光制御デバイスの製造方法であって、
複数の駆動回路が埋め込まれ、前記複数の駆動回路にそれぞれ導通した複数の第1電極を有する駆動回路基板を形成する工程と、
半導体集積回路の耐熱温度を超える温度で、犠牲基板の上に無機材料からなる膜を成膜する工程と、
前記無機材料からなる膜をパターニングして入力側無機導波路と、前記入力側無機導波路の延長線上に配置された出力側無機導波路と、の組を複数備える導波路基板を形成する工程と、
前記入力側無機導波路と前記出力側無機導波路との間の領域に前記第1電極が平面視において重なるように、前記駆動回路基板と前記導波路基板とを接合する工程と、
前記犠牲基板を除去して露出させた表面に、前記入力側無機導波路と前記出力側無機導波路とにそれぞれ平面視において重なるようにEOポリマー膜を積層する工程と、
前記EOポリマー膜を分割して前記入力側無機導波路と前記出力側無機導波路との組に沿ったEOポリマー導波路を複数形成する工程と、
前記複数の第1電極に平面視において重なるように前記複数のEOポリマー導波路の上に共通の第2電極を形成する工程と、を有することを特徴とする光制御デバイスの製造方法。
【請求項4】
半導体集積回路からなる位相制御部駆動回路部と、光フェーズドアレイと、が一体に形成された光制御デバイスの製造方法であって、
複数の駆動回路が埋め込まれ、前記複数の駆動回路にそれぞれ導通した複数の接触電極を有する駆動回路基板を形成する工程と、
半導体集積回路の耐熱温度を超える温度で、犠牲基板の上に無機材料からなる膜を成膜する工程と、
前記無機材料からなる膜をパターニングして入力側無機導波路と、前記入力側無機導波路の延長線上に配置された出力側無機導波路と、の組を複数形成する工程と、
前記入力側無機導波路と前記出力側無機導波路との間の領域に第1電極をそれぞれ形成して導波路基板を形成する工程と、
前記複数の接触電極と複数の前記第1電極とがそれぞれ対向するように前記駆動回路基板と前記導波路基板とを接合する工程と、
前記犠牲基板を除去して露出させた表面に前記入力側無機導波路と前記出力側無機導波路とにそれぞれ平面視において重なるようにEOポリマー膜を積層する工程と、
前記EOポリマー膜を分割して前記入力側無機導波路と前記出力側無機導波路に沿ったEOポリマー導波路を複数形成する工程と、
前記複数の第1電極に平面視において重なるように前記複数のEOポリマー導波路の上に共通の第2電極を形成する工程と、を有することを特徴とする光制御デバイスの製造方法。
【請求項5】
前記入力側無機導波路および出力側無機導波路のコアは、Si34で形成されていることを特徴とする請求項3または請求項4に記載の光制御デバイスの製造方法。
【請求項6】
前記犠牲基板の上に無機材料からなる膜を成膜する工程の前に、前記犠牲基板の表面に酸化膜を成膜する工程を有し、
前記犠牲基板の表面に成膜された酸化膜の上に半導体集積回路の耐熱温度を超える温度で前記無機材料からなる膜を成膜することを特徴とする請求項3または請求項4に記載の光制御デバイスの製造方法。
【請求項7】
前記酸化膜は、SiO2からなり、
前記犠牲基板は、Si基板からなり、
前記Si基板からなる犠牲基板を、2フッ化キセノンガスを用いたドライエッチングを用いて除去することで露出させたSiO2からなる酸化膜の表面に、前記EOポリマー膜を積層することを特徴とする請求項6に記載の光制御デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光制御デバイスおよびその製造方法に係り、特に、導波路を半導体集積回路上に備える光制御デバイスおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、マルチ光導波路と位相制御器とを用いた光フェーズドアレイが提案されている(例えば特許文献1参照)。図12は、従来の光フェースアレイの一例を示す概略模式図である。図12に示す光フェーズドアレイ101は、光入力部103と、光分離部104と、位相制御部105と、マルチ光導波路部106と、光出力端107と、を備えている。光フェーズドアレイ101は、これらの構成要素を基板110上に有した光フェーズドアレイチップとして構成される。なお、図12では導波路108として光導波路コアのみ図示しており、コア周囲のクラッド層の図示を省略している。
【0003】
位相制御部105は、各導波路108の位相を制御するものである。位相制御部105は、各導波路108を伝搬する光の位相を制御するために異なる電圧をそれぞれ印加する制御電極である上部電極135と、各チャンネル共通の電極としての下部電極133と、を備えている。下部電極133と上部電極135とによってクラッド層を介して挟まれた各チャンネルの導波路コア領域は、それぞれ位相制御器として機能する。
【0004】
マルチ光導波路部106は、一例として8チャンネルの導波路108を有している。光フェーズドアレイ101には、チップ外部の装置である駆動回路31から信号線を介して各チャンネルの位相制御のための電圧や信号などが入力される。図12では、位相制御のための駆動回路31を模式的に印加電圧の種別によって図示している。V1~V8は、8チャンネルの導波路108を個別に駆動する8個の駆動回路31をそれぞれ模式的に示している。
【0005】
光フェーズドアレイは、各導波路に設けられた位相制御器によって導波路間の光の位相を制御することによって、光出力端からの光ビームを、回折と干渉を利用して偏向することができる。光出力端から離れた場所での光ビームの広がり角は、次の数式(1)に従う。
Ψ = sin-1 [1.22λ/((N-1)・d)] (1)
ここで、λは光の波長、Nは導波路の本数、dは導波路ピッチをそれぞれ示す。
【0006】
数式(1)によれば、広がり角(スポット径に比例)の小さな、細い光ビームを作り出すには、導波路ピッチが一定である場合、導波路数を増やすことが必要になる。導波路数が増えると、導波路数に対応した位相制御器を駆動するための信号線が多くなり、これらの多数の信号線を光フェーズドアレイチップの外部に取り出さなければならない。必要な信号線の数の例として、1024本の導波路アレイを用いた光フェーズドアレイが報告されている(非特許文献1参照)。
このような多数の配線を外部の信号回路へ取り出すには、フレキシブルケーブルなどスペースを消費するような配線が必要になる。また、配線の取りまわしが長くなるため、浮遊静電容量などにより負荷が大きくなり高速駆動の妨げになる。
【0007】
また、非特許文献2には、光導波路としてのSi34導波路の作製プロセスが記載されている。非特許文献2に記載された技術は、Si34導波路を半導体集積回路(CMOS(Complementary Metal-Oxide-Semiconductor)回路)上に形成することを前提としており、温度の低い(400℃)プラズマ励起化学気相成長蒸着(PE-CVD:plasma-enhanced chemical vapor deposition)による成膜を用いている。
なお、位相制御部の光導波路にEO効果を持つポリマー(EOポリマー)を用いた光フェーズドアレイが報告されている(非特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2022-133031号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Guangzhen Luo et. al., “1024-channel Passive Optical Phased Array with High Angular Resolution”, Asia Communications and Photonics Conference 2021, T3D.5 (2021).
【非特許文献2】A. Z. Subramanian et. al., “Low-Loss Single mode PECVD Silicon Nitride Photonic Wire Waveguides for 532-900 nm Wavelength Window Fabricated Within a CMOS Pilot Line”, IEEE Photonics Journal, Vol. 5, No. 6, 2202809, (2013).
【非特許文献3】宮本裕司、外9名、“有機/無機積層型光フェーズドアレイの設計と試作”、2022年映像情報メディア学会年次大会講演予稿集、13C-5(2022).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
光フェーズドアレイとその制御基板をコンパクトなものにするために、駆動回路を有する半導体集積回路(駆動回路LSI)を、光フェーズドアレイ駆動制御チップとして作製し、その光フェーズドアレイ駆動制御チップに直接光フェーズドアレイを形成することが考えられる。しかし、例えばSi34導波路を半導体集積回路(CMOS回路)上に形成する場合に、非特許文献2に記載された技術を適用すると、成膜したSi34に次の問題がある。温度の低いPE-CVDで成膜したSi34は、N-H結合による欠陥が多く存在し、波長1550nm付近の光で吸収が起こり、測距や通信などの用途の光フェーズドアレイには使用することができない。
本発明は、以上のような問題点に鑑みてなされたものであり、導波路を半導体集積回路上に備え配線を容易にした小型な光制御デバイスおよびその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するために、本発明に係る光制御デバイスは、光フェーズドアレイを駆動する複数の駆動回路が埋め込まれ前記複数の駆動回路にそれぞれ導通した複数の第1電極を有し半導体集積回路からなる位相制御部駆動回路部と、前記位相制御部駆動回路部の上に搭載された光フェーズドアレイと、を備え、前記光フェーズドアレイは、複数の入力側無機導波路を有し入射光を複数チャンネルに分離する光分離部と、複数チャンネルに分離された光を導波する複数のEOポリマー導波路を有する位相制御部と、複数の入力側無機導波路の延長線上に複数の出力側無機導波路をそれぞれ有し位相制御された光を導波するマルチ光導波路部と、前記複数の第1電極のそれぞれに高さを異ならせて平面視において重なるように前記位相制御部の上に形成された共通の第2電極と、を有し、前記EOポリマー導波路の高さと、前記入力側無機導波路および出力側無機導波路の高さと、は異ならせて、前記EOポリマー導波路と、前記入力側無機導波路および出力側無機導波路と、が平面視において重なる領域を有し、前記位相制御部駆動回路部において前記複数の第1電極は、前記入力側無機導波路と前記出力側無機導波路との間の領域に、高さを異ならせて前記EOポリマー導波路に沿ってそれぞれ形成されていることとした。
【0012】
かかる構成によれば、光制御デバイスの光フェーズドアレイにおいて、入力光は入力側無機導波路を進行し、入力側無機導波路とEOポリマー導波路とが高さを異ならせて平面視において重なる領域で光結合することでEOポリマー導波路へ進入し、EOポリマー導波路と出力側無機導波路とが高さを異ならせて平面視において重なる領域で光結合することで出力側無機導波路へ進入し、外部に出射する。光制御デバイスにおいて、位相制御部駆動回路部に埋め込まれた駆動回路は、複数の第1電極を介して、位相制御部のEOポリマー導波路それぞれに個別の電圧を印加し、EOポリマー導波路を伝搬する光の位相を制御することができる。光制御デバイスにおいて、駆動回路と制御電極である第1電極とは、半導体集積回路からなる位相制御部駆動回路部に設けられているので、光フェーズドアレイとその制御基板である位相制御部駆動回路部とをコンパクトなものとしている。これにより、光制御デバイスは、駆動回路と第1電極との距離を短縮することができる。したがって、光制御デバイスは、駆動回路から第1電極までの配線による浮遊容量を極力低減し、低消費電力化と高速な位相制御が可能となる。
【0013】
また、本発明の第1の観点に係る光制御デバイスの製造方法は、半導体集積回路からなる位相制御部駆動回路部と、光フェーズドアレイと、が一体に形成された光制御デバイスの製造方法であって、複数の駆動回路が埋め込まれ、前記複数の駆動回路にそれぞれ導通した複数の第1電極を有する駆動回路基板を形成する工程と、半導体集積回路の耐熱温度を超える温度で、犠牲基板の上に無機材料からなる膜を成膜する工程と、前記無機材料からなる膜をパターニングして入力側無機導波路と、前記入力側無機導波路の延長線上に配置された出力側無機導波路と、の組を複数備える導波路基板を形成する工程と、前記入力側無機導波路と前記出力側無機導波路との間の領域に前記第1電極が平面視において重なるように、前記駆動回路基板と前記導波路基板とを接合する工程と、前記犠牲基板を除去して露出させた表面に、前記入力側無機導波路と前記出力側無機導波路とにそれぞれ平面視において重なるようにEOポリマー膜を積層する工程と、前記EOポリマー膜を分割して前記入力側無機導波路と前記出力側無機導波路との組に沿ったEOポリマー導波路を複数形成する工程と、前記複数の第1電極に平面視において重なるように前記複数のEOポリマー導波路の上に共通の第2電極を形成する工程と、を有することとした。
【0014】
かかる手順によれば、光制御デバイスの製造方法は、駆動回路基板および導波路基板を個別に形成する工程と、それら駆動回路基板と導波路基板とを接合する工程とを有しているので、駆動回路基板において特性を与えるプロセス温度に適切な値を適用することができると共に、導波路基板において特性を与えるプロセス温度に適切な値を適用することができる。光制御デバイスの製造方法は、半導体集積回路の耐熱温度を超える温度で犠牲基板の上に無機材料からなる膜を成膜するので、導波路基板に形成された入力側無機導波路および出力側無機導波路の不良を低減することができる。したがって、光制御デバイスの製造方法は、品質良好の入力側無機導波路および出力側無機導波路を半導体集積回路上に備えることで、配線を容易にした小型な光制御デバイスを製造することができる。
【0015】
また、本発明の第2の観点に係る光制御デバイスの製造方法は、半導体集積回路からなる位相制御部駆動回路部と、光フェーズドアレイと、が一体に形成された光制御デバイスの製造方法であって、複数の駆動回路が埋め込まれ、前記複数の駆動回路にそれぞれ導通した複数の接触電極を有する駆動回路基板を形成する工程と、半導体集積回路の耐熱温度を超える温度で、犠牲基板の上に無機材料からなる膜を成膜する工程と、前記無機材料からなる膜をパターニングして入力側無機導波路と、前記入力側無機導波路の延長線上に配置された出力側無機導波路と、の組を複数形成する工程と、前記入力側無機導波路と前記出力側無機導波路との間の領域に第1電極をそれぞれ形成して導波路基板を形成する工程と、前記複数の接触電極と複数の前記第1電極とがそれぞれ対向するように前記駆動回路基板と前記導波路基板とを接合する工程と、前記犠牲基板を除去して露出させた表面に前記入力側無機導波路と前記出力側無機導波路とにそれぞれ平面視において重なるようにEOポリマー膜を積層する工程と、前記EOポリマー膜を分割して前記入力側無機導波路と前記出力側無機導波路に沿ったEOポリマー導波路を複数形成する工程と、前記複数の第1電極に平面視において重なるように前記複数のEOポリマー導波路の上に共通の第2電極を形成する工程と、を有することとした。
【0016】
かかる手順によれば、光制御デバイスの製造方法は、駆動回路基板および導波路基板を個別に形成する工程と、それら駆動回路基板と導波路基板とを接合する工程とを有しているので、駆動回路基板および導波路基板において、特性を与えるプロセス温度にそれぞれの基板にとって適切な値を適用することができる。光制御デバイスの製造方法は、駆動回路基板と導波路基板とを接合する前に、パターニングにより入力側無機導波路と出力側無機導波路とを形成するので、基板接合時における位置合わせの規制を低減することができる。光制御デバイスの製造方法は、半導体集積回路の耐熱温度を超える温度で犠牲基板の上に無機材料からなる膜を成膜するので、導波路基板に形成された入力側無機導波路および出力側無機導波路の不良を低減することができる。したがって、光制御デバイスの製造方法は、品質良好の入力側無機導波路および出力側無機導波路を半導体集積回路上に備えることで、配線を容易にした小型な光制御デバイスを製造することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、導波路を半導体集積回路上に備え配線を容易にした小型な光制御デバイスを提供することができる。また、本発明によれば、導波路を半導体集積回路上に備え配線を容易にした小型な光制御デバイスを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】第1実施形態に係る光制御デバイスを分解して示す概略模式図である。
図2】(a)~(b)は、第1実施形態に係る光制御デバイスの概略断面図である。
図3】第1実施形態に係る光制御デバイスの製造工程の流れを示すフローチャートである。
図4】(a)~(f)は駆動回路基板を形成する工程を示す断面図である。
図5】(a)~(h)は導波路基板を形成する工程を示す断面図である。
図6】(a)~(f)は基板を貼り合わせてから完成させるまでの工程の前半を示す断面図である。
図7】(a)~(f)は基板を貼り合わせてから完成させるまでの工程の後半を示す断面図である。
図8】(a)~(b)は、変形例に係る光制御デバイスの概略断面図である。
図9】第2実施形態に係る光制御デバイスの製造工程の流れを示すフローチャートである。
図10】(a)~(f)は駆動回路基板を形成する工程を示す断面図である。
図11】(a)~(d)は導波路基板を完成させてから基板を貼り合わせるまでの工程を示す断面図である。
図12】従来のマルチ光導波路と位相制御器を用いた光フェースアレイの一例を示す概略模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(第1実施形態)
[光制御デバイスの概要]
まず、図1図2(a)および図2(b)を参照して第1実施形態に係る光制御デバイス1の概要について説明する。参照する図面において、光制御デバイス1の幅方向をx軸、光制御デバイス1の高さ方向をy軸、光制御デバイス1の奥行き方向をz軸とする。また、一例として、導波路アレイを4本の導波路で表しているが、導波路アレイは、実際には、16本、32本、64本、…のようにより多くの本数の導波路で構成される。導波路を便宜上、図2(b)において左から、チャンネル1、チャンネル2、…と呼ぶ。
図2(a)は、光制御デバイス1のチャンネル1の導波路に沿ってz方向に切り出したときのyz断面の要部を示す模式図である。図2(a)は、位相制御部5を含み、位相制御に必要なサイズの一部分を示している。なお、製造工程を説明するための図面を含む他のyz断面を示す模式図についても同様の意味である。
図2(b)は、光制御デバイス1の各チャンネルの導波路を横切ってx方向に切り出したときのxy断面を示す模式図である。図2(b)は、図2(a)のIIb-IIb線における断面矢視図に相当するが、Si34導波路8aや駆動回路31については直観的に把握しやすいように参考として配置して示している。なお、製造工程を説明するための図面を含む他のxy断面を示す模式図についても同様の意味でこれらの部材を示している。
【0020】
図1に示すように、光制御デバイス1は、位相制御部駆動回路部30と、位相制御部駆動回路部30の上に搭載された光フェーズドアレイ2と、を備えている。なお、説明の都合上、図1では、位相制御部駆動回路部30と光フェーズドアレイ2とが分離して示しているが、本来は、位相制御部駆動回路部30上に直接光フェーズドアレイ2が積層されており、両者は一体に形成されている。
位相制御部駆動回路部30は、半導体集積回路からなり、光フェーズドアレイ2を駆動する複数の駆動回路31が埋め込まれ、複数の駆動回路31にそれぞれ導通した複数の下部電極(第1電極)33を有している。
【0021】
光フェーズドアレイ2は、光分離部4と、位相制御部5と、マルチ光導波路部6と、共通の上部電極(第2電極)35と、を備えている。
光分離部4は、入射光を複数チャンネルに分離する。位相制御部5は、複数のEOポリマー導波路9を有している。複数のEOポリマー導波路9は、複数チャンネルに分離された光をそれぞれ導波する。
光分離部4は、複数のSi34導波路(入力側無機導波路)8aを有し、マルチ光導波路部6は、複数のSi34導波路(出力側無機導波路)8bを有している。
複数のSi34導波路8bは、位相制御された光をそれぞれ導波する。複数のSi34導波路8bは、複数のSi34導波路8aの延長線上にそれぞれ設けられている。
上部電極35は、複数の下部電極33のそれぞれに高さ方向を異ならせ平面視において重なるように位相制御部5の上に形成されている。
【0022】
光制御デバイス1において、EOポリマー導波路9の高さと、Si34導波路8a,8bの高さと、は異ならせて、EOポリマー導波路9と、Si34導波路8a,8bと、が平面視において重なる領域を有している。
位相制御部駆動回路部30において複数の下部電極33は、Si34導波路8aとSi34導波路8bとの間の領域に、高さを異ならせてEOポリマー導波路9に沿ってそれぞれ形成されている。
【0023】
[光制御デバイスの各部の構成]
光入力部3は、外部から光制御デバイス1に光を入力するための要素である。光入力部3へ光を入力する光源は、コヒーレンス性が優れ、偏波を整えられるレーザーがよいが、LED(発光ダイオード)やSLD(スーパールミネッセントダイオード)を用いてもよい。本実施形態では、光入力部3は、Si34導波路8a,8bと同時に作製されるため、これら導波路と同様に、Si34で作製されている。
【0024】
光分離部4は、光入力部3から入力した光を、位相制御部5を構成するEOポリマー導波路9の本数分だけ光を等強度で分配する要素である。本実施形態では、1入力4分岐の多モード干渉(1x4MMI)を用いて4本の導波路に光分配する。分配方法としては、1x4MMIを用いるほか、1xnMMI(n:2以上の整数、例えば1x2など)やY分岐を用いて、カスケード状に配置するなどしてもよい。本実施形態では、光分離部4はSi34導波路8a,8bと同時に作製されるため、これら導波路と同様に、Si34で作製されている。
【0025】
位相制御部5のEOポリマー導波路9の上部には、各チャンネルの共通の上部電極35が、上部クラッド20cを介して配置されている。EOポリマー導波路9の下方には、チャンネルごとに分割された下部電極33が中間クラッド20aおよび下部クラッド20bを介して配置されている。
【0026】
EOポリマー導波路9を構成するEOポリマーとしては、例えば、ポリメチルメタクリレート(PMMA)系に、非線形応答を発現する有機色素を分散配合させたポリマー材料を使用できる。そのほかEO色素としてDisperse redなどを適用することが可能である。入力側光結合部11および出力側光結合部12において、Si34導波路8a,8bは、図面では平行な幅として記載しているが、平面視における幅が端面に向かって先細りのテーパ状に形成されることが好ましい。なお、使用波長域を1.3~1.6μmの通信帯域の用途に限れば、Si34導波路(入出力側無機導波路)8a、Si34導波路(出力側無機導波路)8bを、それぞれSi導波路に置き換えて用いてもよい。
【0027】
上部電極35は平板状の電極である。上部電極35は、EOポリマー導波路9の上側にEOポリマー導波路9から間隔を空けて上部クラッド20cを介して配置されている。上部電極35は、例えば複数(例えば4個)のEOポリマー導波路9にとって共通の電極であり、ここではグランドに接地されている(図2(b)参照)。
下部電極33は、EOポリマー導波路9に沿って分割されている。下部電極33は、EOポリマー導波路9の下側に高さを異ならせて対向する位置にそれぞれが下部クラッド20bを介して配置されている。下部電極33は、例えば複数(例えば4個)のEOポリマー導波路9それぞれに個別の電圧V1~V4(図2(b)参照)を印加するために設けられた電極である。下部電極33は、長手方向をz方向として、長手方向には位相制御に必要な長さを有している。
上部電極35や下部電極33に用いる材料としては、Ti、Cr、Au、Cu、Alの金属電極、または、ZnO、ITO(Indium Tin Oxide:インジウム-スズ酸化物)、IZO(Indium Zinc Oxide:インジウム亜鉛酸化物)などの透明電極を選択できる。
【0028】
クラッド20は、この光制御デバイス1の製造時に例えば3つの異なる工程でそれぞれ積層される中間クラッド20aと、下部クラッド20bと、上部クラッド20cと、を備えている。下部クラッド20bは、Si34導波路8a,8bの下方に配置されている。上部クラッド20cは、Si34導波路8a,8bの上方に配置されている。中間クラッド20aは、下部クラッド20bと上部クラッド20cとの間に配置されている。なお、中間クラッド20aと、下部クラッド20bと、上部クラッド20cとを区別しない場合、単にクラッド20と呼称する。
【0029】
クラッド20の材料としては、その屈折率がEOポリマーの屈折率よりも小さく、EOポリマーの屈折率との屈折率差がなるべく大きな材料が良い。そのような材料として、例えばSiO2(屈折率1.48)を用いることができる。
基板10は、各層を支持できる機械的強度があるものを使用することができるが、各層との線膨張係数値の差が小さいものを選ぶのが望ましい。例えば、Si基板などが望ましい。
【0030】
[光制御デバイスの動作]
次に、光制御デバイスの動作について、図1図2(a)および図2(b)を参照して説明する。光入力部3へ、光ファイバーなどから入射したコヒーレント光は、光分離部4により、所望の本数の導波路に分配される。分配された光はSi34導波路8aをz方向に進み、入力側光結合部11において、Si34導波路8aから位相制御部のEOポリマー導波路9へ進入する。EOポリマー導波路9を進んだ光は、出力側光結合部12において、マルチ光導波路部6のSi34導波路8bへ光結合されて、Si34導波路8bを進み、光出力端7から空間へ放射される。それぞれのチャンネルの導波路を通って光出力端7から放射された、それぞれの光は空間を伝搬するなかで干渉および回折することによって、光出力端7から遠く離れたところにおいては1本の光ビームとして観察されることになる。
【0031】
光制御デバイス1において、上部電極35に対して各チャンネル共通の電位(0Vまたは接地電位)を印加すると共に、各下部電極33に対して各チャンネル別にEOポリマー膜の屈折率を制御するための電圧をそれぞれ印加すると、位相制御部5において、チャンネルごとに光の位相を変調することができる。電圧に対するEOポリマー膜内での位相シフト量Δφは、次の数式(2)に従う。
【0032】
Δφ=πn0 3・r・V・L /(λ・d) … (2)
ここで、n0は電界を印加していない場合の屈折率、rは電気テンソルによる電気光学定数、Vは電圧、Lは電圧が印加される際の光の伝搬方向(z方向)における光路長、λは光の波長、dは媒質(EOポリマー膜)の厚さ、をそれぞれ示す。
数式(2)にしたがって各導波路間の位相を制御することで、光出力端7から放射される光ビームを偏向することができる。図1では、光制御デバイス1が例えば位相制御しないときのビーム方向を白抜き矢印で模式的に示しており、位相制御したときにビーム方向を破線の矢印で模式的に示している。すなわち、本実施形態の光制御デバイス1は、zx面内でz方向からx方向の側へ傾斜するように光ビームを偏向することができる。
【0033】
本実施形態に係る光制御デバイス1は、位相制御部5のEOポリマー導波路9それぞれに個別の電圧を印加するために設けられた複数の下部電極33と、各チャネルに共通の上部電極35と、を備えている。ここで、比較例1として、仮に光フェーズドアレイ駆動制御チップの上に、図12に示す光フェーズドアレイ101を搭載した光制御デバイスがあるものとする。比較例1は、位相制御部105において個々の制御電極(上部電極135)で個々の位相制御器の駆動を制御する。この場合、例えば、個々の制御電極(上部電極135)から光フェーズドアレイ駆動制御チップまで配線を設ける必要がある。すなわち、光フェーズドアレイの基板を貫通して駆動回路に接続する配線が必要になる。そのほか、その配線が下方に回り込むためのスペースが余計に必要になり、従来よりも大きな基板面積が必要になるなど大型化の問題がある。加えて、配線が長くなるため浮遊容量が大きくなり、速い光偏向動作速度を必要とする場合、消費電力が大きくなってしまう。
これに対して、本実施形態に係る光制御デバイス1は、駆動回路31と制御電極(下部電極33)とが、半導体集積回路からなる位相制御部駆動回路部30に設けられているので、光フェーズドアレイ2と、その制御基板である位相制御部駆動回路部30とをコンパクトなものとしている。これにより、光制御デバイス1は、駆動回路31と制御電極(下部電極33)との間を極短い距離にすることができる。したがって、光制御デバイス1は、駆動回路31から制御電極(下部電極33)までの配線による浮遊容量を極力低減し、低消費電力化と高速な位相制御が可能となる。
【0034】
[光制御デバイスの製造方法1]
次に、第1実施形態に係る光制御デバイスの製造方法の概略について図3を参照して説明する。図3に示すように、光制御デバイス1の製造方法は、駆動回路基板を形成する工程(ステップS10)と、犠牲基板の表面に酸化膜を成膜する工程(ステップS20)と、犠牲基板の表面に成膜された酸化膜の上に無機材料からなる膜を成膜する工程(ステップS30)と、導波路基板を形成する工程(ステップS40)と、駆動回路基板と導波路基板とを接合する工程(ステップS50)と、EOポリマー膜を積層する工程(ステップS60)と、EOポリマー導波路を形成する工程(ステップS70)と、上部電極を形成する工程(ステップS80)と、を有している。ステップS10の工程は、Si基板上へ下部電極を作成する工程(ステップS11)と、下部電極を酸化膜で埋め込む工程(ステップS12)と、酸化膜表面の平坦化工程(ステップS13)と、を含んでいる。本実施形態では、犠牲基板としてベアSi基板を用いており、ステップS20の工程では、ベアSi基板上へ酸化膜を形成する。本実施形態では、無機材料として、Si34を用いており、ステップS30の工程では、酸化膜上へSi34膜を形成する。ステップS40の工程は、Si34導波路を形成する工程(ステップS41)と、クラッド形成および平坦化工程(ステップS42)と、を含んでいる。ステップS60の工程は、上部Si基板を除去する工程(ステップS61)と、配向済みEOポリマーを積層する工程(ステップS62)と、を含んでいる。ステップS80の工程は、上部クラッドを形成する工程(ステップS81)と、上部電極を形成する工程(ステップS82)と、を含んでいる。
【0035】
(駆動回路基板を形成する工程)
駆動回路基板を形成する工程(ステップS10)において、ステップS11の工程では、図4(a)および図4(b)に示すように、通常の半導体集積回路の製造工程を用いて、基板41の表面に導波路本数に対応した下部電極33を形成する。下部電極33は、例えばCu,Al,Ta,Cr,W,Ag,Au,Pt等の金属やその合金のような一般的な金属材料を用いることができる。
【0036】
基板41としては、予め導波路本数に対応した、例えばCMOSの駆動回路31が埋め込まれた集積回路を準備することができる。そのような集積回路は、例えばSOI(Silicon on insulator)基板上に、駆動回路31としてNチャンネルMOSトランジスタやPチャンネルMOSトランジスタ等の半導体素子を備えている。ステップS11の工程では、基板41に埋め込まれた駆動回路31の配線に導通するように基板41の表面に下部電極33が形成される。
なお、下部電極33を形成する前に、Siベア基板やSOI基板を準備して一般的な半導体プロセスによって駆動回路31を含む集積回路を形成することもできる。
【0037】
次に、ステップS12の工程では、図4(c)および図4(d)に示すように、下部電極33の表面を覆うように酸化膜43を形成する。酸化膜43は、絶縁および保護のために形成される。本実施形態では、酸化膜43は、例えばSiO2膜である。酸化膜の形成には、例えば真空蒸着法、スパッタ法、化学気相成長法(CVD法:Chemical Vapor Deposition)と、半導体集積回路の耐熱温度以下で成膜を行う既知のものが使用できる。
【0038】
次に、ステップS13の工程では、図4(e)および図4(f)に示すように、下部電極33の上の酸化膜43を平坦化する。平坦化の方法としては、化学的機械的研磨(Chemical Mechanical Polishing:CMP)法等を用いることができる。
最終的に完成したこの基板を、便宜上、駆動回路基板45と呼ぶ。ステップS10の工程により、複数の駆動回路31が埋め込まれ、複数の駆動回路31にそれぞれ導通した複数の下部電極33を有する駆動回路基板45が形成される。駆動回路基板45の上面47は、全体が酸化膜43により被覆されている。
【0039】
(ベアSi基板上へ酸化膜を形成する工程)
次に、ベアSi基板上へ酸化膜を形成する工程(ステップS20)では、図5(a)および図5(b)に示すように、犠牲基板49上へ酸化膜51を形成する。犠牲基板49は、Si基板(ベアSi基板)である。酸化膜51の形成には、例えば熱酸化、真空蒸着法、スパッタ法、CVD法を用いることができる。本実施形態のように犠牲基板49がSi基板であれば、熱酸化で酸化膜を形成することで、面内に均一な厚みの酸化膜を形成することができる。また成膜なので膜厚を厳密に管理することができる。ステップS20の工程で形成する酸化膜51は、中間クラッド20a(図2(a)参照)となる。
【0040】
(酸化膜上へSi34膜を形成する工程)
次に、酸化膜上へSi34膜を形成する工程:ステップS30)では、図5(c)および図5(d)に示すように、半導体集積回路の耐熱温度を超える温度で、酸化膜51の上にSi34膜53を成膜する。Si34膜の形成には、例えばスパッタ法やCVD法等を用いることができる。特に、良質な膜質を得るために800℃以上で成膜できるLP-CVD(Low-Pressure Chemical Vapor Deposition)法が望ましい(例えば、下記参考文献1参照)。
(参考文献)
参考文献1:Xingchen Ji et. al., “Methods to achieve ultra-high quality factor silicon nitride resonators”, APL Photon. 6, 071101 (2021).
【0041】
ステップS30の工程では、犠牲基板49がSi基板であるので、酸化膜51の上への成膜は、単なるSi基板上への成膜と同様であるため、半導体集積回路の耐熱温度以上で成膜する方法でも構わない。また、成膜後に1000℃以上でアニール処理を行うと、N-H結合をさらに少なくすることができる(例えば、参考文献1参照)。
【0042】
(導波路基板を形成する工程)
次に、導波路基板を形成する工程(ステップS40)では、図5(e)~図5(h)に示すように、Si34膜53をパターニングしてSi34導波路8aと、Si34導波路8aの延長線上に配置されたSi34導波路8bと、の組を複数備える導波路基板57を形成する。詳細には、Si34導波路を形成する工程(ステップS41)では、図5(e)および図5(f)に示すように、Si34膜53を、フォトリソグラフィとドライエッチングを用いて、導波路状のパターンに形成する。このとき、同時に光分離部4(図1参照)も形成される。
【0043】
続いて、クラッド形成および平坦化工程(ステップS42)では、図5(g)および図5(h)に示すように、Si34導波路8a,8bを、例えば真空蒸着法、スパッタ法、CVD法のいずれかの方法を用いて酸化膜55で埋め込む。酸化膜は、例えばSiO2である。Si34導波路8a,8bを酸化膜55で埋め込んだ後に、Si34導波路8a,8b上の酸化膜55を平坦化する。平坦化の方法としては、CMP法等を用いることができる。なお、図5(g)および図5(h)は、平坦化を完了した状態を示している。
【0044】
ステップS42の工程において、SiO2の成膜は、高温(800℃)でのCVDで形成することが望ましい。その理由は、Si34導波路と接するSiO2膜を、高温(800℃)でのCVDで形成すると、SiO2膜がち密になり、Si34-SiO2界面の欠陥が減り、導波路内での光の伝搬損失を減少することができるからである。また、ステップS42の工程で形成される酸化膜55は、下部クラッド20b(図2(a)参照)の一部となる。ステップS42の工程を終え完成した基板を、便宜上、導波路基板57と呼ぶ。導波路基板57の上面59は、全体が酸化膜55により被覆されている。
【0045】
(駆動回路基板と導波路基板とを接合する工程)
次に、駆動回路基板と導波路基板とを接合する工程(ステップS50)では、図6(a)および図6(b)に示すように、駆動回路基板45の上に、導波路基板57を積層する。このとき、駆動回路基板45の上面47(図4(f)参照)と、導波路基板57の上面59(図5(h)参照)とを向かい合わせにして積層する。そして、図6(b)に示すようにz方向において、Si34導波路8aとSi34導波路8bとの間の領域に下部電極33が平面視において重なるように位置を合わせて、駆動回路基板45と導波路基板57とを接合する。また、接合する前に、図6(a)に示すようにSi34導波路8aに対して下部電極33がx方向にずれを生じないように、駆動回路基板45と導波路基板57とを精度よくアライメントしておく。位置合わせ装置としては、基板接合に利用される公知の位置合わせ装置を用いることができる。なお、基板同士を精度よくアライメントして接合するためには、例えばサブμmオーダーの高精度を有する位置合わせ装置を用いることが好ましい。また、基板接合の合わせ精度は、近年の積層技術の進展に伴って向上し、高精度なものでは±100nmを達成していることが報告されている。
【0046】
なお、基板同士の対向する表面の全体は、酸化膜(SiO2膜)で覆われている。接合には、既知の技術を用いることができる。例えば、各基板の表面をO2プラズマやArプラズマで、清浄化したのち、水分を吸着させて300℃の加熱と加圧にておこなう拡散接合や、両面に原子層単位でSi膜を形成したのちに常温で加圧をする常温接合方法がある。このような接合でSiO2同士を接合すると、バルク並みの接合強度が得られる。
【0047】
(EOポリマー膜を積層する工程)
EOポリマー膜を積層する工程(ステップS60)において、まず、上部Si基板を除去する工程(ステップS61)では、接合した2つの基板の上部にあるSi基板(犠牲基板49)を除去する。図6(c)および図6(d)は、Si基板(犠牲基板49)を除去した状態を示している。Si基板を除去することで露出した表面61は、酸化膜51の表面である。
【0048】
Si基板は、ドライエッチングによって除去できる。2フッ化キセノンガス(XeF2)を用いたドライエッチングでは、Siに対して等方性にエッチングが行われるが、SiO2膜やSi34膜は、ほぼエッチングされないため、これらをエッチストッパーとして用いることができる。このようにすることで、導波路基板57にステップS20の工程で形成されていた酸化膜51をそのままの厚さで残すことができる。
【0049】
ステップS61の工程では、Si基板(犠牲基板49)をドライエッチングする前に、機械的研磨をすることができる。Si基板は、厚みが比較的厚いので、機械的研磨をすることで、Si基板の厚さを20μm程度まで薄くすることが好ましい。このようにすることで、Si基板を除去する工程の時間を短縮することができると共に、高価な2フッ化キセノンガスの消費を抑え低コスト化を図ることができる。
【0050】
ステップS61の工程により、駆動回路31および下部電極33上に、酸化膜55(下部クラッド20b)と酸化膜51(中間クラッド20a)とによって埋め込まれた、Si34導波路8a,8bと光分離部4とを有する基板が出来上がる。以降は、この基板の上に、EOポリマー導波路を用いた位相制御部等を形成する工程である。
【0051】
次に、配向済みEOポリマーを積層する工程(ステップS62)では、この基板の酸化膜51(中間クラッド20a)を露出させた表面に、Si34導波路8a,8bにそれぞれ平面視において重なるようにEOポリマー膜63を貼り付ける。図6(e)および図6(f)は、EOポリマー膜63の貼りつけが完了した状態を示している。ステップS62の工程では、EOポリマー膜63として、配向済みのEOポリマー膜を準備しておけばよい。または、別の図示しない支持基板を用いて、EOポリマー膜を成膜し、さらに配向(ポーリング)を行うこともできる。
【0052】
(EOポリマー導波路を形成する工程)
次に、EOポリマー導波路を形成する工程(ステップS70)では、フォトリソグラフィとエッチングによって、EOポリマー膜63を導波路状にパターニングする。図7(a)および図7(b)は、複数のEOポリマー導波路9に分けられた状態を示している。
【0053】
(第2電極を形成する工程)
次に、第2電極を形成する工程(ステップS80)において、上部クラッドを形成する工程(ステップS81)では、図7(c)および図7(d)に示すように、酸化膜65(上部クラッド20c:図2(a)参照)にてEOポリマー導波路9を埋め込む。次に、上部電極を形成する工程(ステップS82)において、図7(e)および図7(f)に示すように、複数の下部電極33に平面視において重なるように複数のEOポリマー導波路9の上に酸化膜65を介して共通の上部電極35を形成する。上部電極35としては、下部電極33と同様の材料を用いることができる。
【0054】
その後、図示はしないが、光入力部3の端面や光出力端7の端面の研磨を行って反射が生じないようにする工程や電極パッドを露出する工程などを行うことができる。ここで、電極パッドは、外部装置と電気的に接続するための部材である。なお、外部装置は、電極パッドを介して、駆動回路31を動作させるための電圧や信号などを駆動回路31に与える。
【0055】
前記したように、本実施形態に係る製造方法は、個別に作製した駆動回路基板45と導波路基板57とを接合する工程(ステップS50)を有している。これにより、本実施形態に係る製造方法は、以下の効果を奏する。仮に、図2(a)に示す光制御デバイス1を従来の光フェーズドアレイの製造方法によって製造する場合を想定し、これを比較例2とする。比較例2では、必要な部材を基板10の側から順番に積層して光制御デバイス1を製造する。すなわち、比較例2は、例えば下部クラッド20bの上にSi34導波路8a,8bを形成し、クラッド材料として酸化膜(SiO2)を成膜し、その表面の平坦化(CMPなど)を行った後にEOポリマー導波路9を形成することになる。これらの工程のうち、CMP平坦化工程における酸化膜(SiO2)研磨によって、Si34-EOポリマー間の中間クラッド20aの厚みとして所望のギャップを得ることになる。
非特許文献3には、Si34-EOポリマー間のギャップは、重なり部分のSi34コアの形状によって最適値があるため、精密に定義する必要があることが記載されている。
しかしながら、CMP研磨は、下地のパターン形状依存性があるため、チップにおける中心部と周辺部で、それぞれ研磨速度が異なる。あるいは、ウェハーで多チップ並べて作製する場合は、ウェハー中心と周辺部で、それぞれ研磨速度が異なる。そのため、比較例2の各工程のうち、CMP研磨は、均一にギャップ(中間クラッド20aの厚み)を制御することが難しい。また、比較例2では、ギャップとして残す中間クラッド20aの厚みを、その都度測定しながら、研磨を繰り返すため、膜厚制御も困難でかつ煩雑な工程となる。さらに、たとえギャップが不要な場合であっても、Si34導波路8a,8bを均一に露出すること(Si34導波路8a,8bの厚みを揃えること)や、Si34導波路8a,8bの表面と導波路間に配置されたSiO2の表面とを段差が生じないように平坦にすることも難しい。
【0056】
これに対して、本実施形態に係る製造方法は、ステップS20の工程において、犠牲基板49上へ熱酸化で酸化膜51を形成し膜厚を厳密に管理した中間クラッド20a(ギャップ)を得ることができる。よって、本実施形態に係る製造方法は、面内均一が良く、さらに精度の良い膜厚で成膜されるSi34-EOポリマー間ギャップを提供することができる。
【0057】
また、本実施形態に係る製造方法によれば、上部Si基板(犠牲基板49)を除去する工程(ステップS61)において、2フッ化キセノンガス(XeF2)を用いたドライエッチングを行うので、ステップS20の工程で形成されていた酸化膜51をそのままの厚さで残すことができる。したがって、入力側光結合部11および出力側光結合部12(図2(a)参照)において、Si34導波路8a,8bとEOポリマー導波路9との間に、中間クラッド20a(図2(a)参照)として適正なギャップを精度よく設けることができる。
【0058】
また、本実施形態に係る製造方法によれば、駆動回路基板45(図4(f)参照)において特性を与えるプロセス温度に適切な値(比較的低温)を適用することができると共に、導波路基板57(図5(h)参照)において特性を与えるプロセス温度に適切な値(比較的高温)を適用することができる。したがって、例えば、導波路基板57(図5(h)参照)に形成されたSi34導波路8a,8bは、N-H結合による欠陥が低減され、この製法で作製した光制御デバイス1は、測距や通信などの用途にも使用することができる。
【0059】
(変形例)
図8(a)に示す光制御デバイス1Bは、EOポリマー導波路9を通った後の出力側のSi34導波路8Bにグレーティング67が設けられている。図8(b)に示す光制御デバイス1Cは、EOポリマー導波路9を通った後の出力側のSi34導波路8Cにグレーティング69が設けられている。光制御デバイス1B,1Cは、y方向に光ビームを放射することができる。
【0060】
光制御デバイス1Bの製造方法としては、図5(f)に示すSi34導波路を形成する工程(ステップS41)において、フォトリソグラフィでのパターン形状を変更してグレーティング67の形状を反映させれば前記した製造方法により製造することができる。なお、図8(a)および図8(b)では、製法を説明するための符号を付している。すなわち、酸化膜51は中間クラッド20a(図2(a)参照)に対応し、酸化膜55は下部クラッド20bに対応し、酸化膜65は上部クラッド20cに対応する。
【0061】
光制御デバイス1Cは、以下のようにして製造すればよい。例えばステップS61の工程でSi基板(犠牲基板49)を除去して酸化膜51の表面61を露出させ(図6(d)参照)、一部の酸化膜51をその直下にある一部のSi34導波路8bと共にエッチングする。このとき、酸化膜51の直下にあるSi34導波路8bをハーフエッチングして、所定深さの凹みを有したSi34導波路8Cを形成する。続いて、EOポリマー膜63を積層する(ステップS62)。その後、図7(c)および図7(d)に示す上部クラッドを形成する工程(ステップS82)において、EOポリマー導波路9と共にSi34導波路8Cの凹みを、酸化膜65(上部クラッド20c)にて埋め込めばよい。
【0062】
なお、グレーティングの形状は、図8(a)および図8(b)に示すものに限られない。また、本実施形態では、複数のSi34導波路8bは、それぞれの間隔が等しく周期的に配列されているものを図示したが、複数のSi34導波路8bは非周期的に配列されていても構わない。
【0063】
また、本実施形態に係る製造方法において、図3図5(c)および図5(d)に示すステップS30の工程では、Si基板からなる犠牲基板49の表面に成膜された酸化膜51の上にSi34膜を成膜することとしたが、これに限定されるものではない。たとえばSi34導波路8a,8bとEOポリマー導波路9との間に酸化膜51(中間クラッド20a)によるギャップが不要な光制御デバイスを製造する場合、図3図5(a)および図5(b)に示すステップS20の工程を省略すればよい。この場合、ステップS10に続くステップS30の工程では、半導体集積回路の耐熱温度を超える温度で、Si基板(犠牲基板49)の上にSi34膜53を成膜するだけで、以降の工程を同様に行うことができる。
【0064】
(第2実施形態)
[光制御デバイスの製造方法2]
次に、第2実施形態に係る製造方法の概略について図9を参照して説明する。なお、図3に示す製造工程と同じ手順には同じ符号を付して説明を省略する。
図9に示すように、光制御デバイス1の第2実施形態に係る製造方法は、駆動回路基板を形成する工程(ステップS10B)と、犠牲基板の表面に酸化膜を成膜する工程(ステップS20)と、犠牲基板の表面に成膜された酸化膜の上に無機材料からなる膜を成膜する工程(ステップS30)と、導波路基板を形成する工程(ステップS40B)と、駆動回路基板と導波路基板とを接合する工程(ステップS50B)と、EOポリマー膜を積層する工程(ステップS60)と、EOポリマー導波路を形成する工程(ステップS70)と、上部電極を形成する工程(ステップS80)と、を有している。ステップS10Bの工程は、Si基板上へ接触電極を作成する工程(ステップS11B)と、接触電極の酸化膜埋め込み工程(ステップS12B)と、CMPによる接触電極表面の露出工程(ステップS13B)と、を含んでいる。
本実施形態においても、犠牲基板としてベアSi基板を用いており、ステップS20の工程では、ベアSi基板上へ酸化膜を形成する。また、本実施形態では、無機材料として、Si34を用いており、ステップS30の工程では、酸化膜上へSi34膜を形成する。ただし、導波路基板を形成する工程(ステップS40B)は、Si34導波路を形成する工程(ステップS41)と、そのSi34導波路上にクラッド(酸化膜)を形成してそのクラッドの表面を平坦化する工程(ステップS42)と、に続いて、さらに下部電極を形成してそれら下部電極をクラッド(酸化膜)で埋め込む工程(ステップS43)を含んでいる。ステップS50Bは、後記するようにステップS50に比べて接合時のアライメントの精度を緩和できる工程である。
【0065】
(駆動回路基板を形成する工程)
駆動回路基板を形成する工程(ステップS10B)において、ステップS11Bの工程では、図10(a)および図10(b)に示すように、通常の半導体集積回路の製造工程を用いて、基板41の表面に導波路本数に対応した接触電極71を形成する。接触電極71は、駆動回路31につながる表面上の電極である。ステップS11Bにおいて、接触電極71を下部電極33よりも小さく形成する。接触電極71のx方向の長さは、下部電極33のx方向の長さと同程度または短いことが望ましく、接触電極71のz方向の長さは、下部電極33のz方向の長さよりも短いことが望ましい。接触電極71には、下部電極33と同様に一般的な金属材料を用いることができる。接触電極71は、複数種の金属膜を積層して形成することができる。その場合、最表面の金属膜はAuまたはCuで形成することが好ましい。
【0066】
次に、ステップS12Bの工程では、図10(c)および図10(d)に示すように、接触電極71の表面を覆うように酸化膜43を形成する。次に、ステップS13Bの工程では、図10(e)および図10(f)に示すように、まず接触電極71の上の酸化膜43を平坦化する。平坦化の方法としては、CMP法等を用いることができる。ただし、ステップS13Bでは、CMP研磨において、研磨剤(スラリー)を変更し、接触電極71上の酸化膜43を除去して、接触電極71の上面77を露出させ、なおかつ、接触電極71の上面77と、接触電極71に隣り合う酸化膜43の上面79との段差を極力小さくする点がステップS13とは異なる。なお、接触電極71の上面77と酸化膜43の上面79との段差は、5~10nm以下であることが好ましい。最終的に完成したこの基板を、便宜上、駆動回路基板73と呼ぶ。
【0067】
ステップS10Bの工程により、複数の駆動回路31が埋め込まれ、複数の駆動回路31にそれぞれ導通した複数の接触電極71を有する駆動回路基板73が形成される。駆動回路基板73は、上面の大部分が酸化膜43で覆われているが、接触電極71の上面77が露出している点が、駆動回路基板45(図4(f)参照)とは異なる。
なお、ステップS20およびステップS30の工程は、図3に示す製造工程と同じ手順なので、説明を省略する。
【0068】
(導波路基板を形成する工程)
導波路基板を形成する工程(ステップS40B)では、図5(e)および図5(f)に示すSi34導波路を形成する工程(ステップS41)と、図5(g)および図5(h)に示すクラッド形成および平坦化工程(ステップS42)とを行う点は、図3に示すステップS40と同様である。ステップS41,S42を終えた時点では、導波路基板57(図5(h)参照)が完成している。導波路基板57は、Si34導波路8aおよびSi34導波路8bの組を複数備えている。この導波路基板57の上面59は、全体が酸化膜55により被覆されている。続いて、下部電極埋め込み工程(ステップS43)では、まず、図11(a)および図11(b)に示すようにz方向において、Si34導波路8aとSi34導波路8bとの間の領域に下部電極33をそれぞれ形成する。
【0069】
詳細には、ステップS43では、図5(h)に示すように、Si34導波路8aおよびSi34導波路8bが既に形成された導波路基板57に対して、その上面59全面に、電極材料からなる金属膜を成膜する。そして、フォトリソグラフィ法で、下部電極として所望の配置および形状になるようにパターンニングを行う。このとき、フォトリソグラフィ法を用いるので、Si34導波路8aとSi34導波路8bとの間の領域に対する下部電極33の位置は、サブμmオーダーの精度のアライメントでパターンニングすることができる。なお、下部電極33は、複数種の金属膜を積層して形成することができる。その場合、最表面の金属膜は、接触電極71の最表面の金属膜と同じ材料で形成することが好ましい。接触電極71の最表面の金属膜がAuで形成される場合、下部電極33の最表面の金属膜もAuで形成され、接触電極71の最表面の金属膜がCuで形成される場合、下部電極33の最表面の金属膜もCuで形成される。
【0070】
ステップS43において、下部電極33の形成後、さらに下部電極33を酸化膜で埋め込む工程、さらに、その後にCMP法による下部電極33の露出工程を行う。これらの工程は、ステップS12Bの工程(図10(c)および図10(d)参照)と、ステップS13Bの工程(図10(e)および図10(f)参照)と同様な工程なので、詳細な説明は省略する。なお、図11(a)および図11(b)は、CMP研磨により、下部電極33上の酸化膜を除去して、下部電極33の上面85を露出させ、なおかつ、下部電極33の上面85と、下部電極33に隣り合う酸化膜55の上面83との段差を極力小さくした状態を示している。最終的に完成したこの基板を、便宜上、導波路基板81と呼ぶ。導波路基板81は、上面の大部分が酸化膜55で覆われているが、下部電極33が埋め込まれており、その上面85が露出している点が、導波路基板57(図5(h)参照)とは異なる。
【0071】
(駆動回路基板と導波路基板とを接合する工程)
駆動回路基板と導波路基板とを接合する工程(ステップS50B)では、図11(c)および図11(d)に示すように、駆動回路基板73の上に、導波路基板81を積層する。このとき、駆動回路基板73の複数の接触電極71と、導波路基板81の複数の下部電極33とがそれぞれ対向するように駆動回路基板73と導波路基板81とを接合する。
【0072】
2つの基板を接合する前に、図10(f)に示すように、駆動回路基板73は、接触電極71の上面77と酸化膜43の上面79とが平坦化されていた。また、図11(b)に示すように、導波路基板81は、下部電極33の上面85と酸化膜55の上面83とが平坦化されていた。そのため、2つの基板を接合すると、駆動回路基板73の接触電極71と導波路基板81の下部電極33とが接合されると共に、駆動回路基板73の酸化膜43と導波路基板81の酸化膜55とが接合される。すなわち、電極同士が接合されると共に酸化膜同士が接合される。特に、接触電極71の上面77と、下部電極33の上面85とをそれぞれ金(Au)で形成しておくと、Au-Auの表面で原子レベルの拡散が起こり、強固な接合で出来上がるので、各電極をそのように形成しておくことが好ましい。なお、接触電極71の上面77と、下部電極33の上面85とをそれぞれCuで形成しておき、Cu-Cu接合により強固に接合してもよい。
このステップS50Bの後、ステップS60,S70,S80は、図3に示す製造工程と同様なので説明を省略する。
【0073】
第2実施形態に係る製造方法によれば、2つの基板を接合する工程よりも前に、既に導波路基板81の下部電極33はSi34導波路8a,8bにアライメントがされている。また、導波路基板81の下部電極33に対し駆動回路基板73の接触電極71を小さく形成しており、大きな下部電極33が小さな接触電極71に導通できれば接合時に多少ずれても構わない。したがって、第2実施形態に係る製造方法によれば、2つの基板の接合時(ステップS50B)のアライメントは、図3に示すステップS50のアライメントに比べ大幅に緩和することができる。
【0074】
(変形例)
第2実施形態に係る製造方法においても、第1実施形態に係る製造方法と同様に、図8(a)に示す光制御デバイス1Bや図8(b)に示す光制御デバイス1Cを、同様に製造することができる。なお、グレーティングの形状は、図8(a)および図8(b)に示すものに限られない。また、第2実施形態に係る製造方法においても、複数のSi34導波路8bが非周期的に配列された光制御デバイスを製造することができる。
【0075】
また、Si34導波路8a,8bとEOポリマー導波路9との間にギャップが不要な光制御デバイスを第2実施形態に係る製造方法で製造する場合、図5(a)および図5(b)に示すステップS20の工程を省略すればよい。この場合、図5(c)および図5(d)に示すステップS30の工程では、半導体集積回路の耐熱温度を超える温度で、Si基板(犠牲基板49)の上にSi34膜53を成膜する。
【0076】
また、第2実施形態に係る製造方法においても、図9図5(c)および図5(d)に示すステップS30の工程では、Si基板からなる犠牲基板49の表面に成膜された酸化膜51の上にSi34膜を成膜することとしたが、これに限定されるものではない。たとえばSi34導波路8a,8bとEOポリマー導波路9との間に酸化膜51(中間クラッド20a)によるギャップが不要な光制御デバイスを製造する場合、図9図5(a)および図5(b)に示すステップS20の工程を省略すればよい。この場合、ステップS10Bに続くステップS30の工程では、半導体集積回路の耐熱温度を超える温度で、Si基板(犠牲基板49)の上にSi34膜53を成膜するだけで、以降の工程を同様に行うことができる。
【符号の説明】
【0077】
1,1B,1C 光制御デバイス
2 光フェーズドアレイ
3 光入力部
4 光分離部
5 位相制御部
6 マルチ光導波路部
7 光出力端
8a Si34導波路(入力側無機導波路)
8b,8B,8C Si34導波路(出力側無機導波路)
9 EOポリマー導波路
10 基板
11 入力側光結合部
12 出力側光結合部
20 クラッド
20a 中間クラッド
20b 下部クラッド
20c 上部クラッド
30 位相制御部駆動回路部
31 駆動回路
33 下部電極(第1電極)
35 上部電極(第2電極)
41 基板
43 酸化膜
45 駆動回路基板
47 上面
49 犠牲基板
51 酸化膜
53 Si34
55 酸化膜
57 導波路基板
59 上面
61 表面
63 EOポリマー膜
65 酸化膜
67,69 グレーティング
71 接触電極
73 駆動回路基板
77,79 上面
81 導波路基板
83,85 上面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12