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特開2024-135973面発光レーザ、レーザ装置、検出装置、移動体、情報端末機器及び面発光レーザの駆動方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024135973
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】面発光レーザ、レーザ装置、検出装置、移動体、情報端末機器及び面発光レーザの駆動方法
(51)【国際特許分類】
   H01S 5/183 20060101AFI20240927BHJP
   H01S 5/062 20060101ALI20240927BHJP
   H01S 5/042 20060101ALI20240927BHJP
   G01C 3/06 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
H01S5/183
H01S5/062
H01S5/042
G01C3/06 120Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023046908
(22)【出願日】2023-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(72)【発明者】
【氏名】上野 尚文
(72)【発明者】
【氏名】軸谷 直人
【テーマコード(参考)】
2F112
5F173
【Fターム(参考)】
2F112AD01
2F112DA24
5F173AC03
5F173AC13
5F173AC35
5F173AC42
5F173AC52
5F173AC61
5F173AR37
5F173SC10
5F173SE02
5F173SG05
(57)【要約】
【課題】裾引きを低減した短パルス光を得ることができる面発光レーザ、レーザ装置、検出装置及び面発光レーザの駆動方法を提供する。
【解決手段】面発光レーザは、活性層と、第1反射鏡と、第2反射鏡と、を有し、前記活性層を挟んで、前記第1反射鏡と前記第2反射鏡とが第1方向に対向する、共振器と、電源装置に接続され、前記活性層に電流を注入する電極対と、を有し、前記電源装置により電流が注入される期間を電流注入期間、前記電流注入期間の後であって前記活性層に注入される電流値が前記電流注入期間における電流値よりも低下する期間を電流減少期間として、前記電流注入期間にレーザ発振せず、前記電流減少期間にレーザ発振し、レーザ光を発生する面発光レーザにおいて、前記共振器の光学厚さは、前記レーザ光の真空中の波長の1.5倍以上である。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性層と、第1反射鏡と、第2反射鏡と、を有し、前記活性層を挟んで、前記第1反射鏡と前記第2反射鏡とが第1方向に対向する、共振器と、
電源装置に接続され、前記活性層に電流を注入する電極対と、
を有し、
前記電源装置により電流が注入される期間を電流注入期間、前記電流注入期間の後であって前記活性層に注入される電流値が前記電流注入期間における電流値よりも低下する期間を電流減少期間として、
前記電流注入期間にレーザ発振せず、前記電流減少期間にレーザ発振し、レーザ光を発生する面発光レーザにおいて、
前記共振器の光学厚さは、前記レーザ光の真空中の波長の1.5倍以上である
面発光レーザ。
【請求項2】
活性層と、第1反射鏡と、第2反射鏡と、を有し、前記活性層を挟んで、前記第1反射鏡と前記第2反射鏡とが第1に対向する、共振器と、
電源装置に接続され、前記活性層に電流を注入する電極対と、
を有し、
ピーク値の1/eとなる時間幅を光パルス幅として、出射される光の光パルス幅は、前記電源装置により電流が注入される期間である電流注入期間の時間幅よりも小さく、かつ110ps以下である面発光レーザにおいて、
前記共振器の光学厚さは、レーザ光の真空中の波長の1.5倍以上である
面発光レーザ。
【請求項3】
前記共振器は、前記第1反射鏡と前記活性層との間に配置される第1スペーサ層と、前記活性層と前記第2反射鏡との間に配置される第2スペーサ層と、をさらに有する、請求項1又は請求項2に記載の面発光レーザ。
【請求項4】
縦方向に垂直な面内に、相対的に屈折率の高い高屈折領域と、該高屈折領域よりも屈折率が低く、該高屈折領域を取り囲む低屈折領域を有する、請求項1又は請求項2に記載の面発光レーザ。
【請求項5】
前記低屈折領域は酸化狭窄により形成されており、
前記高屈折領域の厚さは35nm以下であり、
前記低屈折領域と前記高屈折領域との境界の先端部から3μmの位置における前記低屈折領域の厚さは、前記高屈折領域の厚さの2倍以下である、請求項4に記載の面発光レーザ。
【請求項6】
前記低屈折領域と前記高屈折領域の境界の先端部で囲まれる領域の、光の射出方向に垂直な面内における面積が120μm以下である、請求項4に記載の面発光レーザ。
【請求項7】
請求項1又は請求項2に記載の面発光レーザと、
前記電極対に接続され、前記面発光レーザに電流を注入する電源装置と、
を備えるレーザ装置。
【請求項8】
前記電流注入期間と、前記電流注入期間の後であって前記活性層に注入される電流値が前記電流注入期間における電流値よりも低下する期間である電流減少期間と、は複数回繰り返され、
前記電流減少期間に対する前記電流注入期間の比率は0.5%以下である、請求項7に記載のレーザ装置。
【請求項9】
請求項7に記載のレーザ装置と、
前記面発光レーザから発せられ対象物で反射された光を検出する検出部と、を備える検出装置。
【請求項10】
前記検出部からの信号に基づき、前記対象物との距離を算出する、請求項9に記載の検出装置。
【請求項11】
請求項9に記載の検出装置を備える移動体。
【請求項12】
請求項9に記載の検出装置を備える情報端末機器。
【請求項13】
活性層と、第1反射鏡と、第2反射鏡と、を有し、前記活性層を挟んで、前記第1反射鏡と前記第2反射鏡とが第1方向に対向する、共振器と、
電源装置に接続され、前記活性層に電流を注入する電極対と、
を有し、
前記共振器の光学厚さは、レーザ光の真空中の波長の1.5倍以上である面発光レーザの駆動方法であって、
前記電源装置により電流が注入される期間を電流注入期間、前記電流注入期間の後であって前記活性層に注入される電流値が前記電流注入期間における電流値よりも低下する期間を電流減少期間として、
前記電流注入期間にレーザ発振させず、前記電流減少期間にレーザ発振させる工程を有する、
面発光レーザの駆動方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、面発光レーザ、レーザ装置、検出装置、移動体、情報端末機器及び面発光レーザの駆動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
人間の目に対するレーザの安全基準はアイセーフのクラスにより分類され、IEC.60825-1Ed.3(準ずる国内規格JIS C 6802)により規定されている。距離測定装置を様々な環境で使用するためには、安全対策や警告が不要となるクラス1の基準を満たすことが望ましい。クラス1の基準の一つとして平均パワーの上限が規定されている。パルス光の場合は、ピーク出力、パルス幅、デューティ比から平均パワーに換算して規格値と比較する。光パルスのパルス幅が短いほど許容されるピーク出力が高くなるため、高ピーク出力でパルス幅が短いレーザ光源は、アイセーフを満たしつつ、TOF(Time Of Flight)センサにおいて高精度化と長距離化の両立のために有用である。
【0003】
1ns以下の短パルス化を実現する手段として、ゲインスイッチング、Qスイッチング、モードロックなどがある。ゲインスイッチングは、緩和振動現象を利用して100ps以下のパルス幅を実現する手段である。パルス電流の制御だけで実現できるため、Qスイッチングやモードロックに比べて構成が簡易である。
【0004】
しかし、ゲインスイッチングでは、緩和振動現象を利用するため先頭のパルス以後に複数のパルス列が出力されやすい。あるいは緩和振動がおさまった後に広いパルス幅のテール光(裾引き)が出力されやすい。これらの現象は応用する上で望ましくない。例えば、単一光子アバランシェダイオード(Single Photon Avalanche Diode:SPAD)を用いてガイガーモードで検出する場合、最も高いピーク出力だけがセンシング対象となり、対象とするパルス以外にパルスが複数あるとノイズとなり、またテール光は不要なエネルギーであるためアイセーフの観点で不利になる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
裾引きを低減した短パルス光を発生することのできる面発光レーザには検討の余地がある。
【0006】
本発明は、裾引きを低減した短パルス光を得ることができる面発光レーザ、レーザ装置、検出装置、移動体、情報端末機器、及び面発光レーザの駆動方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
開示の技術の一態様によれば、面発光レーザは、面発光レーザは、活性層と、第1反射鏡と、第2反射鏡と、を有し、前記活性層を挟んで、前記第1反射鏡と前記第2反射鏡とが第1方向に対向する、共振器と、電源装置に接続され、前記活性層に電流を注入する電極対と、を有し、前記電源装置により電流が注入される期間を電流注入期間、前記電流注入期間の後であって前記活性層に注入される電流値が前記電流注入期間における電流値よりも低下する期間を電流減少期間として、前記電流注入期間にレーザ発振せず、前記電流減少期間にレーザ発振し、レーザ光を発生する面発光レーザにおいて、前記共振器の光学厚さは、前記レーザ光の真空中の波長の1.5倍以上である。
【発明の効果】
【0008】
開示の技術によれば、裾引きを低減した短パルス光を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】第1実施形態に係る面発光レーザを示す断面図である。
図2】第1実施形態における酸化狭窄層及びその近傍を示す断面図である。
図3】参考例における酸化狭窄層及びその近傍を示す断面図である。
図4】実測に用いた回路を示す等価回路図である。
図5】参考例についての実測結果を示す図である。
図6】第1実施形態についての実測結果を示す図である。
図7】構造による電界強度及び透過屈折率の分布の相違を示す図である。
図8】時間変化に伴う電界強度及び透過屈折率の分布の変化を示す図である。
図9】参考例におけるキャリア密度及びしきい値キャリア密度についてのシミュレーション結果を示す図である。
図10】参考例における光出力についてのシミュレーション結果を示す図である。
図11】第1実施形態についてのシミュレーションで用いた関数の例を示す図である。
図12】第1実施形態における光出力についてのシミュレーション結果を示す図である。
図13】第1実施形態におけるキャリア密度、しきい値キャリア密度、光子密度及び横方向の光閉じ込め係数のシミュレーション結果を示す図である。
図14図13中の一部を拡大して示す図である。
図15】光パルスの実測結果及びシミュレーション結果の例を示す図である。
図16】シミュレーションに用いた第1モデルを示す図である。
図17】基本モードの電界強度分布の断面プロファイルを示す図である。
図18】光閉じ込め係数と酸化狭窄層の厚さ及び非酸化領域の直径との関係の計算結果を示す図である。
図19】第1モデルについての酸化狭窄層の厚さと光閉じ込め係数との関係の計算結果を示す図である。
図20】シミュレーションに用いた第2モデルを示す図である。
図21】シミュレーションに用いた第3モデルを示す図である。
図22】第2モデル及び第3モデルについての屈折率の低下量と光閉じ込め係数との関係の計算結果を示す図である。
図23】シミュレーションに用いた第4モデルを示す図である。
図24】第4モデルについての境界から外側に3μm離れた位置における酸化領域の厚さと光閉じ込め係数との関係の計算結果を示す図である。
図25】電流狭窄面積とピーク光出力との関係を示す図である。
図26】第2実施形態に係る面発光レーザを示す断面図である。
図27】共振器に注入される電流密度を横軸とし、共振器のキャリア面密度を縦軸としたシミュレーション結果を示すグラフである。
図28】共振器長と、共振器の縦モードとの関係を示すグラフである。
図29】共振器に注入される電流密度を横軸とし、共振器のキャリア面密度を縦軸としたシミュレーション結果を示すグラフである。
図30】パルス光の発振波長が940nmの面発光レーザと、パルス光の発振波長が780nmの面発光レーザにおける、共振器のキャリア面密度の比較を示すグラフである。
図31】第3実施形態に係る面発光レーザを示す断面図である。
図32】第4実施形態に係るレーザ装置を示す図である。
図33】デューティ比と光パルスのピーク出力との関係を示す図である。
図34】第5実施形態に係る距離測定装置を示す図である。
図35】第6実施形態に係る移動体を示す図である。
図36】第6実施形態に係る情報端末機器の構成の一例を示す図である。
図37】第6実施形態に係る情報端末機器の構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の実施形態について添付の図面を参照しながら説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省くことがある。
【0011】
(第1実施形態)
まず、第1実施形態について説明する。第1実施形態は面発光レーザに関する。図1は、第1実施形態に係る面発光レーザを示す断面図である。
【0012】
第1実施形態に係る面発光レーザ100は、例えば酸化狭窄を採用した垂直共振器型面発光レーザ(Vertical Cavity Surface Emitting Laser:VCSEL)である。面発光レーザ100は、n型GaAs基板110と、n型分布ブラッグ反射鏡(distributed Bragg reflector:DBR)120と、活性層130と、p型DBR140と、酸化狭窄層150と、上部電極160と、下部電極170とを有する。
【0013】
本実施形態においては、n型GaAs基板110の表面に垂直な方向に光が射出される。以下、n型GaAs基板110の表面に垂直な方向を縦方向(第1方向の一例)、n型GaAs基板110の表面に平行な方向を横方向又は面内方向ということがある。
【0014】
n型DBR120はn型GaAs基板110上にある。n型DBR120は、例えば複数のn型半導体膜を積層して構成された半導体多層膜反射鏡である。活性層130はn型DBR120上にある。活性層130は、例えば、複数の量子井戸層及び障壁層を含む。p型DBR140は活性層130上にある。p型DBR140は、例えば複数のp型半導体膜を積層して構成された半導体多層膜反射鏡である。
【0015】
第1実施形態において、n型DBR120と、活性層130と、p型DBR140とで、共振器100Cが構成される。共振器100C中において、活性層130は、発振光(レーザ光)の定在波の腹と節の中間よりも腹側となる位置に設けられている。活性層130を定在波の腹となる位置に設けた場合、発光効率が最も高くなる。
【0016】
第1実施形態における共振器100Cの共振器長Lは、n型DBR120とp型DBR140との間の光学厚さに対応する。第1実施形態の場合、n型DBR120とp型DBR140に挟まれる活性層130の光学厚さが、共振器長Lに対応する。
【0017】
共振器長Lは、真空中における発振波長λとの関係で、式(1)の条件を満たす。
【0018】
【数1】
【0019】
ただし、nは、自然数である(ただし、0を含まない)。
【0020】
上部電極160はp型DBR140の上面に接触する。下部電極170はn型GaAs基板110の下面に接触する。上部電極160と下部電極170との対は、電極対の一例である。ただし、電極の位置はこれには限定されず、活性層に電流を注入できる位置にあればよい。例えば、DBRを介してではなく共振器のスペーサ層に直接電極を配置するイントラキャビティ構造であってもよい。
【0021】
p型DBR140は、例えば酸化狭窄層150を含む。酸化狭窄層150はAlを含有する。酸化狭窄層150は、光の射出方向に垂直な面内に、酸化領域151と、非酸化領域152とを含む。酸化領域151は、環状の平面形状を有し、非酸化領域152を取り囲む。非酸化領域152は、p型AlAs層155と、縦方向でp型AlAs層155を間に挟む2つのp型Al0.85Ga0.15As層156とから構成される。酸化領域151はAlOから構成される。酸化領域151の屈折率は非酸化領域152の屈折率よりも低い。例えば、酸化領域151の屈折率は1.65であり、p型AlAs層155の屈折率は2.96であり、p型Al0.85Ga0.15As層156の屈折率は3.04である。平面視で、メサ180の酸化領域151の内縁の内側の部分は高屈折領域の一例であり、メサ180の酸化領域151の内縁の外側の部分は低屈折領域の一例である。なお、p型Al0.85Ga0.15As層156に代えて、p型AlGa1-xAs層(0.70≦x≦0.90)が設けられてもよい。本実施形態では、p型DBR140、活性層130及びn型DBR120がメサ180を構成している。ただし、酸化狭窄により電流狭窄領域を形成する本実施形態においては、少なくとも酸化狭窄層150および酸化狭窄層150より上に位置する半導体層がメサ形状に形成されていればよい。また、少なくとも活性層がメサに含まれるよう形成することで、活性層で発生した光が横方向へ漏れることを防ぐことができる。
【0022】
ここで、酸化狭窄層150について詳細に説明する。図2は、第1実施形態における酸化狭窄層及びその近傍を示す断面図である。
【0023】
図2に示すように、酸化領域151は、平面視で、環状の外側領域153と、環状の内側領域154とを有する。外側領域153はメサ180の側面に露出する。外側領域153は、断面視で表面の接触面が酸化領域151の外側に位置するように厚さが変化する領域であり、内側領域154は、断面視で表面の接触面が酸化領域151の内側に位置するように厚さが変化する領域である。内側領域154は外側領域153の内側にある。内側領域154の厚さは、外側領域153との境界において外側領域153の厚さと一致し、メサ180の中心に近づくほど薄くなっている。内側領域154は、断面視で、内縁から外側領域153との境界にかけて徐々に厚くなるテーパ形状を有する。非酸化領域152は外側領域153の内側にある。非酸化領域152の一部は縦方向で内側領域154を挟む。非酸化領域152の他の一部は平面視で内側領域154の内縁の内側にある。例えば、非酸化領域152の厚さは35nm以下である。外側領域153の厚さは非酸化領域152の厚さより大きくてもよい。なお、本開示において、非酸化領域152の厚さとは、酸化領域151の内縁(内側領域154の内縁)よりもメサ180の中心側の部分の厚さである。例えば、メサ180の側面から酸化領域151の内縁までの距離は、約8μm~11μmの範囲である。
【0024】
酸化領域151は、例えばp型AlAs層及びp型Al0.85Ga0.15As層の酸化狭窄により形成されている。例えば、高温水蒸気環境下でのp型AlAs層及びp型Al0.85Ga0.15As層の酸化処理により酸化領域151を形成できる。なお、同一のp型AlAs層及びp型Al0.85Ga0.15As層を酸化したとしても、酸化の条件により、p型AlAs層及びp型Al0.85Ga0.15As層から得られる酸化狭窄層の構造は相違し得る。従って、酸化により酸化狭窄層150となる層、例えばp型AlAs層及びp型Al0.85Ga0.15As層の酸化前の構造が同一であっても、酸化の条件によっては、酸化領域151及び非酸化領域152を備えた酸化狭窄層150が得られないことがある。
【0025】
ここで、参考例と比較しながら、第1実施形態の作用効果について説明する。図3は、参考例における酸化狭窄層及びその近傍を示す断面図である。
【0026】
参考例では、酸化狭窄層150が、酸化領域151及び非酸化領域152に代えて、酸化領域951及び非酸化領域952を有する。酸化領域951は、環状の平面形状を有し、非酸化領域952を取り囲む。非酸化領域952は、p型AlAs層955と、縦方向でp型AlAs層955を間に挟む2つのp型Al0.85Ga0.15As層956とから構成される。酸化領域951はAlOから構成される。酸化領域951は、平面視で、環状の外側領域953と、環状の内側領域954とを有する。外側領域953はメサ180の側面に露出する。外側領域953の厚さは面内方向で一定である。内側領域954は外側領域953の内側にある。内側領域954の厚さは、外側領域953との境界において外側領域953の厚さと一致し、メサ180の中心に近づくほど薄くなっている。内側領域954は、断面視で、内縁から外側領域953との境界にかけて徐々に厚くなるテーパ形状を有する。非酸化領域952は外側領域953の内側にある。非酸化領域952の一部は縦方向で内側領域954を挟む。非酸化領域952の他の一部は平面視で内側領域954の内縁の内側にある。例えば、メサ180の側面から酸化領域951の内縁までの距離は、約8μm~11μmの範囲である。酸化領域951及び非酸化領域952の厚さは酸化狭窄層150の厚さと等しい。
【0027】
まず、第1実施形態及び参考例についての実測結果について説明する。図4は、実測に用いた回路を示す等価回路図である。
【0028】
この回路では、第1実施形態又は参考例に対応する面発光レーザ11に直列に電流モニタ用の抵抗12が接続されている。また、抵抗12に並列に電圧計13が接続されている。また、面発光レーザ11から出力された光は広帯域の高速フォトダイオードで受光して電圧信号に変換し、その電圧信号をオシロスコープで観測した。
【0029】
図5は、参考例についての実測結果を示す図である。図5(a)は、パルス電流の幅が約2nsの場合の実測結果を示し、図5(b)は、パルス電流の幅が約9nsの場合の実測結果を示し、図5(c)は、パルス電流の幅が約17nsの場合の実測結果を示す。図5(a)~(c)の実測において、バイアス電流の大きさ及びパルス電流の振幅は共通である。図5には、抵抗12を流れる電流及び高速フォトダイオードで測定した光出力を示す。抵抗12を流れる電流は、電圧計13を用いて算出できる。
【0030】
図5に示すように、参考例では、パルス電流の幅の大きさに関係なく、パルス電流が注入された直後に光パルスが出力され、その後はパルス電流の注入が停止するまでは平衡状態になり、一定のテール光が出力されている。先頭の光パルスは緩和振動によるものであり、典型的なゲインスイッチング駆動である。パルス幅を変えても、光パルスが発生するタイミングは変わらない。緩和振動により生じる光パルスは、レーザ共振器内のキャリア密度がしきい値キャリア密度を超えた直後に生じるためである。テール光の出力を抑制するために、光パルスが出力された直後に電流注入を停止することが考えられる。しかし、緩和振動による光パルスの時間幅は100ps以下であるため、電流の大きさが10A以上と大きい場合には、光パルスが出力された直後に100ps以下の時間で電流の注入を停止することは難しい。
【0031】
図6は、第1実施形態についての実測結果を示す図である。図6(a)は、パルス電流の幅が約0.8nsの場合の実測結果を示し、図6(b)は、パルス電流の幅が1.3nsの場合の実測結果を示し、図6(c)は、パルス電流の幅が2.5nsの場合の実測結果を示す。図6(a)~(c)の実測において、バイアス電流の大きさ及びパルス電流の振幅は共通である。図6には、抵抗12を流れる電流及び高速フォトダイオードで測定した光出力を示す。抵抗12を流れる電流は、電圧計13を用いて算出できる。
【0032】
図6に示すように、第1実施形態では、パルス電流が注入されている状態では光出力が生じておらず、パルス電流の注入が減少した直後に光パルスが出力されている。また、光パルスが出力された後のテール光はほぼ見られない。ゲインスイッチングによる光出力であれば、パルス電流の幅を変えたとしても、光パルスが生じるタイミングは変わらない。これに対し、第1実施形態では、パルス電流の注入が減少したことをきっかけとして光パルスが出力されている。従って、第1実施形態における光出力は、緩和振動現象を利用した通常のゲインスイッチングではないといえる。
【0033】
このように、第1実施形態と参考例とでは、光出力の機構及び態様が明確に相違している。この相違は、下記のように説明される。
【0034】
面発光レーザでは、レーザ光は共振器中を酸化狭窄層と垂直方向に伝搬する。このため、酸化狭窄層が厚いほど、屈折率差に依存する等価的な導波路長が長くなり、横方向の光閉じ込め作用が大きくなる。酸化狭窄層を含むDBRを等価的な導波路構造と見なした場合、図7(a)のように等価屈折率差が大きいときには、レーザ光の電界強度分布は中央付近に集められる。これに対し、図7(b)のように等価屈折率差が小さいときには、レーザ光の電界強度分布は周辺の酸化領域にまで広がる。第1実施形態と参考例とを比較すると、第1実施形態では、酸化狭窄層150が内側領域154を含むため、第1実施形態において、等価屈折率差が小さくなる。従って、参考例では、図7(a)に示すように、レーザ光の電界強度分布が中央付近に集められるのに対し、第1実施形態では、図7(b)に示すように、レーザ光の電界強度分布が酸化領域151にまで広がる。
【0035】
ここで、横方向の光閉じ込め係数を「面発光レーザ素子の中心を通る横方向断面における電界の積分強度」に対する「電流通過領域と同じ半径領域中における電界の積分強度」の割合とし、式(2)で定義する。ここで、aは電流通過領域の半径に相当し、Φは基板に垂直な方向を回転軸とした回転方向を表す。
【0036】
【数2】
【0037】
次に、パルス電流の注入が停止された際に起きる現象のモデルについて説明する。パルス電流が注入されている状態では、酸化狭窄層により電流経路はメサの中央付近に集中し、キャリア密度が高い状態となっている。このとき、キャリア密度の高い非酸化領域では、キャリアプラズマ効果により屈折率が小さくなる作用が生じる。キャリアプラズマ効果は、自由キャリア密度に比例して屈折率が低下する現象である。例えば文献「Kobayashi, Soichi, et al. "Direct frequency modulation in AlGaAs semiconductor lasers." IEEE Transactions on Microwave Theory and Techniques 30.4 (1982): 428-441」によると、屈折率の変化量は式(3)で示される。ここで、Nはキャリア密度である。
【0038】
【数3】
【0039】
図8に、パルス電流が注入されている期間(図8(a))と、パルス電流の注入が停止されて減少する期間(図8(b))とでの等価屈折率及び電界強度分布を模式的に示す。パルス電流が注入されている期間では、酸化狭窄層により生じる等価屈折率差(n1-n0)を打ち消す方向にキャリアプラズマ効果が作用して、等価屈折率差は(n2-n0)となっている。この状態でパルス電流の注入が減少すると、キャリアプラズマ効果の作用がなくなり、等価屈折率差は(n1-n0)に戻る。これにより、メサの周辺部まで広がっていた光子がメサの中央部に集められ、非酸化領域での光子密度が上昇する。つまり、横方向光閉じ込めが強い状態に変化する。パルス電流の注入が停止すると、共振器内に蓄積されたキャリアはキャリア寿命時間をかけて減少する。しかし、キャリア密度が完全に減衰する前に横方向光閉じ込めが強くなると誘導放出が始まり、蓄積されていたキャリアが一気に消費されて光パルスが出力される。パルス電流が注入されている期間は電流注入期間の一例であり、パルス電流の注入が停止されて減少する期間は電流減少期間の一例である。
【0040】
以上のモデルをシミュレーションにより検証した結果を以下に示す。キャリア密度と光子密度のレート方程式を式(4),(5)に示す。
【0041】
【数4】
【0042】
【数5】
【0043】
ここで、式(4),(5)中の各文字が示す内容は下記の通りである。
N: キャリア密度[1/cm
S: 光子密度[1/cm
i(t): 注入電流[A]
e: 電荷素量[C]
V: 共振器体積[cm
τ(N): キャリア寿命時間[s]
: 群速度[cm/s]
g(N,S): 利得[1/cm]
Γ: 光閉じ込め係数
τ: 光子寿命時間[s]
β: 自然放出結合係数
: 利得係数[1/cm]
ε: 利得抑圧係数
tr: 透明キャリア密度[1/cm
η: 電流注入効率
α: 共振器ミラー損失[1/cm]
h: プランク定数[Js]
ν: 光の周波数[1/s]
【0044】
利得g(N,S)は式(6)で表される。
【0045】
【数6】
【0046】
光閉じ込め係数Γは、式(7)に示すように、横方向の光閉じ込め係数Γと縦方向の光閉じ込め係数Γとの積で定義される。
【0047】
【数7】
【0048】
しきい値キャリア密度Nthは式(8)で表される。
【0049】
【数8】
【0050】
しきい値電流Ithとしきい値キャリア密度Nthとの間には、式(9)の関係がある。
【0051】
【数9】
【0052】
共振器から出力される光出力Pと光子密度Sとの間には、式(10)の関係がある。
【0053】
【数10】
【0054】
ここで、参考例についてのシミュレーションの結果について説明する。参考例については、横方向の光閉じ込め係数Γは1とし、図5に示す電流モニタ波形を入力してシミュレーションを実施した。キャリア密度N及びしきい値キャリア密度Nthについてのシミュレーション結果を図9に示し、光出力についてのシミュレーション結果を図10に示す。
【0055】
図9及び図10に示すように、パルス電流が注入された約5nsの時点で、その直後にキャリア密度Nがしきい値キャリア密度Nthを超え、緩和振動による光パルスが出力されている。その後は平衡状態となり一定のテール光が出力されている。このように、シミュレーションにおいて、図5に示す実測結果に近い結果が得られている。
【0056】
次に、第1実施形態についてのシミュレーションの結果について説明する。第1実施形態については、横方向の光閉じ込め係数Γを1未満で、横方向の光閉じ込め係数Γをキャリア密度Nの増加に従って減少する関数とし、図6に示す電流モニタ波形を入力してシミュレーションを実施した。横方向の光閉じ込め係数Γを上記の関数としたのは、キャリアプラズマ効果による屈折率変化の影響を取り入れるためである。図11は、関数の例を示す図である。光出力のシミュレーション結果を図12に示す。
【0057】
図12に示すように、パルス電流の注入を停止したタイミングで光パルス出力が得られている。このように、シミュレーションにおいて、図6に示す実測結果に近い結果が得られている。
【0058】
この結果を詳しく解析するために、パルス幅が2.5nsの条件におけるキャリア密度N、しきい値キャリア密度Nth、光子密度S及び横方向の光閉じ込め係数Γのシミュレーション結果を図13に示す。図13(a)にキャリア密度N、しきい値キャリア密度Nth及び光子密度Sのシミュレーション結果を示し、図13(b)に横方向の光閉じ込め係数Γのシミュレーション結果を示す。
【0059】
横方向の光閉じ込め係数Γがキャリア密度Nの関数であるため、パルス電流が注入されている3ns~5.5nsの範囲では横方向の光閉じ込め係数Γが低下している。この範囲では、横方向の光閉じ込め係数Γの低下にともなってしきい値キャリア密度Nthが上昇し、N<Nthとなるため誘導放出が起こりにくく、光子密度Sは増えない。5.5nsの時点でパルス電流の注入が減少し始めると、横方向の光閉じ込め係数Γは再び上昇し、その過程において光子密度Sがパルス状に生じている。図13において5ns~6nsの範囲で時間軸を拡大したグラフを図14に示す。
【0060】
約5.5nsの時点でパルス電流の注入が減少し始めると、キャリア密度Nは低下し始める。それと同時に横方向の光閉じ込め係数Γも上昇し、しきい値キャリア密度Nthが低下する。キャリア密度Nが低下するよりも、しきい値キャリア密度Nthの低下する方が早いため、キャリア密度Nが低下する過程でN>Nthとなる時間が生じる。この時間には、まず自然放出により光子密度Sが上昇し、ある程度光子密度Sが増加すると誘導放出が支配的となり、光子密度Sが急増する。同時にキャリア密度Nが急減し、再びN<Nthとなると光子密度は急減する。
【0061】
このように、パルス電流の注入が停止したことをきっかけとして光パルスが出力される現象がシミュレーションにより再現できた。
【0062】
光パルスの立ち上がり時間は、しきい値キャリア密度Nthがキャリア寿命時間よりも早く減少すると短くなる。つまり、式(7)より横方向光閉じ込め係数Γの増加が速いほど立ち上がり時間が短くなる。光パルスの減衰時間は、光子寿命時間に依存する。光パルスの実測結果及びシミュレーション結果の例を図15に示す。図15(a)は実測結果を示し、図15(b)はシミュレーション結果を示す。
【0063】
本明細書では、光パルス幅を、ピーク値の1/eとなる時間幅と定義する。得られた光パルス幅は、図15(a)の実測結果では86ps、図15(b)のシミュレーション結果では81psである。ここでeは自然対数である。このモデルによれば、光パルスの幅は注入するパルス電流よりも短く、注入するパルス電流の時間幅に制限されることなく短くすることができる。
【0064】
図6(a)~(c)の実測結果における半値全幅(FWHM)と、光パルス幅(ピーク値の1/eとなる時間幅)を表1に示す。いずれの場合も、40~60psのFWHMと、80~110psの光パルス幅が得られた。半値全幅に対する光パルス幅の比率(光パルス幅/半値全幅)は1.7~1.8程度であった。ガウス関数式の定義に基づけば、半値全幅に対する光パルス幅の比率は1.70となるため、本実施形態の光パルスはガウス関数に近い波形であると言える。一方、参考例(図5(a)~(c))の実測結果では、パルス光の後に一定のテール光が出力されるため、電流注入を停止するまでピーク値の1/e以下とならない。つまり、光パルス幅(ピーク値の1/eとなる時間幅)がパルス電流の幅に依存するため、ピコ秒オーダーの光パルス幅を得ることは難しい。
【0065】
【表1】
【0066】
本実施形態においては、光パルス出力が生じた後に継続的な光パルス列が生じにくい。光パルスが生じるときにはパルス電流の注入が減少しており、緩和振動が生じにくいためである。
【0067】
また、光パルス出力が生じた後にテール光が生じにくい。光パルスが生じた後にはパルス電流の注入が減少しており、キャリア密度が増加しにくいためである。
【0068】
また、パルス電流の注入を停止した直後に光パルスが出力されるため、光パルスが出力されるタイミングを任意に制御することができる。
【0069】
また、第1実施形態により生じる光パルスの幅は、注入したパルス電流幅よりも短い。大電流化した場合でもパルス電流幅を短くする必要がないため、寄生インダクタンスの影響を受けにくい。
【0070】
第1実施形態に係る面発光レーザ100を並列に複数配置して面発光レーザアレイを形成し、同時に光パルスを出力させることで、より大きな光ピーク出力を得ることができる。面発光レーザアレイに注入する電流は1個の面発光レーザ100に注入する電流よりも大きくなるが、面発光レーザ100により出力される光パルスの幅が注入するパルス電流の幅よりも狭いため、小さい光パルス幅を出力させることができる。
【0071】
第1実施形態に係る面発光レーザ100から出力される光のパルス幅は限定されないが、例えば1ns以下であり、好ましくは500ps以下であり、より好ましくは100ps以下である。
【0072】
なお、第1実施形態において、内側領域154の内縁から外側に3μm離れた位置、すなわち非酸化領域152と酸化領域151との境界の先端部から3μmの位置における酸化領域151の厚さは、非酸化領域152の厚さの2倍以下であることが好ましい。例えば、非酸化領域152の厚さが31nmの場合、内側領域154の内縁から外側に3μm離れた位置における厚さは62nm以下であることが好ましく、54nmであってもよい。メサ180の側面から酸化領域151の内縁までの距離(酸化距離)が8μm~11μmの範囲である場合、3μmという距離は酸化距離の28%~38%に相当する。上記の参考例の実測を行った際に酸化領域951の内縁から外側に3μm離れた位置で酸化領域951の厚さと、非酸化領域952の厚さとを測定したところ、前者は79nm、後者は31nmであり、前者は後者の2.55倍であった。発明者らが様々な酸化狭窄構造の素子を比較評価した結果、比率が2以下の場合に横方向の光閉じ込め係数Γが小さくなり、高出力で裾引きのない短パルス光を得やすいことが判明した。
【0073】
ここで、第1実施形態及び参考例の実測値を用いて光学モードシミュレーションを行った結果について説明する。光学モードシミュレーションでは、回転対称な積層構造モデルにおいて各領域の屈折率を設定することで、固有モードの電界強度分布を計算することができる。今回の光学モードシミュレーションでは、通電による発熱の影響を含まないコールドキャビティ条件で計算した。
【0074】
図16は、シミュレーションに用いた第1モデルを示す図である。第1モデルは、n型DBR20と、活性層領域30と、p型DBR40とを有する。活性層領域30はn型DBR20の上にあり、p型DBR40は活性層領域30の上にある。
【0075】
活性層領域30は、下部スペーサ層31と、量子井戸層32と、上部スペーサ層33とを有する。下部スペーサ層31はn型DBR20の上にあり、量子井戸層32は下部スペーサ層31の上にあり、上部スペーサ層33は量子井戸層32の上にある。
【0076】
p型DBR40は、複数の低屈折率層41と、複数の高屈折率層42と、酸化狭窄層50とを有する。最も下方の低屈折率層41(41A)は上部スペーサ層33の上にある。この低屈折率層41Aの上に酸化狭窄層50がある。酸化狭窄層50は、光の射出方向に垂直な面内に、酸化領域51と、非酸化領域52とを含む。酸化領域51は、環状の平面形状を有し、非酸化領域52を取り囲む。非酸化領域52はAlAsから構成される。酸化狭窄層50の上に下側から2番目の低屈折率層41(41B)がある。この低屈折率層41Bの上に、高屈折率層42と他の低屈折率層41とが交互に積層されている。このモデルでは、酸化領域51の厚さは一定であり、テーパ形状を有しない。
【0077】
活性層領域30の光学厚さは発振波長λであり、低屈折率層41A、酸化狭窄層50及び低屈折率層41Bの厚さの和は3λ/4であり、高屈折率層42Aの厚さはλ/4である。
【0078】
まず、光閉じ込め係数と酸化狭窄層50の厚さとの関係について説明する。図17は、非酸化領域の直径が5μmの構造における基本モードの電界強度分布の断面プロファイルを示す図である。図17(a)は酸化狭窄層50の厚さが20nmの場合の断面プロファイルを示し、図17(b)は酸化狭窄層50の厚さが40nmの場合の断面プロファイルを示す。光閉じ込め係数は、全領域の電界強度の和に対する酸化狭窄層50内に占める電界強度の比率として見積もることができる。酸化狭窄層50の厚さが20nmの構造では、酸化狭窄層50の厚さが40nmの構造に比べて電界強度分布が横方向に広がり、非酸化領域52の外側に存在する割合が大きいため、光閉じ込め係数は小さい。
【0079】
次に、光閉じ込め係数と酸化狭窄層50の厚さ及び非酸化領域52の直径との関係について説明する。図18は、光閉じ込め係数と酸化狭窄層の厚さ及び非酸化領域の直径との関係の計算結果を示す図である。図18中の横軸は非酸化領域52の直径を示し、縦軸は光閉じ込め係数を示す。図18には、酸化狭窄層50の厚さが20nmから60nmの範囲で、非酸化領域52の直径が3μmから9μmの範囲で計算した光閉じ込め係数の結果を示している。酸化狭窄層50の厚さが40nm以上で、非酸化領域52の直径が5μm以上の範囲では、光閉じ込め係数が約0.9以上に飽和する傾向が見られる。この傾向は、光閉じ込め係数が飽和値よりも小さくなる範囲では、図17(a)に示すように電界強度分布の横方向への広がりが大きくなり、電界強度が酸化領域外に占める割合が大きいことと対応する。
【0080】
ここまで、酸化狭窄層50の厚さ及び非酸化領域52の直径と光閉じ込め係数との関係についての計算結果を示した。次に、酸化領域51の先端近傍の屈折率を意図的に低下させた場合の電界強度分布を計算した結果を示す。
【0081】
屈折率を低下させる領域60は、非酸化領域52(AlAs層)の上方では、p型DBR40の最も下側の1ペア分に相当する厚さ約200nmの領域とし、非酸化領域52(AlAs層)の下方では、上部スペーサ層33、量子井戸層32及び下部スペーサ層31を含む厚さ約300nmの領域とした。下方の領域を上方の領域よりも大きくしたのは、下方は活性層領域30に近い方向であり、キャリア密度の高い領域が大きいと想定したためである。屈折率を変化させる半径方向の領域は、非酸化領域52と同じ範囲とした。
【0082】
図19は、第1モデルについての酸化狭窄層の厚さと光閉じ込め係数との関係の計算結果を示す図である。酸化狭窄層50の厚さは30nmから60nmの範囲の4水準とし、屈折率nを低下させた量(屈折率nの低下量)は0から約0.02の範囲とした。図19中の横軸は屈折率nの低下量を示し、縦軸は光閉じ込め係数を示す。屈折率nを低下させた量が大きいほど、領域60内の屈折率が低い。酸化狭窄層50の厚さが60nmの場合には屈折率を大きく低下させても光閉じ込め係数はほとんど低下しないが、酸化狭窄層50の厚さが小さくなるほど、屈折率nの低下量が小さくても光閉じ込め係数が低下しやすいことが分かる。
【0083】
次に、第1実施形態又は参考例により近いモデルでシミュレーションした結果について説明する。図20は、シミュレーションに用いた第2モデルを示す図であり、図21は、シミュレーションに用いた第3モデルを示す図である。第2モデルは、第1実施形態により近いモデルであり、第3モデルは、参考例により近いモデルである。第2モデル及び第3モデルについて、第1モデルと同様に、酸化領域の先端近傍の屈折率を意図的に低下させた場合の電界強度分布を計算した。
【0084】
図22は、第2モデル及び第3モデルについての屈折率の低下量と光閉じ込め係数との関係の計算結果を示す図である。屈折率nの低下量は0から約0.01の範囲とした。図22中の下側の横軸は屈折率nの低下量を示し、縦軸は光閉じ込め係数を示す。図22に示すように、第1実施形態を模した第2モデル(図20)では、屈折率を約0.01まで低下させた場合に、低下前に0.7であった光閉じ込め係数が0.1まで低下している。一方、参考例を模した第3モデル(図21)では、屈折率を約0.01まで低下させた場合に、低下前に0.9であった光閉じ込め係数が0.7までしか低下しない。従って、第2モデルでは屈折率の低下に対する光閉じ込め係数の変化量が大きいため、光閉じ込め係数の急激な変化によるパルス光出力を実現できるといえる。
【0085】
図22の上側の横軸に示すように、キャリアプラズマ効果を見積もる式(3)から換算すると、屈折率nの低下量が0.006であることは、キャリア密度Nが1.5×1018[1/cm]であることに相当し、屈折率nの低下量が0.010であることは、キャリア密度Nが2.5×1018[1/cm]であることに相当する。なお、図11には、キャリア密度Nが5.0×1018[1/cm]から1.5×1019[1/cm]の範囲で光閉じ込め係数が低下する関数を示している。図11図22との間でキャリア密度Nの範囲が相違するが、これは、図11では量子井戸層内のキャリア密度を対象としているのに対して、図22では屈折率を変化させる対象を量子井戸層の上下を含む広い領域としているためであると考えられる。量子井戸層の上下の広い領域のキャリア密度は、横方向の拡散などにより広がることが想定される。屈折率を低下させた領域のキャリア密度が量子井戸層内のキャリア密度よりも約1桁小さいと仮定すると、図11に示すキャリア密度の範囲と、図22に示すキャリア密度の範囲とを同等と見なすことができる。
【0086】
次に、第1実施形態に関し、非酸化領域52と酸化領域51との境界から3μmの位置における酸化領域の厚さと光閉じ込め係数との関係をシミュレーションした結果を示す。図23は、シミュレーションに用いた第4モデルを示す図である。第4モデルでは、酸化領域51が、第1領域51Aと、第2領域51Bと、第3領域51Cとを有する。第1領域51A、第2領域51B及び第3領域51Cの平面形状は環状である。第1領域51Aは非酸化領域52の外側にあり、第2領域51Bは第1領域51Aの外側にあり、第3領域51Cは第2領域51Bの外側にある。また、非酸化領域52は、AlAs層55と、縦方向でAlAs層55を間に挟む2つのAlGaAs層56とを有する。
【0087】
AlAs層55の厚さは30nmである。第1領域51Aの厚さは30μmであり、第3領域51Cの厚さはT[μm]であり、第2領域51Bの厚さはT/2[μm]である。また、第1領域51A及び第2領域51Bの径方向の幅はいずれも1.5μmである。非酸化領域52と酸化領域51との境界、すなわち非酸化領域52と第1領域51Aとの境界59から外側に3μmの位置における酸化領域51の厚さは第3領域51Cの厚さである。
【0088】
図24は、第4モデルについての境界から外側に3μm離れた位置における酸化領域の厚さと光閉じ込め係数との関係の計算結果を示す図である。図24には、屈折率が低下しない場合の計算結果と、屈折率が0.006低下した場合の計算結果とを示す。図24中の横軸は境界59から外側に3μmの位置における酸化領域51の厚さを示し、縦軸は光閉じ込め係数を示す。
【0089】
図24に示すように、境界59から外側に3μm離れた位置における酸化領域51の厚さが60nm以下であると、60nm超である場合に比べて、光閉じ込め係数の低下量が大きいことが分かる。つまり、境界59から外側に3μm離れた位置における酸化領域51の厚さがAlAs層55の厚さの2倍以下であると、2倍超である場合に比べて、光閉じ込め係数の低下量が大きいことが分かる。従って、境界59から外側に3μm離れた位置における酸化領域51の厚さがAlAs層55の2倍以下となる領域では屈折率の変化量に対する光閉じ込め係数の変化が大きいため、第1実施形態による光閉じ込め係数の急激な変化によるパルス光出力を実現できるといえる。なお、第1実施形態に倣って作製した試料の内側領域154の内縁から外側に3μm離れた位置における酸化領域151の厚さの実測値は54nmであった。また、参考例に倣って作製した試料の酸化領域951の内縁から外側に3μm離れた位置における酸化領域951の厚さの実測値は79nmであった。
【0090】
平面視での非酸化領域152の面積(電流狭窄面積)は120μm以下であることが望ましい。発明者らが様々な非酸化領域152の素子を比較評価した結果、非酸化領域152が120μm超の場合には、パルス電流の注入を停止した直後に光パルスが出力される現象が生じにくいことがあることが判明した。また、非酸化領域152が小さい方がピーク出力の高い光パルスが得られやすいことも判明した。図25は、非酸化領域の面積が50μm~120μmの範囲のサンプルに対するピーク光出力の測定結果を示す図である。
【0091】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態について説明する。第2実施形態は、面発光レーザに関する。図26は、第2実施形態に係る面発光レーザ100Aを示す断面図である。なお、第2実施形態において、第1実施形態と実質的に同一の構成部について、説明を省略する場合がある。
【0092】
面発光レーザ100Aは、n型GaAs基板110と、n型DBR120と、第1スペーサ層125と、活性層130と、第2スペーサ層145と、p型DBR140と、酸化狭窄層150と、上部電極160と、下部電極170とを有する。
【0093】
第1スペーサ層125は、n型DBR120上に配置される。また、活性層130は、第1スペーサ層125上に配置される。第2スペーサ層145は、活性層130上に配置される。第1スペーサ層125及び第2スペーサ層145を構成する材料の例として、Al1-XGaAs等の半導体材料が挙げられる。ただし、これに限定されない。
【0094】
第2実施形態において、共振器100C2は、n型DBR120、第1スペーサ層125、活性層130、第2スペーサ層145、及びp型DBR140から構成される。
【0095】
電流注入期間において、面発光レーザ100Aに注入されたキャリア(n側は電子、p側は正孔)は、第1スペーサ層125及び第2スペーサ層145に蓄積される。また、電流減少期間において、蓄積されたキャリアは、第1スペーサ層125及び第2スペーサ層145から活性層130に供給される。
【0096】
共振器100C2の共振器長L2は、第1スペーサ層125、活性層130、及びに第2スペーサ層145の合計の光学厚さに対応する。第2実施形態において、共振器長L2は、発振光の波長λの1.5倍以上の長さを有する。すなわち、共振器長L2と、発振光λとの関係は、式(1)において、nが3以上の場合に対応する。共振器長L2は、式(1)のLに対応する。
【0097】
第1スペーサ層125及び第2スペーサ層145のそれぞれの厚さが増えるに伴い、共振器長L2が増える。第1スペーサ層125及び第2スペーサ層145は、例えば、電流注入期間において、キャリアの蓄積層として機能する。そのため、第1スペーサ層125及び第2スペーサ層145の厚さが増えることで、蓄積されるキャリアの数を増やすことができる。これにより、電流減少期間において、活性層130に供給されるキャリア密度が増加し、パルス光のピーク出力を向上させることができる。
【0098】
次に、図27図30を参照して、第2実施形態に係る面発光レーザ100Aの特性の例を説明する。以下、面発光レーザ100Aの共振器長L2が、発振光の波長λの2倍(n=4、L2=2λ)、発振光の波長λの3倍(n=6、L2=3λ)、発振光の波長λの4倍(n=8、L2=4λ)、発振光の波長λの5倍(n=10、L2=5λ)、発振光の波長λの10倍(n=20、L2=10λ)、発振光の波長λの20倍(n=40、L2=20λ)、発振光の波長λの30倍(n=60、L2=30λ)となる場合の特性の例を説明する。なお、面発光レーザ100Aの特性をより明瞭に示すため、比較例として、共振器長L1が発振光の波長λ(n=2、L1=λ)である面発光レーザの特性を併せて示す場合がある。共振器長L1,L2は、式(1)におけるLの一例である。
【0099】
図27を参照して、第2実施形態の面発光レーザ100Aにおいて、共振器100C2に注入される電流密度と、共振器100C2内に生じるキャリア面密度との関係について説明する。図27(a)は、共振器100C2に注入される電流密度を横軸とし、第1スペーサ層125の電子面密度を縦軸としたシミュレーション結果を示すグラフである。図27(b)は、共振器100C2に注入される電流密度を横軸とし、第2スペーサ層145の正孔面密度を縦軸としたシミュレーション結果を示すグラフである。なお、シミュレーションにおいて、第1スペーサ層125及び第2スペーサ層145を、Al0.16Ga0.84Asとした。また、n型DBR120の低屈折率層をn-Al0.93Ga0.07Asとし、p型DBR140の低屈折率層をp-Al0.93Ga0.07Asとした。また、活性層130で発振される発振光の波長を、940nmとした。また、第1スペーサ層125の電子面密度及び第2スペーサ層145の正孔面密度を合わせて、「共振器100C2のキャリア面密度」という場合がある。
【0100】
図27に示すように、第2実施形態における共振器100C2のキャリア面密度は、第1実施形態における共振器100Cのキャリア面密度に比べて増加している。また、第2実施形態において、共振器長L2が増えるに伴い、共振器100C2のキャリア面密度が増加することが確認できる。共振器100C2のキャリア面密度が増加することで、活性層130において、パルス光の発振に寄与するキャリアが増える。その結果、より高出力のパルス光を得ることができる。
【0101】
ところで、図28に示すように、共振器長L2が増えることで、共振器の縦モードの数が増える。例えば、図28(a)に示すように、共振器長L1(L1=λ)の場合は、単一の縦モードが生じる(波長940nmに1つのパルス光が生じる)のに対し、図28(b)に示すように、共振器長L2が10λになると、917nm,940nm,967nmの共振波長を有する3つの縦モードが生じる。この場合の各縦モードの波長間隔は、約25nmである。
【0102】
さらに、共振器100C2の共振器長L2が増え、共振器長L2が20λになると、図28(c)に示すように、909nm,923nm,940nm,957nm,972nmの共振波長を有する5つの縦モードが生じる。この場合の各縦モードの波長間隔は、約16nmである。すなわち、共振器長L2が10λの場合に比べて、各縦モードの波長間隔が狭まる。
【0103】
さらに、共振器100C2の共振器長L2が増え、共振器長L2が30λになると、図28(d)に示すように、907nm,917nm,928nm,940nm,952nm,964nm,974nmの共振波長を有する7つの縦モードが生じる。この場合の各縦モードの波長間隔は、約11nmとなり、共振器長L2が10λ,20λの場合に比べてさらに狭まる。
【0104】
このように、共振器長L2の増加によって、各縦モードの波長間隔が、活性層130の利得スペクトル幅と同程度まで狭まると、複数の縦モード同士で発光再結合が生じ、1つの縦モードに対して消費されるキャリア数が減少し得る。また、異なる縦モード間での発振タイミングにずれが生じ得る。すなわち、縦モード間でのエネルギー分散と、発振タイミングの時間分散によって、所望の波長を有するパルス光のピーク出力が低下し得る。一般に、活性層130の利得スペクトル幅は、約20nmであるので、縦モードの間隔が10nm程度まで狭まることで、各パルス光のピーク出力の低下現象が起こり得る。これらのことから、共振器長L2の長さは、1.5λ~30λであることが好ましい。
【0105】
より短波長帯のパルス光を発振可能な面発光レーザ100Aにおいて、活性層130を構成する量子井戸層のバンドギャップエネルギーと、第1スペーサ層125(第2スペーサ層145)とのバンドギャップエネルギーとの相対的な差が小さくなる。そのため、活性層130と第1スペーサ層125(第2スペーサ層145)とのバンド不連続量が小さくなることから、もともと第1スペーサ層125(第2スペーサ層145)に蓄積できるキャリア数が少ない。
【0106】
面発光レーザ100Aの共振器100C2では、第1スペーサ層125及び第2スペーサ層145の厚さを増やし、共振器長L2を長くしている。そのため、第1スペーサ層125及び第2スペーサ層145に蓄積できるキャリア数が増え、より高出力のパルス光が得られる。
【0107】
図29に、面発光レーザ100Aにおいて、パルス光の発振波長が780nmである場合の、共振器100C2に注入される電流密度と、共振器100C2内に生じるキャリア面密度との関係を示す。図29(a)は、共振器100C2に注入される電流密度を横軸とし、第1スペーサ層125の電子面密度を縦軸としたシミュレーション結果を示すグラフである。図29(b)は、共振器100C2に注入される電流密度を横軸とし、第2スペーサ層145の正孔面密度を縦軸としたシミュレーション結果を示すグラフである。なお、シミュレーションにおいて、第1スペーサ層125及び第2スペーサ層145を、Al0.2Ga0.8Asとした。また、n型DBR120の低屈折率層をn-Al0.93Ga0.07Asとし、p型DBR140の低屈折率層をp-Al0.93Ga0.07Asとした。
【0108】
図29に示すように、パルス光の発振波長が780nmの場合に関しても、共振器100C2のキャリア面密度は、第1実施形態における共振器100Cのキャリア面密度に比べて増加している。また、共振器長L2が増えるに伴い、共振器100C2のキャリア面密度が増加することも、同様に確認できる。
【0109】
次に、図30に、パルス光の発振波長が940nmの面発光レーザ100Aと、パルス光の発振波長が780nmの面発光レーザ100Aにおいて、共振器100C2のキャリア面密度の比較を示す。図30に示すグラフの横軸における変数は、式(1)における自然数nである。また、図30に示すグラフの縦軸は、共振器100C2におけるキャリア面密度を示す。なお、それぞれの面発光レーザ100Aで、共振器100C2に注入する電流密度は、ともに、60kA/cmとした。
【0110】
図30に示すように、パルス光の発振波長が780nmである場合(白丸のプロット点)と、パルス光の発振波長が940nmの場合(黒丸のプロット点)とで、共振器100C2のキャリア面密度は、ほぼ同程度である。このように、第2実施形態に係る面発光レーザ100Aによれば、異なる発振波長を有する複数種のパルス光の高出力化を図ることができる。
【0111】
距離測定装置や生体情報検出装置等に備わる光源等、面発光レーザには多様な用途があり、求められる波長帯はそれぞれ異なる。また、それぞれ異なる波長帯の光を発する複数の発光素子が用いられる場合もある。これらの場合、各波長の発光素子に対して、それぞれ高出力化が求められる。面発光レーザ100Aは、様々な波長について高出力化することができ、高出力かつ短パルスの発光特性が求められる装置に好適である。
【0112】
(第3実施形態)
次に、第3実施形態について説明する。第3実施形態は面発光レーザに関する。図31は、第3実施形態に係る面発光レーザを示す断面図である。
【0113】
第3実施形態に係る面発光レーザ200は、例えばBuried tunnel junction(BTJ)による電流狭窄構造を備えたVCSELである。面発光レーザ200は、n型GaAs基板110と、n型DBR120と、活性層130と、p型DBR241と、BTJ領域250と、n型DBR242と、上部電極160と、下部電極170とを有する。
【0114】
第3実施形態において、n型DBR120と、活性層130と、p型DBR241と、BTJ領域250と、p型DBR242とで、共振器100C3が構成される。第3実施形態における共振器100C3の共振器長L3は、n型DBR120とp型DBR241との間の光学厚さに対応する。第3実施形態の場合、n型DBR120とp型DBR241に挟まれる活性層130の光学厚さが、共振器長L3に対応する。共振器長L3は、式(1)におけるLの一例である。
【0115】
p型DBR241は活性層130上にある。p型DBR241は、例えば複数のp型半導体膜を積層して構成された半導体多層膜反射鏡である。BTJ領域250はp型DBR241の一部の上にある。BTJ領域250は、p型層251と、n型層252とを含む。p型DBR242はp型DBR241の上にあり、BTJ領域250を覆う。n型DBR242は、例えば複数のn型半導体膜を積層して構成された半導体多層膜反射鏡である。p型DBR242、p型DBR241、活性層130及びn型DBR120はメサ280を含む。BTJ領域250は、面内でメサ280の中央にある。
【0116】
p型層251がp型DBR241の上にあり、n型層252がp型層251の上にある。p型層251はp型DBR241を構成するp型半導体膜よりも高濃度でp型不純物を含有する。n型層252はp型DBR242を構成するn型半導体膜よりも高濃度でn型不純物を含有する。例えば、p型層251の厚さは5nm~20nmであり、n型層252の厚さは5nm~20nmである。平面視で、メサ280のBTJ領域250の輪郭の内側の部分は高屈折領域の一例であり、メサ280のBTJ領域250の輪郭の外側の部分は低屈折領域の一例である。
【0117】
上部電極160はp型DBR242の上面に接触する。下部電極170はn型GaAs基板110の下面に接触する。上部電極160と下部電極170との対は、電極対の一例である。
【0118】
第3実施形態では、p型DBR241とp型DBR242との間には、逆バイアスとなるため電流は流れない。p型層251とn型層252との間には埋め込みトンネル接合による電流が流れる。このため、上部電極160と下部電極170との間の電流経路は、BTJ領域250があるメサ280の中央に狭窄される。また、BTJ領域250が段差となってp型DBR242に覆われるため、メサ280内の面内での屈折率は、中央で高く、その周囲で低くなる。従って、面発光レーザ200には、横方向の光閉じ込め作用が生じる。
【0119】
従って、第3実施形態によっても、第1実施形態及び第2実施形態と同様のパルス電流を注入することにより、光パルスを出力させることができる。
【0120】
(第4実施形態)
次に、第4実施形態について説明する。第4実施形態はレーザ装置に関する。図32は、第4実施形態に係るレーザ装置を示す図である。
【0121】
第4実施形態に係るレーザ装置300は、第1実施形態に係る面発光レーザ100、又は第2実施形態に係る面発光レーザ100Aと、面発光レーザ100又は面発光レーザ100Aの上部電極160及び下部電極170に接続された電源装置301とを有する。電源装置301は、面発光レーザ100又は面発光レーザ100Aに電流を注入する。
【0122】
電源装置301からの電流の注入のデューティ比は0.5%以下であることが好ましい。すなわち、電流注入期間と電流減少期間とが複数回繰り返され、電流減少期間に対する電流注入期間の比率は0.5%以下であることが好ましい。デューティ比は、単位時間のうちで電流パルスが注入されている時間の比率である。パルス電流幅をt[s]、パルス電流の繰り返し周波数をf[Hz]とすると、デューティ比はf×t(%)に対応する。図33は、パルス電流幅が2.5nsの場合のデューティ比と光パルスのピーク出力との関係を示す図である。
【0123】
図33に示すように、デューティ比が0.5%超の場合に、光ピーク出力が低下する傾向がある。この理由としては、以下のモデルが考えられる。まず、デューティ比を大きくしていくと注入したパルス電流による電流狭窄領域(非酸化領域152)での発熱量が増大する。これにより、電流狭窄領域の周辺部に対して、電流が集中する中心部の温度が上昇し、温度差が生じる。その結果、熱レンズ効果により電流狭窄領域の中心部の屈折率が上昇し、横方向の光閉じ込め係数が大きくなる。熱レンズ効果により横方向の光閉じ込め係数が大きくなると、パルス電流の増減により発生するキャリアプラズマ効果に起因した屈折率変化の影響が小さくなる。このため、パルス電流の注入を停止した直後に光パルスが出力される現象が生じにくくなる。これに対し、デューティ比が0.5%以下であれば、熱レンズ効果による屈折率変化の影響が十分小さくなり、狭窄構造に由来の屈折率変化が支配的となるため、ピーク出力はほぼ一定で変わらないと考えられる。
【0124】
なお、面発光レーザ100又は面発光レーザ100Aに代えて、面発光レーザ200が用いられてもよい。
【0125】
(第5実施形態)
次に、第5実施形態について説明する。第5実施形態は距離測定装置に関する。図34は、第5実施形態に係る距離測定装置を示す図である。距離測定装置は検出装置の一例である。
【0126】
第5実施形態に係る距離測定装置400は、TOF(Time of Flight)法の距離測定装置である。距離測定装置400は、発光素子410と、受光素子420と、駆動回路430とを有する。発光素子410は、発光ビーム(照射光411)を測距の測距対象物450へと向けて照射する。受光素子420は、測距対象物450からの反射光421を受光する。駆動回路430は、発光素子410を駆動するとともに、発光ビームの発光タイミングと、受光素子420による反射光421の受光タイミングとの時間差を検出することにより、測距対象物450までの往復の距離を測定する。
【0127】
発光素子410は、第1実施形態に係る面発光レーザ100又は第2実施形態に係る面発光レーザ200を含む。発光素子410は、アレイ状に配列された第1実施形態に係る面発光レーザ100又は第2実施形態に係る面発光レーザ200を複数含んでもよい。パルスの繰り返し周波数は、例えば数kHzから数10MHzの範囲である。
【0128】
受光素子420は、例えば、フォトダイオード(PD)、アバランシェフォトダイオード(APD)又は単一光子アバランシェダイオード(SPAD)である。受光素子420は、アレイ状に配列された受光素子を複数含んでもよい。受光素子420は検出部の一例である。
【0129】
TOF法での測距では、測距対象物からの信号とノイズを分離することが重要である。より遠くにある測距対象物を測定する場合、及びより反射率の低い測距対象物を測定する場合には、より高感度の受光素子を用いて対象物からの信号を得ることが好ましい。しかしながら、より高感度の受光素子を用いると、背景光ノイズ又はショットノイズを誤検出する可能性が高くなる。信号とノイズとを分離するために、受光信号のしきい値を上げることも考えられるが、その分だけ発光ビームのピーク出力を高くしなければ、測距対象物からの信号光を受光しにくくなる。ただし、発光ビームの出力はレーザの安全基準による制限を受ける。
【0130】
第1実施形態に係る面発光レーザ100又は第2実施形態に係る面発光レーザ200によれば、パルス幅が100ps程度の光パルスを出力することができる。これは、従来の面発光レーザにより出力される光パルス幅の数nsに比べて約1/10である。第5実施形態によれば、光パルスのパルス幅が短いほど安全基準で許容されるピーク出力が高くなるため、アイセーフを満たしつつ、高精度化と長距離化と両立することができる。
【0131】
(第6実施形態)
次に、第6実施形態について説明する。第6実施形態は移動体に関する。図35は、第6実施形態に係る移動体の一例としての自動車を示す図である。第6実施形態に係る移動体の一例としての自動車500の前面上方(例えばフロントグラスの上部)には、第5実施形態で説明した距離測定装置400が設けられている。距離測定装置400は、自動車500の周囲の物体502までの距離を計測する。距離測定装置400の計測結果は、自動車500の有する制御部に入力され、制御部はこの計測結果に基づいて、移動体の動作の制御を行う。若しくは、制御部は、距離測定装置400の計測結果に基づいて、自動車500の運転者501へ向けて自動車500内に設けられた表示部に警告表示を行ってもよい。
【0132】
このように、第6実施形態では、距離測定装置400を自動車500に設けることで、高精度に自動車500の周辺の物体502の位置を認識することができる。なお、距離測定装置400の搭載位置は、自動車500の上部前方に限定されず、側面や後方に搭載されてもよい。また、この例では、距離測定装置400を自動車500に設けたが、距離測定装置400を航空機又は船舶に設けてもよい。また、ドローン及びロボット等の、運転者が存在しない、自律移動を行う移動体に設けてもよい。
【0133】
(第7実施形態)
次に、第7実施形態について説明する。第7実施形態は情報端末機器に関する。図36及び図37は、第7実施形態に係る情報端末機器600の構成の一例を示す図である。図36及び図37に示す情報端末機器600は、例えば、室内に置かれた物体601Aや人体601B等の物体601を検出する。
【0134】
図36及び図37に示すように、情報端末機器600は、例えば、第5実施形態に係る距離測定装置400を備え、物体601までの距離を計測する。また、情報端末機器600は、処理部610を備える。処理部610は、距離測定装置400の受光素子420に入射した反射光421の受光信号に基づき、物体601までの距離を算出する。処理部610は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、HDD(Hard Disk Drive)、入出力I/F(Interface)等のハードウェアを備えるコンピュータである。
【0135】
以上、好ましい実施の形態等について詳説したが、上述した実施の形態等に制限されることはなく、特許請求の範囲に記載された範囲を逸脱することなく、上述した実施の形態等に種々の変形及び置換を加えることができる。
【0136】
本発明の態様は、例えば、以下のとおりである。
<1> 活性層と、第1反射鏡と、第2反射鏡と、を有し、前記活性層を挟んで、前記第1反射鏡と前記第2反射鏡とが第1方向に対向する、共振器と、
電源装置に接続され、前記活性層に電流を注入する電極対と、
を有し、
前記電源装置により電流が注入される期間を電流注入期間、前記電流注入期間の後であって前記活性層に注入される電流値が前記電流注入期間における電流値よりも低下する期間を電流減少期間として、
前記電流注入期間にレーザ発振せず、前記電流減少期間にレーザ発振し、レーザ光を発生する面発光レーザにおいて、
前記共振器の光学厚さは、前記レーザ光の真空中の波長の1.5倍以上である
面発光レーザ。
<2> 活性層と、第1反射鏡と、第2反射鏡と、を有し、前記活性層を挟んで、前記第1反射鏡と前記第2反射鏡とが第1方向に対向する、共振器と、
電源装置に接続され、前記活性層に電流を注入する電極対と、
を有し、
ピーク値の1/eとなる時間幅を光パルス幅として、出射される光の光パルス幅は、前記電源装置により電流が注入される期間である電流注入期間の時間幅よりも小さく、かつ110ps以下である面発光レーザにおいて、
前記共振器の光学厚さは、レーザ光の真空中の波長の1.5倍以上である
面発光レーザ。
<3> 前記共振器は、前記第1反射鏡と前記活性層との間に配置される第1スペーサ層と、前記活性層と前記第2反射鏡との間に配置される第2スペーサ層と、をさらに有する、前記<1>又は前記<2>に記載の面発光レーザ。
<4> 縦方向に垂直な面内に、相対的に屈折率の高い高屈折領域と、該高屈折領域よりも屈折率が低く、該高屈折領域を取り囲む低屈折領域を有する、前記<1>から前記<3>のいずれか1つに記載の面発光レーザ。
<5> 前記低屈折領域は酸化狭窄により形成されており、
前記高屈折領域の厚さは35nm以下であり、
前記低屈折領域と前記高屈折領域との境界の先端部から3μmの位置における前記低屈折領域の厚さは、前記高屈折領域の厚さの2倍以下である、前記<4>に記載の面発光レーザ。
<6> 前記低屈折領域と前記高屈折領域の境界の先端部で囲まれる領域の、光の射出方向に垂直な面内における面積が120μm以下である、前記<4>又は前記<5>に記載の面発光レーザ。
<7> 前記<1>~前記<6>のいずれか1つに記載の面発光レーザと、
前記電極対に接続され、前記面発光レーザに電流を注入する電源装置と、
を備えるレーザ装置。
<8> 前記電流注入期間と、前記電流注入期間の後であって前記活性層に注入される電流値が前記電流注入期間における電流値よりも低下する期間である電流減少期間と、は複数回繰り返され、
前記電流減少期間に対する前記電流注入期間の比率は0.5%以下である、前記<7>に記載のレーザ装置。
<9> 前記<7>又は前記<8>に記載のレーザ装置と、
前記面発光レーザから発せられ対象物で反射された光を検出する検出部と、を備える検出装置。
<10> 前記検出部からの信号に基づき、前記対象物との距離を算出する、前記<9>に記載の検出装置。
<11> 前記<9>又は前記<10>に記載の検出装置を備える移動体。
<12> 前記<9>又は前記<10>に記載の検出装置を備える情報端末機器。
<13> 活性層と、第1反射鏡と、第2反射鏡と、を有し、前記活性層を挟んで、前記第1反射鏡と前記第2反射鏡とが第1方向に対向する、共振器と、
電源装置に接続され、前記活性層に電流を注入する電極対と、
を有し、
前記共振器の光学厚さは、レーザ光の真空中の波長の1.5倍以上である面発光レーザの駆動方法であって、
前記電源装置により電流が注入される期間を電流注入期間、前記電流注入期間の後であって前記活性層に注入される電流値が前記電流注入期間における電流値よりも低下する期間を電流減少期間として、
前記電流注入期間にレーザ発振させず、前記電流減少期間にレーザ発振させる工程を有する、
面発光レーザの駆動方法。
【符号の説明】
【0137】
100、200 面発光レーザ
120 n型DBR
125 第1スペーサ層
130 活性層
140、241、242 p型DBR
145 第2スペーサ層
150 酸化狭窄層
151 酸化領域
152 非酸化領域
160 上部電極
170 下部電極
180、280 メサ
250 BTJ領域
251 p型層
252 n型層
300 レーザ装置
400 距離測定装置
500 自動車(移動体)
600 情報端末機器
【先行技術文献】
【特許文献】
【0138】
【特許文献1】米国特許第8,934,514号明細書
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30
図31
図32
図33
図34
図35
図36
図37