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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024136009
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】ポリアミド系樹脂フィルム、包装体
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/34 20060101AFI20240927BHJP
   B32B 27/28 20060101ALI20240927BHJP
   C08L 101/02 20060101ALI20240927BHJP
   C08L 23/26 20060101ALI20240927BHJP
   B65D 65/40 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
B32B27/34
B32B27/28 102
C08L101/02
C08L23/26
B65D65/40 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023046954
(22)【出願日】2023-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(72)【発明者】
【氏名】唐桶 賢
(72)【発明者】
【氏名】和田 隆之
(72)【発明者】
【氏名】田中 一也
【テーマコード(参考)】
3E086
4F100
4J002
【Fターム(参考)】
3E086AC07
3E086AD01
3E086AD03
3E086AD05
3E086AD06
3E086AD24
3E086BA04
3E086BA15
3E086BB02
3E086BB05
3E086BB51
3E086CA01
3E086CA28
4F100AK47A
4F100AK48A
4F100AK54B
4F100AK69B
4F100BA02
4F100EH20
4F100EJ38
4F100GB15
4F100JB16B
4F100JD03
4F100JK07
4F100JK07B
4F100JK10
4F100JN01
4F100YY00A
4F100YY00B
4J002BB22W
4J002CF00X
4J002CH00X
4J002GF00
4J002GG02
(57)【要約】
【課題】脂肪族ポリアミド樹脂を含む層とエチレンービニルアルコール共重合体を含む層を有するポリアミド系樹脂フィルムであって、包装用フィルムや包装体として使用した際に、充分なガスバリア性と開封性(直線カット性)を有するポリアミド系樹脂フィルムを提供する。
【解決手段】脂肪族ポリアミド樹脂を含む層(A)とエチレンービニルアルコール共重合体(b)を主成分樹脂として含む層(B)との少なくとも2層を有し、(1)~(3)を満たすポリアミド系樹脂フィルム。
(1)層(B)に熱可塑性エラストマー(c)を含む
(2)JIS K7136(2000)準拠して測定したヘーズが20%以下
(3)JIS K7126―1(2006)準拠して測定した酸素透過度が2.0cc/m/24h/atm以下
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪族ポリアミド樹脂を含む層(A)とエチレンービニルアルコール共重合体(b)を主成分樹脂として含む層(B)との少なくとも2層を有し、(1)~(3)を満たすポリアミド系樹脂フィルム。
(1)層(B)に熱可塑性エラストマー(c)を含む
(2)JIS K7136(2000)準拠して測定したヘーズが20%以下
(3)JIS K7126―1(2006)準拠して測定した酸素透過度が2.0cc/m/24h/atm以下
【請求項2】
前記熱可塑性エラストマー(c)が、ポリテトラメチレンエーテルグリコール単位を含む、請求項1に記載のポリアミド樹脂系フィルム。
【請求項3】
前記熱可塑性エラストマー(c)の振動周波数10Hzで測定した-20℃から70℃の範囲における引張貯蔵弾性率(E’)の最大値が、70MPa以下である、請求項1または2に記載のポリアミド樹脂系フィルム。
【請求項4】
前記脂肪族ポリアミド樹脂が、炭素数6以上のジアミン及び/又は炭素数7以上のジカルボン酸を含むポリアミド、及び炭素数6以上のカプロラクタムを開環重合して得られる分子構造を有するポリアミドから選ばれる少なくとも1種である、請求項1または2に記載のポリアミド系樹脂フィルム。
【請求項5】
前記層(A)の合計質量を100質量%とする場合に、前記層(A)が脂肪族ポリアミド樹脂を1~100質量%と半芳香族ポリアミド樹脂0~99質量%とを含む、請求項1または2に記載のポリアミド系樹脂フィルム。
【請求項6】
前記半芳香族ポリアミド樹脂が、メタキシレンジアミン及び/又はパラキシレンジアミンからなるジアミン成分と炭素数5~12のジカルボン酸成分からなるポリアミド樹脂である、請求項5に記載のポリアミド系樹脂フィルム。
【請求項7】
二軸延伸してなる請求項1または2に記載のポリアミド系樹脂フィルム。
【請求項8】
包装用である、請求項1または2に記載のポリアミド系樹脂フィルム。
【請求項9】
請求項8に記載のポリアミド系樹脂フィルムを使用した包装体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミド系樹脂フィルム、および該フィルムを用いた包装体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミド系樹脂からなるフィルムは、耐衝撃性、強度などの機械的特性、耐熱性、さらには二軸延伸などの成形加工性に優れていることから、様々な用途として用いられている樹脂材料である。
また、ポリアミド系樹脂はポリオレフィン樹脂等の汎用プラスチックに比べて酸素等のガスバリア性には優れているが、食品や医薬品包装などの内容物の長期保存が求められるガスバリア性のレベルには不十分であることが知られているため、エチレンービニルアルコール共重合体(EVOH)やメタキシリレンジアジパミド(MXD6ナイロン)をはじめとする高いガスバリア性を有する樹脂の層と多層化させることによって機械物性、成形加工性、ガスバリア性等を合わせ持たせたポリアミド系樹脂フィルムが広く用いられてきている。特に、エチレンービニルアルコール共重合体(以下、EVOH)を組み合わせた樹脂フィルムは、高いガスバリア性から食品包装を中心に幅広く用いられている。
【0003】
特許文献1には、高ガスバリア性ポリアミド系樹脂フィルムについて、脂肪族ポリアミド系樹脂を含む層とEVOHを含む層を有する、二軸延伸ポリアミドフィルムが開示されている。しかしながら、ポリアミドが持つ高い力学特性から、食品の個包装等に求められる開封性(直線カット性)に乏しいという潜在的な問題がある。
【0004】
特許文献2には、易裂性と強度を兼ね備えた脂肪族ポリアミド系樹脂を含む層と半芳香族ポリアミド樹脂を含む層を有する、ガスバリア性と易裂性と強度を兼ね備えた、ポリアミドフィルムについて開示されているが。しかしながら、半芳香族ポリアミド樹脂は、EVOHに比べガスバリア性が劣り、易裂性は有するもの、開封性(直線カット性)は充分とはいえなかった。
【0005】
特許文献3には、酸素バリア性と直線カット性に優れたポリアミド系樹脂フィルムについて開示されているが、ガスバリア層に無機層状化合物を配合しいるが、カスバリア層の厚みは薄く、ガスバリア性が充分とはいえなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010-167696号公報
【特許文献2】特開平8-224844号公報
【特許文献3】特開2013-203414号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記実情に鑑みて、本発明の課題は、脂肪族ポリアミド樹脂を含む層とエチレンービニルアルコール共重合体を含む層を有するポリアミド系樹脂フィルムであって、包装用フィルムや包装体として使用した際に、充分なガスバリア性と開封性(直線カット性)を有するポリアミド系樹脂フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討を行った結果、所定の脂肪族ポリアミド樹脂を含む層(A)とエチレン-ビニルアルコール共重合体(b)および熱可塑性エラストマー(c)を含む層(B)とを組み合わせることにより、上述の課題を解決することを見出し、以下の本発明を完成するに至った。
【0009】
[1] 脂肪族ポリアミド樹脂を含む層(A)とエチレンービニルアルコール共重合体(b)を主成分樹脂として含む層(B)との少なくとも2層を有し、(1)~(3)を満たすポリアミド系樹脂フィルム。
(1)層(B)に熱可塑性エラストマー(c)を含む
(2)JIS K7136(2000)準拠して測定したヘーズが20%以下
(3)JIS K7126―1(2006)準拠して測定した酸素透過度が2.0cc/m/24h/atm以下
【0010】
[2] 前記熱可塑性エラストマー(c)が、ポリテトラメチレンエーテルグリコール単位を含む、[1]に記載のポリアミド樹脂系フィルム。
【0011】
[3] 前記熱可塑性エラストマー(c)の振動周波数10Hzで測定した-20℃から70℃の範囲における引張貯蔵弾性率(E’)の最大値が、70MPa以下である、[1]または[2]に記載のポリアミド樹脂系フィルム。
【0012】
[4] 前記脂肪族ポリアミド樹脂が、炭素数6以上のジアミン及び/又は炭素数7以上のジカルボン酸を含むポリアミド、及び炭素数6以上のカプロラクタムを開環重合して得られる分子構造を有するポリアミドから選ばれる少なくとも1種でである、[1]~[3]のいずれかに記載のポリアミド系樹脂フィルム。
【0013】
[5] 前記層(A)の合計質量を100質量%とする場合に、前記層(A)が脂肪族ポリアミド樹脂を1~100質量%と半芳香族ポリアミド樹脂0~99質量%とを含む、[1]~[4]のいずれかに記載のポリアミド系樹脂フィルム。
【0014】
[6] 前記半芳香族ポリアミド樹脂が、メタキシレンジアミン及び/又はパラキシレンジアミンからなるジアミン成分と炭素数5~12のジカルボン酸成分からなるポリアミド樹脂である、[5]に記載のポリアミド系樹脂フィルム。
【0015】
[7] 二軸延伸してなる[1]~[6]のいずれかに記載のポリアミド系樹脂フィルム。
[8] 包装用である、[1]~[7]のいずれかに記載のポリアミド系樹脂フィルム。
[9] [8]に記載のポリアミド系樹脂フィルムを使用した包装体。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、包装用フィルムや包装体として使用した際に、充分なガスバリア性と開封性(直線カット性)とを有するポリアミド系樹脂フィルムを提供するができる。その特徴から、本発明のポリアミド系樹脂フィルムは、食料品、医薬衣料品、工業部品等の包装体として好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。
なお、「本発明のポリアミド系樹脂フィルム」を「本発明のフィルム」、「脂肪族ポリアミド樹脂を含む層(A)」を「層(A)」、「エチレン-ビニルアルコール共重合体(b)を主成分樹脂として含む層(B)」を「層(B)」と称することがある。
「X~Y」(X、Yは任意の数字)と記載した場合、特にことわらない限り「X以上Y以下」の意と共に、「好ましくはXより大きい」及び「好ましくはYより小さい」の意を包含するものである。
【0018】
本発明のポリアミド系樹脂フィルムは、脂肪族ポリアミド樹脂を含む層(A)とエチレンービニルアルコール共重合体(b)を主成分樹脂として含む層(B)との少なくとも2層を有し、(1)~(3)を満たすポリアミド系樹脂フィルムである。
(1)層(B)に熱可塑性エラストマー(c)を含む
(2)JIS K7136(2000)準拠して測定したヘーズが20%以下
(3)JIS K7126―1(2006)準拠して測定した酸素透過度が2.0cc/m/24h/atm以下
【0019】
<脂肪族ポリアミド樹脂を含む層(A)>
本発明のポリアミド系樹脂フィルムは、脂肪族ポリアミド樹脂を含む層(A)を少なくとも1層有する。また、層(A)は、層(A)の合計質量を100質量%とした場合に、脂肪族ポリアミド樹脂を1~100質量%含むことが好ましい。
【0020】
(脂肪族ポリアミド樹脂)
本発明における脂肪族ポリアミド樹脂としては特に限定されないが、炭素数6以上のジアミン及び/又は炭素数7以上のジカルボン酸を含むポリアミド、及び炭素数6以上のカプロラクタムを開環重合して得られる分子構造を有するポリアミドから選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0021】
例えば、力学特性の高さの点からポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド4,10、ポリアミド5,10、ポリアミド6,10、ポリアミド8,10、ポリアミド9,10、ポリアミド10,10、ポリアミド10,12が好ましく、ポリアミド6、ポリアミド6,6、ポリアミド11、ポリアミド12がより好ましい。さらに耐衝撃性も兼ね備えている点からポリアミド6がさらに好ましい。
【0022】
脂肪族ポリアミド樹脂は、フィルムの耐熱性の点で、融点180℃以上が好ましく、185℃以上がより好ましい。
脂肪族ポリアミド樹脂は、フィルムの耐衝撃性の点で、密度1200kg/m以下が好ましく、1150kg/m以下がより好ましい。
また、脂肪族ポリアミド樹脂は、JIS K6920-2(2009)において、96%硫酸の条件で測定される相対粘度が1.0~5.0であることが好ましく、2.0~4.5がより好ましく、2.5~4.0がさらに好ましい。
【0023】
上記した通り、本発明における脂肪族ポリアミド樹脂は、公知の各種ラクタムの開環重合により生成するポリアミド樹脂であってもよいし、公知の脂肪族ジアミンと脂肪族ジカルボン酸との縮合重合により生成するポリアミド樹脂であってもよい。
また、脂肪族ポリアミド樹脂を含む層(A)は1層でもよく、複数層でもよい。複数層の場合は、各層の樹脂組成が異なっていてもよい。
【0024】
(ポリアミド6)
ポリアミド6は、ε-カプロラクタムの開環重合により得られる公知の樹脂を使用できる。フィルム製膜性の点で、JIS K6920-2(2009)において、96%硫酸の条件で測定される相対粘度が1.0~5.0であることが好ましく、2.0~4.5がさらに好ましく、2.5~4.0が特に好ましい。かかる範囲であれば、エチレンービニルアルコール共重合体(b)主成分樹脂として含む層(B)など、その他層と積層フィルムとしたとき、安定して共押出製膜しやすく、層間の粘度差による流れムラも少なく好ましい。
【0025】
ポリアミド6の融点は、200℃~250℃が好ましく、210℃~240℃がより好ましい。ポリアミド6の融点が係る範囲であれば、耐熱性、押出成形性に優れ、二軸延伸フィルムの成形が容易となる。
ポリアミド6の密度は、フィルムの耐衝撃性の点で、密度1200kg/m以下が好ましく、1150kg/m以下がより好ましい。
【0026】
(半芳香族ポリアミド樹脂)
本発明における脂肪族ポリアミド樹脂を含む層(A)は、上記脂肪族ポリアミド樹脂以外に、その他のポリアミド樹脂として半芳香族ポリアミド樹脂を含むことができる。半芳香族ポリアミド樹脂としては、メタキシレンジアミン及び/又はパラキシレンジアミンからなるジアミン成分と炭素数5~12のジカルボン酸成分からなる半芳香族ポリアミド樹脂であることが好ましい。その中でもポリメタキシリレンアジパミド(ポリアミドMXD6)がより好ましい。
ポリアミド樹脂を含む層(A)に含まれるその他のポリアミド樹脂は、透明性維持の観点から1種類であることが好ましい。
【0027】
半芳香族ポリアミド樹脂の融点は、耐熱性の点で、融点200℃以上が好ましく、210℃以上がより好ましい。
半芳香族ポリアミド樹脂の密度は、フィルムの耐衝撃性の点で、1300kg/m以下が好ましく、1250kg/m以下がより好ましい。
【0028】
(ポリメタキシリレンアジパミド(ポリアミドMXD6))
ポリメタキシリレンアジパミド(ポリアミドMXD6)とは、主としてメタキシリレンジアミンとアジピン酸との重合生成物を意味する。ポリメタキシリレンアジパミドを構成するジアミン成分を100モル%とした場合、70モル%以上、好ましくは80モル%以上、より好ましくは90モル%以上がメタキシリレンジアミンである。オルトキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミン等の異性体、または、炭素数6~12の脂肪族ジアミン等を30モル%以下含んでもよいが、ガスバリア性や耐熱性の点から、これらは含まれていない方が好ましい。ポリメタキシリレンアジパミド(ポリアミドMXD6)を構成するジカルボン酸成分を100モル%とした場合、70モル%以上、好ましくは80モル%以上、より好ましくは90モル%以上がアジピン酸である。炭素数7~12の脂肪族ジカルボン酸や、テレフタル酸、イソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸等の環状脂肪族ジカルボン酸等を30モル%以下含んでもよいが、ガスバリア性や延伸性の点から、これらは含まれていない方が好ましい。
【0029】
(層(A)の組成)
層(A)の合計質量を100質量%とする場合に、前記層(A)が脂肪族ポリアミド樹脂を1~100質量%と半芳香族ポリアミド樹脂0~99質量%とを含むことが好ましい。
層(A)は、より好ましくは、脂肪族ポリアミド樹脂を40~100質量%と半芳香族ポリアミド樹脂0~60質量%とを含み、さらに好ましくは、脂肪族ポリアミド樹脂を50~95質量%と半芳香族ポリアミド樹脂5~50質量%とを含み、、特に好ましくは脂肪族ポリアミド樹脂を60~90質量%と半芳香族ポリアミド樹脂10~40質量%とを含む。
【0030】
層(A)に半芳香族ポリアミドを含むことにより、半芳香族ポリアミド樹脂に含まれるベンゼン環の分子構造により分子鎖間の結合が強固になることと、脂肪族ポリアミド樹脂との分子鎖間の結合が弱いことから、半芳香族ポリアミド樹脂が棒状に分散することで、フィルムとしたときに、カット性が向上する。
【0031】
(他の成分)
脂肪族ポリアミド樹脂を含む層(A)は、本発明の効果を損なわない範囲で、熱可塑性エラストマー、添加剤等をさらに含有することができる。
【0032】
熱可塑性エラストマーとしては、例えば、ポリアミド系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリスチレン系エラストマー、ポリオレフィン系エラストマー等が挙げられる。
これらは、ハードセグメントとして、ポリアミド、ポリエステル、ポリスチレン、ポリオレフィンの分子骨格を有し、その中にソフトセグメントとして、ポリアルキレンエーテルグリコールやゴム成分を有して、弾性を示す樹脂種である。ここで、ポリアミド系エラストマーは、ソフトセグメントが50質量%以上のものを云う。
また、ポリアミド系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリオレフィン系エラストマーは、無水マレイン酸等の不飽和カルボン酸やその誘導体や無水物により変性処理したものであると、脂肪族ポリアミド樹脂との親和性が高くなり分散混和性が良く、フィルムの耐ピンホール性や透明性が向上して好ましい。
好適な熱可塑性エラストマーとしては、例えば、ポリアミド11やポリアミド12とポリオキシテトラメチレングリコールとのブロック共重合体及びその酸変性物、ポリブチレンテレフタレートとポリオキシテトラメチレングリコールとのブロック共重合体及びその酸変性物、スチレン-イソブチレン-スチレンブロック共重合体(SIBS)が好ましい。
層(A)の合計質量を100質量%とする場合、熱可塑性エラストマーの含有率はフィルム製膜性、高透明性、低吸水性の観点から10質量%以下が好ましい。
【0033】
添加剤としては、例えば、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、耐候剤、滑剤、フィラー、核剤、可塑剤、ブロッキング防止剤、防曇剤、難燃剤、染料、顔料、安定剤、カップリング剤、耐衝撃改良材等を含有することができる。
層(A)の構成成分の合計100質量%に対して、添加剤の含有率はフィルム製膜性、高透明性、低吸水性の観点から5質量%以下が好ましい。
【0034】
<エチレンービニルアルコール共重合体(b)を主成分樹脂として含む層(B)>
本発明のフィルムは、エチレンービニルアルコール共重合体(b)を主成分樹脂として含む層(B)を有する。ガスバリア性を付与することができ、包装材に用いた際に内容物の劣化や腐敗を防ぎ長期保管性を高めることに有用である。
【0035】
なお、上記の「主成分樹脂」とは、層(B)を構成する材料全体を基準(100質量)として、エチレンービニルアルコール共重合体(b)を、50質量%以上含むことをいい、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上含むことを意味する。
【0036】
(エチレンービニルアルコール共重合体(b))
本発明に使用されるエチレンービニルアルコール共重合体(b)は、エチレンと酢酸ビニルとの共重合体をアルカリ触媒等により鹸化することによって得られる共重合体であり、エチレン構造単位、ビニルアルコール構造単位(未ケン化のビニルエステル構造単位を含む)の他、以下に示すコモノマーに由来する構造単位が、さらに含まれていてもよい。前記コモノマーとしては、プロピレン、イソブテン、α-オクテン、α-ドデセン、α-オクタデセン等のα-オレフィン;3-ブテン-1-オール、4-ペンテン-1-オール、3-ブテン-1、2-ジオール等のヒドロキシ基含有α-オレフィン類やそのエステル化物、アシル化物などのヒドロキシ基含有α-オレフィン誘導体;不飽和カルボン酸又はその塩,部分アルキルエステル,完全アルキルエステル,ニトリル,アミド若しくは無水物;不飽和スルホン酸又はその塩;ビニルシラン化合物;塩化ビニル;スチレン等が挙げられる。
【0037】
さらに、ウレタン化、アセタール化、シアノエチル化、オキシアルキレン化等で後変性されたEVOH系樹脂を用いることもできる。これらのEVOHは、1種類を単独で用いても良く、2種類以上を混合して用いても良い。
【0038】
エチレンービニルアルコール共重合体中のエチレン含有率は、特に限定されるものではないが、フィルム製膜安定性の観点から、一般に5モル%以上が好ましく、より好ましくは10モル%以上であり、特に好ましいのは20モル%以上である。エチレン含有率の上限はガスバリア性の観点から、48モル%以下が好ましく、38モル%以下がより好ましく、30モル%以下が更に好ましい。また、エチレンービニルアルコール共重合体のケン化度は、96%以上が好ましく、98%以上がより好ましい。本発明のフィルムにおいて、エチレンービニルアルコール共重合体中のエチレン含有量、およびケン化度が上記範囲であることにより、製膜性とガスバリア性のバランスに優れたものとなり、層(A)との共押出や、二軸延伸などの成形加工に好適である。
【0039】
(熱可塑性エラストマー(c))
エチレンービニルアルコール共重合体(b)を主成分樹脂として含む層(B)は、熱可塑性エラストマー(c)を含む。
熱可塑性エラストマー(c)とは、熱可塑性樹脂とエラストマー(弾性的な性質を持つ天然または合成樹脂)の特性を併せ持ち、加工性と同時に、ゴムのような優れた性能特性を示すものである。
例えば、熱可塑性エラストマー(c)としては、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、ポリスチレン系エラストマー、ポリオレフィン系エラストマー等が挙げられ、これらは、ハードセグメントとして、ポリエステル、ポリアミド、ポリスチレン、ポリオレフィンの分子骨格を有し、その中にソフトセグメントとして、ポリアルキレンエーテルグリコール、ポリエチレングリコール、ブタジエン、ポリテトラメチレンエーテルグリコールなどのゴム成分を有するものが例示される。
中でも、ポリエステル系エラストマーであることが好ましく、その中でも、ソフトセグメントとして、ポリテトラメチレンエーテルグリコール単位を含むことがより好ましい。具体例として、ポリブチレンテレフタレート-ポリテトラメチレンエーテルグリコール共重合体が例示される。
また、熱可塑性エラストマー(c)は、2種以上併用して用いても構わない。
【0040】
層(B)の合計質量を100質量%とする場合、熱可塑性エラストマー(c)の含有率は1質量%以上50質量%以下が好ましく、5質量%以上40質量%以下がより好ましく、10質量%以上30質量%以下がさらに好ましい。上記範囲とすることで、フィルム製膜性、透明性、ガスバリア性のバランスが良好となり好ましい。
【0041】
熱可塑性エラストマー(c)は、弾性率が低いものが好ましい。具体的には、JIS K7244-10(2005)で測定される、振動周波数10Hzで測定した-20℃から70℃の範囲における引張貯蔵弾性率(E’)の最大値が、食品包装用フィルムや包装体として使用した際の開封性(直線カット性)や耐衝撃性のバランスの点から、70MPa以下であることが好ましく、65MPa以下であることがより好ましい。下限は特に限定されないが、1MPa以上である。
【0042】
上記範囲であることにより、層(B)の柔軟性が適度となり、包装用フィルムや包装体としたときの開封性(直線カット性)が良好となり、カットした際のガタツキや引っ掛かりを発生しにくくなる傾向がある。
表1に示した各熱可塑性エラストマー(c)の貯蔵弾性率E’(-20℃~70℃)は、JIS K7244-10(2005)に準拠して、レオメータ(TA Instruments社製、「DiscoveryHR2」)を用いて、振動周波数10Hz、引張法で-20℃~70℃における貯蔵弾性率E’を測定した。
【0043】
また、23℃での、引張貯蔵弾性率E’は、50MPa以下であることが好ましく、40質量%以下であることがより好ましく、35質量%以下であることがさらに好ましい。下限は特に限定されないが、1MPa以上である。
【0044】
熱可塑性エラストマー(c)は、層(B)中での分散径が、ガスバリア性やカット性の観点から、5μm未満であることが好ましく、4μm以下であることがより好ましい。
分散径が5μm未満であることにより、層(B)の柔軟性とカットした際のガタツキや引っ掛かりを発生しにくくすることができる。また透明性及びガスバリア性を維持することができる。
上記分散状態は、透過型電子顕微鏡(日立ハイテク社製SU8220)を用いて層(B)を観察の上、分散径を測定した。
【0045】
(他の成分)
層(B)は、本発明の効果を損なわない範囲で、添加剤等を含有することができる。
添加剤としては、例えば、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、耐候剤、滑剤、フィラー、核剤、可塑剤、ブロッキング防止剤、防曇剤、難燃剤、染料、顔料、安定剤、カップリング剤、耐衝撃改良材等を含有することができる。
層(B)の構成成分の合計100質量%に対して、添加剤の含有率はフィルム製膜性、高透明性、低吸水性の観点から5質量%以下が好ましい。
【0046】
<層構成>
本発明のポリアミド系樹脂フィルムは、脂肪族ポリアミド樹脂を含む層(A)とエチレンービニルアルコール共重合体(b)を主成分樹脂として含む層(B)との少なくとも2層を有すればよい。
複数の層(A)を配設する場合は、組成の同一な層(A)でもよく、組成の異なる層(A)でもよい。層(A1)/層(A2)/層(B)の様な層構成の場合は、層(A1)と層(B)の層間接着性向上のために、層(A2)に層(A1)及び/又は層(B)と共通な樹脂を含むと好適である。
複数の層(B)を配設する場合も、組成の同一な層(B)でもよく、組成の異なる層(B)でもよい。
【0047】
また、層(A)と層(B)の他に、他の層(C)を有してもよい。
他の層(C)の成分は特に制限はないが、層(C)を層(A)と層(B)との間に配設する場合は、層間接着性の向上のために、接着性樹脂を用いると好ましく、例えば酸変性ポリオレフィン樹脂などが挙げられる。層(C)をフィルムの表層に配する場合は、フィルムの耐ピンホール性や耐摩擦・磨耗性の向上のために、ポリアミド6、ポリアミド6,6、ポリアミド6,66、ポリアミドMXD6、ポリエステル等からなる層を設けると好ましい。
【0048】
各層順としては、特に限定はないが、例えば、[A/B]の2層構成、[A/B/A]、[A/B/C]、[A/C/B]、[C/A/B]の3層構成、[A/A/B/A/A]、[A/C/B/C/A]、[C/A/B/A/C]、[A/B/C/B/A]の5層構成などがフィルム製膜安定性の点で好ましい。中でも、[A/B/A]、[A/A/B/A/A]、[A/C/B/C/A]、[C/A/B/A/C]のような層(B)の両側に低吸水性を有する層(A)を配する構成は、層(B)の吸水を防ぎフィルムのガスバリア性を向上させる点、層(B)を含めフィルムに十分な耐衝撃性を付与する点で好ましい。
【0049】
本発明のフィルムの総厚は、特に限定されるものではないが、加工性、透明性、ハンドリング性の点から、5~50μmが好ましく、10~30μmがより好ましく、12~25μmが更に好ましい。総厚が上記範囲内であれば、ポリアミド系二軸延伸フィルムとしての機械特性が良好で、ガスバリア性にも優れたフィルムとなる。
【0050】
各層厚は、フィルムの機械物性と酸素ガスバリア性の点から、フィルム総厚100%に対する層(A)の厚比は25~90%、層(B)の厚比は10~75%とすることが好ましい。なお、層(A)および/または層(B)が複数ある場合は、総厚に対する層(A)または層(B)層の合計厚の比率である。
【0051】
本発明のフィルムは、印刷、コーティング、蒸着などの表面処理や表面加工を行うことができる。また、ポリオレフィンやポリエステル等の他の樹脂層や他のフィルムや粘着層、金属箔、紙などを積層して使用することができ、積層方法は公知の方法を用いることが可能で、例えばドライラミネート法、ウェットラミネート法、サンドラミネート法、押出ラミネート法などが挙げられる。また、積層の際に、本発明のフィルム表面にコロナ放電、アンカーコート等の表面処理を施してもよい。
また、本発明のフィルムを包装材に用いる場合は、内容物の品質保持や腐敗防止の観点から、アルミニウム、酸化珪素、アルミナ、ダイヤモンドライクカーボン等を蒸着加工する、ポリビニルアルコール(PVA)系樹脂、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)系樹脂などのガスバリア性コート剤を塗布する等により、さらにガスバリア性や防湿性を向上させることができる。
【0052】
<製造方法>
本発明のフィルムは、脂肪族ポリアミド樹脂を含む層(A)とエチレンービニルアルコール共重合体(b)を主成分樹脂として含む層(B)との少なくとも2層を有するフィルム構成であればよく、公知の方法により製造することができる。
原材料のポリアミド各種やガスバリア性樹脂は、吸水した樹脂を使用すると熱溶融し押し出す際に水蒸気やオリゴマーが発生しフィルム化を阻害する。そのため、原材料の準備においては、事前に樹脂を乾燥して水分含有率を0.1質量%以下とするのが好ましい。
それら樹脂を各層用の押出機にそれぞれ投入し、溶融した樹脂をフィードブロック、またはマルチマニホールドのフラットダイ、または環状ダイで合流させてから、多層フィルムとして共押出した後、急冷することによりフラット状、または環状の未延伸フィルムを得ることができる。
【0053】
二軸延伸フィルムを得るには、未延伸フィルムをテンター式逐次二軸延伸、テンター式同時二軸延伸、チューブラー式同時二軸延伸等の公知の方法を用い、フィルムの流れ方向(縦方向、MD)とこれに直角な幅方向(横方向、TD)に二軸延伸する。例えば、テンター式逐次二軸延伸方法の場合には、未延伸フィルムを40~100℃の温度範囲に加熱し、ロール式縦延伸機によって縦方向に延伸し、続いてテンター式横延伸機によって80~230℃の温度範囲内で横方向に延伸することにより製造することができる。また、テンター式同時二軸延伸やチューブラー式同時二軸延伸方法の場合は、例えば、40~230℃の温度範囲において、縦横同時に各軸方向に延伸することにより製造することができる。
【0054】
延伸倍率は、フィルムの流れ方向(縦方向、MD)、幅方向(横方向、TD)において、各々2.0~6.0倍が好ましく、各々2.5~5.5倍がより好ましい。二軸延伸方向の延伸倍率が各々2.0倍以上により延伸配向が進み、フィルム強度などの機械物性が良好となり、また延伸倍率が各々5.5倍以下により、延伸時にフィルムが破断し難く生産性が良い。
【0055】
更に、フィルムの寸法安定性を向上させるために、上記の二軸延伸フィルムを熱固定することができる。熱固定温度は、170℃~225℃が好ましく、180~220℃がより好ましい。これにより、常温寸法安定性のよい二軸延伸フィルムを得ることが出来る。
熱固定による結晶化収縮の応力を緩和させるために、熱固定中に幅方向に0~15%、好ましくは3~10%の範囲で弛緩処理を行うこともできる。
また、弛緩処理の後、140℃~200℃の温度で、幅方向に2~9%、好ましくは3~7%、更に好ましくは4~7%の範囲で再延伸を行うことができる。再延伸温度が上記範囲内にあれば、適度な延伸時の応力が得られて均質な延伸となり、幅方向の横収縮率が均等になりやすい。
【0056】
<フィルム物性>
(低吸水性)
本発明のポリアミド系樹脂フィルムは、低吸水性であることが好ましく、吸水率は、10.00%以下が好ましく、9.00%以下がより好ましく、7.00以下がさらに好ましい。二軸延伸フィルムは樹脂の結晶配向化が進むので、未延伸フィルムよりも吸水率が低くなり好ましい。
吸水率は、以下の吸水試験により求められる。直径100mmの円形フィルム試験片を23℃相対湿度50%条件下で24時間以上保管し質量(s)を秤量する。次いで、フィルム試験片を23℃の蒸留水に24時間浸漬させた後、表面に付着した水を拭き取ってフィルム試験片の質量(e)を秤量し、下式1で吸水率(%)を算出する。4枚のフィルム試験片を試験し、平均値を求める。
{(e)-(s)}/(s)×100(%) (式1)
【0057】
(耐衝撃性)
本発明のフィルムの耐衝撃性は、貫通部がフィルム試験片にあなを開けた際のパンクチャー衝撃強度によって評価できる。測定温度、23℃、および、-20℃のいずれかの温度におけるパンクチャー衝撃強度は、0.2J以上が好ましく、0.3J以上がより好ましい。パンクチャー衝撃強度が係る範囲であれば、フィルムは耐衝撃性に優れ、包装材に用いた際に穴があき難く良好である。
本発明のフィルムの耐衝撃性は、JIS P8134(1998)の衝撃あな開け強さ試験により測定される。装置の架台は、仕事量の損失がないようにしっかりした基礎に設置し、振子は90度の弧状の腕を有し、その腕の先端には貫通部が取り付けられており、自由に振動することができるものとする。
【0058】
(引張破断強度、引張破断伸び)
引張破断強度は、流れ方向(MD)、幅方向(TD)共に、また、-20℃、23℃の両温度条件において、120MPa以上が好ましく、150MPa以上がより好ましい。
上限は特にないが、500MPa以下程度である。係る範囲の引張破断強度のフィルムであれば、内容物を包装した際に、フィルムの剛性を維持しつつ、屈曲によるピンホールや破断が生じにくい。
引張破断伸びは、フィルムの流れ方向(MD)、幅方向(TD)共に、また、-20℃、23℃の両温度条件において、35%以上が好ましく、40%以上がより好ましい。フィルムは低温であるほど伸び難く、また冷凍食品包装において耐突刺し性が弱くなるため、-20℃条件下で引張破断伸びが35%以上であることが有用となる。引張破断伸びの上限は特にないが、150%程度である。
引張破断伸び、引張破断強度は、JIS K7127(1999)、試験速度200mm/min、-20℃、及び23℃の温度条件で測定する。
【0059】
(透明性)
本発明のフィルムは、ヘーズ10.0%以下が好ましく、8.0%以下がより好ましく、低いほど好ましい。ヘーズ値が係る範囲であれば、フィルムは透明性に優れ、意匠性や、包装フィルムとして用いた際に内容物の視認性が良好である。
ヘーズは、JIS K7136(2000)に基づき測定される。
【0060】
(酸素ガスバリア性)
本発明のフィルムは、23℃相対湿度50%の条件下での酸素透過率が10cc/m/24h/atm以下であることが好ましく、5cc/m/24h/atm以下であることが更に好ましく、2.00cc/m/24h/atm以下であることが特に好ましく、1.00cc/m/24h/atm以下であることが最も好ましい。より低い値であることが望まれる。酸素透過率が10cc/m/24h/atm以下であれば、包装用フィルムとして、内容物の変質を防止し、新鮮に保つのに十分な酸素ガスバリア性を維持することができるため好ましい。
【0061】
(層(B)におけるエラストマー(c)の分散状態)
本発明に用いる熱可塑性エラストマー(c)は、エチレンービニルアルコール共重合体(b)を含む層(B)中でのMD/TD方向の分散径が、5μm未満であることが好ましく、4μm以下がより好ましく、3μm以下がさらに好ましい。
分散径が5μm未満であることにより、エチレンービニルアルコール共重合体(b)を含む層(B)がガスバリア性を維持したまま適度に軟質化し、カットした際外観も良好となる傾向がある。
【0062】
また、フィルム厚み方向の分散径が、MD/TD方向の分散径と同様に、5μm未満であることが好ましく、4μm以下がより好ましく、3μm以下がさらに好ましい。フィルム厚み方向の分散径が5μm未満であることにことにより、透明性も良好となる傾向がある。
表1に示した各熱可塑性エラストマー(c)の分散径は、以下のように評価した。
以下の要領でサンプル処理を行った。
表面コーティング:Pt-Pd蒸着 10mA×50sec
断面加工:イオンミリング 80μA×4.0hr
表面処理:エッチング 10mA×4min
上記サンプル処理を行った資料に関して、透過型電子顕微鏡(日立ハイテク社製SU8220)を用いてエチレンービニルアルコール共重合体(b)を含む層(B)を下記条件で観察の上、任意の3点の分散径を測定し平均値を求めた。
観察方向:MD断面方向/TD断面方向/厚み方向
加速電圧:3.0kV
観察倍率:×10k
【0063】
<包装体>
本発明のフィルムは、公知のラミネート法によりシーラントフィルム等と積層し、袋体、チューブや、蓋材と底材とを組み合わせた容器等の包装体に成形し利用できる。
各種包装体への成形方法は、特定限定されず公知の方法を採用でき、例えば、ピロー成形などが採用可能である。
【実施例0064】
以下に本発明は実施例を用いて具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
<原材料>
実施例、比較例に用いた樹脂の略号、成分、物性等は次の通りである。
【0065】
(脂肪族ポリアミド樹脂)
PA6:UBE社製、UBE1022FD37、相対粘度3.4、融点220℃、密度1140kg/m
(半芳香族ポリアミド樹脂)
MXD6:三菱ガス化学社製、MX S6010、ポリアミドMXD6、融点237℃、密度1210kg/m
(エチレンービニルアルコール共重合体)
EVOH:三菱ケミカル社、SoarnoL V2504NB、エチレン含有率25mol%、融点195℃、密度1220kg/m
【0066】
(熱可塑性エラストマー(c))
c1:DSM社製、Arnitel EM400、ポリブチレンテレフタレート―ポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMG)ブロック共重合体
c2:三菱ケミカル社製、Tefabloc A1610N、ポリブチレンテレフタレート―ポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMG)ブロック共重合体
(軟質ポリオレフィン(d))
d1:出光興産社製、L-MODU S901、軟質ポリオレフィン
【0067】
表1に、上記C1、C2、および、d1の引張貯蔵弾性率の最大値および23℃での値、ならびに、EVOH中での分散径を示す。
「引張貯蔵弾性率E’(-20℃~70℃)」は、JIS K7244-10(2005)に準拠して、レオメータ(TA Instruments社製、「DiscoveryHR2」)を用いて、振動周波数10Hz、引張法で-20℃~70℃において測定した。
「EVOH中での分散径(μm)」は、透過型電子顕微鏡(日立ハイテク社製SU8220)を用いて層(B)を観察の上、分散径を測定した。
なお、表1に示した分散径は、MD方向およびTD方向の平均値であり、また、15μm×15μmの視野内において観測される3個の平均値である。
【0068】
【表1】
【0069】
<フィルム作製、フィルム層構成>
上記した原材料を表2に示す質量比で配合した層(A)の樹脂組成物をφ40mmの単軸押出機に投入し、上記した原材料を表2に示す質量比で配合した層(B)の樹脂組成物をφ32mmの単軸押出機に投入し、層(A)は250℃、層(B)は220℃で溶融させ、分配ブロックで分配し、共押出Tダイ内で多層化させて溶融フィルムを押出し、30℃の冷却ロールの上で急冷して未延伸多層フィルムを作製した。
得られた未延伸多層フィルムを、ロール式縦延伸機を用いて56℃条件で流れ方向に3.0倍延伸し、次いでテンター式横延伸機にて120℃条件で幅方向に4.9倍延伸し、続いて、215℃条件で熱固定した後、幅方向に8%弛緩させた。その後、室温まで冷却し、クリップの把持部に相当する両端部はトリミングし、トリミング後のフィルムをロール状に巻き取り、層構成[層(A)5.5μm/層(B)4.0μm/層(A)5.5μm]、総厚15.0μmの二軸延伸多層フィルムを得た。各層厚は、フィルムを垂直に断面出しし、顕微鏡観察により計測した。
【0070】
<評価>
得られた二軸延伸多層フィルムについて、下記の評価を行い、結果を表2に纏めた。
(1)透明性(ヘーズ(%))
JIS K7136:2000に準拠してヘーズ(単位:%)を測定した。
ヘーズ 20%以下 ◎
ヘーズ 20%をこえる ×
【0071】
(2)引張破断強度(MPa)、引張破断伸び(%)
JIS K7127(1999)に基づき、試験速度200mm/min、-20℃及び23℃温度条件下で、流れ方向(MD)、幅方向(TD)への引張破断強度(単位:MPa)、引張破断伸び(単位:%)を測定した。
【0072】
(3)耐衝撃性(パンクチャー衝撃強度(J)および伸び(mm))
JIS P8134(1998)の衝撃あな開け強さ試験により、パンクチャー衝撃強度(単位:J)および伸び(単位:mm)を測定した。装置の架台は、仕事量の損失がないようにしっかりした基礎に設置し、振子は90度の弧状の腕を有し、その腕の先端には貫通部が取り付けられており、自由に振動することができるものである。
パンクチャー衝撃強度は、23℃、および、-20℃の二種類の温度条件にて測定した。
【0073】
(4)突刺強さ(N)および伸び(mm)
JIS Z1707(2019)に基づき、突刺し強さ(N)および伸び(mm)を、-20℃および24℃の条件で測定した。
【0074】
(5)易引裂き性評価(トラウザー引裂き強度)
JIS K 7128トラウザー引き裂き強度により、引裂き強度(単位:N/mm)を評価した。MD方向の引き裂き強度を以下のように評価した。
MD方向の引き裂き強度が2.00以下:〇
MD方向の引き裂き強度が2.00を超える:×
【0075】
(6)直線カット性、カット面外観
得られた二軸延伸多層フィルムを、TD方向に20cm、MD方向に30cm切り出し、このフィルムの一方のTD辺の中央部に長さ5cm程度の切り込みを入れた試料を作製する。次に、切込みより長辺方向に手でフィルムの下端まで引裂き、直線カット性とカット断面の外観を以下の基準で評価した。
・直線カット性
引っ掛かりが無く、直線状に引裂くことができる :〇
引っ掛かりがあるが、直線状に引裂くことができる :△
引っ掛かりやガタツキがあり、直線状に引き裂き難い :×
・カット面外観
平滑で透明 :○
平滑であるが白化した :△
平滑でない(ガタツキあり) :×
【0076】
(8)吸水性(吸水率(%))
得られた二軸延伸多層フィルムを、直径100mmの円形フィルム試験片とし、これを23℃相対湿度50%条件下で24時間以上保管し質量(s)を秤量した。そのフィルム試験片を23℃の蒸留水に24時間浸漬させた後、表面に付着した水を拭き取ってフィルム試験片の質量(e)を秤量し、下記式(1)で吸水率(単位:%)を算出した。4枚のフィルム試験片を試験し、平均値を求めた。
{(e)-(s)}/(s)×100(%) (式1)
【0077】
(7)バリア性(酸素透過率)
酸素透過率測定装置(OX-Tran2/21:MOCON社製)を用い、JIS K7126-1(2006)に準拠して23℃、0%RHでの酸素透過率(cc/m・24hr・atm)を測定した。
1.00 cc/m・24hr・atm以下:〇
1.00cc/m・24hr・atm超、2.00cc/m・24hr・atm以下:△
2.00cc/m・24hr・atm超:×
【0078】
【表2】
【0079】
実施例1、2の本願発明のポリアミド系樹脂フィルムは、所定の層(A)および層(B)を有し、層(B)が熱可塑性エラストマー(c)を含んでおり、比較例に比べ直線カット性、カット面外観が良好であり、酸素透過度も十分低いものであった。また、引張破断強度、引張破断伸びも良好であった。また、透明性も良好であった。
これに対して、比較例1では、層(B)が熱可塑性エラストマー(c)を含まず、EVOHのみから構成されており、得られた積層フィルムの直線カット性およびカット面外観は不良であった。また、比較例2では、層(B)が熱可塑性エラストマー(c)の代わりに、軟質ポリオレフィンd1を含んでおり、得られた積層フィルムは、直線カット性およびカット面外観は不良であり、また、透明性が不良であった。これは、上記表1に示すように、軟質ポリオレフィンd1の特性によるものであり、分散径が比較的大きいことから透明性が不良になり、また、分散径および引張貯蔵弾性率が比較的大きいことから直線カット性およびカット面外観は不良となったと推定される。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明のフィルムは、優れた易直線カット性と、十分なガスバリア性を有するポリアミド系樹脂フィルムであり、食料品、医薬衣料品、工業部品等の包装に好適に用いることができる。