(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024136035
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】醤油由来成分配合食品の加速試験方法およびそれを用いた醤油由来成分配合食品の期限の設定方法、ならびに前記加速試験方法に用いられる演算プログラムおよび装置
(51)【国際特許分類】
G01N 33/02 20060101AFI20240927BHJP
A23L 5/10 20160101ALN20240927BHJP
【FI】
G01N33/02
A23L5/10 Z
A23L5/10 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023046988
(22)【出願日】2023-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】302042678
【氏名又は名称】株式会社J-オイルミルズ
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100128761
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 恭子
(72)【発明者】
【氏名】桐山 知樹
(72)【発明者】
【氏名】平岡 香織
【テーマコード(参考)】
4B035
【Fターム(参考)】
4B035LC01
4B035LE05
4B035LG09
4B035LG12
4B035LG13
4B035LG21
4B035LG43
4B035LG48
4B035LK01
4B035LK02
4B035LK14
4B035LP02
4B035LP27
(57)【要約】 (修正有)
【課題】醤油由来成分配合食品に適した適切な加速倍率を設定し、醤油由来成分配合食品の期限設定を適切かつ迅速に行う。
【解決手段】醤油由来成分配合食品の加速試験方法であって、前記食品の色および風味の劣化に対してそれぞれ別々に温度変化に伴う加速倍率を設定することを含み、各加速倍率の設定が、少なくとも2点の異なる温度において測定した前記食品の評点とそのときの経過時間とを用いて、各温度における一次近似式(A)を算出し、前記一次近似式(A)を基に、前記食品の評点の品質維持限界時の経過時間の逆数(κ)の自然対数(ln(κ))とそのときの温度(T)の逆数(1/T)とを用い、アレニウスの式に基づいて一次近似式(B)を算出し、前記一次近似式(B)を基に前記温度変化に伴う加速倍率を算出することを含む、前記食品の加速試験方法
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
醤油由来成分配合食品の加速試験方法であって、
前記食品の色および風味の劣化に対してそれぞれ別々に温度変化に伴う加速倍率を設定することを含み、
各加速倍率の設定が、
少なくとも2点の異なる温度において測定した前記食品の評点とそのときの経過時間とを用いて、各温度における一次近似式(A)を算出し、
前記一次近似式(A)を基に、前記食品の評点の品質維持限界時の経過時間の逆数(κ)の自然対数(ln(κ))とそのときの温度(T)の逆数(1/T)とを用い、アレニウスの式に基づいて一次近似式(B)を算出し、
前記一次近似式(B)を基に前記温度変化に伴う加速倍率を算出することを含む、前記食品の加速試験方法。
【請求項2】
前記少なくとも2点の異なる温度が、室温(T0)、T10(T0+10℃)およびT20(T0+20℃)から選ばれる、請求項1に記載の加速試験方法。
【請求項3】
前記温度変化に伴う加速倍率が、温度が10℃上昇したときの加速倍率(Q10)および温度が20℃上昇したときの加速倍率(Q20)から選ばれる少なくとも1つである、請求項1に記載の加速試験方法。
【請求項4】
前記醤油由来成分配合食品が、非液状調味料である、請求項1に記載の加速試験方法。
【請求項5】
前記醤油由来成分配合食品中の醤油由来成分の含有量が、乾燥質量換算で3質量%以上10質量%以下である、請求項1に記載の加速試験方法。
【請求項6】
食品の期限の設定に用いられる、請求項1に記載の加速試験方法。
【請求項7】
醤油由来成分配合食品の期限の設定方法であって、
請求項1から6のいずれか一項に記載の加速試験方法に従って、前記食品の色および風味の劣化に対してそれぞれ別々に温度変化に伴う加速倍率を算出し、
前記加速倍率に従って前記食品の加速試験を行い、前記食品の期限を設定することを含む、前記食品の期限の設定方法。
【請求項8】
醤油由来成分配合食品の加速試験方法において、前記食品の色および風味の劣化に対してそれぞれ別々に温度変化に伴う加速倍率を設定する演算プログラムであって、
前記食品の色および風味の劣化に対して、それぞれ別々に、コンピュータに、
少なくとも2点の異なる温度において測定した前記食品の評点とそのときの経過時間とを用いて、各温度における一次近似式(A)を算出する処理と、
前記一次近似式(A)を基に、前記食品の評点の品質維持限界時の経過時間の逆数(κ)の自然対数(ln(κ))とそのときの温度(T)の逆数(1/T)とを用い、アレニウスの式に基づいて一次近似式(B)を算出する処理と、
前記一次近似式(B)を基に前記温度変化に伴う加速倍率を算出する処理と、を実行させる、
前記演算プログラム。
【請求項9】
醤油由来成分配合食品の加速試験方法において、前記食品の色および風味の劣化に対してそれぞれ別々に温度変化に伴う加速倍率を設定する装置であって、
前記食品の色および風味の劣化に対して、それぞれ別々に、
少なくとも2点の異なる温度において測定した前記食品の評点とそのときの経過時間とを用いて、各温度における一次近似式(A)を算出する、一次近似式(A)算出部と、
前記一次近似式(A)を基に、前記食品の評点の品質維持限界時の経過時間の逆数(κ)の自然対数(ln(κ))とそのときの温度(T)の逆数(1/T)とを用い、アレニウスの式に基づいて一次近似式(B)を算出する、一次近似式(B)算出部と、
前記一次近似式(B)を基に前記温度変化に伴う加速倍率を算出する、加速倍率算出部と、
を備えてなる、前記装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、醤油由来成分配合食品の加速試験方法およびそれを用いた醤油由来成分配合食品の期限の設定方法、ならびに前記加速試験方法に用いられる演算プログラムおよび装置に関する。
【背景技術】
【0002】
食品の安全性および品質を保持するため、食品には消費期限または賞味期限の期限表示がされている。食品の期限の設定については、厚生労働省および農林水産省よりガイドラインが示されており、製造業者等は、個々の食品の特性に十分配慮した上で、食品の安全性や品質等を的確に評価するための客観的な項目(指標)に基づき、期限を設定する必要があることが記されている。
一般的には、食品の特性に応じて、設定された期限に対して1未満の係数(安全係数)を乗じて、客観的な項目(指標)において得られた期限よりも短い期間を設定することが行われている。必要以上に短い期限設定が行われる場合もあり、近年、食品ロスが深刻な社会問題となっている。経済的損失だけでなく、資源および環境負荷の増大も考慮すると、食品の安全性および品質に十分に配慮しながら、適切な期限設定を行う必要性はますます高まっている。
加工食品は、生鮮食品と異なり、長期間にわたり品質が保持される場合がある。このため、加工食品の期限設定においては、温度等を上昇させた環境下で食品の劣化を加速させ、短期間で期限を推測する加速試験が用いられている。従来、温度が10℃上昇すると、化学反応速度は2倍になることが知られており(アレニウスの法則、Q10=2.0)、これを基に加速倍率を設定する方法が知られている。また、アレニウスの式を利用して温度変化に伴う加速倍率を設定し加速試験を行う方法が知られている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】杉本昌明、「食品ロスを防ぐ賞味期限の設定」、公益社団法人日本技術士会水産部会主催第16回ジャパン・インターナショナル・シーフードショー、2014年8月22日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本願発明者らは、様々な加工食品に対して加速試験を行ったところ、醤油由来成分配合食品は劣化速度が非常に速く、他の加工食品と同じ加速試験方法では適切な期限設定が困難であることを見出した。醤油由来成分配合食品に適した加速試験方法を設計し、醤油由来成分配合食品の期限設定を適切かつ迅速に行うことが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以下に示した実施態様および実施形態を包含する。
[1]醤油由来成分配合食品の加速試験方法であって、
前記食品の色および風味の劣化に対してそれぞれ別々に温度変化に伴う加速倍率を設定することを含み、
各加速倍率の設定が、
少なくとも2点の異なる温度において測定した前記食品の評点とそのときの経過時間とを用いて、各温度における一次近似式(A)を算出し、
前記一次近似式(A)を基に、前記食品の評点の品質維持限界時の経過時間の逆数(κ)の自然対数(ln(κ))とそのときの温度(T)の逆数(1/T)とを用い、アレニウスの式に基づいて一次近似式(B)を算出し、
前記一次近似式(B)を基に前記温度変化に伴う加速倍率を算出することを含む、前記食品の加速試験方法。
[2]前記少なくとも2点の異なる温度が、室温(T0)、T10(T0+10℃)およびT20(T0+20℃)から選ばれる、前記[1]に記載の加速試験方法。
[3]前記温度変化に伴う加速倍率が、温度が10℃上昇したときの加速倍率(Q10)および温度が20℃上昇したときの加速倍率(Q20)から選ばれる少なくとも1つである、前記[1]に記載の加速試験方法。
[4]前記醤油由来成分配合食品が、非液状調味料である、前記[1]に記載の加速試験方法。
[5]前記醤油由来成分配合食品中の醤油由来成分の含有量が、乾燥質量換算で3質量%以上10質量%以下である、前記[1]に記載の加速試験方法。
[6]食品の期限の設定に用いられる、前記[1]に記載の加速試験方法。
[7]醤油由来成分配合食品の期限の設定方法であって、
前記[1]から[6]のいずれか一項に記載の加速試験方法に従って、前記食品の色および風味の劣化に対してそれぞれ別々に温度変化に伴う加速倍率を算出し、
前記加速倍率に従って前記食品の加速試験を行い、前記食品の期限を設定することを含む、前記食品の期限の設定方法。
[8]醤油由来成分配合食品の加速試験方法において、前記食品の色および風味の劣化に対してそれぞれ別々に温度変化に伴う加速倍率を設定する演算プログラムであって、
前記食品の色および風味の劣化に対して、それぞれ別々に、コンピュータに、
少なくとも2点の異なる温度において測定した前記食品の評点とそのときの経過時間とを用いて、各温度における一次近似式(A)を算出する処理と、
前記一次近似式(A)を基に、前記食品の評点の品質維持限界時の経過時間の逆数(κ)の自然対数(ln(κ))とそのときの温度(T)の逆数(1/T)とを用い、アレニウスの式に基づいて一次近似式(B)を算出する処理と、
前記一次近似式(B)を基に前記温度変化に伴う加速倍率を算出する処理と、を実行させる、
前記演算プログラム。
[9]醤油由来成分配合食品の加速試験方法において、前記食品の色および風味の劣化に対してそれぞれ別々に温度変化に伴う加速倍率を設定する装置であって、
前記食品の色および風味の劣化に対して、それぞれ別々に、
少なくとも2点の異なる温度において測定した前記食品の評点とそのときの経過時間とを用いて、各温度における一次近似式(A)を算出する、一次近似式(A)算出部と、
前記一次近似式(A)を基に、前記食品の評点の品質維持限界時の経過時間の逆数(κ)の自然対数(ln(κ))とそのときの温度(T)の逆数(1/T)とを用い、アレニウスの式に基づいて一次近似式(B)を算出する、一次近似式(B)算出部と、
前記一次近似式(B)を基に前記温度変化に伴う加速倍率を算出する、加速倍率算出部と、
を備えてなる、前記装置。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、醤油由来成分配合食品に適した適切な加速条件を設定して加速試験を行うことにより、醤油由来成分配合食品の期限、すなわち消費期限または賞味期限の設定を適切かつ迅速に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】(a)は本発明の一実施形態にかかる装置の全体構成を例示するブロック図であり、(b)本発明の一実施形態にかかる装置のハードウェア構成を例示するブロック図である。
【
図2】本発明の一実施形態にかかる装置が実行する登録処理の一例を表すフローチャートである。
【
図3】本発明の実施例における色の測定結果および一次近似式(A)を示すグラフである。
【
図4】本発明の実施例における色の測定結果および一次近似式(B)を示すグラフである。
【
図5】本発明の実施例における風味の測定結果および一次近似式(A)を示すグラフである。
【
図6】本発明の実施例における風味の測定結果および一次近似式(B)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態について具体的に説明する。
【0009】
1.醤油由来成分配合食品の加速試験方法
本発明にかかる醤油由来成分配合食品の加速試験方法(以下「本発明の加速試験方法」ともいう。)は、前記食品の色および風味の劣化に対してそれぞれ別々に温度変化に伴う加速倍率を設定することを含み、
各加速倍率の設定が、
少なくとも2点の異なる温度において測定した前記食品の評点とそのときの経過時間とを用いて、各温度における一次近似式(A)を算出し、
前記一次近似式(A)を基に、前記食品の評点の品質維持限界時の経過時間の逆数(κ)の自然対数(ln(κ))とそのときの温度(T)の逆数(1/T)とを用い、アレニウスの式に基づいて一次近似式(B)を算出し、
前記一次近似式(B)を基に前記温度変化に伴う加速倍率を算出することを含む。
【0010】
本発明者らは、鋭意研究する中で、醤油由来成分配合食品は劣化速度が速いだけでなく、温度変化に伴う色および風味の劣化速度が大きく異なることに着目した。本発明者らが更に検討を進めた結果、色および風味の劣化に対してそれぞれ別々に温度変化に伴う加速倍率を算出し加速試験を行うことで、醤油由来成分配合食品の期限を適切かつ迅速に推測できることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
ここで「醤油由来成分配合食品」は、醤油に由来する成分が配合された食品であれば特に限定されず、例えば、醤油;粉末醤油が配合された食品が挙げられる。醤油は、通常の調味料に用いられる醤油類であればよく、例えば、濃口醤油、淡口醤油、白醤油、溜り醤油、再仕込み醤油等が挙げられる。また、醤油は、生醤油または火入れ醤油のいずれであってもよく、醤油を加熱・減圧・凍結などの手段によって濃縮した濃縮醤油や、醤油を酵素的もしくは化学的に加水分解した蛋白加水分解調味液(醤油様調味料)等であってもよい。
【0012】
醤油由来成分配合食品における食品の種類としては、特に限定されないが、例えば、水産練り製品、肉加工品、乳加工品、野菜加工品、果実加工品、油脂食品、嗜好食品、調味料、菓子類、冷凍食品、レトルト食品、缶詰食品、びん詰め食品、インスタント食品等が挙げられる。中でも、調味料およびそれを用いて風味付けされた食品が好ましい。調味料の性状としては、液状または非液状のいずれであってもよいが、非液状調味料(例えば、粉末状、ペースト状等)が好ましく、ペースト状の調味料が特に好ましい。
【0013】
醤油由来成分配合食品に占める醤油由来成分の配合量は、食品の種類等によって大きく異なるため特に限定されないが、塩分濃度を考慮すると、通常10質量%以下が好ましく、より好ましくは3質量%以上10質量%以下、さらに好ましくは3質量%以上9質量%以下、特に好ましくは3質量%以上8質量%以下である。
【0014】
本発明の加速試験方法においては、色および風味の劣化に対してそれぞれ別々に温度変化に伴う加速倍率を設定する。各加速倍率の設定は、次のようにして行う。
【0015】
まず、少なくとも2点の異なる温度において測定した前記食品の評点とそのときの経過時間とを用いて、各温度における一次近似式(A)を算出する。
測定温度は、少なくとも2点あればよいが、精度上の点から、3点以上であることが好ましい。測定温度間の差は特に限定されないが、品質上の点から、5℃以上であることが好ましく、例えば、5℃、10℃、15℃であってもよい。測定温度としては、例えば、室温(T0)、T10(T0+10℃)およびT20(T0+20℃)から選ばれる少なくとも2点が好ましく、室温(T0)およびT10(T0+10℃)の2点、室温(T0)およびT20(T0+20℃)の2点、または室温(T0)、T10(T0+10℃)およびT20(T0+20℃)の3点が挙げられる。
【0016】
評点は、色および風味をそれぞれ客観的に評価して決定すればよい。例えば、理化学試験、微生物試験および官能検査等により評価して各評点を決定することができる。官能検査により評価する場合は、適切にコントロールされた条件下で、適切な被験者により的確な手法によって実施し数値化する。
本発明の一実施形態では、採点法(例えば、色および風味をそれぞれ5点満点または10点満点等で判定)により評点を決定することが好ましい。この場合に各被験者の採点の平均点を評点としてもよいし、被験者の総意に基づいて評点を決定してもよい。
色の評価については、官能検査により評価することもできるし、色の微妙な違いを客観的に評価することが可能であることから、測色計により測定した色差(ΔEab)により評価してもよい。例えば、測定開始時(保存開始時)の評価をコントロールとし、コントロールの平均値を色差基準色とした色差(ΔEab)を測定することで「色」を評価することができる。色差(ΔEab)は次式で表すことができる。
【数1】
[式中、Lは明度であり、aは彩度(赤)であり、bは彩度(黄)である。]
【0017】
各温度において、測定開始時の評点が最高点であり、所定の経過時間ごとに評点を評価してその推移を記録する。得られた結果を基に、評点とそのときの経過時間とを用いて、各温度における一次近似式(A)を算出する。一次近似式(A)は、横軸(x)に経過時間(例えば、経過日数、経過月数等)をとり、縦軸(y)に評点をとり、各点を座標系にプロットした後、y=-ax+bで表すことにより求めることができる。一実施形態として、評点を5点満点で評価した場合は、切片を5点(b=5)に固定し、y=-ax+5で表すことができる。
【0018】
次に、各温度で得られた一次近似式(A)を基に、前記食品の評点の品質維持限界時の経過時間(1/κ)の逆数(κ)の自然対数(ln(κ))とそのときの温度(T)の逆数(1/T)とを用い、アレニウスの式に基づいて一次近似式(B)を算出する。
例えば、評点を5点満点で評価した場合、評点の品質維持限界を3点(y=3)に固定して、各温度における一次近似式(A)から経過時間(1/κ)を求める。得られた経過時間の逆数(κ)の自然対数(ln(κ))とそのときの温度(T)の逆数(1/T)とを用い、一次近似式(B)を算出する。一次近似式(B)は、横軸(x)に温度(T)の逆数(1/T)をとり、縦軸(y)に経過時間の逆数(κ)の自然対数(ln(κ))をとり、各点を座標系にプロットした後、ln(κ)=-c×1/T+dで表すことにより求めることができる。
【0019】
得られた一次近似式(B)を基に前記温度変化に伴う加速倍率を算出することができる。温度変化に伴う加速倍率としては、温度が10℃上昇したときの加速倍率(Q10)および温度が20℃上昇したときの加速倍率(Q20)から選ばれる少なくとも1つが、食品の加速倍率を比較する際にQ10またはQ10が指標の一つとされる場合があることから、好ましく用いられる。
例えば、25℃および35℃での食品の期限をそれぞれ一次近似式(B)から算出し、得られた2点の食品の期限の比から、温度変化に伴う加速倍率、ここでは、温度が10℃上昇したときの加速倍率Q10を求めることができる。あるいは、25℃および45℃での食品の期限をそれぞれ一次近似式(B)から算出し、得られた2点の食品の期限の比から、温度変化に伴う加速倍率、ここでは、温度が20℃上昇したときの加速倍率Q20を求めることができる。
【0020】
上記のようにして、醤油由来成分配合食品の加速試験において、温度変化に伴う加速倍率を科学的根拠に基づいて適切に設定することができる。
得られた加速倍率を用いて加速試験を行うことにより、醤油由来成分配合食品の期限の設定を適切かつ迅速に行うことができる。本発明では、色および風味の劣化に対してそれぞれ別々に加速倍率を設定して加速試験を行い、それらの結果を基に期限を設定する。食品の種類に応じて異なる場合もあるが、通常、色および風味に対して設定された各期限のうち、より短い方の期限を醤油由来成分配合食品の期限として設定することが好ましい。
醤油由来成分配合食品の期限としては、消費期限または賞味期限のいずれでもよく、食品の種類に応じて適宜設定することができる。前記加速試験により求めた期限に、必要に応じて1未満の安全係数を乗じ、最終的な期限を設定する。
【0021】
上記のとおり、本発明の加速試験方法によれば、色および風味の劣化に対してそれぞれ別々に温度変化に伴う加速倍率を算出し加速試験を行うことで、醤油由来成分配合食品の期限を迅速かつ適切に推測することができる。
【0022】
2.醤油由来成分配合食品の期限の設定方法
本発明にかかる醤油由来成分配合食品の期限の設定方法(以下「本発明の食品期限の設定方法」ともいう)は、前記加速試験方法に従って、前記食品の色および風味の劣化に対してそれぞれ別々に温度変化に伴う加速倍率を算出し、
前記加速倍率に従って前記食品の加速試験を行い、前記食品の期限を設定することを含む。
本発明の食品期限の設定方法は、前述した加速試験方法を利用して醤油由来成分配合食品の期限を設定するものである。醤油由来成分配合食品の色および風味の劣化に対してそれぞれ別々に温度変化に伴う加速倍率を算出して加速試験を行うことにより、醤油由来成分配合食品の期限を適切かつ迅速に設定することができる。
前述したとおり、醤油由来成分配合食品の期限としては、消費期限または賞味期限のいずれでもよく、食品の種類に応じて適宜設定することができる。前記加速試験により求められた期限に、必要に応じて1未満の安全係数を乗じ、最終的に期限を設定する。
【0023】
3.演算プログラム
本発明にかかる演算プログラムは、醤油由来成分配合食品の加速試験方法において、前記食品の色および風味の劣化に対してそれぞれ別々に温度変化に伴う加速倍率を設定する演算プログラムであって、
前記食品の色および風味の劣化に対して、それぞれ別々に、コンピュータに、
少なくとも2点の異なる温度において測定した前記食品の評点とそのときの経過時間とを用いて、各温度における一次近似式(A)を算出する処理と、
前記一次近似式(A)を基に、前記食品の評点の品質維持限界時の経過時間の逆数(κ)の自然対数(ln(κ))とそのときの温度(T)の逆数(1/T)とを用い、アレニウスの式に基づいて一次近似式(B)を算出する処理と、
前記一次近似式(B)を基に前記温度変化に伴う加速倍率を算出する処理と、を実行させる、演算プログラムである。
本発明にかかる演算プログラムは、例えば記憶媒体等に記憶され、上記の処理を後述する装置に実行させることにより、前記食品の色および風味の劣化に対してそれぞれ別々に温度変化に伴う加速倍率を設定することができる。
【0024】
4.装置
本発明にかかる装置は、醤油由来成分配合食品の加速試験方法において、前記食品の色および風味の劣化に対してそれぞれ別々に温度変化に伴う加速倍率を設定する装置であって、
前記食品の色および風味の劣化に対して、それぞれ別々に、
少なくとも2点の異なる温度において測定した前記食品の評点とそのときの経過時間とを用いて、各温度における一次近似式(A)を算出する、一次近似式(A)算出部と、
前記一次近似式(A)を基に、前記食品の評点の品質維持限界時の経過時間の逆数(κ)の自然対数(ln(κ))とそのときの温度(T)の逆数(1/T)とを用い、アレニウスの式に基づいて一次近似式(B)を算出する、一次近似式(B)算出部と、
前記一次近似式(B)を基に前記温度変化に伴う加速倍率を算出する、加速倍率算出部と、
を備えてなる装置である。
【0025】
図1(a)は、本発明の一実施形態にかかる装置の全体構成を例示するブロック図である。
図1(a)で例示するとおり、装置100は、データ取得部11、一次近似式(A)算出部12、一次近似式(B)算出部13、および加速倍率算出部14等として機能する。
図1(b)は、本発明の一実施形態にかかる装置のハードウェア構成を例示するブロック図である。
図1(b)で例示するとおり、装置100は、CPU101、RAM102、記憶装置103等を備える。
CPU(Central Processing Unit)101は、中央演算処理装置である。CPU101は、1以上のコアを含む。RAM(Random Access Memory)102は、CPU101が実行するプログラム、CPU101が処理するデータ等を一時的に記憶する揮発性メモリである。記憶装置103は、不揮発性記憶装置である。記憶装置103として、例えば、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ等のソリッド・ステート・ドライブ(SSD:Solid State Drive)、ハードディスクドライブに駆動されるハードディスク等を用いることができる。記憶装置103は、醤油由来成分配合食品の加速試験方法において、前記食品の色および風味の劣化に対してそれぞれ別々に温度変化に伴う加速倍率を設定するための演算プログラムを記憶している。
CPU101が前記演算プログラムを実行することで、データ取得部11、一次近似式(A)算出部12、一次近似式(B)算出部13、および加速倍率算出部14が実現される。なお、データ取得部11、一次近似式(A)算出部12、一次近似式(B)算出部13、および加速倍率算出部14として、専用の回路等のハードウェアを用いてもよい。
【0026】
図2は、本発明の一実施形態にかかる装置が実行する登録処理の一例を表すフローチャートである。
図2で例示するとおり、データ取得部11は、醤油由来成分配合食品の色および風味の劣化に対して、それぞれ別々に、少なくとも2点の異なる温度において測定した前記食品の評点とそのときの経過時間とを取得する(ステップS1)。
次に、一次近似式(A)算出部は、醤油由来成分配合食品の色および風味の劣化に対して、それぞれ別々に、ステップS1で取得された少なくとも2点の異なる温度において測定した前記食品の評点とそのときの経過時間とを用いて、各温度における一次近似式(A)を算出する(ステップS2)。
続いて、一次近似式(B)算出部は、ステップS2で算出した一次近似式(A)を基に、醤油由来成分配合食品の色および風味の劣化に対して、それぞれ別々に、前記食品の評点の品質維持限界時の経過時間の逆数(κ)の自然対数(ln(κ))とそのときの温度(T)の逆数(1/T)とを用い、アレニウスの式に基づいて一次近似式(B)を算出する(ステップS3)。
次に、加速倍率算出部は、ステップS3で算出した一次近似式(B)を基に、醤油由来成分配合食品の色および風味の劣化に対して、それぞれ別々に、前記温度変化に伴う加速倍率を算出する(ステップS4)。
【0027】
以上の処理により、醤油由来成分配合食品の色および風味に対してそれぞれ別々に、醤油由来成分配合食品の加速試験方法に用いられる温度変化に伴う加速倍率を設定することができる。得られた加速倍率を用いて加速試験を行うことにより、醤油由来成分配合食品の期限を適切かつ迅速に設定することができる。
【実施例0028】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら制限されない。
【0029】
[実施例1]
鶏もも肉200g(25g×8個)、および醤油由来成分配合調味料(株式会社J-オイルミルズ製「揚げない焼きから揚げペースト」、表1参照)60gをチャック付きポリ袋に入れ、鶏もも肉にペーストをまんべんなくコーティングし、180℃に温めたフライパンで、ひっくり返しながら6分間焼成した。この焼きから揚げを、各温度条件について5個、すなわち、合計で15個準備した。
【0030】
【0031】
焼成直後の焼きから揚げの色および風味を評価した後、焼きから揚げをパウチに入れ、暗所にて24℃、34℃または44℃の各温度条件で5個(試料4個、予備1個)ずつ保存し、加速試験に供した。1ヶ月後、2ヶ月後、3ヶ月後および4.1ヶ月経過後に、焼きから揚げの色および風味の劣化を評価した。色および風味の評価および評価基準は以下に示したとおりである。
【0032】
<色の評価>
専門パネリスト2名で、焼きから揚げの褐変度合いについて目視により評価した。次の5段階の評価についてより正確に点数をつけるため、各段階をさらに10段階に分けて小数点第1位まで評価し、その平均値を算出し色を評価した。品質維持限界を3点としている。
【0033】
5:コントロールと同等
4:コントロールとわずかに異なる
3:コントロールとやや異なる
2:コントロールと異なる
1:コントロールと大幅に異なる
【0034】
<風味の評価>
専門パネリスト4名により、香りの強さおよび生姜風味の2項目について、焼成直後の焼きから揚げをコントロールとして評価した。次の5段階の評価について、より正確に点数をつけるため、各段階をさらに10段階に分けて小数点第1位まで評価し、その平均値を算出した。総合評価として2項目の平均値を算出し、風味を評価した。品質維持限界を3点としている。
5:コントロールと同等
4:コントロールとわずかに異なる
3:コントロールとやや異なる
2:コントロールと異なる
1:コントロールと大幅に異なる
【0035】
焼きから揚げの色および風味の評価結果は表2に示したとおりである。なお、風味の香りの強さおよび生姜風味の各評価結果も示した。
【表2】
【0036】
<色の劣化に対する加速度の設定方法>
表2の評価結果を基に、色について、Microsoft社の表計算ソフト「MicrosoftExcel(マイクロソフト・エクセル)」を用いて、各温度における一次近似式(A)を算出した。
図3に、色の測定結果および一次近似式(A)を示す。
【0037】
得られた色についての一次近似式(A)を基に、前記食品の評点の品質維持限界時の経過時間の逆数(κ)の自然対数(ln(κ))とそのときの温度(T)の逆数(1/T)とを求め、表3にまとめた。
【表3】
【0038】
表3の1/Tおよびln(κ)を用い、一次近似式(A)と同様にして、一次近似式(B)を算出した。
図4に、色の測定結果および一次近似式(B)を示す。
【0039】
得られた色についての一次近似式(B)を用いて、24℃、34℃および44℃における品質維持限界時の経過時間(1/κ)をそれぞれ算出した。結果は表4に示したとおりである。
【表4】
【0040】
表4の結果を基に、Q
10(温度が10℃上昇したときの加速倍率)およびQ
20(温度が20℃上昇したときの加速倍率)を算出した。結果は表5に示したとおりである。
【表5】
【0041】
焼きから揚げの色に関しては、上記で得られた加速倍率を用いて加速試験を行うことにより焼きから揚げの期限を適切かつ迅速に推測することができる。
【0042】
<風味の劣化に対する加速度の設定方法>
次に、表2の評価結果を基に、風味について、Microsoft社の表計算ソフト「MicrosoftExcel(マイクロソフト・エクセル)」を用いて、各温度における一次近似式(A)を算出した。
図5に、風味の測定結果および一次近似式(A)を示す。
【0043】
得られた風味についての一次近似式(A)を基に、前記食品の評点の品質維持限界時の経過時間の逆数(κ)の自然対数(ln(κ))とそのときの温度(T)の逆数(1/T)とを求め、表6にまとめた。
【表6】
【0044】
表6の1/Tおよびlnκを用い、一次近似式(A)と同様にして、一次近似式(B)を算出した。
図6に、風味の測定結果および一次近似式(B)を示す。
【0045】
得られた風味についての一次近似式(B)を用いて、24℃、34℃および44℃における品質維持限界時の経過時間(1/κ)をそれぞれ算出した。結果は表7に示したとおりである。
【表7】
【0046】
表7の結果を基に、Q
10(温度が10℃上昇したときの加速倍率)およびQ
20(温度が20℃上昇したときの加速倍率)を算出した。結果は表8に示したとおりである。
【表8】
【0047】
焼きから揚げの風味に関しては、上記で得られた加速倍率を用いて加速試験を行うことにより焼きから揚げの期限を適切かつ迅速に推測することができる。