(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024136094
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】横熱電変換材料、横熱電変換素子及び熱電変換モジュール
(51)【国際特許分類】
H10N 15/20 20230101AFI20240927BHJP
【FI】
H10N15/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023047069
(22)【出願日】2023-03-23
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業「トポロジカル機能界面の創出」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100142309
【弁理士】
【氏名又は名称】君塚 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】塚▲崎▼ 敦
(72)【発明者】
【氏名】藤原 宏平
(72)【発明者】
【氏名】水野 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】須▲崎▼ 友文
(57)【要約】
【課題】本発明は、従来よりも大きな異常ネルンスト効果を得られる横熱電変換材料、横熱電変換素子及び熱電変換モジュールを提供することを目的とする。
【解決手段】下記式(1)で表されるシャンダイト型硫化物のコバルトサイトの一部が第10族元素で置換されるか又は前記シャンダイト型硫化物のスズサイトの一部が第13族元素で置換された横熱電変換材料であって、前記シャンダイト型硫化物とは逆符号の異常ネルンスト係数を有する、横熱電変換材料。
Co3Sn2S2 ・・・式(1)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されるシャンダイト型硫化物のコバルトサイトの一部が第10族元素で置換されるか又は前記シャンダイト型硫化物のスズサイトの一部が第13族元素で置換された横熱電変換材料であって、
前記シャンダイト型硫化物とは逆符号の異常ネルンスト係数を有する、横熱電変換材料。
Co3Sn2S2 ・・・式(1)
【請求項2】
前記第13族元素がインジウムであり、前記スズサイトの一部がインジウムで置換された、請求項1に記載の横熱電変換材料。
【請求項3】
前記第10族元素がニッケルであり、前記コバルトサイトの一部がニッケルで置換された、請求項1に記載の横熱電変換材料。
【請求項4】
前記異常ネルンスト係数の符号が正である横熱電変換材料を含む第一の熱電変換素子と、前記異常ネルンスト係数の符号が負である請求項1~3のいずれか一項に記載の横熱電変換材料を含む第二の熱電変換素子とが、交互に配置され、ミアンダ配線状に接続された、横熱電変換素子。
【請求項5】
請求項4に記載の横熱電変換素子を備える、熱電変換モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、横熱電変換材料、横熱電変換素子及び熱電変換モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
物質に温度勾配を与えると起電力が発生する熱電変換機構として、ゼーベック効果(Seebeck effect)が知られている。ゼーベック効果では、起電力が温度勾配の方向に沿って生じる温度差に比例することから、大きな起電力を得るためには、熱源表面から垂直方向にp型モジュールとn型モジュールとを交互に設けた立体的で複雑な構造にする必要がある。このため、このような立体的な素子を大面積に展開することは困難である。
【0003】
このような問題に対して、例えば、特許文献1には、異常ネルンスト効果(anomalous Nernst effect)により、温度勾配に直交する方向に電界が生じる熱電変換機構を利用した熱電変換素子(横熱電変換素子)が提案されている。異常ネルンスト効果では、温度勾配に直交する横方向の電界(横電界)から起電力が生じることから、特許文献1の熱電変換素子によれば、熱源表面に沿うように素子構造を平面的に作製することができ、大面積化及びフィルム化に有利である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
異常ネルンスト効果は、大面積化及びフィルム化の観点で、ゼーベック効果に対して優位性があるものの、通常の磁性体を用いた異常ネルンスト効果による現状の発電量は、本格的な実用化のためには満足のいくものではなかった。
【0006】
そこで、本発明は、従来よりも大きな異常ネルンスト効果を得られる横熱電変換材料、横熱電変換素子及び熱電変換モジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、異常ネルンスト係数(=横電界/温度勾配)の符号の異なる層を接続することで起電力を増幅することができることを見出した。これまでの報告例では、異常ネルンスト係数の符号の異なる層として、最適な作製プロセスや条件が大きく異なる異種物質を用いていた。そこで、本発明者等は、結晶構造が共通で、同様の作製プロセスや条件の適用が可能な物質系において、符号の異なる異常ネルンスト係数を実現することが、様々な素子応用への展開を可能にできると考えた。かかる知見に基づいて、鋭意研究を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の態様を有する。
[1]下記式(1)で表されるシャンダイト型硫化物のコバルトサイトの一部が第10族元素で置換されるか又は前記シャンダイト型硫化物のスズサイトの一部が第13族元素で置換された横熱電変換材料であって、
前記シャンダイト型硫化物とは逆符号の異常ネルンスト係数を有する、横熱電変換材料。
Co3Sn2S2 ・・・式(1)
[2]前記第13族元素がインジウムであり、前記スズサイトの一部がインジウムで置換された、[1]に記載の横熱電変換材料。
[3]前記第10族元素がニッケルであり、前記コバルトサイトの一部がニッケルで置換された、[1]に記載の横熱電変換材料。
[4]前記異常ネルンスト係数の符号が正である横熱電変換材料を含む第一の熱電変換素子と、前記異常ネルンスト係数の符号が負である[1]~[3]のいずれかに記載の横熱電変換材料を含む第二の熱電変換素子とが、交互に配置され、ミアンダ配線状に接続された、横熱電変換素子。
[5][4]に記載の横熱電変換素子を備える、熱電変換モジュール。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、従来よりも大きな異常ネルンスト効果を得られる横熱電変換材料、横熱電変換素子及び熱電変換モジュールを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】カゴメ格子の配置パターンを示す平面図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る横熱電変換素子の構成を模式的に示す斜視図である。
【
図3】本発明の横熱電変換素子を構成する横熱電変換材料の異常ネルンスト係数の測定手法を模式的に示す平面図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る横熱電変換材料の電気抵抗率の温度依存性を示すグラフである。
【
図5】本発明の他の実施形態に係る横熱電変換材料の電気抵抗率の温度依存性を示すグラフである。
【
図6】本発明の一実施形態に係る横熱電変換材料の異常ネルンスト係数の温度依存性を示すグラフである。
【
図7】本発明の他の実施形態に係る横熱電変換材料の異常ネルンスト係数の温度依存性を示すグラフである。
【
図8】本発明の一実施形態に係る横熱電変換材料の異常ネルンスト係数の元素置換量による変化を示すグラフである。
【
図9】本発明の他の実施形態に係る横熱電変換材料の異常ネルンスト係数の元素置換量による変化を示すグラフである。
【
図10】実施例で用いた横熱電変換素子を平面視した写真である。
【
図11】本発明の一実施形態に係る横熱電変換素子の起電力の磁場依存性を示すグラフである。
【
図12】本発明の一実施形態に係る横熱電変換素子の起電力の温度依存性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を模式的に示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。また、以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに必ずしも限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0012】
≪横熱電変換材料≫
本発明の横熱電変換材料は、下記式(1)で表されるシャンダイト型硫化物とは逆符号の異常ネルンスト係数を有する。
Co3Sn2S2 ・・・式(1)
【0013】
シャンダイト型硫化物とは、T3M2S2の組成式で表される硫化物である。Tには、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)等の遷移金属元素が入り、Mにはスズ(Sn)やインジウム(In)等の典型金属元素が入る。シャンダイト型硫化物は、遷移金属元素Tがカゴメ格子を形成することを特徴とする。
【0014】
カゴメ格子は、
図1に示すように、正三角形と正六角形との頂点上に原子を配置したパターンを有する格子をいう。カゴメ格子は、正三角形の頂点上に原子を配置した三角格子から、4分の1の原子を取り去ることによって形成される。カゴメ格子では、原子が「籠目」状に配列しており、一つの原子に隣接する原子の数は4である。カゴメ格子は、トポロジカル的に保護されたバンド状態や、分散のないフラットバンドの発現の舞台になることが期待される。
【0015】
異常ネルンスト係数Sxyは、下記式(2)で表される。
Sxy=ρxxαxy+ρyxαxx ・・・式(2)
式(2)において、ρxxは電気抵抗率、αxyは横熱伝導率、ρyxはホール抵抗率、αxxはペルチェ係数を表す。ここで、横熱伝導率αxyは、下記式(3)のモットの式で表される。
αxy=(π2/3)×{(kB
2T)/e}(∂σxy/∂ε) ・・・(3)
【0016】
式(3)において、kBはボルツマン定数、Tは絶対温度、eは電気素量、σxyは、ホール伝導率、εは、電子のエネルギーを表す。ただし、∂σxy/∂εは、フェルミ準位での値である。
【0017】
本実施形態のシャンダイト型硫化物は、元素置換が施されていない場合、異常ネルンスト係数Sxyの符号が正である。
【0018】
本明細書において、「横熱電変換材料」とは、異常ネルンスト効果により起電力を生じる熱電変換材料を意味する。
【0019】
本実施形態の横熱電変換材料は、式(1)で表されるシャンダイト型硫化物のコバルトサイトの一部が第10族元素で置換されるか又は前記シャンダイト型硫化物のスズサイトの一部が第13族元素で置換されたものである。
本実施形態の横熱電変換材料は、例えば、下記式(4)の組成式で表される。
Co3-xXxSn2-yYyS2 ・・・式(4)
【0020】
式(4)において、Xは、コバルトサイトの一部と置換された第10族元素、xは、物質量比(モル比)を表す0以上3以下の数、Yはスズサイトの一部と置換された第13族元素、yは、物質量比(モル比)を表す0以上2以下の数を表す。ただし、式(4)において、xが正のときは、y=0、yが正のときは、x=0、すなわち、xy=0(ただし、x=0、かつ、y=0である場合を除く)であるものとする。
【0021】
式(4)におけるXとしては、例えば、ニッケル(Ni)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)が挙げられる。式(4)におけるXとしては、コバルトサイトに置換されやすいことから、ニッケル、パラジウム等の遷移金属元素が好ましく、ニッケルがより好ましい。
【0022】
式(4)におけるxは、0以上3以下であり、0.01以上1.0以下が好ましく、0.15以上0.4以下がより好ましい。式(4)におけるxが上記数値範囲内であると、異常ネルンスト係数Sxyの符号を反転させ得る。
式(4)におけるxは、エネルギー分散型X線分光法、電子プローブ微小分析法、X線光電子分光法、誘導結合プラズマ発光分光分析法等の組成分析法により求められる。
【0023】
式(4)におけるYとしては、例えば、ホウ素(B)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、タリウム(Tl)が挙げられる。式(4)におけるYとしては、スズサイトに置換されやすいことから、アルミニウム、ガリウム、インジウム等の典型金属元素が好ましく、インジウムがより好ましい。
【0024】
式(4)におけるyは、0以上2以下であり、0.01以上1.0以下が好ましく、0.15以上0.6以下がより好ましい。式(4)におけるyが上記数値範囲内であると、異常ネルンスト係数Sxyの符号を反転させ得る。
式(4)におけるyは、エネルギー分散型X線分光法、電子プローブ微小分析法、X線光電子分光法、誘導結合プラズマ発光分光分析法等の組成分析法により求められる。
【0025】
本実施形態の横熱電変換材料に用いられる式(1)で表されるシャンダイト型硫化物は、例えば、バルク試料の場合は、化学気相成長法、薄膜試料の場合は、スパッタリング法、分子線エピタキシー法により得ることができる。
【0026】
本実施形態の横熱電変換材料は、式(1)で表されるシャンダイト型硫化物とは、元素置換の条件によっては、逆符号の異常ネルンスト係数を有することができる。このため、式(1)で表されるシャンダイト型硫化物と適切に組み合わせたサーモパイル構造を作製することで、各材料を単体で用いて出力される起電力と比べて、温度勾配から生じる起電力の値をより高められる。これにより、従来よりも良好な横熱電変換性能を得ることが可能となる。
加えて、本実施形態の横熱電変換材料と式(1)で表されるシャンダイト型硫化物は、垂直磁気異方性を有するため、本実施形態の横熱電変換材料と式(1)で表されるシャンダイト型硫化物の飽和磁場よりも大きい磁場を試料面直方向(熱勾配に対して垂直)に印加することで、本実施形態の横熱電変換材料とシャンダイト型硫化物との磁化方向を揃えることができる。かつ、磁場をゼロテスラ(T)に減少させた後も、面直方向に磁化が残留するため、磁化配向状態を無磁場下で維持することができる。このため、従来のような、同符号の異常ネルンスト係数を有する複数の構成材料の磁化配向方向を反対に制御して起電力を積算するために、複数の構成材料の飽和磁場を考慮した複雑な着磁工程や着磁状態の維持のための定常磁場印加が不要になり、横熱電変換素子や熱電変換モジュールへの応用がより容易になる。
【0027】
なお、式(1)で表されるシャンダイト型硫化物において、コバルトサイトへの第10族元素の置換は電子数の増加に対応し、スズサイトへの第13族元素の置換は総電子数の減少に対応する。シャンダイト型硫化物は、バンド構造内にバンドが交差する特異点を有しており、フェルミ準位のエネルギー位置は、電子数の増加、減少に非常に敏感である。そのため、本実施形態の横熱電変換材料の異常ネルンスト係数の符号及び絶対値は、横熱電変換材料を構成する物質の電子構造において、フェルミ準位のエネルギー位置を上下することで変調できるものと考えられる。
これらのことから、本実施形態の横熱電変換材料の異常ネルンスト係数の符号及び絶対値は、コバルトサイトに置換される第10族元素の種類と置換量、スズサイトに置換される第13族元素の種類と置換量、及びこれらの組み合わせにより調節できる。
【0028】
≪横熱電変換材料の製造方法≫
本発明の横熱電変換材料は、式(1)で表されるシャンダイト型硫化物のコバルトサイトの一部を第10族元素で置換するか又は前記シャンダイト型硫化物のスズサイトの一部を第13族元素で置換することにより得られる。
式(1)で表されるシャンダイト型硫化物のコバルトサイトの一部を第10族元素で置換する方法は、例えば、コバルトの原料となる粉末に第10族元素の原料となる粉末を混合する方法、コバルトの原料と第10族元素の原料とを真空中で別々に供給して製膜する方法、コバルトの原料と第10族元素の原料とを予め混合したものを真空中で供給して製膜する方法等が挙げられる。真空中での原料供給の手法としては、真空蒸着法、分子線エピタキシー法、スパッタリング法、パルスレーザー堆積法等が挙げられる。また、均質に置換するために、製膜後に試料を熱処理してもよい。
コバルトの原料としては、例えば、コバルト単体、硫化コバルト、コバルト合金、含コバルト錯体及びコバルトを含む有機化合物等が挙げられる。
第10族元素の原料としては、例えば、ニッケル単体、硫化ニッケル、ニッケル合金、ニッケル錯体、ニッケルを含む有機化合物、パラジウム単体、硫化パラジウム、パラジウム合金、パラジウム錯体及びパラジウムを含む有機化合物等が挙げられる。
【0029】
式(1)で表されるシャンダイト型硫化物のコバルトサイトの一部を第10族元素で置換する方法としては、異常ネルンスト効果を示す薄膜の作製、及びそれを用いた素子の作製が容易、かつ、量産展開にも適していることから、スパッタリング法が好ましい。
【0030】
式(1)で表されるシャンダイト型硫化物のスズサイトの一部を第13族元素で置換する方法は、例えば、スズの原料となる粉末に第13族元素の原料となる粉末を混合する方法、スズの原料と第13族元素の原料とを真空中で別々に供給して製膜する方法、スズの原料と第13族元素の原料とを予め混合したものを真空中で供給して製膜する方法等が挙げられる。また、均質に置換するために、製膜後に試料を熱処理してもよい。
スズの原料としては、例えば、スズ単体、硫化スズ、スズ合金、スズ錯体及びスズを含む有機化合物等が挙げられる。
第13族元素の原料としては、例えば、インジウム単体、硫化インジウム、インジウム合金、インジウム錯体、インジウムを含む有機化合物、アルミニウム単体、硫化アルミニウム、アルミニウム合金、アルミニウム錯体、アルミニウムを含む有機化合物、ガリウム単体、硫化ガリウム、ガリウム合金、ガリウム錯体及びガリウムを含む有機化合物等が挙げられる。
【0031】
式(1)で表されるシャンダイト型硫化物のスズサイトの一部を第13族元素で置換する方法としては、異常ネルンスト効果を示す薄膜の作製、及びそれを用いた素子の作製が容易、かつ、量産展開にも適していることから、スパッタリング法が好ましい。
【0032】
その他にも、上述した粉末を混合する方法、真空蒸着法、分子線エピタキシー法、スパッタリング法、パルスレーザー堆積法は、特に限定されず、公知の方法を用いて行うことができる。
【0033】
≪横熱電変換素子≫
本発明の横熱電変換素子は、第一の熱電変換素子と、第二の熱電変換素子とが基板上にミアンダ配線状に交互に配置されたものである。
第一の熱電変換素子は、強磁性転移温度以下で、異常ネルンスト係数の符号が正である温度領域を有する横熱電変換材料を含む。
異常ネルンスト係数の符号が正である横熱電変換材料としては、例えば、式(1)で表されるシャンダイト型硫化物、式(1)で表されるシャンダイト型硫化物のコバルトサイトの一部が第10族元素で置換された硫化物、式(1)で表されるシャンダイト型硫化物のスズサイトの一部が第13族元素で置換された硫化物等が挙げられる。
異常ネルンスト係数の符号が正である横熱電変換材料としては、異常ネルンスト係数の絶対値が大きいことから、式(1)で表されるシャンダイト型硫化物が好ましい。
【0034】
第二の熱電変換素子は、強磁性転移温度以下で、異常ネルンスト係数の符号が負である温度領域を有する、本実施形態の横熱電変換材料を含む。
異常ネルンスト係数の符号が負である横熱電変換材料としては、例えば、式(1)で表されるシャンダイト型硫化物のコバルトサイトの一部が第10族元素で置換された硫化物、式(1)で表されるシャンダイト型硫化物のスズサイトの一部が第13族元素で置換された硫化物等が挙げられる。第二の熱電変換素子は、式(4)におけるx又はyで、0より大きく3以下、好ましくは、0.01以上1.0以下、より好ましくは、0.15以上0.4以下で置換されている。
異常ネルンスト係数の符号が負である横熱電変換材料としては、異常ネルンスト係数の絶対値が大きいことから、式(1)で表されるシャンダイト型硫化物のスズサイトの一部が第13族元素で置換された硫化物が好ましい。
【0035】
本実施形態の横熱電変換素子について、
図2に基づいて説明する。
図2は、横熱電変換素子20の構成を模式的に示す斜視図である。
【0036】
図2に示すように、本実施形態の横熱電変換素子20は、基板22と、基板22上に配置された発電体23とを備える。横熱電変換素子20において、発電体23の面内において+y方向に温度勾配▽Tを与えると、異常ネルンスト効果によって発電体23に電圧Vが生じる。
【0037】
基板22は、発電体23が配置される第1面22aと、第1面22aと反対側の第2面22bとを有している。
図2において、基板22の短手方向をx方向、長手方向をy方向、厚さ方向をz方向とする。
【0038】
発電体23は、複数の第一の熱電変換素子24と、複数の第二の熱電変換素子25とを有している。第一の熱電変換素子24には、上述した第一の熱電変換素子と同じものを用いることができる。第二の熱電変換素子25には、上述した第二の熱電変換素子と同じものを用いることができる。
【0039】
複数の第一の熱電変換素子24及び複数の第二の熱電変換素子25は、基板22上に、各々の長手方向(本実施形態ではx方向)に平行に、交互に配置され、それと垂直な方向(本実施形態ではy方向)に以下で説明する電気的な接続部を有する。
なお、発電体23を構成する第一の熱電変換素子24及び第二の熱電変換素子25の数は限定されない。
【0040】
第一の熱電変換素子24は、長手方向(x方向)の一端側(+x側)に、他の方向(y方向)の一方側(+y側)に向かう第1接続部24aを有している。
第二の熱電変換素子25は、長手方向(x方向)の一端側(+x側)に、他の方向(y方向)の他方側(-y側)に向かって突出した第1接続部25aを有している。なお、第一の熱電変換素子24、第二の熱電変換素子25のどちらが突出した接続部を有していてもよい。
【0041】
第一の熱電変換素子24は、長手方向(x方向)の他端側(-x側)に、他の方向(y方向)の他方側(-y側)に向かう第2接続部24bを有している。
第二の熱電変換素子25は、長手方向(x方向)の他端側(-x側)に、他の方向(y方向)の一方側(+y側)に向かって突出した第2接続部25bを有している。なお、第一の熱電変換素子24、第二の熱電変換素子25のどちらが突出した接続部を有していてもよい。
【0042】
第一の熱電変換素子24は、第1接続部24aを介して第二の熱電変換素子25の第1接続部25aと電気的に接続されている。
第一の熱電変換素子24は、第2接続部24bを介して第二の熱電変換素子25の第2接続部25bと電気的に接続されている。
これにより、複数の第一の熱電変換素子24と複数の第二の熱電変換素子25とが電気的に直列に、ミアンダ配線状に接続される。すなわち、発電体23は、基板22の第1面22a上に蛇行した形状(ミアンダ配線状)で設けられている。
【0043】
横熱電変換素子20は、基板22の第22b面から第1面22aへと向かう方向(+z方向)に磁場が印加される。磁場の印加によって、第一の熱電変換素子24は、基板22の第2面22bから第1面22aへと向かう方向(+z方向)に磁化される(磁化M1)。
また、第二の熱電変換素子25は、基板22の第2面22bから第1面22aへと向かう方向(+z方向)に磁化される(磁化M2)。
横熱電変換素子20は、第一の熱電変換素子24、第二の熱電変換素子25が磁化後、磁場を印加し続けてもよいし、磁場の印加を停止してもよい。
【0044】
また、複数の第一の熱電変換素子24と複数の第二の熱電変換素子25とは、使用する強磁性転移温度以下で、互いに逆符号の異常ネルンスト係数を有するように設計される。このため、複数の第一の熱電変換素子24と複数の第二の熱電変換素子25とは、第一の熱電変換素子24の磁化M1の方向(+z方向)と、第二の熱電変換素子25の磁化M2の方向(+z方向)とが同じになるように配列することができる。このことは、前述のように、発電体23に、第一の熱電変換素子24と第二の熱電変換素子25との飽和磁場よりも大きい磁場をz方向に印加することで磁化M1及び磁化M2の方向を揃えられることを意味し、横熱電変換素子20の製造をより容易にするという効果を奏する。
【0045】
基板22の面内において+y方向に温度差が生じると、発電体23の面内に+y方向の温度勾配▽Tが生じる。このとき、第一の熱電変換素子24では、磁化M1の方向(+z方向)及び温度勾配▽Tの方向(+y方向)の双方に直交する方向(+x方向)に起電力E1が生じる。一方、第二の熱電変換素子25では、磁化M2の方向(+z方向)及び温度勾配▽Tの方向(+y方向)の双方に直交する方向(-x方向)に起電力E2が生じる。起電力E1の方向と、起電力E2の方向とが逆向きになるのは、第一の熱電変換素子24と第二の熱電変換素子25とが、互いに逆符号の異常ネルンスト係数を有するためである。
【0046】
発電体23では、交互に隣り合う第一の熱電変換素子24と第二の熱電変換素子25とが電気的に直列に接続されていることから、第一の熱電変換素子24で発生した横電界と第二の熱電変換素子25で発生した横電界とが積算され、その出力電圧Vを増大させることが可能である。
加えて、発電体23は、磁化M1及び磁化M2の容易軸がz方向であるため、z方向の磁場を印加することで、磁化M1及び磁化M2の配向方向を揃えることができ、横熱電変換素子20をより容易に製造できる。
【0047】
本実施形態の横熱電変換素子20では、温度勾配と磁化方向と電界方向とが互いに直交しているため、薄いシート状の第一の熱電変換素子24及び第二の熱電変換素子25を用いることが可能である。
【0048】
ここで、第一の熱電変換素子24及び第二の熱電変換素子25の温度勾配▽Tに直交する方向(長手方向)の長さをLとすると、第一の熱電変換素子24及び第二の熱電変換素子25における温度勾配▽Tが一定の場合、異常ネルンスト効果により発生する電圧Vは、Lに比例する。すなわち、第一の熱電変換素子24及び第二の熱電変換素子25が長いほど、得られる電圧Vが大きくなる。
【0049】
したがって、本実施形態の横熱電変換素子20では、上述した交互に隣り合う第一の熱電変換素子24と第二の熱電変換素子25とが電気的に直列に接続された発電体23を採用することによって、電圧Vのさらなる増大が期待できる。
【0050】
本実施形態の横熱電変換素子20では、一つの材料(式(1)で表されるシャンダイト型硫化物)への置換で正、負の両方の符号の異常ネルンスト係数S
xyが得られる。このため、
図2に示すようなサーモパイル構造を有する発電体23を一つの材料系で作ることができる。これにより、第1接続部24a及び25a並びに第2接続部24b及び25bにおける接触抵抗を低減でき、交互に隣り合う第一の熱電変換素子24と第二の熱電変換素子25との界面の接続状態をより良好にできる。
加えて、本実施形態の横熱電変換素子20では、第一の熱電変換素子24と第二の熱電変換素子25との磁化の方向を同じにできる。このため、一方向の磁場を印加することで磁化の配向方向を揃えることができ、横熱電変換素子20をより容易に製造できる。
このほか、本実施形態の横熱電変換素子20は、一つの材料系で作ることができるため、製造プロセスをより簡便にできる。加えて、交互に隣り合う第一の熱電変換素子24と第二の熱電変換素子25との熱膨張率に差がないことに起因して、発電体23の耐久性をより高められる。
【0051】
≪熱電変換モジュール≫
本発明の熱電変換モジュールは、本発明の横熱電変換素子を備える。
本明細書において、横熱電変換素子は、異常ネルンスト効果により起電力を生じる熱電変換素子を意味する。
横熱電変換素子は、温度勾配と磁化方向と電界の方向とが互いに直交しているため、薄いシート状の熱電変換素子を作製することが可能である。
このような横熱電変換素子を備えることで、熱電変換モジュールは、発電モジュールや熱流センサとして利用できる。
【0052】
熱電変換モジュールは、様々な応用が可能である。特に、室温(例えば、25℃)から数100℃での温度領域でInternet of Things(IoT)センサの自立型電源又は熱流センサとしての応用が考えられる。
【0053】
例えば、本実施形態の熱電変換モジュールを熱流センサに適用することで、建築物の断熱性能の良否の判定や機械動作部の温度の動的変化の検出に用いることができる。また、自動車等の排気装置に熱電変換モジュールを設けることで、排気ガスの熱(廃熱)を利用して発電することができ、熱電変換モジュールを補助電源として有効利用することができる。すなわち、熱電変換モジュールを発電モジュールとして利用できる。
また、ある空間の壁面にメッシュ状に熱流センサを配置することで、熱流や熱源の空間認識を行うことが可能となる。これは、例えば、高密度農作物栽培や家畜生育の高精度温度管理や、自動運転に向けた運転者検知システムとしての応用が想定される。さらに、室内空調管理や、医療における深部体温管理においても、熱流センサを用いることができる。また、本実施形態の横熱電変換材料を粉末にしたり、ペーストにしたりすることで、幅広い分野への応用を期待することができる。
【実施例0054】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、本明細書中に表示される種々の測定値の測定方法及び評価は次のようにして行った。
【0055】
本実施例では、Co3Sn2S2の原料となるターゲットを次のように作製した。硫化スズ(II)と硫化スズ(IV)との混合物(物質量比1:1)からなる外径60mmのSnS1.5焼結体ディスクの表面に、コバルト金属チップ及びニッケル金属チップ、又は、コバルト金属チップ及び硫化インジウム(III)チップを貼り付けてターゲットとした。上記ターゲットをスパッタリング装置(株式会社エイコー製、ES-250)にセットし、SrTiO3(111)単結晶基板に、Co3Sn2S2のコバルトサイトの一部をニッケルで置換した薄膜、又は、Co3Sn2S2のスズサイトの一部をインジウムで置換した薄膜をサンプルとしてそれぞれ製膜した。これとは別に、上記SnS1.5焼結体ディスクの表面に、コバルト金属チップを貼り付けてターゲットとし、上記スパッタリング装置を用いて製膜したサンプルを用意した。なお、SrTiO3(111)単結晶基板に製膜する際の基板温度は400℃であり、製膜後に真空中で800℃の熱処理を実施した。得られた薄膜(厚さ40nm)に含まれる硫化物の組成は、Co3-xXxSn2-yYyS2(式(4))であった((x=0,y=0)、(x=0.11,y=0)、(x=0.21,y=0)、(x=0.44,y=0)、(x=0,y=0.08)、(x=0,y=0.24)、(x=0,y=0.41)、(x=0,y=0.60))。サンプルの形状は、長さ10mm、幅5mm、厚さ300μmの長方形状とした。
【0056】
本発明の横熱電変換素子を構成する横熱電変換材料の異常ネルンスト係数は、以下のようにして算出した。
図3に、横熱電変換材料の異常ネルンスト係数を求めるために製膜したサンプル及びその測定手法を、サンプルを俯瞰した方向からの模式図を示す。サンプル30は、基板32の表面に薄膜33が製膜されたものである。薄膜33は、製膜後に研磨紙を用いて基板32の表面の下半分の領域を機械研磨することでパターン形成をした。機械研磨により薄膜33を取り除いた基板32のx-y表面上には、温度計36Aと、温度計36Bとが、サンプル30に生じる温度勾配▽Tを見積もるために取り付けられている。温度計36Aは、Pt/Ti抵抗温度計である。温度計36Bは、Pt/Ti抵抗温度計である。Pt/Ti抵抗温度計は、フォトリソグラフィーでパターン形成したフォトレジストを用いて、スパッタリングで形成した。温度計36Aと、温度計36Bとのx方向の距離はLである。薄膜33のもう一つの面内方向(y方向)の距離はWである。
【0057】
製膜したサンプル30のx方向の一方の端をヒータで加熱し、もう一方の端にはヒートシンクを接触させることで、サンプル30のx方向に沿って温度勾配▽Tを生じさせた。このときの温度計36Aと温度計36Bとの温度差ΔTを測定した。この温度勾配▽T(=ΔT/L)と直交する方向(z方向)に磁場を印加し、薄膜33の面内方向(y方向)に発生する電位差Vxyを測定した。このとき、異常ネルンスト係数Sxyは、下記式(5)で算出される。
Sxy=(Vxy/ΔT)×(L/W) ・・・(5)
なお、後述する電気抵抗率ρxxは、薄膜33の面内方向(x方向)の電位差Vxxから求めた。
【0058】
製膜したサンプルの、2ケルビン(K)から300Kまで測定温度を上げたときの電気抵抗率(ρ
xx)を求め、グラフを作成した。式(4)におけるXをNiとした際のx、yが、(x=0,y=0)、(x=0.11,y=0)、(x=0.21,y=0)、(x=0.44,y=0)の場合の結果を
図4に示す。式(4)におけるYをInとした際のx、yが、(x=0,y=0)、(x=0,y=0.08)、(x=0,y=0.24)、(x=0,y=0.41)、(x=0,y=0.60)の場合の結果を
図5に示す。
【0059】
図4に示すように、測定温度が150K以下では、置換なしの場合(x=0,y=0)よりも、ニッケルの置換量が増加した場合(x=0.11、x=0.21、x=0.44)の方が、電気抵抗率(ρ
xx)が増加する傾向があることが分かった。
【0060】
図5に示すように、置換なしの場合(x=0,y=0)よりも、インジウムの置換量が増加した場合(y=0.08、y=0.24、y=0.41、y=0.60)の方が、電気抵抗率(ρ
xx)が増加する傾向があることが分かった。
【0061】
強磁性転移温度以上の200Kにおいて、製膜した薄膜試料の面直方向に1テスラ(T)又は-1Tの磁場を印加した後、50Kに冷却し、50Kで0Tに減磁した(磁場下冷却操作)。本薄膜試料は、面直磁気異方性を有するため、この磁場下冷却操作を行うことにより、強磁性転移温度以下で、それぞれ薄膜の厚さ方向(
図3の+z方向と-z方向)に磁化方向を揃えた状態を0Tで維持することができる。この状態で、50Kから250Kまで測定温度を増加したときの異常ネルンスト係数S
xyを求め、
図3の+z方向と-z方向とに磁化方向を揃えたときのデータを反対称化処理することで、グラフを作成した。式(4)におけるXをNiとした際のx、yが、(x=0,y=0)、(x=0.11,y=0)、(x=0.21,y=0)、(x=0.44,y=0)の場合の結果を
図6に示す。式(4)におけるYをInとした際のx、yが、(x=0,y=0)、(x=0,y=0.08)、(x=0,y=0.24)、(x=0,y=0.41)、(x=0,y=0.60)の場合の結果を
図7に示す。
【0062】
図6に示すように、異常ネルンスト係数S
xyは、置換なしの場合(x=0,y=0)、140Kより低温の領域で符号が正になるのに対し、コバルトサイトの一部を所定量のニッケルで置換すると(x=0.21)、115Kより低温の領域で、異常ネルンスト係数S
xyの符号が負になることが分かった。
異常ネルンスト係数S
xyは、ニッケルの置換量が増加すると減少する傾向がある(x=0.11、x=0.21)。ニッケルの置換量がさらに増加すると(x=0.44)、異常ネルンスト係数S
xyが再び増加し、0付近の値をとるが、これは、強磁性転移温度の低下により、異常ネルンスト効果を示す温度領域が低下していることと関連している。この結果から、ニッケル置換により、異常ネルンスト効果に関与するフェルミ準位近傍の電子状態が変調されていることが分かった。
また、
図6から明らかなように、コバルトサイトのニッケルの置換量によって、所定の温度において、異常ネルンスト係数S
xyは、符号が正になるものと、負になるものとが存在している。よって、符号が正になる置換量のものと符号が負になる置換量のものとを、本発明の横熱電変換素子20の第一の熱電変換素子24と第二の熱電変換素子25とすることで、大きな異常ネルンスト効果を得ることもできる。
【0063】
図7に示すように、異常ネルンスト係数S
xyは、置換なしの場合(x=0,y=0)、140Kより低温の領域で符号が正になるのに対し、スズサイトの一部を所定量のインジウムで置換すると(y=0.08)、170Kより低温の領域で、異常ネルンスト係数S
xyの符号が負になることが分かった。
異常ネルンスト係数S
xyは、インジウムの置換量が増加すると減少する傾向があるが(y=0.24)、インジウムの置換量がさらに増加すると(y=0.41、y=0.60)、異常ネルンスト係数S
xyが再び増加する傾向があることが分かった。また、インジウム置換に伴い、異常ネルンスト係数S
xyの立ち上がる温度が系統的に低下していることが分かった。これは、強磁性転移温度の低下に対応していると考えられる。これらの結果から、インジウム置換により、異常ネルンスト効果に関与するフェルミ準位近傍の電子状態が変調されていることが分かった。
また、
図7から明らかなように、スズサイトのインジウムの置換量によって、所定の温度において、異常ネルンスト係数S
xyは、符号が正になるものと、負になるものとが存在している。よって、符号が正になる置換量のものと符号が負になる置換量のものとを、本発明の横熱電変換素子20の第一の熱電変換素子24と第二の熱電変換素子25とすることで、大きな異常ネルンスト効果を得ることもできる。
【0064】
上述の磁場下冷却操作を行い、測定温度100Kのときの異常ネルンスト係数S
xyを求め、グラフを作成した。結果を
図8に示す。
【0065】
図8に示すように、100Kにおいて、異常ネルンスト係数S
xyの符号は、置換なしの場合(x=0,y=0)は正であった。コバルトサイトの一部をニッケルで置換すると、異常ネルンスト係数S
xyの値が小さくなり、x=0.21では、異常ネルンスト係数S
xyの符号が負になることが分かった。
また、スズサイトの一部をインジウムで置換すると、異常ネルンスト係数S
xyの値が小さくなり、y=0.08、y=0.24、y=0.41では、異常ネルンスト係数S
xyの符号が負になることが分かった。
このように、100Kの環境において、異常ネルンスト係数S
xyの値は、ニッケル又はインジウムの置換によって変化し、所定の置換量で異常ネルンスト係数S
xyの符号が正から負へと反転することが分かった。
【0066】
上述の磁場下冷却操作を行い、測定温度50Kのときの異常ネルンスト係数S
xyを求め、グラフを作成した。結果を
図9に示す。
【0067】
図9に示すように、50Kにおいて、異常ネルンスト係数S
xyの符号は、置換なしの場合(x=0,y=0)は正であった。コバルトサイトの一部をニッケルで置換すると、異常ネルンスト係数S
xyの値が小さくなり、x=0.21では、異常ネルンスト係数S
xyの符号が負になることが分かった。
また、スズサイトの一部をインジウムで置換すると、異常ネルンスト係数S
xyの値が小さくなり、y=0.24、y=0.41、y=0.60では、異常ネルンスト係数S
xyの符号が負になることが分かった。
このように、50Kの環境において、異常ネルンスト係数S
xyの値は、ニッケル又はインジウムの置換によって変化し、所定の置換量で異常ネルンスト係数S
xyの符号が正から負へと反転することが分かった。
【0068】
図10に示すようなサーモパイル構造を有する横熱電変換素子を作製し、熱電変換測定を行った。
図10の横熱電変換素子では、第一の熱電変換素子として、式(1)で表されるシャンダイト型硫化物を用い、第二の熱電変換素子として、式(4)におけるx、yが、(x=0,y=0.23)である横熱電変換材料を用いた。図中の「1ペアA」、「1ペアB」、「1ペアC」、「3ペア」は、起電力を測定した位置を示す。
横熱電変換素子の面内方向に温度勾配を生じさせ、面直方向の磁場を-3テスラから3テスラまで変化させたときの140Kにおける起電力を測定した。結果を
図11に示す。
【0069】
図11に示すように、面直方向の磁場を-3Tから3Tまで変化させたときの140Kにおける起電力は、1ペアA、1ペアB及び1ペアCで同様の結果であった。これは、それぞれのペアにおける第一の熱電変換素子及び第二の熱電変換素子が、他のペアにおける第一の熱電変換素子及び第二の熱電変換素子とそれぞれ同程度の性能を示し、かつ、それぞれのペアにおける第一の熱電変換素子と第二の熱電変換素子との接触抵抗が、他のペアにおける第一の熱電変換素子と第二の熱電変換素子との接触抵抗と同程度であることを示す。つまり、作製した横熱電変換素子における第一の熱電変換素子及び第二の熱電変換素子は均一な薄膜であり、それぞれの接続部は良好に接続されていることが分かった。
また、3ペアの起電力は、1ペアの起電力の約3倍であったことから、ペア数を増加させることで、増加分だけ起電力を大きくできることが分かった。さらに、作製した横熱電変換素子は、磁化の方向によって起電力の符号を変えることができ、また、外部磁場を±3T印加した後、外部磁場を0Tに戻しても、熱起電力成分の75%以上は残存することが分かった。
【0070】
図10の横熱電変換素子の面直方向に、上述の磁場下冷却操作を行い、0Tで50Kから300Kまで昇温したときの起電力を測定した。結果を
図12に示す。
【0071】
図12に示すように、150Kより低温では温度が低いほど起電力が増大し、約70Kで最大約130μVとなり、70Kより低温では温度が低いほど起電力が低下することが分かった。このように、作製した横熱電変換素子は、外部磁場が無くても熱起電力を有し、その熱起電力はある温度で最大値を示すことが分かった。
また、いずれの温度においても3ペアの起電力は1ペアの起電力の3倍であったことから、ペア数を増加させることで、増加分だけ起電力を大きくできることが分かった。
【0072】
以上の結果から、異常ネルンスト係数の符号が正の横熱電変換材料と、異常ネルンスト係数の符号が負の横熱電変換材料とを組み合わせることで、
図10に示すような横熱電変換素子を作製した際に、一定の方向に磁化させることで駆動する素子を作製できることが分かった。これにより、異常ネルンスト係数の符号が同符号のものを互い違いに配置し、磁化方向を反平行に制御して作製した素子よりも磁化が容易になり、素子の作製が簡便になる。また、異常ネルンスト係数の符号が同符号のものを導線で接続して一定の方向に磁化させることで駆動する素子よりも単位面積当たりの熱電変換性能が高い素子を提供することが可能となる。それだけでなく、異なる材料系の異常ネルンスト効果を示す材料を用いて、異常ネルンスト係数の符号が異符号のものを
図2のように配列した場合と比較して、熱膨張及び熱収縮による破損に対する耐久性が高い素子を提供することが可能となる。これは、同じ材料系であれば、熱膨張率が近い値を有するため、熱膨張率の違いによる電気的な接続部の断線が起こりにくいためである。
なお、異常ネルンスト係数の符号が負の場合、コバルトサイトの一部をニッケルで置換するよりも、スズサイトの一部をインジウムで置換する方が、異常ネルンスト係数の絶対値を大きくできることが分かった。
また、各元素置換において、異常ネルンスト係数の絶対値を最大にできる、ニッケル又はインジウムの置換量(x=0.21、y=0.24)が存在することも確認できた。