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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024136109
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】ガラスレンズ及び光学機器
(51)【国際特許分類】
   G02B 3/00 20060101AFI20240927BHJP
   C03B 11/00 20060101ALI20240927BHJP
   C03C 19/00 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
G02B3/00 Z
C03B11/00 A
C03C19/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023047089
(22)【出願日】2023-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】南舘 正宙
【テーマコード(参考)】
4G059
【Fターム(参考)】
4G059AA11
4G059AB05
4G059AC03
(57)【要約】      (修正有)
【課題】十分なレンズ外周面の面積を有し、かつ、欠陥部等が少ない品質の高い小型のガラスレンズの提供。
【解決手段】光軸に対して平行な外周面と、第一の光学面と、前記第一の光学面と対向する第二の光学面と、を有し、前記第一の光学面の外周側に第一の平坦面を有し、前記第二の光学面の外周側に第二の平坦面を有し、前記第一の平坦面と、前記外周面との間に、面取り面を有し、光軸を含む断面において、前記面取り面が外周面となす角度は110°超125°以下であり、前記面取り面の算術平均粗さRa1に対して、Ra1>Ra2である算術平均粗さRa2の面を、前記外周面と、前記第二の平坦面との間に有し、外径が5mm以下である、ガラスレンズ。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光軸に対して平行な外周面と、
第一の光学面と、
前記第一の光学面と対向する第二の光学面と、を有し、
前記第一の光学面の外周側に第一の平坦面を有し、
前記第二の光学面の外周側に第二の平坦面を有し、
前記第一の平坦面と、前記外周面との間に、面取り面を有し、
光軸を含む断面において、前記面取り面が外周面となす角度は110°超125°以下であり、
前記面取り面の算術平均粗さRa1に対して、Ra1>Ra2である算術平均粗さRa2の面を、前記外周面と、前記第二の平坦面との間に有し、
外径が5mm以下である、ガラスレンズ。
【請求項2】
前記外周面の算術平均粗さRa3が0.2μm以下である、請求項1に記載のガラスレンズ。
【請求項3】
前記算術平均粗さRa2が0.2μm以下である請求項1に記載のガラスレンズ。
【請求項4】
光軸を含む断面のうち、少なくとも一つの断面において、前記面取り面の光軸方向の幅をA、前記第二の平坦面上の最も外周側の一点を通り、かつ、光軸に対して90°をなす直線と、前記外周面との距離をBとしたとき、A>0.3Bを満たすBを有する請求項1に記載のガラスレンズ。
【請求項5】
前記第一の平坦面及び前記第二の平坦面の少なくとも一方が光軸に対して垂直である請求項1に記載のガラスレンズ。
【請求項6】
前記外周面と、前記第二の平坦面とが滑らかに連続している請求項1に記載のガラスレンズ。
【請求項7】
前記第一の光学面及び前記第二の光学面の少なくとも一方が凸レンズである請求項1に記載のガラスレンズ。
【請求項8】
光軸と前記第一の光学面との交点と、前記外周面の外径中心軸との距離、及び、光軸と前記第二の光学面との交点と、前記外周面の外径中心軸との距離が5μm以下である請求項1に記載のガラスレンズ。
【請求項9】
d線(587.6nm)における屈折率nが1.5以上である請求項1に記載のガラスレンズ。
【請求項10】
光軸方向から見て、ガラスレンズの形状が、円形からカット面の部分が欠けた形状となるカット面を有する請求項1に記載のガラスレンズ。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載のガラスレンズを備える光学機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラスレンズ及び光学機器に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラスレンズなどの光学素子を製造するにあたっては、プレス成形された成形体に芯取り加工が施されることがある。芯取り加工は成形体外周などの不要な部分を除去するとともに、得ようとする光学素子の外径中心軸と、光軸とを一致させるように行われる。しかし、レンズ径が1~5mm程度の小型のレンズでは、芯取り加工で光軸を決定する芯出しの精度を高く行うことが困難であり、芯出し精度が不十分である場合には、外径中心軸と、光軸との一致性が悪くなる。
【0003】
これに対して、プレス成形によって、光学素子の光学機能面を成形するとともに外周部も胴型などの型部材によって成形して、外径を画定する方法が知られている。この方法では、得ようとする光学素子の外径中心軸と、光軸とを精度よく一致させることができる。
プレス成形のみによって、得ようとするレンズの外径中心軸と、光軸とを一致させるには、レンズの光学面とともに外周部にも成形型の各型部材が接触するようにプレス成形をすることによって、レンズ形状を画定する必要がある。特許文献1には、この際、一般には、プレス成形に用いる成形素材(プリフォームとも呼ばれる)の容積は、得ようとするレンズの容積と一致していなければならないと記載されている。
【0004】
プレス成形に用いる成形素材は、例えば、ブロック状の光学ガラスから所定の大きさに切り出し、研磨によって球形などに冷間加工したり、溶融ガラスを受け型に滴下する等して分離し、予備成形(熱間成形)したりすることによって作製することができる。しかし、いずれの場合も、成形素材を均一な容積とするのは容易でない。成形素材の容積の均一な管理は、特に、容積が小さく軽量になったときに困難となる傾向が強い。
そこで、成形型に対して、成形面の外周角部に面取り加工を施して面取り部を形成することが行われている。面取り部と、胴型の内周面との間に形成される空隙に、成形素材の容積の余剰分を逃がすことができる。すなわち、成形素材の容積にばらつきがあり、成形素材の容積が規定量を超えてしまうような場合であっても、成形素材の容積のばらつきを吸収することができる。さらに、成形型の破損を有効に回避することもできる。
【0005】
しかし、面取り部を成形型に設けた場合、レンズ上に不定形の突起が生じる。レンズ上の不定形の突起は、レンズを光学機器に取り付ける際の障害や突起部分での欠けの発生につながる。
【0006】
特許文献1には、成形素材の容積管理の限界を超えるような、容積の小さな光学素子を高精度に製造する場合に、成形素材の容積にばらつきがあったとしても、生産効率よく、高い歩留まり率で均一な形状の光学素子を、簡便に、かつ、安定して製造することができる方法が記載されている。
この光学素子の製造方法では、成形面の外周角部に面取部を有する成形型で成形体の成形が行われ、次いで、成形体の上型側角部及び下型側角部を除去する面取加工が施される。成形体の面取加工は、凹部を有する砥石で行われる。成形体の上型側角部や、下型側角部に突起が生じたとしても、この突起は完全に除去される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4848165号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ガラスレンズの小型化に伴い、ガラスレンズの欠けや亀裂といった欠陥部等についての品質要求や、レンズ外周面を十分に確保することへの要求が高まっている。ガラスレンズの外周面の面積が大きいと、光学機器内でのレンズの傾きが抑制されやすい。
【0009】
特許文献1の方法では、成形体の上型側角部と下型側角部の双方を研削しており、加えて砥石が小さい面取り角度を有しているため、この方法で製造されるガラスレンズは十分な外周面を有していないと考えられる。
【0010】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、十分なレンズ外周面の面積を有し、かつ、欠陥部等が少ない品質の高い小型のガラスレンズの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示は、下記〔1〕~〔11〕の構成を有するガラスレンズ及び光学機器を提供する。
〔1〕光軸に対して平行な外周面と、
第一の光学面と、
前記第一の光学面と対向する第二の光学面と、を有し、
前記第一の光学面の外周側に第一の平坦面を有し、
前記第二の光学面の外周側に第二の平坦面を有し、
前記第一の平坦面と、前記外周面との間に、面取り面を有し、
光軸を含む断面において、前記面取り面が外周面となす角度は110°超125°以下であり、
前記面取り面の算術平均粗さRa1に対して、Ra1>Ra2である算術平均粗さRa2の面を、前記外周面と、前記第二の平坦面との間に有し、
外径が5mm以下である、ガラスレンズ。
〔2〕前記外周面の算術平均粗さRa3が0.2μm以下である、〔1〕のガラスレンズ。
〔3〕前記算術平均粗さRa2が0.2μm以下である〔1〕~〔2〕のいずれかのガラスレンズ。
〔4〕光軸を含む断面のうち、少なくとも一つの断面において、前記面取り面の光軸方向の幅をA、前記第二の平坦面上の最も外周側の一点を通り、かつ、光軸に対して90°をなす直線と、前記外周面との距離をBとしたとき、A>0.3Bを満たすBを有する〔1〕~〔3〕のいずれかのガラスレンズ。
〔5〕前記第一の平坦面及び前記第二の平坦面の少なくとも一方が光軸に対して垂直である〔1〕~〔4〕のいずれかのガラスレンズ。
〔6〕前記外周面と、前記第二の平坦面とが滑らかに連続している〔1〕~〔5〕のいずれかのガラスレンズ。
〔7〕前記第一の光学面及び前記第二の光学面の少なくとも一方が凸レンズである〔1〕~〔6〕のいずれかのガラスレンズ。
〔8〕光軸と前記第一の光学面との交点と、前記外周面の外径中心軸との距離、及び、光軸と前記第二の光学面との交点と、前記外周面の外径中心軸との距離が5μm以下である〔1〕~〔7〕のいずれかのガラスレンズ。
〔9〕d線(587.6nm)における屈折率nが1.5以上である〔1〕~〔8〕のいずれかのガラスレンズ。
〔10〕光軸方向から見て、ガラスレンズの形状が、円形からカット面の部分が欠けた形状となるカット面を有する〔1〕~〔9〕のいずれかのガラスレンズ。
〔11〕〔1〕~〔10〕のいずれかのガラスレンズを備える光学機器。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、十分なレンズ外周面の面積を有し、かつ、欠陥部等が少ない品質の高い小型のガラスレンズ及び光学機器を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】一実施形態に係るガラスレンズの平面図である。
図2図1のガラスレンズの光軸を含む断面図である。
図3】一実施形態に係るガラスレンズの光軸を含む断面図である。
図4】一実施形態に係るガラスレンズの平面図である。
図5図1のガラスレンズの前駆体の成形方法の模式図である。
図6図1のガラスレンズの面取り方法の模式図である。
図7】実施例に係るガラスレンズの光軸を含む断面図である。
図8】面取り面の角度と平面チッピングの大きさの関係を示す図である。
図9】面取り面の角度と側面チッピングの大きさの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について説明する。本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨に合致する限り、他の実施の形態も本発明の範疇に属し得る。
説明を明確にするため、以下の記載及び図面は、適宜、簡略化されており、図面中の各部材は縮尺が大きく異なることがある。
本明細書において「平行」とは、厳密に0°を表すのではなく、0°±5°、好ましくは0°±3°、より好ましくは0°±2°を表すものとする。「垂直」とは、厳密に90°を表すのではなく、90°±5°、好ましくは90°±3°、より好ましくは90°±2°を表すものとする。また、本明細書における数値範囲の上限及び下限は、適宜組み合わせ可能である。
【0015】
図1及び図2を参照して、本実施形態に係るガラスレンズ10について説明する。
ガラスレンズ10は、第一の光学面11と、第二の光学面12と、第一の平坦面13と、第二の平坦面14と、外周面15と、面取り面16と、を有する。本明細書において光学面とは、光入射面及び光出射面を表すものである。
第一の光学面11は、第二の光学面12と対向する。第一の平坦面13は、第一の光学面11の外周側に存在する。第二の平坦面14は、第二の光学面12の外周側に存在する。平坦面は、機器に取り付ける際の位置決めの基準面となりうる。第一の平坦面13及び第二の平坦面14は、光軸に対して垂直が好ましい。
外周面15は、光軸17に対して平行である。光軸17は外周面15の外径中心軸と精度よく一致している。具体的には、光軸17と第一の光学面11との交点と、外周面15の外径中心軸との距離、及び、光軸17と第二の光学面12との交点と、外周面15の外径中心軸との距離は、5μm以下が好ましく、3μm以下がより好ましく、1μm以下がさらに好ましい。
面取り面16は、第一の平坦面13と、外周面15との間に存在する。
【0016】
ガラスレンズ10は、外径が5mm以下の小型レンズである。外径の下限は特に限定されず、例えば1mm以上である。外径は、ガラスレンズ10を光軸方向から観察したとき、外周面15に外接する円の直径とすることができる。
【0017】
第一の光学面11及び第二の光学面12は、レンズ面を有する。レンズ面とは、光の伝播方向を屈曲させる曲面であり、光を収束又は発散させる。図2には、第一の光学面11及び第二の光学面12の双方が凸レンズである形態が示されているが、レンズ面は凸レンズに限定されない。例えば、双方が凹レンズであってもよく、一方が凸レンズで他方が凹レンズであってもよい。また、第一の光学面11と第二の光学面12は、双方がレンズ面を有する形態に限定されない。少なくとも一方の光学面がレンズ面を有していれば、他方の光学面はレンズ面を有さなくても良い。ガラスレンズ10の扱いを容易にする観点からは、第一の光学面11及び第二の光学面12の少なくとも一方が凸レンズであると好ましく、双方が凸レンズであるとより好ましい。
【0018】
面取り面16は、研削によって形成される。光軸17を含む断面において、面取り面16が外周面15となす角度をθとする。光軸17を含む断面において、面取り面16の光軸17に垂直な方向の幅が一定である場合、角度θが小さいほど、面取り面の光軸17方向の幅は小さくなる。したがって、角度θが小さいほど、外周面15の面積は大きくなる。角度θは125°以下であり、好ましくは123°以下、より好ましくは120°以下である。角度θが前記した範囲にあることで、ガラスレンズ10は十分な面積の外周面15を有する。ガラスレンズ10が光学機器内に配置された際、レンズ取り付け部の内周面と、外周面15とが十分な面積で接触し、ガラスレンズ10の傾きが抑制される。また、角度θが前記した範囲にあると、面取り面16を作製する際の研削量も抑制される。その結果、砥石の消耗や研削くずの発生が抑制され、製造コストが抑制される。
【0019】
一方で、本発明者らは、角度θが一定の値よりも大きいことで、面取り面と外周面との境界付近に大きいチッピングが少ないガラスレンズが得られることを見出した。
ガラスレンズが大きいチッピングを有する場合、チッピング部での散乱により光学的品質が低下したり、チッピング部から破片が光学機器内で脱落し、機器の不具合につながったりすることがある。これらの悪影響は、高い品質が求められる外径が5mm以下の小型レンズにおいて、特に問題となる。また、小型レンズでは、画像認識によって測定されたレンズ外径から、光学機器への取り付け位置を決定することがある。大きいチッピングは、画像認識の際のレンズ外径の測定精度の低下にもつながる恐れがある。
以上の点から、特に外径が5mm以下の小型レンズにおいて、チッピングを抑制することが求められている。外径が5mm以下の小型レンズにおいて、面取り面周辺の最も長いチッピングの径は、0.1mm以下が好ましく、0.08mm以下がより好ましく、0.04mm以下がさらに好ましい。
【0020】
ガラスレンズ10の角度θは110°超であり、好ましくは115°超、より好ましくは118°超である。角度θが前記した範囲にあることで、ガラスレンズ10は、面取り面16と外周面15との境界付近に大きいチッピングが少なく、前記したチッピングによる悪影響が抑制される。大きいチッピングの発生が抑制されるのは、角度θが大きくなると面取り面16と外周面15との境界付近での単位時間当たりの加工量が減少し、加工時の負荷が低減されるからだと考えられる。
【0021】
光軸17を含む断面において、面取り面16の光軸方向の幅をA、第二の平坦面14上の最も外周側の一点を通り、かつ、光軸に対して90°をなす直線と、外周面15との距離をBとする。光軸17を含む断面のうち、少なくとも一つの断面において、AとBとの関係は、好ましくはA>0.3Bであり、より好ましくはA>0.5B、さらに好ましくはA>Bである。AとBとが前記の関係にあることで、より大きい外周面15の面積が確保されやすい。
前記した断面の左右によってBの値が異なっていたとしても、少なくとも一方が前記した関係を満たしていればよい。
第二の平坦面14が光軸に対して90°である場合、光軸17を含む断面において、第二の平坦面14上の最も外周側の一点を通り、かつ、光軸に対して90°をなす直線は、第二の平坦面14を含む。
第一の平坦面13や第二の平坦面14が光軸に対して垂直ではなく、例えば、外周側に行くほど第一の平坦面13及び第二の平坦面14が対向する面に近づくように傾斜している場合、A及びBは図3に示すようになる。
【0022】
面取り面16の算術平均粗さをRa1とするとき、ガラスレンズ10は、Ra1>Ra2である算術平均粗さRa2の面19を、外周面15と、第二の平坦面14との間に有する。算術平均粗さRa2は、具体的には、0.2μm以下が好ましく、0.1μm以下がより好ましく、0.05μm以下がさらに好ましく、0.02μm以下が特に好ましい。算術平均粗さRa2の面19を、外周面15と、第二の平坦面14との間に有することで、外周面15と、第二の平坦面14との間の面での、光の散乱による悪影響を抑制することができる。なお、算術平均粗さRa2の面19とは、図2及び図3の例では、外周面15と第二の平坦面14とを接続する面であり、曲面状となっている。さらに言えば、図2及び図3の例では、上述の距離Bが、光軸17に沿った方向における、算術平均粗さRa2の面19の長さ(幅)といえる。ただしそれに限られず、算術平均粗さRa2の面19は、外周面15と第二の平坦面14とを接続する面のうちの、一部の面であってよく、言い換えれば、外周面15と第二の平坦面14とを接続する面の少なくとも一部であってよい。
【0023】
外周面15の算術平均粗さRa3は、0.2μm以下が好ましく、0.1μm以下がより好ましく、0.05μm以下がさらに好ましい。算術平均粗さRa3が前記の範囲にあることで、外周面15での光の散乱による悪影響を抑制することができる。加えて、ガラスレンズ10内から外周面15に入射する光の反射光の角度をおおよそ予測することができる。反射光の角度が予測できれば、例えば、反射光の入射する先をレンズの有効範囲外とした上で黒く塗るなどして、外周面15での反射光の影響をさらに抑制することができる。
【0024】
算術平均粗さRaは、例えば、Zygo社製、NewView6200 MICROSCOPEを用いて、それぞれ測定範囲が0.005mm以上であり、かつ、稜線部を含まない5つの領域で測定された算術平均粗さRaの平均値とすることができる。ガラスレンズが小さく、0.005mm以上の測定範囲を確保することが困難な場合には、前記した測定範囲は0.005mm未満でも良い。
【0025】
外周面15と、第二の平坦面14とは、欠けの発生を抑制する観点から、滑らかに連続していることが好ましい。
【0026】
図4に示すように、ガラスレンズ10は、光軸17と平行な方向から見て、ガラスレンズ10の形状が、円形から欠けた形状となるカット面18を有していてもよい。図4のように、1つのカット面を有するレンズは、Dカットレンズとして知られている。また、ガラスレンズ10はカット面を複数有してもよい。一つのカット面に対向して、もう一つのカット面を有するレンズは、Iカットレンズとして知られている。レンズの小型化や、軽量化の観点からは、ガラスレンズ10はカット面を有することが好ましい。レンズの欠陥の発生を抑制する観点からは、ガラスレンズ10は、カット面を有さないことが好ましい。
【0027】
ガラスレンズを薄くする観点からは、d線(587.6nm)におけるガラスレンズ10の屈折率nは、好ましくは1.49以上、より好ましくは1.50以上、さらに好ましくは1.51以上である。
【0028】
次に、ガラスレンズ10の成形方法を説明する。図5は、ガラスレンズ10の前駆体となるガラスレンズ前駆体24の成形方法を示す模式図である。ガラスレンズ前駆体24は、成形型20を用いたプレス成形で成形される。
図5に示すように、第二の光学面12と第二の平坦面14と外周面15とを画定する第二の型22に、ガラス素材(プリフォーム)23を載置する。プリフォーム23をガラス転移点以上の温度で加熱し、第一の光学面11と第一の平坦面13とを画定する第一の型21でプリフォーム23を加圧する。その結果、図5に示すように、ガラスレンズ前駆体24が得られる。
ガラスレンズ前駆体24は、第一の平坦面25の周縁部に突起27を有する。第一の型21は、成形面の外周角部の破損を回避し、プレス時にプリフォーム23の余剰容積を吸収できるよう、成形面の外周角部に面取り加工が施されている。プレス時に、第一の型21の面取り部と、第二の型22の内周面との間の空隙にプリフォーム23が入り込み、突起27が形成される。突起27は、ガラスレンズ前駆体24を光学機器に取り付ける際の障害や、欠け発生の原因となるため、研削による面取り加工で除去される。
一方で、第二の平坦面26は周縁部に突起を有さず、面取りを必要としない。第二の型22では、第二の光学面12及び第二の平坦面14を画定する成形面と、外周面15を画定する成形面とが一体化しているためである。
なお、第二の型22の代わりに、第二の光学面12及び第二の平坦面14を画定する成形面を有する型と、外周面15を画定する成形面を有する型とを用いてもよい。この場合、第二の光学面12及び第二の平坦面14を画定する成形面を有する型は、成形面の外周角部の破損を回避できるよう、成形面の外周角部に面取り加工が施されると好ましい。ただし、前記の面取り加工の幅は、第二の平坦面14上に突起が形成されない程度に、十分小さい必要がある。
【0029】
図6は、ガラスレンズ前駆体24の面取り加工の方法を示す模式図である。面取り加工は、芯取り機を用いて行われる。
図6に示すように、ガラスレンズ前駆体24は、光軸29がホルダー30の回転軸と一致した状態で、ホルダー30によって支持される。また、光軸29と砥石31の回転軸33とを含む断面において、砥面32と外周面28とが為す面取り角度φは、110°超125°以下である。この状態でガラスレンズ前駆体24を回転させつつ、回転させた砥石31を図6の矢印の方向に移動させて行き、ガラスレンズ前駆体24の面取り加工を行う。この時、ガラスレンズや砥石の焼けを防止するために、クーラントを供給する。面取り加工によって突起27を完全に除去し、面取り面を形成させたガラスレンズ前駆体24が、ガラスレンズ10に相当する。ガラスレンズ10の角度θは面取り角度φと一致する。
上記の方法で成形されたガラスレンズ10において、外周面15と、第二の平坦面14との間に存在する面の算術平均粗さRaは、通常、外周面15の算術平均粗さRa3と同程度か、Ra3より小さくなる。外周面15と、第二の平坦面14との間に存在する面は、成形型20に接することなく形成されるからである。
【0030】
<実施例>
次に、本発明を実施例により、さらに具体的に説明する。
【0031】
<面取り加工>
プレス成形で成形したガラス製平凹レンズ(外径:4.6mm、外周厚み:0.4mm、中心厚み:0.2mm)に面取り加工を施した。面取り加工は、クーラント(日興産業社製、RIS CUT C-80H-5)を供給しながら、電着砥石(富士ダイス社製、外径:160mm、番手:SD1000)を備えた芯取り機(中村留精密工業社製、LC-50)で行った。図7は、面取り加工後のガラスレンズの光軸を含む断面の図である。ここで、面取り面の光軸に垂直な方向の幅を面取り幅xとする。
面取り加工は以下の条件で行い、角度θ=100°、110°、115°、120°、135°のガラスレンズをそれぞれ40個作製した。
砥石の回転速度:3500rpm
レンズの回転速度:6rpm
加工速度:1mm/min
面取り幅x:0.1mm
面取り角度φ:100°、110°、115°、120°、135°
【0032】
<算術平均粗さRa評価>
θ=120°のガラスレンズの(1)第一の平坦面(2)第二の平坦面(3)面取り面(4)外周面(5)外周面と第二の平坦面との間に存在する面について、Zygo社製、NewView6200 MICROSCOPEを用いて、算術平均粗さRaを測定した。
(1)~(4)は、下記の条件で測定した。
IMAGE ZOOM TUBE:0.5倍
接眼レンズ:50倍
Analyze Controls
-Remove:Plane
Measurement Controls
-Scan length:40μ bipolar
-FDA Res:High
測定は、測定領域外をプログラム上のMASKで除去し、0.005mm以上かつ稜線部を含まない範囲で行った。各面について5か所の測定で得られた測定値の平均値を、算術平均粗さRaとして算出した。
(5)は曲面であるため、Analyze Controls-RemoveをCylinderとした。それ以外は(1)~(4)と同様の条件で算術平均粗さRaを算出した。
その結果を表1に示す。
【0033】
【表1】
【0034】
<チッピング評価>
第一の平坦面と面取り面との稜線付近に存在するチッピング(以下、平面チッピング)と、外周面と面取り面との稜線付近に存在するチッピング(以下、側面チッピング)について評価した。光軸と平行な方向(図7矢印a)から測定顕微鏡(オリンパス社製、STM7)により第一の平坦面と面取り面との稜線付近を観察し、一つのガラスレンズにおいて、最も長い平面チッピングの径をdとして測定した。光軸と垂直な方向(図7矢印b)からは、外周面と面取り面との稜線付近の観察を行い、一つのガラスレンズにおいて、最も長い側面チッピングの径dを得た。
【0035】
図8の(a)に、各角度θにつき40個のガラスレンズから得られたdを、(b)にdの箱ひげ図を示す。図9の(a)に、各角度θにつき40個のガラスレンズから得られたdを、(b)にdの箱ひげ図を示す。
【0036】
図8に示されるように、dは角度θ条件によってあまり変化しなかった。角度θが100°から135°の範囲にあるときには、平面チッピングは角度θにほとんど影響を受けないと考えられる。
については、図9に示されるように、θ=100°、110°のガラスレンズにおいてd>0.1mmの特に大きな側面チッピングが発生した。特に大きな側面チッピングは、ガラスレンズの光学的品質の低下や機器の不具合等につながる恐れがある。対してθ=115°、120°、135°のガラスレンズでは、0.1mmを超える側面チッピングは見られず、特にθ=120°、135°のガラスレンズでは、サンプル全体で比較的小さいdが得られた。
しかしθ=135°の場合、光軸を含む断面における面取り面の光軸方向の幅(面取り幅y)が約0.1mmであり、面取りによる外周面の面積の減少が大きかった。これに対してθ=115°、120°のガラスレンズは、面取り幅yがそれぞれ約0.05mm、約0.06mmであった。したがって、θ=115°、120°のガラスレンズは面取りによる外周面の面積の減少が少なく、十分な面積の外周面が得られた。
【符号の説明】
【0037】
10 ガラスレンズ
11 第一の光学面
12 第二の光学面
13 第一の平坦面
14 第二の平坦面
15 外周面
16 面取り面
17 光軸
18 カット面
20 成形型
21 第一の型
22 第二の型
23 プリフォーム
24 ガラスレンズ前駆体
25 第一の平坦面
26 第二の平坦面
27 突起
28 外周面
29 光軸
30 ホルダー
31 砥石
32 砥面
33 回転軸
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9