(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024136170
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】圧電積層体、圧電積層ウエハ、及び圧電積層体の製造方法
(51)【国際特許分類】
H10N 30/853 20230101AFI20240927BHJP
H10N 30/076 20230101ALI20240927BHJP
H10N 30/20 20230101ALI20240927BHJP
H10N 30/082 20230101ALI20240927BHJP
C23C 14/08 20060101ALI20240927BHJP
C23C 14/58 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
H10N30/853
H10N30/076
H10N30/20
H10N30/082
C23C14/08 K
C23C14/58 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023047182
(22)【出願日】2023-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100187632
【弁理士】
【氏名又は名称】橘高 英郎
(72)【発明者】
【氏名】黒田 稔顕
(72)【発明者】
【氏名】柴田 憲治
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 和俊
【テーマコード(参考)】
4K029
【Fターム(参考)】
4K029AA06
4K029AA24
4K029BA02
4K029BA50
4K029BB02
4K029CA05
4K029CA06
4K029DC03
4K029DC05
4K029DC09
4K029DC16
4K029EA08
4K029GA01
(57)【要約】
【課題】圧電膜と上部電極との間の界面における部分剥離の発生を抑制する。
【解決手段】基板と、基板上に製膜され、カリウム、ナトリウム、ニオブ、及び酸素を含み、ペロブスカイト構造を有するアルカリニオブ酸化物で構成される圧電膜と、圧電膜上に製膜される上部電極と、を備える圧電積層体であって、大気雰囲気中で、400℃、15分間の加熱処理を圧電積層体に対して行った後に、圧電積層体を観察した際、圧電膜と上部電極との間の界面に、30μm以上の円相当径を有する剥離部が観察されない。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に製膜され、カリウム、ナトリウム、ニオブ、及び酸素を含み、ペロブスカイト構造を有するアルカリニオブ酸化物で構成される圧電膜と、
前記圧電膜上に製膜される上部電極と、を備える圧電積層体であって、
大気雰囲気中で、400℃、15分間の加熱処理を前記圧電積層体に対して行った後に、前記圧電積層体を観察した際、前記圧電膜と前記上部電極との間の界面に、円相当径が30μm以上の剥離部が観察されない、
圧電積層体。
【請求項2】
前記加熱処理を行った後に、前記上部電極の上面を、微分干渉顕微鏡により400μm×400μmの視野で観察した際、円相当径が10μm以上の剥離部の数が前記視野内に20個以下である、請求項1に記載の圧電積層体。
【請求項3】
基板と、
前記基板上に製膜され、カリウム、ナトリウム、ニオブ、及び酸素を含み、ペロブスカイト構造を有するアルカリニオブ酸化物で構成される圧電膜と、
前記圧電膜上に製膜される上部電極と、を備える圧電積層体であって、
大気雰囲気中で、400℃、15分間の加熱処理を前記圧電積層体に対して行った後に、前記上部電極の上面を、微分干渉顕微鏡により400μm×400μmの視野で観察した際、円相当径が10μm以上の剥離部の数が前記視野内に20個以下である、
圧電積層体。
【請求項4】
直径が100mm以上の基板と、
前記基板上に製膜され、カリウム、ナトリウム、ニオブ、及び酸素を含み、ペロブスカイト構造を有するアルカリニオブ酸化物で構成される圧電膜と、
前記圧電膜上に製膜される上部電極と、を備える圧電積層ウエハであって、
大気雰囲気中で、400℃、15分間の加熱処理を前記圧電積層ウエハに対して行った後に、前記圧電積層ウエハを観察した際、前記基板の外周辺から5mmの領域を除く領域では、前記圧電膜と前記上部電極との間の界面に、円相当径が30μm以上の剥離部が観察されない、
圧電積層ウエハ。
【請求項5】
カリウム、ナトリウム、ニオブ、及び酸素を含むアルカリニオブ酸化物で構成される圧電膜を製膜した基板を用意する工程と、
前記圧電膜の表面にフォトレジストを塗布する工程と、
前記圧電膜の表面から前記フォトレジストを除去する工程と、
前記フォトレジストを除去した後の前記圧電膜の表面上に上部電極を製膜する工程と、
を備える、
圧電積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電積層体、圧電積層ウエハ、及び圧電積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
圧電体は、センサ、アクチュエータ等の機能性電子部品に広く利用されている。圧電体の材料の一つとして、カリウム、ナトリウム、ニオブ、及び酸素を含むKNN系の強誘電体が用いられており、このような圧電体を用いて製膜された圧電膜(KNN膜)と、KNN膜上に製膜された上部電極と、を有する積層体が提案されている(例えば特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-076730号公報
【特許文献2】特開2008-159807号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、圧電膜(KNN膜)と上部電極とを有する従来の積層体を、所定条件(例えば所定温度)で加熱すると、KNN膜と上部電極との間の界面に部分剥離が生じることがある。
【0005】
本開示の目的は、所定条件で加熱した場合であっても、圧電膜と上部電極との間の界面における部分剥離の発生が抑制される、圧電膜を有する積層体等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様によれば、
基板と、
前記基板上に製膜され、カリウム、ナトリウム、ニオブ、及び酸素を含み、ペロブスカイト構造を有するアルカリニオブ酸化物で構成される圧電膜と、
前記圧電膜上に製膜される上部電極と、を備える圧電積層体であって、
大気雰囲気中で、400℃、15分間の加熱処理を前記圧電積層体に対して行った後に、前記圧電積層体を観察した際、前記圧電膜と前記上部電極との間の界面に、円相当径が30μm以上の剥離部が観察されない、
圧電積層体が提供される。
【0007】
本開示の他の態様によれば、
基板と、
前記基板上に製膜され、カリウム、ナトリウム、ニオブ、及び酸素を含み、ペロブスカイト構造を有するアルカリニオブ酸化物で構成される圧電膜と、
前記圧電膜上に製膜される上部電極と、を備える圧電積層体であって、
大気雰囲気中で、400℃、15分間の加熱処理を前記圧電積層体に対して行った後に、前記上部電極の上面を、微分干渉顕微鏡により400μm×400μmの視野で観察した際、円相当径が10μm以上の剥離部の数が前記視野内に20個以下である、
圧電積層体が提供される。
【0008】
本開示のさらに他の態様によれば、
直径が100mm以上の基板と、
前記基板上に製膜され、カリウム、ナトリウム、ニオブ、及び酸素を含み、ペロブスカイト構造を有するアルカリニオブ酸化物で構成される圧電膜と、
前記圧電膜上に製膜される上部電極と、を備える圧電積層ウエハであって、
大気雰囲気中で、400℃、15分間の加熱処理を前記圧電積層ウエハに対して行った後に、前記圧電積層ウエハを観察した際、前記基板の外周辺から5mmの領域を除く領域では、前記圧電膜と前記上部電極との間の界面に、円相当径が30μm以上の剥離部が観察されない、
圧電積層ウエハが提供される。
【0009】
本開示のさらに他の態様によれば、
カリウム、ナトリウム、ニオブ、及び酸素を含むアルカリニオブ酸化物で構成される圧電膜を製膜した基板を用意する工程と、
前記圧電膜の表面にフォトレジストを塗布する工程と、
前記圧電膜の表面から前記フォトレジストを除去する工程と、
前記フォトレジストを除去した後の前記圧電膜の表面上に上部電極を製膜する工程と、
を備える、
圧電積層体の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、圧電膜を有する積層体を所定条件で加熱した場合であっても、圧電膜と上部電極との間の界面における部分剥離の発生を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本開示の一態様にかかる積層ウエハ及び圧電積層体の断面構造の一例を示す図である。
【
図2】本開示の一態様にかかる圧電素子(MEMSデバイス)の概略構成の一例を示す図である。
【
図3】本開示の一態様にかかる圧電デバイスモジュールの概略構成の一例を示す図である。
【
図4】サンプル1の基板の外周辺から5mmの領域を除く領域の任意の視野の上部電極(膜)の上面を、微分干渉顕微鏡により観察した際の微分干渉観察像である。
【
図5】(a)は、サンプル2の基板の外周辺から5mmの領域を除く領域の任意の視野の上部電極(膜)の上面を、微分干渉顕微鏡により観察した際の微分干渉観察像であり、(b)は、サンプル2の剥離部発生箇所のFIB-SEM画像であり、(c)は、
図5(b)のA-A線のFIB-SEM縦断面画像である。
【
図6】サンプル3の基板の外周辺から5mmの領域を除く領域の任意の視野の上部電極(膜)の上面を、微分干渉顕微鏡により観察した際の微分干渉観察像である。
【
図7】サンプル4の基板の外周辺から5mmの領域を除く領域の任意の視野の上部電極(膜)の上面を、微分干渉顕微鏡により観察した際の微分干渉観察像である。
【
図8】サンプル1から得た圧電積層体の任意の視野の上部電極(膜)の上面を、微分干渉顕微鏡により観察した際の微分干渉観察像である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<本開示の一態様>
以下、本開示の一態様について図面を参照しながら説明する。
【0013】
(1)圧電積層ウエハ及び圧電積層体の構成
図1に示すように、本態様にかかる圧電膜を有するウエハ10(圧電積層ウエハ10、以下、単に「積層ウエハ10」とも称する)は、基板1と、基板1上に製膜された下部電極膜2と、下部電極膜2上に製膜された圧電膜(圧電薄膜)3と、圧電膜3上に密着層7を介して製膜された上部電極膜4と、を備えている。
【0014】
基板1としては、熱酸化膜又はCVD(Chemical Vapor Deposition)酸化膜等の表面酸化膜(SiO2膜)1bが形成された単結晶シリコン(Si)基板1a、すなわち、表面酸化膜を有するSi基板を好適に用いることができる。また、基板1としては、表面酸化膜1bの代わりに、SiO2以外の絶縁性材料により形成された絶縁膜を有するSi基板1aを用いることもできる。また、基板1としては、表面にSi(100)面又はSi(111)面等が露出したSi基板1a、すなわち、表面酸化膜1b又は絶縁膜を有さないSi基板を用いることもできる。また、基板1としては、SOI(Silicon On Insulator)基板、石英ガラス(SiO2)基板、ガリウム砒素(GaAs)基板、サファイア(Al2O3)基板、ステンレス(SUS)等の金属材料により形成された金属基板を用いることもできる。基板1の直径は100mm以上である。単結晶Si基板1aの厚さは例えば300μm以上1000μm以下、表面酸化膜1bの厚さは例えば1nm以上4000nm以下とすることができる。
【0015】
下部電極膜2は、例えば白金(Pt)を用いて形成することができる。下部電極膜2は、多結晶膜である。以下、Ptを用いて製膜した多結晶膜をPt膜とも称する。Pt膜は、その(111)面が基板1の主面に対して平行である((111)面が基板1の主面に対して±5°以内の角度で傾斜している場合を含む)こと、すなわち、Pt膜は(111)面方位に配向していることが好ましい。Pt膜が(111)面方位に配向しているとは、圧電膜3の表面で測定したX線回折(XRD)により得られたX線回折パターンにおいて(111)面に起因するピーク以外のピークが観測されないことを意味する。このように、下部電極膜2の主面(圧電膜3の下地となる面)は、Pt(111)面により構成されていることが好ましい。下部電極膜2は、スパッタリング法、蒸着法等の手法により製膜することができる。下部電極膜2は、Pt以外に、金(Au)、ルテニウム(Ru)、又はイリジウム(Ir)等の各種金属、これらを主成分とする合金、ルテニウム酸ストロンチウム(SrRuO3、略称:SRO)又はニッケル酸ランタン(LaNiO3、略称:LNO)等の金属酸化物等を用いて形成することもできる。なお、これらの金属酸化物を用いて下部電極膜2を製膜する場合、下部電極膜2を構成する結晶は、基板1の表面に対して(001)面方位に優先配向していることが好ましい。下部電極膜2は、上記各種金属、上記各種金属を主成分とする合金、又は金属酸化物等を用いて形成された単層膜とすることができる。下部電極膜2は、Pt膜とPt膜上に設けられたSROを主成分とする膜との積層体や、Pt膜とPt膜上に設けられたLNOを主成分とする膜との積層体等であってもよい。下部電極膜2の厚さ(下部電極膜2が積層体である場合は、各層の合計厚さ)は例えば100nm以上400nm以下とすることができる。
【0016】
基板1と下部電極膜2との間には、これらの密着性を高めるため、密着層6が設けられていてもよい。密着層6は、例えば、亜鉛(Zn)及び酸素(O)を主成分として含む層(以下、「ZnO層」とも称する)とすることができる。ZnO層は、例えば酸化亜鉛を用いて形成することができる。ZnO層を構成するZn及びOの組成比はZn:O=1:1の関係を満たすことが好ましいが、これに限定されるものではなく、多少のばらつきがあってもよい。ZnO層は、多結晶層である。ZnO層は、その(0001)面が基板1の主面に対して平行である((0001)面が基板1の主面に対して±5°以内の角度で傾斜している場合を含む)こと、すなわち、ZnO層は(0001)面方位に配向していることが好ましい。ZnO層が(0001)面方位に配向しているとは、圧電膜3の表面で測定したXRDにより得られたX線回折パターンにおいて、(0002)面に起因するピークの強度が高いことを意味する。このように、ZnO層の主面(下部電極膜2の下地となる面)は、ZnO(0001)面により構成されていることが好ましい。ZnO層は、スパッタリング法、蒸着法等の手法により製膜することができる。ZnO層の厚さは例えば1nm以上200nm以下、好ましくは10nm以上50nm以下とすることができる。密着層6は、ZnO以外に、チタン(Ti)、タンタル(Ta)、酸化チタン(TiO2)、ニッケル(Ni)、ルテニウム酸化物(RuO2)、イリジウム酸化物(IrO2)等を主成分とする層であってもよい。このような密着層6も、スパッタリング法、蒸着法等の手法により製膜することができ、密着層6の厚さは例えば1nm以上200nm以下、好ましくは10nm以上50nm以下とすることができる。本明細書では、基板1と下部電極膜2との間に設けられる密着層6を、下部密着層6とも称する。
【0017】
圧電膜3は、例えば、カリウム(K)、ナトリウム(Na)、ニオブ(Nb)、及び酸素(O)を含有するアルカリニオブ酸化物から形成される膜である。すなわち、圧電膜3は、K、Na、Nb、及びOを含有するアルカリニオブ酸化物を主成分とする膜である。圧電膜3は、組成式(K1-xNax)NbO3で表されるアルカリニオブ酸化物、すなわち、ニオブ酸カリウムナトリウム(KNN)を用いて形成することができる。上述の組成式中の係数x[=Na/(K+Na)]は、0<x<1、好ましくは0.4≦x≦0.8の範囲内とすることができる。圧電膜3は、KNNの多結晶膜(以下、KNN膜3とも称する)となる。また、KNNの結晶構造はペロブスカイト構造となる。すなわち、KNN膜3はペロブスカイト構造を有している。また、KNN膜3を構成する結晶群のうち半数以上の結晶が柱状構造を有していることが好ましい。なお、本明細書では、KNNの結晶系を正方晶系とみなすこととする。KNN膜3は、スパッタリング法、PLD(Pulsed Laser Deposition)法、ゾルゲル法等の手法により製膜することができる。KNN膜3の厚さは、例えば0.5μm以上5μm以下、好ましくは1μm以上3μm以下とすることができる。
【0018】
KNN膜3を構成する結晶は、基板1(基板1が例えば表面酸化膜1b又は絶縁膜等を有するSi基板1aである場合はSi基板1a)の主面に対して(001)面方位に優先配向している。すなわち、KNN膜3の主面(上部電極膜4の下地となる面)は、主にKNN(001)面により構成されている。例えば、主面が主にPt(111)面により構成されているPt膜(下部電極膜2)上にKNN膜3を直接製膜することにより、主面が主にKNN(001)面により構成されたKNN膜3を得ることができる。
【0019】
本明細書において、KNN膜3を構成する結晶が(001)面方位に配向しているとは、KNN膜3を構成する結晶の(001)面が基板1の主面に対して平行又は略平行であることを意味する。また、KNN膜3を構成する結晶が(001)面方位に優先配向しているとは、(001)面が基板1の主面に対して平行又は略平行である結晶が多いことを意味する。例えば、KNN膜3を構成する結晶群のうち80%以上の結晶が基板1の主面に対して(001)面方位に配向していることが好ましい。すなわち、KNN膜3を構成する結晶の(001)面方位への配向率(本明細書では「(001)配向率」とも称する)は例えば80%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましい。なお、本明細書における「(001)配向率」とは、KNN膜3に対してXRD測定を行うことにより得られたX線回折パターン(2θ/θ)のピーク強度に基づいて、下記式(1)により算出した値である。
【0020】
(001)配向率(%)={(001)ピーク強度/((001)ピーク強度+(110)ピーク強度)}×100・・・(1)
【0021】
なお、上記式(1)における「(001)ピーク強度」とは、KNN膜3に対してXRD測定を行うことにより得られるX線回折パターンにおいて、KNN膜3を構成する結晶のうち(001)面方位に配向する結晶(すなわち、(001)面が基板1の主面に対して平行である結晶)に起因する回折ピークの強度であり、2θが20°~23°の範囲内に現れるピークの強度である。なお、2θが20°~23°の範囲内に複数のピークが現れる場合は、最も高いピークの強度である。また、上記式(1)における「(110)ピーク強度」とは、KNN膜3に対してXRD測定を行うことにより得られるX線回折パターンにおいて、KNN膜3を構成する結晶のうち(110)面方位に配向する結晶(すなわち、(110)面が基板1の主面に対して平行である結晶)に起因する回折ピークの強度であり、2θが30°~33°の範囲内に現れるピークの強度である。なお、2θが30°~33°の範囲内に複数のピークが現れる場合は、最も高いピークの強度である。
【0022】
また、KNN膜3を構成するアルカリニオブ酸化物は、リチウム(Li)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、ビスマス(Bi)、アンチモン(Sb)、バナジウム(V)、インジウム(In)、タンタル(Ta)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、クロム(Cr)、Ti、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、銀(Ag)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、Ni、アルミニウム(Al)、Si、ゲルマニウム(Ge)、スズ(Sn)、及びガリウム(Ga)からなる群より選択される少なくとも一種の元素(ドーパント)をさらに含有してもよい。アルカリニオブ酸化物中におけるこれらの元素の濃度は、例えば5at%以下(上述の元素を複数含有している場合は合計濃度が5at%以下)とすることができる。
【0023】
上部電極膜4は、例えば、Pt、Au、Al、Cu等の各種金属又はこれらの合金を主成分としている。上部電極膜4は、スパッタリング法、蒸着法、メッキ法、金属ペースト法等の手法により製膜することができる。上部電極膜4は、下部電極膜2のようにKNN膜3の結晶構造に大きな影響を与えるものではない。そのため、上部電極膜4の材料、結晶構造、製膜手法は特に限定されない。上部電極膜4の厚さは例えば50nm以上5000nm以下、好ましくは50nm以上300nm以下とすることができる。
【0024】
KNN膜3と上部電極膜4との間には、これらの密着性を高めるため、例えば、Ti、Ta、TiO2、Ni、RuO2、IrO2等を主成分とする密着層7が設けられている。密着層7も、上部電極膜4と同様に、KNN膜3の結晶構造に大きな影響を与えるものではない。そのため、密着層7の材料、結晶構造、製膜手法は特に限定されない。密着層7は、スパッタリング法、蒸着法、メッキ法、金属ペースト法等の手法により製膜することができる。密着層7の厚さは例えば1nm以上200nm以下、好ましくは5nm以上50nm以下とすることができる。本明細書では、KNN膜3と上部電極膜4との間に設けられる密着層7を、上部密着層7とも称する。
【0025】
なお、本態様では、上部密着層7と上部電極膜4との積層体を上部電極と考えることとする。
【0026】
詳しくは後述するが、本態様における積層ウエハ10は、KNN膜3を製膜し、KNN膜3の表面にフォトレジストを塗布し、(フォトレジストに対してパターン加工を行うことなく)KNN膜3の表面からフォトレジストを除去し、フォトレジストを除去した後のKNN膜3の表面上に上部密着層7、上部電極膜4を製膜するという新規手法を経て作製されている。これにより、積層ウエハ10が所定条件で加熱された場合であっても、基板1の外周辺から5mmの領域を除く領域(基板1の縁から5mmの領域よりも内側の領域)で、KNN膜3と上部密着層7との間の界面に部分剥離が生じにくくなる。結果、本態様における積層ウエハ10は、後述する特徴1を備えることとなる。また、積層ウエハ10の基板1の外周辺から5mmの領域を除く領域から得た所定形状(例えば20mm×20mmのチップ状)の圧電積層体10Aは、後述する特徴2及び特徴3のうち少なくともいずれかの特徴を備えることとなる。
【0027】
以下に、本態様の積層ウエハ10が備える新規特徴、圧電積層体10Aが備え得る新規特徴について説明する。
【0028】
(特徴1)
積層ウエハ10が備える特徴として、
大気雰囲気中で、400℃、15分間の加熱処理を行った後の積層ウエハ10を観察した際、基板1の外周辺から5mmの領域を除く領域では、KNN膜3と上部密着層7との間の界面に、円相当径が30μm以上の剥離部が観察されない、
ことが挙げられる。
【0029】
なお、円相当径とは、剥離部の断面積に等しい面積を有する円の直径である。また、剥離部の観察は、加熱処理後の積層ウエハ10の上部電極膜4の上面を微分干渉顕微鏡により観察することで行った。また、ここでいう「上部電極膜4の上面」とは、上部電極膜4が有する2つの主面のうち、KNN膜3側の面とは反対側の面である。これらは、以下の説明においても同様である。
【0030】
円相当径が30μm以上の剥離部(例えば気泡発生による浮き上がり箇所)の存在は、KNN膜3と上部密着層7との間の密着性を低下させる要因となる。本態様では、上述の新規手法を採用することにより、積層ウエハ10を所定条件で加熱した場合であっても、積層ウエハ10の基板1の外周辺から5mmの領域を除く領域で、KNN膜3と上部密着層7との間の界面における、円相当径が30μm以上の剥離部(部分剥離)の出現を抑制し、KNN膜3と上部密着層7との間の密着性の低下を回避することに成功している。これにより、積層ウエハ10、ひいては、圧電積層体10Aを加工することで得られる後述の圧電素子20及び圧電デバイスモジュール30の寿命を長くすることができる。また、圧電素子20及び圧電デバイスモジュール30の製造歩留まり及び信頼性を向上させることもできる。
【0031】
(特徴2)
圧電積層体10Aが備え得る特徴の一つとして、
大気雰囲気中で、400℃、15分間の加熱処理を行った後の圧電積層体10Aを観察した際、KNN膜3と上部密着層7との間の界面に、円相当径が30μm以上の剥離部が観察されない、
ことが挙げられる。
【0032】
本態様では、圧電積層体10Aを所定条件で加熱した場合であっても、KNN膜3と上部密着層7との間の界面における、円相当径が30μm以上の剥離部(部分剥離)の出現を抑制し、KNN膜3と上部密着層7との間の密着性の低下を回避することに成功している。これにより、圧電積層体10Aを加工することで得られる後述の圧電素子20及び圧電デバイスモジュール30の寿命を長くすることができる。また、圧電素子20及び圧電デバイスモジュール30の製造歩留まり及び信頼性を向上させることもできる。
【0033】
(特徴3)
圧電積層体10Aが備え得る特徴の一つとして、
大気雰囲気中で、400℃、15分間の加熱処理を行った後の圧電積層体10Aの上部電極膜4の上面を、微分干渉顕微鏡により400μm×400μmの任意の視野で観察した際、円相当径が10μm以上の剥離部の数が視野内に20個以下である、
ことが挙げられる。
【0034】
所定条件の加熱処理を行った後の圧電積層体10Aでは、円相当径が10μm以上の剥離部(部分剥離)が観察される場合もあり得るが、その数は、160000μm2の任意の視野内において、20個以下と非常に少なくなっている。このように、本態様では、圧電積層体10Aを所定条件で加熱した場合であっても、KNN膜3と上部密着層7との間の界面における、円相当径が10μm以上の剥離部の出現を抑制し、KNN膜3と上部密着層7との間の密着性の低下を回避することに成功している。これにより、圧電積層体10Aを加工することで得られる後述の圧電素子20及び圧電デバイスモジュール30の寿命を長くすることができる。また、圧電素子20及び圧電デバイスモジュール30の製造歩留まり及び信頼性を向上させることもできる。
【0035】
(2)積層ウエハ、圧電積層体、圧電素子、圧電デバイスモジュールの製造方法
続いて、本態様にかかる積層ウエハ10、圧電積層体10A、圧電素子20、及び圧電デバイスモジュール30の製造方法について説明する。
【0036】
(下部密着層及び下部電極膜の製膜)
まず、直径が100mm以上の基板1を用意し、基板1のいずれかの主面上に、例えばスパッタリング法により下部密着層6(例えばZnO層)及び下部電極膜2(例えばPt膜)をこの順に製膜する。なお、いずれかの主面上に、下部密着層6や下部電極膜2が予め製膜された基板1を用意してもよい。
【0037】
下部密着層6としてのZnO層を製膜する際の条件としては、下記条件が例示される。下部密着層6の製膜時間は、目標とする下部密着層6の厚さに応じて適宜調整される。
ターゲット:ZnO焼結体
温度(基板温度):200℃以上700℃以下、好ましくは300℃以上700℃以下、より好ましくは500℃以上700℃以下
放電パワー密度:2W/cm2以上6W/cm2以下、好ましくは3W/cm2以上5W/cm2以下
雰囲気:アルゴン(Ar)ガスと酸素(O2)ガスとの混合ガスの雰囲気(以下、「Ar/O2混合ガス雰囲気」とも称する)
O2ガスに対するArガスの分圧の比(Arガス分圧/O2ガス分圧):5/1~30/1、好ましくは7/1~20/1、より好ましくは10/1~15/1
雰囲気圧力:0.1Pa以上0.5Pa以下、好ましくは0.2Pa以上0.4Pa以下
厚さ:1nm以上200nm以下、好ましくは10nm以上50nm以下
【0038】
本明細書における「5/1~30/1」のような数値範囲の表記は、下限値及び上限値がその範囲に含まれることを意味する。他の数値範囲についても同様である。
【0039】
なお、下部密着層6としてのTi層等を製膜する際の条件としては、下記条件が例示される。
ターゲット:Ti板等
温度(基板温度):100℃以上500℃以下、好ましくは200℃以上400℃以下
雰囲気:Arガス雰囲気
雰囲気圧力:0.1Pa以上0.5Pa以下、好ましくは0.2Pa以上0.4Pa以下
その他の条件は、ZnO層を製膜する際の条件と同様の条件とすることができる。
【0040】
下部電極膜2としてのPt膜を製膜する際の条件としては、下記条件が例示される。下部電極膜2の製膜時間は、目標とする下部電極膜2の厚さに応じて適宜調整される。
ターゲット:Pt板
温度(基板温度):200℃以上600℃以下、好ましくは300℃以上500℃以下
放電パワー密度:1W/cm2以上5W/cm2以下、好ましくは2W/cm2以上4W/cm2以下
雰囲気:Arガス雰囲気
雰囲気圧力:0.1Pa以上0.5Pa以下、好ましくは0.2Pa以上0.4Pa以下
厚さ:100nm以上400nm以下
【0041】
(KNN膜の製膜)
下部密着層6及び下部電極膜2の製膜が終了したら、続いて、下部電極膜2上に、RFマグネトロンスパッタリング法等のスパッタリング法によりKNN膜3を製膜する。KNN膜3の組成は、例えばスパッタ製膜時に用いるターゲットの組成を制御することで調整可能である。ターゲットは、K2CO3粉末、Na2CO3粉末、Nb2O5粉末等を混合させて焼成すること等により作製することができる。ターゲットの組成は、K2CO3粉末、Na2CO3粉末、Nb2O5粉末等の混合比率を調整することで制御することができる。CuやMn等の上述の元素を含むKNN膜3を製膜する場合は、上述の各粉末に加えてCu粉末(又はCuO粉末)や、Mn粉末(又はMnO粉末)等を所定の比率で混合したターゲットを用いればよい。
【0042】
KNN膜3を製膜する際の条件としては、下記条件が例示される。KNN膜3の製膜時間は、目標とするKNN膜3の厚さに応じて適宜調整される。
放電パワー密度:2.7W/cm2以上4.1W/cm2以下、好ましくは2.8W/cm2以上3.8W/cm2以下
温度(基板温度):350℃以上800℃以下、好ましくは400℃以上780℃以下
雰囲気:少なくともArガスを含有する雰囲気、好ましくは、Ar/O2混合ガス雰囲気
雰囲気圧力:0.03Pa以上0.5Pa以下、好ましくは0.04Pa以上0.4Pa以下
Arガスに対するO2ガスの分圧の比(O2ガス分圧/Arガス分圧):0~1/20、好ましくは0~1/30
製膜速度:0.5μm/hr以上4μm/hr以下、好ましくは0.5μm/hr以上2μm/hr以下
KNN膜の厚さ:0.5μm以上5μm以下、好ましくは1μm以上3μm以下
【0043】
「O2ガス分圧/Arガス分圧が0(ゼロ)である」とは、O2ガス分圧が0の状態、すなわち、Arガスのみの雰囲気であるケースを意味する。
【0044】
(フォトレジストの塗布)
KNN膜3の製膜が終了したら、KNN膜3の表面にフォトレジストを塗布する。ここでいう「KNN膜3の表面」とは、KNN膜3の上面(すなわち、KNN膜3が有する2つの主面のうち、下部電極膜2側の面とは反対側の面)である。フォトレジストは、KNN膜3の表面全面に塗布する、すなわち、KNN膜3の表面が露出しないように塗布することが好ましい。フォトレジストは、ネガ型レジスト又はポジ型レジストのいずれであってもよい。フォトレジストとして、ノボラック系フェノール樹脂が例示される。フォトレジストは、スピンコート等の手法によりKNN膜3の表面に塗布することができる。
【0045】
フォトレジストを塗布する際の条件としては、下記条件が例示される。
フォトレジスト:ノボラック系フェノール樹脂(日本ゼオン株式会社製、型番:ZPN1150)
温度(基板温度):室温(25℃)以上100℃以下
塗布速度:1000rpm以上5000rpm以下、好ましくは2000rpm以上4000rpm以下
雰囲気:少なくともO2を含有する雰囲気、例えば大気中
【0046】
(フォトレジストの除去)
KNN膜3の表面にフォトレジストを塗布した後、KNN膜3の表面からフォトレジストを除去する(剥離する)。具体的には、KNN膜3の表面にフォトレジストを塗布した後、フォトレジストに対してパターン加工を行うことなく、KNN膜3の表面からフォトレジストを除去する。フォトレジストの除去方法(剥離方法)としては、プラズマを用いた手法、所定の剥離液を用いた手法等、公知の種々の手法を用いることができる。なお、フォトレジストの除去は、フォトレジストを硬化(紫外線硬化、加熱硬化)させることなく行ってもよく、フォトレジストを硬化させた後に行ってもよい。
【0047】
(上部密着層及び上部電極膜の製膜)
フォトレジストの除去が終了したら、フォトレジストを除去した後のKNN膜3上に、例えばスパッタリング法により、上部密着層7(例えばRuO2層)及び上部電極膜4(例えばPt膜)をこの順に製膜する。
【0048】
上部密着層7としてのRuO2層等を製膜する際の条件としては、下記条件が例示される。上部密着層7の製膜時間は、目標とする上部密着層7の厚さに応じて適宜調整される。
ターゲット:Ru板等
温度(基板温度):室温(25℃)以上500℃以下
放電パワー密度:0.3W/cm2以上2W/cm2以下、好ましくは0.5W/cm2以上1W/cm2以下
雰囲気:Ar/O2混合ガス雰囲気
O2ガスに対するArガスの分圧の比(Arガス分圧/O2ガス分圧):3/5~1/1、好ましくは3/4~1/1
雰囲気圧力:0.1Pa以上1.0Pa以下、好ましくは0.2Pa以上0.7Pa以下
厚さ:1nm以上200nm以下、好ましくは5nm以上50nm以下
【0049】
上部電極膜4としてのPt膜等を製膜する際の条件としては、下記条件が例示される。上部電極膜4の製膜時間は、目標とする上部電極膜4の厚さに応じて適宜調整される。
ターゲット:Pt板等
温度(基板温度):室温(25℃)以上500℃以下
放電パワー密度:1W/cm2以上5W/cm2以下、好ましくは2W/cm2以上4W/cm2以下
雰囲気:Arガス雰囲気
雰囲気圧力:0.1Pa以上0.5Pa以下、好ましくは0.2Pa以上0.4Pa以下
厚さ:50nm以上5000nm以下、好ましくは50nm以上300nm以下
【0050】
このように、基板1上に、下部密着層6、下部電極膜2、KNN膜3、上部密着層7、上部電極膜4を順に製膜することにより、
図1に示すような積層ウエハ10が得られる。
【0051】
本態様では、フォトレジストの塗布及び除去を行った後のKNN膜3上に、上部密着層7、上部電極膜4をこの順に製膜している。これにより、その後の工程において、積層ウエハ10が所定条件で加熱された場合であっても、基板1の外周辺から5mmの領域を除く領域で、KNN膜3と上部密着層7との間の界面に、部分剥離が生じにくくなる。このメカニズムは未だ明らかになってはいないが、本発明者等が鋭意検討を行う過程で初めて得られた新規知見である。
【0052】
(圧電積層体の作製)
図1に示すような積層ウエハ10を作製した後、積層ウエハ10を加工して、所定形状(例えばチップ状)の圧電積層体10Aを作製する。具体的には、積層ウエハ10に対して切断加工等を行い、例えば1枚の積層ウエハ10から複数の圧電積層体10Aを作製する。
【0053】
本態様では、フォトレジストの塗布及び除去を行った後のKNN膜3上に、上部密着層7、上部電極膜4をこの順に製膜している。これにより、その後の工程において、圧電積層体10Aが所定条件で加熱された場合であっても、KNN膜3と上部密着層7との間の界面に、部分剥離が生じにくくなる。このことは、上述のように、本発明者等が鋭意検討を行う過程で初めて得られた新規知見である。
【0054】
(圧電素子の作製)
圧電積層体10Aを作製した後、圧電積層体10Aを加工して、圧電素子20(KNN膜3を有する素子20)を作製する。
【0055】
具体的には、まず、例えばArガス、又はCF4ガス等の反応性ガスを用いたドライエッチングにより、上部電極膜4、上部密着層7、KNN膜3、下部密着層6、及び下部電極膜2に対して、それぞれ個別にパターン加工を行う。パターン加工では、上部電極膜4、上部密着層7、及びKNN膜3をそれぞれエッチングして所定形状に成形するとともに下部電極膜2の一部を露出させ、その後、下部電極膜2及び下部密着層6をそれぞれエッチングして所定形状に成形する。パターン加工では、エッチングマスクとしてフォトレジストを用いることができる。
【0056】
続いて、絶縁膜8(
図2参照)を設ける。具体的には、KNN膜3の側面の一部を覆うように、上部電極膜4から下部電極膜2にかけて絶縁膜8を製膜する。絶縁膜8は、酸化シリコン(SiO
2)、酸化アルミニウム(Al
2O
3)、酸化タンタル(Ta
2O
5)等を用いて形成することができる。絶縁膜8は、単層膜であってもよく、複数の層を積層した積層体(積層膜)であってもよい。絶縁膜8は、スパッタリング法、蒸着法等の手法により製膜することができる。絶縁膜8としてSiO
2膜を形成する場合、例えば、テトラエトキシシラン(TEOS)ガスを用いたプラズマCVD法により製膜することができる。
【0057】
絶縁膜8としてのSiO2膜をプラズマCVD法により製膜する際の条件としては、下記条件が例示される。なお、絶縁膜8の製膜時間は、目標とする絶縁膜8の厚さに応じて適宜調整される。
温度(基板温度):300℃以上650℃以下、好ましくは400℃以上600℃以下
供給ガス:TEOSガス及びO2ガス
TEOSガスの供給流量:3sccm以上10sccm以下、好ましくは4sccm以上8sccm以下
O2ガスの供給流量:300sccm以上600sccm以下、好ましくは400sccm以上500sccm以下
放電パワー密度:0.3W/cm2以上10W/cm2以下、好ましくは0.5W/cm2以上3W/cm2以下
雰囲気圧力:0.3Pa以上1.0Pa以下、好ましくは0.5Pa以上0.8Pa以下
【0058】
上述のように、本態様では、積層ウエハ10の作製過程において、フォトレジストの塗布及び除去を行った後のKNN膜3上に、上部密着層7、上部電極膜4をこの順に製膜している。これにより、絶縁膜8を製膜する際に圧電積層体10A(が有する基板1)が上述の条件で加熱された場合であっても、KNN膜3と上部密着層7との間の界面に、部分剥離が生じにくくなる。すなわち、圧電積層体10Aを例えば400℃以上の温度で加熱しながら、圧電積層体10Aに対して所定の処理を行ったとしても、KNN膜3と上部密着層7との間の界面における部分剥離の出現を抑制できる。
【0059】
絶縁膜8を製膜したら、Arガス、又はCF4ガス等の反応性ガスを用いたドライエッチングや、ウエットエッチングにより、絶縁膜8に対してパターン加工を行う。
【0060】
絶縁膜8に対してパターン加工を行った後、金属を含む材料からなる層(メタル配線膜)を設ける。メタル配線膜は、それぞれ、例えば、Pt、Au、Al、Ti、Cr等の各種金属、これらの各種金属を主成分とする合金を用いて形成することができる。メタル配線膜は、スパッタリング法、蒸着法、メッキ法、金属ペースト法等の手法により設けることができる。メタル配線膜は、単層膜であってもよく、複数の層を積層した積層体(積層膜)であってもよい。そして、Arガス、又はCF
4ガス等の反応性ガスを用いたドライエッチングや、ウエットエッチングにより、メタル配線膜に対してパターン加工を行い、メタル配線9a,9b(
図2参照)を形成する。メタル配線9aは、下部電極膜2に接続され(接触し)、上部電極膜4に接続されない(接触しない)ように形成(パターニング)されており、メタル配線9bは、上部電極膜4に接続され、下部電極膜2に接続されないように形成されている。
【0061】
また、Deep-RIE又はウエットエッチングにより、基板1の裏面側(基板1が有する2つの主面のうち、下部電極膜2等が製膜された面とは反対側の面)から、基板1の一部を除去し、圧電積層体10Aに、例えば、メンブレン構造、カンチレバー構造等のMEMSデバイス構造を形成する。これにより、
図2に示すような圧電素子(メンブレン型MEMS圧電素子)20が得られる。
【0062】
なお、絶縁膜8及びメタル配線9a,9bの形成時のパターン加工におけるエッチング条件、及び圧電積層体10AにMEMSデバイス構造等を形成する際の基板1のエッチング条件は、KNN膜3の絶縁性を劣化させない条件であれば、半導体デバイス製造プロセスで利用されている一般的なエッチング条件とすることができる。
【0063】
(圧電デバイスモジュールの作製)
得られた圧電素子20に電圧検出手段11a又は電圧印加手段11bを接続することで、KNN膜3を有するデバイスモジュール30(以下、圧電デバイスモジュール30とも称する)が得られる。
図3に、本態様にかかる圧電デバイスモジュール30の概略構成図を示す。圧電デバイスモジュール30は、圧電素子20と、圧電素子20に接続される電圧検出手段11a又は電圧印加手段11bと、を少なくとも備えている。電圧検出手段11aは、下部電極膜2と上部電極膜4との間(電極間)に発生した電圧を検出する手段である。電圧印加手段11bは、下部電極膜2と上部電極膜4との間(電極間)に電圧を印加する手段である。電圧検出手段11a、電圧印加手段11bとしては、公知の種々の手段を用いることができる。
【0064】
電圧検出手段11aを、圧電素子20の下部電極膜2と上部電極膜4との間に接続することで、圧電デバイスモジュール30をセンサとして機能させることができる。KNN膜3が何らかの物理量の変化に伴って変形すると、その変形によって下部電極膜2と上部電極膜4との間に電圧が発生する。この電圧を電圧検出手段11aによって検出することで、KNN膜3に印加された物理量の大きさを測定することができる。この場合、圧電デバイスモジュール30の用途としては、例えば、角速度センサ、超音波センサ、圧カセンサ、加速度センサ等が挙げられる。
【0065】
電圧印加手段11bを、圧電素子20の下部電極膜2と上部電極膜4との間に接続することで、圧電デバイスモジュール30をアクチュエータとして機能させることができる。電圧印加手段11bにより下部電極膜2と上部電極膜4との間に電圧を印加することで、KNN膜3を変形させることができる。この変形動作により、圧電デバイスモジュール30に接続された各種部材を作動させることができる。この場合、圧電デバイスモジュール30の用途としては、例えば、インクジェットプリンタ用のヘッド、スキャナー用のMEMSミラー、超音波発生装置用の振動子等が挙げられる。
【0066】
(3)効果
本態様によれば、以下に示す1つ又は複数の効果が得られる。
【0067】
(a)本態様にかかる積層ウエハ10は、KNN膜3を製膜した後、KNN膜3の上面にフォトレジストを塗布してから(パターン加工を行うことなく)フォトレジストを除去し、フォトレジストを除去した後のKNN膜3上に、上部密着層7、上部電極膜4をこの順に製膜するという新規手法を経て作製されている。
【0068】
これにより、積層ウエハ10を所定条件(例えば400℃以上の温度)で加熱した場合であっても、積層ウエハ10の基板1の外周辺から5mmの領域を除く領域で、KNN膜3と上部密着層7との間の界面における部分剥離の出現を抑制でき、KNN膜3と上部密着層7との間の密着性の低下を回避できる。結果、本態様における積層ウエハ10は、上述の特徴1を備えることとなる。
【0069】
また、本態様にかかる積層ウエハ10の基板1の外周辺から5mmの領域を除く領域から得た所定形状の圧電積層体10Aを所定条件(例えば400℃以上の温度)で加熱した場合であっても、KNN膜3と上部密着層7との間の界面における部分剥離の出現を抑制でき、KNN膜3と上部密着層7との間の密着性の低下を回避できる。結果、本態様における圧電積層体10Aは、上述の特徴2及び特徴3のうち少なくともいずれかの特徴を備えることとなる。
【0070】
積層ウエハ10が上述の特徴1を備えることで、又は、圧電積層体10Aが上述の特徴2及び特徴3のうち少なくともいずれかの特徴を備えることで、積層ウエハ10に対して、例えば、上述の絶縁膜8を製膜する処理を行う場合、必要に応じてアニール処理等を行う場合、圧電積層体10Aを実装する際のはんだリフローといった加熱処理を行う場合であっても、KNN膜3と上部密着層7との間の界面における部分剥離の出現を抑制できる。これにより、KNN膜3と上部密着層7との間の密着性の低下を回避できる。その結果、積層ウエハ10、ひいては、圧電積層体10Aを加工することで得られる圧電素子20及び圧電デバイスモジュール30の寿命を長くすることができる。また、圧電素子20及び圧電デバイスモジュール30の製造歩留まり及び信頼性を向上させることもできる。
【0071】
(b)フォトレジストは、KNN膜3の表面全面に塗布することが好ましく、これにより、KNN膜3と上部密着層7との間の界面における部分剥離の発生を確実に抑制できる。
【0072】
(c)フォトレジストは、ネガ型レジスト又はポジ型レジストのいずれであってもよく、また、フォトレジストの除去は、フォトレジストを硬化させることなく行ってもよく、フォトレジストを硬化させた後に行ってもよい。いずれの場合であっても、KNN膜3と上部密着層7との間の界面における部分剥離の発生を抑制できる。
【0073】
(4)変形例
本態様は、以下の変形例のように変形することができる。なお、以下の変形例の説明において、上述の態様と同一の構成要素には同一の符号を付し、その説明を省略する。また、上述の態様及び以下の変形例は任意に組み合わせることができる。
【0074】
(変形例1)
上述の態様では、積層ウエハ10(圧電積層体10A)が上部密着層7を備える例について説明したが、これに限定されない。積層ウエハ10は、上部密着層7を備えていなくてもよい。すなわち、上部電極膜4が、KNN膜3上に直接製膜されていてもよい。本変形例では、上部電極膜4のみにより上部電極が構成されることとなる。
【0075】
本変形例においても、KNN膜3を製膜した後、KNN膜3の上面にフォトレジストを塗布してから(パターン加工を行うことなく)フォトレジストを除去し、フォトレジストを除去した後のKNN膜3上に上部電極膜4を製膜するという新規手法を採用することにより、上述の態様と同様の効果が得られる。すなわち、上述の特徴1を備える積層ウエハ10、及び、特徴2及び特徴3のうち少なくともいずれかの特徴を備える圧電積層体10Aが得られる。
【0076】
(変形例2)
上述の態様では、積層ウエハ10(圧電積層体10A)が下部電極膜2を備える例について説明したが、これに限定されない。積層ウエハ10は、下部電極膜2を備えていなくてもよい。すなわち、積層ウエハ10(圧電積層体10A)は、基板1と、基板1上に製膜されたKNN膜(圧電膜)3と、KNN膜3上に製膜された上部電極膜4(電極膜4)と、を備えて構成されていてもよい。この場合、基板1とKNN膜3との間に下部密着層6を設けてもよく、また、KNN膜3と上部電極膜4との間に上部密着層7を設けてもよい。このような積層ウエハ10、ひいては、圧電積層体10Aを加工することで得られる圧電素子20(圧電デバイスモジュール30)は、例えば、表面弾性波(Surface Acoustic Wave、略称:SAW)フィルタ等のフィルタデバイスとして機能させることができる。
【0077】
本変形例においても、KNN膜3を製膜した後、KNN膜3の上面にフォトレジストを塗布してから(パターン加工を行うことなく)除去し、フォトレジストを除去した後のKNN膜3上に、上部密着層7、上部電極膜4をこの順に製膜するという新規手法を採用することにより、上述の態様と同様の効果が得られる。すなわち、上述の特徴1を備える積層ウエハ10、及び、特徴2及び特徴3のうち少なくともいずれかの特徴を備える圧電積層体10Aが得られる。
【0078】
(変形例3)
上述の圧電積層体10Aを圧電素子20に成形する際、圧電積層体10A(圧電素子20)を用いて作製した圧電デバイスモジュール30をセンサ等の所望の用途に適用することができる限り、積層ウエハ10(圧電積層体10A)から基板1を他の基板に貼り替えてもよい。
【0079】
<他の実施形態>
以上、本開示の一態様を具体的に説明した。但し、本開示は上述の態様や変形例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。また、これらの態様は任意に組み合わせることができる。
【0080】
上述の実施形態や変形例では、圧電膜3がKNN膜である場合について説明したが、これに限定されない。圧電膜3は、鉛(Pb)、ジルコニウム(Zr)、チタン(Ti)を含有する膜(すなわち、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)を用いて形成された膜)、ビスマス(Bi)、Na、Tiを含有する膜(すなわち、チタン酸ビスマスナトリウム(BNT)を用いて形成された膜)、ビスマス(Bi)、Fe及びOを含有する膜(すなわち、ビスマスフェライト(BFO)を用いて形成された膜、Al及び窒素(N)を含有する膜(すなわち、AlNを用いて形成された膜)等であってもよい。
【実施例0081】
以下、上述の実施形態の効果を裏付ける実験結果について説明する。
【0082】
(サンプル1)
基板として、表面が(100)面方位、厚さ610μm、直径6インチ(「φ6インチ」とも称する)、表面に熱酸化膜(厚さ200nm)が形成されたSi基板を用意した。そして、このSi基板の熱酸化膜上に、下部密着層としてのZnO層(厚さ25nm)、下部電極膜としてのPt膜(基板の表面に対して(111)面方位に優先配向、厚さ200nm)、圧電膜としてのKNN膜(厚さ2μm)を製膜した。その後、KNN膜の表面にネガ型のフォトレジスト(日本ゼオン株式会社製、型番:ZPN1150)をスピンコートにより塗布した。そして、フォトレジストを硬化させることなく、またフォトレジストに対してパターン加工を行うことなく、フォトレジストをKNN膜の表面から除去した。フォトレジストの除去は、現像液(東京応化工業株式会社製、型番:NMD-W(テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)2.38%溶液))に基板を5分間浸漬することで行い、その後、純水で基板を洗浄した。そして、フォトレジストを除去したKNN膜の表面上に、上部密着層としてのRuO2層(厚さ10nm)、上部電極膜としてのPt膜(厚さ100nm)を、この順に製膜した。これにより、積層ウエハであるサンプル1を作製した。サンプル1では、下部密着層、下部電極膜、KNN膜、上部密着層、上部電極膜は、いずれも、RFマグネトロンスパッタリング法を用いて製膜した。
【0083】
下部密着層としてのZnO層を製膜する際の条件は、以下の通りとした。
ターゲット:ZnO焼結体
基板温度:500℃
放電パワー密度:4W/cm2
雰囲気:Ar/O2混合ガス雰囲気
雰囲気圧力:0.3Pa
Arガス分圧/O2ガス分圧:10/1
製膜時間:3分(厚さ25nm)
【0084】
下部電極膜としてのPt膜を製膜する際の条件は、以下の通りとした。
ターゲット:Pt板
基板温度:500℃
放電パワー密度:2W/cm2
雰囲気:Arガス雰囲気
雰囲気圧力:0.3Pa
製膜時間:14分(厚さ200nm)
【0085】
KNN膜を製膜する際の条件は、以下の通りとした。
ターゲット:KNN焼結体
放電パワー密度:3W/cm2
雰囲気:Ar/O2混合ガス雰囲気
雰囲気圧力:0.1Pa
Arガス分圧/O2ガス分圧:20/1
製膜温度:600℃
製膜時間:60分(厚さ2μm)
【0086】
KNN膜上にフォトレジストを塗布する際の条件は、以下の通りとした。
フォトレジスト:ノボラック系フェノール樹脂(日本ゼオン株式会社製、型番:ZPN1150)
温度(基板温度):室温
塗布速度:3000rpm
雰囲気:大気
【0087】
上部密着層としてのRuO2層を製膜する際の条件は、以下の通りとした。
ターゲット:Ru板
基板温度:室温(25℃)
放電パワー密度:0.5W/cm2
雰囲気:Ar/O2混合ガス雰囲気
雰囲気圧力:0.3Pa
Arガス分圧/O2ガス分圧:1/1
製膜時間:6分(厚さ10nm)
【0088】
上部電極膜としてのPt膜を製膜する際の条件は、以下の通りとした。
ターゲット:Pt板
基板温度:室温(25℃)
放電パワー密度:2W/cm2
雰囲気:Arガス雰囲気
雰囲気圧力:0.3Pa
製膜時間:7分(厚さ100nm)
【0089】
(サンプル2)
基板として、表面が(100)面方位、厚さ610μm、φ6インチ、表面に熱酸化膜(厚さ200nm)が形成されたSi基板を用意した。そして、このSi基板の熱酸化膜上に、下部密着層としてのZnO層(厚さ25nm)、下部電極膜としてのPt膜(基板の表面に対して(111)面方位に優先配向、厚さ200nm)、圧電膜としてのKNN膜(厚さ2μm)、上部密着層としてのRuO2層(厚さ10nm)、上部電極膜としてのPt膜(厚さ100nm)を、この順に製膜した。これにより、積層ウエハであるサンプル2を作製した。サンプル2では、サンプル1におけるフォトレジストの塗布及び除去を行うことなく、KNN膜上に上部密着層を製膜した。その他の手順、条件は、サンプル1における手順、条件と同様とした。
【0090】
(サンプル3)
サンプル3では、フォトレジストとして、ポジ型レジスト(東京応化工業株式会社製、型番:OFPR800LB)を用いた。その他の手順、条件は、サンプル1と同様として、積層ウエハであるサンプル3を作製した。
【0091】
(サンプル4)
サンプル4では、基板として、サンプル1と同様のSi基板を用意した。このSi基板の熱酸化膜上に、下部密着層としてのZnO層、下部電極膜としてのPt膜、圧電膜としてのKNN膜を製膜した。その後、KNN膜の表面にネガ型のフォトレジスト(日本ゼオン株式会社製、型番:ZPN1150)をスピンコートにより塗布した。そして、110℃に加熱したホットプレートに基板を置いて3分加熱することでフォトレジストを硬化させた。その後、パターン加工を行うことなくフォトレジストをKNN膜の表面から除去した。そして、フォトレジストを除去したKNN膜の表面上に、上部密着層としてのRuO2層、上部電極膜としてのPt膜を、この順に製膜した。フォトレジストの除去方法、その他の手順及び条件は、サンプル1と同様として、積層ウエハであるサンプル4を作製した。
【0092】
<評価>
サンプル1~4を、それぞれ、大気雰囲気中で、400℃、15分間加熱した。そして、加熱後のサンプル1~4のKNN膜と上部密着層との間の界面に、円相当径が30μm以上の剥離部(例えば気泡発生による浮き上がり箇所)が発生していないか否かの評価を行なった。剥離部の発生の有無の評価は、サンプル1~4の各上部電極膜の上面を微分干渉顕微鏡(オリンパス株式会社製、デジタルマイクロスコープDSX-510)により観察することで行った。
【0093】
また、
図4に、サンプル1の基板の外周辺から5mmの領域を除く領域の任意の視野の微分干渉観察像を示す。
図5(a)に、サンプル2の基板の外周辺から5mmの領域を除く領域の任意の視野の微分干渉観察像を示し、
図5(b)に、サンプル2の剥離部発生箇所のFIB-SEM画像を示し、
図5(c)に、
図5(b)のA-A線のFIB-SEM縦断面画像を示す。
図6に、サンプル3の基板の外周辺から5mmの領域を除く領域の任意の視野の微分干渉観察像を示し、
図7に、サンプル4の基板の外周辺から5mmの領域を除く領域の任意の視野の微分干渉観察像を示す。なお、ここでいう「微分干渉観察像」とは、微分干渉顕微鏡により得られた画像を意味する。
【0094】
図4から、サンプル1の積層ウエハでは、基板の外周辺から5mmの領域を除く領域で、円相当径が30μm以上の剥離部が観察されないことが確認できる。
図6及び
図7からそれぞれ、サンプル3、4の積層ウエハにおいても、基板の外周辺から5mmの領域を除く領域で、円相当径が30μm以上の剥離部は観察されないことが確認できる。また、サンプル1、3、4の積層ウエハでは、円相当径が10μm以上の剥離部が観察される場合もあるものの、その数は、略160000μm
2の任意の視野内において、20個以下と非常に少なかった。
【0095】
一方、
図5(a)から、サンプル2の積層ウエハでは、基板の外周辺から5mmの領域を除く領域で、円相当径が30μm以上の剥離部が観察されることが確認できる。
図5(b)及び
図5(c)から、気泡発生による浮き上がり箇所は、上部密着層がKNN膜から剥離していることが確認できる。
【0096】
<圧電積層体における剥離部の発生の評価>
(加熱前の)サンプル1~4に対して切削加工等を行い、サンプル1~4の積層ウエハの基板の外周辺から5mmの領域を除く領域から、それぞれ、20mm×20mmの圧電積層体を作製した。そして、圧電積層体を、それぞれ、大気雰囲気中で、400℃、15分間加熱した。加熱後の各圧電積層体のKNN膜と上部密着層との間の界面に、円相当径が30μm以上の剥離部が発生していないか否かの評価を行った。剥離部の発生の有無の評価は、サンプル1~4から得た各圧電積層体の上部電極膜の上面を微分干渉顕微鏡(オリンパス株式会社製、デジタルマイクロスコープDSX-510)により観察することで行った。また、加熱後の各圧電積層体の上部電極膜の上面を、微分干渉顕微鏡(オリンパス株式会社製、デジタルマイクロスコープDSX-510)により400μm×400μmの任意の視野で観察し、任意の視野内における円相当径が10μm以上の剥離部の数を計測する評価を行った。
【0097】
サンプル1、3、4から得た圧電積層体では、円相当径が30μm以上の剥離部が観察されなかった。また、サンプル1、3、4から得た圧電積層体では、円相当径が10μm以上の剥離部が観察される場合もあるものの、その数は、略160000μm
2の任意の視野内において、20個以下と非常に少なかった。
図8に、サンプル1から得た圧電積層体の任意の視野の微分干渉観察像を示す。例えば、
図8においては、略160000μm
2の視野内において、円相当径が10μm以上の大きさの剥離部の数は1個のみとなっている。
【0098】
また、サンプル2の圧電積層体では、
図5(a)に示すような円相当径が30μm以上の剥離部が観察され、さらに、円相当径が10μm以上の剥離部も20個超観察された。
【0099】
このように、KNN膜を製膜した後、KNN膜の上面にフォトレジストを塗布し、そして、(パターン加工を行うことなく)フォトレジストを除去し、フォトレジストを除去した後のKNN膜上に、上部密着層、上部電極膜を製膜して積層ウエハを作製することで、積層ウエハ、ひいては積層ウエハから得た圧電積層体のKNN膜と上部密着層(上部電極)との間の界面における部分剥離の発生を抑制できることが分かる。
【0100】
<本発明の好ましい態様>
以下、本発明の好ましい態様について付記する。
【0101】
(付記1)
本開示の一態様によれば、
基板と、
前記基板上に製膜され、カリウム、ナトリウム、ニオブ、及び酸素を含み、ペロブスカイト構造を有するアルカリニオブ酸化物で構成される圧電膜と、
前記圧電膜上に製膜される上部電極と、を備える圧電積層体であって、
大気雰囲気中で、400℃、15分間の加熱処理を前記圧電積層体に対して行った後に、前記圧電積層体を観察した際、前記圧電膜と前記上部電極との間の界面に、円相当径が30μm以上の剥離部が観察されない、
圧電積層体が提供される。
【0102】
(付記2)
付記1に記載の圧電積層体であって、好ましくは、
前記加熱処理を行った後に、前記上部電極の上面を、微分干渉顕微鏡により400μm×400μmの視野で観察した際、円相当径が10μm以上の剥離部の数が前記視野内に20個以下である。
【0103】
(付記3)
本開示の他の態様によれば、
基板と、
前記基板上に製膜され、カリウム、ナトリウム、ニオブ、及び酸素を含み、ペロブスカイト構造を有するアルカリニオブ酸化物で構成される圧電膜と、
前記圧電膜上に製膜される上部電極と、を備える圧電積層体であって、
大気雰囲気中で、400℃、15分間の加熱処理を前記圧電積層体に対して行った後に、前記上部電極の上面を、微分干渉顕微鏡により400μm×400μmの視野で観察した際、円相当径が10μm以上の剥離部の数が前記視野内に20個以下である、
圧電積層体が提供される。
【0104】
(付記4)
本開示のさらに他の態様によれば、
直径が100mm以上の基板と、
前記基板上に製膜され、カリウム、ナトリウム、ニオブ、及び酸素を含み、ペロブスカイト構造を有するアルカリニオブ酸化物で構成される圧電膜と、
前記圧電膜上に製膜される上部電極と、を備える圧電積層ウエハであって、
大気雰囲気中で、400℃、15分間の加熱処理を前記圧電積層ウエハに対して行った後に、前記圧電積層ウエハを観察した際、前記基板の外周辺から5mmの領域を除く領域では、前記圧電膜と前記上部電極との間の界面に、円相当径が30μm以上の剥離部が観察されない、
圧電積層ウエハが提供される。
【0105】
(付記5)
本開示のさらに他の態様によれば、
カリウム、ナトリウム、ニオブ、及び酸素を含むアルカリニオブ酸化物で構成される圧電膜を製膜した基板を用意する工程と、
前記圧電膜の表面(全面)にフォトレジストを塗布する工程と、
(前記フォトレジストに対してパターン加工を行うことなく)前記圧電膜の表面から前記フォトレジストを除去する工程と、
前記フォトレジストを除去した後の前記圧電膜の表面上に上部電極を製膜する工程と、
を備える、
圧電積層体の製造方法が提供される。
【0106】
(付記6)
付記5に記載の方法であって、好ましくは、
前記上部電極を製膜する工程の後、前記基板を400℃以上の温度で加熱しながら、前記圧電積層体に対して所定の処理を行う工程(前記上部電極上の少なくとも一部に所定の膜を形成する工程)をさらに備える。