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特開2024-136181レーザ加工方法、レーザ加工装置及びレーザ光源
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024136181
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】レーザ加工方法、レーザ加工装置及びレーザ光源
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/301 20060101AFI20240927BHJP
   B23K 26/53 20140101ALI20240927BHJP
   B23K 26/0622 20140101ALI20240927BHJP
【FI】
H01L21/78 B
B23K26/53
B23K26/0622
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023047206
(22)【出願日】2023-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000151494
【氏名又は名称】株式会社東京精密
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100083116
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 憲三
(74)【代理人】
【識別番号】100170069
【弁理士】
【氏名又は名称】大原 一樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128635
【弁理士】
【氏名又は名称】松村 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100140992
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 憲政
(72)【発明者】
【氏名】植木原 明
(72)【発明者】
【氏名】大村 悦二
【テーマコード(参考)】
4E168
5F063
【Fターム(参考)】
4E168CA06
4E168CA13
4E168CB07
4E168DA02
4E168DA24
4E168DA52
4E168HA01
4E168JA12
5F063AA05
5F063AA22
5F063BA45
5F063DD27
5F063DD32
(57)【要約】
【課題】内部集光加工の加工性能を維持しつつ低いパルスエネルギー(パワー)での内部集光加工が可能になるレーザ加工方法、レーザ加工装置及びレーザ光源を提供する。
【解決手段】被加工物(ウェーハW)の内部にレーザ加工領域Pを形成するパルスレーザ光Lのパルス波形Fが、パルスレーザ光Lのパワーが最大値(ピークパワーPmax)まで時間t0で立ち上がる第1段階波形ST1と、パワーが基準値(ベースパワーPb)まで時間t1で立ち下がる第2段階波形St2と、パワーが基準値を下回ることなく所定の変動範囲内で維持される第3段階波形ST3と、を含み、基準値が最大値の30%から60%の範囲内であり、時間t0がパルス幅teの1%から20%の範囲内であり、時間t1がパルス幅teの3%から40%の範囲内であり、最大値の半値に対応する時間tpがパルス幅teの2%から40%の範囲内である。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工物の内部に集光点を合わせてパルスレーザ光を前記被加工物に照射して、前記被加工物のストリートに沿って前記被加工物の内部にレーザ加工領域を形成するレーザ加工方法において、
前記パルスレーザ光のパルス波形が、
前記パルスレーザ光のパワーが最大値まで時間t0で立ち上がる第1段階波形と、
前記第1段階波形の後で前記パワーが前記最大値から前記最大値よりも低い基準値まで時間t1で立ち下がる第2段階波形と、
前記第2段階波形の後で前記パワーが前記基準値を下回ることなく前記基準値に対して予め定められた変動範囲内で維持される第3段階波形と、
を含み、
前記基準値が前記最大値の30%から60%の範囲内であり、
前記時間t0が前記パルス波形のパルス幅teの1%から20%の範囲内であり、
前記時間t1が前記パルス幅teの3%から40%の範囲内であり、
前記パルス波形において前記最大値の半値に対応する第1半値幅に相当する時間tpが前記パルス幅teの2%から40%の範囲内であるレーザ加工方法。
【請求項2】
前記パルス波形において前記最大値の半値になる半値位置の一方が前記第1段階波形に含まれて前記半値位置の他方が前記第2段階波形に含まれており、
前記第2段階波形では、前記最大値から前記半値位置の他方までの前記パワーの減少率が、前記半値位置の他方から前記基準値までの前記パワーの減少率よりも大きくなる請求項1に記載のレーザ加工方法。
【請求項3】
前記第3段階波形では、前記パワーが前記基準値で一定に維持される請求項1又は2に記載のレーザ加工方法。
【請求項4】
前記パルス幅teは、前記パルス波形において前記基準値の半値に対応する第2半値幅である請求項1又は2に記載のレーザ加工方法。
【請求項5】
被加工物の内部に集光点を合わせてパルスレーザ光を前記被加工物に照射して、前記被加工物のストリートに沿って前記被加工物の内部にレーザ加工領域を形成するレーザ加工装置において、
前記パルスレーザ光を出射するレーザ光源を備え、
前記パルスレーザ光のパルス波形が、
前記パルスレーザ光のパワーが最大値まで時間t0で立ち上がる第1段階波形と、
前記第1段階波形の後で前記パワーが前記最大値から前記最大値よりも低い基準値まで時間t1で立ち下がる第2段階波形と、
前記第2段階波形の後で前記パワーが前記基準値を下回ることなく前記基準値に対して予め定められた変動範囲内で維持される第3段階波形と、
を含み、
前記基準値が前記最大値の30%から60%の範囲内であり、
前記時間t0が前記パルス波形のパルス幅teの1%から20%の範囲内であり、
前記時間t1が前記パルス幅teの3%から40%の範囲内であり、
前記パルス波形において前記最大値の半値に対応する第1半値幅に相当する時間tpが前記パルス幅teの2%から40%の範囲内であるレーザ加工装置。
【請求項6】
被加工物の内部に集光点を合わせてパルスレーザ光を前記被加工物に照射して、前記被加工物のストリートに沿って前記被加工物の内部にレーザ加工領域を形成するレーザ加工装置に用いられ、前記パルスレーザ光を出射するレーザ光源において、
前記パルスレーザ光のパルス波形が、
前記パルスレーザ光のパワーが最大値まで時間t0で立ち上がる第1段階波形と、
前記第1段階波形の後で前記パワーが前記最大値から前記最大値よりも低い基準値まで時間t1で立ち下がる第2段階波形と、
前記第2段階波形の後で前記パワーが前記基準値を下回ることなく前記基準値に対して予め定められた変動範囲内で維持される第3段階波形と、
を含み、
前記基準値が前記最大値の30%から60%の範囲内であり、
前記時間t0が前記パルス波形のパルス幅teの1%から20%の範囲内であり、
前記時間t1が前記パルス幅teの3%から40%の範囲内であり、
前記パルス波形において前記最大値の半値に対応する第1半値幅に相当する時間tpが前記パルス幅teの2%から40%の範囲内であるレーザ光源。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被加工物の内部にレーザ加工領域を形成するレーザ加工方法及びレーザ加工装置と、このレーザ加工装置に用いられるレーザ光源とに関する。
【背景技術】
【0002】
被加工物であるシリコンウェーハ(以下、ウェーハと略す)は、複数のデバイスが格子状のストリート(加工ライン、切断予定ラインともいう)によって格子状に区画されており、ウェーハをストリートに沿って分割(割断)することで個々のデバイスが製造される。ウェーハを複数のデバイス(チップ)に分割する分割工程の前工程として、レーザ加工装置によるウェーハのレーザ加工が実行される。
【0003】
例えば特許文献1に記載のレーザ加工装置は、レーザ加工として、レーザエンジンの対物レンズの焦点位置をウェーハの内部に合わせた状態でこのレーザエンジンからパルスレーザ光をストリートに沿って照射する内部集光加工を実行することで、ストリートに沿ってウェーハの内部に切断の起点となるレーザ加工領域を形成する。これにより、レーザ加工領域からウェーハの厚さ方向に亀裂(クラックともいう)が伸展するので、分割工程においてウェーハが各デバイスに割断される。
【0004】
ここで一般的なパルスレーザ光のパルス波形(パルス形状)は山型又は台形型であるが、特許文献1に記載のレーザ加工装置では、分割工程でウェーハを分割する際の分割力(亀裂の延び易さ)を高めるためにパルス波形を最適化している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011-251314号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
内部集光加工でパルスレーザ光をウェーハの内部に集光すると、ウェーハの内部にボイドが形成され、そのボイド上部からパルスレーザ光の入射方向に向けてレーザ加工領域が形成される。この際に、ボイドの形成に必要なエネルギーとレーザ加工領域の形成に必要なエネルギーとはそれぞれ必要とされる順序が異なり、さらにエネルギー量も異なる。このため、一般的な山型のパルス波形のパルスレーザ光を使用して内部集光加工を実行した場合には、ボイド形成およびレーザ加工領域形成に寄与しない余分なエネルギーが発生してしまう。その結果、その余分なエネルギーがレーザ加工領域形成の妨げになったり、内部集光加工で使用されずにウェーハ表面(ウェーハ裏面からのパルスレーザ光の入射の場合)に形成されている電極層に熱ダメージを与えたり、ウェーハ裏面に熱ダメージを与えたりするおそれがある。さらにパルスレーザ光のエネルギー(パワー)が高くなると、レーザエンジンの寿命が短くなるおそれがある。なお、発明者は2枚のウェーハを密着させて、ボイドとレーザ加工領域が、それぞれ異なるウェーハ内に形成できることを確認している。これはボイドがレーザ加工領域形成に必須ではないことを示唆していると考えられる。
【0007】
上記特許文献1に記載のレーザ加工装置では、既述の分割力を高めるためにパルス波形を最適化しているが、内部集光加工で発生する上述の余分なエネルギーについては一切考慮してはいない。このため、特許文献1に記載のレーザ加工装置においても、余分なエネルギーに起因してレーザ加工領域の形成が妨げられたり、電極層及びウェーハ裏面に熱ダメージが与えられたり、或いはレーザエンジンの寿命が短くなったりするおそれがある。
【0008】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、内部集光加工の加工性能を維持しつつ低いパルスエネルギー(パワー)での内部集光加工が可能になるレーザ加工方法、レーザ加工装置及びレーザ光源を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の目的を達成するためのレーザ加工方法は、被加工物の内部に集光点を合わせてパルスレーザ光を被加工物に照射して、被加工物のストリートに沿って被加工物の内部にレーザ加工領域を形成するレーザ加工方法において、パルスレーザ光のパルス波形が、パルスレーザ光のパワーが最大値まで時間t0で立ち上がる第1段階波形と、第1段階波形の後でパワーが最大値から最大値よりも低い基準値まで時間t1で立ち下がる第2段階波形と、第2段階波形の後でパワーが基準値を下回ることなく基準値に対して予め定められた変動範囲内で維持される第3段階波形と、を含み、基準値が最大値の30%から60%の範囲内であり、時間t0がパルス波形のパルス幅teの1%から20%の範囲内であり、時間t1がパルス幅teの3%から40%の範囲内であり、パルス波形において最大値の半値に対応する第1半値幅に相当する時間tpがパルス幅teの2%から40%の範囲内である。
【0010】
このレーザ加工方法によれば、被加工物の内部にレーザ加工領域を形成するのに要するエネルギーを減少させつつ、従来と同様にレーザ加工領域を形成することができる。
【0011】
本発明の他の態様に係るレーザ加工方法において、パルス波形において最大値の半値になる半値位置の一方が第1段階波形に含まれて半値位置の他方が第2段階波形に含まれており、第2段階波形では、最大値から半値位置の他方までのパワーの減少率が、半値位置の他方から基準値までのパワーの減少率よりも大きくなる。
【0012】
本発明の他の態様に係るレーザ加工方法において、第3段階波形では、パワーが基準値で一定に維持される。これにより、レーザ加工領域の形成に最適なパルス波形でレーザ加工領域を形成することができる。
【0013】
本発明の他の態様に係るレーザ加工方法において、パルス幅teは、パルス波形において基準値の半値に対応する第2半値幅である。
【0014】
本発明の目的を達成するためのレーザ加工装置は、被加工物の内部に集光点を合わせてパルスレーザ光を被加工物に照射して、被加工物のストリートに沿って被加工物の内部にレーザ加工領域を形成するレーザ加工装置において、パルスレーザ光を出射するレーザ光源を備え、パルスレーザ光のパルス波形が、パルスレーザ光のパワーが最大値まで時間t0で立ち上がる第1段階波形と、第1段階波形の後でパワーが最大値から最大値よりも低い基準値まで時間t1で立ち下がる第2段階波形と、第2段階波形の後でパワーが基準値を下回ることなく基準値に対して予め定められた変動範囲内で維持される第3段階波形と、を含み、基準値が最大値の30%から60%の範囲内であり、時間t0がパルス波形のパルス幅teの1%から20%の範囲内であり、時間t1がパルス幅teの3%から40%の範囲内であり、パルス波形において最大値の半値に対応する第1半値幅に相当する時間tpがパルス幅teの2%から40%の範囲内である。
【0015】
本発明の目的を達成するためのレーザ光源は、被加工物の内部に集光点を合わせてパルスレーザ光を被加工物に照射して、被加工物のストリートに沿って被加工物の内部にレーザ加工領域を形成するレーザ加工装置に用いられ、パルスレーザ光を出射するレーザ光源において、パルスレーザ光のパルス波形が、パルスレーザ光のパワーが最大値まで時間t0で立ち上がる第1段階波形と、第1段階波形の後でパワーが最大値から最大値よりも低い基準値まで時間t1で立ち下がる第2段階波形と、第2段階波形の後でパワーが基準値を下回ることなく基準値に対して予め定められた変動範囲内で維持される第3段階波形と、を含み、基準値が最大値の30%から60%の範囲内であり、時間t0がパルス波形のパルス幅teの1%から20%の範囲内であり、時間t1がパルス幅teの3%から40%の範囲内であり、パルス波形において最大値の半値に対応する第1半値幅に相当する時間tpがパルス幅teの2%から40%の範囲内である。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、内部集光加工の加工性能を維持しつつ低いパルスエネルギーでの内部集光加工が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】レーザ加工装置の概略図である。
図2】レーザ加工装置による加工対象のウェーハの平面図である。
図3図2に示したウェーハの一部の断面図である。
図4】制御装置の機能ブロック図である。
図5】符号5Aは内部集光加工中にウェーハの内部に形成されるレーザ加工領域を説明するための説明図であり、符号5Bは内部集光加工後のウェーハの裏面の一部を示した説明図である。
図6】ウェーハの内部への複数層のレーザ加工領域の形成を説明するための説明図である。
図7】パルスレーザ光の1パルス分の波形を示すパルス波形の一例を示したグラフである。
図8】第1評価試験を説明するための説明図であって、ウェーハの裏面をその正面側から見た図である。
図9】符号9Aは比較例の内部集光加工を説明するため説明図であり、符号9Bは比較例の内部集光加工後のウェーハの裏面の拡大図である。
図10】符号XAは本実施例の内部集光加工を説明するため説明図であり、符号XBは本実施例の内部集光加工後のウェーハの裏面の拡大図である。
図11】本実施例及び比較例におけるパルスレーザ光Lのパワー(W)と、レーザ加工領域Pの形成の有無(OK/NG)との関係を示した表である。
図12】本実施例及び比較例において、パルスレーザ光のパワーを0.4W、0.25W及び0.11Wに設定して内部集光加工を実行した後のウェーハの断面図である。
図13】シミュレーションでのパルスレーザ光の集光位置を示した図である。
図14】シミュレーションで用いられる標準的なパルスレーザ光Lのパルス形状(パルス波形)を示した図である。
図15】一例のシミュレーション結果をグラフ化した図である。
図16】シミュレーションに適用した2つのパルスレーザ光のパルス形状(パルス波形)を比較した図である。
図17】従来の台形パルス形状によるシミュレーション解析結果を示した図である。
図18】最適パルス形状によるシミュレーション解析結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1は、レーザ加工装置10の概略図である。図1に示すように、レーザ加工装置10は、本発明の被加工物に相当するウェーハW(例えばシリコンウェーハ)を複数のチップ4(図2参照)に分割する分割プロセスの前工程として、ウェーハWに対して内部集光加工(レーザ加工)を施す。なお、図中のXYZ方向は互いに直交し、このうちX方向及びY方向は水平方向であり、Z方向は鉛直方向(ウェーハWの厚み方向)である。またθ方向は、Z方向を回転軸とする回転方向である。
【0019】
図2は、レーザ加工装置10による加工対象のウェーハWの平面図である。図3は、図2に示したウェーハWの一部の断面図である。図2及び図3に示すように、ウェーハWには、複数のストリートCHが格子状に形成されている。これにより、ウェーハWは、各ストリートCHにより複数の領域に区画されている。この区画された各領域にはチップ4を構成するデバイス層6(電極層)が設けられている。
【0020】
レーザ加工装置10は、レーザ加工により、ストリートCHごとにストリートCHに沿ってウェーハWの内部にレーザ加工領域P(図5参照)を形成する。
【0021】
ベース12上には、XYZθステージ14が設けられている。XYZθステージ14は、ベース12上においてXYZ方向に移動自在で且つθ方向に回転自在に設けられている。このXYZθステージ14は、アクチュエータ及びモータ等により構成される移動機構24(図4参照)によりXYZ方向に移動されると共にθ方向に回転される。
【0022】
吸着ステージ16は、XYZθステージ14上に設けられている。この吸着ステージ16は、バックグラインドテープ17等を介して、ウェーハWのデバイス層6が設けられている側の表面を吸着保持する。これにより、ウェーハWは、その表面とは反対側の裏面が後述のレーザエンジン18と対向するようにXYZθステージ14に保持される。移動機構24によりXYZθステージ14をXYZθ方向に移動させることで、吸着ステージ16上のウェーハWに対してレーザエンジン18がXYZθ方向に相対移動される。
【0023】
レーザエンジン18は、レーザ光学系25及び観察光学系30を備える。このレーザエンジン18は、吸着ステージ16のZ方向上方側においてウェーハWの裏面に対向する位置に配置されており、後述の制御装置22により制御される。
【0024】
レーザ光学系25は、ウェーハWの裏面に向けてパルスレーザ光Lを照射する。このレーザ光学系25は、レーザ光源26(レーザ発振器ともいう)、コリメートレンズ27、ハーフミラー28、及び集光レンズ29を含む。
【0025】
レーザ光源26は、ウェーハWの内部集光加工用のパルスレーザ光Lをコリメートレンズ27に向けて出射する。パルスレーザ光Lの条件としては、例えば、光源が半導体レーザ励起Nd:YAGレーザ、波長が波長:1.1μm、レーザ光スポット断面積が3.14×10-8cm、発振形態がQスイッチパルス、繰り返し周波数が80~120kHzである。なお、パルスレーザ光Lのパルス幅及びパワーについては後述する。
【0026】
コリメートレンズ27は、レーザ光源26から入射したパルスレーザ光Lを平行光束に変換した後、このパルスレーザ光Lをハーフミラー28に向けて出射する。
【0027】
ハーフミラー28は、集光レンズ29の光軸上に配置されており、コリメートレンズ27から入射したパルスレーザ光Lの一部を集光レンズ29に向けて反射する。また、ハーフミラー28は、後述のハーフミラー33から入射した後述の照明光ILの一部を透過して集光レンズ29に向けて出射すると共に、集光レンズ29から入射した照明光ILの反射光の一部を透過してハーフミラー33に向けて出射する。
【0028】
集光レンズ29は、ハーフミラー28から入射したパルスレーザ光L及び照明光ILをウェーハWに集光させる。なお、集光レンズ29のピントは、ウェーハWの内部集光加工時にはその深さ位置に調整され、ウェーハWに対するレーザエンジン18のアライメント検出時にはウェーハWの中で任意のアライメント基準が形成されている位置に調整される。
【0029】
観察光学系30は、レーザ光学系25と同軸に設けられており、ウェーハWの内部集光加工前にはウェーハWに形成されているアライメント基準を撮影する。また、観察光学系30は、ウェーハWの内部集光加工中にはその加工位置を撮影する。
【0030】
観察光学系30は、ハーフミラー28及び集光レンズ29をレーザ光学系25と共用する他に、照明光源31、コリメートレンズ32、ハーフミラー33、集光レンズ34及び赤外線カメラ35等を備える。
【0031】
照明光源31は、ウェーハWを透過する波長域の照明光IL[例えば赤外光(近赤外光)]をコリメートレンズ32に向けて出射する。
【0032】
コリメートレンズ32は、照明光源31から入射した照明光ILを平行光束に変換した後、この照明光ILをハーフミラー33に向けて出射する。
【0033】
ハーフミラー33は、集光レンズ29の光軸上に配置されており、コリメートレンズ32から入射した照明光ILの一部をハーフミラー28に向けて反射する。これにより、照明光ILが、ハーフミラー28及び集光レンズ29を介して、ウェーハWの裏面或いは内部に集光される。また、ハーフミラー33は、ウェーハWから集光レンズ29及びハーフミラー28を介して入射した照明光ILの反射光の一部を透過して集光レンズ34に向けて出射する。
【0034】
集光レンズ34は、ハーフミラー33から入射した照明光ILの反射光を赤外線カメラ35に集光させる。
【0035】
赤外線カメラ35は、赤外光である照明光ILの波長域に対して感度を有する撮像素子(不図示)を備えている。なお、赤外線カメラ35としては、例えばInGaAs(インジウムガリウムヒ素)カメラに代表される近赤外領域(1μm以上の波長領域)で高い感度を有するカメラが好ましく用いられる。
【0036】
赤外線カメラ35は、集光レンズ34により集光された照明光ILの反射光を撮像してウェーハWの観察像(撮影画像データ)を制御装置22へ出力する。ウェーハWの内部に集光レンズ29の焦点を合わせた状態で赤外線カメラ35によりウェーハWを撮影した観察像に基づいて、ウェーハWの内部の状態を確認可能である。また、ウェーハWの裏面又は表面に集光レンズ29の焦点を合わせた状態で赤外線カメラ35によりウェーハWを撮影した観察像に基づいて、ウェーハWの裏面又は表面の状態を確認可能である。
【0037】
モニタ20は、赤外線カメラ35から入力された観察像、及びレーザ加工装置10の各設定画面等を表示する。
【0038】
制御装置22は、移動機構24、レーザ光学系25及び観察光学系30等のレーザ加工装置10の各部の動作を統括的に制御して、レーザエンジン18のアライメント及びストリートCHごとの内部集光加工(レーザ加工)を実行する。
【0039】
図4は、制御装置22の機能ブロック図である。図4に示すように、制御装置22には、既述のモニタ20、移動機構24、レーザ光学系25、及び観察光学系30の他に、操作部38が接続されている。なお、操作部38は、公知のキーボード、マウス、及び操作ボタン等が用いられ、オペレータによる各種操作の入力を受け付ける。
【0040】
制御装置22は、例えばパーソナルコンピュータのような演算装置により構成され、各種のプロセッサ(Processor)及びメモリ等から構成された演算回路を備える。各種のプロセッサには、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、及びプログラマブル論理デバイス[例えばSPLD(Simple Programmable Logic Devices)、CPLD(Complex Programmable Logic Device)、及びFPGA(Field Programmable Gate Arrays)]等が含まれる。なお、制御装置22の各種機能は、1つのプロセッサにより実現されてもよいし、同種または異種の複数のプロセッサで実現されてもよい。
【0041】
制御装置22は、不図示の制御プログラムを実行することで、検出制御部40、レーザ加工制御部42、撮影制御部44、及び表示制御部46として機能する。以下、本実施形態において「~部」として説明するものは「~回路」、「~装置」、又は「~機器」であってもよい。すなわち、「~部」として説明するものは、ファームウェア、ソフトウェア、及びハードウェアまたはこれらの組み合わせのいずれで構成されていてもよい。
【0042】
検出制御部40は、レーザ加工装置10の各部を制御して、吸着ステージ16に保持されているウェーハWの各ストリートCHの位置(XY面内での向きを含む)を検出するアライメント検出を実行する。
【0043】
最初に検出制御部40は、移動機構24及び観察光学系30を制御して、赤外線カメラ35をウェーハWのアライメント基準を撮影可能に位置に相対移動させる。この移動後に検出制御部40は、赤外線カメラ35によるアライメント基準の撮影を実行させる。これにより、赤外線カメラ35によりアライメント基準の観察像が取得されて、この観察像が赤外線カメラ35から検出制御部40に出力される。次いで、検出制御部40は、アライメント基準の観察像に基づいて、この観察像内のアライメント基準を公知の画像認識法で検出することにより、ウェーハWの各ストリートCHの位置を検出する。
【0044】
レーザ加工制御部42は、移動機構24及びレーザ光学系25を制御して、ストリートCHごとに、ストリートCHに沿ってウェーハWの内部にレーザ加工領域P(図5参照)を形成する内部集光加工を実行する。
【0045】
具体的にレーザ加工制御部42は、検出制御部40によるアライメント検出結果に基づき、移動機構24を駆動してXYZθステージ14のXYZ方向の位置を調整したり或いはθ方向に回転させたりすることで、集光レンズ29の光軸を第1番目のストリートCHの一端に位置合わせするアライメントを実行する。
【0046】
図5の符号5Aは内部集光加工中にウェーハWの内部に形成されるレーザ加工領域Pを説明するための説明図であり、符号5Bは内部集光加工後のウェーハWの裏面の一部を示した説明図である。
【0047】
図5の符号5Aに示すように、レーザ加工制御部42は、上述のアライメント完了後、レーザ光学系25を制御して、パルスレーザ光Lの集光点をウェーハWの裏面から所定の深さ位置D1(例えば380μm)に調整、換言するとウェーハWの表面から所定の深さ位置D2(例えば20μm)に調整する。これにより、ウェーハWの内部の深さ位置D1(深さ位置D2)にボイドVが形成されて、このボイドVからパルスレーザ光Lの入射方向に向けてレーザ加工領域Pが形成される。その結果、このレーザ加工領域Pを起点としてウェーハWの厚さ方向(Z方向)に亀裂Kが発生(伸展)する。
【0048】
そして、レーザ加工制御部42は、移動機構24を駆動して、XYZθステージ14をX方向(図中の矢印A1参照)に移動させる。これにより、深さ位置D1にパルスレーザ光Lを集光させた状態で、ウェーハWに対してレーザ光学系25がX方向に相対移動される。その結果、ストリートCHに沿ってウェーハWの内部に複数のレーザ加工領域Pが形成されて、さらに図5の符号5Bに示すように各レーザ加工領域Pから伸展した亀裂KがウェーハWの裏面に到達する。なお、図5の符号5Bでは図面の煩雑化を防止するために亀裂Kを簡略的(直線状)に図示している。
【0049】
図6は、ウェーハWの内部への複数層のレーザ加工領域Pの形成を説明するための説明図である。図6の符号VIA,VIBに示すように、レーザ加工制御部42は、ウェーハWが厚い場合には、ストリートCHに沿ってウェーハWの内部に複数層(2層以上)のレーザ加工領域Pを形成する。これにより、ウェーハWが厚い場合であってもウェーハWの裏面まで亀裂Kを到達可能である。
【0050】
以下同様にレーザ加工制御部42は、全てのストリートCHに沿ってウェーハWの内部に1層又は複数層のレーザ加工領域Pを形成する。
【0051】
このような内部集光加工を実行する場合には、パルスレーザ光Lのパワー(エネルギー)が高すぎると、余分なエネルギーがレーザ加工領域Pの形成を妨げたり、デバイス層6及びウェーハWの裏面に熱ダメージ102(図8参照)が生じたりするおそれがある。そこで、本実施形態のレーザ加工装置10では、レーザ光源26から出射されるパルスレーザ光Lのパルス波形F(パルス形状ともいう、図7参照)を最適化するレーザ加工方法を採用して、内部集光加工(レーザ加工)の加工性能を維持しつつ低いパルスエネルギーでの内部集光加工を可能にする。
【0052】
図7は、パルスレーザ光Lの1パルス分の波形を示すパルス波形Fの一例を示したグラフである。なお、このグラフの横軸は時間(nsec)であり、縦軸はパルスレーザ光Lのパワー(W)である。
【0053】
図7に示すように、パルス波形Fは、第1段階波形ST1、第2段階波形ST2及び第3段階波形ST3の計3つの段階(区間又は領域ともいう)の波形を含む。第1段階波形ST1及び第2段階波形ST2は、ボイドVの形成に最適な波形であり、ボイドVの形成に寄与する。また、第3段階波形ST3は、レーザ加工領域Pの形成に最適な波形であり、レーザ加工領域Pの形成に寄与する。
【0054】
第1段階波形ST1は、パルスレーザ光Lのパワーが初期値(ここではゼロ)からピークパワーPmax(本発明の最大値に相当)まで時間t0(nsec)で立ち上がる波形である。なお、この初期値はゼロよりも大きくてもよい。パルス波形Fでは、ピークパワーPmaxが半値になる半値位置(後述の時間tp参照)の一方が第1段階波形ST1に含まれて、この半値位置の他方(符号Q参照)が後述の第2段階波形ST2に含まれる。
【0055】
第2段階波形ST2は、第1段階波形ST1の後で、パルスレーザ光LのパワーがピークパワーPmaxからこのピークパワーPmaxよりも低いベースパワーPb(本発明の基準値に相当)まで時間t1(nsec)で立ち下がる波形である。
【0056】
また、第2段階波形ST2は、既述の通りピークパワーPmaxの半値位置の他方(符号Q参照)を含み、ピークパワーPmaxから半値位置の他方までのパワーの減少率がこの半値位置の他方からベースパワーPbまでのパワーの減少率よりも大きくなる。すなわち、半値位置の他方を境にパワーの減少率が低下する。
【0057】
第3段階波形ST3は、第2段階波形ST2の後で、パルスレーザ光LのパワーがベースパワーPbを下回ることなく、ベースパワーPbに対して予め定められた変動範囲内で維持される波形である。例えば第3段階波形ST3は、実線で示す理想形状ではベースパワーPbで一定(略一定を含む)に維持されるが、点線(符号U参照)で示す実形状では上述の変動範囲内で変動する。なお、第3段階波形ST3の実形状には、最終段階でベースパワーPbを下回る立下り区間(第4段階)が含まれる。
【0058】
ベースパワーPbは、ピークパワーPmaxの30%から60%の範囲内の大きさに設定される。また、パルス波形FにおいてベースパワーPbの半値に対応する半値幅をパルス幅te(nsec、本発明の第2半値幅に相当)とした場合には、時間t0がパルス幅teの1%から20%の範囲内の長さに設定されて、時間t1がパルス幅teの3%から40%の範囲内の長さに設定される。なお、パルス幅teを、パルスレーザ光Lの1周期(1パルス)に相当する長さに設定してもよい。
【0059】
さらに、パルス波形FにおいてピークパワーPmaxの半値に対応する半値幅を第1半値幅とした場合に、この第1半値幅に相当する時間tpがパルス幅teの2%から40%の範囲内の長さに設定される。
【0060】
図7に示したパルス波形Fは、例えばパルス幅teを300nsecとした場合に、時間t0=10nsec及び時間tp=25nsecを満たす。また、このパルス波形FのベースパワーPbは、Pmaxの30%に設定されている。
【0061】
このようにパルス波形Fは、第1段階波形ST1でパルスレーザ光LのパワーをピークパワーPmaxまで急峻に立ち上げて、第2段階波形ST2でパワーをピークパワーPmaxから急峻に降下させて、第3段階波形ST3でパワーを下げ過ぎずにベースパワーPb程度で緩やかに一定値(略一定値を含む)を保つ。これにより、ウェーハWによるパルスレーザ光Lの吸収率の温度依存性を利用して特に第3段階波形ST3ではパルスレーザ光Lの吸収率を向上させられる。その結果、ボイドV及びレーザ加工領域Pを形成するために従来必要としていた内部集光加工のエネルギー(パルスレーザ光Lのパワー)を最小化することができる。
【0062】
以上のように本実施形態では、パルス波形Fを有するパルスレーザ光Lを使用することで、内部集光加工のエネルギーを減少させたのにも関わらず、従来と同様にボイドV及びレーザ加工領域Pを形成して、さらにレーザ加工領域Pからの亀裂Kの伸展量が従来よりも低下することが防止される。その結果、内部集光加工の加工性能を維持しつつ低いパルスレーザ光Lのパワーでの内部集光加工が可能になる。さらにまた、パルスレーザ光Lのパワーを従来よりも下げることで、レーザエンジン18の寿命を延ばすことができる。
【0063】
以下、本実施形態の効果を実証するための「第1評価試験」及び「第2評価試験」について説明する。
【0064】
図8は、第1評価試験を説明するための説明図であって、ウェーハWの裏面をその正面側から見た図である。図8に示すように、第1評価試験では、試験用のウェーハWの裏面に融点の低い金属薄膜100を設けた状態で、「本実施例」及び「比較例」でそれぞれウェーハWに対する内部集光加工を実行して、ウェーハWの裏面の熱ダメージ102を評価した。
【0065】
第1評価試験では、ウェーハWとしてシリコンウェーハ(厚み400μm、サイズ50mm×50mm)を用いた。また、第1評価試験では、パルスレーザ光Lとして、波長を1085nm(1000nm~1600nmであれば可)、周波数100kHzのものを用いた。また、第1評価試験における内部集光加工の加工送り速度(XYZθステージ14のX方向の移動速度)は800mm/secに設定した。さらに内部集光加工は、深さ位置D1を380μmに設定した場合に、ウェーハWの裏面に亀裂Kが到達する加工条件で実行した。
【0066】
図9の符号9Aは「比較例」の内部集光加工を説明するため説明図であり、符号9Bは「比較例」の内部集光加工後のウェーハWの裏面の拡大図である。図9の符号9Aに示すように、「比較例」では、従来の山型波形のパルスレーザ光Lを用いて内部集光加工を実行した。またこの場合に、ウェーハWの裏面に亀裂Kが到達する加工条件としてパルスレーザ光Lのパワーを「2.4W」に設定した。そして、図9の符号9Bに示すように、「比較例」の内部集光加工後のウェーハWの裏面(金属薄膜100)の撮影を実行した。
【0067】
図10の符号XAは「本実施例」の内部集光加工を説明するため説明図であり、符号XBは「本実施例」の内部集光加工後のウェーハWの裏面の拡大図である。図10の符号XAに示すように、「本実施例」では、パルス波形Fを有するパルスレーザ光Lを用いて内部集光加工を実行した。またこの場合に、「比較例」よりも低いパワー(1.2W)でウェーハWの裏面に亀裂Kが到達することが確認されたので、加工条件としてパルスレーザ光Lのパワーを「1.2W」に設定した。そして、図10の符号XBに示すように、「本実施例」の内部集光加工後のウェーハWの裏面(金属薄膜100)の撮影を実行した。
【0068】
「本実施例」及び「比較例」を比較した結果、「本実施例」では、パルスレーザ光Lの波形及びパワー以外は「比較例」と同じ条件下において、パワーを2.4Wから1.2Wに弱めても亀裂KがウェーハWの裏面に到達することが確認された。その結果、「本実施例」では「比較例」と同等の加工性能を維持しつつ、熱ダメージ102が低減されることが確認された。
【0069】
第2評価試験では、「本実施例」及び「比較例」において、ウェーハWに対する内部集光加工を実行した場合のボイドV及びレーザ加工領域Pの形成に必要なパルスレーザ光Lの限界値(最低値)を評価した。この第2評価試験では、パルスレーザ光Lのパワー以外の条件は第1評価試験と同じ条件に設定した。そして、第2評価試験では、「本実施例」及び「比較例」においてパルスレーザ光Lのパワーを段階的に下げながら内部集光加工を実行して、レーザ加工領域P(ボイドVを含む)の形成の有無を評価した。
【0070】
図11は、「本実施例」及び「比較例」におけるパルスレーザ光Lのパワー(W)と、レーザ加工領域Pの形成の有無(OK/NG)との関係を示した表である。図12は、「本実施例」及び「比較例」において、パルスレーザ光Lのパワーを0.4W、0.25W及び0.11Wに設定して内部集光加工を実行した後のウェーハWの断面図である。
【0071】
図11及び図12に示すように、「比較例」ではレーザ加工領域Pの形成に必要なパルスレーザ光Lのパワーの限界値が0.29Wであり、このパワーが0.25Wではレーザ加工領域Pが形成されないことが確認された(図12中の深さ位置D1に対応する領域G参照)。
【0072】
これに対して、「本実施例」ではパルスレーザ光Lのパワーの限界値を0.11Wまで下げられることが確認された。これにより、「本実施例」ではパルスレーザ光Lのパワーを従来よりも下げられるので、熱ダメージ102の発生が抑えられると共に、従来よりもレーザ加工領域Pの縦幅を小さく形成することができる。このようにレーザ加工領域Pの縦幅を小さく形成することで、より微細な内部集光加工が可能になる。
【0073】
次に本実施形態の効果についてより具体的に説明する。なお、図13は、シミュレーションでのパルスレーザ光Lの集光位置を示した図である。図14は、シミュレーションで用いられる標準的なパルスレーザ光Lのパルス形状(パルス波形)を示した図である。図15は、一例のシミュレーション結果をグラフ化した図である。図16から図18は、シミュレーション解析を、従来のパルス形状と本実施形態の最適パルス形状で行った結果を説明するための図である。
【0074】
本実施形態のウェーハW(ここでシリコンウェーハ:Si)内部でのパルスレーザ加工におけるパルス形状最適化は、熱衝撃波を基にシミュレーションした結果である。単結晶シリコンは、固体から液体へ相変化する際、体積が減少することが知られているが、レーザ加工領域Pにおいては、単結晶中の転位が観察されるのに対し、アモルファスシリコンや多結晶シリコンが観察されないことから、本シミュレーションでは溶融しないことを前提としたシミュレーションを行っている。このシミュレーション結果を基に最適パルス形状のパルスレーザ光Lを試作して加工評価したところ、台形パルス形状に比べて少ないエネルギーで同等の加工が可能であることが確認され、シミュレーション結果の効果を実際に確認することが出来た。
【0075】
シミュレーション結果を以下に示す。Si厚さ775μmに対し、レーザ入射面側からSi内の深さ約745μmパルスレーザ光Lが理想的に集光されるもの(図13)として、時間経過のシミュレーション解析を行った。シミュレーションは光線追跡と熱伝導解析に光伝播解析を加えて行っている。図14は標準的なパルスレーザ光Lのパルス形状を台形として考え、パルス形状の中心をt=0としたものとなっている。またパルスの始まりからt=0までを予加熱時間としている。一例のシミュレーション結果(光軸上の温度分布)をグラフ化したものを図15に示す。横軸にSi内部の深さz(μm)、縦軸に温度T(K)、凡例に経過時間(ns)を示している。グラフは左側からパルスレーザ光Lが入射され、集光点745μm付近で急激な温度上昇によるボイド生成、その後レーザ入射方向(グラフ左側)へ熱衝撃波が発生するが、パルスレーザ光Lは熱衝撃波の先端で吸収されるため時間と共に温度上昇分布がグラフの様に推移しているのが確認出来る。グラフの予加熱時間が94ns(t=-106nsなので、凡例のt=-100ns付近)で温度がピークとなっている。
【0076】
このシミュレーション解析を、従来のパルス形状と本実施形態の最適パルス形状で行った結果を図16から図18に示す。なお、両者のパルスエネルギーは同一とした。
【0077】
図16はシミュレーションに適用した2つのパルスレーザ光Lのパルス形状(パルス波形)を比較した図である。なお、与えるエネルギーは等価とするため面積は同じとなっている。図17は従来の台形パルス形状によるシミュレーション解析結果を示した図であり、図18は最適パルス形状によるシミュレーション解析結果を示した図である。
【0078】
2つの結果を比較すると、まず最高温度到達の予加熱時間が台形パルス形状は90.5nsに対し最適パルス形状は7nsとなっており、予加熱時間が短いほどボイド生成が早く、その後のエネルギーがレーザ加工領域Pの形成に効率よく使われると考えられる。最高到達温度は台形パルス形状の8085.9Kに対し、最適パルス形状の方が高い11836Kとなっている。またレーザ加工領域P(ボイドVからレーザ入射方向側の温度上昇している位置までの区間をレーザ加工領域Pとしている)の成長に関しても、台形パルス形状は59.8μmに対し、最適パルス形状は63μmと長い結果となっている。
【0079】
[その他]
上実施形態では、XYZθステージ14及び移動機構24を用いてウェーハWに対してレーザエンジン18を相対移動させているが、レーザエンジン18とウェーハWとを相対移動可能であればその構成は特に限定はされない。
【0080】
上記実施形態では、レーザ光学系25の照射光軸と観察光学系30の観察光軸とが同軸であるが、照明光軸と観察光軸とが異なっていてもよい。すなわち、レーザ光学系25と観察光学系30とが別体に設けられていてもよい。
【0081】
上記実施形態では、ウェーハWの裏面側からパルスレーザ光Lを照射しているが、ウェーハWの表面側からパルスレーザ光Lを照射してもよい。
【0082】
上記実施形態では本発明の被加工物としてシリコンウェーハを例に挙げて説明を行ったが、被加工物の種類は特に限定はされない。
【符号の説明】
【0083】
4…チップ、6…デバイス層、10…レーザ加工装置、12…ベース、14…XYZθステージ、16…吸着ステージ、17…バックグラインドテープ、18…レーザエンジン、20…モニタ、22…制御装置、24…移動機構、25…レーザ光学系、26…レーザ光源、27…コリメートレンズ、28…ハーフミラー、29…集光レンズ、30…観察光学系、31…照明光源、32…コリメートレンズ、33…ハーフミラー、34…集光レンズ、35…赤外線カメラ、38…操作部、40…検出制御部、42…レーザ加工制御部、44…撮影制御部、46…表示制御部、100…金属薄膜、102…熱ダメージ、CH…ストリート、D1…深さ位置、D2…深さ位置、F…パルス波形、IL…照明光、K…亀裂、L…パルスレーザ光、Nd…半導体レーザ励起、P…レーザ加工領域、Pb…ベースパワー、Pmax…ピークパワー、ST1…第1段階波形、ST2…第2段階波形、ST3…第3段階波形、V…ボイド、W…ウェーハ、te…パルス幅
図1
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