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特開2024-136187レーザー焼結用ジルコニア粉末、及び、レーザー焼結によるジルコニア焼結体の製造方法
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  • 特開-レーザー焼結用ジルコニア粉末、及び、レーザー焼結によるジルコニア焼結体の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024136187
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】レーザー焼結用ジルコニア粉末、及び、レーザー焼結によるジルコニア焼結体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/488 20060101AFI20240927BHJP
   C01G 25/02 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
C04B35/488
C01G25/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023047213
(22)【出願日】2023-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000173522
【氏名又は名称】一般財団法人ファインセラミックスセンター
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】木村 禎一
(72)【発明者】
【氏名】末廣 智
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 武志
(72)【発明者】
【氏名】森 陽暉
(72)【発明者】
【氏名】岩田 英一
【テーマコード(参考)】
4G048
【Fターム(参考)】
4G048AA02
4G048AA03
4G048AB02
4G048AD03
4G048AE05
(57)【要約】
【課題】アルミナの介在なく、レーザー焼結によるジルコニアの焼結を可能とする新規なレーザー焼結用ジルコニア粉末、特にレーザーを照射することで、緻密なジルコニアの焼結体が得られる新規なレーザー焼結用ジルコニア粉末、及び、これを用いたレーザー焼結による焼結体の製造方法の少なくともいずれかを提供する。
【解決手段】遷移金属元素及び希土類元素の少なくともいずれかを含む化合物、並びに、ジルコニアを含み、なおかつ、L表色系における明度Lが90以下である、レーザー焼結用ジルコニア粉末。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
遷移金属元素及び希土類元素の少なくともいずれかを含む化合物、並びに、ジルコニアを含み、なおかつ、L表色系における明度Lが90以下である、レーザー焼結用ジルコニア粉末。
【請求項2】
前記化合物が、Co、Fe、Mn、V、Mo、Cu、Ni、Pr、Nd、Er、Gd、Tb及びScの群から選択される1つ以上の元素を含む酸化物である、請求項1に記載のレーザー焼結用ジルコニア粉末。
【請求項3】
レーザー焼結用ジルコニア粉末の質量に対する前記化合物の含有量が、酸化物換算で、0.5質量%以上10質量%以下である、請求項1又は2に記載のレーザー焼結用ジルコニア粉末。
【請求項4】
前記ジルコニアが、安定化元素含有ジルコニアである、請求項1又は2に記載のレーザー焼結用ジルコニア粉末。
【請求項5】
前記安定化元素が、カルシウム、マグネシウム及びイットリウムの群から選択される1つ以上である、請求項4に記載のレーザー焼結用ジルコニア粉末。
【請求項6】
請求項1又は2に記載のレーザー焼結用ジルコニア粉末を含む成形体にレーザー光を照射して焼結体を得る工程、を有する焼結体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、レーザー焼結用ジルコニア粉末、及び、レーザー焼結によるジルコニア焼結体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザーを照射することでセラミックスを焼結する、いわゆるレーザー焼結、が検討されている。
【0003】
例えば、特許文献1では、アルミナ基材の上に、各種の吸収体を含む無機粉末をレーザーで焼結することで表面及び側面の平滑性の高い構造体が得られることが開示されている。
【0004】
また、特許文献2では、黒色イットリア粉末と、酸化アルミニウム又は窒化アルミニウムの粉末とからなる混合粉末を成形し、これをレーザー照射して焼結体とするレーザー焼結が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-100141号公報
【特許文献2】国際公開2021/172128号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1及び特許文献2に記載のレーザー焼結は、アルミナの共晶とアルミナとをレーザーで焼結する焼結方法であり、いずれもアルミナの介在を必須とする焼結方法であった。これに対し、同じ無機酸化物であるジルコニアは、アルミナと比べて焼結が進行しにくい。このように、アルミナの介在なく、レーザー焼結でジルコニアの焼結体を得られることは報告されていない。
【0007】
この様な課題に鑑み、本開示は、アルミナの介在なく、レーザー焼結によるジルコニアの焼結を可能とする新規なレーザー焼結用ジルコニア粉末、特にレーザーを照射することで、緻密なジルコニアの焼結体が得られる新規なレーザー焼結用ジルコニア粉末、及び、これを用いたレーザー焼結による焼結体の製造方法の少なくともいずれかを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、レーザー焼結によるジルコニアの焼結について検討した。その結果、色調を制御することで、アルミナの介在なく、ジルコニアのレーザー焼結が進行することを見出した。
【0009】
すなわち、本発明は特許請求の範囲の記載の通りであり、また、本開示の要旨は以下の通りである。
【0010】
[1] 遷移金属元素及び希土類元素の少なくともいずれかを含む化合物、並びに、ジルコニアを含み、なおかつ、L表色系における明度Lが90以下である、レーザー焼結用ジルコニア粉末。
[2] 前記化合物が、Co、Fe、Mn、V、Mo、Cu、Ni、Pr、Nd、Er、Gd、Tb及びScの群から選択される1つ以上の元素を含む酸化物である、上記[1]に記載のレーザー焼結用ジルコニア粉末。
[3] レーザー焼結用ジルコニア粉末の質量に対する前記化合物の含有量が、酸化物換算で、0.5質量%以上10質量%以下である、上記[1]又は[2]に記載のレーザー焼結用ジルコニア粉末。
[4] 前記ジルコニアが、安定化元素含有ジルコニアである、上記[1]乃至[3]のいずれか一項に記載のレーザー焼結用ジルコニア粉末。
[5] 前記安定化元素が、カルシウム、マグネシウム及びイットリウムの群から選択される1つ以上である、上記[4]に記載のレーザー焼結用ジルコニア粉末。
[6] 上記[1]乃至[5]のいずれか一項に記載のレーザー焼結用ジルコニア粉末を含む成形体にレーザー光を照射して焼結体を得る工程、を有する焼結体の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本開示により、アルミナの介在なく、レーザー焼結によるジルコニアの焼結を可能とする新規なレーザー焼結用ジルコニア粉末、特にレーザーを照射することで、緻密なジルコニアの焼結体が得られる新規なレーザー焼結用ジルコニア粉末、及び、これを用いたレーザー焼結による焼結体の製造方法の少なくともいずれかを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】遷移金属等化合物を含む、実施例7のジルコニア焼結体においてレーザーが照射された表面の走査型電子顕微鏡(SEM)観察像を示す図である。
図2】遷移金属等化合物を含む、実施例7のジルコニア焼結体においてレーザーが照射された面に近い表層部における断面の走査型電子顕微鏡観察像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書において「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。
【0014】
「粉末」とは、粉末粒子(一次粒子及び二次粒子の少なくともいずれかの粒子)の集合体で、なおかつ、流動性を有する組成物である。「ジルコニア粉末」とは、ジルコニアを主成分とする粉末であり、本質的にジルコニアからなる粉末である。なお、本明細書では、集合体である「粉末」を構成する個々の粒子を「粉末粒子」と呼び、集合体である「粉末」と区別する。
【0015】
「成形体」とは、物理的な力で凝集した粉末粒子から構成される一定の形状を有する組成物であり、特に、該形状の付与後(例えば成形後)に熱処理が施されていない状態の組成物である。例えば、前記「粉末」を物理的な力で凝集させて一定の形状を付与することで「成形体」とすることができる。「ジルコニア成形体」とは、ジルコニアを主成分とする成形体であり、本質的にジルコニアからなる成形体である。また、成形体は「圧粉体」と互換的に使用される。
【0016】
「焼結体」とは、結晶粒子から構成される一定の形状を有する組成物であり、なおかつ、焼結温度以上の温度で熱処理された状態の組成物である。例えば、前記「成形体」を焼結温度以上の温度で熱処理することで「焼結体」とすることができる。「ジルコニア焼結体」とは、ジルコニアを主成分とする焼結体であり、本質的にジルコニアからなる焼結体である。
【0017】
「主成分」とは、組成物の組成における主相(マトリックス、母材、母相)となる成分であり、好ましくは組成物に占める質量割合が60質量%以上、75質量%以上、85質量%以上、90質量%以上、95質量%以上、98質量%以上又は99質量%以上であり、また、100質量%未満となる成分である。
【0018】
「本質的に成分Xからなる」又は「実質的に成分Xからなる」とは、組成物に占める成分Xの質量割合が、98質量%以上、99質量%以上、又は99.5質量%以上であり、また、100質量%未満であることをいう。「本質的に成分Xからなる」又は「実質的に成分Xからなる」は、「本質的に成分Xのみからなる」又は「実質的に成分Xのみからなる」とも換言される。
【0019】
「安定化元素」とは、ジルコニアに固溶することでジルコニアの結晶相を安定化する元素である。
【0020】
「BET比表面積」は、JIS R 1626:1996に準じ、吸着ガスに窒素を使用したBET多点法(5点)により測定される比表面積[m/g]であり、特に以下の条件で測定されるBET比表面積である。
【0021】
吸着媒体 :N
吸着温度 :-196℃
前処理条件 :大気雰囲気、250℃で1時間以上の脱気処理
BET比表面積は、一般的な比表面積測定装置(例えば、トライスターII 320、島津製作所社製)を使用して測定することができる。
【0022】
「色調(L、a、b)」及び「彩度(C)」は、JIS Z 8722:2009の幾何条件cに準拠した照明・受光光学系を備えた分光測色計(例えば、SpectrophotometerSD 3000、日本電色工業社製)を使用し、SCE方式で測定された値を使用して求めることができる。色調の具体的な測定条件として、背景に白色板を使用した測定(いわゆる、白バック測定)によって、以下の条件で測定できる。
【0023】
光源 : D65光源
視野角 : 10°
測定方式 : SCE
明度Lは明るさを示す指標であり0以上100以下の値を有する。色相a及びbは色味を示す指標であり-100以上100以下の値を有する。彩度Cは鮮やかさを示す指標であり、色相a及びbから、C={(a+(b0.5により求められる。
【0024】
本実施形態において、粉末の色調は、目開き500μmの篩にて篩分けした粉末を、50MPaで一軸加圧成形し、直径12mm、厚さ1±0.5mmである円板状の成形体とし、当該成形体の表面の色調を測定すればよい。なお、前記「直径」は、円板形状の外接円の直径であり、ノギス等により測定できる値である。
【0025】
「実測密度」は、試料体積[cm]に対する質量[g]から求められる値[g/cm]である。質量は、試料を秤量して得られた質量を使用した。体積はJIS R 1634:1998に準じたアルキメデス法により求める体積を使用した。アルキメデス法は、溶媒とてイオン交換水を使用し、また、前処理は煮沸法により行った。
【0026】
<レーザー焼結用ジルコニア粉末>
以下、実施形態の一例により、本開示のレーザー焼結用ジルコニア粉末について説明する。本実施形態は、遷移金属元素及び希土類元素の少なくともいずれかを含む化合物、並びに、ジルコニアを含み、なおかつ、L表色系における明度Lが90以下である、レーザー焼結用ジルコニア粉末、である。
【0027】
本実施形態のレーザー焼結用ジルコニア粉末は、アルミナの介在なく、レーザー照射によって焼結し得るジルコニア粉末であり、特に明度L及び彩度Cの点で、ジルコニア(ZrO)が元来有している色以外の色を呈色するジルコニア粉末である。換言すると、本実施形態のレーザー焼結用ジルコニア粉末は、レーザー光を吸収し得る色調を有したジルコニア粉末である。
【0028】
本実施形態のレーザー焼結用ジルコニア粉末は、上述の通り、アルミナの介在なく、レーザー焼結によるジルコニアの焼結を可能とする新規なレーザー焼結用ジルコニア粉末、特にレーザーを照射することで、緻密なジルコニアの焼結体が得られる新規なレーザー焼結用ジルコニア粉末である。アルミナ等の共晶による焼結温度の低下等によらず、レーザー照射によるジルコニアの焼結がより均一に進行することから、本実施形態のレーザー焼結用ジルコニア粉末は、アルミナを含んでいないことが好ましい。
【0029】
本実施形態のレーザー焼結用ジルコニア粉末をレーザー焼結することで、例えば、1.0±0.5mmの厚さを有する焼結体であって、厚さ方向における表層部及び深層部が均質に、且つ緻密に焼結している焼結体が得られる。本実施形態のレーザー焼結用ジルコニア粉末をレーザー焼結することで得られるジルコニア焼結体の実測密度は、レーザー焼結により得られた従来のジルコニア焼結体より高く、例えば、4.00g/cm以上、更には5.00g/cm、また更には5.40g/cm以上であることが挙げられ、これは相対密度(真密度を6.05g/cmとした場合)として70%以上、より好ましくは80%以上、更には90%以上に相当する。相対密度は100%以下となる。
【0030】
(ジルコニア)
本実施形態のレーザー焼結用ジルコニア粉末はジルコニアを含む。該ジルコニアは安定化元素含有ジルコニアであることが好ましい。該安定化元素含有ジルコニアは、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)及びイットリウム(Y)の群から選ばれる1つ以上を含有するジルコニアであることがより好ましく、イットリウム含有ジルコニアであることが更に好ましい。安定化元素は、ジルコニアの結晶構造を安定化する機能を有していればよく、レーザー焼結用ジルコニア粉末におけるレーザーの吸収効率を高めることに実質的に寄与しなくてもよい。
【0031】
本実施形態のレーザー焼結用ジルコニア粉末は、粉末の形態のジルコニアを含む。
【0032】
本実施形態のレーザー焼結用ジルコニア粉末における、ジルコニアの含有量は、遷移金属元素及び希土類元素の少なくともいずれかを含む化合物の含有量に応じて適宜設定される。レーザー焼結用ジルコニア粉末の質量に対するジルコニアの含有量が、60質量%以上99.5質量%以下、90質量%以上99.5質量%以下、70質量%以上99質量%以下、又は90質量%以上98質量%以下であることが好ましい。これにより、ジルコニアを主成分とするレーザー焼結用ジルコニア粉末とすることができる。
【0033】
本実施形態のレーザー焼結用ジルコニア粉末に含まれる安定化元素の含有量は、ジルコニアの結晶構造を立方晶又は正方晶が主相となるように安定化する範囲で任意である。例えば、本実施形態のレーザー焼結用ジルコニア粉末に含まれる、ジルコニア及び酸化物換算した安定化元素に対する、酸化物換算した安定化元素の含有量として、2mol%以上又は2.5mol%以上であり、また、8mol%以下、7mol%以下又は4.5mol%以下であることが例示できる。
【0034】
安定化元素の含有量の算出等、組成に基づく算出を行う場合、ジルコニアの不可避不純物であるハフニアは、ジルコニアとみなして計算すればよい。
【0035】
本実施形態のレーザー焼結用ジルコニア粉末は、1種類のジルコニアを単独で含んでいてもよく、2種類以上のジルコニアを任意の比率で組み合わせて含んでいてもよい。
【0036】
(遷移金属元素等)
本実施形態のレーザー焼結用ジルコニア粉末は、遷移金属元素及び希土類元素の少なくともいずれか(以下、「遷移金属元素等」ともいう。)を含む化合物を含む。本実施形態のレーザー焼結用ジルコニア粉末が遷移金属元素等を含む化合物を含むことで、本実施形態のレーザー焼結用ジルコニア粉末がレーザー光を吸収し得る色調を有するようになるため、アルミナ等の共晶による焼結温度の低下等によらず、レーザー照射によるジルコニアの焼結がより均一に進行すると考えられる。
【0037】
遷移金属元素等を含む化合物(以下、「遷移金属等化合物」ともいう。)は、有機化合物及び無機化合物の少なくともいずれかであればよく、例えば、有機金属錯体、有機酸金属塩、金属アルコキシド、ハロゲン化物、硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩、炭酸塩、水酸化物、オキシ水酸化物及び酸化物の群から選ばれる1つ以上が挙げられる。遷移金属等化合物は、遷移金属元素等を含む酸化物であることが好ましく、コバルト(Co)、鉄(Fe)、マンガン(Mn)、バナジウム(V)、モリブデン(Mo)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、エルビウム(Er)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)及びスカンジウム(Sc)の群から選択される1つ以上の元素を含む酸化物であることがより好ましく、コバルト、鉄、マンガン、バナジウム、モリブデン、銅及びニッケルの群から選ばれる1つ以上の元素を含む酸化物であることが更に好ましく、鉄、コバルト、マンガン及びニッケルの群から選ばれる1つ以上の元素を含む酸化物であることが更により来好ましく、酸化鉄、酸化コバルト、酸化マンガン及び酸化ニッケルの群から選ばれる1つ以上であることが特に好ましい。
【0038】
本実施形態のレーザー焼結用ジルコニア粉末は、1種類の遷移金属等化合物を単独で含んでいてもよく、2種類以上の遷移金属等化合物を任意の比率で組み合わせて含んでいてもよい。
【0039】
本実施形態のレーザー焼結用ジルコニア粉末は、粉末の形態の遷移金属等化合物を含む。
【0040】
本実施形態のレーザー焼結用ジルコニア粉末における、遷移金属等化合物の含有量は、明度Lが所期の値を示す量であれば任意である。レーザー焼結用ジルコニア粉末の質量に対する酸化物換算した遷移金属等化合物の含有量が、0.5質量%以上40質量%以下、0.5質量%以上10質量%以下、1質量%以上30質量%以下、又は、2質量%以上10質量%以下であることが好ましい。これにより、レーザー焼結において焼結用ジルコニア粉末の焼結が進行しやすくなる。
【0041】
遷移金属等化合物の酸化物換算は、コバルトがCo、鉄がFe、マンガンがMn、バナジウムがV、モリブデンがMo、銅がCuO、ニッケルがNiO、プラセオジムがPr11、ネオジムがNd、エルビウムがEr、ガドリニウムがGd、テルビウムがTb11及びスカンジウムがScとすればよい。
【0042】
(その他の成分)
本実施形態のレーザー焼結用ジルコニア粉末は、その効果を損なわない範囲であれば、ジルコニア、安定化元素及び遷移金属等化合物以外の成分を含んでいてもよい。このような成分として、溶媒及びバインダーの少なくともいずれかが例示できる。溶媒として水及び有機溶媒の少なくともいずれか、更には水及びアルコールの少なくともいずれかが挙げられる。本実施形態のレーザー焼結用ジルコニア粉末が溶媒を含むことで、スラリーとして塗布することができる。一方、バインダーは本実施形態のレーザー焼結用ジルコニア粉末の成形性や保形性が改善する。バインダーとして、高分子バインダー、更にはポリビニルブチラール、酢酸ポリビニル、ポリビニルアルコール、アクリル酸エステル及びアクリル酸エステルのエマルジョンの群から選ばれる1つ以上が例示できる。
【0043】
例えば、本実施形態のレーザー焼結用ジルコニア粉末が、酸化鉄及び高分子バインダーを含むレーザー焼結用ジルコニア粉末であって、該ジルコニアがイットリウム安定化ジルコニアである場合、レーザー焼結用ジルコニア粉末の質量はFe+Y+ZrOから、酸化鉄の含有量は{Fe/(Fe+Y+ZrO)}×100[質量%]から、ジルコニアの含有量は{(Y+ZrO)/(Fe+Y+ZrO)}×100[質量%]から、及び、安定化元素の含有量は{Y/(Y+ZrO)}×100[mol%]から、それぞれ、求めればよい。なお、高分子バインダーの含有量は、{(W2-W1)/W2}×100[質量%](但し、W1は大気雰囲気、150℃、2時間熱処理後のレーザー焼結用ジルコニア粉末の質量、及びW2は該熱処理前のレーザー焼結用ジルコニア粉末の質量である)から求めればよい。
【0044】
(色調)
本実施形態のレーザー焼結用ジルコニア粉末は、L表色系における明度Lが90以下であり、85以下又は70以下であることが好ましい。本実施形態のレーザー焼結用ジルコニア粉末のL表色系における明度Lの上限が上記範囲であることにより、レーザーの吸収効率を高めることができ、ジルコニアの焼結が速やかにかつ十分に進行する。明度Lは0以上であり、本実施形態のレーザー焼結用ジルコニア粉末の明度Lは0以上、20以上、50以上又は60以上であればよい。本実施形態のレーザー焼結用ジルコニア粉末のL表色系における明度Lの下限が上記範囲であることにより、レーザー焼結による焼結が比較的短時間で進行しやすくなる。
【0045】
本実施形態のレーザー焼結用ジルコニア粉末の色調は上記の明度Lを満たしていれば、色相a及びbは任意であり、それぞれ、-100以上100以下、更にはそれぞれ-40以上40以下、また更には、-10以上25以下であることが例示できる。本実施形態のレーザー焼結用ジルコニア粉末は有彩色を呈することが好ましく、彩度Cが2以上、4以上又は6以上であり、また、30以下、20以下又は16以下であればよい。
【0046】
(レーザー焼結用ジルコニア粉末の製造方法)
本実施形態のレーザー焼結用ジルコニア粉末は、上記の要件を満たせばその製造方法は任意であるが、ジルコニア粉末、並びに、遷移金属等化合物及びその前駆体の少なくともいずれかを混合する工程、を有する製造方法が例示できる。
【0047】
ジルコニア粉末、並びに、遷移金属等化合物及びその前駆体の少なくともいずれかを混合する工程(以下、「混合工程」ともいう。)に供するジルコニア粉末は、遷移金属等化合物をはじめとする、ジルコニアを着色する成分を含まないジルコニア粉末であり、例えば、明度Lが90を超え100以下であるジルコニア粉末であることが挙げられる。さらに、当該ジルコニア粉末は安定化元素含有ジルコニアの粉末であることが好ましく、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)及びイットリウム(Y)の群から選ばれる1つ以上を含有するジルコニアの粉末であることがより好ましく、イットリウム含有ジルコニアの粉末であることが更に好ましい。
【0048】
ジルコニア粉末に含まれる安定化元素の含有量は任意であるが、例えば、ジルコニア粉末に含まれるジルコニア及び酸化物換算した安定化元素に対する、酸化物換算した安定化元素の含有量として2mol%以上又は2.5mol%以上であり、また、8mol%以下、7mol%以下又は4.5mol%以下であることが例示できる。
【0049】
混合工程に供する遷移金属等化合物及びその前駆体の少なくともいずれかは、上述の遷移金属元素等を含んでいる化合物であればよく、本実施形態のレーザー焼結用ジルコニア粉末に含まれる遷移金属等化合物と同じであってもよい。
【0050】
遷移金属等化合物は、例えば、Fe、Co34、Mn及びNiOの群から選ばれる1つ以上、等が例示でき、その前駆体には、Co(OH)、MnO及びNi(OH)の群から選ばれる1つ以上、等が例示できる。遷移金属等化合物の前駆体を混合工程に供する場合、混合工程によって所望の遷移金属等化合物が生成されるように、混合工程に供する遷移金属等化合物の前駆体の種類を選択すればよい。
【0051】
混合工程における混合方法は、ジルコニア粉末と、遷移金属等化合物及びその前駆体の少なくともいずれかと、が均一になるように混合すればよい。そのような混合方法としては、湿式混合及び乾式混合の少なくともいずれか、更にはボールミルによる粉砕混合が挙げられる。
【0052】
混合後、必要に応じて、得られた混合物を乾燥してもよい。
【0053】
<ジルコニア焼結体の製造方法>
以下、実施形態の一例により、本開示のジルコニア焼結体の製造方法について説明する。本実施形態に係るジルコニア焼結体は、レーザー焼結用ジルコニア粉末を含む成形体にレーザーを照射する工程、を有する製造方法により製造することができる。すなわち、本実施形態に係るジルコニア焼結体の製造方法は、本実施形態のレーザー焼結用ジルコニア粉末を含む成形体にレーザー光を照射して焼結体を得る工程、を有する。
【0054】
上記工程(以下、「照射工程」ともいう。)は、本実施形態のレーザー焼結用ジルコニア粉末を含む成形体にレーザー光を照射して焼結体を得る工程である。
【0055】
(成形体)
照射工程に供する成形体は、本実施形態のレーザー焼結用ジルコニア粉末を含む成形体であり、好ましくは本実施形態のレーザー焼結用ジルコニア粉末のみからなる成形体である。
【0056】
当該成形体は、公知のセラミックス粉末の成形方法により得ることができる。成形方法として、一軸加圧、CIP処理、シート成形、射出成形及び泥漿鋳込み成形の群から選ばれる1以上の成形方法が挙げられる。例えば、本実施形態のレーザー焼結用ジルコニア粉末を金型に充填し、成形圧20MPa以上80MPa以下で一軸加圧成形して、成形体とすることが挙げられる。
【0057】
(条件)
照射工程においては、該成形体にレーザーを照射する。
【0058】
反応性の観点から、レーザーの光源は波長500nm以上11μm以下のレーザーを用いることが好ましい。照射工程に供するレーザーとして、ファイバーレーザー、Nd:YAGレーザー、Nd:YVOレーザー、Nd:YLFレーザー、チタンサファイアレーザー、及び炭酸ガスレーザーの群から選ばれる1以上が挙げられる。
【0059】
レーザーの照射条件は、レーザー焼結用ジルコニア粉末の成形体における焼結面積(主面積ともいう)、成形体の焼結深さ等により、適宜、選択すればよい。
【0060】
円滑な焼結性の観点から、レーザー出力は50W/cm以上2000W/cm以下、更には100W/cm以上500W/cm以下が好ましい。また、照射時間は、1秒以上又は5秒以上であり、また、60分以下又は30分以下であればよい。
【0061】
レーザー照射の雰囲気は、特に限定されず、酸素雰囲気又は還元雰囲気であればよく、大気雰囲気、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気又はヘリウム雰囲気が挙げられ、大気雰囲気であればよい。
【0062】
レーザー照射に先立ち、成形体は予熱してもよい。これにより、レーザー焼結による焼結がより進行しやすくなる。予熱温度は、300℃以上又は400℃以上であり、また、1000℃以下であることが挙げられる。予熱方法は、特に限定されず、赤外線ランプ、ハロゲンランプ、抵抗加熱、高周波誘導加熱及びマイクロ波加熱の群から選ばれる1以上であればよい。
【0063】
レーザー照射の方法は、成形体の焼結体が進行する方法であれば任意であるが、成形体に対して大面積の焼結を行う場合、成形体を固定した状態で、レーザーを移動させながら照射する方法及び光拡散レンズを介してレーザーの光路を変化させながら照射する方法が挙げられ、また、レーザーの光路を固定した状態で、成形体を移動させながら照射する方法、などが例示できる。
【0064】
<ジルコニア焼結体>
本実施形態のジルコニア焼結体の製造方法によって製造されるジルコニア焼結体もまた、本開示の範疇に含まれる。本実施形態のジルコニア焼結体は、本実施形態のジルコニア焼結体の製造方法によって製造されるため、緻密なジルコニア焼結体となり得る。
【0065】
本実施形態のジルコニア焼結体は、本実施形態に係るレーザー焼結用ジルコニア粉末を構成する粒子が焼結した結晶粒子からなる焼結体であることが好ましい。
【0066】
本実施形態のジルコニア焼結体の製造方法により、例えば、1.0±0.5mmの厚さを有する焼結体であって、厚さ方向における表層部及び深層部が均質に、且つ緻密に焼結している焼結体が得られる。そのため、ジルコニア焼結体の実測密度は、レーザー焼結により得られた従来のジルコニア焼結体より高く、4.00g/cm以上、更には5.00g/cm、また更には5.40g/cm以上であることが挙げられ、これは相対密度(真密度を6.05g/cmとした場合)として70%以上、より好ましくは80%以上、更には90%以上に相当する。実測密度は高いほど好ましいが、6.00g/cm以下又は5.65g/cm以下が例示できる。
【0067】
本実施形態のジルコニア焼結体の結晶粒子の形状及び大きさは、特に限定されず、例えば、結晶粒子径が0.5μm以上又は4μm以上であり、また、13μm以下又は10μm以下であることが挙げられる。なお、前記「結晶粒子径」は、インターセプト法によって測定した値である。
【0068】
本実施形態のジルコニア焼結体の形状は、特に限定されず、例えば、球状、楕円球状、多面体状、線状、板状、不定形状等、目的や用途に応じた任意の形状とすることができる。
【0069】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例0070】
以下、本開示について実施例を用いて説明するが、本開示はこれらに限定されるものではない。
【0071】
〔実施例1〕
3mol%イットリア含有ジルコニア粉末(製品名:TZ-3YS、東ソー株式会社製)47.5g、酸化鉄(Fe)粉末2.5g及びエタノールを混合してスラリーとした後、得られたスラリーを、媒体として直径10mmのジルコニアボールを備えたボールミルで24時間混合し、ジルコニアボールの除去した後に、エバポレーターによる溶媒除去、及び乾燥させて、本実施例のレーザー焼結用ジルコニア粉末とした。本実施例のレーザー焼結用ジルコニア粉末の組成を表1に示す。
【0072】
得られた粉末0.2gを錠剤成型器に充填し、10MPaの成形圧で一軸加圧することで、直径10mm、厚み1mmの円板状成形体とした。
【0073】
〔実施例2乃至11〕
酸化鉄粉末の代わりに表1に示す遷移金属酸化物を遷移金属等化合物として使用したこと、及び、該遷移金属酸化物の含有量を表1に示す量としたこと以外は実施例1と同様な方法で、それぞれ、実施例2乃至11のレーザー焼結用ジルコニア粉末とした。
【0074】
〔比較例1〕
遷移金属等化合物を使用しなかったこと以外は実施例1と同様な方法で比較例1のジルコニア粉末とした。
【0075】
【表1】
【0076】
〔色調の評価〕
実施例及び比較例の粉末の色調を以下の方法で測定した。目開き500μmの篩にて篩分けした粉末を、50MPaで一軸加圧成形し、直径12mm、厚さ1±0.5mmである円板状の成形体とし、以下の条件で、当該成形体の主表面の色調を測定した。すなわち、色差計(SpectrophotometerSD 3000、日本電色工業社製)を使用して、背景に白色板を使用した測定(いわゆる、白バック測定)によって、以下の条件で測定した。結果を表2に示す。
光源 :D65光源
視野角 :10°
測定方式:SCE
【0077】
【表2】
【0078】
実施例の粉末は、全て、明度Lが90以下であった。一方、比較例の粉末は明度Lが90を超えていた。
【0079】
〔焼結性の評価〕
実施例及び比較例の粉末の成形体を、それぞれ、SUS製の試料ステージに配置及び固定し、大気雰囲気中、試料ステージと接していない成形体の主表面(直径10mmの面)全体に、ファイバーレーザー(波長:1070nm)を連続的にスイープしながら照射した。レーザー照射の条件は、スポット径を9mm、レーザー出力を200W、照射時間を30秒とした。これにより、比較例および各実施例のジルコニア焼結体(レーザー焼結体)を得た。得られた焼結体の実測密度を以下の方法で測定した。すなわち、試料を秤量して質量を求めた。また、JIS R 1634:1998に準じたアルキメデス法により求める体積を求めた。アルキメデス法は、溶媒としてイオン交換水を使用し、また、前処理は煮沸法により行った。得られた体積[cm]に対する質量[g]から、各ジルコニア焼結体の実測密度[g/cm]を求めた。また、相対密度は真密度を6.05g/cmとし、該真密度に対する実測密度の割合から求めた。結果を表3に示す。
【0080】
【表3】
【0081】
明度Lが90以下の実施例のレーザー焼結用ジルコニア粉末をレーザー焼結することにより、実測密度が5.00g/cm以上であるジルコニア焼結体(レーザー焼結体)が得られた。これに対し、明度Lが99.2である比較例の粉末をレーザー焼結したが、得られたジルコニア焼結体(レーザー焼結体)の実測密度は3.54g/cmと低く、ジルコニアのみからなる焼結体は緻密化が進行しないことが確認できた。
【0082】
〔X線回折法による評価〕
実施例1のジルコニア焼結体をX線回折法によって分析したところ、イットリウム安定化ジルコニアの正方晶に帰属させるピークが、2θ=30.2deg.にピークトップを有するピークとして確認された。一方、イットリウム安定化ジルコニアの単斜晶に帰属される、2θ=28.2deg.付近にピークトップを有するピーク、および2θ=31.5deg.付近にピークトップを有するピークは確認されなかった。同様に、実施例2のジルコニア焼結体をX線回折法によって分析したところ、イットリウム安定化ジルコニアの正方晶に帰属するピークが確認され、イットリウム安定化ジルコニアの単斜晶に帰属するピークは確認されなかった。
【0083】
〔深部焼結性の評価〕
図1は、実施例7のジルコニア焼結体のレーザーが照射された表面の走査型電子顕微鏡(SEM)観察像(倍率:2500倍)であり、図2は、実施例7のジルコニア焼結体におけるレーザーが照射された面に近い深層部における断面のSEM観察像である(倍率:1000倍)。図1、及び図2のSEM観察像に写るように、実施例7のジルコニア焼結体は、レーザーが照射された表層部及び深層部の両方において、表層部から深層部まで緻密な結晶組織が形成されていることを確認できた。
【0084】
以上の結果から、遷移金属等化合物及びジルコニアを含み、なおかつ、L表色系における明度Lが90以下である実施例のレーザー焼結用ジルコニア粉末は、アルミナの介在なく、レーザーを照射することでジルコニアの焼結体が得られることが示された。さらに、実施例のレーザー焼結用ジルコニア粉末をレーザー焼結して得られたジルコニアの焼結体は、表層部から深層部まで緻密な結晶組織が形成されていることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本開示によれば、表面から深さ方向に十分に粒成長されたジルコニア焼結体を得ることができる。従って、例えば、構造材料、装飾材料、電子機器外装部材、高温部材(放熱部材、熱処理用容器、セッター、炉芯管、測温用保護管等)、絶縁部材、発光管等をはじめとする、ジルコニア焼結体の用途として公知の部材を効率よく製造することができる。
図1
図2