IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 旭化成エレクトロニクス株式会社の特許一覧

特開2024-136305昇降圧回路、電源システム、昇降圧方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024136305
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】昇降圧回路、電源システム、昇降圧方法
(51)【国際特許分類】
   G05F 1/67 20060101AFI20240927BHJP
【FI】
G05F1/67 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023047386
(22)【出願日】2023-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】303046277
【氏名又は名称】旭化成エレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田邊 朋之
【テーマコード(参考)】
5H420
【Fターム(参考)】
5H420BB03
5H420BB12
5H420CC03
5H420DD02
5H420EB01
5H420FF03
5H420FF24
(57)【要約】
【課題】 MPPT時に、電源の開放電圧を測定することなく、また、観測のためのDCDCコンバータの停止期間がないことが好ましい。
【解決手段】電源からの入力電圧を昇降圧して、出力電圧を生成するDCDCコンバータと、前記入力電圧が第1増加量だけ増加するのに要する増加時間を検出する時間検出部と、前記DCDCコンバータへの前記入力電圧を制御する設定電圧に応じた電圧を生成する電圧生成回路と、前記電圧生成回路の出力電圧に応じて前記DCDCコンバータを制御する昇降圧制御部と、前記設定電圧として第1の設定電圧が生成された場合の前記増加時間に対する、前記第1の設定電圧の次の前記設定電圧として第2の設定電圧が生成された場合の前記増加時間の時間比に基づいて、前記第2の設定電圧の次に生成すべき前記設定電圧である第3の設定電圧を決定する電圧制御部を備える昇降圧回路を提供する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電源からの入力電圧を昇降圧して、出力電圧を生成するDCDCコンバータと、
前記入力電圧が第1増加量だけ増加するのに要する増加時間を検出する時間検出部と、
前記DCDCコンバータへの前記入力電圧を制御する設定電圧に応じた電圧を生成する電圧生成回路と、
前記電圧生成回路の出力電圧に応じて前記DCDCコンバータを制御する昇降圧制御部と、
前記設定電圧として第1の設定電圧が生成された場合の前記増加時間に対する、前記第1の設定電圧の次の前記設定電圧として第2の設定電圧が生成された場合の前記増加時間の時間比に基づいて、前記第2の設定電圧の次に生成すべき前記設定電圧である第3の設定電圧を決定する電圧制御部と
を備える昇降圧回路。
【請求項2】
前記電圧制御部は、前記第1の設定電圧に対する前記第2の設定電圧の電圧比に応じた基準値と、前記時間比との比較結果に基づいて前記第3の設定電圧を決定する
請求項1に記載の昇降圧回路。
【請求項3】
前記基準値は前記電圧比であり、
前記電圧制御部は、前記時間比が前記基準値に近づくように、前記第3の設定電圧を決定する
請求項2に記載の昇降圧回路。
【請求項4】
前記基準値は、((1-2R)+α)/(1+(1-2R)×α)である
ただし、Rは前記入力電圧を生成する前記電源の開放電圧に対する、前記入力電圧の最適値の比率として設定される値であり、αは前記電圧比である
請求項2に記載の昇降圧回路。
【請求項5】
前記DCDCコンバータは、前記入力電圧を昇圧するオン期間と、前記入力電圧を昇圧しないオフ期間とを有し、
前記昇降圧制御部は、前記入力電圧が前記第1増加量だけ増加する間、前記DCDCコンバータを前記オフ期間に制御し、
前記時間検出部は、前記オフ期間を検出する
請求項1から4のいずれか一項に記載の昇降圧回路。
【請求項6】
前記電圧生成回路は、それぞれの前記設定電圧に対して、前記設定電圧より小さい低電圧と、前記設定電圧より大きく且つ前記低電圧よりも前記第1増加量だけ大きい高電圧とを生成し、
前記昇降圧制御部は、前記入力電圧が前記低電圧から前記高電圧に遷移するまで、前記DCDCコンバータを前記オフ期間となるように制御する
請求項5に記載の昇降圧回路。
【請求項7】
前記電圧制御部は、
前記電圧比が1より大きく、且つ、前記時間比が前記基準値よりも大きい場合に、前記電圧比を1よりも小さい範囲内で選択し、
前記電圧比が1より大きく、且つ、前記時間比が前記基準値よりも小さい場合に、前記電圧比を1よりも大きい範囲内で選択し、
前記電圧比が1より小さく、且つ、前記時間比が前記基準値よりも小さい場合に、前記電圧比を1よりも小さい範囲内で選択し、
前記電圧比が1より小さく、且つ、前記時間比が前記基準値よりも大きい場合に、前記電圧比を1よりも大きい範囲内で選択し、
選択した前記電圧比を前記第2の設定電圧に掛けることで前記第3の設定電圧を決定する
請求項4に記載の昇降圧回路。
【請求項8】
前記昇降圧回路は、前記昇降圧制御部の出力に遅延時間を持たせる遅延回路を有し、
前記遅延時間における前記入力電圧の変化量を一定にすることで、前記第1増加量を一定にする
請求項5に記載の昇降圧回路。
【請求項9】
前記DCDCコンバータは、
コイルと、
前記コイルとグランド端子の間に配置されたローサイドスイッチと、
前記入力電圧を監視し、前記ローサイドスイッチのオン時間に前記入力電圧の反比例特性を持たせた反比例オン時間を生成する反比例生成回路と
を有し、
前記反比例オン時間を用いて、前記遅延時間における前記入力電圧の変化量を一定にする
請求項8に記載の昇降圧回路。
【請求項10】
前記電圧制御部は、判定時間内に前記入力電圧が前記設定電圧に達しない場合、前記設定電圧を下げる
請求項1に記載の昇降圧回路。
【請求項11】
前記電圧制御部は、前記DCDCコンバータの前記オフ期間の周期よりも長い周期で前記第3の設定電圧を決定する
請求項5に記載の昇降圧回路。
【請求項12】
請求項1から4のいずれか一項に記載の昇降圧回路と前記電源を備える
電源システム。
【請求項13】
電源からの入力電圧を昇降圧して、出力電圧を生成する昇降圧方法であって、
前記入力電圧が第1増加量だけ増加するのに要する増加時間を検出する時間検出段階と、
前記入力電圧の昇降圧を制御する設定電圧を生成する設定電圧設定段階と、
前記設定電圧に応じて前記入力電圧の昇降圧を制御する昇降圧制御段階と
を備え、
前記設定電圧設定段階において、前記設定電圧として第1の設定電圧が生成された場合の前記増加時間に対する、前記第1の設定電圧の次の前記設定電圧として第2の設定電圧が生成された場合の前記増加時間の時間比に基づいて、前記第2の設定電圧の次に生成すべき前記設定電圧である第3の設定電圧を決定する
昇降圧方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、昇降圧回路、電源システムおよび昇降圧方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、MPPTを実現するために電源の開放電圧を測定する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。また開放電圧を測定しない他の方法が知られている。(例えば、特許文献2および特許文献3参照)。
[先行技術文献]
[特許文献]
[特許文献1] 特許第6152919号公報
[特許文献2] 米国特許第11157032号明細書
[特許文献3] 特許第5921447号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
MPPT時に、電源の開放電圧を測定することなく、また、観測のためのDCDCコンバータの停止期間がないことが好ましい。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の第1の態様においては、昇降圧回路を提供する。上記昇降圧回路は、電源からの入力電圧を昇降圧して、出力電圧を生成するDCDCコンバータを備えてよい。上記いずれかの昇降圧回路は、前記入力電圧が第1増加量だけ増加するのに要する増加時間を検出する時間検出部を備えてよい。上記いずれかの昇降圧回路は、前記DCDCコンバータへの前記入力電圧を制御する設定電圧に応じた電圧を生成する電圧生成回路を備えてよい。上記いずれかの昇降圧回路は、前記電圧生成回路の出力電圧に応じて前記DCDCコンバータを制御する昇降圧制御部を備えてよい。上記いずれかの昇降圧回路は、前記設定電圧として第1の設定電圧が生成された場合の前記増加時間に対する、前記第1の設定電圧の次の前記設定電圧として第2の設定電圧が生成された場合の前記増加時間の時間比に基づいて、前記第2の設定電圧の次に生成すべき前記設定電圧である第3の設定電圧を決定する電圧制御部を備えてよい。
【0005】
上記いずれかの昇降圧回路において、前記電圧制御部は、前記第1の設定電圧に対する前記第2の設定電圧の電圧比に応じた基準値と、前記時間比との比較結果に基づいて前記第3の設定電圧を決定してよい。
【0006】
上記いずれかの昇降圧回路において、前記基準値は前記電圧比であってよい。上記いずれかの昇降圧回路において、前記電圧制御部は、前記時間比が前記基準値に近づくように、前記第3の設定電圧を決定してよい。
【0007】
上記いずれかの昇降圧回路において、前記基準値は、((1-2R)+α)/(1+(1-2R)×α)であってよい。ただし、Rは前記入力電圧を生成する前記電源の開放電圧に対する、前記入力電圧の最適値の比率として設定される値であり、αは前記電圧比である。
【0008】
上記いずれかの昇降圧回路において、前記DCDCコンバータは、前記入力電圧を昇圧するオン期間と、前記入力電圧を昇圧しないオフ期間とを有してよい。上記いずれかの昇降圧回路において、前記昇降圧制御部は、前記入力電圧が前記第1増加量だけ増加する間、前記DCDCコンバータを前記オフ期間に制御してよい。上記いずれかの昇降圧回路において、前記時間検出部は、前記オフ期間を検出してよい。
【0009】
上記いずれかの昇降圧回路において、前記電圧生成回路は、それぞれの前記設定電圧に対して、前記設定電圧より小さい低電圧と、前記設定電圧より大きく且つ前記低電圧よりも前記第1増加量だけ大きい高電圧とを生成してよい。上記いずれかの昇降圧回路において、前記昇降圧制御部は、前記入力電圧が前記低電圧から前記高電圧に遷移するまで、前記DCDCコンバータを前記オフ期間となるように制御してよい。
【0010】
上記いずれかの昇降圧回路において、前記電圧制御部は、前記電圧比が1より大きく、且つ、前記時間比が前記基準値よりも大きい場合に、前記電圧比を1よりも小さい範囲内で選択してよい。上記いずれかの昇降圧回路において、前記電圧制御部は、前記電圧比が1より大きく、且つ、前記時間比が前記基準値よりも小さい場合に、前記電圧比を1よりも大きい範囲内で選択してよい。上記いずれかの昇降圧回路において、前記電圧制御部は、前記電圧比が1より小さく、且つ、前記時間比が前記基準値よりも小さい場合に、前記電圧比を1よりも小さい範囲内で選択してよい。上記いずれかの昇降圧回路において、前記電圧制御部は、前記電圧比が1より小さく、且つ、前記時間比が前記基準値よりも大きい場合に、前記電圧比を1よりも大きい範囲内で選択してよい。上記いずれかの昇降圧回路において、前記電圧制御部は、選択した前記電圧比を前記第2の設定電圧に掛けることで前記第3の設定電圧を決定してよい。
【0011】
上記いずれかの昇降圧回路は、前記昇降圧制御部の出力に遅延時間を持たせる遅延回路を有してよい。上記いずれかの昇降圧回路は、前記遅延時間における前記入力電圧の変化量を一定にすることで、前記第1増加量を一定にしてよい。
【0012】
上記いずれかの昇降圧回路において、前記DCDCコンバータは、コイルを有してよい。上記いずれかの昇降圧回路において、前記DCDCコンバータは、前記コイルとグランド端子の間に配置されたローサイドスイッチを有してよい。上記いずれかの昇降圧回路において、前記DCDCコンバータは、前記入力電圧を監視し、前記ローサイドスイッチのオン時間に前記入力電圧の反比例特性を持たせた反比例オン時間を生成する反比例生成回路を有してよい。上記いずれかの昇降圧回路は、前記反比例オン時間を用いて、前記遅延時間における前記入力電圧の変化量を一定にしてよい。
【0013】
上記いずれかの昇降圧回路において、前記電圧制御部は、判定時間内に前記入力電圧が前記設定電圧に達しない場合、前記設定電圧を下げてよい。
【0014】
上記いずれかの昇降圧回路において、前記電圧制御部は、前記DCDCコンバータの前記オフ期間の周期よりも長い周期で前記第3の設定電圧を決定してよい。
【0015】
本発明の第2の態様においては、電源システムを提供する。電源システムは、上記いずれかの昇降圧回路と前記電源を備えてよい。
【0016】
本発明の第3の態様においては、電源からの入力電圧を昇降圧して、出力電圧を生成する昇降圧方法を提供する。上記昇降圧方法は、前記入力電圧が第1増加量だけ増加するのに要する増加時間を検出する時間検出段階を備えてよい。上記いずれかの昇降圧方法は、前記入力電圧の昇降圧を制御する設定電圧を生成する設定電圧設定段階を備えてよい。上記いずれかの昇降圧方法は、前記設定電圧に応じて前記入力電圧の昇降圧を制御する昇降圧制御段階を備えてよい。上記いずれかの昇降圧方法における前記設定電圧設定段階において、前記設定電圧として第1の設定電圧が生成された場合の前記増加時間に対する、前記第1の設定電圧の次の前記設定電圧として第2の前記設定電圧が生成された場合の前記増加時間の時間比に基づいて、前記第2の設定電圧の次に生成すべき前記設定電圧である第3の設定電圧を決定してよい。
【0017】
なお、上記の発明の概要は、本発明の必要な特徴のすべてを列挙したものではない。また、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となりうる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の第1の実施例に係る電源システム10を示す図である。
図2A】最大電力推定手順のフローチャートの前半を示す図である。
図2B】最大電力推定手順のフローチャートの後半を示す図である。
図3】DCDCコンバータ20のオン・オフ制御のタイミングチャートを示す図である。
図4A】電圧VMPPを0Vから50mVステップの単調増加で変化させたときの電圧比αと時間比T(n+1)/T(n)の計算結果を示す図である。
図4B】電圧VMPPを1Vから50mVステップの単調減少で変化させたときの電圧比αと時間比T(n+1)/T(n)の計算結果を示す図である。
図5】第1の実施例に係る電源システム10の具体的な構成例を示す図である。
図6】一般的な低消費TDC回路のタイミングチャートを示す図である。
図7】本発明の第2の実施例に係る電源システム10を示す図である。
図8】一般的なDCDCコンバータ20の概略を示す図である。
図9】第2の実施例におけるDCDCコンバータ20のオン・オフ制御のタイミングチャートを示す図である。
図10】第2の実施例に係る電源システム10の具体的な構成例を示す図である。
図11】TDCのオーバーフロー条件を追加したシーケンスのタイミング図を示す。
図12A】オーバーフロー処理を加えたフローチャートの前半を示す図である。
図12B】オーバーフロー処理を加えたフローチャートの後半を示す図である。
図13】タイマーにより演算タイミングを制御したシーケンスのタイミング図を示す。
図14A】タイマーを追加した場合のフローチャートの前半を示す図である。
図14B】タイマーを追加した場合のフローチャートの後半を示す図である。
図15】昇降圧方法のフローチャートを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。本明細書では、各図における同一の部分には同一の符号を付し、説明を省略する場合がある。また、説明の便宜上一部の構成を図示しない場合がある。
【0020】
本明細書において「同一」または「等しい」のように称した場合、製造ばらつき等に起因する誤差を有する場合も含んでよい。当該誤差は、例えば10%以内である。また図中の各端子および構成要素は、配線等を用いて接続されてよい。図中の各グランド端子は共通の端子であってよく、異なる端子であってもよい。また、ある構成要素が、他の構成要素の間に配置されるとは、配線等で接続された場合の回路上における配置を指してよい。
【0021】
昇圧または降圧を含むDCDCコンバータおよびパワーマネジメントIC(PMIC)は様々な電源から電力を取り出し、所望の出力電圧または出力電流で負荷を駆動し、キャパシタやリチウムイオンバッテリ(LIB)を始めとする蓄電池を充電する。このような用途に使用される電源の中にはソーラー発電、振動発電、電磁波給電といった電源の出力抵抗が十分小さくないものがあり、これらの出力抵抗の大きい電源から最大電力が得られる負荷をこえて電流を引き出そうとすると、出力電圧が急激に低下し、電力を効率よく取り出すことができないことが知られている。
【0022】
これを解決する手段として、最大電力追従制御(MPPT:Maximum Power Point Tracking)を備えた、DCDCコンバータおよびPMICが知られている。MPPTは、上述の電源等の電力を最大で取り出すために、DCDCコンバータを最適な動作点で動作させる技術の総称である。電源の電力を効率的に抽出できる動作点を算出し、この動作点でDCDCコンバータを駆動させることで、効率のよい電力変換が可能となる。
【0023】
図1は、本発明の第1の実施例に係る電源システム10を示す図である。電源システム10は、電源12および昇降圧回路14を備える。電源12の電圧は昇降圧回路14にて昇圧または降圧され出力される。ここで電源12はエナジーハーベスト等で使用されるエネルギー源を示し、電源12の開放電圧をVocおよび出力インピーダンスをRsとする。
【0024】
電源12は、例えば、太陽光、白熱灯、蛍光灯、LED等の光エネルギーをエネルギー源とする光発電、機械の発する熱や環境温度等の熱エネルギーをエネルギー源とする熱電発電、機械の発する振動や橋・道路等の振動をエネルギー源とする振動発電、電磁波、電波等をエネルギーとする電磁波発電、または、微生物燃料電池に代表される生物の活動量をエネルギーに変換する生物発電等である。電源12は、周囲の環境等に依存して時変的に発電量が変わるものであってよい。
【0025】
昇降圧回路14は、DCDCコンバータ20、時間検出部22、電圧生成回路24、昇降圧制御部26、電圧制御部28を備える。昇降圧回路14は、安定化用コンデンサ30を更に備えてよい。電源12は、入力電圧Vinを昇降圧回路14へ出力する。昇降圧回路14は、入力電圧Vinを昇圧または降圧した電圧である出力電圧Voutを外部回路へ出力する。
【0026】
入力電圧Vinは、対接地の安定化用コンデンサ30、DCDCコンバータ20の入力、昇降圧制御部26の第一の入力端子へ入力される。DCDCコンバータ20は、電源12からの入力電圧Vinを昇降圧して、出力電圧Voutを生成する。電圧生成回路24は、DCDCコンバータ20への入力電圧Vinを制御する設定電圧に応じた電圧を生成する。本例の電圧生成回路24は、設定電圧VMPPに応じた電圧として2値の電圧VMPP+ΔV、VMPP-ΔVを出力する。VMPPは、電圧制御部28により調整が可能であり、ΔVは固定値である。2値の電圧はスイッチにより選択された後、昇降圧制御部26の第二の入力端子へ入力される。
【0027】
昇降圧制御部26は、電圧生成回路の出力電圧に応じてDCDCコンバータ20を制御する。昇降圧制御部26は入力信号の大小比較によりDCDCコンバータ20の制御信号を生成する。生成された制御信号はDCDCコンバータ20へ入力され、DCDCコンバータ20の動作を制御する。一例として、制御信号は電圧信号であり、DCDCコンバータ20のスイッチをオン・オフすることで動作を制御する。また後述するように、スイッチによって昇降圧制御部26の第二の入力端子への電圧がヒステリシスを持つよう2値の電圧が選択される。
【0028】
DCDCコンバータ20がオン状態であれば、昇降圧動作により、入力電圧Vinの電圧値は低下する。一方、DCDCコンバータ20がオフ状態であれば、昇降圧動作は行われていないため、入力電圧Vinの値は増加(回復)する。そのため、DCDCコンバータ20のオン・オフのタイミングを制御することにより、入力電圧Vinの値を制御することができる。本例では、昇降圧制御部26がDCDCコンバータ20のオン・オフを切り替えることにより、入力電圧Vinが上述の2値の電圧VMPP+ΔV、VMPP-ΔVの間の電圧に維持されるようフィードバック制御される。一例として入力電圧Vinは、電圧VMPP+ΔVまで増加した後に電圧VMPP-ΔVまで減少し、電圧VMPP-ΔVまで減少した後に電圧VMPP+ΔVまで増加するように制御される。
【0029】
時間検出部22は、入力電圧Vinが第1増加量だけ増加するのに要する増加時間を検出する。時間検出部22は、入力電圧Vinが、電圧VMPP-ΔVから電圧VMPP+ΔVまで増加している期間において、当該増加時間を検出してよい。第1増加量は、2×ΔVと等しくてよく、2×ΔVより小さくてもよい。本例の時間検出部22には、昇降圧制御部26が生成した制御信号を取得する。当該制御信号はDCDCコンバータ20のオン・オフを制御する信号であるため、時間検出部22は、当該制御信号からDCDCコンバータ20のオフ期間の情報を取得する。オフ期間と増加時間の関係は後述する。
【0030】
電圧制御部28は、時間検出部22により得られた情報を用いて、設定電圧を制御する。本例の電圧制御部28は、設定電圧としてVMPPを設定する。電圧生成回路24は、新たに設定されたVMPP電圧に基づいて、新たに2値の電圧VMPP+ΔV、VMPP-ΔVを生成する。
【0031】
昇降圧回路14は上述の動作を繰り返す。設定電圧VMPPを制御することで最大電力点への調整が可能となる。その理由および設定電圧VMPP決定のための制御方法は以降で説明する。
【0032】
図2Aは、最大電力推定手順のフローチャートの前半を示す図である。最大電力推定手順とは昇降圧回路14が電源12の電力を最大で取り出すために、DCDCコンバータ20を最適な動作点で動作させるための手順である。最大電力推定手順は、昇降圧回路14において行われる。最初にStep1において、n=0に設定する。nは、後述するStep5からStep9の手順の繰り返し回数(本明細書では試行回数と称する)を表す。次にStep2において、電圧生成回路24が出力する電圧VMPPの電圧値をVMPP(0)に設定する。本明細書では、電圧生成回路24が出力する電圧VMPPの電圧値を、電圧生成回路24の値と称する場合がある。次にStep3において、時間検出部22がDCDCコンバータ20のオフ期間T(0)を取得する。
【0033】
次にStep4において、電圧生成回路24の値をVMPP(1)に設定する。VMPP(1)とVMPP(0)は、VMPP(1)=α・VMPP(0)の関係を持ち、試行回数n回以降においてもVMPP(n+1)=α・VMPP(n)の関係式で表される。αは試行回数nと試行回数n+1の電圧の比である。本明細書では、αを電圧比と称する。また、VMPP(n)をV(n)と省略して表記する場合がある。
【0034】
図2Bは、最大電力推定手順のフローチャートの後半を示す図である。図2BにおけるStep5は、図2AにおけるStep4の後の処理である。Step5において、時間検出部22はDCDCコンバータ20のオフ期間T(1)を取得する。n回数実行時は生成電圧V(n+1)に設定された後のオフ期間T(n+1)を取得する。次にStep6において、設定した電圧比αの値が1より大きいか判定する。次にStep7において、T(1)/T(0)と以下に示す式(1)の値を比較する。
【数1】
ただし、Rは入力電圧Vinを生成する電源12の開放電圧Vocに対する、入力電圧Vinの最適値の比率として設定される値である。本明細書ではRを最適比率と称する。入力電圧Vinの最適値が開放電圧Vocの50%のときR=0.5、開放電圧Vocの80%のときR=0.8となる。最適比率Rの決定には、電源12の仕様書等の値を用いてよい。
【0035】
n回数実行時はT(n+1)/T(n)と式(1)の値を比較する。ここでStep6の電圧比αの条件により比較条件が異なる。すなわち、電圧比αが1より大きく、且つ、時間比T(n+1)/T(n)が式(1)の値よりも大きい場合と、電圧比αが1より大きく、且つ、時間比T(n+1)/T(n)が式(1)の値よりも小さい場合と、電圧比αが1より小さく、且つ、時間比T(n+1)/T(n)が式(1)の値よりも小さい場合と、電圧比αが1より小さく、且つ、時間比T(n+1)/T(n)が式(1)の値よりも大きい場合に分岐する。なお、比較対象は式(1)の値に限られるわけではなく、例えば後述する他の基準値を用いてもよい。
【0036】
次にStep8において、nに1を加えてnの値を更新する。次にStep9において、電圧比αの値を選択する。そこではStep6およびStep7での条件によって、電圧比αが1より大きく、且つ、時間比T(n+1)/T(n)が式(1)の値よりも大きい場合に、電圧比αを1よりも小さい範囲内で選択し、電圧比αが1より大きく、且つ、時間比T(n+1)/T(n)が式(1)の値よりも小さい場合に、電圧比αを1よりも大きい範囲内で選択し、電圧比αが1より小さく、且つ、時間比T(n+1)/T(n)が式(1)の値よりも小さい場合に、電圧比αを1よりも小さい範囲内で選択し、電圧比αが1より小さく、且つ、時間比T(n+1)/T(n)が式(1)の値よりも大きい場合に、電圧比αを1よりも大きい範囲内で選択する。そして選択した電圧比αをV(n)に掛けることで新たな設定電圧V(n+1)を決定する。
【0037】
次にStep10において、試行回数nが規定回数に到達したか否かを判断する。nが規定回数に到達していない場合、Step5からStep10を繰り返す。上記シーケンスはnが規定回数に到達するまで繰り返される。上記シーケンスの実行により、最大電力点に最も近い電圧VMPPの設定が得られる。
【0038】
説明に用いたシーケンスは規定回数を設けた例であるが、規定回数を設けずにバックグラウンドで常時シーケンスを実行することも可能である。規定回数を設けて定期的にシーケンスを実行することで、シーケンス実行時の回路動作時間の短縮及び低消費電流への効果が期待できるが、追従速度が遅くなるデメリットを持つ。環境、条件の変化に合わせてシーケンスを実行する時間の間隔や規定回数を変化させてよい。
【0039】
続いて、実施例1によって最大電力点が得られる理由について説明する。図3は、DCDCコンバータ20のオン・オフ制御のタイミングチャートを示す図である。DCDCコンバータ20は、入力電圧Vinを昇圧するオン期間と、入力電圧Vinを昇圧しないオフ期間Tとを有する。DCDCコンバータ20がオフとなるタイミングを始点とし、次にオンとなるまでの期間がオフ期間Tである。オフ期間Tには入力電圧Vinが増加するため、本明細書では、オフ期間Tを増加時間Tと称する場合がある。また電圧生成回路24が生成する2値の電圧VMPP+ΔV、VMPP-ΔVをそれぞれ高電圧、低電圧と称する場合がある。
【0040】
上述のとおり、オン・オフ制御は、昇降圧制御部26により実施される。図3では、DCDCコンバータ20がオフ状態の時から図示している。DCDCコンバータ20がオフの場合、入力電圧Vinは増加する。この時昇降圧制御部26は、入力電圧Vinと高電圧VMPP+ΔVを比較している。入力電圧Vinが高電圧VMPP+ΔVまで増加すると昇降圧制御部26がそれを検知し、DCDCコンバータ20をオン状態に制御する。ここで昇降圧制御部26と電圧生成回路24の間に配置されたスイッチが切り替わる。そのため、昇降圧制御部26は、次に入力電圧Vinと低電圧VMPP-ΔVを比較する。
【0041】
DCDCコンバータ20がオンの場合、昇降圧動作によって、入力電圧Vinは減少する。入力電圧Vinが低電圧VMPP-ΔVまで減少すると昇降圧制御部26がそれを検知し、DCDCコンバータ20をオフ状態に制御する。以上の動作が繰り返されることによって、入力電圧Vinは設定電圧VMPPの付近に維持され、入力電圧Vinを制御することができる。
【0042】
増加時間Tの間に入力電圧Vinは、低電圧VMPP-ΔVから高電圧VMPP+ΔVまで2ΔVだけ増加する。昇降圧回路14の動作において、入力電圧Vinが増加する量を第1増加量と称する。第1増加量は、昇降圧回路14が定常的に動作している場合におけるDCDCコンバータ20のオン・オフの1周期における入力電圧Vinの増加量であってよい。本例においては、上記2ΔVが第1増加量となる。言い換えると、増加時間Tは入力電圧Vinが第1増加量だけ増加するのに要する時間であり、昇降圧制御部26は、入力電圧Vinが第1増加量だけ増加する間、DCDCコンバータ20をオフ期間Tに制御している。
【0043】
上述の通り、電圧生成回路24は、それぞれの設定電圧VMPP(n)に対して、設定電圧VMPP(n)より小さい低電圧VMPP(n)-ΔVと、設定電圧VMPP(n)より大きく且つ低電圧VMPP(n)-ΔVよりも第1増加量2ΔVだけ大きい高電圧VMPP(n)+ΔVとを生成する。昇降圧制御部26は、入力電圧Vinが低電圧VMPP(n)-ΔVから高電圧VMPP(n)+ΔVに遷移するまで、DCDCコンバータ20をオフ期間Tとなるように制御する。
【0044】
図3において、増加時間Tは次式で与えられる。
【数2】
ここで、Rsは電源12の出力インピーダンスであり、Cは安定化用コンデンサ30の容量である。
【0045】
式(2)の対数内の式を変形し、式(3)を得る。
【数3】
ここで、ΔVは入力電圧Vinの変動範囲となるため、電圧VMPP付近での動作を期待すると極力小さいことが望ましい。よって、ΔV/(Voc-VMPP)<<1を想定した場合、x<<1の時に成り立つ以下の近似式(4)を式(3)に適用することで式(5)が得られる。
【数4】
【数5】
【0046】
次に増加時間Tの時間比T(n+1)/T(n)を考える。増加時間T(n)測定時の設定電圧をVMPPとする。増加時間T(n+1)測定時の設定電圧を、VMPPを電圧比α倍スケーリングした設定電圧α・VMPPとする。時間比T(n+1)/T(n)は式(6)で与えられる。
【数6】
【0047】
ここで、入力電圧Vinの最適値をターゲット電圧Vtgtとする。上述の通りターゲット電圧Vtgtは開放電圧Vocに対しRの比の関係を有する(Vtgt=R・Voc)。ここでは計算の簡易化のため、ターゲット電圧Vtgtは、n回目の設定電圧VMPPとn+1回目の設定電圧α・VMPPの中点であると仮定すると、Vtgt=(VMPP+α・VMPP)/2を用いて式(6)は式(7)で示せる。
【数7】
【0048】
電圧制御部28は、設定電圧として第1の設定電圧V(n)が生成された場合の増加時間T(n)に対する、第1の設定電圧V(n)の次の設定電圧として第2の設定電圧V(n+1)が生成された場合の増加時間T(n+1)の時間比T(n+1)/T(n)に基づいて、第2の設定電圧V(n+1)の次に生成すべき設定電圧である第3の設定電圧V(n+2)を決定する。第3の設定電圧V(n+2)は、図2Bにおける、n=n+1の処理(Step8)後のV(n+1)であってよい。入力電圧Vinを電力最適点となるターゲット電圧Vtgtへ調整するには式(7)の関係に近づけるように設定電圧を調整すればよい。
【0049】
電圧制御部28は、第1の設定電圧V(n)に対する前記第2の設定電圧V(n+1)の電圧比αに応じた基準値と、時間比T(n+1)/T(n)との比較結果に基づいて第3の設定電圧V(n+2)を決定してよい。式(7)から、基準値は、((1-2R)+α)/(1+(1-2R)×α)であってよい。一例として、図2Bに示すシーケンスの後半を実行することによって第3の設定電圧V(n+2)が決定される。
【0050】
電源12の最適点として広く利用される50%の開放電圧Vocがターゲット電圧Vtgtとなる場合を考えると、式(7)にR=0.5を代入し式(8)が得られる。
【数8】
式(8)は、DCDCコンバータ20の増加時間の時間比が電圧比αと等しくなる条件において、電圧VMPP=ターゲット電圧Vtgtとなる最適点での動作が可能となることを示している。式(8)から、基準値は電圧比αであってよい。電圧制御部28は、時間比T(n+1)/T(n)が基準値に近づくように、第3の設定電圧V(n+2)を決定してよい。
【0051】
図4Aは、電圧VMPPを0Vから50mVステップの単調増加で変化させたときの電圧比αと時間比T(n+1)/T(n)の計算結果を示す図である。図4Bは、電圧VMPPを1Vから50mVステップの単調減少で変化させたときの電圧比αと時間比T(n+1)/T(n)の計算結果を示す図である。どちらもRs・C=1、Voc=1V、R=0.5の条件における計算結果を示している。
【0052】
本例ではR=0.5であるから、電力最適点を得るための時間比の関係式として式(8)を用いることができる。計算結果からα=T(n+1)/T(n)の時にVMPP=0.5・Vocの電力最適点を取ることが分かる。ここでは関係式確認のため、VMPPは単調増加及び単調減少で変化させているが、実際に使用するときは電圧制御部28の演算によりT(n+1)/T(n)がαの値に近づくようにシーケンスを実行する。
【0053】
図5は、第1の実施例に係る電源システム10の具体的な構成例を示す図である。前述のとおり、昇降圧制御部26によりDCDCコンバータ20のオン・オフ制御を行い、時間検出部22でDCDCコンバータ20の増加時間Tを検出する。図5においては、昇降圧制御部26が生成する制御信号をPDとしている。
【0054】
本例では、時間検出部22として時間-デジタル変換器(TDC:Time-to-Digital Converter)を使用した例を示す。TDCにより増加時間Tをデジタルデータとして取り込むことで、後の比較判定時の演算が容易となる。TDCの構成としてクロックを用いたカウンター構成が一般的だが、測定精度を得るには高速なクロックが望ましいため消費電流を増加させるデメリットを持つ。
【0055】
図6は、一般的な低消費TDC回路のタイミングチャートを示す図である。低消費TDC回路は異なる周波数のクロックを複数使用する。図6においては、低周波クロックをCLK_Sとし、高周波クロックをCLK_Fとしている。低消費TDC回路は、低周波クロックCLK_Sのカウント値COUNT_Sの少数部分を高周波クロックCLK_Fのカウント値COUNT_Fで補間するように動作する。高周波クロックCLK_Fの動作時間を短くすることで、低消費電力で高精度なTDC回路を実現できる。
【0056】
図5の例では、電圧生成回路24としてDAコンバータ(DAC:Digital-to-Analog-Converter)を使用している。本例の電圧生成回路24は、データiを変数とする設定電圧V(i)に応じた電圧を出力する。データiは電圧制御部28から入力される。本例の電圧制御部28は上述のシーケンスを行うことでデータiを決定してよい。つまり、本例の電圧制御部28は、データiを更新することで設定電圧V(i)を更新する。
【0057】
例えばi=0のときの出力電圧Vc、電圧制御部28からのデータiおよびパラメータβを用いて、電圧生成回路24が出力する設定電圧V(i)を式(9)の関係を持つよう設計することで、演算及び設定電圧の制御を容易に行うことが可能である。
【数9】
電圧生成回路24は、設定電圧V(i)に基づいて2値の電圧V(i)+ΔV、V(i)-ΔVを昇降圧制御部26の第二の入力端子へ出力する。電圧制御部28は、V(i)が、図1から図4Bにおいて説明した電圧VMPPとなるようなデータiを出力してよい。βを1より大きい値とし、iをi+1に設定した場合V(i+1)/V(i)=β、iをi-1に設定した場合V(i-1)/V(i)=1/βとなり、iの増減制御により電圧比αの設定が可能となる。以降の電圧生成回路24は式(9)で与えられる出力電圧設定においてβは1より大きい値とし説明する。
【0058】
電圧制御部28は、DCDCコンバータ20のオフ期間T、およびターゲット電圧Vtgtと開放電圧Vocの比Rを取得する。オフ期間Tは時間検出部22から取得する。比Rは外部から取得してよい。比Rを外部から設定可能とすることで、電力最適点におけるターゲット電圧Vtgtと開放電圧Vocの比が異なる電源12に対しても同じシステムで対応することが可能である。
【0059】
前述の式(7)に示す通り、繰り返しシーケンス前後の時間検出部22により得られるオフ期間の時間比T(n+1)/T(n)と、設定電圧の電圧比α、ターゲット電圧Vtgtと開放電圧Vocの比Rによる計算式との大小比較で、次のV(i)を決定するように追跡シーケンスが実行される。電圧制御部28は、データiを電圧生成回路24へ出力する。
【0060】
従来の昇降圧では、MPPTを実現するために電源12の開放電圧Vocを測定していた。その場合、電源12を無負荷状態にすることになるが、無負荷状態による電圧上昇によって素子を破壊してしまう恐れがあった。またマイクロ波を整流して直流電力を生成する場合にはトランジスタやダイオードなどの半導体素子で構成された整流器を使用する。これらの半導体素子は内部抵抗を持つため、素子に電流が流れると電流の2乗に比例する電力を消費する。このため、高周波回路はインピーダンスを高くし、高い出力電圧かつ低い出力電流で動作させるようにアンテナおよび整合回路を設計する。しかし、半導体素子はその耐圧以上の電圧を印加することはできない。開放電圧を測定するMPPT方式では、測定のたびに入力電圧が開放電圧まで回復してしまう。安全のためには、半導体素子の耐圧の50%以下の入力電圧値でしか動作させることができず、効率のもっともよい電圧範囲(開放電圧の50%~80%)を使用することができていなかった。
【0061】
開放電圧を測定しない代わりの方式も提案されているが、電源の出力インピーダンスへの追従の点で問題がある。またいずれの方式も、最適電力点を決定する際にDCDCコンバータ20の昇降圧動作が停止するため、電圧変換効率を減少させてしまう。上記停止は、昇降圧のサイクルにおけるオフ期間とは異なり、動作の停止を意味する。
【0062】
本実施例によれば、電源12の開放電圧Vocを測定することなく、簡易な機構でMPPTを実現することができる。また、シーケンスを実行する時間の間隔や規定回数を調整することで、出力インピーダンスRsへの追従性を調整することができる。さらに、電源12の出力インピーダンスRsを測定するためのDCDCコンバータ20の停止期間を設けることなくMPPTを実現することができる。
【0063】
図7は、本発明の第2の実施例に係る電源システム10を示す図である。実施例1では昇降圧制御部26の第2の入力端子に入力される電圧にヒステリシスを持たせる構成を説明したが、昇降圧制御部26の出力に遅延を持たせることで同様のシステムを構成することが可能である。
【0064】
本例の電源システム10は、図1と同様に電源12および昇降圧回路14を備える。本例の昇降圧回路14は遅延回路32を有する。遅延回路32は、昇降圧制御部26とDCDCコンバータ20の間に配置されている。また、本例の電圧生成回路24は設定電圧VMPPを昇降圧制御部26の第2の入力端子に出力する。他の構成は図1と同様であってよい。
【0065】
遅延回路32は昇降圧制御部26の出力に遅延時間を持たせる。本例では、昇降圧制御部26の後にΔτの遅延時間を持つ遅延回路32を介してDCDCコンバータ20のオン・オフ制御を行っている。ここでの遅延は昇降圧制御部26自体が持つ遅延特性を使用してもよい。
【0066】
図8は、一般的なDCDCコンバータ20の概略を示す図である。DCDCコンバータ20は、コイル40、ローサイドスイッチ42、ハイサイドスイッチ44およびスイッチ制御部46を有する。入力電圧Vinはコイル40の一方の端子へ入力される。コイル40の他方の端子は、ローサイドスイッチ42の一端とハイサイドスイッチ44の一端に接続されている。
【0067】
ローサイドスイッチ42は、コイル40とグランド端子の間に配置されている。ハイサイドスイッチ44は、コイル40とDCDCコンバータ20の出力端子の間に配置されている。スイッチは、MOSFETであってよい。スイッチ制御部46はローサイドスイッチ42およびハイサイドスイッチ44のオン・オフを制御する。昇降圧制御部26からの信号はスイッチ制御部46に入力されてよい。
【0068】
DCDCコンバータ20の動作は、ローサイドスイッチ42がオン、ハイサイドスイッチ44がオフの時にコイル40に電流をチャージする。その後ローサイドスイッチ42がオフ、ハイサイドスイッチ44がオンとすることで、チャージしたコイル40の電流を出力へ供給する。上記動作を繰り返し、また出力への供給量を制御することで電圧変換が可能となる。なお、他の実施例におけるDCDCコンバータ20の構成も同様であってよいが、上記構成は一例であり、これに限定されるものではない。
【0069】
図9は、第2の実施例におけるDCDCコンバータ20のオン・オフ制御のタイミングチャートを示す図である。図9においては、最初DCDCコンバータ20がオフ状態であるため、入力電圧Vinが上昇している。入力電圧Vinが設定電圧VMPPに達した後、DCDCコンバータ20は遅延回路32によって遅延時間Δτをもって制御される。図9においては、DCDCコンバータ20がオフの時の遅延時間をΔτとし、DCDCコンバータ20がオンの時の遅延時間をΔτとしている。ΔτとΔτは等しくてよい。
【0070】
図9では、入力電圧Vinの変動範囲をΔVで示す。電圧変動範囲ΔVは、DCDCコンバータ20がオフ状態における入力電圧Vinの単位時間あたりの変化量とΔτにより得られる変動量ΔV1と、DCDCコンバータ20がオフ状態における入力電圧Vinの単位時間あたりの変化量とΔτにより得られる変動量ΔV2との合計値となる。
【0071】
一方、電源12の出力抵抗Rsが比較的大きい場合、DCDCコンバータ20がオン状態における入力電圧Vinの単位時間あたりの変化量の絶対値は、DCDCコンバータ20がオフ状態における入力電圧Vinの単位時間あたりの変化量の絶対値に比べ十分大きい。そのため、ΔVをΔV2で近似することができる。
【0072】
この近似の下で一般的な昇圧回路を想定した場合、コイル40のインダクタンスL、ローサイドスイッチ42のオン時間TLS、安定化用コンデンサ30の容量C、入力電圧Vinを用いてΔVは式(10)で示される。
【数10】
【0073】
ΔVは図3において説明した第1増加量に相当する。ΔVが入力電圧Vinによらず一定であれば第1増加量が一定となり、第1の実施例で示した最適電力点の追跡シーケンスを適用することができる。遅延時間における入力電圧Vinの変化量ΔVを一定にすることで、第1増加量を一定にすることができる。
【0074】
方法の一つとして、入力電圧Vinの反比例特性をもつローサイドスイッチ42の反比例オン時間T´LSを用いて、遅延時間における入力電圧Vinの変化量を一定にする方法があげられる。反比例オン時間T´LSは以下の式で表される。
【数11】
ここでTcは係数である。Tcは任意の固定値であってよい。式(11)を用いると、ΔVは以下の式で表される。
【数12】
【0075】
その結果、入力電圧Vinに依存しないΔVを得ることができ、第1増加量が一定になる。そのため、第1の実施例と同様のシーケンスを適用できるので、第1の実施例と同様の効果を得ることが可能となる。なお、ローサイドスイッチ42のオン時間TLSに入力電圧Vinの反比例特性を持たせることはアナログ回路により比較的容易に実現することができる。
【0076】
図10は、第2の実施例に係る電源システム10の具体的な構成例を示す図である。図5において説明した第1の実施例の具体例と同様に、本例の昇降圧回路14の時間検出部22にはTDCを、電圧生成回路24にはDACを用いている。本例の電圧生成回路24の出力は単一電圧VMPPである。昇降圧制御部26の出力は遅延回路32を介して、DCDCコンバータ20のオン・オフ制御へ接続される。
【0077】
本例のDCDCコンバータ20は、反比例生成回路48を有する。反比例生成回路48は、入力電圧Vinを監視し、ローサイドスイッチ42のオン時間TLSに入力電圧Vinの反比例特性を持たせた反比例オン時間T´LSを生成する。前述のとおり、反比例オン時間T´LSを用いることで、DCDCコンバータ20のオフ期間の入力電圧Vinの変動量ΔVを一定とすることができ、電力点最適化のための追従シーケンスの適用が可能となる。
【0078】
システムとして組み込むときにTDCの最大測定時間は有限となるためオーバーフローの処理を行うことが望ましい。実施例1または実施例2においてオーバーフローとは、DCDCコンバータ20がオフ状態になってから、所定の時間(判定時間)が経過しても、入力電圧Vinが設定電圧VMPPまたは高電圧VMPP+ΔVに達しないことをいう。言い換えると、DCDCコンバータ20が判定時間以上オフ状態になっていることをいう。
【0079】
電圧制御部28は、判定時間内に入力電圧Vinが設定電圧に達しない場合、設定電圧を下げてよい。TDCオーバーフロー処理のための判定時間をTovとする。Tovは必ずしもTDCの測定可能な最大値を示すものではなく、TDCの測定可能な範囲内で任意に設定可能とする。T(n)≧Tovとなる条件ではTov時間内でDCDCコンバータ20のスイッチング動作が再開できないことを示す。具体的にはTovのDCDCコンバータ20のオフ期間内に設定した設定電圧VMPPよりも入力電圧Vinが低い値で動作していることを示す。この場合は、電源12の供給能力が低い状態にあることが予想されるため、電圧制御部28は設定電圧VMPPを下げて、判定時間以内にVin>VMPPとなる条件へ調整すると良い。
【0080】
図11は、TDCのオーバーフロー条件を追加したシーケンスのタイミング図を示す。PDは昇降圧制御部26の出力信号であり、PDが1(高い)場合にDCDCコンバータ20をオフ状態に制御し、PDが0(低い)の場合にDCDCコンバータ20をオン状態に制御する。TDCは、DCDCコンバータ20のオフ期間を測定し、出力する。DACは、TDCの出力を基に、実施例1における設定電圧の更新を行う。本例での演算あるいはDACデータの更新タイミングは、TDCの出力データ更新のタイミングで実施される。4列目は、その演算とデータiの更新タイミングを表す。
【0081】
本例においては、試行回数n=5の時にDCDCコンバータ20のオフ期間が判定時間Tovを超えている。そのため、判定時間Tovを超えたタイミングで設定電圧の更新を行う。
【0082】
図12Aは、オーバーフロー処理を加えたフローチャートの前半を示す図である。図12Bは、オーバーフロー処理を加えたフローチャートの後半を示す図である。基本となるシーケンスは前述した図2Aおよび図2Bに示すものと同じであるが、本例のフローチャートは、電圧生成回路24としてDACを用い、DACは式(9)に沿って電圧を出力することを想定している。異なる点として、シーケンス後半(図12B)にオーバーフロー処理を行うStep6が追加されている。それに伴い、Step7以降の番号が図2Aまたは図2Bから1ずつずれている。図2Aおよび図2Bと同様の手順については説明を省略する。なお、上述の通り式(9)のβの値は1より大きい。
【0083】
Step1では、試行回数nおよびデータiの初期条件を設定している。Step4では、データiを1コード増加させることで式(9)より電圧生成回路24の値を設定している。Step6では、T(1)あるいはT(n+1)のTDC出力検出後にTov判定を実施し、Tov未満であれば演算フロー(Step7以降)、Tov以上であればStep9においてn=n+1とし、Step10においてi=i-1のフローへ移行する。式(9)より、Step10のi=i-1はDACの出力電圧を下げる方向へ調整することを意味する。その後は、Step11に合流する。
【0084】
Step7は、式(9)を用いた場合の判定式を示しており、図2BにおけるStep6に対応する。Step7では、試行回数nにおけるデータiの値と試行回数n-1におけるデータiの値を比較している。データiの値が増加した場合、式(9)からV(i)はV(i-1)よりも増加し、電圧比αは1以上となる。データiの値が増加した場合はその逆となる。Step10では、データiを増減させることで、新たに電圧生成回路24の値を設定している。
【0085】
本例のフローチャートにおいてはデータiを1コードずつ増減させているが、1回の試行における増減量は1コードに限られない。例えばStep8における判定の際の差に応じてデータiの増減量を変更してよい。本シーケンスを適用することで電源12の供給能力の大きな変動にも追従することができ、システムとして安定したDCDCコンバータ20の出力を得ることが可能となる。
【0086】
図13は、タイマーにより演算タイミングを制御したシーケンスのタイミング図を示す。電圧制御部28は、DCDCコンバータ20のオフ期間の周期よりも長い周期で第3の設定電圧を決定してよい。本例の昇降圧回路14は、演算による更新頻度を制御するためのタイマーを持つ。本例では、タイマーの周期に合わせて設定電圧の更新が行われる。タイマーの周期は、DCDCコンバータ20のオフ期間の周期よりも長い周期であってよい。当該オフ期間は、試行回数n=0の時のオフ期間であってよく、最大電力点におけるオフ期間であってもよい。当該オフ期間として事前に計算した値を用いてよい。
【0087】
5列目の信号TupはTDC出力の更新の有無をモニタし、TDCの検出後に1を出力し、タイマーのトリガで0となる。タイマーのトリガ検出時にTup=1となっている条件、すなわちタイマー区間内にTDC出力の更新があったときにのみ比較演算による設定電圧値の更新が実行される。また、Tup=1の間は既にTDC出力は比較結果の情報を持つため以降TDC検出動作は停止させる。これによりTDCの動作頻度を少なくし、システムを低消費化することができる。
【0088】
図14Aは、タイマーを追加した場合のフローチャートの前半を示す図である。図14Bは、タイマーを追加した場合のフローチャートの後半を示す図である。図14Aおよび図14Bは、図12Aおよび図12Bに対しタイマーによる演算の更新を追加したものである。演算フローへの移行する前のStep4及びStep7において、TDCデータ更新の有無を判定するフローを追加している。それに伴い、Step5以降の番号が図12Aまたは図12Bから1ずつ、Step8以降の番号が図12Aまたは図12Bから2ずつずれている。図12Aおよび図12Bと同様の手順については説明を省略する。
【0089】
Step4では、TDCの出力が更新されたか否かを判定する。出力が更新され、且つ、Tup=1の場合にStep5へと進む。それ以外の場合は、Step3へと戻り、DCDCコンバータ20のオフ期間の測定を継続する。Step7においても同様にTDCの出力の更新の判定を行う。出力が更新され、且つ、Tup=1の場合にStep8へと進む。それ以外の場合は、Step7を行う前に戻る。
【0090】
図15は、昇降圧方法のフローチャートを示す図である。本例の昇降圧方法は、時間検出段階102、設定電圧設定段階104および昇降圧制御段階106を備える。本例の昇降圧方法は、電源12からの入力電圧Vinを昇降圧して、出力電圧Voutを生成する方法である。
【0091】
時間検出段階102では、入力電圧Vinが第1増加量だけ増加するのに要する増加時間を検出する。第1増加量は第1の実施例におけるものでよく、第2の実施例におけるものでもよい。上述のとおり、増加時間はDCDCコンバータ20のオフ期間であってよい。一例として時間検出段階102は、図2Aおよび図2BにおけるStep3およびStep5に対応している。時間検出段階102は、図12Aおよび図12BにおけるStep3およびStep5に対応してよく、図14Aおよび図14BにおけるStep3およびStep6に対応してよい。
【0092】
設定電圧設定段階104では、入力電圧Vinの昇降圧を制御する設定電圧を生成する。設定電圧の生成にあたっては、上述の通り、設定電圧として第1の設定電圧が生成された場合の増加時間に対する、第1の設定電圧の次の設定電圧として第2の設定電圧が生成された場合の増加時間の時間比に基づいて、第2の設定電圧の次に生成すべき設定電圧である第3の設定電圧を決定してよい。具体的には、第1の実施例に示した方法を用いてよい。設定電圧設定段階104は、図2Aおよび図2BにおけるStep2、Step4およびStep9の手順に対応しており、Step9の演算を行う前にStep6およびStep7の条件判定を行ってよい。設定電圧設定段階104は、図12Aおよび図12BにおけるStep2、Step4およびStep10の手順に対応してよく、図14Aおよび図14BにおけるStep2、Step5およびStep12の手順に対応してよい。
【0093】
昇降圧制御段階106では、設定電圧に応じて入力電圧Vinの昇降圧を制御してよい。その後、再び時間検出段階102に移行し、当該設定電圧における増加時間を検出してよい。このように時間検出段階102、設定電圧設定段階104および昇降圧制御段階106は規定回数繰り返されてよい。
【0094】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【0095】
特許請求の範囲、明細書、および図面中において示した装置、システム、フローチャート、および方法における動作、手順、ステップ、および段階等の各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」等と明示しておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現しうることに留意すべきである。特許請求の範囲、明細書、および図面中の動作フローに関して、便宜上「まず、」、「次に、」等を用いて説明したとしても、この順で実施することが必須であることを意味するものではない。
【符号の説明】
【0096】
10・・・電源システム、12・・・電源、14・・・昇降圧回路、20・・・DCDCコンバータ、22・・・時間検出部、24・・・電圧生成回路、26・・・昇降圧制御部、28・・・電圧制御部、30・・・安定化用コンデンサ、32・・・遅延回路、40・・・コイル、42・・・ローサイドスイッチ、44・・・ハイサイドスイッチ、46・・・スイッチ制御部、48・・・反比例生成回路、102・・・時間検出段階、104・・・設定電圧設定段階、106・・・昇降圧制御段階
図1
図2A
図2B
図3
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12A
図12B
図13
図14A
図14B
図15