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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024136308
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】積層造形用合金粉末
(51)【国際特許分類】
   B22F 1/00 20220101AFI20240927BHJP
   C22C 19/07 20060101ALI20240927BHJP
   B22F 10/28 20210101ALI20240927BHJP
   B33Y 70/00 20200101ALI20240927BHJP
【FI】
B22F1/00 M
C22C19/07 Z
B22F10/28
B33Y70/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023047391
(22)【出願日】2023-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000180070
【氏名又は名称】山陽特殊製鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【弁理士】
【氏名又は名称】井出 真
(74)【代理人】
【識別番号】100128473
【弁理士】
【氏名又は名称】須澤 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100160886
【弁理士】
【氏名又は名称】久松 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】永富 裕一
(72)【発明者】
【氏名】萩谷 透
(72)【発明者】
【氏名】相川 芳和
(72)【発明者】
【氏名】澤田 俊之
【テーマコード(参考)】
4K018
【Fターム(参考)】
4K018AA10
4K018BA04
4K018BB04
(57)【要約】
【課題】 積層造形用合金粉末を用いて複数の積層造形体を製造するとき、複数の積層造形体において、造形欠陥の個数のばらつきを低減する。
【解決手段】 積層造形で用いられる合金粉末は、Cоを含み、粉末X線回折において、FCC相[200]のピークに対するHCP相[101]のピークの比が1.00以下である。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cоを含み、
粉末X線回折において、FCC相[200]のピークに対するHCP相[101]のピークの比が1.00以下であることを特徴とする積層造形用合金粉末。
【請求項2】
Cr、Mo、W及びSiを含み、
Cr、Mo、W及びSiのそれぞれの含有率[質量%]が下記式(I)~(IV)に示す条件を満たすことを特徴とする請求項1に記載の積層造形用合金粉末。
22.0≦Cr≦27.0 ・・・(I)
3.0≦Mo≦7.0 ・・・(II)
3.0≦W≦7.0 ・・・(III)
0.0≦Si≦2.0 ・・・(IV)
【請求項3】
C、B、P及びSのうち、少なくとも1つを含み、
Cは0.040[質量%]以下であり、
Bは0.004[質量%]以下であり、
Pは0.020[質量%]以下であり、
Sは0.010[質量%]以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の積層造形用合金粉末。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層造形で用いられる合金粉末に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、歯科補綴物に含まれる合金フレームを積層造形法(アディティブ・マニュファクチャリング)等によって製造することが記載されている。そして、合金フレームを製造するための合金として、Co-Cr-W合金やCo-Cr-W-Mo合金等が用いられることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-14182号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
積層造形法によって積層造形体を製造する場合には、積層造形体に造形欠陥が発生しやすくなり、同一組成の合金粉末から複数の積層造形体を製造したときには、造形欠陥の発生頻度にばらつきが発生しやすくなる。本発明者らは、積層造形法の原料として用いられる合金粉末の内部構造を鋭意検討した結果、合金粉末中の結晶構造の比率を調整することにより、造形欠陥の発生頻度のばらつきを低減できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明である積層造形用合金粉末は、Cоを含み、粉末X線回折において、FCC相[200]のピークに対するHCP相[101]のピークの比が1.00以下である。
【0006】
積層造形用合金粉末には、Cr、Mo、W及びSiを含めることができる。ここで、Cr、Mo、W及びSiのそれぞれの含有率[質量%]については、下記式(I)~(IV)に示す条件を満たすことができる。
22.0≦Cr≦27.0 ・・・(I)
3.0≦Mo≦7.0 ・・・(II)
3.0≦W≦7.0 ・・・(III)
0.0≦Si≦2.0 ・・・(IV)
【0007】
積層造形用合金粉末には、C、B、P及びSのうち、少なくとも1つを含めることができる。ここで、Cは0.040[質量%]以下とすることができ、Bは0.004[質量%]以下とすることができ、Pは0.020[質量%]以下とすることができ、Sは0.010[質量%]以下とすることができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明である積層造形用合金粉末を用いて積層造形体を製造すれば、複数の積層造形体において、造形欠陥の個数のばらつきを低減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本実施形態である積層造形用合金粉末(以下、単に「合金粉末」という)は、積層造形体の製造に用いられる合金粉末であり、主成分としてCoを含有し、後述するピーク比率HCP/FCCが1.00以下である。
【0010】
ピーク比率HCP/FCCは、粉末X線回折において、FCC相[200]のピークに対するHCP相[101]のピークの比率である。Cu管球を用いたX線回折法により、FCC相[200]のピーク(面間隔d=0.178nm前後)は、2θが51.2°近傍に現れるピークであり、HCP相[101]のピーク(面間隔d=0.192nm前後)は、2θが47.4°近傍に現れるピークである。なお、FCC相[200]及びHCP相[101]のピークは、互いに重ならずに検出されるピークのうち、各相において最も高い強度を示す。
【0011】
後述する実施例から理解できるように、ピーク比率HCP/FCCを1.00以下とすることにより、合金粉末から複数の積層造形体を製造したときにおいて、複数の積層造形体で発生する造形欠陥の発生頻度(個数)のばらつきを低減することができる。
【0012】
本実施形態において、造形欠陥の発生頻度(個数)のばらつきとは、同一条件で製造された所定数(例えば、5つ)の積層造形体のうち、造形欠陥の個数が最も少ない積層造形体と、造形欠陥の個数が最も多い積層造形体とに着目した、造形欠陥の最少個数及び最多個数の差(絶対値)である。造形欠陥としては、例えば、造形の際に積層造形体に形成される残留ポア(空孔)が挙げられる。
【0013】
造形欠陥の個数の計測は、各積層造形体の観察面において、予め定められた観察領域内で行うことができる。すなわち、所定数の積層造形体のそれぞれにおいて、同一位置にある観察領域を光学顕微鏡等で観察することにより、造形欠陥の個数を計測することができる。例えば、観察領域として、観察面の中央部に位置する領域とすることができる。計測対象となる造形欠陥のサイズは、適宜決めることができるが、例えば、50μm以上の造形欠陥を計測対象とすることができる。
【0014】
合金粉末を製造する方法としては、例えば、水アトマイズ法、ガスアトマイズ法、ディスクアトマイズ法、プラズマアトマイズ法、プラズマ回転電極法を用いることができる。ここで、工業的に最も利用されているガスアトマイズ法を用いることが好ましい。
【0015】
上述した方法によって製造された合金粉末では、安定なFCC相に加えて、一部にHCP相(マルテンサイト相を含む)が1つの合金粉末(粒子)の内部で共存していると考えられる。FCC相及びHCP相においては、磁性、表面における粗度や摩擦、凝集力の度合い、積層造形時の熱吸収率などの物性が異なると考えられ、これらの物性の差異が複雑に影響し合い、例えば、積層造形時の粉末床(パウダーベッド)において、わずかな凝集、空隙、充填密度差などが集中して発生する微小部位が現れると推測される。なお、この粉末床の微小部位における充填性の不安定さは局所的に発生するため、単なる粉末の粒度分布、流動度、見掛け密度、タップ密度などの測定から特定することができない。
【0016】
この粉末床をレーザなどの熱源で溶融して凝固させたときには、積層造形体の一部分に残留ポアなどの造形欠陥が集中して発生し、造形欠陥の発生頻度(個数)について、言い換えれば造形密度について、ばらつきが発生してしまう。本実施形態のように、ピーク比率HCP/FCCが1.00以下である合金粉末を用いることにより、同一条件で複数の積層造形体を製造したときに、造形欠陥の発生頻度(個数)のばらつきを低減することができる。
【0017】
合金粉末の組成や粒径が同じであっても、合金粉末を製造するときの冷却速度に応じて、FCC相及びHCP相のそれぞれの生成割合が変化する。具体的には、冷却速度が高いほど、HCP相の生成割合が増加する。言い換えれば、冷却速度が低いほど、HCP相の生成割合が低下する。このため、冷却速度を制御することにより、ピーク比率HCP/FCCが1.00以下である合金粉末を製造することができる。
【0018】
ガスアトマイズ法では、坩堝内で原料を加熱して溶融合金を生成し、坩堝の底に設けられた出湯ノズルから溶融合金を出湯させる。そして、出湯した溶融合金に対して任意の圧力の噴霧ガスを吹き付けて、溶融合金を微細化させながら急冷することにより、合金粉末を得ることができる。噴霧ガスとしては、例えば、アルゴンガスや窒素ガスを用いることができる。
【0019】
上述したプロセスにおいて、溶融合金の冷却速度に影響を与えるパラメータとしては、出湯時の溶融合金の温度(以下、「出湯温度」という)、溶融合金の単位時間当たり出湯量、噴霧ガスの圧力(以下、「噴霧ガス圧」という)、噴霧ガスの種類(以下、「噴霧ガス種」という)が挙げられる。ここで、出湯ノズルの内径(以下、「出湯ノズル径」という)を変更することにより、単位時間当たりの出湯量を変更することができる。
【0020】
ピーク比率HCP/FCCの値については、上述した4つのパラメータが相互に関係する。ここで、後述する実施例から分かるように、各パラメータについては以下に説明する傾向がある。
【0021】
出湯温度だけを変更する場合においては、出湯温度が高いほど、溶融合金の冷却速度が低くなり、ピーク比率HCP/FCCが低くなる傾向がある。言い換えれば、出湯温度が低いほど、溶融合金の冷却速度が高くなり、ピーク比率HCP/FCCが高くなる傾向がある。
【0022】
また、単位重量当たりの溶融合金が受ける噴霧ガスの量や流速が大きいほど、溶融合金の冷却速度が高くなるため、出湯ノズル径を小さくしたり、噴霧ガス圧を高くしたりするほど、溶融合金の冷却速度が高くなる。出湯ノズル径だけを変更する場合においては、出湯ノズル径が小さいほど、ピーク比率HCP/FCCが高くなる傾向があり、言い換えれば、出湯ノズル径が大きいほど、ピーク比率HCP/FCCが低くなる傾向がある。また、噴霧ガス圧だけを変更する場合においては、噴霧ガス圧が高いほど、ピーク比率HCP/FCCが高くなる傾向があり、言い換えれば、噴霧ガス圧が低いほど、ピーク比率HCP/FCCが低くなる傾向がある。
【0023】
さらに、噴霧ガス種に応じて溶融合金の冷却能力に差異が生じ、噴霧ガスとして窒素ガスを用いたほうが、アルゴンガスを用いた場合よりも溶融合金の冷却速度が高くなり、ピーク比率HCP/FCCが高くなる傾向がある。
【0024】
上述した4つのパラメータのうち、少なくとも1つのパラメータを調整することにより、溶融合金の冷却速度を変化させて、FCC相及びHCP相のそれぞれの生成割合を変化させることができる。予め実験を行うことにより、ピーク比率HCP/FCCが1.00以下である合金粉末を製造できる冷却速度の条件を決定することができる。
【0025】
上述したように、ピーク比率HCP/FCCを1.00以下とすればよいが、ピーク比率HCP/FCCを0.90以下とすることが好ましく、0.85以下とすることがより好ましい。これにより、造形欠陥の発生頻度(個数)のばらつきを低減しやすくなる。
【0026】
一方、通常の粉末合金の製造方法では、ピーク比率HCP/FCCを0.30未満とすることは容易ではなく、ピーク比率HCP/FCCを0.20未満とするためには、熱処理などの後工程を追加する必要があり、製造コストが増加してしまう。また、ピーク比率HCP/FCCを過度に低くしなくても、複数の積層造形体で発生する造形欠陥(残留ポア)の発生頻度のばらつきを低減することができる。したがって、ピーク比率HCP/FCCは、0.30以上とすることができ、0.50以上とすることが好ましい。
【0027】
合金粉末には、Cr、Mo、W及びSiを含めることができる。Cr、Mo、W及びSiのそれぞれの含有率[質量%]は、下記式(1)~(4)に示す条件を満たすことが好ましい。下記式(4)に示すように、Siについては、合金粉末に含有されていなくてもよい。
22.0≦Cr≦27.0 ・・・(1)
3.0≦Mo≦7.0 ・・・(2)
3.0≦W≦7.0 ・・・(3)
0.0≦Si≦2.0 ・・・(4)
【0028】
上記式(1)~(4)に示す条件を満たすCr、Mo、W及びSiを含有し、残部をCо及び不可避的不純物とする合金粉末の組成は、積層造形体の製造に用いられる合金粉末の組成として代表的なものである。このような組成とすることにより、優れた生体適合性、機械的特性及び耐食性を示すことが知られている(例えば、製造販売承認(承認番号:23000BZX00121000)された三次元積層造形用コバルトクロム(Cо-Cr-Mo-W)合金粉末)。
【0029】
合金粉末には、C、B、P及びSのうち、少なくとも1つが含まれていてもよい。C、B、P及びSは、意図的に添加するものであってもよいし、不可避的に混入されるものであってもよい。C、B、P及びSについては、含有率の上限値を設定することにより、積層造形体の平均密度が低下することを抑制できる。Cは、積層造形体の平均密度を低下させるCOガスの発生源となる。B、P及びSは、凝固偏析により微細クラックを発生させる要因であり、微細クラックによって積層造形体の平均密度が低下してしまう。
【0030】
Cの含有率は、0.040[質量%]以下であることが好ましい。ここで、Cの含有率を低くするほど、積層造形体に形成される造形欠陥(残留ポア)の個数を低減できるため、Cの含有率は、0.024[質量%]以下であることがより好ましく、0.009[質量%]以下であることが更に好ましい。
【0031】
Bの含有率は、0.004[質量%]以下であることが好ましい。ここで、Bの含有率を低くするほど、積層造形体に形成される造形欠陥(残留ポア)の個数を低減できるため、Bの含有率は、0.003[質量%]以下であることがより好ましく、0.002[質量%]以下であることが更に好ましい。
【0032】
Pの含有率は、0.020[質量%]以下であることが好ましい。ここで、Pの含有率を低くするほど、積層造形体に形成される造形欠陥(残留ポア)の個数を低減できるため、Pの含有率は、0.010[質量%]以下であることがより好ましく、0.004[質量%]以下であることが更に好ましい。
【0033】
Sの含有率は、0.010[質量%]以下であることが好ましい。ここで、Sの含有率を低くするほど、積層造形体に形成される造形欠陥(残留ポア)の個数を低減できるため、Sの含有率は、0.006[質量%]以下であることがより好ましく、0.004[質量%]以下であることが更に好ましい。
【0034】
なお、Cを微量添加することにより、合金粉末の製造時に脱酸を発生させて積層造形体の密度を向上させることができる。この点を考慮すると、Cの含有率は、0.001[質量%]以上とすることが好ましく、0.002[質量%]以上とすることがより好ましい。
【実施例0035】
(合金粉末の製造)
下記表1~4に示す組成を有する合金粉末(実施例1~17及び比較例1~4)をガスアトマイズ法によって製造した。なお、下記表1は合金粉末(実施例1~5及び比較例1)の組成を示し、下記表2は合金粉末(実施例6~9及び比較例2)の組成を示し、下記表3は合金粉末(実施例10~13及び比較例3)の組成を示し、下記表4は合金粉末(実施例14~17及び比較例4)の組成を示す。
【0036】
【表1】
【0037】
【表2】
【0038】
【表3】
【0039】
【表4】
【0040】
合金粉末の原料の溶解量を30kgとし、アルゴンガスの雰囲気下において耐火物製の坩堝内で原料を加熱(高周波誘導加熱)し、坩堝の底に設けられた出湯ノズルから溶融合金を出湯させた。この溶融合金に所定圧力の噴霧ガスを吹き付けることにより、溶融合金を微細化させながら急冷し、複数の合金粉末を得た。噴霧ガスとしては、アルゴンガス(実施例1~3,5,7~17及び比較例1~3)又は窒素ガス(実施例4,6及び比較例4)を用いた。そして、得られた合金粉末に対して篩い分けを行い、所定の粒径以下である合金粉末を得た。
【0041】
ガスアトマイズ法の条件としては、出湯温度、出湯ノズル径、噴霧ガス種及び噴射ガス圧が挙げられる。これらの条件を変更することにより、同一組成及び同一粒径である合金粉末であっても、冷却速度を変化させることができ、ピーク比率HCP/FCC比を変化させることができる。
【0042】
(合金粉末の評価)
篩い分け後の合金粉末(実施例1~17及び比較例1~4)について、平均粒径D50、流動度、見掛密度、タップ密度及びピーク比率HCP/FCCをそれぞれ測定した。
【0043】
マイクロトラックMT3000(日機装社製)を用いて各合金粉末の粒度分布を測定し、この測定結果に基づいて平均粒径D50を特定した。ここでいう平均粒径D50は、レーザ回折・散乱法によって求めた粒度分布における積算値50%での粒径を意味する。流動度はJIS Z2502(2020)の規定に準じて測定し、見掛密度はJIS Z2504(2020)の規定に準じて測定し、タップ密度はJIS Z2512(2012)の規定に準じて測定した。
【0044】
Cuを管球とした粉末X線回折を行い、得られたX線回折パターンに基づいて、FCC相[200]の回折ピーク値と、HCP相[101]の回折ピーク値とを特定した。これらの回折ピーク値に基づいて、ピーク比率HCP/FCCを算出した。
【0045】
(積層造形体の製造)
3D積層造形機(EOS-M290、EOS(Electro Optical Systems)株式会社)を用い、各合金粉末(実施例1~17及び比較例1~4)を造形することによりブロック(積層造形体)を製造した。積層造形時のレーザ照射条件としては、3D積層造形機の標準パラメータ(MP1)を使用した。250mm×250mmの造形プレートの中央位置と、この中央位置から4隅の方向にそれぞれ100mm離れた周辺位置(4か所)において、10mm×10mm×10mmのブロックを造形した。これにより、同一組成の合金粉末から5つのブロックを得た。
【0046】
(積層造形体の評価)
各ブロックをワイヤーカットにより造形プレートから切断した後、各ブロックを樹脂に埋め込んで観察面を研磨し、この観察面を光学顕微鏡で観察した。観察面は、造形方向に平行な面とした。25倍の倍率で観察面を撮影し、3mm×3mmの計測領域(9mmの領域)内において、50μm以上の残留ポア(気孔)の個数を計測した。合金粉末の造形によっては、ブロックの内部にポアが残留することがある。ここで、残留ポアの計測領域は、5つのブロックの観察面において、予め定めた同一の位置(中央部)とした。
【0047】
同一組成の合金粉末から製造された5つのブロックについて、各ブロックで計測された残留ポアの個数から平均値(「平均残留ポア数」という)を算出した。また、5つのブロックにおいて、残留ポアの個数が最も少ないブロックと、残留ポアの個数が最も多いブロックとを特定し、最も少ない残留ポアの個数と、最も多い残留ポアの個数との差(「最多-最少ポア数」)を求めた。
【0048】
上述した合金粉末の評価結果と、上述した積層造形体(ブロック)の評価結果を下記表5~8に示す。なお、下記表5は合金粉末(実施例1~5及び比較例1)に関する評価結果を示し、下記表6は合金粉末(実施例6~9及び比較例2)に関する評価結果を示し、下記表7は合金粉末(実施例10~13及び比較例3)に関する評価結果を示し、下記表8は合金粉末(実施例14~17及び比較例4)に関する評価結果を示す。
【0049】
【表5】
【0050】
【表6】
【0051】
【表7】
【0052】
【表8】
【0053】
ピーク比率HCP/FCCが最多-最少ポア数に与える影響について考察する。
【0054】
上記表5~8に示すとおり、実施例1~17では、ピーク比率HCP/FCCが1.00以下であり、最多-最少ポア数が3[個/9mm]以下であった。一方、比較例1~4では、ピーク比率HCP/FCCが1.00よりも高く、最多-最少ポア数が5~7[個/9mm]であった。したがって、ピーク比率HCP/FCCを1.00以下とすれば、ピーク比率HCP/FCCを1.00よりも高くする場合と比べて、同一組成の合金粉末から複数の積層造形体(ブロック)を製造したときにおいて、最多-最少ポア数を低減することができ、言い換えれば、残留ポアの個数のばらつき(すなわち、造形欠陥の発生頻度のばらつき)を低減することができた。
【0055】
上記表5~8によれば、ピーク比率HCP/FCCが1.00よりも高い場合には、最多-最少ポア数が5[個/9mm]以上であった。ピーク比率HCP/FCCが1.00以下、かつ0.90よりも高い場合(実施例6)には、最多-最少ポア数が3[個/9mm]であった。ピーク比率HCP/FCCが0.90以下であり、かつ0.85よりも高い場合(実施例4)には、最多-最少ポア数が2[個/9mm]であった。ピーク比率HCP/FCCが0.85以下である場合(実施例1~3,5,7~17)には、最多-最少ポア数が1[個/9mm]であった。この結果によれば、最多-最少ポア数を低減させる点において、ピーク比率HCP/FCCは、0.90以下とすることが好ましく、0.85以下とすることがより好ましい。
【0056】
一方、以下に説明するように、出湯温度、出湯ノズル径、噴霧ガス圧及び噴霧ガス種のうち、少なくとも1つのパラメータを調整することにより、ピーク比率HCP/FCCを調整できることが分かった。これらのパラメータは、合金粉末を製造するときに、溶融合金の冷却速度に影響を与えるものであり、溶融合金の冷却速度を調整することにより、ピーク比率HCP/FCCを調整できることになる。
【0057】
まず、出湯温度がピーク比率HCP/FCCに与える影響について考察する。
【0058】
上記表5において、実施例1~3,5及び比較例1に着目すると、出湯ノズル径、噴霧ガス圧及び噴霧ガス種はいずれも同一条件であり、出湯温度について、実施例1と、実施例2,3,5と比較例1とで異なっている。実施例2,3,5では、出湯温度も同一条件(1600[℃])であり、ピーク比率HCP/FCCが同等の値(0.75,0.72,0.77)を示し、1.00以下となった。
【0059】
実施例1については、出湯温度が1660[℃]であり、実施例2,3,5の出湯温度(1600[℃])よりも高くなっており、ピーク比率HCP/FCCが実施例2,3,5よりも低い値(0.56)を示した。一方、比較例1については、出湯温度が1510[℃]であり、実施例2,3,5の出湯温度(1600[℃])よりも低くなっており、ピーク比率HCP/FCCが実施例2,3,5よりも高い値(1.13)を示した。
【0060】
上述した結果から、出湯温度は、ピーク比率HCP/FCCに影響を与えることが分かり、出湯温度が高いほど、ピーク比率HCP/FCCが低くなる傾向があり、言い換えれば、出湯温度が低いほど、ピーク比率HCP/FCCが高くなる傾向があることが分かった。したがって、出湯温度を調整することにより、ピーク比率HCP/FCCを1.00以下に調整できることが分かった。
【0061】
次に、出湯ノズル径がピーク比率HCP/FCCに与える影響について考察する。
【0062】
上記表6において、実施例7~9及び比較例2に着目すると、出湯温度、噴霧ガス圧及び噴霧ガス種はいずれも同一条件であり、出湯ノズル径について、実施例7~9と比較例2とで異なっている。実施例7~9では、出湯ノズル径も同一条件(5[mm])であり、ピーク比率HCP/FCCが同等の値(0.81,0.85,0.82)を示し、1.00以下となった。一方、比較例2については、出湯ノズル径が4[mm]であり、実施例7~9の出湯ノズル径(5[mm])よりも小さくなっており、ピーク比率HCP/FCCが1.06であった。
【0063】
上述した結果から、出湯ノズル径は、ピーク比率HCP/FCCに影響を与えることが分かり、出湯ノズル径が小さいほど、ピーク比率HCP/FCCが高くなる傾向があり、言い換えれば、出湯ノズル径が大きいほど、ピーク比率HCP/FCCが低くなる傾向があることが分かった。したがって、出湯ノズル径を調整することにより、ピーク比率HCP/FCCを1.00以下に調整できることが分かった。
【0064】
次に、噴霧ガス圧がピーク比率HCP/FCCに与える影響について考察する。
【0065】
上記表7において、実施例10~13及び比較例3に着目すると、出湯温度、出湯ノズル径及び噴霧ガス種はいずれも同一条件であり、噴霧ガス圧について、実施例10,11,13と、実施例12と、比較例3とで異なっている。実施例10,11,13では、噴霧ガス圧も同一条件(5.1[MPa])であり、ピーク比率HCP/FCCが同等の値(0.63,0.62)を示し、1.00以下となった。
【0066】
実施例12については、噴霧ガス圧が4.2[MPa]であり、実施例10,11,13の噴霧ガス圧(5.1[MPa])より低くなっており、ピーク比率HCP/FCCが実施例10,11,13よりも低い値(0.32)を示した。一方、比較例3については、噴霧ガス圧が6.5[MPa]であり、実施例10,11,13の噴霧ガス圧(5.1[MPa])よりも高くなっており、ピーク比率HCP/FCCが実施例10,11,13よりも高い値(1.25)を示した。
【0067】
上述した結果から、噴霧ガス圧は、ピーク比率HCP/FCCに影響を与えることが分かり、噴霧ガス圧が高いほど、ピーク比率HCP/FCCが高くなる傾向があり、言い換えれば、噴霧ガス圧が低いほど、ピーク比率HCP/FCCが低くなる傾向があることが分かった。したがって、噴霧ガス圧を調整することにより、ピーク比率HCP/FCCを1.00以下に調整できることが分かった。
【0068】
次に、噴霧ガス種がピーク比率HCP/FCCに与える影響について考察する。
【0069】
上記表8において、実施例14~17及び比較例4に着目すると、出湯温度、出湯ノズル径及び噴霧ガス圧はいずれも同一条件であり、噴霧ガス種が実施例14~17と比較例4とで異なっている。実施例14~17のように、噴霧ガスとしてアルゴンガスを用いると、ピーク比率HCP/FCCが同等の値(0.73~0.78)を示し、1.00以下となった。一方、比較例4のように、噴霧ガスとして窒素ガスを用いると、ピーク比率HCP/FCCが1.05となった。
【0070】
一方、上記表5において、実施例1,4に着目すると、実施例4の出湯温度(1670[℃])は実施例1の出湯温度(1660[℃])よりも高くなっているにもかかわらず、ピーク比率HCP/FCCについては、実施例4(0.88)が実施例1(0.56)よりも高くなっている。このことは、上述したように、出湯温度が高いほど、ピーク比率HCP/FCCが低くなる傾向に反している。これは、窒素ガス(実施例4)はアルゴンガス(実施例1)に比べて冷却速度が高いため、噴霧ガス種の影響を大きく受けることにより、実施例4は実施例1と比べてピーク比率HCP/FCCが高くなったと考えられる。このように、ピーク比率HCP/FCCの値については、上述した4つのパラメータ(ここでは、出湯温度及び噴霧ガス種)が相互に関係することが分かる。
【0071】
次に、上記表6において、実施例6と実施例7~9に着目すると、実施例6の出湯ノズル径(6[mm])は実施例7~9の出湯ノズル径(5[mm])よりも大きくなっているにもかかわらず、ピーク比率HCP/FCCについては、実施例6(0.96)が実施例7~9(0.81~0.85)よりも高くなっている。このことは、上述したように、出湯ノズル径が大きいほど、ピーク比率HCP/FCCが低くなる傾向に反している。これは、窒素ガス(実施例6)はアルゴンガス(実施例7~9)に比べて冷却速度が高いため、噴霧ガス種の影響を大きく受けることにより、実施例6は実施例7~9と比べてピーク比率HCP/FCCが高くなったと考えられる。このように、ピーク比率HCP/FCCの値については、上述した4つのパラメータ(ここでは、出湯ノズル径及び噴霧ガス種)が相互に関係することが分かる。
【0072】
上述した結果から、噴霧ガス種は、ピーク比率HCP/FCCに影響を与えることが分かり、特に、アルゴンガスよりも窒素ガスを用いたほうが、ピーク比率HCP/FCCが高くなる傾向があることが分かった。したがって、噴霧ガス種を変更することにより、ピーク比率HCP/FCCを1.00以下に調整できることが分かった。
【0073】
次に、平均残留ポア数に着目した。
【0074】
上記表5によれば、ピーク比率HCP/FCCが1.00以下である場合(実施例1~5)において、合金粉末におけるCの含有率を0.040[質量%]以下にすれば、最多-最少ポア数を低減できることに加えて、平均残留ポア数も低減することができた。すなわち、実施例5では、Cの含有率が0.055[質量%]であるときに、平均残留ポア数が4.4[個/9mm]であったが、実施例1~4では、Cの含有率が0.040[質量%]以下であり、実施例5と比べて、平均残留ポア数が低減した。また、実施例5,4,3,2,1の順に、Cの含有率が低くなっており、Cの含有率が低くなるほど、平均残留ポア数が低減した。したがって、平均残留ポア数を低減させる点において、合金粉末におけるCの含有率は、0.040[質量%]以下であることが好ましい。
【0075】
上記表6によれば、ピーク比率HCP/FCCが1.00以下である場合(実施例6~9)において、合金粉末におけるBの含有率を0.004[質量%]以下にすれば、最多-最少ポア数を低減できることに加えて、平均残留ポア数も低減することができた。すなわち、実施例9では、Bの含有率が0.009[質量%]であるときに、平均残留ポア数が4.2[個/9mm]であったが、実施例6~8では、Bの含有率が0.004[質量%]以下であり、実施例9と比べて、平均残留ポア数が低減した。また、実施例9,8,7,6の順に、Bの含有率が低くなっており、Bの含有率が低くなるほど、平均残留ポア数が低減した。したがって、平均残留ポア数を低減させる点において、合金粉末におけるBの含有率は、0.004[質量%]以下であることが好ましい。
【0076】
上記表7によれば、ピーク比率HCP/FCCが1.00以下である場合(実施例10~13)において、合金粉末におけるPの含有率を0.020[質量%]以下にすれば、最多-最少ポア数を低減できることに加えて、平均残留ポア数も低減することができた。すなわち、実施例13では、Pの含有率が0.025[質量%]であるときに、平均残留ポア数が3.8[個/9mm]であったが、実施例10~12では、Pの含有率が0.020[質量%]以下であり、実施例13と比べて、平均残留ポア数が低減した。また、実施例13,12,11,10の順に、Pの含有率が低くなっており、Pの含有率が低くなるほど、平均残留ポア数が低減した。したがって、平均残留ポア数を低減させる点において、合金粉末におけるPの含有率は、0.020[質量%]以下であることが好ましい。
【0077】
上記表8によれば、ピーク比率HCP/FCCが1.00以下である場合(実施例14~17)において、合金粉末におけるSの含有率を0.010[質量%]以下にすれば、最多-最少ポア数を低減できることに加えて、平均残留ポア数も低減することができた。すなわち、実施例17では、Sの含有率が0.016[質量%]であるときに、平均残留ポア数が4.2[個/9mm]であったが、実施例14~16では、Sの含有率が0.010[質量%]以下であり、実施例17と比べて、平均残留ポア数が低減した。また、実施例17,16,15,14の順に、Sの含有率が低くなっており、Sの含有率が低くなるほど、平均残留ポア数が低減した。したがって、平均残留ポア数を低減させる点において、合金粉末におけるSの含有率は、0.010[質量%]以下であることが好ましい。