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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024136531
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】表面保護フィルム
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20240927BHJP
   C08G 64/02 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
C08J5/18 CFD
C08G64/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023047674
(22)【出願日】2023-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】林 輝成
(72)【発明者】
【氏名】中村 佳史
【テーマコード(参考)】
4F071
4J029
【Fターム(参考)】
4F071AA50
4F071AA86
4F071AA88
4F071AF04Y
4F071AF29Y
4F071AF30Y
4F071AH12
4F071BA01
4F071BB06
4F071BC01
4F071BC12
4J029AA09
4J029AB01
4J029AD01
4J029AD07
4J029AD09
4J029AE03
4J029BA01
4J029BA02
4J029BA03
4J029BA04
4J029BA05
4J029BA07
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4J029BA09
4J029BA10
4J029BB12A
4J029BB12B
4J029BB13A
4J029BB13B
4J029BD03A
4J029BD04A
4J029BD06A
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4J029BD09A
4J029BD09B
4J029BD10
4J029BF09
4J029BF13
4J029BF17
4J029BF18
4J029BF25
4J029BF30
4J029BG06X
4J029BG06Y
4J029BH02
4J029CA02
4J029CA03
4J029CA04
4J029CA05
4J029CA06
4J029CB04A
4J029CB05A
4J029CB06A
4J029CB10A
4J029CB12A
4J029CD03
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4J029CF08
4J029DB07
4J029DB09
4J029DB11
4J029DB13
4J029HC04A
4J029HC04C
4J029HC05A
4J029HC05B
4J029JA091
4J029JA121
4J029JA261
4J029JB131
4J029JB171
4J029JB193
4J029JC091
4J029JC231
4J029JC261
4J029JC431
4J029JC533
4J029JC731
4J029JF021
4J029JF031
4J029JF041
4J029JF051
4J029JF131
4J029JF141
4J029JF151
4J029JF161
4J029KD02
4J029KD07
4J029KE02
4J029KE05
(57)【要約】      (修正有)
【課題】植物由来原料から構成されており、透明性、光学特性、耐熱性、耐傷つき性に優れた表面保護フィルムを提供する。
【解決手段】ポリカーボネート樹脂を含有し、厚みが21μm以上の表面保護フィルムである。ポリカーボネート樹脂が、下記式(1)で表される構造単位(A)と脂環式ジヒドロキシ化合物からなる構造単位(B)とを含む。ポリカーボネート樹脂中の構造単位(A)の含有率が65モル%以上、85モル%以下である。

【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネート樹脂を含有する表面保護フィルムであって、
前記ポリカーボネート樹脂が、下記式(1)で表される構造単位(A)と下記式(2)で表される構造単位(B)とを含み、
前記ポリカーボネート樹脂中の前記構造単位(A)の含有率が65モル%以上、85モル%以下であり、
厚みが21μm以上である、表面保護フィルム。
【化1】
【化2】
【請求項2】
全光線透過率が90%以上であり、ヘイズが1.0%以下である、請求項1に記載の表面保護フィルム。
【請求項3】
波長360nmの光線透過率が60%以上である、請求項1又は2に記載の表面保護フィルム。
【請求項4】
吸水率が3.0%以下である、請求項1又は2に記載の表面保護フィルム。
【請求項5】
光弾性係数が14×10-12Pa-1未満である、請求項1又は2に記載の表面保護フィルム。
【請求項6】
前記ポリカーボネート樹脂のガラス転移温度が125℃以上、150℃以下である、請求項1又は2に記載の表面保護フィルム。
【請求項7】
前記ポリカーボネート樹脂の20℃における還元粘度が0.20以上、0.70以下である、請求項1又は2に記載の表面保護フィルム。
【請求項8】
前記ポリカーボネート樹脂100重量部中のホスファイト系化合物の含有量が0.04重量部以下である、請求項1又は2に記載の表面保護フィルム。
【請求項9】
無延伸フィルムである、請求項1又は2に記載の表面保護フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ポリカーボネート樹脂を含有する表面保護フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
パソコンやスマートフォン、タブレット端末などの表示装置として、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイが広く用いられている。従来、ディスプレイの表面保護フィルムとして機械的強度や透明性の観点から、ポリエチレンテレフタレート樹脂やポリカーボネート樹脂などが使用されてきたが、一般的に石油資源から誘導される原料を用いて製造されており、石油資源の枯渇が危惧されていることから、カーボンニュートラルな植物由来モノマーを原料としたプラスチックの開発が求められている。そのような状況の中、近年、植物由来原料であるイソソルバイド(以下、「ISB」と称する場合がある。)を用いて製造されたポリカーボネート樹脂が開発され、自動車用部品用途や光学用途へ応用されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0003】
ディスプレイの高品質化や薄肉化が進むにしたがい、表面保護フィルムには傷や汚れの防止だけでなく、部材の支持体としての役割も求められるため、バイオマス資源からなる弾性率の大きい表面保護フィルムの開発がされている。また、偏光子保護として光学的歪みの小さい薄膜の保護フィルムの開発がされている。さらには、光学検査用に貼り合わせ時および剥離時の操作性を考慮した、可撓性に優れた保護フィルムも開発されている。(例えば、特許文献3~5参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2004/111106号
【特許文献2】国際公開第2007/148604号
【特許文献3】特開2009-079190号公報
【特許文献4】特開2015-194754号公報
【特許文献5】特開2020-33418号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の従来の保護フィルムは、硬く脆い。そのため、耐傷つき性に改良の余地があるとともに、耐熱性にも改良の余地があった。
【0006】
本発明は、かかる背景に鑑みてなされたものであり、植物由来原料から構成されており、透明性、光学特性、耐熱性、耐傷つき性に優れた表面保護フィルムを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
即ち、本発明は、以下の態様を有するものである。
[1]ポリカーボネート樹脂を含有する表面保護フィルムであって、
前記ポリカーボネート樹脂が、下記式(1)で表される構造単位(A)と下記式(2)で表される構造単位(B)とを含み、
前記ポリカーボネート樹脂中の前記構造単位(A)の含有率が65モル%以上、85モル%以下であり、
厚みが21μm以上である、表面保護フィルム。
【0008】
【化1】
【0009】
【化2】
【0010】
[2]全光線透過率が90%以上であり、ヘイズが1.0%以下である、[1]に記載の表面保護フィルム。
[3]波長360nmの光線透過率が60%以上である、[1]又は[2]に記載の表面保護フィルム。
[4]吸水率が3.0%以下である、[1]~[3]のいずれかに記載の表面保護フィルム。
【0011】
[5]光弾性係数が14×10-12Pa-1未満である、[1]~[4]のいずれかに記載の表面保護フィルム。
[6]前記ポリカーボネート樹脂のガラス転移温度が125℃以上、150℃以下である、[1]~[5]のいずれかに記載の表面保護フィルム。
[7]前記ポリカーボネート樹脂の20℃における還元粘度が0.20以上、0.70以下である、[1]~[6]のいずれかに記載の表面保護フィルム。
【0012】
[8]前記ポリカーボネート樹脂100重量部中のホスファイト系化合物の含有量が0.04重量部以下である、[1]~[7]のいずれかに記載の表面保護フィルム。
[9]無延伸フィルムである、[1]~[8]のいずれかに記載の表面保護フィルム。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、植物由来原料から構成されており、透明性、光学特性、耐熱性、耐傷つき性に優れた表面保護フィルムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成の説明は、本発明の実施態様の一例(つまり、代表例)であり、本発明はその要旨を超えない限り、以下の内容に限定されない。本明細書において「繰り返し構造単位」とは、樹脂中で同じ構造が繰り返し現れる構造単位であって、それぞれが連結することで当該樹脂を構成するような構造単位を意味する。例えば、ポリカーボネート樹脂の場合、カルボニル基も含めて繰り返し構造単位と呼称する。また、「構造単位」とは、樹脂を構成する部分構造であって、繰り返し構造単位に含まれる特定の部分構造のことを意味する。例えば、樹脂中で隣り合う連結基に挟まれた部分構造や、重合体の末端部分に存在する重合反応性基と、該重合性反応基に隣り合う連結基とに挟まれた部分構造を言う。より具体的には、ポリカーボネート樹脂の場合、カルボニル基が連結基であって、隣り合うカルボニル基に挟まれた部分構造のことを構造単位と呼称する。また、本明細書において「~」という表現を用いる場合、その前後に記載される数値あるいは物理値を含む意味で用いることとする。また、上限、下限として記載した数値あるいは物理値は、その値を含む意味で用いることとする。また、「重量部」と「質量部」、「重量%」と「質量%」は、それぞれ実質的に同義である。
【0015】
前記表面保護フィルムは、ポリカーボネート樹脂を含有する。
【0016】
<ポリカーボネート樹脂>
ポリカーボネート樹脂は、下記式(1)で表される構造単位(A)を含む。
【0017】
【化3】
【0018】
前記式(1)の構造単位を形成するジヒドロキシ化合物(以下、「第1化合物」と称する。)としては、立体異性体の関係にある、イソソルビド、イソマンニド、イソイデットが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、入手及び製造のし易さ、光学特性、成形性の面からイソソルビドが最も好ましい。イソソルビドは、ソルビトールを脱水縮合して得られ、ソルビトールは、植物由来の資源として豊富に存在し、容易に入手可能な種々のデンプンから製造される。
【0019】
ポリカーボネート樹脂において、構造単位(A)の含有割合は、ポリカーボネート樹脂中の全ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位に対して65モル%以上である。65モル%未満の場合には、ポリカーボネート樹脂のガラス転移温度が低くなり、表面保護フィルムの耐熱性が不十分になるおそれがある。耐熱性がより向上する観点から、構造単位(A)の含有割合は、ポリカーボネート樹脂中の全ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位に対して70モル%以上であることが好ましい。また、構造単位(A)の含有割合は、ポリカーボネート樹脂中の全ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位に対して85モル%以下である。85モル%を超える場合には、光弾性係数が高くなりすぎて、表面保護フィルムの光学特性が悪くなるおそれがある。また、この場合には、飽和吸水率が高くなり、表面保護フィルムの吸水による寸法安定性が損なわれるおそれがある。また、例えば、繰り返し構造単位(A)のみで構成されるポリカーボネート樹脂(つまり、第1化合物の重合体からなるポリカーボネート樹脂)では達成が困難な、成形加工性、機械的強度及び耐熱性をバランスよく向上させることができるという観点からも、構造単位(A)の含有割合は、ポリカーボネート樹脂中の全ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位に対して85モル%以下であることがよい。光学特性及び寸法安定性がより向上する観点、成形加工性、機械的強度及び耐熱性がさらにバランスよく向上する観点から、構造単位(A)の含有割合は、ポリカーボネート樹脂中の全ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位に対して80モル%以下であることが好ましい。
【0020】
また、ポリカーボネート樹脂は、下記式(2)で表される構造単位(B)を含むポリカーボネート樹脂である。
【0021】
【化4】
【0022】
前記式(2)の構造単位を形成するジヒドロキシ化合物(以下、「第2化合物」と称する。)としては、脂環式ジヒドロキシ化合物であるトリシクロデカンジメタノールが挙げられる。
【0023】
ポリカーボネート樹脂において、構造単位(B)の含有割合は、ポリカーボネート樹脂中の全ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位に対して20モル%以上が好ましく、30モル%以上がより好ましい。また、15モル%以下が好ましく、10モル%以下がより好ましい。これらの場合には、優れた耐熱性を維持しつつ、表面保護フィルムの光学特性を向上させることができる。
【0024】
ポリカーボネート樹脂は、第1化合物由来の構造単位(A)と第2化合物由来の構造単位(B)とを含む。ポリカーボネート樹脂は、第1化合物及び第2化合物以外のジヒドロキシ化合物(以下、「第3化合物」と称する。)由来の構造単位や、ジヒドロキシ化合物以外の化合物由来の構造単位を含んでもよい。第3化合物としては、脂肪族炭化水素のジヒドロキシ化合物、脂環式炭化水素のジヒドロキシ化合物、エーテル含有ジヒドロキシ化合物、アセタール環を含有するジヒドロキシ化合物が好適に挙げられる。
【0025】
脂肪族炭化水素のジヒドロキシ化合物としては、例えば、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,2-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ヘプタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、1,12-ドデカンジオール等の直鎖脂肪族ジヒドロキシ化合物;1,3-ブタンジオール、1,2-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ヘキシレングリコール等の分岐鎖を有する脂肪族ジヒドロキシ化合物が挙げられる。
【0026】
脂環式炭化水素のジヒドロキシ化合物としては、例えば、1,2-シクロヘキサンジメタノール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール、ペンタシクロペンタデカンジメタノール、2,6-デカリンジメタノール、1,5-デカリンジメタノール、2,3-デカリンジメタノール、2,3-ノルボルナンジメタノール、2,5-ノルボルナンジメタノール、1,3-アダマンタンジメタノール、リモネン等のテルペン化合物から誘導されるジヒドロキシ化合物等に例示される、脂環式炭化水素の1級アルコールであるジヒドロキシ化合物;1,2-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,3-アダマンタンジオール、水添ビスフェノールA、2,2,4,4-テトラメチル-1,3-シクロブタンジオール等に例示される、脂環式炭化水素の2級アルコール又は3級アルコールであるジヒドロキシ化合物が挙げられる。
【0027】
エーテル含有ジヒドロキシ化合物としては、オキシアルキレングリコール類が挙げられる。オキシアルキレングリコール類としては、例えば、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等を用いることができる。
【0028】
アセタール環(つまり、環状アセタール構造)を含有するジヒドロキシ化合物としては、例えば、スピログリコール(別名:3,9-ビス(1,1-ジメチル-2-ヒドロキシエチル-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン)、ジオキサングリコール(別名:2-(1,1-ジメチル-2-ヒドロキシエチル)-5-エチル-5-ヒドロキシメチルー1,3-ジオキサン)が挙げられる。
【0029】
また、第3化合物としては、ビスフェノール化合物などの芳香族基を含有するジヒドロキシ化合物、ジエステル化合物等を用いることができる。ジエステル化合物に由来する構造単位を部分的に組み込んだポリカーボネート樹脂はポリエステルカーボネート樹脂と称される。つまり、本明細書におけるポリカーボネート樹脂はポリエステルカーボネート樹脂を包含する概念である。
【0030】
ビスフェノール化合物などの芳香族基を含有するジヒドロキシ化合物やジエステル化合物を共重合成分に用いることにより、表面保護フィルムの耐熱性を向上できる場合がある。一方で、ポリカーボネート樹脂に芳香族基を含有するジヒドロキシ化合物に由来する構造単位が多く含まれる場合には、耐候性が低下する傾向にある。また、芳香族基を含有するジヒドロキシ化合物やジエステル化合物と、第1化合物及び第2化合物とは、重合反応性に大きな差がある。そのため、芳香族基を含有するジヒドロキシ化合物やジエステル化合物が末端基として残存し、高い分子量のポリカーボネート樹脂が得られ難くなり、耐衝撃性が低下する傾向がある。反応を促進させるために反応温度を高くすると、構造単位(A)が熱分解し、得られるポリカーボネート樹脂が着色する傾向にある。これらの理由により、ポリカーボネート樹脂における芳香族基を含有するジヒドロキシ化合物やジエステル化合物に由来する構造単位の含有割合は、10重量%以下が好ましく、5重量%以下がより好ましい。
【0031】
芳香族基を含有するジヒドロキシ化合物としては、例えば、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジエチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-(3-フェニル)フェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-(3,5-ジフェニル)フェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジブロモフェニル)プロパン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ペンタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-2-エチルヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)デカン、ビス(4-ヒドロキシ-3-ニトロフェニル)メタン、3,3-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ペンタン、1,3-ビス(2-(4-ヒドロキシフェニル)-2-プロピル)ベンゼン、1,3-ビス(2-(4-ヒドロキシフェニル)-2-プロピル)ベンゼン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン、2,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)スルフィド、ビス(4-ヒドロキシフェニル)ジスルフィド、4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジクロロジフェニルエーテル等の芳香族ビスフェノール化合物;2,2-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(2-ヒドロキシプロポキシ)フェニル)プロパン、1,3-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、4,4’-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)ビフェニル、ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)スルホン等の芳香族基に結合したエーテル基を有するジヒドロキシ化合物;9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシプロポキシ)フェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-メチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシプロポキシ)-3-メチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-イソプロピルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-イソブチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-tert-ブチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-シクロヘキシルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3,5-ジメチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-tert-ブチル-6-メチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(3-ヒドロキシ-2,2-ジメチルプロポキシ)フェニル)フルオレン等のフルオレン環を有するジヒドロキシ化合物が挙げられる。
【0032】
ジエステル化合物としては、例えば、以下に示すジカルボン酸が挙げられる。具体的には、テレフタル酸、フタル酸、イソフタル酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’-ベンゾフェノンジカルボン酸、4,4’-ジフェノキシエタンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルスルホンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸;1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸;マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸が挙げられる。尚、これらのジカルボン酸成分はジカルボン酸そのものとしてポリエステルカーボネート樹脂の原料とすることができるが、ポリエステルカーボネート樹脂の製造法に応じて、適宜、メチルエステル体、フェニルエステル体等のジカルボン酸エステルや、ジカルボン酸ハライド等のジカルボン酸誘導体を原料とすることもできる。
【0033】
ポリカーボネート樹脂の原料に用いられるジヒドロキシ化合物は、還元剤、抗酸化剤、脱酸素剤、光安定剤、制酸剤、pH安定剤、熱安定剤等の各種安定剤を含んでいてもよい。特に、第1化合物は、酸性状態において変質しやすい性質を有するため、ポリカーボネート樹脂の製造工程において塩基性安定剤を使用することにより、第1化合物の変質を抑制することができる。これにより得られるポリカーボネート樹脂の品質をより向上させることができる。
【0034】
ポリカーボネート樹脂の原料に用いられる炭酸ジエステルとしては、通常、下記式(3)で表される化合物が挙げられる。これらの炭酸ジエステルは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0035】
【化5】
【0036】
前記式(3)において、A1及びA2は、各々独立に、置換もしくは無置換の炭素数1~18の脂肪族炭化水素基又は置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基である。A1とA2とは同一であっても異なっていてもよい。A1及びA2は、置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基であることが好ましく、無置換の芳香族炭化水素基であることがより好ましい。
式(3)で表される炭酸ジエステルとしては、例えば、ジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート等の置換ジフェニルカーボネート;ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ-t-ブチルカーボネート等が例示される。好ましくはジフェニルカーボネート、置換ジフェニルカーボネートであり、より好ましくはジフェニルカーボネートである。
【0037】
炭酸ジエステルは、塩化物イオンなどの不純物を含む場合があり、不純物が重縮合反応を阻害したり、得られるポリカーボネート樹脂の色調を悪化させたりする場合がある。そのため、必要に応じて、蒸留などにより精製した炭酸ジエステルを使用することが好ましい。
【0038】
<ポリカーボネート樹脂の製造方法>
ポリカーボネート樹脂は、前述したジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルをエステル交換反応により重縮合させることにより合成できる。より詳細には、重縮合と共に、エステル交換反応において副生するモノヒドロキシ化合物等を系外に除去することによってポリカーボネート樹脂を得ることができる。
【0039】
エステル交換反応は、エステル交換反応触媒(以下、エステル交換反応触媒を「重合触媒」と称する)の存在下で進行する。重合触媒の種類は、エステル交換反応の反応速度及び得られるポリカーボネート樹脂の品質に非常に大きな影響を与え得る。
【0040】
重合触媒としては、所望のポリカーボネート樹脂の透明性、色調、耐熱性、耐候性、機械的強度を満足させ得るものであれば特に制限はない。重合触媒としては、例えば、長周期型周期表における第I又は第II族(以下、それぞれ「1族」、「2族」と表記する。)の金属化合物、並びに塩基性ホウ素化合物、塩基性リン化合物、塩基性アンモニウム化合物、アミン系化合物等の塩基性化合物を使用することができ、中でも1族金属化合物及び/又は2族金属化合物が好ましい。
【0041】
1族金属化合物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化セシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素リチウム、炭酸水素セシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム、炭酸セシウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸リチウム、酢酸セシウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸セシウム、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウム、水素化ホウ素リチウム、水素化ホウ素セシウム、フェニル化ホウ素ナトリウム、フェニル化ホウ素カリウム、フェニル化ホウ素リチウム、フェニル化ホウ素セシウム、安息香酸ナトリウム、安息香酸カリウム、安息香酸リチウム、安息香酸セシウム、リン酸水素2ナトリウム、リン酸水素2カリウム、リン酸水素2リチウム、リン酸水素2セシウム、フェニルリン酸2ナトリウム、フェニルリン酸2カリウム、フェニルリン酸2リチウム、フェニルリン酸2セシウムが挙げられる。また、1族金属化合物としては、例えば、ナトリウム、カリウム、リチウム、セシウムのアルコレートあるいはフェノレート;ビスフェノールAの2ナトリウム塩、2カリウム塩、2リチウム塩、あるいは2セシウム塩が挙げられる。重合活性や得られるポリカーボネート樹脂の色調の観点から、1族金属化合物としてはリチウム化合物が好ましい。
【0042】
2族金属化合物としては、例えば、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化マグネシウム、水酸化ストロンチウム、炭酸水素カルシウム、炭酸水素バリウム、炭酸水素マグネシウム、炭酸水素ストロンチウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム、炭酸ストロンチウム、酢酸カルシウム、酢酸バリウム、酢酸マグネシウム、酢酸ストロンチウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸ストロンチウムが挙げられる。重合活性と得られるポリカーボネート樹脂の色調の観点から、2族金属化合物としては、マグネシウム化合物、カルシウム化合物、バリウム化合物が好ましく、マグネシウム化合物及び/又はカルシウム化合物がより好ましく、カルシウム化合物が最も好ましい。
【0043】
尚、前記の1族金属化合物及び/又は2族金属化合物と共に補助的に、塩基性ホウ素化合物、塩基性リン化合物、塩基性アンモニウム化合物、アミン系化合物等の塩基性化合物を併用することも可能であるが、1族金属化合物及び/又は2族金属化合物のみを使用することがさらに好ましい。得られるポリカーボネート樹脂の色調の観点から、2族金属化合物のみを使用することが最も好ましい。
【0044】
塩基性ホウ素化合物としては、例えば、テトラメチルホウ素、テトラエチルホウ素、テトラプロピルホウ素、テトラブチルホウ素、トリメチルエチルホウ素、トリメチルベンジルホウ素、トリメチルフェニルホウ素、トリエチルメチルホウ素、トリエチルベンジルホウ素、トリエチルフェニルホウ素、トリブチルベンジルホウ素、トリブチルフェニルホウ素、テトラフェニルホウ素、ベンジルトリフェニルホウ素、メチルトリフェニルホウ素、ブチルトリフェニルホウ素等の金属塩が挙げられる。金属塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩、カルシウム塩、バリウム塩、マグネシウム塩、ストロンチウム塩等が挙げられる。
【0045】
塩基性リン化合物としては、例えば、トリエチルホスフィン、トリ-n-プロピルホスフィン、トリイソプロピルホスフィン、トリ-n-ブチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィン、四級ホスホニウム塩が挙げられる。
【0046】
塩基性アンモニウム化合物としては、例えば、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルエチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルメチルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、テトラフェニルアンモニウムヒドロキシド、ベンジルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド、メチルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド、ブチルトリフェニルアンモニウムヒドロキシドが挙げられる。
【0047】
アミン系化合物としては、4-アミノピリジン、2-アミノピリジン、N,N-ジメチル-4-アミノピリジン、4-ジエチルアミノピリジン、2-ヒドロキシピリジン、2-メトキシピリジン、4-メトキシピリジン、2-ジメチルアミノイミダゾール、2-メトキシイミダゾール、イミダゾール、2-メルカプトイミダゾール、2-メチルイミダゾール、アミノキノリン、グアニジンが挙げられる。
【0048】
重合触媒の使用量は、反応に使用する全ジヒドロキシ化合物1mol当たり0.1μmol以上が好ましく、0.3μmol以上がより好ましく、0.5μmol以上がさらに好ましい。また、重合触媒の使用量は、反応に使用した全ジヒドロキシ化合物1mol当たり300μmol以下が好ましく、100μmol以下がより好ましく、50μmol以下がさらに好ましい。
【0049】
重合触媒の使用量を前述の範囲に調整することにより、重合速度を高めることができるため、重合温度を必ずしも高くすることなく、所望の分子量のポリカーボネート樹脂を得ることが可能になるため、ポリカーボネート樹脂の色調の悪化を抑制することができる。また、未反応の原料が重合途中で揮発してジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルのモル比率が崩れてしまうことを防止することができるため、所望の分子量と共重合比率の樹脂をより確実に得ることができる。さらに、副反応の併発を抑制することができるため、ポリカーボネート樹脂の色調の悪化又は成形加工時の着色をより一層防止することができる。
【0050】
ナトリウム、カリウム、セシウム、鉄がポリカーボネート樹脂の色調へ与える悪影響を考慮すると、ポリカーボネート樹脂中のナトリウム、カリウム、セシウム、及び鉄の合計含有量は、1重量ppm以下であることが好ましい。この場合には、ポリカーボネート樹脂の色調の悪化をより一層防止することができ、ポリカーボネート樹脂の色調をより一層良好なものにすることができる。同様の観点から、ポリカーボネート樹脂中のナトリウム、カリウム、セシウム、及び鉄の合計含有量は、0.5重量ppm以下であることがより好ましい。尚、これらの金属は使用する触媒からのみではなく、原料や反応装置から混入する場合がある。出所にかかわらず、ポリカーボネート樹脂中のこれらの金属やこれらの金属を含む化合物の合計量は、ナトリウム、カリウム、セシウム及び鉄の合計の含有量として、前述の範囲にすることが好ましい。
【0051】
ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルは、エステル交換反応前にそれぞれ単独に溶融させるか、均一に混合させることが好ましい。溶融、又は混合の温度は、通常80℃以上、好ましくは90℃以上であり、通常200℃以下、好ましくは150℃以下、より好ましくは120℃以下であることがよい。この場合には、溶解速度を高めたり、溶解度を十分に向上させたりすることができ、固化等の不具合を十分に回避することができる。さらに、この場合には、ジヒドロキシ化合物の熱劣化を十分に抑制することができ、得られるポリカーボネート樹脂の色調に代表される品質をより一層良好なものにすることができる。
【0052】
ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルを溶融又は混合は、所定範囲内の酸素濃度雰囲気下で行われる。この酸素濃度は、10vol%以下が好ましい。より好ましくは0.0001vol%以上10vol%以下であり、さらに好ましくは0.0001vol%以上5vol%以下、さらにより好ましくは0.0001vol%以上1vol%以下がよい。この場合には、色調をより良好なものにすることができると共に、反応性を高めることができる。
【0053】
ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとを重縮合させる方法は、前述の触媒存在下、複数の反応器を用いて多段階で実施される。反応の形式は、バッチ式、連続式、あるいはバッチ式と連続式の組み合わせの方法があるが、より少ない熱履歴でポリカーボネート樹脂が得られ、生産性にも優れているという観点から、連続式を採用することが好ましい。
【0054】
重合速度の制御、得られるポリカーボネート樹脂の品質の観点から、反応段階に応じてジャケット温度と内温、反応系内の圧力を適切に選択することが好ましい。具体的には、重縮合反応の反応初期においては相対的に低温、低真空でプレポリマーを得、反応後期においては相対的に高温、高真空で所定の値まで分子量を上昇させることが好ましい。この場合には、未反応のモノマーの留出を抑制し、ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとのモル比率を所望の比率に調整し易くなる。その結果、重合速度の低下を抑制するこができる。また、所望の分子量や末端基を持つポリマーをより確実に得ることが可能になる。
【0055】
重合触媒は、原料調製槽や原料貯槽に添加することもできるし、重合反応器に直接添加することもできる。供給の安定性、重縮合反応の制御の観点からは、重合反応器に供給される前の原料ラインの途中に触媒供給ラインを設置し、水溶液で重合触媒を供給することが好ましい。
【0056】
重縮合反応の温度を調整することにより、生産性の向上や製品への熱履歴の増大の回避が可能になる。さらに、モノマーの揮散、ポリカーボネート樹脂の分解や着色をより一層防止することが可能になる。具体的には、第1段目の反応における反応条件としては、以下の条件を採用することができる。即ち、重合反応器の内温の最高温度は、通常160~230℃、好ましくは170~220℃、より好ましくは180~210℃の範囲で設定する。また、重合反応器の圧力(以下、圧力とは絶対圧力を表す)は、通常1~110kPa、好ましくは5~50kPa、より好ましくは7~30kPaの範囲で設定する。また、反応時間は、通常0.1~10時間、好ましくは1~5時間の範囲で設定する。第1段目の反応は、発生するモノヒドロキシ化合物を反応系外へ留去しながら実施されることが好ましい。
【0057】
第2段目以降は、反応系の圧力を第1段目の圧力から徐々に下げ、引き続き発生するモノヒドロキシ化合物を反応系外へ除きながら、最終的には反応系の圧力(絶対圧力)を1kPa以下にすることが好ましい。また、重合反応器の内温の最高温度は、通常200~260℃、好ましくは210~240℃、より好ましくは215~230℃の範囲で設定する。また、反応時間は、通常0.1~10時間、好ましくは0.5~5時間、より好ましくは1~3時間の範囲で設定する。
【0058】
ポリカーボネート樹脂は、前述のとおり重合させた後、通常、冷却固化させ、回転式カッター等でペレット化することができる。ペレット化の方法は限定されるものではないが、最終段の重合反応器から溶融状態で抜き出し、ストランドの形態で冷却固化させてペレット化させる方法、最終段の重合反応器から溶融状態のポリカーボネート樹脂を一軸又は二軸の押出機に供給し、押出した後、冷却固化させてペレット化させる方法、又は、最終段の重合反応器から溶融状態のポリカーボネート樹脂を抜き出し、ストランドの形態で冷却固化させて一旦ペレット化させた後に、再度一軸又は二軸の押出機にポリカーボネート樹脂を供給し、溶融押出しした後、冷却固化させてペレット化させる方法等が挙げられる。
【0059】
ポリカーボネート樹脂が表面保護フィルムに好適に用いられるためには、ポリカーボネート樹脂は異物の含有が少ないことが好ましい。そのため、前述のように溶融重縮合して得られたポリカーボネート樹脂中のヤケ部分やゲル等の異物を除去するために、フィルターを用いて濾過を行うことが好ましい。より具体的には、残存モノマーや副生フェノール等を減圧脱揮により除去し、熱安定剤等の添加剤を混合するために、ポリカーボネート樹脂を前記のベント式二軸押出機で溶融押出した後、フィルターで濾過することが好ましい。
【0060】
フィルターの形態としては、キャンドル型、プリーツ型、リーフディスク型等の公知のものが使用できる。フィルターの目開きは、99%の濾過精度を得るために、好ましくは50μm以下、より好ましくは40μm以下、更に好ましくは20μm以下である。異物を特に低減させたい場合にはフィルターの目開きは10μm以下が特に好ましいが、目開きが小さくなるとフィルターでの圧力損失が増大して、フィルターの破損を招いたり、剪断発熱によりポリカーボネート樹脂が劣化したりする可能性があるため、99%の濾過精度とする場合であっても、フィルターの目開きは1μm以上であることが好ましい。なお、フィルターの目開きはISO16889:1999に準拠して決定されるものである。
【0061】
フィルターで濾過されたポリカーボネート樹脂は、ダイスヘッドからストランドの形態で吐出され、冷却固化され、回転式カッター等でペレット化される。ポリカーボネート樹脂が直接外気と触れるストランド化、ペレット化は、外気からの異物混入を防止するために、好ましくはJISB 9920-1:2019に定義されるクラス7、より好ましくはクラス6より清浄度の高いクリーンルーム中で実施されることが好ましい。
【0062】
ペレット化の際には、空冷、水冷等の冷却方法を使用することが好ましい。空冷を行う場合には、空気中の異物の再付着を防ぐ観点から、空冷の際に使用する空気として、ヘパフィルター等で空気中の異物を事前に取り除いた空気を使用することが好ましい。水冷を行う場合には、水冷の際に使用する水として、イオン交換ポリカーボネート樹脂等で水中の金属分を取り除き、さらに水用フィルターにて水中の異物を取り除いた水を使用することが好ましい。99%除去の濾過精度を得るために、水用フィルターの目開きは10~0.45μmであることが好ましい。
【0063】
<添加剤>
表面保護フィルムは、ポリカーボネート樹脂以外にも、添加剤などの他成分を含んでいてもよい。
【0064】
ポリカーボネート樹脂は、添加剤として触媒失活剤を含んでいてもよい。触媒失活剤としては、酸性物質で、重合触媒の失活機能を有するものであれば特に限定されない。触媒失活と着色抑制の効果が優れているという観点から、触媒失活剤としてはリン系酸性化合物が好ましく、ホスホン酸(亜リン酸)、ホスホン酸エステルがより好ましく、ホスホン酸(亜リン酸)がさらに好ましい。
【0065】
リン系酸性化合物の含有量を重合触媒の量に応じて調節することにより、触媒失活や着色抑制の効果をより確実に得ることができ、表面保護フィルムの光学特性をより向上させることができる。リン系酸性化合物の含有量は、重合触媒の金属原子1molに対して、リン原子の量として0.5倍mol以上とすることが好ましく、0.7倍mol以上がより好ましく、0.8倍以上がさらに好ましい。また、5倍mol以下とすることが好ましく、3倍mol以下がより好ましく、1.5倍mol以下とすることがさらに好ましい。
【0066】
触媒失活剤以外の他の添加剤としては、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、フィラーなどの充填剤、中和剤、滑剤、防曇剤、アンチブロッキング剤、スリップ剤、分散剤、着色剤、難燃剤、帯電防止剤、導電性付与剤、架橋剤、架橋助剤、金属不活性化剤、分子量調整剤、防菌剤、防黴材、蛍光増白剤、有機拡散剤や無機拡散剤等の光拡散剤等が挙げられる。本開示の効果を損なわない範囲でこれらの添加剤を用いることができる。
【0067】
成形時等における分子量の低下や色相の悪化を防止するために熱安定剤の1種又は2種以上が配合されていてもよい。熱安定剤としては、ホスファイト系化合物やフェノール系化合物が好ましく、ホスファイト系化合物がより好ましい。
ホスファイト系化合物としては、トリフェニルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、トリデシルホスファイト、トリオクチルホスファイト、トリオクタデシルホスファイト、ジデシルモノフェニルホスファイト、ジオクチルモノフェニルホスファイト、ジイソプロピルモノフェニルホスファイト、モノブチルジフェニルホスファイト、モノデシルジフェニルホスファイト、モノオクチルジフェニルホスファイト、ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、2,2-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト等が挙げられる。
これらの中でも、トリスノニルフェニルホスファイト、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、ビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトが好ましく使用される。これらの化合物は1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0068】
ただし、熱安定剤であるホスファイト系化合物が成形時にブリードアウトし、製膜ロールを汚染したり、フィルム表面を汚染する可能性があるため、ポリカーボネート樹脂100重量部中のホスファイト系化合物の含有量は、0.04重量部以下であることが好ましく、0.02重量部以下であることがより好ましく、0.01重量部以下であることがさらに好ましい。
【0069】
また、本開示の効果を損なわない範囲で、例えば芳香族ポリエステル、脂肪族ポリエステル、ポリアミド、ポリスチレン、ポリオレフィン、アモルファスポリオレフィン、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂)、アクリロニトリル-スチレン共重合体(AS樹脂)などの合成樹脂;アクリルゴム、ブタジエンゴム等のエラストマー;ポリ乳酸、ポリブチレンスクシネートなどの生分解性樹脂などから選択される1種以上と前述のポリカーボネート樹脂とを混練することができる。つまり、ポリカーボネート樹脂はポリマーアロイであってもよい。
【0070】
<ポリカーボネート樹脂の物性>
(ガラス転移温度)
ポリカーボネート樹脂のガラス転移温度は、好ましくは125℃以上、150℃以下であり、より好ましくは127℃以上、145℃以下である。この場合には、表面保護フィルムが十分な耐熱性を示す。ポリカーボネート樹脂のガラス転移温度は、ポリカーボネート樹脂を構成するモノマー組成(つまり、構造単位の組成)により制御される。たとえば、ポリカーボネート樹脂における構造単位Aの含有割合を増やすにつれて、ガラス転移温度は高くなる傾向にある。
【0071】
(分子量:還元粘度)
ポリカーボネート樹脂の分子量は、例えば、還元粘度などにより測定される数平均分子量で表される。これらの測定法により得られる値は、数値が高いほど分子量が大きいことを示す。ポリカーボネート樹脂の還元粘度は、0.20dL/g以上が好ましく、0.30dL/g以上がより好ましい。この場合には、表面保護フィルムの機械的強度をより向上させることができる。一方、還元粘度は、0.70dL/g以下が好ましく、0.65dL/g以下がより好ましい。この場合には、成形時の流動性を向上させることができ、生産性や成形性をより向上させることができる。還元粘度の測定方法の詳細は実施例において説明する。
【0072】
<表面保護フィルムの製造方法>
ポリカーボネート樹脂を用いて、表面保護フィルムを製膜する方法としては、ポリカーボネート樹脂を溶媒に溶解させてキャストした後、溶媒を除去する流延法や、溶媒を用いずにポリカーボネート樹脂を溶融させて製膜する溶融製膜法を採用することができる。溶融製膜法としては、具体的にはTダイを用いた溶融押出法、カレンダー成形法、熱プレス法、共押出法、共溶融法、多層押出、インフレーション成形法等がある。フィルムの製膜方法は特に限定されないが、好ましくは溶融製膜法、中でもTダイを用いた溶融押出法がより好ましい。
【0073】
溶融製膜法によりフィルムを成形する場合、成形温度を280℃以下とすることが好ましく、270℃以下とすることがより好ましく、265℃以下とすることがさらに好ましい。成形温度が高過ぎるとフィルム中に異物や気泡が発生し、フィルム中の欠陥が増加したり、フィルムが着色したりする可能性がある。一方、成形温度が低過ぎるとポリカーボネート樹脂の溶融粘度が高くなりすぎ、フィルムの成形が困難となり、厚みの均一なフィルムを製造することが困難になる可能性がある。これを回避する観点から、成形温度の下限は通常200℃以上、好ましくは210℃以上、より好ましくは220℃以上である。ここで、フィルムの成形温度とは、溶融製膜法における成形時の温度であって、通常、溶融ポリカーボネート樹脂を押し出すダイス出口のポリカーボネート樹脂温度を測定した値である。
【0074】
また、フィルム中に異物が存在すると、表面保護フィルムなどの光学フィルムとして用いられた場合に光抜け等の欠点として認識され、視認性が低下する。ポリカーボネート樹脂中の異物を除去するために、押出機の後にポリマーフィルターを取り付け、ポリカーボネート樹脂を濾過した後に、ダイスから押し出してフィルムを成形することが好ましい。その際、押出機やポリマーフィルター、ダイスを配管でつなぎ、溶融ポリカーボネート樹脂を移送する必要があるが、配管内での熱劣化を極力抑制するため、滞留時間が最短になるように各設備を配置することが好ましい。また、押出後のフィルムの搬送や巻き取りの工程はクリーンルーム内で行い、フィルムに異物が付着しないように細心の注意が求められる。
【0075】
<表面保護フィルムの物性>
表面保護フィルムの厚みは、21μm以上である。厚みが21μm未満の場合には、耐傷つき性が不十分になるおそれがある。表面保護フィルムの耐傷つき性がより向上する観点から、厚みは30μm以上が好ましく、50μm以上がより好ましい。また、ロール状に巻き取って保存した場合に巻き癖による平面不良が発生した少なるという観点から、表面保護フィルムの厚みは、300μm以下が好ましく、250μm以下がより好ましく、200μm以下がさらに好ましい。
【0076】
表面保護フィルムの長手方向の長さは500m以上であることが好ましく、1000m以上がより好ましく、1500m以上がさらに好ましい。生産性や品質の観点から、表面保護フィルムの製造は連続で行われることが好ましい。なお、本明細書において「長尺」とは、フィルムの幅方向よりも長手方向の寸法が十分に大きいことを意味し、実質的には長手方向に巻回してコイル状にできる程度のものを意味する。より具体的には、フィルムの長手方向の寸法が幅方向の寸法よりも10倍以上大きいものを意味する。また、本発明の目的を損なわない範囲で得られたフィルムを延伸してもよい。延伸方法としては、公知の方法が用いられ、例えば、縦一軸延伸、テンター等を用いる横一軸延伸、固定端一軸延伸が用いられる。また、これらの延伸を組み合わせた同時二軸延伸、逐次二軸延伸等が用いられる。延伸はバッチ式で行ってもよいが、連続で行うことが生産性において好ましい。
【0077】
表面保護フィルムは、無延伸フィルムであることが好ましい。例えば延伸法により作製された延伸フィルムの場合には、複屈折により虹ムラが生じ、視認性が低下するおそれがある。
【0078】
表面保護フィルムは、全光線透過率が90%以上であることが好ましく、91%以上であることがより好ましく、92%以上であることがさらに好ましい。また、表面保護フィルムの波長360nmの光線透過率は60%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましく、80%以上であることがさらに好ましい。これらの場合には、液晶ディスプレイの光源や有機ELディスプレイの発光量を低くすることができ、消費電力を低減し、表示装置の発熱を抑制でき、耐久性を向上させることが可能である。したがって、表面保護フィルムがディスプレイ用途により好適になる。なお、フィルムの全光線透過率の上限は特に制限はないが通常99%以下である。
【0079】
表面保護フィルムのヘイズは1.0%以下であることが好ましく、0.5%以下であることがより好ましく、0.1%以下であることがさらに好ましい。この場合には、表面保護フィルムは、透明性に十分に優れたものとなる。例えばTダイを用いた溶融押出法においては、Tダイから溶融樹脂をフィルム状に押し出し、押し出されたフィルム状物の少なくとも片面に対して鏡面ロール又は鏡面ベルト等の鏡面を接触させることで、表面保護フィルムの表面平滑性が良好になり鏡面光沢が得られる共に、表面保護フィルムのヘイズを上記範囲まで小さくすることが可能になる。鏡面は、金属鏡面であることが好ましい。鏡面の金属としてはクロム等が挙げられる。
【0080】
表面保護フィルムは、全光線透過率が90%以上であり、ヘイズが1.0%以下であることが好ましい。この場合には、表面保護フィルムは、透明性、視認性に優れたものとなり、例えば上述のディスプレイ用途により好適になる。同様の観点から、表面保護フィルムの全光線透過率は90%以上であり、ヘイズは0.5%以下であることがより好ましく、全光線透過率は92%以上であり、ヘイズは0.1%以下であることがさらに好ましい。
【0081】
表面保護フィルムの吸水率は、3.0%以下が好ましく、2.5%以下がより好ましく、2.0%以下がさらに好ましい。この場合には、フィルムの吸水変形による光学特性の変化等を抑制することができる。吸水率は、例えば実施例で詳述する方法で測定される。表面保護フィルムの吸水率は、ポリカーボネート樹脂を構成するモノマー組成(つまり、構造単位の組成)を調整することにより制御される。たとえば、ポリカーボネート樹脂における構造単位Aの含有割合を増やすにつれて、表面保護フィルムの吸水率は増加する傾向にある。
【0082】
表面保護フィルムの光弾性係数の値が高いと、フィルムに応力が加わった時に虹模様の干渉縞が発生し、視認性が悪化する可能性がある。これを防止する観点から、表面保護フィルムの光弾性係数は、14×10-12Pa-1以下が好ましく、12×10-12Pa-1以下がより好ましく、10×10-12Pa-1以下がさらに好ましい。光弾性係数は、例えば実施例で詳述する方法で測定される。表面保護フィルムの光弾性係数は、ポリカーボネート樹脂を構成するモノマー組成(つまり、構造単位の組成)を調整することにより制御される。たとえば、ポリカーボネート樹脂における構造単位Aの含有割合を増やすにつれて、光弾性係数は上昇する傾向にある。
【実施例0083】
以下、本開示について実施例を用いて更に詳細に説明するが、本開示は、その要旨を超えない限り、以下の実施例によって限定されるものではない。
【0084】
[測定方法]
ポリカーボネート樹脂の各種物性の測定は、下記の方法に従って実施した。
【0085】
(還元粘度)
ポリカーボネート樹脂の試料を溶媒(具体的には塩化メチレン)に溶解させ、精密に濃度0.6g/dLのポリカーボネート樹脂溶液を調製した。還元粘度の測定は、森友理化工業社製のウベローデ型粘度管を用いて、温度20.0℃±0.1℃で行った。溶媒の通過時間t及び溶液の通過時間tを測定し、t及びtの値から次式(i)により相対粘度ηrelを算出し、さらに、相対粘度ηrelから次式(ii)により比粘度ηspを算出した。なお、式(ii)中のηは溶媒の粘度である。比粘度ηspをポリカーボネート樹脂溶液の濃度c[g/dL]で除することにより、還元粘度η(η=ηsp/c)を算出した。還元粘度が高いほど、分子量が大きいことを意味する。
ηrel=t/t ・・・(i)
ηsp=(η-η)/η=ηrel-1 ・・・(ii)
【0086】
(ガラス転移温度:Tg)
ガラス転移温度の測定は、エスアイアイ・ナノテクノロジー社製の示差走査熱量計DSC6220を用いて行った。具体的には、エスアイアイ・ナノテクノロジー社製のアルミニウム製サンプルパンにポリカーボネート樹脂の試料約10mgを入れて密封し、50mL/分の窒素気流下、昇温速度20℃/分で30℃から250℃まで試料を加熱した。この温度で3分間保持した後、30℃まで20℃/分の速度で冷却した。次いで、30℃で3分保持し、再び200℃まで20℃/分の速度で加熱した。2回目の昇温(つまり、加熱)で得られた示差走査熱量測定曲線(DSCデータ)を測定曲線として解析した。測定曲線において、低温側のベースラインを高温側に延長した直線と、ガラス転移の階段状変化部分の曲線の勾配が最大になる点で引いた接線との交点の温度(つまり、補外ガラス転移開始温度)を求め、これをガラス転移温度とした。
【0087】
(全光線透過率、ヘイズの測定)
日本電色工業(株)製濁度計COH400を用いて表面保護フィルムの全光線透過率、ヘイズを測定した。
【0088】
(360nmにおける透過率の測定)
日本分光(株)製紫外可視分光光度計V-730を用いて表面保護フィルムの360nmにおける透過率を測定した。
【0089】
(光弾性係数)
He-Neレーザー、偏光子、補償板、検光子、光検出器を備える複屈折測定装置と振動型粘弾性測定装置(レオロジー社製DVE-3)を組み合わせた装置を用いて測定した測定の詳細には、日本レオロジー学会誌Vol.19,p93-97(1991)が参照される。具体的には、まず、前述の溶融押出法により作製したフィルムから幅5mm、長さ20mmの試験片を切り出した。試験片を粘弾性測定装置に固定し、室温(具体的には25℃)、周波数96Hzの条件にて、貯蔵弾性率E’を測定した。この測定時に、出射されたレーザー光を偏光子、試験片、補償板、検光子の順に通し、光検出器(具体的には、フォトダイオード)で検出し、ロックインアンプにより角周波数ω又は2ωの波形を得た。その振幅とひずみに対する位相差を求め、ひずみ光学係数O’を求めた。このとき、偏光子と検光子の吸収軸の方向は直交し、それぞれが試験片の伸長方向に対してπ/4の角度をなすように調整した。光弾性係数Cは、貯蔵弾性率E’とひずみ光学係数O’とから次式(iii)により算出した。
C=O’/E’ ・・・(iii)
【0090】
(吸水率の測定)
フィルムから縦10cm、横10cmの正方形の試験片を切り出した。200Pa以下の減圧下、試験片を構成するポリカーボネート樹脂のガラス転移温度-10℃の温度(Tg-10℃の温度)で、試験片を24時間以上乾燥した。乾燥後の試験片の重量を0.1mgオーダーまで量り、この値を乾燥重量とした。次に、乾燥後の試料を23℃に調温された脱塩水に72時間以上浸漬した。浸漬後の試験片を脱塩水から取り出し、表面の水分を清浄で乾いた布又はフィルター紙で全てふき取った後、試験片の重量を0.1mgオーダーまで量り、この値を吸水重量とした。吸水重量は水から取り出して1分以内に測定した。下記式(iv)により吸水重量と乾燥重量とから吸水率(%)を算出した。ここで、算出される吸水率は飽和吸水率である。
(吸水重量-乾燥重量)/乾燥重量×100=吸水率 ・・・(iv)
【0091】
(耐傷付き性)
室温25℃±5、湿度50%±5に調温、調湿した環境下で、表面保護フィルムに円錐状の真鍮の突起部を当て、荷重100gとなるように円錐状の真鍮に重りをセットした。この状態で突起部を1mm/secの速度で、1cm幅で動かした。その後、フィルムの表面を目視にて観察し、傷が視認されない場合を「○」と評価し、傷が視認される場合を「×」と評価した。
【0092】
後述の実施例、比較例のポリカーボネート樹脂、フィルムについての物性の結果を、表1、表2に示した。
【0093】
[使用原料]
製造例、実施例で用いた化合物の略号、および製造元は次の通りである。
【0094】
<ジヒドロキシ化合物>
・ISB:イソソルビド(ロケットフルーレ社製)
・TCDDM:トリシクロデカンジメタノール(オクセア社製)
・CHDM:1,4-シクロヘキサンジメタノール(SKケミカル社製)
・SPG:スピログリコール(三菱ガス化学社製)
・ND:1,9-ノナンジオール(東京化成工業社製)
【0095】
<炭酸ジエステル>
・DPC:ジフェニルカーボネート(三菱ケミカル社製)
【0096】
<触媒失活剤>
・ホスホン酸(東京化成工業社製)
【0097】
<熱安定剤(酸化防止剤)>
・Irganox1010:ペンタエリスリトール-テトラキス(3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート](BASF社製)
【0098】
(製造例1)ポリカーボネート樹脂の製造
竪型攪拌反応器3器と、横型攪拌反応器1器と、二軸押出機とから構成される連続重合設備を用いて、ポリカーボネート樹脂の重合を行った。3器の竪型攪拌反応器をそれぞれ、第1縦型攪拌反応器、第2縦型攪拌反応器、第3縦型攪拌反応器といい、横型攪拌反応器を第4横型攪拌反応器という。具体的には、まず、ISB、TCDDM、及びDPCをそれぞれタンクで溶融させ、ISBを27.3kg/hr、TCDDMを15.7kg/hr、DPCを57.6kg/hr(モル比でISB/TCDDM/DPC=0.700/0.300/1.010)の流量で第1竪型攪拌反応器に連続的に供給した。同時に、重合触媒である酢酸カルシウム1水和物の水溶液を、全ジヒドロキシ化合物1molに対して酢酸カルシウム1水和物が1.5μmolとなる添加量にて第1竪型攪拌反応器に供給した。各反応器の内温、内圧、滞留時間は、それぞれ、第1竪型攪拌反応器:190℃、25kPa、120分、第2竪型攪拌反応器:195℃、10kPa、90分、第3竪型攪拌反応器:205℃、4kPa、45分、第4横型攪拌反応器:220℃、0.1~1.0kPa、120分とした。得られるポリカーボネート樹脂の還元粘度が0.38dL/g~0.40dL/gとなるように、第4横型攪拌反応器の内圧を微調整しながら運転を行った。
【0099】
第4横型攪拌反応器から抜き出したポリカーボネート樹脂を、溶融状態のまま、日本製鋼所社製のベント式二軸押出機TEX30αに供給した。押出機は3つの真空ベント口(つまり、第1ベント、第2ベント、第3ベント)を有しており、ここで樹脂中の残存低分子量成分を脱揮除去するとともに、第1ベントの手前で触媒失活剤としてホスホン酸を、ポリカーボネート樹脂に対して1.3重量ppm添加し、第3ベントの手前でIrganox1010をポリカーボネート樹脂に対して、それぞれ1000重量ppmを添加した。押出機を通過したポリカーボネート樹脂を、引き続き溶融状態のまま、目開き10μmのウルチプリーツ・キャンドルフィルター[PALL社製]に通して、異物を濾過した。その後、ダイスからストランド状にポリカーボネート樹脂を押出し、水冷、固化させた後、回転式カッターで切断することによりペレット化しポリカーボネート樹脂を得た。
【0100】
(製造例2)ポリカーボネート樹脂の製造
ISB 77.0質量部(0.527mоl)、TCDDM 25.9質量部(0.132mоl)、DPC 141.1質量部(0.659mоl)及び触媒として酢酸カルシウム1水和物3.48×10-4質量部(1.98×10-6mol)を反応器に投入し、反応器内を減圧窒素置換した。窒素雰囲気下、150℃で約10分間、反応器内を攪拌しながら原料を溶解させた。反応1段目の工程として220℃まで30分かけて反応器内を昇温させ、60分間常圧にて原料を反応させた。次いで圧力を常圧から13.3kPaまで90分かけて減圧し、13.3kPaで30分間保持し発生するフェノールを反応系外へ抜き出した。次いで反応2段目の工程として熱媒温度を15分かけて220℃まで昇温しながら、圧力を0.10kPa以下まで15分かけて減圧し、発生するフェノールを反応系外へ抜き出した。所定の撹拌トルクに到達後、窒素で常圧まで復圧して反応を停止し、生成したポリカーボネート樹脂を水中に押し出し、ストランドをカッティングしてペレットを得た。このようにして、得られたポリカーボネート樹脂のペレットを用いて、前述の各種評価を行った。
【0101】
(製造例3)ポリカーボネート樹脂の製造
ISB 89.1質量部(0.610mоl)、TCDDM 13.3質量部(0.068mоl)、DPC 145.1質量部(0.677mоl)及び触媒として酢酸カルシウム1水和物3.58×10-4質量部(2.03×10-6mol)とした以外は製造例2と同様にして行った。
【0102】
(製造例4)ポリカーボネート樹脂の製造
ISB 56.9質量部(0.389mоl)、TCDDM 46.8質量部(0.239mоl)、DPC 134.5質量部(0.628mоl)及び触媒として酢酸カルシウム1水和物3.31×10-4質量部(1.88×10-6mol)とした以外は製造例2と同様にして行った。
【0103】
(製造例5)ポリカーボネート樹脂の製造
製造例2のTCDDMをNDに変更するとともにSPGを追加し、ISB 71.8質量部(0.491mоl)、ND 16.2質量部(0.101mоl)、SPG 24.6質量部(0.081mоl)、DPC 144.8質量部(0.676mоl)及び触媒として酢酸カルシウム1水和物1.78×10-4質量部(1.01×10-6mol)とした以外は製造例2と同様にして行った。
【0104】
(製造例6)ポリカーボネート樹脂の製造
製造例1のTCDDMをCHDMに変更し、ISBを29.8kg/hr、CHDMを12.6kg/hr、DPCを63.1kg/hr(モル比でISB/CHDM/DPC=0.700/0.300/1.010)、ホスホン酸をポリカーボネート樹脂に対して0.63重量ppmとした以外は製造例1と同様にして行った。
【0105】
<実施例1>
製造例1で得られたポリカーボネート樹脂のペレットを90℃で5時間以上、真空乾燥させた。次いで、(株)テクノベル製の単軸押出機(スクリュー径:30mm、シリンダー設定温度:220℃~270℃)を用いて、溶融押出法によりポリカーボネート樹脂をTダイ(幅:400mm、設定温度:200~270℃)からフィルム状に押し出した。押し出されたフィルムを、巻取機を用いてチルロール(設定温度:100~170℃)により冷却しつつロール状に巻き取った。このようにして所定の膜厚の無延伸フィルム(表面保護フィルム)を作製した。このフィルムを用いて、前述の各種測定、評価を行った。その結果を表1に示した。
【0106】
<実施例2>
フィルムの厚さを変更した以外は実施例1と同様にして行った。その結果を表1に示した。
【0107】
<実施例3>
製造例2で得られたポリカーボネート樹脂を用い、フィルムの厚さを変更したこと以外は実施例1と同様にして行った。その結果を表1に示した。
【0108】
<比較例1>
フィルムの厚さを変更した以外は実施例1と同様にして行った。その結果を表2に示した。
【0109】
<比較例2>
製造例3で得られたポリカーボネート樹脂を用い、フィルムの厚さを変更したこと以外は実施例1と同様にして行った。その結果を表2に示した。
【0110】
<比較例3>
製造例4で得られたポリカーボネート樹脂を用い、フィルムの厚さを変更したこと以外は実施例1と同様にして行った。その結果を表2に示した。
【0111】
<比較例4>
製造例5で得られたポリカーボネート樹脂を用い、フィルムの厚さを変更したこと以外は実施例1と同様にして行った。その結果を表2に示した。
に示した。
【0112】
<比較例5>
製造例6で得られたポリカーボネート樹脂を用い、フィルムの厚さを変更したこと以外は実施例1と同様にして行った。その結果を表2に示した。
【0113】
【表1】
【0114】
【表2】
【0115】
表面保護フィルムには、前述の各特性評価のすべての項目で「×」がないものが適している。実施例1~3のフィルムは、式(1)で表される構造単位(A)と下記式(2)で表される構造単位(B)とを含み、ポリカーボネート樹脂中の前記構造単位(A)の含有率が65モル%以上、85モル%以下であり、厚みが21μm以上である。そのため、実施例1~3のフィルムは、透明性、光学特性、耐熱性、耐傷つき性といった評価項目を総合すると、比較例に示すフィルムよりも優れたものであった。
【0116】
一方、比較例1は、フィルム膜厚が薄すぎて、耐傷つき性が悪くなっていた。そのため、比較例1は、表面保護フィルムとして適さない。比較例2は、式(1)で表される構造単位(具体的には、ISB由来の構造単位)の含有量が多すぎるため、光弾性係数が高く、吸水率も高い。そのため、比較例2は、光学的歪みが大きく、寸法安定性が悪い。
【0117】
比較例3は、式(1)で表される構造単位(具体的には、ISB由来の構造単位)の含有量が少なすぎるため、Tgが低く、耐熱性が悪い。比較例4は、式(2)で表される構造単位(具体的には、TCDDM由来の構造単位)を有していないため、Tgが低い。そのため、比較例4は、耐熱性が悪い。比較例5も、式(2)で表される構造単位(具体的には、TCDDM由来の構造単位)を有していないため、光弾性係数が高く、Tgが低い。そのため、比較例5は、光学的歪みが大きく、耐熱性が悪い。
【0118】
以上の結果から、ポリカーボネート樹脂を含有する表面保護フィルムであって、式(1)で表される構造単位(A)と式(2)で表される構造単位(B)とを含み、ポリカーボネート樹脂中の構造単位(A)の含有率が65モル%以上、85モル%以下であり、厚みが21μm以上である表面保護フィルムによれば、植物由来原料から構成されており、透明性、光学特性、耐熱性、耐傷つき性に優れた表面保護フィルムを提供できることが理解される。