(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024136681
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】焼き物用熱処理小麦粉及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 7/10 20160101AFI20240927BHJP
A21D 6/00 20060101ALI20240927BHJP
A21D 10/00 20060101ALN20240927BHJP
A21D 13/44 20170101ALN20240927BHJP
【FI】
A23L7/10 H
A21D6/00
A21D10/00
A21D13/44
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023047868
(22)【出願日】2023-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】398012306
【氏名又は名称】株式会社日清製粉ウェルナ
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】備前 知風優
(72)【発明者】
【氏名】高須 亮佑
(72)【発明者】
【氏名】柴本 憲幸
(72)【発明者】
【氏名】天野 裕士
【テーマコード(参考)】
4B023
4B032
【Fターム(参考)】
4B023LC02
4B023LE26
4B023LG06
4B023LK04
4B023LK17
4B023LP07
4B023LP14
4B032DB10
4B032DG02
4B032DK02
4B032DK03
4B032DK07
4B032DK12
4B032DK42
4B032DK47
4B032DK51
4B032DL06
4B032DP40
(57)【要約】
【課題】風味、食感及び外観が良好な焼き物を製造可能な熱処理小麦粉を提供すること。
【解決手段】本発明の熱処理小麦粉の製造方法は、粗蛋白質含有量が10~15質量%の未処理小麦粉を、該未処理小麦粉の品温120~180℃が20~480分間維持される条件で乾熱処理する工程を有する。本発明の熱処理小麦粉は、自重の150質量%の水との混合物のB型粘度計による品温20℃での粘度が5~15Pa・sであり、且つ該混合物のコンシストメーターによる品温20℃での粘度が0~500mm/30秒である。本発明の熱処理小麦粉は、前記の本発明の製造方法によって製造可能である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粗蛋白質含有量が10~15質量%の未処理小麦粉を、該未処理小麦粉の品温120~180℃が20~480分間維持される条件で乾熱処理する工程を有する、焼き物用熱処理小麦粉の製造方法。
【請求項2】
前記未処理小麦粉は、北米産小麦由来の準強力粉を含む、請求項1に記載の焼き物用熱処理小麦粉の製造方法。
【請求項3】
前記未処理小麦粉における平均粒径100μm以下の粒子の含有量が70質量%以上である、請求項1又は2に記載の焼き物用熱処理小麦粉の製造方法。
【請求項4】
前記乾熱処理では、前記未処理小麦粉と食塩とを含む混合物を乾熱処理し、
前記混合物における前記食塩の含有量は、該混合物中の前記未処理小麦粉の0.1~2質量%である、請求項1~3のいずれか1項に記載の焼き物用熱処理小麦粉の製造方法。
【請求項5】
前記乾熱処理では、前記未処理小麦粉とクエン酸とを含む混合物を乾熱処理し、
前記混合物における前記クエン酸の含有量は、該混合物中の前記未処理小麦粉の0.01~0.5質量%である、請求項1~4のいずれか1項に記載の焼き物用熱処理小麦粉の製造方法。
【請求項6】
前記乾熱処理では、前記未処理小麦粉と酵素とを含む混合物を乾熱処理し、
前記酵素は、α-アミラーゼ及びリパーゼから選択される1種以上であり、
前記混合物における前記酵素の含有量は、該混合物中の前記未処理小麦粉の0.01~0.5質量%である、請求項1~5のいずれか1項に記載の焼き物用熱処理小麦粉の製造方法。
【請求項7】
自重の150質量%の水との混合物のB型粘度計による品温20℃での粘度が5~15Pa・sであり、且つ該混合物のコンシストメーターによる品温20℃での粘度が0~500mm/30秒である、焼き物用熱処理小麦粉。
【請求項8】
未処理小麦粉を乾熱処理してなり、
前記未処理小麦粉のグルテンバイタリティを100とした場合のグルテンバイタリティが50~95である、請求項7に記載の焼き物用熱処理小麦粉。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼き物の製造に好適な焼き物用熱処理小麦粉に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ホットケーキ等の焼き物の食感等の品質を改善する目的で、未処理小麦粉を加熱処理して得られる熱処理小麦粉が使用されている。例えば特許文献1には、デュラム小麦粉と、デュラム小麦粉には属しない、加熱処理された薄力小麦粉とを含むパンケーキ生地が記載されている。この加熱処理された薄力小麦粉については、未処理小麦粉のグルテンバイタリティを100とした場合のグルテンバイタリティが40~60となるように加熱処理されたものが好ましいとされ、また、該加熱処理として、実施例では湿熱処理が採用されている。特許文献1に記載のパンケーキ生地によれば、ふわっとしていて、しっとりしつつも歯切れのよい食感のパンケーキを製造することができるとされている。
【0003】
特許文献2には、小麦粉と澱粉とを混合し、その混合物を120~160℃で1~3時間焙煎処理して得られる焼き物用小麦粉組成物が記載されている。特許文献2に記載の小麦粉組成物によれば、小麦粉と澱粉とを別々に焙煎し、その後混合した場合に比べて、良好な二次加工性が得られるとされている。また特許文献3には、強力小麦粉と薄力小麦粉とを混合し、その混合物を約70~90℃で25~40分程度乾熱加熱して得られる焼き物菓子用小麦粉が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-97500号公報
【特許文献2】特開2011-10589号公報
【特許文献3】特開昭61-139350号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
熱処理小麦粉は不快な酸化臭を発生し、これを用いた焼き物の風味を低下させるおそれがある。熱処理小麦粉に特有の酸化臭が抑制され、ホットケーキ等の焼き物(小麦粉を含む生地を焼成して得られる食品)の原料として使用した場合に、風味が良好で、歯切れと口溶けとのバランスに優れ、且つ嵩高く外観が良好な焼き物を製造できる熱処理小麦粉は未だ提供されていない。
【0006】
本発明の課題は、風味、食感及び外観が良好な焼き物を製造可能な熱処理小麦粉を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、粗蛋白質含有量が10~15質量%の未処理小麦粉を、該未処理小麦粉の品温120~180℃が20~480分間維持される条件で乾熱処理する工程を有する、焼き物用熱処理小麦粉の製造方法である。
【0008】
また本発明は、自重の150質量%の水との混合物のB型粘度計による品温20℃での粘度が5~15Pa・sであり、且つ該混合物のコンシストメーターによる品温20℃での粘度が0~500mm/30秒である、焼き物用熱処理小麦粉である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、風味、食感及び外観が良好な焼き物を製造可能な熱処理小麦粉が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の焼き物用熱処理小麦粉(以下、単に「熱処理小麦粉」とも言う。)の製造方法では、原料として未処理小麦粉を使用する。本発明において「未処理小麦粉」とは、熱処理が施されていない小麦粉を指す。ここで言う「熱処理」とは、処理対象の小麦粉を変質させ得る熱処理を指し、実質的に小麦粉の変質が起こらないような熱処理は含まれない。
未処理小麦粉としては、後述するように粗蛋白質含有量が特定範囲にあることを条件として、ベーカリー食品等の焼き物に使用可能な未処理小麦粉を特に制限なく用いることができ、例えば、薄力粉、中力粉、準強力粉、強力粉、デュラム粉(デュラムセモリナ、デュラム小麦粉、デュラム全粒粉)が挙げられ、これらの1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0011】
本発明で用いる未処理小麦粉は、粗蛋白質含有量が10~15質量%、好ましくは10.5~12.0質量%であることを要する。未処理小麦粉の粗蛋白質含有量が前記の特定範囲から外れると、本発明の所定の効果(風味、食感及び外観が良好な焼き物を製造可能な熱処理小麦粉が提供)が奏されないおそれがある。未処理小麦粉の粗蛋白質含有量は下記方法により測定される。
【0012】
<粗蛋白質含有量の測定方法>
LECOジャパン社製の窒素・蛋白質分析装置「 TruMac N 」を用い、燃焼法により測定対象(未処理小麦粉)の窒素含有量(質量%)を測定し、窒素-たんぱく質換算係数5.70を使用してその測定値から粗蛋白質含有量(質量%)を算出する。測定は、装置に付属の使用マニュアルに従い、測定時の炉温度は1100℃とする。
なお、燃焼法とは、測定対象を高温酸素ガス下で燃焼し、窒素を酸化(NOx)させた後、水蒸気を除去し、更に、Heガス下で還元銅を通過させNOxをN2に還元し二酸化炭素を除いた上で熱伝導度を利用して窒素量を測定する方法である。
【0013】
粗蛋白質含有量が10~15質量%である未処理小麦粉の具体例として、北米産小麦由来の準強力粉、カナダ産小麦由来の強力粉、日本産小麦由来の中力粉が挙げられる。これらの中でも北米産小麦由来の準強力粉は、グルテンの質が高く、且つグルテンの含有量が比較的多いため好ましい。北米産小麦由来の準強力粉を含む市販品としては、例えば、日清製粉株式会社製の「アトム」が挙げられる。
【0014】
本発明で用いる未処理小麦粉は、平均粒径100μm以下の粒子の含有量が70質量%以上であることが好ましい。これにより、当該未処理小麦粉を熱処理して得られる熱処理小麦粉の平均粒径が適度なものとなり、該熱処理小麦粉を用いた焼き物の嵩高さ(ボリューム感)、歯切れの良さ、口溶けの良さが一層向上し得る。
未処理小麦粉における平均粒径100μm以下の粒子の含有量は、好ましくは80質量%以上であり、100質量%、すなわち本発明の製造方法で用いる未処理小麦粉の全部が、平均粒径100μm以下の粒子であってもよい。
未処理小麦粉の平均粒径の調整は、ロールミル、ピンミル等の公知の粉砕手段を用いて未処理小麦粉を粉砕することで行うことができる。
【0015】
本明細書において「平均粒径」とは、レーザー回折・散乱法により算出された粒子の体積平均径(MV)を指す。小麦粉等の粒子の平均粒子径は、市販のレーザー回折・散乱式粒度分布計測装置(例えば、マイクロトラックMT3000II;日機装株式会社)を用いて測定することができる。
【0016】
本発明の熱処理小麦粉の製造方法は、粗蛋白質含有量が10~15質量%の未処理小麦粉を、該未処理小麦粉の品温120~180℃が20~480分間維持される条件で乾熱処理する工程(乾熱処理工程)を有する。斯かる乾熱処理を実施することで、製造目的物である熱処理小麦粉が得られる。
【0017】
本発明において「乾熱処理」は、処理対象(未処理小麦粉)を水分無添加の条件で加熱する処理であり、処理対象中の水分を積極的に蒸発させる処理である。乾熱処理は、例えば、オーブンでの加熱、平窯等の焙焼窯での加熱、乾燥器を用いる加熱、熱風を吹き付ける熱風乾燥、高温低湿度環境での放置などによって実施することができる。
乾熱処理の条件に関し、未処理小麦粉の品温(処理温度)は、好ましくは120~160℃、より好ましくは120~140℃であり、その品温を維持する時間(処理時間)は、好ましくは45~240分、より好ましくは60~180分である。
【0018】
本発明に係る乾熱処理では、未処理小麦粉に副原料を添加し混合したものを乾熱処理してもよい。これにより、当該乾熱処理を経て得られる熱処理小麦粉を用いた焼き物の品質が一層向上し得る。
前記副原料の好ましい具体例として、食塩、クエン酸並びにα-アミラーゼ及びリパーゼから選択される1種以上の酵素が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの好ましい副原料は、熱処理小麦粉を用いた焼き物の食感(歯切れの良さ、口溶けの良さ等)の向上に特に有効である。
【0019】
本発明に係る乾熱処理において、未処理小麦粉と食塩(副原料)とを含む混合物を乾熱処理する場合、該混合物における食塩の含有量は、該混合物中の未処理小麦粉の全質量に対して、好ましくは0.1~2質量%、より好ましくは0.5~1質量%である。
【0020】
本発明に係る乾熱処理において、未処理小麦粉とクエン酸(副原料)とを含む混合物を乾熱処理する場合、該混合物におけるクエン酸の含有量は、該混合物中の未処理小麦粉の全質量に対して、好ましくは0.01~0.5質量%、より好ましくは0.05~0.3質量%である。
【0021】
本発明に係る乾熱処理において、未処理小麦粉と酵素(α-アミラーゼ及び/又はリパーゼ)(副原料)とを含む混合物を乾熱処理する場合、該混合物における酵素の含有量は、該混合物中の未処理小麦粉の全質量に対して、好ましくは0.01~0.5質量%、より好ましくは0.05~0.3質量%である。
【0022】
本発明の熱処理小麦粉の製造方法において、乾熱処理の実施後は、必要に応じ、その実施によって得られた熱処理小麦粉を常温常圧の環境に静置して調湿してもよい。また、必要に応じ、乾熱処理の実施によって得られた熱処理小麦粉を公知の粉砕手段を用いて粉砕してもよい。熱処理小麦粉は、典型的には、常温常圧(雰囲気温度20℃、1気圧)で粉体である。
【0023】
前述した本発明の製造方法によって製造された熱処理小麦粉(以下、「本発明の熱処理小麦粉」とも言う。)は、該熱処理小麦粉とその自重の150質量%の水との混合物(以下、「バッター液」とも言う。)のB型粘度計による品温20℃での粘度(以下、「粘度A」とも言う。)が5~15Pa・s、好ましくは9~15Pa・sであり、且つ該バッター液のコンシストメーターによる品温20℃での粘度(以下、「粘度B」とも言う。)が0~500mm/30秒、好ましくは100~250mm/30秒である点で特徴付けられる。本発明の熱処理小麦粉はこの粘度の特徴により、ホットケーキ等の焼き物の製造に用いた場合には、風味が良好で、歯切れと口溶けとのバランスに優れ、且つ嵩高く外観が良好な焼き物を提供することが可能である。
粘度A及びBは、それぞれ、前述した本発明の熱処理小麦粉の製造方法において、未処理小麦粉の種類、未処理小麦粉の乾熱処理の条件等を適宜調整することにより調整可能である。粘度A及びBは以下の方法により測定される。
【0024】
<粘度Aの測定方法>
乾物換算で80gの試料(熱処理小麦粉)と水120gとを混合してバッター液を得、該バッター液を回転数150rpmで1分間攪拌した後、雰囲気温度が22~25℃の環境で5分間静置して、該バッター液の品温を20℃に調整する。この品温20℃のバッター液の粘度を、B型粘度計を用いて常法に従って測定する。具体的には、B型粘度計のローター(回転子)を測定対象のバッター液に浸した状態で回転させ、その回転の開始から1分経過時点の該バッター液の粘度の測定値を、粘度Aとする。B型粘度計のローターの種類及び回転数は、測定対象のバッター液の粘性に応じて適宜選択する。例えば、B型粘度計として東機産業株式会社製の「TVB-25」を用いる場合、通常は、M3ローターを使用して回転数を15rpmとし、バッター液の粘性が高い場合は、M4ローターを使用して回転数を30rpmとする。
【0025】
<粘度Bの測定方法>
本測定方法は、ASTM F1080-93(2008)の規格に準拠するものである。本測定方法は、例えば特開平7-313116号公報の[0012]に記載の方法に従って行うことができる。
本測定方法で用いるコンシストメーターは、上方が開放された直方体形状の細長い容器(トラフ)を備え、該容器は、ゲート(開閉手段)によって、比較的容量の小さい試料槽と、比較的容量の大きい粘度測定部(樋状部)とに区画されている。コンシストメーターとしては、例えば、日本ジェネティクス株式会社製の「ボストウィック・コンシストメータ」を用いることができる。
本測定方法では、コンシストメーターの前記試料槽に品温20℃の試料(前記バッター液)が50g投入され、前記ゲートが跳ね上がることにより、該試料が該試料槽から前記粘度測定部に流出する。前記粘度測定部には目盛りが設けられており、該目盛りを用いて、所定時間(30秒)内に該粘度測定部に流出した試料の、該ゲートから該試料の先端までの該粘度測定部の長手方向に沿う長さ(単位:mm)を測定し、その測定値を粘度Bとする。粘度Bの値、すなわち「コンシストメーターのゲートを解放した時点から30秒経過後の試料の移動距離」(単位:mm/30秒)が大きいほど、当該試料は粘度が低く流動しやすいことを示し、一方、粘度Bの値が小さいほど、当該試料は粘度が高く流動しにくいことを示す。
【0026】
本発明の熱処理小麦粉は、未処理小麦粉のグルテンバイタリティを100とした場合のグルテンバイタリティ(以下、「グルテンバイタリティ比率」とも言う。)が50~95であることが好ましく、70~95であることがより好ましい。
グルテンバイタリティは、熱処理小麦粉における蛋白質の変性度合の指標となるものであり、特に、熱処理小麦粉を用いた焼き物の食感(歯切れ、口溶け)と密接に関連するパラメータである。熱処理小麦粉のグルテンバイタリティ比率が前記の好ましい範囲にあることにより、これを用いた焼き物の歯切れ及び口溶けが一層向上し得る。
グルテンバイタリティ比率は、前述した本発明の熱処理小麦粉の製造方法において、未処理小麦粉の種類、未処理小麦粉の乾熱処理の条件等を適宜調整することにより調整可能である。
【0027】
本発明の熱処理小麦粉の平均粒径は、好ましくは65~130μm、より好ましくは65~110μmである。平均粒径が前記の好ましい範囲にある熱処理小麦粉を用いて製造された焼き物は、ざらつきが少なく口溶けの良い良好な食感を有するものとなる。
前述した本発明の熱処理小麦粉の製造方法によれば、平均粒径100μm以下の粒子の含有量が70質量%以上の未処理小麦粉を原料として使用するため、平均粒径が前記の好ましい範囲にある熱処理小麦粉が確実に得られる。
【0028】
本発明の熱処理小麦粉は、焼き物の製造に使用されるものである。本発明において「焼き物」とは、穀粉類を含む生地を焼成して得られる加工食品を指し、該生地の焼成物に加えて更に他の食材(例えばフィリング)を含むものを包含する。焼き物の具体例として、ベーカリー食品が挙げられる。
ベーカリー食品は、典型的には、穀粉類を含む生地原料を水分の存在下で攪拌する工程を経て調製された発酵又は非発酵生地を、焼成して製造される。ベーカリー食品の具体例として、ケーキ類;パン類;ピザ類;ワッフル、シュー、ビスケット、焼き饅頭等の和洋焼き菓子;たこ焼き、お好み焼き、チヂミ等が挙げられる。
本発明の熱処理小麦粉は、特にケーキ類の製造に好適である。ケーキ類としては、スポンジケーキ、バターケーキ、ロールケーキ、ホットケーキ、ブッセ、バームクーヘン、パウンドケーキ、チーズケーキ、スナックケーキ、マフィン、バー、クッキー、パンケーキ、クレープ等が挙げられる。
【0029】
本明細書において「穀粉類」とは、穀物由来の常温常圧で粉体の物質であり、穀粉及び澱粉を含む。ここで言う「澱粉」とは、小麦等の植物から単離された「純粋な澱粉」を指し、穀粉又は全粒粉中に本来的に内在する澱粉とは区別される。また、「穀粉類」の由来となる前記穀物は、禾穀類(イネ科植物の種子)のみならず、擬禾穀類(双子葉植物の種子)、菽穀類(マメ科植物の種子)、イモ類(食用となる塊根又は塊茎)等、その中に成分として澱粉が内在しているものであればよい。
【0030】
本発明の熱処理小麦粉を用いて焼き物を製造する場合、穀粉類として該熱処理小麦粉のみを用いることもできるが、焼き物の食味食感の向上の観点から、該熱処理小麦粉とそれ以外の他の穀粉類とを含む焼き物用ミックスを用いることが好ましい。
前記焼き物用ミックスにおいて、本発明の熱処理小麦粉と併用可能な穀粉としては、熱処理が施されていない未処理穀粉を用いることができ、例えば、前記未処理小麦粉、米粉、トウモロコシ粉、馬鈴薯粉、タピオカ粉、甘藷粉が挙げられる。
前記焼き物用ミックスにおいて本発明の熱処理小麦粉と併用可能な澱粉としては、例えば、タピオカ澱粉、小麦澱粉、馬鈴薯澱粉、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、甘藷澱粉、サゴ澱粉、米澱粉等の未加工澱粉;該未加工澱粉に、α化、エーテル化、エステル化、アセチル化、架橋処理、酸化処理、油脂加工等の処理の1つ以上を施した加工澱粉が挙げられる。
前記焼き物用ミックスでは、本発明の熱処理小麦粉以外の他の穀粉類の1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0031】
前記焼き物用ミックス中の全穀粉類に占める本発明の熱処理小麦粉の割合は、好ましくは30~100質量%、より好ましくは50~100質量%である。斯かる割合が少なすぎると、本発明の熱処理小麦粉を使用する意義に乏しい。
前記焼き物用ミックスにおける穀粉類の含有量は、該ミックスの全質量に対して、好ましくは40~90質量%、より好ましくは60~90質量%である。
【0032】
前記焼き物用ミックスは、本発明の熱処理小麦粉をはじめとする穀粉類以外の他の成分を含有してもよい。前記他の成分としては、当該ミックスを用いて製造する焼き物の製造に使用されるものを特に制限無く用いることができ、例えば、ぶどう糖、ショ糖、オリゴ糖、麦芽糖、トレハロース、果糖等の糖類;乳蛋白質、大豆蛋白質等の蛋白質類;植物又は動物油脂;ショ糖脂酸エステル等の乳化剤;全卵粉、卵黄粉、卵白粉等の卵粉;ベーキングパウダー等の膨張剤;生クリーム、濃縮乳、牛乳、発酵乳、粉乳等の乳製品;食塩、醤油等の調味料;アルコール類、豆乳、イースト、香辛料、ドライフルーツ、ナッツ類、酵素、香料、増粘剤、食物繊維等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて適宜の量で用いることができる。
【0033】
前記焼き物ミックスは、典型的には、本発明の熱処理小麦粉をはじめとする各種成分を混合することによって得られる。前記焼き物ミックスの常温常圧下での形態は、典型的には、粉末状、顆粒状などの粉体である。
【0034】
本発明の熱処理小麦粉、又はこれを含む焼き物用ミックスを用いた焼き物の製造は常法に従って実施することができる。焼き物(ベーカリー食品)の製造方法は、典型的には、生地(ドウ)を調製する生地調製工程と、該生地を焼成する焼成工程とを有する。前記生地調製工程では、前記焼き物用ミックスに水性液体を添加して混合物を得、該混合物をミキサーによって攪拌することで、生地を調製する。前記水性液体としては、水、油、調味料、卵液(全卵、卵白、卵黄)、牛乳等を含んだ水性液体を例示できる。前記焼成工程は、常法に従って実施することができる。必要に応じ、前記生地調製工程の後で前記焼成工程の前に、生地を発酵させてもよい。
【実施例0035】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0036】
〔実施例1~26、比較例1~7:熱処理小麦粉の製造〕
未処理小麦粉を熱処理して熱処理小麦粉を調製した。具体的には、未処理小麦粉又は未処理小麦粉と副原料との混合物に対し、所定の処理温度、処理時間で乾熱処理を施して熱処理小麦粉を製造した。乾熱処理は、バット内に原料(未処理小麦粉又は未処理小麦粉と副原料との混合物)を厚さが5mm以下となるように均一に広げ、該バットを平窯に入れて加熱することで実施した。乾熱処理後に、熱処理小麦粉をホイロの内部(雰囲気温度25℃、湿度50%)に15時間以上静置することで、熱処理小麦粉の調湿を行った。熱処理小麦粉の製造条件を下記表1~3に示す。
【0037】
熱処理小麦粉の製造に使用した原料の詳細は下記のとおりである。
・小麦粉A:北米産小麦由来の準強力粉
・小麦粉B:北米産小麦由来の強力粉
・小麦粉C:北米産小麦由来の強力粉
・小麦粉D:日本産小麦由来の中力粉
・小麦粉E:日本産小麦由来の中力粉
【0038】
(ホットケーキ用ミックスの製造)
実施例及び比較例のうちの何れか1種類の熱処理小麦粉を用いて、焼き物用ミックスの一種であるホットケーキ用ミックスを製造した。製造したホットケーキ用ミックスの組成は、小麦粉79.3質量%、砂糖17.5質量%及びベーキングパウダー3.2質量%(合計100質量%)であった。ホットケーキ用ミックスで使用した小麦粉は、その全質量の50質量%が熱処理小麦粉、残りの50質量%が、熱処理されていない薄力粉(日清製粉株式会社製「フラワー」)であった。
また、小麦粉として前記熱処理されていない小麦粉のみを用いた以外は前記と同様にして、対照例のホットケーキ用ミックスを製造した。
【0039】
〔評価試験〕
前記ホットケーキ用ミックスを用いて、下記方法によりホットケーキを製造し、室温の環境に10分間静置した後、10名の専門パネラーに該ホットケーキの外観を目視で観察してもらうとともに、食してもらい、外観(嵩高さ)、食感(歯切れと口溶けとのバランスの良さ)及び風味(酸化臭の抑制程度)を下記評価基準に従って採点してもらった。その結果(10名の専門パネラーによる採点結果の算術平均値)を下記表1~3に示す。
【0040】
(ホットケーキの製造)
常法に従い、ホットケーキ用ミックス50質量%、全卵12.5質量%及び牛乳37.5質量%(合計100質量%)の生地を調製し、グリドル上に該生地を100g流し込み、該グリドルの温度170℃で該生地の片面を3分間焼成した後、該生地を上下反転させて反対側の面を3分間焼成し、ホットケーキを製造した。
【0041】
ホットケーキについて、対照例のミックスを用いて製造したものの外観、食感及び風味を基準として優劣を判定する。
<外観の評価基準>
5点:対照例よりも厚みがかなり厚く、極めて良好。
4点:対照例よりも厚みが厚く、非常に良好。
3点:対照例よりも厚みがやや厚く、良好。
2点:対照例よりも厚みが若干厚く、合格レベル。
1点:対照例と同等の厚みである。
<食感の評価基準>
5点:対照例よりも歯切れと口溶けとのバランスがかなりよく、極めて良好。
4点:対照例よりも歯切れと口溶けとのバランスがよく、非常に良好。
3点:対照例よりも歯切れと口溶けとのバランスがややよく、良好。
2点:対照例よりも歯切れと口溶けとのバランスが若干よく、合格レベル。
1点:対照例と同等の歯切れと口溶けである。
<風味の評価基準>
5点:対照例と同等に酸化臭がせず、極めて良好。
4点:対照例よりも酸化臭が若干感じられる程度であり、非常に良好。
3点:対照例よりも酸化臭がやや感じられるが、良好。
2点:対照例よりも酸化臭が感じられるが、合格レベル。
1点:対照例よりも酸化臭がかなり感じられる。
【0042】
【0043】
表1に示すとおり、各実施例は、未処理小麦粉の乾熱処理において、処理温度を120~180℃、処理時間を20~480分間として熱処理小麦粉を製造したため、これを満たさない比較例に比べて、ホットケーキの外観、食感及び風味に優れていた。
【0044】
【0045】