(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024136697
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】固有ID情報生成装置及びそのプログラム
(51)【国際特許分類】
H04N 23/60 20230101AFI20240927BHJP
H04N 23/54 20230101ALI20240927BHJP
【FI】
H04N23/60 500
H04N23/54
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023047891
(22)【出願日】2023-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000004352
【氏名又は名称】日本放送協会
(71)【出願人】
【識別番号】399060908
【氏名又は名称】一般財団法人NHK財団
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】島本 洋
(72)【発明者】
【氏名】安江 俊夫
(72)【発明者】
【氏名】冨岡 宏平
(72)【発明者】
【氏名】菊地 幸大
(72)【発明者】
【氏名】北村 和也
(72)【発明者】
【氏名】山下 誉行
【テーマコード(参考)】
5C122
【Fターム(参考)】
5C122EA07
5C122FC06
5C122FH18
5C122HA13
5C122HA23
5C122HA30
5C122HA35
(57)【要約】
【課題】固有ID情報を容易に生成できる固有ID情報生成装置を提供する。
【解決手段】固有ID情報生成装置3は、飽和電荷信号がADC212の信号入力範囲内となるようにアナログゲインを制御するアナログゲイン制御手段30と、第2カメラ画像から撮像素子21の飽和電荷量を検出し、検出した飽和電荷量を表す飽和電荷量画像を生成する検出手段32と、検出手段32が生成した飽和電荷量画像を固有ID情報としてカメラ画像に埋め込む埋込手段36とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
撮像素子を備えるカメラで撮像されたカメラ画像を用いて、前記撮像素子毎に固有の固有ID情報を生成する固有ID情報生成装置であって、
飽和電荷信号が前記撮像素子のアナログデジタル変換回路の信号入力範囲内となるように前記撮像素子のアナログゲインを制御するアナログゲイン制御手段と、
前記アナログゲインが制御された撮像素子で撮像された第2カメラ画像を、前記撮像素子の飽和電荷量を表す飽和電荷量画像として生成する検出手段と、
前記検出手段が生成した飽和電荷量画像を前記固有ID情報として前記カメラ画像に埋め込む埋込手段と、
を備えることを特徴とする固有ID情報生成装置。
【請求項2】
前記検出手段が生成した飽和電荷量画像を前記固有ID情報として暗号化する暗号化手段、をさらに備え、
前記埋込手段は、前記暗号化手段が暗号化した固有ID情報を前記カメラ画像に埋め込むことを特徴とする請求項1に記載の固有ID情報生成装置。
【請求項3】
前記アナログゲイン制御手段は、前記カメラ画像の各画素の最大画素値を検出し、検出した前記最大画素値が前記アナログデジタル変換回路の信号入力範囲内となるように前記アナログゲインを低下させることを特徴とする請求項2に記載の固有ID情報生成装置。
【請求項4】
前記検出手段が生成した飽和電荷量画像を二値化する二値化手段、をさらに備え、
前記暗号化手段は、前記二値化手段が二値化した飽和電荷量画像を前記固有ID情報として暗号化することを特徴とする請求項3に記載の固有ID情報生成装置。
【請求項5】
前記飽和電荷量画像のヒストグラム、飽和電荷量分布の最大値及び最小値、又は、前記最大画素値を所定割合だけ低下させた値に基づいて第1閾値を設定する閾値設定手段、をさらに備え、
前記二値化手段は、前記閾値設定手段が設定した第1閾値により前記飽和電荷量画像を二値化することを特徴とする請求項4に記載の固有ID情報生成装置。
【請求項6】
前記検出手段は、前記撮像素子の固定パタンノイズを表す固定パタンノイズ画像を生成し、
前記暗号化手段は、前記検出手段が生成した固定パタンノイズ画像を前記固有ID情報としてさらに暗号化することを特徴とする請求項5に記載の固有ID情報生成装置。
【請求項7】
前記二値化手段は、前記検出手段が生成した固定パタンノイズ画像を二値化し、
前記暗号化手段は、前記二値化手段が二値化した固定パタンノイズ画像を前記固有ID情報としてさらに暗号化することを特徴とする請求項6に記載の固有ID情報生成装置。
【請求項8】
前記閾値設定手段は、固定パタンノイズ分布のピーク、又は、固定パタンノイズ信号のレベルに基づいて第2閾値としてさらに設定し、
前記二値化手段は、前記閾値設定手段が設定した第2閾値により前記固定パタンノイズ画像を二値化することを特徴とする請求項7記載の固有ID情報生成装置。
【請求項9】
コンピュータを、請求項1から請求項8の何れか一項に記載の固有ID情報生成装置として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撮像素子毎に固有の固有ID情報を生成する固有ID情報生成装置及びそのプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
AI(Artificial Intelligence)技術の発達等により、本物と見分けのつかないフェイクニュース等が社会問題化しており、画像の真贋判定が行われている。撮像素子に固有の特徴である、固定パタンノイズ(FPN:Fixed Pattern Noise)や画素の飽和電荷量のばらつきを固有ID(identification)情報とし、撮像素子及びその撮像素子を備えるカメラを同定できれば、画像の真贋判定に利用できる。
【0003】
特許文献1には、撮影画像からFPNを検出し、検出したFPNを固有ID情報として利用する手法が提案されている(以後、「従来技術1」)。従来技術1では、複数フレームの画像から加算平均により、加算性FPN及び乗算性FPNを検出する。
【0004】
非特許文献1には、読み出し時にFPNを出力可能な内部構造を有する撮像素子が提案されている(以後、「従来技術2」)。従来技術2では、出力されたFPNを2値化して固有ID情報とし、固有ID情報を画像の上部に記録する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】”A Proposal of PUF Utilizing Pixel Variations in the CMOS Image Sensor”,IISW,2017
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、従来技術1では、厳密な測定が必要になるために、乗算性FPNの検出が困難である。また、従来技術2では、FPNデータのみを出力する動作モードを設けなればならず、撮像素子の内部構造の改造が必要になる。このように、従来技術では、固有ID情報の生成が困難であるという問題がある。
【0008】
そこで、本発明は、固有ID情報を容易に生成できる固有ID情報生成装置及びそのプログラムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため、本発明に係る固有ID情報生成装置は、撮像素子を備えるカメラで撮像されたカメラ画像を用いて、撮像素子毎に固有の固有ID情報を生成する固有ID情報生成装置であって、アナログゲイン制御手段と、検出手段と、埋込手段と、を備える構成とした。
【0010】
かかる構成によれば、アナログゲイン制御手段は、飽和電荷信号が撮像素子のアナログデジタル変換回路の信号入力範囲内となるように撮像素子のアナログゲインを制御する。
検出手段は、アナログゲインが制御された撮像素子で撮像された第2カメラ画像を、撮像素子の飽和電荷量を表す飽和電荷量画像として生成する。
埋込手段は、検出手段が生成した飽和電荷量画像を固有ID情報としてカメラ画像に埋め込む。
【0011】
このように、固有ID情報生成装置は、飽和電荷量を検出する際、厳密な測定や撮像素子の内部構造の改変を必要としないので、固有ID情報を容易に生成できる。
【0012】
なお、本発明は、コンピュータを前記した固有ID情報生成装置として機能させるためのプログラムで実現することもできる。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、固有ID情報を容易に生成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施形態に係る固有ID情報管理システムの構成を示すブロック図である。
【
図2】(a)はFPN画像の一例を説明する説明図であり、(b)は二値化したFPN画像の一例を説明する説明図であり、(c)はFPN分布を説明する説明図である。
【
図3】(a)は従来技術におけるADCの信号入力範囲を説明する説明図であり、(b)はADCが出力する画像の一例を説明する説明図である。
【
図4】(a)は実施形態におけるADCの信号入力範囲を説明する説明図であり、(b)はADCが出力する飽和電荷量画像の一例を説明する説明図である。
【
図5】実施形態に係る固有ID情報生成装置の動作を示すフローチャートである。
【
図6】変形例1に係る固有ID情報管理システムの構成を示すブロック図である。
【
図7】変形例2に係る固有ID情報管理システムの構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。但し、以下に説明する各実施形態は、本発明の技術思想を具体化するためのものであって、特定的な記載がない限り、本発明を以下のものに限定しない。また、同一の手段には同一の符号を付し、説明を省略する場合がある。
【0016】
(実施形態)
[固有ID情報管理システムの概要]
図1を参照し、実施形態に係る固有ID情報管理システム1の概要について説明する。
固有ID情報管理システム1は、撮像素子21毎に固有の固有ID情報を管理すると共に、カメラ画像の真贋判定を行うものである。
図1に示すように、固有ID情報管理システム1は、カメラ2と、固有ID情報生成装置3と、固有ID情報管理装置4と、照明装置5とを備える。
図1には、カメラ2及び固有ID情報生成装置3を1台ずつ図示したが、カメラ2及び固有ID情報生成装置3は複数台であってもよい。
【0017】
カメラ2は、一般的なデジタルカメラである。例えば、カメラ2は、カメラレンズ20と、撮像素子21とを備える。カメラレンズ20は、レンズ絞り機構やズーム機構を有する一般的なものである。撮像素子21は、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)イメージセンサ、CCD(Charge Coupled Device)イメージセンサ等の固体撮像素子である。
【0018】
例えば、撮像素子21は、画素210と、アナログゲインアンプ211と、ADC(Analog to Digital Converter)212とを備える。アナログゲインアンプ211は、撮像素子21のアナログゲイン(利得、増幅率)を調整するものである。ADC212は、画素210が受光した光信号を電気信号であるカメラ画像に変換するアナログデジタル変換回路である。撮像素子21において、画素210からの信号は、アナログゲインアンプ211を経由して、ADC212からカメラ画像として出力される。このとき、アナログゲインアンプ211は、後記するアナログゲイン制御手段30からの指令信号に従って、アナログゲインを変化させる。
【0019】
固有ID情報生成装置3は、撮像素子21を備えるカメラ2で撮像されたカメラ画像を用いて、撮像素子21毎に固有の固有ID情報を生成するものである。また、固有ID情報生成装置3は、固有ID情報を生成する際、撮像素子21のアナログゲイン、カメラレンズ20のレンズ絞り、及び、照明装置5の光量を制御する場合がある。
【0020】
固有ID情報管理装置4は、固有ID情報生成装置3が生成した固有ID情報を登録及び管理するものである。また、固有ID情報管理装置4は、固有ID情報を照合することで、カメラ画像の真贋判定を行う。
【0021】
照明装置5は、撮影スタジオ等で利用される一般的な照明装置である。また、照明装置5は、固有ID情報管理装置4からの指令に応じて、その光量を変化させる。
【0022】
固有ID情報管理システム1は、カメラ2、固有ID情報生成装置3、固有ID情報管理装置4、及び、照明装置5が有線通信回線又は無線通信回線で接続されている。また、固有ID情報管理装置4は、インターネット等の通信ネットワークに接続され、信頼できる第3者機関が管理及び運用してもよい。
【0023】
<固有ID情報の生成原理>
本実施形態では、固有ID情報生成装置3は、飽和電荷量及びFPNに基づいて固有ID情報を生成する。固有ID情報生成装置3の構成を詳述する前に、固有ID情報の生成原理について説明する。
【0024】
撮像素子21は、多数の画素210が受光面に2次元状に配列されており、それぞれの画素210が蓄積した電荷を読み出すことで、カメラ画像を生成する。このとき、画素210には、半導体製造工程によって、微小な特性の違いが生じる。特に、入射光が無い場合でも一定の信号量の誤差が生じており、信号オフセット量のように画素210毎に固定的に異なるものをFPNと呼んでいる。
【0025】
例えば、FPNを除去する手法として、暗時の画像を長時間蓄積したFPN画像(固定パタンノイズ画像)をメモリに保存し、撮像したカメラ画像からFPN画像を減算するFPNキャンセルが知られている。例えば、FPNキャンセルのFPN画像を利用できるが、FPN画像を生成する手法はこれに限定されない。
【0026】
図2(a)に示すように、FPN画像90が撮像素子21毎に固有の画像であるため、FPN画像90を各撮像素子21のIDとして利用できる。固有ID情報として、
図2(a)に示すようにFPN画像90をそのまま利用してもよく、
図2(b)に示すようにFPN画像90を二値化してもよい。なお、アナログゲイン制御手段30がアナログゲインアンプ211のゲイン(利得)を高める(例えば、アナログゲインを2倍に設定する)ことで、信号レベルを上げてもよい。
【0027】
以上のように、FPNが、撮像素子21に入射光がないときの画素信号のばらつきであると説明した。一方、撮像素子21に入射光があるときでも、画素信号のばらつきが生じる。
【0028】
入射光がある場合、画素210の内部では、光電変換によって電荷が生じて蓄積される。さらに入射光量が増えると、画素210に蓄積できる電荷量に限界が生じて飽和する。このときの電荷量を飽和電荷量と呼ぶ。飽和電荷量が画素210毎に微小に異なるので、飽和電荷量を撮像素子21に固有ID情報として利用できる。
【0029】
通常の撮像時、
図3(a)に示すように、飽和電荷量のばらつきの影響を避けるため、撮像素子21では、ADC212の信号入力範囲を飽和電荷量以下に設定している(例えば、アナログゲインを1倍に設定)。これにより、画素210毎に飽和電荷量に達した飽和信号91は、ADC212の信号入力範囲に含まれず、全てADC212の上限値として出力される。従って、各画素210の飽和電荷量の違いが現れず、
図3(b)に示すように白画像92が出力される。
【0030】
ここで、アナログゲインを通常よりも低く設定することにより、飽和信号91をADC212の信号入力範囲内にできる。例えば、
図4(a)に示すように、アナログゲインを0.5倍に設定することにより、画素210毎の飽和信号91もADC212の信号入力範囲内に含まれる。この場合、
図4(b)に示すように、各画素210の飽和電荷量の違いが現れるので、飽和電荷量を撮像素子21に固有の特性として扱うことができる。
【0031】
すなわち、
図4(b)に示すように、飽和電荷量画像93が撮像素子21毎に固有の画像であるため、飽和電荷量画像93を各撮像素子21のIDとして利用できる。固有ID情報として、飽和電荷量画像93をそのまま利用してもよく、飽和電荷量画像93を二値化してもよい。
【0032】
なお、飽和電荷量を検出する際、十分な光量で撮影を行う必要がある。例えば、照明装置5で光量を確保してもよく、カメラレンズ20のレンズ絞りを制御(開放)してもよい。飽和電荷量画像93を生成する手法は、これに限定されない。
【0033】
[固有ID情報生成装置の構成]
図1に戻り、固有ID情報生成装置3の構成について説明する。
図1に示すように、固有ID情報生成装置3は、アナログゲイン制御手段30と、光量制御手段31と、検出手段32と、閾値設定手段33と、二値化手段34と、暗号化手段35と、埋込手段36とを備える。
【0034】
アナログゲイン制御手段30は、飽和電荷信号が撮像素子21のADC212の信号入力範囲内となるように撮像素子21のアナログゲインを制御するものである。ここで、アナログゲイン制御手段30は、アナログゲインアンプ211に指令信号を出力することで、撮像素子21のアナログゲインを制御する。
【0035】
ここで、飽和電荷量を固有ID情報として利用する場合を例として、アナログゲインの制御手順について説明する。アナログゲイン制御手段30は、カメラ画像の各画素の最大画素値(ピーク信号値)を検出し、検出した最大画素値がアナログデジタル変換回路の信号入力範囲内となるようにアナログゲインを低下させる。例えば、アナログゲイン制御手段30は、カメラ画像の各画素の画素値のうちの最大値を検出し、その最大値が画素値上限以下となるまでアナログゲインを低下させる。画素値上限とは、画素値をビット表現したときの上限値であり、例えば、画素値を10ビットで表現する場合には1023である。このようにして、
図4(a)に示すように、撮像素子21のアナログゲインが例えば0.5倍となる。
【0036】
なお、アナログゲイン制御手段30は、後記する検出手段32が飽和電荷信号を検出する際、撮像素子21のアナログゲインを制御する。一方、アナログゲイン制御手段30は、検出手段32がFPNを検出する際、撮像素子21のアナログゲインを制御してもよい。
【0037】
光量制御手段31は、撮像素子21に入射する光量を制御するものである。例えば、光量制御手段31は、FPNを検出するときに撮像素子21に光が入射しないように、照明装置5をオフにし、カメラレンズ20のレンズ絞りを全閉する。一方、光量制御手段31は、飽和電荷量を検出するときに撮像素子21に光が入射するように、照明装置5をオンにし、カメラレンズ20のレンズ絞りを開く。
【0038】
検出手段32は、アナログゲインが制御された撮像素子21で撮像された第2カメラ画像を、撮像素子21の飽和電荷量を表す飽和電荷量画像93として生成するものである。
なお、第2カメラ画像とは、アナログゲイン制御手段30がアナログゲインを制御し、光量制御手段31が撮像素子21の飽和電荷量を超えないように光量を制御している状態で撮影したときのカメラ画像のことである。つまり、第2カメラ画像は、飽和電荷量画像93を生成するためのカメラ画像である。
【0039】
また、検出手段32は、撮像素子21のFPNを表すFPN画像90を生成する。例えば、検出手段32は、FPNキャンセル又はアナログゲインが制御された撮像素子21で撮像された画像によりFPN画像90を生成する。ここで、検出手段32は、記憶手段320を備え、生成したFPN画像90及び飽和電荷量画像93を記憶手段320に記憶してもよい。これにより、検出手段32は、FPN画像90及び飽和電荷量画像93を都度生成する必要がなくなり、処理負荷を低減できる。なお、撮像素子21の飽和電荷量及びFPNの検出手法自体は、前記と同様のため、説明を省略する。
【0040】
閾値設定手段33は、飽和電荷量画像93を二値化するための第1閾値、及び、FPN画像90を二値化するための第2閾値を設定するものである。本実施形態では、閾値設定手段33は、飽和電荷量画像93のヒストグラム、飽和電荷量分布の最大値及び最小値、又は、カメラ画像のピーク信号値を所定割合だけ低下させた値に基づいて第1閾値を設定する。まず、第1閾値の具体的な設定手法を順に説明する。
【0041】
<第1例:飽和電荷量画像のヒストグラム>
閾値設定手段33は、飽和電荷量画像93に含まれる各画素の画素値からヒストグラムを生成する。そして、閾値設定手段33は、ヒストグラムのピーク(ある画素値を有する画素の数が最多となる画素値)を第1閾値として設定する。この第1例によれば、ヒストグラムから第1閾値を設定しているので、高精度な二値化が可能となる。
【0042】
<第2例:飽和電荷量分布の最大値及び最小値>
閾値設定手段33は、飽和電荷量分布の最大値及び最小値を検出し、最大値と最小値との中間値を第1閾値として設定する。例えば、最大値及び最小値を検出するため、以下のような処理を行う。
【0043】
まず、アナログゲイン制御手段30にアナログゲインを低下させ、閾値設定手段33は、飽和電荷量分布の最大値が画素値上限以下(画素値を10ビットで表現する場合、1023)となるときのアナログゲインを求める。次に、アナログゲイン制御手段30にアナログゲインを増加させ、閾値設定手段33は、全信号が飽和してカメラ画像全体が白(最大画素値)にとなるときのアナログゲインを求める。このとき、飽和電荷量分布を求めるためにアナログゲインを変化させているが、カメラレンズ20のレンズ絞りや照明装置5の光量を変化させてもよい。
【0044】
そして、閾値設定手段33は、画素値上限以下となるときのアナログゲインと、全信号が飽和するときのアナログゲインとから飽和電荷量分布の最大値と最小値を推定する。さらに、閾値設定手段33は、推定した飽和電荷量分布の最大値と最小値との中間値を第1閾値として設定する。この第2例によれば、ヒストグラムを生成しないので、演算処理の簡略化と高精度な二値化との両立が可能となる。
【0045】
<第3例:カメラ画像のピーク信号値>
閾値設定手段33は、アナログゲイン制御手段30と同様、カメラ画像の各画素の最大画素値を求める。そして、閾値設定手段33は、最大画素値を所定割合(例えば、5%)だけ低下させた値を第1閾値として設定する。この第3例によれば、演算処理のさらなる簡略化を図ることができる。
【0046】
なお、第1閾値の設定手法は、前記した第1~第3に限定されない。例えば、閾値設定手段33では、第1閾値を手動で設定してもよい。また、何れの手法で第1閾値を設定するかは、固有ID情報生成装置3の利用者が手動で設定できる。
【0047】
<第1例:FPN分布のピーク>
次に、第2閾値の具体的な設定手法を順に説明する。
図2(c)に示すように、FPN画像90では、FPNが信号レベル毎に分布する。そこで、閾値設定手段33は、FPN分布のピーク(ある信号レベルを有する画素の数が最多になる信号レベル)を第2閾値として設定する。この第1例によれば、高精度な二値化が可能となる。
【0048】
<第2例:FPNの信号レベル>
閾値設定手段33は、FPN信号が所定レベル(例えば、信号レベルの5%、10ビットデジタル値で51)で検出されるまで、アナログゲイン制御手段30にアナログゲインを増加させる。そして、閾値設定手段33は、設定した所定レベルの半分を第2閾値として設定する。この第2例によれば、演算処理のさらなる簡略化を図ることができる。
【0049】
二値化手段34は、検出手段32が生成した飽和電荷量画像93及びFPN画像90を二値化するものである。ここで、二値化手段34は、閾値設定手段33が設定した第1閾値により飽和電荷量画像93を二値化する。また、二値化手段34は、閾値設定手段33が設定した第2閾値によりFPN画像90を二値化する。その後、二値化手段34は、二値化した飽和電荷量画像93及びFPN画像90を暗号化手段35に出力する。このように二値化を行うことで、飽和電荷量画像93及びFPN画像90のデータ量を削減できる。
【0050】
暗号化手段35は、二値化手段34が二値化した飽和電荷量画像93及びFPN画像90を固有ID情報として暗号化するものである。ここで、暗号化手段35は、共通鍵暗号又は公開鍵暗号などの一般的な暗号化方式を用いることができる。以後、暗号化された固有ID情報を暗号化固有ID情報と記載する場合がある。
【0051】
その後、暗号化手段35は、暗号化固有ID情報を埋込手段36に出力する。また、暗号化手段35は、後記する固有ID情報管理装置4に固有ID情報を登録するため、図示を省略した通信ネットワークを介して、暗号化固有ID情報を固有ID情報管理装置4(暗号解除手段40)に送信する。なお、暗号化手段35は、カメラ画像を撮像する都度、暗号化固有ID情報を固有ID情報管理装置4に送信する必要はない。
【0052】
埋込手段36は、暗号化手段35が暗号化した固有ID情報をカメラ画像に埋め込むものである。例えば、埋込手段36は、既知の電子透かし技術を用いて、暗号化固有ID情報をカメラ画像に埋め込む。その後、埋込手段36は、暗号化固有ID情報が埋め込まれたカメラ画像を固有ID情報管理装置4(固有ID情報抽出手段42)に送信する。
【0053】
[固有ID情報管理装置の構成]
図1を参照し、固有ID情報管理装置4の構成について説明する。
図1に示すように、固有ID情報管理装置4は、暗号解除手段40と、固有ID情報記憶手段41と、固有ID情報抽出手段42と、照合手段43とを備える。
【0054】
暗号解除手段40は、暗号化固有ID情報の暗号化を解除(復号化)するものである。例えば、暗号解除手段40は、暗号化手段35に対応する暗号化方式を用いて、暗号化固有ID情報の暗号化を解除する。ここで、暗号解除手段40は、暗号化手段35から送信された暗号化固有ID情報の暗号化を解除し、固有ID情報を固有ID情報記憶手段41に登録(記録)する。また、暗号解除手段40は、後記する固有ID情報抽出手段42から入力された暗号化固有ID情報の暗号化を解除し、固有ID情報を照合手段43に出力する。
【0055】
仮に固有ID情報を直接照合した場合、撮影者の意図に反してカメラ2が特定される可能性がある。カメラ2が特定されてしまうと、カメラ画像の撮影場所又は撮影時間から取材源の秘匿を確保できなくなる可能性がある。このため、固有ID情報管理装置4では、暗号解除処理を経由して固有ID情報を照会している。
【0056】
固有ID情報記憶手段41は、各撮像素子21の固有ID情報を登録するメモリ、ハードディスク等の記憶手段である。ここで、固有ID情報記憶手段41は、暗号解除手段40から入力された固有ID情報を記憶する。
【0057】
固有ID情報抽出手段42は、固有ID情報管理装置4への入力画像(カメラ画像、他カメラ画像、不正改竄画像)から暗号化固有ID情報を抽出するものである。そして、固有ID情報抽出手段42は、抽出した暗号化固有ID情報を暗号解除手段40に出力する。
【0058】
なお、カメラ画像とは、固有ID情報が固有ID情報記憶手段41に登録されている撮像素子21を備えるカメラで撮像した画像のことである。
また、他カメラ画像とは、固有ID情報が固有ID情報記憶手段41に登録されていない撮像素子21を備えるカメラで撮像した画像のことである。
また、不正改竄画像とは、不正な改竄が行われたカメラ画像のことである。
【0059】
照合手段43は、固有ID情報記憶手段41に登録されている固有ID情報と、暗号解除手段40から入力された固有ID情報との照合を行うものである。つまり、照合手段43は、入力画像から抽出された固有ID情報と、固有ID情報記憶手段41に登録されている固有ID情報との照合を行う。このようにして、照合手段43は、入力画像が撮像素子21を備えるカメラで撮像されたものか否かを照合し、その照合判定の結果(真又は偽)を出力する。
【0060】
以下、照合手段43における照合の具体例を説明する。
入力画像が真正なカメラ画像の場合、入力画像から抽出された固有ID情報と、固有ID情報記憶手段41に登録されている固有ID情報とが一致するので、照合手段43は、真と判定する。
【0061】
入力画像が他カメラ画像又は不正改竄画像の場合、入力画像から抽出された固有ID情報と固有ID情報記憶手段41に登録されている固有ID情報とが一致しない、又は、入力画像から固有ID情報を抽出できないので、照合手段43は、偽と判定する。
【0062】
[固有ID情報生成装置の動作]
図5を参照し、固有ID情報生成装置3の動作について説明する。
図5に示すように、ステップS1において、アナログゲイン制御手段30は、飽和電荷信号が撮像素子21のADC212の信号入力範囲内となるように撮像素子21のアナログゲインを制御する。
【0063】
ステップS2において、検出手段32は、撮像素子21の飽和電荷量を検出して飽和電荷量画像93を生成する。
ステップS3において、検出手段32は、撮像素子21のFPNを検出してFPN画像90を生成する。
なお、ステップS2,S3は順番が前後してもよい。
【0064】
ステップS4において、二値化手段34は、ステップS2で生成した飽和電荷量画像93、及び、ステップS3で生成したFPN画像90を二値化する。
ステップS5において、暗号化手段35は、ステップS4で二値化した飽和電荷量画像93及びFPN画像90を固有ID情報として暗号化する。暗号化手段35は、通信ネットワークを介して、暗号化固有ID情報を固有ID情報管理装置4に送信する。
【0065】
ステップS6において、埋込手段36は、ステップS5で暗号化した固有ID情報をカメラ画像に埋め込む。
ステップS7において、埋込手段36は、通信ネットワークを介して、固有ID情報が埋め込まれたカメラ画像を固有ID情報管理装置4に送信する。
なお、固有ID情報管理装置4は、一般的なものであるため動作の説明を省略する。
【0066】
[作用・効果]
以上のように、固有ID情報管理システム1は、飽和電荷量を検出する際、厳密な測定や撮像素子21の内部構造の改造を必要としないので、固有ID情報を容易に生成できる。すなわち、固有ID情報管理システム1では、撮像素子21の特定が可能となり、その撮像素子21を備えたカメラ2で撮影したカメラ画像であるか否かの真贋判定が容易に行える。また、固有ID情報管理システム1では、固有ID情報管理装置4を介して固有ID情報の照合を行うので、カメラ2で撮影した取材源の秘匿を確保できる。
【0067】
(変形例1)
以上、実施形態を詳述してきたが、本発明は前記した実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
【0068】
前記した実施形態では、固有ID情報生成装置3がカメラ2から独立したものとして説明したが(
図1参照)、これに限定されない。
図6に示すように、カメラ2Bが固有ID情報生成装置3を内蔵してもよい。
【0069】
(変形例2)
前記した実施形態では、固有ID情報生成装置3が二値化を行うこととして説明したが(
図1参照)、これに限定されない。
図7に示すように、固有ID情報生成装置3Cは、閾値設定手段33及び二値化手段34を備えていない。従って、固有ID情報生成装置3Cは、飽和電荷量画像93及びFPN画像90そのものを固有ID情報として生成する。これにより、固有ID情報が多値データとなるので、固有ID情報がより強固となる。
【0070】
(その他変形例)
前記した実施形態では、固有ID情報生成装置が飽和電荷量画像及びFPN画像の両方を固有ID情報として生成することとして説明したが、これに限定されない。つまり、固有ID情報生成装置は、飽和電荷量画像のみを固有ID情報として生成してもよい。この場合、
図5のステップS3を実行する必要がない。
【0071】
前記した実施形態では、固有ID情報生成装置が固有ID情報を暗号化することとして説明したが、これに限定されない。つまり、固有ID情報生成装置は、固有ID情報を暗号化せずともよい。
【0072】
前記した実施形態では、固有ID情報生成装置が独立したハードウェアであることとして説明したが、本発明は、これに限定されない。例えば、本発明は、コンピュータが備えるCPU、メモリ、ハードディスク等のハードウェア資源を、前記した固有ID情報生成装置として機能させるためのプログラムで実現することもできる。このプログラムは、通信回線を介して配布してもよく、CD-ROMやフラッシュメモリ等の記録媒体に書き込んで配布してもよい。
【産業上利用可能性】
【0073】
例えば、本発明は、複数のカメラの固有ID情報を管理し、画像の真贋証明や権利管理に利用できる。また、本発明にNFT(Non-Fungible Token)を適用すれば、画像販売のみならず撮影したカメラ自体の履歴管理にも利用できる。
また、本発明は、カメラのメンテナンスにも利用できる。つまり、本発明は、カメラの撮像素子の交換や撮像素子毎に行われる補正処理(例えば、放送用のカメラでは撮像素子の欠陥画素の内容記録)管理にも利用できる。
【符号の説明】
【0074】
1,1B,1C 固有ID情報管理システム
2,2B カメラ
3,3C 固有ID情報生成装置
4 固有ID情報管理装置
5 照明装置
20 カメラレンズ
21 撮像素子
30 アナログゲイン制御手段
31 光量制御手段
32 検出手段
33 閾値設定手段
34 二値化手段
35 暗号化手段
36 埋込手段
40 暗号解除手段
41 固有ID情報記憶手段
42 固有ID情報抽出手段
43 照合手段
210 画素
211 アナログゲインアンプ
212 ADC(アナログデジタル変換回路)