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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024136726
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】ブロック共重合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 2/38 20060101AFI20240927BHJP
   C08F 293/00 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
C08F2/38
C08F293/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023047936
(22)【出願日】2023-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100142309
【弁理士】
【氏名又は名称】君塚 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】丁 仁平
(72)【発明者】
【氏名】茶谷 俊介
【テーマコード(参考)】
4J011
4J026
【Fターム(参考)】
4J011AA01
4J011AA05
4J011AA07
4J011AC03
4J011BA04
4J011BB07
4J011NA25
4J011NB04
4J026HA11
4J026HA20
4J026HA22
4J026HA32
4J026HA38
4J026HA48
4J026HB06
4J026HB11
4J026HB22
4J026HB32
4J026HB38
4J026HB42
4J026HB45
4J026HB48
4J026HE01
(57)【要約】
【課題】様々なビニルモノマー種に適用でき、また様々なモノマー組成で重合を行うことができ、しかも所望の構造のブロック共重合体を簡便に製造できるブロック共重合体の製造方法の提供。
【解決手段】2級以上の多官能チオール化合物の存在下に、第1のビニルモノマーをラジカル重合させてポリマーを得る第1工程と、前記2級以上の多官能チオール化合物及び前記第1工程で得られた前記ポリマーの存在下に、第2のビニルモノマーをラジカル重合させる第2工程と、を含む、ブロック共重合体の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2級以上の多官能チオール化合物の存在下に、第1のビニルモノマーをラジカル重合させてポリマーを得る第1工程と、
前記2級以上の多官能チオール化合物及び前記第1工程で得られた前記ポリマーの存在下に、第2のビニルモノマーをラジカル重合させる第2工程と、を含む、ブロック共重合体の製造方法。
【請求項2】
前記2級以上の多官能チオール化合物の価数が2~100である、請求項1に記載のブロック共重合体の製造方法。
【請求項3】
前記第1のビニルモノマーが、(メタ)アクリル酸エステル及び芳香族ビニル化合物からなる群より選ばれる1種以上を含む、請求項1に記載のブロック共重合体の製造方法。
【請求項4】
前記第1のビニルモノマーの転化率が51%以上である、請求項1に記載のブロック共重合体の製造方法。
【請求項5】
前記第2のビニルモノマーが、(メタ)アクリル酸エステル及び芳香族ビニル化合物からなる群より選ばれる1種以上を含み、かつ、前記第1のビニルモノマーと異なるビニルモノマーである、請求項1に記載のブロック共重合体の製造方法。
【請求項6】
前記第1工程において前記第1のビニルモノマーを重合させる前に一括で仕込み、かつ、前記第2工程において前記第2のビニルモノマーを重合させる前に一括で仕込む、請求項1に記載のブロック共重合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブロック共重合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的なブロック共重合体の合成法として、リビングアニオン重合法、可逆的付加開裂連鎖移動重合法、原子移動ラジカル重合法などのリビング重合法が知られている。
しかし、これらの重合法は比較的高価な試薬を用いた重合法である。また、酸素や水などが存在すると反応を制御しにくくなる。そのため、例えば工場などにおいて大スケールでブロック共重合体を製造する場合の合成法としては不向きである。
【0003】
そこで近年、より安価かつ取り扱いに優れたブロック共重合体の合成法が検討されている。
例えば特許文献1には、マクロモノマーを共重合成分として用いて、ビニル系モノマーのラジカル重合を行うブロック共重合体の合成法が開示されている。
特許文献2には、多官能チオール化合物を連鎖移動剤として用いて、ビニル系モノマーを2段階でラジカル重合する星形ブロック共重合体の合成法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-88763号公報
【特許文献2】特開2001-139646号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のように、マクロモノマーの共重合によりブロック共重合体を合成する方法では、一般に分子量が非常に大きくなる傾向にある。そのため、特許文献1に記載の方法で得られるブロック共重合体は、例えば低粘度化や易分散などが求められる高分子分散剤用途には不向きである。また、マクロモノマーと共重合可能なモノマー種も限られており、合成できるブロック共重合体の構造が制限されやすい。
【0006】
特許文献2に記載の方法は、連鎖移動剤による星形ブロック共重合体の合成法であるため、ブロック共重合体の低分子量化が可能である。
ところで、1段目のラジカル重合においてビニルモノマーの転化率が100%の場合、多官能チオール化合物のチオール基がほとんど反応してしまう。そのため、2段目のラジカル重合を行っても、2段目で用いるビニルモノマーは単独重合してしまい、星形ブロック共重合体は殆ど得られない。
そこで、引用文献2に記載の方法では、1段目のビニルモノマーの転化率が低い段階で重合を止めた後に、2段目のビニルモノマーを加えて重合を行う必要があり、合成できる星形ブロック共重合体の構造及び組成が制限されやすい。
【0007】
本発明は、様々なビニルモノマー種に適用でき、また様々なモノマー組成で重合を行うことができ、しかも所望の構造のブロック共重合体を簡便に製造できるブロック共重合体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、下記の態様を有する。
[1] 2級以上の多官能チオール化合物の存在下に、第1のビニルモノマーをラジカル重合させてポリマーを得る第1工程と、
前記2級以上の多官能チオール化合物及び前記第1工程で得られた前記ポリマーの存在下に、第2のビニルモノマーをラジカル重合させる第2工程と、を含む、ブロック共重合体の製造方法。
[2] 前記2級以上の多官能チオール化合物の価数が2~100である、前記[1]のブロック共重合体の製造方法。
[3] 前記第1のビニルモノマーが、(メタ)アクリル酸エステル及び芳香族ビニル化合物からなる群より選ばれる1種以上を含む、前記[1]又は[2]のブロック共重合体の製造方法。
[4] 前記第1のビニルモノマーの転化率が51%以上である、前記[1]~[3]のいずれかのブロック共重合体の製造方法。
[5] 前記第2のビニルモノマーが、(メタ)アクリル酸エステル及び芳香族ビニル化合物からなる群より選ばれる1種以上を含み、かつ、前記第1のビニルモノマーと異なるビニルモノマーである、前記[1]~[4]のいずれかのブロック共重合体の製造方法。
[6] 前記第1工程において前記第1のビニルモノマーを重合させる前に一括で仕込み、かつ、前記第2工程において前記第2のビニルモノマーを重合させる前に一括で仕込む、前記[1]~[5]のいずれかのブロック共重合体の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、様々なビニルモノマー種に適用でき、また様々なモノマー組成で重合を行うことができ、しかも所望の構造のブロック共重合体を簡便に製造できるブロック共重合体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例5におけるブロック共重合体のゲル透過クロマトグラフィー(GPC)クロマトグラムである。
図2】比較例1におけるブロック共重合体のゲル透過クロマトグラフィー(GPC)クロマトグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下では本発明を実施するための形態を詳細に説明するが、本発明は後述する実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない限り種々の変形が可能である。
なお、本明細書及び特許請求の範囲において、「~」で表される数値範囲は、~の前後の数値を下限値及び上限値として含む数値範囲を意味する。
また、本明細書及び特許請求の範囲において、「(メタ)アクリル酸」はアクリル酸及びメタクリルの総称である。同様に、「(メタ)アクリレート」は、アクリレート及びメタクリレートの総称である。
【0012】
[ブロック共重合体の製造方法]
本実施形態のブロック共重合体の製造方法は、以下に示す第1工程と、第2工程とを含む。
【0013】
<第1工程>
第1工程は、2級以上の多官能チオール化合物の存在下に、第1のビニルモノマーをラジカル重合させてポリマーを得る工程である。
以下の明細書において、第1工程で用いる多官能チオール化合物を「多官能チオール化合物(T)」という。また、第1工程で得られるポリマーを「ポリマー(P)」という。
なお、第1工程でのラジカル重合の条件等は、後述する。
【0014】
多官能チオール化合物(T)は、連鎖移動剤の役割を果たす。
多官能チオール化合物(T)の級数は2以上である。多官能チオール化合物(T)の級数が1であると、ビニルモノマーに対しての連鎖移動性が高くなり過ぎ、第1工程において多官能チオール化合物(T)に含まれるチオール基の殆どが第1のビニルモノマーと反応してしまう。その結果、第2工程において残存する未反応のチオール基が少なくなり、目的物であるブロック共重合体の生成割合が低下してしまう。
多官能チオール化合物(T)の級数は2でもよいし3でもよいが、3級の多官能チオール化合物(T)は、2級の多官能チオール化合物(T)に比べてビニルモノマーに対する連鎖移動性が低く、チオール基が反応しにくくなる傾向にある。よって、多官能チオール化合物(T)の級数は2が好ましい。
【0015】
多官能チオール化合物(T)としては、2級以上であれば特に制限されないが、脂肪酸ポリチオール化合物が好ましく、連鎖移動による連結基の分解を抑制する点から、ジスルフィド結合を有しない脂肪族ポリチオール化合物がより好ましく、チオール基以外に硫黄原子を有しない脂肪族ポリチオール化合物がさらに好ましい。
【0016】
多官能チオール化合物(T)の価数、すなわち、1分子あたりのチオール基の平均数は、1.5超が好ましく、2以上がより好ましく、2.5以上がさらに好ましい。多官能チオール化合物(T)の価数が上記下限値以上であれば、第1工程の終了時に残存するチオール基が多くなり、第2工程の終了時に生成するブロック共重合体の生成割合が増加する。
また、多官能チオール化合物(T)の価数は、1000以下が好ましく、500以下がより好ましく、100以下がさらに好ましい。多官能チオール化合物(T)の価数が上記上限値以下であれば、第1工程の終了時にチオール基部分に連結されたポリマー鎖の数が少なくなる。その結果、第2工程時にポリマー鎖による立体障害の影響が少なくなり、ブロック共重合体の生成割合が増加する。
多官能チオール化合物(T)の価数の上限及び下限は任意に組み合わせることができる。例えば、多官能チオール化合物(T)の価数は、1.5超1000以下が好ましく、2~500がより好ましく、2~100がさらに好ましく、2.5~100が特に好ましい。
【0017】
多官能チオール化合物(T)は、下記一般式(1)~(3)のいずれかで表される構造を有することが好ましい。
【0018】
【化1】
【0019】
【化2】
【0020】
【化3】
【0021】
一般式(1)中、Rは1価の炭化水素基、水酸基又は1価の電子吸引基であり、Rはn価の有機基であり、nは1~6の整数である。
一般式(2)中、Rは1価の炭化水素基、水酸基又は1価の電子吸引基であり、Rはn価の有機基であり、nは1~6の整数である。
一般式(3)中、Rは1価の炭化水素基、水酸基又は1価の電子吸引基であり、Rは1価の炭化水素基である。
【0022】
、R、Rにおける1価の炭化水素基としては特に限定されないが、アルキル基等の1価の電子供与基が好ましく、炭素数6以下のアルキル基がより好ましく、メチル基又はエチル基がさらに好ましく、メチル基が特に好ましい。
、R、Rにおける1価の電子吸引基としては特に限定されないが、エステル基が好ましく、炭素数6以下のアルキル基を有するエステル基がより好ましく、エチルエステル基又はメチルエステル基がさらに好ましく、メチルエステル基が特に好ましい。
【0023】
及びnはそれぞれ、1~6の整数であり、2~6の整数が好ましい。
はn価の有機基であり、Rはn価の有機基である。
及びRにおける有機基としては、例えば1価の炭化水素基、2価の炭化水素基、3価の炭化水素基、4価の炭化水素基、5価の炭化水素基、6価の炭化水素基、3価の複素環式化合物由来の基などが挙げられる。これらの中でも、2価の炭化水素基、3価の炭化水素基、4価の炭化水素基、5価の炭化水素基、6価の炭化水素基、3価の複素環式化合物由来の基が好ましく、2価の炭化水素基、3価の炭化水素基、4価の炭化水素基、6価の炭化水素基、3価の複素環式化合物由来の基がより好ましい。
、Rにおける炭化水素基は、エーテル基、チオエーテル基、アミノ基又はフェニル基を含んでいてもよい。
【0024】
、Rにおける2価の炭化水素基としては特に限定されないが、アルキレン基が好ましく、炭素数1~6のアルキレン基がより好ましく、エチレン基、n-プロピレン基、n-ブチレン基がさらに好ましく、n-ブチレン基が特に好ましい。
、Rにおける3価の炭化水素基としては特に限定されないが、分岐鎖状の3価のアルキレン基が好ましく、炭素数5~10の分岐鎖状の3価のアルキレン基がより好ましく、4置換炭素を有することが特に好ましい。
、Rにおける4価の炭化水素基としては特に限定されないが、分岐鎖状の4価のアルキレン基が好ましく、炭素数5~10の分岐鎖状の4価のアルキレン基がより好ましく、4置換炭素を有することが特に好ましい。
、Rにおける6価の炭化水素基としては特に限定されないが、エーテル基を含む6価の炭化水素基が好ましく、-CH-C(CH)(CH)-CH-O-CH-C(CH) (CH)-CH-がより好ましい。
、Rにおける3価の複素環式化合物由来の基とは、複素環式化合物から3つの水素原子を除いてできる基である。複素環式化合物としては特に限定されないが、窒素原子を有することが好ましく、窒素原子と炭素原子を有することがさらに好ましく窒素原子とカルボニル基を有することが特に好ましい。
【0025】
における1価の炭化水素基としては特に限定されないが、分岐鎖状の1価のアルキレン基又は分岐鎖状の1価のアルキレン基が好ましく、炭素数1~6の分岐鎖状の1価のアルキレン基又は炭素数1~6の分岐鎖状の1価のアルキレン基がより好ましく、炭素数1~6の分岐鎖状の1価のアルキレン基が特に好ましい。
における1価の炭化水素基は、エーテル基、チオエーテル基、アミノ基、フェニル基又は水酸基を含んでいてもよい。
【0026】
多官能チオール化合物(T)としては、具体的に、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトブチレート)、1,4-ビス(3-メルカプトブチルオキシ)ブタン、1,3,5-トリス(3-メルカプトブチルオキシエチル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6-トリオン、トリメチロールプロパントリス(3-メルカプトブチレート)、ジペンタエリスリトールヘキサキス(3-メルカプトブチレート)などが挙げられる。これらの中でも、ブロック共重合体の生成割合が高まる観点から、ペンタエリスリトールテトラキス (3-メルカプトブチレート)が好ましい。
これら多官能チオール化合物(T)は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0027】
第1のビニルモノマーとしては、(メタ)アクリル酸エステル、芳香族ビニル化合物等の極性基を有さないビニルモノマー;極性基を有するビニルモノマーなどが挙げられる。これらの中でも、極性基を有さないビニルモノマーが好ましく、(メタ)アクリル酸エステル、芳香族ビニル化合物がより好ましく、(メタ)アクリル酸エステルがさらに好ましい。
これら第1のビニルモノマーは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
極性基としては、例えばカルボン酸、アミノ基、アミド基、スルホン酸基、リン酸基などが挙げられる。
【0028】
(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えばメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、i-プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、i-ブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、n-ペンチル(メタ)アクリレート、i-ペンチル(メタ)アクリレート、n-へキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート等の直鎖又は分岐状の炭化水素骨格を有するアルキル(メタ)アクリレート;シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、アダマンチル(メタ)アクリレート、トリシクロデカニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタジエニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート等の脂環式骨格を有するアルキル(メタ)アクリレート;フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート等の側鎖に芳香環が導入された(メタ)アクリレート;ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールモノメチルエーテル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールメチルエーテル(メタ)アクリレート等のポリエチレングリコール基を有する(メタ)アクリレート;2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、8-ヒドロキシオクチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;メトキシメチル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシメチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、プロポキシメチル(メタ)アクリレート、プロポキシエチル(メタ)アクリレート、ブトキシメチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート等のオキシエチレン基を有する(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらの中でも、直鎖又は分岐状の炭化水素骨格を有するアルキル(メタ)アクリレートが好ましく、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレートがより好ましく、メチル(メタ)アクリレートがさらに好ましい。
これら(メタ)アクリル酸エステルは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0029】
芳香族ビニル化合物としては、例えばスチレン、α-メチルスチレン、ジビニルベンゼン、ビニルトルエン、p-スチレンスルホン酸などが挙げられる。これらの中でも、スチレンが好ましい。
これら芳香族ビニル化合物は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0030】
極性基を有するビニルモノマーとしては、例えば(メタ)アクリル酸、ビニルスルホン酸、ビニルホスホン酸等の極性基が直接ビニル基に連結しているビニルモノマー;ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート等の側鎖に極性基が接続しているビニルモノマー;ビニルベンゼンスルホン酸等の芳香環上に極性基が導入されたビニルモノマーなどが挙げられる。
これら極性基を有するビニルモノマーは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0031】
第1のビニルモノマーは、少なくともメタクリル酸エステルを含むことが好ましい。
第1のビニルモノマー中のメタクリル酸エステルの割合は、第1のビニルモノマーの総モル数に対して20モル%以上が好ましく、30モル%以上がより好ましく、50モル%以上がさらに好ましく、70モル%以上が特に好ましい。メタクリル酸エステルの割合が上記下限値以上であれば、多官能チオール化合物(T)と第1のビニルモノマーとが適度に反応し、第1工程を終了した段階で未反応のチオール基が十分に残存する。そのため、第2工程において第2のビニルモノマーが残存したチオール基と反応するため、目的のブロック共重合体の生成割合が増加する。
第1のビニルモノマー中のメタクリル酸エステルの割合の上限値は、第1のビニルモノマーの総モル数に対して100モル%が好ましい。
第1のビニルモノマー中のメタクリル酸エステルの割合の上限及び下限は任意に組み合わせることができる。例えば、第1のビニルモノマー中のメタクリル酸エステルの割合は、第1のビニルモノマーの総モル数に対して20~100モル%が好ましく、30~100モル%がより好ましく、50~100モル%がさらに好ましく、70~100モル%が特に好ましい。
【0032】
第1のビニルモノマーは、メタクリル酸エステルに加えて、アクリル酸エステル及び芳香族ビニル化合物の少なくとも一方をさらに含んでいてもよい。
第1のビニルモノマー中のアクリル酸エステル及び芳香族ビニル化合物の割合は合計で、第1のビニルモノマーの総モル数に対して80モル%以下が好ましく、70モル%以下がより好ましく、50モル%以下がさらに好ましく、30モル%以下が特に好ましい。アクリル酸エステル及び芳香族ビニル化合物の割合が合計で上記上限値以下であれば、多官能チオール化合物(T)と第1のビニルモノマーとが適度に反応し、第1工程を終了した段階で未反応のチオール基が十分に残存する。そのため、第2工程において第2のビニルモノマーが残存したチオール基と反応するため、目的のブロック共重合体の生成割合が増加する。
第1のビニルモノマー中のアクリル酸エステル及び芳香族ビニル化合物の割合の下限値は合計で、第1のビニルモノマーの総モル数に対して0モル%である。
第1のビニルモノマー中のアクリル酸エステル及び芳香族ビニル化合物の割合の上限及び下限は任意に組み合わせることができる。例えば、第1のビニルモノマー中のアクリル酸エステル及び芳香族ビニル化合物の割合は合計で、第1のビニルモノマーの総モル数に対して0~80モル%が好ましく、0~70モル%がより好ましく、0~50モル%がさらに好ましく、0~30モル%が特に好ましい。
【0033】
第1のビニルモノマーの転化率は、51%以上が好ましく、75%以上がより好ましく、90%以上がさらに好ましい。第1のビニルモノマーの転化率が上記下限値以上であれば、第1工程で残存した第1のビニルモノマーと、第2工程で用いる第2のビニルモノマーとが混ざりにくく、より正確なブロック鎖が得られやすくなる。
また、第1のビニルモノマーの転化率の上限値は、100%である。
第1のビニルモノマーの転化率の上限及び下限は任意に組み合わせることができる。例えば、第1のビニルモノマーの転化率は、51~100%が好ましく、75~100%がより好ましく、90~100%がさらに好ましい。
第1のビニルモノマーの転化率は、以下のようにして求められる。
第1工程の終了時の反応溶液をサンプリングし、重クロロホルムに溶解させて1H-NMR測定を行う。得られた結果のNMRチャートから、モノマーのピークとポリマーのピークの積分値を比較することでモノマー転化率を求める。
【0034】
<第2工程>
第2工程は、多官能チオール化合物(T)及びポリマー(P)の存在下に、第2のビニルモノマーをラジカル重合させる工程である。
なお、第2工程でのラジカル重合の条件等は、後述する。
【0035】
第2工程で用いる多官能チオール化合物(T)は、第1工程で用いる多官能チオール化合物(T)と同じであり、第1工程で用いた多官能チオール化合物(T)を引き続き、第2工程でも用いればよい。
【0036】
第2のビニルモノマーとしては、第1のビニルモノマーと同様のモノマーが挙げられる。これらの中でも、極性基を有さないビニルモノマーが好ましく、(メタ)アクリル酸エステル、芳香族ビニル化合物がより好ましい。(メタ)アクリル酸エステルの中でも、直鎖又は分岐状の炭化水素骨格を有するアルキル(メタ)アクリレート、脂環式骨格を有するアルキル(メタ)アクリレート、側鎖に芳香環が導入された(メタ)アクリレート、オキシエチレン基を有する(メタ)アクリレートが好ましく、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、メトキシメチル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシメチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレートがより好ましく、メチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレートがさらに好ましい。芳香族ビニル化合物の中でも、スチレンが好ましい。
また、第2工程で得られるポリマー、すなわち目的物であるブロック共重合体としてミクトアームスターポリマーを製造する場合、第2のビニルモノマーは、第1のビニルモノマーと異なるビニルモノマーであることが好ましい。
第2のビニルモノマーは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0037】
第2のビニルモノマー中の芳香族ビニル化合物の割合は、第2のビニルモノマーの総モル数に対して100モル%以下が好ましく、80モル%以下がより好ましく、70モル%以下がさらに好ましく、50モル%以下が特に好ましい。芳香族ビニル化合物の割合が上記上限値以下であれば、芳香族ビニル化合物の重合が終わる前にチオール基が全て反応することを抑制でき、チオール基に連結していないブロック共重合体が生成することを抑制できるので、目的物であるブロック共重合体の生成割合が増加する。
第2のビニルモノマー中の芳香族ビニル化合物の下限値は、第2のビニルモノマーの総モル数に対して0モル%である。
第2のビニルモノマー中の芳香族ビニル化合物の割合の上限及び下限は任意に組み合わせることができる。例えば、第2のビニルモノマー中の芳香族ビニル化合物の割合は、第2のビニルモノマーの総モル数に対して0~100モル%が好ましく、0~80モル%がより好ましく、0~70モル%がさらに好ましく、0~50モル%が特に好ましい。
【0038】
第2のビニルモノマー中の(メタ)アクリル酸エステルの割合は、第2のビニルモノマーの総モル数に対して0モル%以上が好ましく、20モル%以上がより好ましく、30モル%以上がさらに好ましく、50モル%以上が特に好ましい。(メタ)アクリル酸エステルの割合が上記下限値以上であれば、芳香族ビニル化合物の重合が終わる前にチオール基が全て反応することを抑制でき、チオール基に連結していないブロック共重合体が生成することを抑制できるので、目的物であるブロック共重合体の生成割合が増加する。
第2のビニルモノマー中の(メタ)アクリル酸エステルの上限値は、第2のビニルモノマーの総モル数に対して100モル%である。
第2のビニルモノマー中の(メタ)アクリル酸エステルの割合の上限及び下限は任意に組み合わせることができる。例えば、第2のビニルモノマー中の(メタ)アクリル酸エステルの割合は、第2のビニルモノマーの総モル数に対して0~100モル%が好ましく、20~100モル%がより好ましく、30~100モル%がさらに好ましく、50~100モル%が特に好ましい。
【0039】
第2のビニルモノマーの転化率は、50%以上が好ましく、70%以上がより好ましく、90%以上がさらに好ましい。第2のビニルモノマーの転化率が上記下限値以上であれば、仕込み比率に近い組成でブロック共重合体を合成することができる。
また、第2のビニルモノマーの転化率の上限値は、100%である。
第2のビニルモノマーの転化率の上限及び下限は任意に組み合わせることができる。例えば、第2のビニルモノマーの転化率は、50~100%が好ましく、70~100%がより好ましく、90~100%がさらに好ましい。
第2のビニルモノマーの転化率は、以下のようにして求められる。
第2工程の終了時の反応溶液をサンプリングし、重クロロホルムに溶解させて1H-NMR測定を行う。得られた結果のNMRチャートから、モノマーのピークとポリマーのピークの積分値を比較することでモノマー転化率を求める。
【0040】
<ラジカル重合>
第1工程及び第2工程におけるラジカル重合の形態としては特に限定されないが、例えば溶液重合、塊状重合、懸濁重合、乳化重合などが挙げられる。
【0041】
第1工程において、第1のビニルモノマーを重合させる前に一括で仕込むことが好ましい。
第2工程において、第2のビニルモノマーを重合させる前に一括で仕込むことが好ましい。
第1のビニルモノマー及び第2のビニルモノマーをそれぞれ一括で仕込むことで、工業的に用いられる重合法である懸濁重合法にて重合を行うことができる。
【0042】
ラジカル重合の際の多官能チオール化合物(T)の使用量は、第1のビニルモノマー及び第2のビニルモノマーの合計100質量部に対して、0.2~100質量部が好ましく、1~70質量部がより好ましい。多官能チオール化合物(T)の使用量が上記下限値以上であれば、第1工程の終了時に未反応のチオールが残存するため、第2工程でのブロック共重合体の生成割合が増加する。多官能チオール化合物(T)の使用量が上記上限値以下であれば、生成するポリマーの分子量が極端な低分子量となりにくいため、得られるブロック共重合体が可塑剤として作用することを抑制できる。
【0043】
第1工程及び第2工程では、ラジカル重合開始剤や重合溶媒を用いてラジカル重合を行う。
ラジカル重合に用いるラジカル重合開始剤としては、例えばジベンゾイルペルオキシド及びtert-ブチルペルマレエート等の過酸化物;2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスイソバレロニトリル等のアゾ系化合物などが挙げられる。
これらラジカル重合開始剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0044】
ラジカル重合の際のラジカル重合開始剤の使用量は、第1のビニルモノマー及び第2のビニルモノマーの合計100質量部に対して、0.0001~10質量部が好ましく、0.001~1質量部がより好ましい。ラジカル重合開始剤の使用量が上記下限値以上であれば、重合時のモノマー転化率が上昇しやすい。ラジカル重合開始剤の使用量が上記上限値以下であれば、多官能チオール化合物(T)を介した重合が起こりやすくなり、ブロック共重合体の生成割合が増加する。
【0045】
ラジカル重合に用いる重合溶媒としては、例えばトルエン、エチルベンゼン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒;ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素系溶媒;アセトン、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒;酢酸ブチル等のエステル系溶媒;メタノール、エタノール等のアルコール系溶媒などが挙げられる。
これら重合溶媒は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0046】
ラジカル重合の際の重合溶媒の使用量は、第1のビニルモノマー及び第2のビニルモノマーの合計100質量部に対して、50~500質量部が好ましく、100~300質量部がより好ましい。重合溶媒の使用量が上記下限値以上であれば、重合発熱による異常重合が起こりにくくなる。重合溶媒の使用量が上記上限値以下であれば、モノマー転化率が上昇しやすくなる。
【0047】
第1工程及び第2工程におけるラジカル重合の重合温度は、それぞれ適宜設定できるが、例えば、ラジカル重合開始剤の使用温度範囲として好適である点で、-100~250℃が好ましい。
第1工程及び第2工程におけるラジカル重合の重合時間は、それぞれ適宜設定できるが、例えば、0.5~48時間とすることができる。
【0048】
<ブロック共重合体>
本発明により得られるブロック共重合体は、複数のポリマー鎖が多官能チオール化合物(T)で連結された、ブロック鎖を含む高分子化合物であり、スターポリマーともいう。特に、第1のビニルモノマーと第2のビニルモノマーが異なる種類である場合や、第1のビニルモノマー及び第2のビニルモノマーの少なくとも一方が、2種以上のビニルモノマーを含む場合は、異種のポリマー鎖が多官能チオール化合物(T)で連結されたブロック共重合体が得られ、このようなブロック共重合体をミクトアームスターポリマーともいう。
【0049】
ブロック共重合体の相対重量平均分子量(relative weight average molecular weight;以下、単に「相対M」とも記す。)は、1000以上が好ましく、2000以上がより好ましく、3000以上がさらに好ましい。ブロック共重合体の相対Mが上記下限値以上であれば、分子量が十分に大きく、ブロック共重合体が可塑剤として作用することを抑制できる。
また、ブロック共重合体の相対Mは、300000以下が好ましく、150000以下がより好ましく、100000以下がさらに好ましい。ブロック共重合体の相対Mが上記上限値以下であれば、多官能チオール化合物(T)の連鎖移動によりポリマー鎖が低分子量化したことになり、ブロック共重合体の生成割合が増加したことになる。
ブロック共重合体の相対Mの上限及び下限は任意に組み合わせることができる。例えば、ブロック共重合体の相対Mは、1000~300000が好ましく、2000~150000がより好ましく、3000~100000がさらに好ましい。
【0050】
また、第1工程で得られるポリマー(P)のポリマー鎖の相対Mは、500以上が好ましく、1000以上がより好ましく、1500以上がさらに好ましい。ポリマー(P)のポリマー鎖の相対Mが上記下限値以上であれば、分子量が十分に大きく、目的物であるブロック共重合体が可塑剤として作用することを抑制できる。
また、ポリマー(P)のポリマー鎖の相対Mは、100000以下が好ましく、50000以下がより好ましく、25000以下がさらに好ましい。ポリマー(P)のポリマー鎖の相対Mが上記上限値以下であれば、第2工程においてラジカル重合を行う際に立体障害が大きくなりにくく、未反応のチオール基と第2のビニルモノマーとが反応しやすく、ブロック共重合体の生成割合が増加する。
ポリマー(P)のポリマー鎖の相対Mの上限及び下限は任意に組み合わせることができる。例えば、ポリマー(P)のポリマー鎖の相対Mは、500~100000が好ましく、1000~50000がより好ましく、1500~25000がさらに好ましい。
【0051】
第2工程で得られるブロック共重合体のポリマー鎖の相対Mは、500以上が好ましく、1000以上がより好ましく、1500以上がさらに好ましい。ブロック共重合体のポリマー鎖の相対Mが上記下限値以上であれば、分子量が十分に大きく、目的物であるブロック共重合体が可塑剤として作用することを抑制できる。
また、ブロック共重合体のポリマー鎖の相対Mは、200000以下が好ましく、100000以下がより好ましく、50000以下がさらに好ましい。ブロック共重合体のポリマー鎖の相対Mが上記上限値以下であれば、未反応のチオール基が関与せずに生成する第2のビニルモノマーが単独重合したホモポリマーの生成量を低減でき、ブロック共重合体の生成割合が増加する。
ブロック共重合体のポリマー鎖の相対Mの上限及び下限は任意に組み合わせることができる。例えば、ブロック共重合体のポリマー鎖の相対Mは、500~200000が好ましく、1000~100000がより好ましく、1500~50000がさらに好ましい。
【0052】
なお、相対Mは、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いて測定されるポリメチルメタクリレート換算値である。相対Mは、後述の実施例に記載された方法により算出される分子量である。
【0053】
また、ブロック鎖が生成しているか否かは、GPCクロマトグラム測定チャートを比較することで確認できる。すなわち、第1工程で得られるポリマー(P)のポリマー鎖のピークトップ分子量Mpaと、第2工程で得られるブロック共重合体のピークトップ分子量Mpbとを比較することで、ブロック鎖が生成しているか否かを確認できる。
【0054】
ブロック鎖が生成する場合、第1工程で得られるポリマー(P)に第2工程で生成するポリマーが連結するため、第1工程で得られるポリマー(P)のポリマー鎖のピークトップ分子量Mpaがブロック鎖の生成と共に高分子量側にシフトし、最終的に得られるブロック共重合体のピークトップ分子量Mpbとなり、単峰性のGPCクロマトグラムチャートとなる。一方、ブロック鎖の生成が少ない場合、第1工程で得られるポリマー(P)のポリマー鎖が第2工程後も残存することになるので、最終的に得られるブロック共重合体のピークトップは2峰性のGPCクロマトグラムチャートとなる。
このように、ブロック共重合体のGPC測定し、単峰性のGPCクロマトグラムチャートが得られた場合は、ブロック鎖が生成したものと判断できる。
【0055】
<作用効果>
以上説明したように、本実施形態のブロック共重合体の製造方法によれば、2級以上の多官能チオール化合物を連鎖移動剤として用い、ビニルモノマーのラジカル重合を2段階で行うことにより、ブロック共重合体を製造する。このようにして得られるブロック共重合体は、各モノマー組成のポリマー鎖がそれぞれ前記多官能チオール基で連結された構造をとる。また、使用するビニルモノマーに制限はなく、例えば(メタ)アクリル酸エステル、芳香族ビニル化合物や、極性基を含むビニルモノマーなどを用いることができる。
よって、本実施形態のブロック共重合体の製造方法によれば、様々なビニルモノマー種に適用でき、また様々なモノマー組成で重合を行うことができ、しかも所望の構造のブロック共重合体を簡便に製造できる。
【実施例0056】
以下では実施例によって本発明をより具体的に説明する。しかし、本発明は後述する実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない限り種々の変形が可能である。
【0057】
[原料]
実施例及び比較例で使用した原料及びその略号を以下に示す。
【0058】
<多官能チオール化合物(T)>
・MTPE-1:ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトブチレート)(株式会社レゾナック製)
・PEMP:ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)(SC有機化学株式会社製)
・DPMP:ジペンタエリスリトール-3-メルカプトプロピオン酸エステル(SC有機化学株式会社製)
【0059】
<ビニルモノマー>
・MMA:メチルメタクリレート(三菱ケミカル株式会社製、商品名「アクリルエステルM」)
・MEA:メトキシエチルアクリレート
・BA:ブチルアクリレート
・CHMA:シクロへキシルメタクリレート
・MAA:メタクリル酸
・PhMA:フェニルメタクリレート
・Styrene:スチレン
【0060】
<重合開始剤>
・AIBN:2,2’-アゾビスイソブチロニトリル
【0061】
<重合溶媒>
・DMF:ジメチルホルムアミド(富士フィルム和光純薬株式会社製)
【0062】
[測定方法及び評価方法]
<相対Mの測定>
ブロック共重合体の相対Mは、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)法により測定した。以下に測定条件を示す。
・装置:HLC-8220(東ソー株式会社製)
・カラム:TSK GUARD COLUMN SUPER H-H(4.6×35mm、東ソー社製)と2本のTSK-GEL SUPER HM-H(6.0×150mm、東ソー株式会社製)を直列に接続したもの
・検出器:示差屈折率(RI)検出器
・カラム及び検出器温度:40℃
・溶離液:テトラヒドロフラン
・流速:0.6mL/分
・試料濃度:2mg/mL(テトラヒドロフラン溶液)
・標準物質:ポリメチルメタクリレート(Polymer Laboratories社製;Mp(ピーク分子量)=141,500、55,600、11,100、1,590)
【0063】
<ブロック鎖生成の確認>
ブロック共重合体に占めるブロック鎖の含有度合いは、以下の方法により算出した。
貧溶媒を用いて第1工程で得られたポリマー(P)の溶液を再沈殿し、ポリマー(P)を回収した。回収したポリマー(P)についてGPC測定を行い、ピークトップ分子量Mpaを算出した。
次いで、第2工程で得られたブロック共重合体の溶液についてGPC測定を行い、ピークトップ分子量Mpbを算出した。
次いで、Mpb/Mpaを求め、ピークトップ分子量の変化度を求めた。
また、得られたGPCクロマトグラムチャートを比較し、第2工程で得られたブロック共重合体のGPCクロマトグラムが、第1工程で得られたポリマー(P)のGPCクロマトグラムのピークと比較して、相対的に高分子量側にピークシフトしているか否かを確認し、また単峰性であるか否かを確認した。
Mpb/Mpaの値が1.05以上であり、第1工程で得られたポリマー(P)のGPCクロマトグラムのピークと比較して、相対的に高分子量側にピークシフトしており、単峰性であるものをブロック鎖が生成したと判断した。
【0064】
[実施例1]
撹拌装置及び窒素同入管を備えた50mLのシュレンク管に、第1のビニルモノマーとしてメチルメタクリレート(MMA)を35質量部、多官能チオール化合物(T)としてペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトブチレート)(MTPE-1)を第1のビニルモノマー35質量部に対して10質量部、ラジカル重合開始剤として2,2’-アゾビスブチロニトリル(AIBN)を第1のビニルモノマーに対して0.3mol%加え、さらに重合溶媒としてトルエンを加えた。第1のビニルモノマー、多官能チオール化合物(T)、ラジカル重合開始剤及び重合溶媒を上記シュレンク管中で混合し、固形分(第1のビニルモノマー、多官能チオール化合物(T) 及びラジカル重合開始剤)濃度が0.5質量%の混合液を調製した。調製した混合液を窒素雰囲気下で撹拌しながら、80℃に加熱した。混合液を5時間加熱撹拌し、ポリマー(P)の溶液を得た(第1工程)。得られたポリマー(P)の溶液についてGPC測定を行った。なお、ポリマー(P)の溶液を再沈殿する際には、表1に示す貧溶媒を用いた。
【0065】
引き続き、得られたポリマー(P)の溶液に第2のビニルモノマーとしてスチレンを100質量部、及びラジカル重合開始剤として2,2’-アゾビスブチロニトリル(AIBN)を第2のビニルモノマーに対して0.5mol%加え、さらに、重合溶媒としてトルエンを加えた。第2のビニルモノマー、ラジカル重合開始剤及び重合溶媒を上記シュレンク管中で混合し、固形分(第2のビニルモノマー及びラジカル重合開始剤)濃度が0.5質量%の混合液を調製した。調製した混合液を窒素雰囲気下で撹拌しながら、80℃に加熱した。混合液を5時間加熱撹拌し、ブロック共重合体の溶液を得た(第2工程)。得られたブロック共重合体の溶液のGPC測定を行った。
GPC測定結果(ピークトップ分子量Mpa、ピークトップ分子量Mpb、GPCクロマトグラムのピーク比較、GPCクロマトグラムのピーク形状、ピークトップシフト割合)を表1に示す。
【0066】
また、第1のビニルモノマーの転化率を表1に示す。転化率は、以下のようにして求めた。
第1工程で得られた反応溶液をサンプリングし、重クロロホルムを加えて均一にした。その後プロトンNMR測定にてモノマーに特有のピーク及びポリマー特有のピークの積分値を比較することで反応率を求めた。例えばMMAの重合の場合は以下の式にてNMRピークを算出した。
PMMAのメチルエステル基のメチル基積分値/(MMAのメチルエステル部分のメチル基の積分値+PMMAのメチルエステル部分のメチル基の積分値)×100
【0067】
[実施例2]
第1工程において、多官能チオール化合物(T)の配合量を第1のビニルモノマー35質量部に対して15質量部に変更したこと以外は、実施例1と同様にしてブロック共重合体の溶液を製造し、GPC測定を行った。結果を表1に示す。
【0068】
[実施例3]
第1工程において、第1のビニルモノマーの配合量を70質量部に変更し、第2工程において、第2のビニルモノマーの配合量を50質量部に変更したこと以外は、実施例1と同様にしてブロック共重合体の溶液を製造し、GPC測定を行った。結果を表1に示す。
【0069】
[実施例4]
第1工程において、第1のビニルモノマーの配合量を70質量部に変更し、かつ、多官能チオール化合物(T)の配合量を第1のビニルモノマー70質量部に対して15質量部に変更し、第2工程において、第2のビニルモノマーの配合量を50質量部に変更したこと以外は、実施例1と同様にしてブロック共重合体の溶液を製造し、GPC測定を行った。結果を表1に示す。
【0070】
[実施例5]
第1工程において、第1のビニルモノマーの配合量を50質量部に変更し、かつ、多官能チオール化合物(T)の配合量を第1のビニルモノマー50質量部に対して8.12質量部に変更し、第2工程において、第2のビニルモノマーとしてブチルアクリレート(BA)50質量部を用い、かつ、ラジカル重合開始剤の配合量を0.3mol%に変更したこと以外は、実施例1と同様にしてブロック共重合体の溶液を製造し、GPC測定を行った。結果を表2に示す。また、GPCクロマトグラムを図1に示す。
【0071】
[実施例6]
第1工程において、第1のビニルモノマーの配合量を40質量部に変更し、かつ、多官能チオール化合物(T)の配合量を第1のビニルモノマー40質量部に対して2.17質量部に変更し、第2工程において、第2のビニルモノマーとしてメトキシエチルアクリレート(MEA)60質量部を用い、かつ、ラジカル重合開始剤の配合量を0.3mol%に変更したこと以外は、実施例1と同様にしてブロック共重合体の溶液を製造し、GPC測定を行った。結果を表2に示す。
【0072】
[実施例7]
第1工程において、第1のビニルモノマーとしてメチルメタクリレート(MMA)40質量部及びメタクリル酸(MAA)10質量部を用い、重合溶媒としてジメチルホルムアミド(DMF)を用い、第2工程において、第2のビニルモノマーとしてメチルメタクリレート(MMA)50質量部を用い、かつ、ラジカル重合開始剤の配合量を0.3mol%に変更したこと以外は、実施例1と同様にしてブロック共重合体の溶液を製造し、GPC測定を行った。結果を表2に示す。
【0073】
[実施例8]
第1工程において、第1のビニルモノマーの配合量を40質量部に変更し、かつ、多官能チオール化合物(T)の配合量を第1のビニルモノマー40質量部に対して2.17質量部に変更し、第2工程において、第2のビニルモノマーとしてシクロへキシルメタクリレート(CHMA)50質量部を用い、かつ、ラジカル重合開始剤の配合量を0.3mol%に変更したこと以外は、実施例1と同様にしてブロック共重合体の溶液を製造し、GPC測定を行った。結果を表2に示す。
【0074】
[実施例9]
第1工程において、第1のビニルモノマーの配合量を50質量部に変更し、第2工程において、第2のビニルモノマーとしてフェニルメタクリレート(PhMA)50質量部を用い、かつ、ラジカル重合開始剤の配合量を0.3mol%に変更したこと以外は、実施例1と同様にしてブロック共重合体の溶液を製造し、GPC測定を行った。結果を表2に示す。
【0075】
[比較例1]
第1工程において、第1のビニルモノマーの配合量を50質量部に変更し、かつ、多官能チオール化合物(T)としてペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)(PEMP)を第1のビニルモノマー50質量部に対して7.33質量部用い、第2工程において、第2のビニルモノマーとしてブチルアクリレート(BA)50質量部を用い、かつ、ラジカル重合開始剤の配合量を0.3mol%に変更したこと以外は、実施例1と同様にしてブロック共重合体の溶液を製造し、GPC測定を行った。結果を表3に示す。また、GPCクロマトグラムを図2に示す。
【0076】
[比較例2]
第1工程において、第1のビニルモノマーの配合量を50質量部に変更し、かつ、多官能チオール化合物(T)としてジペンタエリスリトール-3-メルカプトプロピオン酸エステル(DPMP)を第1のビニルモノマー50質量部に対して5.33質量部用い、第2工程において、第2のビニルモノマーとしてブチルアクリレート(BA)64質量部を用い、かつ、ラジカル重合開始剤の配合量を0.3mol%に変更したこと以外は、実施例1と同様にしてブロック共重合体の溶液を製造し、GPC測定を行った。結果を表3に示す。
【0077】
[比較例3]
第1工程において、第1のビニルモノマーの配合量を50質量部に変更し、かつ、多官能チオール化合物(T)としてジペンタエリスリトール-3-メルカプトプロピオン酸エステル(DPMP)を第1のビニルモノマー50質量部に対して2.67質量部用い、第2工程において、第2のビニルモノマーとしてブチルアクリレート(BA)64質量部を用い、かつ、ラジカル重合開始剤の配合量を0.3mol%に変更したこと以外は、実施例1と同様にしてブロック共重合体の溶液を製造し、GPC測定を行った。結果を表3に示す。
【0078】
[参考例A]
第1工程において、第1のビニルモノマーの配合量を50質量部に変更し、かつ、多官能チオール化合物(T)としてペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)(PEMP)を第1のビニルモノマー50質量部に対して7.33質量部用いた以外は、実施例1と同様にして第1工程を行った。ただし、メチルメタクリレート(MMA)の転化率が66%となった時点で、シュレンク管をオイルバスから取り出して室温に戻した後に再沈殿を行った。
得られた再沈ポリマーに対して、第2のビニルモノマーとしてブチルアクリレート(BA)64質量部を加え、かつ、ラジカル重合開始剤の配合量を0.3mol%に変更したこと以外は、実施例1と同様にして第2工程を行い、ブロック共重合体の溶液を製造し、GPC測定を行った。結果を表3に示す。
【0079】
【表1】
【0080】
【表2】
【0081】
【表3】
【0082】
上述した実施例及び比較例から、以下のことがいえる。
各実施例のように2級の多官能チオール化合物(T)を用い、2段階のラジカル重合を行うことで、図1に示すように、1段階目で生成したGPCクロマトグラムのピークが高分子量側にシフトしており、また単峰性のピークとなっていることが示された。
一方で、1級の多官能チオール化合物(T)を用いて2段階のラジカル重合を行った場合、図2に示すように、1段目で生成したポリマーピークが高分子量側にシフトせず、その結果、二峰性のピークとなっていることが示された。
なお、参考例Aは各実施例と同程度の結果となったが、第1工程と第2工程との間で再沈殿する必要があり、手間がかかった。また、ビニルモノマーの転化率が低い段階で第2のビニルモノマーを加えて重合を行うため、合成できるブロック共重合体の構造及び組成が制限されやすい。
以上のことから、本発明であれば、効率的かつ簡便に、ブロック鎖を含む高分子化合物であるブロック共重合体を製造できることが示された。
図1
図2