(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024136748
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】磁歪式トルクセンサ
(51)【国際特許分類】
G01L 3/10 20060101AFI20240927BHJP
【FI】
G01L3/10 301R
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023047969
(22)【出願日】2023-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】弁理士法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤森 亮利
(72)【発明者】
【氏名】鬼本 隆
(72)【発明者】
【氏名】浦上 正剛
(72)【発明者】
【氏名】篠島 巧
(72)【発明者】
【氏名】福田 晃大
(57)【要約】
【課題】小型化が可能な磁歪式トルクセンサを提供する。
【解決手段】磁歪式トルクセンサ1は、磁歪効果を有する回転軸9が挿通される円筒部21を有する樹脂製のホルダ2と、所定の方向に並ぶ複数の検出コイルを組み合わせてなるコイル群が配線パターンによって形成された検出部40及びコイル群と外部装置8とを電気的に接続する複数の信号線491~494が配線パターンによって形成された信号線路部400を有するフレキシブル基板4と、ホルダ2の円筒部21の外周に配置された軟磁性体からなる円筒状の磁性リング5とを備え、検出部40がホルダ2の円筒部21と磁性リング5との間に配置され、信号線路部400がホルダ2の外部に導出されている。ホルダ2は、磁性リング5の軸方向一端部の外周を囲む環状壁23を有し、ホルダ2と磁性リング5とが、環状壁23を貫通して磁性リング5の留め穴510に挿入される軸状の留め具6によって固定されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁歪効果を有する回転軸の周囲に取り付けられ、前記回転軸によって伝達されるトルクを検出する磁歪式トルクセンサであって、
前記回転軸が挿通される空洞が中心部に形成された円筒部を有する樹脂製のホルダと、
所定の方向に並ぶ複数の検出コイルを組み合わせてなるコイル群が配線パターンによって形成された検出部、及び前記コイル群と外部装置とを電気的に接続する複数の信号線が配線パターンによって形成された信号線路部を有するフレキシブル基板と、
前記ホルダの前記円筒部の外周に配置された軟磁性体からなる円筒状の磁性リングと、を備え、
前記フレキシブル基板は、前記検出部が前記ホルダの前記円筒部と前記磁性リングとの間に湾曲して配置され、前記信号線路部の一部が前記ホルダの外部に導出されており、
前記ホルダは、前記磁性リングの軸方向一端部の外周を囲む環状壁を有し、
前記磁性リングには、前記環状壁の内周面に対向する外周面に開口する留め穴が形成されており、
前記ホルダと前記磁性リングとが、前記環状壁を貫通して前記磁性リングの前記留め穴に挿入される軸状の留め具によって固定されている、
磁歪式トルクセンサ。
【請求項2】
前記検出部は、前記複数の検出コイルの並び方向が長辺方向となる長方形状であり、
前記信号線路部は、前記検出部から前記長辺方向に対して垂直な方向に突出した突出部と、前記突出部から前記長辺方向に延びる線状部とを有し、
前記線状部の一部が前記ホルダの外部に導出されている、
請求項1に記載の磁歪式トルクセンサ。
【請求項3】
前記ホルダは、前記線状部の一部を収容する凹部を有し、
前記線状部は、前記凹部の内部で屈曲され、前記円筒部の周方向に対して垂直な方向に延びるように前記ホルダの外部に導出されている、
請求項2に記載の磁歪式トルクセンサ。
【請求項4】
前記ホルダの前記凹部に嵌合する凸部を有するカバー部材をさらに備え、
前記線状部が前記凹部の内面と前記凸部の外周面との間に挟持されている、
請求項3に記載の磁歪式トルクセンサ。
【請求項5】
前記ホルダの前記凹部から前記凸部が離脱する方向への前記カバー部材の移動が前記磁性リングによって規制されている、
請求項4に記載の磁歪式トルクセンサ。
【請求項6】
前記フレキシブル基板の前記検出部が前記ホルダの前記円筒部に接着され、前記検出部と前記磁性リングとの間に空間が形成されている、
請求項1に記載の磁歪式トルクセンサ。
【請求項7】
前記留め具が前記環状壁の外周面から突出しており、
前記留め具の前記突出した部分が取付対象に係合することにより、前記ホルダ及び前記磁性リングが前記取付対象に対して回り止めされる、
請求項1に記載の磁歪式トルクセンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁歪効果を有する回転軸によって伝達されるトルクを検出する磁歪式トルクセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば自動車のエンジンの出力回転軸などのトルクを検出するために、磁歪式のトルクセンサが用いられている。磁歪式のトルクセンサは、応力によって回転軸の透磁率が変化する磁歪効果を利用し、回転軸の周囲に配置した検出コイルのインダクタンスの変化に基づいて回転軸に付与されたトルクを検出するように構成されている。本出願人は、複数の検出コイルが形成されたフレキシブル基板を回転軸の周囲に配置し、複数の検出コイルのインダクタンスの変化に基づいて回転軸に付与されたトルクを検出する磁歪式トルクセンサを提案している(特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載された磁歪式トルクセンサは、樹脂ハウジング内に複数の検出コイルが形成されたフレキシブル基板が収容されている。フレキシブル基板の端部には複数の端子部が設けられており、樹脂ハウジング内においてこれらの端子部にケーブルの信号線が接続されている。ケーブルは、樹脂ハウジングから導出され、制御装置に接続される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
回転軸の周囲には、トルクセンサを設置するスペースを確保することが難しい場合があり、トルクセンサの小型化が要請されている。本発明は、この要請に応えるべくなされたものであり、その目的は、小型化が可能な磁歪式トルクセンサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記の目標を達成するため、磁歪効果を有する回転軸の周囲に取り付けられ、前記回転軸によって伝達されるトルクを検出する磁歪式トルクセンサであって、前記回転軸が挿通される空洞が中心部に形成された円筒部を有する樹脂製のホルダと、所定の方向に並ぶ複数の検出コイルを組み合わせてなるコイル群が配線パターンによって形成された検出部、及び前記コイル群と外部装置とを電気的に接続する複数の信号線が配線パターンによって形成された信号線路部を有するフレキシブル基板と、前記ホルダの前記円筒部の外周に配置された軟磁性体からなる円筒状の磁性リングと、を備え、前記フレキシブル基板は、前記検出部が前記ホルダの前記円筒部と前記磁性リングとの間に湾曲して配置され、前記信号線路部の一部が前記ホルダの外部に導出されており、前記ホルダは、前記磁性リングの軸方向一端部の外周を囲む環状壁を有し、前記磁性リングには、前記環状壁の内周面に対向する外周面に開口する留め穴が形成されており、前記ホルダと前記磁性リングとが、前記環状壁を貫通して前記磁性リングの前記留め穴に挿入される軸状の留め具によって固定されている。磁歪式トルクセンサを提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、磁歪式トルクセンサを小型化することができ、設置スペースの省スペース化が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施の形態に係る磁歪式トルクセンサを検出対象の回転軸と共に示す斜視図である。
【
図3】
図2とは異なる方向から見た磁歪式トルクセンサの分解斜視図である。
【
図5】(a)は、一枚のフレキシブル基板を示す平面図である。(b)は、複数のフレキシブル基板を多面取りする母材を示す平面図である。
【
図6】フレキシブル基板の層構成を示す断面図である。
【
図7】(a)~(d)は、第1乃至第4の配線層を示す平面図である。
【
図8】フレキシブル基板、発振器、及び電圧計によって構成される電気回路の構成例を模式的に示す回路図である。
【
図9】(a)は、ホルダにカバー部材及びフレキシブル基板が取り付けられた状態を軸方向から見た構成図である。(b)は、(a)に示す状態からカバー部材の図示を省略した構成図である。
【
図10】(a)は、ホルダの凹部を軸方向から見た構成図である。(b)は、凹部の周辺部を示す斜視図である。
【
図11】(a)及び(b)は、カバー部材を示す斜視図である。
【
図12】(a)は、留め具を示す斜視図である。(b)は、長手方向に対して垂直な断面における留め具の断面図である。
【
図13】ホルダ及び磁性リングを留め具と共に示す斜視図である。
【
図14】ハウジングに取り付けられた磁歪式トルクセンサを示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[実施の形態]
図1は、本発明の実施の形態に係る磁歪式トルクセンサ1を検出対象の回転軸9と共に示す斜視図である。
図2は、磁歪式トルクセンサ1の分解斜視図である。
図3は、
図2とは異なる方向から見た磁歪式トルクセンサ1の分解斜視図である。
図4は、磁歪式トルクセンサ1の断面図である。
【0010】
磁歪式トルクセンサ1は、回転軸9の周囲に取り付けられ、回転軸9によって伝達されるトルクを検出する。回転軸9は、例えば自動車のエンジンあるいは電動モータ等の駆動源の駆動力を伝達するシャフトである。磁歪式トルクセンサ1によって得られたトルクの検出結果は、駆動源や自動変速機などの制御のために用いられる。
【0011】
回転軸9は、磁歪効果を有する強磁性体であり、回転軸線Oを中心として回転してトルクを伝達する。ここで、磁歪効果とは、強磁性体に磁場を印加して磁化させると形状に歪(ひずみ)が現れる現象である。そして、この現象を逆に利用し、形状の歪によって発生する磁気特性の変化を検出することで、回転軸9に付与されたトルクを検出することができる。回転軸9としては、例えばクロム鋼、クロムモリブデン鋼、又はニッケルクロムモリブデン鋼等のクロムを含有するクロム鋼からなる軸状体に浸炭焼入れ及び焼戻し処理を施し、さらにショットピーニングを施したものを好適に用いることができる。以下、回転軸9の回転軸線Oに平行な方向を軸方向という。
【0012】
磁歪式トルクセンサ1は、ホルダ2と、カバー部材3と、フレキシブル基板4と、軟磁性体からなる円筒状の磁性リング5と、ホルダ2と磁性リング5とを固定する軸状の留め具6と、ホルダ2と磁性リング5との間に配置されたリップシール7と、ホルダ2の外部に配置された外部装置8とを有して構成されている。外部装置8は、発振器81及び電圧計82を有し、発振器81及び電圧計82がフレキシブル基板4と電気的に接続される。外部装置8の動作については後述する。
【0013】
ホルダ2は、例えばPPS(ポリフェニレンサルファイド)等の樹脂材料からなる樹脂製である。ホルダ2は、例えば射出成形により形成されるが、これに限らず、ホルダ2を3Dプリンタなどの3D造形装置を用いて形成してもよい。ホルダ2は、回転軸9が挿通される空洞20が中心部に形成された円筒部21と、フレキシブル基板4の一部を収容する凹部22と、磁性リング5の軸方向一端部の外周を囲む環状壁23とを有している。円筒部21の中心軸線Cは、回転軸9の回転軸線Oと一致する。凹部22は、円筒部21の外周に設けられている。環状壁23は、凹部22が形成された部分以外の円筒部21の外周に設けられている。円筒部21と環状壁23との間には、磁性リング5の軸方向一端部を収容する環状溝230が形成されている。凹部22及び環状溝230は、共に軸方向一方側に開口している。
【0014】
カバー部材3は、例えばホルダ2と同様の樹脂材料からなる樹脂製であり、凹部22の軸方向一方側を覆う板部31と、凹部22に嵌合する凸部32とを一体に有している。カバー部材3及び凹部22の形状の詳細については後述する。
【0015】
磁性リング5は、例えば鋼材や焼結磁性体からなり、ホルダ2の円筒部21の外径よりも内径が大きい円筒状に形成され、円筒部21の外周に配置されている。磁性リング5が鋼材からなる場合、電磁ステンレス等の磁性鉄鋼材を好適に用いることができ、その成形方法としては、例えば深絞りを用いることができる。また、長尺なパイプ状の鋼材を所定の長さに切り出して磁性リング5としてもよい。磁性リング5は、カバー部材3と軸方向に並び、ホルダ2の凹部22から凸部32が離脱する方向へのカバー部材3の移動を規制している。
【0016】
本実施の形態では、磁性リング5が外径の異なる大径部51と小径部52とを一体に有している。大径部51の内径と小径部52の内径とは同じである。大径部51は、磁性リング5の軸方向一端部に設けられ、ホルダ2の環状溝230に収容されている。ホルダ2の環状壁23は、大径部51の外周を囲んでいる。磁性リング5は、大径部51が環状溝230にインロー嵌合されることにより、ホルダ2に対して中心軸線Cに対して垂直な径方向に位置決めされている。より具体的には、大径部51の外周面51aが環状壁23の内周面23aに対向することより、径方向におけるホルダ2と磁性リング5との相対位置が決められている。
【0017】
図3に示すように、磁性リング5の大径部51における軸方向の端面51bには、カバー部材3の板部31と向かい合う部分に、端面51bから軸方向に窪む切り欠き500が形成されている。カバー部材3及び磁性リング5がホルダ2に組付けられたとき、カバー部材3の板部31の一部が切り欠き500に収容され、大径部51の端面51bが環状溝230の底面230aに当接する。
【0018】
図5(a)は、一枚のフレキシブル基板4を示す平面図である。
図5(b)は、複数のフレキシブル基板4を多面取りする母材100を示す平面図である。フレキシブル基板4は、母材100から切り出して製造される。
【0019】
フレキシブル基板4は、回転軸9の磁界を検出するための複数の検出コイルを有する検出部40、及び外部装置8と検出部40とを電気的に接続する複数の信号線が配線パターンによって形成された信号線路部400を一体に有している。
図5では、複数の検出コイル及び複数の信号線の図示を省略している。フレキシブル基板4は、検出部40がホルダ2の円筒部21と磁性リング5との間に湾曲して配置され、信号線路部400の一部がホルダ2の外部に導出される。検出部40には、所定の方向に並ぶ複数の検出コイルを組み合わせてなるコイル群が配線パターンによって形成されている。検出部40は、複数の検出コイルの並び方向が長辺方向となる長方形状である。
【0020】
信号線路部400は、検出部40から長辺方向に対して垂直な方向に突出した突出部401と、突出部401から長辺方向に延びる線状部402とを有している。このフレキシブル基板4の形状により、
図5(b)に示すように母材100の不要な面積を小さくして複数のフレキシブル基板4を切り出すことができ、歩留まりを向上させることができる。線状部402の長さは、例えば50mm以上100mm以下である。
【0021】
線状部402は、突出部401の近傍にあたる基端部を除き、先端部を含む一部がホルダ2の外部に導出されている。線状部402の先端部には、
図1に拡大して示すように、第1乃至第4の電極402a~402dが形成されている。フレキシブル基板4の線状部402は、外部装置8に直接接続されていてもよく、複数の電線を有するケーブルを介して外部装置8に接続されていてもよい。次に、
図6乃至
図8を参照し、検出部40の構成の一例について詳細に説明する。
【0022】
図6は、フレキシブル基板4の層構成を示す断面図である。フレキシブル基板4は、第1乃至第4の配線層41~44を有する多層構造であり、円筒部21の外周に巻き付けられた際の湾曲の外側にあたる一方面4aから湾曲の内側にあたる他方面4bに向かって順に、カバーレイフィルム451、接着層461、第1の配線層41、第1のベースフィルム471、第2の配線層42、接着層462、カバーレイフィルム452、両面テープ48,カバーレイフィルム453、接着層463、第3の配線層43、第2のベースフィルム472、第4の配線層44、接着層464、及びカバーレイフィルム454が積層されている。
【0023】
第1の配線層41及び第2の配線層42は、銅箔をエッチングして形成された配線パターンであり、第1のベースフィルム471の表(おもて)面471a及び裏面471bにそれぞれ形成されている。同様に、第3の配線層43及び第4の配線層44は、銅箔をエッチングして形成された配線パターンであり、第2のベースフィルム472の表面472a及び裏面472bにそれぞれ形成されている。カバーレイフィルム451,452,453,454は、接着層461,462,463,464によって第1乃至第4の配線層41~44に貼り付けられた保護フィルムである。第1及び第2のベースフィルム471,472、ならびにカバーレイフィルム451,452,453,454は、ポリイミド等の絶縁性樹脂からなる。
【0024】
図7(a)は、第1のベースフィルム471の表面471aに形成された第1の配線層41の配線パターンを示す平面図である。
図7(b)は、第1のベースフィルム471の表面471a側から見た第2の配線層42の配線パターンを示す平面図である。
図7(c)は、第2のベースフィルム472の表面472aに形成された第3の配線層43の配線パターンを示す平面図である。
図7(d)は、第2のベースフィルム472の表面472a側から見た第4の配線層44の配線パターンを示す平面図である。
【0025】
第1の配線層41には、検出部40の長辺方向に並ぶ第1乃至第10の検出コイル410~419が配線パターンによって形成されている。第1及び第10の検出コイル410,419は三角形状であり、第2乃至第9の検出コイル411~418は平行四辺形状である。第2の配線層42にも同様に、検出部40の長辺方向に並ぶ第1乃至第10の検出コイル420~429が配線パターンによって形成されている。第1及び第10の検出コイル420,429は三角形状であり、第2乃至第8の検出コイル421~428は平行四辺形状である。
【0026】
第3の配線層43には、検出部40の長辺方向に並ぶ第1乃至第10の検出コイル430~439が配線パターンによって形成されている。第1及び第10の検出コイル430,439は三角形状であり、第2乃至第9の検出コイル431~438は平行四辺形状である。第4の配線層44にも同様に、検出部40の長辺方向に並ぶ第1乃至第10の検出コイル440~449が配線パターンによって形成されている。第1及び第10の検出コイル440,449は三角形状であり、第2乃至第9の検出コイル441~448は平行四辺形状である。
【0027】
第1の配線層41の第1乃至第10の検出コイル410~419、及び第4の配線層44の第1乃至第10の検出コイル440~449は、検出部40の短辺方向に対して一方側に所定角度(+45°)傾斜した直線部410a~419a,440a~449aをそれぞれ有している。第2の配線層42の第1乃至第10の検出コイル420~429、及び第3の配線層43の第1乃至第10の検出コイル430~439は、検出部40の短手方向に対して他方側に所定角度(-45°)傾斜した直線部420a~429a,430a~439aをそれぞれ有している。
【0028】
図8は、フレキシブル基板4、発振器81、及び電圧計82によって構成される電気回路の構成例を模式的に示す回路図である。第1の配線層41の第1乃至第10の検出コイル410~419は、直列に接続されて第1のコイル群4Aを形成し、第2の配線層42の第1乃至第10の検出コイル420~429は、直列に接続されて第2のコイル群4Bを形成している。また、第3の配線層43の第1乃至第10の検出コイル430~439は、直列に接続されて第3のコイル群4Cを形成し、第4の配線層44の第1乃至第10の検出コイル440~449は、直列に接続されて第4のコイル群4Dを形成している。
【0029】
第1のコイル群4A及び第3のコイル群4C、ならびに第2のコイル群4B及び第4のコイル群4Dは、第1の電極402aと第2の電極402bとの間にそれぞれ直列に接続されている。第1のコイル群4A及び第2のコイル群4Bのそれぞれの一端と第1の電極402aとは、第1の信号線491によって接続されている。第3のコイル群4C及び第4のコイル群4Dのそれぞれの一端と第2の電極402bとは、第2の信号線492によって接続されている。
【0030】
第1のコイル群4Aの他端と第3のコイル群4Cの他端とを直列に接続する第3の信号線493は、第3の電極402cに接続されている。第2のコイル群4Bの他端と第4のコイル群4Dの他端とを直列に接続する第4の信号線494は、第4の電極402dに接続されている。第1乃至第4の信号線491~494は、信号線路部400に配線パターンによって形成されている。発振器81は、第1の電極402aと第2の電極402bとの間に交流電圧を印加する。電圧計82は、第3の電極402cと第4の電極402dとの間の電圧を測定する。
【0031】
回転軸9にトルクが付与されると、軸方向に対して+45度の方向の透磁率が減少(又は増加)し、軸方向に対して-45度方向の透磁率が増加(又は減少)する。よって、発振器81から交流電圧を印加した状態で回転軸9にトルクが付与されると、第1のコイル群4A及び第4のコイル群4Dのインダクタンスが減少(又は増加)し、第2のコイル群4B及び第3のコイル群4Cではインダクタンスが増加(又は減少)する。その結果、電圧計82で測定される電圧が変化するので、この電圧の変化を基に回転軸9に付与されたトルクを検出することができる。
【0032】
なお、
図7(a)~(d)では、第1乃至第4の配線層41~44の第1乃至第10の検出コイル410~419,420~429,430~439,440~449を直列に接続する部分の配線パターンや、第1乃至第4の信号線491~494の配線パターンの図示を省略している。
【0033】
検出部40は、ホルダ2の円筒部21の外周に巻き付けられ、他方面4bが接着剤によりホルダ2の円筒部21の外周面21aに接着される。磁性リング5は、検出部40の外周を囲むように配置されている。磁性リング5により、各検出コイル410~419,420~429,430~439,440~449に鎖交する磁束が増大し、磁歪式トルクセンサ1の感度が高められている。検出部40の一方面4aと磁性リング5の内周面5aとの間には空間が形成されており、フレキシブル基板4と磁性リング5とが接触しないようになっている。この空間への異物の侵入は、リップシール7により抑止されている。
【0034】
図4に拡大して示すように、リップシール7は、芯金71と、芯金71に加硫接着されたゴム材72とを有し、ゴム材72の一部がホルダ2の円筒部21に弾接するリップ部721となっている。磁性リング5の内周面5aには、リップシール7が嵌着される段部50が、小径部52における大径部51とは反対側の端部に形成されている。
【0035】
図9(a)は、ホルダ2にカバー部材3及びフレキシブル基板4が取り付けられた状態を軸方向から見た構成図である。
図9(b)は、
図9(a)に示す状態からカバー部材3の図示を省略した構成図である。
図10(a)は、ホルダ2の凹部22を軸方向から見た構成図である。
図10(b)は、凹部22の周辺部を示す斜視図である。
図11(a)及び(b)は、異なる方向から見たカバー部材3を示す斜視図である。
図10(b)では、凹部22の図示方向手前側にあたる環状壁23の一部を切除した状態を示している。
【0036】
凹部22は、突出部401の近傍における線状部402の一部を収容する。ホルダ2には、凹部22の軸方向一方側に、カバー部材3の板部31を収容する板部収容部24が形成されている。カバー部材3は、磁性リング5によって板部31が板部収容部24から抜け出すことが抑止される。凹部22は、ホルダ2の第1壁部221と第2壁部222との間に形成されている。第1壁部221及び第2壁部222は、凹部22の底面22aから軸方向に突出して設けられている。第1壁部221の頂面221a及び第2壁部222の頂面222aには、カバー部材3の板部31が当接する。線状部402は、凹部22の内部で屈曲され、円筒部21の周方向に対して垂直な径方向に延びるようにホルダ2の外部に導出されている。
【0037】
第1壁部221と第2壁部222とは、凹部22を介して対向している。第1壁部221における第2壁部222との対向面221b、及び第2壁部222における第1壁部221との対向面222bは、凹部22の内面である。フレキシブル基板4の線状部402は、第1壁部221の対向面221bに沿って湾曲し、第1壁部221の対向面221bとカバー部材3の凸部32の外周面32aとの間に挟持されている。凹部22内における線状部402の表面(一方面4a及び他方面4b)は、円筒部21の中心軸線Cと平行であり、線状部402は、凹部22内において厚さ方向に湾曲している。
【0038】
このように線状部402が湾曲していることにより、湾曲した線状部402の復元力によって検出部40の一部が円筒部21から浮き上がってしまうことを防ぐことができる。つまり、仮に線状部402が検出部40の長辺方向に対して垂直な方向に延在している場合には、検出部40の近傍で線状部402を湾曲させると、線状部402の根本付近の検出部40が線状部402の復元力によって円筒部21から浮き上がってしまい、検出精度が低下するおそれがあるが、本実施の形態では、信号線路部400が突出部401から検出部40の長辺方向に沿って延在しているので、このような浮き上がりを抑制することができる。
【0039】
第1壁部221の対向面221bは、ホルダ2の外周端部側にあたる凹部22の出口付近で線状部402に接する出口側ガイド面221cと、円筒部21の近傍における凹部22の入口付近で線状部402に接する入口側ガイド面221dと、出口側ガイド面221cと入口側ガイド面221dとの間の傾斜ガイド面221eとを含んでいる。線状部402は、凹部22内において、入口側ガイド面221d、傾斜ガイド面221e、及び出口側ガイド面221cに沿うように延在している。
【0040】
出口側ガイド面221cは、円筒部21の中心軸線Cに対して垂直な方向に沿う平面である。入口側ガイド面221dは、出口側ガイド面221cと平行な平面であり、出口側ガイド面221cに対して第2壁部222から離間する方向にオフセットしている。傾斜ガイド面221eは、円筒部21の中心軸線Cに対して垂直な方向に対して傾斜した傾斜面であり、入口側ガイド面221d及び出口側ガイド面221cと鈍角をなしている。
【0041】
カバー部材3の凸部32には、
図11(a)に示すように、第2壁部222の対向面222bに押し当てられる複数の突起321,322を有しており、複数の突起321,322が第2壁部222の対向面222bに押し当てられて凸部32が弾性変形することにより、その復元力によって凸部32が第1壁部221側に付勢される。
【0042】
線状部402が凹部22内で挟持されることにより、ホルダ2の外部における線状部402が引っ張られたとしても、その引っ張り力が突出部401を経て検出部40に及ぶことが抑えられ、磁歪式トルクセンサ1の検出精度の低下が抑制される。また、線状部402は、円筒部21の周方向に対して垂直な径方向に延びるようにホルダ2の外部に導出されているので、
図9(b)に矢印Aで示す線状部402の延在方向に線状部402が引っ張られたとしても、その引っ張り力によってホルダ2に回転モーメントが発生してしまうことが抑制される。
【0043】
次に、複数の留め具6を用いたホルダ2と磁性リング5の固定構造について説明する。ここでは、留め具6がスプリングピンである場合について説明する。ホルダ2と磁性リング5とは、ホルダ2の環状壁23を貫通して磁性リング5の留め穴510に挿入される留め具6によって固定される。
【0044】
図12(a)は、留め具6を示す斜視図である。
図12(b)は、長手方向に対して垂直な断面における留め具6の断面図である。留め具6は、長手方向に延びるスリット60が形成された断面C字状である。留め具6の両端部には、先細り形状のテーパ部61が形成されている。留め具6は、ばね用鋼やステンレス鋼などの金属からなる金属製である。
【0045】
図13は、ホルダ2及び磁性リング5を留め具6と共に示す斜視図である。ホルダ2の環状壁23には、環状壁23の外周面23bと内周面23aとの間を径方向に貫通する複数の貫通孔231が形成されている。磁性リング5の大径部51には、外周面51aに開口する複数の留め穴510が形成されている。貫通孔231の内径D
1及び留め穴510の内径D
2は、貫通孔231及び留め穴510に挿入される前の留め具6の外径D
3よりも小さく形成されている。
【0046】
磁性リング5の大径部51が環状溝230に嵌合されると、複数の貫通孔231と留め穴510とがそれぞれ連通する。留め具6は、スリット60の幅が狭くなることにより弾性的に縮径し、貫通孔231及び留め穴510に挿入される。
図4に示すように、留め穴510は磁性リング5を径方向に貫通しない止まり穴であり、留め具6が留め穴510の最奥部まで挿入される。留め具6が貫通孔231及び留め穴510に挿入されると、弾性変形した留め具6の復元力により、留め具6の外周面6aが貫通孔231の内面231a及び留め穴510の内周面510aに弾接する。
【0047】
本実施の形態では、5本の留め具6によってホルダ2と磁性リング5とが相互に固定されている。また、本実施の形態では、5本の留め具6のうち、2本の留め具6が他の3本の留め具6よりも長く、環状壁23の外周面23bから径方向に突出している。他の3本の留め具6の長さは、貫通孔231の長さと留め穴510の長さとを合わせた長さと同等である。環状壁23の外周面23bから径方向に突出した2本の留め具6は、ホルダ2及び磁性リング5を取付対象に対して回り止めする回り止め部材としても機能する。
【0048】
図14は、磁歪式トルクセンサ1が取付対象であるハウジング90に取り付けられた状態を示す説明図である。ハウジング90には、ホルダ2の環状壁23が嵌合する嵌合穴91と、回転軸9の回転軸線Oに対して垂直な方向に沿って嵌合穴91の内周面91aから径方向に延びる複数のスリット穴92が形成されている。これらのスリット穴92には、ホルダ2の環状壁23から突出した2本の留め具6がそれぞれ係合し、ホルダ2及び磁性リング5がハウジング90に対して回り止めされる。環状壁23から突出しない他の3本の留め具6は、嵌合穴91の内周面91aによって貫通孔231から抜け止めされる。
図14では、これら3本の留め具6を破線で示している。
【0049】
なお、5本の留め具6のうち、一本の留め具6のみをホルダ2の環状壁23から突出させてもよい。また、全ての留め具6を環状壁23から突出させてもよい。環状壁23から突出した留め具6は、回り止め部材として機能させることができる。
【0050】
また、ホルダ2と磁性リング5とを固定する留め具6の本数は、一本でもよいが、複数の留め具6によってホルダ2と磁性リング5とを固定することが、固定強度を確保するために望ましい。一本の留め具6でホルダ2と磁性リング5とを固定する場合には、その留め具6は、中心軸線Cに関して凹部22と対象となる反対側の位置に配置することが望ましい。
【0051】
(実施の形態の効果)
以上説明した実施の形態によれば、ホルダ2の外部にフレキシブル基板4の線状部402が導出されているので、ホルダ2の内部でフレキシブル基板4をケーブルに接続する必要がなく、磁歪式トルクセンサ1を小型化することができる。このため、回転軸9の周囲の設置スペースが狭い場合でも、磁歪式トルクセンサ1を配置しやすくなる。また、留め具6によってホルダ2と磁性リング5とを確実に固定できると共に、ホルダ2及び磁性リング5をハウジング90に対して回り止めすることができる。ここで、磁性リング5及び留め具6は共に金属製であるので、例えばホルダ2の一部をハウジング90に係合させて回り止めをする場合に比較して、振動を受けても摩耗を抑制することができ、耐久性が向上でする。
【0052】
(実施の形態のまとめ)
次に、以上説明した実施の形態から把握される技術思想について、実施の形態における符号等を援用して記載する。ただし、以下の記載における各符号は、特許請求の範囲における構成要素を実施の形態に具体的に示した部材等に限定するものではない。
【0053】
[1]磁歪効果を有する回転軸(9)の周囲に取り付けられ、前記回転軸(9)によって伝達されるトルクを検出する磁歪式トルクセンサ(1)であって、前記回転軸(9)が挿通される空洞(20)が中心部に形成された円筒部(21)を有する樹脂製のホルダ(2)と、所定の方向に並ぶ複数の検出コイル(410~419,420~429,430~439,440~449)を組み合わせてなるコイル群(4A~4D)が配線パターンによって形成された検出部(40)、及び前記コイル群(4A~4D)と外部装置(8)とを電気的に接続する複数の信号線(491~494)が配線パターンによって形成された信号線路部(400)を有するフレキシブル基板(4)と、前記ホルダ(2)の前記円筒部(21)の外周に配置された軟磁性体からなる円筒状の磁性リング(5)と、を備え、前記フレキシブル基板(4)は、前記検出部(40)が前記ホルダ(2)の前記円筒部(21)と前記磁性リング(5)との間に湾曲して配置され、前記信号線路部(400)の一部が前記ホルダ(2)の外部に導出されており、前記ホルダ(2)は、前記磁性リング(5)の軸方向一端部の外周を囲む環状壁(23)を有し、前記磁性リング(5)には、前記環状壁(23)の内周面(23a)に対向する外周面(51a)に開口する留め穴(510)が形成されており、前記ホルダ(2)と前記磁性リング(5)とが、前記環状壁(23)を貫通して前記磁性リング(5)の前記留め穴(510)に挿入される軸状の留め具(6)によって固定されている、磁歪式トルクセンサ(1)。
【0054】
[2]前記検出部(40)は、前記複数の検出コイル(410~419,420~429,430~439,440~449)の並び方向が長辺方向となる長方形状であり、前記信号線路部(400)は、前記検出部(40)から前記長辺方向に対して垂直な方向に突出した突出部(401)と、前記突出部(401)から前記長辺方向に延びる線状部(402)とを有し、前記線状部(402)の一部が前記ホルダ(2)の外部に導出されている、上記[1]に記載の磁歪式トルクセンサ(1)。
【0055】
[3]前記ホルダ(2)は、前記線状部(402)の一部を収容する凹部(22)を有し、前記線状部(402)は、前記凹部(22)の内部で屈曲され、前記円筒部(21)の周方向に対して垂直な方向に延びるように前記ホルダ(2)の外部に導出されている、上記[2]に記載の磁歪式トルクセンサ(1)。
【0056】
[4]前記ホルダ(2)の前記凹部(22)に嵌合する凸部(32)を有するカバー部材(3)をさらに備え、前記線状部(402)が前記凹部(22)の内面(対向面221b)と前記凸部(32)の外周面(32a)との間に挟持されている、上記[3]に記載の磁歪式トルクセンサ(1)。
【0057】
[5]前記ホルダ(2)の前記凹部(22)から前記凸部(32)が離脱する方向への前記カバー部材(3)の移動が前記磁性リング(5)によって規制されている、上記[4]に記載の磁歪式トルクセンサ(1)。
【0058】
[6]前記フレキシブル基板(4)の前記検出部(40)が前記ホルダ(2)の前記円筒部(21)に接着され、前記検出部(40)と前記磁性リング(5)との間に空間が形成されている、上記[5]に記載の磁歪式トルクセンサ(1)。
【0059】
[7]前記留め具(6)が前記環状壁(23)の外周面(23b)から突出しており、前記留め具(6)の前記突出した部分が取付対象(ハウジング90)に係合することにより、前記ホルダ(2)及び前記磁性リング(5)が前記取付対象(90)に対して回り止めされる、上記[1]に記載の磁歪式トルクセンサ(1)。
【0060】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上記の実施の形態は、特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【0061】
また、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変形して実施することができる。例えば、上記の実施の形態では、留め具6がスプリングピンである場合について説明したが、これに限らず、留め具6がボルトであってもよい。この場合、磁性リング5の留め穴510がねじ穴に形成され、このねじ穴に留め具6の雄ねじが螺合する。
【符号の説明】
【0062】
1…磁歪式トルクセンサ
2…ホルダ
20…空洞
21…円筒部
22…凹部
23…環状壁
23a…内周面
231…貫通孔
3…カバー部材
32…凸部
4…フレキシブル基板
40…検出部
400…信号線路部
401…突出部
402…線状部
491~494…第1乃至第4の信号線
410~419,420~429,430~439,440~449…検出コイル
4A~4D…第1乃至第4のコイル群
5…磁性リング
51a…外周面
510…留め穴
6…留め具
8…外部装置
9…回転軸