(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024136767
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】型焼きパン類用小麦粉組成物、型焼きパン類、型焼きパン類の製造方法、及び型焼きパン類の腰折れ防止方法
(51)【国際特許分類】
A21D 6/00 20060101AFI20240927BHJP
A21D 2/36 20060101ALI20240927BHJP
A21D 13/00 20170101ALI20240927BHJP
A23L 35/00 20160101ALN20240927BHJP
【FI】
A21D6/00
A21D2/36
A21D13/00
A23L35/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023048001
(22)【出願日】2023-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000187079
【氏名又は名称】昭和産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112874
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 薫
(72)【発明者】
【氏名】小林 修一
(72)【発明者】
【氏名】松井 大悟
(72)【発明者】
【氏名】太田 星史
(72)【発明者】
【氏名】杉山 絵梨
【テーマコード(参考)】
4B032
4B036
【Fターム(参考)】
4B032DB02
4B032DG02
4B032DK03
4B032DK08
4B032DK12
4B032DK17
4B032DK18
4B032DK43
4B032DK54
4B032DK70
4B032DL03
4B032DP08
4B032DP25
4B032DP26
4B032DP33
4B032DP40
4B036LC01
4B036LF15
4B036LH22
4B036LH41
4B036LH50
4B036LP24
(57)【要約】
【課題】型焼きパン類の比容積が高くても、物性(外観及び食感)の優れた型焼きパン類を製造する技術を提供すること。
【解決手段】本技術では、型焼きパン類用小麦粉組成物であって、前記型焼きパン類の比容積が4.5以上であり、前記型焼きパン類の原料穀粉100質量%に対して、デュラム小麦粉を1~100質量%含有する、型焼きパン類用小麦粉組成物を提供する。本技術では、また、型焼きパン類の腰折れ防止方法であって、前記型焼きパン類の比容積が4.5以上であり、前記型焼きパン類の原料穀粉100質量%に対して、デュラム小麦粉を1~100質量%添加する工程を有する、型焼きパン類の腰折れ防止方法を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
型焼きパン類用小麦粉組成物であって、
前記型焼きパン類の比容積(パン類の容積(cc)/パン類の加熱前の生地重量(g))が4.5以上であり、
前記型焼きパン類の原料穀粉100質量%中に、デュラム小麦粉を1~100質量%含有する、型焼きパン類用小麦粉組成物。
【請求項2】
前記デュラム小麦粉は、メジアン径が20μm以上60μm未満である、請求項1に記載の型焼きパン類用小麦粉組成物。
【請求項3】
前記デュラム小麦粉は、損傷澱粉量が15%以下である、請求項2に記載の型焼きパン類用小麦粉組成物。
【請求項4】
アルギン酸エステルを含有する、請求項1に記載の型焼きパン類用小麦粉組成物。
【請求項5】
前記型焼きパン類の原料穀粉100質量%に対し、前記アルギン酸エステルを0.01~1質量%含有する、請求項4に記載の型焼きパン類用小麦粉組成物。
【請求項6】
前記型焼きパン類は、角型食パンである、請求項1に記載の型焼きパン類用小麦粉組成物。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の型焼きパン類用小麦粉組成物が用いられた型焼きパン類用生地。
【請求項8】
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の型焼きパン類用小麦粉組成物が用いられた型焼きパン類。
【請求項9】
型焼きパン類の製造方法であって、
前記型焼きパン類の比容積(パン類の容積(cc)/パン類の加熱前の生地重量(g))が4.5以上であり、
前記型焼きパン類の原料穀粉100質量%中のデュラム小麦粉の含有量が1~100質量%となるように、デュラム小麦粉を添加する工程を有する、型焼きパン類の製造方法。
【請求項10】
型焼きパン類の腰折れ防止方法であって、
前記型焼きパン類の比容積(パン類の容積(cc)/パン類の加熱前の生地重量(g))が4.5以上であり、
前記型焼きパン類の原料穀粉100質量%中のデュラム小麦粉の含有量が1~100質量%となるように、デュラム小麦粉を添加する工程を有する、型焼きパン類の腰折れ防止方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、型焼きパン類用小麦粉組成物、型焼きパン類、型焼きパン類の製造方法、及び型焼きパン類の腰折れ防止方法に関する。
【背景技術】
【0002】
型焼きパンは、コストダウン等を目的として型焼きパン類の比容積(パン類の容積(cc)/パン類の加熱前の生地重量(g))を大きくすると、パンに腰折れ(ケービング)が生じたり、つぶれやすい食感となってしまったりすることがある。特に、コンビニエンスストアやスーパーマーケットのサンドイッチ等に使用される食パンでは、耳部分を切り落とすため、腰折れの発生は歩留まりの低下に直結してしまい、食品ロスにも繋がるという問題があった。
【0003】
このような問題点を解決するために、パン類の製造技術の開発が進められている。例えば、特許文献1では、アルギニンを小麦粉に対して0.01~0.60重量%添加することにより、生地物性が優れ、かつ、焼成後のパンにおいては、ボリュームが増大、ソフトさ、弾力、口どけが向上、ケービングが抑制され、トースト時の痩せも少なく、小麦粉本来のおいしい風味が実現できる製パン技術が開示されている。
【0004】
また、特許文献2では、増粘安定剤及び水分散性リン脂質を含有する中種生地を用いることで、生地物性の悪化や風味・食感の低下を起こすことなく、また、さまざまな種類のパンに対し簡単な方法で高いケービング抑制効果が得られる製パン技術が開示されている。
【0005】
ここで、本技術に関連のあるデュラム小麦粉を用いた技術について説明する。例えば、特許文献3には、平均粒径が20μm以上60μm未満であり、灰分が0.90質量%以下である、デュラム小麦由来の小麦粉を用いることで、食感が良好な麺類及び皮類を得る技術が開示されている。
【0006】
特許文献4には、損傷澱粉量が15%以下であり、かつメジアン径が20μm以上60μm未満である、デュラム小麦粉を用いることで、歯脆い食感であり、かつ口溶けに優れるクッキー類及び層状食品を得る技術が開示されている。
【0007】
特許文献5には、損傷澱粉量を9.5質量%以下に抑えたデュラム小麦粉を20質量%以上含有させることで、良好な食感と香りを有するイースト発酵食品を得る技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2019-115328号公報
【特許文献2】特開2022-119275号公報
【特許文献3】特開2017-200444号公報
【特許文献4】特開2019-047754号公報
【特許文献5】特開2009-011277号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
型焼きパン類の比容積を上げつつ、腰折れの少ないパンを得るための従来技術としては、イーストを通常より多く用い、グルテンを添加する方法が、当業者間では常識となっている。しかし、この方法ではイーストやグルテンの風味が強くなり、パン本来の風味を損なってしまうといった問題があった。また、製造されたパンが、腰折れを起こしやすく、つぶれやすい食感になるといった問題もあった。
【0010】
そこで、本技術では、型焼きパン類の比容積が高くても、物性(外観及び食感)の優れた型焼きパン類を製造する技術を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願発明者は、上記の課題を解決するために鋭意研究を行った結果、特定量のデュラム小麦粉を用いることで、型焼きパン類の比容積を高くした場合であっても、型焼きパン類の物性の向上に成功し、本技術を完成させるに至った。
【0012】
即ち、本技術では、まず、型焼きパン類用小麦粉組成物であって、
前記型焼きパン類の型焼きパン類の比容積が4.5以上であり、
前記型焼きパン類の原料穀粉100質量%中に、デュラム小麦粉を1~100質量%含有する、型焼きパン類用小麦粉組成物を提供する。
また、本技術に係る型焼きパン類用小麦粉組成物に用いる前記デュラム小麦粉としては、メジアン径が20μm以上60μm未満のデュラム小麦粉を用いることができる。
本技術に係る型焼きパン類用小麦粉組成物に用いる前記デュラム小麦粉としては、損傷澱粉量が15%以下のデュラム小麦粉を用いることができる。
本技術に係る型焼きパン類用小麦粉組成物には、アルギン酸エステルを用いることができる。この場合、本技術に係る型焼きパン類用小麦粉組成物では、前記型焼きパン類の原料穀粉100質量%に対して、前記アルギン酸エステルを0.01~1質量%用いることができる。
本技術に係る型焼きパン類用小麦粉組成物を用いて製造される前記型焼きパン類としては、角型食パンを製造することができる。
【0013】
本技術では、次に、本技術に係る型焼きパン類用小麦粉組成物が用いられた型焼きパン類用生地、及び型焼きパン類を提供する。
【0014】
本技術では、更に、型焼きパン類の製造方法であって、
前記型焼きパン類の比容積が4.5以上であり、
前記型焼きパン類の原料穀粉100質量%中のデュラム小麦粉の含有量が1~100質量%となるように、デュラム小麦粉を添加する工程を有する、型焼きパン類の製造方法を提供する。
【0015】
本技術では、加えて、型焼きパン類の腰折れ防止方法であって、
前記型焼きパン類の比容積が4.5以上であり、
前記型焼きパン類の原料穀粉100質量%中のデュラム小麦粉の含有量が1~100質量%となるように、デュラム小麦粉を添加する工程を有する、型焼きパン類の腰折れ防止方法を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本技術によれば、比容積が高くても、物性の優れた型焼きパン類を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための好適な形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0018】
1.型焼きパン類用小麦粉組成物
本技術に係る型焼きパン類用小麦粉組成物は、原料穀粉やその他の成分を更に加えて型焼きパン類を製造することができる。また、本技術に係る型焼きパン類用小麦粉組成物は、これをパン類用ミックスとして、型焼きパン類の製造に用いることができる。
【0019】
本技術に係る型焼きパン類用小麦粉組成物は、デュラム小麦粉を含有する。また、本技術に係る型焼きパン類用小麦粉組成物は、後述するように、型焼きパン類の比容積が4.5以上の型焼きパン類用であることを特徴とする。また、本技術に係る型焼きパン類用小麦粉組成物には、アルギン酸エステル、アスコルビン酸、穀粉、その他、型焼きパン類の原料として用いることができる材料を自由に用いることができる。以下、各材料について、詳細に説明する。
【0020】
(1)デュラム小麦粉
本技術に係る型焼きパン類用小麦粉組成物は、デュラム小麦粉を含有する。デュラム小麦粉は、カナダ産デュラム小麦、アメリカ産デュラム小麦、デザートデュラム小麦等のいずれでもこれらの混合物を原料としてもよく、また、硬質系小麦、軟質系小麦のいずれでもこれらの混合物を原料としてもよい。これを粉砕し粒状又は粉状としデュラム小麦粉を得る。
【0021】
本技術に係る型焼きパン類用小麦粉組成物は、型焼きパン類の原料穀粉100質量%中に、1~100質量%のデュラム小麦粉を含有する。本技術に係る型焼きパン類用小麦粉組成物におけるデュラム小麦粉の含有量は、この範囲であれば特に限定されない。型焼きパン類の原料穀粉100質量%中のデュラム小麦粉の下限としては、好ましくは4質量%以上、より好ましくは5質量%以上である。また、型焼きパン類の原料穀粉100質量%中のデュラム小麦粉の上限としては、好ましくは50質量%以下、より好ましくは30質量%以下、更に好ましくは25質量%以下、特に好ましくは20質量%以下である。型焼きパン類の原料穀粉100質量%中のデュラム小麦粉の範囲をこの範囲とすることで、ケービング(腰折れ)を防止し、食感(ふんわり感)、及び食感(口溶け)を向上させることができる。
【0022】
特に、型焼きパンにおける腰折れの問題は、生地重量が80gを超えるパン類や、縦横比が、縦(高さ)を1とした場合に横(幅)が3以下となるパン類で生じやすいといった課題もあった。一方、本技術を用いれば、生地重量が80gを超えるパン類であっても、縦横比が、縦(高さ)1とした場合に横(幅)が0.5~2のパン類であっても、ケービング(腰折れ)を防止することができるため、好適に実施することができる。
【0023】
本技術に用いるデュラム小麦粉の物性は、本技術の作用や効果を損なわない限り、限定されないが、損傷澱粉量が好ましくは15%以下、より好ましくは10%以下、更に好ましくは8%以下、特に好ましくは6%以下のデュラム小麦粉を用いることができる。損傷澱粉量が少ないデュラム小麦粉を用いることで、ケービング(腰折れ)の防止効果、食感(ふんわり感)、及び食感(口溶け)を、更に向上させることができる。
【0024】
また、本技術では、メジアン径が好ましくは60μm未満、より好ましくは50μm未満、更に好ましくは40μm未満、特に好ましくは25μm未満のデュラム小麦粉を用いることができる。メジアン径が60μm未満のデュラム小麦粉を用いることで、食感(ふんわり感)、及び食感(口溶け)を、更に向上させることができる。なお、デュラム小麦粉のメジアン径の下限は特に限定されないが、作業性の観点から、20μm以上とすることが好ましい。
【0025】
(2)アルギン酸エステル
本技術に係る型焼きパン類用小麦粉組成物には、アルギン酸エステルを含有させることができる。本技術において、アルギン酸エステルは必須の成分ではないが、アルギン酸エステルを用いることで、ケービング(腰折れ)の防止効果、食感(ふんわり感)、及び食感(口溶け)を、更に向上させることができる。
【0026】
アルギン酸エステルの含有量は、本技術の作用や効果を損なわない限り、目的に合わせて自由に設定することができる。型焼きパン類の原料穀粉100質量%に対するアルギン酸エステルの下限としては、例えば0.01質量%以上、好ましくは0.02質量%以上、より好ましくは0.04質量%以上、更に好ましくは0.05質量%以上である。アルギン酸エステルの含有量の下限値をこの範囲にすることで、ケービング(腰折れ)の防止効果、食感(ふんわり感)、及び食感(口溶け)を、更に向上させることができる。
【0027】
型焼きパン類の原料穀粉100質量%に対するアルギン酸エステルの上限としては、例えば2質量%以下、好ましくは1質量%以下、より好ましくは0.8質量%以下、更に好ましくは0.5質量%以下である。アルギン酸エステルの含有量の上限値をこの範囲にすることで、ケービング(腰折れ)の防止効果、食感(ふんわり感)、及び食感(口溶け)を更に向上させることができる。
【0028】
(3)アスコルビン酸
本技術に係る型焼きパン類用小麦粉組成物には、アスコルビン酸を含有させることができる。本技術において、アスコルビン酸は必須の成分ではないが、アスコルビン酸を用いることで、ケービング(腰折れ)の防止効果、食感(ふんわり感)、及び食感(口溶け)を、更に向上させることができる。
【0029】
アスコルビン酸の含有量は、本技術の作用や効果を損なわない限り、目的に合わせて自由に設定することができる。型焼きパン類の原料穀粉100質量%に対するアスコルビン酸の下限としては、例えば5ppm以上、好ましくは10ppm以上、より好ましくは20ppm以上である。アスコルビン酸の含有量の下限値をこの範囲にすることで、ケービング(腰折れ)の防止効果、食感(ふんわり感)、及び食感(口溶け)を、更に向上させることができる。
【0030】
型焼きパン類の原料穀粉100質量%に対するアスコルビン酸の上限としては、例えば200ppm以下、好ましくは150ppm以下である。アスコルビン酸の含有量の上限値をこの範囲にすることで、ケービング(腰折れ)の防止効果、食感(ふんわり感)、及食感(口溶け)を更に向上させることができる。
【0031】
(4)その他
本技術に係る型焼きパン類用小麦粉組成物には、以上説明した各種材料の他に、一般的なパン類の製造に用いられている材料や添加物を1種又は2種以上、自由に組み合わせて用いることができる。例えば、デュラム小麦粉以外の小麦粉(国内産、国外産(北米産、オーストラリア産等)の小麦由来の強力粉、準強力粉、中力粉、薄力粉、全粒粉)、大麦粉、ライ麦粉、燕麦粉、トウモロコシ粉、ホワイトソルガム粉、米粉、大豆粉、緑豆粉、そば粉、アマランサス粉、キビ粉、アワ粉、ヒエ粉、これらを加熱処理した加熱処理粉等の穀粉類;タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉、小麦澱粉、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、甘藷澱粉、サゴ澱粉、米澱粉等の澱粉、及びそれらの澱粉を原料として、物理的又は化学的に加工を施した加工澱粉等の澱粉類;大豆蛋白質、小麦グルテン、卵粉末、脱脂粉乳等の蛋白素材;食物繊維;澱粉分解物、デキストリン、ぶどう糖、ショ糖、オリゴ糖、マルトース等の糖質類;食塩、炭酸カルシウム等の塩類;膨張剤、増粘剤、乳化剤、酵素、pH調整剤、ビタミン類、イーストフード、甘味料、香辛料、調味料、ミネラル類、色素、香料、ナッツ類、レーズン等のドライフルーツ等を適宜含有させることができる。
【0032】
なお、前述した各素材の含有量は、型焼きパン類の製造に用いられる原料穀粉の合計100質量%あたりの量である。即ち、型焼きパン類を製造する際に、本技術に係る型焼きパン類用小麦粉組成物にさらに原料穀粉を加えて製造する場合には、本技術に係る型焼きパン類用小麦粉組成物に含有する穀粉と製造時に加える穀粉を合わせた100質量%あたりの量であるため、本技術に係る型焼きパン類用小麦粉組成物中の各素材の含有量は、前述の数値よりも大きくなることがある。
【0033】
2.型焼きパン類用生地
本技術に係る型焼きパン類用生地は、前述した本技術に係る型焼きパン類用小麦粉組成物を用いることを特徴とする。すなわち、本技術に係る型焼きパン類用生地は、本技術に係る型焼きパン類用小麦粉組成物を用いて製造された生地である。
【0034】
本技術に係る型焼きパン類用生地は、冷蔵、チルド、冷凍等の状態、すなわち、冷蔵生地玉、成形冷蔵生地、冷凍生地玉、成形冷凍生地、ホイロ済み冷凍生地等の形態で流通させることが可能である。
【0035】
本技術に係る型焼きパン類用生地は、一般的な型焼きパン類用生地の製造方法を自由に選択して用いることができる。具体的には、例えば、前述した型焼きパン類用小麦粉組成物を製造する工程と、該型焼きパン類用小麦粉組成物を用いて型焼きパン類用生地を製造する工程と、を少なくとも行うことで、本技術に係る型焼きパン類用生地を製造することができる。型焼きパン類用小麦粉組成物を用いて型焼きパン類用生地を製造する工程としては、例えば、本技術に係る型焼きパン類用小麦粉組成物と、水、全卵等の液状材料と、必要に応じてその他の材料と、を混合、混捏し、一次発酵、分割、成形、二次発酵等を、必要に応じて適宜選択して行うことができる。また、オールインミックス法、中種法、冷凍生地法、冷蔵発酵法、ストレート法、ノータイム法等の一般的な型焼きパン類用生地の製造方法も適宜選択して行うことができる。
【0036】
3.型焼きパン類
本技術に係る型焼きパン類は、前述した本技術に係る型焼きパン類用小麦粉組成物、又は型焼きパン類用生地を用いることを特徴とする。すなわち、本技術に係る型焼きパン類は、本技術に係る型焼きパン類用小麦粉組成物、又は型焼きパン類用生地を用いて製造された型焼きパン類である。
【0037】
本技術に係る型焼きパン類は、前述した通り、型焼きパン類の比容積が4.5以上であるが、型焼きパン類の比容積を5.0以上、5.5以上、6.0以上とすることができる。また、型焼きパン類の比容積の上限値は、求める物性に応じて自由に設定することができるが、8.5以下が好ましく、7.5以下がより好ましく、7.0以下がよりさらに好ましい。なお、本技術において、パン類の型焼きパン類の比容積は、下記の数式を用いて算出された値である。
パン類の型焼きパン類の比容積=パン類の容積(cc)/パン類の加熱前の生地重量(g)
【0038】
本技術に係る型焼きパン類としては、型を用いて製造されるパン類であれば特に限定されない。本技術で用いることができる型としては、例えば、セルクル、イングリッシュマフィン型、ロール天板、ラウンド型、パウンドケーキ型、ワンローフ型、食パン型等が挙げられる。これらは、ステンレス製、アルミ製、鉄製、樹脂製、シリコン製、紙製等のいずれであってもよい。また、本技術に係る型焼きパン類の具体例としては、例えば食パンが挙げられる。本技術は、特に、型に蓋をして加熱する角型食パンに好適に用いることができる。
【0039】
本技術に係る型焼きパン類の用途も、本技術に係る作用や効果を損なわない限り限定されないが、例えば、冷蔵状態又はチルド状態にて流通する用途に好適に用いることができる。後述する実施例で示す通り、本技術に係る型焼きパン類は、冷蔵状態又はチルド状態にて保存された場合にも、高い口溶け良化効果を有する。冷蔵状態又はチルド状態にて流通する用途の具体例としては、サンドイッチ用が挙げられる。
【0040】
本技術に係る型焼きパン類は、一般的な型焼きパン類の製造方法を自由に選択して用いることができる。具体的には、例えば、前述した型焼きパン類用小麦粉組成物を製造する工程と、前述した型焼きパン類用生地を製造する工程と、該型焼きパン類用生地を用いて型焼きパン類を製造する工程と、を少なくとも行うことで、本技術に係る型焼きパン類を製造することができる。型焼きパン類用生地を用いて型焼きパン類を製造する工程としては、例えば、本技術に係る型焼きパン類用生地を、必要に応じて、一次発酵、分割、成形、二次発酵等を行い、加熱することで型焼きパン類を製造することができる。加熱方法は特に限定されず、焼成、蒸し、油ちょう、マイクロ波加熱等、本技術の効果を損なわない限り、1種又は2種以上の加熱方法を自由に選択して用いることができる。
【0041】
4.型焼きパン類の製造方法、型焼きパン類の腰折れ防止方法
本技術に係る型焼きパン類の製造方法、及び型焼きパン類の腰折れ防止方法は、型焼きパン類の原料穀粉100質量%に対して、デュラム小麦粉を1~100質量%添加する工程を有する方法である。即ち、本技術に係る型焼きパン類の製造方法、及び型焼きパン類の腰折れ防止方法は、前述した本技術に係る型焼きパン類用小麦粉組成物を用いて、型焼きパン類を製造する方法、及び型焼きパン類の腰折れを防止する方法である。
【0042】
本技術に係る型焼きパン類の製造方法、及び型焼きパン類の腰折れ防止方法に用いる本技術に係る型焼きパン類用小麦粉組成物は、前述と同一であるため、ここでは説明を割愛する。
【0043】
なお、本技術は、以下の構成をとることもできる。
[1]
型焼きパン類用小麦粉組成物であって、
前記型焼きパン類の比容積が4.5以上であり、
前記型焼きパン類の原料穀粉100質量%中に、デュラム小麦粉を1~100質量%含有する、型焼きパン類用小麦粉組成物。
[2]
前記デュラム小麦粉は、メジアン径が20μm以上60μm未満である、[1]に記載の型焼きパン類用小麦粉組成物。
[3]
前記デュラム小麦粉は、損傷澱粉量が15%以下である、[1]又は[2]に記載の型焼きパン類用小麦粉組成物。
[4]
アルギン酸エステルを含有する、[1]から[3]のいずれかに記載の型焼きパン類用小麦粉組成物。
[5]
前記型焼きパン類の原料穀粉100質量%に対して、前記アルギン酸エステルを0.01~1質量%含有する、[4]に記載の型焼きパン類用小麦粉組成物。
[6]
前記型焼きパン類は、角型食パンである、[1]から[5]のいずれかに記載の型焼きパン類用小麦粉組成物。
[7]
[1]から[6]のいずれか一項に記載の型焼きパン類用小麦粉組成物が用いられた型焼きパン類用生地。
[8]
[1]から[6]のいずれか一項に記載の型焼きパン類用小麦粉組成物、又は[7]の型焼きパン類用生地が用いられた型焼きパン類。
[9]
型焼きパン類の製造方法であって、
前記型焼きパン類の比容積が4.5以上であり、
前記型焼きパン類の原料穀粉100質量%中のデュラム小麦粉の含有量が1~100質量%となるように、デュラム小麦粉を添加する工程を有する、型焼きパン類の製造方法。
[10]
型焼きパン類の腰折れ防止方法であって、
前記型焼きパン類の比容積が4.5以上であり、
前記型焼きパン類の原料穀粉100質量%中のデュラム小麦粉の含有量が1~100質量%となるように、デュラム小麦粉を添加する工程を有する、型焼きパン類の腰折れ防止方法。
【実施例0044】
以下、実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。なお、以下に説明する実施例は、本発明の代表的な実施例の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0045】
<実験例1>
実験例1では、型焼きパン類を製造する際の型焼きパン類の比容積の違いと用いる小麦粉の違いによるパン類の物性への影響を調べた。
【0046】
(1)パン類の製造
下記の表1に記載の材料を用いて、下記の表1に記載の工程を行うことにより、ノータイムストレート法にて角型食パンを製造した。角型食パンは室温で2時間放冷後包装し、24時間後に12mm厚にスライスした。
【0047】
(2)サンドイッチの製造
実施例2及び比較例1の角型食パンを12mm厚にスライスし、タマゴサラダを挟み、耳を切り落としサンドイッチを製造して、10℃下で24時間保存した。
【0048】
(3)評価
製造した角型食パンについて、ケービング、食感(ふんわり感)、及び食感(口溶け)を、サンドイッチについて、食感(ふんわり感)、及び食感(口溶け)についての官能評価を行った。官能評価は、10名の専門パネルが下記基準に従って評価を行い、平均点を算出した。
【0049】
[ケービング]
5:腰折れが全くなく非常に良好
4:腰折れがほとんどなく良好
3:側面がやや湾曲しているが、腰折れにはなっていない
2:腰折れがみられる
1:腰折れが顕著にみられる
【0050】
[食感(ふんわり感)]
5:ふんわり感が非常に強く、非常に良好
4:ふんわり感が強く、良好
3:ふんわり感があり、やや良好
2:ふんわり感が弱くやや潰れやすい、もしくはやや脆い、やや不良
1:ふんわり感がなく潰れやすい、もしくは脆い、不良
【0051】
[食感(口溶け)]
5:口溶けが非常に良好
4:口溶けが良好
3:口溶けがやや良好
2:口溶けがやや不良
1:口溶けが悪くくちゃつき、不良
【0052】
(4)結果
評価結果を下記表1に示す。
【表1】
イーストフード「Cオリエンタルフード」は、アスコルビン酸0.06質量%含有する(以下、同様)。
【0053】
(5)考察
表1に示す通り、参考例と比較例を比較すると、型焼きパン類の比容積を大きくすることで、全ての評価が低下することが分かった。一方、原料穀粉100質量%に対して、デュラム小麦粉を1~100質量%含有させた実施例1~11は、比較例1及び2に比べて、全ての評価が向上していた。
【0054】
実施例の中で比較すると、損傷澱粉量が15%を超えるデュラム小麦粉6を用いた実施例11に比べて、損傷澱粉量が15%以下のデュラム小麦粉1~5を用いた実施例1~10の方が、全ての評価が良好であった。また、メジアン径が60μmを超えるデュラム小麦粉5を用いた実施例10に比べて、メジアン径が20μm以上60μm未満のデュラム小麦粉1~4を用いた実施例1~9の方が、食感(ふんわり感)及び食感(口溶け)の評価が良好であった。
【0055】
サンドイッチを製造した実施例2と比較例1を比較すると、10℃下で24時間保存することによりふんわり感は低下したが、比較例1では口溶けの効果も低下していたのに対し、実施例2では良好な口溶け食感が維持されていた。
【0056】
<実験例2>
実験例2では、アルギン酸エステルやアルコルビン酸を併用した場合のパン類の物性への影響を調べた。
【0057】
(1)パン類の製造
下記の表2に記載の材料を用いて、下記の表2に記載の工程を行うことにより、ノータイムストレート法にて角型食パンを製造した。角型食パンは室温で2時間放冷後包装し、24時間後に12mm厚にスライスした。
【0058】
(2)サンドイッチの製造
実施例16、24、及び30の角型食パンを12mm厚にスライスし、タマゴサラダを挟み、耳を切り落としサンドイッチを製造して、10℃下で24時間保存した。
【0059】
(3)評価
前記実験例1と同様の方法にて、製造した角型食パンについて、ケービング、食感(ふんわり感)、及び食感(口溶け)を、サンドイッチについて食感(ふんわり感)、及び食感(口溶け))についての官能評価を行った。
【0060】
【0061】
(5)考察
表2に示す通り、実施例12~14を比較すると、アルギン酸エステルを用いなかった実施例12に比べて、アルギン酸エステルを用いた実施例13及び14の方が、全ての評価が良好であった。また、アルギン酸エステルの量が多い実施例13が、全ての評価においてより良好であった。これらの結果から、アルギン酸エステルを用いることで、ケービングを防止し、食感(ふんわり感)、及び食感(口溶け)を向上させること、アルギン酸エステルの配合量を増やすことで、これらの効果がより発揮されることが分かった。一方、アルギン酸エステルを2質量%配合した実施例15は、アルギン酸エステルを用いなかった実施例12に比べて、食感(口溶け)が低下していたが、ケービングや食感(ふんわり感)の評価は良好であった。この結果から、ケービング防止や食感(ふんわり感)向上の観点からは、原料穀粉100質量%に対してアルギン酸エステルを2質量%程度まで配合可能であるが、食感(口溶け)を向上させる観点からは、2質量%未満が好ましいと示唆された。
【0062】
実施例14と実施例16を比較すると、イーストフードの他に、酸化還元剤(アスコルビン酸)を用いなかった実施例14に比べて、アルコルビン酸を用いた実施例16の方が、全ての評価が良好であった。また、アスコルビン酸を150ppm、又は200ppm添加した実施例27~30のいずれでも、全ての評価が良好であった。
【0063】
サンドイッチを製造した実施例16、24、及び30は、10℃下で24時間保存することによりふんわり感は若干低下したが、良好な口溶け食感は維持されていた。特に、実施例30では、10℃下で24時間保存後に、口溶け食感が向上していた。
【0064】
<実験例3>
実験例3では、型焼きパン類を製造する際の型焼きパン類の比容積の違いによるパン類の物性への影響を調べた。
【0065】
(1)パン類の製造
下記の表3に記載の材料を用いて、下記の表3に記載の工程を行うことにより、ノータイムストレート法にて角型食パンを製造した。
【0066】
(2)評価
製造した角型食パンについて、前記実験例1と同様の方法にて、ケービング、食感(ふんわり感)、及び食感(口溶け)についての官能評価を行った。
【0067】
【0068】
(4)考察
表3に示す通り、型焼きパン類の比容積が6.0以上の場合は、型焼きパン類の比容積が高くなるほど、全ての評価が低下してしまうことが分かった。表3の結果から、型焼きパン類の比容積の上限は、9.0以下が好ましく、6.0以下がより好ましいことが分かった。