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特開2024-136800三次元光造形用樹脂組成物、成形品、及び成形品を製造する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024136800
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】三次元光造形用樹脂組成物、成形品、及び成形品を製造する方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 290/06 20060101AFI20240927BHJP
   B29C 64/314 20170101ALI20240927BHJP
   B33Y 80/00 20150101ALI20240927BHJP
   B29C 64/124 20170101ALI20240927BHJP
【FI】
C08F290/06
B29C64/314
B33Y80/00
B29C64/124
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023048050
(22)【出願日】2023-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【弁理士】
【氏名又は名称】三上 敬史
(74)【代理人】
【識別番号】100140578
【弁理士】
【氏名又は名称】沖田 英樹
(72)【発明者】
【氏名】三浦 悠
(72)【発明者】
【氏名】大場 矢登
【テーマコード(参考)】
4F213
4J127
【Fターム(参考)】
4F213AA21
4F213AB04
4F213AB11
4F213AR15
4F213WA25
4F213WB01
4F213WL02
4F213WL12
4F213WL23
4F213WL92
4J127AA03
4J127AA04
4J127AA06
4J127BB031
4J127BB221
4J127BC151
4J127BD411
4J127BG271
4J127BG27Y
4J127CB141
4J127CB151
4J127CB162
4J127CC131
4J127CC181
4J127CC182
4J127CC292
4J127DA05
4J127DA08
4J127DA12
4J127FA06
(57)【要約】
【課題】本開示は、適度に低い硬度を示す成形品を、光造形によって良好な寸法精度で形成できる樹脂組成物に関する。
【解決手段】重合性不飽和基を有する重合性成分と、充填材と、を含み、重合性成分が、単官能モノマーと、1000以上の分子量を有する高分子量多官能(メタ)アクリレートと、を含む、三次元光造形用樹脂組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合性不飽和基を有する重合性成分と、
充填材と、
を含み、
前記重合性成分が、
単官能モノマーと、
1000以上の分子量を有する高分子量多官能(メタ)アクリレートと、
を含む、三次元光造形用樹脂組成物。
【請求項2】
前記充填材の含有量が、当該三次元光造形用樹脂組成物の質量を基準として3質量%以上40質量%以下である、請求項1に記載の三次元光造形用樹脂組成物。
【請求項3】
前記単官能モノマーが、下記式(A):
【化1】

で表されるアルキル(メタ)アクリレート、下記式(B):
【化2】

で表されるアルコキシ(メタ)アクリレート、及び、下記式(C):
【化3】

で表される(メタ)アクリルアミド誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1つを含み、
が水素原子又はメチル基を示し、Rが、置換基を有していてもよい環状基で置換されていてもよい直鎖若しくは分岐状のアルキル基、又は、(メタ)アクリロイルオキシ基の酸素原子に結合したメタンジイル基を含み置換基を有していてもよい環状基を示し、Rがアルカンジイル基を示し、Rがアルキル基を示し、nが1以上の整数を示し、同一分子中の複数のRは同一でも異なってもよく、Xが窒素原子を含む環状基を示す、
請求項1又は2に記載の三次元光造形用樹脂組成物。
【請求項4】
光重合開始剤を更に含む、請求項1又は2に記載の三次元光造形用樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の三次元光造形用樹脂組成物を含む成形材料の光硬化物を含む、成形品。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の三次元光造形用樹脂組成物を含む成形材料を光硬化させることを含む、成形品を製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、三次元光造形用樹脂組成物、成形品、及び成形品を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
3Dプリンタを用いた三次元光造形等の光成形の分野において、高い破断伸度を有する成形品、又は臓器に近い触感の成形品を形成できる組成物が提案されている(例えば、特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-99750号公報
【特許文献2】特開2021-146657号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
樹脂成形品が適用される部材に関して、柔らかさ(例えば、タイプAのデュロメータによる硬度が80以下程度)が求められることがある。ところが、そのような低い硬度の成形品を光造形で形成すると、成形品の形状の寸法精度が十分でないことがあった。
【0005】
本開示は、適度に低い硬度を示す成形品を、光造形によって良好な寸法精度で形成できる樹脂組成物に関する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、少なくとも以下を含む。
[1]
重合性不飽和基を有する重合性成分と、
充填材と、
を含み、
前記重合性成分が、
単官能モノマーと、
1000以上の分子量を有する高分子量多官能(メタ)アクリレートと、
を含む、三次元光造形用樹脂組成物。
[2]
前記充填材の含有量が、当該三次元光造形用樹脂組成物の質量を基準として3質量%以上50質量%以下である、[1]に記載の三次元光造形用樹脂組成物。
[3]
前記単官能モノマーが、下記式(A):
【化1】

で表されるアルキル(メタ)アクリレート、下記式(B):
【化2】

で表されるアルコキシ(メタ)アクリレート、及び、下記式(C):
【化3】

で表される(メタ)アクリルアミド誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1つを含み、
が水素原子又はメチル基を示し、Rが、置換基を有していてもよい環状基で置換されていてもよい直鎖若しくは分岐状のアルキル基、又は、(メタ)アクリロイルオキシ基の酸素原子に結合したメタンジイル基を含み置換基を有していてもよい環状基を示し、Rがアルカンジイル基を示し、Rがアルキル基を示し、nが1以上の整数を示し、同一分子中の複数のRは同一でも異なってもよく、Xが窒素原子を含む環状基を示す、
[1]又は[2]に記載の三次元光造形用樹脂組成物。
[4]
光重合開始剤を更に含む、[1]~[3]のいずれかに記載の三次元光造形用樹脂組成物。
[5]
[1]~[4]のいずれかに記載の三次元光造形用樹脂組成物を含む成形材料の光硬化物を含む、成形品。
[6]
[1]~[4]のいずれかに記載の三次元光造形用樹脂組成物を含む成形材料を光硬化させることを含む、成形品を製造する方法。
【発明の効果】
【0007】
適度に低い硬度を示す成形品を、光造形によって良好な寸法精度で形成できる樹脂組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は以下の例に限定されない。
【0009】
樹脂組成物の一例は、重合性不飽和基を有する重合性成分と、充填材とを含む。重合性成分は、単官能モノマーと、1000以上の分子量を有する高分子量多官能(メタ)アクリレートとを含む。樹脂組成物は、三次元光造形のための成形材料として用いることができる。
【0010】
単官能モノマーは、1個の重合性不飽和基を有する化合物であり、その例は単官能(メタ)アクリレート、及び単官能(メタ)アクリルアミドを含む。単官能モノマーが、単官能(メタ)アクリレートと、単官能(メタ)アクリルアミドの両方を含んでもよい。単官能(メタ)アクリレートは、アクリロイルオキシ基又はメタクリロイルオキシ基を1個有するモノマーである。単官能(メタ)アクリルアミドは、アクリロイル基又はメタクリロイル基を1個有するアミド構造を有するモノマーである。
【0011】
単官能モノマーのホモポリマーのガラス転移温度が、200℃未満であってもよく、-100℃以上200℃未満であってもよい。単官能モノマーのホモポリマーのガラス転移温度が、190℃以下、180℃以下、170℃以下、160℃以下、又は150℃以下であってもよく、-95℃以上、又は-90℃以上であってもよい。
【0012】
本明細書において、ホモポリマーのガラス転移温度は、重合性成分であるモノマーが単独重合によってホモポリマーを形成したときに、そのホモポリマーのガラス転移温度を意味する。ガラス転移温度は、示差走査熱量測定により測定される融解曲線を、JIS K7121-1987に準拠した方法により解析して得られる中間点ガラス転移温度であることができる。各種のモノマーのホモポリマーの文献値(例えば「POLYMER HANDBOOK」(Wiley-Interscience)を参照することもできる。
【0013】
単官能(メタ)アクリレートは、例えば、式(A)で表されるアルキル(メタ)アクリレート、式(B)で表されるアルコキシ(メタ)アクリレート、及び下記式(C)で表される(メタ)アクリルアミド誘導体(単官能(メタ)アクリルアミド)からなる群から選ばれる少なくとも1つを含んでもよい。
【化4】

【化5】

【化6】
【0014】
式(A)中、Rは水素原子若しくはメチル基を示し、Rは環状基で置換されていてもよい直鎖若しくは分岐状のアルキル基、又は環状基を示す。Rは炭素数1~30の非置換のアルキル基、環状基で置換された炭素数1~3のアルキル基(例えばメチル基)、又は、(メタ)アクリロイルオキシ基(CH=C(R)C(=O)O-)の酸素原子に結合したメタンジイル基を含む環状基であってもよい。環状基を構成する炭素原子及びヘテロ原子の合計数が、例えば4~8であってもよい。Rを構成する環状基は、脂環基、環状エーテル基又は芳香族基であってもよく、脂環基又は環状エーテル基であってもよい。環状基がアルキル基等の置換基を有していてもよい。
【0015】
が直鎖又は分岐状の非置換のアルキル基であるときの式(A)で表されるアルキル(メタ)アクリレートの例としては、エチルアクリレート(ホモポリマーのTg:-20℃)、n-ブチルアクリレート(ホモポリマーのTg:-55℃)、イソブチルアクリレート(ホモポリマーのTg:-26℃)、n-ヘキシルアクリレート(ホモポリマーのTg:-65℃)、n-オクチルアクリレート(ホモポリマーのTg:-70℃)、2-エチルヘキシルアクリレート(ホモポリマーのTg:-85℃)、n-ノニルアクリレート(ホモポリマーのTg:-37℃)、イソノニルアクリレート(ホモポリマーのTg:-58℃)、n-ドデシルアクリレート(ホモポリマーのTg:-23℃)、及びイソステアリルアクリレート(ホモポリマーのTg:-18℃)が挙げられる。
【0016】
が環状基で置換された直鎖若しくは分岐状のアルキル基、又は環状基であるときの式(A)で表されるアルキル(メタ)アクリレートは、下記式(A)’で表される環状(メタ)アクリレート化合物であってもよい。
【化7】
【0017】
式(A)’中、Rは水素原子若しくはメチル基を示し、Rは置換基を有していてもよいメチレン基、又は直接結合を示し、Xは置換基を有していてもよい環状基を示す。式(A)’で表される環状(メタ)アクリレート化合物の例としては、下記式で表されるイソボルニルアクリレート(ホモポリマーのTg:97℃)、環状トリメチロールプロパンホルマールアクリレート(ホモポリマーのTg:10℃)、及び2-メチル-2-エチル-1,3-ジオキソラン-4-イル)メチルアクリレート(ホモポリマーのTg:-7℃)が挙げられる。
【化8】
【0018】
式(B)中、Rが水素原子若しくはメチル基を示し、Rがアルカンジイル基を示し、Rがアルキル基を示し、nは1以上の整数を示す。同一分子中の複数のRは同一でも異なってもよい。Rはエチレン基又はプロピレン基であってもよい。Rはメチル基又はエチル基であってもよい。nはオキシアルキレン基の繰り返し数であり、1以上20以下の整数であってもよい。
【0019】
式(B)で表されるアルコキシ(メタ)アクリレートの例としては、メトキシエチルグリコールアクリレート(ホモポリマーのTg:-50℃)、メトキシポリエチレングリコールアクリレートが挙げられる。メトキシポリエチレングリコールアクリレートのホモポリマーのTgは、オキシエチレン基の繰り返し数nが2であるとき、-67℃であり、3であるとき、-60℃であり、9であるとき、-50℃であり、13であるとき、-40℃である。
【0020】
式(C)中、Rは水素原子又はメチル基を示し、Xは(メタ)アクリロイル基に結合した窒素原子を含む環状基を示す。式(C)で表される(メタ)アクリルアミド誘導体の例としては、下記式で表されるアクリロイルモルフォリン(ホモポリマーのTg:145℃)が挙げられる。
【化9】
【0021】
高分子量多官能(メタ)アクリレートは、アクリロイルオキシ基又はメタクリロイルオキシ基のうち少なくとも一方の重合性不飽和基を複数有する化合物である。高分子量多官能(メタ)アクリレートが有する重合性不飽和基の数は、2以上であり、30以下、20以下、10以下又は5以下であってもよい。
【0022】
高分子量多官能(メタ)アクリレートが、低いガラス転移温度を有するホモポリマーを形成する化合物であると、適度に低い硬度を有する成形品がより形成され易い。高分子量多官能(メタ)アクリレートのホモポリマーのガラス転移温度が-100℃以上80℃以下であってもよい。高分子量多官能(メタ)アクリレートのホモポリマーのガラス転移温度は、80℃以下、70℃以下、60℃以下、50℃以下、40℃以下、30℃以下、20℃以下、10℃以下、0℃以下、-10℃以下、-20℃以下、-25℃以下、-30℃以下、又は-35℃以下であってもよい。
【0023】
高分子量多官能(メタ)アクリレートは、例えばウレタン(メタ)アクリレートであってもよく、特に2官能のウレタン(メタ)アクリレートであってもよい。
【0024】
ウレタン(メタ)アクリレートは、アクリロイルオキシ基又はメタクリロイルオキシ基のうち少なくとも一方と、ウレタン基とを有するオリゴマー又はポリマーである。ウレタン(メタ)アクリレートは、例えば、ポリエステルポリオールに由来するソフトセグメントを有するポリエステル系ウレタン(メタ)アクリレート、ポリエーテルポリオールに由来するソフトセグメントを有するポリエーテル系ウレタン(メタ)アクリレート、又はこれらの組み合わせであってもよい。
【0025】
高分子量多官能(メタ)アクリレートは、1000以上の分子量を有する。高分子量多官能(メタ)アクリレートの分子量が、1000以上100000以下であってもよい。高分子量多官能(メタ)アクリレートの分子量が、2000以上、3000以上、4000以上、5000以上、6000以上、7000以上、8000以上、9000以上、又は10000以上であってもよく、90000以下、80000以下、70000以下、60000以下、又は50000以下であってもよい。
【0026】
高分子量多官能(メタ)アクリレートの数平均分子量(Mn)が、5000以上100000以下であってもよい。高分子量多官能(メタ)アクリレートの数平均分子量(Mn)が、6000以上、7000以上、8000以上、9000以上、又は10000以上であってもよく、100000以下、90000以下、80000以下、70000以下、60000以下、又は50000以下であってもよい。ここでのMnは、ゲル浸透クロマトグラフィーによって測定される、標準ポリスチレン換算値であることができる。通常、5000以上のMnを有する分子量分布の高分子量多官能(メタ)アクリレートのうち大部分は、1000以上の分子量を有する成分で占められると考えられる。
【0027】
重合性成分は、必要により他の化合物を更に含むことができる。
【0028】
樹脂組成物における重合性成分の合計の含有量は、樹脂組成物の全体量を基準として、60質量%以上、65質量%以上、70質量%以上、75質量%以上、80質量%以上、85質量%以上、90質量%以上、95質量%以上又は97質量%以上であってもよい。単官能モノマー、及び高分子量多官能(メタ)アクリレートの合計の含有量が、重合性成分の量を基準として80質量%以上、85質量%以上、90質量%以上、又は95質量%以上であってもよく、実質的に100質量%であってもよい。式(A)で表されるアルキル(メタ)アクリレート、式(B)で表されるアルコキシ(メタ)アクリレート、式(C)で表される(メタ)アクリルアミド誘導体、及び高分子量多官能(メタ)アクリレートの合計の含有量が、重合性成分の量を基準として80質量%以上、85質量%以上、90質量%以上又は95質量%以上であってもよく、実質的に100質量%であってもよい。
【0029】
単官能モノマーの含有量は、単官能モノマー、及び高分子量多官能(メタ)アクリレートの合計量を基準として99質量%以下、又は5質量%以上95質量%以下であってもよい。単官能モノマー含有量は、単官能モノマー、及び高分子量多官能(メタ)アクリレートの合計量を基準として、10質量%以上、15質量%以上、20質量%以上、40質量%以上、45質量%以上又は50質量%以上であってもよく、90質量%以下、85質量%以下、80質量%以下であってもよい。式(A)で表されるアルキル(メタ)アクリレート、式(B)で表されるアルコキシ(メタ)アクリレート、及び式(C)で表される(メタ)アクリルアミド誘導体の合計の含有量が、式(A)で表されるアルキル(メタ)アクリレート、式(B)で表されるアルコキシ(メタ)アクリレート、式(C)で表される(メタ)アクリルアミド誘導体、及び高分子量多官能(メタ)アクリレートの合計量を基準として、80質量%以下、又は35質量%以上80質量%以下であってもよく、40質量%以上、45質量%以上又は50質量%以上であってもよい。
【0030】
高分子量多官能(メタ)アクリレートの含有量は、単官能モノマー、及び高分子量多官能(メタ)アクリレートの合計量を基準として、20質量%以上65質量%以下であってもよい。高分子量多官能(メタ)アクリレートの含有量は、単官能モノマー、及び高分子量多官能(メタ)アクリレートの合計量を基準として、60質量%以下、又は55質量%以下であってもよい。高分子量多官能(メタ)アクリレートの含有量が、式(A)で表されるアルキル(メタ)アクリレート、式(B)で表されるアルコキシ(メタ)アクリレート、式(C)で表される(メタ)アクリルアミド誘導体、及び高分子量多官能(メタ)アクリレートの合計量を基準として、20質量%以上65質量%以下であってもよい。高分子量多官能(メタ)アクリレートの含有量が、式(A)で表されるアルキル(メタ)アクリレート、式(B)で表されるアルコキシ(メタ)アクリレート、式(C)で表される(メタ)アクリルアミド誘導体、及び高分子量多官能(メタ)アクリレートの合計量を基準として、60質量%以下、又は55質量%以下であってもよい。
【0031】
樹脂組成物に含まれる充填材は、樹脂組成物中に分散する微粒子であり、無機フィラー、有機フィラー、又はこれらの組み合わせであることができる。充填材が、例えば、シリカ粒子、ハイドロタルサイト粒子、ケイ酸アルミニウム粒子、酸化カルシウム粒子、及び炭酸カルシウム粒子から選ばれる1種以上の無機フィラーを含んでもよい。
【0032】
充填材の吸油量は、例えば1mL/100g以上で500mL/100g以下であってもよい。充填材の吸油量が大きいと、樹脂組成物から形成される成形品のタック性が低下する傾向がある。取り扱い性等の観点から、成形品のタック性は低いことが望ましい。ここでの吸油量は、JIS K-5101の吸油量測定法によって測定される値であることができる。市販の充填材の中から、種々の吸油量を示す充填材を選択して利用することができる。
【0033】
充填材の平均粒子径は、例えば0.05μm以上で300μm以下であってもよい。充填材の平均粒子径が小さいと、樹脂組成物中での充填材の分散性がより良好となるため、効率的な樹脂組成物の調製が可能となる。また、良好な外観(例えば、高い透明性)を有する成形品がより得られ易い。ここでの平均粒子径は、動的光散乱法又はレーザー回析法によって測定される値であることができる。
【0034】
充填材の含有量は、例えば、樹脂組成物の質量を基準として3質量%以上40質量%以下であってもよい。充填材の含有量がこの範囲内であると、適度に低い硬度、及び良好な寸法精度が、より一層得られ易い傾向がある。同様の観点から、充填材の含有量が、樹脂組成物の質量を基準として、4質量%以上、5質量%以上、6質量%以上、7質量%以上、又は8質量%以上であってもよく、35質量%以下、30質量%以下、又は25質量%以下であってもよい。
【0035】
樹脂組成物は、光重合開始剤を更に含んでもよい。光重合開始剤は、必要な反応性等に基づいて、樹脂組成物の光硬化(UV硬化)のために通常用いられているものから選択することができる。光重合開始剤の含有量は、例えば、重合性成分の量を基準として0.1質量%以上5質量%以下であってもよい。
【0036】
樹脂組成物又は成形材料の25℃における粘度が、10mPa・s以上9000mPa・s以下であってもよい。樹脂組成物の粘度がこの範囲内にあると、三次元光造形によって、窪み及び反りのような変形の少ない成形品が形成され易い。同様の観点から、樹脂組成物又は成形材料の25℃における粘度が、50mPa・s以上、又は100mPa・s以上であってもよく、8000mPa・s以下、7000mPa・s以下、6000mPa・s以下、5000mPa・s以下、4000mPa・s以下、又は3000mPa・s以下であってもよい。25℃における粘度は、Brookfield型粘度計(B型粘度計)を用いて25℃にて4~200rpmの回転速度で測定される値であることができる。
【0037】
以上のように例示された樹脂組成物を、三次元光造形によって各種の成形品を製造するために用いることができる。光造形のために、樹脂組成物をそのまま成形材料として用いてもよい。あるいは、必要により樹脂組成物にその他の成分(例えば、光重合開始剤)を混合して調製された成形材料を用いてもよい。
【0038】
三次元光造形は、例えば、成形材料の膜を光硬化させることを繰り返すことを含む。三次元光造形の方法は特に限定されず、例えば引き上げ方式、又は引き下げ方式による三次元光造形のために成形材料を適用することができる。三次元光造形により、成形材料の光硬化物である成形品を得ることができる。形成される成形品の形態は、所望の用途等に基づいて適宜選択でき、特に限定されない。
【0039】
本開示に係る樹脂組成物の光造形によって形成される成形品(造形品)は、適度に低い硬度を示す成形品が求められる部材として用いることができる。樹脂組成物の光硬化物(成形品)のタイプAのデュロメータによる硬度が、0以上で80以下であってもよい。樹脂組成物の光硬化物(成形品)のタイプAのデュロメータによる硬度が、5以上であってもよく、70以下、60以下、50以下、又は40以下であってもよい。
【0040】
成形品の取り扱い性等の観点から、樹脂組成物の光造形によって形成される成形品のタック性(剥離強度)は、0N/14mm以上で10.0N/14mm以下又は5.0N/14mm未満であってもよい。タック性(剥離強度)の測定方法は後述の実施例に記載されるとおりである。
【0041】
成形品が適用される部材の例としては、アンドロイドなどのロボット用のスキン、手術トレーニング用の臓器模型、パッド、グリッパ、グロメット、ベローズ、パッキン、及びガスケットが挙げられる。
【0042】
[実施例]
本発明は以下の実施例に限定されない。
【0043】
以下の材料を準備した。
(A)単官能モノマー
・A1:2-エチルヘキシルアクリレート(分子量:184、ホモポリマーのTg:-85℃)
・A2:メトキシポリエチレングリコールアクリレート(分子量:218、ホモポリマーのTg:-60℃、オキシエチレン基の繰り返し数:3)
・A3:メトキシポリエチレングリコールアクリレート(分子量:483、ホモポリマーのTg:-50℃、オキシエチレン基の繰り返し数:9)
・A4:(2-メチル-2-エチル-1,3-ジオキソラン-4-イル)メチルアクリレート(分子量:200、ホモポリマーのTg:-7℃)
・A5:アクリロイルモルフォリン(分子量:145、ホモポリマーのTg:145℃)
(B)高分子量多官能(メタ)アクリレート
・B1:ウレタンアクリレート(Mn:約35000、ホモポリマーのTg:-43℃、2官能)
・B2:ウレタンアクリレート(Mn:5000、ホモポリマーのTg:35℃、2官能)
・B3:ウレタンアクリレート(Mn:約15000、ホモポリマーのTg:43℃、2官能)
(C)充填材
・C1:単分散球状シリカ粒子(Silbol 110(商品名)、富士化学株式会社)
・C2:含水非晶質シリカ粒子(ニップシールE-74P(商品名)、東ソー・シリカ株式会社)
・C3:含水非晶質シリカ粒子(ニップシールER(商品名)、東ソー・シリカ株式会社)
・C4:合成ハイドロタルサイト(MgAl(OH)16・mHO)(キョーワード500(商品名)、協和化学工業株式会社)
・C5:ケイ酸アルミニウム(キョーワード700PL(商品名)、協和化学工業株式会社)
・C6:酸化カルシウム(VESTA18(商品名)、井上石灰工業株式会社)
・C7:炭酸カルシウム(ホワイトンSB(商品名)、白石カルシウム株式会社)
(D)光重合開始剤
・D1:Omnirad TPO H(商品名):2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニルフォスフォンオキサイド(IGM Resins B.V.)
・D2:TPO L:エチル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィネート(東京化成工業株式会社)
【0044】
<検討1>
1-1.樹脂組成物(成形材料)
各材料を、表1又は表2に示される質量比で混合し、混合物を自転・公転ミキサーを用いて攪拌した。攪拌後の混合物を脱泡して、均一な液状の樹脂組成物を得た。充填材を含む樹脂組成物に関して、単官能モノマー及び高分子量多官能(メタ)アクリレートの合計量に対する各モノマーの含有量が括弧内に示されている。得られた樹脂組成物を光成形又は光造形のための成形材料として用いた。B型粘度計(LVDV2T、AMETEK BROOKFIELD製)を用いて25℃にて4~200rpmの回転速度で各樹脂組成物の粘度を測定した。
【0045】
1-2.光造形
DLP(登録商標)方式の3Dプリンタ(武藤工業株式会社製、ML-100)を用いて、成形材料(樹脂組成物)の厚さ0.1mmの膜を順次光硬化させる光造形により、ASTM D638に準拠した形状のダンベル状の成形品(厚み:1.7mm)を造形ステージ上に形成した。比較のため、市販の光造形用組成物(Elastic 50A resin、商品名、Formlabs社)を用いて同様の方法で成形品を作製した。各膜を光硬化させるための露光時間は、表1又は表2に示された時間に設定された。造形ステージから取り外したダンベル状の成形品を、ビーカー中のアセトン又はエタノール100mLに浸漬した。ビーカー上部を密閉した状態で、超音波洗浄装置にて10分間、成形品を超音波洗浄処理した。超音波処理後、アセトン又はエタノールから取り出された成形品を、一晩、真空乾燥した。乾燥後の成形品を、寸法精度、JIS-A硬度、及び破断強度(TB)の測定のための試験片として用いた。
【0046】
1-3.評価
寸法精度
成形品の長さを実測し、測定値-94.71mm(成形品の縦方向の設定長さ)の値を求めた。この値の絶対値が小さいことは、寸法精度が高いことを意味する。
【0047】
JIS-A硬度
デュロメーター タイプAを備える自動硬度計(エクセル社製、RH-105A)により、温度23℃の雰囲気下で、試験片(成形品)の硬度(Duro-A)を測定した。
【0048】
引張試験
引張試験機(上島製作所社製、QUICK READER P-57)により、温度23℃の雰囲気下、引張速度500mm/minの試験条件で、試験片の引張試験を行った。測定結果から、成形品の破断強度(TB)を求めた。
【0049】
【表1】

【表2】
【0050】
表1及び表2に示されるとおり、実施例の三次元光造形用組成物は、適度に低い硬度を示す成形品を、光造形によって良好な寸法精度で形成できることが確認された。
【0051】
<検討2>
表3及び表4に示される質量比で各成分を含む樹脂組成物を、検討1と同様の方法で調製した。充填材を含む樹脂組成物に関して、単官能モノマー及び高分子量多官能(メタ)アクリレートの合計量に対する各モノマーの含有量が括弧内に示されている。得られた樹脂組成物を用いて、検討1と同様の方法で、ダンベル状の成形品を作製した。得られた成形品の寸法精度、JIS-A硬度、及び破断強度(TB)を検討1と同様の方法で求めた。
【0052】
充填材の吸油量
充填材として用いられたC2、C3、C5、及びC7の給油量を、JIS K-5101(顔料試験法)による吸油量測定法により測定した。各充填材の給油量は以下のとおりであった。
C2:190mL/100g
C3:190mL/100g
C5:120mL/100g
C7:30mL/100g
【0053】
タック性
ダンベル状の成形品から、長さ40mm、幅7.6mmのサイズを有する2枚の試験片を切り出した。一方の試験片を、タックテスター(東洋精機製ピクマタックテスタP-1)のステージに対して、両面粘着テープ(株式会社ニトムズ製、超強力両面テープ、ゴム用No.5321)を用いて固定した。もう一方の試験片を、同じ両面粘着テープでタックテスターのプローブに対して固定した。2枚の試験片の間のタック性(圧着後の剥離強度)を下記条件で測定した。
・温度:23℃
・荷重:20N
・圧着時間:2.0秒
・引張速度:15mm/分
3回の測定によって得られた剥離強度の平均値を、試験片の幅14mm当たりの値(単位:N/14mm)に換算した。剥離強度の値に基づいて、タック性を以下の基準で判定した。
E(excellent):5.0N/14mm未満
G(good):5.0N/14mm以上10.0N/14mm未満
B(bad):10.0N/14mm以上
【表3】

【表4】
【0054】
表3及び表4に示される評価結果からも、実施例の三次元光造形用樹脂組成物は、充分に低い硬度を示す成形品を、光造形によって良好な寸法精度で形成できることが確認された。表4に示される結果において、実施例10~14は、寸法精度及びタック性のバランスの点で特に優れていた。加えて、シリカC2、C3のような比較的大きな吸油量を示す充填材を含む樹脂組成物が、特に小さいタック性を示す成形品を与える傾向が認められた。