(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024136910
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】運動解析システム
(51)【国際特許分類】
A61B 5/11 20060101AFI20240927BHJP
【FI】
A61B5/11 230
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023048216
(22)【出願日】2023-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】豊村 崇
(72)【発明者】
【氏名】田中 毅
(72)【発明者】
【氏名】福井 大輔
(72)【発明者】
【氏名】中川 弘充
【テーマコード(参考)】
4C038
【Fターム(参考)】
4C038VA04
4C038VA12
4C038VB14
4C038VC05
(57)【要約】
【課題】撮像デバイスを用いて被験者の歩行動作を撮影する場合においても、ノイズの影響を抑制して精度よく歩行動作を解析することができる技術を提供する。
【解決手段】本発明に係る運動解析システムは、対象の各運動周期における骨格座標の信頼性を判定し、その信頼性に基づいていずれかの運動周期を選択し、その運動周期を用いて運動動作を解析する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象の骨格座標情報を取得する骨格認識部、
前記骨格座標情報に基づいて前記対象の運動周期を複数抽出する周期抽出部、
抽出された複数の前記運動周期における前記骨格座標情報の信頼性を判定する周期信頼性判定部、
前記信頼性に基づいて、少なくとも1つの前記運動周期を選択し、選択された前記運動周期における前記骨格座標情報に基づいて、前記対象の運動を解析する解析部、
を備える
ことを特徴とする運動解析システム。
【請求項2】
前記周期信頼性判定部は、前記対象の関節間の長さを時刻毎に計算し、
前記周期信頼性判定部は、前記時刻毎に計算した前記長さの分散を用いて、前記信頼性を判定する
ことを特徴とする請求項1記載の運動解析システム。
【請求項3】
前記周期信頼性判定部は、前記骨格座標情報の人体らしさからの逸脱度を表す指標を計算し、
前記周期信頼性判定部は、前記骨格座標情報を補正することによって前記逸脱度を減少させることができる補正値を、前記指標に基づき計算し、
前記解析部は、前記補正値を適用した前記骨格座標情報を用いて、前記対象の運動を解析する
ことを特徴とする請求項1記載の運動解析システム。
【請求項4】
前記周期信頼性判定部は、前記補正値を適用した前記骨格座標情報を用いて、前記信頼性を判定する
ことを特徴とする請求項3記載の運動解析システム。
【請求項5】
前記周期信頼性判定部は、前記対象の骨長さの正常値からの逸脱度を表す第1指標値を計算し、
前記周期信頼性判定部は、前記対象の関節の動きの正常値からの逸脱度を表す第2指標値を計算し、
前記周期信頼性判定部は、前記第1指標値と前記第2指標値の合計を最小化する前記補正値を計算する
ことを特徴とする請求項3記載の運動解析システム。
【請求項6】
前記周期信頼性判定部は、前記対象の関節間の長さを計算し、
前記周期信頼性判定部は、前記計算した前記長さと基準長さとの間の差分を用いて計算した長さ逸脱度を、前記関節ごとに合計し、
前記周期信頼性判定部は、前記長さ逸脱度の合計を、前記第1指標値として用いる
ことを特徴とする請求項5記載の運動解析システム。
【請求項7】
前記周期信頼性判定部は、前記対象の関節の速度ベクトルを時刻毎に取得し、
前記周期信頼性判定部は、同じ前記関節における隣接する時刻の前記速度ベクトルの積を用いて計算した動き逸脱度を、前記関節ごとに合計し、
前記周期信頼性判定部は、前記動き逸脱度の前記合計を、前記第2指標値として用いる
ことを特徴とする請求項5記載の運動解析システム。
【請求項8】
前記周期信頼性判定部は、前記対象の骨のうちいずれか1つについて、前記第1指標値を計算し、
または、
前記周期信頼性判定部は、前記対象の複数の骨について、骨長さの正常値からの逸脱度をそれぞれ計算するとともに、その計算結果を重み付き加算することにより、前記第1指標値を計算する
ことを特徴とする請求項5記載の運動解析システム。
【請求項9】
前記周期信頼性判定部は、前記対象の関節のうちいずれか1つについて、前記第2指標値を計算し、
または、
前記周期信頼性判定部は、前記対象の複数の関節について、動きの正常値からの逸脱度をそれぞれ計算するとともに、その計算結果を重み付き加算することにより、前記第2指標値を計算する
ことを特徴とする請求項5記載の運動解析システム。
【請求項10】
前記周期信頼性判定部は、前記第1指標値と前記第2指標値の重み付き加算を最小化する前記補正値を計算する
ことを特徴とする請求項5記載の運動解析システム。
【請求項11】
前記周期信頼性判定部は、前記対象の全ての関節について、3次元座標系における前記補正値の各座標軸の値をそれぞれ計算し、
前記周期信頼性判定部は、全ての前記関節について、前記補正値の各前記座標軸の値をまとめて適用することにより、全ての前記関節について各前記座標軸の前記骨格座標情報を同時に補正する
ことを特徴とする請求項4記載の運動解析システム。
【請求項12】
前記周期信頼性判定部は、前記対象の関節のうちいずれか1つについて、前記補正値を計算するとともに、計算した補正値をその関節に対して適用し、
前記周期信頼性判定部は、前記補正値を計算および適用する前記関節を変更しながら、前記指標を計算することを繰り返すことにより、前記逸脱度を最小化する
ことを特徴とする請求項4記載の運動解析システム。
【請求項13】
前記周期信頼性判定部は、前記対象の関節のうちいずれか1つ以上のグループについて、前記補正値を計算するとともに、計算した補正値をそのグループに属する前記関節に対して適用し、
前記周期信頼性判定部は、前記補正値を計算および適用する前記グループを変更しながら、前記指標を計算することを繰り返すことにより、前記逸脱度を最小化する
ことを特徴とする請求項4記載の運動解析システム。
【請求項14】
前記周期信頼性判定部は、前記補正値の3次元座標系におけるいずれか1つの座標軸についての値を計算するとともに、計算した補正値をその座標軸について適用し、
前記補正値を計算および適用する前記座標軸を変更しながら、前記指標を計算することを繰り返すことにより、前記逸脱度を最小化する
ことを特徴とする請求項4記載の運動解析システム。
【請求項15】
前記対象は歩行動作をする動物であり、
前記運動は歩行運動であり、
前記周期信頼性判定部は、前記第1指標値と前記第2指標値の重み付き加算における重みを、前記対象の運動動作の周期行動の経時的推移にしたがって、動的に変更し、
前記周期信頼性判定部は、前記第1指標値と前記第2指標値の重み付き加算における重みを、前記対象の歩行動作が立脚期であるときは前記第1指標値に対する重みが前記第2指標値に対する重みよりも大きくなるように調整し、
前記周期信頼性判定部は、前記第1指標値と前記第2指標値の重み付き加算における重みを、前記対象の歩行動作が遊脚期であるときは前記第2指標値に対する重みが前記第1指標値に対する重みよりも大きくなるように調整する
ことを特徴とする請求項10記載の運動解析システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象の歩行運動を解析する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
高齢者の運動機能障害は、歩行運動において顕著に現れることが知られている。歩行機能障害は、医師などの専門家が被験者の歩行を観察することによって診断される。他方で様々なセンシング技術が進歩したことにより、このような専門家による診断に変えて、機械的に診断を実施する技術も開発されている。
【0003】
特許文献1は、『煩わしい作業を行うことなく、被験者がフレイルであることまたは軽度認知障害であることを精度よく推定する推定装置、推定方法および推定プログラムを提供する。』ことを目的として、『推定装置100は、被験者のつま先を含む部位の位置データを時系列順に取得する位置取得部133と、時系列順に取得された位置データに基づき特徴量を抽出する抽出部134と、特徴量を学習モデルに入力することで、学習モデルから被験者がフレイルであることまたは軽度認知障害であることを推定する第1推定部135と、を備える。』という技術を記載している(要約参照)。
【0004】
特許文献2は、『歩行者を高精度で追跡する。』ことを目的として、『追跡対象である人物の歩行状態による類似度を加えた拡張DeepSORTを構成し、これによって歩行状態推定を用いた頑健な複数人物追跡を行う。歩行状態はフレーム画像間の人物の姿勢変化が微小なことから対応付けに用いやすく、また、隠れなどによって一定時間の間、観測が不可能でもその時刻の姿勢を予測することが可能である。歩行状態は、矩形運動情報や外観情報とは異なった性質を有しているため、矩形運動情報や外観情報を補う新たな情報として適している。また、歩行状態は、歩行者の関節に基づく骨格情報から抽出するところ、必要な関節の未検出などによって歩行状態推定の精度が低下する場合があるため、関節の未検出の割合に基づく指標を設定する。当該指標によって歩行状態の有効性を判断し、これに基づいて歩行者対応付けの可否判断を行う。』という技術を記載している(要約参照)。
【0005】
特許文献3は、『測定装置は、二次元位置毎の深度を示す深度情報を取得する第一取得手段と、当該深度情報を用いて被験者の歩行状態を測定する測定手段と、を有する。』という技術を記載している(要約参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2022-092940号公報
【特許文献2】特開2022-152202号公報
【特許文献3】WO2016/208289
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1~3などの従来技術においては、カメラなどのセンシングデバイスを用いて被験者の歩行動作を撮影し、その撮像画像から被験者の骨格座標を検出することにより、被験者の歩行動作を解析する。しかし歩行動作の撮像画像はノイズが多く、これにより歩行解析の正確性が低下する。特許文献1~3においては、そのようなノイズをどのように処理または除去するのかについて、さらに検討する余地があると考えられる。
【0008】
本発明は、以上のような課題に鑑みてなされたものであり、撮像デバイスを用いて被験者の歩行動作を撮影する場合においても、ノイズの影響を抑制して精度よく歩行動作を解析することができる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る運動解析システムは、対象の各運動周期における骨格座標の信頼性を判定し、その信頼性に基づいていずれかの運動周期を選択し、その運動周期を用いて運動動作を解析する。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る運動解析システムによれば、撮像デバイスを用いて被験者の歩行動作を撮影する場合においても、ノイズの影響を抑制して精度よく歩行動作を解析することができる。上記以外の課題、構成、効果などについては、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施形態1に係る運動解析システム1の構成図である。
【
図2】歩行周期ごとに信頼性を判定する手法について説明する図である。
【
図3】実施形態1における運動解析システム1の動作手順を説明するフローチャートである。
【
図4】骨長さの正常値からの逸脱度を計算する手法を説明する図である。
【
図5】歩行動作の自然な動きからの逸脱度を計算する別手法を説明する図である。
【
図6】実施形態2における運動解析システム1の動作手順を説明するフローチャートである。
【
図7】E1とE2の和を最小化することができる補正後の骨格座標を探索する過程を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<実施の形態1>
図1は、本発明の実施形態1に係る運動解析システム1の構成図である。運動解析システム1は、対象者の歩行運動を解析することにより、例えば対象者が歩行機能障害を有しているか否かを解析するシステムである。運動解析システム1は、骨格認識部11、周期抽出部12、周期信頼性判定部13、解析部14を備える。
【0013】
骨格認識部11は、対象者の歩行動作を撮影した撮像画像を用いて、対象者の骨格を認識する。例えば撮像画像を用いて対象者の関節を認識し、その結果に基づき、対象者の骨格を認識することができる。認識した骨格は、例えば関節の位置およびその経時変化を記述したデータとして記録することができる。
【0014】
周期抽出部12は、対象者の歩行動作の撮像画像(または骨格認識部11が認識した骨格位置、以下同様)の経時変化に基づき、対象者の歩行動作の周期を抽出する。具体的には、対象者の同じ側の足が2回接地する時間的区間を1周期とする。
【0015】
周期信頼性判定部13は、周期抽出部12が抽出した周期の信頼性を判定する。歩行動作の撮像画像に基づき認識した骨格動作は、様々なノイズ(例:誤認識した骨格座標)を含んでいる。周期信頼性判定部13は、対象者の歩行動作の周期(同じ足を2回接地する時間的区間)のうち、ノイズが相対的に小さいと考えられるものを、信頼性が高い周期として選択する。周期の信頼性を判定する具体的手法は後述する。
【0016】
解析部14は、周期信頼性判定部13が選択した周期における、対象者の歩行動作の撮像画像を用いて、対象者の歩行動作を解析する。例えば対象者の歩行機能が基準レベルよりも低下しているか否かを解析する。解析手法については任意の公知技術を用いることができるので、ここでは詳述しないこととする。
【0017】
図2は、歩行周期ごとに信頼性を判定する手法について説明する図である。周期信頼性判定部13は、対象者の骨格座標の安定度を定量的に評価することにより、歩行周期の信頼性を判定する。ここでいう定量的な評価は、対象者の骨格座標の人体らしさを数値化した指標を用いて実施する。
【0018】
周期信頼性判定部13は、周期抽出部12が抽出した各周期について骨格座標の人体らしさを表す指標を計算することにより、周期の信頼性を判定する。具体的には、時刻ごとに対象者の関節間の長さを算出し、当該周期における長さの分散を算出する。関節間(骨)を剛体とみなすと理想的には長さが一定であるので、分散が所定の閾値より小さければ、その周期の信頼性が高いと判定する。すなわち、この分散を人体らしさの指標として用いることができる。
【0019】
周期信頼性判定部13は、周期抽出部12が抽出した各周期のうち、上記手法にしたがって計算した信頼性が高いものを選択する。解析部14は、その周期を用いて、対象者の歩行運動を解析する。信頼性が高い周期は、例えば指標値(時刻ごとの関節間長さの分散)が条件を満たすものを全て選択してもよいし、指標値が条件を満たす上位(例:上位50%)のものを選択してもよいし、指標値が最も良いもの1つを選択してもよい。その他適当な基準で選択してもよい。また、指標値が条件を満たすものが1つもない場合は、対象者の歩行運動の解析を中断する。その際には、解析を中断したという記録やその原因をシステム内部にログとして保存したり、システム利用者に通知したりすることが望ましい。
【0020】
図3は、実施形態1における運動解析システム1の動作手順を説明するフローチャートである。S301において、骨格認識部11は、対象者の骨格座標を取得する。S302において、周期抽出部12は、対象者の歩行周期を複数抽出する。S303において、周期信頼性判定部13は、
図2で説明した手法にしたがって、対象者の関節間の長さの分散を計算する。周期信頼性判定部13は、周期抽出部12が抽出したすべての歩行周期についてS303を実施する(S304)。S305において、周期信頼性判定部13は、例えば分散が閾値よりも小さい歩行周期を、信頼性が高いものとして選択する。
【0021】
<実施の形態1:まとめ>
本実施形態1に係る運動解析システム1は、対象者の関節間の長さの分散が小さい歩行周期を、信頼性が高い歩行周期として選択し、その歩行周期を用いて、対象者の歩行動作を解析する。これにより、骨格座標の信頼性がより高い歩行周期を自動的に選択することができるとともに、歩行解析の正確性を向上させることができる。
【0022】
<実施の形態2>
実施形態1においては、対象者の歩行運動を撮影した画像から、歩行周期の信頼性(人体らしさ)を表す指標を計算し、その信頼性が高い歩行周期を用いて歩行動作を解析することを説明した。本発明の実施形態2では、人体らしさの指標に基づき、歩行動作の自然な動きからの逸脱度を定量化し、その逸脱度を最小化するように、骨格座標を補正する動作例について説明する。運動解析システム1の構成は実施形態1と同様である。
【0023】
図4は、骨長さの正常値からの逸脱度を計算する手法を説明する図である。関節間(骨)の長さと、その骨の標準長さとの間の差分の2乗を、解析対象とするすべての骨について合算することにより、逸脱度E1を求めることができる。E1は、骨長さが正常値から逸脱している程度を表す。解析対象とする骨は、必ずしも大腿骨(
図4のFemur)と脛部の骨(
図4のLeg)に限らず、歩行運動にともなって骨格座標が変動するその他の骨を解析してもよい。
図5においても同様である。
【0024】
図5は、歩行動作の自然な動きからの逸脱度を計算する別手法を説明する図である。人間の関節は時間方向において滑らかに変化すると想定される。その前提のもと、隣り合う時刻の骨格座標(関節座標)の速度ベクトルの積を用いて、その関節の逸脱度を表す指標を計算する。この指標をすべての関節について合計することにより、逸脱度とする。
【0025】
関節P
iの骨格座標の速度ベクトルは、例えば時刻t+1における位置P
i,t+1と時刻tにおける位置P
i,tとの間の差分を、時間差分Δtで除算することによって求められる。
図5上段は、関節P
iの速度ベクトルの経時変化を示す。
図5左上は動きが自然である場合の経時変化を示し、
図5右上は不自然である場合の経時変化を示す。連続する2つの時刻における速度ベクトルの積を用いた逸脱度E2を、例えば
図5に示す計算式によって求めることができる。逸脱度E2は、関節の動きが自然な動きからどの程度逸脱しているかを表す。
【0026】
E2を計算する関数は、符号が異なる速度ベクトルを乗算したとき大きな値となり、符号が同じ速度ベクトルを乗算したときはそれよりも小さな値となるように、構成することが望ましい。そのような関数を用いることにより、速度ベクトルが滑らかに変化しているか否かを適切に評価できるからである。
図5に示した関数はその1例である。
【0027】
人が自然に動作している場合であっても、速度ベクトルの方向が反対向きに変化することがある。例えば歩行動作における脚部の上下運動はこれに当たる。ただし対象者を撮影するときのフレームレートを相応に高くすれば、速度ベクトルの方向が反対向きに変化する時点の前後2つの時刻間における速度ベクトルの変化は小さいと考えられる。したがってその場合は、逸脱度E2は小さい値となるので、自然な動きを不自然な動きとして誤認識する可能性は小さい。
【0028】
周期信頼性判定部13は、例えば逸脱度E1とE2の和を最小化する骨格座標の組み合わせを求め、その結果にしたがって、歩行画像から取得した骨格座標を補正する。逸脱度の合計を最小化する骨格座標の組み合わせそのものを、補正後の骨格座標としてもよいし、その組み合わせから何らかの補正値を導出してもよい。解析部14は、補正後の骨格座標を用いて、対象者の歩行動作を解析する。
【0029】
図6は、実施形態2における運動解析システム1の動作手順を説明するフローチャートである。S601において、骨格認識部11は、対象者の骨格座標を取得する。S602において、周期抽出部12は、対象者の歩行周期を抽出する。S603において、周期信頼性判定部13は、1フレーム分の骨格座標を取得する。ここでいう1フレーム分の骨格座標は、
図5で説明した1つの時点における座標Pに相当する。S604において、周期信頼性判定部13は、
図4~
図5で説明した逸脱度E1とE2を計算するとともに、これらを用いて骨格座標を補正する。E1またはE2のうちいずれか一方のみを用いることもできる。周期信頼性判定部13は、すべてのフレーム(S602において抽出した歩行周期内の全ての時刻)について、S603~S604を実施する(S605)。
【0030】
S602において抽出する周期は、例えば実施形態1で説明した手法により選択した、信頼性が高い歩行周期であってもよい。あるいは任意の歩行周期を選択した上で、本実施形態2で説明した手法により、関節座標を補正してもよい。いずれの場合であっても、正確な関節座標を用いることにより、歩行動作の解析精度を向上できる。
【0031】
図7は、E1とE2の和を最小化することができる補正後の骨格座標を探索する過程を示す。最小化過程は、任意の探索アルゴリズムを用いて実施することができる。例えば関節座標の初期値の周辺で座標値を任意に変動させ、E1とE2が減少すればその座標値を暫定的に採用する。以上の処理を任意の試行回数だけ実施し、最終的に得られた座標値を補正後座標として確定する。また、上記の処理を所定の試行回数実施する前に、E1とE2の和が閾値以下になった場合は、処理を中断してその時点で得られている座標値を補正後座標として確定してもよい。さらには、所定の試行回数実施したあとにE1とE2の和が閾値以下にならなかった場合は、補正に失敗したと判断して座標値を初期値に戻してもよい。また、E1とE2の和が減少せず、反対に増加してしまった場合も補正に失敗と判断できる。補正に失敗した場合は、失敗したという記録やその原因をシステム内部にログとして保存したり、システム利用者に通知したりすることが望ましい。
【0032】
<実施の形態2:まとめ>
本実施形態2に係る運動解析システム1は、間接長さの逸脱度E1または自然な動きからの逸脱度E2のうち少なくともいずれかを求め、その逸脱度を最小化するように、骨格座標を補正する。これにより、信頼性が低い骨格座標を自動的に補正することができるので、歩行解析の正確性を向上させることができる。
【0033】
<実施の形態3>
実施形態2において説明した逸脱度E1は、単一の骨について計算してもよい。例えば信頼性が高いと想定されている体幹部分のいずれか1つの骨について、E1を計算してもよい。あるいは信頼性がばらつきやすい四肢のいずれか1つの骨について、E1を計算してもよい。例えばノイズが大きい撮影デバイスを用いる場合は、信頼性が高い部分の骨についてE1を計算することが望ましい。信頼性が低い部分の骨は、ノイズが大き過ぎると考えられるからである。ノイズが小さい撮影デバイスを用いる場合は、信頼性が低い部分の骨についてE1を計算してもよい。信頼性が低い部分についてE1を最小化できれば、信頼性が高い部分についてはさらに信頼性が高まると考えられるからである。
【0034】
実施形態2において説明した逸脱度E1は、複数の骨についてそれぞれ計算した長さ逸脱度をさらに重み付き加算することによって求めてもよい。重みは、ノイズが大きい撮影デバイスを用いる場合は、信頼性が高い骨については他の骨よりも大きくし、信頼性が低い骨については他の骨よりも小さくすることが考えられる。ノイズが小さい撮影デバイスを用いる場合は、その反対でもよい。理由は単一の骨についてE1を計算する場合と同様である。
【0035】
実施形態2において説明した逸脱度E2は、単一の関節について計算してもよい。例えば信頼性が高いと想定されている体幹部分のいずれか1つの関節について、E2を計算してもよい。あるいは信頼性がばらつきやすい四肢のいずれか1つの関節について、E2を計算してもよい。理由は単一の骨についてE1を計算する場合と同様である。
【0036】
実施形態2において説明した逸脱度E2は、複数の関節についてそれぞれ計算した自然な動きからの逸脱度をさらに重み付き加算することによって求めてもよい。重みは、信頼性が高い関節については他の関節よりも大きくし、信頼性が低い関節については他の関節よりも小さくすることが考えられる。あるいはその反対でもよい。理由は単一の骨についてE1を計算する場合と同様である。
【0037】
実施形態2において、E1とE2の和を最小化するように、骨格座標を補正することを説明した。E1とE2の和は、重み付き加算であってもよい。歩行解析において骨の長さの正確性を重視する場合は、E1の重みを大きくする。歩行解析において関節の動きの滑らかさを重視する場合は、E2の重みを大きくする。E1とE2は両立するとは限らないので、動きの特性や解析対象部位によって、いずれを重視するかが異なると考えられる。
【0038】
<実施の形態4>
実施形態2において、周期信頼性判定部13が骨格座標を補正する際には、原則としてすべての関節の3軸座標(XYZ座標)を同時に補正する。ただし計算の収束性を高めるため、あるいは計算時間を短縮するために、補正処理を以下のような処理単位ごとに個別に実施することもできる。
【0039】
全ての関節を同時に補正することに代えて、関節を1つずつ補正してもよい。例えばまず体幹部分の関節を1つずつ補正し、次に四肢部分の関節を1つずつ補正することが考えられる。あるいはまず四肢部分の関節を1つずつ補正し、次に体幹部分の関節を1つずつ補正してもよい。周期信頼性判定部13は、1つの関節について座標を補正するごとに、逸脱度を改めて計算し、その再計算した逸脱度を用いて、改めて他の関節の座標を補正する(補正要否の判定を含む、以下説明する手法においても同様)。例えば
図6のS604内部において、上記のように関節ごとに補正するループを回すことになる(以下説明する手法においても同様)。補正する関節の順番は、座標情報が相対的に安定している(ノイズが小さい)箇所を先にすることが望ましいと考えられるが、これに限るものではない。後述する関節グループごとの補正と座標軸ごとの補正についても同様である。
【0040】
全ての関節を同時に補正することに代えて、関節グループごとに補正してもよい。例えばまず体幹部分の関節群を補正し、次に右上半身部分の関節群を補正し、などのように、近接する関節群ごとに補正することが考えられる。周期信頼性判定部13は、1つの関節群について座標を補正するごとに、逸脱度を改めて計算し、その再計算した逸脱度を用いて、改めて他の関節群の座標を補正する。
【0041】
XYZ座標を同時に補正することに代えて、座標軸ごとに補正してもよい。例えばまずX座標について補正し、次にY座標について補正し、最後にZ座標について補正する。座標軸はこの順番でなくてもよい。周期信頼性判定部13は、1つの座標軸について座標を補正するごとに、逸脱度を改めて計算し、その再計算した逸脱度を用いて、改めて他の座標軸について座標を補正する。例えば2次元カメラを用いて対象者を撮影する場合、奥行方向のノイズが相対的に大きいと考えられる。したがって奥行方向の座標軸を最後に補正することが望ましい。
【0042】
実施形態2において、E1とE2の和を最小化するように、骨格座標を補正することを説明した。E1とE2の和は、重み付き加算であってもよいし、その重みを動的に変更してもよい。例えば遊脚期においては、座標変化が大きいのでE2の重みを相対的に大きくし、立脚期においてはE1の重みを相対的に大きくすることが考えられる。解析する部位の特性によっては、その反対でもよい。例えば体幹部分についてはE1の重みを相対的に大きくし、四肢部分についてはE2の重みを相対的に大きくすることが考えられる。
【0043】
<本発明の変形例について>
本発明は、上述した実施形態に限定されるものでなく、様々な変形例を含んでいる。例えば、上述した実施形態は、本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備える必要はない。また、ある実施形態の一部を他の実施形態の構成に置き換えることができる。また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることもできる。また、各実施形態の構成の一部について、他の実施形態の構成の一部を追加、削除または置換することもできる。
【0044】
運動解析システム1が備える各機能部(骨格認識部11、周期抽出部12、周期信頼性判定部13、解析部14)は、これらの機能を実装した回路デバイスなどのハードウェアによって構成することもできるし、これらの機能を実装したソフトウェアをCPU(Central Processing Unit)などの演算装置が実行することによって構成することもできる。
【0045】
以上の実施形態において、歩行動作を解析する対象として人間を想定しているが、歩行動作にともなって関節が動くその他の動物についても、本発明の手法を適用可能である。また歩行動作以外の動作であっても、周期的な動作をともなう運動について、その運動周期や運動動作にともなう関節の動きに対して本発明の手法を適用可能である。
【符号の説明】
【0046】
1:運動解析システム
11:骨格認識部
12:周期抽出部
13:周期信頼性判定部
14:解析部