(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024137007
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】超音波デバイス、制御装置、プログラム及びシステム
(51)【国際特許分類】
H04R 1/40 20060101AFI20240927BHJP
H04R 1/02 20060101ALI20240927BHJP
H04R 3/00 20060101ALI20240927BHJP
G06F 3/041 20060101ALI20240927BHJP
G06F 3/01 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
H04R1/40 330
H04R1/02 330
H04R3/00 330
G06F3/041 480
G06F3/01 560
【審査請求】未請求
【請求項の数】33
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023048338
(22)【出願日】2023-03-24
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度 国立研究開発法人 科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業、産業技術力強化法第17条の適用を受けるもの、研究題目「実体化映像による多次元インタラクション」および令和4年度 国立研究開発法人 科学技術振興機構 研究成果展開事業、産業技術力強化法第17条の適用を受けるもの、研究題目「空中超音波を用いた触覚提示技術の事業化検証」
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002789
【氏名又は名称】弁理士法人IPX
(72)【発明者】
【氏名】神垣 貴晶
(72)【発明者】
【氏名】篠田 裕之
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 颯
(72)【発明者】
【氏名】二宮 悠基
(72)【発明者】
【氏名】森崎 汰雄
(72)【発明者】
【氏名】荒川 岳斗
(72)【発明者】
【氏名】松林 篤
(72)【発明者】
【氏名】有賀 健太朗
【テーマコード(参考)】
5D019
5E555
【Fターム(参考)】
5D019AA01
5D019GG11
5E555AA27
5E555BA08
5E555BB08
5E555BE16
5E555DA24
5E555DC43
5E555FA00
(57)【要約】
【課題】低コスト製造が可能な超音波デバイス、制御装置、プログラム及びシステムを提供する。
【解決手段】本発明の一態様によれば、超音波デバイスが提供される。この超音波デバイスは、振動膜と、張力維持手段と、複数の素子とを備える。振動膜は、張力が印加されて配設される。張力維持手段は、振動膜を支持し、該振動膜の復元力により変形せず、素子は、振動膜に周期的に配設され、各々が第1の電極と、第2の電極とを備える。第1の電極は、振動膜に接して配設される。第2の電極は、第1の電極と対向する位置に配設される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波デバイスであって、
振動膜と、張力維持手段と、複数の素子とを備え、
前記振動膜は、張力が印加されて配設され、
前記張力維持手段は、前記振動膜を支持し、該振動膜の復元力により変形せず、
前記素子は、前記振動膜に周期的に配設され、各々が第1の電極と、第2の電極とを備え、
前記第1の電極は、前記振動膜に接して配設され、
前記第2の電極は、前記第1の電極と対向する位置に配設される
超音波デバイス。
【請求項2】
請求項1に記載の超音波デバイスにおいて、
前記素子は、基板に配設され、
前記基板は、前記振動膜に周期的に固定され、
前記振動膜は、前記基板との固定部分に囲まれた領域が、所定の周波数で共振する領域である
超音波デバイス。
【請求項3】
請求項1に記載の超音波デバイスにおいて、
前記張力維持手段は、弾性体を備え、該弾性体により前記振動膜に印加された張力を維持する
超音波デバイス。
【請求項4】
請求項1に記載の超音波デバイスにおいて、
前記第2の電極は、前記振動膜に接して配設され、
前記第1の電極を前記振動膜の表面に配設した場合には、前記第2の電極を前記振動膜の裏面に配設し、
前記第2の電極を前記振動膜の表面に配設した場合には、前記第1の電極を前記振動膜の裏面に配設する
超音波デバイス。
【請求項5】
請求項1に記載の超音波デバイスにおいて、
前記素子は、気体が封入された気体室を備え、
前記振動膜は、前記気体室の壁部の一部を構成し、
前記第2の電極は、貫通孔を備え、前記気体室の内部に配設される
超音波デバイス。
【請求項6】
請求項5に記載の超音波デバイスにおいて、
前記第2の電極の前記第1の電極と対向しない面と、前記気体室の前記振動膜と対向する壁部との距離は、前記振動膜が共振する際の波長の8分の1以上、かつ、8分の3以下である
超音波デバイス。
【請求項7】
請求項6に記載の超音波デバイスにおいて、
前記距離は、前記波長の4分の1である
超音波デバイス。
【請求項8】
請求項5に記載の超音波デバイスにおいて、
前記気体室は、柔軟膜を備え、
前記柔軟膜は、前記気体室の壁部の一部を構成し、該気体室の内外の気圧差に応じて変形し、該気圧差を減少させる
超音波デバイス。
【請求項9】
請求項5に記載の超音波デバイスにおいて、
前記気体は、不活性ガスである
超音波デバイス。
【請求項10】
請求項9に記載の超音波デバイスにおいて、
前記不活性ガスは、六フッ化硫黄である
超音波デバイス。
【請求項11】
請求項1に記載の超音波デバイスにおいて、
前記素子は、前記振動膜と第2の電極との間が真空の空間である
超音波デバイス。
【請求項12】
請求項1に記載の超音波デバイスにおいて、
直流電源を備え、
前記直流電源は、前記第1の電極と前記第2の電極との間に、第1の電圧と第2の電圧とを選択的に印加し、
前記第1の電圧は、前記振動膜が前記第2の電極に吸着される電圧値以上の電圧であり、
前記第2の電圧は、前記振動膜が前記第2の電極に吸着される電圧値未満の電圧である
超音波デバイス。
【請求項13】
請求項12に記載の超音波デバイスにおいて、
前記直流電源は、前記第1の電極と前記第2の電極との一方に、第1の電位と第2の電位とを選択的に印加するとともに、前記第1の電極と前記第2の電極との他方に、第1の電位と第3の電位とを選択的に印加し、
前記第1の電位と前記第2の電位との電位差は、前記第2の電圧であり、
前記第2の電位と前記第3の電位との電位差は、前記第2の電圧であり、
前記第1の電位と前記第3の電位との電位差は、前記第1の電圧である
超音波デバイス。
【請求項14】
請求項12に記載の超音波デバイスにおいて、
前記第1の電極は、複数の電極を備え、該複数の電極のそれぞれが、長手方向が平行となる態様で配設され、
前記第2の電極は、複数の電極を備え、該複数の電極のそれぞれが、長手方向が平行となる態様で配設され、
前記第1の電極の長手方向と前記第2の電極の長手方向とは交差し、
前記素子は、前記第1の電極と前記第2の電極とが交差する位置に配設される
超音波デバイス。
【請求項15】
請求項1に記載の超音波デバイスにおいて、
反射位相制御部を備え、
前記反射位相制御部は、前記素子のうち該素子に照射された超音波を第1の位相で反射させる素子の前記振動膜を、前記第2の電極に吸着させるように前記第1の電極と前記第2の電極との間に印加する電圧を制御し、前記素子のうち該素子に照射された超音波を第2の位相で反射させる素子の前記振動膜を、前記第2の電極に吸着させないように前記第1の電極と前記第2の電極との間に印加する電圧を制御する
超音波デバイス。
【請求項16】
請求項15に記載の超音波デバイスにおいて、
前記第1の位相は、前記素子に照射された超音波と同位相であり、
前記第2の位相は、前記素子に照射された超音波の反転位相である
超音波デバイス。
【請求項17】
請求項1に記載の超音波デバイスにおいて、
交流電源を備え、
前記交流電源は、前記第1の電極と前記第2の電極との間に所定周波数の電圧を印加し、
前記素子は、前記所定周波数に応じた超音波を送出する
超音波デバイス。
【請求項18】
請求項17に記載の超音波デバイスにおいて、
前記交流電源は、第1の交流電源と第2の交流電源とを含み、
前記第2の交流電源は、前記第1の交流電源が出力する電圧と位相が反転した電圧を出力し、
前記第1の交流電源と、前記第2の交流電源とが、それぞれ異なる前記素子の前記第1の電極と前記第2の電極との間に所定周波数の電圧を印加する
超音波デバイス。
【請求項19】
請求項17に記載の超音波デバイスにおいて、
送出制御部を備え、
前記送出制御部は、前記素子のうち該素子から超音波を送出させる素子の前記振動膜を、前記第2の電極に吸着させないように前記第1の電極と前記第2の電極との間に印加する直流電圧を制御し、前記素子のうち該素子から超音波を送出させない素子の前記振動膜を、前記第2の電極に吸着させるように前記第1の電極と前記第2の電極との間に印加する直流電圧を制御する
超音波デバイス。
【請求項20】
超音波デバイスであって、
素子と、反射位相制御部とを備え、
前記素子は、振動膜と、第1の電極と、第2の電極とを備え、
前記振動膜は、張力が印加され、
前記第1の電極は、前記振動膜に接して配設され、
前記第2の電極は、前記第1の電極と対向する位置に配設され、
前記反射位相制御部は、前記素子に照射された超音波を第1の位相で反射させる場合に、前記振動膜を、前記第2の電極に吸着させるように前記第1の電極と前記第2の電極との間に印加する電圧を制御し、前記素子に照射された超音波を第2の位相で反射させる場合に、前記振動膜を、前記第2の電極に吸着させないように前記第1の電極と前記第2の電極との間に印加する電圧を制御する
超音波デバイス。
【請求項21】
請求項20に記載の超音波デバイスにおいて、
前記第1の位相は、前記素子に照射された超音波と同位相であり、
前記第2の位相は、前記素子に照射された超音波の反転位相である
超音波デバイス。
【請求項22】
超音波デバイスを制御する制御装置であって、
検知情報取得部と、制御部とを備え、
前記検知情報取得部は、所定の位置に対象が存在することを検知するセンサの出力を検知情報として取得し、
前記制御部は、前記検知情報に応じて、前記位置に超音波を照射させる制御信号を、前記超音波デバイスへ送出し、該超音波デバイスを制御する
制御装置。
【請求項23】
請求項22に記載の制御装置において、
前記位置は、複数箇所であり、
前記制御部は、前記超音波デバイスに複数箇所の前記位置に超音波を照射させる
制御装置。
【請求項24】
請求項22に記載の制御装置において、
前記制御部は、複数の超音波デバイスのそれぞれに、前記位置に超音波を照射させる制御信号を送出する
制御装置。
【請求項25】
請求項22に記載の制御装置において、
判定部を備え、
前記判定部は、前記センサの出力に基づいて、前記対象の年齢と、性別と、手の動きと、目線と、指紋と、声と、表情との少なくとも1つを判定し、該判定結果を記録装置に記録する
制御装置。
【請求項26】
請求項25に記載の制御装置において、
判定部を備え、
前記判定部は、前記対象が人物の手であるか否かを判定するとともに、該対象が手であった場合には、該手の動作を判定し、
前記パターン生成部は、前記判定部による判定結果に応じて前記触覚パターンを生成する
制御装置。
【請求項27】
請求項22に記載の制御装置において、
提示情報取得部と、位置特定部とを備え、
前記提示情報取得部は、映像を含む提示情報を取得し、
前記位置特定部は、前記提示情報に基づいて前記位置を特定する
制御装置。
【請求項28】
請求項27に記載の制御装置において、
パターン生成部を備え、
前記パターン生成部は、前記提示情報に基づいて触覚パターンを生成し、
前記制御部は、前記触覚パターンに応じた制御信号を前記超音波デバイスへ送出する
制御装置。
【請求項29】
プログラムであって、
少なくとも1つのコンピュータを、請求項22乃至請求項28のいずれか1項に記載の制御装置として動作させる
プログラム。
【請求項30】
触感を提示するシステムであって、
超音波デバイスと、請求項22乃至請求項28のいずれか1項に記載の制御装置とを備え、
前記超音波デバイスは、該超音波デバイスが触感を提示する対象者の目線よりも上に配設される
システム。
【請求項31】
触感を提示するシステムであって、
超音波デバイスと、請求項22乃至請求項28のいずれか1項に記載の制御装置とを備え、
前記超音波デバイスは、該超音波デバイスが発生させる超音波エネルギーを閉じ込める空間内に配設される
システム。
【請求項32】
請求項30に記載のシステムにおいて、
前記対象者に音声を提示する音声提示装置を備え、
前記音声提示装置は、前記超音波デバイスが発生させる超音波を遮断するアナログフィルタを備えた電子機器である
システム。
【請求項33】
請求項30に記載のシステムにおいて、
撮影装置と、表示装置とを備え、
前記撮影装置は、前記対象者を撮影し、
前記表示装置は、前記撮影装置による撮影結果を表示する
システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波デバイス、制御装置、プログラム及びシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
強力な空中超音波を生成できる空中超音波フェーズドアレイ(Airborne Ultrasound Phased Array:AUPA)は、任意の強度・位相で超音波を発生可能なトランスデューサーを配列することで構成されてきた。また、高出力かつ高効率で透明化が可能なシート状空中超音波デバイスを実現するための超音波デバイスも提案されている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、超音波デバイスは、空中ハプティクスや微小あるいは軽量物体の浮遊、気流の制御など多岐に渡る応用での利用が検討されているが、これらへの利用には、超音波デバイスが低コストで製造できることが望ましい。
【0005】
本発明では上記事情を鑑み、低コスト製造が可能な超音波デバイス、制御装置、プログラム及びシステムを提供することとした。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様によれば、超音波デバイスが提供される。この超音波デバイスは、振動膜と、張力維持手段と、複数の素子とを備える。振動膜は、張力が印加されて配設される。張力維持手段は、振動膜を支持し、該振動膜の復元力により変形せず、素子は、振動膜に周期的に配設され、各々が第1の電極と、第2の電極とを備える。第1の電極は、振動膜に接して配設される。第2の電極は、第1の電極と対向する位置に配設される。
【0007】
本発明の一態様によれば、回路を大幅に簡略化し、低コスト製造が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図2】張力維持手段の例を説明するための図である。
【
図9】超音波を送出する超音波デバイスの配置例を示した図である。
【
図10】超音波デバイス11の構成例を示した図である。
【
図11】超音波を反射する超音波デバイスの配置例を示した図である。
【
図12】超音波デバイス13の構成例を示した図である。
【
図15】スペーサSPと振動膜150との固定方法を説明するための図である。
【
図17】素子20の動作を説明するための図である。
【
図18】素子20の制御を説明するための図である。
【
図19】素子20に印加される電圧と、その際の素子の状態の組み合わせを示したものである。
【
図24】シミュレーション結果の音圧の分布を示したものである。
【
図25】シミュレーション結果の音圧の分布を示したものである。
【
図26】シミュレーション結果の音圧の分布を示したものである。
【
図27】シミュレーション結果の音圧の分布を示したものである。
【
図28】シミュレーション結果の音圧の分布を示したものである。
【
図29】シミュレーション結果の音圧の分布を示したものである。
【
図30】シミュレーション結果の音圧の分布を示したものである。
【
図31】超音波デバイスを用いたシステムの構成例を示した図である。
【
図32】情報処理装置1001の構成例を示した図である。
【
図33】情報処理装置1001の機能的な構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を用いて本開示の実施形態について説明する。以下に示す実施形態中で示した各種特徴事項は、互いに組み合わせ可能である。
【0010】
ところで、本実施形態に登場するソフトウェアを実現するためのプログラムは、コンピュータが読み取り可能な非一時的な記録媒体(Non-Transitory Computer-Readable Medium)として提供されてもよいし、外部のサーバからダウンロード可能に提供されてもよいし、外部のコンピュータで当該プログラムを起動させてクライアント端末でその機能を実現(いわゆるクラウドコンピューティング)するように提供されてもよい。
【0011】
また、本実施形態において「部」とは、例えば、広義の回路によって実施されるハードウェア資源と、これらのハードウェア資源によって具体的に実現されうるソフトウェアの情報処理とを合わせたものも含みうる。また、本実施形態においては様々な情報を取り扱うが、これら情報は、例えば電圧・電流を表す信号値の物理的な値、0又は1で構成される2進数のビット集合体としての信号値の高低、又は量子的な重ね合わせ(いわゆる量子ビット)によって表され、広義の回路上で通信・演算が実行されうる。
【0012】
また、広義の回路とは、回路(Circuit)、回路類(Circuitry)、プロセッサ(Processor)、及びメモリ(Memory)等を少なくとも適当に組み合わせることによって実現される回路である。すなわち、特定用途向け集積回路(Application Specific Integrated Circuit:ASIC)、プログラマブル論理デバイス(例えば、単純プログラマブル論理デバイス(Simple Programmable Logic Device:SPLD)、複合プログラマブル論理デバイス(Complex Programmable Logic Device:CPLD)、及びフィールドプログラマブルゲートアレイ(Field Programmable Gate Array:FPGA))等を含むものである。
【0013】
1.概要
まず、超音波デバイスの概要について説明する。超音波デバイスは、振動膜と、張力維持手段と、複数の素子とを備える。ここで、振動膜について説明する。
図1は、振動膜の配設例を示した図である。同図に示す振動膜1は、張力が印加されて枠2に配設される。枠2は、振動膜1を支持するもので、張力維持手段として用いることができる。枠2を張力維持手段として用いる場合には、枠2は、振動膜1の復元力により変形しない強度を有している必要がある。なお、枠2で挟まれた振動膜1の領域Rには、後述する素子が配置される。
【0014】
ここで、張力維持手段の別例について説明する。
図2は、張力維持手段の例を説明するための図である。同図に示す張力維持手段102は、外枠121と、内枠122と、弾性体123とを備える。外枠121は、内枠122の方向に押し込むことが可能であり、外枠121を押し込むことで、弾性体123が変形する。また、外枠121を押し込んだ状態から、その押し込み力を解除すると、弾性体123の復元力により、外枠121は元の位置に戻る。したがって、外枠121を押し込んだ状態で、この外枠121に張力が印加された振動膜1を配設すると、弾性体123により振動膜1に印加された張力を維持することが可能となる。張力の維持は、例えば、弾性体123の変形により振動膜1の復元力を緩和することによるものである。なお、振動膜1は、図中のxy平面に平行に、張力維持手段102のz軸座標の大きい側に、配設される。
【0015】
なお、振動膜1に印加する張力は、張力に由来する膜弾性のバネ定数が振動膜1の膜の剛性に由来するバネ定数(非線形性を含む)より十分に大きくなるように設定することで所望の変位を確保することができる。このため、張力に由来する膜弾性のバネ定数が膜の剛性に由来するバネ定数に比べて十分大きくなるよう、膜の材料と大きさを設定することが望ましい。
【0016】
次に、素子の配置例について説明する。
図3は、素子の配置例を示した図である。同図に示すように、素子3は、振動膜1に周期的に配設される。周期的に配設されるとは、文字通り同一形状の素子が一定の間隔で配設される場合もあるし、少しずつ間隔を変化させながら繰り返し同様な形状の素子が配設される場合もある。あるいは共振周波数を一定に保ったまま、異なる形状をした複数の素子3が並んで配設される場合もある。場合によっては、共振周波数が素子によって異なるように形状を決定して配設する場合もある。なお、素子3が配設される場所は、
図1に示した領域Rである。また、素子3は、各々が第1の電極である電極4と、第2の電極である電極5とを備える。電極4は、振動膜1に接して配設され、電極5は、電極4と対向する位置に配設される。この素子3は、基板に配設されるもので、この基板の振動膜1との固定部分Fが振動膜1に周期的に固定される。この構成により、振動膜1は、基板との固定部分Fに囲まれた領域が、所定の周波数で共振する領域となる。このときの張力は、その共振周波数が使用する超音波の周波数になるように設定してもよい。また、固定部分Fに囲まれた領域の膜の振動変位が十分大きくとれるようにするためには、この領域がなるべく大きくなることが望ましい。そのため、大きな領域に対して共振周波数を高く保てるように、膜が破断しない範囲で十分大きな張力を印加しておくのが望ましい。なお、このときの共振は、膜全体が同相で振動する基本振動モード(最低次モード)を使用することが望ましい。
【0017】
続いて、素子3の構成例について説明する。
図4乃至
図8は、素子の構成例を示した図である。
図4に示した例では、第1の電極である電極4と、第2の電極である電極5とが、振動膜6に接して配設される。振動膜6は、上述の振動膜1に相当するもので、圧電体である。なお、電極4を振動膜6の表面に配設した場合には、電極5を振動膜6の裏面に配設し、電極5を振動膜6の表面に配設した場合には、電極4を振動膜6の裏面に配設することとなる。この態様では、電極4と電極5の間に電圧を印加した場合、振動膜6が図中x軸方向の伸縮を起こし、その結果、図中z軸方向を振幅として振動する。また、電極5の振動膜6と接しない側、つまり、z軸座標の小さい側にシリコンやポリイミド、アラミドなどの圧電体以外の材料を備えるようにしてもよい。この構造は、ユニモルフ構造と称されるものである。また、電極4は、振動膜6の全面を覆う必要はなく、
図5に示すように、電極4-1と、電極4-2と、電極4-3とに分割してもよく、電極4-2と電極4-3とを省略(使用しない)ようにして、部分的に振動膜6を覆うようにしてもよい。
【0018】
図6に示した例は、第1の電極である電極4と、第2の電極である電極5とが、振動膜6に接して配設されるとともに、第2の電極である電極5と、第1の電極である電極8とが、振動膜7に接して配設される。振動膜6と振動膜7は、それぞれ電圧に対して逆の伸縮特性をもつ圧電体である。また、電極8の振動膜7と接しない側、つまり、z軸座標の小さい側にシリコンやポリイミド、アラミドなどの圧電体以外の材料を備えるようにしてもよい。この構造は、バイモルフ構造と称されるものである。また、電極5は、
図7に示すように、電極5-1と、電極5-2と、電極5-3とに分割してもよい。
【0019】
図8に示した例は、第1の電極である電極4が振動膜9に接して配設され、第2の電極である電極5が、振動膜9と所定の距離だけ離れた位置に配設される。振動膜9は、上述の振動膜1に相当するものであり、圧電体ではなく、例えば、シリコンやポリイミド、アラミドなどである。この態様では、電極4と電極5の間に電圧を印加した場合、両者の間に引力(吸引力)が発生し、振動膜9が図中y軸方向に振動する。また、振動膜9の厚みは、十数μm以下、例えば、5μmである。なお、振動膜9の電極4と接しない側、つまり、z軸座標の小さい側に、帯電防止層として、ある程度抵抗率のある導体を備えるようにしてもよい。これは、振動膜9の帯電防止を目的とするものである。また、電極4の振動膜9と接しない側、つまり、z軸座標の大きい側に、気体が漏れないように、あるいは、漏れを低減させるようにガスバリア層を設けるようにしてもよい。気体は、空気又は不活性ガスである。このガスバリア層は、振動膜9と帯電防止層の間にも設けるようにしてもよい。
【0020】
なお、素子3は、直流のバイアス電圧を印加することで、振動膜9の共振周波数を調整したり、特許文献1に示されるような整合層を付与し、強力な超音波を送出させるようにすることもできる。
【0021】
続いて、超音波デバイスの概要を説明する。超音波デバイスは、超音波を送出するデバイスと、超音波を反射させるデバイスとがあり、いずれも、超音波の位相を制御する位相制御を伴うものである。
図9は、超音波を送出する超音波デバイスの配置例を示した図である。同図に示すように、超音波デバイス11は、人が触覚提示部位Tに触れた場合に触覚を得るように、超音波を送出する。なお、図中の矢印Lは、人の視線の方向を示している。
【0022】
ここで、超音波デバイス11の構成について説明する。
図10は、超音波デバイス11の構成例を示した図である。同図に示すように、超音波デバイス11は、フェーズドアレイ111と、送出制御部112と、直流電源113と、位相制御部114と、交流電源115とを備える。フェーズドアレイ111は、超音波を送出する複数の素子を備える。送出制御部112は、直流電源113が供給する直流電圧を、選択的にフェーズドアレイ111に供給することで、フェーズドアレイ111が備える各素子に超音波を送出させるか否かを制御する。位相制御部114は、交流電源115が供給する交流電圧をフェーズドアレイ111に供給することで、フェーズドアレイ111が備える各素子から、交流電源115が供給する交流電圧の周波数に応じた周波数の超音波を送出させる。このとき、位相制御部114は、各素子に供給する交流電圧の位相を選択的に反転させ、フェーズドアレイ111の各素子でそれぞれ位相の異なる超音波を送出させることができる。なお、交流電源115を、第1の交流電源と第2の交流電源とを含むように構成し、位相制御部114が第1の交流電源が供給する電圧と、第2の交流電源が供給する電圧とを選択的にフェーズドアレイ111に供給するようにしてもよい。第2の交流電源が供給する交流電圧は、第1の交流電源が供給する交流電圧と位相が反転したものである。
【0023】
図11は、超音波を反射する超音波デバイスの配置例を示した図である。同図に示すように、超音波デバイス13は、超音波デバイス12が送出した超音波を反射する。このとき、超音波デバイス13は、人が触覚提示部位Tに触れた場合に触覚を得るように、超音波を反射する。なお、図中の矢印Lは、人の視線の方向を示している。なお、超音波デバイス12は、送出する超音波の位相制御等を行う必要はなく、所定の周波数の超音波を送出するものであればよい。もちろん、超音波デバイス11に相当するものであってもよい。
【0024】
ここで、超音波デバイス13の構成について説明する。
図12は、超音波デバイス13の構成例を示した図である。同図に示すように、超音波デバイス13は、フェーズドアレイ131と、反射位相制御部132と、直流電源133とを備える。フェーズドアレイ131は、超音波を反射する複数の素子を備える。反射位相制御部132は、直流電源133が供給する直流電圧を、選択的にフェーズドアレイ131に供給することで、フェーズドアレイ131が備える各素子が反射する超音波を、入射された超音波と同位相で反射させるか、入射された超音波と反転した位相で反射させるかを制御する。
【0025】
2.フェーズドアレイ
次に、フェーズドアレイ111(131)について説明する。フェーズドアレイは、上述したフェーズドアレイ111、フェーズドアレイ131に相当するものである。フェーズドアレイ111(131)は、上述したように、張力が印加された振動膜を備えるとともに、その張力を維持する張力維持手段を備える。
【0026】
次に、フェーズドアレイ111(131)を構成する電極について説明する。
図13は、電極の配置例を示した図である。フェーズドアレイ111(131)は、第1の電極と第2の電極を備える。第1の電極は、振動膜150に積層された導体であり、振動膜150の一部である。なお、振動膜150は、上述の電極4と振動膜9が積層されたものに相当する。また、帯電防止層やガスバリア層を備える場合には、これらも振動膜150に含まれる。言い換えると、第1の電極は、張力が印加されて配設された振動膜150を含む形態となる。第2の電極は、第1の電極と対向する位置に配設される導体である。
【0027】
同図に示すように、第1の電極は、複数の電極15-1、15-2、15-3、15-4を備え、これら複数の電極のそれぞれが、長手方向(図中X軸方向)が平行となる態様で配設される。また、第2の電極は、複数の電極16-1、16-2、16-3、16-4を備え、これら複数の電極のそれぞれが、長手方向(図中Y軸方向)が平行となる態様で配設される。また、第1の電極の長手方向と第2の電極の長手方向とは交差する。なお、第1の電極の数と、第2の電極の数は、いずれも、同図に示した限りではなく、両者が同数である必要もない。素子20は、超音波を送出(フェーズドアレイ111の場合)又は反射(フェーズドアレイ131の場合)するもので、、第1の電極と第2の電極とが交差する位置に配設される。したがって、素子20は、第1の電極と、第2の電極とを備えることとなる。なお、素子20は、第1の電極と第2の電極とが交差する位置に複数配置されてもよい。
【0028】
次に、素子20について説明する。
図14は、素子20の構成例を示した図である。同図に示すように、第1の電極である電極15と、第2の電極である電極16は、対向する態様で配設されている。
【0029】
また、素子20は、気体が封入された気体室19を備える。気体は、空気又は不活性ガスであり、不活性ガスは、例えば、絶縁性能の高い六フッ化硫黄(SF6)である。気体室19は、フレーム17と、振動膜150(電極15)と、柔軟膜18とで囲まれて構成される。つまり、振動膜150(電極15)は、気体室19の壁部の一部を構成し、柔軟膜18は、気体室19の壁部の一部を構成することとなる。また、柔軟膜18は、気体室19の内外の気圧差に応じて変形し、その気圧差を減少させるが、フレーム17の壁部17Wにより、振動膜150の振動に応じた超音波が到達することはない。なお、フレーム17の壁部17Wは、不活性ガスを通過させるための貫通孔17Hを有している。なお、柔軟膜18の気体室19の外側、つまり、z軸座標の小さい側に、不活性ガスが漏れないように、あるいは、漏れを低減させるようにガスバリア層を設けるようにしてもよい。また、第2の電極である電極16は、貫通孔16Hを備え、気体室19の内部に配設されることとなる。また、気体室19内には、気体の図中x方向の振動を防ぐ、剛体障壁を周期的に設けるようにしてもよい。
【0030】
また、図中に矢印dで示す電極16の電極15と対向しない面と、気体室19の振動膜150と対向する壁部17Wとの距離は、振動膜150(電極15)が共振する際の波長の8分の1以上、かつ、8分の3以下であり、望ましくは、距離は、波長の4分の1である。この波長をλとした場合、d=λ/4とすることで、振動膜150が自由振動した際に、振動膜150の音響インピーダンスが0に近づくことになる。なお、d=λ/4以外にも、d=λ/4+nλ/2とすることで同様の効果を得ることができる。ただし、nは自然数である。
【0031】
ところで、振動膜150(電極15)と、電極16の距離は、スペーサSPにより保持される。このスペーサSPは、所望のギャップ長を確保するもので、次のいずれかの方法でギャップ長の確保を行う。1つ目の方法は、振動膜150とスペーサSPを機械的に固定するもので、スペーサSPとして、所望の厚みを有する絶縁性の接着シート又は表面が導電性の接着シートを用い、これらの接着力により振動膜150とスペーサSPとが固定される。また、素子20は、電極15(振動膜150)と電極16との間に直流電圧と交流電圧が印加されるが、この際の直流電圧による静電気力が接着シートを介して振動膜150とスペーサSPとの固定部分にも働くことになる。これにより、機械的な固定に加え、静電気により固定が補強されることとなる。なお、静電気力による固定はなくてもよい。また、この場合、振動膜150、あるいは、電極16の導電層部分をエレクトレット化しておいてもよい。
【0032】
2つ目の方法は、機械的に固定するのではなく、静電気力により振動膜150とスペーサSPを固定するものである。
図15は、スペーサSPと振動膜150との固定方法を説明するための図である。同図に示すように、振動膜150とスペーサSPは、静電気力により接続される。具体的には、振動膜150の電極15とスペーサSPとの間に直流電圧を印加することにより、電極15とスペーサSPとの間に静電気力を生じさせる。この際に印加する直流電圧は、素子20を駆動するための直流電圧とは異なる電圧である。また、直流電圧を印加する前の段階では、振動膜150は、スペーサSP上にラフに配置、つまり、振動膜150とスペーサSPとが接触した状態であっても、振動膜150がスペーサSPから浮いた状態であってもよい。この2つ目の方法を利用することのできるスペーサSPは、表面が導電性の接着シート、所望の厚みを有する導体、表面に導電層を有する絶縁体である。また、振動膜150とスペーサSPは、吸着後も、静電気力によりこの状態が維持される。なお、スペーサSPの導電体部分は、エレクトレット化しておいてもよい。
【0033】
また、素子は、振動膜と電極の間に気体を封入しないようにすることもできる。
図16は、素子520の構成例を示した図である。同図に示す素子520は、第1の電極である電極515に接している振動膜と550と、第2の電極である電極516の間に空間519を有し、この空間519は、真空の空間である。また、電極515と、電極516には、それぞれ、シール材Sが配設されている。このシール材Sは、空間519への外気の侵入を防ぐものである。なお、シール材Sは、必須のものではない。
【0034】
また、上述の説明では、振動膜150に複数の素子20を配設する構成と、振動膜550に複数の素子520を配設する構成とを説明したが、1つの振動膜に1つの素子を配設する構成とし、このように構成した素子を複数用いるようにすることもできる。
【0035】
3.素子の制御
次に、素子20の制御について説明する。素子20に対する制御は、超音波を送出するか否かを制御(フェーズドアレイ111の場合)又は超音波の反射時の位相の制御(フェーズドアレイ131の場合)である。なお、超音波を送出する場合(フェーズドアレイ111の場合)、別途、交流電圧による制御も必要となるが、この点については後述する。
【0036】
図17は、素子20の動作を説明するための図である。素子20は、電極15(振動膜150)と電極16との間に、所定値以上の直流電圧を印加すると、電極15(振動膜150)が電極16に吸着するといった性質を有する。なお、図では省略しているが、電極15の下面(電極16と対向する面)には絶縁体が配置されている。また、電極15が電極16に吸着した状態を、以下では、プルイン状態と称する。プルイン状態が生じる電圧の所定値は、振動膜150のバネ定数と、電極15と電極16との距離により定まる値である。また、プルイン状態は、電極15と電極16との間に電圧を印加している間継続されるが、この際の電圧は、所定値未満であってもよい。プルイン状態は、電極15と電極16との間に印加される電圧の値を所定の値以下とすることで、解除される。所定の値は、電極15と電極16の間に働く静電気力よりも、振動膜150のバネによる復元力が大きくなる値である。もちろん、電極15と電極16との間に印加される電圧の値を0とすることで、プルインは解除される。
【0037】
フェーズドアレイ111では、プルイン状態となっている素子20は、超音波を送出しない素子となり、プルイン状態となっていない素子20は、超音波を送出する素子となる。また、フェーズドアレイ131では、プルイン状態となっている素子20は、入射された超音波をその位相と同位相で反射する素子となり、プルイン状態となっていない素子20は、入射された超音波をその位相と反転した位相(位相がπだけずれる)で反射する素子となる。なお、「同位相で反射する」とは、より厳密には超音波の音圧が同位相で反射されることを意味し、「反転した位相」とは、音圧の位相が反転して反射し、理想的には反射面での音圧がゼロになる状態を意味する。ただし、現実には反射面での反射波の位相が厳密に反転することはなく、振幅もいくらか減少して反射される。ただしその場合でも波面の制御は可能である。素子20をプルイン状態とするか、プルインされていない状態か、の2状態を切り替えることで反射波の位相が有意に変化すれば波面の制御は可能である。
【0038】
このように、素子20を動作させるため、
図10に示す超音波デバイス11は、直流電源113を備える。直流電源113は、送出制御部112により、第1の電極である電極15と第2の電極である電極16との間に、第1の電圧と第2の電圧とを選択的に印加する。第1の電圧は、振動膜150が電極16に吸着される電圧値以上の電圧である。第2の電圧は、振動膜150が電極16に吸着される電圧値未満の電圧である。例えば、直流電源113は、電極15と電極16との一方に、第1の電位と第2の電位とを選択的に印加するとともに、電極15と電極16との他方に、第1の電位と第3の電位とを選択的に印加する。第1の電位と第2の電位との電位差は、第2の電圧であり、第2の電位と第3の電位との電位差は、第2の電圧であり、第1の電位と第3の電位との電位差は、第1の電圧である。同様に、超音波デバイス13は、直流電源133を備える。直流電源133は、反射位相制御部132により、第1の電極である電極15と第2の電極である電極16との間に、第1の電圧と第2の電圧とを選択的に印加する。第1の電圧は、振動膜150が電極16に吸着される電圧値以上の電圧である。第2の電圧は、振動膜150が電極16に吸着される電圧値未満の電圧である。例えば、直流電源113は、電極15と電極16との一方に、第1の電位と第2の電位とを選択的に印加するとともに、電極15と電極16との他方に、第1の電位と第3の電位とを選択的に印加する。第1の電位と第2の電位との電位差は、第2の電圧であり、第2の電位と第3の電位との電位差は、第2の電圧であり、第1の電位と第3の電位との電位差は、第1の電圧である。
【0039】
続いて、素子20の制御の具体例について説明する。
図18は、素子20の制御を説明するための図である。同図に示すように、素子20は、電極15-1、15-2、15-3、15-4のそれぞれに、電圧値がVH又はVLの直流電圧を印加する行制御部21と、電極16-1、16-2、16-3、16-4のそれぞれに、電圧値がVH又はVMの直流電圧を印加する列制御部22とにより、電圧が印加される。行制御部21と列制御部22は、送出制御部112と反射位相制御部132のそれぞれに備えられるものである。電圧VH、電圧VM、電圧VLは、それぞれ、300V、150V、0Vの組み合わせや、それぞれ、310V、160V、10Vの組み合わせ、それぞれ、150V、0V、-150Vの組み合わせなど、様々な組み合わせにすることができる。
【0040】
図19は、素子20に印加される電圧と、その際の素子の状態の組み合わせを示したものである。なお、ここでは、電圧VH、電圧VM、電圧VLは、それぞれ、300V、150V、0Vであるものとする。例えば、
図18において、行制御部21が電極15-1に電圧VHを印加し、列制御部22が電極16-1に電圧VHを印加すると、電極15-1と電極16-1の電位差は0、つまり、両者に電圧が印加されていない状態となり、素子20-1はプルインが解除された状態となる。また、行制御部21が電極15-1に電圧VLを印加し、列制御部22が電極16-1に電圧VHを印加すると、電極15-1と電極16-1の電位差は300Vとなり、素子20-1はプルイン状態となる。一方、行制御部21が電極15-1に電圧VHを印加し、列制御部22が電極16-1に電圧VMを印加した場合と、行制御部21が電極15-1に電圧VLを印加し、列制御部22が電極16-1に電圧VMを印加した場合は、いずれも、電極15-1と電極16-1の電位差は150Vとなり、素子20-1は、直前にプルイン状態であれば、そのプルイン状態を保持し、直前にプルインが解除されていた状態では、その状態を保持することとなる。
【0041】
次に、素子20の制御により、超音波の送出又は反射の際のパターンを生成する流れを説明する。
図20乃至
図22は、パターン生成の流れを示した図である。まず、S1が示すように、行制御部21が電極15-1、15-2、15-3、15-4の電位をVLにし、列制御部22が電極16-1、16-2、16-3、16-4の電位をVMにする。次に、S2が示すように、行制御部21が15-2、15-3の電位をVHにし、列制御部22が電極16-1の電位をVHにすると、素子20-1と素子20-13がプルイン状態となる。
【0042】
続いて、S3が示すように、行制御部21が電極15-1、15-2、15-3、15-4の電位をVLにし、列制御部22が電極16-1、16-2、16-3、16-4の電位をVMにすると、素子20-1と素子20-13のプルイン状態は保持される。そして、S4が示すように、行制御部21が15-1、15-4の電位をVHにし、列制御部22が電極16-2の電位をVHにすると、素子20-6と素子20-10がプルイン状態となる。このとき、素子20-1と素子20-13のプルイン状態は保持されたままとなる。
【0043】
その後、S5が示すように、行制御部21が電極15-1、15-2、15-3、15-4の電位をVLにし、列制御部22が電極16-1、16-2、16-3、16-4の電位をVMにすると、素子20-1、素子20-6、素子20-10、素子20-13のプルイン状態は保持される。そして、S6が示すように、行制御部21が15-1、15-4の電位をVHにし、列制御部22が電極16-3の電位をVHにすると、素子20-7と素子20-11がプルイン状態となる。このとき、素子20-1、素子20-6、素子20-10、素子20-13のプルイン状態は保持されたままとなる。
【0044】
続いて、S7が示すように、行制御部21が電極15-1、15-2、15-3、15-4の電位をVLにし、列制御部22が電極16-1、16-2、16-3、16-4の電位をVMにすると、素子20-1、素子20-6、素子20-7、素子20-10、素子20-11、素子20-13のプルイン状態は保持される。そして、S8が示すように、行制御部21が15-2、15-3の電位をVHにし、列制御部22が電極16-4の電位をVHにすると、素子20-4と素子20-16がプルイン状態となる。このとき、素子20-1、素子20-6、素子20-7、素子20-10、素子20-11、素子20-13のプルイン状態は保持されたままとなる。
【0045】
そして、S7が示すように、行制御部21が電極15-1、15-2、15-3、15-4の電位をVLにし、列制御部22が電極16-1、16-2、16-3、16-4の電位をVMにすると、最終的に、素子20-2、素子20-3、素子20-5、素子20-8、素子20-9、素子20-12、素子20-14,素子20-15がプルイン状態となることなく、他の素子のプルイン状態が保持された状態となり、パターンが生成される。
【0046】
なお、素子20の制御は、S1からS7の順、つまり、電位をVHにする順を電極16-1、16-2、16-3、16-4とする必要はなく、逆の順に行ったり、任意の順に行ってもよい。また、必要な素子20のみ状態を変化させるように制御してもよい。また、プルイン状態を保持したまま電位をVLからVH、あるいはVHからVLに切り替えるためには、素子20への蓄積電荷が放電されないよう、十分短時間で電圧を切り替えればよい。
【0047】
4.送出制御
次に、超音波デバイス11について説明する。
図10に示すように、超音波デバイス11は、交流電源を115備える。交流電源115は、電極15と電極16との間に所定周波数の電圧を印加する。このとき、素子20は、所定周波数に応じた超音波を送出する。ただし、プルイン状態にある素子20は、超音波を送出しない、あるいは,送出するとしてもその強度はプルイン状態にない素子に比べ十分小さく無視できる程度のものである。また、交流電源115は、第1の交流電源と第2の交流電源とを含むように構成されてもよい。この場合、第2の交流電源は、第1の交流電源が出力する電圧と位相が反転した電圧を出力する。なお、交流電源115が第2の交流電源を含まないように構成し、位相制御部114で、交流電源115の位相を反転させるようにしてもよい。第1の交流電源と、第2の交流電源とが、それぞれ異なる素子20の電極15と電極16との間に所定周波数の電圧を印加する。ここで、交流電圧の印加例を説明する。
図23は、交流電圧の印加例を示した図である。同図に示すように、第1の交流電源31は、電極15-1と電極15-3に交流電圧を印加し、第2の交流電源32は、電極15-2と電極15-4に交流電圧を印加する。
【0048】
また、
図10に示すように、超音波デバイス11は、送出制御部112を備える。この送出制御部112は、素子20のうち、超音波を送出させる素子20の振動膜150を、電極16に吸着させないように電極15と電極16との間に印加する直流電圧を制御し、素子20のうち、超音波を送出させない素子の振動膜150を、電極16に吸着させるように電極15と電極16との間に印加する直流電圧を制御する。このように、ある位相をもつ超音波の送出点と、それと逆の位相をもつ超音波の送出点を電極15と電極16の各交点に配置することで、1ビット位相制御型の超音波フェーズドアレイを構成する。
【0049】
5.反射位相制御
次に、超音波デバイス13について説明する。
図12に示すように、超音波デバイス13は、反射位相制御部132を備える。この反射位相制御部132は、素子20のうち照射された超音波を第1の位相で反射させる素子の振動膜150を、電極16に吸着させるように電極15と電極16との間に印加する電圧を制御し、素子20のうち、照射された超音波を第2の位相で反射させる素子の振動膜150を、電極16に吸着させないように電極15と電極16との間に印加する電圧を制御する。第1の位相は、例えば、素子20に照射された超音波と同位相であり、より厳密には超音波の音圧が同位相で反射されることを意味する。ただし、厳密に同位相である必要はない。また、第2の位相は、例えば、素子20に照射された超音波の反転位相であり、より厳密には音圧の位相が反転して反射し、理想的には反射面での音圧がゼロになる状態を意味する。ただし、厳密に反転位相である必要はない。
【0050】
6.1ビット位相制御について
ところで、超音波デバイス11と、超音波デバイス13は、いずれも、ある位相とその反転位相の超音波を制御するもので、1ビット位相制御である。ここで、1ビット位相制御と64ビット位相制御との比較をシミュレーションにより行った結果の一部を示す。
図24乃至
図30は、シミュレーション結果の音圧の分布を示したものである。
【0051】
図24に示したシミュレーション結果は、垂直入射で中心軸上に焦点が存在する場合のものである。また、
図25に示したシミュレーション結果は、垂直入射で中心軸とはずれた軸上に焦点が存在する場合のものである。
図26に示したシミュレーション結果は、斜め入射で中心軸上に焦点が存在する場合のものである。
図27に示したシミュレーション結果は、
図26に示した場合とは入射角が異なる斜め入射で中心軸上に焦点が存在する場合のものである。
図28は、
図27に示した結果の表示範囲の異なるものである。
図29に示したシミュレーション結果は、斜め入射で反射方向に焦点が存在する場合のものである。
図30は、
図29に示した結果の表示範囲の異なるものである。
【0052】
以上のように、1ビット位相制御を行った場合と、64ビット位相制御を行った場合とでは、結果は異なるものの同様の傾向を示し、実用上、何ら問題ないことが確認された。
【0053】
7.超音波デバイスの利用形態
【0054】
次に超音波デバイスの利用形態の例について説明する。
図31は、超音波デバイスを用いたシステムの構成例を示した図である。同図に示すシステム1000は、利用者に対して、映像等に併せて触感を提示するものである。同図に示すように、システム1000は、情報処理装置1001と、超音波デバイス1002と、提示装置1003と、センサ1004と、撮影装置1005と、表示装置1006とを備える。なお、情報処理装置1001、超音波デバイス1002、提示装置1003、センサ1004は、いずれか又は全てを一体化した構成としてもよい。また、超音波デバイス1002、提示装置1003、センサ1004、撮影装置1005、表示装置1006は、複数台用いてもよく、この際に、1つの情報処理装置1001に対して、超音波デバイス1002、提示装置1003、センサ1004、撮影装置1005、表示装置1006を一纏めにしたものを複数台配置するようにしてもよい。
【0055】
また、システム1000は、同一空間で同様のシステムを複数利用してもよく、異なる複数の空間で複数のシステム1000を利用してもよい。複数のシステム1000を利用する場合には、システム1000のそれぞれは、なんらかのネットワークで接続されていればよく、相互に接続してもよいし、いずれかの情報処理装置1001をマスターとして動作させて接続するようにしてもよい。
【0056】
情報処理装置1001は、超音波デバイス1002を制御する制御装置として動作するものである。超音波デバイス1002は、超音波による触感を提示するものである。なお、超音波デバイス1002として、上述した超音波デバイス11と、超音波デバイス13とを用いてもよい。この超音波デバイス1002は、提示空間1020内に配設される。提示空間1020は、超音波デバイス1002が発生させる超音波エネルギーを閉じ込める空間であり、吸音部材等が用いられた空間である。なお、超音波エネルギーは必ずしも完全に閉じ込められる必要はなく、例えば提示空間付近のユーザに対し可聴ノイズが発生しない程度まで抑制されていればよい。また、利用者や周辺機器にとって致命的な影響が生まれない場合は、提示空間1020を省略してもよい。また、超音波デバイス1002は、触感を提示する対象者の目線よりも上に配設されることが望ましい。提示装置1003は、立体映像等を対象者に提示するもので、例えば、ディスプレイ等で構成される。また、提示装置1003には、対象者に音声を提示する音声提示装置を含むようにしてもよい。音声提示装置は、例えば、超音波デバイス1002が発生させる超音波を遮断するアナログフィルタを備えた電子機器である。センサ1004は、対象者の位置や動き、年齢、性別、手の動き、目線、指紋、声、表情、環境音等を検出するもので、例えば、光学センサやマイクである。また、撮影装置1005は、対象者の様子(音声を含む)を撮影し、表示装置1006は、撮影装置1005による撮影結果、あるいは、情報処理装置1001内のユーザをセンシングした結果と提示する映像と音声を表示するもので、これを利用することで、システム1000を経験している対象者の様子を大勢の人が確認することができる。なお、撮影装置1005と表示装置1006は、必須の構成ではない。また、情報処理装置1001と、表示装置1006は、いずれも、提示空間1020等の提示場所の周辺(例えば隣)に配置する必要はなく、異なる場所に配置されてもよい。
【0057】
次に、情報処理装置1001の構成例について説明する。
図32は、情報処理装置1001の構成例を示した図である。同図に示すように、情報処理装置1001は、処理部1011と、記憶部1012と、一時記憶部1013と、外部装置接続部1014と、通信部1015とを有しており、これらの構成要素が情報処理装置1001の内部において通信バス1016を介して信号の授受が可能となるように接続されている。この情報処理装置1001は、コンピュータであり、これをプログラムにしたがって動作させることで実現される。なお、情報処理装置1001を実現する際には、コンピュータは、1つ以上あればよく、複数のコンピュータを用いるようにしてもよい。また、プログラムは、少なくとも1つのコンピュータを、情報処理装置1001として動作させるものである。
【0058】
処理部1011は、例えば、中央処理装置(Central Processing Unit:CPU)により実現されるもので、記憶部1012に記憶された所定のプログラムに従って動作し、種々の機能を実現する。
【0059】
記憶部1012は、様々な情報を記憶する不揮発性の記憶媒体である。これは、例えばハードディスクドライブ(Hard Disk Drive:HDD)やソリッドステートドライブ(Solid State Drive:SSD)等のストレージデバイスにより実現される。なお、記憶部1012は、通信可能な別の装置に配するようにすることも可能である。
【0060】
一時記憶部1013は、揮発性の記憶媒体である。これは、例えばランダムアクセスメモリ(Random Access Memory:RAM)等のメモリにより実現され、処理部1011が動作する際に一時的に必要な情報(引数、配列等)を記憶する。
【0061】
外部装置接続部1014は、例えばユニバーサルシリアルバス(Universal Serial Bus:USB)や高精細度マルチメディアインターフェース(High-Definition Multimedia Interface:HDMI(登録商標))といった規格に準じた接続部であり、キーボード等の入力装置やモニタ等の表示装置を接続可能としている。
【0062】
通信部1015は、例えばローカルエリアネットワーク(Local Area Network:LAN)規格に準じた通信手段であり、情報処理装置1001とローカルエリアネットワークやこれを介したインターネット等のネットワークとの間の通信を実現する。
【0063】
なお、情報処理装置1001には、汎用のサーバ向けのコンピュータやパーソナルコンピュータ等を利用することが可能であり、複数のコンピュータを用いて情報処理装置1001を構成することも可能である。
【0064】
次に、情報処理装置1001の機能的な構成について説明する。情報処理装置1001は、制御装置として動作し、超音波デバイス1002を制御するもので、プログラムにしたがって動作することで、後述する各機能部を実現する。このプログラムは、少なくとも1つのコンピュータを、制御装置1100として動作させるものである。
【0065】
図33は、情報処理装置1001の機能的な構成を示すブロック図である。同図に示すように、情報処理装置1001は、制御装置1100と、提示情報生成装置1200と、情報記録装置1300といった各機能部を備える。なお、提示情報生成装置1200と、情報記録装置1300は、情報処理装置1001とは別の情報処理装置で実現するようにしてもよい。
【0066】
また、制御装置1100は、検知情報取得部1101と、制御部1102と、提示情報取得部1103と、位置特定部1104と、パターン生成部1105と、判定部1106とを備える。
【0067】
検知情報取得部1101は、所定の位置に対象が存在することを検知するセンサ1004の出力を検知情報として取得する。対象は、例えば、システム1000を利用する対象者である。対象者は、1人であっても、複数人であってもよい。所定の位置とは、例えば、対象者が、提示装置1003が提示している映像が存在していると視覚で認識している空間の位置である。また、所定の位置は、位置特定部1104により特定された位置であってもよい。なお、所定の位置は、複数箇所であってもよい。
【0068】
制御部1102は、検知情報取得部1101が取得した検知情報に応じて、所定の位置に超音波を照射させる制御信号を、超音波デバイス1002へ送出し、該超音波デバイス1002を制御する。このとき、制御部1102は、パターン生成部1105が生成した触覚パターンに応じた制御信号を超音波デバイス1002へ送出する。また、所定の位置が複数箇所の場合、制御部1102は、超音波デバイス1002に複数箇所に超音波を照射させる。また、制御部1102は、複数の超音波デバイス1002のそれぞれに、超音波を照射させる制御信号を送出するようにしてもよい。
【0069】
提示情報取得部1103は、映像を含む提示情報を取得する。提示情報は、提示情報生成装置1200が生成して提示装置1003に提供するもので、提示情報取得部1103は、提示情報生成装置1200が生成した提示情報を取得する。
【0070】
位置特定部1104は、提示情報に基づいて上述した所定の位置を特定する。例えば、所定の位置は、対象者の視覚により、提示された物体等が存在すると認識される空間の位置である。
【0071】
パターン生成部1105は、提示情報に基づいて触覚パターンを生成する。触覚パターンは、利用者等が感じる触覚のパターンであり、例えば、提示情報がキャラクタの人形の映像であった場合、触覚パターンは、当該人形の部位により異なり、「ぷにゅぷにゅ」、「ぬるぬる」、「ふわふわ」と人が感じるものを所定の位置に応じて生成する。
【0072】
判定部1106は、センサの出力に基づいて、対象者の年齢と、性別と、手の動きと、目線との少なくとも1つを判定し、その判定結果を情報記録装置1300に記録する。情報記録装置1300を情報処理装置1001とは別の情報処理装置で実現した場合には、制御装置1100と情報記録装置1300とは有線無線を問わず、何らかのネットワークで接続されていればよい。また、判定部1106は、対象が人物の手であるか否かを判定するとともに、その対象が手であった場合には、手の動作を判定する。判定部1106が判定する手の動作は、例えば、映像上の物体への指の押し込み動作、映像上の物体を掴む動作、映像上の物体を持ち上げる動作、映像上の物体を移動、回転させる動作等である。判定部1106が判定を行うと、パターン生成部1105は、判定部1106による判定結果に応じて触覚パターンを生成する。例えば、触覚パターンは、「ぷにゅぷにゅ」、「ぬるぬる」、「ふわふわ」と人が感じるものである。なお、判定部1106は、対象が人物の手であるか否かを判定するのみでなく、顔面や前腕部等の他の部位であるか否かの判定を行うようにしてもよい。例えば、システム1000をシチュエーションボイスやマッサージで利用する場合は、顔面に触覚を提示することになる。このような場合は、提示情報として映像を用いずに、音声を用い、音声と触覚を提示する形態となる。マッサージを提供する場合は、音声も不要となり、触覚のみを提示する形態としてもよい。
【0073】
ところで、システム1000は、次のような用途に用いることができる。例えば、触れることのできる広告に利用した場合、触れることによって、商品等に興味を持ってもらうことができる。この広告用途においては、特に情報記録装置1300に記録された情報を活用することが考えられ、例えば、対象者の属性に応じて広告コンテンツを変化さえることが考えらえる。また、どのような属性の対象者がどのようなコンテンツに興味を持つか、プライバシーに配慮したうえで記録、事後的に解析することも可能となる。また、テーマパーク、博物館、水族館、動物園等で活用することで、キャラクタや美術工芸品、動物等に擬似的に触れることができる。また、バーチャルペットとして、仮想的に表示される生き物に触れるようにすることで癒しを提供することも可能である。さらに、遠隔コミュニケーションにおいて、お互いに触り合いながらコミュニケーションを取ることができ、ECサイト等では、オンラインショッピングにおける商品の手触りやサイズ等の確認に利用することができる。また、デザイン、設計のツールや、シチュエーションボイスへの触感付与、マッサージ等にも利用することができる。
【0074】
また、システム1000の設置場所としては、トイレ、エレベータ、飲食店、店頭、駅構内、乗り物の車内や機内等、個室作業スペース等の公共空間や、家や車等の個人の空間が考えられる。また、システム1000の設置に際して、空間を伝播した超音波をユーザが知覚しないようシステムを構成しても良い。例えば、超音波デバイスの配置に際して吸音材を利用することで、システムの空間内に超音波エネルギーを閉じ込める。また、超音波の暴露対象となる電子機器、例えば、ノイズキャンセリングイヤホンやスマートフォン、PCなどに、アナログフィルタを付けたり、利用者の目線の上にシステムを配置するようにし、より臨場感を向上させることができる。
8.その他
本発明は、次に記載の各態様で提供されてもよい。
【0075】
(1)超音波デバイスであって、振動膜と、張力維持手段と、複数の素子とを備え、前記振動膜は、張力が印加されて配設され、前記張力維持手段は、前記振動膜を支持し、該振動膜の復元力により変形せず、前記素子は、前記振動膜に周期的に配設され、各々が第1の電極と、第2の電極とを備え、前記第1の電極は、前記振動膜に接して配設され、前記第2の電極は、前記第1の電極と対向する位置に配設される超音波デバイス。
【0076】
(2)上記(1)に記載の超音波デバイスにおいて、前記素子は、基板に配設され、前記基板は、前記振動膜に周期的に固定され、前記振動膜は、前記基板との固定部分に囲まれた領域が、所定の周波数で共振する領域である超音波デバイス。
【0077】
(3)上記(1)又は(2)に記載の超音波デバイスにおいて、前記張力維持手段は、弾性体を備え、該弾性体により前記振動膜に印加された張力を維持する超音波デバイス。
【0078】
(4)上記(1)乃至(3)のいずれか1つに記載の超音波デバイスにおいて、前記第2の電極は、前記振動膜に接して配設され、前記第1の電極を前記振動膜の表面に配設した場合には、前記第2の電極を前記振動膜の裏面に配設し、前記第2の電極を前記振動膜の表面に配設した場合には、前記第1の電極を前記振動膜の裏面に配設する超音波デバイス。
【0079】
(5)上記(1)乃至(3)のいずれか1つに記載の超音波デバイスにおいて、前記素子は、気体が封入された気体室を備え、前記振動膜は、前記気体室の壁部の一部を構成し、前記第2の電極は、貫通孔を備え、前記気体室の内部に配設される超音波デバイス。
【0080】
(6)上記(5)に記載の超音波デバイスにおいて、前記第2の電極の前記第1の電極と対向しない面と、前記気体室の前記振動膜と対向する壁部との距離は、前記振動膜が共振する際の波長の8分の1以上、かつ、8分の3以下である超音波デバイス。
【0081】
(7)上記(6)に記載の超音波デバイスにおいて、前記距離は、前記波長の4分の1である超音波デバイス。
【0082】
(8)上記(5)乃至(7)のいずれか1つに記載の超音波デバイスにおいて、前記気体室は、柔軟膜を備え、前記柔軟膜は、前記気体室の壁部の一部を構成し、該気体室の内外の気圧差に応じて変形し、該気圧差を減少させる超音波デバイス。
【0083】
(9)上記(5)又は(8)に記載の超音波デバイスにおいて、前記気体は、不活性ガスである超音波デバイス。
【0084】
(10)上記(9)に記載の超音波デバイスにおいて、前記不活性ガスは、六フッ化硫黄である超音波デバイス。
【0085】
(11)上記(1)乃至(3)のいずれか1つに記載の超音波デバイスにおいて、前記素子は、前記振動膜と第2の電極との間が真空の空間である超音波デバイス。
【0086】
(12)上記(1)乃至(11)のいずれか1つに記載の超音波デバイスにおいて、直流電源を備え、前記直流電源は、前記第1の電極と前記第2の電極との間に、第1の電圧と第2の電圧とを選択的に印加し、前記第1の電圧は、前記振動膜が前記第2の電極に吸着される電圧値以上の電圧であり、前記第2の電圧は、前記振動膜が前記第2の電極に吸着される電圧値未満の電圧である超音波デバイス。
【0087】
(13)上記(12)に記載の超音波デバイスにおいて、前記直流電源は、前記第1の電極と前記第2の電極との一方に、第1の電位と第2の電位とを選択的に印加するとともに、前記第1の電極と前記第2の電極との他方に、第1の電位と第3の電位とを選択的に印加し、前記第1の電位と前記第2の電位との電位差は、前記第2の電圧であり、前記第2の電位と前記第3の電位との電位差は、前記第2の電圧であり、前記第1の電位と前記第3の電位との電位差は、前記第1の電圧である超音波デバイス。
【0088】
(14)上記(12)又は(13)に記載の超音波デバイスにおいて、前記第1の電極は、複数の電極を備え、該複数の電極のそれぞれが、長手方向が平行となる態様で配設され、前記第2の電極は、複数の電極を備え、該複数の電極のそれぞれが、長手方向が平行となる態様で配設され、前記第1の電極の長手方向と前記第2の電極の長手方向とは交差し、前記素子は、前記第1の電極と前記第2の電極とが交差する位置に配設される超音波デバイス。
【0089】
(15)上記(1)乃至(14)のいずれか1つに記載の超音波デバイスにおいて、反射位相制御部を備え、前記反射位相制御部は、前記素子のうち該素子に照射された超音波を第1の位相で反射させる素子の前記振動膜を、前記第2の電極に吸着させるように前記第1の電極と前記第2の電極との間に印加する電圧を制御し、前記素子のうち該素子に照射された超音波を第2の位相で反射させる素子の前記振動膜を、前記第2の電極に吸着させないように前記第1の電極と前記第2の電極との間に印加する電圧を制御する超音波デバイス。
【0090】
(16)上記(15)に記載の超音波デバイスにおいて、前記第1の位相は、前記素子に照射された超音波と同位相であり、前記第2の位相は、前記素子に照射された超音波の反転位相である超音波デバイス。
【0091】
(17)上記(1)乃至(14)のいずれか1つに記載の超音波デバイスにおいて、交流電源を備え、前記交流電源は、前記第1の電極と前記第2の電極との間に所定周波数の電圧を印加し、前記素子は、前記所定周波数に応じた超音波を送出する超音波デバイス。
【0092】
(18)上記(17)に記載の超音波デバイスにおいて、前記交流電源は、第1の交流電源と第2の交流電源とを含み、前記第2の交流電源は、前記第1の交流電源が出力する電圧と位相が反転した電圧を出力し、前記第1の交流電源と、前記第2の交流電源とが、それぞれ異なる前記素子の前記第1の電極と前記第2の電極との間に所定周波数の電圧を印加する超音波デバイス。
【0093】
(19)上記(17)又は(18)に記載の超音波デバイスにおいて、送出制御部を備え、前記送出制御部は、前記素子のうち該素子から超音波を送出させる素子の前記振動膜を、前記第2の電極に吸着させないように前記第1の電極と前記第2の電極との間に印加する直流電圧を制御し、前記素子のうち該素子から超音波を送出させない素子の前記振動膜を、前記第2の電極に吸着させるように前記第1の電極と前記第2の電極との間に印加する直流電圧を制御する超音波デバイス。
【0094】
(20)超音波デバイスであって、素子と、反射位相制御部とを備え、前記素子は、振動膜と、第1の電極と、第2の電極とを備え、前記振動膜は、張力が印加され、前記第1の電極は、前記振動膜に接して配設され、前記第2の電極は、前記第1の電極と対向する位置に配設され、前記反射位相制御部は、前記素子に照射された超音波を第1の位相で反射させる場合に、前記振動膜を、前記第2の電極に吸着させるように前記第1の電極と前記第2の電極との間に印加する電圧を制御し、前記素子に照射された超音波を第2の位相で反射させる場合に、前記振動膜を、前記第2の電極に吸着させないように前記第1の電極と前記第2の電極との間に印加する電圧を制御する超音波デバイス。
【0095】
(21)上記(20)に記載の超音波デバイスにおいて、前記第1の位相は、前記素子に照射された超音波と同位相であり、前記第2の位相は、前記素子に照射された超音波の反転位相である超音波デバイス。
【0096】
(22)超音波デバイスを制御する制御装置であって、検知情報取得部と、制御部とを備え、前記検知情報取得部は、所定の位置に対象が存在することを検知するセンサの出力を検知情報として取得し、前記制御部は、前記検知情報に応じて、前記位置に超音波を照射させる制御信号を、前記超音波デバイスへ送出し、該超音波デバイスを制御する制御装置。
【0097】
(23)上記(22)に記載の制御装置において、前記位置は、複数箇所であり、前記制御部は、前記超音波デバイスに複数箇所の前記位置に超音波を照射させる制御装置。
【0098】
(24)上記(22)又は(23)に記載の制御装置において、前記制御部は、複数の超音波デバイスのそれぞれに、前記位置に超音波を照射させる制御信号を送出する制御装置。
【0099】
(25)上記(22)乃至(24)のいずれか1つに記載の制御装置において、判定部を備え、前記判定部は、前記センサの出力に基づいて、前記対象の年齢と、性別と、手の動きと、目線と、指紋と、声と、表情との少なくとも1つを判定し、該判定結果を記録装置に記録する制御装置。
【0100】
(26)上記(25)に記載の制御装置において、判定部を備え、前記判定部は、前記対象が人物の手であるか否かを判定するとともに、該対象が手であった場合には、該手の動作を判定し、前記パターン生成部は、前記判定部による判定結果に応じて前記触覚パターンを生成する制御装置。
【0101】
(27)上記(22)乃至(26)のいずれか1つに記載の制御装置において、提示情報取得部と、位置特定部とを備え、前記提示情報取得部は、映像を含む提示情報を取得し、前記位置特定部は、前記提示情報に基づいて前記位置を特定する制御装置。
【0102】
(28)上記(27)に記載の制御装置において、パターン生成部を備え、前記パターン生成部は、前記提示情報に基づいて触覚パターンを生成し、前記制御部は、前記触覚パターンに応じた制御信号を前記超音波デバイスへ送出する制御装置。
【0103】
(29)プログラムであって、少なくとも1つのコンピュータを、上記(22)乃至(28)のいずれか1つに記載の制御装置として動作させるプログラム。
【0104】
(30)触感を提示するシステムであって、超音波デバイスと、上記(22)乃至(28)のいずれか1つに記載の制御装置とを備え、前記超音波デバイスは、該超音波デバイスが触感を提示する対象者の目線よりも上に配設されるシステム。
【0105】
(31)触感を提示するシステムであって、超音波デバイスと、上記(22)乃至(28)のいずれか1つに記載の制御装置とを備え、前記超音波デバイスは、該超音波デバイスが発生させる超音波エネルギーを閉じ込める空間内に配設されるシステム。
【0106】
(32)上記(30)又は(31)に記載のシステムにおいて、前記対象者に音声を提示する音声提示装置を備え、前記音声提示装置は、前記超音波デバイスが発生させる超音波を遮断するアナログフィルタを備えた電子機器であるシステム。
【0107】
(33)上記(30)乃至(32)のいずれか1つに記載のシステムにおいて、撮影装置と、表示装置とを備え、前記撮影装置は、前記対象者を撮影し、前記表示装置は、前記撮影装置による撮影結果を表示するシステム。
もちろん、この限りではない。
【0108】
最後に、本発明に係る種々の実施形態を説明したが、これらは、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。当該新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。当該実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0109】
1 :振動膜
2 :枠
3 :素子
4 :電極
4-1 :電極
4-2 :電極
4-3 :電極
5 :電極
5-1 :電極
5-2 :電極
5-3 :電極
6 :振動膜
7 :振動膜
8 :電極
9 :振動膜
11 :超音波デバイス
12 :超音波デバイス
13 :超音波デバイス
15 :電極
15-1 :電極
15-2 :電極
15-3 :電極
15-4 :電極
16 :電極
16-1 :電極
16-2 :電極
16-3 :電極
16-4 :電極
16H :貫通孔
17 :フレーム
17H :貫通孔
17W :壁部
18 :柔軟膜
19 :気体室
20 :素子
20-1 :素子
20-2 :素子
20-3 :素子
20-4 :素子
20-5 :素子
20-6 :素子
20-7 :素子
20-8 :素子
20-9 :素子
20-10 :素子
20-11 :素子
20-12 :素子
20-13 :素子
20-14 :素子
20-15 :素子
20-16 :素子
21 :行制御部
22 :列制御部
31 :第1の交流電源
32 :第2の交流電源
102 :張力維持手段
111 :フェーズドアレイ
112 :送出制御部
113 :直流電源
114 :位相制御部
115 :交流電源
121 :外枠
122 :内枠
123 :弾性体
131 :フェーズドアレイ
132 :反射位相制御部
133 :直流電源
150 :振動膜
515 :電極
516 :電極
519 :空間
520 :素子
150 :振動膜
1000 :システム
1001 :情報処理装置
1002 :超音波デバイス
1003 :提示装置
1004 :センサ
1005 :撮影装置
1006 :表示装置
1011 :処理部
1012 :記憶部
1013 :一時記憶部
1014 :外部装置接続部
1015 :通信部
1016 :通信バス
1020 :提示空間
1100 :制御装置
1101 :検知情報取得部
1102 :制御部
1103 :提示情報取得部
1104 :位置特定部
1105 :パターン生成部
1106 :判定部
1200 :提示情報生成装置
1300 :情報記録装置
F :固定部分
R :領域
S :シール材
SP :スペーサ
T :触覚提示部位