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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024137038
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】ダイヤモンド及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 16/27 20060101AFI20240927BHJP
【FI】
C23C16/27
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023048390
(22)【出願日】2023-03-24
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】504174135
【氏名又は名称】国立大学法人九州工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100120086
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼津 一也
(74)【代理人】
【識別番号】100090697
【弁理士】
【氏名又は名称】中前 富士男
(74)【代理人】
【識別番号】100176142
【弁理士】
【氏名又は名称】清井 洋平
(72)【発明者】
【氏名】片宗 優貴
(72)【発明者】
【氏名】和泉 亮
【テーマコード(参考)】
4K030
【Fターム(参考)】
4K030AA08
4K030AA09
4K030AA17
4K030BA28
4K030BB13
4K030FA17
4K030JA06
(57)【要約】
【課題】品質の低下を抑制した上で表面が平滑なダイヤモンドを製造する方法及びそのダイヤモンドを提供する。
【解決手段】ダイヤモンドの製造方法において、炭素を含み不可避的に混入される物質以外の不純物を含まない第1ガスを用いた化学気相法により、純ダイヤモンド膜を合成する下地形成工程と、炭素を含みリンがドープされた第2ガスによる化学気相法によって、純ダイヤモンド膜の上側にリン含有ダイヤモンド膜を合成するリン含有膜形成工程とを有する。また、本製造方法により製造されたダイヤモンドは、不純物の濃度が0cm-3以上1×1017cm-3以下の純ダイヤモンド膜の上側に、リンを含むリン含有ダイヤモンド膜が形成されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素を含み不可避的に混入される物質以外の不純物を含まない第1ガスを用いた化学気相法により、純ダイヤモンド膜を合成する下地形成工程と、
炭素を含みリンがドープされた第2ガスによる化学気相法によって、前記純ダイヤモンド膜の上側にリン含有ダイヤモンド膜を合成するリン含有膜形成工程とを有することを特徴とするダイヤモンドの製造方法。
【請求項2】
請求項1記載のダイヤモンドの製造方法において、前記第2ガスは、炭素に対するリンの割合が0.1原子%以上2.0原子%以下であることを特徴とするダイヤモンドの製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載のダイヤモンドの製造方法において、前記第2ガスは水素を含み、該第2ガスの水素に対する炭素の割合は0.5原子%未満であることを特徴とするダイヤモンドの製造方法。
【請求項4】
不純物の濃度が0cm-3以上1×1017cm-3以下の純ダイヤモンド膜の上側に、リンを含むリン含有ダイヤモンド膜が形成されていることを特徴とするダイヤモンド。
【請求項5】
請求項4記載のダイヤモンドにおいて、前記リン含有ダイヤモンド膜は、ラマン分光法によるダイヤモンドの品質係数が、90%以上であることを特徴とするダイヤモンド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイヤモンド及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、表面が平滑なダイヤモンドを製造するには、ダイヤモンドの表面を加工して平滑にすることや、化学気相法により表面が平滑なダイヤモンド膜を合成することが考えられ、例えば、レーザ光による加工でダイヤモンドの表面を平滑にする方法が特許文献1に開示され、表面が平滑なダイヤモンド膜を化学気相法で合成する方法が特許文献2に開示されている。
ダイヤモンドを合成し、合成したダイヤモンドの表面を加工して平滑にするには、ダイヤモンドを合成するための設備に加えて加工設備が必要となることから、ダイヤモンドの合成を前提とする場合、設備の簡素化の観点において、表面が平滑なダイヤモンドを合成することが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2020/026393号
【特許文献2】特開平06-247795号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ダイヤモンドを化学気相法で合成するにあたり、使用するガスに不純物を添加してダイヤモンドの表面を制御しようとすると、合成されたダイヤモンドの品質(不純物を含まないダイヤモンド本来の性質)が不純物の影響を受けて低下することが問題となる。
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたもので、品質の低下を抑制した上で表面が平滑なダイヤモンドを製造する方法及びそのダイヤモンドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的に沿う第1の発明に係るダイヤモンドの製造方法は、炭素を含み不可避的に混入される物質以外の不純物を含まない第1ガスを用いた化学気相法により、純ダイヤモンド膜を合成する下地形成工程と、炭素を含みリンがドープされた第2ガスによる化学気相法によって、前記純ダイヤモンド膜の上側にリン含有ダイヤモンド膜を合成するリン含有膜形成工程とを有する。
【0006】
前記目的に沿う第2の発明に係るダイヤモンドは、不純物の濃度が0cm-3以上1×1017cm-3以下の純ダイヤモンド膜の上側に、リンを含むリン含有ダイヤモンド膜が形成されている。
【発明の効果】
【0007】
第1の発明に係るダイヤモンドの製造方法は、炭素を含み不可避的に混入される物質以外の不純物を含まない第1ガスを用いた化学気相法により、純ダイヤモンド膜を合成する下地形成工程と、炭素を含みリンがドープされた第2ガスによる化学気相法によって、純ダイヤモンド膜の上側にリン含有ダイヤモンド膜を合成するリン含有膜形成工程とを有するので、品質の低下を抑制した上で表面が平滑なダイヤモンドを製造可能である。
また、第2の発明に係るダイヤモンドは、純ダイヤモンド膜の上側に、リン含有ダイヤモンド膜が形成されていることから、第1の発明に係るダイヤモンドの製造方法によって製造されたダイヤモンドであり、一定以上の品質を有する表面が平滑なダイヤモンドである。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】サンプルD、Hの表面の電子顕微鏡写真である。
図2】サンプルA、Bの表面の電子顕微鏡写真である。
図3】サンプルC、Dの表面の電子顕微鏡写真である。
図4】サンプルGの表面の電子顕微鏡写真である。
図5】膜厚と表面粗さの関係を示すグラフである。
図6】ラマン分光法による計測結果の説明図である。
図7】炭素に対するリンの割合とダイヤモンド品質係数の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
本発明の一実施の形態に係るダイヤモンドの製造方法は、炭素を含み不可避的に混入される物質以外の不純物を含まない第1ガスを用いた化学気相法により、純ダイヤモンド膜を合成する下地形成工程と、炭素を含みリンがドープされた第2ガスによる化学気相法によって、前記純ダイヤモンド膜の上側にリン含有ダイヤモンド膜を合成するリン含有膜形成工程とを有する。
【0010】
また、本実施の形態による製造方法で製造されたダイヤモンドは、不純物の濃度が0cm-3以上1×1017cm-3以下の純ダイヤモンド膜の上側に、リンを含むリン含有ダイヤモンド膜が形成されたものとなる。以下、これらについて詳細に説明する。
【0011】
本実施の形態では、以下の工程を経てダイヤモンドが製造される。
まず、シリコン、シリコンカーバイド、超硬合金等によって形成された板状物上に、後述する化学気相法によるダイヤモンドの合成の際に成長核となるナノダイヤモンドを付着させる前処理を行う(前処理工程)。なお、板状物上にナノダイヤモンドを付着させる代わりに、板状物の表面に傷や微細な凹凸を形成する処理をして、ダイヤモンドの成長が安定的に開始されるようにしてもよい。以下、前処理工程を得た板状物を基板と言う。
【0012】
次に、真空容器内に基板を配置し、基板をヒータ等で加熱した状態で真空容器内に炭素を含んだ第1ガス(例えば、メタン)を供給して、基板上にダイヤモンドを成長させ、ダイヤモンドが膜状に合成された純ダイヤモンド膜を基板上に形成する(下地形成工程)。第1ガスとして、メタン(CH)等の炭化水素ガスと水素(H)ガスを混合したガスを採用できる。
【0013】
基板上に純ダイヤモンド膜を形成した後、基板を加熱した状態で、同真空容器内に炭素を含みリンがドープされた第2ガスを供給して、純ダイヤモンド膜上に、不純物としてリンがドープされたリン含有ダイヤモンド膜を形成する(リン含有膜形成工程)。第2ガスとして、炭化水素ガス(メタンガス等)の、水素ガス及びリンを含んだガス(例えば、PMeガスやPHガス)を混合したガスを採用できる。
【0014】
上述した前処理工程、下地形成工程及びリン含有膜形成工程を経ることによって、純ダイヤモンド膜の上側にリン含有ダイヤモンド膜が形成されたダイヤモンドが製造される。当該ダイヤモンドが一定以上の品質及び表面の平滑さを安定して有するためには、純ダイヤモンド膜の不純物の濃度が0cm-3以上1×1017cm-3以下であることが必要であり、また、第2ガスの炭素に対するリンの割合が0.1原子%以上2.0原子%以下であるのが好ましく、第2ガスの水素に対する炭素の割合が0.5原子%未満であるのが好ましい。なお、不純物の濃度が0cm-3とは、不純物を実質的に含まないことを意味する。
【0015】
純ダイヤモンド膜に含まれる不純物の濃度が1×1017cm-3を超えると下地形成工程及びリン含有膜形成工程を経て形成されたダイヤモンドの品質及び表面の平滑性が著しく低下する可能性が生じる。本実施の形態において、純ダイヤモンド膜には不可避的に混入した物質以外の不純物が含まれていない。化学気相法によってダイヤモンドの核を効率的に成長させる観点では、第2ガスの水素に対する炭素の割合を0.1原子%以上にするのが好適である。
【0016】
本実施の形態に係るダイヤモンドの製造方法によれば、リン含有ダイヤモンド膜を対象としたラマン分光法によるダイヤモンドの品質係数が90%以上のダイヤモンドを安定して製造可能である。ダイヤモンドの品質係数が90%以上で表面が平滑なダイヤモンドを製造するという観点では、純ダイヤモンド膜の上側にリン濃度が1×1018cm-3以上のリン含有ダイヤモンド膜を合成するのが好適である。なお、純ダイヤモンド膜の上側にリン含有ダイヤモンド膜を合成したとしても、そのリン含有ダイヤモンド膜のリン濃度が1×1017cm-3以下であると、リン含有ダイヤモンド膜の表面を平滑かつダイヤモンド品質係数を90%以上のダイヤモンドを製造するには、リン含有ダイヤモンド膜の厚みを所定の範囲にする等の制御が必要となる。
【0017】
下地形成工程及びリン含有膜形成工程において、加熱された基板の温度は、化学気相法によりダイヤモンドが合成可能な温度であればよく、例えば、700℃以上1000℃以下である。基板の温度は放射温度計を利用することによって非接触での計測が可能である。下地形成工程及びリン含有膜形成工程において、真空容器内の圧力は、基板上にダイヤモンドの気相成長が可能な範囲であればよく、例えば、10Torr以上100Torrである。
【実施例0018】
次に、本発明の作用効果を確認するために行った実験について説明する。
シリコン製の板状物にナノダイヤモンドを付着させた基板を用意し、熱フィラメントCVD法によってその基板上に純ダイヤモンド膜及びリン含有ダイヤモンド膜のいずれか一方又は双方を合成して、表1、表2に示すサンプルA~Oを作製した。
【0019】
【表1】
【0020】
【表2】
【0021】
熱フィラメントCVD法は、フィラメント材をタングステンとし、フィラメント材の温度を2000℃以上とし、真空容器内の圧力を30Torrとして行った。純ダイヤモンド膜の合成には水素及びメタンを混合したガスを用い、リン含有ダイヤモンド膜の合成には水素、メタン及びトリメチルホスフィンを混合したガスを用いた。
【0022】
なお、純ダイヤモンド膜及びリン含有ダイヤモンド膜を有するサンプルB~G及びサンプルM~Oは、基板上に合成した純ダイヤモンド膜の上側にリン含有ダイヤモンド膜を形成したサンプルであった。また、表1、表2におけるCH/H及びPMe/CHの各割合は分子量の割合(CH/Hは水素分子に対するメタン分子の割合、PMe/CHはメタン分子に対するトリメチルホスフィン分子の割合)を意味する。
【0023】
よって、CH/Hは真空容器内のガスの水素に対する炭素の原子量の割合(原子%)の約2倍にあたり、PMe/CHは真空容器内のガスの炭素に対すリンの原子量の割合(原子%)にほぼ等しい。また、表1、表2の「膜厚(μm)」の値は基板に形成されたダイヤモンド膜の合計厚み(サンプルBであれば、純ダイヤモンド膜及びリン含有ダイヤモンド膜の各厚みを合計した厚み)を意味し、表1中の成長膜厚の「n/a」は膜厚の計測を行わなかったことを表している。サンプルA~G及びサンプルI~Oについて、下地形成工程として基板に形成した純ダイヤモンド層の厚みは約0.7μmであった。
【0024】
サンプルD、Hの電子顕微鏡写真を図1に示す。サンプルDが基板上に純ダイヤモンド膜及びリン含有ダイヤモンド膜が形成されたサンプルであったのに対し、サンプルHは、純ダイヤモンド膜が無く、基板の上側にリン含有ダイヤモンド膜が直接形成されたサンプルであった。サンプルHは、図1に示すように、サンプルDに比べて、リン含有ダイヤモンド膜の表面に異常成長した粒が多く存在した。よって、リン含有ダイヤモンド膜を純ダイヤモンド膜の上側に合成する場合、基板に直接リン含有ダイヤモンド膜を合成する場合と比較してダイヤモンド粒子の異常成長を抑制でき、その結果、表面をより平滑にすることが可能であった。
【0025】
そして、サンプルB~Hの表面粗さを計測したところ、表面粗さはサンプルB、Cが共に0.11μm、サンプルDが0.08μm、サンプルE、Fが共に0.07μm、サンプルGが0.06μm、サンプルHが0.09μmであった。本実験では、株式会社エリオニクスの3次元走査型電子顕微鏡ERA-8800を用いて検出した表面粗さの基となる値に対してスプライン補正を行って求めた算術平均粗さ(Sa)を表面粗さとして採用した。これは以下の表面粗さについても同様である。
【0026】
サンプルDの表面粗さがサンプルHの表面粗さより小さかったことから、リン含有ダイヤモンド膜を純ダイヤモンド膜の上側に合成することによって、基板に直接リン含有ダイヤモンド膜を合成するより、表面が平滑になったことが、表面粗さの算出値からも明らかになった。また、サンプルB~Gの表面粗さの各算出値から、リン含有ダイヤモンド膜を純ダイヤモンド膜の上側に合成する場合、化学気相法で用いるガスのリン濃度が高いほど、表面粗さの値が小さくなることが確認された。
【0027】
また、サンプルA~D及びサンプルGの電子顕微鏡写真は、図2図4に示すようになった。サンプルAは基板上に純ダイヤモンド膜のみが合成された(具体的には純ダイヤモンド膜の上側に更に純ダイヤモンド膜を合成した)サンプルであり、サンプルB~D及びサンプルGは純ダイヤモンド膜の上側にリン含有ダイヤモンド膜を合成する際に用いたガス中の炭素に対するリンの割合が異なった。図2図4の電子顕微鏡写真から、熱フィラメントCVD法で用いたガス中の炭素に対するリンの割合が多くなるほど、結晶子の自形が崩れて、表面(サンプルAは上側の純ダイヤモンド膜の表面、サンプルB~Dはリン含有ダイヤモンド膜の表面)が平滑になることが確認された。
【0028】
次に、基板上に純ダイヤモンド膜を形成したものに対し、熱フィラメントCVD法で純ダイヤモンド膜の上側に更に純ダイヤモンド膜を形成したサンプルI~Lと、同じく熱フィラメントCVD法で純ダイヤモンド膜の上側にリン含有ダイヤモンド膜を形成したサンプルM、Nについて、熱フィラメントCVD法で成長させた膜の厚み及び表面粗さを計測し、膜の厚みと表面粗さの関係を導出した。
【0029】
導出したサンプルJ~Nのダイヤモンド膜の厚み(表2中の「膜厚(μm)」の値)と表面粗さの関係を図5に示す。図5において縦軸のSa(μm)は表面粗さを意味し、図5の横軸の“Thickness(μm)”の値は基板上に形成されたダイヤモンド膜の厚みである。なお、図5には、参考として、下地形成工程で形成した純ダイヤモンド膜の厚み及び表面粗さを塗りつぶした丸印で記載している。図5に示す膜の厚みと表面粗さの関係から、純ダイヤモンド膜の上側にリン含有ダイヤモンド膜を形成した際のリン含有ダイヤモンド膜が、純ダイヤモンド膜の上側に更に純ダイヤモンド膜を形成した際の上側の純ダイヤモンド膜に比べて、膜厚の増加に伴って増加する表面粗さの大きさを抑制できることが確認できた。なお、膜厚の増加に伴い膜の表面粗さが増加すること自体は公知である。
【0030】
また、サンプルA~Hに対して行ったラマン分光法による結晶構造の計測結果を図6に示す。本計測では、日本分光株式会社のNRS-5100を使用して、波数900cm-1から1800cm-1までの範囲のスペクトルを検出した。当該スペクトルの検出は、ビーム径4μm程度で励起波長が約532nmの光源からの光で20倍の対物レンズを通過した入射光をサンプルA~Hに照射して行った。グレーティングは1800であった。
【0031】
図6において、「Pregrown」はサンプルHの計測結果を、「w/oPMe」はサンプルAの計測結果を、「0.1%」、「0.4%」、「1%」、「2%」、「4%」及び「10%」はサンプルB、C、D、E、F、Gの計測結果をそれぞれ示す。サンプルB、C、D、E、F、Gについては、更に、ラマン分光法による結晶構造の計測結果を基にベースラインを差し引いた後にローレンツ関数等を用いてピーク分離を行い、1332cm-1近傍のダイヤモンドピークの面積(「diaArea」とする)及び全体の面積からダイヤモンドピークの面積を除いた面積(「nondiaArea」とする)を求めて、以下の式1によりダイヤモンド品質係数(「fq」とする)を求めた。このダイヤモンド品質係数の求め方は以下のダイヤモンド品質係数についても同様である。なお、ダイヤモンド品質係数の単位は%である。
【0032】
fq=100{75.diaArea/(75.diaArea+nondiaArea)} 式1
【0033】
ダイヤモンド品質係数の結果を図7に示す。この結果から、PMe/CH、即ち、リン含有ダイヤモンド膜を合成する際のガスが2.0原子%以下でダイヤモンド品質係数の低下を抑制でき、同ガスが2.0原子%を超えるとダイヤモンド品質係数の低下が顕著となることが確認できた。
【0034】
また、サンプルI、J、M、Nのダイヤモンド品質係数は、表2に示すように、それぞれ91%、94%、92%及び95%であった。ここで、サンプルI、Jは純ダイヤモンド膜の上側に純ダイヤモンド膜が形成されたサンプルであり、サンプルM、Nは純ダイヤモンド膜の上側にリン含有ダイヤモンド膜が形成されたサンプルであり、上側の膜の成長時間は、サンプルI、Mが共に4時間で、サンプルJ、Nが共に8時間であった。従って、純ダイヤモンド膜の上側にリン含有ダイヤモンド膜を形成した際のリン含有ダイヤモンド膜は、純ダイヤモンド膜の上側に純ダイヤモンド膜を形成した際の上側の純ダイヤモンド膜に比べて、ダイヤモンド品質係数が大きかった。よって、サンプルM、Nにおけるリンの添加量(添加濃度)ではダイヤモンド品質係数が著しく低下することは無いと言える。
【0035】
更に、サンプルN、Oのダイヤモンド品質係数は、表2に示すように、それぞれ95%及び79%であったことから、リン含有ダイヤモンド膜を合成するためのガス(第2ガス)の水素に対する炭素の割合が0.5原子%(CH/Hの割合が1.0%)以上で、ダイヤモンド品質係数の低下が顕著になったと言える。
また、二次イオン質量分析法(SISM)にてサンプルNのリン含有ダイヤモンド膜のリン濃度を測定したところ、リン濃度は2×1018cm-3であった。
【0036】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明は、上記した形態に限定されるものでなく、要旨を逸脱しない条件の変更等は全て本発明の適用範囲である。
例えば、第2ガスの炭素に対するリンの割合が0.1原子%未満であってもよいし、2.0原子%を超えてもよく、第2ガスの水素に対する炭素の割合が0.5原子%以上であってもよい。また、合成されたリン含有ダイヤモンド膜のラマン分光法によるダイヤモンドの品質係数は90%未満であってもよい。
更に、前処理工程は省略できる。但し、純ダイヤモンド膜を効率的に合成する観点では前処理工程を設けるのが好適である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7